(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230224BHJP
B60R 13/04 20060101ALI20230224BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B32B27/30 A
B60R13/04 Z
B60R13/02 Z
(21)【出願番号】P 2019557212
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2018043339
(87)【国際公開番号】W WO2019107302
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2017227959
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】永岡 洪太
(72)【発明者】
【氏名】高野 敬司
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054702(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043467(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/010013(WO,A1)
【文献】特開2015-160874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
B60R 13/04
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面層に表面層が積層した2層を含
み、前記表面層は、フッ化ビニリデン系樹脂80質量%以上とメタクリル酸エステル系樹脂20質量%以下とを含有し、前記表面層の結晶化度は45%以上であり、前記フッ化ビニリデン系樹脂の全結晶成分に占めるα結晶の比率は60%以上であり、前記表面層の厚みは15μm以上であり、前記裏面層は、メタクリル酸エステル系樹脂90質量%以上を含有している
、フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
を製造する方法であって、
前記方法は、T型ダイスを用いて樹脂組成物を溶融押出成形する工程を備え、
前記工程において、下記計算式で算出される溶融樹脂を冷却する際の単位時間あたりの変換熱量が溶融樹脂1kgあたり70~180KWとなるように溶融樹脂を冷却して製膜する、フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの製造方法。
変換熱量=樹脂組成物の比熱(J/kg・℃)×ΔT/冷却時間(sec)
ここで、ΔT=溶融樹脂温度-冷却後の温度
【請求項2】
前記工程が、前記T型ダイス下に金属冷却ロールとゴムロールとを配し、前記T型ダイスのリップ口から押出される溶融樹脂を、前記金属冷却ロールと前記ゴムロールとのロール間でピンチして冷却固化しながらフィルムを製膜することを含む、請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、前記裏面層の直下に白色の熱可塑性樹脂層を積層し、該熱可塑性樹脂層を80℃に加熱した状態で表面層側にpH1の酸性水溶液を500μl滴下し、3時間30分後の黄色度の変化Δbが2以下である、請求項1
又は2に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
の製造方法。
【請求項4】
前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、前記裏面層の直下にヒンダードアミン系光安定剤を含有する白色の熱可塑性樹脂層を積層し、該熱可塑性樹脂層を暗所で80℃の環境に600時間投入したときの黄色度の変化Δbが2以下である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
の製造方法。
【請求項5】
前記フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有している、請求項1~
4のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
の製造方法。
【請求項6】
前記裏面層は、フッ化ビニリデン系樹脂10質量%以下を含有している、請求項1~
5のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
の製造方法。
【請求項7】
前記裏面層は、トリアジン系紫外線吸収剤を0.01~10質量%の量で含有している、請求項1~
6のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
の製造方法。
【請求項8】
前記表面層と前記裏面層を含む総厚みが20~200μmである、請求項1~
7のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
の製造方法。
【請求項9】
前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、加飾フィルムに積層
するために用いられる、請求項1~
8のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
の製造方法。
【請求項10】
前記加飾フィルムがヒンダードアミン系光安定剤を含む、請求項9に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの製造方法。
【請求項11】
フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムを備える自動車外装用フィルムを製造する方法であって、
前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムを請求項1~
10のいずれか一項に記載の
方法で製造する、自動車外装用フィルム
の製造方法。
【請求項12】
前記自動車外装用フィルムは、自動車又は自動車用部品の表面に接着するために用いられる、請求項11に記載の自動車外装用フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、過酷な条件下や長期での使用に耐えうるフッ素系樹脂多層フィルムが求められている。
そこで、フッ化ビニリデン系樹脂60~95質量部、メタクリル酸エステル系樹脂5~40質量部からなる樹脂成分合計100質量部に対して酸化チタンまたは複合酸化物系無機顔料10~30質量部を添加してなるフッ素系樹脂組成物から形成される厚み10~50μmのフッ素系樹脂フィルムであって、赤外線吸収スペクトルによる測定チャートにおいて、840cm-1におけるピーク高さを(A)、765cm-1におけるピーク高さを(B)としたとき、(B)/((A)+(B))×100で表されるα型結晶のピーク強度比が60%以上であり、且つX線回折プロファイルから算出される全体の結晶化度が30%以上であることを特徴とするフッ素系樹脂フィルムが開発された(特許文献1)。
特許文献1のフッ素系樹脂フィルムは太陽電池モジュール用バックシートとして用いることを念頭に開発されたものである。
このフッ素系樹脂フィルムによれば、耐候性、寸法安定性に優れ、特に湿熱環境下での変色の少ないフィルムであるので、太陽電池モジュール用バックシートとして好適に使用できる。
【0003】
また、フッ素系樹脂多層フィルムは、太陽電池モジュール用バックシートの他に、例えば自動車の外装用フィルムとしても用いられており、紫外線対策のために、多層フィルムの特定の層に紫外線吸収剤を配合することが行われている。しかし、このようなフィルムでも長期間湿熱環境下に曝された場合にフィルムの変色が発生する問題があった。
【0004】
また、特に、自動車の外装に関しては、ルーフやボンネット等の水平部位には雨水がたまりやすく、高温環境下における酸性雨によってもフィルムの黄変が発生することから、耐酸性雨性が求められていた。
ここで、酸性雨とは、窒素酸化物や硫黄酸化物が水に溶けた、硝酸、硫酸をはじめとする酸の混合物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、表面層にポリフッ化ビニリデンを多く含有し、裏面層にメタクリル酸エステル系樹脂を多く含有する。表面層にポリフッ化ビニリデンを多く含有するのは、耐候性付与のためであり、裏面層にメタクリル酸エステル系樹脂を多く含有するのは、熱ラミネート性付与のためである。
このような従来のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムについて、酸性雨を模した薬液を用いて、高温環境下で耐酸性雨性を評価すると、薬液が裏面層まで浸透し、アクリルを酸化することにより着色するという問題があることがわかった。
【0007】
ところで、自動車の外装用フィルムに使用される従来の加飾フィルムとして、前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの裏面層に、PVCやABSからなる加飾層を熱ラミネートした構成のものが広く用いられている。
前記加飾層には、光劣化抑制のため、ヒンダードアミン系光安定剤(以下、「HALS」ということがある)が含有されていることが多い。しかし、ヒンダードアミン系光安定剤は、自動車外装が曝される高温環境下において、ヒンダードアミン系光安定剤がフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム側に移行し、アミンによる塩基性環境下にてフッ化ビニリデン系樹脂の主鎖にポリエン構造が生成してしまい、黄変する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、上記課題解決のため鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
すなわち、裏面層に表面層が積層した2層を含むフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムであって、
前記表面層は、フッ化ビニリデン系樹脂80質量%以上とメタクリル酸エステル系樹脂20質量%以下とを含有し、前記表面層の結晶化度は45%以上であり、前記フッ化ビニリデン系樹脂の全結晶成分に占めるα結晶の比率は60%以上であり、前記表面層の厚みは15μm以上であり、
前記裏面層は、メタクリル酸エステル系樹脂90質量%以上を含有している、
前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムを提供する。
【0009】
前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの前記裏面層の直下に白色の熱可塑性樹脂層を積層し、該熱可塑性樹脂層を80℃に加熱した状態で表面層側にpH1の酸性水溶液を500μl滴下したときに、3時間30分後の黄色度の変化Δbが2以下であることが好ましい。
また、前記フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、前記裏面層の直下にヒンダードアミン系光安定剤を含有する白色の熱可塑性樹脂層を積層し、該熱可塑性樹脂層を暗所で80℃の環境に600時間投入したときに、黄色度の変化Δbが2以下であることが好ましい。
【0010】
前記フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有してもよい。
また、前記裏面層は、フッ化ビニリデン系樹脂10質量%以下を含有してもよい。
更に、前記裏面層は、トリアジン系紫外線吸収剤を0.01~10質量%の量で含有してもよい。
また、前記表面層と前記裏面層を含む総厚みが20~200μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、加飾フィルムに積層されていてもよい。
そのフィルムを用いて自動車を外装する自動車外装用フィルムとしてもよい。
更に、その自動車外装用フィルムを表面に接着して自動車又は自動車用部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸性雨によるフィルムの変色及び加飾フィルムに含有されるヒンダードアミン系光安定剤によるポリエン構造生成によるフィルムの変色を、高温、高湿環境下で長期に抑制することができるフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】耐酸性雨性及び耐暗所黄変性の評価に使用する構成体を示す図である。
【
図2】紫外線カット性の評価に使用する構成体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
[1.フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム]
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、裏面層に表面層が積層した2層からなってもよいし、該2層の片側又は両側に他の層が積層されていてもよい。
【0016】
1-1.表面層
表面層は、フッ化ビニリデン系樹脂80質量%以上とメタクリル酸エステル系樹脂20質量%以下とを含有する。
メタクリル酸エステル系樹脂は、フッ化ビニリデン系樹脂との相溶性に優れ、フィルム押出成形の際の押出温度を低下させることにより加工性を向上させ、また他の材料と積層化する際の接着性を向上させる。
メタクリル酸エステル系樹脂20質量%以下としたのは、表面層に含有するメタクリル酸エステル系樹脂成分が多すぎると、該成分が酸化されてフィルムの変色が大きくなるおそれがあるからである。
【0017】
ここで、フッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体もしくはフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体をいう。共重合体としては、例えばフッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体などが挙げられる。
本発明においては、フッ化ビニリデン系樹脂は、メタクリル酸エステル系樹脂との相溶性の観点から、好ましくは、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体及び/又はポリフッ化ビニリデンを含有していることが好ましい。
【0018】
メタクリル酸エステル系樹脂とは、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルの単独重合体もしくはメタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステルと共重合可能な単量体との共重合体をいう。共重合可能な単量体としては、炭素数2~4のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチルをはじめとする炭素数1~8のアクリル酸エステル、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及び、その他のエチレン性不飽和モノマー等がある。好ましくは、メタクリル酸メチルと炭素数1~8のアクリル酸エステルの共重合体であり、更に好ましくはアクリル酸ブチルやアクリル酸メチルをコモノマーとするメタクリル酸メチル共重合体である。
【0019】
また、表面層の結晶化度は45%以上である。結晶化度が45%未満であると、酸性雨の裏面層への浸透を防止できず、裏面層のメタクリル酸エステル系樹脂が酸化されてフィルムの変色が大きくなるおそれがあるからである。
結晶化度は、X線回折装置を用いて、X線回折プロファイルから算出することができる。
【0020】
また、フッ化ビニリデン系樹脂の全結晶成分に占めるα結晶の比率は60%以上である。α結晶の比率は60%未満であると、酸性雨の裏面層への浸透を防止できず、裏面層のメタクリル酸エステル系樹脂が酸化されてフィルムの変色が大きくなるおそれがあるからである。前記表面層の結晶化度とα結晶の比率の高さとが相まって、酸性雨によるフィルムの変色を抑制できる。
【0021】
α結晶のピーク強度比の測定方法としては、花田らの方法(花田朋美、安藤穣、「ポリフッ化ビニリデンとポリ酢酸ビニル及びポリメチルメタアクリレートブレンド系におけるポリフッ化ビニリデンの結晶化」、東京家政学院大学紀要、1992年07月、No.32、5-12項)に記載された方法により、以下のようにして算出される。
すなわち、赤外吸収スペクトルにおけるポリフッ化ビニリデン樹脂のβ型結晶の吸収特性は波数840cm-1にあり、α型結晶の吸収特性は波数765cm-1に存在することから、α型結晶の成分比率(%)は、((765cm-1での吸収強度)/(765cm-1での吸収強度+840cm-1での吸収強度))×100(%)で示される。よって、α型結晶のピーク強度比は、赤外吸収スペクトルによる測定チャートにおいて、840cm-1におけるピーク高さを(A)、765cm-1におけるピーク高さを(B)としたとき、(B)/((A)+(B))×100で表され、この値が本発明の好適な実施形態においては60%以上、好ましくは70~90%、更に好ましくは90~100%となるようにフィルムが形成される。尚、本発明における樹脂成分と花田らの方法における樹脂成分は同一ではないが、赤外吸収スペクトルにおける結晶の吸収特性に変わりはないので、本発明における組成系においても上記関係式がそのまま利用できる。
【0022】
また、表面層の厚みは15μm以上である。15μm未満だと、酸性雨が裏面層まで浸透し、裏面層のメタクリル酸エステル系樹脂が酸化し、変色が大きくなるおそれがあるからである。
また、厚みは100μm以下であることが好ましい。100μm以下であっても、耐酸性雨性は十分担保され、自動車外装用フィルムとしての取り扱い性の点でも良く、フッ化ビニリデン系樹脂のコストを抑えるという点からも好ましい。
【0023】
1-2.裏面層
裏面層は、メタクリル酸エステル系樹脂90質量%以上を含有している。また、フッ化ビニリデン系樹脂10質量%以下を含有していてもよいが、これに限定されない。
メタクリル酸エステル系樹脂の組成等は、上述のとおりである。
裏面層は、加飾層に積層されるのだが、加飾層に含まれるヒンダードアミン系光安定剤が裏面層に移行して、ヒンダードアミン系光安定剤により、裏面層に少量含まれるフッ化ビニリデン系樹脂の骨格の中にポリエン構造が形成される。ポリエン構造は、光を吸収するため、フィルムを黄色く見せる。そのため、裏面層は、フッ化ビニリデン系樹脂を少なくし、メタクリル酸エステル系樹脂リッチ層としている。
【0024】
1-3.裏面層に含有される紫外線吸収剤
フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの裏面層には、トリアジン系紫外線吸収剤を0.01~10質量%の量で含有していることが好ましい。
紫外線吸収剤は、一般的に、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系のものが使用されているが、好ましくは、紫外線吸収効果の持続性の点から、トリアジン系紫外線吸収剤である。
【0025】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(4-ヘキシロキシ-2-ヒドロキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、2-(4-オクチロキシ-2-ヒドロキシフェニル)-4,6-ジ(2,5-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-4,6-ジ(4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-4,6-ジ(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-(3-(2-エチルヘキシロキシ)-2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ヒドロキシフェニル)-4,6-ジ(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-(3-ドデシロキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ヒドロキシフェニル)-4,6-ジ(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-6-(4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
トリアジン系紫外線吸収剤は、裏面層を形成する材料組成の全体量に対し、0.01~10質量%の量で含有することが好ましい。0.01%以上であれば、十分な紫外線吸収効果が得られる点で好ましく、10質量%以下であれば、フィルムの透明性を阻害せず、ブリードアウトによるフィルム表面の汚染も無い点で好ましい。より好ましくは、4~5質量%である。この量であれば、紫外線吸収効果を十分に得られ、フッ化ビニリデン系樹脂フィルム全体としての透明性を阻害することもない。
【0027】
1-4.裏面層に表面層が積層した2層
ここで、表面層及び/又は裏面層に、更に他の層を積層してもよい。他の層は、例えば加飾層、保護層、粘着層、印刷層、金属蒸着層等である。これらの層も含む総厚みが、20~200μmであると、自動車外装用及び内装用部品への接着の作業性やコストの点で好ましい。
【0028】
例えば、加飾層には、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂又はこれらの樹脂を成分とする樹脂組成物等が用いられ得る。また、適宜、顔料等の添加剤を加えることもできる。
ポリエステル系樹脂は、その表面光沢が良好で印刷適性に優れていること等から、鍍金や金属調の印刷を施して自動車や携帯電話等のパネル部品用に用いられている。
アクリル系樹脂シートは耐候性に優れ、深絞り度の高い形状にも追従する成形性を有していて、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂との接着性に優れていることから、この樹脂を基材とする成形体の表面装飾に適している。
【0029】
加飾層には、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS等)を含めることがある。HALSは、光による劣化を防止する塩基性物質である。HALSは高温環境下で裏面層に移行し、更に表面層にまで移行することがある。そして、HALSによる塩基性環境下でフッ化ビニリデン系樹脂中にポリエン構造が生成することで、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムが黄変する。
【0030】
しかし、本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムであれば、加飾層中のHALSが、裏面層に移行し、更に表面層に到達しても、表面層の結晶化度が45%以上かつα結晶の比率が60%以上となっているため、ポリエン構造の生成が抑制され、更に長期にわたって変色を抑えることができる。
【0031】
つまり、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムが裏面層に表面層が直接積層した2層構造を有しており、かつ裏面層がメタクリル酸エステル系樹脂リッチ層であったとしても、表面層の結晶化度が45%未満、又はα結晶の比率が60%未満だと、加飾層からのヒンダードアミン系光安定剤が表面層に到達した場合、ポリエン構造が生成し黄変するため、長期にわたって色相安定性を維持できない。
【0032】
なお、表面層及び/又は裏面層には、紫外線吸収剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の他の添加成分を配合することもできる。例えば、顔料又は充填材、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、艶消し剤、界面活性剤、帯電防止剤、フッ素系表面改質剤、加工助剤等を添加することができる。
【0033】
また、加飾層以外の他の層として、アイソタクティックまたはシンジオタクティックのポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のフィルムと多層化することができ、様々な加飾処理、例えばシボ成形等を行うこともできる。
【0034】
[2.フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの紫外線カット性能(下地保護性)]
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを下地となる加飾層に積層し、紫外線を照射して耐候性促進試験を行い、試験前後のサンプルの黄色度の変化Δbを評価することができる。詳細は実施例にて述べる。
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムに紫外線吸収剤が含まれることにより、変色を防止することができる。
【0035】
[3.フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの耐酸性雨性]
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの酸性雨に対する変色抑制の程度は、従来のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムよりも有意に高い。その評価方法は、当業界で一般化されていないが、以下の方法で客観的に評価することができる。ここでは、概略を記載し、詳細は実施例にて述べる。
【0036】
まず、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの裏面層の直下に、白色の熱可塑性樹脂層を、好ましくは熱ラミネートにより積層する。白色の熱可塑性樹脂層は、加飾層に見立てたものである。ラミネートの条件は、好ましくは加熱ロールの温度が140℃、処理速度が1m/minである。
次に、白色の熱可塑性樹脂層を80℃に加熱した状態でフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの表面層側に酸性雨を模したpH1の酸性水溶液を500μl滴下する。加熱して3時間30分後に、分光色差計ZE6000(日本電色工業株式会社製)を用いて、表面層側から黄色度の変化Δbを測定する。
【0037】
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの黄色度の変化Δbは、2以下であることが好ましい。2以下であると、長時間にわたり高温環境下で酸性雨にさらされても変色が少なく、初期の加飾層の模様や色を維持できることから、好ましい。より好ましくは、1.0、更に好ましくは、0.5である。この程度の黄色度の変化であれば、数十年にもわたって、加飾層の模様や色が鮮明に鮮やかに視認できる。
【0038】
[4.フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの耐暗所黄変性]
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの暗所における変色抑制の程度は、従来のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムよりも有意に高い。その評価方法は、当業界で一般化されていないが、以下の方法で客観的に評価することができる。ここでは、概略を記載し、詳細は実施例にて述べる。
【0039】
まず、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの裏面層の直下に、ヒンダードアミン系光安定剤を含有する白色の熱可塑性樹脂層を、好ましくは熱ラミネートにより積層する。白色の熱可塑性樹脂層は、加飾層に見立てたものである。また、ヒンダードアミン系光安定剤は、特に限定されない。
次に、該フッ化ビニリデン系樹脂フィルムと熱可塑性樹脂層の積層体を暗所で80℃の環境に600時間投入後、黄色度の変化Δbを測定する。
【0040】
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの黄色度の変化Δbは、2以下であることが好ましい。2以下であると長時間にわたり高温環境下にさらされても変色が少なく、初期の加飾層の模様や色を維持できることから、好ましい。より好ましくは、1.0である。この程度の黄色度の変化であれば、数十年以上にわたって、加飾層の模様や色が鮮明に視認できる。
【0041】
[5.表面層と裏面層のメルトマスフローレート]
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの表面層と裏面層の、240℃で、2.16kgfの荷重をかけて測定したメルトマスフローレート(以下、「MFR」ということがある)の差の絶対値が、好ましくは0.5~5.0g/10min、より好ましくは1.0~2.0g/10minである。あるいは、表面層と裏面層のMFRが、それぞれ0.5~25.0g/10min、0.5~25.0g/10minであることが好ましいが、特に限定されない。
【0042】
表面層と裏面層のMFRの差の絶対値が0.5~5.0g/10minであると、両層を積層した際に両層の界面が平滑になりメルトフラクチャーなどの外観不良が起こりにくい為、好ましい。また、1.0~2.0g/10minであると、メルトフラクチャーが発生しにくくフィルム全幅にわたって層構成が均一化しやすいので、より好ましい。
MFRは、日本工業規格のJIS K7210-1の熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレート(MFR)の標準的試験方法にて評価することができる。
【0043】
[6.フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法]
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されないが、簡便には従来から使用されている溶融押出成形法によって製造され得る。
具体的には、T型ダイスを用い製膜するTダイ法や、インフレーションダイスを用い製膜する方法があり、押出条件は特に限定されず、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムを成形するのに一般的に用いられている条件を利用できる。
【0044】
Tダイ法では、T型ダイス下に金属冷却ロールとゴムロールとを配し、T型ダイスのリップ口から押出される溶融樹脂を、前記のロール間でピンチして冷却固化しながらフィルムを製膜する方法と、ピンチロールを用いず金属冷却ロールのみで冷却固化し製膜する方法の何れかが採用できる。何れの場合においても、溶融樹脂を冷却する際の単位時間あたりの変換熱量は下記に表される式で表される計算式で、溶融樹脂1kgあたり70~180KWであることが好ましい。
【0045】
変換熱量=樹脂組成物の比熱(J/kg・℃)×ΔT/冷却時間(sec)
ここで、ΔT=溶融樹脂温度-冷却後の温度
である。
【0046】
例えば、本発明のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムに用いる樹脂組成物を230℃にて溶融させ、2秒後に60℃まで冷却する際の溶融樹脂1kgあたりの変換熱量は94KWとなる。変換熱量が70KW未満であると、冷却不足によって冷却ロールからの離型性が悪くなるおそれがあり、180KWを超えると本発明の結晶構造を持つフッ化ビニリデン系樹脂フィルムが得られなくなる。押出成形されたフィルムは、冷却固化した状態で、好ましくは30~100μmの厚みとなる。
【0047】
[7.自動車外装用フィルム及びこれを用いた自動車又は自動車用部品]
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、耐候性、耐酸性雨性に優れるので、加飾層による装飾効果に優れた自動車外装用フィルムを提供することができる。また、表面層に保護層等を積層すれば更なる耐傷つき性や撥水性等を付与することもできる。
【0048】
前記自動車外装用フィルムは、取り扱い性にも優れるので、ボンネットやルーフのような大きい部品にも、小さい部品にも対応できる。
ここで、特に、ボンネットやルーフは水平であり、日光に当たると温度が上昇してしまい、そこに酸性雨に当たると、ボンネット又はルーフの最外層フィルムに酸が浸透しやすくなり、黄変する。しかし、本発明のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムであれば、耐酸性雨性が高いので、黄変が生じない。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0050】
<使用原料>
本実施例及び比較例で用いた原料を、以下に示す。2種類以上の原料を混合して使用する場合は、それぞれの原料を未溶融の状態で予備混合させた後、溶融混合設備内で溶融させ、均一に混合させた。その後、ストランド状に押し出し、冷却した後、ペレット状に切断したものを原料として使用した。
【0051】
(フッ化ビニリデン系樹脂)
・アルケマ社製 ポリフッ化ビニリデン Kynar “1000HD”
・アルケマ社製 ポリフッ化ビニリデン Kynar “K720”
【0052】
(メタクリル酸エステル系樹脂)
・住友化学社製 ポリメタクリル酸メチル(PMMA) スミペックス “MGSS”
・三菱ケミカル社製 メタクリル酸エステル系樹脂 ハイペット “HBS000”
【0053】
(紫外線吸収剤)
・BASF社製 Tinuvin 1577ED
【0054】
<実施例及び比較例における製造方法>
表1に記載の実施例1~7及び表2に記載の比較例1~5の表面層の配合処方及び裏面層の配合処方に従って、φ30mm2軸押出機によって混練後、各コンパウンドを得た。
【0055】
次に、前記の各コンパウンドをφ40mm単軸押出機によって押出温度250℃のTダイ製膜を行ない、所定厚みのフィルムを得た。実施例及び比較例のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの製造は、表3に記載の条件に従った。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
<結晶化度(%)の算出>
多層フィルムの表面層の結晶化度は、高出力X線回折装置(リガク社製X線回折装置SmartLab)を使用して測定した。以下に測定条件を示す。
X線源:Cu封入管
印加電圧/電流: 40kV/40mA
測定範囲: 10°≦2θ≦50°
露出時間: 20分
測定ステップ: 0.02°
スキャン速度: 1°/min
ユニット構成: CBOユニット、PB0.3選択スリット
ソーラースリットopen、PBコリメーターホルダ
φ0.1mmピンホールコリメータ
検出器: 半導体検出器(HyPit-3000)
測定ステージ: 2D透過アタッチメント
データは、XRDデータ解析ソフト2DP(2D data processing)を用いて1次元データに変換し、XRDデータ解析ソフトPDXL(Powder diffraction analysis)のプロファイル・フィッティング機能を用いた。バックグラウンド補正を行った後、2θ=10°~30°の範囲でPVDF結晶構造に由来するピークと、アモルファス構造に由来するハローピークに分離し、それぞれの面積を求めた。本発明において裏面層はメタクリル酸エステル系樹脂90質量%以上を含有しており実質的にアモルファスであるため、以下の式により、表面層の結晶化度を算出した。
Ic=PVDF結晶構造に由来するピーク面積
Ia=アモルファス構造に由来するハローピーク面積
MFC=フィルム100g中の表面層に存在する結晶状態のフッ化ビニリデン系樹脂の重量(g)
M=フィルム100g中の表面層の重量(g)
表面層の結晶化度(%)=MFC/M × 100
ここで、MFC=Ic/(Ic+Ia) × 100
とした。
Mは、結晶化度の測定を行ったサンプルの、各層の比重及び層構成比(各層の厚さ)より算出した。
各層の比重は原材料の配合比率より算出した。
フィルムの層構成比は次のように測定した。小型の金属製万力にフィルムを挟んで固定し、片刃ナイフを用いてフィルムの断面が平滑になるようにカットした。万力にフィルムを挟んだ状態で、共焦点式レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK-X110)を用いてフィルム断面を拡大倍率50倍で観察し、各層の厚みを10カ所計測し平均値を求め、その結果より層構成比を算出した。
【0060】
<全結晶成分に占めるα晶比率(%)の算出>
α晶比率は、バイオラッド社製FT-IR(本体:FTS-135)のATRユニット(UMA-500)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することにより求めた。
得られたスペクトルより、β型結晶の特性吸収である波数840cm-1の吸収強度(ピーク高さ(A))とα型結晶の特性吸収である波数765cm-1の吸収強度(ピーク高さ(B))を求め、以下の計算式より、α型結晶の成分比率(%)を算出した。
(B)/((A)+(B))×100(%)
【0061】
<耐酸性雨性の評価方法>
図1に示す構成体をホットプレートにて表面(鉄板11)を80℃に加熱し、以下の組成の薬液(人工雨)をフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム1の上に500μl滴下した。3.5時間後に外観変化(変色及びフィルムの浮き上がり)を評価した。
【0062】
(薬液の組成)
・アニオン液
硫酸(98%) JISK8951 102.0g
塩酸(35%) JISK8180 200.0g
硝酸(70%) JISK8541 42.9g
イオン交換水 655.1g
・カチオン液
アンモニア水(28%) JISK8085 35.7g
水酸化カルシウム(95%) JISK8575 10.5g
水酸化ナトリウム(95%) JISK8576 12.6g
水酸化カリウム(85%) JISK8574 1.2g
イオン交換水 940g
カチオン液にアニオン液をpH1になるまで加え、24時間攪拌した。
24時間後に再度pH1に調整し、試験液とした。
【0063】
なお、
図1中、加飾層4は、白色塩化ビニルシートである。白色塩化ビニルシートには、DEHA(アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル))、DEHP(フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、DINP(フタル酸ジイソノニル)が含まれる。また、HALSを0.5質量%含有する。
また、粘着層5は、アクリル系粘着剤から成る。
【0064】
<耐暗所黄変性の評価方法>
図1に示す構成体を80℃のオーブンに600時間投入し、分光色差計ZE6000(日本電色工業株式会社製)を用いて、表面層側からオーブン投入前後の黄色度の変化Δbを評価した。
【0065】
なお、加飾層4、粘着層5は、前記耐酸性雨性の評価方法で用いた構成体のものと同一である。
【0066】
<紫外線カット性の評価>
図2に示す構成体に対してメタルウェザー紫外線照射試験機を用いて、下記条件にて耐候性促進試験を行い、試験前後の構成体の黄色度の変化Δbを評価した。
・条件
紫外線照射強度:132mW/cm
2
B.P.温度:63±3℃
照射/結露サイクル:6h/2h
【0067】
なお、フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム1の裏面層3には、抗酸化剤としてフェノール系酸化防止剤を0.1質量%含有する。加飾層4は、前記耐酸性雨性の評価方法で用いた構成体のものと同一である。
【0068】
<メルトマスフローレート(MFR)の測定>
MFRは、JIS K7210-1に基づき、240℃、2.16kgf荷重にて測定した。測定機は東洋精機製作所社製メルトインデックサF-F01を使用した。
【0069】
<結果>
フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの表面層にフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が少なく、メタクリル酸エステル系樹脂の含有量が多いと(比較例1)、酸性雨によりメタクリル酸エステル系樹脂成分が酸化されて黄変することが分かる。
また、結晶化度及びα晶比率が低いと(比較例1及び4)、酸性雨の裏面層への浸透を防止できず、裏面層のメタクリル酸エステル系樹脂が酸化されて黄変することが分かる。
更に、フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムが厚ければ(実施例5)、特に表面層が厚いと(実施例6)、耐酸性雨性に優れ、表面層が薄ければ(比較例3)、耐酸性雨性に劣ることが分かる。
また、裏面層の紫外線吸収剤の有無(比較例5)によっても、黄変に強く影響を与えることが分かる。
更にまた、フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムの表面層から裏面層のMFRの差の絶対値が1.0~5.0g/10minの範囲を超える場合(比較例1で7.3)、幅方向で層構成が不均一化する傾向がみられた。
【産業上の利用性】
【0070】
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂多層フィルムは、インストゥルメントパネル、ダッシュボード、ドア等の自動車内装、ボディ、フロントバンパー、リアバンパー等の自動車外装用途に適する。また、インフラストラクチャー、各種建築物等の内外装用フィルム、鉄道車輌、航空機、船舶、宇宙船等の内外装用フィルム等にも用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 フッ化ビニリデン系樹脂多層フィルム
2 表面層
3 裏面層
4 加飾層
5 粘着層
11 鉄板