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  • 特許-リチウムイオン電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230224BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230224BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230224BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/058
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020173948
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065393
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 誠
(72)【発明者】
【氏名】堂上 和範
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晋也
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-107020(JP,A)
【文献】特開2002-025612(JP,A)
【文献】特開2020-167054(JP,A)
【文献】国際公開第2015/104933(WO,A1)
【文献】特開2017-139087(JP,A)
【文献】特開2015-103408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リチウムビス(オキサラート)ボラートとビニレンカーボネートと含む電解液をリチウムイオン電池に注入すること、
(B)前記電解液を含む前記リチウムイオン電池に初回充電を施すこと、
および、
(C)前記初回充電後の前記リチウムイオン電池にエージング処理を施すこと、
を含み、
前記(A)において、前記電解液におけるリチウムビス(オキサラート)ボラートの質量分率が0.10%超0.50%以下であり、かつビニレンカーボネートの質量分率が0.10%以上0.50%以下であり、
前記エージング処理において、前記電解液に含まれるリチウムビス(オキサラート)ボラートとビニレンカーボネートとが分解され、
前記エージング処理後、前記電解液におけるリチウムビス(オキサラート)ボラートの質量分率が0.10%未満であり、かつビニレンカーボネートの質量分率が0.10%未満であ
前記エージング処理は、
(c1)負極電位がリチウムビス(オキサラート)ボラートおよびビニレンカーボネートの還元電位以下になるように、前記リチウムイオン電池の充電状態を50%以上80%以下に調整すること、
および、
(c2)前記リチウムイオン電池を、60℃以上85℃以下の温度環境で、10時間以上48時間以下保存すること、
を含む、
リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-027653号公報(特許文献1)は、リチウムビス(オキサラート)ボラートを含む電解液を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-027653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン電池(以下「電池」と略記され得る。)の電解液は、各種の添加剤を含み得る。例えば、リチウムビス(オキサラート)ボラート(LiBOB)およびビニレンカーボネート(VC)が電解液に添加され得る。LiBOBおよびVCの添加により、初回充電時、負極の表面に皮膜が形成され得る。該皮膜により、例えば、高温保存時の容量維持率の向上が期待される。
【0005】
初回充電時、LiBOBおよびVCの各々が、負極の表面で還元分解することにより、皮膜が形成されると考えられる。LiBOBの還元電位は、VCの還元電位に比して高い。そのため、LiBOBはVCに先行して皮膜を形成すると考えられる。LiBOBに由来する皮膜は、VCの還元分解を阻害し得る。そのため、LiBOBとVCとが併用されると、初回充電後にVCの残存量が多くなり、高温保存時のガス発生量が増大する傾向がある。
【0006】
本開示の目的は、高温保存時のガス発生量を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示の作用メカニズムは、推定を含んでいる。作用メカニズムの正否は、特許請求の範囲を限定しない。
【0008】
〔1〕 リチウムイオン電池の製造方法は、下記(A)、(B)および(C)を含む。
(A) リチウムビス(オキサラート)ボラートとビニレンカーボネートと含む電解液をリチウムイオン電池に注入する。
(B) 電解液を含むリチウムイオン電池に初回充電を施す。
(C) 初回充電後のリチウムイオン電池にエージング処理を施す。
エージング処理において、電解液に含まれるリチウムビス(オキサラート)ボラートとビニレンカーボネートとが分解される。エージング処理後、電解液におけるリチウムビス(オキサラート)ボラートの質量分率が0.10%未満であり、かつビニレンカーボネートの質量分率が0.10%未満である。
【0009】
VCの残存によるガス発生量の増大を抑えるため、例えば、LiBOBを含み、かつVCを含まない電解液を使用することも考えられる。ところが、VCが無い場合、高温保存時のガス発生量がむしろ増大する傾向がある。
【0010】
また、LiBOBを含まず、かつVCを含む電解液を使用することも考えられる。VCの分解を阻害するLiBOBが無いため、ガス発生量の低減が期待される。しかし、LiBOBが無い場合、高温保存時に所望の容量維持率が得られない傾向がある。
【0011】
本開示のリチウムイオン電池の製造方法では、LiBOBおよびVCの両方を含む電解液が使用され、初回充電後に、LiBOBおよびVCの各々の質量分率が0.10%未満になるように、エージング処理が施される。メカニズムは不明ながら、本開示のリチウムイオン電池の製造方法によれば、高温保存時に所望の容量維持率が得られ、なおかつガス発生量が低減することが期待される。
【0012】
〔2〕 エージング処理は、例えば、下記(c1)および(c2)を含んでいてもよい。
(c1) 負極電位がリチウムビス(オキサラート)ボラートおよびビニレンカーボネートの還元電位以下になるように、リチウムイオン電池の充電状態を調整する。
(c2) リチウムイオン電池を60℃以上の温度環境で10時間以上保存する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の製造方法の概略フローチャートである。
図2図2は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の構成の一例を示す概略図である。
図3図3は、本実施形態における電極体の一例を示す概略図である。
図4図4は、本実施形態におけるエージング処理の概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0015】
本明細書において、例えば「0.1質量部から10質量部」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。例えば「0.1質量部から10質量部」は、「0.1質量部以上10質量部以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値および下限値とされてもよい。例えば、実施例中に記載された数値と、数値範囲内の数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0016】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は、代表例に過ぎない。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限りコバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。組成比は非化学量論的であってもよい。
【0017】
本明細書において、「実質的に・・・からなる」との記載は、「・・・からなる」との記載と、「・・・を含む」との記載との中間の概念である。「実質的に・・・からなる」との記載は、本開示の目的を阻害しない範囲で、必須成分に加えて、追加の成分が含まれ得ることを示す。例えば、当該技術の分野において通常想定される成分(例えば不可避不純物等)が、追加の成分として含まれていてもよい。
【0018】
<リチウムイオン電池の製造方法>
図1は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の製造方法の概略フローチャートである。本実施形態における電池の製造方法は、「(A)電解液の注入」、「(B)初回充電」および「(C)エージング処理」を含む。本実施形態における電池の製造方法においては、リチウムイオン電池が製造される。本実施形態における「リチウムイオン電池」は、リチウムイオンをキャリアイオンとする二次電池を示す。リチウムイオン電池は、任意の用途で使用され得る。リチウムイオン電池は、例えば、電動車両において、主電源または動力アシスト用電源として使用されてもよい。複数個のリチウムイオン電池(単電池)が連結されることにより、電池モジュールまたは組電池が形成されてもよい。
【0019】
《(A)電解液の注入》
本実施形態における電池の製造方法は、電解液を電池に注入することを含む。電解液は、LiBOBおよびVCを含む。
【0020】
(電池)
図2は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の構成の一例を示す概略図である。
電解液を注入すべき電池100が組み立てられる。組み立て手順は任意である。電池100の構成の一例が説明される。
【0021】
電池100は外装体90を含む。外装体90は角形(扁平直方体)である。外装体90は、例えば、アルミニウム(Al)合金製であってもよい。外装体90には、例えば、電解液の注入口(不図示)が設けられていてもよい。注入口は開閉できるように構成されていてもよい。
【0022】
なお、角形は一例に過ぎない。本実施形態における外装体は任意の構成を有し得る。外装体は、例えば、円筒形であってもよいし、パウチ形であってもよい。
【0023】
外装体90は、電極体50を収納している。電極体50は、正極集電部材81によって正極端子91に接続されている。電極体50は、負極集電部材82によって負極端子92に接続されている。
【0024】
図3は、本実施形態における電極体の一例を示す概略図である。
電極体50は巻回型である。電極体50は、正極10、セパレータ30および負極20を含む。正極10、セパレータ30および負極20は、いずれも帯状のシートである。電極体50は2枚のセパレータ30を含んでいてもよい。電極体50は、正極10、セパレータ30および負極20がこの順に積層され、渦巻状に巻回されることにより形成されている。電極体50は、巻回後に扁平状に成形されている。なお、巻回型は一例である。電極体50は、例えば、積層(スタック)型であってもよい。
【0025】
正極10は、例えば、正極集電体11の表面に、正極合材12が配置されることにより製造され得る。正極集電体11は、例えばAl箔等を含んでいてもよい。正極合材12は、例えば、正極活物質、導電材およびバインダ等を含んでいてもよい。正極活物質は任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、LiCoO、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ここで、例えば「Li(NiCoMn)O2」等の組成式における「(NiCoMn)」等の記載は、括弧内の組成比の合計が1であることを示している。導電材は任意の成分を含み得る。導電材は、例えばアセチレンブラック(AB)等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1質量部から10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1質量部から10質量部であってもよい。
【0026】
負極20は、例えば、負極集電体21の表面に、負極合材22が配置されることにより製造され得る。負極集電体21は、例えば銅(Cu)箔等を含んでいてもよい。負極合材22は、例えば、負極活物質およびバインダ等を含んでいてもよい。負極活物質は任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、Si、SiO、Si基合金、Sn、SnO、Sn基合金およびLi4Ti512からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質に対して、例えば0.1質量部から10質量部であってもよい。
【0027】
セパレータ30の少なくとも一部は、正極10と負極20との間に配置されている。セパレータ30は、正極10と負極20とを分離している。セパレータ30は多孔質である。セパレータ30は電解液を透過する。セパレータ30は電気絶縁性である。セパレータ30は、例えばポリオレフィン製であってもよい。例えば、セパレータ30の表面に耐熱層等が形成されていてもよい。
【0028】
(電解液)
例えば、外装体90に設けられた注入口から、外装体90の内部に、所定量の電解液が注入される。電解液は電極体50に含浸される。電解液の注入後、外装体90が密閉される。例えば、後述の初回充電後に、外装体90が密閉されてもよい。
【0029】
電解液は、溶媒と支持電解質と添加剤とを含む。添加剤は、LiBOBとVCとを含む。すなわち電解液がLiBOBとVCとを含む。電解液は、LiBOBとVCとを含む限り、任意の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0030】
本実施形態においては、注入時の電解液が「初期電解液」とも記される。初期電解液において、LiBOBは、例えば0.10%超の質量分率を有していてもよい。初期電解液において、LiBOBは、例えば0.20%から0.50%の質量分率を有していてもよいし、0.30%から0.40%の質量分率を有していてもよい。初期電解液において、VCは、例えば0.10%超の質量分率を有していてもよい。初期電解液において、VCは、例えば0.10%から0.50%の質量分率を有していてもよいし、0.10%から0.30%の質量分率を有していてもよい。
【0031】
初期電解液において、LiBOBの質量分率と、VCの質量分率との合計は、例えば0.30%から1.00%であってもよいし、0.40%から0.70%であってもよい。
【0032】
LiBOBおよびVCの質量分率は、電解液全体に対する値である。LiBOBおよびVCの質量分率は、NMR(nuclear magnetic resonance)法により測定される。LiBOBおよびVCの質量分率は、それぞれ3回以上測定される。3回以上の測定結果の算術平均が採用される。算術平均が百分率に変換される。LiBOBおよびVCの質量分率(百分率)は、小数第2位まで有効である。小数第3位以下は四捨五入される。
【0033】
溶媒は非プロトン性である。溶媒は任意の成分を含み得る。溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0034】
支持電解質は溶媒に溶解している。支持電解質は、例えば、LiPF6、LiBF4、およびLiN(FSO22からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。支持電解質は、例えば0.5mоl/Lから2.0mоl/Lの濃度を有していてもよい。支持電解質は、例えば0.8mоl/Lから1.2mоl/Lの濃度を有していてもよい。
【0035】
《(B)初回充電》
本実施形態における電池の製造方法は、電解液を含む電池100に初回充電を施すことを含む。初回充電時に、LiBOBおよびVCの一部が還元分解することにより、負極20の表面に皮膜が形成されると考えられる。
【0036】
本実施形態においては、任意の充放電装置が使用され得る。初回充電は、例えば、定電流方式で実施されてもよいし、定電流-定電圧方式で実施されてもよい。初回充電は、例えば、常温環境で実施されてもよい。初回充電は、例えば20℃±15℃の温度環境で実施されてもよい。初回充電は、例えば、充電状態(state of charge,SOC)が100%になるまで実施されてもよい。本実施形態においては、定格容量に相当する容量が充電された状態が、100%のSOCと定義される。初回充電は、例えばSOCが80%になるまで実施されてもよい。初回充電は、例えばSOCが60%になるまで実施されてもよい。初回充電は、例えばSOCが40%になるまで実施されてもよい。
【0037】
初回充電時の電流は、例えば0.1Itから2Itであってもよい。「It」は、電流の時間率を表す記号である。本実施形態における1Itの電流によれば、電池100の定格容量が1時間で充電される。初回充電後、例えば、電池100が放電されてもよい。初回充電後、例えば、電池100の充放電が実施されることにより、初期容量が測定されてもよい。
【0038】
《(C)エージング処理》
本実施形態における電池の製造方法は、初回充電後の電池100にエージング処理を施すことを含む。本実施形態におけるエージング処理は、40℃以上の温度環境において、所定期間、電池100を保存することを示す。本実施形態のエージング処理は、初回充電後の電解液中に残存するLiBOBおよびVCを分解するように実施される。
【0039】
エージング処理後、電解液におけるLiBOBの質量分率は0.10%未満であり、かつVCの質量分率は0.10%未満である。これにより、高温保存時に所望の容量維持率が得られ、なおかつガス発生量が低減することが期待される。
【0040】
エージング処理後、LiBOBおよびVCの質量分率は、それぞれ独立に、例えば、0.08%以下であってもよいし、0.06%以下であってもよいし、0.04%以下であってもよいし、0.02%以下であってもよい。LiBOBおよびVCの質量分率は、例えば0%であってもよい。ただし、LiBOBおよびVCの質量分率が0%になると、例えば、サイクル耐久性が低下する可能性もある。LiBOBおよびVCの質量分率は、例えば、0.02%以上であってもよい。
【0041】
エージング処理後、例えば、LiBOBの質量分率と、VCの質量分率との合計は、例えば0.10%未満であってもよいし、0.08%以下であってもよいし、0.04%以下であってもよい。
【0042】
図4は、本実施形態におけるエージング処理の概略フローチャートである。
エージング処理は、例えば、「(c1)SOCの調整」および「(c2)保存」を含んでいてもよい。エージング処理は、LiBOBおよびVCの質量分率がそれぞれ0.10%未満になるように実施される。
【0043】
《(c1)SOCの調整》
本実施形態におけるエージング処理は、例えば、負極電位がLiBOBおよびVCの還元電位以下になるように、電池100のSOCを調整することを含んでいてもよい。
【0044】
還元電位は、対象物質の還元分解が始まる電位を示す。LiBOBの還元電位は、1.8V(vs.Li+/Li)程度であり得る。VCの還元電位は、0.7V(vs.Li+/Li)程度であり得る。したがって、例えば、負極電位が0.7V(vs.Li+/Li)以下になるように、電池100のSOCが調整されてもよい。例えば、負極電位が0V(vs.Li+/Li)から0.7V(vs.Li+/Li)になるように、電池100のSOCが調整されてもよい。例えば、負極電位が0.1V(vs.Li+/Li)から0.5V(vs.Li+/Li)になるように、電池100のSOCが調整されてもよい。なお「(vs.Li+/Li)」との記載は、電位の基準がリチウムの標準電極電位であることを示している。
【0045】
電池100のSOCは、例えば、50%から80%に調整されてもよいし、50%から70%に調整されてもよい。SOCの調整後、電池100の電圧は、例えば、3.70Vから3.80V程度であってもよいし、3.75Vから3.80V程度であってもよい。
【0046】
《(c2)保存》
本実施形態におけるエージング処理は、例えば、電池100を60℃以上の温度環境で10時間以上保存することを含んでいてもよい。60℃以上の温度環境において、LiBOBおよびVCの還元分解が促進され得る。例えば、60℃以上の温度に設定された恒温槽内で、電池100が所定期間保存されてもよい。本実施形態においては、恒温槽等の設定温度が60℃以上である時、60℃以上の温度環境でエージング処理が施されたとみなされる。本実施形態においては、エージング処理が施される温度が「エージング温度」とも記される。エージング温度が高い程、LiBOBおよびVCの還元分解が促進され得る。ただしエージング温度が過度に高い場合、LiBOBおよびVC以外の成分が反応する可能性もある。エージング温度は、例えば、60℃から85℃であってもよいし、65℃から80℃であってもよいし、70℃から80℃であってもよい。
【0047】
保存期間が10時間以上であることにより、LiBOBおよびVCの還元分解が十分進行することが期待される。保存期間は、例えば10時間から48時間であってもよいし、10時間から24時間であってもよいし、12時間から18時間であってもよい。
【実施例
【0048】
以下、本開示の実施例(以下「本実施例」とも記される。)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0049】
<No.1>
《電池構成》
供試電池が組み立てられた。供試電池は下記構成を備えていた。
正極合材組成:正極活物質/AB/PVdF=90.3/7/2.7(質量比)
正極活物質:Li(NiCoMn)O2
正極集電体:Al箔
負極合材組成:負極活物質/CMC/SBR=99/0.6/0.4(質量比)
負極活物質:黒鉛
負極集電体:Cu箔
外装体:アルミラミネートフィルム製のパウチ
定格容量:137mAh
【0050】
《電解液組成》
電解液が準備された。電解液は下記組成を有していた。
溶媒:EC/EMC/DMC/MP=25/37/35/3(体積比)
支持電解質:LiPF6
添加剤:LiBOB〔0.39%(質量分率)〕、VC〔0.1%(質量分率)〕
【0051】
《(A)電解液の注入、(B)初回充電、(C)エージング処理》
供試電池に電解液が注入された。電解液の注入後、初回充電が実施された。初回充電後、供試電池にエージング処理が施された。エージング処理の条件は下記のとおりである。
【0052】
SOC:60%(電圧 3.755V)
エージング温度:75℃
保存期間:16時間
【0053】
<No.2からNo.7>
表1に示されるように、初期電解液における添加剤組成が変更されることを除いては、No.1と同様に供試電池が製造された。各No.について、供試電池はそれぞれ複数個製造された。エージング処理後に一部の供試電池から電解液が採取され、LiBOBおよびVCの質量分率が測定された。エージング処理後のLiBOBおよびVCの質量分率は、表1に示される。
【0054】
<評価>
供試電池のSOCが80%に調整された。SOCの調整後、60℃に設定された恒温槽内で供試電池が56日間保存された。保存前後で供試電池の体積が測定された。体積はアルキメデスの原理に基づいて測定された。保存前後の体積からガス発生量が算出された。保存前後で供試電池の放電容量が測定された。保存前後の放電容量から容量維持率が算出された。ガス発生量および容量維持率は、表1に示される。
【0055】
【表1】
【0056】
<結果>
No.3からNo.5においては、初期電解液がVCを含んでいない。初期電解液がVCを含んでいない時、ガス発生量が増大する傾向がみられる。
【0057】
No.3においては、エージング処理後に、LiBOBの質量分率が0.10%以上である。No.3においては、ガス発生量が特に大きい。
【0058】
No.6においては、初期電解液がLiBOBを含んでいない。初期電解液がLiBOBを含んでいない時、容量維持率が低い傾向がみられる。
【0059】
No.1およびNo.2においては、初期電解液がLiBOBおよびVCの両方を含んでいる。No.1およびNo.2においては、エージング処理後に、LiBOBおよびVCの質量分率がそれぞれ0.10%未満である。No.1およびNo.2においては、容量維持率が高く、なおかつガス発生量が少ない傾向がみられる。
【0060】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的なものではない。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも、当初から予定されている。
【0061】
特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味における全ての変更を包含する。さらに、特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の範囲内における全ての変更も包含する。
【符号の説明】
【0062】
10 正極、11 正極集電体、12 正極合材、20 負極、21 負極集電体、22 負極合材、30 セパレータ、50 電極体、81 正極集電部材、82 負極集電部材、90 外装体、91 正極端子、92 負極端子、100 電池(リチウムイオン電池)。
図1
図2
図3
図4