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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230224BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230224BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230224BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230224BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/36 E
H01M4/525
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020505675
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004360
(87)【国際公開番号】W WO2019176389
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018045649
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】長田 かおる
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117766(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150020(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/067522(WO,A1)
【文献】特開2016-111000(JP,A)
【文献】特開2010-040383(JP,A)
【文献】特開2013-137947(JP,A)
【文献】特開2014-183031(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094237(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/081518(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/052、10/0566
H01M4/36、4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極と、フッ素含有化合物を含む非水電解質と、を備え、
前記正極活物質は、Li、Ni及びWを含む複合酸化物Aと、Li、Ni及び任意要素のWを含む複合酸化物Bと、を有し、
前記複合酸化物A中のWの含有量は、5mol%以上であり、
前記複合酸化物B中のWの含有量は、0.5mol%以下であり、
前記複合酸化物Aと前記複合酸化物Bの総量に対する前記複合酸化物Aの質量比率は、0.002%以上0.1%以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記非水電解質中の前記フッ素含有化合物の含有量は、2質量%以上25質量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記複合酸化物Aは、一般式LiNi1-yーz2-γ(式中、Mは、Ni、W以外の遷移金属元素、2族元素、及び13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.85≦x≦1.05、0.05≦y≦0.2、0.01≦z≦0.5、-0.2≦γ≦0.2)で表される、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記複合酸化物Bは、一般式LiNi1-yーz2-γ(式中、Mは、Ni、W以外の遷移金属元素、2族元素、及び13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.85≦x≦1.05、0.002≦y≦0.05、0.01≦z≦0.5、-0.2≦γ≦0.2)で表される、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池の正極に用いられる正極活物質としては、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物等が知られている。これらの中で、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物等と比べて、安価で高容量の電池を製造することができる正極活物質として期待されている。
【0004】
例えば、特許文献1~3には、電池特性を向上させる等の目的で、タングステンを含むリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-75367号公報
【文献】特開2012-79464号公報
【文献】国際公開第2015/141179号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フッ素含有化合物を含む非水電解質を用いた非水電解質二次電池では、高温保存時に、フッ素含有化合物が分解して、フッ化水素が発生する場合がある。発生したフッ化水素は、正極活物質中の遷移金属の溶出を伴う副反応を引き起こし、電池容量を低下させる場合がある。このような、電池の高温保存による容量低下は、リチウムニッケル複合酸化物において顕著である。
【0007】
そこで、本開示は、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質、及びフッ素含有化合物を含む非水電解質を用いた非水電解質二次電池において、電池の高温保存による容量低下を抑制することが可能な非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、フッ素含有化合物を含む非水電解質と、を備え、前記正極活物質は、Li、Ni及びWを含む複合酸化物Aと、Li、Ni及び任意要素のWを含む複合酸化物Bと、を有し、前記複合酸化物A中のWの含有量は、5mol%以上であり、前記複合酸化物B中のWの含有量は、0.5mol%以下であり、前記複合酸化物Aと前記複合酸化物Bの総量に対する前記複合酸化物Aの質量比率は、0.002%以上0.1%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、リチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質、及びフッ素含有化合物を含む非水電解質を用いた非水電解質二次電池において、電池の高温保存による容量低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定量以上のWを含むリチウムニッケル複合酸化物は、電池の高温保存時に、非水電解質中のフッ素含有化合物の分解により発生するフッ化水素をトラップする能力が高いことを見出し、以下に説明する態様の非水電解質二次電池を想到するに至った。
【0012】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、フッ素含有化合物を含む非水電解質と、を備え、前記正極活物質は、Li、Ni及びWを含む複合酸化物Aと、Li、Ni及び任意要素のWを含む複合酸化物Bと、を有し、前記複合酸化物A中のWの含有量は、5mol%以上であり、前記複合酸化物B中のWの含有量は、0.5mol%以下であり、前記複合酸化物Aと前記複合酸化物Bの総量に対する前記複合酸化物Aの質量比率は、0.002%以上0.1%以下であることを特徴とする。
【0013】
本開示の一態様である非水電解質二次電池によれば、電池の高温保存時に発生するフッ化水素が、5mol%以上のWを含む複合酸化物Aによって効率的にトラップされると推察される。ここで、複合酸化物A中の遷移金属は、トラップしたフッ化水素により溶出する。したがって、複合酸化物Aの含有量が増えれば増えるほど、遷移金属の溶出量も増えるため、電池の高温保存時における容量は低下する傾向にある。しかし、本開示の一態様である非水電解質二次電池のように、5mol%以上のWを含む複合酸化物Aと0.5mol%以下のWを含む複合酸化物Bとの総量に対する複合酸化物Aの質量比率を0.002%以上0.1%以下とすることで、比率の非常に小さい複合酸化物Aにより効率的にフッ化水素をトラップさせて、その複合酸化物Aから主に遷移金属を溶出させ、比率の大きい複合酸化物Bからの遷移金属の溶出を抑えることができるため、結果として遷移金属の全溶出量を抑えることが可能となる。その結果、電池の高温保存による電池容量の低下が抑制されると考えられる。なお、5mol%以上のWを含む複合酸化物Aの比率が増えれば増えるほど、電池の初期容量は低下する傾向にあるが、本開示の一態様である非水電解質二次電池は、5mol%以上のWを含む複合酸化物Aの比率は非常に少ないため、電池の初期容量の低下を抑制することも可能である。
【0014】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。
【0015】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。図1に示す非水電解質二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極体14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製ケース、樹脂シートをラミネートして形成された樹脂製ケース(ラミネート型電池)などが例示できる。
【0016】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0017】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱で内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0018】
図1に示す非水電解質二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。
【0019】
正極11、負極12、セパレータ13、非水電解質について詳述する。
【0020】
<正極>
正極11は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着剤、導電剤等を含む。
【0021】
正極11は、例えば、正極活物質、結着剤、導電剤等を含む正極合剤スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。
【0022】
正極活物質は、Li、Ni、及びWを含む複合酸化物Aと、Li、Ni、及び任意要素のWを含む複合酸化物Bと、を有する。
【0023】
複合酸化物A中のWの含有量は、5mol%以上であれば特に制限されるものではないが、例えば、フッ化水素をより効率的に補足する点で、7mol%以上であることが好ましい。複合酸化物A中のWの含有量の上限値は、例えば、充放電反応を効率的に行わせる等の点で、20mol%以下であることが好ましい。複合酸化物A中のWの含有量は、例えば、複合酸化物Aを加熱した酸溶液で溶解し、この溶解液を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)にて分析することで求められる。
【0024】
複合酸化物Aは、例えば、電池の初期容量を向上させる等の点で、一般式LiNi1-yーz2-γで表されることが好ましい。式中、Mは、Ni、W以外の遷移金属元素、2族元素、及び13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.85≦x≦1.05、0.05≦y≦0.2、0.01≦z≦0.5、-0.2≦γ≦0.2である。
【0025】
複合酸化物Aに含まれるNi、W以外の遷移金属元素は、例えば、Co、Mn、Zr、Mo、Cr、V、Ti、Fe等が挙げられるが、これらの中では、正極活物質の結晶構造の安定化等の点で、Co、Mnが好ましい。2族元素は、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaであるが、これらの中では、電池の長寿命化等の点で、Mg、Caが好ましい。13族元素は、B、Al、Ga、In、Tl及びNhであるが、これらの中では、正極活物質の熱安定の向上等の点で、Alが好ましい。
【0026】
複合酸化物B中のWの含有量は、0.5mol%以下であれば特に制限されるものではないが、例えば、電池の充放電サイクル特性の低下を抑制する等の点で、0.1mol%以上0.5mol%以下であることが好ましい。複合酸化物B中のWの含有量も上記同様に、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)にて分析することで求められる。
【0027】
複合酸化物Bは、例えば、電池の充放電サイクル特性の低下を抑制する等の点で、一般式LiNi1-y-z2-γで表されることが好ましい。式中、Mは、Ni、W以外の遷移金属元素、2族元素、及び13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.85≦x≦1.05、0.002≦y≦0.05、0.01≦z≦0.5、-0.2≦γ≦0.2である。
【0028】
複合酸化物Bに含まれるNi、W以外の遷移金属元素は、例えば、Co、Mn、Zr、Mo、Cr、V、Ti、Fe等が挙げられるが、これらの中では、正極活物質の結晶構造の安定化等の点で、Co、Mnが好ましい。2族元素は、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaであるが、これらの中では、電池の長寿命化等の点で、Mg、Caが好ましい。13族元素は、B、Al、Ga、In、Tl及びNhであるが、これらの中では、正極活物質の熱安定性の向上等の点で、Alが好ましい。
【0029】
複合酸化物Aと複合酸化物Bの総量に対する複合酸化物Aの質量比率は、電池の高温保存における容量低下を抑制する点で、0.002%以上0.1%以下であり、好ましくは0.02%以上0.08%以下である。
【0030】
正極活物質の総量に対する複合酸化物Aの含有量は、例えば、電池の高温保存における容量低下をより抑制する等の点で、0.002質量%以上0.1質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上0.08質量%以下であることがより好ましい。正極活物質の総量に対する複合酸化物Bの含有量は、電池の初期容量を向上させる等の点で、50質量%以上99.998質量%以下であることが好ましく、70質量%以上99.998質量%以下であることがより好ましい。なお、正極活物質は、複合酸化物A及びB以外のリチウム複合酸化物を含んでいてもよく、例えば、LiCoOやLiMn等のNi非含有のLi複合酸化物等を含んでいてもよい。
【0031】
複合酸化物A,Bの製造方法の一例について説明する。
【0032】
複合酸化物A,Bの製造方法は、例えば、Ni水酸化物とLi化合物とを混合し、この混合物を焼成して、Li及びNiを含む複合酸化物を得る第1工程と、W化合物を含む溶液とLi及びNiを含む複合酸化物とを、Wの含有量が所定量となるように混合し、この混合物を加熱して、Li、Ni及びWを含む複合酸化物を得る第2工程と、を有する。
【0033】
第1工程のNi水酸化物は、Niの他に、CoやAl等の他の元素を含む複合水酸化物でもよい。このような複合水酸化物は、例えば、Ni塩、Co塩及びAl塩等の水溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば8.5~11.5)に調整することにより、Ni、Co及びAl等を含む複合水酸化物を析出(共沈)させる。Ni塩等は、特に限定されるものではなく、硫酸塩、塩化物、硝酸塩等が挙げられる。第1工程のLi化合物は、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム等である。
【0034】
第1工程における混合物の焼成温度は、例えば、500℃~900℃の範囲であり、焼成時間は、例えば、1時間~20時間の範囲である。
【0035】
複合酸化物Aを製造する場合、第2工程では、W化合物を含む溶液とLi及びNiを含む複合酸化物とを、複合酸化物に対してWが5mol%以上となるように混合する。また、複合酸化物Bを製造する場合、第2工程では、W化合物を含む溶液とLi及びNiを含む複合酸化物とを、複合酸化物に対してWが0.5mol%以下となるように混合する。
【0036】
第2工程のW化合物を含む溶液は、W化合物が溶解し易いように、アルカリ溶液とすることが好ましい。W化合物は、例えば、酸化タングステン、タングステン酸塩等である。
【0037】
第2工程における混合物の加熱温度は、例えば100℃~300℃の範囲であり、加熱時間は、例えば、1時間~20時間の範囲である。
【0038】
以下に、正極活物質層に含まれるその他の材料について説明する。
【0039】
正極活物質層に含まれる導電剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる、これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
正極活物質層に含まれる結着剤としては、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレン-プロピレン-イソプレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
<負極>
負極12は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、例えば、負極活物質、結着剤、増粘剤等を含む。
【0042】
負極12は、例えば、負極活物質、増粘剤、結着剤を含む負極合剤スラリーを負極集電体上に塗布・乾燥することによって、負極集電体上に負極活物質層を形成し、当該負極活物質層を圧延することにより得られる。
【0043】
負極活物質層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、炭素材料、リチウムと合金を形成することが可能な金属またはその金属を含む合金や化合物等が挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛等のグラファイト類、コークス類等を用いることができる。リチウムと合金形成可能な金属としてはケイ素やスズであることが好ましく、これらが酸素と結合した、酸化ケイ素や酸化スズ等も用いることもできる。また、上記炭素材料とケイ素やスズの化合物とを混合したものを用いることができる。上記の他、チタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0044】
負極活物質層に含まれる結着剤としては、例えば、正極の場合と同様にフッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。負極活物質層に含まれる結着剤としては、フッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて負極合剤スラリーを調製する場合は、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いることが好ましい。
【0045】
負極活物質層に含まれる増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
<非水電解質>
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質とを含む。非水電解質は、フッ素含有化合物を含む。ここで、非水電解質に含まれるフッ素含有化合物は、非水溶媒に含まれるフッ素含有化合物でもよいし、電解質に含まれるフッ素含有化合物でもよいし、その両方でもよい。すなわち、非水電解質は、(1)フッ素含有化合物を含む非水溶媒と、フッ素含有化合物を含まない電解質とを含む態様、(2)フッ素含有化合物を含まない非水溶媒と、フッ素含有化合物を含む電解質とを含む態様、(3)フッ素含有化合物を含む非水溶媒と、フッ素含有化合物を含む電解質とを含む態様等がある。
【0047】
非水溶媒としてのフッ素含有化合物は、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,2,3-トリフルオロプロピレンカーボネート、2,3-ジフルオロ-2,3-ブチレンカーボネート、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2,3-ブチレンカーボネート等が挙げられ、特に、高温環境下でのフッ化水素の発生量が抑制される点等から、FECが好ましい。
【0048】
非水溶媒は、フッ素含有化合物の他に、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの有機溶媒を含んでいてもよい。これらは、単独でもよいし或いは2種以上を組み合わせてもよい。
【0049】
非水溶媒としてのフッ素含有化合物は、非水電解質中に2質量%以上25質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。フッ素含有化合物の含有量が上記範囲内の場合、上記範囲外の場合と比較して、電池の充放電サイクル特性の低下等が抑制される場合がある。
【0050】
電解質としてのフッ素含有化合物は、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO等のリチウム及びフッ素含有化合物が好ましいが、例えば、AgF、CoF、CoF、CuF、CuF、FeF、FeF、MnF、MnF、SnF、SnF、TiF、TiF、ZrF等のLiを含まないフッ素含有化合物でもよい。これらは、単独でもよいし或いは2種以上を組み合わせてもよい。
【0051】
電解質は、フッ素含有化合物の他に、例えば、LiClO、LiAlCl、LiSCN、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、Li等のフッ素を含まないリチウム塩等を含んでいてもよい。これらは、単独でもよいし或いは2種以上を組み合わせてもよい。
【0052】
電解質の濃度は、例えば、非水溶媒1L当たり0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0053】
<セパレータ>
セパレータ13は、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
[複合酸化物Aの作製]
硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸アルミニウムとをモル比で87:9:4となるように水溶液中で混合し、共沈させることにより、Ni、Co及びAl複合水酸化物を得た。この複合水酸化物と水酸化リチウム一水和物とをモル比で1:1.03となるように混合し、この混合物を750℃で12時間焼成することにより、Ni、Co及びAlを含む複合酸化物を得た。
【0056】
次に、水酸化リチウムと酸化タングステンとをモル比で2:1となるように水溶液中で混合し、Wを含む水溶液を調製した。Wを含む水溶液とNi、Co及びAlを含む複合酸化物とを、当該複合酸化物に対しWが5.5mol%となるように混合し、この混合物を120℃で12時間加熱することにより、Li、Ni、Co、Al及びWを含み、Wの含有量が5.5mol%である複合酸化物Aを得た。
【0057】
[複合酸化物Bの作製]
上記Wを含む水溶液と上記Ni、Co及びAlを含む複合酸化物とを、当該複合酸化物に対しWが0.3mol%となるように混合し、この混合物を120℃で12時間乾燥することにより、Li、Ni、Co、Al及びWを含み、Wの含有量が0.3mol%である複合酸化物Bを得た。
【0058】
[正極の作製]
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が0.002%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を実施例1の正極活物質とした。
【0059】
上記正極活物質と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ニリデンとを、質量比で80:10:10となるように混合した後、N-メチル-2-ピロリドンを加えて、正極合剤スラリーを調製した。次いで、この正極合剤スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを110℃で真空乾燥させることにより、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を作製した。
【0060】
[負極の作製]
負極活物質としての黒鉛、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、結着剤としてのスチレン-ブタジエン共重合体を、質量比で98:1:1となるように混合し、この混合物を水と共に混練して、負極合剤スラリーを調製した。次に、負極合剤スラリーを、銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、110℃で真空乾燥させ後圧延し、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を作製した。
【0061】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートとを、体積比で1:1となるように混合し、この混合溶媒に対して、フルオロエチレンカーボネートを2質量%添加することにより非水溶媒を調製した。当該非水溶媒に、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度で溶解させることにより非水電解液を調製した。
【0062】
[電池の作製]
正極、負極、正極と負極との間に配置したセパレータとを渦巻き状に巻回して、渦巻状の電極体を作製した。そして、正極集電体の一部にアルミニウム製の正極リードを溶接し、負極集電体の一部にニッケル製の負極リードを溶接した。この電極体を、直径18mm、高さ65mmの有底円筒状のケース本体に収容し、負極リードをケース本体に溶接すると共に、正極リードを封口体に溶接した。そして、ケース本体の開口部から、上記非水電解液を5.2mL注入し、封口体でケース本体の開口部を封口して、非水電解質二次電池を作製した。
【0063】
<実施例2>
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が0.02%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を実施例2の正極活物質としたこと以外、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0064】
<実施例3>
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が0.04%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を実施例3の正極活物質としたこと以外、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0065】
<実施例4>
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が0.06%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を実施例4の正極活物質としたこと以外、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0066】
<実施例5>
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が0.08%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を実施例5の正極活物質としたこと以外、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0067】
<実施例6>
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が0.1%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を実施例6の正極活物質としたこと以外、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0068】
<比較例1>
上記複合酸化物Aを用いず、上記複合酸化物Bを比較例1の正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0069】
<比較例2>
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が0.001%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を比較例2の正極活物質としたこと以外、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0070】
<比較例3>
上記複合酸化物AとBの総量に対する上記複合酸化物Aの質量比率が1.0%となるように、上記複合酸化物AとBとを混合した。この混合物を比較例3の正極活物質としたこと以外、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0071】
<比較例4>
上記複合酸化物Bを用いず、上記複合酸化物Aを比較例4の正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。
【0072】
[初期放電容量の測定]
環境温度25℃の下、各実施例及び各比較例の電池を、最大電流値0.3Itで電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電した後、電流値が0.05Itになるまで、4.2Vで定電圧充電した。その後、放電終止電圧を2.5Vに設定して、0.2Itの定電流で放電した。この時の放電容量を初期放電容量とした。
【0073】
[高温保存試験]
上記充放電後の各実施例及び各比較例の電池に対して、環境温度25℃の下、最大電流値0.3Itで電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電した。その後、環境温度55℃で、各電池を60日間保存した。そして、保存後の各電池を、放電終止電圧を2.5Vに設定して、0.2Itの定電流で放電した。この時の放電容量を高温保存後の放電容量とした。そして、以下の式により、各実施例及び各比較例の電池の容量維持率を求めた。この値が高いほど、電池の高温保存における容量低下が抑制されていることを示している。
容量維持率=(高温保存後の放電容量/初期放電容量)×100
【0074】
表1に、各実施例及び各比較例における高温保存後の容量維持率を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1~6の電池はいずれも、比較例1~4の電池と比べて、高温保存後の容量維持率は高い値を示した。このことから、正極活物質を含む正極と、負極と、フッ素含有化合物を含む非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、Li、Ni及びWを含み、Wの含有量が5mol%以上である複合酸化物Aと、Li、Ni及び任意要素のWを含み、Wの含有量が0.5mol%以下である複合酸化物Bと、を有し、前記複合酸化物Aと前記複合酸化物Bの総量に対する前記複合酸化物Aの質量比率が、0.002%以上0.1%以下である正極活物質を用いることで、電池の高温保存における容量低下が抑制されることがわかる。
【符号の説明】
【0077】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 ケース本体、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 張り出し部、23 フィルタ、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット。

図1