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特許7232922抗癌剤反応性予測用バイオマーカーおよびその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】抗癌剤反応性予測用バイオマーカーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230224BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230224BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20230224BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20230224BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20230224BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230224BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z
C12Q1/6886 Z
C07K14/435
C12N9/12
G01N33/53 M
G01N33/53 D
G01N33/574 A
G01N33/574 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021542226
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 KR2019016866
(87)【国際公開番号】W WO2020149523
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】10-2019-0006214
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0155534
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521320221
【氏名又は名称】ジーニナス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、キョン ミ
(72)【発明者】
【氏名】イ、チ ユン
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0369887(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0138955(KR,A)
【文献】特開2009-050189(JP,A)
【文献】特表2008-544223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/11
C12Q 1/6886
C07K 14/435
C12N 9/12
G01N 33/53
G01N 33/574
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)の遺伝子、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)の遺伝子、TYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)の遺伝子、及びUCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)の遺伝子のmRNAのレベルまたは前記4つの遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する製剤を含み、
前記mRNAのレベルを測定する製剤は、前記mRNAに相補的に結合するセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー、またはプローブであり、
前記タンパク質のレベルを測定する製剤は、前記タンパク質に特異的に結合する抗体である
ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)反応性予測用組成物。
【請求項2】
前記ペムブロリズマブは、胃癌、肺癌、皮膚癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、腎臓癌および尿路上皮細胞癌よりなる群から選ばれる1つ以上の癌腫の治療に用いられることを特徴とする、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
請求項に記載の組成物を含む、抗癌剤反応性予測用キット。
【請求項4】
対象から得た生物学的試料におけるARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)の遺伝子、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1);NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)の遺伝子、TYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)の遺伝子、及びUCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)の遺伝子のmRNAのレベルまたは前記4つの遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する段階を含み、
前記mRNAのレベルを測定する製剤は、前記mRNAに相補的に結合するセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー、またはプローブであり、
前記タンパク質のレベルを測定する製剤は、前記タンパク質に特異的に結合する抗体である
対象のペムブロリズマブ(Pembrolizumab)反応性の予測方法。
【請求項5】
前記mRNAレベルは、ナノストリングエンカウンター解析(NanoString nCounter analysis)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real-time PCR)、RNaseプロテクションアッセイ(RNase protection assay;RPA)、マイクロアレイ(microarray)、およびノーザンブロッティング(northern blotting)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定されることを特徴とする、請求項に記載の予測方法。
【請求項6】
前記タンパク質レベルは、ウェスタンブロッティング(western blotting)、放射免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降法(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)、免疫蛍光染色法(immunofluorescence)、オクタロニー(ouchterlony)、補体固定分析法(complement fixation assay)、およびタンパク質チップ(protein chip)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定されることを特徴とする、請求項に記載の予測方法。
【請求項7】
前記生物学的試料は、癌患者由来組織であることを特徴とする、請求項に記載の予測方法。
【請求項8】
前記組織は、 パラフィン包埋組織(paraffin-embedded tissue)であることを特徴とする、請求項に記載の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤反応性予測用バイオマーカーおよびその用途に関し、より具体的には、ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質を含む、PD-1拮抗剤であるペムブロリズマブ(Pembrolizumab)に対する反応性予測用マーカー組成物、反応性予測用組成物およびキット、並びに反応性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胃癌(gastric cancer;GC)は、全世界的に最も多く発生する悪性腫瘍の1つであり、癌による死亡の3番目の主な原因として知られている。また、多くの胃癌患者が進行性段階にあり、その大部分が予後が非常に良くないことが報告されている。転移性胃癌では、白金を基にする併用化学療法が標準治療法と見なされるが、多くの患者が前記治療法に不応性を有し、反応性を示す患者の場合にも、反応期間が数ヶ月程度と短いことが知られている。胃癌の生存率が低い理由としては、胃癌が治療法に対する攻撃性および反応性が非常に異なる異質性疾患であり、患者それぞれにおいて臨床的結果および予後が報告されたデータと常に一致するわけではないということである。したがって、胃癌患者の抗癌治療において治療薬物に対する反応性および予後をあらかじめ予測することによって、異質性を有する胃癌患者に対して最も適切な治療法を提供して、不要な治療と関連した毒性を避け、究極的に治療効果を高めることができる。
【0003】
このような必要性によって、最近、患者個人的要因に対する体系化した解析結果に基づいて適切な標的抗癌剤および治療方法を選別できる承認された診断を意味するコンパニオン診断(Companion diagnostics)に対する研究が活発に行われている。コンパニオン診断は、医師の診断による処方の明確な臨床的根拠を提示でき、患者に適切な治療法を提示できるので、癌治療効率を上げることができると共に、標的抗癌剤の乱用を減らして、国家の健康保険の財政の健全性にも寄与することができる。現在コンパニオン診断の市場は、乳癌、肺癌、大腸癌、胃癌、黒色腫等の治療分野において成長しており、特に乳癌および肺癌分野が市場の成長を牽引するものと期待されている。製薬会社の新薬開発費用の削減、標的治療剤に対する需要が高まるにつれて、コンパニオン診断の世界市場は、毎年18%ずつ成長して、2019年には58億ドルに達することが予想されている。
【0004】
なお、PD-1(programmed cell death protein 1)に対する抗体としてFDA承認を受けたペムブロリズマブ(pembrolizumab)は、マイクロサテライト不安定性(microsatellite unstable;MSI)/DNA dMMR(mismatch repair-deficient)バイオマーカーを有する後期固形腫瘍患者の治療に使用される。最近、20個の異なるPD-L1陽性の後期固形腫瘍のうち1つを有する475人の患者で進行されたペムブロリズマブに対する非無作為化、多施設共同、多重コホートバスケット試験の結果、癌の類型によって多様な客観的反応率(objective response rates;ORRs)が現れた。多数の腫瘍類型にかかって抗PD-1に対する反応性を予測できるバイオマーカーとしては、T細胞-炎症遺伝子発現プロファイル、PD-L1(programmed death ligand 1)発現、および/または腫瘍突然変異負荷(tumor mutational burden;TMB)があるが、個別的癌類型内でさらに正確であり、抗PD-1治療に対する患者選別でこのようなバイオマーカーに対する臨床的有用性を評価するために、さらに大きい規模の研究が必要である。
【0005】
胃癌において、単一群、多重コホート、ペムブロリズマブ2相試験(KEYNOTE-059)は、11.6%の客観的反応率を示し、患者の2.3%が完全な反応を示し、胃癌患者中、反応群が、非小細胞性肺癌患者よりさらに少ない比率を占めた。非反応群の高い割合と初期反応を示す患者において抵抗性の出現は、癌免疫治療分野において非常に重要な課題である。最近、ペムブロリズマブで治療を受けた転移性胃癌患者の分子的特性に対する研究結果、マイクロサテライト不安定性(MSI)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)陽性、PD-L1-複合陽性スコア(combined positive score;CPS)、TMB、および治療に対する反応性と関連がある治療後6週目に循環性腫瘍DNAレベルの減少を示した。たとえT細胞炎症GEPは、20個の多様な固形腫瘍にわたってペムブロリズマブ治療療法の臨床的効能を予測し、PD-1阻害からベネフィットを受けることができる患者を選別するための潜在的に関連性のあるバイオマーカーを提供したが、転移性胃癌患者では反応性を予測しなかった。
【0006】
免疫治療療法に対する予測バイオマーカーは、免疫反応および腫瘍生物学の複雑性に起因して標的治療療法に使用される伝統的なバイオマーカーとは異なる。最近では、45個の免疫チェックポイント遺伝子に基づく免疫予測スコアであるIMPRESが、黒色腫患者においてICBに対する反応を予測するために開発された。腫瘍生物学の差異と患者ベネフィットの可能性を最大化するための製剤の選択をガイドするための臨床的等級のバイオマーカーの必要性を考慮して、本発明者らは、ペムブロリズマブに対する反応性を予測するための胃癌特異的遺伝子発現セットを発掘した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、PD-1阻害剤の1つであるペムブロリズマブ免疫抗癌剤に対する反応性予測用遺伝子バイオマーカーを発掘するために、ペムブロリズマブ治療を受けた胃癌患者由来ホルマリン固定パラフィン包埋組織からRNAを抽出してナノストリング解析を実施し、前記胃癌患者の反応性によって差次的発現遺伝子を解析した結果、本発明による抗癌剤反応性予測用バイオマーカーを発掘したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0008】
これより、本発明は、ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質を含む、抗癌剤反応性予測用マーカー組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記ARMCX1、PRKD1およびTYK2よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する製剤を含む、抗癌剤反応性予測用組成物および前記組成物を含む抗癌剤反応性予測用キットを提供することを他の目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記ARMCX1、PRKD1およびTYK2よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する段階を含む、抗癌剤反応性予測のための情報提供方法を提供することをさらに他の目的とする。
【0011】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、下記の記載から当業者が明確に理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質を含む、抗癌剤反応性予測用マーカー組成物を提供する。
【0013】
本発明の一具現例において、前記マーカー組成物は、UCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質をさらに含むことができる。
【0014】
また、本発明は、ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する製剤を含む、抗癌剤反応性予測用組成物を提供する。
【0015】
本発明の一具現例において、前記組成物は、UCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する製剤をさらに含むことができる。
【0016】
また、本発明は、前記組成物を含む、抗癌剤反応性予測用キットを提供する。
【0017】
本発明の一具現例において、前記抗癌剤は、PD-1(Programmed cell death protein 1)拮抗剤でありうる。
【0018】
本発明の他の具現例において、前記PD-1拮抗剤は、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)でありうる。
【0019】
本発明のさらに他の具現例において、前記ペムブロリズマブは、胃癌、肺癌、皮膚癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、腎臓癌および尿路上皮細胞癌よりなる群から選ばれる1つ以上の癌腫の治療に用いられるものでありうる。
【0020】
本発明のさらに他の具現例において、前記遺伝子のmRNAレベルを測定する製剤は、遺伝子のmRNAに相補的に結合するセンスおよびアンチセンスプライマー、またはプローブでありうる。
【0021】
本発明のさらに他の具現例において、前記タンパク質レベルを測定する製剤は、前記遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体でありうる。
【0022】
また、本発明は、ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する段階を含む、抗癌剤反応性予測のための情報提供方法を提供する。
【0023】
本発明の一具現例において、前記情報提供方法は、UCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する段階をさらに含むことができる。
【0024】
本発明の他の具現例において、前記mRNAの発現レベルは、ナノストリングエンカウンター解析(NanoString nCounter analysis)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real-time PCR)、RNaseプロテクションアッセイ(RNase protection assay;RPA)、マイクロアレイ(microarray)、およびノーザンブロッティング(northern blotting)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定することができる。
【0025】
本発明のさらに他の具現例において、前記タンパク質発現レベルは、ウェスタンブロッティング(western blotting)、放射免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降法(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)、免疫蛍光染色法(immunofluorescence)、オクタロニー(ouchterlony)、補体固定分析法(complement fixation assay)、およびタンパク質チップ(protein chip)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定されることができる。
【0026】
本発明のさらに他の具現例において、前記生物学的試料は、癌患者由来組織でありうる。
【0027】
本発明のさらに他の具現例において、前記組織は、 パラフィン包埋組織(paraffin-embedded tissue)でありうる。
【発明の効果】
【0028】
本発明者らは、ペムブロリズマブ免疫抗癌剤治療を受けた胃癌患者由来組織サンプルを用いて前記抗癌剤に対する反応性予測用遺伝子セットを発掘し、アジア癌研究グループ(ACRG)のマイクロアレイデータおよびTCGA(The Cancer Genome Atlas)コホートのRNA配列解析結果を用いて前記マーカーの有効性を検証したところ、本発明による遺伝子マーカーは、患者由来ホルマリン固定パラフィン包埋組織を活用して解析するので、別途のサンプル採取が不要で、解析が便利であり、前記免疫抗癌剤に対する反応性をあらかじめ予測できて、最適な治療法選択のための情報を提供できるので、臨床のコンパニオン診断分野において有用に用いられるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明によるペムブロリズマブに対する反応性予測用遺伝子マーカー発掘のための研究順序を簡略に示す図である。
図2a】固形腫瘍における反応評価基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors;RECIST)に基づいて分類された反応群(Response)および非反応群(Nonresponse)間に差次的発現遺伝子解析結果を示すボルケーノプロット結果である。
図2b】前記差次的発現遺伝子に対するエンリッチメント解析(Enrichment analysis)結果を示す図である。
図2c】患者を2つの群に分類するためのIMAGiCスコアのカットオフカーブ、およびペムブロリズマブに対する反応性予測用IMAGiCスコアのAUCカーブを示す図である。
図3a】IMAGiCモデル、RECIST群、エプスタイン・バール・ウイルス感染の有無(EBV)およびマイクロサテライト不安定性の有無(MSI)間の相関関係を解析した結果を示す図である。
図3b】RECIST群(CR:完全奏効、PR:部分奏効、SD:安定、PD:進行)間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図3c】EBVサブタイプ(Positive:EBV陽性、Negative:EBV陰性)間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図3d】MSIサブタイプ(MSI:マイクロサテライト不安定、MSS:マイクロサテライト安定)間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図3e】突然変異負荷(Mutational Load;ML)(High ML,Mod ML,Low ML)間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図3f】PD-L1 CPS(combined positive score)状態間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図4a】TCGAコホートにおける突然変異スペクトルを示す結果である。
図4b】MSIサブタイプ間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図4c】腫瘍突然変異負荷を通じて分類された過突然変異グループとIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図5a】ACRGコホートでIMAGiCグループ(Responder,Nonresponder)間に全体生存率(Overall survival)および無病生存率(Disease-free survival)の差異を比較した結果である。
図5b】それぞれACRGサブタイプ(MSI、EMT、MSS/TP53+、MSS/TP53-)間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図5c】MSIサブタイプ間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図6a】qRT-PCRプラットフォームを用いてIMAGiCモデルの再現性を検証するためにIMAGiCモデル、RECIST群、EBVおよびMSI間の相関関係を解析した結果を示したのである。
図6b】RECIST群間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図6c】MSIサブタイプ間にIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
図6d】EBVサブタイプ間のIMAGiCスコアを比較したボックスプロット結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、免疫抗癌剤であるペムブロリズマブに対する反応性予測のためのバイオマーカーを発掘するために研究努力した結果、ARMCX1、PRKD1、TYK2およびUCHL1遺伝子をバイオマーカーとして発掘したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0031】
これより、本発明は、ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質を含む、抗癌剤反応性予測用マーカー組成物を提供する。
【0032】
また、本発明は、ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する製剤を含む、抗癌剤反応性予測用組成物、および前記組成物を含む癌患者の抗癌剤反応性予測用キットを提供する。
【0033】
本発明において、前記癌患者の抗癌剤反応性予測用マーカーとしてUCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質をさらに含むことができる。
【0034】
本発明では、具体的な実施例を通じて前記4種の遺伝子バイオマーカーを発掘し、具体的に、胃癌患者においてペムブロリズマブ治療に対する反応性予測用途として有効性を検証した。
【0035】
本発明の一実施例では、ペムブロリズマブに対する反応性と関連して21人の胃癌患者由来胃癌組織から遺伝子発現プロファイリングを解析し、固形腫瘍における反応評価基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors;RECIST)に基づいて反応群および非反応群間に有意に差次的発現遺伝子解析を通じて最終4個の遺伝子であるPRKD1、ARMCX1、TYK2およびUCHL1を発掘した(実施例2参照)。
【0036】
本発明の他の実施例では、ペムブロリズマブに対する反応性を予測できるモデルを構築するために、前記選別された4個の遺伝子のmRNA発現レベルを用いて線形回帰解析を実施して、本発明によるペムブロリズマブに対する反応性予測用IMAGiCモデルを構築した。しかも、前記モデルの敏感度、特異度および正確度を解析し、ペムブロリズマブに対するIMAGiCスコアおよびRECISTグループに基づいてIMAGiCグループとして反応群(Responder)および非反応群(Nonresponder)に分類した。同じコホートでIMAGiCスコアは、RECIST群(CR、PR、SD、PD)(P=0.0057)、EBV感染状態(P=0.048)および腫瘍突然変異荷重(Mutational Load;ML)(P=0.023)と有意な相関関係があることを確認した(実施例3参照)。
【0037】
本発明のさらに他の実施例では、それぞれTCGA(The Cancer Genome Atlas)コホートのRNA-シーケンシングデータおよびアジア癌研究グループ(Asia Cancer Research Group;ACRG)コホートのmRNA発現アレイ結果を用いて本発明によるIMAGiCモデルの有効性を検証した。より具体的に、TCGAコホートでは、IMAGiCは、TCGA分子サブタイプ(P=1.21E-04)、MSI(P=0.01)、EBV(P=0.09)およびTMB状態(P=1.19E-05)と有意な相関関係があることが示され、IMAGiCモデルが、無病生存率、ACRG分子サブタイプおよびMSIと関連があることを確認した(実施例4参照)。
【0038】
本発明のさらに他の実施例では、他の技術的方法であるqRT-PCRを用いてIMAGiCモデルの再現性を評価し、その結果、qRT-PCRによるIMAGiCグループは、RECIST群、EBVおよびMSIとも高い相関関係があることが示された。しかも、ニボルマブに対する臨床コホートを使用してIMAGiC qRT-PCRの結果を検証した結果、IMAGiCの正確度が100%であることが示された(実施例5参照)。
【0039】
本発明において使用される用語、「抗癌剤」とは、より好ましくは、免疫抗癌剤であり、免疫システムを刺激して抗癌効果を誘導する癌治療剤を意味し、本願発明では、より好ましくは、PD-1拮抗剤を意味し、さらに好ましくは、前記PD-1拮抗剤は、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab,trade name;Keytruda)でありうる。
【0040】
本発明において使用される用語、「拮抗剤(antagonist)」とは、任意の生体作用物質の受容体結合に拮抗的に作用するが、自分は各受容体を通した生理作用を示さない物質を意味し、本発明のPD-1拮抗剤であるペムブロリズマブは、免疫細胞の表面に発現しているPD-1に結合して、そのリガンドである癌細胞の表面に発現するPD-L1またはPD-L2との相互作用を阻害する機能を有する。
【0041】
前記免疫抗癌剤による免疫治療中、受動免疫治療は、体外で多量で形成された免疫反応成分、例えば、免疫細胞、抗体、サイトカイン等を癌患者に注入して癌細胞を攻撃する治療方法であり、能動的免疫治療は、個人の抗体と免疫細胞を能動的に活性化または生産するようにして、癌細胞を攻撃する治療方法である。本発明は、このような免疫治療に対して癌患者のペムブロリズマブ治療時にこれに対する反応性を予測するためのバイオマーカーおよびその用途に関する。
【0042】
本発明において、前記ペムブロリズマブは、胃癌、肺癌、皮膚癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、腎臓癌および尿路上皮細胞癌よりなる群から選ばれる1つ以上の癌腫の治療に用いられるものであり得、より好ましくは、胃癌の治療に用いられるものでありうるが、これらに制限されるものではない。
【0043】
本発明において「抗癌剤反応性予測」とは、患者が免疫抗癌剤に対して選好的にまたは非選好的に反応するか否かを予測すること、または抗癌剤に対する耐性の危険性を予測すること、免疫治療後に患者の予後、すなわち再発、転移、生存、または無病生存等を予測することを意味する。本発明による治療反応性予測のためのバイオマーカーは、癌患者、より好ましくは、胃癌患者に対する最も適切な免疫治療方式を選択するようにするための情報を提供することができる。
【0044】
前記抗癌剤反応性予測用マーカー遺伝子のmRNAレベルを測定する製剤は、mRNAに相補的に結合するセンスおよびアンチセンスプライマー、またはプローブでありうるが、これらに制限されるものではない。
【0045】
本発明において使用される用語、「プライマー」とは、DNA合成の起始点となる短い遺伝子配列であり、診断、DNAシーケンシング等に用いる目的で合成されたオリゴヌクレオチドを意味する。前記プライマーは、通常、15~30塩基対の長さで合成して使用することができるが、使用目的によって変わることができ、公知の方法でメチル化、キャップ化等で変形させることができる。
【0046】
本発明において使用される用語、「プローブ」とは、酵素化学的な分離精製または合成過程を経て製作された数塩基~数百塩基の長さのmRNAと特異的に結合できる核酸を意味する。放射性同位元素、酵素、または蛍光体等を標識して、mRNAの存在有無を確認でき、公知の方法でデザインし、変形させて使用することができる。
【0047】
前記タンパク質レベルを測定する製剤は、遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体でありうるが、これに制限されるものではない。
【0048】
本発明において使用される用語、「抗体」とは、免疫学的に特定の抗原と反応性を有する免疫グロブリン分子を含み、単クローン(monoclonal)抗体および多クローン(polyclonal)抗体を全部含む。また、前記抗体は、キメラ抗体(例えば、ヒト化ミュリン抗体)および異種結合抗体(例えば、二重特異性抗体)のような遺伝工学によって生産された形態を全部含む。
【0049】
本発明の抗癌剤反応性予測用キットは、解析方法に適合した一種類またはそれ以上の他の構成成分組成物、溶液または装置で構成することができる。
【0050】
本発明の他の様態として、本発明は、被検者由来の生物学的試料においてARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2)遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する段階を含む抗癌剤反応性予測のための情報提供方法を提供する。
【0051】
前記mRNAの発現レベルは、当業界に知られた通常の方法によってナノストリングエンカウンター解析(NanoString nCounter analysis)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real-time PCR)、RNaseプロテクションアッセイ(RNase protection assay;RPA)、マイクロアレイ(microarray)、およびノーザンブロッティング(northern blotting)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定できるが、これらに制限されるものではない。
【0052】
前記タンパク質発現レベルは、当業界に知られた通常の方法によってウェスタンブロッティング(western blotting)、放射免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降法(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)、免疫蛍光染色法(immunofluorescence)、オクタロニー(ouchterlony)、補体固定分析法(complement fixation assay)、およびタンパク質チップ(protein chip)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定できるが、これらに制限されるものではない。
【0053】
前記生物学的試料は、癌患者由来組織であり、より好ましくは、ホルマリン等の固定液で固定して、パラフィンに包埋した組織を含むが、これに制限されるものではない。
【0054】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をさらに容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記の実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0055】
実施例1.実験準備および実験方法
1-1.対象胃癌患者の選定
本実施例では、2013年から2017年までペムブロリズマブ(pembrolizumab)に対する臨床反応を評価するために、予備単一部位、2相臨床試験に登録された61人の転移性胃癌(metastatic gastric cancer;mGC)患者を募集した。その中で、原発性腫瘍組織の利用可能性とペムブロリズマブに対する臨床的反応に基づいて21人の患者ケースを選別した。下記表1にまとめて示したように、選別した患者の平均年齢が57歳(26~78歳)であり、マイクロサテライト不安定性群(microsatellite instability;MSI)の胃癌患者が4人(19.05%)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)陽性胃癌患者が2人(9.52%)含まれており、人口統計学的特徴および治療結果を含む臨床データは医療記録を検討して得られた。
【0056】
【表1】
【0057】
1-2.RNA抽出
ホルマリン固定パラフィン包埋組織からトータルRNAを分離するために、各胃癌患者由来組織ブロックを厚さ4μmの切片に切断した。その後、製造社の指示によってRNeasy FFPEキット(Qiagen,Germany)を使用してRNAを分離した。より詳細には、切断された組織を脱パラフィン化し、タンパク質分解酵素K処理、カラム上でのDNAse分解を経てRNase-free waterを用いてRNAを抽出した。前記方法で分離したトータルRNAサンプルは、使用前まで-80℃に保管し、RNA濃度は、NanoDrop(Thermo Fisher Scientific,USA)を用いて測定した。
【0058】
1-3.ナノストリング解析を通した遺伝子発現プロファイリング
遺伝子の発現プロファイリングのために、前記実施例1-2によって胃癌組織サンプルから分離したRNAを用いてナノストリング解析(NanoString Technologies,Inc,Seattle,USA)を実施した。上記解析のために、本発明者らは、間葉シグニチャーおよび腫瘍免疫の包括的な解析によって確認された宿主免疫反応遺伝子と関連した168個の遺伝子に対するプローブを製作した。対照群としては、11個のハウスキーピング(housekeeping)遺伝子および14個の技術的な内部対照群遺伝子を追加した。引き続いて、標準プロトコル「Setting up 12 nCounter Assays(MAN-C0003-03,2008-2013)」によってナノストリング解析を行った。18時間培養してハイブリダイゼーション反応を誘導し、NanoString TechnologiesのnSolverソフトウェアを用いてデータを解析した。ハウスキーピング遺伝子および内部対照群遺伝子を用いてデータを正規化し、nSolverソフトウェア(version4.0)でlog10スケールに変換した。
【0059】
1-4.ペムブロリズマブに対する反応によって差次的発現遺伝子解析
ペムブロリズマブに対する反応性を予測できる遺伝子シグニチャーを発掘するために、nSolverソフトウェアを用いて差次的発現遺伝子(differentially expressed gene;DEG)解析を実施した。ペムブロリズマブに対する反応性のあるグループと反応性のないグループを比較することによって、差次的発現遺伝子を確認するために、カットオフ値としてP値は<0.01に設定した。
【0060】
1-5.ペムブロリズマブに対する反応性予測モデルの開発およびTCGAとACRGコホートにおける有効性検証
ペムブロリズマブに対する予測モデルを構築するために、有意に異なる発現パターンを示す遺伝子のmRNA発現レベルおよび胃癌組織のPD-L1 CPSを線形回帰モデルを使用して解析した。予測モデルは、ROC曲線の下面積(AUC)で敏感度と特異度を計算することによって評価した。転移性胃癌患者を反応群(Response)および非反応群(no response)に分類するためのカットオフ値は、AUCパッケージで正確性機能によって定義された。
【0061】
しかも、本発明による予測モデルを評価するために、交差検証を10回行い、各検証結果に対してRMSE(root mean squared error)を計算した。また、MSI、EBV陽性およびTMBが免疫治療に対する反応性と密接な関連があると知られているので、TCGAのRNA配列解析データおよびACRGのマイクロアレイデータを用いて本発明の結果を検証した。ComBat関数は、有効性検証データとテストデータが互いに異なるプラットフォームを有するので、svaパッケージを使用して遺伝子発現データを調整するのに用いた。すべての統計解析および視覚化したプロットは、Rプログラム(Rバージョン3.4.4)で行われた。総突然変異の割合は、メガベース当たり体細胞非同義単一ヌクレオチド変異体(single nucleotide variant;SNV)突然変異の数で計算され、高い突然変異負荷(mutation load;ML)に対する臨界値は上位三分位数に設定された。
【0062】
1-6.定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を用いた検証
他の技術的プラットフォームで本発明によるIMAGiCモデルの再現性を評価するために、5μl 2X Taqman PreAmp Master Mix、4μl cDNAサンプル、および1μlプライマー/プローブを含む1反応当たり最終10μlボリュームの反応溶液で384ウェルプレートで7900HT配列検出システム(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を用いて定量的リアルタイムPCRを行う条件を設定した。PCR増幅は、下記条件によって行い、同一サンプルをそれぞれ独立的な3個のウェルで増幅されるようにした:50℃で2分および94℃で10分、引き続いて95℃で15秒および60℃で60秒を40サイクル反復。
【0063】
1-7.PD-L1に対する免疫組織化学染色法
ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPE)サンプルの各代表されるセクションを用いて免疫組織化学染色(IHC)を実施した。PD-L1の染色は、FDA承認された単クローンマウス抗体であるPD-L1 22C3 pharmDx(Dako,Carpinteria,CA)を使用して行った。また、熟練した病理学者(KMK)を通じてPD-L1で染色されたIHCスライド結果を解析した:CPSは、PD-L1で染色された細胞(腫瘍細胞、リンパ球、大食細胞)の数を合計し、その結果を全体生存した腫瘍細胞の数で割った後、100をかけた後、PD-L1 IHC 22C3 pharmDx使用指針に従って評価した(https://www.agilent.com/cs/library/usermanuals/public/ 29219_pd-l1-ihc-22C3-pharmdx-gastric-interpretation-manual_us.pdf)。PD-L1 IHC結果は、スコアが1以上なら陽性であり、1未満なら陰性と解析した。
【0064】
実施例2.ペムブロリズマブに対する反応によって差次的発現遺伝子の確認
ペムブロリズマブに対する反応性と関連して21人の胃癌患者由来胃癌組織から遺伝子発現プロファイリングを解析した。固形腫瘍における反応評価基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors;RECIST)に基づいてペムブロリズマブに対する反応性によって4個群に分類し、その結果、完全奏効(Complete response;CR)が4ケース、部分奏効(partial response;PR)が4ケース、安定(stable disease;SD)が5ケース、および進行(progressive disease;PD)が10ケースに分類された。
【0065】
ペムブロリズマブに対する反応性予測シグニチャー遺伝子を選別するために、nSolverソフトウェアを使用して図2aに示されたようにDEG解析を実施した。その後、すべての差次的発現遺伝子(DEGs)を用いてエンリッチメント解析(Enrichment analysis)を行った(P値<0.05)。その結果、図2bに示されたように、すべてのDEGsは、抗原処理および提示(Antigen processing and presentation)と自然免疫反応(Innate immune response)をはじめとしてEBV感染(EBV infection)および免疫反応(Immune response)と最も有意に関連があり、これは、ペムブロリズマブに対する反応性を予測するのに最も重要な因子が免疫反応に関連していることを意味することである。
【0066】
これより、最終的に、図2aのDEG解析結果を通じてペムブロリズマブ治療に対して反応群および非反応群間に有意に差次的に発現した4個の遺伝子であるUCHL1、PRKD1、ARMCX1およびTYK2を選別した(P<0.01)。
【0067】
実施例3.ペムブロリズマブに対する反応性予測用IMAGiCモデルの構築
ペムブロリズマブに対する反応性を予測できるモデルを構築するために、DEGから選別された4個の遺伝子のmRNA発現レベルを用いて線形回帰解析を実施した。またPD-L1の発現は、ペムブロリズマブ反応に対する重要なバイオマーカーであるから、IMAGiCにまたPD-L1 CPSを用いた。しかも、前記方法によって構築されたIMAGiCモデルの性能を評価するために、同じ患者コホートで前記モデルを検証した。その結果、図2cに示されたように、すべてのIMAGiCグループは、ペムブロリズマブに対する反応に完ぺきにマッチした。IMAGiCモデルの敏感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)および正確度(Accuracy)は、AUC方法を使用して計算され、全部100%であることが確認された。しかも、選択されたデータの偏向を減らし、IMAGiCモデルの性能を向上させるために、10倍交差検証を行った。21個のすべてのサンプルを使用してIMAGiCモデルを構築し、各交差検証段階ごとに10個のグループに分類した;10個のグループのうち9個がテストに使用され、残りのグループは有効性検査に使用された。平均RMSEは1.751であった。
【0068】
IMAGiCグループは、ペムブロリズマブに対するIMAGiCスコアおよびRECISTグループに基づいて開発され、IMAGiCスコアのカットオフ値は、AUCパッケージの正確度機能を使用して2.5069に設定した。最終的に、転移性胃癌患者は、IMAGiCに基づいて反応群(Responder)および非反応群(Nonresponder)に分類された。図3aに示されたように、IMAGiCスコアは、PD-L1 CPS(r=0.64)、RECIST群(r=0.83)およびEBV感染状態(r=0.56)と相関関係があることが示された。また、それぞれ図3b~図3fから分かるように、IMAGiCスコアは、RECIST群(CR、PR、SD、PD)(P=0.0057)、EBV感染状態(P=0.048)および腫瘍突然変異荷重(Mutational Load;ML)(P=0.023)と有意な相関関係があることを確認し、これに対し、MSIサブタイプ(P=0.14)およびPD-L1 CPS(P=0.095)とは有意な関連性がないことが示された。
【0069】
実施例4.TCGAおよびACRGコホートでIMAGiCの解析
従来、PD-1封鎖がMSIおよびEBV陽性腫瘍だけでなく、高いMLを有する腫瘍に対しても効果的であることが報告されたので、本発明者らは、TCGA RNA-シーケンシングデータ(n=260)およびACRG mRNA発現アレイ結果(n=300)に対してIMAGiC予測モデルを適用し、その有効性を検証した。
【0070】
まず、TCGAグループに含まれた胃癌サブタイプを解析した結果、図4aに示されたように、MSI胃癌が59ケース(22.7%)、EBV陽性胃癌が24ケース(9.2%)、TMBが高い下位類型の胃癌が61ケース(23.5%)含まれており、総突然変異率は、4つの分子サブタイプで区別された。しかも、IMAGiCとTCGAコホートに含まれた各サブタイプ胃癌間の相関関係を解析した結果、下記表2に示されたように、IMAGiCは、TCGA分子サブタイプ(P=1.21E-04)、MSI(P=0.01)、EBV(P=0.09)およびTMB状態(P=1.19E-05)と有意な相関関係があることが示された。すなわち、MSIまたはEBV陽性胃癌を有する多くの患者がIMAGiCによって反応群に分類された。また、図4bおよび図4cから分かるように、MSIおよびTMBと関連した胃癌においてIMAGiCスコアは、マイクロサテライト安定(microsatellite-stable;MSS)および非TMBグループのスコアより有意にさらに高く示されたことを確認した。
【0071】
【表2】
【0072】
一方、ACRGコホートの場合には、下記表3に示されたように、MSI胃癌が68ケース(22.7%)、EBV陽性胃癌が18ケース(6.0%)含まれていた。また、IMAGiCグループである反応群(Responder)および非反応群(Nonresponder)間の全体生存率(Overall survival)および無病生存率(Disease-free survival)の差異を比較し、ACRG分子サブタイプ(MSI、EMT、MSS/TP53+、MSS/TP53-)およびMSI(MSI-H、MSS)サブタイプグループにおいてIMAGiCスコアを比較した結果、図5a~図5cに示されたように、IMAGiCモデルが無病生存率、ACRG分子サブタイプ(P=1.96E-08)およびMSI(P=0.006)と関連があることを確認した。
【0073】
【表3】
【0074】
実施例5.qRT-PCRを用いたIMAGiCの再現および検証
臨床実務での利用のために、本発明者らは、他の技術的方法でIMAGiCモデルの再現性を評価した。このために、同じコホートで24人の患者由来mRNAを使用してqRT-PCRを行った。その結果、図6a~図6dに示されたように、qRT-PCRによるIMAGiCグループは、RECIST群(r=0.82)、EBV(r=0.48)およびMSI(r=0.66)とも高い相関関係があることが示された。IMAGiCの再現性に対する正確度は87.5%であった(正の予測値、87.5%;負の予測値、12.5%)であった。
【0075】
しかも、転移性胃癌を有する他の患者群においてIMAGiC qRT-PCRの結果を検証するために、本発明者らは、ニボルマブ(nivolumab)(Opdivo,Bristol-Myers Squibb Company Inc.)で進行中の臨床試験で確保された17個の患者サンプルを用いた。下記表4に示されたように、すべてのケースがEBV陰性であり、大部分(94.1%)がMSSおよびPD-L1 CPS陰性であった。MSI、EBV陽性および陽性PD-L1 CPSがペムブロリズマブに対する反応性と関連があるという最近の臨床試験および研究結果と一致するように、大部分のケースが、RECIST群に基づいてIMAGiCグループにおいて非反応群に分類された。また、IMAGiC qRT-PCRモデルが元のものと同じ正確度を有するか否かを調査するために、前記ニボルマブコホートを使用してIMAGiCの正確度を計算し、その結果、正確度が100%であることが示された(正の予測値、100%;負の予測値、0%)。
【0076】
【表4】
【0077】
上述した本発明の説明は例示のためのもので、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明において発掘した遺伝子マーカーは、ペムブロリズマブ免疫抗癌剤に対する反応性をあらかじめ予測するのに用いることができて、個別癌患者別に最適な治療法を選択し、これによって、治療効果を高め、副作用を最小化できるところ、前記マーカーは、臨床のコンパニオン診断分野において有用に活用することができる。
本願発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1> ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質を含む、抗癌剤反応性予測用マーカー組成物。
<2> 前記マーカー組成物は、UCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)遺伝子または前記遺伝子によってコードされるタンパク質をさらに含むことを特徴とする、<1>に記載のマーカー組成物。
<3> 前記抗癌剤は、PD-1(Programmed cell death protein 1)拮抗剤であることを特徴とする、<1>に記載のマーカー組成物。
<4> 前記PD-1拮抗剤は、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)であることを特徴とする、<3>に記載のマーカー組成物。
<5> 前記ペムブロリズマブは、胃癌、肺癌、皮膚癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、腎臓癌および尿路上皮細胞癌よりなる群から選ばれる1つ以上の癌腫の治療に用いられることを特徴とする、<4>に記載のマーカー組成物。
<6> ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する製剤を含む、抗癌剤反応性予測用組成物。
<7> 前記組成物は、UCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する製剤をさらに含むことを特徴とする、<6>に記載の組成物。
<8> 前記抗癌剤は、PD-1(Programmed cell death protein 1)拮抗剤であることを特徴とする、<6>に記載の組成物。
<9> 前記PD-1拮抗剤は、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)であることを特徴とする、<8>に記載の組成物。
<10> 前記ペムブロリズマブは、胃癌、肺癌、皮膚癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、腎臓癌および尿路上皮細胞癌よりなる群から選ばれる1つ以上の癌腫の治療に用いられることを特徴とする、<9>に記載の組成物。
<11> 前記遺伝子のmRNAレベルを測定する製剤は、遺伝子のmRNAに相補的に結合するセンスおよびアンチセンスプライマー、またはプローブであることを特徴とする、<6>または<7>に記載の組成物。
<12> 前記タンパク質レベルを測定する製剤は、前記遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的に結合する抗体であることを特徴とする、<6>または<7>に記載の組成物。
<13> <6>または<7>に記載の組成物を含む、抗癌剤反応性予測用キット。
<14> ARMCX1(Armadillo repeat-containing X-linked protein 1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_016608)、PRKD1(Serine/threonine-protein kinase D1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_002742)およびTYK2(Tyrosine Kinase 2;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_003331)よりなる群から選ばれる1つ以上の遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する段階を含む、抗癌剤反応性予測方法。
<15> 前記情報提供方法は、UCHL1(Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1;NCBIアクセッション(accession)番号:NM_004181)遺伝子のmRNAまたは前記遺伝子によってコードされるタンパク質レベルを測定する段階をさらに含むことを特徴とする、<14>に記載の予測方法。
<16> 前記mRNAレベルは、ナノストリングエンカウンター解析(NanoString nCounter analysis)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Real-time PCR)、RNaseプロテクションアッセイ(RNase protection assay;RPA)、マイクロアレイ(microarray)、およびノーザンブロッティング(northern blotting)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定されることを特徴とする、<14>または<15>に記載の予測方法。
<17> 前記タンパク質レベルは、ウェスタンブロッティング(western blotting)、放射免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降法(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)、免疫蛍光染色法(immunofluorescence)、オクタロニー(ouchterlony)、補体固定分析法(complement fixation assay)、およびタンパク質チップ(protein chip)よりなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて測定されることを特徴とする、<14>または<15>に記載の予測方法。
<18> 前記生物学的試料は、癌患者由来組織であることを特徴とする、<14>に記載の予測方法。
<19> 前記組織は、 パラフィン包埋組織(paraffin-embedded tissue)であることを特徴とする、<18>に記載の予測方法。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図6c
図6d