(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】電磁波シールドシートおよびその製造方法、シールド性配線基板、並びに電子機器
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230227BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230227BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
H05K9/00 W
H05K9/00 R
B32B7/025
B32B27/18 J
(21)【出願番号】P 2021150554
(22)【出願日】2021-09-15
(62)【分割の表示】P 2021046610の分割
【原出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【氏名又は名称】秦 恵子
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 祥太
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔太
(72)【発明者】
【氏名】永井 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 英宣
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-021837(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192490(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147423(WO,A1)
【文献】特開2019-196458(JP,A)
【文献】特開2019-192806(JP,A)
【文献】特開2019-110282(JP,A)
【文献】特許第5975195(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤層(A)と、当該接着剤層(A)の上に積層されたシールド層(B)とを備え、
接着剤層(A)は、バインダー成分(a-1)と導電性フィラー(a-2)を含有し、
シールド層(B)は、接着剤層(A)の上に積層された金属層(C)と、バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有し、金属層(C)の上に積層された導電性フィラー高充填層(D)とを有し、当該導電性フィラー高充填層(D)上には、金属層が形成されておらず、
接着剤層(A)100質量%に対し、導電性フィラー(a-2)の含有率が15~45質量%であり、
導電性フィラー高充填層(D)100質量%に対し、導電性フィラー(d-2)の含有率が84~95質量%である電磁波シールドシート。
【請求項2】
接着剤層(A)は、バインダー成分(a-1)を含み、
当該バインダー成分(a-1)を170℃30分の条件で押圧処理した押圧処理物(a’-1)の比誘電率が23℃、周波数28GHzにおいて1.0~3.5であり、押圧処理物(a’-1)の誘電正接が23℃、周波数28GHzにおいて0.0001~0.02であることを特徴とする請求項1記載の電磁波シールドシート。
【請求項3】
シールド層(B)の上に、更に、保護層(E)が積層されており、
保護層(E)は、バインダー成分(e-1)を含み、
当該バインダー成分(e-1)を170℃30分の条件で押圧処理したシート状押圧処理物(e’-1)の破断強度が15MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波シールドシート。
【請求項4】
170℃30分の条件で押圧処理した後の押圧処理物の反発力が0.01~30mN/cmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電磁波シールドシート。
【請求項5】
絶縁性基材と、前記絶縁性基材上に形成された回路パターンと、前記絶縁性基材および前記回路パターン上に形成されたカバーコート層とを備える配線回路基板と、
電磁波シールドシートとを有し、
前記電磁波シールドシートは、前記カバーコート層上に請求項1~4のいずれか1項に記載の電磁波シールドシートの接着剤層(A)を用いて接合されたシールド性配線基板。
【請求項6】
請求項5記載のシールド性配線基板を備える電子機器。
【請求項7】
接着剤層(A)とシールド層(B)の積層構成を備える電磁波シールドシートの製造方法であって、
バインダー成分(a-1)と導電性フィラー(a-2)を含有する接着剤層(A)を形成する工程と、
シールド層(B)の一部として機能する金属層(C)を形成する工程と、
バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有する導電性フィラー含有組成物を塗工して、シールド層(B)の一部として機能する導電性フィラー高充填層(D)を形成する工程とを有し、
接着剤層(A)100質量%に対し、導電性フィラー(a-2)の含有率を15~45質量%とし、
導電性フィラー高充填層(D)100質量%に対し、導電性フィラー(d-2)の含有率を84~95質量%とし、
接着剤層(A)、金属層(C)、導電性フィラー高充填層(D)の順に積層し、導電性フィラー高充填層(D)上には金属層の形成は行わない、電磁波シールドシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤層およびシールド層を有する電磁波シールドシートおよびその製造方法に関する。また、シールド性配線基板および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末、PC、サーバー等をはじめとする各種電子機器には、プリント配線板等の基板が内蔵されている。これらの基板には、外部からの磁場や電波による誤動作を防止するために、また、電気信号からの不要輻射を低減するために、電磁波シールド構造が設けられている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1には、繰り返し屈曲・摺動に対して金属層の破壊が起こりにくいプリント配線板用シールドフィルムの提供を課題として、片面表面の算術平均粗さが0.5~5.0μmの絶縁層と、この絶縁層の前述の片面表面に沿って蛇腹構造となるように形成されている金属層を備えるプリント配線板用シールドフィルムが開示されている。
特許文献2には、シールドプリント配線板を製造する際にシールド特性が低下しにくく、充分な耐折り曲げ性を有する電磁波シールドフィルムを提供することを課題として、導電性接着剤層と、開口部を複数有し、その開口面積および開孔率が特定範囲にある金属層からなるシールド層と、絶縁層とがこの順に積層された電磁波シールドフィルムが開示されている。
【0004】
電磁波を遮る代表的な物質は金属であり、上記特許文献1等の電磁波シールドフィルムにおいては金属層が電磁波を遮蔽するシールド層として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-38278号公報
【文献】国際公開第2018/147298号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁波シールドシートは、通常、製造時にロール状に巻き取られて保管され、使用時に巻き戻されて用いられる。また、使用に際して、電磁波シールドシートを所望のサイズおよび形状に打抜き加工する場合がある。しかしながら、ロール状での保管時に電磁波シールドシートに応力が蓄積されて残留ひずみが生じ、巻き戻したときに電磁波シールドシートに反り返り(以下、カールという)が生じるという問題がある。また、前述の打抜き加工をおこなったときに、電磁波シールドシートの端面が捲れ上がる現象(以下、バリという)が発生しやすいという問題がある。電磁波シールドシートにカールやバリが発生すると、歩留まり低下や製品の信頼性低下が認められるので、カールおよびバリの発生を抑制できる電磁波シールドシートが求められている。
【0007】
電磁波シールドシートを例えばフレキシブルプリント配線板に被着する場合には、電子機器内部で折り曲げられた状態で保持される場合がある。このため、折り曲げられた状態でも電磁波シールド特性に優れる、易変形性に優れる電磁波シールドシートが市場で求められている。更に、電磁波シールドシートを被着したプリント配線板などにおいて、リフロー工程等の高温処理を行った際に、プリント配線板などから発生したガスが電磁波シールドシートを透過できずに層間部分剥離、或いは浮きなどの外観不良を発生させる場合がある。このため、ガス透過性を解決できる電磁波シールドシートが求められている。
【0008】
本発明は上記背景に鑑みて成されたものであり、カールおよびバリを抑制でき、且つ電磁波シールド特性、易変形性およびガス透過性を兼ね備える電磁波シールドシートおよびその製造方法、シールド性配線基板、並びに電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]: 接着剤層(A)と、当該接着剤層(A)の上に積層されたシールド層(B)とを備え、
シールド層(B)は、接着剤層(A)の上に積層された金属層(C)と、バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有し、金属層(C)の上に積層された導電性フィラー高充填層(D)とを有し、
導電性フィラー高充填層(D)100質量%に対し、導電性フィラー(d-2)の含有率が75~95質量%である電磁波シールドシート。
[2]: 接着剤層(A)は、バインダー成分(a-1)を含み、
当該バインダー成分(a-1)を170℃30分の条件で押圧処理した押圧処理物(a’-1)の比誘電率が23℃、周波数28GHzにおいて1.0~3.5であり、押圧処理物(a’-1)の誘電正接が23℃、周波数28GHzにおいて0.0001~0.02であることを特徴とする[1]記載の電磁波シールドシート。
[3]: 接着剤層(A)は、導電性フィラー(a-2)を含有することを特徴とする[1]または[2]記載の電磁波シールドシート。
[4]: シールド層(B)の上に、更に、保護層(E)が積層されており、
保護層(E)は、バインダー成分(e-1)を含み、
当該バインダー成分(e-1)を170℃30分の条件で押圧処理したシート状押圧処理物(e’-1)の破断強度が15MPa以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の電磁波シールドシート。
[5]: 170℃30分の条件で押圧処理した後の押圧処理物の反発力が0.01~30mN/cmであることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の電磁波シールドシート。
[6]: 絶縁性基材と、前記絶縁性基材上に形成された回路パターンと、前記絶縁性基材および前記回路パターン上に形成されたカバーコート層とを備える配線回路基板と、
電磁波シールドシートとを有し、
前記電磁波シールドシートは、前記カバーコート層上に、請求項1~5のいずれか1項に記載の電磁波シールドシートの接着剤層(A)を用いて接合されたシールド性配線基板。
[7]: [6]記載のシールド性配線基板を備える電子機器。
[8]: 接着剤層(A)とシールド層(B)の積層構成を備える電磁波シールドシートの製造方法であって、
接着剤層(A)を形成する工程と、
シールド層(B)の一部として機能する金属層(C)を形成する工程と、
バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有する導電性フィラー含有組成物を塗工して、シールド層(B)の一部として機能する導電性フィラー高充填層(D)を形成する工程とを有し、
導電性フィラー高充填層(D)100質量%に対し、導電性フィラー(d-2)の含有率を75~95質量%とし、接着剤層(A)、金属層(C)、導電性フィラー高充填層(D)の順に積層する電磁波シールドシートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カールおよびバリを抑制でき、且つ電磁波シールド特性、易変形性およびガス透過性を兼ね備える電磁波シールドシートおよびその製造方法、シールド性配線基板、並びに電子機器を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る電磁波シールドシートの一例を示す模式的断面図。
【
図2】本実施形態に係るシールド性配線基板の要部の一例を示す模式的断面図。
【
図3】実施例に係る電磁波シールドシートのカールの評価方法を説明するための模式的断面図。
【
図4】実施例に係る電磁波シールドシートの易変形性の評価方法を説明するための模式的断面図。
【
図5】実施例に係る配線回路基板の主面側の模式的平面図。
【
図6】実施例に係る配線回路基板の裏面側の模式的平面図。
【
図7】実施例に係るシールド性配線基板の裏面側の模式的平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む。また、本明細書において「フィルム」や「シート」は、厚みによって区別されないものとする。また、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。また、「α層の上に積層されたβ層」とは、α層の直上にβ層が直接積層されている積層構成の他、α層の上に他の層を介してβ層が積層されている積層構成を含む。また、本明細書で特定する数値は、実施例に開示した方法により求められる値である。
【0013】
[[電磁波シールドシート]]
本発明の実施形態に係る電磁波シールドシート(以下、「本シート」とも記す)の一例を
図1に示す。
図1に示すように、本シート1は、接着剤層(A)と、この接着剤層(A)の上に積層されたシールド層(B)を備える。シールド層(B)は、接着剤層(A)の上に積層された金属層(C)と、バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有し、金属層(C)の上に積層された導電性フィラー高充填層(D)とを有する。導電性フィラー高充填層(D)中の導電性フィラー(d-2)の含有量は、導電性フィラー高充填層(D)100質量%に対して75~95質量%の範囲とする。本シートは、プリント配線板等の被着体に、接着剤層(A)を介して接合され、被着体の電磁波遮蔽部材として機能する。
【0014】
本シートによれば、シールド層(B)を金属層(C)のみから構成せずに、金属層とバインダー成分(d-1)を含む導電性フィラー高充填層(D)とを併用することによって、優れた電磁波シールド性を有しながら、カールおよびバリを抑制でき、且つ優れた易変形性およびガス透過性を兼備することができる。即ち、シールド層(B)により電磁波シールド性を優れたものとしつつ、金属層(C)と導電性フィラー高充填層(D)を組み合わせたことによって、カールおよびバリを抑制し、優れた易変形性を得ることができる。また、シールド層を金属層のみから構成する場合に比べて、金属層(C)とバインダー成分(d-1)を含む導電性フィラー高充填層(D)を併用する本シールド層(B)では、緻密性が高くガス透過性に課題がある金属層の厚みを薄くすることができるので、ガス透過性を向上させることができる。
【0015】
電磁波シールドシートは、搬送の利便性や連続生産性などの理由から、通常、ロール状で生産・保管される。しかし、電磁波シールドシートには金属層が形成されているので、ロール状に巻き取って保管したときに残留ひずみが生じ、巻き戻したときにカールが生じてしまう。このカールによって、切り出しや打抜き加工時のハンドリング性が低下してしまう。また、寸法精度が悪くなるという問題がある。
一方、本シートによれば、シールド層(B)の一部として機能する導電性フィラー高充填層(D)のバインダー成分(d-1)による応力緩和効果によって、上記カールを効果的に抑制することができる。
【0016】
また、ロール状に巻き取られた電磁波シールドシートは、使用時に巻き戻されて、所望のサイズおよび形状に打抜き加工する場合がある。しかし、電磁波シールドシートには金属層が形成されているので、従来の電磁波シールドシートを打抜き加工すると、その端面が捲れ上がるバリが発生しやすい。
本シートは、シールド層(B)として金属層とバインダー成分(d-1)を含む導電性フィラー高充填層を併用することにより、バリの発生の原因となる金属層の厚みを薄く設計することが可能となる。また、打抜き加工時にかかる本シートへの応力を、導電性フィラー高充填層(D)のバインダー成分(d-1)によって緩和させることができる。このため、本シートによれば上記バリの発生を効果的に改善することができる。
【0017】
例えば、電磁波シールドシートを接合させたフレキシブルプリント配線板(以下、FPC)は、電子機器内に折り曲げられた状態で組み込まれることがある。しかし、電磁波シールドシートは金属層を含むので、その剛性により折り曲げ時に反発力が生じる。このため、易変形性に優れる電磁波シールドシートが求められている。
本シートは、シールド層(B)として金属層(C)と、導電性フィラーが特定の含有率であるバインダー成分(d-1)を含む導電性フィラー高充填層(D)を併用することにより、剛性の原因となる金属層の厚みを薄く設計することが可能となる。また、シールド層(B)のうち、折り曲げたときに外側に配置される、より応力負荷のかかる層を導電性フィラー高充填層(D)とすることで、金属層(C)の破断、クラックおよび外観不良を効果的に防止できる。
【0018】
電磁波シールドシートを接合させたFPCは、ハンダリフロー工程などの高温処理工程がある。この際、FPCから発生する水蒸気等のアウトガスの透過性が電磁波シールドシートに求められる。しかし、電磁波シールドシートには緻密な金属層が形成されているので、この金属層によりアウトガスが滞留して、発泡、浮き、層間の部分剥離、外観不良などが生じ得る。
本シートは、シールド層(B)として金属層とバインダー成分(d-1)を含む導電性フィラー高充填層を併用することにより、ガス透過性を阻害する原因となる金属層の厚みを薄く設計することが可能となる。金属層の厚みを薄くすることにより、ガス透過性を有する微小細孔が形成されやすくなる。なお、金属層にガス透過のための細孔を別途設けることも可能であるが、生産工程が増えてしまうという問題がある。
【0019】
本シートは、信号配線等が内蔵されている電子部品(被着体)とより近い側に、シールド層(B)のうちの金属層(C)が配置される。導電性フィラー高充填層(D)は導電性フィラー(d-2)がバインダー成分(d-1)に分散される。このため、導電性を示す部分に着目すると、導電性フィラー高充填層(D)は単独では表面に一定程度の凹凸を有する。
【0020】
一方、高周波用途のFPCに本シートを適用する場合、本シートのシールド層(B)において、電流の性質上、高周波になると電流は金属層(C)の表面を流れるようになる。配線回路基板中の信号配線における伝送特性は、近傍の導電体に流れる電流の影響を受けるため、信号配線と近接する金属層(C)の表面の凹凸が険しいと、金属表面を流れる電流との距離が変動し、伝送特性が不安定となる。そのため、伝送特性の観点からは、シールド層(B)は平滑であることが好ましい。
【0021】
本シートによれば、シールド層(B)の電子部品(被着体)側は平滑となり、伝送特性を向上することができる。例えば、蒸着、めっきによる金属層(C)形成では、導電性フィラー高充填層(D)表面の凹部を埋めるように金属層(C)が形成できる。また、金属層(C)が銅箔などの金属箔である場合には、導電性フィラー高充填層(D)の表面凹凸を平滑な金属層(C)によって覆うことが可能となる。
【0022】
(電磁波シールドシートの反発力)
本シートは、優れた易変形性を得る観点からは、本シートを170℃30分の条件で押圧処理した後の押圧処理物の反発力が0.01~30mN/cmであることが好ましい。この範囲とすることにより易変形性に優れ、カールおよびバリの発生をより効果的に抑制することができる。なお、本シートの押圧処理物の反発力の測定方法は、後述する実施例により求められる値をいうものとする。以下、各層について詳述する。
【0023】
[接着剤層(A)]
接着剤層(A)は、本シートを被着体に接合する役割を担う。本シートの被着体への接合は、通常、熱圧着により行われる。なお、被着体に接合した後の層を接合層(A’)といい、被着体への接合前の本シートの接着剤層(A)と区別する。
【0024】
接着剤層(A)は、接着剤組成物を用いて形成することができる。接着剤組成物はバインダー成分(a-1)を含む。バインダー成分(a-1)は少なくとも樹脂を含む。樹脂の好適例として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が例示できる。熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度又は融点以上に加熱することによって軟らかくなる樹脂をいい、熱硬化性樹脂は、加熱すると架橋して高分子の網目構造を形成し、硬化して元に戻らなくなる樹脂をいう。熱硬化性樹脂単独で硬化するタイプ、および熱硬化性樹脂と硬化剤を併用して硬化するタイプがある。これらの中でも、バインダー成分(a-1)として熱硬化性樹脂と硬化剤を用いることが好ましい。
【0025】
バインダー成分(a-1)の樹脂に熱可塑性樹脂を用いる場合、含まれる熱可塑性樹脂が固体状態で存在し、FPC等の被着体と熱プレス時に熱可塑性樹脂が溶融し、冷却後に再度固体化することで、所望の接着強度を得ることができる。また、バインダー成分(a-1)の樹脂に熱硬化性樹脂を用いる場合、含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤が未硬化状態で存在し(Bステージ)、FPC等の被着体と熱プレスなどにより硬化することで(Cステージ)、所望の接着強度を得ることができる。なお、被着体の接合前に、バインダー成分(a-1)の一部が硬化した半硬化状態であってもよい。
【0026】
接着剤層(A)は、シールド層(B)との接着性を良好に発揮させる観点、およびFPCのカバーレイフィルム(例えば、ポリイミド樹脂)などの被着体との接着性をより優れたものとする観点からは、バインダー成分(a-1)に、水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一種を含む熱硬化性樹脂または/および熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
本シートをFCP等の信号伝送する部材に適用する場合には、FPC等の電子部品を伝送する高周波信号の伝送損失を低減するために、本シートの接着剤層(A)のバインダー成分(a-1)を170℃×30分の条件で押圧処理した押圧処理物(a’-1)の23℃、周波数28GHzにおける比誘電率を1.0~3.5とし、且つ誘電正接を0.0001~0.02とすることが好ましい。
なお、バインダー成分(a-1)として熱硬化性樹脂を含む場合には、押圧処理物(a’-1)は硬化層となる。また、通常、170℃×30分の処理により硬化層となるが、係る条件で硬化層にならないバインダー成分(a-1)に関しては、加熱温度および/または時間を調整して硬化層としてから、測定するものとする。ここでいう硬化とは、Bステージである半硬化でなく、Cステージである完全硬化を意味する。
【0028】
FPC等の電子部品の信号伝送時に生じる伝送損失のうち、誘電体損失は以下の数式(1)で表される。
【数1】
上記式(1)中のαは誘電体の伝送損失であり、Kは比例定数、fは周波数、ε
rは比誘電率、tanδは誘電正接である。
接着剤層(A)のバインダー成分(a-1)の上記押圧処理物(a’-1)の比誘電率および誘電正接を小さくすることにより、上記式(1)に示すように誘電体損失を低減でき、伝送損失を低減することができる。
【0029】
本シートにおけるシールド層(B)と、前記特定範囲の比誘電率および誘電正接を有する押圧処理物(a’-1)が得られるバインダー成分(a-1)を含有する接着剤層(A)とを組み合わせることにより、伝送損失をより効果的に低減することができる。特に、近年の電子機器の高速伝送化(=高周波化)によりsub6帯(3.6~6GHz)、5Gミリ波帯(28~300GHz)と呼ばれる周波数帯域の伝送損失の低減が求められているが、この周波数帯域の伝送特性も効果的に低減できる。前記比誘電率のより好適な上限値は3.0であり、更に好適な上限値は2.5である。また、前記誘電正接のより好適な上限値は0.01であり、更に好適な上限値は0.005である。
【0030】
被着体に接合した後の本シートの接合層(A’)は、絶縁性であっても導電性であってもよい。導電性とする場合には、接着剤層(A)を形成する接着剤組成物に更に導電性フィラー(a-2)を含有させればよい。接合層(A’)を導電性とする場合、等方導電性であっても、異方導電性であってもよい。なお、等方導電性とは、接合層(A’)がその厚さ方向および面方向のいずれにも導電性を有することをいい、異方導電性とは、接合層(A’)が実質的にその厚さ方向のみに導電性を有することをいう。高周波帯域の伝送特性を良好にする観点およびコストダウンの観点からは、異方導電性とすることが好ましい。
【0031】
なお、接着剤層(A)において導電性フィラー(a-2)を含有させると比誘電率および誘電正接の値は、導電性フィラーを含有させる前よりも値が大きくなるが、バインダー成分(a-1)の押圧処理物(a’-1)の23℃、周波数28GHzにおける比誘電率を1.0~3.5、誘電正接を0.0001~0.02とすることにより、導電性フィラー(a-2)を加えた場合であっても優れた伝送特性が得られる。これは、接着剤層(A)のバインダー成分(a-1)の押圧処理物(a’-1)の誘電特性を制御することで、導電性フィラー(a-2)を添加することによるシールド性を高める効果と、バインダー成分(a-1)の低誘電効果との相乗効果によるものと考えられる。
【0032】
接着剤層(A)の厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設計することができる。薄膜化の観点からは、接着剤層(A)の厚みを4~10μm程度とすることが好ましい。
【0033】
本シートをFPC等の部品と接合する場合には、ハンダリフロー炉等の加熱に耐え得る耐熱性が求められる。かかる場合には、バインダー成分(a-1)に熱硬化性樹脂と硬化剤を含め、被着体に接合した後の本シートの接合層(A’)を硬化層とすることが好ましい。以下、接着剤層(A)の各成分について詳述する。
【0034】
(バインダー成分(a-1))
熱可塑性樹脂の好適例として、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ジエン系樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。伝送損失の観点から、前述の比誘電率および誘電正接を満たす材料が好ましく、特性インピーダンスの観点から前述の比誘電率を満たす材料が好ましい。好適例としてフッ素系樹脂等が挙げられる。また、液晶ポリマーに分類されるものが好適例として挙げられる。可塑性樹脂は、単独または二種類以上併用できる。
【0035】
熱硬化性樹脂に含有する熱硬化性官能基としては、例えば、水酸基、フェノール性水酸基、酸無水物基、メトキシメチル基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、オキサジン基、アジリジン基、チオール基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、ブロック化カルボキシル基、シラノール基が挙げられる。
熱硬化性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール系樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸樹脂、オキサゾリン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリイミドベンズオキサゾール樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が例示できる。熱硬化性樹脂は、単独または二種類以上を併用できる。
【0036】
硬化剤は、熱硬化性樹脂の官能基と反応可能な官能基を2つ以上有しているものであればよく、特に限定されない。硬化剤の一例として、エポキシ化合物、酸無水物基含有化合物、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、アミン化合物、フェノール化合物、有機金属化合物(金属キレート化合物)、ポリオール化合物、メラミン化合物、シラン系化合物、カルボジイミド系化合物、フェノール化合物、ベンゾオキサジン化合物、マレイミド化合物、β―ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物が例示できる。硬化剤は、単独または二種類以上を併用できる。なお、硬化剤は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。なお、硬化剤として高分子化合物を用いる場合、配合量の多い成分を熱硬化性樹脂とし、配合量の少ない成分を硬化剤とする。
【0037】
熱硬化性樹脂の硬化性官能基が水酸基の場合、硬化剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、有機金属化合物が好ましい。また、熱硬化性樹脂の硬化性官能基がアミノ基の場合、硬化剤はイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、有機金属化合物が好ましい。更に、熱硬化性樹脂の硬化性官能基がカルボキシル基の場合、硬化剤はエポキシ化合物、有機金属化合物が好ましい。
【0038】
硬化剤を2種以上併用して用いる場合の好ましい組み合わせとしては、エポキシ化合物と有機金属化合物、エポキシ化合物とアジリジン化合物と有機金属化合物等が例示できる。併用して用いることにより、架橋密度を上げ、加熱圧着時の接着剤層(A)の層外へのはみ出しや耐熱性を効果的に向上できる。
【0039】
前記イソシアネート化合物は、例えばトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物およびこれらポリイソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体、これらポリイソシアネート化合物のビュレット体やイソシアヌレート体、更にはこれらポリイソシアネート化合物と公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等とのアダクト体等が挙げられる。
【0040】
前記エポキシ化合物は、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
【0041】
前記ポリカルボジイミドは、日清紡績社製のカルボジライトシリーズが挙げられる。その中でもカルボジライトV-01、03、05、07、09は、有機溶剤との相溶性に優れており好ましい。
【0042】
前記アジリジン化合物は、例えば、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
【0043】
前記有機金属化合物は、金属と有機物からなる化合物であり、熱硬化性樹脂の官能基と反応して架橋を形成するものである。有機金属化合物の種類は特に限定されないが、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物などが挙げられる。また、金属と有機物の結合は金属-酸素結合でもよく、金属-炭素結合に限定されるものではない。加えて、金属と有機物の結合様式は化学結合、配位結合、イオン結合のいずれであってもよい
【0044】
前記有機アルミニウム化合物はアルミニウムキレート化合物が好ましい。アルミニウムキレート化合物は、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジ-n-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジイソブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジ-sec-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムイソプロピレート、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム-sec-ブチレート、アルミニウムエチレート等が挙げられる。
【0045】
前記有機チタン化合物はチタンキレート化合物が好ましい。チタンキレート化合物は、例えば、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタン-1.3-プロパンジオキシビス(エチルアセトアセテート)、ポリチタンアセチルアセチルアセトナート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、ダーシャリーアミルチタネート、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラステアリルチタネート、チタンイソステアレート、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジステアレート、チタニウムステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジイソステアレート、(2-n-ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等が挙げられる。
有機ジルコニウム化合物はジルコニウムキレート化合物が好ましい。ジルコニウムキレート化合物は、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート、ステアリン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも有機チタン化合物が熱硬化反応性と硬化後の耐熱性の点から好ましい。
【0046】
硬化剤の含有量は適宜設計可能であるが、熱硬化性樹脂100質量部に対して1~50質量部含むことが好ましい。この範囲とすることにより、架橋密度を適切にし、吸湿性や接着性を良好に保つことができる。また、硬化物の弾性率を適切に保つことができる。硬化剤は、熱硬化性樹脂100質量部に対して3~40質量部含むことがより好ましく、3~30質量部含むことがさらに好ましい。
【0047】
高周波用途の部品に用いる場合においても良好な伝送特性を維持しつつ、より優れた接着性能を発揮できる本シートを提供する観点から、バインダー成分(a-1)の170℃×30分の押圧処理物(a’-1)が上述した比誘電率および誘電正接であることが好ましい。バインダー成分(a-1)の好適例として、カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂と、エポキシ化合物および有機金属化合物を含む硬化剤との組み合わせや、フェノール性水酸基を有する熱硬化性樹脂と、ポリイソシアネート基を有する硬化剤との組み合わせ、エポキシ基を有する熱硬化性樹脂と有機金属化合物を含む硬化剤との組み合わせ等が挙げられる。
これらのうちでも特に、熱硬化性樹脂がカルボキシル基含有樹脂を含み、硬化剤として、エポキシ化合物を含み、更に、有機金属化合物およびイソシアネート化合物の少なくとも一方を含むものが好ましい。エポキシ化合物は、カルボン酸1当量に対して好ましくは0.5~10倍、より好ましくは1~5倍のエポキシ当量を配合する。有機金属化合物およびイソシアネート化合物のトータルの硬化剤当量は、カルボン酸1当量に対して0.1~5倍で配合することが好ましく、0.5~3倍の範囲で配合することがより好ましい。上述したように硬化剤を使用することで、熱硬化後の未反応官能基数を抑制できるため、比誘電率および誘電正接がより低下する。
【0048】
更に、バインダー成分(a-1)中の樹脂の反応性官能基価(酸価)を20mgKOH/g以下とすることが好ましく、10mgKOH/g以下とすることがより好ましい。硬化時に多くの硬化剤と反応し、強靭な架橋構造を形成する観点からは、反応性官能基価(酸価)の下限値は1mgKOH/gとすることが好ましい。
【0049】
(導電性フィラー(a-2))
導電性フィラー(a-2)は、接合層(A’)に導電性を付与する機能を有する。導電性の接合層(A’)とする場合において、本シートの接着剤層(A)の段階での導電性の有無は問わない。導電性フィラー(a-2)としては、金、白金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、錫、パラジウム、クロム、チタン、亜鉛、マンガン、インジウム等の金属粉、合金粉、ハンダ等の低融点金属粉が例示できる。また、核体の表面を被覆した被覆層を有する複合微粒子も好適である。例えば、銀メッキされた銅粉、金属メッキされたガラス繊維やカーボンフィラーなどが挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性ポリマーの微粒子を用いてもよい。これらの中でも、導電率の高い銀粉、銀メッキされた銅粉や、ハンダ等の低融点金属粉が好ましい。導電性フィラーは、単独または二種類以上併用できる。
【0050】
導電性フィラー(a-2)の形状は、接合層(A’)において所望の導電性が得られればよく形状は限定されない。例えば、球状、フレーク状(後述する葉状粒子も含む)、デンドライト状、プレート状、針状、棒状、ブドウ状が挙げられる。異なる形状の導電性フィラー(a-2)二種類以上を混合してもよい。異方導電性を発現させるためには、球状、デンドライト状とすることが好ましい。また、アウトガス透過性を良好にする観点からは、フレーク状粒子よりもデンドライト状粒子および球状粒子が好適である。導電性フィラー(a-2)としてデンドライト状粒子を用いると、導電性フィラー同士の接点が多くなり、本シートをFPC等に接合したときのグランド接続性をより高めることができる。詳細は後述する。
【0051】
導電性フィラー(a-2)の平均粒子径は、導電性を充分に確保する観点から、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、7μm以上が更に好ましい。一方、接着剤層(A)の薄さと導電性を両立させる観点からは、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下が更に好ましい。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置等により求めることができる。なお、平均粒子径はD50平均粒子径であり、D50平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LS13320(ベックマン・コールター社製)を使用し、トルネードドライパウダーサンプルモジュールにて、導電性フィラー(a-2)を測定して得た数値であり、粒子径累積分布における累積値が50%の粒子径である。また、屈折率の設定は1.6とした。
【0052】
導電性フィラー(a-2)の含有量は適宜設計し得るが、接着剤層(A)100質量%に対して45質量%以下であることが好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。45質量%以下とすることでアウトガス透過性および伝送特性を向上させることができる。また、15質量%以上とすることにより、本シートをFPC等の配線回路基板に接合したときのグランド接続性をより高めることができる。詳細は後述する。
【0053】
(その他の成分)
接着剤層(A)の形成に用いる接着剤組成物には、適宜、溶剤を用いることができる。また、上記成分の他、所望の物性向上や機能付与を目的として、任意成分としてシランカップリング剤、硬化助剤、防錆剤、還元剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング調整剤、充填剤、難燃剤などを配合できる。
【0054】
[シールド層(B)]
シールド層(B)は、外部からの磁場や電波による誤動作を防止する役割、または/および電気信号からの不要輻射を低減する役割を担う。シールド層(B)は、前述したように、接着剤層(A)の上に積層されている金属層(C)と、バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有し、金属層(C)の上に積層されている導電性フィラー高充填層(D)とを有する。シールド層(B)は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、金属層(C)および導電性フィラー高充填層(D)以外の層が積層されていてもよい。なお、本明細書では被着体への接合前の本シート、および被着体への接合後の本シートいずれもシールド層(B)という。金属層(C)および導電性フィラー高充填層(D)も同様とする。
【0055】
<金属層(C)>
金属層(C)は、シールド層(B)の一部として機能する。金属層(C)を構成する金属種は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で限定されないが、一例として、金、白金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、スズ、パラジウム、クロム、チタン、亜鉛、マンガン、インジウムが例示できる。単一の導電性金属を用いても、複数の金属の合金を用いてもよい。より優れたシールド特性を得る観点からは、金、白金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、錫、パラジウム、クロム、チタン、亜鉛から選択される金属を95質量%以上含むことが好ましい。これらのうちでも、薄層でより優れたシールド特性を得る観点からは、金、白金、銀、銅を含むことが好ましく、銀、銅が特に好ましい。
【0056】
高周波シールド性およびコストの面から銅、銀、アルミニウムがより好ましく、銅が更に好ましい。銅の好適例として、圧延銅箔、電解銅箔、蒸着膜、スパッタ膜が挙げられる。電解銅箔を使用すると金属層(C)をより薄くできるためより好ましい。金属層(C)は単層であっても複層であってもよい。
【0057】
金属層(C)の厚みは用途に応じて適宜設計することができるが、シールド特性および伝送特性を満足しつつ、易変形性およびガス透過性を優れたものとする観点からは0.05~2μmが好ましく、0.1~1.5μmがより好ましく、0.2~1μmが更に好ましい。金属層(C)の厚みを0.05~2μmにすることにより、金属層(C)の形成時に細孔形成工程を別途設けずに微小細孔を容易に形成することができる。前記微小細孔は、電磁波ノイズ漏れを顕著に低減し、ガス透過性を発現するという利点を有する。特に真空蒸着により得られる金属層(C)は、微小細孔を容易に形成できるので、ガス透過性を良好にすることができる。
【0058】
金属層(C)の表面粗さは適宜設計することができるが、高周波帯域における伝送特性を良好に保つ観点からは、接着剤層(A)と接する金属層(C)の界面の表面粗さはISO 25178-2:2012に準拠して求めた下記式により求まる二乗平均平方根傾斜Sdqを0.0001~0.5とすることが好ましい。
【数2】
数式(2)中のAは定義表面の面積、∂xはx軸方向、∂yはy軸方向、∂z(x,y)はz軸方向の微小変位を表す。
二乗平均平方根傾斜Sdqは、光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、および電子顕微鏡いずれかで得られる表面形状の座標データを、解析ソフトによって処理することにより算出することができる。二乗平均平方根傾斜Sdqは、定義表面の全点における傾斜の二乗平均平方根を表しており、定義表面における凹凸の険しさを表現するパラメータである。
【0059】
被着体に接合して得られた本シートは、FPC等の信号が高周波帯域になると、電流の性質上、電流がシールド層(B)表面を流れるようになる。このため、プリント配線板中の信号配線における伝送特性は、近傍の導電体を流れる電流の影響を受ける。このため、信号配線と近接する金属層(C)の表面の凹凸が険しいと、表面を流れる電流との距離が変動し、伝送特性が不安定となる。接着剤層(A)側の金属層(C)の表面の二乗平均平方根傾斜Sdqを上記範囲とすることにより、より優れた伝送特性を得ることができる。伝送特性の観点からは、金属層(C)の接着剤層(A)側の表面の二乗平均平方根傾斜Sdqは0.4以下であることがより好ましく、0.3以下であることが更に好ましい。
【0060】
なお、この金属層(C)の二乗平均平方根傾斜Sdqの値は、被着体への熱プレス等による接合前後によっても基本的に変化しない。そのため、被着体に接合した後の接合層(A’)と接する金属層(C)の界面の二乗平均平方根傾斜Sdqの好適範囲も0.0001~0.5となる。
【0061】
金属層(C)は、厚み方向に貫通する細孔を複数有していてもよい。細孔を有することでハンダリフロー耐性およびガス透過性を顕著に向上させることができる。細孔の開口率は、ハンダリフロー耐性と高周波シールド性を高い水準で両立する観点から0.10~20%とすることが好適である。
【0062】
<導電性フィラー高充填層(D)>
導電性フィラー高充填層(D)は、シールド層(B)の一部として機能する層であり、バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有する層である。導電性フィラー(d-2)の含有率は、導電性フィラー高充填層(D)100質量%に対して75~95質量%とする。この範囲とすることにより、シールド特性を良好に保ちつつ、応力緩和効果を効果的に引き出すことができる。より好適な範囲は80~92.5質量%であり、更に好適な範囲は85~90質量%である。
【0063】
導電性フィラー高充填層(D)の膜厚は特に限定されないが、薄膜化の観点からは2~8μmが好適である。以下、各成分について詳述する。
【0064】
(バインダー成分(d-1))
バインダー成分(d-1)は樹脂を含む。樹脂の好適例として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が例示できる。熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂単独で硬化する自己架橋型の樹脂でもよいが、硬化剤と組合せて用いることが好ましい。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および硬化剤のそれぞれの好適例は、バインダー成分(a-1)で例示した化合物が挙げられる。熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂はいずれか単独または両者を併用して用いられる。
【0065】
FPC等の配線回路基板を伝送する高周波信号の伝送損失を低減するために、本シートの導電性フィラー高充填層(D)のバインダー成分(d-1)として、このバインダー成分(d-1)を170℃×30分の条件で押圧処理した押圧処理物(d’-1)の23℃、周波数28GHzにおける比誘電率が1.0~3.5であり、且つ誘電正接が0.0001~0.02であることが好ましい。前記比誘電率のより好適な上限値は3.0であり、更に好適な上限値は2.5である。また、前記誘電正接のより好適な上限値は0.01であり、更に好適な上限値は0.005である。なお、バインダー成分(d-1)として熱硬化性樹脂を含む場合には、押圧処理物(d’-1)は硬化層となる。
【0066】
バインダー成分(d-1)を170℃30分の条件で押圧処理したシート状押圧処理物(d’-1)の0~300℃の範囲における損失正接ピークは、0.1以上であることが打ち抜き加工性向上の観点から好ましい。0~300℃の範囲における損失正接ピークが0.1以上であることで、打ち抜き加工時の応力を充分吸収、緩和することができるため打ち抜き加工性が向上できる。シート状押圧処理物(d’-1)の0~300℃の範囲における損失正接ピークは、0.3以上であることがより好ましい。
【0067】
バインダー成分(d-1)を170℃30分の条件で押圧処理したシート状押圧処理物(d’-1)のゴム状平坦域E’rubは、1.0×104~1.0×108Paの範囲内であることが易変形性向上の観点から好ましい。シート状押圧処理物(d’-1)のゴム状平坦域E’rubが前記範囲にあることで、導電性フィラー高充填層(D)に優れた機械強度を付与することができ、本シートを変形させた際の破損を抑制することができる。シート状押圧処理物(d’-1)のゴム状平坦域E’rubは、1.0×105~1.0×108Paであることがより好ましい。
【0068】
本明細書において、シート状押圧処理物(d’-1)のゴム状平坦域E’rubは、150~200℃におけるシート状押圧処理物(d’-1)の貯蔵弾性率平均値と定義される。各温度におけるシート状押圧処理物(d’-1)の貯蔵弾性率は動的粘弾性測定装置などを用いて求めることができる。
【0069】
前記特定範囲の比誘電率および誘電正接となる導電性フィラー高充填層(D)は、前記特定範囲の比誘電率および誘電正接となる接着剤層(A)を用いる場合に比べて、FPC等の配線回路基板の信号配線からの距離が遠い位置に配置されるので効果は小さくはなるものの、伝送損失低減の効果が得られる。伝送損失低減のより効果的な低減の観点からは、バインダー成分(a-1)とバインダー成分(d-1)の押圧処理物(a’-1)と(d’-1)それぞれの23℃、周波数28GHzにおける比誘電率を1.0~3.5、誘電正接を0.0001~0.02とすることがより好ましい。
【0070】
硬化剤の熱硬化性樹脂100質量部に対する好適な含有量は適宜設計可能であるが、1~50質量部含むことが好ましい。この範囲とすることにより、架橋密度を適切にし、吸湿性や接着性を良好に保つことができる。また、硬化物の弾性率を適切に保ち、耐折性を良好にすることができる。硬化剤は、熱硬化性樹脂100質量部に対して3~40質量部含むことがより好ましく、3~30質量部含むことがさらに好ましい。
【0071】
本シートをFPC等の配線回路基板と接合する場合には、ハンダリフロー炉等の加熱に耐え得る耐熱性が求められる。かかる場合には、バインダー成分(d-1)に熱硬化性樹脂と硬化剤を含め、本シートを被着体に接合した後の導電性フィラー高充填層(D)を硬化層とすることが好ましい。
【0072】
(導電性フィラー(d-2))
導電性フィラー(d-2)は、シールド特性を良好に保つ観点から金属粒子が好適である。また、金属や樹脂を核体とし、核体の表面を金属により被覆した被覆層を有する複合微粒子を用いてもよい。
【0073】
金属粒子の具体例としては、金、白金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、スズ、パラジウム、クロム、チタン、亜鉛、マンガン、インジウムが例示できる。これらのうちでも、シールド特性を良好に保つ観点からは、金、白金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、錫、パラジウム、クロム、チタン、亜鉛から選択される金属が好適である。金属粒子は、一種単独でも複数種を混合してもよく、また、合金でもよい。また、金属層(C)で用いる金属種と同一でも異なっていてもよい。
【0074】
導電性フィラー(d-2)の形状は、導電性フィラー高充填層(D)においてシールド特性等の電磁波シールド特性および易変形性が得られればよく形状は限定されない。例えば、球状、フレーク状、デンドライト状、プレート状、針状、棒状、ブドウ状が挙げられる。異なる形状の導電性フィラー(a-2)二種類以上を混合してもよい。好適な例として、フレーク状粒子が挙げられる。フレーク状粒子には、外縁部に切れ込みが複数ある葉状粒子(例えば、デンドライト状粒子を扁平化させた粒子)も含むものとする。フレーク状粒子のアスペクト比は限定されないが、アスペクト比([平均長径(μm)]/[平均厚さ(μm)])が1.1~500の範囲にあることが好ましい。
【0075】
(その他の成分)
導電性フィラー高充填層(D)の形成に用いる導電性フィラー含有組成物には、適宜、溶剤を用いることができる。また、上記成分の他、所望の物性向上や機能付与を目的として、任意成分としてシランカップリング剤、硬化助剤、防錆剤、還元剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング調整剤、充填剤、難燃剤などを配合できる。
【0076】
[保護層(E)]
本シートは、シールド層(B)上に更に保護層(E)を積層してもよい。保護層(E)は、シールド層(B)や接着剤層(A)を保護する機能、およびシールド層(B)が外部導体と電気的に接続することを防止する機能を有する。
【0077】
保護層(E)は樹脂組成物を使用して形成できる。樹脂組成物は、樹脂を含有するバインダー成分(e-1)を含む。樹脂の好適例として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が例示できる。熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂単独で硬化する自己架橋型の樹脂でもよいが、硬化剤と組合せて用いることが好ましい。熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂はいずれか単独または両者を併用して用いられる。なお、本明細書では被着体への接合前後いずれにおいても保護層(E)という。
【0078】
保護層(E)のバインダー成分(e-1)を170℃30分の条件で押圧処理したシート状押圧処理物(e’-1)の破断強度は、打抜き加工性向上の観点から15MPa以上とすることが好ましい。より好ましくは17MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であることが更に好ましい。破断強度の上限値は限定されないが、通常、50MPa以下である。
【0079】
保護層(E)のバインダー成分(e-1)を170℃30分の条件で押圧処理したシート状押圧処理物(e’-1)の破断伸度は、打抜き加工性の観点から80%以上とすることが好ましい。より好ましくは150%以上であることが好ましく、200%以上であることが更に好ましい。破断伸度の上限値は限定されないが、通常、5000%以下である。
【0080】
保護層(E)のバインダー成分(e-1)を170℃30分の条件で押圧処理したシート状押圧処理物(e’-1)の0~300℃の範囲における損失正接ピークは、0.1以上であることが打ち抜き加工性向上の観点から好ましい。0~300℃の範囲における損失正接ピークが0.1以上であることで、打ち抜き加工時の応力を充分吸収、緩和することができるため打ち抜き加工性が向上できる。シート状押圧処理物(e’-1)の0~300℃の範囲における損失正接ピークは、0.3以上であることがより好ましい。
【0081】
シート状押圧処理物(e’-1)の損失正接は、下記数式(3)によって求めることができ、0~300℃の範囲で各温度での損失正接をプロットし、極大点における損失正接の値をピークとする。シート状押圧処理物(e’-1)の損失弾性率と貯蔵弾性率は動的粘弾性測定によって求めることができる。
数式(3):
(シート状押圧処理物(e’-1)の損失正接)=
(シート状押圧処理物(e’-1)の損失弾性率)/(シート状押圧処理物(e’-1)の貯蔵弾性率)
【0082】
硬化剤の含有量は適宜設計可能であるが、熱硬化性樹脂100質量部に対して1~50質量部含むことが好ましい。この範囲とすることにより、架橋密度を適切にし、吸湿性や接着性を良好に保つことができる。また、硬化物の弾性率を適切に保ち、打抜き加工性を良好にすることができる。硬化剤は、熱硬化性樹脂100質量部に対して3~40質量部含むことがより好ましく、3~30質量部含むことがさらに好ましい。
【0083】
本シートをFPC等の部品と接合する場合には、ハンダリフロー炉等の加熱に耐え得る耐熱性が求められる。かかる場合には、バインダー成分(e-1)に熱硬化性樹脂と硬化剤を含め、本シートを被着体に接合した後の保護層(E)を硬化層とすることが好ましい。
【0084】
(その他の任意成分)
保護層(E)は、適宜、溶剤を用いることができる。また、任意成分として非導電性粒子を含んでいてもよい。非導電性粒子は保護層(E)の絶縁性を向上させるとともに、熱プレス時に本シートをFPC等の被着体への押し込み力を高め、グランド配線との接続性を高める機能を有する。また、放熱性を高めるために熱伝導性粒子などを用いてもよい。
【0085】
非導電性粒子としては、非導電性のセラミック、顔料、染料等が挙げられ、硬度が高く、熱プレス時に受ける圧力を緩和することなく金属層に伝えることができる点から、セラミックが好ましい。非導電性粒子のなかでも、体積抵抗率1.0×1010Ω・cm以上の非導電性粒子であることが好ましい。非導電性粒子が、体積抵抗率1.0×1010Ω・cm以上であることで、保護層(E)の絶縁性をより向上できる。非導電性粒子に含まれる物質の体積抵抗率は、1.0×1012Ω・cm以上であることがより好ましく、1.0×1014Ω・cm以上であることが更に好ましい。体積抵抗率1.0×1010Ω・cm以上の物質としては、酸化アルミニウムまたは三酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、二酸化ケイ素(シリカ)、炭化ホウ素、窒化アルミ、窒化ホウ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化チタン、等のセラミックが挙げられ、その中でも、より好ましい物質は二酸化ジルコニウム(ZrO2;体積抵抗率1.0×1012Ω・cm)であり、更に好ましい物質はシリカ(SiO2;体積抵抗率1.0×1014Ω・cm)である。非導電性粒子に含まれる物質の体積抵抗率はJIS C2141に準拠して測定できる。非導電性粒子の形状は限定されないが、例えば、塊状、不定形状、略球状、球状、真球状が例示できる。
【0086】
保護層(E)としての機能を妨げない範囲で、保護層(E)を着色するために顔料を添加してもよい。顔料として、カーボンブラック、カーボングラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェンが例示できる。保護層(E)の他に任意成分として、シランカップリング剤、防錆剤、還元剤、酸化防止剤、粘着付与樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング調整剤、充填剤、難燃剤などを配合できる。
【0087】
保護層(E)の厚みは、2~20μmであることが好ましい。保護層(E)の厚みが2~20μmであることで、洗浄薬品曝露後の保護層(E)溶解や金属層からの剥離を抑制することができる。
【0088】
(その他の任意の層)
本シートは、更に、他の機能層を備えていてもよい。他の機能層として、ハードコート性、水蒸気バリア性、酸素バリア性、熱伝導性、低誘電率、高誘電率性または耐熱性等の機能を有する層が例示できる。
【0089】
なお、本シートは、異物の付着を防止するために接着剤層(A)および保護層(E)の両主面に剥離性シートを貼り付けた状態で保存することが一般的である。剥離性シートは、紙やプラスチック等の基材に公知の剥離処理を行ったシートである。
【0090】
[[電磁波シールドシートの製造方法]]
以下、本シートの製造方法の一例について説明する。但し、本発明の製造方法は以下の製造方法に限定されるものではない。本シートは、接着剤層(A)を形成する工程と、シールド層(B)の一部として機能する金属層(C)を形成する工程と、バインダー成分(d-1)と導電性フィラー(d-2)を含有する導電性フィラー含有組成物を塗工して、シールド層(B)の一部として機能する導電性フィラー高充填層(D)を形成する工程とを有する。導電性フィラー高充填層(D)100質量%に対し、導電性フィラー(d-2)の含有率が75~95質量%とする。
【0091】
本シートの積層順が、接着剤層(A)/金属層(C)/導電性フィラー高充填層(D)の順となるようにする。各層の工程順は任意である。各層の積層方法は公知の方法により任意に行うことができる。例えば、保護層(E)上に導電性フィラー高充填層(D)を形成し、導電性フィラー高充填層(D)上に金属層(C)を形成したものと、剥離性シート上に接着剤層(A)を形成したものを用意し、これらを接着剤層(A)/金属層(C)/導電性フィラー高充填層(D)/保護層(E)の順になるようにラミネートすることにより形成することができる。
【0092】
(接着剤層(A)の形成工程)
接着剤層(A)の形成に用いる接着剤組成物を調製する。具体的には、配合成分を混合し、攪拌することにより接着剤組成物を得ることができる。攪拌は、ディスパーマット、ホモジナイザー等の公知の攪拌装置を使用できる。接着剤組成物を調製した後、公知の方法により接着剤層(A)を形成する。例えば、接着剤組成物を剥離性シート上に塗工して乾燥することで接着剤層(A)を形成できる。塗工方法は、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレード方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式が例示できる。乾燥工程は、熱風乾燥機、赤外線ヒーター等の公知の乾燥装置を使用できる。また、Tダイのような押出成形機を用いてシート状の接着剤層(A)を形成してもよい。
【0093】
(金属層(C)の形成工程)
金属層(C)は、例えば、金属箔、金属蒸着膜、金属メッキ膜等を使用できる。また、真空蒸着、スパッタリング、CVD法、MO(メタルオーガニック)により金属層(C)を形成できる。一種または二種以上の導電性フィラーを集積させることにより金属層(C)を形成してもよい。導電性フィラーの好適例として、フレーク状粒子、デンドライト状粒子、球状粒子が挙げられる。導電性フィラーは一種単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。金属層(C)は、導電性フィラー高充填層(D)上に形成する方法が例示できる。
【0094】
金属層(C)表面の二乗平均平方根傾斜Sdqを制御する方法は、公知の方法を適用できる。例えば、特開第2017-13473号公報に記載されているバフを用いて金属表面を研磨する方法、研磨布紙を用いて金属表面を研磨する方法、所定の二乗平均平方根傾斜Sdqを有するキャリア材の上に金属層(C)を形成し、キャリア材表面の凹凸を金属層(C)に転写する方法、所定の二乗平均平方根傾斜Sdqを有するフィルムと金属層(C)とを圧着し、フィルム表面の凹凸を金属層(C)に転写する方法が挙げられる。
【0095】
金属層(C)の膜厚を例えば0.05~2μm程度にすることにより、細孔形成工程を別途設けずにガス透過性を有する微小細孔を金属層(C)形成と同時に容易に形成できるが、細孔形成工程を別途設けてもよい。細孔形成方法は、従来公知の方法を適用できる。一例として、金属層(C)上にパターンレジスト層を形成し、所望の位置に細孔を形成する方法、所定のパターンでアンカー剤をスクリーン印刷しアンカー剤印刷面に金属メッキする方法、および特開2015-63730号公報に記載されている方法が挙げられる。
【0096】
(導電性フィラー高充填層(D)の形成工程)
導電性フィラー高充填層(D)の形成に用いる導電性フィラー含有組成物を調製する。具体的には、配合成分を所定量混合し、攪拌することにより導電性フィラー含有組成物を得ることができる。攪拌は、例えば、接着剤層(A)と同様の撹拌装置により行うことができる。導電性フィラー含有組成物を調製した後、公知の方法により導電性フィラー高充填層(D)を形成する。例えば、導電性フィラー含有組成物を剥離性シート上に塗工して乾燥することで導電性フィラー高充填層(D)を形成できる。また、保護層(E)上に塗工して乾燥することで導電性フィラー高充填層(D)を形成してもよい。塗工方法・乾燥方法の好適例として、接着剤層(A)で説明した塗工例が例示できる。
【0097】
(保護層(E)の形成工程)
保護層(E)の形成に用いる樹脂組成物を調製する。具体的には、配合成分を混合し、撹拌することにより樹脂組成物を得ることができる。攪拌は、例えば、接着剤層(A)と同様の撹拌装置により行うことができる。樹脂組成物を調製した後、公知の方法により保護層(E)を形成する。例えば、樹脂組成物を剥離性シート上に塗工して乾燥することで保護層(E)を形成できる。塗工方法・乾燥方法の好適例として、接着剤層(A)で説明した塗工例が例示できる。また、Tダイのような押出成形機を使用して樹脂組成物をシート状に押し出すことで形成することもできる。また、保護層(E)は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の絶縁性樹脂を成形したフィルムを使用することもできる。
【0098】
[[シールド性配線基板]]
本発明の実施形態に係るシールド性配線基板の要部の一例を
図2に示す。
図2に示すように、シールド性配線基板20は、配線回路基板10と電磁波シールドシート2を備える。配線回路基板10は、絶縁性基材11と、この絶縁性基材11上に形成された回路パターン12と、絶縁性基材11および回路パターン12上に形成されたカバーコート層13とを備える。電磁波シールドシート2は、絶縁性基材11に本シートの接着剤層(A)を用いて接合されている。
【0099】
電磁波シールドシート2は配線回路基板10に貼付されていればよく接合領域は適宜設計可能であるが、
図2の例では、カバーコート層13上に本シートの接着剤層(A)を用いて接合されている。
図2の例では、電磁波シールドシート2は接合層(A’)/金属層(C)/導電性フィラー高充填層(D)/保護層(E)の4層構造からなる。接合方法は任意であるが、通常、熱圧着により接合する。熱圧着により、カバーコート層13に設けられたビア14内部に接着剤層(A)の一部が充填され、グランド配線12bの露出面と接着される。
【0100】
絶縁性基材11は、回路パターン12の支持体としての機能を有する。絶縁性基材11は特に限定されない。屈曲性が要求される場合の好適な樹脂の例としてポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドが例示できる。高周波の信号を伝送する配線回路基板の用途を考慮すると、比誘電率および誘電正接が低い樹脂が好ましく、好適な樹脂の例として挙げたもののなかでも、液晶ポリマーに分類されるものがさらに好ましい。液晶ポリマーとは、加熱溶融時に液晶性を示す高分子を指す。リジッド性が要求される絶縁性基材の場合には、耐熱性に優れるガラスエポキシが好適である。
【0101】
回路パターン12は、信号配線12aおよびグランド配線12bを有する。回路パターン12は、例えば数μm~数十μm厚の銅層により形成されている。信号配線12aは、例えば、一本の信号配線からなるシングルエンド伝送線、2本の信号配線からなる差動伝送線に適用できる。差動伝送線では2本の信号配線を用い、互いに逆位相の電流を流し、信号配線間の電位差を読み取ることから信号配線に付加される電磁波ノイズの影響が低減でき、本発明の電磁波シールドシートと組み合わせることで一層安定な信号伝送を実現できるため、信号配線12aには差動伝送線を用いることが好ましい。
【0102】
カバーコート層13は、シールド性配線基板20の回路パターン12を覆い外部環境から保護する絶縁材料である。カバーコート層13は公知の絶縁性材料を適宜選定できる。ポリイミド等の耐熱性と柔軟性を備えた樹脂が好適である。好適例として、熱硬化性接着剤付きポリイミドフィルム、熱硬化型もしくは紫外線硬化型のソルダーレジスト、感光性カバーレイフィルムが挙げられる。カバーコート層13の厚みは通常10~100μm程度である。ビア14の開口面積は特に限定されないが、シールド性配線基板20の小型化の観点からは0.8mm2以下が好ましい。下限は特に限定されないが、例えば0.008mm2以上である。
【0103】
本シートの配線回路基板10への本シートの接合は、例えば、温度150~190℃程度、圧力1~3MPa程度、時間1~60分程度の条件で熱プレスする方法が一般的である。熱プレスにより接着剤層(A)とカバーコート層13が密着するとともに、接着剤層(A)が流動してカバーコート層13に形成されたビア14内に充填された接合層(A’)が得られる。接合層(A’)が導電性を示す場合には、グランド配線12bと電磁波シールドシート2とが電気的に導通する。接着剤層(A)、導電性フィラー高充填層(D)および保護層(E)のいずれか若しくは全てにおいて、バインダー成分に熱硬化性樹脂を含む場合には、熱プレス処理または/および硬化処理により、該当する層が硬化層となる。前記硬化処理は、熱プレス後に150~190℃程度で30~90分間ポストキュアを行う方法が例示できる。
【0104】
電磁波の漏れをより効果的に抑制するために、配線回路基板10の両面に電磁波シールドシート2を設けてもよい。シールド性配線基板20において、電磁波シールドシート2は電磁波を遮蔽する機能の他に、グランド回路として利用することができる。電磁波シールドシート2をグランド回路として利用することにより、配線回路基板10のグランド回路領域の面積を縮小することが可能となり、小型化およびコストダウンを達成できる。
【実施例】
【0105】
本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」および「%」は、「質量部」および「質量%」をそれぞれ表し、Mwは重量平均分子量を意味する。表中の配合量は、質量部である。また、樹脂の酸価と重量平均分子量(Mw)とガラス転移温度(Tg)、および導電性フィラーの平均粒子径の測定は次の方法で行なった。
【0106】
《バインダー成分の樹脂の酸価の測定》
酸価はJIS K0070に準じて測定した。共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、テトラヒドロフラン/エタノール(容量比:テトラヒドロフラン/エタノール=2/1)混合液100mLを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、指示薬が淡紅色を30秒間保持した時を終点とした。酸価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0107】
《バインダー成分の樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定》
Mwの測定はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)「HPC-8020」(東ソー社製)により行った。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフである。本測定は、カラムに「LF-604」(昭和電工社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6mL/min、カラム温度40℃の条件で行った。Mwの決定はポリスチレン換算で行った。
【0108】
《バインダー成分の樹脂のガラス転移温度(Tg)》
Tgの測定は、示差走査熱量測定「DSC-1」(メトラー・トレド社製)によって測定した。
【0109】
《導電性フィラーのD50平均粒子径測定》
D50平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LS13320(ベックマン・コールター社製)を使用した。トルネードドライパウダーサンプルモジュールにて、導電性フィラーを測定して得た数値であり、粒子径累積分布における累積値が50%の粒子径である。なお、屈折率の設定は1.6とした。
【0110】
《原料》
実施例および比較例に用いた原料を以下に示す。表1~3中の導電性フィラー(a-2)中の1~3のフィラーおよび導電性フィラー(d-2)中の1~3のフィラーは、それぞれ以下の導電性フィラー1~3に対応する。他の樹脂、硬化剤も同様である。
・導電性フィラー1:複合微粒子(核体の銅100部に対して銀が10部被覆されたデンドライト状の微粒子)平均粒径D50:11.0μm(福田金属箔粉工業社製)
・導電性フィラー2:複合微粒子(核体の銅100部に対して銀が10部被覆された球状の微粒子)平均粒径D50:10.0μm(福田金属箔粉工業社製)
・導電性フィラー3:複合微粒子(核体の銅100部に対して銀が10部被覆されたフレーク状の微粒子)平均粒径D50:17.0μm(福田金属箔粉工業社製)
・樹脂1:酸価6mgKOH/g、Mw54,000、Tg7℃のポリイミド樹脂(トーヨーケム社製)
・樹脂2:酸価5mgKOH/g、Mw61,000、Tg-5℃のポリウレタン樹脂(トーヨーケム社製)
・樹脂3:酸価10mgKOH/g、Mw47,000、Tg12℃のポリエステル樹脂(トーヨーケム社製)
・硬化剤1:エポキシ化合物、「JER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量=189g/eq、三菱ケミカル社製)
【0111】
[実施例1]
《接着剤層(A)の作製》
固形分換算で樹脂1を100部、導電性フィラー1を39部、硬化剤1(エポキシ化合物)を15部容器に仕込み、不揮発分濃度が40%になるように混合溶剤(トルエン:イソプロピルアルコール=2:1(質量比))を加えディスパーで10分攪拌して接着剤組成物を得た。
得られた接着剤組成物をバーコーターで乾燥厚みが10μmになるように剥離性シート上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで接着剤層(A)を得た。乾燥厚みはABSデジマチックインジケータID-CX(ミツトヨ社製)にて測定した。
【0112】
《導電性フィラー高充填層(D)の作製》
固形分換算で樹脂1を100部、導電性フィラー3を1035部、硬化剤1(エポキシ化合物)を15部容器に仕込み、不揮発分濃度が40%になるように混合溶剤(トルエン:イソプロピルアルコール=2:1(質量比))を加えディスパーで10分攪拌して導電性フィラー含有組成物を得た。
得られた導電性フィラー含有組成物をバーコーターで乾燥厚みが10μmになるように剥離性シート上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで導電性フィラー高充填層(D)を得た。導電性フィラー高充填層(D)の乾燥厚みは接着剤層(A)と同様の方法により測定した。
【0113】
《金属層(C)およびシールド層(B)の作製》
剥離性シート付きの導電性フィラー高充填層(D)の導電性フィラー高充填層(D)露出面に、真空銅蒸着を施して金属層(C)を形成することにより、剥離性シート付きシールド層(B)を得た。金属層(C)の接着剤層(A)側の表面粗さ(Sdq)は、以下の方法により測定した。即ち、露出した金属層(C)の表面をレーザーマイクロスコープ(キーエンス社製、VK-X100)を使用し、測定データ取得を行った。取得した測定データを解析ソフトウェア(ISO 25178表面性状計測モジュール「VK-H1XR」を備えた、解析アプリケーション「VK-H1XA」、ともにキーエンス社製)に取り込み、ISO25178表面性状計測を実行した(条件は、S‐フィルター;1μm、L‐フィルター;0.2mm)。なお、表面に開口部を有する金属層(C)については、ISO 25178表面性状計測を実行する際には、開口部は計測範囲から除外した。
【0114】
《保護層(E)の作製》
固形分換算で樹脂1を100部、硬化剤1(エポキシ化合物)15部を加えディスパーで10分攪拌することで樹脂組成物を得た。剥離性シート付きシールド層(B)から剥離性シートを除去し、導電性フィラー高充填層(D)の露出面に、バーコーターを使用して得られた樹脂組成物を乾燥厚みが5μmになるように塗工した。そして、100℃の電気オーブンで2分間乾燥して保護層(E)を得た。次いで、保護層(E)に微粘着剥離性シートを貼り合わせ、実施例1の電磁波シールドシートを得た。乾燥厚みは接着剤層(A)と同様の方法により測定した。
【0115】
[実施例2~30、比較例1~5]
表1~3に示すように、接着剤層(A)、金属層(C)、導電性フィラー高充填層(D)および保護層(E)の種類を変更した以外は、実施例1と同様に行うことで、実施例2~30、比較例1~5の電磁波シールドシートをそれぞれ得た。なお、導電性フィラー含有率は、各層100質量%中の含有率である。
【0116】
[比較例6]
表3に示す成分を用い、更に、接着剤層(A)、導電性フィラー高充填層(D)、金属層(C)および保護層(E)の順に積層した以外は、実施例1と同様の方法により、比較例6に係る電磁波シールドシートを得た。
【0117】
《熱プレス後の金属層(C)厚みの測定》
金属層(C)の厚みは、以下の方法により測定した。
電磁波シールドシートの接着剤層(A)側の剥離性シートを剥がし、露出した接着剤層(A)とポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン200EN」)を貼り合せ、2MPa、170℃の条件で30分熱プレスした。これを幅5mm、長さ5mm程度の大きさに切断した後、エポキシ樹脂(ペトロポキシ154、マルトー社製)をスライドガラス状に0.05g滴下し、電磁波シールドシートを接着させ、スライドガラス/電磁波シールドシート/ポリイミドフィルムの構成の積層体を得た。得られた積層体をクロスセクションポリッシャー(日本電子社製、SM-09010)を用いてポリイミドフィルム側からイオンビーム照射により切断加工して、熱プレス後の電磁波シールドシートの測定試料を得た。
【0118】
得られた測定試料の断面をレーザーマイクロスコープ(キーエンス社製、VK-X100)を使用し、観察した拡大画像から熱プレス後の金属層(C)の厚みを測定した。倍率は、500~2000倍とした。得られた電磁波シールドシートを用いて、下記評価を行った。結果を表4、5に示す。
【0119】
《押圧処理物(a’-1)の比誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)》
混合溶剤(トルエン:イソプロピルアルコール=2:1(質量比))に、各実施例および比較例における接着剤層(A)のバインダー成分(a-1)に含有される樹脂および硬化剤を加え、ディスパーで10分攪拌することでバインダー組成物(バインダー成分(a-1))を得た。次いで、バインダー組成物を乾燥厚み25μmになるように剥離性シートに塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥して、剥離性シート付きバインダーシートを得た。そして、得られた剥離性シート付きバインダーシートから剥離性シートを剥離し、真空熱ラミネーターを用いて4枚積層し、170℃、30minで加熱処理し、50mm四方に切り出し、厚み100μmの試験片を得た。この試験片を23℃相対湿度50%の雰囲気下で24時間以上保管し、エー・イー・ティー社製の誘電率測定装置を用い、空洞共振器法により測定温度23℃、測定周波数28GHzにおける比誘電率および誘電正接を求めた。なお、押圧処理物(d’-1)の比誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)の値も同様の方法により求めることができる。
【0120】
《シート状押圧処理物(d’-1)のゴム状平坦域E’rub、損失正接、およびシート状押圧処理物(e’-1)の損失正接》
混合溶剤(トルエン:イソプロピルアルコール=2:1(質量比))に、各実施例および比較例における導電性フィラー高充填層(D)のバインダー成分(d-1)に含有される樹脂および硬化剤を加え、ディスパーで10分攪拌することでバインダー成分(d-1)をそれぞれ得た。得られたバインダー成分(d-1)を、バーコーターを用いて乾燥厚みが30μmになるように剥離性シートに塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥し、170℃、30min、2MPaで押圧処理し、その後、剥離性シートを剥がすことにより、破断強度および破断伸度測定用のシート状押圧処理物(d’-1)を得た。このシート状押圧処理物(d’-1)の中心部分を幅5mm・長さ30mmに切出し、試料とした。この試料を、動的粘弾性測定装置(動的粘弾性測定装置DVA-200、アイティー計測制御社製)にセットし、測定温度領域:-30~300℃、昇温速度:10℃/分、測定周波数:1Hz、歪:0.08%の条件にて動的粘弾性測定を行い、各温度での損失弾性率E’’、貯蔵弾性率E’を読み取った。得られた貯蔵弾性率のうち、150~200℃の範囲にあるものから平均値を算出し、ゴム状平坦域E’rubとした。また、損失弾性率E’’を貯蔵弾性率E’で除することで各温度の損失正接を算出し、損失正接曲線を作成した。得られた損失正接曲線の極大点を損失正接ピークとした。
保護層(E)のバインダー成分(e-1)のシート状押圧処理物(e´-1)の損失正接ピークについても同様の方法により求めた。
【0121】
《押圧処理物(e´-1)の破断強度、破断伸度》
混合溶剤(トルエン:イソプロピルアルコール=2:1(質量比))に、各実施例および比較例における保護層(E)のバインダー成分(e-1)に含有される樹脂および硬化剤を加え、ディスパーで10分攪拌することでバインダー成分(e-1)を得た。得られたバインダー成分(e-1)を、バーコーターを用いて乾燥厚みが30μmになるように剥離性シートに塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥し、170℃、30min、2MPaで押圧処理し、その後、剥離性シートを剥がすことにより、破断強度および破断伸度測定用のシート状押圧処理物(e´-1)を得た。このシート状押圧処理物(e´-1)を幅20mm×長さ60mmの大きさに切断して測定試料とした。測定試料について、小型卓上試験機EZ-TEST(島津製作所社製)を用いて温度25℃、相対湿度50%の条件下で、引っ張り試験(試験速度50mm/min)を実施した。得られたS-S曲線(Stress-Strain曲線)からシート状押圧処理物(e´-1)の破断強度(N/20mm)および破断伸度(%)を算出した。
【0122】
《電磁波シールドシートの反発力》
反発力は、JPCA-TM002 8.4.2に記載の試験条件に準じてスティフネス(stiffness)値を測定して評価した。JPCA-TM002 8.4.2に記載のパターンA(L/S:1.0/1.0mm、ライン数:3往復(六本))の片面CCL(Copper Clad Laminate)を用意した。次いで、電磁波シールドシートを幅2cm・長さ6cmの大きさにカットし、試料とした。各実施例および比較例の電磁波シールドシートの接着剤層(A)側の剥離性シートを剥がし、露出した接着剤層(A)と、前述の片面CCLとを重ね合わせて170℃、2MPa、30minの条件で圧着させた。次いで、幅1.5cm、長さ3cmにカットして保護層(E)側の剥離性シートを剥がし、JPCA-TM002 8.4.2に記載の試験条件にてスティフネス(stiffness)値を測定することにより、被着体に接合した後の電磁波シールドシートの反発力を求めた。
【0123】
<打抜き加工性>
打抜き加工性は、以下に示す方法にて評価した。
実施例、比較例で得られた剥離フィルムのついた電磁波シールドシートを、抜き加工機にて10mmx30mmに総ピース数50個型抜きし、不良品に該当するピースの個数を数えた。以下に示す数式(4)を用いて不良率を算出し、打抜き加工性を評価した。
数式(4):
(不良率)=(不良品に該当するピース数)/(型抜きした総ピース数)×100
なお、不良品とは、型抜きの形に加工された後に、金属層(C)端部でバリ(捲れ)が発生したものを指す。
評価基準は以下の通りとした。
+++:不良率が10%未満。 極めて良好である。
++:不良率が10%以上15%未満 良好である。
+:不良率が15%以上25%未満 実用可。
NG:不良率が25%以上 実用不可。
【0124】
<カール性>
両面に剥離性シートがついている電磁波シールドシート(長さ1000mm、幅300mm)を準備した。そして、3.0インチABSコア(昭和丸筒社製)に、電磁波シールドシートの長さ方向が巻き方向になるように巻きつけ、300mm長さのロール状試料を得た。このロール状試料の内側は接着剤層(A)、外側は保護層(E)となるようにした。得られたロール状試料を40℃湿度90%RHの条件下に7日間曝露した後、当該剥離性シート付き電磁波シールドシートを巻き戻した。そして、長さ方向500mm地点が中心となるように、また、巻き方向(長さ方向)と幅方向が各辺の方向と一致するように100mm×100mmサイズに裁断し、評価用試料5を得た。その後、評価用試料5の保護層(E)が下側、接着剤層(A)が上側になるように水平な台60に置き、評価用試料5の長さ方向(巻き方向)のカール率を評価した。具体的には、
図3に示すように、評価用試料5の長さ方向(巻き方向)の電磁波シールドシートの水平方向の距離Lを測定した。そして、以下の式(4)を用いてカール率を計算した。
カール率=〔(100-L)/100〕×100(%) 式(4)
得られたカール率を下記の基準で評価した。
+++:カール率10%未満。極めて良好である。
++:カール率10%以上、20%未満。良好である。
+:カール率20%以上、30%未満。実用可。
NG:カール率30%以上。実用不可。
【0125】
<易変形性>
易変形性は
図4に示す試験装置を用いて評価した。まず、電磁波シールドシートの接着剤層(A)の剥離性シートを剥離し、接着剤層(A)に、厚さが50μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン200EN」)を150℃、1MPaおよび30minの条件で圧着し、ポリイミドフィルムに熱圧着させた電磁波シールドシートを得た。その後、縦寸法10mm、横寸法100mmの大きさの試験片(ポリイミドフィルム/電磁波シールドシート)である積層体42を得た。
【0126】
積層体42を、基板44(ポリプロピレン製)上に載置する。なお、基板44上には、スペーサとして、略平行な一対のステンレス板(図略)が配置されており、これらのステンレス板の間に試験片が載置される。また、一対のステンレス板の間隔は3mmであり、ステンレス板の厚みは0.15mmである。そして、積層体42の中心付近の折曲部41aで山折りに折り曲げ、折曲部41aから一方側(
図4の右方側)である右部41cが、折曲部41aから他方側である左部41bと対向する状態にする。なお、ポリイミドフィルム/電磁波シールドシートの積層体42の山折り時の
図4中の外側が電磁波シールドシートである。
【0127】
上記のように基板44上に折り曲げられた試験片を載置した状態で、上方からシリコンゴム板45によって、所定の加圧力(0.1MPa)で積層体42を5秒間プレスした。このときの右部41cと折曲部41aを結んだラインと、左部41bと折曲部41aを結んだラインとの成す角度θiに対し、プレスをリリースしてから1分経過後、右部41cと折曲部41aを結んだラインと、左部41bと折曲部41aを結んだラインとの成す角度θからθiを引いた角度を、戻り角度として計測し、以下の評価基準で評価した。
+++:戻り角10°未満であり、且つ折り曲げ箇所で割れ等の外観不良が無い。極めて良好である。
++:戻り角10°以上、30°未満であり、且つ折り曲げ箇所で割れ等の外観不良が無い。良好である。
+:戻り角30°以上、60°未満であり、且つ折り曲げ箇所で割れ等の外観不良が無い。実用可。
NG:戻り角60°以上、もしくは折り曲げ箇所で割れ等の外観不良が生じる。実用不可。
【0128】
<伝送特性>
伝送特性は、電磁波シールドシート付きコプレーナ回路を有する配線回路板を用いて評価した。測定に用いたコプレーナ回路を有するフレキシブルプリント配線板15(以下、コプレーナ回路を有する配線回路基板ともいう)の主面側の模式的平面図を
図5、裏面側の模式的平面図を
図6に示す。まず、厚さ50μmのポリイミドフィルム50の両面に、厚さ12μmの圧延銅箔を積層した両面CCL「R-F775」(パナソニック社製)を用意した。そして、矩形状の4つのコーナー部近傍に、其々6か所のスルーホール52(直径0.1mm)を設けた。なお、図中においては、図示の便宜上、各コーナー部にスルーホール52を2つのみ示している。次いで、無電解メッキ処理を行った後に、電解メッキ処理を行って10μmの銅メッキ膜51を形成し、スルーホール52内に形成された銅メッキ膜を介して主面-裏面間の導通を確保した。その後、
図5に示すように、ポリイミドフィルム50の主面に長さが10cmの2本の信号配線53、およびその外側に信号配線53と並行なグランド配線54、およびグランド配線54から延在され、ポリイミドフィルム50の短手方向のスルーホール52を含む領域にグランドパターン55を形成した。
【0129】
その後、ポリイミドフィルム50の裏面に形成された銅箔をエッチングして、グランドパターン55に対応する位置に、
図6に示すような裏面側グランドパターン56を得た。回路の外観、公差の検査仕様はJPCA規格(JPCA-DG02)とした。次に、ポリイミドフィルム50の主面側に、ポリイミドフィルム(厚さ12.5μm)と絶縁性接着剤層(厚さ15μm)とで構成されるカバーコート層8「CISV1215(ニッカン工業社製)」を貼り付けた。なお、
図5においては、信号配線53等の構造がわかるように、カバーコート層8を透視図で示した。その後、カバーコート層8から露出した銅箔パターンにニッケルメッキ(不図示)を行い、次いで金メッキ(不図示)処理を行った。
【0130】
次に
図7に示すように、接着剤層(A)/シールド層(B)/保護層(E)の積層体からなる電磁波シールドシートを用意し、接着剤層(A)上に設けられた剥離処理シート(不図示)を剥がした。そして、電磁波シールドシートの接着剤層(A)を内側としてコプレーナ回路を有する配線回路基板15の裏全面側に、170℃、2.0MPa、30分の条件で電磁波シールドシートを圧着することにより、各実施例および比較例の電磁波シールドシート6を有する電磁波シールド層付きコプレーナ回路を有するシールド性配線基板21を得た。
図7においては、裏面側グランドパターン56を透視図で示した。
【0131】
なお、信号配線53のL/S(ライン/スペース)は特性インピーダンスが±10Ωに入るよう適宜調整した。グランド配線54の幅は100μm、グランド配線54と信号配線53の間の距離は1mmとした。
【0132】
電磁波シールドシート付きコプレーナ回路を有するシールド性配線基板21の露出した信号配線53にネットワークアナライザE5071C(アジレント・ジャパン社製)を接続し、15GHzのサイン波を入力し、伝送損失を測定することで伝送特性を評価した。測定した伝送特性を下記の基準で評価した。
+++:15GHzにおける伝送損失が7.0dB未満。極めて良好である。
++:15GHzにおける伝送損失が7.0dB以上、7.5dB未満。良好である。
+:15GHzにおける伝送損失が7.5dB以上、8.0dB未満。実用可。
NG:15GHzにおける伝送損失が8.0dB以上。実用不可。
【0133】
<ガス透過性>
ガス透過性は、配線回路基板を模した銅張積層板に電磁波シールドシートを積層した試験片と、溶融半田とを接触させ、そのサンプルの外観変化の有無により評価した。ガス透過性が高い電磁波シールドシートは、配線回路基板から発生する水蒸気等のアウトガスを効率よく配線回路基板外に逃がすことができるため、外観が変化しないが、ガス透過性が低い電磁波シールドシートではアウトガスが効率よく逃げず、発泡や剥がれが発生する。
まず、幅25mm・長さ70mmの電磁波シールドシートの接着剤層(A)の剥離性シートを剥がし、露出した接着剤層(A)と、総厚64μmの金メッキ処理された銅張積層板(金メッキ0.3μm/ニッケルメッキ1μm/銅箔18μm/接着剤20μm/ポリイミドフィルム25μm)の金メッキ面とを170℃、2.0MPa、30分の条件で圧着し、熱硬化させた積層体を得た。得られた積層体を幅10mm・縦65mmの大きさに切り取り、試料を作製した。得られた試料を40℃、90%RHの雰囲気下で72時間放置した。その後、試料のポリイミドフィルム面を下にして250℃の溶融半田上に1分間浮かべた。そして、取り出した試料の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
+++:外観変化不良が、目視において認められない。極めて良好である。
++:外観不良の範囲が試料中の保護層(E)面積の10%以下。良好である。
+:外観不良の範囲が試料中の保護層(E)面積の10%より広く、30%以下。実用可。
NG:外観不良の範囲が試料中の保護層(E)面積の30%より広い。
【0134】
<高周波シールド性>
電磁波シールドシートを剥離性フィルムに挟んで2MPaの圧力で170℃×30分間、熱プレス(硬化)し、剥離性フィルムを除いた状態のものを測定サンプルとした。高周波シールド性はASTM D4935に準拠し、キーコム社製の同軸管タイプのシールド効果測定システムを用いて、100MHz~15GHz条件で電磁波の照射を行った。電磁波が電磁波シールドシートで減衰する減衰量を測定し、以下の基準に従って評価した。なお、減衰量の測定値は、デシベル(単位;dB)である。
+++:15GHzの電磁波照射時の減衰量が、-55dB未満。極めて良好である。
++:15GHzの電磁波照射時の減衰量が、-55dB以上、-50dB未満。良好。
+:15GHzの電磁波照射時の減衰量が、-50dB以上、-45dB未満。実用可。
NG:15GHzの電磁波照射時の減衰量が、-45dB以上。実用不可。
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
本発明によれば、本実施例に示すように、カールおよびバリを抑制でき、且つ電磁波シールド特性、易変形性およびガス透過性を兼ね備える電磁波シールドシートを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本電磁波シールドシートは、FPCはもとより、リジッドプリント配線板、COF、TAB、フレキシブルコネクタ、液晶ディスプレイ、タッチパネル等に使用できる。また、パソコンのケース、建材の壁および窓ガラス等の建材、車両、船舶、航空機等の電磁波を遮断する部材など、電磁波をシールドする必要がある様々な用途に幅広く利用できる。本発明のシールド性配線基板は、例えば、液晶ディスプレイ、タッチパネル等のほか、ノートPC、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の電子機器に搭載して用いることができる。
【符号の説明】
【0142】
1、2、6:電磁波シールドシート、
5:評価用試料、
8:カバーコート層、
10、15:配線回路基板、
11:絶縁性基材、
12:回路パターン、
12a:信号配線、
12b:グランド配線、
13:カバーコート層、
14:ビア、
20、21:シールド性配線基板、
41a:折曲部、
41b:左部、
41c:右部、
42:積層体、
44:基板、
45:シリコンゴム板、
50:ポリイミドフィルム、
51:銅メッキ膜、
52:スルーホール、
53:信号配線、
54:グランド配線、
55:グランドパターン、
56:裏面側グランドパターン、
60:台。