IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧 ▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

<>
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図1
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図2
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図3
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図4
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図5
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図6
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図7
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図8
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図9
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図10
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図11
  • 特許-炭素金属複合成形体及びその製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】炭素金属複合成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/10 20230101AFI20230227BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20230227BHJP
   B22F 3/18 20060101ALI20230227BHJP
   B22F 3/20 20060101ALI20230227BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20230227BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20230227BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20230227BHJP
   C22C 47/14 20060101ALI20230227BHJP
   C22C 49/14 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C22C1/10 K
B22F3/14 101C
B22F3/18
B22F3/20
B22F3/20 C
C01B32/198
C22C1/05 Z
C22C33/02 102
C22C47/14
C22C49/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017197178
(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公開番号】P2019070186
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-07-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 直之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 圭子
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-225993号公報
【文献】特開2011-195864号公報
【文献】国際公開第2011/074125号
【文献】特開2011-692号公報
【文献】特開2004-270012号公報
【文献】特開2008-285745号公報
【文献】国際公開第2009/054309号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/10
C22C 47/00-49/14
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 1/05
C22C 33/02
C01B 32/182,32/198
B21B 15/01,15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と金属の単体、合金、及び、金属酸化物からなる群(純チタン、チタン合金、及び、酸化チタンを除く)より選択される少なくとも1種である粒子(金属酸化物のみからなる粒子を除く)との炭素金属複合成形体であって、
該成形体は、相対密度が90%以上であり、炭素を25体積%以下含有し、
該成形体中の該粒子の平均グレインサイズが50μm以下であり、
該成形体は、金属層、金属酸化物層、炭素材料層、金属酸化物層、金属層がこの順に積層された積層構造を有することを特徴とする炭素金属複合成形体。
【請求項2】
前記成形体中の前記粒子は、平均アスペクト比が2以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭素金属複合成形体。
【請求項3】
グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と金属の単体、合金、及び、金属酸化物からなる群(純チタン、チタン合金、及び、酸化チタンを除く)より選択される少なくとも1種である粒子(金属酸化物のみからなる粒子を除く)とを用いて炭素金属複合成形体を製造する方法であって、
該製造方法は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と該粒子とをパルス通電加圧焼結で焼結する工程を含み、
該成形体中の該粒子の平均グレインサイズが50μm以下であり、
該成形体は、金属層、金属酸化物層、炭素材料層、金属酸化物層、金属層がこの順に積層された積層構造を有することを特徴とする炭素金属複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記粒子は、金属の単体及び/又は合金(純チタン及びチタン合金を除く)であることを特徴とする請求項3に記載の炭素金属複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、焼結工程で得られた成形体に圧力を加えて変形させる工程を更に含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の炭素金属複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素金属複合成形体及びその製造方法に関する。より詳しくは、航空機や自動車の電子部品、構造材料等に好適に用いることができる炭素金属複合成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、軽量であるとともに高強度、高熱伝導性、高電気伝導性等の優れた特性を有し、他の材料との複合材として注目されている。例えば、炭素材料を金属(例えば、航空機や自動車の電子部品、構造材料等に使用されるAl、Mg、Ti等の軽金属等)と複合化させた炭素金属複合成形体が、軽量且つ優れた強度や優れた熱・電気伝導率、電流容量を有するものとして期待されている。
炭素材料としては、グラフェン骨格を有するものが、その特異な構造や物性のために数多くの研究がなされている。
【0003】
従来の炭素金属複合成形体としては、グラフェン骨格を有する炭素材料を軽金属やその他の金属に複合化したものとして、ベース金属とグラフェンとを含むグラフェン/金属ナノ複合粉末の焼結体(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。また、正方晶ZrOセラミックス等の保護マトリックス材料内部に数層のグラフェン酸化物ナノシートを三次元網目構造として埋め込む工程等を含む熱電ナノ複合材料の製造方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。更に、金属及び/又はセラミックスからなるパルス通電加圧焼結体からなる基材中に、グラフェンチューブを有する繊維状炭素材料が複数の層をなして存在する高熱伝導複合材料(例えば、特許文献3、4参照。)、金属及び/又はその酸化物と酸化グラフェンとのナノ複合体(例えば、特許文献5参照。)が開示されている。
【0004】
また例えば、FLG(数層のグラフェン:a Few layers of graphene)/Al又はAl合金コンポジット材料を、ボールミル法により作製したもの(例えば、非特許文献1、2参照。)、粉末治金法により作製したもの(例えば、非特許文献3、4参照。)が開示されている。更に、還元型酸化黒鉛/Alコンポジット材料を、複合粉末集積法(composite powder assembly process)により作製したもの(例えば、非特許文献5参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-225993号公報
【文献】特開2015-107881号公報
【文献】特開2008-285745号公報
【文献】特許第5288441号公報
【文献】特開2016-193431号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Gang Li, Bowen Xiong, Journal of Alloys and Compounds 697 (2017) 31-36
【文献】S.E. Shin, D.H. Bae, Composites: Part A-Appl. S 78 (2015) 42-47
【文献】Xin Gao, Hongyan Yue, Erjun Guo, Hong Zhang, Xuanyu Lin, Longhui Yao, Bao Wang, Materials and Design 94 (2016) 54-60
【文献】S.E. Shin, H.J. Choi, J.H. Shin, D.H. Bae, Carbon 82 (2015) 143-151
【文献】Zan Li, Qiang Guo, Zhiqiang Li, Genlian Fan, Ding-Bang Xiong, Yishi Su, Jie Zhang, Di Zhang, Nano Lett. 15 (2015) 8077-8083
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グラフェン骨格を有する炭素材料を軽金属等に複合化した炭素金属複合成形体として上述したものが知られているが、グラフェン骨格を有する炭素材料の優れた特性を充分に発揮するうえで更なる工夫の余地があった。
なお、特許文献2に記載の材料はセラミックスであるため、金属に用いられる加工方法を充分に適用できるものではなかった。また、非特許文献1、2に記載のボールミル法には、炭素材料がボールによりダメ―ジを受けてしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、例えば航空機や自動車の電子部品、構造材料等として用いた場合に好適な、優れた強度を発揮できる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、航空機や自動車の電子部品、構造材料等として用いた場合に優れた強度を発揮できる成形体について種々検討し、軽量の炭素材料と金属粒子とを複合化させた炭素金属複合成形体に着目し、特定割合以下の薄片状炭素材料を複合化した緻密な炭素金属複合成形体を形成した。更に、本発明者らは、この炭素金属複合成形体が、薄片状炭素材料が金属粒子間の粒界に沿って三次元的に配列していて等方的に強度に優れるとともに、金属由来の塑性変形能を充分に保持しており、圧力を加えることで好適に変形させることができ、これにより変形後の成形体中の金属粒子は平均アスペクト比が高いものとなり、特定の方向の強度に非常に優れるものとなることを見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と金属粒子との炭素金属複合成形体であって、該成形体は、相対密度が90%以上であり、炭素を25体積%以下含有することを特徴とする炭素金属複合成形体である。
【0011】
本発明の炭素金属複合成形体中の金属粒子は、平均アスペクト比が2以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素金属複合成形体は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と金属とが特定割合以下で複合化された緻密体であることにより強度に優れ、中でも成形体中の金属粒子が高アスペクト比を有するものは、特定方向の強度に非常に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)改変されたハマーズ法により予め調製した酸化グラフェン(GO)の透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)画像を示す。(b)(a)に示す四角で示される位置から取得したGOの制限視野電子回折(Selected-area electron diffraction:SAED)パターンである。(c)(b)に示すパターンについての(1-210)軸から(-2110)軸に沿う回折強度である。
図2】(a)純粋なAl粉末、(b)GO含有量0.16質量%のGO/Al複合粉末、(c)GO含有量0.66質量%のGO/Al複合粉末、(d)GO含有量1.62質量%のGO/Al複合粉末を示す電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission-Scanning Electron Microscope:FE-SEM)画像である。
図3】(a)GO含有量0.66質量%GO/Al複合粉末のTEM画像である。(b)GO含有量0.66質量%GO/Al複合粉末のTEM画像である。
図4】GO、パルス通電加圧焼結(PCPS)で得られた成形体、並びに、PCPS及び熱間押出(HE)後の成形体のラマンスペクトルを示す。
図5】(a)0.4体積%rGO/Al複合成形体についてのTEM画像である。(b)(a)中の破線で示される四角の位置から取得したrGO/Al境界のHR(高分解能)TEM-EDSマッピングである。(c)0.4体積%rGO/Al複合成形体についてのHRTEM画像であり、左上の挿入図は、塗りつぶしの円の部分から取得されたAl層のSAEDパターンである。また、右下の挿入図は、短い線で印付けられた線上をラインスキャンした炭素のEDSスペクトルである。(d)0.4体積%rGO/Al複合成形体についてのHRTEM画像であり、左下の挿入図は、塗りつぶしの円の部分から取得されたAlマトリックスのSAEDパターンである。また、右上の挿入図は、短い線で印付けられた線上をラインスキャンした炭素のEDSスペクトルである。
図6】(a)熱重量分析におけるGOの温度に対する重量を示すグラフである。(b)GO及びPCPS後のGOそれぞれの、XPS測定によるC1s領域のナロースキャンスペクトルである。
図7】(a)PCPS後の、純粋なAl、0.2体積%FLG/Al複合成形体、0.4体積%FLG/Al複合成形体、0.6体積%FLG/Al複合成形体それぞれの電子線後方散乱分析(EBSD分析)における逆極点図(Inverse Pole Figure:IPF)マップを示す。(b)rGOの体積割合に対する平均粒子径を示すグラフである。
図8】(a)PCPSで得られた0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図のより低倍率のFE-SEM画像である。(b)PCPSで得られた0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図のより高倍率のFE-SEM画像である。
図9】PCPSで得られた0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図の電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析における反射電子像及び元素マッピングである。
図10】(a)PCPS及びHE後の0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図についてのIPFマップを示す。(b)PCPS及びHE後の0.4体積%FLG/Al複合成形体の縦断面図についてのEBSD分析におけるIPFマップを示す。
図11】(a)熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてのTEM画像である。(b)熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてのHRTEM画像であり、左上の挿入図は、Al層のEDSスペクトルである。また、左下の挿入図は、塗りつぶされた白い円から取得したAlマトリックスのSAEDパターンである。さらに、右下の挿入図は、短い線で印付けられた線上をラインスキャンした炭素のEDSスペクトルである。(c)熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてのTEM画像である。(d)熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてのHRTEM画像であり、左上の挿入図は、塗りつぶされた円から取得されたAlマトリックスの電子線回折パターンの高速フーリエ変換(FFT)パターンである。また、右下の挿入図は短い線で印付けられた線上をラインスキャンした炭素のEDSスペクトルである。
図12】0.4体積%FLG/Al複合成形体及び純粋なAlの典型的な公称引張応力-引張ひずみ曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0015】
<炭素金属複合成形体>
本発明の炭素金属複合成形体は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料(以下、単に炭素材料とも言う。)と金属粒子との炭素金属複合成形体であって、相対密度が90%以上であり、炭素を25体積%以下含有する。本発明の炭素金属複合成形体は、特定割合以下の炭素材料が金属粒子に複合化した緻密体であり、例えば炭素材料と金属粒子とを焼結することにより得られるペレット状のもの等の成形体や、これに圧力を加えて変形させたもの等が挙げられる。焼結により得られるペレット状等の成形体は、炭素材料が金属粒子間の粒界に沿って三次元的に配列していて等方的に強度に優れるとともに、金属特有の塑性を有し、塑性変形を好適に行うことができ、これに圧力を加えて変形させること等により、特定の方向の強度に非常に優れる成形体を形成することができる。
成形体としては、形状や大きさは特に限定されず、たとえば、ペレット状の他、フィルム状、シート状、繊維状、柱状、立方体状、球状等が挙げられる。
【0016】
本発明の炭素金属複合成形体は、相対密度が92%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましく、96%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが特に好ましい。これにより、本発明の炭素金属複合成形体の強度をより優れたものとすることができる。
上記相対密度の上限値は、特に限定されず、100%であってもよい。
上記相対密度は、アルキメデス法により測定することができる。
【0017】
本発明の炭素金属複合成形体は、炭素を10体積%以下含有することが好ましく、5体積%以下含有することがより好ましく、3体積%以下含有することが更に好ましく、2体積%以下含有することが一層好ましく、1体積%以下含有することがより一層好ましく、0.8体積%以下含有することが特に好ましい。これにより、本発明の炭素金属複合成形体は、炭素材料の凝集がより充分に防止されたものとなり、少ない炭素含有量にも関わらず本発明の効果を顕著に発揮できる。
【0018】
本発明の炭素金属複合成形体は、炭素による充分な強度を発揮する観点からは、炭素含有量が0.01体積%以上であることが好ましく、0.1体積%以上であることがより好ましく、0.2体積%以上であることが更に好ましく、0.3体積%以上であることが特に好ましい。
上記炭素含有量は、実施例の方法により測定することができる。
【0019】
本発明の炭素金属複合成形体は、例えば、後述するパルス通電加圧焼結(PCPS)後の、酸化グラフェン(GO)/アルミニウム(Al)複合成形体を例にとれば、(1)GOがAl粒子間の粒界に分散する等して存在し、(2)しかも粒界にはAl層が存在し、GOはそのAl層間に分散している。なお、金属粒子の金属として、粒子表面が容易に酸化されるようなAl、Mg、Ti等の金属を用い、PCPSを行えば好適に同様の形態となると考えられる。
すなわち、本発明の炭素金属複合成形体が、金属層、金属酸化物層、炭素材料層、金属酸化物層、金属層がこの順に積層された積層構造を有することは、本発明における好適な形態の1つである。
なお、上記積層構造において、層間に更に別の層が挿入されていてもよいが、層間が直接接していることが好ましい。
この形態は、実施例に示すTEM観察により確認することができる。
【0020】
(グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料)
上記グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料は、sp結合で結合した炭素(C)を有し、該炭素が薄片状に(平面的に)並んだものである層状構造を有する限り特に制限されない。具体的には、該炭素材料は、sp結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ層(単層)のみからなる構造を有するものであってもよく、該層が2層以上積層した構造を有するものであってもよい。該炭素材料は、例えば、1層のみからなる単層構造を有するか、又は、2~100層程度積層した構造を有するものが好ましい。
【0021】
上記炭素材料は、酸素(O)と結合した炭素を有するものであることが好ましい。例えば、上記炭素材料は、酸化黒鉛であることがより好ましい。更に好ましくは、グラフェンの炭素に酸素が結合した酸化グラフェンである。
なお、一般的にグラフェンとは、sp結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ1層からなるシートをいい、グラフェンシートが多数積層されたものはグラファイトといわれるが、上記酸化グラフェンは、1層のみからなるシートのみではなく、2~100層程度積層した構造を有するものも含まれる。
【0022】
上記炭素材料は、例えば、複合化の原料である酸化黒鉛が複合化の際に加熱されて還元され、本発明の炭素金属複合成形体中で還元型酸化黒鉛となっていることが好ましい。
上記炭素材料は、更に、カルボキシル基、水酸基、硫黄含有基、脂環型エポキシ基等の官能基を有していてもよい。
【0023】
上記炭素材料は、中でも、2~50層程度積層した構造を有するものが好ましく、2~15層程度積層した構造を有するものがより好ましく、2~9層程度積層した構造を有するものが更に好ましい。2~9層程度積層した構造を有するものを、本明細書中、FLG(数層のグラフェン:a Few layers of graphen)とも言う。なお、FLGは、数層の酸化グラフェンであってもよく、数層の還元型酸化グラフェンであってもよい。
なお、このようなsp結合で結合した炭素原子が平面的に並んだシートの積層数は、後述するTEM画像の断面図における、距離に対する強度のピーク数として表される。
【0024】
上記炭素材料は、比表面積が1m/g以上であることが好ましく、10m/g以上であることがより好ましい。このような比表面積の炭素材料は、金属粒子と複合化させた際に、より高い分散性を発揮することが可能となる。該比表面積は、その上限は特に限定されないが、例えば2000m/g以下とすることができる。
上記比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0025】
上記炭素材料は、平均粒子径が1000μm以下であるものが好ましい。また、該平均粒子径は、5nm以上であることが好ましい。
上記平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定することができる。
なお、平均粒子径が上述のような範囲の粒子は、例えば、粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法や、該粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法のほか、粒子を製造する段階で調製条件を最適化し、所望の粒子径の粒子を得る方法等により製造することが可能である。
【0026】
上記炭素材料は、グラファイトを公知の酸化剤で処理して得ることができ、例えば、改変されたハマーズ法(Modified Hummers Method)により過マンガン酸カリウムで処理し、必要に応じて溶媒中で超音波処理や、遠心分離処理等の固液分離処理を行うことで好適に得ることができる。
【0027】
(金属粒子)
本発明に係る金属粒子としては、金属の単体、合金、化合物(酸化物等)が挙げられるが、金属の単体及び/又は合金であることが好ましい。これにより、結果的に炭素材料を本発明の炭素金属複合成形体中に凝集することなく均一に分散させることができ、得られる成形体の強度に優れる効果をより顕著なものとすることができる。本発明に係る金属粒子を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、チタン、ニッケル、銅、鉄、ジルコニウム、銀、スズ、これら金属を2種以上用いて構成される合金がより好ましく、中でもアルミニウム、チタン、ニッケル、銅、鉄、銀、スズ、これら金属を2種以上用いて構成される合金が更に好ましい。中でも、アルミニウムが特に好ましい。なお、金属粒子は、添加剤としてケイ素やジルコニウムを更に含んでいても構わない。また、本発明に係る金属粒子を構成する金属は、結晶性であることが好ましい。
また比強度を優れたものとする観点から、金属は、比重が5以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の炭素金属複合成形体中の金属粒子の平均グレインサイズが4μm以上であることが好ましい。これにより、強度に優れる効果をより顕著なものとすることができる。該平均グレインサイズは、5μm以上であることがより好ましく、6μm以上であることが更に好ましく、7μm以上であることが特に好ましい。
平均グレインサイズは、その上限値は特に限定されないが、通常50μm以下である。
平均グレインサイズは、実施例の方法によりEBSDで測定することができる。
【0029】
本発明の炭素金属複合成形体中の金属粒子は、平均アスペクト比が2以上であることが好ましい。このような本発明の炭素金属複合成形体は、炭素材料が特定方向に沿って配列したものであり、該方向の強度に非常に優れる。
このような本発明の炭素金属複合成形体が例えば金属層、金属酸化物層、炭素材料層、金属酸化物層、金属層がこの順に積層された積層構造、金属層、金属酸化物層、炭素材料層、金属層がこの順に積層された積層構造、及び、金属層、炭素材料層、金属層がこの順に積層された積層構造からなる群より選択される少なくとも1種の積層構造を有することは、本発明における好適な形態の1つである。
なお、上記積層構造において、層間に更に別の層が挿入されていてもよいが、層間が直接接していることが好ましい。
この構造は、実施例に示すTEM観察により確認することができる。
なお、金属層と炭素材料層との間に金属酸化物層が存在しない場合、該金属層(金属マトリックス)中に金属酸化物が混合されていてもよく、混合されていなくてもよい。
このような本発明の炭素金属複合成形体は、後述するように、PCPS後のペレット状の成形体に対し、圧力を加えて変形させること等により好適に得ることができる。
【0030】
本発明の炭素金属複合成形体における平均アスペクト比は、2.5以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましい。
また上記平均アスペクト比の上限値は特に限定されないが、通常は10以下である。
上記平均アスペクト比は、縦断図面から算出される粒子の平均径を横断図面から算出される粒子の平均径で割ることによって求めることができる。
【0031】
本発明の炭素金属複合成形体は、上記金属粒子の含有量が75~99.99体積%であることが好ましい。上記金属粒子の含有量は、より好ましくは、90~99.9体積%であり、更に好ましくは、95~99.8体積%であり、一層好ましくは、97~99.7体積%である。より一層好ましくは、99体積%以上であり、特に好ましくは、99.4体積%以上である。
【0032】
本発明の炭素金属複合成形体は、炭素材料、金属粒子をそれぞれ1種ずつ用いて複合化されたものであってもよく、2種以上用いて複合化されたものであってもよい。また、炭素材料、金属粒子以外のその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分の含有量は、5体積%以下であることが好ましく、1体積%以下であることがより好ましく、0.1体積%以下であることが更に好ましく、本発明の炭素金属複合成形体がその他の成分を含有しないことが特に好ましい。
【0033】
本発明の炭素金属複合成形体は、種々の用途への適用可能性があるが、材料の軽量化も達成できる観点からは、例えば航空機や自動車の電子部品、構造材料等として用いられることが好ましい。
【0034】
<炭素金属複合成形体の製造方法>
本発明の炭素金属複合成形体は、炭素材料と金属粒子とを加熱、加圧等して複合化することで作製することができるが、炭素材料と金属粒子とを焼結して作製することが好ましく、中でも、パルス通電加圧焼結(PCPS)で焼結して作製することがより好ましい。特にパルス通電加圧焼結により、材料全体に対して均一な焼結が可能となり、焼結工程における温度を炭素材料が移動しやすくなるような高温とした場合であってもその凝集を充分に防止しつつ、より緻密な成形体を作製することができ、強度に優れる効果が顕著なものとなる。例えば、本発明は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と金属粒子とを用いて炭素金属複合成形体を製造する方法であって、該製造方法は、グラフェン骨格を有する薄片状炭素材料と金属粒子とをパルス通電加圧焼結で焼結する工程を含む炭素金属複合成形体の製造方法でもある。
【0035】
上記焼結工程における温度は、200℃以上が好ましい。これにより、得られる成形体をより緻密化することができる。該温度は、より好ましくは350℃以上であり、更に好ましくは500℃以上である。また、炭素材料の凝集を防止する観点からは、該温度は、2000℃以下であることが好ましく、1500℃以下であることがより好ましい。
焼結工程をおこなう時間は、1分~1時間が好ましい。より好ましくは2分~30分であり、更に好ましくは3分~20分である。
炭素材料の加熱は空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また焼結工程における圧力条件は特に限定されず、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下で行うことができる。
【0036】
本発明の製造方法は、焼結工程前に、炭素材料と金属粒子とを混合する工程を更に含むことが好ましい。また、該混合工程により、炭素材料と金属粒子との複合粉末を得ることがより好ましい。
上記混合工程は、例えば、金属粒子が分散した水中に、炭素材料の水分散体を滴下し、得られた炭素材料と金属粒子との複合粉末をろ過し、乾燥することによって行うことができる。なお、金属粒子が分散した水は、金属粒子と水とを撹拌し、超音波処理を行うこと等によってより均一に混合して調製することが好ましい。
【0037】
上記混合工程により金属粒子と炭素材料との複合粉末を調製する過程において、金属粒子と炭素材料とを結合させる手法としては、ボールミル混合、表面修飾剤の使用、静電的相互作用の利用等が挙げられる。中でも、グラフェンへ与えるダメージ、不純物の混入等を避ける点から、静電的相互作用を利用する手法が特に好ましい。エーテル基やカルボニル基を有するために水中で負に帯電する炭素材料と静電的相互作用をする点から、水中で正に帯電する(25℃水溶液でのゼータ電位が0となる点(等電点)がpH>7)酸化物被膜を有する金属粒子が好ましい。このような金属としては、例えばAlがあげられる。
【0038】
本発明の製造方法は、焼結工程で得られた成形体に圧力を加えて変形させる工程を更に含むことが好ましい。本発明の製造方法により、成形体中の金属粒子が高アスペクト比となり、特定の方向の強度に非常に優れる成形体とすることができる。
本明細書中、圧力を加えて変形させる工程は、特に限定されないが、材料を加圧したうえで少なくとも一方向に伸ばす工程であることが好ましく、例えば、ローラーを用いて材料を膜状に伸ばす圧延工程、型枠等を用いる押出工程や、平板プレス等で膜状に成形する工程、射出成形工程、キャスト工程等が挙げられる。
【0039】
上記圧力を加えて変形させる工程における圧力は、特に限定されないが、0.1kN/mm以上であることが好ましく、0.5kN/mm以上であることがより好ましく、1kN/mm以上であることが更に好ましい。
また上記圧力は、50kN/mm以下であることが好ましく、10kN/mm以下であることがより好ましい。
【0040】
上記圧力を加えて変形させる工程における温度は、200℃以上が好ましい。より好ましくは300℃以上であり、更に好ましくは400℃以上である。また、該温度は、2000℃以下であることが好ましく、1000℃以下であることがより好ましく、700℃以下であることが更に好ましい。
上記圧力を加えて変形させる工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0041】
上記圧力を加えて変形させる工程としては、上述した中でも、押出工程、圧延工程が好ましい。特に圧延加工が生産性に優れる点で好ましい。
【0042】
以下では、一例として、押出工程について詳しく説明する。
上記押出工程における押出荷重は、100kN以上であることが好ましく、200kN以上であることがより好ましく、300kN以上であることが更に好ましい。
また上記押出荷重は、1000kN以下であることが好ましく、800kN以下であることがより好ましい。
【0043】
上記押出工程における押出速度は、0.01m/h以上であることが好ましく、0.02m/h以上であることがより好ましく、0.04m/h以上であることが更に好ましい。
また上記押出速度は、1m/h以下であることが好ましく、0.5m/h以下であることがより好ましく、0.2m/h以下であることが更に好ましい。
【0044】
上記押出工程における押出比率は、1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。
また上記押出比率は、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、40以下であることが更に好ましい。
なお、押出比率は、材料の押出方向と垂直な断面において、材料を押し付ける側の金型の断面積を材料が出てくる側の金型の断面積で割った値である。
【0045】
上記押出工程は、例えば、熱間押出する工程であることが好ましい。熱間押出する工程における好ましい温度範囲は、上記変形工程における好ましい温度範囲と同様である。
【0046】
本発明の炭素金属複合成形体は種々の形態で利用することができ、例えば、航空機や自動車の電子部品、構造材料等として好適に利用することができる。
【実施例
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0048】
本明細書中、金属粒子の平均アスペクト比が2以上の成形体を、平均アクペクト比が高い金属粒子を含む成形体とも言う。
【0049】
各種特性値は、以下の方法により測定した。
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察、制限視野電子回折観察、HRTEM-EDSマップ)
(株)日立ハイテクノロジーズ製の高分解能透過電子顕微鏡(HF-2000EDX)を用いて行った。
(電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察)
日本電子(株)製の走査電子顕微鏡(JSM-6500F)を用いて行った。
【0050】
(顕微ラマンスペクトル)
波長532nmの入射レーザー光で100倍対物レンズを有するSOLAR TII Nanofider(東京インスツルメンツ社)を用いて測定した。
【0051】
(後方散乱した電子画像)
日本電子(株)製の原子分解能分析電子顕微鏡(JEM-ARM200F)を用いて測定した。
(EPMA元素マッピング)
日本電子(株)製のフィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザ(JXA-8530F)を用いて測定した。
【0052】
(電子線後方散乱回折(EBSD)、IPFマップ)
(株)TSLソリューションズ製の結晶方位解析装置(OIM Ver.6)を用いて行った。
【0053】
(成形体中の炭素含有量)
炭素分析装置(TC-444、LECO社製)を用いて測定した。
【0054】
(熱重量分析)
示差熱/熱重量同時測定装置(SDT Q600)を用いて測定した。
(XPS測定)
走査型X線光電子分光分析装置(PHI5600、アルバック・ファイ株式会社製)を用いて測定した。
(成形体の最大引張強度〔UTS〕、降伏強度、伸び)
(株)島津製作所製の精密万能試験機(AUTOGRAPH AG-I 50KN)を用いて測定した。
【0055】
(実施例1)
<FLGの合成>
室温でグラファイト(Bay Carbon社製、品名:SP-1)1g及び硫酸25mLをフラスコへ投入し、フラスコをアイスバスに入れ273K(0℃)を保つように過マンガン酸カリウム3.5gを徐々に投入した。
次に、313K(40℃)で2時間マグネティックスターラーを用いて撹拌した後、脱イオン水200mL、30%過酸化水素水5mLを、この順で投入した。沈殿物を塩酸150mLで洗浄し、真空ろ過で回収した。
回収した沈殿物を、水200mLに分散させ1週間放置した後、再回収した。更に、再回収した沈殿物に水1Lを加え超音波処理を行った。最後に、遠心分離処理を4000rpmで30分行いFLGを得た。
【0056】
<FLG/Al複合粉末の作製>
Al粒子(Ecka granule Japan社製、純度99.85%、平均粒子径5.5μm)15gと水200mLをビーカーに投入し、アイスバス中で2時間、撹拌と超音波処理を行った。次に、FLG溶液(4.95×10-4g/mL)25mLを滴下した。最後に、FLG/Al複合粉末をろ過により回収し343K(70℃)で真空乾燥し、FLG含有量が0.08質量%であるFLG/Al複合粉末を得た。
【0057】
<成形体の作製>
FLG/Al複合粉末を50MPa、873K(600℃)(昇温レート:1200K/h)の条件下でパルス通電加圧焼結装置(放電プラズマ焼結装置)(Dr.Sinter S511、住友石炭鉱業(株)製)を用いて0.33時間焼結し、直径15mm、長さ30mmのPCPSサンプル(成形体)を得た。次に、得られたPCPSサンプルを500kN、773K(500℃)の条件下で万能試験機(UH―500kN1,株式会社島津製作所製)を用いて押出速度0.06m/h、押出比率20にて熱間押出を行い、平均アクペクト比が高い金属粒子を含む成形体を得た。
【0058】
(実施例2)
上記<FLG/Al複合粉末の作製>において、滴下したFLG溶液の量を50mLに変更し、FLG含有量0.16質量%のFLG/Al複合粉末を得た以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0059】
(実施例3)
上記<FLG/Al複合粉末の作製>において、滴下したFLG溶液の量を100mLに変更し、FLG含有量0.33質量%のFLG/Al複合粉末を得た以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0060】
(実施例4)
上記<FLG/Al複合粉末の作製>において、滴下したFLG溶液の量を200mLに変更し、FLG含有量0.66質量%のFLG/Al複合粉末を得た以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0061】
(実施例5)
上記<FLG/Al複合粉末の作製>において、滴下したFLG溶液の量を300mLに変更し、FLG含有量0.98質量%のFLG/Al複合粉末を得た以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0062】
(実施例6)
上記<FLG/Al複合粉末の作製>において、滴下したFLG溶液の量を500mLに変更し、FLG含有量1.62質量%のFLG/Al複合粉末を得た以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0063】
(比較例1)
上記<FLG/Al複合粉末の作製>において、滴下したFLG溶液の量を0mLに変更し、純粋なAl粉末を得た以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0064】
(評価)
図1(a)は、改変されたハマーズ法により予め調製したGO(酸化グラフェン)のTEM画像を示す。GOは、そのエッジは僅かに巻かれ、折り曲げられている(図1(a)の塗りつぶされた小さな円で示される部分を参照。)が、シート状(薄片状)である。更に、GOの柔軟性を示す、いくつかのしわが観察される(図1(a)の破線の円で印付けられている。)。
【0065】
図1(b)は、図1(a)に示す中抜きの四角の位置から取得したGOの制限視野電子回折(Selected-area electron diffraction:SAED)パターンである。この回折パターンは、グラフェンについて予期される典型的な六回対称パターンを示す。
図1(c)は、図1(b)に示すパターンについての(1-210)軸から(-2110)軸に沿う回折強度である。{1100}内部ピークが、{2110}外部ピークよりも強く見えることから、このGOは単層である可能性がある。また、TEM観察から、このGOが1層又は10層未満の数層程度積層した構造からなるものであることが分かる。層数については後で更に議論する。また、動的光散乱法(DLS)測定から、丸いシートと推定されるGOの平均サイズは700nmであり、これは本実施例で用いるAl粉末のサイズ(5.5μm)よりも大幅に小さい。
【0066】
図2(a)は、純粋なAl粉末を示すFE-SEM画像である。図2(b)、図2(c)、図2(d)は、それぞれ、GO含有量0.16質量%、0.66質量%、1.62質量%のGO/Al複合粉末を示すFE-SEM画像である。図2(b)中の黒破線は、Al表面上のしわがある(crumpled)GOを示す。図2(d)中の白矢印は、Al粒子間のGOシートの僅かな凝集物を示す。
GO含有量0.66質量%までのGO/Al複合粉末を示す図2(a)~(c)では、GOクラスターは殆ど観察されない。しかし、GO含有量1.62質量%では、GOの僅かな凝集がAl粒子間に観察される(図2(d))。理由の1つは、粉末混合の間、GOシートの全表面積に対するAl粒子の接触表面が限定されていることである。
【0067】
図3(a)、図3(b)はともにGO含有量0.66質量%GO/Al複合粉末のTEM画像である。
図3(a)は、Al粒子がGOシートで包まれた構造を示す。上述したように、GOシートとAl粒子とはサイズが大きく違う。したがって、Al粒子はいくつかのGOシートでカバーされる。図3(b)中の黒矢印は、2つのAl粒子間を架橋するGOシートを指し示している。図3(b)に示すように、GOシートのいくつかはAl粒子間を架橋し、その結果、GOシートは互いに重なり合い、くっつき合い、ネットワーク構造を形成し、材料全体で見たときに均一に分散されたものとなり、強度等の特性を充分に発揮できるものとなる。
【0068】
実施例1~6及び比較例1の、複合粉末(実施例1~6)又は純粋なAl(比較例1)中のGO含有量(質量%)、並びに、rGO/Al複合成形体(実施例1~6)又は純粋なAl(比較例1)の、パルス通電加圧焼結後の相対密度(%)、HE(熱間押出)後の相対密度(%)、rGO含有量(体積%)、PCPS後のグレインサイズ(μm)、HE後のHEに垂直なグレインサイズ(μm)を下記表1に示す。なお、rGOの密度2.28g/cm、Alの密度2.7g/cmを用いてrGO含有量(体積%)を決定した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の結果から、実施例の炭素金属複合成形体及びこれに圧力を加えて変形させることで得られる成形体は、充分に高い相対密度を有し、また、圧力の印加により方向性を有するものであることが分かる。なお、成形体中の炭素含有量は、複合体中の炭素含有量と同様であると考えられる。
【0071】
図4は、GO、PCPSで得られた複合成形体、並びに、PCPS及びHE後の成形体のラマンスペクトルを示す。1350cm-1でのDバンドは、通常、格子欠陥の存在と関係し、1580cm-1でのGバンドは、グラフェンシートにおける平面C-C対称伸縮振動に対応する。GOは473Kから1273Kの温度域で還元されるとI/I比が大きくなる事が報告されている(非特許文献:S.H.Huh. Thermal reduction of grapheme oxide:INTECH Open Access Publisher;2011)。PCPS後、I/I比が0.97から1.09に僅かに大きくなっており、PCPSの間にGOが還元してrGO(還元型酸化グラフェン)になったと考えられる。また、2600-3300cm-1で2Dバンド、D+Gバンドが検出された。2Dバンドは、芳香族炭素構造を反映しており、D+Gバンドは、黒鉛系材料の格子乱れにより誘起される。PCPS後の組成物において2Dバンドが再度現れ、I2D/ID+Gが向上しており、これはグラフェンの二重結合(共役構造)の回復によるものである。
【0072】
図5(a)は、0.4体積%rGO/Al複合成形体についてのTEM画像である。図5(b)は、(a)中の破線で示される四角の位置から取得したrGO/Al境界のHRTEM-EDSマッピングである。図5(c)、図5(d)は、0.4体積%rGO/Al複合成形体についてのHRTEM画像である。
図5(b)は、図5(a)中の白い四角の中の領域から取得した粒界(grain boundary)でのHRTEM-EDSマッピングである。Cは、rGOに対応する。Al、Oは、Alに対応する。
図5(c)、図5(d)に示されるように、rGO板状体は、5nm厚以下のアモルファスであるAl層間に挟持され、Al層と直接接している。これは、rGOが粒界に位置していることの明らかな証拠である。rGO/Al複合成形体全体として見たときに、該材料中に、rGOは均一に分散していると評価できる。
【0073】
図5(c)中の左上の挿入図は、塗りつぶしの円の部分から取得されたAl層のSAEDパターンであり、アモルファス構造に特有のハローパターンを示している。図5(d)中の左下の挿入図は、塗りつぶしの円の部分から取得されたAlマトリックスのSAEDパターンであり、Al結晶の対称性に従った回折スポットを示している。
図5(c)の右下の挿入図、図5(d)の右上の挿入図は短い線で印付けられた線上をラインスキャンした炭素のEDSスペクトルであり(横軸がラインスキャン距離、縦軸が炭素の特性X線強度)、粒界でのグラフェン層の数を決定できる。図5(c)の右下の挿入図では、5つのピークが示され、rGO板状体は5層のグラフェンを含む。図5(d)中の右上の挿入図では、3つのピークが示され、rGO板状体は3層のグラフェンを含む。10層以上のグラフェン層を含む板状体が殆ど観察されないため、粒界におけるrGO板状体は数層のグラフェン(FLG)であると推察される。
以上の結果から図5(a)を見ると、図5(a)は、柔軟性のあるFLGが曲がった粒界に途切れなく存在し、フィットしていることを示す。
【0074】
図6(a)は、熱重量分析におけるGOの温度に対する重量を示すグラフである。図6(b)は、GO及びPCPS後のGOそれぞれの、XPS測定によるC1s領域のナロースキャンスペクトルである。図6(a)は、GOの600℃でのPCPS後、約40%の重量損失があったことを示す。また、図6(b)に示すC1sスペクトルでは、PCPS後、C-O、C=Oに由来するピークが消失している。これらの結果から、GOは、PCPS後、還元されて還元型のrGOとなったことが分かる。
【0075】
図7(a)は、PCPS後の、純粋なAl、0.2体積%FLG/Al複合成形体、0.4体積%FLG/Al複合成形体、0.6体積%FLG/Al複合成形体それぞれの電子線後方散乱分析(EBSD)における逆極点図(Inverse Pole Figure:IPF)マップを示す。図7(b)は、rGOの体積割合に対する粒子径を示すグラフである。図7(b)で示す結果は、上記表1にも示している。
【0076】
図8(a)は、PCPSで得られた0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図のより低倍率のFE-SEM画像である。図8(b)は、PCPSで得られた0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図のより高倍率のFE-SEM画像である。
図8におけるAlマトリックスの平均グレインサイズは4.8μmである。
更に、AlマトリックスのPCPS後のグレインサイズは、FLG濃度(rGO含有量)とは独立している(表1)。図5に示される、FLG板状体を含む粒界は、図8において途切れのない白い輪郭線として観察される。これらの輪郭線は、実質的に均一な太さで全ての粒子を囲む。
【0077】
図9は、PCPSで得られた0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図のEPMA分析における反射電子像及び元素マッピングである。図9の「BSE」中に示される線は、Al粒子の粒界を表しており、EPMAの結果からこの線で表される粒界に炭素(FLG)が均一に分散していることが確認できる。
【0078】
したがって、FLGはPCPS後の複合成形体中の粒界で均一に分散され、粒界に沿って三次元ネットワークを形成する。FLGが複合成形体中で均一に分布しており、重大な凝集が無いことが確かめられた。
【0079】
図10(a)は、PCPS及びHE後の0.4体積%FLG/Al複合成形体の横断面図(押出方向に垂直な断面)についてのIPFマップを示す。図10(b)は、PCPS及びHE後の0.4体積%FLG/Al複合成形体の縦断面図(押出方向に平行な断面)についてのEBSD分析における逆極点図マップを示す。図10(b)中、EDは押出方向を示し、TDは横断方向を示す。
図10(a)及び図10(b)より、熱間押出(HE)により、FLGの三次元ネットワークが崩れ、押出方向に二次元配向していることが分かる。Al粒子の平均アスペクト比は、4である。
PCPSとHEとの組合せは、完全に密なFLG/Al複合成形体を調製するために非常に有効であり、すべての押出されたサンプルが、99.5%以上の相対密度を有する(表1)。
主要なAl粒子は、紡錘状に引き伸ばされ、押出方向に沿って配向され、強い引張強度を示すと考えられる。押出された成形体の横断面図の平均グレインサイズは、2.2μmであり(図10(a))、PCPS後の材料の平均グレインサイズ(4.6μm)よりも小さい。したがって、2つの隣接するFLG間の距離は、横断面図において50%減少したことが分かる。
【0080】
図11(a)は、熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてTEM画像である。図11(b)は、熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてのHRTEM画像である。図11(c)は、熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてのTEM画像である。図11(d)は、熱間押出された0.4体積%FLG/Al複合成形体についてのHRTEM画像である。
【0081】
図11(a)及び図11(c)中に示されるHRTEM観察により、個々のFLG板状体が、HE方向と平行な方向に整列し、Alマトリックスと一体化したことが明らかとなった。図11(b)は、FLGが一方の側でAlと密接に接触するが、他方の側でAlマトリックスと直接接触することを示す。
図11(d)は、FLGがその両側でAlマトリックスと直接接触することを示す。
HEプロセスの間のAlマトリックスの塑性流動が粒界におけるFLGネットワークを破壊し、塑性流動の方向に沿って個々のFLG板状体を再配置したと推察される。塑性流動は、FLG板状体を伸ばし、平たくするのに寄与したかも知れない。同時に、Al粉末表面上の薄いAl層は、塑性流動によって破壊され、この塑性流動は、Alの新しい表面を作り出し、FLGとAlマトリックスとを直接接触させた。図4に示したラマンスペクトル分析から、HE後のFLGの品質が維持されたことが明らかである。
【0082】
FLG/Al材料が完全に密であり、個々のFLG板状体の殆どが押出方向に沿って配列し、残ったひずみはほとんど無く、界面でFLG/Alが直接接していることが示された。
【0083】
図11(b)は、図11(a)中の破線で示される白い四角の位置から取得した;図11(b)中の左上の挿入図は、Al層のEDSスペクトルであり、O元素とAl元素の特性X線が確認できる。また、左下の挿入図は、塗りつぶされた白い円の部分から取得したAlマトリックスのSAEDパターンであり、Al結晶の対称性に従った回折スポットを示している。さらに、右下の挿入図は、短い線で印付けられた線上をラインスキャンした炭素のEDSスペクトル(横軸がラインスキャン距離、縦軸が炭素の特性X線強度)である。EDSスペクトルからは9つのピークが確認され、図11(b)中のFLGは9層のグラフェンを含む。図11(d)中の左上の挿入図は、塗りつぶされた円の部分のHRTEM画像の高速フーリエ変換(FFT)パターンであり、Al結晶の対称性に従った回折スポットを示している。また、右下の挿入図は短い線で印付けられた線上をラインスキャンした炭素のEDSスペクトル(横軸がラインスキャン距離、縦軸が炭素の特性X線強度)である。EDSスペクトルからは5つのピークが確認され、図11(d)中のFLGは5層のグラフェンを含むことを示す。
なお、図11(b)中の挿入図のピーク数は9である。
【0084】
実施例1~6及び比較例1における熱間押出後の、rGO/Al複合成形体(実施例1~6)又は純粋なAl(比較例1)の最大引張強度(UTS)、降伏強度、伸びを下記表2に示す。図12は、0.4体積%FLG/Al複合成形体(実施例4)及び純粋なAl(比較例1)の典型的な公称引張応力-引張ひずみ曲線を示す。
【0085】
【表2】
【0086】
比較例1における最大引張強度(UTS)、降伏強度、伸びは、それぞれ、136.7MPa、110.3MPa、24.3%と測定された。一方、例えば実施例4のUTS、降伏強度、伸びは、それぞれ、173.0MPa、146.2MPa、14.2%と測定された。したがって、実施例4は、比較例1に対してUTSが26.6%と大きく増加し、降伏強度が32.5%と大きく増加した。その他の実施例1~3、5、6においても、比較例1に対してUTS及び降伏強度が大きく増加した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12