(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】抗インフルエンザ剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/05 20060101AFI20230227BHJP
A61K 31/7072 20060101ALI20230227BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
A61K36/05
A61K31/7072
A61P31/16
(21)【出願番号】P 2018143053
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-06-03
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-22254
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 真菜
(72)【発明者】
【氏名】久野 斉
(72)【発明者】
【氏名】渥美 欣也
(72)【発明者】
【氏名】林 京子
(72)【発明者】
【氏名】河原 敏男
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-199606(JP,A)
【文献】特開2015-015918(JP,A)
【文献】特開2005-247757(JP,A)
【文献】特開2012-224554(JP,A)
【文献】特開2016-065037(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026953(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/026951(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/026945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/05
A61K 31/7072
A61P 31/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末を有効成分として含み、
チミジンが併用されることを特徴とする、抗インフルエンザ剤。
【請求項2】
前記微細藻類がコッコミクサ sp. KJ株又はその変異株である、請求項1に記載の抗インフルエンザ剤。
【請求項3】
前記有効成分とチミジンを含有する配合剤である、請求項1又は2に記載の抗インフルエンザ剤。
【請求項4】
標的のインフルエンザウイルスがA型インフルエンザウイルスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗インフルエンザ剤
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗インフルエンザ剤に関する。詳細には、微細藻類由来の物質を用いた抗インフルエンザウイルス剤及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは毎年流行を繰り返す呼吸器系の感染症であり、急激な発熱、頭痛、全身倦怠感等の症状を引き起こす。重症化し易く、インフルエンザ脳症や肺炎などを合併することもあり、特に、高齢者や乳幼児の死亡率は高い。インフルエンザの予防にはワクチン接種が行われるが、抗原が変化し易いことや、免疫力が低下した状態では十分な抗体ができにくいことなどから、その予防効果は限定的である。一方、抗インフルエンザ剤としてオセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル)やザナミビル水和物(商品名リレンザ)等が開発され(例えば非特許文献1を参照)、臨床応用されているが、耐性株の出現や副作用の問題があり、新たな抗インフルエンザ剤の開発が急務となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Von Itzstein M., et al., Nature. 1993 Jun 3;363(6428):418-23.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の背景の下で本願発明は、インフルエンザの治療又は予防に有効な新たな手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、動物実験(マウスモデル)において、コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末(藻体)が優れた抗インフルエンザ活性を示した。また、チミジンを併用した場合にも高い抗インフルエンザ活性を示した。一方、ウイルス量の低下を認めた個体では血清中及び気道洗浄液中の中和抗体価の有意な上昇が認められ、コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末の作用メカニズムの一端が明らかになるとともに、有効性が裏付けられた。
主として上記の成果及び考察に基づき、以下の発明が提供される。
[1]コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末を有効成分として含み、
チミジンが併用される、抗インフルエンザ剤。
[2]前記微細藻類がコッコミクサ sp. KJ株又はその変異株である、[1]に記載の抗インフルエンザ剤。
[3]前記有効成分とチミジンを含有する配合剤である、[1]又は[2]に記載の抗インフルエンザ剤。
[4]標的のインフルエンザウイルスがA型インフルエンザウイルスである、[1]~[3]のいずれかに記載の抗インフルエンザ剤。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】インフルエンザウイルス感染実験の結果。体重の変化を比較・評価した。試験区#1:コントロール(蒸留水)、試験区#2:タミフル(0.2 mg/0.4 ml/day)、試験区#3:藻体(5.5 mg/0.4 ml/day)、試験区#4:藻体(4.6 mg/0.4 ml/day)、試験区#5:藻体とチミジンを90:10(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)、試験区#6:藻体とチミジンを80:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)、試験区#7:藻体とチミジンを70:30(重量比)で混合(5.6 mg/0.4 ml/day)、試験区#8:藻体と乳糖を95:5(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)、試験区#9:藻体と乳糖を90:10(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)、試験区#10:藻体と乳糖を80:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)、試験区#11:藻体、チミジン、乳糖を70:10:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)、試験区#12:藻体、チミジン、乳糖を60:20:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)。尚、製剤化の際に賦形剤として頻用される乳糖を添加した試験区(#8~#12)も設けた。
【
図2】インフルエンザウイルス感染実験の結果。感染3日後の肺中のウイルス量を比較・評価した。*p< 0.05, ***p< 0.001 vs. コントロール
【
図3】インフルエンザウイルス感染実験の結果。感染3日後の気道洗浄液(BALF)中のウイルス量を比較・評価した。*p< 0.05, **p< 0.01, ***p< 0.001 vs. コントロール
【
図4】インフルエンザウイルス感染実験の結果。感染14日後の血清中の中和抗体価を比較・評価した。*p< 0.05, **p< 0.01, ***p< 0.001 vs. コントロール
【
図5】インフルエンザウイルス感染実験の結果。感染14日後の気道洗浄液(BALF)中の中和抗体価を比較・評価した。*p< 0.05, **p< 0.01 vs. コントロール
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.用語、作用
抗インフルエンザ剤とは、インフルエンザウイルスを標的とした抗ウイルス剤である。後述の実施例に示す通り、本発明の抗インフルエンザウイルス剤には、インフルエンザに対する治療的又は予防的効果を期待できる。理論に拘泥するわけではないが、後述の実施例に示した実験の結果に鑑みれば、本発明の抗インフルエンザ剤は、インフルエンザウイルスの増殖抑制を介してその効果を発揮するといえる。また、本発明の抗インフルエンザ剤にはインフルエンザウイルスに対する中和抗体の産生促進効果を期待できる。
【0008】
インフルエンザウイルスは一本鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子を構成するタンパク質、抗原性、形態などが異なる、3つの属、即ち、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス及びC型インフルエンザウイルスに大別される。A型インフルエンザウイルスはヒト、鳥類、ウマ、ブタなどを宿主とし、一般にその感染による症状(病態)は他の型の場合よりも重篤である。A型インフルエンザは毎年、大流行(エピデミック)を引き起こす。また、世界的大流行(パンデミック)が懸念されており、その対策が急務となっている。A型インフルエンザウイルスはHA分子の型によって二つのグループ、即ち、H2、H5、H1、H6(以上、H1クラスター;H1a)、H13、H16及びH11(以上、H1クラスター;H1b)からなるグループ1と、H8、H12、H9(以上、H9クラスター)、H4、H14、H3(以上、H3クラスター)、H15、H7及びH10(以上、H7クラスター)からなるグループ2に大別される。A型インフルエンザウイルスの種類として、H1N1型、H1N2型、H2N2型、H3N2型、H5N1型、H5N2型、H6N1型、H7N2型、H7N3型、H7N7型、H7N9型、H9N2型及びH9N1型を例示することができる。
【0009】
2.抗インフルエンザ剤の有効成分
本発明の抗インフルエンザ剤はコッコミクサ属(Coccomyxa)に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末を有効成分とする。コッコミクサ属微細藻類は特に限定されないが、好ましい例として、コッコミクサ sp. KJ株又はその変異株を挙げることができる。コッコミクサ sp. KJ株(KJデンソー)は、2013年6月4日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-22254として寄託され、2015年6月2日付でプタベスト条約の規定下で受託番号FERM BP-22254として国際寄託に移管されている。
【0010】
コッコミクサ sp. KJ株の変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、変異原処理、重ビーム照射、遺伝子操作(外来遺伝子の導入、遺伝子破壊、ゲノム編集による遺伝子改変等)等によって得ることができる。抗インフルエンザ活性を示す変異株が得られる限りにおいて、変異株の取得方法、特性等は特に限定されない。
【0011】
コッコミクサ属微細藻類の培養方法は特に限定されない。コッコミクサ属微細藻類を培養するための培地としては、微細藻類の培養に通常使用されているものでよく、例えば、各種栄養塩、微量金属塩、ビタミン等を含む公知の淡水産微細藻類用の培地、海産微細藻類用の培地のいずれも使用可能である。培地としては、例えば、AF6培地が挙げられる。AF6培地の組成(100mlあたり)は以下のとおりである。
NaNO3 14mg
NH4NO3 2.2mg
MgSO4・7H2O 3mg
KH2PO4 1mg
K2HPO4 0.5mg
CaCl2・2H2O 1mg
CaCO3 1mg
Fe-citrate 0.2mg
Citric acid 0.2mg
Biotin 0.2μg
Thiamine HCl 1μg
Vitamin B6 0.1μg
Vitamin B12 0.1μg
Trace metals 0.5mL
Distilled water 99.5mL
【0012】
栄養塩としては、例えば、NaNO3、KNO3、NH4Cl、尿素などの窒素源、K2HPO4、KH2PO4、グリセロリン酸ナトリウムなどのリン源が挙げられる。また、微量金属としては、鉄、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛等が挙げられ、ビタミンとしてはビタミンB1、ビタミンB12等が挙げられる。
【0013】
培養方法は、通気条件で二酸化炭素の供給とともに攪拌を行えばよい。その際、蛍光灯で12時間の光照射、12時間の暗条件などの明暗サイクルをつけた光照射、又は、連続光照射して培養する。培養条件も、コッコミクサ属微細藻類の増殖に悪影響を与えない範囲内であれば特に制限はされないが、例えば培養液のpHは3~9とし、培養温度は10~35℃にする。
【0014】
尚、コッコミクサ sp. KJ株の培養方法に関しては、特開2015-15918、WO 2015/190116 A1、Satoh, A. et al., Characterization of the Lipid Accumulation in a New Microalgal Species, Pseudochoricystis ellipsoidea (Trebouxiophyceae) J. Jpn. Inst. Energy (2010) 89:909-913.等が参考になる。
【0015】
藻体の乾燥粉末は、回収した藻体を乾燥処理と破砕(粉砕)処理に供することによって調製することができる。乾燥処理としては例えば、ドラムドライ、スプレードライ、凍結乾燥等を採用することができる。破砕処理には、ビーズ式破砕装置、ホモジナイザー、フレンチプレス、ミキサー/ブレンダー、微粉砕機等を利用することができる。乾燥処理と破砕処理の順序は問わない。また、乾燥及び破砕の機能を備えた装置を利用し、乾燥処理と破砕処理を同時に行うことにしてもよい。
【0016】
乾燥粉末の粒子径は特に限定されない。例えば、平均粒子径が0.2μm~2mm、好ましくは0.4μm~400μmの乾燥粉末にする。
【0017】
3.チミジンの併用
本発明の一態様では上記有効成分(コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末)にチミジンが併用される。言い換えれば、この態様の抗インフルエンザ剤は、コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又は藻体の乾燥粉末とチミジンを有効成分とする。チミジンを併用することで、抗インフルエンザ活性の増強(即ち、インフルエンザに対する治療効果/予防効果の増大)を期待できる。チミジン(CAS番号 50-89-5)はDNAヌクレオシドの一つであり、デオキシリボースがピリミジン塩基のチミンに接続した構造を有する。
【0018】
併用するチミジンの量は特に限定されないが、上記有効成分とチミジンの量が重量比で(但し、乾燥重量とする)、例えば100:1~1:1、好ましくは10:1~10:3となるようにする。
【0019】
典型的には、上記有効成分とチミジンを混合した配合剤として、この態様の抗インフルエンザ剤が提供されることになる。但し、上記有効成分を含有する第1構成要素とチミジンを含有する第2構成要素とからなるキットの形態でこの態様の抗インフルエンザ剤を提供することもできる。この場合、第1構成要素と第2構成要素は同時に使用されることになる。ここでの同時は、厳密な同時性を要求するものではなく、適用対象において第1構成要素の有効成分(コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末)と第2構成要素の有効成分(チミジン)が共存する状態が形成され、チミジンを併用することによる効果が発揮される限りにおいて、「同時」の条件を満たす。例えば、本発明の抗インフルエンザ剤を用いて医薬を構成した場合には、治療又は予防の対象(典型的にはヒト)に対して、例えば、両要素を混合した後に投与したり、片方の投与後、速やかに他方を投与したりすればよい。また、チミジンを併用することによる効果が得られる限りにおいて、片方の投与後、所定の時間差で他方を投与することにしてもよい。この場合、時間差を可及的に短く設定することが好ましく、例えば片方の投与後1時間以内(好ましくは30分以内)に他方を投与する。
【0020】
4.抗インフルエンザ剤の用途・使用方法
本発明の抗インフルエンザ剤はそれを含む組成物として各種用途に用いることができる。ここでの組成物の例は医薬(治療薬又は予防薬)、消毒剤、殺菌洗浄剤、食品、餌である。その用途を考慮しつつ、本発明の組成物に、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ビタラビン、ホスカルネット、トリフルリジン、オセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル)、ザナミビル水和物(商品名リレンザ)、ペラミビル水和物(商品名ラピアクタ)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名イナビル)、バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)等の抗ウイルス剤、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン等の抗菌ないし除菌成分等を含有させてもよい。
【0021】
(1)医薬
本発明の医薬はインフルエンザの治療又は予防に用いられる。本発明の医薬はインフルエンザに対して治療的効果又は予防的効果(これら二つの効果をまとめて「医薬効果」と呼ぶ)を発揮し得る。ここでの医薬効果には、(1)インフルエンザウイルスの感染の阻止、(2)インフルエンザの発症の阻止、抑制又は遅延、(3)インフルエンザに特徴的な症状又は随伴症状の緩和(軽症化)、(4)インフルエンザに特徴的な症状又は随伴症状の悪化の阻止、抑制又は遅延、等が含まれる。尚、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であることから、明確に区別して捉えることは困難な場合があり、またそうすることの実益は少ない。
【0022】
医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0023】
製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤(軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、ゲル剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、エアゾール剤等)、及び座剤である。医薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(患部への局所注入、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。また、全身的な投与と局所的な投与も対象により適応される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。
【0024】
本発明の医薬には、期待される効果を得るために必要な量(即ち治療又は予防上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約99重量%の範囲内で設定する。
【0025】
本発明の医薬の投与量は、期待される効果が得られるように設定される。治療又は予防上有効な投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与量の例を示すと、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が1 mg~20 mg、好ましくは2 mg~10 mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の状態や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【0026】
本発明の医薬による治療又は予防に並行して他の医薬(例えば、オセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル)、ザナミビル水和物(商品名リレンザ)、ペラミビル水和物(商品名ラピアクタ)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名イナビル)、バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)等の抗インフルエンザ剤)による処置を施すことにしてもよい。本発明の有効成分と作用機序の異なる薬剤を併用すれば、複合的な作用/効果が得られ、インフルエンザの治療に適用した場合には治療効果の増大を図ることができる。
【0027】
以上の記述から明らかな通り本願は、インフルエンザに罹患した対象又は罹患するおそれのある対象に対して、本発明の抗インフルエンザ剤を含む医薬を、治療又は予防上有効量投与することを特徴とする、インフルエンザを治療又は予防する方法も提供する。治療又は予防の対象は典型的にはヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物(例えばサル、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、等)、鳥類(ニワトリ、ウズラ、七面鳥、ガチョウ、アヒル、ダチョウ、カモ、インコ、文鳥等)等に適用することにしてもよい。
【0028】
(2)消毒剤、殺菌洗浄剤
本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤は、例えば、居室(病室を含む)、調理室、トイレ、洗面所、浴室等の消毒又は殺菌洗浄、食器、カトラリー(ナイフ、フォーク、スプーン等)、調理器具(包丁、ナイフ、鍋、ミキサー、電子レンジ、オーブン等)、医療器具・装置等の消毒又は殺菌洗浄、手や指先等の消毒又は殺菌洗浄に用いられる。本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤は、例えば、液状(例えばスプレー剤、ローション)、ゲル状、固形状(例えば粉末)に構成され、塗布、噴霧、散布等によって適用される。天然繊維や合成繊維等からなる担体(例えばシート状)に本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤を担持ないし付着させ、拭き取り用途等に使用される製品としてもよい。
【0029】
塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン等の抗菌ないし除菌成分、pH調整剤、界面活性剤、吸着剤、担体等を本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤に添加することにしてもよい。
【0030】
本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤には、消毒又は殺菌洗浄効果が期待できる量の有効成分が含有される。添加量は、その用途や形態等を考慮して定めることができる。
【0031】
(3)食品、餌
本発明の食品の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子・デザート類、牛乳、清涼飲料水、果汁飲料、珈琲飲料、野菜汁飲料、アルコール飲料等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物、愛玩動物用食品、愛玩動物用栄養補助食品を挙げることができる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。
【0032】
本発明の餌の例は、飼料(例えば家畜、家禽などの餌)、ペットフードである。
【0033】
本発明の食品又は餌には、治療的又は予防的効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【実施例】
【0034】
1.コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末(藻体)の調製
既報の方法に準じてコッコミクサ sp. KJ株を培養した。具体的には、AF6培地にコッコミクサ sp. KJ株を植藻した後、2%CO2(v/v)を通気し、光(300μmol/m2/s)を照射しながら室温(25℃)で48時間培養した。培養液から遠心分離により藻体を回収した。回収した藻体をドラムドライヤで乾燥させるとともに微粉砕機で粉砕し、粉末状とした(藻体の乾燥粉末)。
【0035】
2.インフルエンザウイルス感染実験
コッコミクサ sp. KJ株の藻体(乾燥粉末)について、インフルエンザに対する有効性を評価した。チミジンとの併用時の有効性の変化も検討した。
【0036】
<方法>
ウイルス株はA型インフルエンザウイルス(A/NWS/33、H1N1亜型)を用いた。
(1)以下の試験区を設け、ウイルス感染の7日前から7日後までの間、BALB/cマウス(6週齢、メス)(各群10匹)に1日2回(9時と18時)サンプルを経口投与する。
試験区#1:コントロール(蒸留水)
試験区#2:タミフル(0.2 mg/0.4 ml/day)
試験区#3:藻体(5.5 mg/0.4 ml/day)
試験区#4:藻体(4.6 mg/0.4 ml/day)
試験区#5:藻体とチミジンを90:10(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)
試験区#6:藻体とチミジンを80:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)
試験区#7:藻体とチミジンを70:30(重量比)で混合(5.6 mg/0.4 ml/day)
試験区#8:藻体と乳糖を95:5(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)
試験区#9:藻体と乳糖を90:10(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)
試験区#10:藻体と乳糖を80:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)
試験区#11:藻体、チミジン、乳糖を70:10:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)
試験区#12:藻体、チミジン、乳糖を60:20:20(重量比)で混合(5.5 mg/0.4 ml/day)
(2)0日目にウイルス(2 x 104 PFU/50μl/mouse)を、麻酔下でマウスに経鼻接種する。
(3)感染後14日間、体重および死亡例を記録する。
(4)感染3日後に、各群5匹のマウスから気道洗浄液(BALF)および肺を採取し、ウイルス定量に供する。
(5)感染14日後に、各群の残りのマウス(5匹または4匹)からBALFおよび血清を採取し、中和抗体価の測定に供する。
【0037】
<結果・考察>
(1)#3~#12は、感染7日後までの急性期には、#1(コントロール群)と同程度の体重減少経過を示したが、8日目以降には迅速な体重回復過程を辿った(
図1)。
(2)#1で1匹が感染8日後に死亡したが、他の投与群では全例生存した。
(3)#3~#12のいずれにおいても、肺(
図2)及び気道洗浄液(
図3)のウイルス量が低下したが、投与群間で大差はなかった。
(4)#3~#12の血清中(
図4)及び気道洗浄液中(
図5)の中和抗体価はいずれも、#1(コントロール群)と比較して有意に高かった。
【0038】
以上の通り、コッコミクサ sp. KJ株の藻体(乾燥粉末)に良好な抗インフルエンザ活性が認められた。また、コッコミクサ sp. KJ株の藻体(乾燥粉末)は、チミジンを併用した場合にも高い抗インフルエンザ活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の抗インフルエンザ剤は微細藻類由来の物質を有効成分とするものであり、既存の抗インフルエンザ剤とは異なる作用機序による抗インフルエンザ活性を発揮し得る。従って、既存の抗インフルエンザ剤との併用にも適し、新たな治療戦略を提供する。一方、本発明の抗インフルエンザ剤には、その有効成分が微細藻類の藻体であるが故に高い安全性も期待できる。
【0040】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。