(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】貝殻焼成物
(51)【国際特許分類】
C01F 11/02 20060101AFI20230227BHJP
【FI】
C01F11/02 Z ZAB
(21)【出願番号】P 2018225814
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】518353038
【氏名又は名称】株式会社プラスラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】518353049
【氏名又は名称】有限会社エルシオン
(73)【特許権者】
【識別番号】520381090
【氏名又は名称】株式会社ITO知財インベストメント
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】沢田 新一
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119637(JP,A)
【文献】特開2015-203028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻を焼成して得られる焼成物であって、
示差熱熱重量分析(TG-DTA)で測定される酸化カルシウム含有率が95重量%以上であり、また水酸化カルシウム含有率が5重量%以下であり、
蛍光X線分析法(XRF)で測定されるカルシウム元素含有率が95atom%以上であり、
X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が95質量%以上であり、
平均粒径が20μm以下であり、
BET比表面積が
1m
2
/g超3.0m
2/g以下である、焼成物。
【請求項2】
貝殻の一部または全部がホタテ貝殻であることを特徴とする請求項1に記載の焼成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻を焼成してできる焼成物およびそれを使用する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、貝殻廃棄物の活用方法として、これを焼成して得られる焼成物に関する研究が行われている。これら貝殻の主成分は炭酸カルシウムである。高温焼成により炭酸カルシウムから二酸化炭素が遊離して酸化カルシウムが生じ、それが空気中の水と反応して水酸化カルシウムが生じる。したがって貝殻焼成物の主な成分は水酸化カルシウムである。
【0003】
他方、強アルカリ特性に加えて、酸化・還元・活性ラジカル反応等の新規特性が期待できる酸化カルシウムが主体の焼成物に関する特性および応用研究は依然として不十分であり、多くのことが未解明のままである。
【0004】
特許文献1には、ホタテ貝殻粉末と他の無機物を900℃~1100℃で15~90分間焼結して得られる1~70μm程度の焼結体の殺菌性付与効果が開示された。しかし、焼成体における酸化カルシウムの濃度や純度、化学特性、殺菌活性のメカニズムについては何ら明らかになっていない。
【0005】
特許文献2には、荒潰ししたホタテ貝殻を1000℃~1100℃で2~4時間焼成し、湿式ビーズミル粉砕機などの高価な粉砕装置を用いて平均粒径0.5~3μmにした微細焼成粉砕物の抗ウイルス効果が開示されている。しかし、ホタテ貝殻の焼成による酸化カルシウムの純度、含有率、化学特性については何ら明らかになっていない。
【0006】
特許文献3には、洗浄ホタテ貝殻を1100℃で2時間焼成して得られた100~500nmの焼成ナノ粉末混合液の上清について抗ウイルス剤としての適用が開示された。しかし貝殻焼成パウダーの製造実施例には再現性が乏しく、貝殻焼成パウダーの製造方法、酸化カルシウムの純度、含有率、化学特性について何ら明らかになっていない。
【0007】
特許文献4には、500~600℃で低温焼成し、さらに500~900℃で中間焼成して微粉砕して得られた40μm以下の酸化カルシウム及び炭酸カルシウムの混合体(酸化カルシウム/炭酸カルシウム = 1.05~1.25)からなる貝殻焼成物パウダーの製造技術、及びその持続性のある抗菌活性が開示されている。しかし、ホタテ貝殻の焼成による酸化カルシウムの純度、含有率、化学特性については何ら明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-233720号公報
【文献】特開2008-179555号公報
【文献】特開2012-062257号公報
【文献】特許第5019123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来では、水酸化カルシウムが主体である貝殻焼成物を水に混合して得られる水分散懸濁液を使用している。しかしながらこの焼成物の溶解度は小さく、微粉末を用いても水100質量部に対して約0.1質量部しか溶解しない。上清のみの使用は、沈殿物の除去工程を必須とし、沈殿した焼成物の大きな損失を生じてしまいコストが増大するなど製造上不利であった。さらに、より高い効果を得るため焼成物の濃度を上げることが不可能であった。また、沈殿を生じている高濃度懸濁液の使用は噴霧装置の目詰まり等を生じる恐れが極めて大きい。
【0010】
貝殻焼成物の水中分散性や殺菌効果を高める目的で、平均粒径のより小さい微粉末の調製あるいは焼成物を格子状多孔質化させるよう改良されてきた(特許文献4)。これによりBET比表面積が上昇し、親水性、水中分散性、殺菌/吸着活性が高まることが知られている。他方、酸化・還元・ラジカル活性が期待でき、酸化カルシウムを主体とする貝殻焼成物の物質特性に関する研究は、不十分なものであった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、特異的活性を有する貝殻焼成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、貝殻焼成物について鋭意研究した結果、高純度な酸化カルシウムからなる貝殻焼成物を製造・保存し、その物質特性に関して緻密化するに至った。
【0013】
すなわち、本発明によれば、貝殻を焼成して得られる焼成物であって、
示差熱熱重量分析(TG-DTA)で測定される酸化カルシウム含有率が95重量%以上であり、また水酸化カルシウム含有率が5重量%以下であり、
蛍光X線分析法(XRF)で測定されるカルシウム元素含有率が95atom%以上であり、
X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が95質量%以上であり、
平均粒径が20μm以下であり、
BET比表面積が0.5m2/g以上3.0m2/g以下である、焼成物が提供される。
【0014】
貝殻の少なくとも一部はホタテ貝殻でもよい。また貝殻はホタテ貝殻を主成分として含むものでもよいし、ホタテ貝殻のみから成ってもよい。尚、以下の説明において、実施例1及び4は、それぞれ、参考例A1及びA4と読み替えることとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平均粒径が小さい貝殻焼成物が提供される。焼成物およびその懸濁液は酸化・還元・ラジカル活性、吸着効果、殺菌効果においても水酸化カルシウムが主体である従来品よりも優れている。この緻密な貝殻焼成物を利用する新たな産業分野を提案するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1~2の貝殻焼成物のSEM写真である。
【
図2】本発明の実施例1~2の貝殻焼成物の開封直後および水蒸気飽和インキュベーター内7日後のSEM写真である。
【
図3】本発明の実施例1~2の貝殻焼成物の水和発熱反応温度の比較である。
【
図4】本発明の実施例3、比較例1、参考例1~3の焼成物の水和発熱反応温度の比較である。
【
図5】本発明の実施例1~2、比較例1、参考例1~3の焼成物の窒素酸化物に対する還元除去力の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
【0018】
(本発明の焼成物)
本発明の焼成物を製造する開始材料は貝殻である。貝殻とは、一般に貝と呼称される生物やこれに類する生物(多くは貝殻亜門に属する)が外殻として形成する、炭酸カルシウムを含む材料を指す。
【0019】
貝は一般的に一枚貝、二枚貝、巻貝といった分類に分けられる。一枚貝としてはアワビ、トコブシなどが挙げられ、二枚貝としてはホタテ、カキ、シジミ、ハマグリ、アサリなどが挙げられ、巻貝としてはサザエ、ツブ、カタツムリなどが挙げられる。いずれの貝の貝殻も開始材料として使用可能であるが、洗浄が容易で不純物の混入リスクを低減できることから二枚貝の貝殻が好ましい。二枚貝の貝殻の中でもホタテ貝殻とカキ貝殻がより好ましく、ホタテ貝殻が特に好ましい。
【0020】
本発明の焼成物の平均粒径は20.0μm以下、15.0μm以下、10.0μm以下、8.0μm以下、6.0μm以下、5.0μm以下、または2.0μm以下である。
【0021】
本発明の焼成物の平均粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定すればよい。このような装置として、例えば、CILAS(株式会社アイシンナノテクノロジーズ)が挙げられる。また、本発明の焼成物の形状や表面構造は、2000倍~10000倍の任意の倍率のSEM画像から求めることができる。
【0022】
焼成物の波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)によって測定可能な元素に占めるカルシウム元素の割合は、90atom%以上、91atom%以上、92atom%以上、93atom%以上、94atom%以上、95atom%以上、96atom%以上、97atom%以上、98atom%以上、99atom%以上としてもよい。
【0023】
蛍光X線分析(XRF)により、カルシウム以外にもカリウム、硫黄、リン、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、ケイ素、ストロンチウムなどの微量な含有率も測定できる。なお、波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)では炭素や酸素は測定されない。
【0024】
波長分散型蛍光X線分析法(XRF)の装置として、RIX3100(理学電機工業株式会社製)が挙げられる。
【0025】
焼成物の酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および炭酸カルシウム含有割合は示差熱熱量重量分析装置を用いて推定される。示差熱熱量重量分析により、300℃前後の重量変化から水分の含有を推定し、350℃前後の重量変化から水酸化カルシウムの含量を推定し、600℃前後の重量変化から炭酸カルシウムの含量を推定できる。
【0026】
本発明の焼成物の示差熱熱量重量分析(TG-DTA)によって測定される30~1000℃における重量維持割合(酸化カルシウム含有割合とも表現する)は、75.0重量%以上、80.0重量%以上、85.0重量%以上、90.0重量%以上、95.0重量%以上、99.0重量%以上、99.3重量%以上、または99.5重量%以上である。重量維持割合とは、30℃時点における重量に対する1000℃時点における重量の百分率である。
【0027】
示差熱熱重量分析(TG-DTA)の装置として、例えば、TGA851e(メトラー・トレド社製)が挙げられる。示差熱熱重量分析の測定は、窒素100mL/min気流中、10℃/分の昇温速度にて30℃から1000℃まで昇温して行う。
【0028】
本発明の焼成物のX線回折分析法(XRD)によって測定される酸化カルシウム含有率は、90.0質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、96質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、または99.5質量%以上である。
【0029】
X線回折分析法(XRD)の装置として、例えば、X`Pert-PRO(Philips)が挙げられる。
【0030】
本発明の焼成物のBET比表面積は、0.2m2/g以上、0.3m2/g以上、0.4m2/g以上、0.5m2/g以上、0.6m2/g以上、0.7m2/g以上、0.8m2/g以上、0.9m2/g以上、または1.0m2/g以上である。他方、3.0m2/g以下、2.8m2/g以下、2.6m2/g以下、2.4m2/g以下、2.2m2/g以下、または2.0m2/g以下である。
【0031】
BET比表面積を解析する装置として、例えば、Quantachrome社製ChemBET3000が挙げられる。BET比表面積の測定方法は特に制限されず通常使用される条件で測定してよい。
【0032】
本発明の貝殻焼成物とその水性懸濁液は有毒物質や有機物質の吸着、洗浄(皮膚・傷洗浄、うがいなど)、除去、無毒化活性、殺菌活性、消臭活性などの効果が従来品より優れている。ここで水性懸濁液の溶媒は水を含む溶媒(例えば、純水または純水にアルコール、リン酸ナトリウムやポリリン酸などの水溶性化合物を添加した水溶液)である。
【0033】
本発明の焼成物を水蒸気等と水和反応させると、表面化から水酸化カルシウムの形成による結晶の微細化、裂け目と細孔の形成による表面構造の変化が生じ、親水性が向上した特性変化が生じる。実際に、X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が99%以上、平均粒径が5μm以下の貝殻焼成物は、X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が75~95%、水酸化カルシウム含有率が5~20%、平均粒径が5μm以下である貝殻焼成物と比べ、水を添加した当初は親水性、水懸濁性が悪く、より多量の沈殿を生じる。
【0034】
(本発明の焼成物の製造方法)
上述の焼成物を製造するための方法の1例を以下説明する。当然のことながら、以下の方法を改変した方法や全く異なる方法によって上述の焼成物を製造してもよい。
【0035】
当該製造方法は、以下の工程(1)~(6)を記載した順に実行する。
(1)貝殻を焼成する一次焼成工程、
(2)焼成された一次焼成物を外気温まで自然冷却させる工程、
(3)一次焼成物を各フィルター(エアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルター)を通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)および/またはバグまたはサイクロン集塵装置により、高圧ガスとして大気を乾燥させた空気の他、不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスを注入して二酸化炭素および水蒸気を置換除去しながら均一微粉砕化および集塵する工程、
(4)一次焼成物を二次焼成する二次焼成工程、
(5)二次焼成物を気圧103Pa以下の低気圧条件下、および/または、不活性ガス雰囲気条件下で外気温まで自然冷却させる工程、
(6)焼成炉開閉扉を窒素ガスまたはアルゴンガス雰囲気下内(焼成炉開閉扉の外側もアルゴンガス雰囲気下にする。)で冷却焼成物を搬出し、真空および/または窒素ガスまたはアルゴンガス充填包装する工程
【0036】
以下、各工程について説明する。
【0037】
なお本発明において「外気温」とは焼成を行う装置(焼成炉)が置かれている周囲環境の気温を意味する。焼成炉が配される地域や場所並びに時刻や季節によって周囲環境の気温は変動するものであり、一律に定義することはできないが、100℃未満、80℃未満、60℃未満または50℃未満の温度と解釈してもよい。
【0038】
工程(1)は、開始材料を一次焼成する工程である。この焼成において開始材料に含まれるタンパク質などに由来する炭素や水素が放出され、主成分の炭酸カルシウムは酸化カルシウムへと変質する。
【0039】
焼成温度は1200℃以上、1400℃以上、または1600℃以上である。これら温度以上にすることで充分に有機物を除去でき酸化カルシウムの純度が高くなる。他方、焼成温度の上限については酸化カルシウムの融点(約2600℃)以下であれば特に制限はないが、焼成炉への負荷やエネルギーコストの観点から1650℃以下、1600℃以下、1550℃以下、または1500℃以下が好ましい。当然のことながら、焼成工程に亘って、上記範囲内である限り、焼成温度は一定でも変動してもよい。
【0040】
焼成時間は3時間以上、4時間以上、または5時間以上である。他方、焼成時間の上限は8時間以下、7.5時間以下、7時間以下、または6.5時間以下が好ましい。
【0041】
工程(1)は有機物の除去を行うため酸素含有雰囲気下(通常は大気雰囲気下)で実行する。タンパク質などに含まれる炭素や水素は酸素と反応し、二酸化炭素や水となって開始材料から遊離する。
【0042】
外気温から先の焼成温度に昇温する速度に特に制限はないが、通常は100~500℃/時間、150~450℃/時間、200~400℃/時間または250~350℃/時間である。
【0043】
工程(2)は、工程(1)によって焼成された一次焼成物を冷却する工程である。積極的に冷却させるのではなく、加熱を停止させ放熱によって外気温まで自然冷却させる。工程(2)に要する時間は外気温の温度や開始材料によって左右されると考えられるが、凡そ、10時間以上、15時間以上、20時間以上である。
【0044】
工程(2)は任意の雰囲気下で行ってよい。例えば、不活性ガス(ヘリウムや窒素ガスなど)雰囲気下でもよいし、大気雰囲気下でもよい。また工程(1)の雰囲気下と同じでも異なっていてもよい。水和反応を防ぐため、低湿度環境で冷却することが好ましい。
【0045】
緩やかに自然冷却させる過程において、酸化カルシウムが高い結晶性を維持したまま冷却されるものと解される。
【0046】
工程(3)において、粉末状態になった焼成物をエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルター等のフィルターを通じて不純物を除去し、特殊コンプレッサーで非常に乾燥された高圧ガスエネルギーで粒子を加速し、粒子衝突により超微粉砕を実現できる装置(ナノジェットマイザー;NJ-300-D)を使用して微粉砕する。高圧ガスとして大気を乾燥させた空気の他、不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスの使用も可能である。
【0047】
工程(4)は、焼成物をさらに焼成する二次焼成工程である。一次焼成物焼成後において、大気中の水蒸気や焼成による生成ガスである二酸化炭素と反応することにより酸化カルシウムの割合が減少すると考えられる。このため、酸化カルシウムの純度を維持、向上させるため、再焼成を行う。
【0048】
二次焼成工程の焼成温度は600℃以上、700℃以上、800℃以上、850℃以上、900℃以上、950℃以上である。これら温度以上で焼成することで充分に炭酸カルシウム、水酸化カルシウムを酸化カルシウムへと変化させることができる。二次焼成工程の焼成温度は約2600℃(酸化カルシウムの融点)以下であり、通常1500℃以下、1200℃以下、1000℃以下である。
【0049】
二次焼成工程の焼成時間は1時間以上、1.5時間以上または2時間以上である。他方、焼成炉への負荷やエネルギーコストの観点から7時間以下、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下が好ましい。
【0050】
工程(5)は、二次焼成後の冷却工程である。二次焼成物中の酸化カルシウム含有割合を維持するため、気圧103Pa以下の低気圧条件下、および/または、不活性ガス条件下で自然冷却を行う。
【0051】
工程(6)では、焼成炉内に不活性ガスを注入し、焼成炉開閉扉を行う。この場合は観音開き状態の扉ではなく、引き戸の扉が望ましい。不活性ガス雰囲気下内状態のカバーが容易である。さらにこの不活性ガス雰囲気下で焼成物を真空包装する。
【0052】
本発明における不活性ガスとしては、酸化カルシウムと反応性を有しないガスであれば特に制限はなく、例えばヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガスが挙げられる。
【0053】
なお、上述したものはあくまで1例であり、例えば、工程(5)は、工程(2)に代えて実行しても良い。工程(5)は省略して、工程(3)そして工程(6)を引き続いて実行しても良い。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
ホタテ貝殻を1450℃で6時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。
【0056】
(実施例2)
実施例1のサンプルをエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルターを通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)により微粉砕した。その後、950℃で2時間焼成した。この二次焼成物を低気圧条件下(10-4Pa以下)にて外気温まで自然冷却させた。
【0057】
(実施例3)
実施例1のサンプルをエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルターを通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)により不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスを注入して二酸化炭素および水蒸気を置換除去しながら微粉砕した。
【0058】
(実施例4)
ホタテ貝殻を1250℃で5時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。この一次焼成物を株式会社セイシン企業のIMP-400を用いて粉砕処理を施した。
【0059】
なお、特に説明がない限りいずれの工程も大気雰囲気下、大気圧下で実行した。
【0060】
(比較例1)
ホタテ貝殻を1100℃で4時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。
【0061】
(比較例2)
比較例2として開封直後の試薬石灰石由来酸化カルシウム(99.9%;和光純薬工業株式会社)を試験した。
【0062】
(参考例1)
参考例1として開封直後の試薬石灰石由来水酸化カルシウム(99.9%;和光純薬工業株式会社)を試験した。
【0063】
(参考例2)
参考例2として開封直後の市販のホタテ貝殻焼成物を試験した。
【0064】
(参考例3)
参考例3として開封直後の別の市販のホタテ貝殻焼成物を試験した。
【0065】
(平均粒径)
各粉体の平均粒径は、粒度分布測定装置(CILAS;株式会社アイシンナノテクノロジーズ)を用いて測定した。
【0066】
(カルシウム元素含有割合)
各粉体のカルシウム元素含有割合は、蛍光X線分析装置(RIX3100;理学電機株式会社製)を用いて測定した。
【0067】
(酸化カルシウム含有割合)
各粉体の酸化カルシウム含有割合および水酸化カルシウム含有割合は、示差熱熱量重量分析装置(TGA851e;メトラー・トレド社)およびX線回折装置(X`Pert-PRO;Philips)を用いて測定した。
【0068】
(BET比表面積)
実施例1~4、比較例1~2、および参考例1~3のBET比表面積は、Quantachrome社製ChemBET3000を用いて測定した。
【0069】
【0070】
(電子顕微鏡観察)
実施例および比較例に係る焼成物について、ネオオスミウムコータ(Neoc-STB;メイワフォーシス株式会社、東京)でオスミウム金属被覆後、電界解放射型走査電子顕微鏡(JSM-6340F;日本電子株式会社、東京)を用いた3000倍、10000倍のSEM画像に基づいて乾燥粉末状態の表面形状を解析した。
【0071】
実施例1~4は、皆繭状の緻密な表面構造が観察されており、そのBET比面積は、粉末の平均粒径と反比例の関係が観察された。参考例1~3は水酸化カルシウムが主体の焼成物であり、BET比面積は5m2/g以上で高値を示した。また、平均粒径が50μm以上で20%以上の水酸化カルシウムを含んだ比較例1および試薬石灰石由来酸化カルシウム焼成物である比較例2ともにBET比面積は5m2/g以上で高値を示した。
【0072】
ホタテ貝殻を1450℃で6時間焼成した実施例1および実施例2は、隣接する粒子同士が固く融着し、繭状の緻密な結晶および粒子が成長し、細孔の閉塞により反応界面積が減少している様子が観察された(
図1;実施例1および実施例2)。他方、比較例2である試薬石灰石由来酸化カルシウム微粉末(99.9%;和光純薬工業株式会社)においては、格子状多孔性の表面構造が観察されており、水和反応等の反応性は高くなることが推測された。同様な格子状多孔性の表面構造が、参考例1である試薬石灰石由来水酸化カルシウム微粉末(99.9%;和光純薬工業株式会社)において観察された(
図1)。
【0073】
実施例1および実施例2は、上述のように開封直後細孔の閉塞した繭状の緻密な結晶および粒子として観察された(
図2)。また7日間、37℃で水蒸気飽和インキュベーターに置くと微粉末表面は多孔性となり、水懸濁分散性が著しく向上した。なお実施例3および実施例4についても、粒径の違いがあるものの、開封直後と7日間のインキュベーション後において細孔の閉塞した繭状の緻密な表面構造から多孔性表面構造への変化が観察された。これは焼成酸化カルシウム微粉末を水蒸気等と水和反応すると、表面化から一部の水酸化カルシウムの形成による結晶の微細化、裂け目と細孔の形成による表面構造の変化が生じ、親水性の向上から水懸濁分散性が著しく向上したと推察する。
【0074】
(水和発熱性)
5質量%の実施例1および実施例2は、それぞれ水添加後5~30分および15~40分に水温は最高40℃まで上昇した(
図3)。また10質量%の実施例1および実施例2は、それぞれ5~30分および15~40分に水温は最高50℃まで、さらに20質量%の実施例1および実施例2は、それぞれ5~30分および15~40分に水温は最高60℃まで上昇した(データは示していない)。
【0075】
酸化カルシウムの水和反応による水酸化カルシウムへの変化は発熱反応であり、発熱がないと言われる市販のホタテ貝殻焼成物は、焼成後の冷却、湿式粉砕、保管過程においてほとんどの酸化カルシウムが水酸化カルシウムに変化したものと推察する。一例として実施例1および実施例2を37℃、水蒸気飽和条件下で7日間インキュベーションすると、5質量%の実施例1および実施例2の水温は5~10分後に30℃程度に減少した(
図3)。データは示さないが、同様の37℃、水蒸気飽和条件下で7日間インキュベーションによる発熱量減少は、実施例3および実施例4についても観察された(データは示していない)。
【0076】
他方、20質量%の試薬石灰石由来酸化カルシウム(99.9%;和光純薬工業株式会社)は、水添加後2~6分で水温は最高100℃を超える発熱を示した(
図4)。一方、20質量%の本実施例1~4は、水添加後6~30分で水温は最高60℃にとどまった(データは示していない)。
【0077】
この実施例1~4であるホタテ貝殻焼成物と試薬石灰石由来酸化カルシウムの発熱反応速度の違いは、それぞれの酸化カルシウム微粉末の表面構造によると推測できる。すなわち、ホタテ貝殻焼成物では、隣接する粒子同士が固く融着し、繭状の緻密な結晶および粒子が成長し、細孔の閉塞により反応界面積であるBET比表面積が減少しているのに対して、試薬石灰石由来酸化カルシウムでは、格子状多孔性の表面構造が観察されており、BET比表面積および水和反応性が高くなると考えられる。
【0078】
この焼成物とは対照的に、20質量%の参考例1としての試薬石灰石由来水酸化カルシウム(99.9%;和光純薬工業株式会社)、参考例2および参考例3としての市販ホタテ貝殻焼成物は、水添加後、水温上昇は観察されなかった。
【0079】
(窒素酸化物の還元能)
本研究の過程で、酸化カルシウム水懸濁液はNO2およびNO3を還元し、NO3―>NO2―>N2O―>N2による脱窒素反応を引き起こす、すなわち脱窒素能力を見出した。水酸化カルシウムはこの窒素酸化物に対する還元力がなく、酸化カルシウムに特有なものである。本研究では、それぞれの焼成物の脱窒素能力を評価した。
【0080】
本実験では、NO
3(30ppm)およびNO
2(1.8ppm)を含んだ水に直接濃度が0.2質量%になるように、それぞれの焼成物を添加してよく撹拌した後、経時的に残存NO
3およびNO
2を測定した(
図5A)。
【0081】
0.15質量%の実施例1~2および比較例2は、混合後15分以内に水中NO3(30ppm)およびNO2(1.8ppm)は完全に消失した。同様に実施例3および実施例4も混合後15分以内に水中NO3(30ppm)およびNO2(1.8ppm)は完全に消失した(データは示していない)。
他方、参考例2および参考例3は水中NO3(30ppm)およびNO2(1.8ppm)を全く減少させなかった。同様に参考例1も水中NO3(30ppm)およびNO2(1.8ppm)を全く減少させなかった(データは示していない)。
7日間、37℃で水蒸気飽和インキュベートした実施例1~2は、混合後15分以内に水中NO3(30ppm)およびNO2(1.8ppm)をマイルドに減少させた。
【0082】
さらに、それぞれの焼成物に水を添加し、所定時間水和反応させた後、NO3(30ppm)およびNO2(1.8ppm)を含んだ水と混合し、1時間後に残存NO3およびNO2を測定した。
【0083】
実施例1~3および比較例2では、水和反応時間の増加とともに脱窒素能力が減少することがわかった。特に比較例2は1時間の水和反応で脱窒素能力が半分以下に減少した。対照的に実施例1~3は、水と混合後3時間以上を経て脱窒素能力が半減する(
図5B)。同様に、実施例4および比較例1も、水と混合後3時間以上を経て脱窒素能力が半減した(データは示していない)。一方で、参考例1~3において脱窒素能力は全く観察されていない。これは、脱窒素能力の主体は酸化カルシウムであり、水添加による水和反応で、酸化カルシウムが水酸化カルシウムへと変化し、酸化カルシウム含量の減少とともに脱窒素能力も減少したと推測された。
【0084】
上記結果から実施例1~4の水懸濁液は、酸化カルシウムとしての十分な効果が期待できる。