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特許7233048流体界面状態測定装置、流体界面状態測定方法
<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】流体界面状態測定装置、流体界面状態測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 13/02 20060101AFI20230227BHJP
【FI】
G01N13/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019039304
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020143946
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-10-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人 日本化学会発行、日本化学会第98春季年会(2018)予稿集DVD、発行日2018年3月6日 公益社団法人 日本化学会発行、第69回 コロイドおよび界面化学討論会 講演要旨集、発行日2018年9月4日 材料技術研究協会発行、2018年度材料技術研究協会 討論会講演要旨集、発行日2018年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162504
【氏名又は名称】協和界面科学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】平野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊郎
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0212027(US,A1)
【文献】特開2009-133857(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0277742(US,A1)
【文献】米国特許第05542289(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 13/00 - 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース流体を貯留する容器と、
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第一界面を形成するように、第一流体を保持する第一流体保持部と、
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第二界面を形成するように、第二流体を保持する第二流体保持部と、
前記第一界面と前記第二界面の距離を接近させる界面位置移動機構と、
前記第一界面と前記第二界面を接近させる際に前記第一流体保持部及び/又は前記第二流体保持部に作用する力を検知する力検知部、前記第一界面と前記第二界面を接近させる際に前記第一界面及び/又は前記第二界面の外形変化を検知するカメラ又はレーザー、並びに、前記第一界面と前記第二界面を接近させる際に前記第一界面及び/又は前記第二界面の膜厚を検知するセンサ、の少なくともいずれかと、
を備え、
前記第一界面と前記第二界面の接近方向に沿う軸を接近軸と定義する際に、
前記第一流体保持部及び/又は前記第二流体保持部は、前記接近軸の直角方向へ前記第一流体及び/又は前記第二流体が移動することを規制する側方支持面を有することを特徴とする、
流体界面状態測定装置。
【請求項2】
前記界面位置移動機構は、
前記第一流体保持部と前記第二流体保持部の相対距離を変化させる移動機構を有することを特徴とする、
請求項1に記載の流体界面状態測定装置。
【請求項3】
前記界面位置移動機構は、
前記第一流体及び/又は前記第二流体の液量を制御することで、前記第一界面と前記第二界面を接近させる接近用液量制御機構を有することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の流体界面状態測定装置。
【請求項4】
前記第一流体保持部は、前記第一流体が案内される第一案内路を有することを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の流体界面状態測定装置。
【請求項5】
前記第一流体と前記第二流体は、同一の対象流体となっており、
前記第一案内路を経て前記第一流体保持部に供給される前記対象流体を、前記第二流体保持部に移動させることで、前記対象流体を前記第二流体保持部に保持させることを特徴とする、
請求項4に記載の流体界面状態測定装置。
【請求項6】
前記容器の中において、前記第一流体保持部が鉛直方向の低所位置、前記第二流体保持部が鉛直方向の高所位置に配置されることを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の流体界面状態測定装置。
【請求項7】
前記側方支持面は、前記接近方向に向かって前記接近軸の径方向外側に広がる傾斜面を有することを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載の流体界面状態測定装置。
【請求項8】
前記側方支持面は、前記第一流体及び/又は前記第二流体の側面を取り囲む筒状体を有することを特徴とする、
請求項1乃至のいずれかに記載の流体界面状態測定装置。
【請求項9】
前記界面位置移動機構によって前記第一界面と前記第二界面が当接した状態で、前記第一界面と前記第二界面の間に押力を付与する付勢機構を有することを特徴とする、
請求項1乃至のいずれかに記載の流体界面特性測定装置。
【請求項10】
前記付勢機構は、前記押力を、傾斜状又は階段状に増加させることを特徴とする、
請求項に記載の流体界面状態測定装置。
【請求項11】
前記付勢機構は、
前記第一流体及び/又は前記第二流体の液量を制御することで、前記押力を変化させる押圧用液量制御機構を有することを特徴とする、
請求項又は10に記載の流体界面状態測定装置。
【請求項12】
前記力検知部、前記カメラ又はレーザー、並びに、前記センサの少なくともいずれかの検知情報に基づいて、前記第一界面と前記第二界面が当接した時から、前記第一界面と前記第二界面が合一する時までの時間を計測するタイマ手段を有することを特徴とする、
請求項1乃至11のいずれかに記載の流体界面状態測定装置。
【請求項13】
ベース流体を貯留する容器と、
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第一界面を形成するように、第一流体を保持する第一流体保持部と、
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第二界面を形成するように、第二流体を保持する第二流体保持部と、
前記第一界面と前記第二界面の距離を接近させる界面位置移動機構と、
前記第一流体保持部及び/又は前記第二流体保持部に作用する力を検知する力検知部と、
を備え、
前記容器の中において、前記第一流体保持部が鉛直方向の低所位置、前記第二流体保持部が鉛直方向の高所位置に配置され、
前記力検出部は、前記第二流体保持部に配置されて、該第二流体保持部に作用する鉛直方向の外力を検知するようになっており、
前記界面位置移動機構により前記第一界面と前記第二界面を接近させることで、前記第二流体を介して前記第二流体保持部に作用する鉛直方向の外力の変動を前記力検出部で検知することを特徴とする、
流体界面状態測定装置。
【請求項14】
容器にベース流体を貯留し、
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第一界面を形成するように、第一流体を保持する工程と
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第二界面を形成するように、第二流体を保持する工程と
前記第一界面と前記第二界面を接近させる際に前記第一流体及び/又は前記第二流体に作用する力を力検知部で検知する、前記第一界面と前記第二界面を接近させる際に前記第一界面及び/又は前記第二界面の外形変化をカメラ又はレーザー検知する、並びに、前記第一界面と前記第二界面を接近させる際に前記第一界面及び/又は前記第二界面の膜厚をセンサで検知する、の少なくともいずれかの工程と、
を備え、
前記第一界面と前記第二界面の接近方向に沿う軸を接近軸と定義する際に、
前記接近軸の直角方向へ前記第一流体及び/又は前記第二流体が移動することを側方支持面によって規制することを特徴とする、
流体界面状態測定方法。
【請求項15】
容器にベース流体を貯留し、
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第一界面を形成するように、第一流体を保持する工程と、
前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第二界面を形成するように、第二流体を保持する工程と、
前記第一流体及び/又は前記第二流体に作用する力を力検知部で検知する工程と、
を備え、
前記容器の中において、前記第一流体を鉛直方向の低所位置、前記第二流体を鉛直方向の高所位置に配置し、
前記力検出部は、該第二流体に作用する鉛直方向の外力を検知し、
前記第一界面と前記第二界面を接近させることで、前記第二流体に作用する鉛直方向の外力の変動を前記力検出部で検知することを特徴とする、
流体界面状態測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース流体中に独立して存在する対象流体の界面の特性を測定する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、混ざり合わない二種類の流体の界面には界面張力が生じる。二種類の流体が混ざり合わない状態とは、一方の流体の分子相互作用の力が、他方の流体をはるかに凌ぐことで、相分離する事を意味する。この相分離した二相の境界が界面となる。例えば、水分子同士には分子間力よりかなり強い水素結合が働くが、油の分子同士では互いに弱い分子間力しか働かない。結果、水は水分子同士で固まって安定化するので、水と油は混ざり合わない。
【0003】
二つの相が接する界面は、分子間の引力に基づき、その界面の表面積を減少させようとする力が作用する。この力が界面張力であり、単位面積当たりの界面自由エネルギーで定義される。
【0004】
界面活性剤は、この界面の構造を変化させることで、界面張力を変動させる役割がある。従って、界面活性剤等の研究開発では、二種類の流体の界面の状態を測定することが求められる。
【0005】
特許文献1には、界面状態を分析する装置が開示されている。この分析装置は、第一の流体の中で、第二の液体を注射針で供給して液滴を作成し、その挙動をカメラで撮影する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平6-511550号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の分析装置では、界面の状態を十分に分析することが難しい。本発明者らの未公知の検証によると、例えば、水中に分散している油滴の表面には、特異的な水和層が形成されていると考えられるが、その水和層が、油滴に対してどのような影響を与えているかについて、従来の分析装置では検証が困難である。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ベース流体中に独立して存在する対象流体の界面の状態を、より詳細に分析可能な測定装置等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、ベース流体を貯留する容器と、前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第一界面を形成するように、第一流体を保持する第一流体保持部と、前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第二界面を形成するように、第二流体を保持する第二流体保持部と、前記第一界面と前記第二界面の距離を接近させる界面位置移動機構と、を備え、前記第一界面と前記第二界面を接近させることにより、前記第一界面又は前記第二界面の特性を測定することを特徴とする、流体界面特性測定装置である。
【0010】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記界面位置移動機構は、前記第一流体保持部と前記第二流体保持部の相対距離を変化させる移動機構を有することを特徴とする。
【0011】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記界面位置移動機構は、前記第一流体及び/又は前記第二流体の液量を制御することで、前記第一界面と前記第二界面を接近させる接近用液量制御機構を有することを特徴とする。
【0012】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記第一流体保持部は、前記第一流体が案内される第一案内路を有することを特徴とする。
【0013】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記第一流体と前記第二流体は、同一の対象流体となっており、前記第一案内路を経て前記第一流体保持部に供給される前記対象流体を、前記第二流体保持部に移動させることで、前記対象流体を前記第二流体保持部に保持させることを特徴とする。
【0014】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記容器の中において、前記第一流体保持部が鉛直方向の低所位置、前記第二流体保持部が鉛直方向の高所位置に配置されることを特徴とする。
【0015】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記第一界面と前記第二界面の接近方向に沿う軸を接近軸と定義する際に、前記第一流体保持部及び/又は前記第二流体保持部は、前記接近軸の直角方向へ前記第一流体及び/又は前記第二流体が移動することを規制する側方支持面を有することを特徴する。
【0016】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記側方支持面は、前記接近方向に向かって前記接近軸の径方向外側に広がる傾斜面を有することを特徴とする。
【0017】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記側方支持面は、前記第一流体及び/又は前記第二流体の側面を取り囲む筒状体を有することを特徴とする。
【0018】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記界面位置移動機構によって前記第一界面と前記第二界面が当接した状態で、前記第一界面と前記第二界面の間に押力を付与する付勢機構を有することを特徴とする。
【0019】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記付勢機構は、前記押力を、傾斜状又は階段状に増加させることを特徴とする。
【0020】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記付勢機構は、前記第一流体及び/又は前記第二流体の液量を制御することで、前記押力を変化させる押圧用液量制御機構を有することを特徴とする。
【0021】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記第一流体保持部及び/又は前記第二流体保持部に作用する力を検出する力検知部を有することを特徴とする。
【0022】
上記流体界面特性測定装置に関連して、前記第一界面と前記第二界面が当接した時から、前記第一界面と前記第二界面が合一する時までの時間を計測するタイマ手段を有することを特徴とする。
【0023】
上記目的を達成する本発明は、容器にベース流体を貯留し、前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第一界面を形成するように第一流体を保持し、前記ベース流体内において、該ベース流体に対する球面状の第二界面を形成するように第二流体を保持し、前記第一界面と前記第二界面を接近させることにより、前記第一界面又は前記第二界面の特性を測定することを特徴とする、流体界面特性測定方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、流体の界面の状態を、より詳細に分析することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る流体界面特性測定装置の全体構造を示す側面図である。
図2】(A)は同測定装置の正面図であり、(B)は図1のB-B矢視断面図である。
図3】(A)乃至(D)は同測定装置の各種制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】(A)乃至(E)は同測定装置の測定状態を示す部分拡大図である。
図5】(A)及び(B)は、同測定装置における界面同士の接近方法を示す部分拡大図である。
図6】(A)及び(B)は、同測定装置における界面同士の押力の付勢方法を示す部分拡大図である。
図7】(A)は、流体同士が合一する直前の状態を示す部分拡大図であり、(B)は流体同士が合一した後の状態を示す部分拡大図である。
図8】(A)及び(B)は、測定中に荷重センサで検知される出力を示すグラフである。
図9】測定中に荷重センサで検知される出力を示すグラフである。
図10】(A)及び(B)は、同流体界面特性測定装置の変形例にかかる第一及び第二流体保持部の構造を示す部分拡大断面図である。
図11】同流体界面特性測定装置の変形例にかかる第一流体保持部の構造を示す斜視図である。
図12】(A)乃至(D)は、同変形例にかかる第一流体保持部を利用した測定状態を示す部分拡大図である。
図13】同流体界面特性測定装置の変形例を示す側面図である。
図14】同流体界面特性測定装置の変形例を示す正面図である。
図15】同流体界面特性測定装置の変形例を示す側面図である。
図16】同流体界面特性測定装置の測定によって得られた、油と水の界面の状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1に、本発明の実施形態に係る流体界面特性測定装置1の全体構造を示す。流体界面特性測定装置1は、第一及び第二流体と界面を形成するベース流体Sを貯留する容器10と、容器10内において下側(低所)に配置される第一流体保持部20と、容器10内において第一流体保持部20よりも鉛直上方側(高所)に配置される第二流体保持部30を有する。図4に示すように、第一流体保持部20は、ベース流体S内において不溶性となる第一流体Aを保持する。第一流体Aはベース流体Sに対する球面状の第一界面Kaを形成する。同様に、第二流体保持部30は、ベース流体S内において不溶性となる第二流体Bを保持する。第二流体Bは、ベース流体Sに対する球面状の第二界面Kbを形成する。なお、本実施形態では、第一流体Aと第二流体Bを同一流体とする場合を例示するが、本発明はこれに限定されず、第一流体Aと第二流体Bを異ならせることもできる。
【0028】
図1に戻って、容器10は、上面が解放された箱体であり、四本の支柱11を介して、筐体110の基部110Bに固定される。なお、支柱11と基部110Bの間には、振動を吸収するための防振材12が挿入されており、容器10に対して、外部振動が伝わりにくくなっている。
【0029】
流体界面特性測定装置1は、更に、鉛直方向の棒状部材の下端で第二流体保持部30を支持する第二支持機構38と、第二支持機構38の上端(筐体110の天井面110A)に配置されて第二流体保持部30に作用する外力(重力を含む)を検知する力検知部40と、第一流体保持部20を支持する第一支持機構28と、第一流体保持部20及び第二流体保持部30の鉛直方向の相対距離を変化させる鉛直方向保持部移動機構50と、第一流体保持部20及び第二流体保持部30の水平方向の相対距離を変化させる水平方向保持部移動機構60と、移動制御装置70と、第一流体保持部20及び/又は第二流体保持部30に対する第一流体A及び/又は第二流体Bの供給量(液量)を制御する液量制御機構100と、第一流体Aと第二流体Bの接触状態を撮影するカメラ130と、これらの部材を保持する筐体110を備える。
【0030】
鉛直方向保持部移動機構50は、水平方向保持部移動機構60を介して第一支持機構28(第一流体保持部20)を保持するテーブル52と、テーブル52を鉛直方向(Z軸方向)に往復案内するZ軸ガイド54と、Z軸ガイド54に沿ってテーブル52を駆動する駆動部56を有する。本実施形態では、第二流体保持部30は、第二支持機構38を介して筐体110の天井に固定されていることから、その鉛直方向の位置は固定される。従って、鉛直方向保持部移動機構50によって第一流体保持部20を鉛直方向に移動させることで、第一流体保持部20と第二流体保持部30の鉛直方向(接近方向)の相対距離を自在に変化させる。勿論、第二流体保持部30側を鉛直方向に移動させるようにしても良い。
【0031】
水平方向保持部移動機構60は、第一支持機構28(第一流体保持部20)を水平平面(X-Y平面)内で移動させる移動機構となっており、X軸方向に往復案内するX軸ガイド62と、Y軸方向に往復案内するY軸ガイド64と、これらを駆動する駆動部(図示省略)を有する。本実施形態では、第二流体保持部30の平面方向の位置は固定されている。従って、水平方向保持部移動機構60によって、第一流体保持部20を水平方向に移動させることで、第一流体保持部20と第二流体保持部30の水平方向の相対距離を自在に変化させる。勿論、第二流体保持部30側を水平方向に移動させるようにしても良い。
【0032】
移動制御装置70は、ソフトウエアが計算機で実行されることで、鉛直方向保持部移動機構50及び水平方向保持部移動機構60を制御する部分となる。
【0033】
鉛直方向保持部移動機構50及び水平方向保持部移動機構60は、換言すると、第一流体Aの第一界面Kaと第二流体Bの第二界面Kbの相対距離を接近・離反させる界面位置移動機構となる。鉛直方向保持部移動機構50は、第一界面Kaと第二界面Kbを鉛直方向に接近・離反させることができる。水平方向保持部移動機構60は、第一界面Kaと第二界面Kbを水平方向に接近・離反させることができる。なお、本実施形態では、第一界面Kaと第二界面Kbを鉛直方向に接近させる態様を例示する。従って、水平方向保持部移動機構60は、鉛直軸(接近軸)を基準として、第一流体Aと第二流体Bの同軸度(同芯度)を調整する目的で有効利用できる。勿論、第一界面Kaと第二界面Kbを水平方向に接近させる態様とすることも可能である。
【0034】
なお、界面位置移動機構は、鉛直方向保持部移動機構50及び水平方向保持部移動機構60のように、第一及び第二流体保持部20,30の相対位置を移動させる場合に限られない。詳細は後述するが、第一流体A及び/又は第二流体Bの液滴直径を増減させることで、第一界面Kaと第二界面Kbの相対距離を接近・離反させることも可能である。
【0035】
図7に示すように、第一流体保持部20は、鉛直方向に延びる円筒状部材となる。この円筒状部材のリング状の一端(上端)縁が、第一流体Aを保持する第一支持面20Aとなる。第一界面Kaと第二界面Kbの接近方向に沿う軸を接近軸(ここではZ軸)と定義する場合、この第一支持面20Aは、接近軸の接近方向に向かって、第一流体Aを後方側から支持する面となる。第一流体Aが、ベース流体Sと比較して低密度となる場合、第一流体Aに上昇力(浮力-自重)が作用する。一方、円筒状部材となる第一流体保持部20は、毛管力と表面張力によって、第一流体Aの浮上を抑制する。結果、第一支持面20Aによって、第一流体Aが保持される(図4(C)参照)。第一流体保持部20の円筒状部材の内部は、第一流体保持部20に第一流体Aを案内する第一案内路21となる。この第一案内路21は、後述する液量制御機構100に接続される。第一流体保持部20の円筒状部材の内径(直径)は、0.1mm~5.0mm程度、より好ましくは0.1mm~0.2mm程度に設定され、本実施形態では0.4mmに設定される。第一流体保持部20の材料は、第一流体Aに対して濡れやすい材料であることが好ましい。金属の場合は、ステンレスや白金の他、表面が錫めっきされた金属等が好ましい。
【0036】
図1に戻って、第一流体保持部20の他端は、U字状に屈曲することで、ベース流体Sの液面から外部に露出される。この露出部分がディスペンサとなっており、第一支持機構28によって保持される。
【0037】
図7に示すように、第二流体保持部30は、水平方向に延びる板状部材となる。この板状部材の下面が第二流体Bを保持する第二支持面30Aとなる。この第二支持面30Aは、鉛直軸(接近軸)の接近方向に向かって、第二流体Bを後方側から支持する面となる。第二流体Bが、ベース流体Sと比較して低密度となる場合、第二流体Bに上昇力(浮力-自重)が作用する。第二支持面30Aは、上昇力を有する第二流体Bの上面側に当接して、第二流体Bの上昇を規制する。結果、第二支持面30Aによって第二流体Bが支持される。
【0038】
図1に戻って、液量制御機構100は、いわゆる全自動ディスペンサであり、第一流体A及び/又は第二流体Bを貯留するタンク102と、これらの流体を定量輸送する液体供給ポンプ104と、液体供給ポンプ104から第一流体保持部20の第一案内路21に液体を供給する配管106と、液体供給ポンプ104を制御する液量制御装置108を備える。例えば、この液量制御機構100は、少なくとも1.0μL単位、望ましくは0.1μL単位で供給液量を制御できることが好ましく、第一流体A及び/又は第二流体Bの所望サイズの液滴を形成可能とする。流体の種類も自在に交換可能となる。なお、液量制御機構100は、全自動ディスペンサに限られず、いわゆる注射器等の手動のディスペンサであってもよい。
【0039】
力検知部40は、荷重センサ42と状態判定装置44を備えており、第二流体保持部30に作用する力を、荷重センサ42で検知する。状態判定装置44では、第二流体保持部30に対する第二流体Bの保持状態、第二流体Bの第二界面Kbに作用する外力(第一流体Aの接触状態)、第一界面Kaと第二界面Kbの合一状態等を判定する。
【0040】
第二流体保持部30が、ベース流体Sの液外に位置する際は、第二流体保持部30及び第二支持機構38の重力(自重)が荷重センサ42で検知される。第二流体保持部30がベース流体S中に浸漬させると、更に、第二流体保持部30に作用する浮力が荷重センサ42で検知される。第二流体保持部30が第二流体Bを保持すると、この第二流体Bの自重及び浮力の相殺分(以下、上昇力と称する)が荷重センサ42で検知される。第一流体Aと第二流体Bが接触すると、その外力(押力)が荷重センサ42で検知される。第一流体Aと第二流体Bが合一すると、その瞬間の両者の吸引力(合一力)が荷重センサ42で検知され、その後、第二流体保持部30側において合一した液滴分の上昇力が荷重センサ42で検知される。従って、状態判定装置44は、これらの検知を判別することで、界面の状態変化を判定・検知可能となる。
【0041】
なお、状態判定装置44は、荷重センサ42の出力を利用して、第一界面Ka、第二界面Kbの状態変化を判定・検知する場合を例示するが、荷重以外にも、カメラやレーザー等によって外形変化を検知したり、膜の存在や膜厚等を各種センサで検知したりしても良い。
【0042】
更に流体界面特性測定装置1は、上述以外にも、経過時間を測定するタイマ装置80と、測定された値から所望値を算出する評価処理装置90を有する。状態判定装置44、移動制御装置70、タイマ装置80、評価処理装置90、液量制御装置108等は、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)やコンピュータ等のいわゆる計算機で構成されており、様々な種類を用いることが出来る。一般的に計算機は、演算処理部(例えばCPU)、主記憶装置(例えばRAM)、記憶媒体(例えばハードディスクやROM)等を備えており、記憶媒体に保存される所望のプログラムが演算処理部で実行されることで、目的とする動作(制御)を実現する。なお、ここでは、移動制御装置70やタイマ装置80、評価処理装置90、液量制御装置108等が別々の計算機で実現されていてもよく、共通の計算機で実現されていてもよい。
【0043】
次に、状態判定装置44、移動制御装置70、タイマ装置80、評価処理装置90、液量制御装置108による具体的な制御方法を説明する。なお、説明で参照する図8のタイミングチャートでは、図8(A)は押力を徐々に増大させるパターンを例示し、図8(B)は、押力を一定に維持するパターンを例示する。
【0044】
図3(A)に示すように、移動制御装置70は、移転制御部710、接触制御部720、押圧制御部730を備える。移転制御部710は、図4(A)に示すように、第一流体保持部20に第二流体Bの液滴を仮形成した後、図4(B)に示すように、この第一流体保持部20を第二流体保持部30に接近させることで、この第二流体Bの液滴を第二流体保持部30に移動させる。なお、図8(A)に示すように、状態判定装置44は、第二流体保持部30に第二流体Bの上昇力(Fa-Fr)が印加されたか否かを荷重センサ42の出力から判定する。この判定タイミングTaで、移転制御部710は、第一流体保持部20の上昇を停止させて、更に下降させる。
【0045】
図4(C)に示すように、第一流体保持部20に第一流体Aの液滴が形成された後、接触制御部720は、図4(D)に示すように、第一流体保持部20を第二流体保持部30に再び接近させて、第一流体Aの第一界面Kaを、第二流体Bの第二界面Kbに接触させる。従って、接触制御部720によって制御される鉛直方向保持部移動機構50は、第一界面Kaと第二界面Kbの鉛直方向の相対距離を変化させる界面位置移動機構として機能する。なお、図8(A)に示すように、状態判定装置44は、第二流体保持部30に対して、第二流体Bの上昇力(Fa-Fr)以上の外力Fbが印加されたか否か(界面同士が接触したか否か)を判定する。界面同士が接触したタイミングTbで、接触制御部720は、第一流体保持部20の移動(上昇)を停止させる。なお、このタイミングTbが、測定開始タイミングTsとなる。なお、第一流体保持部20の上昇速度は、例えば1mm/sに設定する。
【0046】
押圧制御部730は、接触制御部720によって界面同士の接触が完了した後、図6(A)に示すように、第一流体保持部20を第二流体保持部30に更に接近(上昇)させることで、第一界面Kaと第二界面Kbの間の押力を増大させる。従って、この工程では、押圧制御部730によって制御される鉛直方向保持部移動機構50は、第一界面Kaと第二界面Kbの間に押力を付与する付勢機構として機能する。結果、第一流体A及び第二流体Bは、鉛直方向に押しつぶされて微小変形する。なお、図8(A)に示すように、状態判定装置44は、階段状又は傾斜状に増加する押力F(>Fb)を検知する。例えば、第一流体保持部20の上昇速度を0.2mm/sに設定することで、押力Fを徐々に増大させる。押力Fを増大させると、図7(B)に示すように、第一流体Aと第二流体Bの界面Ka、Kbが消失して両者が合一する。なお、ベース流体Sに対して、第一流体A及び第二流体Bの密度が低い場合は、上方側の第二流体Bに対して、下方側の第一流体Aが合流する。従って、第二流体保持部30に保持される合一後の流体の液量は、第一流体Aと第二流体Bの合計量に近似する。
【0047】
押圧制御部730は、第一流体Aと第二流体Bが合一する瞬間を検知して、第一流体保持部20の上昇(界面同士の押圧)を停止させる。なお、図8(A)に示すように、状態判定装置44は、第二流体保持部30に対して、第一流体Aと第二流体Bを合わせた液量の上昇力(Fc-Fr)が作用するか否か(液滴が合一したか否か)を判定する。なお、合一したタイミングTeによって、測定が終了する。
【0048】
タイマ装置80は、測定開始タイミングTsから測定終了タイミングTeまでの経過時間を計測する。この経過時間は、界面の膜強度の指標として用いることができる。とりわけ、図8(B)に示すように、押力Fを一定の所望値に維持する場合は、合一するまでの経過時間によって、流体界面の特性(膜強度や膜の排液特性)を評価できる。
【0049】
図3(B)に示すように、液量制御装置108は、第一液量制御部108A、第二液量制御部108B、液量側接触制御部108C、液量側押圧制御部108Dを有する。第二液量制御部108B、図4(A)に示すように、第一流体保持部20に供給する第二流体Bの液量を制御し、所望の液滴を仮形成する(この第二流体Bは第二流体保持部30に移動する)。例えば、第二流体Bの液滴の液量は、数μL程度、例えば10μL程度に設定する。第一液量制御部108Aは、図4(C)に示すように、第一流体保持部20に供給する第一流体Aの液量を制御し、所望の液滴を形成する。例えば、第一流体Aの液滴の液量は、第二流体Bと同程度であることが好ましく、数μL程度、例えば10μL程度に設定する。第一流体Aと第二流体Bを異素材とする場合は、途中で液体を交換すればよい。
【0050】
液量側接触制御部108Cは、図5(B)に示すように、第一流体保持部20と第二流体保持部30の相対距離を一定に維持した状態で、第一流体Aの液滴の液量を増大させることで、第一界面Kaと第二界面Kbを接触させる。従って、液量側接触制御部108Cによって制御される液量制御機構100は、第一界面Kaと第二界面Kbの距離を接近させる界面位置移動機構(接触用液量制御機構)として機能する。
【0051】
液量側押圧制御部108Dは、図6(B)に示すように、第一界面Kaと第二界面Kbが接触した状態、かつ、第一流体保持部20と第二流体保持部30の相対距離を一定に維持した状態で、更に第一流体Aの液量を増大させることで、第一界面Kaと第二界面Kbの間の押力を増大させる。従って、液量側押圧制御部108Dによって制御される液量制御機構100は、押力を変化させる付勢機構(押圧用液量制御機構)として機能する。
【0052】
図3(C)に示すように、状態判定装置44は、第一流体検知部44A、接触検知部44B、押力検知部44C、合一検知部44Dを有する。第一流体検知部44Aは、図8(A)に示すように、第二流体保持部30に第二流体Bに液量に相当する上昇力(Fa-Fr)が印加されたか否か(第一流体Aを保持したか否か)を荷重センサ42の出力から判定する。接触検知部44Bは、第二流体保持部30に第一流体Aに上昇力(Fa-Fr)以上の押力Fbが印加されたか否か(界面同士が接触したか否か)を判定する。押力検知部44Cは、階段状又は傾斜状に増大する押力Fpを検知する。合一検知部44Dは、第二流体保持部30に対して、第一流体Aと第二流体Bを合わせた液量の上昇力(Fc-Fr)が印加されたか否か(合一したか否か)を判定する。
【0053】
図3(D)に示すように、評価処理装置90は、経過時間評価部92、押力評価部94、接触面積評価部96、圧力評価部98を有する。図8(A)に示すように、経過時間評価部92は、タイマ装置80によって測定された経過時間(Te-Ts)を保持し、界面の指標値とする。第一流体Aと第二流体Bが合一するまでの経過時間が長い場合は、界面の膜強度が強いことを意味する。押力評価部94は、第一流体Aと第二流体Bが合一する直前の最大外力(Fbm:図8(A)参照)を取り込んで、両者の間に印加される最大押力(Fbm-Fa=Fp)を算出する。合一する直前の最大押力(Fbm-Fa=Fp)が大きい場合は、界面の膜強度が強いことを意味する。接触面積評価部96は、図7(A)に示すように、カメラ130によって撮影された映像から、第一流体Aと第二流体Bが合一する直前の界面同士の接触長さDを抽出し、この接触長さDを直径とする正円の面積(接触面積)を算出する。圧力評価部98は、押力評価部94で取得された最大押力(Fbm-Fa)を、接触面積評価部96で取得される接触面積で除することで、合一直前に界面に作用する最大圧力を算出する。最大圧力が大きい場合は界面の膜強度が強いことを意味する。
【0054】
次に、流体界面特性測定装置1による測定手順について説明する。
【0055】
(第二流体準備工程/第二流体移転行程) 図4(A)に示すように、液量制御機構100によって、第一流体保持部20に第二流体Bの液滴を一次的に形成し、次いで、図4(B)に示すように、この第二流体Bの液滴を第二流体保持部30に移動させることで、第二流体保持部30に第二流体Bを保持させる。第二流体Bは、球形状又は下側に凸となる部分球形状となり、ベース流体Sとの間に第二界面Kbを形成する。
【0056】
(第一流体準備工程) 図4(C)に示すように、液量制御機構100によって、第一流体保持部20に第一流体Aの液滴を形成する。第一流体Aの液滴は、球形状又は上側に凸となる部分球形状となり、ベース流体Sとの間に第一界面Kaを形成する。なお、第一流体Aが、第二流体Bと異なる液体の場合は、事前に液体を交換する。
【0057】
(界面接触工程) 図4(D)に示すように、第一流体保持部20の第一流体Aの第一界面Kaと、第二流体保持部30の第二流体Bの第二界面Kbを接触させる。なお、第一界面Kaと第二界面Kbの接触は、図5(A)に示すように、第一流体保持部20と第二流体保持部30を接近させる態様と、図5(B)に示すように、第一流体Aの液滴直径を増大させる態様のいずれか一方又は双方を選択できる。
【0058】
(押圧行程/時間経過行程) 図4(E)に示すように、第一界面Kaと第二界面Kbの接触状態について、時間を経過させるか又は時間の経過と同時に第一界面Kaと第二界面Kbの間の押力を増加させる。この押力は徐々に増加させることが好ましい。なお、押圧動作は、図6(A)に示すように、第一流体保持部20と第二流体保持部30を接近させる態様と、図6(B)に示すように、第一流体Aの液滴直径を増大させる態様のいずれか一方又は双方を選択できる。
【0059】
(合一行程) 図7(B)に示すように、第一及び第二界面Ka、Kbが壊れて、第一流体Aと第二流体Bが合一する。なお、界面の膜強度が低い場合は、図9に示すように、第一界面Kaと第二界面Kbが接触した瞬間に両者が合一する。従って、測定開始タイミングTsと測定終了タイミングTeがほぼ同一時刻となる。
【0060】
以上の通り、本実施形態の流体界面特性測定装置1によれば、ベース流体S内で、第一流体Aの第一界面Kaと第二流体Bの第二界面Kbを接触させることで、界面の特性を測定することができる。とりわけ、界面同士を接触させることで、その合一状態を測定することで、界面の膜強度を高精度に測定可能となる。例えば、水中に分散している油滴の界面には、特異的な水和層が形成されている可能性が有り、油滴の界面同士を当接させることで、界面間に介在する水和層の強度を測定することが可能となる。
【0061】
また、本流体界面特性測定装置1は、付勢機構を利用して、第一界面Kaと第二界面Kbの間に押力を付勢できるので、第一界面Kaと第二界面Kbの膜強度が大きい場合であっても、強制的に両者を合一させることで、強度測定が可能となる。
【0062】
更に、本流体界面特性測定装置1は、第一流体保持部20が鉛直方向の低所位置、第二流体保持部30を鉛直方向の高所位置に配置することで、第一流体Aを下方、第二流体Bを上方に保持できる。結果、第一界面Kaと第二界面Kbを、浮力方向と一致する鉛直方向に接近させる。結果、浮力の影響を、荷重センサの出力値に内在させることで、測定精度の悪化を抑制できる。更に本実施形態では、第一流体保持部20で第二流体B用の液滴を仮作成し、この液滴を、鉛直上方に配置される第二流体保持部30に移動させるので、第二流体保持部30の構造を簡素化できる。結果、第二流体保持部30側に外力を検知する力検知部40を配置することで、重力、浮力、押力を高精度に検知することが可能となる。
【0063】
なお、上記実施形態では、第一支持面20A及び第二支持面30Aが、共に水平面となっており、これらのみによって第一流体A及び第二流体Bを保持する構造を例示したが、本発明はこれに限定されない。
【0064】
例えば、図10(A)の変形例に示すように、第一流体保持部20は、第一支持面20Aに加えて、接近軸(Z軸)の直角方向に第一流体Aが移動することを規制する側方支持面23を有することが好ましい。ここでは、側方支持面23が、接近方向(鉛直上方)に延びる環状の内壁面となり、第一流体Aの一部を取り囲む。結果、第一流体Aが、第二流体Bと接触する際に、接近軸(Z軸)に対する直角方向(X-Y平面方向)に移動し難くなる。
【0065】
同様に、第二流体保持部30は、第二支持面30Aに加えて、接近軸(Z軸)の直角方向に第二流体Bが移動することを規制する側方支持面33を有することが好ましい。ここでは、側方支持面33が、接近方向(鉛直上方)に延びる環状の内壁面となり、第二流体Bの一部を取り囲む。以上の結果、第二流体Bが、第一流体Aと接触する際に、両者が、接近軸(Z軸)に対して直角方向(X-Y平面方向)に移動し難くなる。
【0066】
特に、第一界面Kaと第二界面Kbに押力を付与する際に、第一流体Aと第二流体Bの同軸性を常に高精度で維持できるので、測定精度を向上させることが可能となる。
【0067】
同様に、図10(B)の変形例に示すように、第一流体保持部20は、接近軸(Z軸)の直角方向に第一流体Aが移動することを規制する側方支持面23を有することが好ましい。ここでは、側方支持面23が、接近方向(鉛直上方)に向かって接近軸(Z軸)径方向外側に広がる傾斜面となる。より詳細に、側方支持面23は、鉛直上方に向かって拡径する円錐状(すり鉢状)の傾斜面となり、鉛直方向に第一流体Aを支持する第一支持面20Aを兼ねる。結果、第一流体Aが、第二流体Bと接触する際に、接近軸(Z軸)に対する直角方向(X-Y平面方向)に移動し難くなる。
【0068】
同様に、第二流体保持部30は、接近軸(Z軸)の直角方向に第二流体Bが移動することを規制する側方支持面33を有することが好ましい。ここでは、側方支持面33が、接近方向(鉛直下方)に向かって接近軸(Z軸)径方向外側に広がる傾斜面となる。より詳細に、この側方支持面33は、鉛直下方に向かって拡径する円錐状(すり鉢状)の傾斜面となり、鉛直方向に第二流体Bを支持する第二支持面30Aを兼ねる。結果、第二流体Bが、第一流体Aと接触する際に、接近軸(Z軸)に対する直角方向(X-Y平面方向)に移動し難くなる。
【0069】
以上の結果、第一界面Kaと第二界面Kbに押力を付与する際に、第一流体Aと第二流体Bの同軸性を常に高精度で維持できるので、測定精度を向上させることが可能となる。
【0070】
更に例えば、図11及び図12の変形例に示すように、第一流体保持部20は、第一支持面20Aに加えて、第一支持面20Aから接近軸(Z軸)方向に延びる円筒状の保持筒25を有することが好ましい。この保持筒25の内周面は、第一流体Aを取り囲む側方支持面23となる。なお、第一支持面20Aと側方支持面23の境界には、ベース流体Sが筒内に進入できるようにする連通孔25Aが周方向に複数形成される。この保持筒25は、その突端を第二流体保持部30に接近させることで、保持筒25の内周面が、第二流体Bを取り囲む側方支持面33を兼ねるようになっている。
【0071】
図12(A)に示すように、第一流体保持部20と第二流体保持部30を非接触の状態で接近させておき、先ず、第一案内路21を利用して、保持筒25内に第二流体Bの液滴を形成する。保持筒25には、連通孔25Aが形成されているので、図12(B)に示すように、第二流体Bに浮力が作用して保持筒25内を上昇し、第二流体保持部30の第二支持面30Aに当接する。なお、第二流体Bを、第一支持面20Aから切り離して積極的に浮上させるために、第一流体保持部20に対して振動や外力等を付与しても良い。結果、第二流体Bは、保持筒25の内周面(側方支持面33)によって軸直角方向の移動が規制される。
【0072】
次いで、第一案内路21を利用して、保持筒25内に第一流体Aの液滴を形成する。液滴の液量を増大させると、図12(C)に示すように、第一流体の第一界面Kaと第二流体Bの第二界面Kbが接触する。その後、更に第一流体Aの液量を増大させることで、界面間に押力を付勢できる。その後、図12(D)に示すように、第一流体Aと第二流体Bが合一して、測定が完了する。
【0073】
更に、上記実施形態では、力検知部40の荷重センサ42が、筐体110側に設置される場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図13に示すように、第二流体保持部30がベース流体S中で水平方向等に延びるカンチレバー46に保持されており、このカンチレバー46の揺動を、ベース流体S中の荷重センサ42で検知することが好ましい。このようにすると、荷重センサ42が、ベース流体Sの液面振動を検知しないで済むので、出力に含まれるノイズを低減できる。
【0074】
また、上記実施形態では、第一流体保持部20が一つ配置される場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図14に示すように、複数(ここでは2つ)の第一流体保持部20が配置されており、各第一流体保持部20に対して、それぞれ独立した液量制御機構100が接続されるようにしても良い。このようにすると、水平方向保持部移動機構60のY軸ガイド64を利用して、一方の第一流体保持部20と他方の流体保持部10を測定中に切り替えることができる。結果、一方の第一流体保持部20を利用して第二流体Bを第二流体保持部30に供給し、他方の第一流体保持部20を利用して第一流体Aを保持できる。結果、第一流体Aと第二流体Bを、容易に異材料とすることができる。
【0075】
また更に、上記実施形態では、ベース流体S中において、第一流体保持部20が低所、第二流体保持部30が高所に配置される場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば図15に示すように、第一流体保持部20を高所、第二流体保持部30を低所に配置しても良い。ベース流体Sに対して、第一流体A及び第二流体Bの密度が大きい場合は、高所の第一流体保持部20において、一時的に第二流体Bの液滴を形成し、その液滴を低所の第二流体保持部30に移動させる(或いは滴下させる)ことができる。
【0076】
更にまた、上記実施形態では、第一界面Kaと第二界面Kbの間に押力を印加する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、超音波振動を印加することで、合一状態を検出し、膜強度を評価するようにしてもよい。
【実施例
【0077】
油が水中に油滴として分散すると、油滴の表面は負に帯電する。図16に示すように、この帯電は、水中のOHの吸着に起因しているものと考えられる。また、この油滴の界面近傍の水は、通常の水よりも極性が高い。この事実は、水中に分散している油滴の界面は、油自身の性質とは異なり、特異的な水の層が形成されていることを示唆している。そこで、本発明者らは、上記実施形態の流体界面特性測定装置1を利用し、第一流体A及び第二流体Bを油とし、ベース流体Sを水として、エマルション滴の界面膜強度を測定した。なお、油剤としては、炭化水素油(ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン)を使用した。また、ベース流体となる水に対して、必要に応じて、界面活性剤としてアニオン界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム:SDS)、カチオン界面活性剤(セチルトリメチルアンモニウムブロミド:CTAB)を添加した。油滴の直径は約1.5mmに設定した。
【0078】
大気中では、第一流体A(油滴)と第二流体B(油滴)同士は接触するだけで容易に合一するのに対し、本流体界面特性測定装置1を利用した水中では、第一流体A及び第二流体Bが同一油種となる場合、界面間に押力を付与しても油滴が楕円形に変形して容易に合一されないことが明らかとなった。一方、第一流体A(油滴)と第二流体B(油滴)の油種を異ならせると、その組み合わせによっては、容易に合一することも明らかとなった。また、界面活性剤を添加した水溶液中では、互いの油滴を接触させても、楕円形になることなく、正球形を維持した状態で合一することが無いことも明らかとなった。これは、油滴を覆っている界面活性剤の親水基(イオン性基)による静電気的反発等によって、油滴同士の接触を強力に防いでいることが原因であると推察された。
【0079】
更に、ベース流体Sを、超純水、塩化ナトリウム水溶液、尿素水溶液、ホルムアルデヒド水溶液、エタノール水溶液、グリセリン水溶液として、測定を行った。塩化ナトリウム水溶液、尿素水溶液、ホルムアルデヒド水溶液の場合は、油滴同士が容易に合一した。これは、油滴の界面を覆っている水和層が、塩化ナトリウム、尿素、ホルムアルデヒドによって除去されたことが原因であると推察された。
【0080】
例えば塩化ナトリウムの場合、油剤の種類(同種・異種)に依存することなく、容易に合一した。一般的に、電解質はコロイド粒子の電荷を中和し、水和水を除去する作用を有していることから、コロイド分散系では電解質の添加により凝集・析出する。このことから考えると、塩化ナトリウム水溶液中の油滴も、界面の電荷が中和され、水和層が除去されることで、容易に合一したと推察された。
【0081】
尿素やホルムアルデヒドの場合は、これら自身が水和することによって、油滴の界面を覆っていた水和層が除去され、油滴同士が合一しやすくなったと推察された
【0082】
一方、エタノール水溶液、グリセリン水溶液の場合は、油滴同士は容易に合一しなかった。これは、炭化水素部とOH基を有するエタノールとグリセリンは、油滴の界面を配向して、OH基が水分子と水素結合することにより、油滴表面に強固な(密な)水和層を形成したためであると推察された。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態で示した事例に限定されるものでは無く、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更できるものである。
【符号の説明】
【0084】
1 流体界面特性測定装置
10 容器
20 第一流体保持部
20A 第一支持面
21 第一案内路
23 側方支持面
25 保持筒
28 第一支持機構
30 第二流体保持部
30A 第二支持面
33 側方支持面
38 第二支持機構
40 力検知部
42 荷重センサ
44 状態判定装置
46 カンチレバー
50 鉛直方向保持部移動機構
52 テーブル
54 Z軸ガイド
60 水平方向保持部移動機構
62 X軸ガイド
64 Y軸ガイド
70 移動制御装置
80 タイマ装置
90 評価処理装置
100 液量制御機構
110 筐体
130 カメラ
Fp 押力
Ka 第一界面
Kb 第二界面
S ベース流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16