(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】藻類培養システム及び藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/06 20060101AFI20230227BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20230227BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20230227BHJP
B01D 53/34 20060101ALI20230227BHJP
B01D 53/62 20060101ALN20230227BHJP
【FI】
C12M1/06
C12N1/12 A
A01G33/00
B01D53/34
B01D53/62
(21)【出願番号】P 2019108365
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2021-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】302002801
【氏名又は名称】有限会社栄和商事
(73)【特許権者】
【識別番号】519210398
【氏名又は名称】有限会社K工業
(73)【特許権者】
【識別番号】504007006
【氏名又は名称】公協産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519210402
【氏名又は名称】株式会社ユタカ建設
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【氏名又は名称】山本 洋三
(74)【代理人】
【識別番号】100076244
【氏名又は名称】藤野 清規
(72)【発明者】
【氏名】土居 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 正夫
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-022331(JP,A)
【文献】特開昭52-105276(JP,A)
【文献】特開2008-093515(JP,A)
【文献】特開平07-284642(JP,A)
【文献】特開2009-136739(JP,A)
【文献】特開平05-176653(JP,A)
【文献】特表2007-512025(JP,A)
【文献】特開2015-192669(JP,A)
【文献】大下紘史、中田俊彦,P-401 地域特性を考慮した微細藻類バイオマスエネルギーシステムの導入可能性評価, 第5回バイオマス科学会議, 2010, p. 154-155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海の沿岸に立設された事業所から排出される二酸化炭素を含む排ガスと、前記事業所によって海から取り込まれ昇温されて排出される海水からなる温排水と、を利用することにより
キリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサのいずれかの藻類を培養する藻類培養システムであって、
前記排ガスの少なくとも一部から二酸化炭素を含む処理排ガスを精製する精製部と、
前記温排水の少なくとも一部が供給され、前記処理排ガス
の一部をイジェクターによって前記温排水に溶解させることにより二酸化炭素濃度の高い培養水とする溶解部と、
前記処理排ガスの残部と前記培養水が供給されて前記藻類が培養される培養部と、を有し、
前記溶解部は、前記イジェクターから排出された前記培養水が通る送水管を有し、
前記送水管には、前記イジェクターで発生した前記処理排ガスの気泡を細分化するための螺旋状の羽根部が設けられていることを特徴とする藻類培養システム。
【請求項2】
前記培養部は水深0.5メートル以上10メートル以下であって、
前記藻類は、前記培養部の水面から水深5メートルの間で培養されていることを特徴とする請求項1に記載の藻類培養システム。
【請求項3】
海の沿岸に立設された事業所から排出される二酸化炭素を含む排ガスと、前記事業所によって海から取り込まれ昇温されて排出される海水からなる温排水と、を利用することにより
キリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサのいずれかの藻類を培養する藻類の培養方法であって、
前記排ガスの少なくとも一部から二酸化炭素を含む処理排ガスを精製する処理排ガス精製工程と、
前記温排水の少なくとも一部が供給され、前記処理排ガス
の一部をイジェクターによって前記温排水に溶解させることにより二酸化炭素濃度の高い培養水とする溶解工程と、
前記藻類が培養される培養部に
前記処理排ガスの残部と前記培養水を供給する供給工程と、を有し、
前記イジェクターから排出された前記培養水が通る送水管には、螺旋状の羽根部が設けられており、該羽根部によって前記イジェクターで発生した気泡を細分化することを特徴とする藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は藻類培養システム及び藻類の培養方法に関し、特に火力発電所等の事業所から排出される排ガス及び排温水を利用した亜熱帯性及び熱帯性の藻類培養システム及び藻類の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの環境保全の見地から、石炭や石油等の化石燃料を使用する事業所から排出される排ガスに含まれる二酸化炭素の処理が問題になっている。特に、火力発電所から排出される排ガス中の二酸化炭素濃度は訳14%と非常に高く、大気中の二酸化炭素濃度0.034%に対して約40倍となっている。このような排ガスに含まれる二酸化炭素の除去・回収方法として、生物の光合成能力を利用して太陽エネルギーによって生物体内に固定化する技術が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
特許文献1に記載された処理排ガスのリサイクル方法では、工場に微細藻類培養地を併設し、光合成を利用して工場から排出される排ガスから分離される炭酸ガスを微細藻類に固定している。得られた微細藻類の乾燥は、100℃以上の排ガスを熱風ガスとして利用することにより行う。乾燥された微細藻類は、藻類固化装置によってペレット状に形成され火力発電所のボイラに燃料として投入される。
【0004】
特許文献2に記載された植物栽培施設では、燃料電池の排ガスに含まれる二酸化炭素を植物栽培のCO2源にするとともに燃料電池からの排熱を植物育成の暖房熱源として利用し、電気出力を温室の電力源として利用している。具体的には、植物栽培施設に設けられた熱交換手段によって、排ガスが冷却されてCO2ガスと水とに分離される。分離されたCO2ガスは、流量制御部によって温室内のCO2ガス濃度が300ppm以上となるように制御され、温室内に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-276648号公報
【文献】特開2003-250358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の炭酸ガスのリサイクル方法では、藻類培養槽で培養した藻類を藻類回収装置によって回収し、藻類固化装置でペレット状に成型し燃料として火力発電所のボイラでリサイクルされる。よって、一旦は二酸化炭素が藻類に固定されるが、当該藻類で形成されたペレットを燃やすことで再び二酸化炭素が発生するため、二酸化炭素のリサイクル効率が良いとは言えなかった。また、藻類を培養する施設や、乾燥しペレット状にするための設備など、多くの設備投資が必要となりコストが増大していた。さらに、藻類培養槽にはCO2回収装置によって排ガスから回収された二酸化炭素が供給されているが、温度管理等がなされていないため培養することができる藻類が限定的であった。
【0007】
特許文献2に記載された植物栽培施設では、家庭用の燃料電池の排ガスに含まれる二酸化炭素のリサイクルであって、大型の火力発電所など二酸化炭素を含んだ排ガスが大量に排出される設備に適用することは膨大なコストがかかるため困難であった。一般的に、陸上植物の成長速度は藻類などの海洋植物の成長速度の1/10程度であるため、植物栽培施設によって栽培される植物は成長に時間がかかり効率が良いとは言えなかった。
【0008】
そこで、本発明は、事業所からの温排水及び排ガスを利用して効率的に亜熱帯性及び熱帯性の藻類を培養することができる藻類培養システム及び藻類の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために第1の発明は、海の沿岸に立設された事業所から排出される二酸化炭素を含む排ガスと、前記事業所によって海から取り込まれ昇温されて排出される海水からなる温排水と、を利用することによりキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサのいずれかの藻類を培養する藻類培養システムであって、前記排ガスの少なくとも一部から二酸化炭素を含む処理排ガスを精製する精製部と、前記温排水の少なくとも一部が供給され、前記処理排ガスの一部をイジェクターによって前記温排水に溶解させることにより二酸化炭素濃度の高い培養水とする溶解部と、前記処理排ガスの残部と前記培養水が供給されて前記藻類が培養される培養部と、を有し、前記溶解部は、前記イジェクターから排出された前記培養水が通る送水管を有し、前記送水管には、前記イジェクターで発生した前記処理排ガスの気泡を細分化するための螺旋状の羽根部が設けられていることを特徴とする藻類培養システムである。
【0010】
本発明のうち第2の発明に係る藻類培養システムは、第1の発明に係る藻類培養システムであって、前記培養部は水深0.5メートル以上10メートル以下であって、前記藻類は、前記培養部の水面から水深5メートルの間で培養されていることを特徴としている。
【0011】
本発明のうち第3の発明は、海の沿岸に立設された事業所から排出される二酸化炭素を含む排ガスと、前記事業所によって海から取り込まれ昇温されて排出される海水からなる温排水と、を利用することによりキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサのいずれかの藻類を培養する藻類の培養方法であって、前記排ガスの少なくとも一部から二酸化炭素を含む処理排ガスを精製する処理排ガス精製工程と、前記温排水の少なくとも一部が供給され、前記処理排ガスの一部をイジェクターによって前記温排水に溶解させることにより二酸化炭素濃度の高い培養水とする溶解工程と、前記藻類が培養される培養部に前記処理排ガスの残部と前記培養水を供給する供給工程と、を有し、前記イジェクターから排出された前記培養水が通る送水管には、螺旋状の羽根部が設けられており、該羽根部によって前記イジェクターで発生した処理排ガスの気泡を細分化することを特徴とする藻類の培養方法である。
【発明の効果】
【0012】
前記第1の発明に係る藻類培養システムによると、二酸化炭素濃度の高い培養水を培養部に供給することにより、排ガス中に含まれる二酸化炭素を藻類に固定化することができる。これにより、温暖化の原因となる二酸化炭素を藻類の培養に有効利用することができる。また、温排水を用いて培養水を製造するため、排熱として捨てる温排水の熱を藻類の培養に有効利用することができる。さらに、海水からなる温排水を藻類の栽培に利用することで、海水に含まれる窒素、リンを含む栄養塩類を藻類が吸収して成長が促進されるとともに、別途肥料等を添加する必要がないため、低コストで藻類の培養を行うことができる。
【0013】
さらに、イジェクターから発生した処理排ガスの気泡が送水管の羽根部によって細分化されるため、処理排ガスを効率的に培養水に溶解させて培養水の二酸化炭素濃度を上昇させることができる。これにより、培養部で培養される藻類に効率的に二酸化炭素を供給することができる。
【0014】
また、第1の発明に係る藻類培養システムよると、培養されるキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサはいずれも食品原料として用いることが可能であるため、これらの藻類によって新たに温暖化ガスを発生させることがなく環境への負荷を低減することができる。
【0015】
前記第2の発明に係る藻類培養システムによると、藻類は水面から5メートルの間で培養されているため、十分な自然光を受けることができ、光合成によって藻類の成長が促進され、さらに、藻類の生産維持管理及び収穫等が容易となり安定した培養ができる。
【0016】
前記第3の発明に係る藻類の培養方法によると、溶解工程において排ガスから精製した二酸化炭素を含む処理排ガスを温排水に溶解させ培養水として培養部に供給するため、排ガス中に含まれる二酸化炭素を藻類に固定化することができる。これにより、温暖化の原因となる二酸化炭素を藻類の培養に有効利用することができる。また、供給工程において温排水の熱を培養部に伝えるため、排熱として捨てる熱を藻類の培養に有効利用することができる。さらに、海水からなる温排水を藻類の栽培に利用することで、海水に含まれる窒素、リンを含む栄養塩類を藻類が吸収して成長が促進されるとともに、別途肥料等を添加する必要がないため、低コストで藻類の培養を行うことができる。
【0017】
さらに、イジェクターで発生した処理排ガスの気泡が送水管の羽根部によって細分化されるため、処理排ガスを培養水に溶解させて培養水の二酸化炭素濃度を上昇させることができる。これにより、培養部で培養される藻類に効率的に二酸化炭素を供給することができる。
【0018】
また、第3の発明に係る藻類培養システムよると、培養されるキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサはいずれも食品原料として用いることが可能であるため、これらの藻類によって新たに温暖化ガスを発生させることがなく環境への負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態による藻類培養システムの概略図。
【
図2】本発明の第1の実施の形態による藻類培養システムにおける泡沫分離装置の説明図。
【
図3】本発明の第1の実施の形態による藻類培養システムにおけるイジェクター及び送水管の説明図。
【
図4】本発明の第1の実施の形態による藻類培養システムの培養槽の平面図。
【
図5】本発明の第1の実施の形態による藻類培養システムの培養槽の中央断面図。
【
図6】本発明の第1の実施の形態による藻類培養システムの培養フロー図。
【
図7】本発明の第2の実施の形態による藻類培養システムの斜視図。
【
図8】本発明の第2の実施の形態による藻類培養システムの概略図。
【
図9】本発明の第2の実施の形態による藻類培養システムにおける培養ユニットの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態の藻類培養システム1は、火力発電所等の事業所から排出される排ガスに含有される二酸化炭素を藻類に固定化するものである。ここで、二酸化炭素を含有する排ガスの種類や発生源は、火力発電所から発生する排ガスに限らず、ごみ焼却施設の燃焼ガス、自家発電システムによる排ガス、その他の産業活動によって発生する二酸化炭素を含有するガスが該当する。
【0021】
本発明の第1の実施の形態による藻類培養システム1を
図1から
図6に基づき説明する。藻類培養システム1では、火力発電所10から排出される温排水11に、排ガス12を精製した処理排ガス13を当該温排水11に溶解させることによって製造される培養水14を、培養槽4で培養される藻類21(
図4)に供給している。火力発電所10は冷却用の海水100Aを確保するために海100の沿岸に立設される。100万Kwの出力を有する火力発電所における温排水の排出量は40~60t/秒であり、100万kwの出力を有する石炭火力発電所の炭酸ガス排出量は500万t/年であり、100万kwの出力を有する天然ガス火力発電所の炭酸ガス排出量は250万t/年である。培養槽4は、本発明の培養部に相当する。
【0022】
藻類培養システム1は、温熱供給部2と、処理排ガス供給部3と、培養槽4と、溶解部5と、混合水槽20と、から主に構成される。火力発電所10では、復水器10Aの冷却のために海水100Aを利用しており、排出される温排水11は地先海水温よりも7℃以上上昇している。取水口から取り込まれた海水100Aは、復水器10Aからの熱を受け取って所定の温度まで上昇し、温熱供給部2に供給される。取水口は海100の底層近傍に設けられた底層取水形式であり、比較的温度の低い海水を取り込む。これにより、中層から海水を取り込む中間取水と比較して設備コストを削減することができる。
【0023】
温熱供給部2は、温排水11の少なくとも一部を溶解部5に供給するとともに、残りを混合水槽20に供給する。混合水槽20には、温排水11と、海水100Aと、溶解部5からの培養水14とが供給されて混合される。混合水槽20は、供給される海水100Aの流量を調整することにより、貯えられる培養水14の温度を所定の範囲内に保っている。
【0024】
処理排ガス供給部3は、排ガス12から処理排ガス13を精製する精製部30を有している。精製部30は、NOx・SOx除去工程31により排ガス12から有害物質を除去して二酸化炭素濃度の高い処理排ガス13を精製する。
【0025】
NOx・SOx除去工程31では、触媒フィルターを通過させることにより窒素化合物及び硫黄酸化物の除去を行う。なお、排煙脱硝装置によってアンモニアと窒素化合物とを反応させて除去し、排煙脱硫装置によって石灰石と硫黄酸化物とを反応させて除去してもよい。処理排ガス供給部3によって精製された処理排ガス13は、一部が直接培養槽4に供給され、残りが溶解部5に供給される。
【0026】
溶解部5は、処理排ガス13に含まれる二酸化炭素を温排水11に溶解するために設けられ、処理排ガス供給部3からの処理排ガス13が供給され、温熱供給部2から温排水11が供給される。溶解部5は、
図2に示すように、気泡の気液界面に有機物を吸着させた安定泡沫を水面上に形成することによって有機物の分離・除去を行うとともに、温排水11に処理排ガス13に含まれる二酸化炭素を溶解させる泡沫分離装置51を有している。
【0027】
泡沫分離装置51は、泡沫分離槽52と、ポンプ53と、イジェクター54と、水位調整槽55と、を備えている。泡沫分離槽52は、最上部を漏斗状に狭めてその中央に開口部52aを設け、底部は隣接する水位調整槽55と連通している。泡沫分離槽52の内部には、初期反応槽52Aが設けられている。ポンプ53は、温熱供給部2から供給される温排水11を泡沫分離槽52に圧送するために設けられている。
【0028】
イジェクター54は、ポンプ53の出口側の送水管58に設けられていて、処理排ガス供給部3から処理排ガス13が所定の圧力で供給される処理排ガス投入部54Aを備えている。イジェクター54の吐出側の送水管58には、多数の貫通孔56aが形成された螺旋状の羽根からなる羽根部56が設けられている。羽根部56は、送水管58の屈曲部57を挟んで3個と2個ずつ合計5個取り付けられている。
【0029】
ポンプ53を起動すると、温排水11が圧送されてイジェクター54を通過する。このとき処理排ガス投入部54Aから処理排ガス13が所定の圧力で供給されることにより多量の処理排ガス13が混入した気泡を含む気液混合水を生成する。気液混合水は、多数の貫通孔56aが形成された螺旋状の羽根からなる5つの羽根部56を通過することによって激しく撹拌され、渦巻き状の乱流が生じて気泡の細分化が促進される。さらに、微細化した気泡を含む気液混合水は、送水管58の屈曲部を経るときに内壁への衝突を繰り返し、急激な乱流を発生させ、気泡の細分化が促進される。
【0030】
多量の微細な気泡をともなって加圧状態下で初期反応槽52Aに圧送された気液混合水は、初期反応槽52A内で一気に加圧状態から開放され、気液混合水の乱流状態はさらに強まり、激しく撹拌されながら上昇するとともに気泡は膨張して大きくなり、活性化されて旋回しながら上方へ浮上していく。このとき、処理排ガス13に含まれる二酸化炭素が温排水11に溶解する。初期反応槽52Aから浮上した泡沫は、泡沫分離槽52へ流入するが、泡沫分離槽52は、その最上部を漏斗状に狭めてあるため、上昇速度はさらに鈍化してしばらくの間滞留し、隣接する泡沫同士が互いに接合と合一を繰り返して大きくなり、安定泡沫に成長する。最終的に泡沫は、泡沫分離槽52の最上部に設けられた開口部52aから吸着した有機物と共に系外へ排出される。
【0031】
泡沫を分離・除去した水は初期反応槽52Aから溢れて、その側壁の外側にそって泡沫分離槽52の下方へ流下し、泡沫分離槽52から水位調整槽55へと流入する。処理排ガス13に含まれる二酸化炭素が溶解した培養水14は、水位調整槽55に形成された排水口55aから混合水槽20へと供給される。
【0032】
図4及び
図5に示すように、培養槽4は、藻類21を高密度で培養する培養ユニット40と、処理排ガス13が噴霧されるエアリフト管41と、培養水14が流入する流入口42と、排水口43と、LED44と、を備えている。培養槽4は、直径8メートル、深さ2.5メートルであって、100kLの容量を有している。培養槽4は、藻類21が培養できる程度の深さである深さ0.5メートル以上であって、維持管理の容易化のために深さ10メートル以下であることが望ましい。培養ユニット40は、センターフロート45と、ループフロート46と、培養ロープ47と、培養ネット48と、から構成される。
【0033】
センターフロート45はPVC管と発泡ポリスチレンとにより構成され、培養槽4の中央に浮遊している。ループフロート46はPVC管と発砲ポリスチレンとにより構成され、直径7メートルの円形をなし培養槽4の周縁に沿うように配置される。センターフロート45とループフロート46とは、8本の培養ロープ47によって繋がれている。
【0034】
培養ロープ47には、複数の培養ネット48が半径方向外方に並んで吊下げられている。培養ネット48の網糸は、2から4ミリメールのナイロン、クレモナ、混紡のいずれかの素材から構成され、目合は20ミリメートル×20ミリメートルから50ミリメートル×50ミリメートルの範囲で培養する藻類21の種類に応じて任意に設定することができる。
なお、培養ネット48は、プラスチック製のかごなど、藻類が培養水14から窒素やリンなどの栄養分を取り込むことができ光合成が可能な構成のものと代替することができる。
【0035】
藻類21は、本実施の形態ではキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ又はヒトエグサであるが、これに限定されず紅藻類、緑藻類、褐藻類、珪藻類、藍藻類といった光合成を行う生物であって水中又は水面に生息している生物であればよい。また、高濃度二酸化炭素に耐性を有する微細藻類クロロコックム、ドルシベントラレ、又はガルディエリア属に属する微細藻類であってもよい。
【0036】
エアリフト管41は培養槽4の周縁に円周方向等間隔に4つ設けられていて、処理排ガス供給部3から処理排ガス13が供給される。エアリフト管41によって、処理排ガス13に含まれる二酸化炭素が培養槽4に溶解するとともに培養槽4内において上層水と下層水とを撹拌する。エアリフト管41は、口径50ミリメートルから100ミリメートルのPVC管であって、口径6ミリメートルから10ミリメートルのエアー管41Aから処理排ガス13が供給される。エアー管41Aには、図示せぬ流量調整バルブが設けられている。
【0037】
流入口42は培養槽4の周縁に設けられていて、混合水槽20から培養水14が供給されることにより培養槽4に緩やかな旋回流を発生させ培養ユニット40が培養槽4内を回転する。排水口43は培養槽4の中央に設けられていて上端が開口し、培養槽4のオーバーフロー水を海100に排出する。培養槽4の換水量は、100から500キロリットル/日であって、70から350リットル/分の培養水14が供給される。
【0038】
LED44は培養槽4の底面に4カ所配置され、自然光又は光合成促進波長ランプが用いられる。LED44を藻類21に照射することにより、水中照度を強化して光合成を促進させる。培養槽4では自然光とLED44とが併用されるため、水面WL近傍の藻類21には自然光が照射されて底面付近の藻類21にはLED44が照射される。これにより、藻類21の光合成が促進される。また、培養ユニット40が培養槽4内を回転するため、培養ユニット40で培養される藻類21の照度ムラが少ない。
【0039】
本実施の形態における藻類21であるキリンサイ及びスピノサムの培養条件及び炭素固定量は、以下の表1に示す通りである。
【表1】
【0040】
キリンサイを表1の条件で培養したときの炭素固定量は、乾燥後において20.7~43.1質量%となり、スピノサムを表1の条件で培養したときの炭素固定量は、乾燥後において18~40質量%となる。
【0041】
藻類培養システム1では、表1に示された培養条件を満たすために、
図6に示すような培養フローに従って、培養槽4を制御管理している。
【0042】
藻類培養システム1では、培養槽4に設けられたCO2濃度計に基づいて、培養槽4のCO2濃度が基準値である340ppm以下であるか否かを判断する(S1)。CO2濃度が基準値以下である場合には(S1:YES)、混合水槽20から培養槽4に供給される培養水14及び処理排ガス供給部3から培養槽4に供給される処理排ガス13の少なくとも一方の流量を増加させる(S2)。培養槽4のCO2濃度が基準値を超えると(S1:NO)、次のプロセスへと進む。なお、基準値とは別に処理排ガス13及び培養水14の供給を停止する供給停止値を設定してもよい。この場合の供給停止値は500ppmが好ましいが、これに限定されず藻類21の種類に応じて任意の値を設定することができる。
【0043】
次に、培養槽4に設けられた水温計に基づいて、培養槽4の水温が基準値である32℃以上であるか否かを判断する(S3)。培養槽4の海水温が基準値以上である場合には(S3:YES)、混合水槽20への海水100Aの投入量を増やして培養槽4に供給する培養水14を所定の水温まで下げる。培養槽4の水温が基準値を下回ると(S4:YES)、次のプロセスへと進む。なお、培養槽4の水温管理を下限値だけでなく上限値で管理してもよい。また、冬場など外気温が低下して培養槽4の水温が20℃よりも低下する場合は、培養槽4の上部を保温性のシートで覆ってもよい。
【0044】
次に、培養槽4に設けられた日照計に基づいて、藻類21への日照時間が基準値以下であるか否かを判断する(S5)。ここでの基準値とは予め定められた一日あたりの日照時間であって、日照時間が基準値以下である場合には(S5:YES)、LED44を所定時間点灯する(S6)。LED44での日照時間と自然光での日照時間との合計が基準値を超えると(S5:NO)、LED44が消灯する(S7)。藻類培養システム1では、S1からS7のステップを繰り返し実行することにより、表1に示す条件で藻類21を高密度で培養することが可能となる。藻類21の種類に応じて、S5からS7のステップを省略しLED44を常時点灯させてもよい。
【0045】
以下に、表1の条件で培養した藻類21の日間成長率[%]を示す。
【表2】
【0046】
キリンサイとスピノサムのいずれにおいても海水面から0.5mの範囲で培養することが望ましいが、自然光が効率的に届く海水面から5mの範囲であれば藻類21の培養が可能である。
【0047】
上述した藻類培養システム1によると、二酸化炭素濃度の高い培養水14を培養槽4に供給することにより、排ガス12中に含まれる二酸化炭素を亜熱帯性又は熱帯性の藻類21に固定化することができる。これにより、温暖化の原因となる二酸化炭素を藻類21の培養に有効利用することができる。また、温排水11を用いて培養水14を製造するため、排熱として捨てる温排水11の熱を藻類21の培養に有効利用することができる。さらに、地先海域から取水して熱交換後に放流する火力発電所10の温排水11を藻類21の栽培に利用することで、海水に含まれる窒素、リンを含む栄養塩類を吸収して成長が促進されることが見込まれるとともに、別途肥料等を添加する必要がない。これにより、低コストで藻類21の培養を行うことができる。さらに、培養槽4で培養される藻類21はバイオフィルターとしての水質浄化作用を有するため、火力発電所10の温排水11を浄化して海に排出することにより環境負荷を低減することができる。
【0048】
また、藻類21は水面WLから5メートルの間で培養されているため、十分な自然光を受けることができ、光合成によって藻類21の成長が促進され、温排水11含まれる窒素、リンも吸収する。また、藻類21の培養槽4では水温、照度、温排水の安定供給による栄養塩類の補給によって、藻類21の生産維持管理及び回収等が容易となり安定した培養ができる。
【0049】
さらに、温熱供給部2による温排水11の投入によって、亜熱帯性の藻類21であるキリンサイ、スピノサム、クビレヅタ、ヒトエグサを高密度で培養することができる。また、培養されたキリンサイやスピノサム、クビレヅタはいずれも食用として用いることが可能であるため、これらの藻類21によって新たに温暖化ガスを発生させることがなく環境への負荷が低い。
【0050】
また、培養槽4の水温が20℃~32℃となるように調整されるため、亜熱帯性の藻類21の培養に適した環境条件を実現することができる。また、培養槽4の二酸化炭素濃度が340ppm以上となるように培養水14の投入量及び処理排ガス13の供給量が調整されるため、藻類21に効率的に二酸化炭素を固定化することができる。
【0051】
次に、本発明の
実施には該当しない参考形態の藻類培養システム101を、
図7から
図9を参照して説明する。第1の実施の形態と略同一の構成については、同一の符号を付し説明を省略する。第1の実施の形態の藻類培養システム1では培養槽4で藻類21を培養していたが、
参考形態の藻類培養システム101では藻類21を火力発電所10近傍に設けられた培養プール104で高密度で培養する。培養プール104は、本発明の培養部に相当する。
【0052】
図7及び
図8に示すように、取水口115から取り込まれた海水100Aは、復水器10Aからの熱を受け取って所定の温度まで上昇し、第1の実施の形態と同様に混合水槽20を介して排水口116から培養プール104に放出される。排水口116から培養プール104に排出する培養水14は、培養プール104内の水温+7℃以内になるように調整される。
【0053】
藻類培養システム101の培養プール104は、水路117を介して海100に繋がっていて、藻類21を高密度で培養する複数の培養ユニット140を備えている。培養プール104の水深は、浅すぎると十分な海水量が確保できないため2メートル以上が好ましく、培養ユニット140の管理や藻類21の回収を考慮すると10メートル以下が好ましい。培養ユニット140は、
図9に示すように、アンカー141と、アンカーロープ142と、培養ネット143と、ブランチロープ144と、フロート145と、から構成される。アンカー141は砂や砂利等が錘の役割を果たすサンドアンカーであって、培養ユニット140の両端に設けられている。培養ネット143は、アンカーロープ142に接続されていて、本実施の形態では直径12mmの合成繊維を用いている。培養ネット143内には多数の藻類21が培養されている。ブランチロープ144の先端にはフロート145が固定されていて、フロート145の浮力によって培養ユニット140は水面から2メートルの位置に保持される。なお、図示していないが、培養プール104の底面にはLED44が設けられている。
【0054】
上述した藻類培養システム101によると、第1の実施の形態の培養槽4と比較して大規模な藻類21の培養が可能になる。また、藻類21は培養ネット343によって保持されているため、培養ネット343を巻き上げることで藻類21を一括して回収することができる。
【0055】
本発明による藻類培養システム及び藻類の培養方法は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1、101 藻類培養システム
2 温熱供給部
3 処理排ガス供給部
4 培養槽
10 火力発電所
11 温排水
12 排ガス
13 処理排ガス
14 培養水
21 藻類
51 泡沫分離装置
54 イジェクター
56 羽根部
58 送水管
100 海
100A 海水
104 培養プール