(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】圧延材誘導装置
(51)【国際特許分類】
B21B 39/14 20060101AFI20230227BHJP
B21B 39/00 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
B21B39/14 E
B21B39/00 B
(21)【出願番号】P 2020010157
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000182476
【氏名又は名称】寿産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 竣
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 祐
(72)【発明者】
【氏名】岡田 庄司
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-229609(JP,A)
【文献】特開昭55-109514(JP,A)
【文献】実開昭61-138408(JP,U)
【文献】特開平09-047809(JP,A)
【文献】特開2013-116491(JP,A)
【文献】特開2000-158010(JP,A)
【文献】特開2003-048011(JP,A)
【文献】特開2005-246431(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1640567(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 39/00-39/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パスラインを通過する圧延材に接触して前記圧延材を圧延機に誘導するガイドローラと、
一端側と他端側との間の中間部が回転支持軸を介してフレームに搖動自在に支持され、かつ前記一端側に前記ガイドローラが回転自在に取付けられたローラホルダと、
前記ローラホルダと前記フレームとの間に介在し、前記ローラホルダに、前記ガイドローラが前記パスラインから離間する向きの回転力を付与する第1の弾性部材と、
前記フレームに設けられ、前記回転力を受ける受け面と、
前記ローラホルダの他端側に設けられ、前記回転力により前記受け面を押し付ける支持ユニットと
、を有し、
前記支持ユニットは、前記ローラホルダの他端側と接続する結合部材と、前記受け面と接触する接触面を有するクッション部と、前記結合部材とクッション部との間に存在する第2の弾性部材と、前記クッション部が支持ユニットから抜けるのを抑止するクッション部の保持部材と、を有し、
前記結合部材は、前記ローラホルダの他端側の前記回転支持軸を中心としての回転方向を軸線として前記ローラホルダにねじ結合されて、前記ローラホルダに対する前記支持ユニットの該回転方向の位置が調整可能であり、
前記クッション部は前記結合部材に対して前記回転方向に摺動可能であり、
前記第2の弾性部材の弾性力の作用方向が前記クッション部の摺動方向と略一致するように前記第2の弾性部材が前記結合部材と前記クッション部との間に存在し、
前記保持部材は、前記結合部材あるいはクッション部と噛み合って前記クッション部の前記結合部材からの前記摺動方向の突出量を制約する係合部と、該係合部が前記結合部材あるいはクッション部と噛合っている状態における前記第2の弾性部材の弾性力を調整する調整ねじとを有する、
ことを特徴とする圧延材誘導装置。
【請求項2】
前記結合部材に設けられた雄ねじ
部と、前記ローラホルダに設けられた
雌ねじ
部とにより、前記結合部材と前記ローラホルダとがねじ結合される請求項1に記載の圧延材誘導装置。
【請求項3】
前記結合部材に設けられた雄ねじ
部と、前記保持部材に設けられた雌ねじ
部とにより、前記結合部材と前記保持部材とがねじ結合され、
前記保持部材に設けられた
前記雌ねじ
部が前記調整ねじを兼ねる請求項1または2に記載の圧延材誘導装置。
【請求項4】
前記クッション部の接触面は、凸面状になっていることを特徴とする請求項3に記載の圧延材誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延材誘導装置に関し、特に、圧延機に圧延材を誘導する圧延材誘導装置に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延材を圧延して棒鋼や線材を形成する圧延ラインにおいては、圧延材を正確に芯出しして圧延機に送り込む必要がある。そのため、従来から圧延機の圧延材進入側には、圧延材を誘導(案内)する圧延材誘導装置が設けられている。この圧延材誘導装置においては、様々な構造のものが提案され、実用化されている。例えば、特許文献1には、圧延軸線を中心に放射状に配置された複数の案内ローラによって圧延材を圧延機に案内して誘導する圧延材誘導装置が開示されている。各案内ローラは、フレーム本体に旋回軸に旋回可能の軸支されたアングル状のレバーの一方の脚部に回転可能に取り付けられている。そして、各レバーと調節ブッシュとが連結ロッドによって連結され、調節ブッシュを圧延軸線の方向に摺動することによって各レバーがそれぞれの旋回軸を中心に旋回して各案内ローラと圧延軸線との間の距離を同時に調節することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の圧延材誘導装置では、連結ロッドとレバーとの間に皿ばねからなる弾性部材を設けている。この弾性部材により案内ローラへの負荷軽減を図ることが可能である。また、弾性部材の予張力は保持リングによって変更可能であり、案内ローラへの負荷低減の度合も調整することができる。さらに、調節ブッシュによって案内ローラと圧延軸線との間の開度を調整することも可能である。
しかしながら、調節ブッシュは装置本体(フレーム)に対して圧延軸線方向に摺動可能な構造としてあり、案内ローラの開度調整は、装置本体に対する調節ブッシュの位置を調整することで行う構成であるため、装置本体に調節機構を設ける必要があり、装置構成が大掛かりとなる。さらに、ひとつの調節ブッシュで、複数の案内ローラの開度調整を行うように構成されており、個々の案内ローラの開度調整を個別に行うことはできない。
【0005】
本発明の目的は、圧延材誘導装置の小型化を図ると共に、案内ローラの開度および保持力を個別に調整することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る圧延材誘導装置は、パスラインを通過する圧延材に接触して圧延材を圧延機に誘導するガイドローラと、一端側と他端側との間の中間部が回転支持軸を介してフレームに搖動自在に支持され、かつ一端側にガイドローラが回転自在に取り付けられたローラホルダと、上記ローラホルダと上記フレームとの間に介在し、上記ローラホルダに上記ガイドローラが上記パスラインから離間する向きの回転力を付与する第1の弾性部材と、上記フレームに設けられ、上記回転力を受ける受け面と、上記ローラホルダの他端側に設けられ、上記回転力により上記受け面を押し付ける支持ユニットと、を有し、上記支持ユニットは、上記ローラホルダの他端側と接続する結合部材と、上記受け面と接触する接触面を有するクッション部と、上記結合部材とクッション部との間に存在する第2の弾性部材と、上記クッション部が支持ユニットから抜けるのを抑止するクッション部の保持部材と、を有し、上記結合部材は、上記ローラホルダの他端側の上記回転支持軸を中心としての回転方向を軸線として上記ローラホルダにねじ結合されて、上記ローラホルダに対する上記支持ユニットの該回転方向の位置が調整可能であり、上記クッション部は上記結合部材に対して上記回転方向に摺動可能であり、上記第2の弾性部材の弾性力の作用方向が上記クッション部の摺動方向と略一致するように上記第2の弾性部材が上記結合部材と上記クッション部との間に存在し、上記保持部材は、上記結合部材あるいはクッション部と噛み合って上記クッション部の上記結合部材からの上記摺動方向の突出量を制約する係合部と、該係合部が上記結合部材と噛合っている状態における上記第2の弾性部材の弾性力を調整する調整ねじとを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、圧延材誘導装置の小型化を図ると共に、案内ローラの開度および保持力を個別に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る圧延材誘導装置を備えた圧延ラインの概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る圧延材誘導装置の概略構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る圧延材誘導装置の概略構成を示す背面図である。
【
図4】
図2の一部を拡大した要部拡大断面図である。
【
図6】
図4において、支持ユニットからローラホルダを取り外した状態を示す図である。
【
図7】
図4において、支持ユニットの分解断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る圧延材誘導装置の保持力を調整する方法を説明する図であり、(a)は保持力調整前の状態を、(b)は保持力調整後の状態を示す。
【
図9】本発明の一実施形態に係る圧延材誘導装置の開度を調整する方法を説明する図であり、(a)は開度調整後の状態を、(b)は圧延材が噛み込んだ状態を示す。
【
図10】本発明の別の実施形態に係る圧延材誘導装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
また、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものではない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る圧延材誘導装置10は、圧延材1を所定の形状及びサイズに圧延する圧延機2の上流側(圧延材進入側)に設置され、圧延材1を圧延機2にパスライン3に沿って誘導する。なお、圧延材誘導装置10は、圧延後の圧延材1の振れ等を防止するために、圧延機2の下流側(圧延材排出側)に設置してもよい。
【0011】
図2及び
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る圧延材誘導装置10は、略円筒形状のハウジングからなるフレーム(装置本体)11と、パスライン3を通過する圧延材1に接触して圧延材1を圧延機2に誘導するガイドローラ(案内ローラ)12と、一端側と他端側との間の中間部が回転支持軸13を介してフレーム11に揺動自在に支持され、かつ一端側にガイドローラ12が回転自在に取り付けられたローラホルダ14と、を備えている。また、一実施形態に係る圧延材誘導装置10は、ローラホルダ14の他端側をフレーム11に支持する支持ユニット20を備えている。
【0012】
ローラホルダ14は、パスライン3を中心に放射状に複数個配置され、この実施形態では例えば120度の間隔で3個配置されている。そして、ローラホルダ14は、一端側がパスライン3に向かって屈曲したレバー形状で形成されている。そして、ローラホルダ14は、一端側と回転支持軸13との間において、コイルばね15の弾性力によって、ローラホルダ14がパスライン3に対して開く方向に付勢されている。すなわち、コイルばね15は、ローラホルダ14とフレーム11との間に介在し、ローラホルダ14に、ガイドローラ12がパスライン3から離間する向きの回転力を付与する第1の弾性部材として構成される。このような構成により、3個のローラホルダ14は、その一端側に回転自在に設けたガイドローラ12によって、圧延材1の外周を3方向から支持し、この圧延材1をパスライン3に沿って圧延機2に誘導(案内)する。ローラホルダ14は、パスライン3を中心として同心円状に等間隔で3箇所配置することが好ましいが、必要に応じて4箇所以上配置してもよく、また、振動方向が何れもパスライン3に向かっている限り、当角度間隔ではない配置にすることもできる。
ガイドローラ12は、詳細に図示していないが、ローラホルダ14に内包されているベアリングを介してローラホルダ14の一端側に回転自在に支持されている。
【0013】
図4及び
図5に示すように、支持ユニット20は、一端側に大径筒部22及び小径筒部21がこの順(大径筒部22が小径筒部21よりも端部側にある)で設けられ、かつローラホルダ14の他端側が連結された結合部材23を備えている。また、支持ユニット20は、一端側が小径筒部21の内側に軸方向に摺動可能に挿入され、他端側にフランジ部25が設けられたクッション軸26aを備えている。クッション軸26aの他端側にはプレッシャーメタル部材26bが、クッション軸26aと同軸に固定されている。これらクッション軸26aとプレッシャーメタル部材26bとで、クッション部26を構成している。また、支持ユニット20は、一端側が大径筒部22の底に当接して支持され、他端側がフランジ部25に当接して支持された状態でクッション軸26aの外周に設けられたコイル状の圧縮ばね27を備えている。すなわち、圧縮ばね27は、結合部材23とクッション部26との間に存在する第2の弾性部材である。圧縮ばね27は、クッション軸26aの外周にコイル状となっているので、弾性力の作用方向がクッション部26の摺動方向と一致している。
【0014】
図4及び
図5に示すように、支持ユニット20は、大径筒部22の外周面に設けられた雄ねじ部31と、凹部32の内周面に大径筒部22の雄ねじ部31と噛合う雌ねじ部33が設けられ、かつ凹部32の底32aでクッション軸26aのフランジ部25を支持するばね用ナット35とを備えている。そして、支持ユニット20は、大径筒部22の雄ねじ部31とばね用ナット35の雌ねじ部33との噛合い量を変更することによって圧縮ばね27の弾性力を調整する弾性力調整機能を備えている。雄ねじ部31と雌ねじ部33との噛合い量は、結合部材23及びばね用ナット35の何れか一方を他方に対して相対的に回転させることによって変更することができる。
【0015】
ばね用ナット35は、凹部32の底にプレッシャーメタル部材26bが挿通する貫通孔34を有している。そして、クッション軸26aの他端側には、プレッシャーメタル部材26bが設けられている。プレッシャーメタル部材26bは、クッション軸26aと反対側面がフレーム11に設けた受け面11aと当接するよう配置される。この受け面11aと当接する面37aが凸面状になっている。そして、プレッシャーメタル部材26bは、面37aとは反対側に突起37bが設けられている。この突起37bは、クッション軸26aの他端側の端面に設けられた凹部25aに挿入されて、プレッシャーメタル部材26bがクッション軸26aに固定されている。プレッシャーメタル部材26bはばね用ナット35の貫通孔34に挿入され、貫通孔34とプレッシャーメタル部材26bとの間にオーリング38が介在されている。このプレッシャーメタル部材26bは、クッション軸26aの他端側に着脱自在に装着されている。ばね用ナット35の凹部32の底32aは、クッション軸26aのフランジ部25の圧縮ばね27と反対側の面と噛み合っており、クッション部26が支持ユニット20から抜け落ちることを防止する係合部32aとして機能しており、すなわち、ばね用ナット35がクッション部26を支持ユニット20に保持する保持部材を担っている。
【0016】
図4、
図6及び
図7に示すように、支持ユニット20は、結合部材23の小径筒部21の外周に設けられた雄ねじ部41を備えている。ローラホルダ14の他端側(ガイドローラ12を支持している側と反対側)には、この他端側位置における回転支持軸13を中心としたローラホルダ14の回転方向を中心軸とした貫通孔42が設けられ、この貫通孔42の内周面には、小径筒部21の雄ねじ部41と噛合う雌ねじ部43が設けられている。つまり、結合部材23は、ローラホルダ14の他端側の回転支持軸13を中心としての回転方向を軸線としてローラホルダ14にねじ結合されている。そして、支持ユニット20は、結合部材23の小径筒部21を貫通孔42に挿入して雄ねじ部41と雌ねじ部43とを噛合わせて回転させることにより、支持ユニット20とローラホルダ14とが結合するようになっており、また、この支持ユニット20の結合部材23とローラホルダ14とのねじ結合が、支持ユニット20とローラホルダ14との相対的な移動を可能とし、パスライン3に対してガイドローラ12の位置を調整する位置調整機能を担っている。
【0017】
また、支持ユニット20は、結合部材23の他端側が貫通し、内周面に小径筒部21の雄ねじ部41と噛合う雌ねじ部44が設けられた結合部材固定ナット45と、結合部材固定ナット45の雌ねじ部44が小径筒部21の雄ねじ部41に噛合って結合部材固定ナット45が結合部材23に取り付けられた状態で、結合部材23の他端側に設けられた雄ねじ部46に内周面の雌ねじ部が噛合って結合部材23に取り付けられたナット47とを更に備えている。このナット47を締め付けることによって結合部材23のローラホルダ14に対する回動をロックする。
結合部材23の他端側の端面には、+型ドライバや-型ドライバの先端形状に対応する溝が設けられており、この実施形態では例えば一文字形状の溝が設けられている。
【0018】
次に、この実施形態に係る圧延材誘導装置10においてガイドローラ12の開度調整および保持力を調整する方法について
図8および
図9を参照して説明する。なお、
図8、
図9においては、クッション軸26a
と、プレッシャーメタル部材26bとを一体物として描きクッション部26とし、オーリング38、結合部材固定ナット45、およびナット47の記載を省略している。
【0019】
図8(a)は、開度および保持力を調整する前段階を示す。このとき、圧縮ばね27の長さLs、つまり、クッション軸26aのフランジ部25と大径筒部22の底との間隔LsをLs0、回転支持軸13の中心とクッション部26の先端(プレッシャーメタル部材26bの受け面11a側の面)との距離LをL0とする。
この状態で、結合部材23は回転させずに、ばね用ナット35を矢印Aのように回転させて、ばね用ナット35を結合部材23に対して相対移動させる。その結果、ばね用ナット35の凹部32の底32aと結合部材23の大径筒部22の底との距離Lsが変化するので、底32aと接触しているクッション軸26aのフランジ部25と、大径筒部22の底との距離が変化する。このことで、圧縮ばね27の長さはLsと等しいので、Lsを調整することで、圧縮ばね27の長さも調整でき、圧縮ばね27の弾性力の調整が可能である。よって、ばね用ナット35と結合部材23との相対位置の調整によりガイドローラ12の圧延材の保持力の調整が可能である。
【0020】
図8(b)は、圧縮ばね27の長さが、
図8(a)の状態における長さLs0よりも短い長さLs1となった状態を示している。圧縮ばね27の長さLsが短くなるようばね用ナット35と結合部材23との位置を変更すると、クッション部26の先端(プレッシャーメタル部材26bの受け面11a側の面)と回転支持軸13との距離Lが、
図8(a)の状態よりも短い長さL1となる。ローラホルダ14には、コイルばね15により、常にガイドローラ12がパスライン3から離間する方向への力が作用しており、この力を受け面11aが受けているため、クッション部26の先端と受け面11aとの接触状態が保たれるよう、ローラホルダ14は回転支持軸13を中心として回転する。
図8(b)中の一点鎖線で示すローラホルダ14およびガイドローラ12は
図8(a)と同じ位置のローラホルダ14、ガイドローラ12を、実線で示すローラホルダ14およびガイドローラ12は
図8(a)の状態から回転後のローラホルダ14、ガイドローラ12を示している。
【0021】
次に、ガイドローラ12の開度調整を行う。すなわち、パスライン3とガイドローラ12の周面との距離Lpの調整を行う。
図9(a)の点線で示すガイドローラ12、ローラホルダ14、支持ユニット20は、それぞれ、
図8(b)に示すものと同一の位置にある状態を示す。結合部材23の他端側(
図9(a)中の左側)の端面に設けている溝にドライ
バ等の工具を噛ませて、支持ユニット20の結合部材23を矢印Bのように回転させると、結合部材23とローラホルダ14とがその結合部において相対移動し、その結果、ローラホルダ14と結合部材23との結合部からクッション部26の先端までの距離Ltが変化する。
図9(a)においては、この距離Ltが、点線で示すガイドローラ12、ローラホルダ14、支持ユニット20の状態ではLt1であり、これに対して、結合部材23とローラホルダ14とがその結合部において相対移動して、実線で示すガイドローラ12、ローラホルダ14、支持ユニット20の状態となると、Lt2(>Lt1)となることを示している。距離Ltが変化すると、その変化に応じて回転支持軸13からクッション部26先端までの距離Lが変化するので、ローラホルダ14が回転支持軸13を中心に回転し、パスライン3とガイドローラ12の周面との距離Lpが変化する。よって、結合部材23をローラホルダ14に対して相対移動させることで、ガイドローラ12の開度の調整が可能である。なお、結合部材23をローラホルダ14に対して相対移動させる際には、ばね用ナット35と結合部材23とは相対移動させず、圧縮ばね27の長さLsが変化しないようにすることで、保持力は一定に保つ。
【0022】
なお、圧縮ばね27はその弾性力が、上記した弾性力調整機能の調整範囲内のいずれの場合であっても、コイルばね15の弾性力よりも十分大きな値となっている。圧縮ばね27を圧縮する力は、圧延材1をガイドローラ12に接触する前段階(以下、通材前段階と云う)においては、コイルばね15がローラホルダ14を回転させようとする力と、受け面11aがクッション部26を介してこの力を受ける反作用の力とである。圧縮ばね27の弾性力がコイルばね15の弾性力よりも十分に大きくなっているので、通材前段階においては、圧縮ばね27の弾性力により、クッション軸26aのフランジ部25が、ばね用ナット35の凹部32の底32aと接する状態となる。すなわち、クッション部26のばね用ナット35からの突出長さが、突出限度の最大の値となる。
【0023】
以上で、本実施形態における圧延材誘導装置10の初期設定は完了する。
図9(b)は、圧延材1が圧延材誘導装置10のガイドローラ12に噛込んだ際に、ガイドローラ12の開度が圧延材1の径やパスライン3からのずれに応じて大きくなる様子を示している。
図9(b)中の点線で示すガイドローラ12およびローラホルダ14は、初期設定状態における位置(
図9(a)における実線で示すガイドローラ12、ローラホルダ14と同一位置)を示しており、
図9(b)中の実線で示すガイドローラ12およびローラホルダ14は、圧延材1が噛込んだことにより、開度が大きくなった時の位置を示している。
図9(b)に示すものでは、噛込み時は初期設定に対してガイドローラ12の開度はΔLpだけ変化している。この開度の変化にともない、ローラホルダ14が回転支持軸13を中心に回転すると、支持ユニット20の結合部材23およびばね用ナット35がローラホルダ14とともに回転する。すると、結合部材23の大径筒部22の底が受け面11a側へと移動し、一方、クッション部26は受け面11aと接触していて移動できないので、圧縮ばね27は圧縮される。
図9(b)中の長さdが、ローラホルダ14の開度変化にともなう、圧縮ばね27の圧縮長さである。圧縮ばね27は、結合部材23を介してローラホルダ14に対して、ガイドローラ12の開度を小さくする向きに弾性力を発生させているので、この弾性力に応じたガイドローラ12による圧延材1の保持力を維持できる。
【0024】
一実施形態に係る圧延材誘導装置10では、パスライン3を通過する圧延材1にガイドローラ12が接触し、このガイドローラ12の接触により圧延材1を圧延機2に誘導する。圧延材1がガイドローラ12に接触すると、圧延材1の寸法精度のバラツキや、圧延材1の位置ずれ等により、回転支持軸13を中心にしてローラホルダ14の一端側がパスライン3から離れる方向に移動し、ローラホルダ14の他端側が結合部材23の大径筒部22をフレーム11の受け面11aに向かって押圧する。そして、この押圧力により、支持ユニット20の圧縮ばね27が伸縮し、ローラホルダ14の他端側がフレーム11の受け面11aに向かって移動する。すなわち、一実施形態に係る圧延材誘導装置10は、ガイドローラ12が圧延材1に接触しているときにガイドローラ12に負荷される荷重を支持ユニット20の圧縮ばね27で吸収して緩和することができ、ガイドローラ12に内包されているベアリングへの負荷を軽減できる。これにより、一定以上の応力発生時においてベアリングに生じる焼き付きなどの不具合を抑制でき、ガイドローラ12の回転不良により圧延材1に疵が発生することも抑制できる。
【0025】
また、支持ユニット20は、圧縮ばね27の弾性力を調整する弾性力調整機能と、パスライン3に対してガイドローラ12の位置を調整する位置調整機能と、を備えている。そして、圧縮ばね27の弾性力は、ばね用ナット35を回転させることにより、変更することができる。一方、パスライン3に対するガイドローラ12の位置は、結合部材23を回転させることにより、圧縮ばね27の弾性力を変更することなく、変更することができる。したがって、一実施形態に係る圧延材誘導装置10は、圧縮ばね27の弾性力調整と、パスライン3に対するガイドローラ12の位置調整とを個別に行うことができる。よって、フレーム本体に調節機構を設ける必要もなく、装置構成が大掛かりとなることもない。
【0026】
さらに、複数のガイドローラ12をパスライン3の周りに複数配置する場合においても、個々のガイドローラ12について、上述の一実施形態のような構成とすることで、個々のガイドローラ12の開度調整を個別に行うことはできる。よって、例えば、ガイドローラ12の摩耗度の違い等に対応するために、ガイドローラ12毎に開度調整を行う必要がある場合にも対応できる。
また、プレッシャーメタル部材26bは、クッション軸26aの一端側の端面に着脱自在に装着されているので、プレッシャーメタル部材26bの摩耗時の交換を容易に行うことができる。
【0027】
また、プレッシャーメタル部材26bは、フレーム11の受け面11aと当接する面37aが凸面状になっている。このため、支持ユニット20がフレーム11の受け面11aに対して若干斜めになっていても、支持ユニット20をフレーム11に支持させることができる。なお、クッション部26として、その先端の摩耗時等の場合に、クッション部26ごと交換してもよい場合は、クッション部26として、プレッシャーメタル部材26bとクッション軸26aとが一体に構成されていてもよい。
【0028】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
図10は本発明の別の実施形態に係る圧延材誘導装置110を示す。
図10に示す圧延材誘導装置110は、
図2~
図9に示すものに対して、支持ユニットの構成が異なっている。その他の構成は、
図2~
図9に示す実施形態と同様である。
図10に示す実施形態において、支持ユニット120は、結合部材123が筒状部材123aと筒状部材123bとからなる。筒状部材123aは、一端にフランジ部122を有する。筒状部材123aの筒状の部分は、結合部材123の全長にわたっており、つまり、筒状部材123aは軸方向に貫通する貫通孔を有している。筒状部分の外周の一部には、雄ねじ部141がある。この筒状部材123aの雄ねじ部141と、ローラホルダ14の雌ねじ部43とが噛み合うことで、筒状部材123aとローラホルダ14とがねじ結合している。ここで、フランジ部122が受け面11a側となるように、結合部材123とローラホルダ14とは結合している。筒状部材123bは、貫通孔を有する部材であり、一端側(受け面11a側となる側)には、筒状部材123aに設けた雄ねじ部141と噛み合う雌ねじ部を有する。そして、筒状部材123aと筒状部材123bがねじ結合されて、一体の結合部材123を構成している。筒状部材123bは、結合部材123のローラホルダ14に対する位置ずれを防止する機能も有しており、この筒状部材123bを締め付けてローラホルダ14に接触させることによって筒状部材123aのローラホルダ14に対する回動をロックする。
【0029】
結合部材123の貫通孔には、クッション軸126aが結合部材123に対して摺動可能に挿入されている。クッション軸126aは一端にフランジ部125を有し、このフランジ部が受け面11a側に位置するよう、配置される。クッション軸126aの先端(受け面11a側)にはプレッシャーメタル部材126bが固定されている。プレッシャーメタル部材126bの受け面11a側の面137aが、受け面11aと当接する面であり、この面137aは、凸面状になっている。クッション軸126aとプレッシャーメタル部材126bとで、クッション部126を構成している。
【0030】
クッション軸126aのフランジ部125と結合部材123のフランジ部122との間に、圧縮ばね27(本発明における第2の弾性部材に相当)が配置される。圧縮ばね27は、一端側が結合部材123のフランジ部122に当接して支持され、他端側がクッション軸126aのフランジ部125に当接して支持された状態でクッション軸126aの外周に設けられたコイル状のばねである。
クッション軸126aは、圧縮ばね27の両端がそれぞれフランジ部125、フランジ部122に接触した状態において、結合部材123のフランジ部122がない側の端部123cから突出している。そして、この状態における、クッション軸126aの外周の端部123cに径方向で対向する部分を含む領域には、雄ねじ部131が設けられている。
【0031】
図10中の符号135はばね用ナットであり、このばね用ナットが保持部材135である。ばね用ナット135は、結合部材123の端部(筒状部材123bの端部)123cに軸方向で対向して配置され、ばね用ナット135の雌ねじ部133が、クッション軸126aに設けた雄ねじ部131と噛合う。クッション軸126aに端部123cから突出した部分にばね用ナットを嵌め、ばね用ナット135が結合部材123の端部123
cに接触し、さらに、圧縮ばね27が圧縮されるまで締め込む。この時の、ばね用ナット135の締め込み量を調整することで、圧縮ばね27の長さを調整することができ、これにより、圧縮ばね27の弾性力を調整できる。クッション部126は、圧縮ばね27の弾性力により受け面11a側へと移動する力を受けるが、ばね用ナット135の結合部材123に対向する側の端面が、結合部材と噛み合って、その移動を拘束する。つまり、ばね用ナット135の結合部材123側の端面135aが、結合部材123と噛み合って、クッション部126の結合部材123からの摺動方向の突出量を制約する係合部である。また、雌ねじ部133が、係合部135aが結合部材と噛合っている状態における圧縮ばね(第2の弾性部材)27の弾性力を調整する調整ねじとなっている。ナット47は、ばね用ナット135のクッション軸126aに対する位置ずれを防止用のナットであり、このナット47を締め付けることによってばね用ナット135のクッション軸126aに対する回動をロックする。
【0032】
この実施形態に係る圧延材誘導装置110においても、
図2~
図9に示した圧延材誘導装置10と同等の効果を有する。なお、
図10中のローラホルダ14、ガイドローラ12、コイルばね15、回転支持軸13、結合部材固定ナット45や、その他の符号を付していない構成については、
図2~9に示すものと同じものであるので、説明を省略する。
【0033】
以上、本発明を上記一実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記一実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
例えば、上述の実施形態では、結合部材23あるいは結合部材123とローラホルダ14とは、結合部材23あるいは結合部材123に雄ねじ部を設け、ローラホルダ14にこの雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部を設けて、これらのねじ結合によりローラホルダ14に対する結合部材の位置を調整可能とされているが、結合部材に雌ねじ部を設け、ローラホルダにこの雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を設けるようにしてもよい。
【0034】
また、上述の実施形態では、保持部材35あるいは保持部材135を、調整ねじとしての雌ねじ部を有するばね用ナットとし、結合部材23あるいは結合部材123に、この雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を設けて、第2の弾性部材(圧縮ばね)27の弾性力を調整可能としているが、保持部材35あるいは保持部材135に雄ねじ部を設け、結合部材にこの雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部を設けるようにして、第2の弾性部材(圧縮ばね)27の弾性力を調整可能となっていてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 圧延材
2 圧延機
3 パスライン
10 圧延材誘導装置
11 フレーム(装置本体)
11a 受け面
12 ガイドローラ
13 回転支持軸
14 ローラホルダ
15 コイルばね(第1の弾性部材)
16 貫通孔
20 支持ユニット
21 小径筒部
22 大径筒部
23 結合部材
25 フランジ部
26 クッション部
26a クッション軸
26b プレッシャーメタル部材
27 圧縮ばね(第2の弾性部材)
31 雄ねじ部
32 凹部
32a 係合部(底)
33 雌ねじ部
34 貫通孔
35 ばね用ナット(保持部材)
37a 面
37b 突起
38 オーリング
41 雄ねじ部
42 貫通孔
43,44 雌ねじ部
45 結合部材固定ナット
46 雄ねじ部
123 結合部材
123a 筒状部材
123b 筒状部材
126 クッション部
126a クッション軸
126b プレッシャーメタル部材
135 ばね用ナット(保持部材)
135a 係合部