(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】ブレーキパッド
(51)【国際特許分類】
F16D 66/02 20060101AFI20230227BHJP
【FI】
F16D66/02 D
(21)【出願番号】P 2017123508
(22)【出願日】2017-06-23
【審査請求日】2020-06-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2016177084
(32)【優先日】2016-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511025411
【氏名又は名称】株式会社NejiLaw
(72)【発明者】
【氏名】道脇 裕
【合議体】
【審判長】藤井 昇
【審判官】久島 弘太郎
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-032054(JP,A)
【文献】特開2010-242815(JP,A)
【文献】特開2010-179799(JP,A)
【文献】特開2008-144871(JP,A)
【文献】特開2000-249179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド面の摩滅によって、厚みが減少するブレーキパッドであって、
当該ブレーキパッドの環状の周面上に、厚みの減少を計測するための面状
且つ略帯状のセンサ構造が、直接的に又は絶縁層を介して形成され、
上記センサ構造は、
上記周面上で略周回状に配され、上記パッド面と共に摩耗、磨滅することで帯幅が減少し、通電面積が変化することを特徴とするブレーキパッド。
【請求項2】
前記面状のセンサ構造が前記周面に、
略周回状を成すように複数形成されることを特徴とする、
請求項1に記載のブレーキパッド。
【請求項3】
前記面状のセンサ構造が前記周面の全体に連続して形成され、
前記周面に一対の通電端子を配設し、
一対の上記通電端子は、前記パッド面の中央部を挟んで略対向する場所に位置することを特徴とする、
請求項1又は2に記載のブレーキパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッド面の摩滅によって、厚みが減少するブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動体にブレーキパッドのパッド面を押圧することで動体を制動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ブレーキパッドが摩滅すると、ブレーキ音、いわゆるブレーキ鳴きが生じ、これによりブレーキパッドの交換を行うのが一般的であった。
【0004】
ブレーキ鳴きは、ブレーキパッドの摩滅以外でも発生することがあり、どのようなタイミングで交換するべきか否かを判断することが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものであり、ブレーキパッドの摩滅状況を客観的に測定可能にすることで、ブレーキパッドの管理、メンテナンス時期の判断等を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、パッド面の摩滅によって、厚みが減少するブレーキパッドであって、環状の周面に、厚みの減少を計測するための通電路が直接的又は間接的に形成されることを特徴とするブレーキパッドである。
【0007】
上記ブレーキパッドに関連して、前記通電路が前記管状の周面に複数形成されることを特徴とする。
【0008】
上記ブレーキパッドに関連して、前記通電路が前記管状の周面の全体に連続して形成され、一対の通電端子が離れた場所に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、ブレーキパッドの摩滅状況を把握することが極めて低コストに実現可能であり、客観的に且つ遠隔で監視する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】本発明の実施形態に係る通電路付の切削ヘッドを用いた切削加工システムの全体構成を示す図である。
【
図2】(A)は切削ヘッドのドリルを示す正面図、(B)は同ドリルの上面図、(C)は同ドリルの部分拡大正面図である。
【
図3】(A)は同ドリルの
図2(B)のA-A矢視断面図、(B)は
図2(C)のB-B矢視断面図である。
【
図4】同ドリルの一部を拡大して示す斜視図である。
【
図5A】同ドリルの変形例を示す(A)上面図、(B)正面図、(C)は(B)のC-C矢視断面図である。
【
図5B】同ドリルの変形例を示す(A)一部を拡大して示す斜視図、(B)部分断面図、(C)乃至(F)は積層工程を示す部分断面図である。
【
図5C】同ドリルの変形例を示す(A)正面図、(B)は(A)のB-B矢視断面図である。
【
図5D】(A)及び(B)は同ドリルの変形例を示す部分拡大正面図である。
【
図6A】同ドリルに内蔵される基板の構成を示すブロック図である。
【
図6B】(A)乃至(D)は同ドリルの通電路に適用されるブリッジ回路の構成を示す回路図である。
【
図6C】(A)及び(B)は同ドリルの通電路に適用されるブリッジ回路の構成を示す回路図である。
【
図7】(A)は切削加工システムの情報収集装置のハード構成を示すブロック図であり、(B)は情報収集装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図8】(A)乃至(C)は切削ヘッドに通電路を付与するための通電路付部材を示す正面図である。
【
図9】同通電路付部材が適用される切削ヘッドを拡大して示す斜視図である。
【
図14】(A)及び(B)は同通電路の変形例を示す図であり(C)は(B)のC-C矢視断面図である。
【
図15】(A)は同通電路の変形例を示す図であり、(B)及び(C)は(A)のB-B矢視断面図である。
【
図16A】同通電路に形成されるセンサ構造の変形例を示す(A)は平面図、(B)は平面図のB-B矢視断面図、(C)は内部構造を説明する断面図、(D)及び(E)は変形時の状態を示す断面図である。
【
図16B】同センサ構造を母材に適用する際の平面図である。
【
図16C】同センサ構造を母材に適用する際の平面図である。
【
図16D】同センサ構造の他の事例を示す(A)は平面図、(B)は平面図のB-B矢視断面図である。
【
図16E】同センサ構造の他の事例を示す断面図である。
【
図16F】同センサ構造の他の事例を示す断面図である。
【
図16G】同センサ構造を棒状母材に適用する際の斜視図である。
【
図16H】同センサ構造の他の事例を示す平面図である。
【
図16I】同センサ構造を他の部材に適用する事例を示す斜視図である。
【
図19】(A)は同通電路の変形例を示す図であり、(B)及び(C)は(A)のB-B矢視断面図である。
【
図20】(A)及び(B)は同通電路の変形例を示す図である。
【
図22】(a)及び(b)は複数の通電路からなる通電回路を示す説明図である。
【
図23】(a)及び(b)は2次元マトリックス状の通電回路を示す説明図である。
【
図24】(a)乃至(i)は同通電回路の形成するためのパターン情報を示す説明図である。
【
図25】は同パターン情報を組み合わせた通電回路パターンを示す説明図である。
【
図26】(a)及び(b)は帯状の通電路付部材の使用形態を示す斜視図であり、(b)は同通電路付部材の検出態様を示す概念図である。
【
図27】切削ヘッドに対してセンサを別途設置する形態を示す斜視図である。
【
図28】同ドリルの変形例を示す(A)正面図、(B)は通電路のみを拡大して示す図であり、(C)は通電路の他の構成例を示す図であり、(D)は外部接続端子の他の構成例を拡大して示す図である。
【
図29】同ドリルの変形例を示す(A)正面図、(B)は(A)のB-B矢視断面図である。
【
図30】同ドリルの変形例を示す(A)正面図、(B)は通電路のみを周方向に展開した状態を示す展開図である。
【
図31】(A)はチップへの適用例を示す斜視図であり、(B)はチップホルダを示す斜視図であり、(C)はチップとチップホルダを示す斜視図であり、(D)はチップの変形例を示す斜視図である。
【
図32】(A)は完成バイトへの適用例を示す斜視図であり、(B)はエンドミルへの適用例を示す正面図である。
【
図33】(A)は、同一面に形成される供給配線を低抵抗率材料又は低抵抗値とする場合の実施例を示す斜視図であり、(B)は複数面に形成される供給配線を低抵抗率材料又は低抵抗値とする場合の実施例を示す斜視図である。
【
図34】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図35】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図36】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図37】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図38】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図39】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図40】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図41】本発明の実施形態に係る通電路付のチップ示す(A)斜視図、(B)角部を平面展開した図である。
【
図42】(A)乃至(F)は、本発明の実施形態に係る通電路付のチップの角部のみを示す斜視図である。
【
図43】(A)乃至(C)は、本発明の実施形態に係る通電路付のチップの製造工程を示す斜視図である。
【
図44】本発明の実施形態に係る通電路付のチップを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る切削加工システム1が示されている。この切削加工システム1は、切削加工装置10と、この切削加工装置10に設けられるセンサ(通電路)付の切削ヘッド30と、同切削加工装置10に設けられる駆動装置31と、この切削ヘッド30に対して有線又は無線によって接続される情報収集装置100を備えて構成される。
【0065】
通電路付の切削ヘッド30は、切削工具又はこれを保持するホルダのいずれかである。
図2及び
図3に示すように、本実施形態の切削ヘッド30は、切削工具としてのドリル40としている。なお、本実施形態では、切削工具側に通電路が形成される場合を例示するが、切削工具を保持するホルダ(図示省略)側に、センサ(通電路)を形成しても良い。
ドリル40は、シャンク部42とボディー部44を有する。ボディー部44には、首部44aと刃部44bとが形成される。勿論、首部44aは必須ではない。
【0066】
シャンク部42内には、収容空間48が形成される。なお、ボディー部44内には、収容空間が形成されていないが、形成しても良い。ここでは、このシャンク部収容空間48等、ドリル40の内部に形成される空間を総称して内部空間49と呼ぶ場合がある。
【0067】
図3(B)に拡大して示すように、首部44aは、必須ではないが、その外周面に凹部90が形成され、凹部90における円筒状の底面に、歪み計測用の一連の通電路92が形成される。この通電路92は、金属材料又は導電性樹脂材料等の導電性を有する材料によって構成され、切削ヘッド30(ドリル40)が変形することに伴って自身も変形し、それにより抵抗値等の電気的特性が変化することで、ドリル40に生じる歪み状態やこれに基づく応力状態を出力する。凹部90の底面には、電気絶縁層91が直接形成され、この電気絶縁層91の上に、通電路92が直接形成される。勿論、切削ヘッド30の電気的特性の変化は、切削ヘッド30の変形によるもののみならず、温度状態によっても変化し得る。そこで、予め知得している通電路の電気抵抗(率)の温度依存性や切削ヘッド30が取り得る温度範囲等を参照して、純粋歪みや変形を計測するようにしてもよい。
【0068】
電気絶縁層91は、例えば、積層印刷、パット印刷、塗装、メッキ、インクジェット印刷等を採用できる。勿論、母材が電気絶縁性であれば、電気絶縁層91の形成は必ずしも必要ではなく、有っても無くても何れであってもよい。ただし、電気絶縁性の他、何等かの性質を付与するためにコート層を設けてもよい。また例えば、所定のマスクを配置した状態で、絶縁材料をスパッタリングによって被膜形成したり、シリカ材料を塗布して加熱処理したり、ポリイミド系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系等の有機絶縁材を塗布するなどの様々な手法を採用できる。なお、通電路92を形成する母材そのものが電気伝導性を有する場合には、その母材表面を酸化処理することによって、酸化被膜化し、電気絶縁層91としたり、母材がアルミニウム系の場合には、アルマイト処理によって電気絶縁層91を設けることも有効である。勿論、電気絶縁層91は、これらに限定されるものではない。
【0069】
通電路92は、互いに独立して併設される第一通電路93と第二通電路94を有する。第一通電路93は、第一方向となる軸方向Jに沿って、往復するように延びており、ドリル40の表面が第一方向に沿って変形する状態を検出する。第二通電路94は、第一方向に対して直角の第二方向となる周方向Sに沿って、往復するように延びており、ドリル40の表面が第二方向に沿って変形する状態を検出する。なお、ここでは第一通電路93を一つだけ配置する場合を例示したが、周方向に一定の位相差(例えば90°、180°)を有する場所に複数配置することも好ましく、軸方向に間隔を空けて複数配置してもよい。第二通電路94に関しても同様である。通電路92は、導電性ペーストを利用した積層印刷、パット印刷若しくはタンポ印刷、塗装、メッキ、インクジェット印刷、スパッタリング等によって凹部90又は電気絶縁層91に直接形成される。通電路92の形状に合わせてマスキングを施してエッチングすることで、配線の形状を設定しても良い。このように通電路92を直接形成することで、長期間に亘って、通電路92が剥離しないようになっている。因みに、接着材によって構成される接着層等によって通電路92を設置することも可能であるが、接着剤の経時劣化によって正確な歪みや応力を計測できなくなるので、直接形成する方が望ましい。一方、シール形式によって、センサ構造を着脱(転着)自在にする場合は、下層側に粘着性を有する剥離シート層を形成することが好ましい。
【0070】
図4に示すように、第一通電路93及び第二通電路94の外表面は、凹部90から突出しないように設定される。即ち、第一通電路93及び第二通電路94の配線の厚さに対して、凹部90の深さが同等以上となるように設定される。このようにすることで、第一通電路93及び第二通電路94が、他の部材(例えば、加工対象となる部材や切り子)と接触して損傷することを回避するように構成してもよい。なお、第一通電路93及び第二通電路94の外表面にカバー層を形成して保護することも好ましい。カバー層も絶縁材料を用いるようにする。勿論、その他に耐傷性、耐油性、耐水性、耐熱性、耐蒸気性、耐ガス透過性、耐紫外線性、耐候性等の高い、堅牢なバリア層を設けてもよい。
【0071】
図2(B)及び(C)に戻って、シャンク部42の座面42A及び周面42Bにも、凹部96が形成される。この凹部46内に、後述するバッテリ52から通電路92まで電気を供給する配線97が形成される。ホルダ等の治具によってシャンク部42を保持させても、ホルダと配線97が接触することを回避できる。なお、ホルダ側に通電用の端子を配置しておき、この端子と、シャンク部42の配線97を電気的に接触させることで、端子から配線97へ電気を供給したり、ホルダ側で配線97の電気抵抗値を計測したりすることもできる。
【0072】
図3(A)に示すように、本ドリル40の通電路92は、ドリル40側のみで独立した閉回路を構成しており、内部空間49内に、配線97が接続される基板54と、基板54に電力を供給するバッテリ52が収容される。勿論、近距離無線通信タグの場合には、バッテリや蓄電池の類は必ずしも必要なわけではない。なお、本実施形態ではバッテリ52を内蔵する場合を例示するが、外部にバッテリボックスが配置され、このバッテリボックスから切削ヘッド30に電力が有線及び/又は無線方式によって供給されるようにしても良い。また、本実施形態ではバッテリ52を利用してドリル40のセンサ(通電路)が稼動する場合を示すが、例えば、外部から有線の電力配線によって電力が供給される場合は、このバッテリを省略することも可能である。更に、外部のリーダ等からの電波をエネルギーとして受信し、このエネルギーを電源として動作するパッシブ構造のRFID等の場合も、バッテリ52を省略できる。また、内部空間49或いはドリル40の外周面に、永久磁石と電磁コイルとの相対運動を利用した回転や振動等で電気を生み出すような発電機構、或いはピエゾ素子等の圧力変動や振動等によって起電力を得る発電機構、温度差で起電力を得るゼーベック素子等による発電機構、光電素子によって起電力を得る発電機構等(発電回路)を設けても良い。
【0073】
更に内部空間49に異物や水分が進入するのを防止するために、内部空間49の開口部分にはキャップ50が設置される。収容空間48側のキャップ50をとりはずせば、バッテリ52の交換や、基板54等のメンテナンスが可能な構成としてもよい。勿論、キャップ50で閉塞するのではなく、樹脂やゴム、パテ等で埋設してもよい。
【0074】
図5Aに、ドリル40の他の構成例を示す。ドリル40のボディー部44の外周面には、断面が非円形となるような凹部(平面)60が形成される。この凹部(平面)60は軸方向に延びており、そこに、通電路92が直接形成される。凹部60は、中心軸線を境とした直径方向両側に配置される。このようにすると、例えばドリル40のボディー部44に曲げモーメントが作用した場合、一方の軸方向通電路92は圧縮力、他方の通電路92には伸長力が作用するので、抵抗値に差が生じ得る。この差によってドリル40に作用する曲げモーメントや歪み等の変化を検知することができる。なお、ここではボディー部44の首部44aの領域に凹部(平面)60を形成する場合を例示したが、シャンク部42側に形成することも好ましい。
【0075】
図5Bに、ドリル40の他の構成例を示す。ドリル40のボディー部44の首部44aの外周面には、通電路92を画成する溝(凹部)90Aが形成される
図5B(B)に示すように、溝90Aの内周面には、下地層となる電気絶縁層91が形成され、電気絶縁層91の上に通電路92が直接的に形成される。結果、通電路92が、外部部材と接触しないで済むので、通電路92の断線や剥離等を抑制できる上、対象部材であるドリル40の変形を直接計測することが可能となる。
【0076】
通電路92の具体的な形成手順として、まず、
図5B(C)に示すように、ボディー部44の外周面全体に電気絶縁層91を被膜形成し、
図5B(D)に示すように、溝90Aの外にはみ出している電気絶縁層91を除去してから、更に
図5B(E)に示すように、ボディー部44の外周面全体に通電路92を被膜形成する。その後、溝90Aの外にはみ出している通電路92を除去する。結果、
図5B(F)のように、溝90A内に、電気絶縁層91及び通電路92を形成できる。
【0077】
図5Cに、ドリル40の通電路92の他の構成例を示す。このドリル40は、ボディー部44における刃部44bに通電路92が形成される。具体的には、
図5C(B)の部分拡大図に示すように、隣接する二条211の刃に形成される刃溝の底部(谷底)211uに沿って、それぞれ、電気絶縁層91及び通電路92が螺旋状に形成される。底部211uは、加工対象物70の加工孔に対して隙間を有するので、その隙間を有効活用して電気絶縁層91及び通電路92を形成すれば、加工対象物70と干渉することはない。勿論、通電路92を形成するために、刃溝の底部211uをより深く設定しておくことも好ましく、そこに更に専用の凹溝を形成して、通電路92を埋め込んでもよい。勿論、被削材とドリル40との間において、殆ど接触しないドリル40上の部位に通電路92を設けることで、通電路の摩耗を抑制することが出来る。勿論、刃溝の底部211uに向かう途中の傾斜面に通電路92を形成してもよい。また、通電路92表面に耐摩耗性の高いトップコートを施せば、耐摩耗性を向上させることが可能となる。なお、刃溝は、切削屑が通過する溝でもあるので、切削屑と通電路92との接触を回避することを優先させる場合、ドリル40の外周面212(
図5C(B)参照)に通電路92を形成してもよい。この場合は、外周面212に専用の凹溝を形成して、通電路を埋設することも好ましい。
【0078】
図5C(A)に示すように、この通電路92は、シャンク部42側からボディー部44の先端側まで延び、先端側で折り返して、シャンク部42側に戻る往復経路となる。つまり、刃溝内を往復するように通電路92が形成される。この際、
図5D(A)に示すように、通電路92を、突端の刃先に一体的に形成することで、刃先の摩耗量に連動して抵抗値が変化する摩耗検知部92xを配設することが好ましい。例えば、刃先が摩耗すると、通電路92の摩耗検知部92xも一緒に摩耗し、路幅が減少することで抵抗値を変化させたり、積極的に断線させたりすることができる。これにより刃先の摩耗状況を検知できる。
図5D(B)に示すように、摩耗検知部92xを、刃先の摩耗方向Xに並ぶ並列回路とし、摩耗量に連動して回路の一部が順番に断線して、抵抗値が変化するようにしても良い。なお、
図5D(B)の先端の並列回路は、説明の便宜上、各路幅が大きいが、実際には、検知したい刃先の摩耗量以下の路幅にすることが好ましく、具体的には1mm以下、好まくは、0.1mm以下が好ましい。
【0079】
<電気絶縁層や通電路の形成手法の提示>
電気絶縁層91や通電路92の形成手法には様々存在するが、大きくは成膜法(勿論、通電路以外をマスキングして被服した上で導電性の層を成膜し、マスキングを除去することで通電路としたり、逆に通電路にも絶縁層を成膜することで通電路に電気絶縁層を形成したりすることをパターン形成と呼ぶことも可能である。)とパターン形成法がある。成膜法の代表的なものとして気相成膜法、液相成膜法などがある。また、パターン形成法の代表的なものとしては印刷法(例えばスクリーン印刷、転写、インク吹付け)、ペン等で書く、箔押しなどがある。
【0080】
気相成膜法は、真空蒸着(例えば抵抗加熱型真空蒸着、電子ビーム蒸着・クラスタービーム蒸着、フラッシュ蒸着)、イオンプレーティング(例えば高周波励起型イオンプレーティング、活性化反応性蒸着)、スパッタリング(例えば直流(DC)スパッタリング、高周波(RF)スパッタリング、平板型マグネトロンスパッタリング、デュアルイオンビームスパッタリング)、分子線エピタキシー(MBE)、パルスレーザデポジション等のPVD法(物理蒸着)や、熱CVD、プラズマCVD (PECVD)、有機金属気相堆積法 (MOCVD)、クロライドCVD、光 (化学反応) CVD、レーザCVD、原子層成長法 (ALE)等のCVD法(化学蒸着)がある。
【0081】
液相成膜法には、めっき、塗布、ゾルゲル法、スピンコート法等がある。
【0082】
なお、これらの成膜法は、パターンを形成することができない場合があるので、例えばレジストによってパターニングすることも可能である。例えば、フォトレジスト(フォトリソグラフィ)やスクリーン印刷等によってパターニングすれば、高精度且つ高密度なパターンを形成できる。レジストは、成膜法の種類によって適宜選択すればよいが、例えば、エッチングレジスト、ソルダーレジスト、めっきレジストなどがある。レジストを除去する際は、例えば電気分解法等を用いる。
【0083】
なお、ここでは特に図示しないが、通電路92の外表面を更にカバー層で覆うこともできる。このカバー層は、電気絶縁層と同様の手法で形成すれば良い。
【0084】
図6Aに基板54の構成を示す。基板54は、所謂RFIDであり、アナログ回路及び/又はICチップ等から構成されており、全ての処理を制御する中央演算処理装置となるCPUと、一時的なデータを読み書きするための高速メモリRAMと、プログラムを格納するために使用する読み出し専用メモリROMと、データを格納するために書き込み可能なメモリEPROMと、基板と外部の通信制御を行うインタフェースと、外部と無線通信したり、外部電波を利用して電力を供給したりするアンテナと、抵抗値検出部を適宜選択的に有する。なお、本実施形態では、基板54に加速度センサも設けられている。
【0085】
抵抗値検出部は、配線97が接続されて、電圧値又は電流値の計測による通電路92の抵抗値の検出と同時に、この値をデジタル情報(勿論、アナログ信号処理であってもよい。)に変換してCPUに提供する。結果、抵抗値データはEPROMに格納される。
【0086】
加速度センサは、基板54の振動や変位及び/又は変形を検知して、ドリル40の変位量データを算出する。これにより、ドリル40の稼働状況(振れ幅、曲がり、所謂びびり等)を把握できる。変位量データは、EPROMに格納される。なお、加速度センサとしては、一般的に知られている振動方式、光学的方式の他、静電容量型、ピエゾ抵抗型、ガス温度分布型等の半導体方式等の各種の方式を採り得る。
【0087】
EPROMに格納される抵抗値データや変位量データは、管理者が情報収集する随時タイミングや、定期的なタイミング、或いは不定期なタイミングにより、アンテナを介して外部(情報収集装置100)に送信される。勿論、各種の取得データの送信は、有線方式か無線方式かは問わない上、アナログ信号方式であってもデジタル信号方式であってもよい。
【0088】
ROM又はEPROMには、このドリル40の個体を識別するための情報(個体識別情報)が格納されており、情報収集装置100側においては、個体識別情報に対応付けて、切削加工装置10の種類や設置場所(設置会社)等を登録しておくことができる。これにより、各ドリル40を個別に管理することが出来る。なお、本実施形態では、この基板54の一部は、ICチップを利用した所謂RFID技術を採用しているが、本発明はこれに限定されず、他の技術を用いてもよい。
【0089】
<ブリッジ回路の構成>
【0090】
通電路92の結線は、必須ではないが、
図6B及び
図6Cに示すように、ブリッジ回路を用いることが可能である。このブリッジ回路の配線又は抵抗Rは、配線97の途中及び/又は基板54内に構成すればよく、入力電圧をE、出力電圧をeとして、出力電圧の変化量から、歪み量を算出することができる。勿論、このブリッジ回路自体も測定対象である切削ヘッドに対して直接的にパターン形成(パターニング)してもよい。
【0091】
図6B(A)は、一つの通電路92を用いる場合の一ゲージ法のブリッジ回路となる。
図6B(B)は、二つの通電路92を直列に配置して一ゲージとして用いる場合の二系列一ゲージ法のブリッジ回路となる。この二つの通電路92は、例えば部材の表裏に同方向に配置して、曲げ成分を除去しながら、引張・圧縮成分を計測する場合などに用いられる。
図6B(C)は、直列に配置される二つの通電路92をセットにして、二セットを並列に配置した四ゲージ法のブリッジ回路となる。例えば、四個の通電路92を、柱状部材の周方向の均等間隔となる四か所に、軸方向に沿って配置することで、引張・圧縮成分を検出する場合などに用いることが出来る。
図6B(D)は二つの通電路92を用いる場合の二ゲージ法のブリッジ回路となる。二ゲージ法では、二つの通電路92の測定方向(伸縮方向)を異ならせて、それぞれの応力を測定する二ゲージ二アクティブ法や、二つの通電路92の測定方向(伸縮方向)を一緒にして、一方をダミーとして用いる二ゲージ一アクティブ一ダミー法などで利用できる。
【0092】
図6C(A)は二つの通電路92をブリッジの対辺に結線する対辺二ゲージ法のブリッジ回路となる。例えば、二つの通電路92を、ドリル40の表裏に同方向に配置することで、曲げ成分を除去しながら、引張・圧縮成分を計測する場合などに用いることが出来る。
図6C(B)は、四つの通電路92をブリッジの各辺に結線する四ゲージ法のブリッジ回路となる。四つの通電路92のうちの二つをドリル40の円柱状部材の周方向に沿って配置し、他の二つを軸方向に配置することで、軸力を計測する場合等に用いることが出来る。この四ゲージ法は、トルク等や曲げ等を計測する際にも用いることができる。
【0093】
なお、ここではホイートストンブリッジ回路を例示したが、その他のブリッジ回路として、ウィーンブリッジ発振回路、マクスウェルブリッジ交流回路、ヘビサイドブリッジ交流回路、ゾーベルネットワークブリッジ高周波回路、シェーリングブリッジ回路、カーレフォスタブリッジ交流回路、アンダーソンブリッジ回路等を用いてもよいが、直流としての利用では、ホイートストンブリッジ回路を選定するとよい。
【0094】
図7(A)に情報収集装置100のハード構成を示す。この情報収集装置100は、所謂サーバであり、中央演算処理装置となるCPU、一時的なデータを読み書きするための高速メモリRAMと、マザーボードプログラムを格納するために使用する読み出し専用メモリROMと、データを格納するために書き込み可能なハードディスクHDDと、外部の通信制御を行うインタフェースと、ドリル40と無線通信するアンテナを有する。なお、このアンテナは、情報収集装置100のハードウエアを構成するサーバ内に配置されている場合に限られず、各切削加工装置10のドリル40の近辺に配置されたアンテナ或いは中継アンテナであっても良いなお、この情報収集装置100は、切削加工装置10の各々に一体的に設けられていても良い。
【0095】
図7(B)に情報収集装置100のプログラム構成を示す。情報収集装置100は、情報整理部、情報分析部、アラーム表示部、使用履歴保持部、メンテナンス履歴保持部、工具発注指示部、加工調整部を有する。情報整理部は、既に述べたドリル40の個体識別情報に対応付けて、切削加工装置10の名称、所在地、設置場所、設置方角、通電路付の切削ヘッド30の各種情報、管理者(連絡先)等の他、各ドリル40から収集された抵抗値データ(電圧値データ、電流値データ)及び変位量データを時系列で蓄積する。即ち、各ドリル40に設けられるセンサのセンシング目的に対応して、切削工具の折れ、減耗、振動、温度などの各種データを蓄積できる。
【0096】
情報分析部は、本発明における交換判定部、使用判定部、工具識別部を兼ねるものであり、収集されたドリル40の個体識別情報、(電気)抵抗値データ及び移動量データを解析し、各ドリル40に対応付けて、加工品質判断、交換タイミングの判断、異常判断等を行う。加工品質判断は、ドリル40の振動レベルによって、加工時の所謂びびり等を判断することができる。交換タイミングは、刃先の摩耗量、ドリル40自体の曲がりや破断等の損傷具合、稼働時間、びびり具合等を判断する。異常判断は、例えば時間の推移に伴って異常な数値が現れていないか等で判断できる。更に異常判断として、通電路付の切削ヘッド30から収集されたデータに基づいて切削加工装置10側にトラブルが生じていないか(例えば、ドリル40の回転数の異常低下や異常消費電力、異常加工負荷)等を解析・判定することも出来る。アラーム表示部は、情報分析部が、その分析結果に異常データが含まれると判断した際に、オペレータにメンテナンスアラーム、アラートを出力(画面、文字、発光、音等によって通知)する処理を行うように構成してもよい。加工品質が悪化した場合もアラームを発しても良い。使用履歴保持部材は、各刃物の個体識別に対応付けられた使用時間や経過上に得られた各種のデータを使用履歴情報として保存するようにしてもよい。メンテナンス履歴保持部は、切削ヘッド30のメンテナンス履歴を保存するようにしてもよい。
【0097】
工具発注指示部は、情報分析部で交換タイミングと判定された場合に、その切削ヘッド30(ドリル40)を発注するための発注情報を自動生成するモードを、ユーザーによる事前のモード選択によって設定し得るように構成することが出来る。この発注情報は、工具発注部によってインターネット等を経由して外部の仕入れ先のサーバへ送信され、結果、仕入れ先から、新しいドリル40が自動納品される。
【0098】
加工調整部は、情報分析部によって分析された加工品質に基づいて、加工方法を調整(変更)する指示情報を生成し、その指示情報を、切削加工装置10の制御部に送信する。例えば、ドリル40から検出される曲度、振れ幅等(びびりを含む)が大きい場合は、ドリル40の回転数を下げたり(又は高めたり)、被加工物との相対変位速度を遅くしたり(又は速くしたり)する指示情報を生成する。同様に、ドリル40から検出される温度が高い場合は、クーラント量を増加させたり、ドリル40の回転数を下げたりする指示情報を生成する。
【0099】
なお、本実施形態の情報分析部は、ドリル40に含まれる複数の通電路92の出力値を定期的に計測することで、例えば、一部の通電路92の故障を把握できる。
【0100】
以上によれば、切削加工装置10に複数の通電路付の切削ヘッド30を配設することで、切削ヘッド30に生じる歪み及び/又は変位(歪み情報から換算し得る各種情報やデータ)を検知することが可能となる。この検知結果は、情報収集装置100によって、有線及び/又は無線で接続されて回収されるので、客観的なデータとして活用できる。また例えば、データ回収を自動化できると同時に、略リアルタイムに観測・収集することが可能となり、切削ヘッド30の変形量や歪みなどから内部応力変化等を把握し得る。この状況に基づいて、加工品質や、交換タイミング、加工トラブルの発生タイミング、加工品質異常が生じた箇所等を判断することもできるようになる。なお、通電路の電気抵抗値に紐付けられた応力データの取得は、加速度センサや振動計等の各種センサから取得される情報と異なり、測定対象物の加速度的変位や振動が治まった後の静止状態であっても、歪みの現在値情報(残留歪みを含む)や歪み履歴情報から、測定対象物の現在状態をより正確に把握することが可能となる。
【0101】
特に本実施形態の切削ヘッド30は、通電路92が印刷等によって直接形成されるので、剥離等が生じ難く、長期間(例えば数十年)に亘って安定して内部応力を把握できる。更に、一つの切削ヘッド30に対して、複数の通電路92が形成されるので、例えば、同一方向に配置される複数の通電路92(詳細は後述)の出力が得られないなどと言った場合は、切削ヘッド30の該当箇所が損傷或いは破損したり、一方の通電路92が断線したり、一部に損傷を受けたりして、障害が生じていると判断できる。結果、確認すべきカ所の特定が容易となり、更に確認すべき事項の明確化や事前対策の検討等が出来るようになり、素早くメンテナンスができる。また、一方の通電路92が故障している間も、他方の通電路92を用いて応力を検出することができるので、この多重化構造によって、計測を長期間に亘って安定継続できる。
【0102】
また、電気絶縁層91も、印刷やスパッタリング等によって、部材表面に直接形成されるので、長期間(例えば数十年)に亘って剥離や脱落等が生じ難くなる。結果、この電気絶縁層91の外表面に直接形成される通電路92により、安定して歪みや内部応力を把握できる。
【0103】
更に本実施形態の切削ヘッド30は、第一通電路93と第二通電路94を有するので、多方向の応力を同時に計測できる。従って、切削ヘッド30に作用する外力をより詳細に把握することが可能となり、分析することが可能となる。
【0104】
なお、本実施形態では切削ヘッド30としてドリル40を採用したが、他の加工工具やホルダに適用することができる。
【0105】
また、上記実施形態では、加工工具となるドリル40に通電路92を直接形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図11(A)に示す金属やセラミックス、強化樹脂等のプレート材300に対して、通電路92を形成し、このプレート材300を加工工具やホルダにねじや接着剤等で固定することもできる。本実施形態のプレート材300には、少なくとも二か所に、ボルトやリベット、溶接等によって、加工工具やホルダに接合するための係合部302が形成される。従って、このプレート材300は、加工工具やホルダの変形に連動して、伸長、収縮、ねじれ等が生じる。このプレート材300には、第一方向Xに往復する第一通電路93が複数(ここでは、四個)、マトリクス状に配置される。具体的には、第一方向Xに離れた複数と、第一方向Xと直角となる第二方向Yに離れた複数個所によって構成される格子状に配置される。このように、第一通電路93をマトリクス状に配置すると、各第一通電路93の出力の差分から、プレート材300の第一方向Xを軸とするねじれ(矢印P参照)に関しても検知することが可能となる。また、第一方向Xの応力に関しては、第一通電路93の一部が故障しても、他の第一通電路93で検知できる。
【0106】
例えば
図11(B)に示すプレート材300のように、第一方向Xに往復する第一通電路93を複数(ここでは、二個)、第二方向Yに往復する第二通電路94を複数(ここでは、二個)、マトリクス状に配置しても良い。第一通電路93は、第二方向Yに離れた場所に一対配置される。第二通電路94は、第一通電路93に対して第一方向Xに離れた場所で、かつ、互いに第二方向Yに離れた場所に一対配置される。プレート材300には、両端近傍において、第二方向Yに離れた箇所に一対の係合部(係合孔)302が形成される。このようにすると、第一方向Xの伸縮に加えて、第二方向Yの伸縮を検出することが可能となる。なお、第一方向Xと第二方向Yの双方に直角となる第三方向Z回りの曲げモーメント(矢印Q参照)についても、検知することができる。
【0107】
また例えば
図11(C)に示すプレート材300のように、第一方向Xに往復する第一通電路93を複数(ここでは、二個)、第二方向Yに往復する第二通電路94を複数(ここでは、二個)を、互いに千鳥状態でマトリクス状に配置しても良い。具体的には、第一通電路93は、第一方向X且つ第二方向Yに離れた場所に一対配置される。第二通電路94も、第一方向X且つ第二方向Yに離れた場所に一対配置される。このようにすると、第一方向Xの伸縮、第二方向Yの伸縮、第一方向Xを軸とするねじれ(矢印P参照)、第二方向Yを軸とするねじれ(図示省略)、第一方向Xと第二方向Yの双方に直角となる第三方向Z回りの曲げモーメント(矢印Q参照)等、様々な歪みを検知できる。
【0108】
これらの通電路付部材(プレート材300)は、例えば
図12に示すように、ボルトによって加工工具やホルダに設置される。従って、これらの複数のプレート材300を、様々な方向に沿って配置することで、より多様な応力計測を実現できる。
【0109】
なお、本発明の通電路付の加工工具やホルダは、上記実施形態で示した形態に限定されない。
【0110】
次に、上記の通電路の各種詳細について説明する。なお、本発明が適用されるのは、ここで提示する内容に限られない。
【0111】
<通電路が形成される場所>
加工工具やホルダに対して通電路が形成される場所は、部材の表面、裏面、表裏面の双方、側面、周面などである。内部空間を有する部材の場合は、内周面と外周面の一方又は双方である。また、部材の肉部内に溝又は孔が存在する場合に、その溝又は孔に通電材料を積層したり、充填することで、部材の肉部内に通電路を形成することも可能である。
【0112】
<通電路の層状態>
通電路の層状態は、
図3等で示すような単層に限られず、二層以上の多層構造を採用することができる。通電路を複数層の積層構造にする際は、中間層として電気絶縁材料を介在させる。最も外側の通電路には保護層を形成することが好ましい。
【0113】
<通電路の形状>
通電路の形状は、直線や曲線等の線状、平面や曲面等の面状、複数の平面や曲面、その他の面を組み合わせた立体形状(中空、中実の双方を含む)等がある。面状の通電路の場合、通電路自体を面状に構成する場合の他、ジグザグ形状やマトリクス形状、格子形状、螺旋形状のように、線状の配線を平面・曲面領域内に広がるように配置する又は積層することによって、実質的に面状とする場合も含む。この面状の通電路には、円柱の部分又は全部表面、円錐の部分又は全部表面、球体の部分又は全部表面によって、曲面形状とすることもできる。面状の通電路の外形は、リング形状(環状)、筒形状(内周面、外周面)、四角形状、多角形状、円又は楕円形状、異形形状、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0114】
<通電路の数>
通電路の配置数は、単数の場合と、複数の場合がある。また、通電路が面状となる場合、これを複数配置するパターンとして、直線状に沿って複数の通電路を並べて配置する場合、曲線状(円状を含む)に沿って複数の通電路を並べて配置する場合、螺旋状に沿って複数の通電路を並べて配置する場合、マトリクス・格子状の複数の通電路を配置する場合、多層に複数の通電路を配置する場合、立体的に複数の通電路を配置する場合等がある。また、通電路がリング形状(環状)となる場合は、例えば、同心円状又は略相似形状に複数の通電路を配置することもできる。勿論、同心でなければならないと言うものではないことは言うまでもない。同様に、複数の素線を平行状態又は積層状態に配置することにより、複数の通電路を隣接配置することもできる。
【0115】
<通電路の素材>
通電路の素材には、アルミニウム、銅、銀、金、白金、鉄、炭素等の何れか一つ以上を主成分とする材料及び/又はこれらの複合材料、或いは、これらを主成分としない材料を含む。またこの他、PVC法やCVD法等の成膜法によって、通電路や絶縁層を形成することが出来、それらには、例えば、酸化物の薄膜、フッ化物の薄膜、窒化膜、炭化膜等がある。酸化物の薄膜は、Al2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)、CeO2(酸化セリウム)、Cr2O3(酸化クロム)、Ga2O3(酸化ガリウム)、HfO2(酸化ハフニウム、ハフニア)、NiO(酸化ニッケル)、MgO(酸化マグネシウム、マグネシア) 、ITO(In2O3+SnO2)酸化インジウムスズ、Nb2O5(五酸化ニオブ)、Ta2O5(五酸化タンタル)、Y2O3(酸化イットリウム、イットリア)、WO3(酸化タングステン)、TiO(一酸化チタン) 、Ti3O5(五酸化チタン)、TiO2(二酸化チタン、チタニア) 、ZnO(酸化亜鉛)、ZrO2+TiO2(複合酸化物)、ZrO2(酸化ジルコニウム、ジルコニア)等を含む。
【0116】
フッ化物の薄膜は、AlF3(フッ化アルミニウム) 、CaF2(フッ化カルシウム)、CeF3(フッ化セリウム)、LaF3(フッ化ランタン)、LiF(フッ化リチウム)、NaF(フッ化ナトリウム)、MgF2(フッ化マグネシウム)、NdF3(フッ化ネオジウム)、SmF3(フッ化サマリウム)、YbF3(フッ化イッテルビウム)、YF3(フッ化イットリウム)、GdF3(フッ化ガドリニウム)等を含む。
【0117】
窒化膜は、TiN(窒化チタン)、CrN(窒化クロム)、TiCN(炭窒化チタン)、TiAlN(窒化チタンアルミ)、BN(窒化ホウ素)、AlN(窒化アルミニウム)、CN(窒化炭素)、BCN(窒化ホウ素炭素)等を含む。
【0118】
炭化膜は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、TiC(炭化チタン)、SiC(炭化ケイ素)、BC(炭化ホウ素)、WC(炭化タングステン)等を含む。
【0119】
他にも、iZO、グラフェン、ポリアセチレン、SnO2(二酸化スズ)等もある。
【0120】
通電路の色としては、透明、不透明、半透明、白色、灰色、銀色、黒色、赤色、茶色等様々多様な色を採り得る。部材がガラス等の透明、半透明の場合は、通電路も透明又は半透明とすることが好ましい場合もある。
【0121】
<通電路の機能>
通電路によって実現されるセンシング機能として、機械量計測、熱・温度計測、光・放射線計測、電気計測、磁気計測、化学計測等がある。機械量計測は、加速度センサ等の加速度、ストレインゲージ(歪みゲージ)、ロードセル、半導体圧力センサ等の力、音波(マイクロフォン)、超音波等の振動等を含む。熱・温度計測は、サーミスタ、抵抗測温体、熱電対(この場合、相異なる電気伝導性の通電路の両端に接点を形成して、温接点と冷接点とすることによって実現することが出来る。)等の接触式センシング、放射温度計等の非接触式センシング等を含む。光・放射線計測は、光センサ、光電素子、フォトダイオード等の光検知 、赤外線検知、放射線検知等を含む。電気計測は、電場、電流、電圧、電力等を含む。磁気計測は磁気センサ等を含む。化学計測は、におい検知、イオン濃度検知、ガス濃度検知等を含む。
【0122】
更に、通電路単独若しくは他の回路や素子との連携によって実現されるセンサは、時間を測る時計センサ、光位置センサ (PSD)、リミットスイッチ等の位置センサ、超音波距離計、静電容量変位計、光学式測距、電磁波測距等の距離センサ、差動トランス、リニアエンコーダ等の変位センサ、レーザードップラー振動速度計、レーザドップラー流速計等の速度センサ、ポテンショメータ、回転角センサ等の回転角センサ、タコジェネレータ、ロータリエンコーダ等の回転数センサ、ジャイロセンサ、一次元画像 リニアイメージセンサ等の角速度センサ、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等の二次元画像センサ、ステレオ画像センサ、漏液センサ(リークセンサ)、液検知センサ(レベルセンサ)等の液センサ、硬度センサ、湿度センサ、流量センサ、傾斜センサ、地震センサ等を含む。
【0123】
更に、通電路で実現される歪みセンサの用い方には、荷重測定(ロードセル)、変位測定、振動測定、加速度測定、トルク測定(トランスデューサー)、圧力測定、コリオリの力計測等を含む。また、この他、通電路の電気抵抗値の変化から環境温度を計測するようにしてもよい。この場合、通電路は所謂抵抗温度計として利用することを意味し、当該通電路の配設対象である母材の配設部位が、熱伸縮や変形の影響を受け難いところを選定することが好ましい。
【0124】
例えば、有限の所定の温度範囲における熱膨張係数が実質的に零となる素材、具体的にはペロブスカイト系の素材やビスマス・ランタン・ニッケル酸化物系の素材であってもよく、また負の熱膨張係数を有する素材と、これと絶対値がほぼ等しく正の熱膨張係数を有する素材を組み合わせたり、或いは正の熱膨張材料と負の熱膨張材料とを微細構造として組み合わせてナノコンポジット化させるなどして熱膨張率を零とするように構成した材料を組み合わせて用いてもよい。このようにすると、外力に起因した母材の変形に伴う通電路の電気抵抗値変化と、環境温度の変化に伴う通電路の電気抵抗値変化を、明確に区分することが可能となる。
【0125】
また更に、通電路内又はこの通電路とは別の場所となる母材上に、圧電素子を配置すること、若しくは、圧電素子構造を有する通電路を設けることが可能である。通電路内に圧電素子若しくは圧電素子構造を有する通電路を設ければ、圧電素子若しくは圧電素子構造を有する通電路に加わる外力をセンシングしたり、圧力変化に伴って生じるピエゾ電流(起電力)を、通電路や回路等の作動に供することができる。例えば、母材と外部部材によって挟持され得る場所に圧電素子若しくは圧電素子構造を有する通電路を設け、その挟持力の変化(例えば振動)を利用して圧電素子に起電力を生じさせ、その起電力を、通電路のセンシングの電源として活用することもできる。
【0126】
同様に、通電路内又はこの通電路とは別の場所となる母材上に、ペルチェ素子若しくはペルチェ素子構造を有する通電路を設けることも可能である。通電路内にペルチェ素子若しくはペルチェ素子構造を有する通電路を設ければ、母材内又は母材と外部部材との間に温度差を生じさせることができる。例えば、温度変化が生じやすい場所にペルチェ素子若しくはペルチェ素子構造を有する通電路を設け配置し、場所による温度差をペルチェ素子若しくはペルチェ素子構造を有する通電路に対する通電によって強制的に当該温度差を無くすことができる。つまり、温度差が発生している場所において、発生している温度差の高温側にペルチェ素子若しくはペルチェ素子構造を有する通電路の吸熱部を設け、低温側に発熱部を設けてペルチェ素子若しくはペルチェ素子構造を有する通電路に給電することで元々の高温側を冷却し、同時に、低温側を加熱して温度差を解消するのであるが、高温側と低温側が入れ替わる場合には、通電方向を逆転させることで、吸熱側と発熱側を交番させることが可能となる。従って、この交番を制御すれば、適宜の部位を温めたり、冷却したりして所望の温度に制御することが可能となる。勿論、元々の高温側を加熱し、低温側を冷却するように構成してもよい。また、ペルチェ素子若しくはペルチェ素子構造を有する通電路の発熱部にはヒートシンク構造を設けて熱放散を向上させることができる。ペルチェ素子構造を有する通電路は、P型半導体とN型半導体とによるPN接合を直列接続させ、通電方向がN→Pとなる接合部同士の集合による領域と、通電方向がP→Nとなる接合部同士の集合による領域とを設けることで構成でき、例えば、P型半導体とN型半導体の各種の従来公知の半導体素材を適宜領域に積層するなどして形成しつつ、N→Pの接合部と、P→Nの接合部のそれぞれに金属等の導電性素材、若しくは半導体素材を積層過程で設けることでも構成することが可能である。
【0127】
次に、本発明が適用され得る加工工具又はホルダの構成例を、形態的観点や通電路の配置等からその一部を紹介する。なお、通電路については、応力の検出方向を矢印で示すことで、詳細な配線構造の図示は省略する。
【0128】
図10(A)の加工工具又はホルダ400Aは、断面四角又は菱型、台形等の軸部材410Aに対して、通電路92が周方向及び軸方向に複数配置されたものである。この態様の具体例として、切削バイト等が挙げられる。
【0129】
図10(B)の加工工具又はホルダ400Aは、断面円又は楕円形状等の軸部材410Aに対して、通電路92が周方向及び軸方向に複数配置されたものである。この態様の具体例として、ドリルや切削バイト等が挙げられる。
【0130】
図11(A)の加工工具又はホルダ500Aは、面方向に広がる板状のプレート材510Aに対して通電路92が面方向に複数配置されたものである。この態様の具体例として、カッターやフライス等がある。なお、プレート材510Aの外形は特に限定されず、方形、円形、楕円形、長円形、台形等、様々な形状にできる。また、面全体に対して、均等又は分散させるように、多数の通電路92を形成することも好ましい。
【0131】
図11(B)の加工工具又はホルダ500Bは、面方向に広がる帯状のプレート材510Bに対して通電路92が面方向に複数配置されたものである。この態様の具体例として、カッターやチップ等がある。
【0132】
図11(C)の加工工具又はホルダ500Cは、板状のプレートを断面L字形状に屈曲させたL字プレート材510Cに対して、通電路92が複数配置されたものである。この場合、通電路92は、L字プレート材510Cの屈曲線に跨るように配置することも好ましい。
【0133】
図11(D)の加工工具又はホルダ500Dは、板状のプレートを湾曲させたL字プレート材510Cに対して、通電路92が複数配置されたものである。
【0134】
図12(A)の加工工具又はホルダ600Aは、四角筒状の部材610Aに対して、内周側及び/又は外周側に通電路92が複数配置されたものである。
【0135】
図12(B)の加工工具又はホルダ600Bは、円筒状の部材610Bに対して、内周側及び/又は外周側に通電路92が複数配置されたものである。ここでは特に、フランジ又はリムが形成されており、このフランジに対しても通電路92が形成される。
【0136】
図13(A)の加工工具又はホルダ700Aは、中空又は中実となる略立方体、略円筒体、略球体の部材710Aに対して、内周側及び/又は外周側に通電路92が複数配置されたものである。こ
【0137】
図13(B)の加工工具又はホルダ700Bは、中空又は中実となる球状(部分球を含む)の部材710Bに対して、内周側及び/又は外周側に通電路92が複数配置されたものである。球状の部材710Bの場合は、緯度方向と、経度方向に沿って応力が計測できるように配置することが好ましい。この態様の具体例として、ドリル用のホルダ(チャック)等が挙げられる。
【0138】
本実施形態では、通電路92によって加工工具又はホルダの応力を計測する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。加工工具又はホルダの変化に伴って通電路92が一緒に変化し、通電路92の電気的変化によって検知できるものであれば、他の計測に利用できる。具体的には、変位(加速度、回転)、温度変化、表面の圧力変化等が挙げられる。
【0139】
また、本発明の加工工具又はホルダの材料は、金属以外にも様々に選択できる。例えば、プラスチック又は複合材料(炭素繊維強化プラスチック、シリカ繊維強化プラスチック等)であっても良い。
【0140】
<通電路の具体例>
次に、加工工具又はホルダの部材表面に形成される通電路の構成について更に説明する。通電路92は単一材料で構成されていても良いが、本発明はこれに限定されない。例えば
図14(A)の通電路92は、一方向に往復するように延びる検知領域Kと、その他の配線領域Hにおいて、異なる材料が用いられる。例えば、配線領域Hは良導体材料、検知領域Kは抵抗体材料で構成する。このようにすると、配線領域Hの通電路92が変形しても抵抗値変動は小さく、検知領域Kの通電路92が変形すると抵抗値変動が大きくなる。結果、検知領域Kの部材変化のみを効率よく検出することができる。
【0141】
また、複数の方向の応力を検知する場合、第一方向に往復するように延びる第一通電路93と、第二方向に往復するように延びる第二通電路94を互いに独立(離反)して形成しても良いが、本発明はこれに限定されない。例えば
図14(B)及び(C)の通電路92は、第一通電路93と第二通電路94が重なるように形成される。なお、第一通電路93と第二通電路94の間には電気絶縁層91が介在するようになっている。このようにすると、狭い場所であっても、多方向の複数の通電路を重畳形成できることになる。
【0142】
更に、通電路92は線状又は帯状に構成される場合に限定されない。例えば
図15(A)及び(B)に示す通電路92は、一方の電極95Aと、他方の電極95Bと、円形平面状となる面状抵抗配線95Cを備える構造となっている。具体的には、平面状の面状抵抗配線95Cの上(又は下)に、一対の櫛歯状となる電極95A、95Bが積層される。一対の櫛歯状の電極95A、95Bは、互いに所定の間隔をあけた状態で、互いの櫛歯が交互に入り込んでいる。一対の電極95A、95Bは良導体で構成され、面状抵抗配線95Cは良導体よりも抵抗を有する導体(抵抗体)で構成される。従って、一対の電極95A、95Bの間に電圧を印加すると、両者の間に存在する面状抵抗配線95Cを荷電粒子(この場合、電子としてよいが、半導体の場合には正電荷たる空孔であってもよい)が移動して電流が流れる。
【0143】
通電路92に対して、面状抵抗配線95Cを押しつぶすように面方向に外力が作用すると、
図15(A)の点線に示すように、面状抵抗配線95Cが押し広げられて面積が拡張すると同時に、
図15(C)に示すように面状抵抗配線95Cの厚みが薄くなる(T0からTへ変化する)。同時に
図15(B)及び(C)に示すように、一方の電極95Aと、他方の電極95Bの隙間がd0からdへ増大する。従って、一方の電極95Aと、他方の電極95Bの間に位置する面状抵抗配線95Cの距離が大きくなると同時に、厚さが薄くなるので、抵抗値が増大する。この抵抗値の増大を検知することで、加工工具又はホルダに作用する外力を検知できる。なお、面状抵抗配線95Cの電気抵抗値又は電気抵抗率を高く設定し、電極95A、95Bの電気抵抗値又は電気抵抗率を低く設定することが望ましい。これらを通電経路として一連に形成することで、電極95A、95Bが変形しても全体の抵抗値変化に小さな影響しか生じないようにし、面状抵抗配線95Cに作用する外力のみを大きな抵抗値変化として検知する。
【0144】
次に、
図16以降を参照して、
図14及び
図15等で示す通電路92の変形又は応用となるセンサ構造500を説明する。
【0145】
図16A(A)には、加工工具又はホルダ(この例ではドリル40)の母材32に適用されるセンサ構造500が示される。このセンサ構造500は、導電材で構成される帯状のベース路95Pの表面に、複数の低抵抗部分通電区(導電片)95Qが配置されて構成される。本実施例では、ベース路95Pの一方の表面に、複数の方形(勿論、必ずしも方形でなければならないというものではなく、断続的に、比較的良導性の導電部として設けられていればよい。)の低抵抗部分通電区95Qが、帯長手方向に広がるように互いに間隔を存して配置される。また、ベース路95Pは比較的高抵抗値(高抵抗率)となる導体材料で構成される。一方、低抵抗部分通電区95Qは、ベース路95Pの材料と比較して低抵抗値(低抵抗率)の導体(良導体)となる。なお、特に図示しないが、ベース路95Pの下層には絶縁層が形成される。ここで、ベース路95Pの層厚は、特に限定されるものではないが、厚めに設定することで、母材32の歪みに対するベース路95Pの変形量を増大させることが可能であり、検出感度を向上させることが可能となる。しかしながらベース路95Pの層圧が、厚過ぎると、熱膨張や熱収縮の影響が大きく成り易いので、厚過ぎない設定とすることが好ましく、例えば、低抵抗部分通電区95Qの厚みに比して、より厚くなる程度に設定することが好ましい。なお、低抵抗部分通電区95Qの層厚は、1mm以下に設定するのが、好ましく、母材32の変形への追従性や熱膨張、熱収縮、材料使用量、製作性等を加味すれば、数百μm以下、望ましくは0.1μm~数十μm程度とする。勿論、薄過ぎれば、ベース路95P自体の断裂や抵抗値の増大が起こってしまうことを加味した設定とすることが好ましい。
【0146】
このベース路95Pの両端に電圧を印加すると、
図16A(B)の矢印に示すように、電子は、できる限り低抵抗の場所を選択しながら流れると推察される。具体的には、低抵抗部分通電区95Qが存在しない場所(つまり、低抵抗部分通電区95Qの間隔d0の領域)は、ベース路95Pの内部を電荷(電子等)が移動する。また、低抵抗部分通電区95Qが存在する場所は、低抵抗部分通電区95Q内又はベース路95Pと低抵抗部分通電区95Qの境界近傍を電子が移動する。
【0147】
このセンサ構造500を別の観点から説明すると、
図16A(C)に示すように、ベース路95P内には、高抵抗率となる導電材で構成される複数の高抵抗部分通電区95Tが、互いに間隔d1を存して配置される。この間隔d1は、低抵抗部分通電区95Qの存在する範囲に相当する。また、低抵抗率となる導電材で構成される低抵抗部分通電区95Qは、対となって隣接する高抵抗部分通電区95Tを繋ぐように配置される。同時に、複数の低抵抗部分通電区95Qは、高抵抗部分通電区95T上において、互いに間隔d0を存して配置される。この間隔d0は、高抵抗部分通電区95Tが存在する範囲に相当する。このように構成すると、高抵抗部分通電区95Tと低抵抗部分通電区95Qが交互に連続する結果となり、両端に電圧を印加すると、電子が、高抵抗部分通電区95Tと低抵抗部分通電区95Qを交互に選択しながら流れると推察する。
【0148】
ベース路95P内における、高抵抗部分通電区95Tが存在しない領域は、補助通電区95Uと定義される。この補助通電区95Uは、低抵抗部分通電区95Qと併設され、かつ、低抵抗部分通電区95Qの導電材と比較して高抵抗率となる材料(ここでは低抵抗部分通電区95Qと同一の導電材)で構成される。この補助通電区95Uも、仮想的には、対となって隣接する高抵抗部分通電区95Tを電気的に繋ぐことになるが、低抵抗部分通電区95Qが並行するので、電子は低抵抗部分通電区95Q側を移動することになる。即ち、この補助通電区95Uは、多少の電流が流れる可能性はあるものの、支配的な導電をもたらす物ではない配線として機能すると推察される。
【0149】
結果として、ベース路95Pにおける、複数の低抵抗部分通電区95Qの間隔d0に相当する領域が、高抵抗部分通電区95Tとなり、ベース路95Pにおける、低抵抗部分通電区95Qと当接している領域の少なくとも一部が補助通電区95Uとなる。
【0150】
以上のように構成されるセンサ構造500を、
図16A(D)に示すように、母材32の表面が凸となることで、ベース路95Pが長手方向に伸びるように一方向に湾曲させると、隣接する低抵抗部分通電区95Qの距離がd0からd+に広がる。本発明者らによる検証の結果、ベース路95Pが伸長すると、その両端間の抵抗値が増大し、母材32の凸湾曲状態を検知できる。
【0151】
また、
図16A(E)に示すように、母材32の表面が凹となることで、ベース路95Pが長手方向に縮むように他方向に湾曲させると、隣接する低抵抗部分通電区95Qの距離がd0からd-に縮む。本発明者らによる検証の結果、この場合は、ベース路95Pの両端間の抵抗値が減少し、母材32の凹湾曲状態を検知できる。即ち、本構造のセンサ構造500によれば、長手方向の伸縮、曲げ等の物理現象を、抵抗値変化によって好感度で検出できる。なお、この際、低抵抗部分通電区95Qに比して、高抵抗値のベース路95Pの厚みを、より厚く設定し、母材32の歪みに対するベース路95Pの変形が、当該厚みを薄く設定した場合よりも増大するように構成することも好ましい。
【0152】
このセンサ構造500は、比較的簡易に形成することが可能となるので、様々な母材32に対して広範囲に形成して、母材32の物理現象を検出できる。例えば、
図16B(A)に示すように、壁面、床、天井、柱等の広範囲な平面を有する母材32の場合は、平面における一方向Xにおいて、一端近傍から他端近傍となる全域に亘って、単一回路となるセンサ構造500が延びるように形成する。本事例では、単一回路が、特定方向Xに対して直角となる他方向Yにおいて、一旦近傍から他端近傍となる全域に亘って、複数回に往復して蛇腹状に広がる。即ち、単一回路が、X方向とY方向の双方向において、一端近傍から他端近傍の全域に配置される構造となる。なお、
図16B(B)に示すように、一方向Xにおいて一端近傍から他端近傍となる全域に亘って広がるセンサ構造500が、Y方向に複数配置されることで、平面全体の物理現象を検知するようにしても良い。
【0153】
また例えば、
図16C(A)に示すように、梁等の骨組、鉄道レール等のように、一方向に長い帯状面を有する母材32の場合は、その長手方向Xにおいて、一端近傍から他端近傍となる全域に亘って、単一回路となるセンサ構造500が延びるように形成する。ちなみに、本事例では、単一回路を長手方向Zに一往復させている。更に
図16C(B)に示すように、一方向Xにおいて一端近傍から他端近傍となる全域に亘って広がるセンサ構造500が、Y方向に蛇行することで、平面全体の物理現象を検知するようにしても良い。
【0154】
次にセンサ構造の他の構成例を説明する。
図16D(A)及び(B)に示すセンサ構造500は、低抵抗部分通電区95Qが下層側(母材32側)となり、ベース路95Pを上層とすることもできる。つまり、ベース路95Pの裏側の表面に低抵抗部分通電区95Qが形成される。この場合であっても、
図16Aのセンサ構造500と略同じ出力を得ることが出来る。また、本構造の場合、先に低抵抗部分通電区95Qを形成しておき、これらの全体を覆うようにして、ベース路95Pを形成することができる。結果、複数の低抵抗部分通電区95Qの間隔d0の空間に、ベース路95Pの導電材が充填されるので、その空間自体が高抵抗部分通電区95Tとなる。
【0155】
また
図16E(A)に示すセンサ構造500は、ベース路95Pの内部(本実施形態では厚み方向の内部)に、低抵抗部分通電区95Qが埋設される構造となっている。この構造の場合、複数の低抵抗部分通電区95Qの間隔d0に相当する部分が、高抵抗部分通電区95Tとなる。
【0156】
更に
図16E(B)に示すセンサ構造500は、一連となるベース路95Pが存在しておらず、高抵抗部分通電区95Tと低抵抗部分通電区95Qが交互に連なる様に形成される。この場合、高抵抗部分通電区95Tと低抵抗部分通電区95Qの端縁同士が電気的に接合されており、電子は、高抵抗部分通電区95Tと低抵抗部分通電区95Qを交互に流れていくことになる。この応用として、
図16E(C)に示すように、高抵抗部分通電区95Tと低抵抗部分通電区95Qがそれぞれ平面状となっており、高抵抗部分通電区95Tと低抵抗部分通電区95Qが重なることで、(端部ではなく)平面同士が互いに面接触しても良い。ここで、高抵抗部分通電区95Tの層厚は、特に限定されるものではないが、厚めに設定することで、母材32の歪みに対する高抵抗部分通電区95Tの変形量を増大させることが可能であり、検出感度を向上させることが可能となる。しかしながら高抵抗部分通電区95Tの層厚が厚過ぎると、熱膨張や熱収縮の影響が大きく成り易いので、厚過ぎない設定とすることが好ましく、例えば、低抵抗部分通電区95Qの厚みに比して、より厚くなる程度に設定することが好ましい。なお、低抵抗部分通電区95Qの層厚は、1mm以下に設定するのが、好ましく、母材32の変形への追従性や熱膨張、熱収縮、材料使用量、製作性等を加味すれば、数百μm以下、望ましくは0.1μm~数十μm程度とする。勿論、薄過ぎれば、ベース路95P自体の断裂や抵抗値の増大が起こってしまうことを加味した設定とすることが好ましい。
【0157】
図16F(A)乃至(C)に示すように、センサ構造500を多層化することもできる。具体的にベース路95P内には、高抵抗率となる導電材で構成される複数の高抵抗部分通電区95Tが、互いに間隔を存して配置される。ベース路95Pの表面に積層される低抵抗部分通電区95Qによって、対となる高抵抗部分通電区95Tが電気的に繋げられる。なお、ベース路95P内における、高抵抗部分通電区95Tが存在しない領域は、補助通電区95Uとなる。低抵抗部分通電区95Qの表面には、更に、その一部として第二低抵抗部分通電区95Hが形成される。この第二低抵抗部分通電区95Hは、低抵抗部分通電区95Qと比較して一層低抵抗率となる導電材で構成される。従って、
図16F(C)に示すように、低抵抗部分通電区95Qを移動する電子は、その途中で更に第二低抵抗部分通電区95H側を移動して、低抵抗部分通電区95Qに戻る。
【0158】
即ち、低抵抗部分通電区95Qと第二低抵抗部分通電区95Hのみに着目すると、低抵抗部分通電区95Qが所謂ベース路となって、その中に少なくとも一対の高抵抗部分通電区95T'と、その間に介在する補助通電区95U'を有する。第二低抵抗部分通電区95Hは、対となる高抵抗部分通電区95T'を電気的に繋ぐように設けられる。結果、本事例のセンサ構造500では、相対的に高抵抗となる高抵抗部分通電区と、相対的に低抵抗となる低抵抗部分通電区が、多層状態で形成されるので、感度を一層高めることが可能になると考え得る。
【0159】
勿論、このセンサ構造500において、低抵抗部分通電区95Qと第二低抵抗部分通電区95Hを一体的にとられて、これら全体が低抵抗部分通電区と定義すれば、
図16Aのセンサ構造500と略同一視することができる。
【0160】
また、
図16G(A)に示すように、母材32が棒状部材(断面の形状は円形に限られず、角柱等でも良い)となる場合、周方向に延びる環状の高抵抗部分通電区95Tと、周方向に延びる環状の低抵抗部分通電区Qが、軸方向に交互に配置されていても良い。軸方向の両端に電圧を印加すれば、棒状部材となる母材の曲げ、ねじり、引っ張り等の挙動を高精度で検知することが可能となる。更に
図16G(B)に示すように、高抵抗部分通電区95Tは、周方向にも一定の間隔を存して複数配置するようにしても良い。
【0161】
更に
図16H(A)に示すように、面(平面又は曲面)を有する母材32において、その面全体に広がる面状のベース路95Pを形成し、このベース路95Cの表面に、複数の低抵抗部分通電区95Qを配置することもできる。本事例では、複数の方形(必ずしも方形でなければ成らないというものではなく、断続的に比較的良好な抵抗値の導電区を設ければよい)の低抵抗部分通電区95Qを、面方向に広がるように(例えばマトリクス状、ハニカム状、ランダム状)に互いに間隔を存して配置する。このセンサ構造500において、離れた二か所から電圧を印加すれば、母材32の変形等を検知することが可能になる。面状の配線を構築すると、断線等の心配がなくなり、長期的に安定したセンシングが実現される。また、低抵抗部分通電区95Qは、マトリクス状に配置する場合に限られず、
図16H(B)に示すように、帯状の低抵抗部分通電区95Qを、帯幅方向に間隔を存しながら複数配置することで、面全体のセンシングを実現しても良い。
【0162】
いずれにしろ、
図16A乃至
図16Hで示すような、一定の面積を有するセンサ構造500を採用すれば、母材32に亀裂や損傷、摩耗、磨滅等が生じた場合に、センサ構造50にも亀裂や損傷、摩耗、磨滅等が生じ、センサ構造500の機能そのもののダメージは無いままに、その通電面積(体積)の変化によって抵抗値変動として出力できる。即ち、
図10乃至
図13等で示す加工工具又はホルダ400Aの表面全体に対して、面状のセンサ構造500を形成することで、様々な物理的変化を安定して検知することが可能になる。なお、面状のセンサ構造500の構造は、上記事例に限定されず、単層の電気抵抗層であっても良い。
【0163】
例えば、その応用として、
図16I(A)に示すように、ブレーキパッド1000の環状の側面(周面)に対してセンサ構造500を形成しておくことも好ましい。パッド面1002の磨滅によって、ブレーキパッド1000の厚みが減少すると、その厚みの減少と共にセンサ構造500の帯幅が減少するので、抵抗値変化として検出することが可能になる。この際、
図16I(B)に示すように、周面に複数のセンサ構造500を形成しても良い。
図16I(C)に示すように、周面の全体に連続的にセンサ構造500を形成し、一対の通電端子を離れた場所(正反対の位相)に形成しても良い。
【0164】
更にこの応用例として、
図17に示すように、帯状抵抗配線94Cを並列回路とし、帯幅方向に隣接配置される並列配線部94Dからなる並列領域Xに、複数の導電部(導電片)95Dを配置しても良い。このようにすると、並列領域Xの並列配線部94Dの帯長手方向の検出感度を高めることができる。なお、並列領域Xを形成する場所(範囲)が限られる場合は、例えば
図18に示すように、並列配線部94Dを帯長手方向に並べて配置することもできる。なお、帯状抵抗配線94Cの裏側表面(ドリル側の表面)に導電部95Dを形成することもできる。
【0165】
更にこの応用例として、
図19(A)及び(B)に示す通電路92のように、面状抵抗配線95Cの両外縁に電極95A、95Bを配置しておき、この面状抵抗配線95Cの表面に、複数の導電部(導電片)95Dを配置することもできる。本実施例では、面状抵抗配線95Cの一方の表面に、複数の方形の導電部95D(必ずしも方形である必要はなく、断続的に比較的良導性の導電部95Dを設けて構成すればよい。)を、面方向に広がるように(例えばマトリクス状、ハニカム状)に互いに間隔をあけて配置する。電極95A、95Bは、一方向に一対(A1、A2)、他方向に一対(B1、B2)となるように合計四か所に配置する。
【0166】
二対の電極95A、95Bのそれぞれに電圧を印加すると、
図19(B)の矢印に示すように、導電部95Dの内部と、距離d0で隣接する導電部95Dの間の面状抵抗配線95Cの一方の表層を電子が移動して電流が流れる。従って、面状抵抗配線95Cの一方の表層側に対する電流を支配的なものとして電流を流すことができる。
【0167】
従って、
図19(C)に示すように面状抵抗配線95Cの一方の表面が伸びるように通電路92を一方向に湾曲させると、隣接する導電部95Dの距離がd0からdに広がる。結果、一方向の一対(A1、A2)の電極95A、95Bの間の抵抗値が増大し、湾曲状態を検知できる。特に図示しないが、面状抵抗配線95Cを他方向に湾曲させると、他方向の一対(B1、B2)の電極95A、95Bの間の抵抗値が増大する。
【0168】
なお、ここでは導電部95Dが正方形となる場合を例示したが、三角形、長方形、五角形、六角形、八角形等の多角形、楕円、正円等の円形の他、様々な形状を採用できる。例えば六角形の場合は、
図20(A)に示すように、所謂ハニカム状に導電部95Dを配置しても良い。その際は、周囲に三対(A1、A2)(B1、B2)(C1、C2)以上の電極を対向配置しても良い。また、
図20(B)に示すように、所謂サッカーボールのように、球状の面状抵抗配線95Cの表面に、五角形と六角形の導電部95Dを組み合わせて配置することも可能である。また、面状抵抗配線95Cを半導体又は絶縁体として、電極間の静電容量の変化を検知することも可能である。
【0169】
また、本発明は、通電路92によって変形や歪みを検出する場合に限られない。例えば、
図21に示すように、第一の抵抗率値(若しくは、仕事関数値)を有する第一部分通電路92Xと、第二の抵抗率値(若しくは、仕事関数値)を有する第二部分通電路92Yの両端を接続して、一方の接続点を温接点T1、他方の接続点を冷接点T2とすることができ、この場合、起電力を得ることが可能となる。これは、抵抗率値を異ならせること、つまり、第一の抵抗率を有する第一部分通電路92Xと、第二の抵抗率値を有する第二部分通電路92Yの素材(材料)を異ならせることで、簡単に実現することができる。この温接点T1と冷接点T2に温度差が生じると、所謂ゼーベック効果により、温接点T1と冷接点T2の間に電圧Vが生じて電流が流れる。従って、この通電路92によれば、通電路付部材に生じる温度変化を検知したり、起電力を得るようにしたりすることが可能となる。従って、既に述べたような抵抗率値変化によって応力を検知する通電路と、起電力を得る通電路を組み合わせることで、自らが電力を生み出しながら、応力を検知したり、その検知データを外部に送信したりすることができる。
【0170】
次に、本実施形態において、複数の通電路92を形成する際の通電回路の構成を
図22から
図27を用いて示す。
【0171】
図22は、加工工具又はホルダ202に形成される通電回路201を示す。通電回路201は、電気抵抗となる複数の通電路92が並列に接続されて構成される(
図22(a)参照)。これにより、例えば、加工工具又はホルダ202が所望の広域な面積を有する場合、多数の通電路92を分散配置できるので、各通電路92近傍の歪み等を検知することが可能となる。また、全ての通電路92に対して、共通の端子A、端子Bとなる一対(又は複数対)の良導体から電圧が印加されるので、通電回路201の回路構成を単純化できる。
【0172】
この際、各通電路92は、それぞれ抵抗値R1,R2,R3,R4に設定されており、これらの四つの通電路92は、良導体を経由して端子A、端子Bに両端が接続される。なお、通電路92の数は四つに限らず、幾つでも構わない。また抵抗を測定できる端子の数も二つに限らない。抵抗値R1,R2,R3,R4は、互いに異なる抵抗値に設定されており、お互いの抵抗値R1,R2,R3,R4の差は、各通電路92が規格内の歪み等をセンシングする際に生じる得る最大抵抗値変化量(δR1,δR2,δR3,δR4)よりも大きく設定することが出来る。
【0173】
通電回路201は加工工具又はホルダ202に直接的に形成されている。通電路92を形成する方法としては、塗布、転写、リソグラフィー、切削、蒸着、スパッタリング、印刷、半導体プロセス或いはこれらの何れか二つ以上の組合せによって構成することなどが考えられる。電気抵抗となる部分は、高抵抗率の電導性塗料又はペーストを用いることも出来、また、ニクロムなど抵抗率の高い金属の薄膜を通電路92として形成しても良い。良導体としては銅、アルミなど抵抗率の低い金属の薄膜を形成することも考えられる。なお加工工具又はホルダ202が電気伝導体である場合は、下地として絶縁体を塗布した上に通電回路201を形成することが望ましい。下地としては例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等が考えられる。
【0174】
図22(a)の場合、端子Aと端子Bの間の合成抵抗Rは、加工工具又はホルダ202に何ら支障が無く定常状態であり、回路パターンが全て接続されている場合には、1/R=1/R1+1/R2+1/R3+1/R4の関係が成り立ち、計算により求めることができる。
【0175】
また、加工工具又はホルダ202に変形、変温等が生じた場合、通電路92の抵抗値等が変化することによって、その変化をセンシングすることが可能となる。例えば、抵抗値R1となる通電路92が、歪み等によって変形して抵抗値がδR1だけ増大した場合は、1/R=1/(R1+δR1)+1/R2+1/R3+1/R4の関係が成り立つ。この合成抵抗Rの変化によって各種現象或いは物理状態の変化をセンシングできる。
【0176】
これに対して、加工工具又はホルダ202が振動や経年劣化、摩耗等で損傷を生じ、
図22(b)のように切断部位203を生じる場合を仮定すると、端子Aと端子Bの間の合成抵抗R'は、1/R'= 1/R2+1/R3+1/R4となり、端子Aと端子Bの間の抵抗を図ることで、加工工具又はホルダ202に支障や摩耗が生じたことがわかる。さらにR1~R4を異なる抵抗値にしているので、どの通電路92に繋がる経路に支障が生じたかを、端子Aと端子Bの間の電気抵抗を測定するだけで検知することができる。本実施形態としては、単純に電気抵抗が並列に並んだ形態を示したが、通電回路201としては、電気抵抗が直列接続された構造であっても良く、直列接続と並列接続が入り交じった構造であっても良い。
【0177】
図23は、
図22で示した通電回路201の変形例である二次元マトリックス状の通電回路204の例を示す。
図23(a)の二次元マトリックス通電回路204は、電気抵抗となる複数の通電路92が、メッシュ状(格子状)に相互接続して構成される。通電路92と通電路92の間は良導体で形成された回路パターンで接続されている。通電回路204は、電気抵抗を測定するための端子A、端子B、端子C、端子Dを備えており、例えば端子Aと端子Cの間の抵抗を測定することで、加工工具又はホルダ202の変化をセンシングすることができる。
【0178】
また、通電路92が全て同じ電気抵抗だとしても、複数の通電路92のいずれかが断線や故障した場合、一個所の接続が切れたのか、二個所以上の接続が切れたのかといった大まかな変化を簡単に得ることができる。また各通電路92については、それぞれ例えばキロオーム単位で異なる抵抗値、例えば、素数の抵抗値、すなわち2キロオーム、3キロオーム、5キロオームといったような異なる値の電気抵抗を備えていれば、通電路92が形成された加工工具又はホルダ202のどの部分に破断や摩耗等の支障が起こったのか、端子間の抵抗を測定すれば推定することが可能である。例えば、全ての抵抗値を素数に設定すれば、並列回路における合成抵抗値に含まれる素数積の因数分解(の一意)性から、断線した抵抗値を推測することができ、結果として、断線した通電路205の場所を特定できる。
【0179】
図23(b)には二次元マトリックス状の通電回路204の更なる変形例を示す。この通電回路204では、マトリックス状に配置される通電路92が、互いに直列接続される。この直列回路の場合、どこかで断線が生じると、通電回路204の全体でセンシングができなくなるので、断線によって異常を検知することが可能になる。一方で、
図22(a)や
図23(a)で示した並列接続を含む通電回路の方が、一部が断線しても残部でセンシングが可能となり、長期間に亘る計測用途に好適となる。
【0180】
また、
図23(b)では端子A、端子Bのみを図示しているが、各通電路92(又はある特定の複数の通電路92群)を測定する端子を設けることで、構造体のどこに損傷が生じているかを、事後的に特定できるようにしてもよい。従って定期センシングでは端子Aと端子Bの間の抵抗を測定することで、加工工具又はホルダ202全体についての安全性を容易にチェックできるとともに、何らかの異常を検知した後や、突発的な事象後の詳細検査時には、各通電路92間を個別測定することで、加工工具又はホルダ202のどの部分で損傷が生じているかを特定しても良い。
【0181】
図22及び
図23のように、通電路92が二次元平面に広がった通電回路は、長さ、細さ、厚さ等が変化すれば電気抵抗も変化する。従って、この通電回路が形成されたシート状又はメッシュ状の通電路形成部材を、加工工具又はホルダに貼り付けることで、その歪みをリアルタイムにセンシングすることができる。また、各通電回路の一部にメモリを配置しておき、センシング履歴データを保存するようにすれば、切削加工時に生じる振動現象等の履歴を正確に蓄積することができ、事後的なデータ改ざん等を防止できる。
【0182】
また、上記
図22及び
図23の事例では、通常、加工工具又はホルダの歪等を検知している。更に、通電回路に切断部位が生じた場合は、その位置を容易に特定できる。一方で、そもそも加工工具又はホルダの摩耗は欠損現象(即ち、通電回路の断線現象)を限定的に検知する目的で活用することもできる。
【0183】
更に
図23では、複数の通電路92を二次元マトリクス状に相互接続する場合を例示したが、三次元マトリクス状(立体状)に相互接続しても良い。
【0184】
また、
図22、
図23のように多数の異なる抵抗値を持つ通電路92を、加工工具又はホルダに直接設けるためには、その回路パターンを予め設計する必要がある。この際、計算機等のメモリに、所定の抵抗値を持つ基本的なパターン情報を複数用意しておき、この計算機で実行される回路生成プログラムによって、これらのパターン情報を組み合わせることで回路データを生成し、この回路データを印刷機や半導体成膜装置に伝送して、導電性塗料や金属ペーストを塗布・プリント等したり、半導体プロセスのレジスト被膜を描写したりすることで実際の通電回路を形成する手法が好ましい。この種の設計工程例を
図24に示す。
【0185】
図25(a)は、正方形(正方形に限らず、例えば、正三角形、長方形、菱形、正六角形、その他、適宜の幾何学的形状)等の一定の面積を有する基準枠において、対辺の中央に配置される一対の端子207と、一対の端子207の間に配置される単位抵抗体208とを有するパターン情報206aを示す。単位抵抗体208は、例えば1キロオームの基準抵抗値に設定される、結果、プリントパターン情報206aは1キロオームパターンとなる。
【0186】
図24(b)のパターン情報206bは、一対の端子207の間に、単位抵抗体208が直接に二個配置されるので2キロオームパターンとなる。
図24(c)のパターン情報206cは3キロオームパターンとなり、
図24(d)のパターン情報206dは5キロオームパターンとなり、
図24(e)のパターン情報206eは7キロオームパターンとなる。
【0187】
また、
図24(f)のパターン情報206fは、正方形の基準枠の各四辺の中央に計四個の端子207が配置され、それらの全端子207と接続される位置に、単位抵抗体208が配置される。このようにすると、計4個の端子207の中から任意の二個の端子207を利用すれば、1キロオームの抵抗を得ることができる。その他にも、
図24(g)(h)(i)のパターン情報206g、206h、206iのように、良導体のみの連結用パターンも用意しておくことが好ましい。これらのパターン情報206a~206iを計算機のメモリに蓄積しておき、これらをプログラム上で組み合わせることで、所望の抵抗値のパターン情報(回路情報)を容易に生成できる。なお、ここでは正方形の基準枠の各辺の中央に隣接するパターンと連続する端子を配置する場合を例示したが、正方形の基準枠の各角部に、隣接するパターンと連続する端子を配置しても良い。
【0188】
図25は、15個のパターン情報を組み合わせて生成した回路情報を描写したものである。ここでは、複数のパターン情報を直列配置した4キロオームの通電回路と、13キロオームの通電回路と、14キロオームの通電回路が、互いに並列接続される。例えば、この回路情報を塗布装置にインプットし、塗布装置が、良導体ペースト又は抵抗体ペーストを加工工具又はホルダに塗布して通電回路を形成すれば良い。また、フォトレジスト等により、加工工具又はホルダに対して同パターンを描写してマスキングし、半導体や蒸着等の成膜プロセスによって所望の通電回路を形成しても良い。
【0189】
図26は、加工工具又はホルダの他の実施形態を示す。本実施形態では、加工工具又はホルダ212に対して通電路付部材217が別途設置される構成となっている。この通電路付部材217は、複数の通電回路を有する帯状の材料となる。通電路付部材217は、所謂スマート包帯であり、
図26(a)のように、加工工具又はホルダ212にらせん状に巻きつけられて、自身の変形等によって物理現象を検出する。通電路付部材217への通電回路のプリント方法は、転写、エッチング、塗布、半導体プロセス等でもよい。通電路付部材217の材質は、布、不織布、樹脂、炭素繊維、金属繊維、ケイ素繊維、ガラス繊維等の各種強化繊維を含む繊維強化合成樹脂、紙、ゴム、シリコーン等、様々である。通電路の材質はアルミでも銅でも有機電導体でもその他の電気伝導体でも良い。
図26(b)に示すように、通電回路213には、ID信号発信回路が形成し得、その場合、それぞれ独立した個別IDを発信できる。このID信号発信回路は、ICチップを事後的に貼り付ける等によって配置しても良い。この結果、各通電回路213が、通電路付部材217のどの場所に位置するかを予め把握(識別)できる。例えば、スマート包帯217を設置した後、
図26(b)のように、無線アクセス手段218により、全ての通電回路213から個別IDを受信して、
図26(a)の加工工具又はホルダ212のどの場所に、どの個別ID(通電回路213)が配置されているかを確認してデータとして保存しておく。その後、加工工具又はホルダ212に変形が生じると、特定のアンテナの共振周波数が変化したりする。その周波数変化の情報と共に、通電回路213から個別IDを収集することにより、加工工具又はホルダ212のびびりや変形等を検知するように構成することもできる。なお、ここでは通電回路213毎に個別IDを付与する場合を例示しているが、例えば、スマート包帯となる通電路付部材217単位で部分IDを付与しても良く、その他のルールでIDを付与することも可能である。
【0190】
図27は、加工工具又はホルダの他の実施形態を示す。本実施形態では、加工工具又はホルダ212に対して、電子部品パッケージ型のセンサ192が別途設置される構造となっている。センサ192には、例えば、MEMS技術を用いて製作される加速度センサやジャイロセンサ、サーミスタ等、目的に応じて様々なものを利用できる。加速度センサの場合、一軸式、二軸式、三軸式などを適宜選択できる。センサ192は、例えば、フレキシブル基板に実装されており、このフレキシブル基板を加工工具又はホルダに接着剤等で貼り付けられる。なおフレキシブル基板には、センサ192に電力を供給する配線や、センサ192の検知信号を取得する為の配線が形成されることが好ましい。
【0191】
なお、上記実施形態における
図5Cでは、加工工具となるドリル40の長手方向又は螺旋方向に、往復するように通電路92を形成し、この通電路92自体の伸縮や欠損による抵抗値変化を検出する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図28(A)及び(B)に示すように、良導体で構成されて長手方向に延びる往路92Aと、この往路92Aに対して間隔を存して平行するように形成される良導体の復路92Bと、この往路92Aと復路92Bの間において、梯子状に複数に懸架される抵抗材料の懸架路92Cを形成しても良い。なお、この懸架路92Cは、往路92Aと復路92Bの間に、隙間方向(幅方向)に延びるようにして多数懸架される。このようにすると、ドリル40の先端側の摩耗によって懸架路92Cが欠損するに伴って、全体の抵抗値が変化するので、刃の摩耗量を検知することができる。また、ドリル40が折れたり、長手方向の途中に亀裂が生じたりすることで、往路92A、復路92B、又は懸架路92Cの一部が断線しても、残存する往路92Aと復路92Bと懸架路92Cによって、抵抗値変動として検出することができる。即ち、断線等によって検知不能の事態に陥ることを低減することができる。本事例においても、相異なる電気抵抗率値及び/又は通電素材部の部分が通電経路に沿って一連に設けられる構造となる。
【0192】
なお、ここでは、往路92A及び復路92Bの基端側は外部接続端子92Tとなっており、特に図示しないホルダやその他の部材に設けられる外部配線と接続されて、この外部配線から電力が供給されるようになっている。本実施形態のように、加工工具が柱状となる場合、例えばシャンク部42に対してDカット、二面取り、多面取り等による平面42Aに形成し、この平面42Aに外部接続端子92Tを配設することで、外部配線との位置決めを確実に行うことができる。
【0193】
なお、
図28(C)に示すように、この複数の懸架路92Cに代えて、往路92Aと復路92Bの間に面状(帯状)抵抗路92Dを配置することも好ましい。このようにすると、ドリル40の先端側の摩耗によって面状(帯状)抵抗路92Dが欠損するに伴って、全体の抵抗値が変化するので、刃の摩耗量を検知することができる。また、また、ドリル40が折れたり、長手方向の途中に亀裂が生じたりすることで、往路92A、復路92B、又は面状(帯状)抵抗路92Dの一部が断線しても、残存する往路92Aと復路92Bと面状(帯状)抵抗路92Dによって、抵抗値変動として検出することができる。更に、ドリル40に捩れが生じたり、ドリル40が振動したりすることで、面状(帯状)抵抗路92Dの長さが伸縮すると、抵抗値が変化するので、ドリル40の挙動を検知することも可能になる。
【0194】
また、シャンク部42Dに平面42Aを形成して外部接続端子92Tを形成する場合を例示したが、例えば
図28(D)に示すように、柱状部材の外周面に沿って、面状の外部接続端子92Tを形成しても良い。接点の面積を大きく確保できるので、外部配線との通電を確実に行うことができる。
【0195】
また、
図5Cでは、ドリル40の刃溝の底面211uに通電路92を形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。
図29に示すように、ボディー部44における刃部44bの外周面に通電路92を形成することができる。具体的には、
図29(B)に示すように、刃部44bの外周面に、通電路用の溝44xを別途形成し、その溝44x内に、特に図示しない絶縁被膜を介して、往路92A、復路92B及び面状(帯状)抵抗路92Dを形成しても良い。
【0196】
また、
図2では、第一通電路93が、第一方向となる軸方向Jに延びて往復しつつ、周方向Sの一部範囲に拡がるように形成される場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば
図30に示すように、第一通電路93が、第一方向となる軸方向Jに延びて往復しつつ、周方向Sの略全周に亘って形成されても良い。このようにすると、ドリル40が様々な方向に曲がったり、振動(軸ずれ)したりする場合でも、単一の通電路93でその挙動を検知できる。
【0197】
次に
図31を参照して、切削加工用のチップ140に対して、センサとなる通電路92を形成する場合を例示する。
図31(A)に示すように、チップ140は、平面視した場合に三角形となっており、角の頂点となるノーズ140Aと、ノーズ140Aの両脇の縁に形成される刃部140Bを有する。通電路92は、ノーズ140Aと刃部140Bを含むようにして、平面と側面に形成される。また、通電路92には、ノーズ140Aを途中に挟む両端において一対の外部接続端子92Tが形成される。なお、特に図示しないが、この外部接続端子92Tには、例えば、ワッシャ形状等の圧着端子を固定するための雌ねじ穴等を形成しても良い。
【0198】
図31(B)に示すように、チップホルダ(シャンク)142におけるチップ用の受面142Aには、外部接続端子92Tと当接可能な受側端子142Bが形成される。この受側端子142Bには、特に図示しない切削加工装置の本体側から電気が供給されるようになっている。
【0199】
図31(C)に示すように、チップホルダ142の受面142Aにチップ140を設置すると、外部接続端子92Tと受側端子142Bが自ずと当接し、その結果、受側端子142Bを介して通電路92に電気が供給され、チップ140の状況を検出できる。具体的には、ノーズ140A部分や刃部140Bが摩耗してくると、通電路92も一緒に摩耗して、通電路92の抵抗値が変化する。従って、その抵抗値をセンシングすれば、チップ140の交換時期を判断することができる。なお、チップ140やチップホルダ142の母材が導電性材料の場合、通電路92の下地層として絶縁層を形成することになるが、チップ140やチップホルダ142が非導電性(又は高抵抗)材料の場合(例えばセラミック等)は、下地層を省略することもできる。
【0200】
なお、
図31(D)に示すように。チップ140が多角形となっており、複数の頂点が、それぞれ切削用のノーズ140Aとして用いることができる場合は、各ノーズ140A及びその両脇の刃部140Bに対して、互いに独立した通電路92及び外部接続端子92Tを形成することが好ましい。複数のノーズ140Aから特定のノーズ140Aを選択して、チップホルダ142に配設すると、選択されたノーズ140Aに対応する通電路92の外部接続端子92Tと、チップホルダ142の受側端子142Bを当接させることができる。
【0201】
また、
図32(A)の完成バイト240のように、ノーズ240A(刃先)に限定して通電路92を形成し、その両脇の刃部には通電路を形成しないようにしても良い。このようにすると、ノーズ240A部分の摩耗等に限定して検知することが可能となる。
【0202】
図32(B)に、エンドミル340に導電路92を形成する場合を示す。ここでは、エンドミル340の螺旋条の外周刃340Aの稜線に沿って通電路92が形成される。このようにすると、外周刃340Aの摩耗度合を、通電路92によって検知することが可能となる。この場合は、各導電路92は、
図28(B)又は(C)で示すように、往路92Aと復路92Bを含むようにすることが好ましい。
【0203】
また、
図16に示す通電路92では、高抵抗率材料となる帯状抵抗配線94Cの表面に、低抵抗率材料の複数の導電部(導電片)95Dを配置する構造の場合、帯状抵抗配線94Cの形成範囲は、物理現象を検出する領域に限定することが好ましい。帯状抵抗配線94Cを他の領域まで広げると、ノイズが生じやすいからである。具体的に
図33(A)(B)に示すように、帯状抵抗配線94Cに電力を供給する供給配線95Rは、低抵抗率材料で構成することが好ましい。
【0204】
更に、供給配線95Rは、通電路92が配される平面と同一面又はそれと平行面(たとえば、
図33(B)のような裏側の面)に形成されることが好ましい。供給配線95Rは低抵抗値材料が用いられるものの、加工工具等が変形又は変位すると、多少の抵抗値変化が生じ得る。そこで、本事例のように構成すると、加工工具等の通電路92の大きな抵抗値変化と、供給配線95Rの抵抗値の微細変化の挙動特性が近似するので、供給配線95Rの微細抵抗値変化が、通電路92の検出信号に対するノイズ成分になりにくい。
【0205】
なお、本実施形態では上記切削加工装置としてドリルを用いるボール盤を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、汎用又はNCのタレット旋盤等の旋盤、フライス、エンドミル等を用いるフライス盤、バイト等を用いる形削り盤、バイト等を用いる平削り盤、リーマー、タップ等を用いるボール盤、バイト等を用いる中ぐり盤、ブローチ等を用いるブローチ盤、ボブ盤(ボブ)、歯車形削り盤(ラックカッタ、ピニオンカッタ)等の歯切り盤、砥石等を用いる研削盤、コンターマシン、帯鋸盤、マシニングセンタ、ホーニング加工機、バリ取り・面取り機、裁断機等を含む。
【0206】
次に、
図34を参照して、切削加工用のチップ(切削バイト)140に対して、センサとなる通電路92を直接的に形成する事例を紹介する。
図34(A)に示すように、チップ140は、平面視した場合に略正三角形となり、所望の厚みを有している。従って、チップ140のノーズ140Aとなり得る一つの角部150に着目すると、角部150は三角錐状となる。この角部150の頂点がノーズ140Aとなる。具体的に角部150は、三角錐を構成する各表面として、第一表面152と、第二表面154と、第三表面156を有する。なお、第一表面152は、チップ140における平面となり、第二表面154及び第三表面156は側面となる。ノーズ140Aを起点とし、第一表面152と第二表面154の境界線(稜線)155Aは第一刃部140Bとなり、第一表面152と第三表面156の境界線(稜線)155Bは第二刃部140Cとなる。なお、第二表面154と第三表面156の境界線(稜線)155Cには刃部が形成されない。
【0207】
角部150に形成される通電路92は、面状抵抗配線190と、面状抵抗配線190と接触する状態で互いに間隔を存して配設される第一電極195及び第二電極196を備える。
【0208】
面状抵抗配線190は、第一表面152を覆う第一面状領域162と、第二表面154を覆う第二面状領域164と、第三表面156を覆う第三面状領域166を備える。第一面状領域162、第二面状領域164、第三面状領域166は境界線155A、155B、155Cを乗り越えるようにして相互に連続しており、また、ノーズ140Aを含む範囲まで広がる。従って、面状抵抗配線190は、ノーズ140A及びこのノーズ140Aから延びる三つの境界線155A、155B、155Cを覆う。
【0209】
第一電極195は、第一面状領域162に配設され、第二電極196は第二面状領域164及び第三面状領域166に配設される。第一電極195は、ノーズ140Aから間隔を存した状態で、このノーズ140Aを取り囲むように、第一面状領域162の端縁近傍に沿って帯又は線状に形成される。また、この第一電極195は、第二電極側196側に対向する線状の端縁195Aを有する。この端縁195Aは、第一電極195と第二電極側196に間に電圧が印加される際に、第一面状領域162との間で主として電子を授受する縁となる。端縁195Aが延びる方向は、第一表面152と第二表面154の境界線155Aと、第一表面152と第三表面156の境界線155Bの双方に対して角度を有する(双方に対して非平行となる)。具体的には、端縁195Aと、境界線155Aと、境界線155Bによって三角形が構成される状態となる。
【0210】
第二面状領域164に形成される第二電極196は、ノーズ140Aから間隔を存した状態で、第二面状領域164の端縁近傍に沿って帯又は線状に形成される。この第二電極196は、第一電極側195側に対向する線状の端縁196Aを有する。この端縁196Aは、第一電極195と第二電極側196に間に電圧が印加される際に、第二面状領域164に対して主として電子を授受する縁となる。端縁196Aが延びる方向は、境界線155Aと平行としても良い。また、端縁196Aが延びる方向は、境界線155Cに対して略直角としても良いが、勿論、この角度は必ずしも直角に限定されるものではない。
【0211】
第三面状領域166に形成される第二電極196は、ノーズ140Aから間隔を存した状態で、第三面状領域166の端縁近傍に沿って帯又は線状に形成される。この第二電極196は、第一電極側195側に対向する線状の端縁196Aを有する。この端縁196Aは、第一電極195と第二電極側196に間に電圧が印加される際に、第三面状領域166に対して主として電子を授受する縁となる。端縁196Aが延びる方向は、境界線155Bと平行としても良い。また、端縁196Aが延びる方向は、境界線155Cに対して略直角としても良いが、勿論、この角度は必ずしも直角に限定されるものではない。
【0212】
なお、チップ140は、通電路92として、第一電極195に電力を供給する外部接点195Bを備える。また、第二電極196に電力を供給する外部接点196Bも備える。この外部接点196Bは、第二面状領域164側の第二電極196と、第三面状領域166側の第二電極196のそれぞれに独立して設けられる。このようにしたのは、第二面状領域164側の第二電極196と、第三面状領域166側の第二電極196は、境界線155Cを跨いで互いに導通しているものの、境界線155Cにワーク等が接触することで導通状態が互いに分断される可能性があり、そのような場合においても、分断された第二電極196のそれぞれに電力を印加できるようにするためである。
【0213】
図34(B)に、三角錐状の角部150に着目して、第一乃至第三表面152、154、156を平面展開した状態を示す。平面展開図から分かるように、第一電極195及び第二電極196が帯状に形成されていることから、両者の間に電圧を印加すると、面状抵抗配線190(第一面状領域162、第二面状領域164及び第三面状領域166)の全体に電流が流れる。結果、面状抵抗配線190の一部が摩滅したり、欠損したりすると、電流の流れが変化しやすいので、その異常を高感度で検知できる。一方、この平面展開図から分かるように、第一電極195の端縁195Aと、第二電極196の端縁196Aは、互いに非平行状態となる。この場合、
図34(B)における端縁195Aの両外側端と、端縁196Aの両外側端の距離が近くなり、中央側が離れる。従って、第一電極195の端縁195Aと、第二電極196の端縁196Aの間の面状抵抗配線190の抵抗値は、外側が小さくなり、中央側が大きくなることから、ノーズ140A近傍は、周囲と比較して電流が流れ難い可能性があるので、ノーズ140Aの周囲の検知感度が多少低下しやすい。この感度低下を改善するチップの事例を
図35に示す。
【0214】
図35(A)に示すチップ140では、第一電極195が、ノーズ140Aから間隔を存した状態でV字形状に形成される。結果、第一電極195の端縁195Aが延びる方向は、第一表面152と第二表面154の境界線155Aと、第一表面152と第三表面156の境界線155Bの双方に対して略平行となる。その他は、
図34に示したチップと同じ構造となっている。
【0215】
図35(B)の平面展開図から分かるように、第一電極195の端縁195Aと、第二電極196の端縁196Aは、互いに対向して平行状態となる。従って、第一電極195の端縁195Aと、第二電極196の端縁196Aの間の面状抵抗配線190の抵抗値が、全体的に均質化されるので、ノーズ140A近傍にも電流が流れやすい。結果、ノーズ140Aの周囲の異常(面状抵抗配線190の摩滅や欠損等)に関する検出感度が安定する。
【0216】
次に
図36を参照して、センサとなる通電路92が直接的に形成される切削加工用のチップ(切削バイト)140の他の事例を紹介する。なお、
図34で示したチップ140と同一又は類似する構造については、説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0217】
図36(A)に示すように、本事例では、第二面状領域164に配設される第二電極196の端縁196Aが、第二表面154と第一表面152の境界線155Aと、第二表面154と第三表面156の境界線155Cの双方に対して角度を有している。より具体的に端縁196Aは、境界線155Cの近傍から始まって、ノーズ140Aから離れる方向に延びる際に、このノーズ140Aから離れるに連れて、境界線155Aからも離れるように傾斜状態で配設される。
【0218】
同様に、第三面状領域166に配設される第二電極196の端縁196Aは、第三表面156と第一表面152の境界線155Bと、第二表面154と第三表面156の境界線155Cの双方に対して角度を有している。より具体的に端縁196Aは、境界線155Cの近傍から始まって、ノーズ140Aから離れる方向に延びる際に、このノーズ140Aから離れるに連れて、境界線155Bからも離れるように傾斜状態で配設される。
【0219】
また、第二電極196の端縁196Aの合計長さ(つまり、第二面状領域164に配設される第二電極196の端縁196Aの長さと、第三面状領域166に配設される第二電極196の端縁196Aの長さの合計値)が、第一電極195の端縁195Aの長さと略一致するようになっている。
【0220】
この結果、
図36(B)の平面展開図から分かるように、第一電極195の端縁195Aと、第二電極196の端縁196Aは、互いに対向して平行状態となる。ちなみに、第一電極195の端縁195Aと、第二電極196の端縁196Aが平行となる条件としては、第一表面152におけるノーズ140Aを頂角(角度A)とした二等辺三角形を定義する場合、この二等辺三角形の底角の角度Bと、端縁196Aと境界線155A、155Bが成す角度Zが、等しくなる場合を意味する。従って、第一電極195の端縁195Aと、第二電極196の端縁196Aの間の面状抵抗配線190の距離が、端縁に沿って一定となるので、電極間の抵抗値が全体的にほぼ均質化される。また更に、第一電極195と第二電極196の間に存在する面状抵抗配線190において、第一電極195の端縁195Aと平行に延びる断面の断面積S1、S2、S3は、いずれの場所においても、互いに近似しやすい。具体的には、最大断面積と最小断面積の差を30%以下に設定することができる。結果、電流が、面状抵抗配線190の全体に広がるので、ノーズ140A近傍にも電流が流れやすくなり、ノーズ140Aの周囲の異常(面状抵抗配線190の摩滅や欠損等)に関する検知感度が安定する。なお、第一電極195と第二電極196の中でも、平面展開図上において互いに平行且つ完全に対向する特定領域F,Gは、互いの距離が最短経路となる範囲となる。従って、この特定領域F,Gの距離が長い方が好ましい。
【0221】
次に、
図37を参照して、センサとなる通電路92が直接的に形成される切削加工用のチップ(切削バイト)140の事例を紹介する。なお、
図36で示したチップ140と同一又は類似する構造については、説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0222】
図37(A)に示すように、本事例では、面状抵抗配線190における第二面状領域164の形状が、境界線155A及び境界線155Cに沿ったL字形状(又はV字形状)と近似する。つまり、第二面状領域164の輪郭形状において、境界線155A及び境界線155Cと一致する二辺を除いた残部の輪郭が、ノーズ140A側に凹むような形状となっている。
【0223】
同様に、面状抵抗配線190における第三面状領域166の形状が、境界線155B及び境界線155Cに沿ったL字形状(又はV字形状)と近似する。つまり、第三面状領域166の輪郭形状において、境界線155B及び境界線155Cと一致する二辺を除いた残部の輪郭が、ノーズ140A側に凹む形状となっている。
【0224】
上記凹み形状を採用すると、
図37(B)の平面展開図から分かるように、第一電極195と第二電極196の間に存在する面状抵抗配線190において、ノーズ140Aの近傍にくびれ領域190Aを形成できる。第一電極195と第二電極196の間に存在する面状抵抗配線190において、第一電極195の端縁195Aと平行に延びる断面の面積S1、S2、S3は、いずれの場所においても、一層、近似させやすい。具体的には、最大断面積と最小断面積の差を10%以下に設定することができる。
【0225】
また、くびれ領域190Aのくびれ量を一層大きく設定することにより、ノーズ140Aを通過する断面積SAを、残部の断面積よりも小さくすることも可能となる。このようにすると、面状抵抗配線190を流れる電流が、ノーズ140Aのくびれ領域190Aに集中するので、この部分の抵抗値が高くなり、結果、ノーズ140A近傍における、面状抵抗配線190の摩滅や欠損等の異常を、高感度で検出可能となる。
【0226】
なお、
図38で示すチップ140のように、第二電極196を、ノーズ140Aにできる限り接近させるようにしても良い。このようにすると、ノーズ140A又はその周囲の面状抵抗配線190に電流が流れやすくなり、ノーズ140A又はその周囲の異常の検知感度を高めることができる。
【0227】
更に、
図38の変形例となる
図39に示すチップ140のように、第一電極195の端縁195Aが、ノーズ140Aから間隔を存した状態でV字形状に形成しても良い。このようにすると、第一電極195の一部(V字形状の突端)が、ノーズ140Aに対して局所的に最接近する最接近部195Xとなる。また、第二電極196の端縁196Aは、ノーズ140Aから離れるに連れて、境界線155A、155Bから離反するようになっている。従って、端縁196Aにおけるノーズ140Aの近傍領域は、第一電極195の最接近部195Xに局所的に接近する接近部196Xとなる。第一電極195と第二電極196の間に電圧を印加すると、第一電極195の最接近部195Xと、第二電極196の接近部196Xの最短ルートHに電流が積極的に流れるようになり、ノーズ140A又はその周囲の異常の検知感度を局所的に高めることができる。
【0228】
なお、
図39(B)の展開図では、第二面状領域164に配置される第二電極196の端縁196Aと、第三面状領域166に配設される第二電極196の端縁196Aが、互いに平行(即ち、双方が一体となって直線状)となる場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。
【0229】
例えば、
図40に示すチップ140のように、第二面状領域164に配置される端縁196Aと、第三面状領域166に配設される端縁196Aが、互いに非平行とすることも好ましい。具体的に平面展開図上において、両端縁196Aが、ノーズ140Aから離れるに連れて、境界線155A、155Bから一層離反するようにすることで、両端縁196Aがハ字形状、又は、山形状となるようにする。この場合は、第一表面152におけるノーズ140Aを頂角とした二等辺三角形の底角の角度Bに対して、端縁196Aと境界線155A、155Bが成す角度Zが大きくなることを意味する。
【0230】
このようにすると、第二電極196におけるノーズ140A近傍の接近部196Xを、他の領域と比較して、第一電極195に積極的に接近させることができる。結果、第一電極195の最接近部195Xと、第二電極196の接近部196Xが互いに接近し合い、その最短ルートHに電流が積極的に流れる。結果、ノーズ140A又はその周囲の異常の検知感度を局所的に高めることができる。
【0231】
更に、
図39及び
図41で示す第一電極195のV字形状は、様々な形状を採用できる。例えば、
図41に示すチップ140の第一電極195では、最接近部195Xを境界として境界線155A、155Bに沿って延びる両腕領域195P,195Qを備えており、その両腕領域195P,195Qのそれぞれが、同境界線155A、155Bから離れる方向に凸状に湾曲している。このようにすると、最接近部195Xの突端の角度を一層鋭角に設定できる。勿論、第二面状領域164に配置される端縁196Aと、第三面状領域166に配設される端縁196Aも同様に、境界線155A、155Bから離れる方向に凸状に湾曲させても良い。
【0232】
次に、
図42を参照して、チップ140に形成される通電路90の各種変形例について説明する。なお、図示及び説明の便宜上、チップ150の角部150は、各境界線155A、155B、155Cが互いに直交する形状となる場合を例示するが、本発明はこれに限定されない。
【0233】
図42(A)のチップ140では、第一面状領域162が境界線155A、155Bに沿ったL字形状となり、第二面状領域164が、境界線155A、155Cに沿ったL字形状となり、第三面状領域166が、境界線155B、155Cに沿ったL字形状となっている。
【0234】
別の観点から説明すると、面状抵抗配線190は、ノーズ140Aを起点として、各境界線155A、155B、155Cに沿って、各境界線155A、155B、155Cを覆うように三方向に伸びる第一帯状領域172、第二帯状領域174、第三帯状領域176を備える。各帯状領域172、174、176における、ノーズ140Aと反対側の遠位端に、それぞれ、第一電極192、第二電極194、第三電極196が配設されている。
【0235】
例えば、第一電極192と第二電極194の間に電圧を印加すると、第一帯状領域172及び/又は第二帯状領域174に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。また、第二電極194と第三電極196の間に電圧を印加すると、第二帯状領域174及び/又は第三帯状領域176に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。また、第三電極196と第一電極192の間に電圧を印加すると、第三帯状領域176及び/又は第一帯状領域172に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。これらの三種類の電圧印加態様を組み合わせることで、摩滅や欠損が生じている場所を特定することも可能となる。
【0236】
なお、
図42(A)では、面状抵抗配線190が、三方向に延びる第一乃至第三帯状領域172、174、176を備える場合を示したが、
図42(B)のチップ140のように、二方向に伸びる第一帯状領域172、第二帯状領域174のみを備えるようにしても良い。
【0237】
更に
図42(C)のチップ140では、面状抵抗配線190における第一面状領域162が、境界線155A、155Bに沿ったL字形状となり、第二面状領域164が、境界線155A、155Cに沿ったL字形状となり、第三面状領域166が、境界線155B、155Cに沿ったL字形状となっている。
【0238】
第一電極192は、第一面状領域162における、境界線155A、155Bと反対側のL字状の縁に沿って配設される。第二電極194は、第二面状領域164における、境界線155A、155Cと反対側のL字状の縁に沿って配設される。第三電極196は、第三面状領域166における、境界線155B、155Cと反対側のL字状の縁に沿って配設される。
【0239】
例えば、第一電極192と第二電極194の間に電圧を印加すると、第一面状領域162及び/又は第二面状領域164に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。また、第二電極194と第三電極196の間に電圧を印加すると、第二面状領域164及び/又は第三面状領域166に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。また、第三電極196と第一電極192の間に電圧を印加すると、第三面状領域166及び/又は第一面状領域162に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。これらの三種類の電圧印加態様を組み合わせることで、摩滅や欠損が生じている場所を特定することも可能となる。
【0240】
なお、
図42(C)では、第一乃至第三面状領域162、164、166の全てがL字形状となる場合を例示したが、
図42(D)のチップ140のように、第二面状領域164は境界線155Aのみに沿う帯状(I形状・方形状)とし、第三面状領域166は、境界線155Bに沿う帯状(I形状・方形状)としても良い。
【0241】
図42(E)のチップ140では、面状抵抗配線190が、ノーズ140Aを起点として、各境界線155A、155B、155Cに沿って、各境界線155A、155B、155Cを覆うように三方向に伸びる第一帯状領域172、第二帯状領域174、第三帯状領域176を備える。各帯状領域172、174、176における、ノーズ140Aと反対側の遠位端に、それぞれ、第一電極192、第二電極194、第三電極196が配設されている。
【0242】
特に、各帯状領域172、174、176は、ノーズ140Aに近づく程、帯幅が狭くなる。このようにすると、ノーズ140Aの周囲にくびれ領域190Aが形成されるので、電流密度が高くなり、検出感度を高めることが可能になる。
【0243】
図42(F)のチップ140では、面状抵抗配線190における第一面状領域162が、境界線155Aと境界線155Bの双方から距離を有する方向、具体的には、境界線155Aと境界線155Bが成す角の二等分線上に延びる帯形状となる。同様に、第二面状領域164が、境界線155Aと境界線155Cの双方から距離を有する方向、具体的には、境界線155Aと境界線155Cが成す角の二等分線上に延びる帯形状となる。同様に、第三面状領域166が、境界線155Bと境界線155Cの双方から距離を有する方向、具体的には、境界線155Bと境界線155Cが成す角の二等分線上に延びる帯形状となる。
【0244】
また、各面状領域162、164、166における、ノーズ140Aと反対側の遠位端に、それぞれ、第一電極192、第二電極194、第三電極196が配設されている。
【0245】
例えば、第一電極192と第二電極194の間に電圧を印加すると、第一面状領域162及び/又は第二面状領域164に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。また、第二電極194と第三電極196の間に電圧を印加すると、第二面状領域164及び/又は第三面状領域166に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。また、第三電極196と第一電極192の間に電圧を印加すると、第三面状領域166及び/又は第一面状領域162に生じている摩滅や欠損等を、抵抗値の変化によって検出することができる。本事例では、特にノーズ140Aの周囲近傍の摩滅や欠損を集中的に検出することができ、これらの三種類の電圧印加態様を組み合わせることで、ノーズ140Aの近辺に特化して、その異常場所を特定することも可能となる。
【0246】
次に、
図43を参照して、チップ140における通電路92の形成手法について説明する。まず、
図43(A)に示すように、良導体となる配線を形成する場所に予め溝180を切削加工等によって形成する。なお、チップ140の母材が導電性を有する場合は、溝180を形成した後に、絶縁被膜を施すことで、表面全体を絶縁状態とする。その後、溝180内に対して良導体材料を充填又は被膜形成する。なお、スパッタリング等によって被膜形成する場合、溝180以外の場所も同時に被膜されるので、溝180以外の場所に付着した良導体被膜は削り取る。結果、
図43(B)に示すように、溝180内のみに良導体配線が形成される。この良導体配線は、第一電極192、第二電極194、外部接点192B,194B等となる。
【0247】
その後、
図43(C)に示すように、必要に応じてマスキングをしてから、良導体配線と重なるようにして、面状抵抗配線190をスパッタリング等によって被膜形成する。なお、マスキングせずに不要箇所を削るなどして除去することで、所要の面上抵抗配線190を形成することも出来る。結果、センサ用の通電路92を有するチップ140が完成する。
【0248】
なお、
図44に示すように、チップ140の温度変化を計測する為に、チップ140表面に、熱電対を直接形成しても良い。例えば、第一の抵抗率値(若しくは、仕事関数値)を有する第一部分通電路92Xの一方端と、第二の抵抗率値(若しくは、仕事関数値)を有する第二部分通電路92Yの一方端を互いに接続して、この接続点を温接点T1とする。また、第一部分通電路92Xの他方端、及び、第二部分通電路92Yの他方端を、それぞれ補償接点H2、H2とする。この補償接点H2、H2に対して、外部からそれぞれ補償導線93X、93Yを接続し、この補償導線93X、93Yを測定器800に連結することで、温接点T1の温度を測定することが可能となる。なお、補償導線93X、93Yにおいて、測定器800と接続される一対の端点が基準温度接点(冷接点)T2、T2となり、測定器800では、基準温度接点T2,T2間の起電力と、基準温度接点T2,T2の実温度を計測することで、温接点T1の絶対温度を算出できる。
【0249】
本発明の実施例は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0250】
1 切削加工システム
10 切削加工装置
30 切削ヘッド
32 母材
40 ドリル
40 本ドリル
42 シャンク部
44 ボディー部
46 凹部
52 バッテリ
91 電気絶縁層
92 通電路
100 情報収集装置
140 チップ
192 センサ
201 通電回路
202 ホルダ
203 切断部位
204 通電回路
204 二次元マトリックス通電回路
204 通電回路
205 通電路