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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】微小血管造影用の造影剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/04 20060101AFI20230227BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230227BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230227BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
A61K49/04 210
A61K47/34
A61K47/18
A61K47/08
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019570620
(86)(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2018055463
(87)【国際公開番号】W WO2018162473
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】00284/17
(32)【優先日】2017-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】320001710
【氏名又は名称】ピテンゴ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベート ステガー
(72)【発明者】
【氏名】ルスラン フルシチュク
(72)【発明者】
【氏名】バレンティン ジョノフ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0151124(US,A1)
【文献】国際公開第2011/098530(WO,A2)
【文献】日本医放会誌 (1993) vol.53, no.1, p.50-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
死後微小血管造影用の、マイクロCTデバイスを用いたマウスもしくはラットもしくは他の実験動物、又は動物及びヒトの個々の臓器の血管系のデジタル撮像用の、
- ポリウレタンと
- 硬化剤と
を含む造影剤であって、
さらに、
- ヨード化エステル化亜麻仁油と
- 2-ブタノンと
を含むことを特徴とする、造影剤。
【請求項2】
前記ヨード化エステル化亜麻仁油が、エチル-9,12,15-トリヨードオクタデカトリエノアートであることを特徴とする、請求項1に記載の造影剤。
【請求項3】
前記造影剤が色素を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の造影剤。
【請求項4】
前記ポリウレタンが、ポリイソシアナート-プレポリマーであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の造影剤。
【請求項5】
前記硬化剤が、変性芳香族ジアミンであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の造影剤。
【請求項6】
- 前記ヨード化エステル化亜麻仁油が、20~60%の割合で前記造影剤に含まれ、
- 前記2-ブタノンが、7~30%の割合で前記造影剤に含まれることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の造影剤。
【請求項7】
前記ヨード化エステル化亜麻仁油と前記2-ブタノンとを含む造影溶液において、前記2-ブタノンの体積に対する前記ヨード化エステル化亜麻仁油の体積の比率が、0.75~4であることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の造影剤。
【請求項8】
前記ポリウレタンは、25~60%の割合で前記造影剤に含まれ、
- 前記硬化剤は、4~10%の割合で前記造影剤に含まれることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の造影剤。
【請求項9】
- ヨード化エステル化亜麻仁油を含み、かつ2-ブタノンを含む第1の容器と、
- ポリウレタンを含む第2の容器と、
- 硬化剤を含む第3の容器と
を含む、死後微小血管造影用のキット・オブ・パーツ。
【請求項10】
前記第1の容器がさらに、色素を含む、請求項9に記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項11】
- 前記第1の容器が、2~4mlの前記ヨード化エステル化亜麻仁油と、2~3mlの前記2-ブタノンとの第1の混合物を含み、
- 前記第2の容器が、4~7mlの前記ポリウレタンを含み、
- 前記第3の容器が、0.5~1.5mlの前記硬化剤を含む、
請求項9又は10に記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項12】
さらに、
- 前記第1の容器及び前記第2の容器の中身を受けるための第1のシリンジと、
- 前記第3の容器の中身を受けるための第2のシリンジと、
- 前記第1のシリンジの中身と前記第2のシリンジの中身とを混合するための混合容器と
を含む、請求項9~11のいずれかに記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項13】
マイクロCTデバイスを用いてマウス又はラットの血管系をデジタル撮像するための、請求項1~8のいずれかに記載の死後微小血管造影用の造影剤の製造方法であって、
f.)第1の容器中に、ヨード化エステル化亜麻仁油と2-ブタノンとの第1の混合物を準備するステップと、
g.)第2の容器中に、ポリウレタンを準備するステップと、
h.)第3の容器中に、硬化剤を準備するステップと、
i.)前記第1の容器の中身を前記第2の容器の中身とブレンドし混合して、第2の混合物を形成するステップと、
j.)被験血管系に注入する直前に、前記第3の容器の中身をステップi.)の前記第2の混合物と混合要素中でブレンドするステップと
を含む、方法。
【請求項14】
マイクロCTデバイスを用いて死後の動物又は死後のヒトの身体若しくは臓器の血管系をデジタル撮像するための死後微小血管造影法であって、
k.)請求項1~8のいずれかに記載の造影剤を準備するステップと、
l.)被験動物の身体にカニューレを挿入し、洗浄するステップと、
m.)前記造影剤を、前記身体又は前記臓器に注入するステップと
を含む、死後微小血管造影法。
【請求項15】
前記造影剤の注入後、前記動物の身体内で前記造影剤が硬化するのを待ち、次いで前記動物の身体をマイクロCTデバイスを用いてスキャンすることを特徴とする、請求項14に記載の死後微小血管造影法。
【請求項16】
ステップm)での注入が、ディスペンサーを用いて行われるか、又はステップm)での注入が、注入ポンプを用いて行われることを特徴とする、請求項14又は15に記載の死後微小血管造影法。
【請求項17】
前記造影剤が、ヒトもしくは動物の身体、又はヒトもしくは動物の臓器に注入されることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の造影剤又は請求項9~12のいずれかに記載のキット・オブ・パーツの、死後微小血管造影における使用。
【請求項18】
前記造影剤が青色色素であることを特徴とする、請求項3に記載の造影剤。
【請求項19】
前記ポリウレタンが、脂肪族イソシアナートであることを特徴とする、請求項4に記載の造影剤。
【請求項20】
前記硬化剤が、ジエチルメチルベンゼンジアミンであることを特徴とする、請求項5に記載の造影剤。
【請求項21】
前記硬化剤が、ジエチルメチルベンゼンジアミンの2種の異性体の混合物であることを特徴とする、請求項5に記載の造影剤。
【請求項22】
前記ポリウレタンと前記硬化剤との体積比は、100:10~100:25の範囲にあることを特徴とする、請求項1~21のいずれかに記載の造影剤。
【請求項23】
前記ヨード化エステル化亜麻仁油は、エチル-9,12,15-トリヨードオクタデカトリエノアートであり、
前記ポリウレタンは、4,4’-メチレン-ジ(シクロヘキシル-イソシアナート)であり、
前記硬化剤は、2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエンであることを特徴とする、請求項9に記載の死後微小血管造影用のキット・オブ・パーツ。
【請求項24】
- 前記第1の容器が、2.5~2.8mlの前記ヨード化エステル化亜麻仁油と、2.2~2.9mlの前記2-ブタノンとの第1の混合物を含み、
- 前記第2の容器が、4.5~5mlの前記ポリウレタンを含み、
- 前記第3の容器が、0.8~1.2mlの前記硬化剤を含む、
請求項11に記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項25】
さらに、
- 前記第1のシリンジ及び前記第2のシリンジを制御するためのディスペンサーであって、前記第1のシリンジ及び前記第2のシリンジそれぞれの第1の端部を受けるためのデバイスを備えたディスペンサーを含む、請求項12に記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項26】
さらに、
- 前記第1のシリンジ及び前記第2のシリンジそれぞれの第2の端部を受け、かつ前記混合容器の第1の端部を受けるためのアダプター要素を含む、請求項12に記載のキット・オブ・パーツ。
【請求項27】
前記ステップj.)において、前記ポリウレタンと前記硬化剤との混合体積比100:16~100:19を用いる、請求項13に記載の死後微小血管造影用の造影剤の製造方法。
【請求項28】
請求項14に記載の、マイクロCTデバイスを用いて死後の動物又は死後のヒトの身体若しくは臓器の血管系をデジタル撮像するための死後微小血管造影法であって、
k.)請求項1~8のいずれかに記載の造影剤を、請求項13に記載の方法にしたがい準備するステップと、
l.)被験動物の身体にカニューレを挿入し、洗浄するステップであって、透明溶液で、マウスの場合には20~100mlの洗浄量を、あるいはラットの場合には20~200mlの洗浄量を用いるステップと、
m.)前記造影剤を、一定の流量で前記身体又は前記臓器に注入するステップと
を含む、方法。
【請求項29】
請求項14に記載の、マイクロCTデバイスを用いて死後の動物又は死後のヒトの身体若しくは臓器の血管系をデジタル撮像するための死後微小血管造影法であって、
前記ステップm.)において、前記造影剤を、最大1.5ml/分の流量で、前記身体又は前記臓器に注入する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、死後微小血管造影用の、すなわち、X線撮像法、特にナノ又はマイクロCTデバイスを用いた、例えばマウス、ラット、又は他の実験動物などの特に小動物、ならびに動物及びヒトの個々の臓器の血管系のデジタル撮像用の、造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
微小血管造影の一目的は、個々の臓器又は全身の最も細い血管すなわち毛細血管を三次元的に視覚化し、分析用にそれらを正確に描写することである。薬理学の研究では特に、また科学捜査においても、無傷血管の分析が必要である。今日まで、微小血管の撮像には主に2種類の技術が使用されてきた。1つはいわゆる鋳型法であり、もう1つは放射線造影剤を用いる撮像法、特にMicrofil(登録商標)法である。
【0003】
マイクロコンピューター断層撮影(マイクロCT)などの3D撮像法が、過去数年でますます話題を呼んでいる。血管系の撮像には、マイクロCTを用いた視覚化のために、放射線不透過性造影剤の灌流が必要である。これまで血管の研究では、例えば脳、心臓、肝臓、腎臓、肺などの様々な臓器、ならびに後肢や腫瘍の血管系を表示するために、マイクロCTが様々な造影剤と組み合わせて用いられてきた。しかし、こうした研究には常に、解像度に関して、あるいは不完全な充填性及び不良な灌流ゆえに(また、使用される造影剤の粘度が比較的高いために)制限があった(例えばPerrien, D.S., 2016)。
【0004】
血管腐食鋳型法では、鋳型材、例えば重合するポリウレタン系の薬剤が血管に注入される(例えばMeyer et al., 2007 & 2008; Krucker et al., 2006)。次に、薬剤の重合後、周辺組織は化学的に浸軟され、消化される。こうして作製された血管ダイカストは、次に、走査電子顕微鏡(SEM)又は放射線を用いて三次元的に評価される。さらに、三次元血管モデルが創られる可能性もある。この方法の主たる重大な欠点は、組織の浸軟により生じる。それというのも、それゆえに(次いで)組織学的検査を行うという選択肢が排除され、したがって組織における部位特定ですら一切できなくなるためである。この方法のさらなる欠点は、走査電子顕微鏡を用いた場合に、血管の表示性に限界があることである。なぜならば、血管鋳型の外表面の血管の画像は得られるものの、鋳型内部では画像が得られないためである。
【0005】
Microfil(登録商標)法は、直径100μmまでの血管の表示に特に有用である。この血管径では毛細血管領域の状況はまず判断できないため、ユーザーは使用法を種々変更する。つまりユーザーは、必要に応じて希釈又はそれ以外の変性により造影剤の物質組成を変えて、造影剤がより細い血管に入ることができるようにする。一般には、10μmまでの毛細血管領域に到達し表示することができる。しかし、造影剤組成物の希釈又は変性の種類は、何らかの公知の指標によるものではなく、個別である。使用は、通常は手動で行われる。それでも、発表されている諸研究によれば、おそらく粘度が比較的高いために、灌流は不十分となる(Perrien, D.S. 2016)。
【0006】
酸素と代謝産物の交換は、主に毛細血管床レベルで、すなわち直径約4~10μmの血管のレベルで生じる。前臨床研究は通常、中程度の直径(約15μm)の微小血管の表示に限定される。一方で、研究では各種マイクロCTスキャナー又はマイクロCTデバイスを用いる場合もあり、これにより直径3~4μmまでの毛細血管を表示することができるが、ただし、添加された好適な造影剤がこのような毛細血管にも到達し充填されることが前提条件となる。
【0007】
したがって、極細血管中へ十分に奥まで浸透することができ、マイクロCTにより可能な限りアーチファクトのない微小血管構造の視覚化又は形態計測3D画像分析をそれぞれ可能にする造影剤が非常に求められている(Zagorchev et al., 2010も参照されたい)。
【発明の概要】
【0008】
したがって本発明は、直径3~4μmまでの毛細血管内に浸透することができ、したがってマイクロCT法による該血管の表示を可能にする、改良された造影剤を提供するという課題を解決するものである。血管系の再現性のある表示を可能にする、改良されたエクスビボ血管造影法も、非常に求められている。本発明の造影溶液の開発により、現行の従来技術の欠点を克服する、そのような改良された造影剤、ならびに改良された血管造影法が提供される。
【0009】
上述した課題は、請求項1に記載の造影剤又は請求項10に記載のキット・オブ・パーツにより解決される。改良された造影剤の準備は、好ましくは請求項14に記載の製造方法により実施され、請求項15に記載のエクスビボ微小血管造影法は、本発明の造影剤の再現性のある、したがって最適な使用を可能にする。
【0010】
直径3~4μmまでの毛細血管の表示を可能にする本発明の造影剤は、エクスビボで使用される。エクスビボ又は死後の微小血管造影用の本発明の造影剤は、好ましくはデジタル撮像に利用され、したがって、マイクロCTデバイスを用いたマウスもしくはラット又は他の実験動物、及びヒト臓器の血管系の検査に利用される。本発明の造影剤は、ヨード化エステル化油、好ましくはヨード化エステル化亜麻仁油又はヨード化エステル化ケシ油を含有する。それに加えて本発明の造影剤は、ポリウレタン及び硬化剤、ならびに溶媒としてケトンを含有する。ケトンは、好ましくは以下の群:ブタノン(又は2-ブタノン、又はメチルエチルケトン、又はCO)、アセトン(又は2-プロパノン、又はジメチルケトン、又はCO)、又は3-ペンタノン(又はジエチルケトン、又はC10O)から選択される。このうち、特に2-ブタノン又はアセトンが溶媒として好ましく、2-ブタノンが最も好ましい。あるいは、おそらく塩化メチレンを溶媒として用いることも可能である。ヨード化エステル化油とケトンとの混合物を、本願では「造影溶液」と称する。
【0011】
造影剤の特に好ましい実施形態は、さらに色素を含有し、該色素は、好ましくは青色色素(例えば、VasQtec社製BlueDye)である。色素が添加される場合、本願では、該色素も、「造影溶液」と称される混合物の一部をなす。
【0012】
ある好ましい実施形態は、上述したように、ヨード化エステル化油としてヨード化エステル化亜麻仁油を含有する。したがって本発明の造影剤は、ヨウ素を含有し、そして好ましくは色素をも含有する重合物質であり、好ましくはヨード化エステル化亜麻仁油をベースとする。好ましくは、ヨード化エステル化亜麻仁油は、エチル-9,12,15-トリヨードオクタデカトリエノアート又はリノール酸エチルである。
【0013】
本発明の造影剤は、好ましくは自己蛍光特性を有し、その結果として、使用の初期段階で血管が好ましくは青色に着色され、注入を視覚的に制御することが容易となる。
【0014】
造影溶液は、被験体又は被験臓器への使用又は注入の前に、規定の方式にしたがって前述のポリウレタン(PU)樹脂及び硬化剤と混合される。
【0015】
本発明の造影剤の製造に用いられるポリウレタンは、好ましくはポリイソシアナート-プレポリマーである。それはしたがって、好ましくは脂肪族イソシアナートである。好ましくは、イソシアナートは芳香族基を含み、また好ましくは脂肪族基を含む。ポリウレタンが可撓性を保持できるように、通常はポリエーテル類が用いられる。ポリウレタンが、ポリエステルを、又は好ましくはポリエーテルを、特に好ましくはエチレングリコール残基及び/又はプロピレングリコール残基で構成されるポリエーテルを含有していれば、特に有利である。好ましくはポリウレタンは、鎖延長剤、特にジオール系又は好ましくはジアミン系鎖延長剤、特に好ましくはジエチルメチルベンゼンジアミンを含む。微小血管造影に特に好適な造影剤は、ポリウレタンとして、4,4’-メチレン-ジ(シクロヘキシル-イソシアナート)(HDMI)、又は4,4’-ジシクロヘキシルメタン-ジイソシアナートを含有する。
【0016】
造影剤に使用される硬化剤は、好ましくは体内又は選択的に臓器に注入される直前になってはじめてヨード化エステル化油とブタノンとPUとの混合物に添加され、該硬化剤は、好ましくは変性芳香族ジアミン、特に好ましくはジエチルメチルベンゼンジアミン、例えば2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエンである。本発明の造影剤の用途に特に有利な硬化剤は、ジエチルメチルベンゼンジアミンの2種の異性体の混合物を含み、最も好ましくは2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルオールと2,4-ジアミノ-3,6-ジエチルトルオールとの比率が7:3の異性体混合物を含む。
【0017】
有利には、ヨード化エステル化油は、20~60%、好ましくは22~45%、特に好ましくは24~30%(いずれも体積%)の割合で造影剤に含まれる。ケトン、又は好ましくは2-ブタノンは、好ましくは7~30%、好ましくは10~25%、特に好ましくは14~22%(それぞれ体積%)の割合で造影剤に含まれる。
【0018】
ポリウレタンは、好ましくは25~60%、好ましくは35~50%、特に好ましくは38~50%、最も好ましくは43~47%(いずれも体積%)の割合で造影剤に含まれる。
【0019】
硬化剤は、好ましくは4~10%、好ましくは5~9%、特に好ましくは6~8%(いずれも体積%)の割合で造影剤に含まれる。
【0020】
本発明はさらに、
- 上述のヨード化エステル化油と前述のケトン又は好ましくは2-ブタノンとを含む第1の容器と、
- 上述のポリウレタンを含む第2の容器と、
- 上述の硬化剤を含む第3の容器と
を含む、微小血管造影用キット・オブ・パーツに関する。
【0021】
第1の容器は、好ましくは2~4mlの、好ましくは2.5~2.8mlのヨード化エステル化油、好ましくはヨード化エステル化亜麻仁油と、2~3mlの、好ましくは2.2~2.9mlのケトン又は2-ブタノンとの第1の混合物を含む。換言すれば、第1の容器は、「造影溶液」を含む。第1の容器は、好ましくはさらに上述の色素、好ましくは青色色素を含むが、それは、該色素も混合されて「造影溶液」の一部をなしている場合である。本願では、約0.2gの色素に相当するひとつまみの色素を添加するだけで十分である。第2の容器は、好ましくは4~7mlの、特に好ましくは4.5~5mlのポリウレタンを含み、第3の容器は、好ましくは0.5~1.5mlの、特に好ましくは0.8~1.2mlの硬化剤を含む。好ましくは、注入される混合物におけるポリウレタンと硬化剤との体積比は、100:10~100:25の範囲にあり、特に好ましくは100:16~100:19の範囲にある。
【0022】
好ましくは、キット・オブ・パーツはさらに、
- 第1の容器及び第2の容器の中身を受けるための、好ましくは容量12mlの第1のシリンジと、
- 第3の容器の中身を受けるための、好ましくは容量1mlの第2のシリンジと、
- 第1のシリンジの中身と第2のシリンジの中身とを混合するための混合容器と、
- 第1のシリンジ及び第2のシリンジを制御するためのディスペンサーであって、第1のシリンジ及び第2のシリンジそれぞれの第1の端部を受けるためのデバイスを備えたディスペンサーと、
- 好ましくは、第1のシリンジ及び第2のシリンジそれぞれの第2の端部を受け、かつ混合室の第1の端部を受けるためのアダプター要素と
を含む。
【0023】
本発明はさらに、マイクロCT(μCT)デバイスを用いてマウス又はラットの血管系をデジタル撮像するための、微小血管造影用の上述の造影剤の製造方法であって、
a)第1の容器中に、ヨード化エステル化油、好ましくはヨード化エステル化亜麻仁油と、ケトン、好ましくは2-ブタノンとの第1の混合物を準備するステップと、
b)第2の容器中に、ポリウレタンを準備するステップと、
c)第3の容器中に、硬化剤を準備するステップと、
d)第1の容器の中身を第2の容器の中身とブレンドし混合して、第2の混合物を形成するステップと、
e)マウス又はラットの血管系に注入する直前に、第3の容器の中身をステップd)の第2の混合物と混合要素中でブレンドするステップであって、好ましくはポリウレタンと硬化剤との混合比100:16を用いるステップと
を含む方法に関する。
【0024】
本発明はさらに、マイクロCTデバイスを用いて動物、特にマウス又はラットの身体の血管系をデジタル撮像するための微小血管造影法であって、
- 上述の造影剤を、好ましくは上述の方法にしたがい準備するステップと、
- 被験動物の身体にカニューレを挿入し、好ましくは透明溶液で、特にPBS(リン酸緩衝食塩水溶液)で洗浄又は瀉血するステップであって、好ましくはマウスの場合には20~100mlの洗浄量、あるいはラットの場合には20~200mlの洗浄量を用いるステップと、
- 造影剤を、好ましくは一定の流量で、好ましくは可能な限り一定の圧力で注入するステップであって、流量は、好ましくは最大3ml/分、特に好ましくは最大1.5ml/分であるステップと
を含む方法に関する。
【0025】
造影剤の使用又は注入は、ディスペンサーを用いて手動で行ってもよいし、注入ポンプを用いて行ってもよいし、また灌流手段を用いて行ってもよく、このようなものは、好ましくはそれぞれ個別の必要に応じて調整又は調節されており、それによって特定の時間単位当たりの体積を維持することができる。
【0026】
対象となる被験臓器に応じて、マウスの場合には通常1~12mlの造影剤が注入され、ラットの場合には通常1~30mlの造影剤が注入される。
【0027】
マウス又はラットへの造影剤の注入は、好ましくは1~6分の時間枠で行われ、マウス又はラットに用いられる注入速度は、好ましくは0.5~12ml/分、特に好ましくは1~3ml/分、最も好ましくは最大で1.5ml/分である。
【0028】
造影剤の注入後、好ましくは動物の身体内で造影剤が硬化するのを待つ。次に、各臓器又は体の各部を切除し、化学的に固定してからマイクロCTデバイスを用いてスキャンする。
【0029】
本発明の造影剤は、とりわけ実験目的に好適であり、すなわち前臨床研究における小動物、特にマウスやラットの身体の灌流用に好適である。しかし、例えば大型実験動物、例えばウサギ、イヌ、魚、ヒツジ、ミニブタ等の、個々の領域又は臓器の選択的灌流に用いることも可能である。これらは、例えば整形外科又は歯科の研究に用いられる(歯科置換術、骨置換術等)。この目的では、造影剤は具体的には動脈に注入され、その「対象領域」が表示されることになる。そうすれば、個々の臓器又は体の一部、例えば下顎等へ造影剤を選択的に注入することが可能になり、そうして当該臓器又は体の一部を表示することができる。本発明の造影剤は、科学捜査における使用にも好適であり、したがって人間の遺体の検死にも好適である。
【0030】
本発明の造影剤を提供することで、バイオ医学研究の様々な分野においてエクスビボのマイクロCT技術の新たな使用域が広がる。従来技術のPU消化法では、CTスキャン後、血管系の3Dモデルを得るために周辺組織を消化により除去しなくてはならないが、本発明の非破壊法では、一方では血管系の高解像度の画像が得られ、他方では周辺組織が無傷のままであるため、続いて既にスキャン済みの標本を組織学的又は電子顕微鏡検査のベースとしてさらに使用することができる。さらに、当該臓器の一部を切除して、さらに高解像度でスキャンすることができる。次いで、好適な定量化ソフトウェアを用いて画像分析が行われる。
【0031】
造影剤の有利な用途は、例えば2.5μm未満(ボクセル一辺のサイズ)に迫る解像度のマウス腎臓糸球体の定量化(Shokiche, C.C. et al., 2016)といった腎臓血管構造の形態計測や、マウス後肢の血管系及び筋肉組織の相関撮像(Schaad et al., 2017)で証明されている。Microfil(登録商標)(Fluitec社)で動物の身体を灌流する場合、今のところの標準的な撮像法では、通常で最高約50~100μmの解像度に達することができる。この解像度を改善するため、血管造影技術者らはMicrofil(登録商標)を独自に希釈し、希釈の程度にもよるが、約12μmまでの解像度が可能となった。しかし、より細い血管や毛細血管の灌流は、高粘度などのいくつかの要因ゆえに不十分である(Perrien D.S:, 2016)。
【0032】
しかし、造影溶液を有する本発明の造影剤は、直径3~4μmまでの極細の毛細血管までも進入し、したがって血管系のより詳細な表示を可能にする。本発明の使用方法はまた、再現性のある、低粘度(Microfil(登録商標)法の様々な個々の変性物と比較した場合)を提供する。
【0033】
本発明の造影剤のさらなる利点は、重合の結果、被験物の安定性が高まることであり、これによって特にマイクロCTスキャンを行う間に撮像の質が向上するため、有利である。さらに、造影溶液をベースとする新規の造影剤は、X線吸収度が高く、それは骨組織のX線吸収度に近い。そのため、閾値に基づいて表示される血管の区別及び視覚化が容易になる。
【0034】
したがって、本発明の造影剤の鋳型及び自己蛍光特性は、要約すると、相関アプローチを可能にするものであり、すなわちマイクロCT撮像を行い、さらに検査すべき組織片を決定した後、さらに同じ被験物について組織学及び透過型電子顕微鏡による形態分析を行うことができる。本発明の造影剤は、灌流した血管内に留まり、自己蛍光性を有するため、マイクロCT切片の仮想スタックにおける特定の組織学的切片の「部位特定」が容易になる。
【0035】
腎臓形態計測に関しては、最新の高磁場MRI技法も、最近記述されたインビボ抗CD31標識化を用いる「光シート顕微鏡」による方法も、本発明の造影剤を用いたマイクロCTに基づく形態計測法ほど腎臓の血管樹を表示することはできない。さらに本方法は、既に一般公開されているソフトウェアを用いた臓器血管系の3Dスケルトン化及びそれに対応する分析を可能にする。血管を高速で3D表示すること以外に、マイクロCTに基づく形態計測法は、相当な時短を可能にする(組織学又は鋳型法に基づく古典的な方法では1~2週間を要するところ、24時間未満となる)。
【0036】
驚くべきことに、本発明の造影剤は、脱灰後の骨血管の視覚化にも用いることができることが判明した。この脱灰は、従来技術の一部であって本発明の目的ではないが、一般に主要な3種の脱灰剤を用いることができる。1つ目は、塩酸又は硝酸などの強鉱酸系のものであり、2つ目は、ギ酸(例えば単純な10%水溶液、又はホルマリンもしくは緩衝液との組み合わせ)又はトリクロロ酢酸などのより弱い有機酸系のものであり、3つ目は、いわゆるキレート剤、例えば10%EDTA溶液で構成されているものである。骨血管の視覚化には、好ましくはキレート剤が用いられる。EDTA(エチレンジアミン四酢酸)の効果は緩慢であるが、結果的にほとんど組織損傷がなく、標準的な着色剤がほとんど影響を受けない。EDTA系脱灰剤の組成物としては、250gのEDTA二ナトリウム塩と1750mlの蒸留水との混合物が考えられ、ここで、溶液は、好ましくは約25gの水酸化ナトリウムの添加によりpH7に調節される。
【0037】
本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0038】
本発明の造影剤をこれまでに、例えばマウス後肢の血管構造(図1参照)、ならびに腎臓及び糸球体の血管構造(図2~5)の表示に用いた。
【0039】
本発明の好ましい実施形態又は本発明の使用例について、図面を参照して以下に説明するが、これらは本発明の好ましい実施形態を例示するものであって、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】マイクロCTにより視覚化したマウス後肢の血管構造を示し;A)は、ボクセル一辺長2.7μmの、3D側面図であり;B)は、ボクセル一辺長0.8又は0.66μmの、血管構造の仮想水平方向断面図(Aに示すレベル)であり、脛骨(T)及び腓骨(F)は、X線吸収度が高いため、うっすらと着色して見えており;C~Fでは、単離したヒラメ筋(C、D)又は足底筋(E、F)の仮想水平方向断面(断層)図を示しており;C’)~F’)では、C)~F)で長方形の印をつけた特定のセクションをより詳細に示しており;微小血管構造が、異なる血管密度、蛇行性、及び3D配置で、高拡大率でボリュームレンダリング描写されている。
図2】腎臓血管構造及び糸球体の異なる視覚化の様相を示しており;A)では、腎臓血管構造に焦点を当てたマイクロCTデータセットの再構成3Dスタックを例示し;Bでは、該データセット内の一仮想断面を異なる伝達関数を用いて示し、腎臓組織に焦点を当てて視覚化しており;C~C’は、糸球体に焦点を当てて視覚化しており;図Cは、左下隅の白いボックスに示す仮想500μm厚ディスクのボリュームレンダリングを示し;Cの白枠は、図C’で拡大している糸球体が存在するポイントを示し;図D~D’は、高度視覚化オプション、つまり解像度がより高い(ボクセル一辺長=0.59μm)微小血管造影CTを示す。図Dのインサートは、Dに示す仮想断面レベルを示し;Dで印をつけた糸球体の微小血管構造の3DボリュームレンダリングをD’に示す。
図3】マイクロCTデータ及び組織学的アプローチを用いて互いに対応するポイントを視覚化した、相関顕微鏡画像である。撮像後、組織学的切断及び検査のため、固定した腎臓をさらに処理した;図a~cは、明視野顕微鏡(a及びa’)、蛍光顕微鏡(b及びb’)、そしてマイクロCT(c及びc’)による、同じ腎臓の同じレベル(断面)の視覚化を示す。b及びb’の緑色のシグナルは、血管内で重合する自己蛍光造影剤に由来する。この特性により、太めの血管の向きに基づく、組織学とマイクロCTとの間の観測が容易になる。図a’~c’では、a~cで印をつけた領域を高拡大率で示す。糸球体は、a’~c’で円で示されている。
図4】(a)組織学的データと(b)マイクロCTデータに基づく、糸球体数のステレオロジー的推定に用いられる、組み合わせたフラクショネーター/ディセクター原理の概略図である。a)古典的な組織学的原理:腎臓全体の包括的な切断、切片ペアの距離は15μm(約10等距離の切片サンプリング・レベル(SSL)のディセクター高さ、約1mm)、切片厚さ5μm。ディセクター高さとしては、切片を2つおきに用い、SSLについては、次の適切なディセクターペアが用いられるまで197切片(200-3)を捨てる。1つのディセクターを形成する、互いに対応する画像上で、一方の切片には見られるが他方には見られない、かつカウンティング・フレーム内に存在するが左下のラインにかからない糸球体を計測する(黒いチェックマーク)。推定した個数に切片サンプル・ファクター(SSF)及びエリア・サンプル・ファクター(ASF)の逆数を掛けて、腎臓あたりの糸球体の絶対数を組織学に基づき求める(Nabs-histo(glom)、テキスト参照)。 b)μaCT(微小血管造影CT)の原理:マイクロCTデータの仮想画像スタックに基づく原理とほぼ同じ。ディセクター高さ(16μm又は8ボクセル高さ)及び切片パターン・レベル(1mm又は500ボクセル高さ)を実現し、ここでボクセルスタックの対応する切片番号を用いる(図左端)。切片/ボクセル高さ:2μm。切片レベル全体の全糸球体をディセクター原理にしたがい計測(チェックマーク)したため、カウンティング・フレームは不要である。推定された糸球体数に切片パターン・ファクターの逆数を乗じただけであるため、エリア・パターン率の必要はなく、こうして腎臓あたりの糸球体の総数を求めた(Nabs-μaCT(glom))。
図5】本発明の造影剤を用いた、先述の(図2~4による)腎臓の微小血管造影CT法の概略図。
図6】本発明の造影剤を使用してマイクロCTを用いて例示されたマウス脛骨の血管構造であり;(6a)及び(6b)はどちらも同じ脛骨の仮想横断面図を示し、(6a)では脱灰前の骨を示し、(6b)では10%EDTAでの脱灰後の骨を示す。脛骨(T)は、(6a)ではX線吸収度が高いためより明るく見えており、(6b)では脱灰後にX線吸収度が低下したため透明に見えている。したがって、骨膜の血管と髄腔(KH)の血管との間の骨組織を水平方向に走る細い結合血管は、(6b)のほうがよく見え、わかりやすい(上方向矢印)。髄腔内の血管の視覚化は、脛骨の骨組織の脱灰でX線吸収度が低下したために、(6b)のほうが見えやすくなっている。脛骨の外縁に補給動脈(avn=栄養動脈・静脈)がはっきりと見えている。
図7】本発明の造影剤を用いてマイクロCTにより示されたマウス脛骨の血管構造であり;(7a)及び(7b)は、どちらも同じ脛骨の仮想縦断面図を示し、(7a)では脱灰前の骨を示し、(7b)では10%EDTAでの脱灰後の骨を示す。脛骨(T)は、(7a)ではX線吸収度が高いためより明るく見えており、(7b)では脱灰後にX線吸収度が低下したため透明に見えている。したがって、骨組織を走る骨血管(avn=栄養動脈・静脈)は、(7a)でも見えてはいるが、(7b)のほうがたどりやすい。髄腔(KH)の中央に、中心洞(ZS)及びその結合部がはっきりと見えている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
1.個々の構成要素の準備:
容器を3つ準備する。容器1は、ヨード化エステル化油、好ましくはヨード化エステル化亜麻仁油と、2-ブタノン(CO)と、色素(VasQtec社製BlueDye)との第1の混合物を含む。この第1の混合物は、本願の文脈では、色素の有無にかかわらず「造影溶液」と称される。容器2は、ポリウレタン(PU)を含む。容器3は、硬化剤を含む。
【0042】
2.容器1からの造影剤の取り出し:
12ml使い捨てシリンジ(例えばルアーロックc1086付きMonojectシリンジ、Qosina社)を容器1のルアーコネクター(20mmバイアルキャップ用ポリカーボネート製拭き取り可能無針バルブ雌ルアー、Value Plastic社)に回し嵌め;容器1に空気5mlを注入し(垂直方向圧力)、容器1を回転させ、造影剤を全てシリンジ内へ吸引する。
【0043】
3.造影剤とポリウレタンとの第2の混合物の製造:(PUを含む)容器2に造影剤を注入し;シリンジを取り外し、ルアーコネクターをルアーキャップで塞ぐ。
【0044】
4.第2の混合物の混合:
容器2の中の第2の混合物を、Vortexデバイスで混合する。実験で用いた造影剤とPUとの第2の混合物(硬化剤なし)の粘度は、この時点で20℃で約100mPas.sである。
【0045】
5.第2の混合物のシリンジ内への吸引:
ルアーキャップを取り外し;容器2に空気10mlを注入し;容器2を回転させ、第2の混合物を12ml使い捨てシリンジ内へ吸引する。
【0046】
6.硬化剤の吸引:
1ml使い捨てシリンジ(ルアースリップc3302付き1mlシリンジ、Qosina社)を容器3(又は容器3に取り付けられたルアーコネクター)に回し嵌め;容器3に空気0.5mlを注入し;硬化剤を全て(1ml)吸引する。
【0047】
7.保存/微小気泡の除去:
シリンジの中身の脱気、すなわち微小気泡を除去するため、少なくとも15分間、シリンジを直立状態にする。
【0048】
8.マウス/ラットの準備:
最初に動物に深麻酔をするか又は安楽死させてから、カニューレを挿入する。動物の身体の洗浄は、2×5~50mlの透明溶液、好ましくは等張溶液、例えばPBS(リン酸緩衝食塩水)溶液などで行う。好ましくは、動物を二分して洗浄する(その後も、各半身にそれぞれ造影剤を充填する)。
【0049】
8a.)下半身のカニューレ挿入及び洗浄のために、カニューレ(例えばAichele Medica AG製BD Neoflon 0.6×19mm、26G)を大動脈に挿入してから、透明溶液を順方向に、すなわち心臓から離れる方向に灌流する。大動脈への穿刺箇所は、胸部大動脈領域にあるのが好ましい。下半身が充填された目安は心臓の膨張であり、心臓が膨張し始めたら、右心房の切開を行う。すると透明溶液が漏れるが、始めは洗浄された動物の血液が混ざっている。心房切開部から漏れる透明溶液が透明になったら、下半身が完全に洗浄できたと推測できる。
【0050】
8b.)上半身のカニューレ挿入及び洗浄のために、同じ切開箇所で、おそらくはステップ8aと同じカニューレを逆方向に挿入し、同じ血管、すなわち大動脈中で、透明溶液を逆方向に、すなわち心臓へ向けて灌流する。
【0051】
9.シリンジの取り付け:
9a.)(手動)ディスペンサーに取り付ける場合:それぞれが第1の端部を有する12mlシリンジ及び1mlシリンジを、互いに接続された2シリンジ・ディスペンサー(2つの使い捨てシリンジ11:1(M-System、Medmix Systems AG))に挿入し;アダプター(Adapter L-System、Medmix Systems AG)を2つのシリンジそれぞれの第2の端部に取り付け;アダプターを混合容器(ミキサー、ML 3.2-16-LLM、DN3.2×16、Med.LuerLock、Medmix Systems AG)に取り付ける;又は
9b.)注入ポンプに取り付ける場合:両シリンジを注入ポンプに取り付け;ポンプを正しい位置に手動で調節し;2つのシリンジそれぞれの第2の端部でアダプターを回し外し;アダプターを混合容器に取り付け;ポンプ(シリンジポンプLEGATO 100、220V/50Hz、CE、kdScientific社)のセットアップ、パラメーターの選択を行う(モード:注入のみ;シリンジ:Sherwood 12ml;流量:最大1.5ml/分;最大体積:約3ml/マウス、約9~10ml/ラット)。
【0052】
10.注入/灌流:
10a.)慎重に均一に、できるだけ同じフローで、又は
10b.)ポンプを起動、最大流量1.5ml/分。
【0053】
動物の下半身全体及び/又は上半身全体の充填:
カニューレ(例えばAichele Medica AG製BD Neoflon 0.6×19mm、26G、洗浄に使用したカニューレでもよい)を手動ディスペンサー(オプションa)又はポンプ(オプションb)に取り付ける。
【0054】
下半身の灌流では、洗浄ステップと同様に、動物の洗浄又は瀉血で用いたのと同じ注入箇所から、造影剤を順方向灌流により、心臓から離れる方向に動物の身体内に注入する。後肢が造影剤の色(好ましくは青色色素)に変色するのが、下半身が充填された目安になる。
【0055】
上半身全体に造影剤を充填するには、上述したカニューレ挿入又は洗浄ステップと同様に、造影剤を同じ注入箇所から動物の上半身に、すなわち造影剤を逆方向に灌流させて注入する。
【0056】
造影剤が心臓に流入しないよう安全策として、すなわち左心室の拡張を防止するため、上行大動脈を糸で閉じておく。動物の前肢すなわち前足、ならびに鼻が造影剤の色を呈すると、動物の上半身が完全に充填されたと推測できる。
【0057】
マウス又はラットの全身に充填する場合、それぞれ最高約10ml、最高約35mlの造影剤が必要である。
【0058】
動物の身体の1つ以上の臓器への選択的充填:
下半身に属する全ての臓器に、下半身の完全充填により、上述したように造影剤を充填することができる。上半身全体に充填することで、脳に造影剤を充填することができる。
【0059】
しかし、心臓及び/又は肺への充填は選択的に行う必要があり、そのためには、カニューレを下行大動脈に挿入し、下行大動脈の遠位部をつまんで、上行大動脈及び心臓の冠血管にだけ充填するようにする。すると、このつまんだ部分にだけ透明溶液(例えばPBS)が注入される。
【0060】
肺の血管系には、心臓の左心房に入る肺静脈を通して逆方向に充填される。
【0061】
選択臓器に充填する場合、例えば心臓及び/又は肺に充填する場合、動物の全身に充填する場合と比べて、約0.5~1.5mlしか造影剤を必要としない。
【0062】
11.硬化:
注入後、造影剤は、大動脈から動脈を通って動物の身体の毛細血管網及び静脈系へと移動していき、そこで重合により硬化する。造影剤は、少なくとも20~30分で硬化する。次に、硬化した造影剤を含む動物の身体の一部を化学的に、好ましくは2%パラホルムアルデヒド溶液で固定し、それから0~8℃で数カ月間は保存することができる。
【0063】
12.マイクロCTスキャンによる画像の分析:
動物の身体の撮像法、又はマイクロCTデバイスを用いたスキャンは、硬化した状態で実行される。スキャン中は、画像の乱れにつながるため、体が動いたり動かされたりしてはならない。微細な動きも防ぐために、スキャン中は動物の身体を機械的に固定すべきである。
【0064】
各図に示す被験物の画像は、「デスクトップマイクロCT」デバイス(SkyScan 1172又は1272、Bruker社、MicroCT、ベルギー国Kontich)を用いてスキャンしている。
【0065】
13.保存:
CTスキャン後、動物の身体を、再び0~8℃で2%パラホルムアルデヒド溶液中に保存することができる。
【0066】
14.組織学:
続いて、動物の身体の一部又は臓器の組織学的検査を行うことができる。そのために、従来のパラフィン包埋、従来の組織学的薄片法、色素及び免疫組織化学を用いることができる。
【0067】
ここで、硬化した造影剤は、組織学的切断後も血管内に留まりはっきりと見える。造影剤の自己蛍光によって、組織学的切片と、対応するマイクロCTデータセットの仮想切片との直接的な比較が可能となる。
【0068】
15.評価(マイクロCTデータセットの定量及び定性分析):
マイクロCT映像は、スキャン後に例えばNReconソフトウェア(NReconServer64bit、Bruker社、MicroCT、ベルギー国Kontich)を用いて逆戻しに再構成された映像の場合もあるし、CTVoxソフトウェア(Bruker社、MicroCT、ベルギー国Kontich)を用いて「ボリュームレンダリング」され、三次元的に視覚化される場合もある。組織及び血管を、CTAnソフトウェア(Bruker社、MicroCT、ベルギー国Kontich)を用いてセグメント化し分析することができ、あるいは他の一般公開されているソフトウェア、例えばMatlab(The MathWorks, Inc.、米国マサチューセッツ州ナティック)又はImageJ(Rasband, W.S., ImageJ、アメリカ国立衛生研究所、米国メリーランド州ベセスダ、http://imagej.nih.gov/ij/、1997-2016)を用いて判定することもできる。
【0069】
混合試験:
造影剤の最適な組成を求めて、ヨード化エステル化亜麻仁油の2-ブタノン及びPUに対する異なる比率を試験した。ここで、PUと硬化剤との重量%での好ましい一定の比率として、100:16を用いた。さらに、いずれの場合も、粉末形態の青色色素を0.2g(又はひとつまみ)用いた。混合試験を、以下のように実施した。
【0070】
各構成要素を、別々に準備した。ポリウレタン(PU)を、ガラス容器内で、ブタノン、ヨード化エステル化亜麻仁油、及び色素と、超音波槽を用いて混合した。次に、硬化剤を加えて同じく超音波槽内で約30秒間混合した。次いで、混合物が入ったガラス容器を真空室に置き、表面に小さい気泡が発生するまで待った(約40秒)。次に、シリンジに混合物を充填し、混合物を被験物に注入(灌流)した。
【0071】
粘度を求めるために、混合物を「落下試験」に供した。毎分0.1mlの混合物を1枚の紙に加え、紙を鉛直方向に保持した。混合物は紙を通過した。粘度を測定するために、混合物が特定の時点に通過した距離を観測した。身体での灌流を模倣するために、Venflon静脈カテーテルをシリンジに取り付けた。粘度試験後、重合した混合物が入った静脈カテーテルをシリンジから取り外した。全ての静脈カテーテルを、異なる混合物の吸収について、マイクロCTデバイスで検査した。
【0072】
【表1】
【0073】
重合に関しては、試験した組成物は、3つを除いて全て灌流に適していた。灌流の最短時間を求めたところ、10分であった。試料1a~c、2、6~9は、この要件を満たした。
【0074】
試験では、(5gのPU及び0.8mlの硬化剤に対し)少なくとも2mlの2-ブタノンを用いるべきであると判明した。この値よりも少ないと、重合が生じるのが速過ぎて完全に灌流することができない。
【0075】
ヨード化エステル化油の量も、重合の時間に影響する。試料8及び9は、他の試料よりも速い重合を示した。したがって、PU、硬化剤、及び2-ブタノンの体積が一定であれば、8mlの油が最も好適な濃度に相当するようである。
【0076】
試料6~9では、重合完了後に油及び色素の沈殿が見られたが、これは造影剤が周辺組織内に拡散する原因となり得、画質の低下にもつながり得る。
【0077】
試料8及び9は、ヨード化油の濃度が高く、したがって吸収度も(おそらく骨組織と同じくらい)高かった。この場合、アーチファクトを抑えるためにスキャン時にアルミニウムのフィルターを使う必要があり、そのためスキャン時間が長くなる。それでも高吸収度は毛細血管の認識に良い影響をもたらし得るが、毛細血管ピクセルの過飽和を招く可能性もあり、そうなるとパーシャルボリューム効果が損なわれ、ピクセルサイズが大きくなってしまうこともある(実験では、いずれの場合も0.8μmの等方性ピクセルサイズを用いた)。
【0078】
ヨード化エステル化亜麻仁油の代わりにヨード化エステル化ケシ油を用いると、灌流は良好であったが、血管造影のコントラストは悪化し、それはヨウ素の比率が低かったためと思われる。溶媒としてブタノンの代わりにアセトンを用いると、ブタノンと類似の効果が見られたが、それは他のケトン、例えばジエチルケトンでも予測される。代替の溶媒として、塩化メチレンを使用することも考えられる。
【0079】
以下の表では、濃度を重量%で表すのに次の測定値を用いた:3.5mlのヨード化エステル化亜麻仁油、重量4.8g。0.8mlの硬化剤、重量0.8g。2mlのブタノン、重量1.5g。使用したPUの密度は、約1.05g/cmであった。
【0080】
【表2】
【0081】
最適化試験:
混合試験後、造影剤混合物をさらに最適化した。造影剤を被験体又は被験臓器に注入するための上述の本方法では、硬化剤又は第3の容器の中身は、残りの造影剤構成要素の注入中又は注入直前になってはじめて混合される。そのためにはダブルシリンジが用いられる。その場合、硬化剤と残りの(第2の)混合物との特定の体積比は1:11と予め決まる。そうなると常に硬化剤が余ることになり、したがって、総量に占める硬化剤の量は限定すべきではない、ということになる。混合試験ではダブルシリンジを使用しなかったため、硬化剤は所定量の0.8mlを用いた。
【0082】
PUと硬化剤との好ましい体積比は、100:16~100:19の範囲である。しかし、この範囲は変えてもよく、造影剤の質に実質的な影響はない。
【0083】
最適化試験を行った際、造影剤中のヨード化エステル化亜麻仁油と2-ブタノンとの体積比が54%/46%であるのが最適であると判明した(任意選択の色素は、少量であるため考慮していない)(オプション2、5、6)。しかし、ヨード化エステル化亜麻仁油と2-ブタノンとの体積比が53%/47%(オプション1)又は56%/44%(オプション3)、あるいは58%/42%(オプション4)でも、灌流において良好な結果を示し、続いて撮像においても良好なコントラストを示している。したがって、ケトンの体積に対するヨード化エステル化油の体積の比率の好ましい範囲は、いわば0.75~4、好ましくは1~1.5、特に1.1~1.3と定めることができる。
【0084】
ヨード化エステル化油は、コントラストに影響する。ブタノンは、希釈剤の役割を果たす。より高いコントラストが望ましい場合には、より多くのヨード化エステル化油を混合物に加え、したがってコントラストを低下させるには、ヨード化エステル化油を減じる。油の量が比較的過剰である場合、過飽和により溶液から油が漏出して高粘度となり、灌流が妨害又は阻害される。
【0085】
個々の容器を空にする間、及び構成要素の混合中、及び造影剤の注入中、いずれの場合も、容器のみならず混合チューブ及びシリンジの壁や容器底に残留分が残るため、最適化試験では、構成要素の体積を容器の最大容量にまで最適化し(オプション5、6)、ヨード化エステル化亜麻仁油と2-ブタノンとを一定の最適な比率とした(オプション2の54%/46%)。したがって、実際に容器を満たす量は、当然ながら、対応する容器の容量に合わせて、又は被験物に応じて充填許容量により、調節することになる。
【0086】
造影剤組成のオプション:
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
粘度:
【表9】
【0093】
第2の混合物、すなわち造影溶液とPUとの組み合わせ(又はまだ硬化剤を含まない造影剤の組み合わせ)の粘度は、20℃で約100mPas.sである。
【0094】
参照文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7