(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】超高純度トレプロスチニルを調製するための効率的な結晶化プロセス及びそれから調製された結晶
(51)【国際特許分類】
C07C 59/72 20060101AFI20230227BHJP
C07C 51/43 20060101ALI20230227BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20230227BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230227BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C07C59/72
C07C51/43
A61K31/192
A61P11/00
A61P9/12
(21)【出願番号】P 2020208365
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2020-12-17
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512213583
【氏名又は名称】チャイロゲート インターナショナル インク.
【氏名又は名称原語表記】CHIROGATE INTERNATIONAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,シ-イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ジアン-バン
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,ミン-クン
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,ミン-クワン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,ズー-マン
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/088607(WO,A1)
【文献】特表2015-508408(JP,A)
【文献】特表2011-519927(JP,A)
【文献】特表2016-517410(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0123132(KR,A)
【文献】特開昭60-208936(JP,A)
【文献】特表2015-509092(JP,A)
【文献】特開2014-114317(JP,A)
【文献】Moriarty, Robert M. et al,The intramolecular asymmetric pauson-khand cyclization as a novel and general stereoselective route to benzindene prostacyclins: Synthesis of UT-15 (treprostinil),J. Org. Chem.,Vol.69,2004年,pp.1890-1902
【文献】IN 2014CH02963,2016.01.29
【文献】芦澤 一英、他,医薬品の多形現象と晶析の科学,丸善プラネット株式会社,2002年09月20日,第305-317頁
【文献】松岡 正邦,結晶多形の基礎と応用,普及版 第1刷,株式会社 シーエムシー出版,2010年10月22日,第105~117頁、第181~191頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.1±0.2°に最も強い特徴的なピークを含み、6.5±0.2°に特徴的なピークを含まない粉末X線回折(XRPD)パターンを有し、124±5℃に最も強い吸熱ピークを含み、95±5℃に吸熱ピークを実質的に含まない示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有する、トレプロスチニル無水物のI型結晶。
【請求項2】
他のいかなる形態の結晶トレプロスチニルも含まない、請求項1に記載のトレプロスチニル無水物のI型結晶。
【請求項3】
DSCサーモグラムパターンが、124±5℃で60J/gを超えるエンタルピーを有する最も強い吸熱ピーク、及び60~80℃で10J/g以下のエンタルピーを有する別の吸熱ピークを含む、請求項1に記載のトレプロスチニル無水物のI型結晶。
【請求項4】
残留溶媒及び水を除いて少なくとも99.95%の純度を有する、請求項1に記載のトレプロスチニル無水物のI型結晶。
【請求項5】
0.05%未満のトレプロスチニル・エチルエステル及び0.05%未満のトレプロスチニル二量体を含むトレプロスチニル無水物
のI型結晶。
【請求項6】
0.02%未満のトレプロスチニル・エチルエステル及び0.02%未満のトレプロスチニル二量体を含有する、請求項5に記載のトレプロスチニル無水物
のI型結晶。
【請求項7】
0.05%未満のトレプロスチニル・エチルエステル及び0.05%未満のトレプロスチニル二量体を含有するトレプロスチニル無水物結晶であって、3.1±0.2°に最も強い特徴的なピークを含み、6.5±0.2°に特徴的なピークを含まない粉末X線回折(XRPD)パターンを有し、124±5℃に最も強い吸熱ピークを含み、95±5℃に吸熱ピークを含まない示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有する、トレプロスチニル無水物のI型結晶を調製するための方法であって、以下の工程を含む、方法。
(a)トレプロスチニル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、及びそれらの混合物からなる群より選択される有機溶媒、1%~8%(v/v)の水を含むトレプロスチニル溶液を提供する工程;
(b)該トレプロスチニル溶液を1~200Torrの圧力下、30±15℃で結晶が析出するまで濃縮する工程;
(c)該結晶を濾過し、任意にすすぎ、該結晶を単離する工程;
(d)該結晶を20±5℃で乾燥する工程。
【請求項8】
前記I型結晶が、他のいかなる形態のトレプロスチニル結晶も含まない、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該DSCサーモグラムパターンが、124±5℃で60J/gより大きいエンタルピーを有する最も強い吸熱ピーク及び60~80℃で10J/g以下のエンタルピーを有する別の吸熱ピークを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
該I型結晶が、残留溶媒及び水を除いて、少なくとも99.95%の純度を有する、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高純度トレプロスチニルを調製するための効率的な結晶化プロセス、及び、それから調製されたトレプロスチニル無水物の新規な結晶形に関する。
【背景技術】
【0002】
トレプロスチニル(Treprostinil、UT15)は、以下の構造式を有するベンゾプロスタサイクリンの合成類縁体である。
【0003】
【0004】
トレプロスチニルは、運動能力の改善を図るために肺動脈性高血圧症(PAH)の患者に用いられる。投与経路に応じて、本医薬は、例えば、注射、経口、吸入などの様々な剤形に調製することができる。特許文献1は、吸入タイバソ(登録商標、トレプロスチニル)が、肺高血圧症を治療するための有意に低い血漿濃度となる長時間作用性肺血管拡張薬であることを明らかにした。レモジュリン(登録商標、トレプロスチニルナトリウム)注射剤は、皮下又は静脈内投与のために処方される滅菌ナトリウム塩であるPAHを治療するために、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された別の処方である。特許文献2は、トレプロスチニル・ジエタノールアミンの非晶質固体分散物が、経口投与のために錠剤に使用され得ることを開示する。特許文献3及び4はまた、トレプロスチニル吸入による肺高血圧症の治療を開示している。
【0005】
トレプロスチニルは、1つのカルボン酸(-COOH)及び2つのヒドロキシル(-OH)官能基を含有する高極性化合物であり、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製が非常に困難である。したがって、産業界におけるトレプロスチニル精製の最も実現可能な方法は結晶化である。
【0006】
現行の規制では、活性医薬成分中の各不純物が0.1%未満の量で存在することが要求されている。医薬品の安全性のために、結晶化プロセスの精製効率は、各単一不純物の量が確実に0.1%未満となるように、トレプロスチニルの純度を99.95%以上に高めることができることが産業において予想される。しかしながら、従来技術では、トレプロスチニルの結晶及び精製に関する引例はほとんどなく、結晶化プロセスを繰り返しても、それらのいずれもトレプロスチニルの純度を99.95%以上に成功裏に高めることができない。理由は以下の通りである。
【0007】
理由1:トレプロスチニルの結晶化中にエステル化不純物が生成する。
【0008】
以下の実施例1によれば、結晶化のためにトレプロスチニルをエタノールに溶解させると、約40℃1時間でトレプロスチニル・エチルエステルが約0.2%生成し、約40℃の環境にほぼ純粋なトレプロスチニルを保存すると、1時間で約0.01%のトレプロスチニル二量体が生成する。実験結果は、トレプロスチニル中の-COOH官能基が非常に有効であることを示し、したがって、トレプロスチニルは、トレプロスチニル自体を含むアルコールと容易にエステル化されて、エステル又はその二量体を形成する。
【0009】
非特許文献1には、エタノール-水系における結晶化プロセスによって合成されるトレプロスチニルの純度がわずか99.7%であることが記載されている。本文献では、0.3%の不純物についてはさらなる分析がなされていない。それにもかかわらず、上記の実験結果によれば、0.3%の不純物の大部分は、トレプロスチニル・エチルエステルであると合理的に推定することができる。したがって、このような結晶化プロセスを何度繰り返しても、トレプロスチニルの純度を99.95%以上に高められる保証はない。
【0010】
特許文献5にはまた、エタノール-水系における結晶化によるトレプロスチニル一水和物化物及びトレプロスチニル無水物の調製が記載されている。ロット番号D-1007-089及びロット番号01M07033の実験結果によれば、合成されたトレプロスチニル一水和物は、0.2%のトレプロスチニル・エチルエステル又はUT-15・エチルエステル、及び0.13%~0.14%のトレプロスチニル二量体(すなわち、750W93+751W93)を含む。特に、ロット番号01A07002のトレプロスチニル無水物は、0.5%のトレプロスチニル二量体(0.2%の750W93+0.3%の751W93)を含む。これらの二量体は、高温乾燥手順中に生成され得る。
【0011】
特許文献6及び7には、エタノール以外の溶媒を使用してトレプロスチニルを結晶化し、トレプロスチニル・エチルエステルを生成しないようにしていることが記載されている。しかし、現在の規制には、非エタノール溶媒の残留量に関する非常に厳しい要件も含まれているため、高温乾燥を使用することによって残留溶媒を除去するための時間が著しく長くなり、二量体を生成する機会も著しく増える。さらに、特許文献6及び7の実施例はすべて、約99.70%の平均HPLC純度を有するたった約1gの結晶化物の合成を例証しているにすぎず、純度の最高値は99.90%にすぎず、求められる99.95%よりもはるかに低い。大量製造が必要な場合、生成物のHPLC純度が99.90%、さらには99.95%以上に達すると予想することは困難である。
【0012】
理由2:先行技術文献に開示されているトレプロスチニルは、全てガム状固体又は粘性物質であり、したがって、濾過及び乾燥することが困難である。
【0013】
特許文献5、6及び7には、反応溶液を酢酸エチルで抽出し、濃縮して得られる粗トレプロスチニルが、かすかに黄色のガム状固体であることが記載されている。特許文献6及び7には、エタノール-水系を使用して得られるトレプロスチニル一水和物が極めて粘稠な物質であることが記載されている。特許文献8には、2つのトレプロスチニル一水和物のA型結晶及びB型結晶が記載されているが、これらはスラリー状であり、濾過が困難である。したがって、トレプロスチニル、トレプロスチニル一水和物のいずれが本質的に粘稠な物質で、濾過や洗浄が困難なのか分かる。生成物を濾過することが困難であるため、濾過に要する時間がどれくらいなのか、またエステル化不純物がどれくらい生成するのかを推定することはできない。
【0014】
上記を考慮して、約0.1%未満の任意の単一不純物を有する超高純度トレプロスチニル(>99.95%)を得、トレプロスチニルの結晶化プロセスに関する全ての問題を解決するために、工業における精製のためのより効率的な結晶化プロセスが依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許出願公開第2015/148414号明細書
【文献】国際公開第2016/038532号
【文献】米国特許第6,521,212号明細書
【文献】米国特許第6,756,033号明細書
【文献】国際公開第2009/137066号
【文献】米国特許第9,278,902号明細書
【文献】米国特許第9,278,903号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/275262号明細書
【非特許文献】
【0016】
【文献】J.Org.Chem.69,1890-1902 (2004)
【発明の概要】
【0017】
本発明者らは、残留溶媒及び水を除いて少なくとも99.95%の純度を有するトレプロスチニル無水物を調製するためのより効率的な結晶化工程を見出し、また驚くべきことに、低粘度を有し、したがってバケットから容易に除去され、次いで、その密な固体特徴のために濾過及びすすぎを行うことができる、トレプロスチニル無水物の新規な結晶形を見出した。本発明の迅速かつ効率的な結晶化方法は、エステル化不純物の生成を完全に回避することができ、工業的な大量製造における使用により適している。
【0018】
一実施形態では、本発明は、3.1±0.2℃に最も強い特徴的なピークを含み、6.5±0.2℃に特徴的なピークを実質的に含まない粉末X線回折(XRPD)パターンを有し、約124±5℃に最も強い吸熱ピークを含み、ほぼ95±5℃に吸熱ピークを実質的に含まない示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有する、実質的に純粋なトレプロスチニル無水物のI型結晶を提供する。
【0019】
一実施形態では、トレプロスチニル無水物のI型結晶のDSCサーモグラムパターンは、約60~80℃で、約10J/g以下のエンタルピーを有する少量の吸熱ピークをさらに含む。
【0020】
他の実施形態では、本発明は、約0.05%未満のトレプロスチニル・エチルエステル及び約0.05%未満のトレプロスチニル二量体を含むトレプロスチニル無水物結晶を提供する。
【0021】
一実施形態では、本発明は、トレプロスチニル・エチルエステル0.02%未満及びトレプロスチニル二量体0.02%未満を含むトレプロスチニル無水物結晶を提供する。
【0022】
一実施形態では、本発明は、残留溶媒及び水分を除いて、少なくとも99.95%の純度を有するトレプロスチニル無水物結晶を提供する。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、トレプロスチニル無水物のI型結晶を調製するための方法を提供する。
【0024】
一実施形態では、本発明は、約124±5℃に約60J/gを超えるエンタルピーを有する1つの主要吸熱ピークと、約60~80℃で約10J/gを超えないエンタルピーを有する1つの副吸熱ピークと、の2つの吸熱ピークのみを含むDSCサーモグラフパターンを有するトレプロスチニル無水物の実質的に純粋なI型結晶を提供する。
【0025】
一実施形態では、本発明は、3.1±0.2°に最も強い特徴的なピークを含み、6.5±0.2°に特徴的なピークを実質的に含まず、約124±5℃に約60J/gを超えるエンタルピーを有する1つの主要吸熱ピークと、約60~80℃で約10J/g以下のエンタルピーを有する1つの小さな吸熱ピークとを有する、トレプロスチニル無水物の実質的に純粋なI型結晶を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】特許文献7の実施例で得られたトレプロスチニル無水物のA型結晶の粉末X線回折(XRPD)図。
【
図2】特許文献7の実施例で得られたトレプロスチニル無水物のA型結晶の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図3】特許文献6の実施例で得られたトレプロスチニル無水物のB型結晶の粉末X線回折(XRPD)パターンを示す。
【
図4】特許文献6の実施例で得られたトレプロスチニル無水物のB型結晶の示差走査熱量計(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図5】特許文献8の実施例で得られたトレプロスチニル無水物のC型結晶の粉末X線回折(XRPD)パターンを示す。
【
図6】特許文献8の実施例で得られたトレプロスチニル無水物のC型結晶の示差走査熱量計(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図7】本発明のトレプロスチニル無水物のI型結晶の粉末X線回折(XRPD)パターンを示す。
【
図8】本発明のトレプロスチニル無水物のI型結晶の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図9】本発明のトレプロスチニル無水物のI型結晶のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
【
図10】純酢酸エチル、純アセトニトリル、酢酸エチル中のトレプロスチニル無水物のI型結晶(無水物I型)、アセトニトリル中のトレプロスチニル無水物のA型結晶(特許文献7)、及びエタノール/水中のトレプロスチニル一水和物結晶(特許文献5)の、濾過中における圧力変化を示す。
【
図11】本発明のトレプロスチニル無水物のI型結晶の、-20℃で保存した(a)製造直後、(b)1年間経過、及び(c)2年間経過後の示差走査熱量計(DSC)サーモグラムパターンを示す。
【
図12】本発明のトレプロスチニル無水物のI型結晶の純度を示す。
【発明の詳細な説明】
【0027】
結晶トレプロスチニルの調製
結晶トレプロスチニルの典型的な合成過程を、以下のスキームAに示す。
【0028】
【0029】
非特許文献1には、以下のような上記合成の詳細な工程が記載されている。
(a)トレプロスチニル・エステル又はトレプロスチニル・ニトリルをメタノール・水溶液に溶解する工程;
(b)KOHのような強塩基を加えて加水分解反応する工程;
(c)任意に塩酸のような酸を加えてpH10~12に調整する工程;
(d)メタノールを除去するために濃縮して水溶液とする工程;
(e)該水溶液を酢酸エチルで洗浄する工程;
(f)塩酸を加えて残留水溶液のpH値を2~3に調整する工程;
(g)酢酸エチルで抽出する工程;
(h)任意に併合した有機層を水洗する工程;
(i)該トレプロスチニル抽出溶液に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、残留水を除去し、そして濾過する工程;
(j)該トレプロスチニル乾燥抽出溶液を濃縮して粗トレプロスチニルをガム状固体として得る工程;
(k)ガム状固体を加熱して粗トレプロスチニルをエタノールのような良溶媒に溶解して均一液を得る工程;
(l)温度を下げる及び/又は水のような貧溶媒を添加してトレプロスチニル結晶を析出させる工程;
(m)濾過する工程;
(n)洗浄する工程;
(o)乾燥する工程。
【0030】
特許文献5は、上記工程(e)の水溶液を形成するためにトレプロスチニル・ジエタノールアミンを直接水に溶解することを含むトレプロスチニル一水和物を調製し、トレプロスチニル結晶を得るための工程(f)~(o)の同じプロセスを開示する。特許文献6及び7は、非特許文献1に記載されているのと同じ工程を含むプロセスを開示するが、工程(k)~(o)における各再結晶溶媒(良溶媒及び貧溶媒)及び操作条件が異なる。
【0031】
本発明者は、本発明の実施例1の安定性試験結果に従って、上記従来の工程を分析し、エステル化不純物であるトレプロスチニル・エチルエステルが最も生じやすいと思われる工程には、粗トレプロスチニルを加熱及びエタノールに溶解する工程(k)、及び工程(k)~(o)が含まれる可能性があることを見出した。エタノールが完全に除去されない限り、トレプロスチニル・エチルエステルが生じる可能性がある。
【0032】
さらに、エステル化不純物であるトレプロスチニル二量体を生成する可能性が最も高い工程は、ガム状の粗トレプロスチニル固体を形成するために濃縮及び乾燥する工程(j)、ならびにガム状の粗トレプロスチニル固体を加熱する及び良溶媒に溶解する工程(k)である可能性がある。工程(k)において、ガム状固体の表面は、まず、良溶媒に溶解され、したがって、二量体が形成されにくいが、ガム状固体の内部は、高濃度のトレプロスチニルを含有し、したがって、二量体が容易に生成される。とくに、上記従来の合成工程を工業的大量生産に用いる場合、反応容器の側壁にガム状固体が付着し、反応容器の側壁とは逆のガム状固形物が溶解し始める。しかしながら、熱媒体は反応容器の側壁を通って加熱されるので、溶媒を約40℃~50℃に加熱したい場合、反応容器の側壁温度は50℃よりはるかに高くなる。このとき、反応容器に付着したガム状のトレプロスチニルは、大量の二量体に変換される。また、工程(m)における濾過速度が期待し難いため、濾過時間が長すぎると、二量体が形成され易くなる。二量体の生成に影響する鍵となる工程は、最終的な乾燥工程(o)である。特許文献5は、55℃及び0.26Torrで22.7時間乾燥した後、エタノール-水系中でトレプロスチニル無水物が形成されることを開示している。しかしながら、このような乾燥条件は、容易に大量の二量体を形成する。さらに、特許文献6及び7には、非プロトン性溶媒を使用して結晶化することが例示されている。非プロトン性溶媒の選択はまた、二量体の生成量に影響を及ぼす。例えば、低沸点や低極性の溶媒は蒸発するが、それらはトレプロスチニルと比較して溶解度が悪く、結晶化に使用するのに適していない;高沸点や高極性の溶媒はまだ結晶化に適しているが、短時間内に真空下で溶媒の量を規制限界未満に減らすことは容易ではなく、ほとんどの場合、水よりも乾燥しにくい。
【0033】
その結果、エステル化不純物の生成を回避するために、より良い戦略は、工程(i)において結晶化することであり、それによって、工程(j)~(k)の再結晶工程を省略することができ、濃度及び乾燥工程である(j)も省略することができる。しかしながら、工程(i)での結晶化を開示する先行技術文献のいずれもが、工程(i)で濾過可能な結晶を得ることができない理由である。特許文献5は、工程(i)で得られた粗トレプロスチニルがガム状固体であることを開示している。特許文献6及び7はまた、工程(i)で得られた粗トレプロスチニルが微かに黄色のガム状固体であることを開示しており、反応液体を濾過することが困難であり、残留溶媒を減圧下で完全に除去することができないと教示している。上記の観点から、工程(i)でガム状固体ではなく、濾過可能な結晶形で粗トレプロスチニルを形成することができる場合、エステル化不純物を生成し得る多くの工程を省略することができる。
【0034】
本発明者は、上記の問題を解決するために、多くの方法及び回数を試み、そして予想外かつ驚くべきことに、トレプロチニル結晶の以下の新規な性質を見出した:
(a):湿トレプロスチニル結晶は、非プロトン性溶媒と約1%~約8%の水を含む溶液から析出し、これは、依然として、密な固体特徴を有するトレプロスチニル結晶である。濾過されたトレプロスチニル結晶は、直ちにカール・フィッシャー滴定によって測定される。結果は、水含有量が2%未満であることを示し、このことは、湿トレプロスチニル結晶が、トレプロスチニル一水和物(約4%の水を含有する)ではなく、トレプロスチニルであることを示唆する。
(b):非プロトン性溶媒及び約1%~約8%の水を含む溶液中の湿トレプロスチニル結晶は、非プロトン性-水系の溶媒中のトレプロスチニル一水和物結晶(特許文献5)よりも濾過しやすく、また、無水非プロトン性溶媒中のトレプロスチニル無水物結晶(特許文献7)よりも濾過しやすい。
(c):湿トレプロスチニル結晶を洗浄及び乾燥後、トレプロスチニル無水物の新規な単一の結晶を得た。これを以下トレプロスチニル無水物I型結晶、トレプロスチニル無水物のI型結晶、又はI型結晶と称する。新規なトレプロスチニル無水物I型結晶は、3.1±0.2℃に最も強い特徴的なピークを含み、6.5±0.2℃に特徴的なピークを実質的に含まない粉末X線回折(XRPD)パターンを有し、約124±5℃に最も強い吸熱ピークを含み、95±5℃に吸熱ピークを実質的に含まないDSCサーモグラムパターンを有する。
【0035】
公知のトレプロスチニル無水物A型結晶(特許文献7の
図1、
図1として再掲)、B型結晶(特許文献6の
図1、
図3として再掲)、及びC型結晶(特許文献8の
図16、
図5として再掲)の粉末X線回折(XRPD)パターンと比較して、トレプロスチニル無水物結晶は、すべて10~30℃に一連のブロード(FWHH>5°)又は複数に割れたピークを含む。10°以内の範囲において、A型は2.96°(3.1±0.2°)及び6.52°(6.5±0.2°)に弱いピークを示し、B型は2.90°(3.1±0.2°)に弱いピークと6.56°(6.5±0.2°)に強いピークを示し、C型は6.55°(6.5±0.2°)に強いピークを示すのみであるが、
図7に示すように、本発明のI型は3.1±0.2°に強いピークがあるのみであり、6.5±0.2°には実質的に特徴的なピークを示さない。I型は、A型、B型、C型結晶とは明らかに異なる。
【0036】
公知のトレプロスチニル無水物A型結晶(特許文献7の
図2、
図2として再掲)、B型結晶(特許文献6の
図2、
図4として再掲)、C型結晶(特許文献8の
図17、
図6として再掲)と比較して、トレプロスチニル無水物のA型、B型、C型結晶のDSCサーモグラムパターンは、
図2、
図4及び
図6に示すように、全て2つの大きな吸熱ピークを約95±5℃及び124±5℃に有し、また明らかに2~3個の他の吸熱ピークを有する。しかしながら、
図8に示すように、本発明のトレプロスチニル無水物のI型結晶は、約124±5℃に大きな吸熱ピークを有するのみであり、約95±5℃には吸熱ピークを実質的に有しない。I型は高い融点を有する単一の結晶であり、A型、B型又はC型とは明らかに異なる。
【0037】
XRPDパターンやDSCサーモグラムパターンを参照しても、トレプロスチニル無水物のI型結晶は、従来のA型、B型、C型結晶と明らかに異なることから、トレプロスチニル無水物のI型結晶は新規な結晶形である。さらに、従来のA型、B型、C型結晶のDSCサーモグラムパターンは、すべて3~5つの吸熱ピークを含むが、トレプロスチニル無水物のI型結晶のDSCサーモグラムパターンは、ほぼ単一の吸熱ピークを含み、これは、トレプロスチニル無水物のI型結晶が、ほとんど単一の純粋な結晶形であることを意味する。
(d)トレプロスチニルの抽出溶液の水分含量は、撹拌及び濃縮中のトレプロスチニルの結晶化を補助するために、約1%~8%(v/v)の範囲でなければならない。トレプロスチニルの抽出溶液は、約1%~8%(v/v)の水しか含まないので、非特許文献1、特許文献5、特許文献6、及び特許文献7に開示されているように、残留水を除去するために、トレプロスチニルの抽出溶液に無水Na2SO4を添加する工程(i)は省略可能である。本発明において、約1~8%(v/v)しか水を含まないトレプロスチニルの抽出溶液を直接撹拌し、ほとんどの析出物結晶が形成されるまで、減圧下(約1~200torr)、30±15℃で濃縮する。その後、濃縮を止め、析出した結晶を濾取し、すすぐ。析出したトレプロスチニル結晶は、低い粘度及び良好な濾過性を有する。
(e)湿トレプロスチニル結晶を洗浄及び乾燥した後、本発明者は、約0.05%未満のトレプロスチニルエチルエステル及び約0.05%未満のトレプロスチニル二量体を含有し、好ましくは約0.02%未満のトレプロスチニルエチルエステル及び約0.02%未満のトレプロスチニル二量体を含有し、より好ましくは約0.01%未満のトレプロスチニルエチルエステル及び約0.01%未満のトレプロスチニル二量体を含有し、最も好ましくは検出不能な量のトレプロスチニルエチルエステル及びトレプロスチニル二量体を含有する新規なトレプロスチニル結晶を見出した。また、本発明者は、新規なトレプロスチニル結晶が約99.90%以上、より好ましくは約99.95%以上、そして最も好ましくは約99.99%以上の純度を有することを発見した。
【0038】
本発明者は、予想外にも、従来の工程(h)において、トレプロスチニルの抽出液を直接濃縮及び結晶化すると、得られた超高純度トレプロスチニルが規制の最も厳しい要求事項を満たすことを発見した。このような場合において、ガム状固体を生成する工程(j)、工程(k)及びその後の再結晶工程を回避することができる。エステル化不純物を容易に形成し得る工程のほとんどが省略され、その結果作業時間を短縮し、コストが削減される。本発明は、超高純度トレプロスチニルを調製するための効率的な結晶化方法を提供する。
超高純度トレプロスチニル無水物及びその結晶の調製
【0039】
本発明は、約0.05%未満のトレプロスチニル・エチルエステル及び約0.05%未満のトレプロスチニル二量体を含むトレプロスチニル無水物のI型結晶を調製する方法を提供し、これは、以下の工程を含む。
(a)トレプロスチニルと、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル及びそれらの混合物からなる群から選択される有機溶媒と、約1%~8%(v/v)の水とを含有するトレプロスチニル溶液を提供する工程;
(b)該トレプロスチニル溶液を30±15℃で減圧下にほとんどのトレプロスチニル結晶が析出するまで濃縮する工程;
(c)該析出物の結晶を濾取し、任意にすすぎ、トレプロスチニル結晶を単離する工程;
(d)該トレプロスチニル結晶を20±5℃で乾燥させる工程。
【0040】
本発明において、有機溶媒の体積は、トレプロスチニル1gあたり約15mL~約100mL、好ましくは約15mL~約50mL、及びより好ましくは約20mL~約50mLであり得る。含水量(v/v)は、有機溶媒に対して約1%~約8%、好ましくは約2%~約6%、及びより好ましくは約3%~約5%であり得る。トレプロスチニルは、約0℃~約80℃、好ましくは約10℃~約60℃、及びより好ましくは室温~約40℃の範囲の温度で、有機溶媒及び約1%~8%(v/v)水を含む溶液に溶解することができる。
【0041】
特許文献5は、粗トレプロスチニルがNa2SO4で乾燥後、反応の抽出有機層から濃縮されたことを開示している。化学及び工業分野では、反応の抽出有機層をNa2SO4とともに攪拌して処理し、残留水を除去してから濃縮することがよく知られている。しかしながら、特許文献5において調製されたトレプロスチニルの場合、濃縮された粗トレプロスチニルは、高い粘度を有するガム状固体であり、これは、容器から容易に除去、濾過、すすぎができなかった可能性がある。予想外の発見として、本発明者は、驚くべきことに、トレプロスチニル溶液中に少量の水を含有させると、濃縮時に、密な固体特徴を有する白色顆粒状の結晶が形成することを見出した。該トレプロスチニル結晶は、粘度が低く、その密な固体特徴のために容器から容易に剥がれ、濾過とすすぎを行うことができる。一実施形態では、本発明の少量の水を含むトレプロスチニル溶液として、非特許文献1、特許文献5、6や7に開示されるようなNa2SO4による乾燥を行わない反応の抽出有機層を用いることができる。換言すると、本発明では、Na2SO4による乾燥なしに抽出有機層をそのまま用いて結晶化に用いることができる。
【0042】
トレプロスチニル結晶の析出法に関して、特許文献7には、粗製のトレプロスチニル及び酢酸エチルなどの1種以上の溶媒を含むが、水を含まない冷却溶液1、及び/又はC5~C8アルカンなどの溶媒2を添加し、0~5℃に冷却してA型結晶を得る工程が開示されており、特許文献7の全ての実施例に示されるように、得られたトレプロスチニル無水物のA型結晶は、約95℃に吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムパターンを有し(
図2)、6.5±0.2°に特徴的なピークを含む粉末X線回折(XRPD)パターンを有する(
図1)。
【0043】
本発明において、トレプロスチニルは常温又はやや加熱時に、水性酢酸エチル溶液中で濃縮される。濃度がトレプロスチニルの飽和レベルを超えるまでトレプロスチニルの水性酢酸エチル溶液を蒸発させると、ガム状固体ではなトレプロスチニル無水物のI型結晶である糸状の結晶が生成する。I型結晶のDSCサーモグラムパターンは、約95±5℃に吸熱ピークを有さず、I型結晶のXRPDパターンは、6.5±0.2℃に特徴的なピークを有さない。
【0044】
本発明において、濃縮工程は、約0℃~約70℃、好ましくは約10℃~約60℃、及びより好ましくは約15℃~約45℃の範囲の温度で実施される。
【0045】
特許文献7よりも適切な高温濃縮工程は、ガム状粘性固体ではなく、コンパクトな固体特徴を有する白色顆粒剤結晶を形成するためのトレプロスチニルの結晶化を促進する重要な因子である。さらに、トレプロスチニルの不純物は、適切な高温溶液中にほとんど溶解することができ、濾過後に高純度のトレプロスチニル結晶を得ることができる。
【0046】
濃縮工程は、約1Torr~約200Torr、好ましくは約2Torr~約100 Torr、及び好ましくは約5Torr~約50Torrの減圧下で行うことができる。
【0047】
本発明の方法において、特異的な有機溶媒系を用いることにより、トレプロスチニル無水物のI型結晶析出物は、緻密な固体特徴及び良好な濾過性を有する。トレプロスチニル無水物結晶の残留溶媒は、室温で高真空(好ましくは約0.001~10Torr)下で容易に除去することができる。さらに、粒状でコンパクトな固体特徴を有する乾燥トレプロスチニル無水物結晶は、高粘度を有するトレプロスチニルのガム状固体形態と比較して、商業的に取り扱うための秤量がはるかに容易である。
【0048】
本発明の一実施形態において、トレプロスチニル無水物のI型結晶は、他のいかなる形態のトレプロスチニル結晶も実質的に含まない。一実施形態において、トレプロスチニル無水物のI型結晶は、3.1±0.2°に最も強い特徴的なピークを示し、6.5±0.2°に特徴的なピークを実質的に含まない。好ましい実施形態では、XRPDパターンは、13.8±0.2°、17.5±0.2°、及び18.9±0.2°の一連の粗い又はマルチスプリット特性ピークをさらに含む。より好ましくは、トレプロスチニル無水物のI型結晶のXRPDパターンは、
図7と一致する。トレプロスチニル無水物のI型結晶の特定のXRPDデータを表1に示す。
【0049】
【0050】
一実施形態では、本発明は、約124±5℃で最も強い吸熱ピークを含み、約95±5℃に吸熱ピークを実質的に含まないDSCサーモグラムパターンを有するトレプロスチニル無水物のI型結晶を提供する。
【0051】
一実施形態では、本発明は、約60~80℃で、エンタルピーが10J/g以下である1週間の吸熱ピークをさらに含むDSCサーモグラムパターンを有するトレプロスチニル無水物のI型結晶を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図8に示されるようなDSCサーモグラムパターンを有するトレプロスチニル無水物のI型結晶を提供する。
【0052】
一実施形態では、本発明は、3435±4cm
-1、3389±4cm
-1、2930±4cm
-1、2854±4cm
-1、2854±4cm
-1、2727±4cm
-1、2588±4cm
-1、1711±4cm
-1、1585±4cm
-1、1469±4cm
-1、1455±4cm
-1、1374±4cm
-1、1326±4cm
-1、1259±4cm
-1、1122±4cm
-1、1092±4cm
-1、890±4cm
-1、997±4cm
-1、952±4cm
-1、777±4cm
-1、747±4cm
-1、738±4cm
-1、及び677±4cm
-1にピークを含む1%KBrフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルのI型結晶を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、実質的に
図9に示されるような1%KBr FTIRスペクトルを有するトレプロスチニル無水物のI型結晶を提供する。
【0053】
一実施形態では、本発明は、約0.05%トレプロスチニル・エチルエステルより低く、約0.05%未満のトレプロスチニル二量体を含むトレプロスチニル無水物結晶を提供する。好ましい実施形態では、約0.02%トレプロスチニル・エチルエステルより低く、約0.02%トレプロスチニルジマー未満を含むトレプロスチニル無水物結晶を提供し、より好ましくは、非検出量のトレプロスチニル・エチルエステル及びトレプロスチニル二量体を含有するトレプロスチニル無水物結晶である。
【0054】
一実施形態では、本発明は、残留溶媒及び水分の他に、少なくとも99.90%、好ましくは少なくとも99.95%、最も好ましくは少なくとも99.99%の純度を有するトレプロスチニル無水物結晶を提供する。
【0055】
したがって、トレプロスチニル無水物のI型結晶は、安定した結晶形態であり、これは、医薬製剤のための定常的な物理化学的特性を提供することができ、商業的考慮のために貯蔵、輸送、及び取り扱いにおいて広く有利であり、安全である。
【実施例】
【0056】
粉末X線回折(XRPD)解析:XRPDパターンを、固定発散スリット及び1D LYNXEYE検出器を有するBruker D2 PHASER回折計で収集した。試料(約100mg)を試料台上に平らに置いた。調製した試料を、2°~50°の2θ範囲にわたって、10mA及び30kVの電源でCuKα放射を使用して、0.02度のステップサイズ及び1秒のステップ時間で分析した。発散ビームニッケルフィルタによりCuKβ放射を除去した。
【0057】
示差走査熱量測定(DSC)分析:DSCサーモグラムパターンをTA DISCOVERY DSC25装置で収集した。試料を、クリンプ閉鎖アルミニウム蓋を有するアルミニウムパン中に秤量した。調製した試料を、窒素流下(約50mL/分)で10℃/分の走査速度で25℃から200℃まで分析した。融温度及び融解熱は、測定前にインジウム(In)によって較正した。
【0058】
フーリエ変換赤外(FTIR)分析:FTIRスペクトルをPerkin Elmer SPECTRUM 100装置で収集した。サンプルを、メノウ乳鉢及び乳棒を用いて約1:100の割合(w/w)で臭化カリウム(KBr)と混合した。混合物をペレットダイ中で約10~13トンの圧力で2分間圧縮した。得られたディスクは、4cmの解像度で4000cm-1から650cm-1まで収集した背景に対して、4回スキャンした。データをベースライン補正し、正規化した。
【0059】
超性能液体クロマトグラフィー(UPLC)分析:UPLCスペクトルは、Waters ACQUITY UPLC装置で収集した。試料を50/50(v/v)アセトニトリル/H2Oで1mg/mLに希釈したものをWaters BEH C18、1.7μm、2.1×150mmとした。移動相は60/40(v/v)緩衝液/アセトニトリルが0~10分、緩衝液/アセトニトリルが60/40~5/95(v/v)(曲線6)が10~20分、5/95(v/v)緩衝液/アセトニトリルが20~25分、緩衝液/アセトニトリルの勾配変化が5/95~0/100(v/v)(曲線6)が25~30分、0/100(v/v)緩衝液/アセトニトリルが30~35分である。緩衝液はトリフルオロ酢酸で調整したpH3.0水溶液である。流量は0.42mL/minに設定する。カラム温度を45℃、サンプル温度を25℃に設定する。注射液は1.5μLである。実行時間は35分であり、UV検出器は210nmに設定される。
【0060】
実施例1
エタノール中におけるトレプロスチニルの安定性
1.00gのトレプロスチニルを、室温でガラスバイアルの5mLのエタノールに溶解して、均質な溶液を形成し、これを40±1℃の油浴で撹拌し、定期的にUPLC測定にサンプリングして、トレプロスチニルエチルエステル及びトレプロスチニル二量体の形成を追跡した。UPLCの結果を以下の表2に示した。トレプロスチニル・エチルエステルは、40±1℃で1時間当たり約0.2%の生成率で生成し、トレプロスチニルのカルボン酸基(-COOH)が活性であり、アルコールと容易にエステル化することができることを示した。一方、トレプロスチニル二量体は、40±1℃で1時間当たり約0.01%の生成率で生成し、トレプロスチニルの活性カルボン酸基(-COOH)は、トレプロスチニルのヒドロキシル基(-OH)と容易に分子内エステル化することができることを示した。
【0061】
【0062】
実施例2
トレプロスチニルの安定性
【0063】
1.00gのトレプロスチニルをガラスバイアルに入れ、40±1℃の湯浴で蒸留し、定期的にサンプリングしてトレプロスチニル・エチルエステルとトレプロスチニル二量体の形成を追跡した。UPLCの結果を以下の表3に示す。トレプロスチニル二量体は、40±1℃で1時間あたり約0.01%の生成率で生成し、これは、トレプロスチニルのカルボン酸基(-COOH)が活性であり、トレプロスチニルのヒドロキシル基(-OH)と容易に分子内エステル化することができることを示している。
【0064】
【0065】
実施例3
トレプロスチニル結晶の濾過性
【0066】
試料溶液の濾過性は、濾過中の精密濾過アセンブリ内部の圧力変化によって数値的に推定される。47mmフリットガラス、0.22μm親水性PVDFフィルター膜、250mL容器、PANCHUM VP-900ドライポンプ、及び外部圧力ゲージを有する精密濾過アセンブリを、濾過中の圧力変化を追跡するために沈降させた。濾過用試料溶液の使用量を100mLとし、濾過温度を25±1℃とし、同様の実験条件で試料の濾過性を比較した。
【0067】
酢酸エチル(3%v/v水を含有する)中のトレプロスチニル無水物のI型結晶の試料を実施例5から調製し、濃度は約0.05g/mlである。アセトニトリル中のトレプロスチニル無水物のA型結晶の試料を、US9,278,903の実施例12の記載に従って調製し、濃度は約0.02g/mLである。エタノール/水中のトレプロスチニル結晶・一水和物の試料を、WO2009/137066の実施例2の記載に従って調製し、濃度は約0.05g/mLである。純粋な酢酸エチル、純粋なアセトニトリル、酢酸エチル中のトレプロスチニル無水物のI型結晶(3%v/v水を含有する)、アセトニトリル中のトレプロスチニル無水物のA型結晶、及び濾過中のエタノール/水中のトレプロスチニル一水和物結晶の圧力変化を測定し、結果を
図10に示す。
【0068】
図10に示すように、純粋な酢酸エチルの圧力は、濾過の開始から約3秒以内に約80torrから約45torrに急速に減少し、次いで、全ての溶媒が濾過されるまで、約45torrから約41torr (約3秒~約21秒)に円滑に減少する(矢印は、約21秒での濾過の終了時間を示す)。濾過中の酢酸エチル(3%v/v水を含む)中のトレプロスチニル無水物のI型結晶の圧力変化と比較して、それは、濾過の開始から約3秒以内に約80torrから約39torrに急速に減少し、次いで、全ての溶媒が濾過されるまで、約39torrから約30torr(約3秒~約92秒)に円滑に減少する(矢印は、約92秒での濾過の終了時間を示す)。
【0069】
一方、純アセトニトリルの圧力は、濾過開始から3秒以内に約80torrから約53torrに急激に低下し、その後、全ての溶媒が濾過除去されるまで、約53torrから約51torr(約3秒~約30秒)に円滑に低下する(矢印は、約30秒での濾過終了時間を示す)結果は、純粋なアセトニトリルの濾過性が純粋な酢酸エチルよりも良好であることを示す。しかしながら、アセトニトリル中のトレプロスチニル無水物のA型結晶の圧力は、濾過の開始から3秒以内に約80torrから約30torrに急速に減少し、次いで約30torrから約18torr(約3秒~約180秒)に円滑に減少する。180秒まで、精密濾過アセンブリ上に依然として20~30mLの溶液が存在し、濾過速度は非常に遅くなる。濾過性の変化は、溶媒の種類ではなく結晶特性の効果に起因する。これらの結果と比較して、酢酸エチル(3%v/v水を含有する)中のトレプロスチニル無水物のI型結晶の濾過性は、明らかに、アセトニトリル中のトレプロスチニル無水物のA型結晶よりもはるかに良好(より高い圧力及びより短い濾過時間)である。
【0070】
さらに、エタノール/水中のトレプロスチニル一水和物結晶の圧力もまた、濾過の開始から約3秒以内に約80torrから約30torrまで急速に減少し、次いで約30torrから約18torrまで円滑に減少する(約3秒から約180秒)。180秒まで、精密濾過アセンブリ上に依然として約20~30mLの溶液が存在し、濾過速度は非常に遅くなる。酢酸エチル(3%v/vの水を含む)中のトレプロスチニル無水物のI型結晶の濾過性は、エタノール/水中のトレプロスチニル一水和物結晶よりもはるかに良好(より高い圧力及びより短い濾過時間)であることは明らかである。
【0071】
アセトニトリル中のトレプロスチニル無水物A型結晶の及びエタノール/水中のトレプロスチニル一水和物結晶のサンプルを濾過するために、ほぼ80%の溶液を約180秒まで濾過した。残留溶液(~20%)は、有意な濾液滴下なしにフィルター上で詰まった。したがって、工業規模では、アセトニトリル中のトレプロスチニル無水物又はエタノール/水中のトレプロスチニル一水和物結晶のA型結晶を濾過しながら、濾過膜面積を実質的に増加させる必要があり、そうでない場合、それらを濾過する工業的製造プロセスは、大きな問題に直面する。対照的に、本発明のより良好な濾過性を有する酢酸エチル(3%v/v水を含む)中のトレプロスチニル無水物のI型結晶は、この課題を容易に克服することができる。
【0072】
実施例4 トレプロスチニル無水物のI型結晶の調製
粗トレプロスチニル(2.00g)を、2%(v/v)水を含む酢酸エチル120mLに溶解した。その後、ほとんどのトレプロスチニル結晶が析出するまで、20℃で真空下(約10torr)でトレプロスチニル溶液を濃縮した。その後、得られた析出物結晶を濾過、すすいだ後、高真空(約0.01torr)下、20℃で1時間乾燥することにより、トレプロスチニル無水物のI型結晶1.62gを得た。XRPD、DSC、FTIRの結果は、
図7、
図8、
図9と同様である。
【0073】
実施例5 トレプロスチニル無水物のI型結晶の作製
2-(((1R,2R,3aS,9aS)-2-ヒドロキシ-1-((S)-3-ヒドロキシオクチル)-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[b]ナフタレン-6-イル)オキシ)アセトニトリル(5.50g、14.8mmol)を2-プロパノール(45mL)に溶解し、続いて水酸化カリウム溶液(16%w/v、21mL)を添加し、80℃で2時間撹拌した。その後、反応混合物を室温までゆっくりと冷却し、塩酸溶液によって添加してpH値を10~12に調整した。次いで、メタノールを濃縮することによって除去した。得られた溶液を酢酸エチルで洗浄した。残った水層に酸を加えてpH値を2~3に調整した後、酢酸エチル(131mL)で抽出した。抽出した有機層を水で洗浄した。トレプロスチニル溶液(酢酸エチル及び3%(v/v)水を含有する)を、真空下(約10Torr)、20℃でほとんどのトレプロスチニル結晶が析出するまで濃縮した。その後、得られた析出物結晶を濾過し、すすいだ後、高真空(約0.01Torr)下、20℃で2時間乾燥することにより、トレプロスチニル無水物のI型結晶4.79gを得た。XRPD、DSC、FTIRの結果は、
図7、
図8、
図9と同様である。
【0074】
実施例6 トレプロスチニル無水物のI型結晶の作製
2-(((1R,2R,3aS,9aS)-2-ヒドロキシ-1-((S)-3-ヒドロキシオクチル)-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[b]ナフタレン-6-イル)オキシ)アセトニトリル(340.0g、0.92モル)を2.75Lの2-プロパノールに溶解し、続いて水酸化カリウム溶液(16%w/v、1.35L)を添加し、80℃で2時間撹拌した。その後、反応混合物を室温までゆっくりと冷却し、塩酸溶液を添加してpH値を10~12に調整し、次いで、メタノールを濃縮によって除去した。得られた溶液を酢酸エチルで洗浄した。残存する水層に酸を加えて酸性化し、pH値を2~3に調整した後、酢酸エチル(8L)で抽出した。抽出した有機層を水で洗浄した。トレプロスチニル溶液(酢酸エチル及び4.2%(v/v)水を含有する)を、真空下(約20torr)、20℃でほとんどのトレプロスチニル結晶が析出するまで濃縮した。その後、得られた析出物結晶を濾過し、すすいだ後、高真空(約0.05Torr)下、20℃で18時間乾燥することにより、トレプロスチニル無水物のI型結晶(311.5g)を得た。新鮮な製品サンプル及び-20℃で1年及び2年保存したサンプルのDSC結果を
図11に示す。結晶の純度は、
図12に示すように、UPLCによって測定した。
図12に示すように、トレプロスチニル・エチルエステル(IT201e2)、トレプロスチニル二量体(IT201d1及びIT201d2)は検出不能であり、他の不純物は検出されない。トレプロスチニル無水物のI型結晶の純度は超高純度(100.00%)である。
【0075】
本明細書中に記載される特定の実施形態は、例示として示され、本発明を限定するものではないことが理解されるであろう。本発明の主な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施形態で使用することができる。当業者は、日常的な実験、本明細書中に記載される特定の手順に対する多数の相当を使用するだけで、認識したり確認したりすることができる。このような均等物は、本発明の範囲内であると考えられ、特許請求の範囲によってカバーされる。
【0076】
明細書において言及された全ての刊行物及び特許出願は、本発明が関係する当業者の技能レベルを示すものである。全ての刊行物及び特許出願は、各個々の刊行物又は特許出願が、参照により組み込まれることが具体的かつ個々に示されているのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】
「a」又は「an」という語は、特許請求の範囲及び/又は明細書において「含む」という用語と併せて使用される場合、「1つ」を意味することができるが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、及び「1つ以上」の意味とも一致する。特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、選択肢のみを参照するように明示的に示されているか、又は選択肢が相互に排他的である場合を除き、「及び/又は」を意味するために使用される。ただし、開示は、選択肢及び/又は「及び/又は」のみを参照する定義の裏付けとなる。本出願全体を通して、「約」という語は、値が装置の誤差に付随する変動を含むことを示すのに使用され、この方法は、研究対象間に存在する値又は変動を決定するのに採用される。
【0078】
本明細書及び特許請求の範囲で使用されるように、用語「含む」(「含む」及び「含む」などの任意の形を含む)、「有する」(「有する」及び「有する」などの任意の形を含む)、「含む」(「含む」及び「含む」などの任意の形を含む)又は「含む」(「含む」及び「含む」などの任意の形を含む)は、包含的又はオープンエンドであり、追加の、非記載の要素又は方法ステップを除外しない。
【0079】
本明細書に開示及び特許請求される化合物及び/又は方法の全ては、本開示に照らして過度の実験を行うことなく作製及び発明することができる。本発明の化合物及び方法を好ましい実施形態に関して説明したが、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される方法の組成物及び/又は方法ならびに工程又は工程の順序に変形を適用することができることは、当業者には明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような同様な置換及び修飾は、添付の請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲及び概念内にあるとみなされる。