(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】空調用放射パネル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F24F 5/00 20060101AFI20230227BHJP
F28F 3/12 20060101ALI20230227BHJP
F24D 3/16 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
F24F5/00 101B
F28F3/12 B
F24D3/16 G
F24D3/16 C
(21)【出願番号】P 2021172833
(22)【出願日】2021-10-22
(62)【分割の表示】P 2017100945の分割
【原出願日】2017-05-22
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】前羽 誠
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-267618(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0126707(US,A1)
【文献】国際公開第2008/133079(WO,A1)
【文献】特開2015-040663(JP,A)
【文献】特開2016-125655(JP,A)
【文献】米国特許第06910526(US,B1)
【文献】特開2011-148937(JP,A)
【文献】特開2009-061648(JP,A)
【文献】特開2010-110931(JP,A)
【文献】実開昭58-020856(JP,U)
【文献】特開2001-050553(JP,A)
【文献】特開2015-012158(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208006(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/00-13/32
F28F 3/12
F24D 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製基板の裏面に、空調用熱媒体が流れ
るパイプを
、当該パイプのホルダー部が形成された金属製のヒートシンクを介して配置して、前記パイプとヒートシンクとが接着剤によって接着されており、
前
記パイプと
ヒートシンクとのうち片方又は両方の部材の接着面を、ミクロンレベルの大きさの穴又は溝の群より成る凹所が開口した多孔面に形成し
て、前記接着剤を前記凹所に入り込ませている
構成であって、
前記凹所より成る多孔面に、樹脂プライマリー被膜又は金属被膜より成る接着補助被膜が形成されている、
空調用放射パネル。
【請求項2】
金属製基板の裏面に、空調用熱媒体が流れ
るパイプを、当該パイプのホルダー部が形成された金属製のヒートシンクを介して配置し
て、前記
パイプとヒートシンクとが接着剤によって接着されて
おり、
前記
パイプとヒートシンクと
のうち片方又は両方の部材の接着面を、ミクロンレベルの大きさの穴又は溝の群より成る凹所が開口した多孔面に形成し
て、前記接着剤を前記凹所に入り込ませている
構成であって、
前記凹所の群の大部分は、穴径又は溝幅は0.5~20μmの範囲に納まって、深さは0.5~10μmの範囲に納まっている、
空調用放射パネル。
【請求項3】
金属製基板の裏面に、空調用熱媒体が流れるパイプを、当該パイプのホルダー部が形成された金属製のヒートシンクを介して配置して、前記パイプとヒートシンクとが接着剤によって接着されており、
前記パイプとヒートシンクとのうち片方又は両方の部材の接着面を、ミクロンレベルの大きさの穴又は溝の群より成る凹所が開口した多孔面に形成して、前記接着剤を前記凹所に入り込ませている構成であって、
前記接着剤に、金属フィラー又は金属粉を混入している、
空調用放射パネル。
【請求項4】
金属製基板の裏面に、空調用熱媒体が流れる金属製のパイプを、当該パイプのホルダー部が形成された金属製のヒートシンクを介して配置して、前記パイプとヒートシンクとが接着剤によって接着されており、前記パイプとヒートシンクとの接着面のうちいずれか一方又は両方の接着面を、ミクロンレベルの大きさの穴又は溝の群より成る凹所が開口した多孔面に形成して、前記接着剤を前記凹所に入り込ませている、という構成の空調パネルの製造方法であって、
外面全体が平滑なヒートシンク及びパイプを用意する工程と、
前記ヒートシンク又はパイプ若しくは両方の少なくとも接着面を、アルカリ溶液を使用したエッチングによって前記凹所の群が開口した多孔面に形成する工程と、
前記ヒートシンク又はパイプの接着面のうち一方の接着面に接着剤を塗布する工程と、
前記パイプとヒートシンクとを重ね合わせることにより、接着剤を前記凹所に入り込ませて前記パイプをヒートシンクに接着する工程と、
前記ヒートシンクを前記基板に取り付ける工程と、
を備えており、
前記パイプをヒートシンクに接着する工程は、前記ヒートシンクを基板に取り付ける工程の後又は前に行われる、
空調用放射パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、空調用放射パネルとその製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱媒体として水のような液体(流体)を使用して、液体で冷却又は加温された放射パネルによって冷房や暖房を行う放射空調設備(放射空調システム)があり、この放射空調設備は、騒音がなくて快適性に優れる等の利点があって広く普及しつつある。この放射空調設備で使用する放射パネルは、一般に、基板(放射プレート)の裏面にパイプを取付けた構造になっており、パイプを流れる熱媒体(一般には水)と基板との間で熱交換している。
【0003】
基板は一般にアルミ製であり、単純な平板の態様や、多数の小穴が空いたパンチングメタルの態様(例えば特許文献1)、或いは、下面に多数のリブを備えた構造(例えば特許文献2)などがある。基板の裏面(上面)が平坦である場合は、パイプを抱持するホルダー部を有するヒートシンクが基板の裏面に固定されていることが多く、このヒートシンクにより、パイプの取付けを可能にすると共に熱交換効率の向上を図っている。基板を押し出し加工によって断面凹凸形状に形成している場合は、パイプを抱持するホルダー部を基板に一体に形成することも行われている。
【0004】
基板及びヒートシンクのホルダー部は、パイプの略下半部がきっちり嵌まるようになっており、ホルダー部にパイプを強制嵌合させることも行われている。他方、ヒートシンクは、接着剤によって基板に接着したり、両面粘着テープによって基板に接着したりしている。いずれにしても、ホルダー部とパイプとの間に隙間が生じたり、基板とヒートシンクとの間に隙間が生じたりすると、伝熱性が低下して空調効率が低下するおそれがある。ヒートシンクを使用せずにパイプを基板にダイレクトに接着した場合は、特に、隙間による伝熱性低下の問題が顕著に現れる。
【0005】
他方、特許文献3には、パイプと基板とを熱伝導率が高い接着剤で接着することが記載されており、この特許文献3を特許文献1,2に利用して、パイプとホルダー部との相互間、或いは、ヒートシンクと基板との相互間を接着剤でしっかりと接着すると、熱交換のロスを抑制して空調効率を向上できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】意匠登録第1505946号公報
【文献】意匠登録第1496807号公報
【文献】特開2002-174434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、基板は金属板製であって反りが発生することがあるため、単に接着剤で接着しただけでは、部分的に密着せずに隙間が発生したり、経時的に接着剤が剥離して隙間が発生したりするおそれがある。この点については、接着剤の量を増やして接着力を高めたらよいと考えられるが、接着層の厚さが厚くなると伝熱性が低下して、空調効率が悪化してしまう。従って、接着剤で接着する場合、接着層の厚さはできるだけ薄くすべきである。
【0008】
本願発明はこのような現状を改善すべく成されたものであり、剥離防止に必要な接着力は確保しつつ、できるだけ簡易に伝熱性能を向上しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は様々な構成を備えており、これを各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は空調用放射パネルに係るもので、この発明の空調用放射パネルは、
「金属製基板の裏面に、空調用熱媒体が流れるパイプを、当該パイプのホルダー部が形成された金属製のヒートシンクを介して配置して、前記パイプとヒートシンクとが接着剤によって接着されており、
前記パイプとヒートシンクとのうち片方又は両方の部材の接着面を、ミクロンレベルの大きさの穴又は溝の群より成る凹所が開口した多孔面に形成して、前記接着剤を前記凹所に入り込ませている」
という基本構成において、
「前記凹所より成る多孔面に、樹脂プライマリー被膜又は金属被膜より成る接着補助被膜が形成されている」
という特徴を備えている。
【0010】
請求項2の発明も空調用放射パネルに係るもので、請求項1と同じ基本構成において、
「前記凹所の群の大部分は、穴径又は溝幅は0.5~20μmの範囲に納まって、深さは0.5~10μmの範囲に納まっている」
という特徴を備えている。
【0011】
請求項3の発明も空調用放射パネルに係るもので、請求項1と同じ基本構成において、
「前記接着剤に、金属フィラー又は金属粉を混入している」
という特徴を備えている。
【0012】
本願発明において、凹所の大きさに関するミクロンレベルとは、ミクロン単位で普通に表現できる大きさということである。
【0013】
本願発明では、凹所の内面にナノレベルの微細な補助凹所を形成することが可能である。具体的には、例えば特許5094839号公報に記載されているように、10~100ナノ程度の微細な補助凹所を形成して、その表面に厚さ2nm以上の酸化被膜を形成することが可能である。或いは、特開平5-70741号公報に記載されているように、10~200Åの硬化被膜で覆われたミクロンレベルの凹所を形成して、そのアンカー効果を利用して接着剤の接着力を高める構成でよい。なお、アルカリ溶液を使用して多孔面より成る酸化被膜を形成することは、特開昭61-279531号公報にも開示されている。
【0014】
本願発明の空調用放射パネルは機械要素ではなく、外力(荷重・負荷)が掛かることは基本的にはないので、特許5094839号が求めている程の接着強度は必ずしも要しない。従って、補助凹所は必ずしも要しないが(勿論、補助凹所を形成するのは好ましい)、接着力向上と防錆の点からは、多孔面に酸化被膜や樹脂のプライマリー被膜を形成しているのが好ましい。
【0015】
接着剤はエポキシ系が好適であり、特に、上記特許5094839号や特開2011-148937号公報に開示されているタイプは好適である。特開平5-70741号公報で熱硬化性のものを使用し、特開2011-148937号公報では低粘度の溶剤型を使用しているが、本願発明はいずれも使用可能である。もとより、これら公報に記載されているもの以外の接着剤も使用できる。
【0016】
【0017】
請求項4の発明は、
「金属製基板の裏面に、空調用熱媒体が流れる金属製のパイプを、当該パイプのホルダー部が形成された金属製のヒートシンクを介して配置して、前記パイプとヒートシンクとが接着剤によって接着されており、前記パイプとヒートシンクとの接着面のうちいずれか一方又は両方の接着面を、ミクロンレベルの大きさの穴又は溝の群より成る凹所が開口した多孔面に形成して、前記接着剤を前記凹所に入り込ませている」、いう構成の空調パネルの製造方法に係るもので、
「外面全体が平滑なヒートシンク及びパイプを用意する工程と、
前記ヒートシンク又はパイプ若しくは両方の少なくとも接着面を、アルカリ溶液を使用したエッチングによって前記凹所の群が開口した多孔面に形成する工程と、
前記ヒートシンク又はパイプの接着面のうち一方の接着面に接着剤を塗布する工程と、
前記パイプとヒートシンクとを重ね合わせることにより、接着剤を前記凹所に入り込ませて前記パイプをヒートシンクに接着する工程と、
前記ヒートシンクを前記基板に取り付ける工程と、
を備えており、
前記パイプをヒートシンクに接着する工程は、前記ヒートシンクを基板に取り付ける工程の後又は前に行われる」
という特徴を備えている。
【0018】
請求項4の製法において、凹所の群より成る多孔面は、部材同士が重なる接着面のみに形成してもよいし、ヒートシンクの表面全体などに形成してもよい。なお、アルカリ溶液としては、例えばカセイソーダを使用できる。
【0019】
ヒートシンクの表面を多孔面に形成すると、ヒートシンクの表面積が大きくなるため放射性が高くなるが、パイプを配置している裏面からの放熱性は抑制するのが好ましい。従って、ヒートシンクは、接着面のみを多孔面に形成したり、裏面のうち接着面を除いた部分に塗装を施すなど対処することは、空調効率の向上にとって有益である。
【発明の効果】
【0020】
本願各発明は、接着剤が凹所に入り込むことによるアンカー効果により、パイプとヒートシンクとを強固に接着できる。このため、部材同士の間の接着剤層の厚さをできるだけ薄くしても、部材の反り等によっては剥離しない高い接着強度を確保できる。その結果、部材間で隙間を無くしつつ、部材間での高い断熱性能を確保して、空調効率を向上させることができる。
【0021】
空調用放射パネルにおいては、基板は伝熱性や強度、耐火性等の点から一般に金属製が使用されている一方、パイプは、耐蝕性を確保するために、全体を樹脂製としたり外面に樹脂層を形成したりすることも行われているが、樹脂と金属とは接着性が悪いため、少なくとも外面が樹脂から成っている場合、金属製の基板にパイプを強固に接着することは難しかった。特に、基板がパンチングメタルであると、接着面積が少なくなるため、必要な接着力を確保することは難しかった。
【0022】
これに対して本願各発明のようにヒートシンクを使用すると、ヒートシンクにホルダー部を形成してパイプを強制嵌合等することにより、樹脂製又は樹脂被覆のパイプを問題なく使用できる。従って、本願各発明では、ヒートシンクとパイプとの間の高い伝熱性を確保しつつ、パイプを耐蝕性に優れた構造として耐久性・信頼性を向上できる。
【0023】
更に、請求項1のように接着補助被膜を形成すると、接着力を一層向上できるため、剥離防止機能を更に向上させて、隙間の発生をより的確に防止できる(特に、凹所にナノレベルの補助凹所の群を形成しつつ酸化被膜や樹脂プライマリー被膜を形成すると、非常に高い接着力を確保できるため、空調効率の向上に一層貢献できる。)。
【0024】
請求項3の構成では、金属フィラー又は金属粉により、伝熱性を更に向上できる。
【0025】
金属板に凹所の群を形成する技術としては、サンドブラストのような機械的方法もあるが、これは、形成できる凹所の大きさに限度があり、例えば数μmの凹所は形成し難い。この点、請求項4のようにアルカリ溶液を使用して凹所を形成すると、数μmの大きさの凹所を均一に形成できると共に、補助凹所も容易に形成できるため、多孔面の形成を確実化できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態を適用した建物の室内の斜視図である。
【
図2】ヒートシンク付き放射パネルに適用した第1実施形態を示す図で、(A)は概略部分正面図、(B)は(A)のB-B視断面図、(C)は変形例の模式的な部分正面図、(D)は接着工程の途中を示す断面図である。
【
図3】
(A)(B)はヒートシンク付き放射パネルに係る
第2,3実施形態を示す
部分正断面図、(C)~(F)は第1~4参考例の部分正断面図である。
【
図5】
第5参考例を示す図で、(A)は放射パネルの平面図、(B)は(A)のB-B視図である。
【
図7】(A)は
図6の分拡大図、(B)は(A)のB-B視断面図、(C)は(B)と同じ箇所の別例図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1).第1実施形態の全体構成
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態は、天井用の放射パネル1に適用しており、室の天井部は、縦横に整列して配置された多数枚の放射パネル1を備えている。
【0028】
放射パネル1は平面視(底面視)で長方形になっており、隣り合った放射パネル1の長手側縁は隙間なく重なっており、隣り合った放射パネル1の短手側縁の間には空間が空いていて、空間は目地材(Tバー)2で塞がれている(目地材2に放射パネル1の端が載っている。)。本実施形態では、方向に関しては、便宜的に、放射パネル1の長手方向を前後方向、幅方向を左右方向としている。
【0029】
図2に示すように、放射パネル1は、基板3とその裏面(上面)に重なったヒートシンク4と、ヒートシンク4に抱持されたパイプ5とを有している。基板3は、アルミの平板であり、圧延品又は押し出し成形品を使用できる。パイプ5もアルミ等の金属製であり、内面と外面とには、耐蝕性を高めるため、ポリエチレン等よりなる樹脂内層5a及び樹脂外層5bを設けている。パイプ5は平面視でジグザグ状に折り曲げられており、直線部がヒートシンク4に重なっている。
【0030】
図2(D)に示すように、パイプ5の内面は樹脂内層5aで被覆され、パイプ5の外層は樹脂外層5bで被覆されている。従って、パイプ5は全体として三層になっており、内外とも耐蝕性に優れた構造になっている。内外の層5a,5bは、例えばポリエチレンで形成されている。なお、ヒートシンク4にパイプ5を抱持させる場合は、アルミ等の金属製の管が樹脂内層5aおよび樹脂外層5bで被覆されている管だけでなく、さまざまな素材で構成されている管、例えば、内面のみ樹脂で被覆されている金属管、外面のみ樹脂で被覆されている金属管、内外とも樹脂層が存在しない単なる金属管、または単なる樹脂管を、パイプ5として使用することも可能である。
【0031】
ヒートシンク4は、パイプ5が嵌合するホルダー部6と、これに一体に繋がった平坦な左右のフランジとを有している。本実施形態のホルダー部6は、開口縁の間隔がパイプ5の外径よりも少し窄まっている。従って、パイプ5は、ホルダー部6に弾性変形を利用した強制嵌合によって取付けられる。
【0032】
図2(B)に模式的に示すように、基板3とヒートシンク4とは、エポキシ系の接着剤7で接着(接合)されている。接着剤7の厚さ(ヒートシンク4と基板3との間の層の厚さ
)には特に制限はないが、数μm~数十μmでよいと言える(なお、部材の寸法誤差や塗布厚さのバラツキ等により、場所によって厚さが相違することは有り得る。)。そして、基板3の裏面とヒートシンク4の下面とは、多数の微細な凹所(穴)8が形成された多孔面になっており、ヒートシンク4と基板3との間に接着剤7が入り込んでいる。このように、接着剤7が凹所8に入り込んでいることによるアンカー効果により、ヒートシンク4と基板3とは強固に接着されている。
【0033】
そして、接着が強固であることにより、接着剤7の厚さを極力小さくできるため、伝熱性能にも優れている。また、ホルダー部6を有するヒートシンク4を使用することにより、パイプ5は、外面または内面の少なくともいずれかが樹脂で被覆されている金属管、または樹脂管も使用できるため、高い耐蝕性と高い伝熱性能との両方を達成できる。
【0034】
凹所8の内径は、接着剤7が入り込み得る大きさで、あまり大きくないのが好ましい。具体的には、0.5~10μmが好適であり、特に、1~5μm程度が好適と解される。図示の態様では、ヒートシンク4には下面のみに凹所8の群を形成しているが、外面の全体に形成することも可能である。また、基板3とヒートシンク4との関係では、ヒートシンク4に形成せずに、基板3のみに形成することも可能であるし、逆に、ヒートシンク4のみに形成することも可能である。凹所8を基板3のみに形成する場合、表裏(上下)両面に形成してもよいし、裏面(上面)のみに形成してもよい。また、凹所8をいずれの部材に形成するにしても、相手材との接着面のみに形成してもよいし、全体的に形成してもよいのであり、加工性等を考慮して選択したらよい。
【0035】
多孔面を構成する凹所8の群は、互いに独立しかつ均等に形成されているのが好ましいが、凹所8が溝の状態で複雑に交差している態様も有り得る。図では、凹所8の深さを内径よりもやや大きく描いているが、内径(溝幅)と深さとが同じ程度であったり、逆に、内径(溝幅)が深さより大きかったりしてもよい。各凹所8は、大きさがまちまちであってもよい。
【0036】
パイプ5はヒートシンク4のホルダー部6に強制嵌合されているので、取付け強度の点では、パイプ5とヒートシンク4とを接着する必要性は低いが、隙間を埋めて伝熱性を高めるために、図示は省略しているが、基板3とヒートシンク4との関係と同様の手段により、パイプ5とヒートシンク4とを接着している。この場合、接着剤に金属フィラーや金属粉を大量に混入しておくと、伝熱性を高めるのに好適である(この場合は、接着剤は、主として充填剤として使用されることになる。)。
【0037】
ヒートシンク4の表面全体に凹所8の群を形成した場合、ホルダー部6の内面に凹所8の群が形成されるため、パイプ5とヒートシンク4との間に接着剤7を介在させておくことは、空気層を無くして伝熱性を確保する上で好適であると言える。特に、微細な(例えば粒径が1μm以下)金属粉等を接着剤7に大量に混入させておくと、パイプ5とヒートシンク4とが金属層を介して接合した状態になるため、伝熱性の向上にとって相当に有益であると言える
【0038】
なお、ヒートシンク4と基板3との接着に使用する接着剤7はエポキシ系を使用しているが、ヒートシンク4とパイプ5との間も、同様の接着剤7で接着できる。或いは、ヒートシンク4とパイプ5とを接着するにおいて、樹脂外層5bがポリエチレンであるときや、パイプ5の全体がポリエチレンであるときは、オレフィン系の接着剤を使用してもよい。但し、実施形態のようにパイプ5をホルダー部6に強制嵌合している場合は、既述のとおり接着力は基本的に必要ないので、接着力よりも伝熱性が大きいものを選ぶのが好ましいと言える。パイプ5が金属製で外面が樹脂層で被覆されていない場合は、上記のとおり、ヒートシンク4と基板3との接着に使用するものと同じ接着剤7を使用したらよい。
【0039】
図2(C)に示すように、凹所8が形成されている基板3やヒートシンク4の多孔面に、凹所8の内面まで被覆する接着面補助被膜9を形成すると、接着力を更にアップできる。接着面補助被膜9としては、樹脂プライマリー被膜や、母材の酸化被膜とすることができる。酸化被膜は、基板3又はヒートシンク4と一体化しているため、接着力を向上させる点で特に優れているといえる。
【0040】
この場合、特許第5094039号に開示されているように、凹所8の内面(接着面の全体)に、穴径が10~数百nmの補助凹所(図示せず)を形成して、全体に薄い酸化被膜を形成すると、極めて高い接着力を確保できる。従って、本願発明に適用することは好ましいといえる。更に述べると、特許第5094039号には、おおよそ、材料の酸洗い、水洗、カセイソーダ等アルカリ溶液を使用した微細エッチング、水和ヒドラジンやアンモニア等を使用した超微細エッチング、水洗、乾燥といった工程でアルミ材料の表面を粗面加工することが開示されているが、本実施形態の基板3やヒートシンク4も、このような方法で多孔面を形成できる。
【0041】
他方、既述のとおり、特開昭61-279531号公報や特開平5-70741号公報には、粗面構造の酸化被膜を形成することが開示されているが、本実施形態の基板3やヒートシンク4は、この方法を採用して凹所8の群を形成することも可能である。この場合は、凹所8に樹脂プライマー被膜を形成しておくのが好ましい。
【0042】
図2(D)に示すように、パイプ5の取り付け工程では、接着剤7を基板3の所定位置に塗布してから、ヒートシンク4を重ねて両者を挟圧することにより、接着剤7を凹所8に進入させる。基板3にヒートシンク4を取り付ける前に予めヒートシンク4にパイプ5を取付けておいて、パイプ5とヒートシンク4と基板3との三者を強く挟圧してもよいし、先にヒートシンク4を基板3に取り付けておいてから、ヒートシンク4にパイプ5を取り付けてもよい。なお、
図2(D) でパイプ5とホルダー部6との間に隙間を空けているが、実際には、両者は隙間なく密着する(従って、パイプ5は実際の大きさよりも少し小径に描いている。)。
【0043】
(2).第2
,3実施形態
、第1~4参考例
図3(A)に示す第2実施形態では、ヒートシンク4を備えた方式において、基板3として、多数の小穴10が空いたパンチングメタルを使用している。この実施形態では、接着剤7が小穴10から垂れ落ちることを防止するため、接着剤7をヒートシンク4の下面に塗布してから、これを基板3に重ねて接着する
のが好ましいといえる。パイプ5は、第1実施形態と同様に、アルミ等の金属製の管が樹脂内層および樹脂外層で被覆されている管だけでなく、内面のみ樹脂で被覆されている金属管、外面のみ樹脂で被覆されている金属管、内外とも樹脂層が存在しない単なる金属管、または単なる樹脂管も使用することができる。
パイプ5とヒートシンク4との接着構造は省略している。
【0044】
図3(B)に示す第3実施形態では、ヒートシンク4を備えた方式において、基板3の下面に、その長手方向に沿って延びる多数のリブ11が形成されている。接着構造は第1実施形態と同様である。基板3の上面には、ヒートシンク4を左右ずれ不能に保持する一対の位置決めリブ11aを設けている。なお、図において断面表示は省略している。パイプ5は、第1実施形態と同様に、アルミ等の金属製の管が樹脂内層および樹脂外層で被覆されている管だけでなく、内面のみ樹脂で被覆されている金属管、外面のみ樹脂で被覆されている金属管、内外とも樹脂層が存在しない単なる金属管、または単なる樹脂管も使用することができる。
【0045】
図3(C)~(F)に
示すのは参考例であり、これらの参考例では、基板3にヒートシンクを設けずに、アルミ等の金属製のパイプ5を基板3に直付けしている。このうち(C)に示す
第1参考例では、円形のパイプ5を単純な平板の基板3に接着剤7で接着しており、
図3(D)に示す
第2参考例では、パンチングメタル方式の基板3に円形のパイプ5を接着している。点線で示すように、パイプ5の外面にも凹所の群を形成しており、凹所の群からなる多孔面を点線で表示して符号12を付している。
【0046】
基板3としてパンチングメタルを採用すると、基板3とパイプ5との接触面積が小さくなるため、単なる接着のみでは剥離が生じてパイプ5を基板3に強固に取り付けることが困難な場合があるが、本参考例では、接着面積が少なくても高い接着力を確保できるため、パンチングメタル製の基板3であっても、ヒートシンク4を使用することなくパイプ5を直接に取り付けることが容易になる。特に、補助凹所や補助接着被膜を形成すると、直付け方式でも安定した状態に取付けできるといえる。
【0047】
図3(E)に示す
第3参考例では、パイプ5は断面小判形に形成されて、(F)に示す
第4参考例ではパイプ5は断面カマボコ形に形成されており、下部の平坦な面が基板3に接着剤7で接着されている。これらにおいても、基板3としてパンチングメタルを使用できることはいうまでもない。
【0048】
(3).第
4~6実施形態
図4では、基板3のうちヒートシンク
4が接着されていない部分(すなわち接着面でない露出面)の処理に関する実施形態を示している。つまり、基板3は、表面(下面)が室内に対する放射面になっているため、表面はできるだけ放熱性・吸熱性に優れたものとする必要があり、他方、裏面はできるだけ放熱性・吸熱性を抑制するのが好ましいが、凹所8の群を形成すると、表面積が増大するため断熱性は高くなるので、凹所8を有効利用して空調性能を向上させんとしている。
【0049】
図4のうち(A)では、基板3の表面(下面)の全体に薄い表面塗装14を形成し、裏面(上面)の露出面は厚い裏面塗装15を施している。基板3の放射面には一般に薄い塗装を施しており、このような薄い塗装を施すことによって放射性能が高くなることが知られている。
【0050】
従って、表面塗装14は従来の構造を踏襲したものであるが、(A)の第4実施形態では、表面塗装14の塗料が各凹所8に入り込んでいて、表面塗装14の下面は全体としてフラットになっている。従って、凹所8を形成したことによる凹凸は、表面塗装14の下面には現れていない。凹所8の箇所で表面塗装14は厚くなっているが、凹所8の深さが数μmである場合は、表面塗装14が部分的に厚くなっていても、放射特性には影響しない。そして、基板3の表面の放射性能は、表面塗装14の表面積でなく基板3自体の表面積に比例しているといえるが、基板3の下面は多孔面になっていて表面積が非常に大きくなっているため、空調性能を向上できるといえる。
【0051】
塗料は伝熱性が悪い樹脂成分で構成されているため、塗装の厚さがある程度以上に厚くなると、放熱性・吸熱性は悪化する。そこで、裏面塗装15は、例えば20μm以上というように、伝熱性が著しく低下する厚さに設定している。これにより、基板3の裏側から天井裏空間に逃げる熱量を抑制して、空調効率を向上できるといえる。裏面塗装15の塗料も凹所8に入り込んでいるが、粘度が高い塗料を使用して、凹所8の箇所が空洞になるように設定することも可能である(この場合は、空気の断熱作用によって伝熱性能は一層低下する。)。
【0052】
(B)に示す第5実施形態では、表面塗装14は凹所8に倣って塗工されている。従って、表面塗装14は、微細な凹みが無数に形成された梨地状態になっており、艶消しのような効果を発揮すると推測される。また、多孔面によって表面積は大きくなっているため、放熱性・吸熱性も向上できる。凹所8の内径が例えば10μm程度と大きい場合は、この(B)のような態様が好ましいといえる。
【0053】
基板3の裏面には、フィルム16を接着している。従って、凹所8の群が空気層になっていて高い断熱作用を発揮する。その結果、基板3と天井裏空間との間の熱交換が著しく抑制されて、空調効率を大きく向上できると期待される。(A)の構造と(B)の構造とを組み合わせることも可能である。
【0054】
(A)と(B)の第4,5実施形態では、基板3の全体に凹所8を形成していたが、(C)~(E)に示す第6実施形態では、基板3とヒートシンク4との関係に関し、基板3の裏面では、ヒートシンク4との接着面を除いた箇所のみに凹所8からなる多孔面12を形成している。その手順としては、裏面のうち接着面を除いた箇所に、予め裏面塗装15を施しておくことにより、例えば基板3の全体をアルカリ液に浸漬しても非接着面に凹所8が形成されないようにしている。すなわち、非接着面を裏面塗装15でマスキングした状態で、凹所8の形成のためのエッチングを行っている。
【0055】
エッチングに先立って、基板3の表面に表面塗装14を施しておいてもよいが、既述のとおり、表面の凹所8は放射特性の向上に対してプラス要因であるので、表面塗装14はエッチングの後に施すのが好ましいといえる。光の反射などの点から表面に凹所8を形成することが好ましくない場合は、先に表面塗装14を施してマスキングしてからエッチングしてもよいし、ゴム板のようなものでカバーした状態でエッチングすることにより、エッチングが表面に及ばないようにしてもよい。
【0056】
(4)
.第5参考例
図5~7では、基板3にパイプ5を直付けした
第5参考例を示している。この
参考例では、放射パネル1は、前後方向に並列配置された6枚の基板3と、その上面に装着されたパイプ5とを中核部材としている。基板3は左右長手の細長い形態であり、放射パネル1としてユニット化されても、全体として左右長手の長方形に形成されている。各基板3には、半円状の下向き突条17が左右に並んで3列形成されている。従って、各基板3の下面が側面視で凹凸形状になっていると共に、放射パネル1としても側面視で凹凸形状になっている。
【0057】
図6のとおり、各基板3において、前後の長手側縁のうち一方の長手側縁は段上がり部3aになって、他方の長手側縁側縁は段落ち部3bになっており、前後に隣り合った段上がり部3aと段落ち部3bとを重ね合わせることにより、放射パネル1は全体として1枚板のような外観を呈している。
【0058】
他方、パイプ5は平面視でジグザグに曲げられており、パイプ5の直線部が、各基板3の中央部に位置した下向き突条17に嵌まっている。下向き突条17は、パイプ5の外径よりも少し小さい寸法の深さになっている。
【0059】
パイプ5には、前後長手の押さえフレーム18が上から重なっている。押さえフレーム18は下向きに開口したコ字形の形態であり、その前後側板に切り開き係合溝19を飛び飛びで複数形成している一方、基板3の前後長手側縁には、切り開き係合溝19に嵌合する係合リブ20を一体に形成しており、係合リブ20の先端縁に形成した爪を切り開き係合溝19の段部に係合させることにより、押さえフレーム18によってパイプ5を基板3に押さえ保持すると共に、6枚の基板3を1枚板状に連結している。
【0060】
そして、
図6に示すように、天井スラブ(図示せず)から直接に又は中間部材を介して垂下した吊りボルト21により、押さえフレーム9が吊支されている。吊りボルト21にはナット22が螺合している。
【0061】
基板3は、アルミを材料にした押し出し加工品を採用している。なお、放射パネル1を1枚の基板3で構成することも可能であるし、複数枚の基板3で構成する場合、その枚数は任意に設定できる。パイプ5も同様である。
【0062】
図7(A)に示すように、基板3の裏面全体が多孔面12になっている(表面も多孔面に形成するのが好ましい。)。この
参考例では、パイプ5が接着剤7によって下向き突条17に接着されている。パイプ5はアルミ管のような金属製であり、内面は樹脂内層5aで被覆されて、外面は金属面を露出させている。パイプ5の外面は、アルマイト処理などで多孔質の酸化被膜を形成するのが好ましい。防蝕処理すること
も好適である。
【0063】
この場合、
図7(B)では、パイプ5と下向き突条17との間に接着剤7の層が形成されている状態を示しており、
図7(C)では、接着剤7は凹所8にだけ充填された形態になっており、凹所8を除いた箇所では、パイプ5と下向き突条17とが密着している。接着剤7の塗布量や押さえ力を調整することにより、このような接着態様も採用可能である。また、接着剤7の塗布量のバラツキや基板3の反り等により、(B)の状態になったり(C)の状態になったりすることがあると推測される。
【0064】
本
参考例の基板3は押し出し加工品であるので、
図7(A)に一点鎖線で示すように、パイプ5を強制嵌合によって離脱不能に保持するホルダー部6を形成することが可能である。このように、ホルダー部6を形成しつつ、パイプ5と基板3とを接着することも可能である。
【0065】
他方、基板3として板金加工品を採用すると、ホルダー部6は形成できないため、接着剤7による接着が必要になるが、基板3とパイプ5とが多孔面12を利用して強固に接着されるため、有益である。従って、基板3が板金製品である場合、下向き突条17を形成することにより、ヒートシンクを設けることなく、基板3とパイプ5との間の伝熱性能を向上できるため、本参考例は特に有益であるといえる。
【0066】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、基板は上向きに開口したトレー状に形成することもできる。また、基板を焼結金属製として、全体に連続した隙間が存在する構成とすることも可能である。この場合は、凹所の加工工程が不要になる利点がある。放射パネルは必ずしも天井用である必要はなく、壁用として構成することも可能である。
【0067】
接着剤は、必ずしも接着工程で塗布する必要はないのであり、先に接着剤を所定箇所に塗布しておいて固まらせておいてから、接着工程で加熱して溶融させるといったことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明は、実際に空調用放射パネルに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 放射パネル
3 基板
4 ヒートシンク
5 パイプ
5a,5b 樹脂層
6 ホルダー部
7 接着剤
8 多孔面を形成する凹所(穴)
9 接着面補助被膜
10 パンチングメタルを構成する小穴
12 多孔面