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▶ 早川 義行の特許一覧

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  • 特許-コンクリート構造体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】コンクリート構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04D 1/16 20060101AFI20230227BHJP
   E04D 1/04 20060101ALI20230227BHJP
   E04B 1/66 20060101ALI20230227BHJP
   E04B 1/16 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
E04D1/16 A
E04D1/04 B
E04B1/66 A
E04B1/16 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022017072
(22)【出願日】2022-02-07
【審査請求日】2022-03-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594088444
【氏名又は名称】早川 義行
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 義行
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163654(JP,A)
【文献】特開平08-074360(JP,A)
【文献】特開2009-068313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/16
E04D 1/04
E04B 1/66
E04B 1/16
E04B 2/86
E04G 11/00
E04G 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体における屋上スラブの形状を規定するとともに防水層を含む枠部を形成する工程と、
前記枠部の内部にコンクリート材料を供給した後、前記コンクリート材料を固化させて前記屋上スラブを形成する工程とを備え、
前記枠部を形成する工程では、前記枠部において前記屋上スラブの底面を規定する領域に、樹脂を含む前記防水層が配置されており、
前記枠部を形成する工程は、前記枠部において前記屋上スラブの底面を規定する領域に、前記樹脂を含む複数のパネル部材を並べて配置するとともに、前記複数のパネル部材の接続部を、防水性を有するテープ状部材によって覆うように固定する工程を含み、
前記パネル部材と前記テープ状部材とが前記防水層を構成し、
前記屋上スラブを形成する工程では、前記コンクリート材料と前記防水層とが接触した状態で前記コンクリート材料が固化することで、前記屋上スラブの前記底面に前記防水層が固定され
前記屋上スラブの表面上には表面防水層が形成されず、前記表面が露出した状態で使用される、コンクリート構造体の製造方法。
【請求項2】
前記防水層の厚さ25mm当たりの透湿係数は40ng/(m・s・Pa)以下である、請求項1に記載のコンクリート構造体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂は発泡ポリスチレンである、請求項1または請求項2に記載のコンクリート構造体の製造方法。
【請求項4】
前記屋上スラブを形成する工程では、形成された前記屋上スラブの厚さが130mm以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコンクリート構造体の製造方法。
【請求項5】
底面を有する屋上スラブと、
前記底面に密着するように前記屋上スラブと一体化した、樹脂を含む防水層とを備え、
前記防水層の厚さ25mm当たりの透湿係数は40ng/(m・s・Pa)以下であり、
前記防水層は、前記樹脂を含み並べて配置された複数のパネル部材と、前記複数のパネル部材の接続部を覆うように固定する、防水性を有するテープ状部材とを含み、
前記屋上スラブの表面上には表面防水層が形成されず、前記表面が露出した状態で使用される、コンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造体の一例であるコンクリート建築物において、屋上に防水構造を形成する方法が知られている。たとえば、特開2015-816号公報には、建築物の屋上に下地調整材と防水シートとを含む防水構造体を施工する方法が開示されている。特開2015-816号公報では、建築物の屋上に下地調整材を施工した後、当該下地調整材の上面に防水シートを施工する防水構造体の施工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の建築物における屋上の防水構造は、上記のように施工面である屋上の表面に防水構造体を形成しているため、防水構造体が日光および風雨に晒されることで防水構造体の性能が経年劣化する。このため、定期的に防水構造体を補修・更新する必要があった。また、当該防水構造体の施工コストは相対的に高く、コンクリート構造体の製造・維持コストを増大させる要因となっていた。
【0005】
本開示は、上記の課題を鑑みて成されたものである。本開示の目的は、製造・維持コストを低減することが可能な、屋上が防水されたコンクリート構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従ったコンクリート構造体の製造方法は、コンクリート構造体における屋上スラブの形状を規定するとともに防水層を含む枠部を形成する工程と、枠部の内部にコンクリート材料を供給した後、コンクリート材料を固化させて屋上スラブを形成する工程とを備える。枠部を形成する工程では、枠部において屋上スラブの底面を規定する領域に、樹脂を含む防水層が配置されている。屋上スラブを形成する工程では、コンクリート材料と防水層とが接触した状態でコンクリート材料が固化することで、屋上スラブの底面に防水層が固定される。
【0007】
本開示に従ったコンクリート構造体は、底面を有する屋上スラブと、防水層とを備える。防水層は、底面に密着するように屋上スラブと一体化している。防水層は樹脂を含む。防水層の厚さ25mm当たりの透湿係数は40ng/(m・s・Pa)以下である。
【発明の効果】
【0008】
上記によれば、製造・維持コストを低減することが可能な、屋上が防水されたコンクリート構造体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係るコンクリート構造体の模式図である。
図2図1に示されたコンクリート構造体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3】コンクリート構造体の製造方法を説明するための模式図である。
図4】コンクリート構造体の製造方法を説明するための模式図である。
図5】コンクリート構造体の作用を説明するための模式図である。
図6】コンクリート構造体の作用を説明するための模式図である。
図7】コンクリート構造体の作用を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態について、図に基づいて説明する。なお、同一の構成には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0011】
<コンクリート構造体の構成>
図1は、本実施の形態に係るコンクリート構造体10の模式図である。図1に示されるように、コンクリート構造体10は、たとえばコンクリート製の建築物であって、屋上スラブ1と側壁3と防水層2と内壁部材4とを主に備える。側壁3は、地面などの地盤面(図示せず)の上に複数設けられる。当該側壁3の上部を繋ぐように屋上スラブ1が設けられている。屋上スラブ1は、当該建築物の屋上部分を構成する部材である。側壁3は地盤面にほぼ垂直な方向に延びている。屋上スラブ1は地盤面にほぼ平行に、すなわちほぼ水平方向に延びるように形成されている。なお、屋上スラブ1は水平方向に対して傾斜していてもよい。屋上スラブ1の厚さTはたとえば130mm以上であり、好ましくは200mm以上である。屋上スラブ1の表面上には、従来のような防水層は形成されていない。屋上スラブ1の表面は露出した状態となっている。
【0012】
屋上スラブ1の底面に密着するように防水層2が配置されている。防水層2は屋上スラブ1と一体化している。防水層2は樹脂を含む。防水層2の厚さ25mm当たりの透湿係数は40ng/(m・s・Pa)以下である。つまり、防水層2は実質的に水を通さない。防水層2に含まれる樹脂は、たとえば発泡ポリスチレンである。なお、ここで透湿係数は、たとえばJIS K 7225「硬質発泡プラスチック-水蒸気透過性の求め方」に規定された方法により特定できる。具体的には、上記JIS K 7225に従って、温度23℃、相対湿度勾配0%~50%という試験条件で、厚さ25mm当たりの透湿係数を算出する。
【0013】
防水層2は、屋上スラブ1においてひび割れが発生した場合であっても、当該ひび割れが防水層2に伝搬しないように構成されている。たとえば、防水層2の硬度は、コンクリート製の屋上スラブ1の硬度より低くてもよい。また、防水層2は、屋上スラブ1と比べて可撓性を有する材料により構成されていてもよい。防水層2全体が樹脂により構成されていてもよい。防水層2が発泡樹脂により構成されていてもよい。
【0014】
防水層2は、水を実質的に通さない部材であれば任意の部材を用いることができる。たとえば、防水層2として樹脂からなるシート部材またはパネル部材、あるいは樹脂からなるフィルム部材を用いてもよい。また、防水層2は、屋上スラブ1の底面全体を覆うように配置されている。防水層2は複数の部材をつなぎ合わせて形成されていてもよいが、当該複数の部材の接続部は気密に接続されている。たとえば、当該接続部に樹脂製のテープが貼られていてもよい。つまり、防水層2は、複数の樹脂を含む部材と、これらの複数の部材において隣接する2つの部材の接続部をカバーするテープ状部材とを含む。防水層2に樹脂として上述した発泡樹脂が含まれる場合、当該防水層2を断熱部材としても利用できる。このように、本実施形態に係るコンクリート構造体10では、屋上スラブ1の底面に防水層2が密着した構造となっている。このように、屋上スラブ1の上面ではなく底面に防水層を形成することは、従来の屋上スラブ1における防水構造(屋上スラブ1の表面に防水シートなどを配置する構造)とは全く異なる構造である。つまり、本開示に係るコンクリート構造体10は、防水層と屋上スラブ1の位置関係が従来のコンクリート構造体と逆になっている。
【0015】
側壁3の内周側には内壁部材4が設置されている。内壁部材4の上端は防水層2と接続されている。なお、コンクリート構造体10において内壁部材4が除去されていてもよい。
【0016】
<コンクリート構造体の製造方法>
図2は、図1に示されたコンクリート構造体の製造方法を説明するためのフローチャートである。図3および図4は、コンクリート構造体の製造方法を説明するための模式図である。図2に示されるように、コンクリート構造体10の製造方法では、防水層形成工程(S10)が実施される。この工程(S10)は、コンクリート構造体10における屋上スラブ1の形状を規定するとともに防水層を含む枠部20を形成する工程である。枠部20は、たとえば図3に示されるように外周型枠21と側面型枠23と底面型枠22とを含む。外周型枠21は、側壁3の外周面を規定する。つまり、外周型枠21は建造物であるコンクリート構造体10の外周側面の位置を規定する。外周型枠21は、地盤面にほぼ垂直な方向に延びるように配置される。側面型枠23は、外周型枠21と対向するように配置される。側面型枠23は打設されるコンクリートが固化した側壁3と一体化して内壁部材4となる部材である。なお、側面型枠23として、コンクリート打設後に取り除かれる型枠を用いてもよい。
【0017】
枠部20において屋上スラブ1(図1参照)の底面を規定する領域に、樹脂を含む防水層2としての底面型枠22が配置されている。底面型枠22は側面型枠23の上端をつなぐように配置されている。底面型枠22は水平方向に延びるように配置されている。底面型枠22は、たとえば発泡樹脂の一例である発泡ポリスチレンからなるシート部材またはパネル部材である。底面型枠22は、たとえば複数のパネル部材を並べて配置されるとともに、複数のパネル部材の接続部を、防水性を有するテープ状部材によって覆うように固定した構造を有していてもよい。防水層2としての底面型枠22の厚さ25mm当たりの透湿係数は40ng/(m・s・Pa)以下である。
【0018】
次に、枠部20の内部にコンクリート材料30を供給した後、コンクリート材料30を固化させて屋上スラブを形成する工程としてのコンクリート打設工程(S20)を実施する。この工程(S20)では、図4に示されるように上述した枠部20の内部に流動性を有するコンクリート材料30を流し込む。コンクリート材料30としては、いわゆるポルトランドセメントを主成分としたコンクリート材料を用いる。このとき、底面型枠22上に位置し、屋上スラブ1となるべきコンクリート材料30の厚さは130mm以上とされる。また、当該コンクリート材料の厚さを200mm以上としてもよい。
【0019】
この工程(S20)では、さらに、少なくともコンクリート材料30と防水層2としての底面型枠22とが接触した状態で、コンクリート材料30を固化させる。コンクリート材料30が固化することで、図1に示された屋上スラブ1および側壁3が形成される。また、このとき防水層2としての底面型枠22は屋上スラブ1の底面に固定される。その後、外周型枠21を除去する。このとき側面型枠23を除去してもよい。一方、防水層2としての底面型枠22は屋上スラブ1の底面に密着している。つまり防水層2としての底面型枠22と屋上スラブ1とは一体化している。このように、本実施の形態に係るコンクリート構造体の製造方法では、枠部20を形成する工程である防水層形成工程(S10)を実施した後、コンクリート打設工程(S20)を実施することで、底面に防水層2が密着された屋上スラブ1が得られる。このようにして、図1に示されたコンクリート構造体10を得ることができる。
【0020】
<作用>
本開示に従ったコンクリート構造体10の製造方法は、コンクリート構造体10における屋上スラブ1の形状を規定するとともに防水層2を含む枠部20を形成する工程(S10)と、枠部20の内部にコンクリート材料30を供給した後、コンクリート材料30を固化させて屋上スラブ1を形成する工程(S20)とを備える。枠部20を形成する工程(S20)では、枠部20において屋上スラブ1の底面を規定する領域に、樹脂を含む防水層2が配置されている。屋上スラブ1を形成する工程(S20)では、コンクリート材料30と防水層2とが接触した状態でコンクリート材料30が固化することで、屋上スラブ1の底面に防水層2が固定される。このように、本開示に従ったコンクリート構造体10では、従来のように屋上スラブ1の上面に防水層を形成するのではなく、屋上スラブ1の底面に防水層2が固定されている点が従来の構造と全く異なる。
【0021】
このようにすれば、屋上スラブ1を貫通するようなひび割れが発生した場合であっても、防水層2によって当該ひび割れ内部に侵入した雨水などの水分が長時間保持される。当該水分は、コンクリート製である屋上スラブ1に含まれる遊離石灰と化学反応を起こす。この結果、ひび割れ中に固形物が形成される。当該ひび割れは上記固形物によって充填・修復されることになる。つまり、上記コンクリート構造体10では、屋上スラブ1の底面に防水層2を配置しているが、当該防水層2は屋上スラブ1のひび割れを自己治癒するプロセスを発生させるため、ひび割れ内部に水を滞留させる機能を有する部材である。屋上スラブ1の防水性は屋上スラブ1を構成するコンクリート自体によるものである。すなわち、屋上スラブ1について防水機能を発揮する防水機構は屋上スラブ1自体と防水層2との積層構造からなる。また、上述したコンクリート構造体10の製造方法では、屋上スラブ1を形成する工程を実施することで、同時に屋上スラブ1の底面に防水層2を密着させた構造を形成できる。このため、屋上スラブ1を形成した後に別途屋上スラブ1の上面上に防水層を形成する場合より工期を短縮できる。この結果、コンクリート構造体10の製造コストを低減できる。
【0022】
このような屋上スラブ1の自己治癒は以下のような仕組みで行われると考えられる。以下、図5から図7を用いて具体的に説明する。図5から図7は、コンクリート構造体10の作用を説明するための模式図である。
【0023】
上述のように、屋上スラブ1を構成するコンクリート中には、水和反応を起こさずに残存する炭酸カルシウムなどからなる遊離石灰が存在する。図5に示されるように、屋上スラブ1においてひび割れ1a、1bが形成された場合を考える。当該ひび割れ1a、1bの内部には、図6の矢印42に示されるように雨(たとえば酸性雨)などに由来する水40が侵入する。本実施の形態に係るコンクリート構造体10では、屋上スラブ1の底面に防水層2が密着しているので、ひび割れ1a、1bの内部に雨水などの水40が十分な時間滞留する。ひび割れ1a、1b中では、当該水40と上記遊離石灰とが化学反応することで、図7に示されるように固形物41(水酸化カルシウムを主成分とする固体)が形成される。当該固形物によってひび割れ1a、1bが充填されることにより、ひび割れ1a、1bは塞がれる。このように、防水層2を屋上スラブ1の底面に接合することで、ひび割れ1a、1b内部での水40の滞留時間を長くし、結果的に形成される固形物41によってひび割れ1a、1bを塞ぐことができる。
【0024】
また、ひび割れ1a、1b中に形成された固形物41の成分である水酸化ナトリウムは、屋上スラブ1中に含まれている、または外部から飛来する粉塵などに含まれる二酸化珪素と化学反応(ポゾラン反応)する。この結果、ひび割れ1a、1bの内部を充填する固形物41においてケイ酸カルシウムが生成される。このように固形物41において二次的な反応が発生することにより、当該固形物41は緻密化され、屋上スラブ1の強度を向上させるとともにひび割れ1a、1bの内部を固形物で緻密に充填することで屋上スラブ1の防水性能を向上させることができる。このように、本開示に係るコンクリート構造体では、上記のように防水層2が屋上スラブ1の底面に密着して形成されているため、ひび割れ1a、1b内部において発生する上記の反応によって当該ひび割れ1a、1bを固形物41により充填して補修することができる。また、上記のようにひび割れ1a、1b内の固形物41はポゾラン反応によって緻密化し、屋上スラブ1自体の防水性および強度の低下を抑制できる。なお、このような二次的な反応を促進するため、コンクリート打設工程(S20)において、コンクリート材料30の打設後に、当該コンクリート材料30の表面にケイ酸ソーダを含む溶液を散布してもよい。当該溶液の散布は、たとえばコンクリート材料30の打設後50時間以内に実施される。
【0025】
また、上記のように屋上スラブ1の底面側に防水層2を配置する構造は、屋上スラブ1を形成するコンクリート材料30の型枠として防水層2を配置しておくことで容易に形成できる。そのため、従来のように屋上スラブ1の表面上に防水構造を形成する場合よりも製造工程を簡略化できる。さらに、屋上スラブ1を形成するための型枠である底面型枠22を防水層2として用いることで、従来のように屋上スラブ1を形成した後型枠を当該屋上スラブ1の底面から除去する、といった工程が不要になる。この点においても、コンクリート構造体10の製造コストを削減できる。
【0026】
また、上記のように屋上スラブ1を形成するためのコンクリートを打設する工程において、同時に屋上スラブ1の防水工事も完了するため、従来のように屋上スラブ1の表面上に別途防水構造を形成する場合より、コンクリート構造体10の製造コストを低減できるとともに、製造工期を短縮できる。
【0027】
また、ひび割れ1a、1b内部に流れ込む水40が、空気中の炭酸ガスを取り込んだ酸性雨水である場合、ひび割れ1a、1b内部では屋上スラブ1中の水酸化カルシウムと当該酸性雨水とが反応してケイ酸カルシウム、炭酸カルシウムを含む固形物41(ひび割れ内生成固形物)が形成される。この場合も、当該固形物41によってひび割れ1a、1bを塞ぐことができる。
【0028】
上記コンクリート構造体10の製造方法において、防水層2の厚さ25mm当たりの透湿係数は40ng/(m・s・Pa)以下であってもよい。この場合、防水層2によりひび割れ1a、1bにおける水40の滞留時間を十分に確保できる。そのため、上記のようなひび割れ1a、1b内部での固形物41の形成を促進できる。
【0029】
上記コンクリート構造体10の製造方法において、樹脂は発泡ポリスチレンであってもよい。この場合、上述した透湿係数の基準を満たす防水層2を容易に形成できる。また、発泡ポリスチレンは加工が容易であり、防水層2としての底面型枠22を発泡ポリスチレンで容易に形成できる。
【0030】
上記コンクリート構造体10の製造方法において、屋上スラブ1を形成する工程(S30)では、形成された屋上スラブ1の厚さTが130mm以上であってもよい。この場合、屋上スラブ1の強度を十分に確保できるとともに、厚さ方向に貫通するひび割れ1aの発生確率を低減できる。
【0031】
本開示に従ったコンクリート構造体10は、底面を有する屋上スラブ1と、防水層2とを備える。防水層2は、底面に密着するように屋上スラブ1と一体化している。防水層2は樹脂を含む。防水層2の厚さ25mm当たりの透湿係数は40ng/(m・s・Pa)以下である。
【0032】
このようにすれば、屋上スラブ1の底面に密着するように防水層2が形成されているので、屋上スラブ1にひび割れ1a、1bが形成された場合に、当該ひび割れ1a、1b内部に水を十分な時間滞留させることができる。このため、ひび割れ1a、1b内部での屋上スラブ1に起因する成分の化学反応により形成される固形物41によって、当該ひび割れ1a、1bを充填することができる。
【0033】
上記コンクリート構造体10において、樹脂は発泡ポリスチレンであってもよい。この場合、上述した透湿係数の基準を満たす防水層2を容易に実現できる。
【0034】
上記コンクリート構造体10において、屋上スラブ1の厚さTは130mm以上であってもよい。この場合、屋上スラブ1の強度を十分に確保できるとともに、厚さ方向に貫通するひび割れ1aの発生確率を低減できる。
【0035】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の基本的な範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0036】
1 屋上スラブ、1a,1b ひび割れ、2 防水層、3 側壁、4 内壁部材、10 コンクリート構造体、20 枠部、21 外周型枠、22 底面型枠、23 側面型枠、30 コンクリート材料、40 水、41 ひび割れ内生成固形物、42 矢印(雨水)、T 厚さ。
【要約】
【課題】製造・維持コストを低減することが可能な、屋上が防水されたコンクリート構造体を提供する。
【解決手段】コンクリート構造体10の製造方法は、コンクリート構造体10における屋上スラブの形状を規定するとともに防水層2を含む枠部20を形成する工程と、枠部20の内部にコンクリート材料30を供給した後、コンクリート材料30を固化させて屋上スラブを形成する工程とを備える。枠部20を形成する工程では、枠部20において屋上スラブの底面を規定する領域に、樹脂を含む防水層2が配置されている。屋上スラブを形成する工程では、コンクリート材料30と防水層2とが接触した状態でコンクリート材料30が固化することで、屋上スラブの底面に防水層2が固定される。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7