(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】荷電粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20230227BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
A61N5/10 H
G21K5/04 A
G21K5/04 C
(21)【出願番号】P 2018135910
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 健蔵
(72)【発明者】
【氏名】宮下 拓也
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-033482(JP,A)
【文献】特開2003-282300(JP,A)
【文献】特開2005-296162(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0319873(US,A1)
【文献】国際公開第2016/088155(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/140236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G21K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線を被照射体に照射する照射部と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子線を前記照射部の照射ノズルに輸送する輸送ラインと、
前記照射部を制御する制御部と、を備え、
前記照射部の前記照射ノズルの中には、
前記荷電粒子線の照射軸に直交する第1方向において前記荷電粒子線を走査する第1電磁石と、
前記照射軸及び前記第1方向に直交する第2方向において前記荷電粒子線を走査する第2電磁石と、
前記第1方向及び前記第2方向に沿った平面における前記荷電粒子線の通過位置を検出する第1位置モニタと、
前記第1位置モニタより下流側に配置され、前記第1方向及び前記第2方向に沿った平面における前記荷電粒子線の通過位置を検出する第2位置モニタと、
前記第1電磁石より下流側に配置され、前記第1方向において前記荷電粒子線を走査する第3電磁石と、
前記第2電磁石より下流側に配置され、前記第2方向において前記荷電粒子線を走査する第4電磁石と、が収容され、
前記制御部は、前記第1位置モニタ及び前記第2位置モニタで検出された前記荷電粒子線の前記通過位置に基づいて
前記荷電粒子線の傾きを検出すると共に、当該検出結果に基づく前記第1電磁石、前記第2電磁石、前記第3電磁石、及び前記第4電磁石の制御によって前記荷電粒子線の照射位置を補正し、
前記第2位置モニタは、前記第3電磁石、及び前記第4電磁石より下流側に配置される、荷電粒子線治療装置。
【請求項2】
前記第1位置モニタは、前記第3電磁石及び前記第4電磁石より下流側に配置されている、請求項1に記載の荷電粒子線治療装置。
【請求項3】
前記第1位置モニタ及び前記第2位置モニタにおける前記荷電粒子線の前記通過位置の検出結果に基づいて、前記被照射体における前記荷電粒子線の照射位置の異常を報知する報知部を更に備える、請求項1又は2に記載の荷電粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の患部に荷電粒子線を照射することによって治療を行う荷電粒子線治療装置が知られている。特許文献1には、荷電粒子線を走査する走査電磁石と、走査電磁石に電流を供給するスキャナー電源と、走査電磁石による荷電粒子線の走査を制御するスキャニングコントローラと、荷電粒子線の照射位置を測定する位置測定モニタと、を備える荷電粒子線治療装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の荷電粒子線治療装置では、1つの位置モニタによって荷電粒子線の照射位置を測定している。しかしながら、荷電粒子線が照射軸からずれた状態、及び/又は荷電粒子線が照射軸に対して傾いた状態で走査部(電磁石)に入射した場合、位置モニタにおいて検出された荷電粒子線の通過位置が正しくても、被照射体(患部)における実際の照射位置が目的の位置からずれる場合がある。したがって、被照射体における荷電粒子線の照射位置の精度向上が要請されている。
【0005】
本発明は、被照射体における荷電粒子線の照射位置の精度向上を図ることが可能な荷電粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る荷電粒子線治療装置は、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、荷電粒子線を被照射体に照射する照射部と、を備え、照射部は、荷電粒子線の照射軸に直交する第1方向において荷電粒子線を走査する第1電磁石と、照射軸及び第1方向に直交する第2方向において荷電粒子線を走査する第2電磁石と、第1電磁石より下流側に配置され、第1方向において荷電粒子線を走査する第3電磁石と、第2電磁石より下流側に配置され、第2方向において荷電粒子線を走査する第4電磁石と、第1方向及び第2方向に沿った平面における荷電粒子線の通過位置を検出する第1位置モニタと、第3電磁石、第4電磁石、及び第1位置モニタより下流側に配置され、第1方向及び第2方向に沿った平面における荷電粒子線の通過位置を検出する第2位置モニタと、を有する。
【0007】
この荷電粒子線治療装置の照射部は、第1方向及び第2方向に沿った平面における荷電粒子線の通過位置を検出する第1位置モニタと、第1位置モニタより下流側に配置され、第1方向及び第2方向に沿った平面における荷電粒子線の通過位置を検出する第2位置モニタと、を有している。このように、2つの位置モニタを有していることにより、第1位置モニタ及び第2位置モニタにおける荷電粒子線の通過位置だけでなく、それらに基づいて荷電粒子線の傾きも検出することができる。これにより、荷電粒子線がその照射軸に対してずれた状態、及び/又は荷電粒子線が照射軸に対して傾いた状態で照射部に入射することに起因して、被照射体における荷電粒子線の照射位置のずれが発生する場合に、当該照射位置のずれを精度良く検出することができる。したがって、第1~4電磁石によって荷電粒子線の位置ずれ及び傾きを補正することができるので、被照射体における荷電粒子線の照射位置の精度向上を図ることが可能である。
【0008】
一形態において、第1位置モニタは、第3電磁石及び第4電磁石より下流側に配置されていてもよい。この構成によれば、第1位置モニタと第2位置モニタとの間に荷電粒子線を走査する電磁石が配置されていない(すなわち、第1位置モニタと第2位置モニタとが隣り合って配置されている)ので、第1~4電磁石によって補正された荷電粒子線は第1位置モニタ及び第2位置モニタの両方を通過する。したがって、補正された荷電粒子線の傾きを検出することができるので、被照射体における荷電粒子線の照射位置の精度を更に向上させることができる。
【0009】
一形態において、荷電粒子線治療装置は照射部を制御する制御部を更に備え、制御部は、第1位置モニタ及び第2位置モニタで検出された荷電粒子線の通過位置に基づいて、第1電磁石、第2電磁石、第3電磁石、及び第4電磁石における荷電粒子線の走査を制御してもよい。この構成によれば、被照射体に対して荷電粒子線を照射中にリアルタイムで照射位置を補正することができる。
【0010】
一形態において、荷電粒子線治療装置は、第1位置モニタ及び第2位置モニタにおける荷電粒子線の通過位置の検出結果に基づいて、被照射体における荷電粒子線の照射位置の異常を報知する報知部を更に備えてもよい。この構成によれば、第1位置モニタ及び第2位置モニタでの検出結果から被照射体における荷電粒子線の照射位置の異常を検出した場合に、荷電粒子線治療装置の使用者等に異常を知らせることができる。したがって、荷電粒子線が目的の照射位置以外に照射されることを抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被照射体における荷電粒子線の照射位置の精度向上を図ることが可能な荷電粒子線治療装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一形態に係る荷電粒子線治療装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。
【
図4】
図2の照射位置調整部の構成を示す概略構成図である。
【
図5】(a)及び(b)は
図4の照射位置調整部による荷電粒子線の補正を説明するための図である。
【
図6】
図4の照射位置調整部の変形例を示す概略構成図である。
【
図7】
図6の照射位置調整部による荷電粒子線の補正を説明するための図である。
【
図8】
図4の照射位置調整部の他の変形例を示す概略構成図である。
【
図9】
図8の照射位置調整部による荷電粒子線の補正を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置を示す概略構成図である。
図1に示される荷電粒子線治療装置1は、放射線療法によるがん治療等に利用される装置である。荷電粒子線治療装置1は、荷電粒子を生成するイオン源50と、イオン源50において生成された荷電粒子を加速して荷電粒子線として出射する加速器3と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部2と、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送するビーム輸送ライン21と、ビーム輸送ライン21上において加速器3と照射部2との間に設けられたエネルギー調整部20と、を備えている。照射部2は、治療台4を取り囲むように設けられた回転ガントリ5に取り付けられている。照射部2は、回転ガントリ5によって治療台4の周りを回転可能に構成されている。
【0015】
図2は、
図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。なお、以下の説明においては、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」という語を用いて説明する。「Z方向」とは、荷電粒子線Bの基軸(照射軸)AXが延びる方向であり、荷電粒子線Bの照射の深さ方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の照射位置調整部60で偏向しなかった場合の荷電粒子線Bの照射軸とする。
図2では、基軸AXに沿って荷電粒子線Bが照射されている様子を示している。「X方向」とは、Z方向と直交する平面内における一の方向である。「Y方向」とは、Z方向と直交する平面内においてX方向と直交する方向である。
【0016】
まず、
図2を参照して本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の概略構成について説明する。なお、以降の説明においては、荷電粒子線治療装置1がスキャニング法に係る照射装置である場合について説明する。なお、スキャニング方式は特に限定されず、ラインスキャニング、ラスタースキャニング、スポットスキャニング等を採用してよい。さらに、荷電粒子線治療装置1の照射方法はスキャニング法に限定されず、ワブラー法、ブロードビーム法、原体照射法等、あらゆる照射方法を採用してよい。
図2に示されるように、荷電粒子線治療装置1、加速器3と、照射部2と、ビーム輸送ライン21と、制御部7と、を備えている。
【0017】
加速器3は、荷電粒子を加速して予め設定されたエネルギーの荷電粒子線Bを出射する装置である。加速器3として、例えば、サイクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等が挙げられる。なお、加速器3として予め定めたエネルギーの荷電粒子線Bを出射するサイクロトロンを採用する場合、エネルギー調整部20を採用することで、照射部2へ送られる荷電粒子線Bのエネルギーを調整(低下)させることが可能となる。この加速器3は、制御部7に接続されており、供給される電流が制御される。加速器3で発生した荷電粒子線Bは、ビーム輸送ライン21によって照射部2へ輸送される。ビーム輸送ライン21は、加速器3と、エネルギー調整部20と、照射部2と、を接続し、加速器3から出射された荷電粒子線Bを照射部2へ輸送する。
【0018】
照射部2は、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Bを照射するものである。荷電粒子線Bとは、荷電を持った粒子を拘束に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。具体的に、照射部2は、イオン源50(
図1参照)で生成した荷電粒子を加速する加速器3から出射されてビーム輸送ライン21で輸送された荷電粒子線Bを腫瘍14へ照射する装置である。照射部2は、四極電磁石8と、プロファイルモニタ11と、ドーズモニタ12と、照射位置調整部60と、コリメータ40と、ディグレーダ30と、を備えている。四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、照射位置調整部60、及びコリメータ40は、収容体としての照射ノズル9に収容されている。このように、照射ノズル9に各主構成要素を収容することによって照射部2が構成されている。なお、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、及びディグレーダ30は省略されてもよい。
【0019】
四極電磁石8は、X軸方向四極電磁石8a及びY軸方向四極電磁石8bを含む。X軸方向四極電磁石8a及びY軸方向四極電磁石8bは、制御部7から供給される電流に応じて荷電粒子線Bを絞って収束させる。X軸方向四極電磁石8aは、X軸方向において荷電粒子線Bを収束させ、Y軸方向四極電磁石8bは、Y軸方向において荷電粒子線Bを収束させる。四極電磁石8に供給する電流を変化させて絞り量(収束量)を変化させることにより、荷電粒子線Bのビームサイズを変化させることができる。四極電磁石8は、基軸AX上であって加速器3と走査電磁石6との間にこの順で配置されている。なお、ビームサイズとは、XY平面における荷電粒子線Bの大きさである。また、ビーム形状とは、XY平面における荷電粒子線Bの形状である。
【0020】
プロファイルモニタ11は、初期設定の際の位置合わせのために、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出する。プロファイルモニタ11は、基軸AX上であって四極電磁石8とドーズモニタ12との間に配置されている。ドーズモニタ12は、荷電粒子線Bの線量を検出する。ドーズモニタ12は、基軸AX上であって四極電磁石8及びプロファイルモニタ11の下流側に配置されている。プロファイルモニタ11及びドーズモニタ12は、検出した検出結果を制御部7に出力する。
【0021】
ディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Bのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Bのエネルギーの微調整を行う。本実施形態では、ディグレーダ30は、照射ノズル9の先端部9aに設けられている。なお、照射ノズル9の先端部9aとは、荷電粒子線Bの下流側の端部である。
【0022】
コリメータ40は、照射位置調整部60よりも荷電粒子線Bの下流側に設けられ、荷電粒子線Bの一部を遮蔽し、一部を通過させる部分である。コリメータ40は、当該コリメータ40を移動させるコリメータ駆動部41と接続されている。
【0023】
照射位置調整部60は、荷電粒子線Bの走査、及び荷電粒子線Bの通過位置の検出を行うことにより、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14における照射位置を調整する部分である。照射位置調整部60は、制御部7に接続されている。照射位置調整部60の詳細な構成については後述する。なお、本実施形態では、荷電粒子線Bの上流側から、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、照射位置調整部60、コリメータ40、ディグレーダ30の順に配置されているが、これらの各構成要素が配置される順番は特に限定されず、適宜変更可能である。
【0024】
制御部7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部7は、プロファイルモニタ11と、ドーズモニタ12、及び照射位置調整部60から出力された検出結果に基づいて、加速器3、四極電磁石8、照射位置調整部60、及びコリメータ駆動部41を制御する。
【0025】
また、荷電粒子線治療装置1の制御部7は、荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画装置100と接続されている。治療計画装置100は、治療前に患者15の腫瘍14をCT等で測定し、腫瘍14の各位置における線量分布(照射すべき荷電粒子線Bの線量分布)を計画する。具体的には、治療計画装置100は、腫瘍14に対して治療計画マップを作成する。治療計画装置100は、作成した治療計画マップを制御部7へ送信する。治療計画装置100が作成した治療計画マップでは、荷電粒子線Bがどのような走査経路を描くかが計画されている。
【0026】
スキャニング法による荷電粒子線の照射を行う場合、腫瘍14をZ軸方向に複数の層に仮想的に分割し、一の層において荷電粒子線を治療計画において定めた走査経路に従うように走査して照射する。そして、当該一の層における荷電粒子線の照射が完了した後に、隣接する次の層における荷電粒子線Bの照射を行う。
【0027】
図2に示す荷電粒子線治療装置1により、スキャニング法によって荷電粒子線Bの照射を行う場合、通過する荷電粒子線Bが収束するように四極電磁石8を作動状態(ON)とする。
【0028】
制御部7の制御に応じた走査電磁石6の荷電粒子線照射イメージについて、
図3(a)及び(b)を参照して説明する。
図3(a)は、深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされた被照射体を、
図3(b)は、深さ方向から見た一の層における荷電粒子線の走査イメージを、それぞれ示している。
【0029】
図3(a)に示すように、被照射体は照射の深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされており、本例では、深い(荷電粒子線Bの飛程が長い)層から順に、層L1、層L2、…層Ln-1、層Ln、層Ln+1、…層LN-1、層LNとN層に仮想的にスライスされている。また、
図3(b)に示すように、荷電粒子線Bは、走査経路TLに沿ったビーム軌道を描きながら、連続照射(ラインスキャニング又はラスタースキャニング)の場合は層Lnの走査経路TLに沿って連続的に照射され、スポットスキャニングの場合は層Lnの複数の照射スポットに対して照射される。すなわち、制御部7に制御された照射部2から出射した荷電粒子線Bは、走査経路TL上を移動する。
【0030】
次に、
図4を参照して照射位置調整部60について詳細に説明する。
図4に示されるように、照射部2の照射位置調整部60は、走査部Sと、第1位置モニタ63と、第2位置モニタ64と、を有している。
【0031】
走査部Sは、基軸AX上に配置された2つの走査電磁石61,62を含んでいる。走査電磁石61は、荷電粒子線Bの基軸(照射軸)AXに直交するX軸方向(第1方向)において荷電粒子線Bを走査するX方向走査電磁石(第1電磁石)61aと、基軸AX及びX軸方向に直交するY軸方向(第2方向)において荷電粒子線Bを走査するY方向走査電磁石(第2電磁石)61bとによって構成されている。同様に、走査電磁石62は、X軸方向において荷電粒子線Bを走査するX方向走査電磁石(第3電磁石)62aと、Y軸方向において荷電粒子線Bを走査するY方向走査電磁石(第4電磁石)62bとによって構成されている。第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64は共に基軸AX上に配置されており、X軸方向及びY軸方向に沿った平面における荷電粒子線Bの通過位置を検出する。本実施形態では、荷電粒子線Bの上流側から、走査電磁石61、走査電磁石62、第1位置モニタ63、第2位置モニタ64の順に配置されている。すなわち、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64は、走査部Sの下流側に配置されている。
【0032】
走査電磁石61,62、第1位置モニタ63、及び第2位置モニタ64は、それぞれ制御部7に接続されている。第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64で検出された荷電粒子線Bの通過位置に関する情報は制御部7に送信される。制御部7は、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64で検出された荷電粒子線Bの通過位置に基づいて、走査部S(走査電磁石61,62)における荷電粒子線Bの走査を制御する。
【0033】
なお、荷電粒子線治療装置1は、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64における荷電粒子線Bの通過位置の検出結果に基づいて、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置の異常を報知する報知部を備えている。本実施形態では、報知部は制御部7と一体に設けられている。具体的に、報知部(制御部7)は、第1位置モニタ63で検出された荷電粒子線Bの通過位置、及び第2位置モニタ64で検出された荷電粒子線Bの通過位置から被照射体における荷電粒子線Bの実際の照射位置を算出し、目標の照射位置と一致するか否か判別する。算出された荷電粒子線Bの実際の照射位置と、目標の照射位置とのずれが所定の許容値を超えた場合、報知部は、異常と判定し、制御部7によって荷電粒子線Bの照射が停止される。また、報知部は、荷電粒子線Bの傾きに基づいて照射位置の異常を判別してもよい。なお、報知部は制御部7と別体であってもよい。
【0034】
次に、
図5を参照して、照射位置調整部60による荷電粒子線の補正の例について説明する。
図5では、計画された荷電粒子線Bの軌道を軌道A、補正されなかった場合の荷電粒子線Bの軌道を軌道A’として説明する。
【0035】
まず、
図5(a)を参照して、荷電粒子線Bが基軸AXに対してずれた状態で照射位置調整部60に入射した場合の補正について説明する。
図5(a)に示されるように、荷電粒子線Bが基軸AXに対してずれた状態で入射した場合、荷電粒子線Bがずれていない場合と同様に走査部Sによって荷電粒子線Bを走査すると、目標の照射位置Pからずれた位置P’に荷電粒子線Bが照射される。これに対して、本実施形態の照射位置調整部60では、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64から荷電粒子線Bの通過位置を検出し、その情報を制御部7に送信する。制御部7は、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64での検出結果を基に荷電粒子線Bの傾きを算出すると共に、これらの情報に基づいて走査部Sの走査電磁石61,62を制御する。具体的には、走査電磁石61によって、走査電磁石62が配置された位置において荷電粒子線Bが基軸AX上を通過するように荷電粒子線Bを偏向し(すなわち、基軸AXに対するずれを補正し)、走査電磁石62によって走査電磁石61を通過した荷電粒子線Bの傾きを補正する。これにより、荷電粒子線Bが基軸AXからずれた状態で入射した場合であっても、計画された荷電粒子線Bの軌道Aと同様に、目標の照射位置Pに荷電粒子線Bを照射することができる。
【0036】
また、照射位置調整部60では、後述の変形例に係る照射位置調整部70,80とは異なり、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64が共に走査部Sの下流側に配置されている。このため、走査部Sを通過して補正された荷電粒子線Bは第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64の両方を通過する。したがって、照射位置調整部60では、補正された荷電粒子線Bに対しても傾きを検出することができるので、補正された荷電粒子線の通過位置及び傾きが正しいか否か確認することができる。よって、照射位置調整部60によれば、後述の照射位置調整部70,80に比べ、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置Pの精度を更に向上させることができる。
【0037】
次に、
図5(b)を参照して、荷電粒子線Bが基軸AXに対して傾いた状態で照射位置調整部60に入射した場合の補正について説明する。
図5(b)に示されるように、荷電粒子線Bが基軸AXに対して傾いた状態で入射した場合においても、
図5(a)に示される場合と同様に、目標の照射位置Pからずれた位置P’に荷電粒子線Bが照射される。これに対して、本実施形態の照射位置調整部60では、荷電粒子線Bが基軸AXに対してずれた場合と同様に、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64から荷電粒子線Bの通過位置を検出し、その情報を制御部7に送信する。制御部7は、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64での検出結果を基に荷電粒子線Bの傾きを算出すると共に、これらの情報に基づいて走査部Sの走査電磁石61,62を制御する。具体的には、走査電磁石61によって、走査電磁石62が配置された位置において荷電粒子線Bが基軸AX上を通過するように荷電粒子線Bを偏向し(すなわち、基軸AXに対する傾きを補正し)、走査電磁石62によって走査電磁石61を通過した荷電粒子線Bの傾きを補正する。これにより、荷電粒子線Bが基軸AXからずれた状態で入射した場合であっても、計画された荷電粒子線Bの軌道Aと同様に、目標の照射位置Pに荷電粒子線Bを照射することができる。
【0038】
以上説明したように、荷電粒子線治療装置1の照射部2は、X軸方向及びY軸方向に沿った平面における荷電粒子線Bの通過位置を検出する第1位置モニタ63と、第1位置モニタ63より下流側に配置され、X軸方向及びY軸方向に沿った平面における荷電粒子線Bの通過位置を検出する第2位置モニタ64と、を有している。仮に照射部が1つの位置モニタのみを有する場合、この位置モニタによって荷電粒子線の通過位置を検出することはできるが、荷電粒子線の傾きを検出することは困難である。このため、位置モニタにおいて検出された荷電粒子線の通過位置が正しくても、荷電粒子線の傾きの違いに起因して実際の照射位置が目標の照射位置からずれるといった事態が発生し得る。例えば、仮に
図5(b)に示される照射位置調整部60が第1位置モニタ63を有さず、第2位置モニタ64のみを有する場合、仮想の荷電粒子線B’の第2位置モニタ64における通過位置は荷電粒子線Bの通過位置と同一であるが、傾きの違いによって仮想の荷電粒子線B’の腫瘍14における照射位置Qは、目標の照射位置Pからずれる。
【0039】
これに対し、2つの位置モニタ(第1位置モニタ63、第2位置モニタ64)を有していることにより、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64における荷電粒子線Bの通過位置だけでなく、それらに基づいて荷電粒子線Bの傾きも検出することができる。これにより、荷電粒子線Bがその基軸AXに対してずれた状態、及び/又は荷電粒子線Bが基軸AXに対して傾いた状態で照射部2に入射することに起因して、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置のずれが発生する場合に、当該照射位置のずれを精度良く検出することができる。したがって、走査部Sによって荷電粒子線Bの位置ずれ及び傾きを補正することができるので、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置の精度向上を図ることが可能である。
【0040】
また、第1位置モニタ63は、第3電磁石及び第4電磁石より下流側に配置されている。これにより、第1位置モニタ63と第2位置モニタ64との間に荷電粒子線Bを走査する電磁石が配置されていない(すなわち、第1位置モニタ63と第2位置モニタ64とが隣り合って配置されている)ので、走査部Sによって補正された荷電粒子線Bは第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64の両方を通過する。したがって、補正された荷電粒子線Bの傾きを検出することができるので、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置の精度を更に向上させることができる。
【0041】
また、荷電粒子線治療装置1は照射部2を制御する制御部7を更に備え、制御部7は、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64で検出された荷電粒子線Bの通過位置に基づいて、走査部S(X方向走査電磁石61a、Y方向走査電磁石61b、X方向走査電磁石62a、Y方向走査電磁石62b)における荷電粒子線Bの走査を制御する。この構成によれば、腫瘍14に対して荷電粒子線Bを照射中にリアルタイムで照射位置を補正することができる。
【0042】
また、荷電粒子線治療装置1は、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64における荷電粒子線Bの通過位置の検出結果に基づいて、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置の異常を報知する報知部を更に備えている。荷電粒子線治療装置1では、第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64での検出結果から腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置の異常を検出した場合に、荷電粒子線治療装置1の使用者等に異常を知らせることができる。したがって、荷電粒子線Bが目的の照射位置P以外に照射されることを抑制できる。
【0043】
次に、
図6を参照して、照射位置調整部60の変形例について説明する。
図6に示されるように、変形例に係る照射位置調整部70は、照射位置調整部60と同様に、走査部Sと、第1位置モニタ73と、第2位置モニタ74と、を有している。走査部Sは、基軸AX上に配置された2つの走査電磁石71,72を含んでいる。変形例に係る照射位置調整部70が照射位置調整部60と異なる点は、照射位置調整部70の各構成要素が荷電粒子線Bの上流側から、走査電磁石71、第1位置モニタ73、走査電磁石72、第2位置モニタ74の順に配置されている点である。
【0044】
次に
図7を参照して、照射位置調整部70による荷電粒子線の補正の例について説明する。
図7では、計画された荷電粒子線Bの軌道を軌道A、補正されなかった場合の荷電粒子線Bの軌道を軌道A’として説明する。なお、
図7では、荷電粒子線Bが基軸AXに対してずれた状態で照射位置調整部70に入射した場合の補正について説明するが、荷電粒子線Bが基軸AXに対してずれた状態で照射位置調整部70に入射した場合も同様に補正可能である。
【0045】
図7に示されるように、照射位置調整部70では、照射位置調整部60と同様に、第1位置モニタ73及び第2位置モニタ74から荷電粒子線Bの通過位置を検出し、その情報を制御部7に送信する。制御部7は、第1位置モニタ73及び第2位置モニタ74での検出結果を基に荷電粒子線Bの傾きを算出すると共に、これらの情報に基づいて走査部Sの走査電磁石71,72を制御する。具体的には、第1位置モニタ73での検出結果を基に走査電磁石71を制御し、走査電磁石72において、走査電磁石71によって偏向された荷電粒子線Bが計画された軌道Aを通過するように補正する。そして、第2位置モニタ74での検出結果を基に走査電磁石72を制御し、実際の荷電粒子線Bと計画された軌道Aとの差異が小さくなるように、第2位置モニタ74における荷電粒子線Bの通過位置及び荷電粒子線Bの傾きを補正する。これにより、荷電粒子線Bが基軸AXからずれた状態で入射した場合であっても、計画された荷電粒子線Bの軌道Aと同様に、目標の照射位置Pに荷電粒子線Bを照射することができる。したがって、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置の精度向上を図ることが可能である。
【0046】
次に、
図8を参照して、照射位置調整部60の他の変形例について説明する。
図8に示されるように、他の変形例に係る照射位置調整部80は、照射位置調整部60と同様に、走査部Sと、第1位置モニタ83と、第2位置モニタ84と、を有している。走査部Sは、基軸AX上に配置された2つの走査電磁石81,82を含んでいる。他の変形例に係る照射位置調整部80が照射位置調整部60と異なる点は、照射位置調整部80の各構成要素が荷電粒子線Bの上流側から、第1位置モニタ83、走査電磁石81、走査電磁石82、第2位置モニタ84の順に配置されている点である。
【0047】
次に
図9を参照して、照射位置調整部80による荷電粒子線の補正の例について説明する。
図9では、計画された荷電粒子線Bの軌道を軌道A、補正されなかった場合の荷電粒子線Bの軌道を軌道A’として説明する。なお、
図9では、荷電粒子線Bが基軸AXに対してずれた状態で照射位置調整部80に入射した場合の補正について説明するが、荷電粒子線Bが基軸AXに対してずれた状態で照射位置調整部80に入射した場合も同様に補正可能である。
【0048】
図9に示されるように、照射位置調整部80では、照射位置調整部60,70と同様に、第1位置モニタ83及び第2位置モニタ84から荷電粒子線Bの通過位置を検出し、その情報を制御部7に送信する。制御部7は、第1位置モニタ83及び第2位置モニタ84での検出結果を基に荷電粒子線Bの傾きを算出すると共に、これらの情報に基づいて走査部Sの走査電磁石81,82を制御する。具体的には、第1位置モニタ83での検出結果を基に走査電磁石81を制御し、走査電磁石82において、走査電磁石81によって偏向された荷電粒子線Bが計画された軌道Aを通過するように補正する。そして、第2位置モニタ84での検出結果を基に走査電磁石82を制御し、実際の荷電粒子線Bと計画された軌道Aとの差異が小さくなるように、第2位置モニタ84における荷電粒子線Bの通過位置及び荷電粒子線Bの傾きを補正する。これにより、荷電粒子線Bが基軸AXからずれた状態で入射した場合であっても、計画された荷電粒子線Bの軌道Aと同様に、目標の照射位置Pに荷電粒子線Bを照射することができる。したがって、腫瘍14における荷電粒子線Bの照射位置の精度向上を図ることが可能である。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の偏向を行うことができる。例えば、上記の実施形態では、照射位置調整部60,70,80の走査部Sが2つの走査電磁石61,62を含む例について説明したが、照射位置調整部60,70,80の走査部Sは、3つ以上の走査電磁石を含んでいてもよい。
【0050】
また、上記の実施形態では、照射位置調整部60,70,80が第1位置モニタ63及び第2位置モニタ64を有する例について説明したが、照射位置調整部60,70,80は3つ以上の位置モニタを有していてもよい。
【0051】
また、上記の実施形態では、照射位置調整部60,70,80と四極電磁石8、プロファイルモニタ11、及びドーズモニタ12とが別体である例について説明したが、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、及びドーズモニタ12は照射位置調整部60,70,80の内部に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…荷電粒子線治療装置、2…照射部、3…加速器、7…制御部、14…腫瘍(被照射体)、50…イオン源、60,70,80…照射位置調整部、61a…X方向走査電磁石(第1電磁石)、61b…Y方向走査電磁石(第2電磁石)、62a…X方向走査電磁石(第3電磁石)、62b…Y方向走査電磁石(第4電磁石)、63,73,83…第1位置モニタ、64,74,84…第2位置モニタ、AX…基軸(照射軸)、B…荷電粒子線、S…走査部。