(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体及びそれを含む高分子電解質膜燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1051 20160101AFI20230227BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20230227BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20230227BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230227BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230227BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M8/1004
H01M8/1039
H01M4/86 B
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018178040
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】10-2017-0181118
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】パク、イン、ユ
(72)【発明者】
【氏名】コ、ジェ、ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ボ、キ
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-165098(JP,A)
【文献】特開2006-107914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1051
H01M 8/1004
H01M 8/1039
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の両面に形成された一対の電極とを含み、
前記電解質膜及び電極のうちの少なくともいずれか1つに酸化防止剤が含まれ、
前記酸化防止剤は、熱処理されたサマリウムドープセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide)である、耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体であって、
前記電解質膜は、過フッ素スルホン酸系イオノマー及び酸化防止剤を含み、
前記酸化防止剤は、その結晶サイズが5.5nm~60nmであるものであり、
前記酸化防止剤を過フッ素スルホン酸系イオノマーの全重量を基準として0.05重量%~20重量%含むものである、燃料電池用膜-電極接合体。
【請求項2】
電解質膜と、
前記電解質膜の両面に形成された一対の電極とを含み、
前記電解質膜及び電極のうちの少なくともいずれか1つに酸化防止剤が含まれ、
前記酸化防止剤は、熱処理されたサマリウムドープセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide)である、耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体であって、
前記電解質膜は、過フッ素スルホン酸系イオノマー及び酸化防止剤を含み、
前記酸化防止剤は、BET表面積が10m
2
/g~190m
2
/gであり、
前記酸化防止剤を過フッ素スルホン酸系イオノマーの全重量を基準として0.05重量%~20重量%含むものである、燃料電池用膜-電極接合体。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、下記化学式1で表されるものである、請求項1または2に記載の耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体。
[化学式1]
Sm
xCe
1-xO
2-δ
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは、前記化学式1の前記化合物を電気的中性にする酸素空孔値である。
【請求項4】
前記酸化防止剤は、XRDスペクトルの2θ=28±1.0°、32±1.0°、47±1.0°、及び56±1.0°に主要な回折ピークを有するものである、請求項1または2に記載の耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体。
【請求項5】
前記酸化防止剤は、その結晶サイズが5.5nm~60nmであるものである、請求項1または2に記載の耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体。
【請求項6】
前記酸化防止剤は、BET表面積が10m
2/g~190m
2/gであるものである、請求項1または2に記載の耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の膜-電極接合体を含む、高分子電解質膜燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体及びそれを含む高分子電解質膜燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用高分子電解質膜燃料電池は、水素と空気中の酸素との電気化学反応(Electrochemical Reaction)によって電気を生産する電気発生装置であって、発電効率が高く、水以外の排出物がない環境に優しい次世代エネルギー源としてよく知られている。また、高分子電解質膜燃料電池は、一般的に95℃以下の温度で作動し、高出力密度を得ることができる。
【0003】
前記燃料電池の電気の生成のための反応は、過フッ素スルホン酸系イオノマーベースの電解質膜(Perfluorinated Sulfonic Acid Ionomer-Based Membrane)及びアノード(Anode)/カソード(Cathode)の電極で構成された膜-電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)で発生し、燃料電池の酸化極であるアノードに供給された水素が水素イオン(Proton)と電子(Electron)とに分離された後、水素イオンは、膜を介して還元極であるカソード側に移動し、電子は、外部回路を介してカソードに移動するようになり、前記カソードで酸素分子、水素イオン及び電子が共に反応して電気と熱を生成すると同時に、反応副産物として水(H2O)を生成するようになる。
【0004】
一般に、燃料電池の反応気体である水素及び空気中の酸素は、電解質膜を介して交差移動(Crossover)をして過酸化水素(Hydrogen Peroxide:HOOH)の生成を促進し、このような過酸化水素がヒドロキシル(Hydroxyl)ラジカル(・OH)及びヒドロペルオキシル(Hydroperoxyl)ラジカル(・OOH)などの酸素含有ラジカル(Oxygen-Containing Radicals)を生成するようになる。このようなラジカルは、過フッ素スルホン酸系電解質膜を攻撃して膜の化学的劣化(Chemical Degradation)を誘発し、結局、燃料電池の耐久性を減少させる悪影響を及ぼすことになる。
【0005】
従来、このような電解質膜の化学的劣化を緩和(Mitigation)させるための技術として、様々な種類の酸化防止剤(Antioxidants)を電解質膜に添加する方法が提案されてきた。
【0006】
前記酸化防止剤は、ラジカル捕捉剤(Radical Scavenger)の機能を有する一次酸化防止剤(Primary Antioxidant)、過酸化水素分解剤(Hydrogen Peroxide Decomposer)の機能を有する二次酸化防止剤(Secondary Antioxidant)などである。
【0007】
一次酸化防止剤としては、セリウム酸化物(Cerium Oxide)、硝酸セリウム(III)六水和物(Cerium(III)Nitrate Hexahydrate)などのセリウム系酸化防止剤、テレフタル酸系酸化防止剤などがある。二次酸化防止剤としては、マンガン酸化物(Manganese Oxide)などのマンガン系酸化防止剤がある。
【0008】
しかし、S.Schlick et al.,J.Phys.Chem.C,120,6885-6890(2016);S.Deshpande et al.,Appl.Phys.Lett.,8,133113(2005)によれば、一般的にセリウム酸化物は、酸化防止性と長期安定性が互いに反比例する問題があるものと知られているところ、酸化防止性及び長期安定性がいずれも優れた新規な酸化防止剤に対する研究開発が切実な実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】S. Schlick et al., J. Phys. Chem. C, 120, 6885-6890(2016); S. Deshpande et al., Appl. Phys. Lett., 8, 133113(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の限界及び問題点を解決するためのものである。
【0011】
本発明の目的は、酸化防止性及び長期安定性がいずれも優れた新規な酸化防止剤を含むことによって耐久性が大幅に向上した膜-電極接合体を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、以上で言及した目的に制限されない。本発明の目的は、以下の説明によってさらに明らかになり、特許請求の範囲に記載された手段及びその組み合わせによって実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る耐久性が向上した燃料電池用膜-電極接合体は、酸化防止剤を含む電解質膜、及び前記電解質膜の両面に形成された一対の電極を含み、前記酸化防止剤は、熱処理されたサマリウムドープセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide)である。
【0014】
前記酸化防止剤は、下記化学式1で表されるものであってもよい。
【0015】
[化学式1]
SmxCe1-xO2-δ
【0016】
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは、前記化学式1の前記化合物を電気的中性にする酸素空孔値である。
【0017】
前記酸化防止剤は、100℃~1,000℃の温度で熱処理されたものであってもよい。
【0018】
前記酸化防止剤は、10分~10時間熱処理されたものであってもよい。
【0019】
前記酸化防止剤は、XRDスペクトルの2θ=28±1.0°、32±1.0°、47±1.0°、及び56±1.0°に主要な回折ピークを有するものであってもよい。
【0020】
前記酸化防止剤は、その結晶サイズが5.5nm~60nmであるものであってもよい。
【0021】
前記酸化防止剤は、BET表面積が10m2/g~190m2/gであるものであってもよい。
【0022】
前記電解質膜は、過フッ素スルホン酸系イオノマー、電解質膜の機械的剛性の増大のための強化層及び酸化防止剤を含み、前記酸化防止剤を過フッ素スルホン酸系イオノマーの全重量を基準として0.05重量%~20重量%含むものであってもよい。
【0023】
本発明に係る高分子電解質膜燃料電池は前記膜-電極接合体を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、酸化防止性及び長期安定性がいずれも優れた新規な酸化防止剤を提供できるので、これを導入した膜-電極接合体の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0025】
本発明の効果は、以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は、以下の説明で推論可能な全ての効果を含むものと理解しなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る膜-電極接合体を示した図である。
【
図2】本発明に係る酸化防止剤に対するX線回折(XRD;X-ray diffraction)分析結果である。
【
図3】本発明に係る酸化防止剤に対するBET表面積を測定した結果である。
【
図4】メチルバイオレット(Methyl Violet)技法を通じて本発明に係る酸化防止剤の酸化防止性を評価した結果である。
【
図5】紫外-可視線分光法(UV-Visible Spectroscopy)を通じて本発明に係る酸化防止剤の酸化防止性を評価した結果である。
【
図6】溶解試験(Dissolution Test)を通じて本発明に係る酸化防止剤の長期安定性を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴及び利点は、添付の図面と関連する以下の好ましい実施例を通じて容易に理解されるであろう。しかし、本発明は、ここで説明する実施例に限定されず、他の形態に具体化されてもよい。むしろ、ここで紹介される実施例は、開示された内容が徹底且つ完全になるように、そして、通常の技術者に本発明の思想が十分に伝達されるようにするために提供されるものである。
【0028】
各図面を説明する際、類似の参照符号を類似の構成要素に対して使用した。添付の図面において、構造物の寸法は、本発明の明確性のために実際より拡大して示したものである。「第1」、「第2」などの用語は、様々な構成要素を説明するために使用できるが、前記構成要素は、前記用語によって限定されてはならない。前記用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ使用される。例えば、本発明の権利範囲を逸脱せずに、第1構成要素は第2構成要素と命名されてもよく、同様に、第2構成要素も第1構成要素と命名されてもよい。単数の表現は、文脈上明らかに別の意味を示すものでない限り、複数の表現を含む。
【0029】
本明細書において、「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものの存在又は付加可能性を予め排除しないものと理解しなければならない。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとするとき、これは、他の部分の「真上に」ある場合のみならず、それらの間にまた他の部分が位置する場合も含む。反対に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下部に」あるとするとき、これは、他の部分の「真下に」ある場合のみならず、それらの間にまた他の部分が位置する場合も含む。
【0030】
特に明示されない限り、本明細書で使用された成分、反応条件、ポリマー組成物及び配合物の量を表現するすべての数字、値及び/又は表現は、このような数字が本質的に、とりわけこのような値を得る際に発生する測定の様々な不確実性が反映された近似値であることから、すべての場合において「約」という用語で修飾されているものと理解しなければならない。また、本記載で数値範囲が開示される場合、このような範囲は連続的であり、特に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までのあらゆる値を含む。さらに、このような範囲が整数を指す場合、特に指摘されない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含むあらゆる整数が含まれる。
【0031】
本明細書において、範囲が変数に対して記載される場合、前記変数は、前記範囲の記載された終了点を含む記載された範囲内のすべての値を含むものと理解される。例えば、「5~10」の範囲は、5、6、7、8、9、及び10の値のみならず、6~10、7~10、6~9、7~9などの任意の下位範囲を含み、5.5、6.5、7.5、5.5~8.5及び6.5~9などのような記載された範囲の範疇に妥当な整数間の任意の値も含むものと理解される。また、例えば、「10%~30%」の範囲は、10%、11%、12%、13%などの値と30%までを含むすべての整数のみならず、10%~15%、12%~18%、20%~30%などの任意の下位範囲を含み、10.5%、15.5%、25.5%などのように記載された範囲の範疇内の妥当な整数間の任意の値も含むものと理解される。
【0032】
図1は、本発明に係る膜-電極接合体を簡略に示したものである。これを参照すると、前記膜-電極接合体は、電解質膜10、及び前記電解質膜の両面に形成された一対の電極20を含む。ここで、「一対の電極」は、アノードとカソードを意味し、互いに電解質膜を基準として対向して位置する。
【0033】
前記電解質膜10及び一対の電極20のうちの少なくともいずれか1つに酸化防止剤が含まれる。
【0034】
前記電解質膜10は、過フッ素スルホン酸系イオノマー、電解質膜の機械的剛性の増大のための強化層及び酸化防止剤を含む。前記電解質膜10は、過フッ素スルホン酸系イオノマーの全重量を基準として前記酸化防止剤を0.05重量%~20重量%含む。前記酸化防止剤の含量が0.05重量%未満であると、酸化防止性が低すぎるため、電解質膜の化学的耐久性を増加させることが難しく、20重量%を超えると、電解質膜のプロトン伝導性(Proton Conductivity)が減少し、脆性(Brittleness)が増加することがあるためである。
【0035】
前記酸化防止剤は、蛍石構造を有するセリウム酸化物(CeO2)においてセリウム4価イオン(Ce4+)の一部をサマリウム3価イオン(Sm3+)で置換することによって酸素空孔を増加させてセリウムイオンのレドックス(Redox)反応特性を向上させた、サマリウムがドープされたセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide、以下、「SDC」という)である。
【0036】
前記酸化防止剤は、下記化学式1で表されるものであってもよい。
【0037】
[化学式1]
SmxCe1-xO2-δ
【0038】
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは、前記化学式1の前記化合物を電気的中性にする酸素空孔値であって、例えば、0<δ≦0.25であってもよい。
【0039】
前記xが0.5を超えると、セリウム酸化物固有の構造的特性が減少することがあるため、前記数値範囲を満足することが好ましい。
【0040】
前述したように、セリウム酸化物は、酸化防止性と長期安定性が互いに反比例する問題があるものと知られているところ、本発明の発明者は、前記SDCを高温で熱処理してその結晶サイズ及び表面積を制御すると、優れた酸化防止性と長期安定性を同時に確保できるということを見出し、これを深く研究開発した結果、本発明に至った。
【0041】
具体的に、前記酸化防止剤は、100℃~1,000℃の温度で10分~10時間熱処理されたSDCであってもよい。
【0042】
熱処理の温度が100℃未満であると、熱処理の効果が僅かであるため、SDCの酸化防止性は高いが長期安定性が低く、1,000℃を超えると、熱処理効果が過度であるため、SDCの長期安定性は高いが酸化防止性が低い。
【0043】
また、熱処理の時間が10分未満であると、熱処理の効果が僅かであるため、SDCの酸化防止性は高いが長期安定性が低く、10時間を超えると、工程サイクルの時間が過度に増加する。
【0044】
前記SDCの熱処理は空気雰囲気で行うことができる。
【0045】
以下、本発明に係る酸化防止剤について、実施例を通じてより具体的に説明する。
【0046】
酸化防止剤の準備
【0047】
以下の表1に示した条件で酸化防止剤を準備した。
【0048】
【0049】
前記実施例1~4、比較例1及び2による酸化防止剤に対して微細構造分析、酸化防止性評価、長期安定性評価を行った。
【0050】
微細構造分析
【0051】
1)X線回折(XRD;X-ray diffraction)分析
【0052】
前記実施例1~4、比較例1及び2による酸化防止剤の結晶サイズの変化をX線回折法で測定した。その結果は、
図2の通りである。
【0053】
図2を参照すると、比較例1と比較して、高温熱処理を施した実施例1~4及び比較例2で結晶の特性ピークが次第に明確に発達することが分かる。具体的に、XRDスペクトルの2θ=28±1.0°、32±1.0°、47±1.0°、及び56±1.0°に強度の強い主要な回折ピークを示すことが分かる。
【0054】
2)結晶サイズの算出
【0055】
前記実施例1~4、比較例1及び2による酸化防止剤の結晶サイズをデバイ・シェラー(Debye-Scherrer)式を用いて算出した。その結果を下記の表2に示す。
【0056】
【0057】
これを参照すると、熱処理温度が増加するにつれて、SDCの結晶サイズが漸増することが分かる。しかし、熱処理温度が1,100℃になると、SDCの結晶サイズが365.8nmに急激に増加してそのサイズが過度になることが分かる。
【0058】
3)BET(Brunauer-Emmett-Teller)表面積の測定
【0059】
表面積分析器(TriStar II,Micromeritics Co.,USA)を用いて前記実施例1~4、比較例1及び2による酸化防止剤のBET表面積を測定した。その結果を
図3に示した。
【0060】
図3で比較例1、実施例1~4及び比較例2の結果を見ると、高温熱処理が進むにつれて酸化防止剤のBET表面積が減少することが分かる。
【0061】
すなわち、比較例1の酸化防止剤は、BET表面積が199.2m2/gであったが、400℃、600℃、800℃及び1,000℃で熱処理した実施例1~4の酸化防止剤のBET表面積は、それぞれ157.0m2/g、68.2m2/g、36.1m2/g及び17.1m2/gに漸減し、1,100℃で熱処理した比較例2の酸化防止剤は、BET表面積が1.8m2/gと非常に小さくなったことが分かる。
【0062】
酸化防止性の評価
【0063】
1)メチルバイオレット(Methyl Violet)技法を通じた酸化防止性の評価
【0064】
前記実施例1~4、比較例1及び2による酸化防止剤の酸化防止性を評価するために、迅速な目視評価(Naked Eye Inspection)が可能なメチルバイオレット技法を用いた。
【0065】
メチルバイオレットを硫酸鉄(II)七水和物(Iron(II)Sulfate Heptahydrate:FeSO4 7H2O)、過酸化水素及び前記酸化防止剤などと共に混合し、その色の変化を観察した。
【0066】
酸化防止剤の酸化防止性が高いほど、メチルバイオレットが元の色の紫色をよく維持し、酸化防止性が低いほど、紫色が次第に薄くなり、ついには、無色に変わる。
【0067】
メチルバイオレット:硫酸鉄(II)七水和物:過酸化水素を30:1:1の重量比率で混合してメチルバイオレット試験溶液を製造した後、これに、前記実施例1~4、比較例1及び2による酸化防止剤をそれぞれ10mg添加した。その結果を
図4に示した。
【0068】
図4を参照すると、比較例1から比較例2に至るまで、メチルバイオレットの紫色が次第に薄くなることが分かる。具体的に、実施例1~実施例4まで、紫色が一部薄くなってはいるが、明確な紫色を維持する反面、比較例2に至ると、溶液の色が急激に無色に変化した。これを通じて、実施例1~実施例4は優れた酸化防止性を維持しているが、比較例2に至ると、酸化防止性が大きく減少することが分かる。
【0069】
2)紫外-可視線分光法(UV-Visible Spectroscopy)を通じた酸化防止性の評価
【0070】
前記のようなメチルバイオレット試験溶液の吸光強度(Absorbance Intensity)を測定及び比較して、より一層精密に酸化防止性を評価した。
【0071】
酸化防止剤の酸化防止性が高い場合は、メチルバイオレットの固有の吸光波長である582nmで高い吸光強度を有する反面、酸化防止性が低い場合は、低い吸光強度を発現するようになる。
【0072】
紫外-可視線分光装置(UV-3600、Shimadzu Corporation、Japan)を用いて、前記実施例1~4、比較例1及び2を使用したメチルバイオレット試験溶液の吸光強度を測定した。その結果を
図5に示した。
【0073】
図5を参照すると、比較例1から比較例2に至るまで、紫外線吸光強度が次第に減少することが分かる。すなわち、582nmの波長で、比較例1は高い吸光強度を維持し、実施例1~実施例4までは、吸光強度が一部減少するが、未だに相当量の吸光強度を維持していることから、優れた酸化防止性を継続して発現していることが分かる。反面、比較例2に至ると、吸光強度が急激に減少するところ、酸化防止性が大きく低下することが分かる。
【0074】
長期安定性の評価
【0075】
1)溶解試験(Dissolution Test)を通じた長期安定性の評価
【0076】
前記実施例1~4、比較例1及び比較例2による酸化防止剤の長期安定性を評価するために、実際の高分子電解質膜燃料電池の運転条件を模写した酸性雰囲気下で前記酸化防止剤に対する溶解試験を行った。まず、前記酸化防止剤を12M硫酸(H2SO4)中で72時間分散させて溶解させた後、その溶液の吸光強度を前述した紫外-可視線分光法で測定することによって酸化防止剤の溶解抵抗性(Resistance to Dissolution)を評価した。
【0077】
前記酸化防止剤の硫酸による溶解抵抗性又は安定性(Stability)が低いほど、前記酸化防止剤が硫酸中で多く溶解されてその吸光強度が増加する反面、溶解に対する抵抗性又は安定性が高いほど、吸光強度は減少するようになる。具体的に、紫外-可視線分光法の吸光波長において、酸化防止剤中のCe4+イオンの特性値である波長320nmでの吸光強度の変化を観察すると、前記酸化防止剤の長期安定性を知ることができる。
【0078】
吸光強度の測定時に、前記酸化防止剤が硫酸中で溶解された溶液を脱イオン水(Deionized Water)に1:9vol%/vol%で希釈して行った。その結果を
図6に示した。
【0079】
図6を参照すると、比較例1は、非常に高い吸光強度を示していることから、長期安定性が非常に低いということが分かる。反面、実施例1~実施例4及び比較例2に至るまで紫外-可視線吸光強度が次第に減少するところ、硫酸による溶解抵抗性が増加していることが分かる。
【0080】
酸化防止性及び長期安定性の評価
【0081】
前記の結果を全てまとめて下記の表3に示す。
【0082】
【0083】
前記表3を参照すると、酸化防止剤の優れた酸化防止性と長期安定性を同時に確保するためには、酸化防止剤の結晶サイズが5.5nm~60nm、BET表面積が10m2/g~190m2/gになるように、下記化学式1で表されるSDCを100℃~1,000℃の温度で10分~10時間熱処理しなければならないということが分かる。
【0084】
[化学式1]
SmxCe1-xO2-δ
【0085】
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは、前記化学式1の前記化合物を電気的中性にする酸素空孔値である。
【0086】
以上、添付の図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施できるということを理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0087】
10 電解質膜
20 電極