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  • 特許-磁気吸着防音シートを用いた遮音方法 図1
  • 特許-磁気吸着防音シートを用いた遮音方法 図2
  • 特許-磁気吸着防音シートを用いた遮音方法 図3
  • 特許-磁気吸着防音シートを用いた遮音方法 図4
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  • 特許-磁気吸着防音シートを用いた遮音方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】磁気吸着防音シートを用いた遮音方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/32 20060101AFI20230227BHJP
   E04G 21/24 20060101ALI20230227BHJP
   E04G 23/08 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
E04G21/32 B
E04G21/24 A
E04G23/08 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018224518
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020084698
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-23
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】野本 利英
(72)【発明者】
【氏名】上田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 富士男
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3091769(JP,U)
【文献】特開平03-175022(JP,A)
【文献】特開平06-323002(JP,A)
【文献】国際公開第2004/048803(WO,A1)
【文献】特開平10-183807(JP,A)
【文献】特開平08-128232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/32
E04G 21/24
E04G 23/00-23/08
E04B 1/82-1/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の内面にライニングが施された鋼板製構造物の解体時に、前記ライニングの破砕除去部位に対応する前記鋼板の外面の部位を含む所定範囲に、遮音シートが密着積層されたゴム磁石シートを磁気吸着により密着保持させ、前記ライニングの破砕除去時に発生し、前記鋼板を介して外部に伝わる作業音を遮音低減させる磁気吸着防音シートを用いた遮音方法において、
前記磁気吸着防音シートは、前記鋼板製構造物の頂部から、前記ライニングの破砕除去部位に対応する前記鋼板の外面の部位近傍まで吊持され、前記ライニングの破砕除去作業の進行に追従して前記鋼板の外面への磁気吸着と前記鋼板の外面からの剥離、移動との盛り替え作業により磁気吸着位置を変更させることを特徴とする磁気吸着防音シートを用いた遮音方法。
【請求項2】
前記ゴム磁石シートは、ゴムフェライト磁石である請求項1に記載の磁気吸着防音シートを用いた遮音方法。
【請求項3】
前記遮音シートとして、少なくともゴムベース遮音材、鉛制振シートのいずれかが前記ゴム磁石シートに密着積層された請求項1に記載の磁気吸着防音シートを用いた遮音方法。

【請求項4】
前記磁気吸着防音シートは、遮熱シートで覆われた請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の磁気吸着防音シートを用いた遮音方法。
【請求項5】
鋼板の内面にライニングが施された鋼板製構造物の解体時に、前記ライニングの破砕除去部位に対応する前記鋼板の外面の部位を含む所定範囲に、遮音シートが密着積層されたゴム磁石シートを磁気吸着により密着保持させ、前記ライニングの破砕除去時に発生し、前記鋼板を介して外部に伝わる作業音を遮音低減させる磁気吸着防音シートを用いた遮音方法において、
前記ライニングの破砕除去部位に対応する鋼板の面密度を求め、前記ゴム磁石シートの面密度と、前記遮音シートの面密度との和を前記磁気吸着防音シートの合成面密度とし、該磁気吸着防音シートの合成面密度が前記鋼板の面密度の40%以上となるように、密着積層される前記遮音シートの枚数、シート材料を設定したことを特徴とする磁気吸着防音シートを用いた遮音方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板に磁気吸着可能な防音シートと、鋼製煙突内部のライニング材の解体作業時に、鋼製煙突の筒体外面に防音シートを磁気吸着させることで、作業に伴って発生する衝撃音等を遮音する遮音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高層の鋼製煙突の解体工事では一般に、図8に示したように、鋼製煙突50の筒本体の解体撤去に先立ち、煙突内壁に施工されているライニング55の破砕除去作業が行われる。このライニング55の破砕除去作業は、同図に示したように、煙突50の内部に図示しない煙突頂部から作業ゴンドラ53を吊り下ろし、作業ゴンドラ53上の作業員54がエアブレーカーや電動ブレーカー等の工具を用いてライニング55を破砕していた。この破砕作業時にブレーカーのピック先端が鋼製煙突50の鋼板51の内面に当たると、ピックからの振動が鋼板51に伝わり、大きな衝撃音が発生し、近隣への騒音問題が発生するおそれがある。
【0003】
この騒音問題の解決に関し、建物等の解体工事では、騒音の周囲への影響を低減するために、建物全体の周囲を防音シートや防音壁で覆うことで対応している。しかし、高さが200m以上になるような高層の鋼製煙突全体を防音シート等で覆うことは、足場の設置等を考慮した場合、現実的でない。そこで、特許文献1に開示されたような煙突ライニング層解体用防音装置が提案されている。
【0004】
この煙突ライニング層解体用防音装置は、カバー全体を煙突筒身に密着させる磁石等の密着固定手段をカバー本体の周縁部に有する遮音カバーを、位置制御装置によって操作可能な昇降駆動装置で昇降移動させて煙突内のライニング層の解体作業を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-323002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された防音装置では、分割形状のカバー本体内を減圧したり、内部にグラスウール等の遮音材を収容したり、ゴム等の防振材を収容した遮音カバーを、磁石を用いた密着固定手段を用いて煙突筒体を外周から覆うように固定する。例示された密着固定手段は、接地用磁石と切換用磁石とからなり、切換用磁石の極性を切り換えるための切換用駆動装置を有するマグネットベースを備え、切換用駆動装置で切換用磁石の位置を移動させることで、接地用磁石の着磁(励磁)、消磁動作の切換えを行い、マグネットベースでの遮音カバーの煙突筒体への固定、切り離しが行われる。このように特許文献1に開示された防音装置は、遮音カバーを煙突筒体に密着固定する手段、遮音手段、装置全体を昇降移動させる手段等の複数の機能を有する部材を組み合わせた制御運転を要する複雑な機構から構成されている。このため防音装置は大がかりなものとなり、装置コストが大きくなる。
【0007】
ところで、特許文献1に用いられている接地用磁石と切換用磁石とは焼結合金、粉末冶金等で製造された硬質の永久磁石であり、これらの磁石をカバーの枠に沿って配列して、遮音カバーを煙突筒体に密着させるように使用されている。
【0008】
上述したような硬質の磁石に対してマグネットシート等と呼ばれる、柔軟性を有した各種のシート状のゴムフェライト磁石が製品化されている。出願人は、これらのマグネットシートが比較的大きな面密度を有するゴム性素材の磁石である点に着目し、鋼板等の磁性材料の表面の所定範囲を覆うように磁気吸着させることにより、鋼板を伝播する音に対して遮音効果を果たすことができるとの知見を得た。
【0009】
そこで、本発明の目的は上述した特許文献1において、密着固定手段のみとして利用されていた磁石を遮音材料の一部とし、この磁石をベースシート(基板)として用い、ベースシートに遮音性能を有する各種のシート材料を積層する構成の防音シートの構成とし、鋼製煙突等のライニングの破砕作業時の騒音が外部に広がるのを防止するようにした磁気吸着防音シート及び防音シートを用いた遮音方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の磁気吸着防音シートを用いた遮音方法は、鋼板の内面にライニングが施された鋼板製構造物の解体時に、前記ライニングの破砕除去部位に対応する前記鋼板の外面の部位を含む所定範囲に、遮音シートが密着積層されたゴム磁石シートを磁気吸着により密着保持させ、前記ライニングの破砕除去時に発生し、前記鋼板を介して外部に伝わる作業音を遮音低減させる磁気吸着防音シートを用いた遮音方法において、前記磁気吸着防音シートは、前記鋼板製構造物の頂部から、前記ライニングの破砕除去部位に対応する前記鋼板の外面の部位近傍まで吊持され、前記ライニングの破砕除去作業の進行に追従して前記鋼板の外面への磁気吸着と前記鋼板の外面からの剥離、移動との盛り替え作業により磁気吸着位置を変更させることを特徴とする。
【0011】
前記ゴム磁石シートは、ゴムフェライト磁石であることが好ましい。
【0012】
前記遮音シートとして、少なくともゴムベース遮音材、鉛制振シートのいずれかが前記ベースシートに密着積層されることが好ましい。
【0013】
前記防音シートは、遮熱シートで覆うことが好ましい。
【0014】
他の発明として、鋼板の内面にライニングが施された鋼板製構造物の解体時に、前記ライニングの破砕除去部位に対応する前記鋼板の外面の部位を含む所定範囲に、遮音シートが密着積層されたゴム磁石シートを磁気吸着により密着保持させ、前記ライニングの破砕除去時に発生し、前記鋼板を介して外部に伝わる作業音を遮音低減させる磁気吸着防音シートを用いた遮音方法において、前記ライニングの破砕除去部位に対応する鋼板の面密度を求め、前記ゴム磁石シートの面密度と、前記遮音シートの面密度との和を前記磁気吸着防音シートの合成面密度とし、該磁気吸着防音シートの合成面密度が前記鋼板の面密度の40%以上となるように、密着積層される前記遮音シートの枚数、シート材料を設定したことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気吸着防音シートを鋼製煙突の外周に取り付けた例を示した部分斜視図。
図2図1に示した鋼製煙突に取り付けられた磁気吸着防音シートの断面形状を示した概略断面図。
図3】本発明の磁気吸着防音シートを取り付けた鋼製煙突のライニング除去作業の一例を示した部分断面図。
図4】マグネットシートによる騒音、振動低減効果確認試験の試験方法、試験体例を示した説明図。
図5】マグネットシートによる騒音低減効果結果を示したグラフ。
図6】マグネットシートによる振動低減効果結果を示したグラフ。
図7】本発明の磁気吸着防音シートの構成例を示した概略断面図。
図8】従来の鋼製煙突のライニング除去作業の一例を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の磁気吸着防音シートを用いた遮音方法の実施する形態について添付図面を参照して説明する。

【0018】
図1は、解体作業の対象となっている鋼製煙突の内面に施されているライニングの破砕除去作業部位を切り出して示した部分斜視図、図2は、磁気吸着防音シートが取り付けられた状態での鋼製煙突のライニングの破砕除去作業の一例を説明した鋼製煙突の部分断面図である。
図1には、鋼製煙突50の内面に施されていたライニング55が、すでに所定高さまで破砕除去された状態が示されている。この破砕除去作業が行われた位置の鋼製煙突50(以下、煙突50と記す。)の外周面に、本発明の磁気吸着防音シート10が取り付けられている。磁気吸着防音シート10(以下、防音シート10と記す。)は、煙突側が柔軟性を有するマグネットシートで形成されている。このため、図示したように、煙突50の曲面に沿って湾曲した状態で鋼製煙突50の外側面に密着して取り付けられている。
【0019】
図1に示した本実施形態における煙突50は直径約7m、鋼板厚さ9mm、煙突内周面に設けられているライニング55(図中、破線で表示)は煙突の規模に応じて厚さ50~100mm程度となっている。図1に示した煙突50の外側面に取り付けられた防音シート10は、一実施形態として1枚が幅1m、高さ3mの縦長長方形状のものが使用されており、複数枚の防音シート10が煙突50の外周に沿って配置され、隣接した側辺部が互いに接合されて周方向に帯状をなすように取り付けられている。防音シート10は図示したように、煙突外周の全周を帯状に覆うようにしてもよいし、煙突内部で行われるライニング55の破砕除去作業位置に合わせて適当な範囲のみに取り付けてもよい。
【0020】
各防音シート10の側部の接合のために、シートの各側辺には面テープ(図示せず)を有する接続布片15が辺方向に沿って取り付けられている。隣接する防音シート10の側辺の接続布片15同士を重ね、面テープの面接着によって防音シート10間を横方向に接続して連続されている。なお、各防音シート10間の他の接続方法として、一方の防音シート10側にD環を取り付け、隣り合う防音シート10側に布ベルトを取り付け、延びた布ベルトをD環に結束して防音シート10間を接合したり、その他の各種の接合手段を採用することができる。
【0021】
本実施の形態では、作業の安全のために、図示しない上部架台から下ろした複数本の吊りワイヤー20で各防音シート10が吊持されている。また、防音シート10の取付作業、取付位置移動作業のために作業ゴンドラ23が配備されている。作業員24は、図3に示したように、作業ゴンドラ23に乗って防音シート10の煙突外面への貼り付け(磁気吸着)、煙突外面からの剥離等の作業を安全に行うことができる。
【0022】
図2は、煙突50の外周に取り付けられた防音シート10の構成を説明するために、煙突50および防音シート10を断面で示した部分断面図である。なお、図2では、説明のために、1枚の防音シート10のみが設けられた状態が示されている。この防音シート10は、同図に示したように、全体が遮熱シート11で覆われ、遮熱シート11内の煙突外面側にゴム磁石製のマグネットシート12が、マグネットシート12の外面に面接着により積層されたマグネットシート12と同大の遮音シート13とが密着されて収容されて1枚のシート状をなしている。
【0023】
本実施形態では、遮熱シート11は、アルミ蒸着したフィルムをポリエステル織布に接着し、その外側を塩化ビニルフィルムでラミネートした遮熱、耐候性を有するシートである。マグネットシート12は、通常の柔軟性、可撓性を有するシート状のゴムフェライト磁石で、フェライトとエラストマーとをシート状に一体成形して、所定の着磁パターンで着磁させた磁気吸着力を有するシートである。本実施形態のマグネットシート12は異方性パターンに着磁されている。遮音シート13は、ブチルゴム等の合成ゴムを基材としたシート状の防音、防振材で、本実施形態では十分な防音性を確保するために、比重2.5~2.8の高比重シートが用いられている。
【0024】
上述のように構成された防音シート10は、使用される各種シートの面密度を因子とした遮音効果の確認試験(後述する。)結果をもとに決定されている。すなわち、本発明では、防音シート10の面密度が防音シート10を取り付ける対象の鋼板の面密度の40%以上となるように、防音シート10を構成する遮音性能を有するシート種類、厚さが決定されている。図2に示した防音シート10の場合、取り付け対象の鋼板が板厚9mm(面密度:70.7kg/m2)であるので、鋼板の面密度の40%(28.2kg/m2)以上となるように、防音シート10を構成するシート(マグネットシート12+高比重遮音シート13)のシート厚が決定されている。具体的には、シート厚3mm(面密度:11.1kg/m2)のマグネットシート12と、シート厚8mm(面密度:20.8kg/m2)の高比重遮音シート13の2枚のシートを一体的に面接着して積層された防音シート10(合成面密度:31.9kg/m2)が使用されている。
【0025】
図3は、本発明の防音シート10を、従来のライニング55の破砕除去作業(図8)に適用した状態を示している。同図に示したように、本発明の防音シート10は煙突50内で行われているライニング55の破砕除去作業位置に相当する煙突50の外周面に、図1に示したようにほぼ全周にわたって取り付けられている。上述したように、防音シート10の煙突外面への貼り付け(磁気吸着)、煙突外面からの剥離等の作業は、煙突50内に吊られた作業ゴンドラ53と同様に煙突頂部から吊られた作業ゴンドラ23に乗った作業員24によって行われる。
【0026】
以下、煙突外面に貼り付けられた防音シート10の取付位置の盛り替え作業について、図3を参照して説明する。ライニング55の破砕除去作業は、作業性を考慮してライニング55の除去ペースに合わせて煙突内部の作業ゴンドラ53を徐々に降下させながら行われる。防音シート10の貼り付け位置の盛り替え作業は、防音シート10の高さ(たとえば3m)の範囲のライニング55の除去が完了する毎に行われる。その際、隣接した防音シート10の側辺の接続布片15(図1)の接合を解き、煙突外面に磁気吸着している防音シート10を1枚ずつ上辺側から剥がす。防音シート10を煙突外面から剥がす作業に合わせて、防音シート10に取り付けられている吊りワイヤー20を弛める。防音シート10は剥がれた部分の自重により、残りの磁気吸着している部分も煙突外面からめくれるように剥がれ、防音シート10全体が一時的に吊りワイヤー20に吊持される。その後吊りワイヤー20を防音シート10の高さ分だけ繰り出すことにより、吊られて保持された防音シート10は次の高さまで下ろされ、作業ゴンドラ23上の作業員24は防音シート10を次の高さの煙突外面に容易に貼り付けることができる。左右に隣接する防音シート10も同じ高さに並ぶように配置し、シート側辺の接続布片15を用いて防音シート10同士を接合することで所定高さに揃えて煙突外面を帯状に覆うことができる。
【0027】
上述したように、本発明では、煙突外面に取り付けられる防音シートの面密度が防音シートを取り付ける対象の鋼板の面密度に対して40%以上となるように、防音シートを構成する遮音性能を有するシート種類、厚さが決定されている。この防音シートの好適な面密度の範囲を得るために行った確認試験について、図4図6を参照して説明する。
図4(a)は、外面の一部に防音シートとしての1枚のマグネットシートを貼付した実大模型煙突70(煙突直径φ=7m、鋼板厚t=9mm)の一部断面を示している。確認試験では、複数枚を積層することでシート厚を変えたマグネットシート72を、模型煙突70の外面に貼り付けた状態で、煙突内面側から打撃振動を煙突に加え、そのとき模型煙突70からL=5m離れた位置で騒音計75、振動計76(地表面に設置)を用いて音圧レベル、振動加速度レベルを測定する。なお、模型煙突70に加えられる打撃振動は、実際の煙突のライニング破砕除去作業時に鋼板に内部から作用する打撃振動と同等の打撃エネルギーとなるように設定されている。
【0028】
表1は、確認試験において模型煙突70に貼付するマグネットシート72の諸元を示している。確認試験では、表1に示したシート厚(積層枚数)を変えた3種類(1枚、3枚、5枚)のマグネットシート72を用いた。使用したマグネットシート72の密度は3.7t/m3、縦×横:1.0×0.5m、厚さ:3mm/枚である。また、マグネットシート72の面密度と鋼板の面密度との比(面密度比)を評価の指標として用いたため、同表にそれぞれの厚さ(積層枚数)でのマグネットシート72の面密度、面密度比を並記している。
【0029】
【0030】
試験結果として図5図6を得た。図5は、騒音低減効果を確認するために、マグネットシート72の枚数(なし、1枚、3枚、5枚)における騒音測定結果を1/3オクターブバンド分析した音圧レベルの差を示したグラフである。図6は、振動低減効果を確認するために、マグネットシート72の枚数(なし、1枚、3枚、5枚)における騒音測定結果を1/3オクターブバンド分析した音圧レベルの差を示ししたグラフである。
【0031】
今回想定している発生作業騒音は、斫りブレーカー等が鋼板に当たる際に発生する比較的高温の非定常衝撃音であるが、図5において、マグネットシート72を3枚重ねした状態で、1/3オクターブバンド中心周波数1000~8000(Hz)において、体感的に騒音低減効果として認められる程度(約2dB)の音圧レベルの低減効果が認められた。図6に示された発生作業振動に関しても、マグネットシート72を3枚重ねした状態で、1/3オクターブバンド中心周波数のほぼ全域にわたって約2dBの振動加速度レベルの低減効果が認められた。
【0032】
これらの低減効果が認められるマグネットシート72は、表1のシート番号2の防音シートと同等以上の面密度を有するシートである。このことから、煙突外面に取り付けられる防音シートとしては、鋼板製の煙突に磁気吸着可能なマグネットシートをベースシート(基板)とし、磁気吸着させる鋼板の面密度に対する面密度比が40%以上となるように、マグネットシートよりも遮音性を有する、たとえば制振シート、遮音シート等として既製品化されているシートを密着積層させて所定の遮音性能を確保することとした。
【0033】
以下、表2と図7各図をもとに各種の構成からなる防音シートの例について説明する。表2は、防音シートA,B,Cの諸元の一覧である。図7各図は、鋼板製の煙突に磁気吸着可能なマグネットシートをベースシートとし、磁気吸着させる鋼板の面密度に対する面密度比が40%以上となるように、ベースシートに遮音性を有する各種の既製品シートを積層させて所定の遮音性能を有するようにした実施形態例としての防音シートA,B,Cを示した断面図である。
【0034】
【0035】
図7(a)は、図2に示した防音シート10と同一構成で、シート厚3mm(面密度:11.1kg/m2)のマグネットシート12をベースシートとし、このベースシートにシート厚8mm(面密度:20.8kg/m2)の高比重遮音シート13を一体的に面接着して積層された防音シートA(合成面密度:31.9kg/m2)の断面構成を示している。この防音シートAの鋼板に対する面密度比は0.45(45%)である。同図(b)は、シート厚3mm(面密度:11.1kg/m2)のマグネットシート12のベースシートと、シート厚2mm(面密度:22.8kg/m2)の鉛薄板からなる制振シート14の2枚を一体的に面接着して積層された防音シートB(合成面密度:33.9kg/m2))の断面構成を示している。この防音シートBの鋼板に対する面密度比は0.48(48%)である。同図(c)は、シート厚3mm(面密度:11.1kg/m2)のマグネットシート12のベースシートと、シート厚1mm(面密度:11.4kg/m2)の鉛薄板からなる制振シート14と、シート厚3mm(面密度:7.8kg/m2)の高比重遮音シート13の3枚を一体的に面接着して積層された防音シートC(合成面密度:30.3kg/m2)の断面構成を示している。この防音シートCの鋼板に対する面密度比は0.43(43%)である。なお、これらの防音シートA,B,Cの全体は遮熱シート11で覆われている。
【0036】
以上で説明した防音シートでは、面密度を増加させるために遮音性を有する高密度シートが使用されているが、これらのシート間に吸音効果を有する所定厚のロックウール、グラスウール等の吸音材を介装させることも可能である。
【0037】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
10 防音シート
11 遮熱シート
12 マグネットシート
13 遮音シート
14 制振シート
50 鋼製煙突
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8