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特許7233217酸化亜鉛および銀を有する積層膜の一括エッチング液組成物
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  • 特許-酸化亜鉛および銀を有する積層膜の一括エッチング液組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】酸化亜鉛および銀を有する積層膜の一括エッチング液組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20230227BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20230227BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230227BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20230227BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20230227BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230227BHJP
   H05B 33/06 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
H01L21/308 F
H01L21/306 F
H05B33/14 A
H05B33/28
H05B33/22 A
H05B33/10
H05B33/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018248462
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020107870
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遼
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 寿和
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】増茂 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 暁
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-084680(JP,A)
【文献】特開2009-235438(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066750(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
H01L 21/306
H10K 50/00
H05B 33/28
H10K 50/16
H05B 33/10
H05B 33/06
C23F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板の前記両膜を一括でエッチングするのに用いるエッチング液組成物であって、(A)過酸化水素、(B)銀錯化剤、および(C)水を含有する、前記エッチング液組成物。
【請求項2】
酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物がZnO(酸化亜鉛)、ZSO(亜鉛-ケイ素-酸化物)、AZO(アルミニウム-亜鉛-酸化物)、GZO(ガリウム-亜鉛-酸化物)、IGZO(インジウム-ガリウム-亜鉛-酸化物)、IZO(インジウム-亜鉛-酸化物)、IZTO(インジウム-亜鉛-錫-酸化物)、ZGTO(亜鉛-ガリウム-錫-酸化物)およびZSTO(亜鉛-ケイ素-錫-酸化物)からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物がZSO(亜鉛‐ケイ素‐酸化物)である、請求項1または2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
銀錯化剤が窒素原子を含むカルボン酸、窒素原子を含むカルボン酸塩、アンモニアおよびアンモニウム塩からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
酸性化合物を1種または2種以上含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
硫酸、硫酸イオン、硝酸、硝酸イオンらなる群から選択される1種以上を含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項7】
塩化物、臭化物およびヨウ化物ならびにこれらのイオンからなる群から選択される1種以上を含まない、請求項1~6のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項8】
pHが2.0~10.0である、請求項1~7のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項9】
pHが7.0~10.0である、請求項1~8のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項10】
過酸化水素の濃度が0.1~10.0重量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項11】
銀錯化剤の濃度が0.001~0.1mol/Lである、請求項1~10のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項12】
酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜からなる層の厚み方向に対するエッチング速度が10nm/min以上600nm/min未満である、請求項1~11のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングする方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物と、銀または銀合金とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングする工程を含む、配線基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオードや太陽電池などに使用される、酸化亜鉛および銀を有する積層膜の一括エッチング液組成物、ならびに、該エッチング液組成物を用いる基板のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(OLED:Organic Light Emitting Diode)において酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とを含む積層膜がしばしば利用されている(図1)。透明金属酸化物の膜は、電子輸送層や電極の材料として用いられ、中でも酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物は、従来材料のITO(インジウム-スズ-酸化物)よりも透明性に有利な点がある他、ZSO(亜鉛―ケイ素-酸化物)は、電子輸送層として高い電子移動度を有する。また、銀または銀合金は、電極材料として用いられ、反射率が高く、電気抵抗が小さい特性を有する。かかる積層膜は、OLEDのみならず、太陽電池などにおいても利用が期待されている。
【0003】
OLEDにおける積層膜の形成工程は、通常、基板上に銀または銀合金の膜と透明金属酸化物の膜を形成する工程、この上にフォトレジストを塗布する工程、フォトレジストをマスクとして選択的な領域をエッチングし、所定のパターン形状に加工する工程、残留するフォトレジストを除去する工程を含む。
【0004】
このエッチング工程において用いる、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とを含む積層膜に対するエッチング液として、リン酸、硝酸、酢酸、アゾール系化合物および脱イオン水を含むエッチング液組成物(特許文献1)、リン酸、硝酸、酢酸、リン酸塩、硝酸塩および/または酢酸塩および脱イオン水を含むエッチング液組成物(特許文献2)、塩化第二鉄、塩化第二銅、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウムアンモニウム、硝酸セリウム、過酸化水素から選択される酸化剤と、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸から選択される酸とを含むエッチング液組成物(特許文献3)、過酸化水素、硫酸および含窒素化合物を含むエッチング液組成物(特許文献4)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-092439号公報
【文献】特開2016-167581号公報
【文献】特開2009-235438号公報
【文献】特許第5845501号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜に対して、硝酸や硫酸などの強酸を含むエッチング液を用いる場合、酸化亜鉛は薬品耐性が弱いため、酸化亜鉛または酸化亜鉛を含有する透明金属酸化物の膜のエッチング速度が、銀または銀合金の膜に対するエッチング速度よりも数倍速く、両膜のサイドエッチングの差が大きくなってしまう問題に直面した。サイドエッチングの差が大きいと、好適なデバイスを製造することができない。
また、各膜をそれぞれエッチングする場合、上記問題を解決できるが、両膜を一括でエッチングする場合と比較して、処理工程が増加する上、各膜用のエッチング液や装置が必要となるため、処理コストが増大することが懸念された。
【0007】
そこで、本発明者らは、酸化亜鉛または酸化亜鉛を含有する透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜に対して、両膜を一括でエッチングでき、さらに両膜に対するエッチング速度を制御できるエッチング液組成物を提供することを課題として検討を進めた。すなわち、本発明の課題は、酸化亜鉛または酸化亜鉛を含有する透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜に対して、簡便かつ経済的に両膜のサイドエッチングの差を縮小しながらエッチングすることができるエッチング液組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意研究する中で、本発明者らは、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板の前記両膜を一括でエッチングするのに用いるエッチング液組成物であって、過酸化水素、銀錯化剤、および水を含有する、前記エッチング液組成物が、両膜を一括でエッチングでき、さらに両膜に対するエッチング速度を制御し、両膜のサイドエッチングの差を縮小できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明者らは、過酸化水素、銀錯化剤および水を含有するエッチング液組成物が、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜を一括エッチングし、さらに両膜に対するエッチング速度を制御できる理由を以下のように推定している。
すなわち、銀または銀合金の膜は、酸化と錯化を繰り返して溶解されるところ、過酸化水素と銀錯化剤を用いることにより、酸性から弱塩基性のエッチング液で銀の酸化と錯化とを同時に行うことが可能となった。これにより、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜のエッチング速度の制御ができない強酸性水溶液を回避でき、両膜の一括エッチングおよび両膜に対するエッチング速度の制御が可能になったと推定される。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] 酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板の前記両膜を一括でエッチングするのに用いるエッチング液組成物であって、(A)過酸化水素、(B)銀錯化剤、および(C)水を含有する、前記エッチング液組成物。
[2] 酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物がZnO(酸化亜鉛)、ZSO(亜鉛-ケイ素-酸化物)、AZO(アルミニウム-亜鉛-酸化物)、GZO(ガリウム-亜鉛-酸化物)、IGZO(インジウム-ガリウム-亜鉛-酸化物)、IZO(インジウム-亜鉛-酸化物)、IZTO(インジウム-亜鉛-錫-酸化物)、ZGTO(亜鉛-ガリウム-錫-酸化物)およびZSTO(亜鉛-ケイ素-錫-酸化物)からなる群から選択される1種または2種以上である、前記[1]に記載のエッチング液組成物。
[3] 酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物がZSO(亜鉛‐ケイ素‐酸化物)である、前記[1]または[2]に記載のエッチング液組成物。
【0011】
[4] 銀錯化剤が窒素原子を含むカルボン酸、窒素原子を含むカルボン酸塩、アンモニアおよびアンモニウム塩からなる群から選択される1種または2種以上である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
[5] 酸性化合物を1種または2種以上含む、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
[6] 硫酸、硫酸イオン、硝酸、硝酸イオンらなる群から選択される1種以上を含まない、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
[7] 塩化物、臭化物およびヨウ化物ならびにこれらのイオンからなる群から選択される1種以上を含まない、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【0012】
[8] pHが2.0~10.0である、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
[9] pHが7.0~10.0である、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
[10] 過酸化水素の濃度が0.1~10.0重量%である、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
[11] 銀錯化剤の濃度が0.001~0.1mol/Lである、前記[1]~[10]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
[12] 酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜からなる層の厚み方向に対するエッチング速度が10nm/min以上600nm/min未満である、前記[1]~[11]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【0013】
[13] 前記[1]~[12]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングする方法。
[14] 前記[13]に記載の方法を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングすることにより得られる配線基板。
[15]
前記[1]~[12]のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物と、銀または銀合金とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングする工程を含む、配線基板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエッチング液組成物は、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板において、両膜を一括でエッチングでき、さらに両膜に対するエッチング速度を制御できる。すなわち、簡便かつ経済的に両膜のサイドエッチングの差を縮小しながらエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】OLEDにおける透明金属酸化物および銀の積層構造を示す図である。
図2】ガラス基板上にZSOとAgを製膜し、パターニングし、エッチングする工程を表す図である。
図3】実施例14の結果を示す図である。
図4】比較例6の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、本発明の好適な実施形態に基づき、詳細に説明する。
本発明は、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板の前記両膜を一括でエッチングする(以下、「積層膜の一括エッチング」という)のに用いるエッチング液組成物であって、(A)過酸化水素、(B)銀錯化剤、および(C)水を含有する、前記エッチング液組成物に関する。
【0017】
本発明のエッチング液組成物に用いられる(A)過酸化水素は、銀または銀合金の膜中の銀を酸化する作用を主に有する。
過酸化水素の含有量は、特に制限されないが、0.01~10重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましく、0.1~5重量%であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のエッチング液組成物に用いられる(B)銀錯化剤は、銀または銀合金の膜中の銀を錯化する作用と酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜中の亜鉛を錯化する作用を主に有する。本発明による銀または銀合金の膜のエッチングは、上記の過酸化水素による酸化と銀錯化剤による錯化を繰り返し、銀を溶解することにより行われ、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜のエッチングは、酸性から弱塩基性水溶液中で溶解することに加え、銀錯化剤による亜鉛の錯化によって溶解を促進することにより行われる。
【0019】
銀錯化剤としては、銀イオンと結合して銀錯体を形成するものであれば特に制限されないが、窒素原子を含むカルボン酸、窒素原子を含むカルボン酸塩、アンモニアおよびアンモニウム塩が好ましい。窒素原子を含むカルボン酸としては、trans-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸(CyDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリメチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸アミノ酸、プロピレンジアミン四酢酸、ブチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミンプロピオン酸、1,6-ヘキサメチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン四酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、(ヒドロキシエチル)エチレン-ジアミン三酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ピコリン酸、ニコチン酸などが挙げられ、アミノ酸としてはロイシン、アルギニン、リシン、ヒスチジンなどが挙げられる。これらのうち、CyDTA、EDTA、ロイシン、アルギニン、ニコチン酸およびアンモニアがより好ましい。銀錯化剤は単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
銀錯化剤の含有量は、特に制限されないが、0.001~0.1mol/Lであることが好ましく、0.02~0.08mol/Lであることがより好ましく、0.005~0.05mol/Lであることがさらに好ましい。
【0020】
本発明のエッチング液組成物は、(C)水を含有する。水は、(A)過酸化水素、(B)銀錯化剤および下記の含有し得る追加成分以外の残部を形成する。
【0021】
本発明のエッチング液組成物のpHは、特に制限されないが、2.0~10.0であることが好ましく、7.0~10.0であることがより好ましい。pHが酸性または弱酸性~弱塩基性の範囲において、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜を好ましいエッチング速度でエッチングすることができる。
本発明のエッチング液組成物のpHを調整するために、塩基性化合物を使用してもよい(pH調整剤)。塩基性化合物としては、特に制限されないが、四級アンモニウム水酸化物であることが好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であることがより好ましい。
【0022】
本発明のエッチング液組成物は、酸性化合物を1種以上含有すると、積層膜の一括エッチングのエッチング速度の制御の改善が期待できるため好ましい。
酸性化合物としては、特に限定されないが、リン酸、酢酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、フィチン酸、エチドロン酸、アレンドロン酸、フェニルホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などが挙げられ、リン酸、酢酸およびNTMPが好ましい。酸性化合物は単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
酸性化合物として強酸性のものを用いる場合、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜のエッチング速度を適切に制御できない恐れがあり、中でも硫酸または硫酸イオンを用いる場合は、これにとどまらず、銀または銀合金の膜を硫化して、銀反射率の低下を招く恐れがある。また、硝酸または硝酸イオンを用いる場合は、銀および銀錯化剤と混在した際に、エッチング液が不安定化する恐れがある。したがって、本発明において、硫酸、硫酸イオン、硝酸、硝酸イオンからなる群から選択される1種以上を含まないことが好ましい。
【0023】
本発明のエッチング液組成物において、フッ素を除くハロゲン化物を用いる場合、銀または銀合金の膜中の銀と反応して不溶性のハロゲン化銀を形成する恐れがある。したがって、本発明において、塩化物(例えば、塩酸、塩化ナトリウム、塩素酸、次亜塩素酸、過塩素酸など)、臭化物(例えば、臭化水素、臭化カリウム、臭素酸、過臭素酸など)およびヨウ化物(例えば、ヨウ化水素、ヨウ化カリウム、ヨウ素酸、過ヨウ素酸など)ならびにこれらのイオンからなる群から選択される1種以上を含まないことが好ましい。その他、塩素、臭素およびヨウ素を含まないことが好ましい。
【0024】
本発明のエッチング液組成物は、積層膜の一括エッチングを妨げない限り、pH調整剤および酸性化合物以外の追加成分を含んでもよく、例えば、界面活性剤、溶剤、銀防食剤などが挙げられる。界面活性剤としては、リン酸エステル基またはカルボン酸基を有するアニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、第四級アンモニウム塩を有するカチオン性界面活性剤が好ましく、リン酸エステル基を有するアニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤がより好ましい。溶剤としては、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールが好ましく、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノ-n‐ブチルエーテルがより好ましい。銀防食剤としては、アゾール化合物が好ましい。
【0025】
本発明のエッチング液組成物のエッチング対象は、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板の前記両膜である。積層膜の形態は、基板側から銀または銀合金の膜の上に酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜が隣接していてもよいし、基板側から酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜の上に銀または銀合金の膜が隣接していてもよい。また、積層膜の膜数も限定されないが、特に、基板側から銀または銀合金の膜の上に酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜が隣接している態様、あるいは、基板側から酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜の上に銀または銀合金の膜が隣接し、さらにその上に酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜が隣接している態様が望ましい。
【0026】
酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜は、特に制限されないが、透明性に優れることから、ZnO(酸化亜鉛)、ZSO(亜鉛-ケイ素-酸化物)、AZO(アルミニウム-亜鉛-酸化物)、GZO(ガリウム-亜鉛-酸化物)、IGZO(インジウム-ガリウム-亜鉛-酸化物)、IZO(インジウム-亜鉛-酸化物)、IZTO(インジウム-亜鉛-錫-酸化物)、ZGTO(亜鉛-ガリウム-錫-酸化物)、ZSTO(亜鉛-ケイ素-錫-酸化物)が好ましく、ZSOがより好ましい。
銀または銀合金の膜は、特に制限されないが、Ag、Ag-PdおよびAg-Pd-Cuなどが挙げられる。
【0027】
酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜厚は、特に制限されないが、5~500nmであることが好ましく、10~200nmであることがより好ましい。また、銀または銀合金の膜厚も、同様に特に制限されないが、5~500nmであることが好ましく、10~300nmであることがより好ましく、50~150nmであることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のエッチング液組成物によってエッチングされる積層膜基板の基板表面を形成する層は、特に制限されないが、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、無アルカリガラス、石英、ソーダライムガラス、ポリイミド、PET樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。
【0029】
本発明のエッチング液組成物による、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜の厚み方向のエッチング液速度は、特に制限されないが、10nm/min以上600nm/min未満であることが好ましく、銀または銀合金の膜の厚み方向のエッチング速度も、同様に特に制限されないが、40nm/min以上1000nm/min未満であることが好ましい。両膜のサイドエッチングの差を小さくする観点から、いずれかの膜のみが好ましいエッチング速度を満たすだけでは十分ではなく、両膜がともに好ましいエッチング速度を満たすことが好ましい。
【0030】
また、本発明は、本発明のエッチング液組成物を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングする方法にも関する。加えて、本発明は、該方法を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物の膜と、銀または銀合金の膜とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングすることにより得られる配線基板にも関する。
さらに、本発明は、本発明のエッチング液組成物を用いて、酸化亜鉛または酸化亜鉛含有の透明金属酸化物と、銀または銀合金とが隣接する積層膜基板を一括でエッチングする工程を含む、配線基板の製造方法にも関する。
【実施例
【0031】
次に、本発明のエッチング液組成物について、以下に記載する実施例および比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<評価1:ZSOおよびAg両膜に対するエッチング速度の制御>
[酸化亜鉛含有の透明金属酸化物膜(ZSO)のエッチング速度の評価方法]
ガラス基板上にZSO(50nm)を成膜し、6mm×8mmの大きさにカットした。ZSO膜の成膜は、RFスパッタリング法により、スパッタリングのターゲットには、モル比でZn:Si=80:20の組成のものを使用した。ターゲットサイズは、80mmφであった。成膜時のスパッタガスは、ArとOの混合ガスとし、スパッタガスの圧力は、0.4Paとした。なお、Arの流量は39.9sccmとし、Oの流量は0.1sccmとした。RFプラズマパワーは、80Wであった。
続いて、カットした基板の一部をテープでマスキングした。表1および表2に記載のエッチング液組成物を調製後、該エッチング液組成物を30℃で20分間温浴させた。基板を各エッチング組成物約40mL中に浸漬し、30℃で攪拌してエッチングを行った。エッチング後の各基板を超純水で10秒間水洗し、窒素気流下で乾燥させた。各基板のマスキングテープを剥がした後、マスクされていた領域と露出していた領域との膜厚差を、触針式段差計(Bruker社製、型番:DektakXT)を用いて測定した。計測された膜厚差を、エッチング液に浸漬した時間で除することで、エッチング速度(nm/min)の算出を行った。
【0033】
[銀膜(Ag)のエッチング速度の評価方法]
ガラス基板上にプラズマCVDにより窒化ケイ素(SiNx)(200nm)を成膜し、その上にDCスパッタによりAg(100nm)を成膜し、基板を6mm×6mmの大きさにカットした。表1および表2に記載のエッチング液組成物を調製し、該エッチング液組成物を30℃で20分間温浴させた。基板を各エッチング液組成物約40mL中に浸漬し、30℃で攪拌してエッチングを行った。目視で膜の消失を確認し、エッチングの開始から完了までの時間(ジャストエッチングタイム:J.E.T.)を計測した。Ag膜厚をJ.E.T.で除することで、エッチング速度(nm/min)の算出を行った。エッチング後の各基板は超純水で10秒間水洗し、窒素気流下で乾燥させた。
【0034】
[ZSOおよびAg両膜のエッチング速度の制御の可否の評価方法]
ZSOおよびAgのエッチング液速度を適切に制御できているか否かを次のように判断した。すなわち、ZSOのエッチング速度が、10nm/min以上600nm/minであり、かつ、Agのエッチング速度が、40nm/min以上1000nm/min未満である場合は、両膜のエッチング液速度を適切に制御できている(〇)、どちらかでも満たしていない場合は、両膜のエッチング液速度を適切に制御できていない(×)とした。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表1の実施例1~4より、過酸化水素、錯化剤および水を含み、pHが8.0であるエッチング液組成物が、ZSOおよびAg両膜のエッチング速度を制御しながら、両膜を一括エッチングできることが示された。また、過酸化水素の濃度を調整することにより、各膜のエッチング速度を調整できることも示された。
実施例5~8より、過酸化水素、錯化剤、水および酸性化合物を含み、pHを中性~弱アルカリ性に調製したエッチング液組成物が、ZSOおよびAgの両膜のエッチング速度を制御しながら、両膜を一括エッチングできることが示された。
実施例9~13より、過酸化水素、様々な錯化剤および水を含み、pHが3~8のエッチング液組成物が、ZSOおよびAg両膜のエッチング速度を制御しながら、両膜を一括エッチングできることが示された。
実施例12および13より、錯化剤の種類によって、各膜のエッチング液速度を調整できることが示された。
実施例2ならびに比較例1および2より、過酸化水素または錯化剤のいずれかが欠けることにより、ZSOおよびAg両膜のエッチング液速度を適切に制御できないことが示された。
【0038】
比較例3~5は、それぞれ先行技術文献に記載のエッチング液組成物であり(比較例3:特許文献3、比較例4:特許第4478383号、比較例5:特許文献4)、ZSO/Ag両膜のエッチング速度を適切に制御できないことが示された。
【0039】
<評価2:ZSOおよびAg両膜のサイドエッチングの差>
(実施例14の評価方法)
図2に示すように、ガラス基板(1)上に、SiNx(200nm)(2)、Ag(100nm)(3)、ZSO(50nm)(4)を順に成膜し、その上にレジスト(5)を用いてパターンニングし、15mm×15mmに基板をカットした。実施例9に記載のエッチング液組成物を調製後、該エッチング液組成物を30℃で20分間温浴した。基板をエッチング液約40mLに浸漬し、30℃で攪拌してエッチングを行った。J.E.T.は45秒であった。68秒間エッチング液に浸漬させた後、基板を超純水で10秒間水洗し、窒素気流下で乾燥させた。基板を裁断後、断面をFE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、型番:SU8220)で観察した。FE-SEMで観察された断面形状は、図3のとおりである。ZSOのサイドエッチング量(S.E.)は0.62μm、銀のS.E.は0.58μmであった。
【0040】
(比較例6の評価方法)
図2に示すように、ガラス基板(1)上に、SiNx(200nm)(2)、Ag(100nm)(3)、ZSO(50nm)(4)を順に成膜し、その上にレジスト(5)を用いてパターンニングし、15mm×15mmに基板をカットした。比較例4に記載のエッチング液組成物を調製後、該エッチング液組成物を30℃で20分間温浴した。基板をエッチング液約40mLに浸漬し、30℃で攪拌してエッチングを行った。J.E.T.は1秒であった。10秒間エッチング液に浸漬させた後、基板を超純水で10秒間水洗し、窒素気流下で乾燥させた。基板を裁断後、断面をFE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製、型番:SU8220)で観察した。FE-SEMで観察された断面形状を図4のとおりである。ZSOのS.E.は5.0μm、銀のS.E.は2.9μmであった。
【0041】
図3および4より、本発明のエッチング液組成物を用いてエッチングした積層膜は、ZSOおよびAgのS.E.の差が小さく、良好な形状を示した。一方で、比較例のエッチング液組成物を用いてエッチングした積層膜は、ZSOおよびAgのS.E.の差が大きく、形状は不良であった。
図1
図2
図3
図4