(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】液封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20230227BHJP
【FI】
F16F13/10 J
(21)【出願番号】P 2019027285
(22)【出願日】2019-02-19
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】上間 涼介
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-196630(JP,A)
【文献】特開2008-281118(JP,A)
【文献】特開2010-101466(JP,A)
【文献】特開2013-002456(JP,A)
【文献】特開2013-148192(JP,A)
【文献】特開2009-085313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00-13/30
B60K 1/00-6/12
B60K 7/00-8/00
B60K 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて配置される第1取付部材および第2取付部材と、
前記第1取付部材と前記第2取付部材との間を連結する弾性体からなる防振基体と、
前記防振基体によって一部が囲まれた液室と、
前記液室を前記防振基体側の主液室とその反対側の副液室とに仕切る可動部材と、
前記可動部材の前記主液室側に配置され前記可動部材の前記主液室側への移動を規制する第1部材と、
前記可動部材の前記副液室側に配置され前記可動部材の前記副液室側への移動を規制する第2部材と、を備え、
前記第1部材および前記第2部材にそれぞれ形成された第1透孔を通して前記主液室および前記副液室の圧力が前記可動部材に及ぼされる液封入式防振装置であって、
前記可動部材は、前記第1部材と前記第2部材との間に積み重ねられた複数の可動板からなり、
前記複数の可動板は、厚さ方向に互いに重なり合う第1可動板と第2可動板とを含み、
前記第1可動板および前記第2可動板は、それぞれ、離隔部
と、前記離隔部に隣接する位置に設けられた、前記可動板の厚さ方向に互いに接触する接触部と、を含み、
前記接触部には、前記可動板の厚さ方向に貫通する穴が形成され、
前記第1部材には、前記穴に連通する第2透孔が形成され、
前記離隔部は、前記主液室と前記副液室との間に圧力差がないときに、前記可動板の厚さ方向に互いに離隔
し、
前記主液室の圧力が前記副液室の圧力よりも高いときに、前記接触部は前記第2部材に密着して前記穴の内面に前記主液室の圧力が及ぼされ、
前記主液室の圧力が前記副液室の圧力よりも低いときに、前記穴の前記内面に前記副液室の圧力が及ぼされ、
前記第1可動板に設けられた前記接触部の厚さは、前記第2可動板に設けられた前記接触部の厚さより大きく、
前記第1可動板の前記接触部に設けられた前記穴の大きさは、前記第2可動板の前記接触部に設けられた前記穴の大きさより大きい液封入式防振装置。
【請求項2】
前記第1可動板は、前記第2可動板へ向けて突出する凸部を備え、
前記第2可動板は、前記凸部が入る凹部が形成され、
前記凹部および前記凸部は前記接触部を構成する請求項
1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記接触部は、前記可動板の厚さ方向に圧縮された状態で前記第1部材と前記第2部材との間に配置されている請求項
1又は2に記載の液封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体が封入された液封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性体からなる防振基体によって液室の一部が囲まれた液封入式防振装置が知られている。特許文献1に開示される液封入式防振装置は、液室を防振基体側の主液室とその反対側の副液室とに仕切る可動部材と、可動部材の主液室側への移動を規制する第1部材と、可動部材の副液室側への移動を規制する第2部材と、を備え、第1部材および第2部材をそれぞれ貫通する透孔を通して、主液室および副液室の圧力が可動部材に及ぼされる。この液封入式防振装置は、振動の入力による可動部材の移動、及び、可動部材の移動に伴う液体の流動によって振動を減衰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の液封入式防振装置において、振動の入力によって移動した可動部材が第1部材や第2部材に衝突したときの打音(異音)を抑制する技術が求められている。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、第1部材や第2部材が可動部材の移動を規制するときの異音を抑制できる液封入式防振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の液封入式防振装置は、互いに間隔をあけて配置される第1取付部材および第2取付部材と、第1取付部材と第2取付部材との間を連結する弾性体からなる防振基体と、防振基体によって一部が囲まれた液室と、液室を防振基体側の主液室とその反対側の副液室とに仕切る可動部材と、可動部材の主液室側に配置され可動部材の主液室側への移動を規制する第1部材と、可動部材の副液室側に配置され可動部材の副液室側への移動を規制する第2部材と、を備え、第1部材および第2部材にそれぞれ形成された第1透孔を通して主液室および副液室の圧力が可動部材に及ぼされるものである。可動部材は、第1部材と第2部材との間に積み重ねられた複数の可動板からなり、可動板には離隔部が形成され、離隔部は、主液室と副液室との間に圧力差がないときに、可動板の厚さ方向に互いに離隔する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、第1部材と第2部材との間に複数の可動板が積み重ねられる。可動板に形成された離隔部は、主液室と副液室との間に圧力差がないときに、可動板の厚さ方向に互いに離隔する。振動の入力により主液室と副液室との間に圧力差が生じて可動板が移動すると、可動板の離隔部と離隔部との間に存在する液体を移動させ、その液体が別の可動板を移動させる。可動板の運動エネルギーが、液体および別の可動板の移動のために使われるので、第1部材や第2部材によって移動が規制される可動板の運動エネルギーを小さくできる。よって、異音を抑制できる。
【0008】
可動板には、離隔部が隣接する位置に、可動板の厚さ方向に互いに接触する接触部が形成されている。接触部によって、主液室と副液室との間に圧力差がないときに離隔部と離隔部との間隔を維持できるので、離隔部による異音の抑制効果を確保できる。
接触部に形成された穴は可動板の厚さ方向に貫通し、第1部材に形成された第2透孔は穴に連通する。主液室の圧力が副液室の圧力よりも高いときに、接触部は第2部材に密着して穴の内面に主液室の圧力が及ぼされる。主液室の圧力が副液室の圧力よりも低いときに、穴の内面に副液室の圧力が及ぼされるので、逃し弁の機能を接触部が果たし、主液室にキャビテーションを生じ難くできる。接触部が逃し弁を兼ねるので、逃し弁を設けることよって離隔部の面積が狭くならないようにできる。よって第1部材や第2部材に可動部材が衝突したときの異音の抑制およびキャビテーションによる異音の抑制を両立できる。
【0009】
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、複数の可動板は、第1可動板および第2可動板が互いに隣接する。第2可動板へ向けて突出する第1可動板の凸部は第2可動板の凹部に入り、凹部および凸部は接触部を構成する。凹部および凸部によって第1可動板に対する第2可動板の位置をずれ難くできるので、離隔部と離隔部との間隔を維持できる。よって、請求項1の効果に加え、離隔部による異音の抑制効果を向上できる。
【0010】
【0011】
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、接触部は、可動板の厚さ方向に圧縮された状態で第1部材と第2部材との間に配置されているので、請求項1又は2の効果に加え、逃し弁が作動する圧力を任意に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施の形態における液封入式防振装置の断面図である。
【
図2】(a)は第1部材の平面図であり、(b)は
図2(a)のIIb-IIb線における第1部材の断面図である。
【
図3】(a)は第2部材の平面図であり、(b)は
図3(a)のIIIb-IIIb線における第2部材の断面図である。
【
図4】主液室と副液室との間に圧力差がないときの可動部材、第1部材および第2部材の断面図である。
【
図5】主液室の圧力が副液室の圧力よりも高いときの可動部材、第1部材および第2部材の断面図である。
【
図6】(a)は主液室の圧力が副液室の圧力よりも高いときの、
図1のVIaで示す部分の拡大図であり、(b)は主液室の圧力が副液室の圧力よりも低いときの拡大図である。
【
図7】(a)は液封入式防振装置を±0.5mmの振幅で正弦波加振したときの可動部材の音圧レベルであり、(b)は液封入式防振装置を±1.0mmの振幅で正弦波加振したときの可動部材の音圧レベルであり、(c)は液封入式防振装置を±1.5mmの振幅で正弦波加振したときの可動部材の音圧レベルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は一実施の形態における液封入式防振装置10の断面図である。
図1は主液室87と副液室88(後述する)との間に圧力差がない状態の液封入式防振装置10が図示されている。液封入式防振装置10は自動車のエンジン等のパワーユニットを弾性支持する装置である。
【0014】
図1に示すように液封入式防振装置10は、軸線Oの方向(軸方向)へ互いに離隔した第1取付部材11及び第2取付部材20と、第1取付部材11と第2取付部材20との間を連結する防振基体30と、を備えている。本実施形態では、第1取付部材11は振動源であるパワーユニット(図示せず)に取り付けられ、第2取付部材20は車体フレーム(図示せず)に取り付けられる。本実施形態では、液封入式防振装置10の軸線Oと鉛直線とが一致している。
図1では、紙面下側を液封入式防振装置10の軸方向下側、紙面上側を軸方向上側という。
【0015】
第1取付部材11は、鉄系材料やアルミニウム合金等で一体成形された部材であり、防振基体30が連結される円板状の基盤12と、基盤12の中央から軸方向に突出する軸13と、を備えている。軸13に形成されたねじ穴14に取り付けられたボルト(図示せず)によって、第1取付部材11はパワーユニットに取り付けられる。
【0016】
第2取付部材20は、軸方向に延びる円筒状の金属製の部材であり、第1部21、第2部22及び加締め部23を備えている。第1部21は、第1取付部材11の基盤12の直径よりも直径が大きく、第2部22が隣接している。第2部22は、第1部21よりも第1取付部材11から離れて位置し、第1部21の直径よりも直径が小さい。加締め部23は、径方向の外側および内側へ向けて屈曲した部位であり、第2部22に隣接している。
【0017】
防振基体30は、ゴム製や熱可塑性エラストマ製等の弾性体からなり、軸方向上側の小径部31と軸方向下側の大径部32とを有する略円錐台状に形成されている。小径部31は、第1取付部材11の基盤12が接着される部位である。大径部32は、小径部31より外径が大きく形成される部位であり、第2取付部材20の第1部21の内周面に大径部32の外周面が接着される。本実施形態では防振基体30はゴム製であり、第1取付部材11及び第2取付部材20に加硫接着されている。
【0018】
防振基体30は、大径部32の軸方向下側に開口する凹所33が形成されている。凹所33は、軸方向上側へ向かうにつれて次第に小径となる略擂鉢形状である。防振基体30は、大径部32の全周に亘ってシール部34が設けられている。シール部34は、軸方向下側に延びる筒状の部位であり、第2取付部材20の第2部22の内周面を覆っている。大径部32とシール部34との境界に段35が形成されている。段35は、軸方向下側を向く円環状の面である。
【0019】
ダイヤフラム40は、ゴム製や熱可塑性エラストマ製等の弾性体からなる略円形状の可撓性膜であり、外周縁に固定具41が接着されている。固定具41は略円環状に形成されている。固定具41の内周面は、全周に亘ってダイヤフラム40の外周面に固着されている。固定具41は、底部材42の縁および止め板43の縁に重ねて配置され、底部材42及び止め板43と共に加締め部23に取り付けられている。ダイヤフラム40は、防振基体30の凹所33に対向して配置される。
【0020】
底部材42は椀状の部材である。加締め部23では、底部材42の縁と止め板43の縁との間にダイヤフラム40の固定具41が挟まれている。ダイヤフラム40と底部材42との間に気室44が形成される。止め板43は円環状の部材である。加締め部23に固定された止め板43と防振基体30の段35との間に、環状部材50、第1部材60、第2部材70及び可動部材80が配置されている。
【0021】
第2取付部材20の内周面に固定されたシール部34、防振基体30及びダイヤフラム40により囲まれた空間に液体が封入され、液室81が形成される。液室81に封入される液体は、水やエチレングリコール等の流体が採用される。液体は0.1Pa・s以下の低粘性流体が好ましい。液室81は、可動部材80により、防振基体30側の主液室82とダイヤフラム40側の副液室83とに区画される。
【0022】
環状部材50は円環状の部材であり、第1環部51及び第2環部52が軸方向に並んで設けられている。環状部材50は、第1環部51が防振基体30側に配置され、第2環部52がダイヤフラム40側に配置される。第1環部51及び第2環部52の外周面はシール部34に密着している。第2環部52の内径は第1環部51の内径よりも大きい。第1環部51及び第2環部52の外周面には、軸線Oを中心とする螺旋状の溝53が形成されている。溝53は、第1環部51の軸方向の端面および第2環部52の軸方向の端面にそれぞれ開口する。第2環部52の端面の溝53の開口(図示せず)が塞がれないように、止め板43の内周縁の一部に切り込み(図示せず)が形成されている。溝53により、主液室82と副液室83とを連通するオリフィス54が形成される。
【0023】
第2環部52の径方向の内側に第1部材60及び第2部材70が配置される。第1部材60及び第2部材70は、第2環部52によって径方向の移動が規制され、第1環部51及び止め板43によって軸方向の移動が規制される。第1部材60と第2部材70との間に、複数(本実施形態では3枚)の可動板からなる可動部材80が配置されている。第1部材60は、主液室82側への可動部材80の移動を規制するための部材である。第2部材70は、副液室83側への可動部材80の移動を規制するための部材である。
【0024】
図2(a)は第1部材60の平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のIIb-IIb線における第1部材60の断面図である。第1部材60は略円板状の部材である。第1部材60には、軸方向に貫通する第1透孔61が形成されている。本実施形態では、第1透孔61は種々の大きさの扇形に各々が形成されており、複数が同心円状に配置されている。第1部材60の中心には、軸方向に貫通する第2透孔62が形成されている。第1部材60の下面の中央には、第1部材60の中心に向かうにつれて深くなる擂鉢状の窪み63が形成されている。第1部材60は、第1部材60の下面の縁に、軸方向に突出する円筒状の突出部64が設けられている。突出部64の軸方向の端面には、軸方向へ向かって突出する複数の突起(図示せず)が設けられている。
【0025】
図3(a)は第2部材70の平面図であり、
図3(b)は
図3(a)のIIIb-IIIb線における第2部材70の断面図である。第2部材70は略円板状の部材である。第2部材70には、軸方向に貫通する第1透孔71が形成されている。本実施形態では、第1透孔71は種々の大きさの扇形に各々が形成されており、複数が同心円状に配置されている。第2部材70の上面の中央には、第2部材70の中心に向かうにつれて深くなる擂鉢状の窪み72が形成されている。第2部材70の縁には、複数の穴73が形成されている。第2部材70の穴73に、第1部材60の突出部64に設けられた突起(図示せず)が挿入され、第1部材60に対する第2部材70の回転が規制される。
【0026】
図4は主液室82と副液室83との間に圧力差がないときの可動部材80、第1部材60及び第2部材70の断面図である。
図4には軸線Oを境にした片側の断面が図示されている。可動部材80は、第1可動板90と、第1可動板90と第1部材60との間に配置される第2可動板100と、第1可動板90と第2部材70との間に配置される第3可動板110と、からなる。
【0027】
第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110は、変形可能なゴム製の円形平板(弾性体)である。第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110の外径は、突出部64の内径よりも僅かに小さい。本実施形態では、第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110は同じ硬さに設定されている。
【0028】
第1可動板90は、接触部91と、接触部91に隣接する離隔部94と、を備えている。本実施形態では、第1可動板90の径方向の中央に接触部91が形成され、接触部91の周囲に円環状に離隔部94が形成されている。接触部91には軸方向に貫通する穴92が形成されており、穴92の周囲には、軸方向の両側に突出する円環状の凸部93が設けられている。離隔部94の厚さは、軸方向の両側に凸部93が形成された接触部91の厚さよりも薄い。
【0029】
第2可動板100は、接触部101と、接触部101に隣接する離隔部104と、を備えている。本実施形態では、第2可動板100の径方向の中央に接触部101が形成され、接触部101の周囲に円環状に離隔部104が形成されている。接触部101には軸方向に貫通する穴102が形成されている。穴102の直径は、第1可動板90の穴92の直径よりも小さい。接触部101のうち第1可動板90が接する面には、第1可動板90の凸部93が入る凹部103が形成されている。接触部101の厚さは離隔部104の厚さとほぼ同じであり、接触部101は凹部103の分だけ第1部材60へ向けて隆起している。
【0030】
第3可動板110は、接触部111と、接触部111に隣接する離隔部114と、を備えている。本実施形態では、第3可動板110の径方向の中央に接触部111が形成され、接触部111の周囲に円環状に離隔部114が形成されている。接触部111には軸方向に貫通する穴112が形成されている。穴112の直径は、第1可動板90の穴92の直径よりも小さい。接触部111のうち第1可動板90が接する面には、第1可動板90の凸部93が入る凹部113が形成されている。接触部111の厚さは離隔部114の厚さとほぼ同じであり、接触部111は凹部113の分だけ第2部材70へ向けて隆起している。
【0031】
第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110は、第1可動板90の凸部93が、第2可動板100の凹部103及び第3可動板110の凹部113の中にそれぞれ配置され、接触部91,101,111が互いに接触した状態で、第1部材60と第2部材70との間に積み重ねられている。主液室82と副液室83との間に圧力差がないときは、離隔部94,104,114が、可動部材80の厚さ方向に互いに離隔する。離隔部94,104,114の間は液体で満たされている。
【0032】
第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110は互いに接着されていなくても、第1可動板90の凸部93に第2可動板100及び第3可動板110の凹部103,113が係り合うことにより、第1可動板90に対する第2可動板100及び第3可動板110の位置をずれ難くできる。よって、離隔部94,104,114の間隔を維持できる。さらに、第2可動板100の接触部101は、第1部材60の窪み63の中に配置され、第3可動板110の接触部111は、第2部材70の窪み72の中に配置されるので、それらが接着されていなくても、第1部材60及び第2部材70に対する可動部材80の位置をずれ難くできる。
【0033】
第1可動板90の穴92は、第2可動板100の穴102につながり、第3可動板110の穴112につながる。第2可動板100の穴102は、第1部材60の第2透孔62に常につながっている。主液室82と副液室83との間に圧力差がないときは、第3可動板110の穴112は第2部材70に塞がれている。本実施形態では、第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110の接触部91,101,111は、軸方向(厚さ方向)に圧縮された状態で、第1部材60と第2部材70との間に挟まれている。
【0034】
第1部材60の第1透孔61は、第2可動板100のうち接触部101が当たる部位の周囲に形成されている。第2可動板100の離隔部104は、第1透孔61を塞ぐように配置されている。第1部材60の窪み63に第2可動板100の接触部101が密着するので、第1透孔61を通して主液室82の圧力が第2可動板100の離隔部104に及ぼされる。
【0035】
第2部材70の第1透孔71は、第3可動板110のうち接触部111が当たる部位の周囲に形成されている。第3可動板110の離隔部114は、第1透孔71を塞ぐように配置されている。第2部材70の窪み72に第3可動板110の接触部111が密着するので、第1透孔71を通して副液室83の圧力が第3可動板110の離隔部114に及ぼされる。
【0036】
液封入式防振装置10は、オリフィス54が、エンジンシェイク等の大振幅振動の入力時に液体が共振するようにチューニングされている。また、第1部材60及び第2部材70の第1透孔61,71は、オリフィス54で液体の共振現象が生じる振幅よりも小さな小振幅振動の入力時に液体が流動するようにチューニングされている。従って、液封入式防振装置10に振動が入力され、主液室82と副液室83との間に圧力差が生じると、オリフィス54や第1透孔61,71を通って主液室82と副液室83との間を液体が流動し、振動が減衰される。
【0037】
図5は主液室82の圧力が副液室83の圧力よりも高いときの可動部材80、第1部材60及び第2部材70の断面図である。可動部材80の離隔部94,104,114にそれぞれ隣接する接触部91,101,111は第1部材60と第2部材70との間に固定されているので、液封入式防振装置10に大振幅振動が入力され、主液室82の圧力が副液室83の圧力よりも高くなると、
図5に示すように第2可動板100の離隔部104が変形する(撓む)。そうすると離隔部104は、離隔部104と第1可動板90の離隔部94との間に存在する液体を移動させ、その液体が離隔部94を移動させる。第2可動板100の運動エネルギーが、液体および第1可動板90の移動のために使われるので、第1部材60や第2部材70が可動部材80の移動を規制するときの運動エネルギーを小さくできる。よって、第1部材60や第2部材70が可動部材80の移動を規制するときの異音を抑制できる。
【0038】
第3可動板110が第2部材70に衝突して第3可動板110の移動が第2部材70によって規制されると、第2部材70の第1透孔71は塞がれる。これと反対に、第2可動板100が第1部材60に衝突して第2可動板100の移動が第1部材60によって規制されると、第1部材60の第1透孔61は塞がれる。これにより第1部材60及び第2部材70の第1透孔61,71を通じた液体の流動は阻止される。その結果、オリフィス54を流れる液体の共振現象によって、大振幅領域の減衰係数を高くできる。
【0039】
液封入式防振装置10に小振幅振動が入力されると、小振幅領域ではオリフィス54の損失が大きくなるので、オリフィス54が実質的に閉塞される。一方、可動部材80は、接触部91,101,111を中心に離隔部94,104,114が僅かに撓み、軸方向に微小振動する。これにより液体が、第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110の縁と第1部材60の突出部64との間を通り、主液室82と副液室83との間を流動する。これにより小振幅領域の動ばね定数を低くできる。
【0040】
このときの離隔部94,104,114の変形量は小さいので、大振幅領域のときのような顕著な異音の問題は生じない。しかし、離隔部104,114が変形すると、大振幅領域のときと同様に、離隔部104と離隔部94との間に存在する液体を移動させ、離隔部114と離隔部94との間に存在する液体を移動させる。その液体が離隔部94を移動させるので、第2可動板100や第3可動板110の運動エネルギーを損失させる。よって、小振幅領域のときも離隔部94の第1部材60への衝突や離隔部114の第2部材70への衝突に伴う異音を抑制できる。
【0041】
図7は異音の抑制効果を示したコンピュータシミュレーションの結果である。
図7(a)は液封入式防振装置10を±0.5mmの振幅で軸線Oの方向へ正弦波加振したときの基準音圧に対する可動部材80の音圧レベルである。
図7(b)は液封入式防振装置10を±1.0mmの振幅で軸線Oの方向へ正弦波加振したときの可動部材80の音圧レベルである。
図7(c)は液封入式防振装置10を±1.5mmの振幅で軸線Oの方向へ正弦波加振したときの可動部材80の音圧レベルである。正弦波加振の周波数は15Hzである。
【0042】
図中、実施例は、第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110からなる可動部材80を備える液封入式防振装置10である。比較例は、離隔部94,104,114を重ねた厚さをもつ可動部材を1枚だけ第1部材60と第2部材70との間に配置した液封入式防振装置である。実施例および比較例は、可動部材の枚数が異なる以外、可動部材の直径や材質などの他の要素は同一にした。
【0043】
図7(a)から
図7(c)に示すように、振幅が±0.5mmのときに、実施例は、比較例に比べて周波数100~300Hzの範囲で音圧レベルを小さくすることができた。振幅が±1.0mm及び±1.5mmのときに、実施例は、比較例に比べて周波数100~500Hzの範囲で音圧レベルを小さくすることができた。これにより第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110からなる可動部材80を備える液封入式防振装置10は、可動部材が1枚だけの場合に比べ、可動部材80の異音を抑制できることが示された。
【0044】
図6(a)は主液室82の圧力が副液室83の圧力よりも高いときの、
図1のVIaで示す部分の拡大図(接触部91,101,111の断面図)である。
図6(b)は主液室82の圧力が副液室83の圧力よりも低いときの接触部91,101,111の断面図である。
【0045】
図6(a)に示すように、主液室82の圧力が副液室83の圧力よりも高いときは、第3可動板110の接触部111は第2部材70に密着して穴112が塞がれ、穴92,102,112の内面に主液室82の圧力が及ぼされる。主液室82と副液室83との間に圧力差がないときも、第3可動板110の接触部111は第2部材70に密着して穴112が塞がれる。
【0046】
液封入式防振装置10が搭載された自動車が段差を乗り越える等、衝撃的な大振幅振動が液封入式防振装置10に入力されると、主液室82に著しい負圧が発生し、キャビテーションが生じることがある。そうすると、気泡が消失するときに異音が生じる。
【0047】
図6(b)に示すように、主液室82の圧力が副液室83の圧力よりも低くなると、副液室83の圧力が及ぼされる第3可動板110が第2部材70から離れ、接触部111と第2部材70との間に隙間ができる。その結果、副液室83の液体が、第2部材70の第1透孔71、穴112,92,102を経て、第2透孔62から主液室82へ流入する。その結果、主液室82の負圧が軽減ないしは解消されるので、キャビテーションによる異音を抑制できる。
【0048】
即ち、主液室82の圧力が副液室83の圧力よりも低いときに、穴92,102,112の内面に副液室83の圧力が及ぼされるので、逃し弁の機能を接触部91,101,111が果たし、主液室82にキャビテーションを生じ難くできる。接触部91,101,111が、主液室82の負圧を解消する逃し弁を兼ねるので、逃し弁を設けることよって離隔部94,104,114の面積が狭くならないようにできる。よって、第1部材60や第2部材70に可動部材80が衝突したときの異音の抑制およびキャビテーションによる異音の抑制を両立できる。
【0049】
接触部91,101,111は、第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110の厚さ方向に圧縮された状態で第1部材60と第2部材70との間に配置されているので、主液室82の負圧を解消する逃し弁が作動する圧力を任意に設定できる。
【0050】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0051】
実施形態では、防振基体30及びダイヤフラム40が液室81の一部を囲む場合、即ちダイヤフラム40が副液室83の容積変化を許容する液封入式防振装置10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ダイヤフラム40を省略した液室81を作り、第1部材60及び第2部材70によって主液室82と副液室83とを仕切り、第1透孔61,71によって主液室82と副液室83とを連通した液封入式防振装置に可動部材80を適用することは当然可能である。これにより動ばね定数を低下させると共に、可動部材80の移動を第1部材60及び第2部材70が規制するときの異音を抑制できる。
【0052】
実施形態では、第1透孔61,71によって主液室82と副液室83とを連通し、さらに主液室82と副液室83とを連通するオリフィス54を環状部材50に設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。オリフィス54を省略することは当然可能である。また、底部材42を省略して、液室81に隣接する気室44を省略することは当然可能である。
【0053】
実施形態では、第1取付部材11に対して第2取付部材20が軸方向下側に配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1取付部材11及び第2取付部材20の位置関係は適宜設定できる。
【0054】
実施形態では、第1部材60及び第2部材70に形成された第1透孔61,71の形状が扇形であって、複数の第1透孔61,71が同心円状に配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1透孔61,71の数や形状、第1透孔61,71の配置は適宜設定できる。
【0055】
実施形態では、可動部材80が第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110からなる場合、即ち可動部材80が3枚の可動板からなる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。重ねて配置された可動板の間に満たされた液体が、可動板の運動エネルギーを低下させる機能を果たすので、可動板は2枚以上重ね合わされていれば良い。可動板の枚数は適宜設定できる。また、複数の可動板の硬さを同じにする必要はなく、硬さを異ならせても良い。
【0056】
実施形態では、可動部材80がゴム製の弾性体からなる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。熱可塑性エラストマ等の他の弾性体を可動部材80に採用することは当然可能である。また、可動部材80はゴム製や熱可塑性エラストマ製などの弾性体に限られるものではなく、撓みにくい合成樹脂製や金属製の板を用いることは当然可能である。この場合、重ねた板同士を互いに離隔する突起(接触部)を設け、板の間に液体が満たされるようにする。主液室82と副液室83との間に圧力差が生じると、板が移動して、その板が液体を移動させることにより、別の板を移動させる。これにより実施形態と同様に、振動を減衰しつつ板(可動部材80)の移動を第1部材60及び第2部材70が規制するときの異音を抑制できる。
【0057】
実施形態では、第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110の中央に接触部91,101,111が形成され、その周囲に離隔部94,104,114が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。接触部91,101,111を設ける位置は中央に限らず適宜設定できる。また、第1可動板90、第2可動板100及び第3可動板110の互いに対向する面にさらに突起を設け、その突起によって離隔部94,104,114の間隔を確保することは当然可能である。
【0058】
実施形態では、自動車用の液封入式防振装置について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。自動二輪車や鉄道車両、産業用車両などに用いられる液封入式防振装置にも適用され得る。また、エンジン等のパワーユニットを弾性支持する液封入式防振装置(エンジンマウント)に限定されるものではなく、例えばボデーマウント、サブフレームマウント、デフマウント等、各種の液封入式防振装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 液封入式防振装置
11 第1取付部材
20 第2取付部材
30 防振基体
80 可動部材
81 液室
82 主液室
83 副液室
90 第1可動板(可動板)
91 接触部
92 穴
93 凸部
94 離隔部
100 第2可動板(可動板)
101 接触部
102 穴
103 凹部
104 離隔部
110 第3可動板(可動板)
111 接触部
112 穴
113 凹部
114 離隔部