(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】焼結金属部品用粉末の充填性評価方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230227BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
B22F1/00 Z
B22F1/00 S
B22F3/02 Z
(21)【出願番号】P 2019043837
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】八代 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】大平 晃也
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-034803(JP,A)
【文献】特開2005-307348(JP,A)
【文献】上ノ薗 聡 他,偏析防止処理鉄粉の流動特性に及ぼす潤滑剤種類の影響,粉体および粉末冶金,50 巻,10 号,p.798-805,https://doi.org/10.2497/jjspm.50.798
【文献】廣田 満昭,粉体層の崩壊特性,粉体工学会誌,2007年,第44巻,p.732-741,doi.org/10.4164/sptj.44.732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結金属部品用粉末の充填性評価方法であって、
同一製造ロットの焼結金属部品用粉末を対象として、22~26kPaの垂直応力下の一面せん断試験を複数回実施する第1工程と、
前記第1工程から得られた複数の単軸崩壊応力の平均値を算出
し、前記複数の単軸崩壊応力の標準偏差の値が前記平均値に対して10%未満である場合に、前記平均値の大小に基づいて前記同一製造ロットの焼結金属部品用粉末の金型への充填性を評価する第2工程と、
を含むことを特徴とする焼結金属部品用粉末の充填性評価方法。
【請求項2】
前記第1工程で実施する一面せん断試験の回数が3~6回であることを特徴とする請求項1に記載の焼結金属部品用粉末の充填性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結金属部品用粉末および焼結金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質の焼結金属に潤滑油やグリースを含浸させた焼結軸受は、ハードディスクドライブ等のディスク駆動装置、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ、或いは、ファンモータ等の小型モータにおける軸の支持に使用されている。また、焼結軸受より高密度な歯車、スプロケット等の焼結機械部品は、主に自動車等の輸送機器のエンジン、トランスミッション、各種補機類の動力伝達等に使用されている。
【0003】
この焼結軸受や焼結機械部品に代表される焼結金属部品は、金型に充填した原料粉末(焼結金属部品用粉末)を圧縮して圧粉体を成形する工程や、圧粉体を炉内で焼結させて焼結体を得る工程や、焼結体の寸法矯正のためのサイジングを行う工程、焼結体の強度・硬度向上のための熱処理工程等を経て製造される。
【0004】
ここで、粉末冶金に用いる粉末の特性を評価する方法として、日本工業規格には、(1)金属粉-流動度測定方法(JIS Z2502:2012)、(2)金属粉-見掛密度測定方法(JIS Z2504:2012)、及び、(3)金属粉-タップ密度測定方法(JIS Z2512:2012)がそれぞれ規定されている。
【0005】
このうち、(1)の方法は、所定寸法の漏斗に供給した粉末が流れ落ちる時間から金属粉の流動性を評価するものである。金属粉の流動性が低いと、圧粉体を成形する際の金型への充填速度および充填率が低下するため、圧粉体の生産速度および圧粉密度が低下してしまう不具合がある(特許文献1)。このような事情から、粉末冶金の分野において、原料粉末の流動性は、圧粉体を成形する際の成形性や金型への充填性等を判断する上で重要な指標となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、溶製鋼部品から鉄系焼結金属部品への置き換えの要請が高まっている。この置き換えのためには、焼結金属部品の機械的な特性を向上させるべく、焼結体に含まれる空孔率や空孔径を可及的に低減することが望まれる。これらを実現するためには、圧粉体を成形する工程が完了した段階で、圧粉体を十分に緻密化しておくことが有効となる。
【0008】
しかしながら、上記(1)の方法による評価では、圧粉体の緻密化を達成できるか否かを予測することはできない。これは、同方法における粉末が重力で流れ落ちる挙動が、金型内での実際の粉末の挙動に則していないからである。このように製造工程における実際の挙動に則した評価が実現していないことに由来して、原料粉末から製造される焼結金属部品の品質が予測できないという問題があった。そのため、実際に製造してみなければ、焼結金属部品の品質の良否が判明しないのが実情である。また、これに付随して焼結金属部品の品質にバラつきが生じやすいという問題も発生していた。
【0009】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、焼結金属部品における品質の予測が可能であると共に、品質のバラつきを可及的に防止できる焼結金属部品用粉末を提供することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明に係る焼結金属部品用粉末は、同一製造ロットの粉末を対象として、一面せん断試験を22~26kPaの垂直応力下で複数回実施した場合に、測定された複数の単軸崩壊応力の標準偏差の値が、複数の単軸崩壊応力の平均値に対して10%未満となることを特徴とする。ここで、「焼結金属部品用粉末」とは、基材粉末となる純鉄粉や合金鋼粉単体、合金鋼粉に添加剤を加えた混合粉、バインダー等を介して添加剤を付着させた偏析防止処理粉を含む、原料粉末全般を意味する。
【0011】
一面せん断試験によれば、重力のみでなく、垂直応力をも作用させた状態で粉末の特性を評価できる。すなわち、圧粉体を成形する際の金型内での実際の挙動に則した粉末特性を評価することが可能である。
【0012】
詳述すると、一面せん断試験では、粉末の流動性や摩擦特性を評価できるが、ここでは流動性に着目する。なお、同試験で評価できる流動性の指標は、単軸崩壊応力(単位:kPa)である。一面せん断試験(リング型せん断試験)では、試験時の垂直応力を小さくすれば、ほぼ重力による流動のみを反映させた流動性の評価が可能である。これに対して、試験時の垂直応力を大きくすることで、金型内で弾性的に圧縮される状況での粉末の流動性、つまり、空隙に粒子が入り込んで圧密化される「再配列挙動」時の流動性、換言すれば、圧縮による粉末の充填されやすさが評価できる。
【0013】
そして、一面せん断試験により高垂直応力下、具体的には垂直応力が22~26kPaの下で測定された単軸崩壊応力と、成形後の圧粉体における圧粉密度との間には相関関係がみられる。また、一面せん断試験は、同一製造ロット(混合ロット、偏析防止処理ロット等も含む)の粉末を対象に繰返し測定した際の測定精度が高いことから、異なるロット間における粉体特性のバラつきを明確化できる。従って、焼結金属部品用粉末の単軸崩壊応力を測定することで、製品となる焼結金属部品の品質(圧粉密度や空孔率、空孔径分布など)が予測できる。このため、新規ロット粉末を購入または製造した際に、当該ロット粉末から製造される焼結金属部品が、目標性能や品質を満たすか否かを予見、推定することが可能となる。なお、焼結金属部品における品質のバラつきを有効に防止するためには、22~26kPaの垂直応力下で測定された複数の単軸崩壊応力の標準偏差の値が、複数の単軸崩壊応力の平均値に対して10%未満であることが必要である。なお、好ましくは平均値に対して5%未満である。
【0014】
以上のことから、上記の本発明に係る焼結金属部品用粉末によれば、焼結金属部品における品質の予測が可能であると共に、品質のバラつきを可及的に防止できる。
【0015】
上記の焼結金属部品用粉末においては、基材粉末が、Fe-Ni-Mo系合金粉末、又は、Fe-Ni-Mo-Cu系合金粉末であってもよい。
【0016】
また、上記の焼結金属部品用粉末を原料とする焼結金属部品においては、当該部品が複数製造された場合に、複数の相互間での品質のバラつきを可及的に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る焼結金属部品用粉末によれば、焼結金属部品における品質の予測が可能であると共に、品質のバラつきを可及的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一面せん断試験に用いるリング型せん断試験機の断面図(
図2におけるA-A断面)である。
【
図2】リング型せん断試験機の上部セルの下面図である。
【
図3】単軸崩壊応力の求め方を説明するための図である。
【
図4】実施例1の偏析防止処理粉について測定した垂直応力と単軸崩壊応力とを示すグラフである。
【
図5】実施例2の偏析防止処理粉について測定した垂直応力と単軸崩壊応力とを示すグラフである。
【
図6】比較例1の偏析防止処理粉について測定した垂直応力と単軸崩壊応力とを示すグラフである。
【
図7】実施例2の偏析防止処理紛から作製した試験片について測定した圧粉密度を示すグラフである。
【
図8】比較例1の偏析防止処理紛から作製した試験片について測定した圧粉密度を示すグラフである。
【
図9】焼結軸受(ラジアル軸受)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る焼結金属部品用粉末および焼結金属部品について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0020】
まず、本実施形態に係る焼結金属部品用粉末について説明する。
【0021】
本実施形態に係る焼結金属部品用粉末は、同一製造ロットの粉末を対象として、一面せん断試験を22~26kPaの垂直応力下で複数回実施した場合に、測定された複数の単軸崩壊応力の標準偏差の値が、複数の単軸崩壊応力の平均値に対して10%未満(好ましくは5%未満)となる粉末である。なお、一面せん断試験にて単軸崩壊応力を測定する回数は、任意の回数としてよい(例えば4回)。しかしながら、測定の信頼性を確保する観点から3回以上とすることが好ましく、また測定に要する時間を抑制する観点から6回以下とすることが好ましい。
【0022】
本実施形態における「焼結金属部品用粉末」には、基材粉末(鉄粉、銅粉等)の他、粉末特性、圧粉体特性、および焼結体特性のいずれかを改善するための各種添加剤となる粉末、例えば、炭素固溶源としての黒鉛粉、摺動性改善剤としての固体潤滑剤(黒鉛粉、MoS2粉等)、成形性改善剤としての固体潤滑剤(ステアリン酸亜鉛粉、ワックス粉等)、被削性改善剤(MnS粉)等が含まれる。また、基材粉末に対して微量に添加される金属粉(Ni,Mo,Cu,Cr,Mn,Sn等)も含まれる。これら添加金属粉は、単独粉として使用する他、他の金属粉の表面にメッキし、或いは、他の金属粉と合金化させて使用してもよい。合金化の手法は特に問わず、完全合金化(プレアロイ)、拡散合金化、単純混合(焼結時に合金化)等を採用できる。また、基材粉末の製法は特に限定されず、還元法、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、カルボニル法、スタンプ法等で製造される各種粉末が使用可能である。さらに、基材粉末として複数種類の金属粉や合金粉を使用できる。
【0023】
上記の単軸崩壊応力は、金型内で弾性的に圧縮される状況での粉末の流動性(再配列挙動時の流動性であって、圧縮による粉末の充填されやすさ)の指標となる。単軸崩壊応力は、一面せん断試験を利用して求める。同試験は、粉体層を垂直方向に加圧した状態の下で、水平方向に横滑りさせた時に生じるせん断応力を測定するものであり、試験方法の詳細はJIS Z8835:2016に規定されている。同試験は、土砂の特性を評価するために、主に土質工学の分野で活用されている試験であるが、ここでは焼結金属部品用粉末における粉末特性(流動性)の評価に転用しており、試験方法は基本的に上記のJIS規定に準じている。
【0024】
一面せん断試験を実施するに際しては、
図1および
図2に示すリング型せん断試験機1を用いる。リング型せん断試験機1は、回転側となる下部セル2(可動セル)と、静止側となる上部セル3(固定セル)とを主要な構成要素とする。
【0025】
下部セル2は、モータ4および減速機5により回転駆動する。下部セル2の回転トルクは、図示しないトルクメータにより測定される。下部セル2の上面には、それぞれが円筒状をなす外壁2aおよび内壁2bが設けられている。外壁2aの内周面と内壁2bの外周面との間には、試験対象の粉末を収容する収容部Sが形成されている。下部セル2の中心には、上方へ突出する軸部2cが設けられている。下部セル2は、モータ4および減速機5により回転軸Oを中心として一定方向に回転する。
【0026】
上部セル3は、下部セル2の軸部2cが挿通される穴を中心部に有する円板状をなしており、軸部2cに対して相対的に回転が可能な状態で嵌合されている。上部セル3の下面には、下方に突き出た突出部3aが設けられており、突出部3aは、回転軸Oを中心とする円環状をなしている。突出部3aは、下部セル2の外壁2aの内周面および内壁2bの外周面に対して相対的な回転が許容される嵌め合いの下で、収容部Sと嵌合している。
【0027】
上部セル3の突出部3aの下面には、その外径端と内径端との間の中間部を最も深くした断面円弧状の環状凹部6が形成されている。環状凹部6の円周方向における複数箇所に、半径方向に延びるブレード7が放射状に取り付けられている。これら環状凹部6とブレード7とにより、突出部3aの下面に円周方向の凹凸が形成される。
【0028】
上記のリング型せん断試験機1による試験では、収容部Sに測定対象となる粉末の規定量を充填して粉体層8を形成した後、上部セル3を下部セル2上にセットし、上部セル3に所定の垂直荷重Wを与えながらモータ4を駆動させる。垂直荷重Wにより、上部セル3におけるブレード7が粉体層8に食い込むため、粉体層8にはせん断面が形成される。下部セル2を一定の回転速度で回転させ、所定の角度だけ回転した時点(例えば15°程度)で試験は終了し、その時の垂直荷重Wから垂直応力σを算出すると共に、その時のトルクメータの測定値からせん断応力τを算出する。以上の試験を異なる垂直荷重Wの下で複数回行い、
図3に示すように、各回の垂直応力σとせん断応力τを垂直応力σ-せん断応力τ図にプロットする。
【0029】
プロットした点を結ぶ近似直線が、限界状態線CSLを表す。また、原点を通り、且つ限界状態線CSLに接する円(モール円)と垂直応力軸とが交わる点が、単軸崩壊応力σcを表す。なお、この限界状態線CSLの垂直応力軸に対する傾斜角δiは、粒子間摩擦指標の内部摩擦角を表す。
【0030】
単軸崩壊応力σcは、各垂直応力で押し固めて成形した粉体層(円柱)を押し崩して流動させるのに必要な応力値であり、数値が小さいほど流動しやすい粉末であることを意味する。従って、単軸崩壊応力σcの値は粉末の流動性の指標にできる。なお、単軸崩壊応力σcが小さい粉末を使用することによる効果の一例としては、金型に粉末を供給するのに要する時間が短くなって生産効率が高まることが挙げられる。
【実施例1】
【0031】
実施例1の焼結金属部品用粉末は、Fe-Ni-Mo-Cu系合金粉に対して、焼結時の炭素固溶源としての黒鉛粉および成形時の摩擦低減のためのワックス系固体潤滑剤をバインダーで糊付けした偏析防止処理粉である。この粉末に対して一面せん断試験を実施し、流動性の指標である単軸崩壊応力σc(単位:kPa)を求めた。同一製造ロットの偏析防止処理粉を対象として、繰返し4回測定した結果(垂直応力と単軸崩壊応力σcとを示すグラフ)を
図4に示す。また、グラフの一番右側にプロットした、垂直応力が約23kPaの下で測定された各回の単軸崩壊応力σcの値と、これらの平均値と、標準偏差の値とを下記の表1に示す。なお、測定が終了する毎にリング型せん断試験機1から粉末は除去し、セル類(下部セル2および上部セル3)も清掃した上で、新たにサンプリングし直した粉末に交換してから次の測定を行った。
【0032】
【0033】
図4および表1に示す結果から、一面せん断試験においては、同一製造ロットの粉末に対する繰返し測定精度が非常に高く、標準偏差の値が0.05と非常にバラつきが小さいことが理解できる。なお、標準偏差の値である0.05は、垂直応力が約23kPaの下での単軸崩壊応力σcの平均値である3.29kPaの10%の値(0.329)を大きく下回っている。
【実施例2】
【0034】
実施例2の焼結金属部品用粉末は、実施例1と同じくFe-Ni-Mo-Cu系合金粉に対して、焼結時の炭素固溶源としての黒鉛粉および成形時の摩擦低減のためのワックス系固体潤滑剤をバインダーで糊付けした偏析防止処理粉である。この粉末に対して一面せん断試験を実施し、流動性の指標である単軸崩壊応力σc(単位:kPa)を求めた。ここで、2種類の偏析防止処理条件を適用し、2種類の条件の各々について粉末を3ロットずつ用意した。それぞれの偏析防止処理粉を実施例2のロットA~C、比較例1のロットA~Cとする。実施例2および比較例1のそれぞれで測定された垂直応力と単軸崩壊応力σcとを
図5および
図6に示す。また、グラフの一番右側にプロットした、垂直応力が約23kPaの下で測定された単軸崩壊応力σcの値と、これらの平均値と、標準偏差の値とを下記の表2および表3にそれぞれ示す。
【0035】
【0036】
【0037】
また、上記の各偏析防止処理粉を室温(約25℃)の下、成形圧力588MPa(6tf/cm
2)で一軸加圧成形し、φ20×t5mmの円板状試験片を作製した。当該試験片の乾燥重量と、直径、厚さから算出した体積を用いて、当該試験片の圧粉密度(単位:g/cm
3)を導出した。なお、試験片の直径および厚さは、マイクロメータを用いて各4回測定した寸法の平均値である。実施例2および比較例1の各々におけるロットA~Cについて、各5個ずつを作製した上で測定した圧粉密度をグラフ化したものを
図7および
図8に示す(ロットA:No.1~5、ロットB:No.6~10、ロットC:No.11~15)。さらに、実施例2および比較例1の各試験片について測定された圧粉密度と、これらの平均値と、標準偏差の値とを下記の表4および表5に示す。
【0038】
【0039】
【0040】
図5および表2に示す結果から、実施例2の偏析防止処理粉は、ロット間の流動性(単軸崩壊応力σc)のバラつきが小さく、垂直応力が約23kPaの下での単軸崩壊応力σcの平均値が3.24kPa、標準偏差の値が0.11であった。
【0041】
また、
図7および表4に示す結果から、3ロットA~Cの偏析防止処理粉から作製した試験片の圧粉密度は、平均値が6.82g/cm
3に対して、標準偏差の値が0.03とバラつきが非常に小さかった。
【0042】
一方、
図6および表3に示す結果から、比較例1の偏析防止処理粉は、ロット間の流動性(単軸崩壊応力σc)のバラつきが大きく、垂直応力が約23kPaの下での単軸崩壊応力σcの平均値が3.06kPa、標準偏差の値が0.39であった。なお、ロットAとロットBとの間では、単軸崩壊応力σcがほぼ同等の値であったが、ロットCはロットAおよびロットBと比較して0.6~0.7kPa(2割弱)ほど単軸崩壊応力σcの値が低く、標準偏差の値を大きくする要因となっている。
【0043】
また、
図8および表5に示す結果から、3ロットA~Cの偏析防止処理粉から作製した試験片の圧粉密度は、平均値が6.86g/cm
3に対して、標準偏差の値が0.08とバラつきが大きく、実施例2との比較で2倍以上のバラつきとなった。特に、単軸崩壊応力σcが低い値を示した(流動性が良好であった)ロットCの試験片(No.11~15)は、ロットAおよびロットBの試験片(No.1~10)に対して圧粉密度が高く、いずれも6.9g/cm
3以上であった。なお、ロットCを除いたNo.1~10の試験片の圧粉密度は、平均値が6.81g/cm
3、標準偏差の値が0.04であり、実施例2と同等の水準であった。
【0044】
以上の結果から、一面せん断試験で測定・評価した流動性の指標、すなわち、単軸崩壊応力σcは、焼結金属部品の品質における重要な一指標である圧粉密度と相関関係があり、且つ、同一製造ロットの粉末に対する繰返し測定精度が高い。このため、単軸崩壊応力σcのロット間におけるバラつきが小さい焼結金属部品用粉末を原料として用いると、品質が安定した、バラつきの少ない焼結金属部品が得られることが理解できる。
【0045】
次に、本発明の実施形態に係る焼結金属部品について説明する。
【0046】
図9は、焼結金属部品としての焼結軸受9(ラジアル軸受)を示す断面図である。この焼結軸受9は、上記の焼結金属部品用粉末を原料としてなり、その内周面に軸受面9aを有する円筒状に形成されている。軸10は焼結軸受9の内周側に挿入され、焼結軸受9によって回転自在に支持される。
【0047】
上記の焼結軸受9は、上記の焼結金属部品用粉末を原料粉末として金型に充填し、これを圧縮して圧粉体を成形する工程と、圧粉体を焼結させて焼結体を得る工程とを実行すると共に、必要に応じて実行されるサイジングを行う工程や、熱処理を行う工程や、機械加工を行う工程を経て製造される。これらの工程の具体的な態様は既に公知となっているので、詳細な説明は省略する。
【0048】
ここで、本発明に係る焼結金属部品用粉末および焼結金属部品は、上記の実施形態で説明した構成に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態(実施例1および実施例2)では、基材粉末としてFe-Ni-Mo-Cu系合金粉を用いているが、これに代えてFe-Ni-Mo系合金粉末を用いてもよい。また、上記の実施形態では、焼結金属部品の一例として焼結軸受(ラジアル軸受)を挙げたが、焼結金属部品は焼結軸受(スラスト軸受)や歯車やコンロッド等であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
σc 単軸崩壊応力
9 焼結軸受(焼結金属部品)