(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】ラックの制振構造
(51)【国際特許分類】
B65G 1/14 20060101AFI20230227BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230227BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230227BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
B65G1/14 F
E04H9/02 311
E04H9/02 301
E04H9/02 331D
F16F15/023 A
F16F15/02 L
(21)【出願番号】P 2019062401
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】舟木 秀尊
(72)【発明者】
【氏名】小山 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】舟山 勇司
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189536(JP,A)
【文献】特開2013-234067(JP,A)
【文献】特表2017-512271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/14
E04H 9/02
F16F 15/023
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を隔てて第1方向に沿って並べられた複数の第1柱及び互いに隣り合う2本の該第1柱の柱脚部間に所定の高さで掛け渡された第1梁を有する第1柱梁部と、
複数の上記第1柱の各々に対し、上記第1方向と交差する第2方向において間隔を隔てて対向する位置に、該第1方向に沿って並べられた複数の第2柱及び互いに隣り合う2本の該第2柱の柱脚部間に所定の高さで掛け渡された第2梁を有する第2柱梁部と、
上記第2方向において対向する上記第1柱の柱脚部と上記第2柱の柱脚部との間に、所定の高さで掛け渡された第3梁と、
上記第1柱梁部と上記第2柱梁部との間に、所定の高さに掛け渡された複数のブレースとを有するラックであって、
複数の上記第1柱及び複数の上記第2柱は、各々可動支承を介して設けられ、
上記第1柱梁部及び上記第2柱梁部は、上記複数のブレースのうち、互いに異なる方向から掛け渡される2本の該ブレースが連結される連結部を有し、
該連結部と上記可動支承が設置されている設置面との間にダンパーが介在されていることを特徴とするラックの制振構造。
【請求項2】
前記ラックは、前記第1梁、前記第2梁及び前記第3梁に対し、上下方向に所定の間隔を隔てて複数の中間梁を備え、
該中間梁の高さにおいて、前記第1柱梁部と前記第2柱梁部との間に前記ブレースが掛け渡されていることを特徴とする請求項1に記載のラックの制振構造。
【請求項3】
前記ラックが、前記第2方向に間隔を隔てて2つ並設されると共に、互いの頂部が連結され、
2つの上記ラックのうち、一方の該ラックの複数の前記第1柱及び複数の前記第2柱が可動支承を介して設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のラックの制振構造。
【請求項4】
前記ラックには、前記第1梁、前記第2梁、前記第3梁及び前記中間梁により区画されて、パレット
と共に収容物が収容される複数の収容空間が
形成され、
前記ダンパーは、最下段の
上記収容空間よりも下に位置させて設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載のラックの制振構造。
【請求項5】
前記可動支承は、滑り支承であることを特徴とする請求項1~4いずれかの項に記載のラックの制振構造。
【請求項6】
前記可動支承は、転がり支承であることを特徴とする請求項1~4いずれかの項に記載のラックの制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より狭いスペースに設置可能であり、より効果的に制振することが可能なラックの制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックの制振構造としては、例えば特許文献1が知られている。特許文献1の「構造体の制振構造」は、ラック等の構造体を合理的かつ簡便に、効果的に制振することが可能な構造体の制振構造を提供することを課題とし、床上に固設して構築された固定側ラックと、固定側ラックと高さが同一であって、床上に、水平方向可動手段を介して、固定側ラックに接離する方向へ水平移動自在に支持された可動側ラックと、可動側ラックの頂部及び固定側ラックの頂部に両端部が剛接合されて、可動側ラックの頂部と固定側ラックの頂部との間だけに当該可動側ラックの水平移動方向に沿って水平に設けられ、可動側ラックと固定側ラックとの間で力を伝達する剛性連結材とを備えて構成されている。
【0003】
すなわち、多段高層に構築された2つのラックを、スタッカークレーンが走行し得る程度に間隔を空け、ラックへの収容物の受け入れ側が互いに向かい合うように配置して頂部が剛接合されている自動倉庫のラックの制振構造である。
【0004】
2つのラックは、一方のラック(固定側ラック)が支持基盤に固設して構築されており、他方のラック(可動側ラック)は、当該可動側ラックと支持基盤との間に水平方向可動手段を介して構築されている。
【0005】
このため、可動側ラックは、固定側ラックに接近または固定側ラックから離隔する方向へ、水平移動可能である。また、可動側ラックと支持基盤との間には、ダンパーなどの減衰手段を、ラックの外側の領域に配置して設けることも示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術のラックの制振構造のように、可動側ラックと支持基盤との間に設けた減衰手段を効果的に作用させるためには、可動側ラックが高い剛性を備えている必要がある。
【0008】
従来のラックには、ラックにおける収容物の出し入れ方向となる前後方向における前端部の上下端それぞれから、ラックの後端部の上下端それぞれにわたり、鉛直面内ブレースが分散配置して設けられている。また、非受け入れ側面であるラックの後端部側の全面にも、鉛直面内ブレースが分散配置して、もしくは長大な鉛直面内ブレースが上端の2つの隅角部から下端の2つの隅角部に斜め方向に渡して設けられている。
【0009】
斜め方向に長大な鉛直面内ブレースを設けた場合、ラックにおいて剛性が高いのは、非受け入れ側面の鉛直面内ブレースが接続されている四隅であった。この場合、可動側ラックと支持基盤との間に設ける減衰手段を効果的に作用させるための好適な設置位置は、ラックの下端側の両隅の2箇所となる。
【0010】
しかしながら、多段高層のラックを、2箇所に設けた減衰手段で制振するためには、大型の減衰手段が必要であった。減衰手段が大きくなることにより、減衰手段はラックの外側に設置しなければならず、減衰手段を備えるラックの設置には、より広い占有面積が必要になるという課題があった。
【0011】
斜め方向に長大な鉛直面内ブレースを設けることに代えて、寸法の小さな鉛直面内ブレースを多数配設する方法もあるが、減衰手段を設置できるのは、非受け入れ側面の鉛直面内ブレースがラックの下端で接続される位置に限られる点では、同じであった。
【0012】
ラックは収容物の配置によって荷重が不均衡になるので、一部に収容物が集中した場合、その部分に地震時の水平力が大きく作用する。ラックの後端部側の鉛直面内ブレースはこの水平力をある程度分散し得るが、面外方向の応力であるため、大きな水平力の場合は抵抗しきれない。その結果、所定の箇所に、想定される最大の荷重を見込んで、大型の減衰装置を配置しなければならないという問題があった。
【0013】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、より狭いスペースに設置可能であり、より効果的に制振することが可能なラックの制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかるラックの制振構造は、互いに間隔を隔てて第1方向に沿って並べられた複数の第1柱及び互いに隣り合う2本の該第1柱の柱脚部間に所定の高さで掛け渡された第1梁を有する第1柱梁部と、複数の上記第1柱の各々に対し、上記第1方向と交差する第2方向において間隔を隔てて対向する位置に、該第1方向に沿って並べられた複数の第2柱及び互いに隣り合う2本の該第2柱の柱脚部間に所定の高さで掛け渡された第2梁を有する第2柱梁部と、上記第2方向において対向する上記第1柱の柱脚部と上記第2柱の柱脚部との間に、所定の高さで掛け渡された第3梁と、上記第1柱梁部と上記第2柱梁部との間に、所定の高さに掛け渡された複数のブレースとを有するラックであって、複数の上記第1柱及び複数の上記第2柱は、各々可動支承を介して設けられ、上記第1柱梁部及び上記第2柱梁部は、上記複数のブレースのうち、互いに異なる方向から掛け渡される2本の該ブレースが連結される連結部を有し、該連結部と上記可動支承が設置されている設置面との間にダンパーが介在されていることを特徴とする。
【0015】
前記ラックは、前記第1梁、前記第2梁及び前記第3梁に対し、上下方向に所定の間隔を隔てて複数の中間梁を備え、該中間梁の高さにおいて、前記第1柱梁部と前記第2柱梁部との間に前記ブレースが掛け渡されていることを特徴とする。
【0016】
前記ラックが、前記第2方向に間隔を隔てて2つ並設されると共に、互いの頂部が連結され、2つの上記ラックのうち、一方の該ラックの複数の前記第1柱及び複数の前記第2柱が可動支承を介して設けられていることを特徴とする。
【0017】
前記ラックには、前記第1梁、前記第2梁、前記第3梁及び前記中間梁により区画されて、パレットと共に収容物が収容される複数の収容空間が形成され、前記ダンパーは、最下段の上記収容空間よりも下に位置させて設けられていることを特徴とする。
【0018】
前記可動支承は、滑り支承であることを特徴とする。
【0019】
前記可動支承は、転がり支承であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるラックの制振構造にあっては、より狭いスペースに設置することができ、より効果的に制振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るラックの制振構造の好適な一実施形態を示す正面図である。
【
図2】
図1に示したラックの制振構造を、固定ラック側から見た側面図である。
【
図3】
図1に示したラックの制振構造が適用されるラックに備えられる収容部を示す要部拡大斜視図である。
【
図4】
図1に示したラックの制振構造を構成する水平面内ブレース(最下ブレース)、リニアレール及びオイルダンパーの配置を示す平面図である。
【
図5】
図1に示したラックの制振構造を構成するリニアレール及びオイルダンパーの配置を説明する説明図であって、
図5(a)は、
図4中、A-A線矢視断面図、
図5(b)は、
図4中、B-B線矢視断面図である。
【
図6】
図1に示したラックの制振構造のリニアレールに代えて、滑り支承を用いた場合の要部拡大斜視図である。
【
図7】
図4に示されている配置の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかるラックの制振構造について、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態では、走行自在に設けられたスタッカークレーンにより荷物等が出し入れされる。走行するスタッカークレーンの走行方向(以下、走行方向という)に沿って長く設けられているラックを例に挙げて、以下に説明する。
【0023】
図1~
図3に示すように、本実施形態の制振構造を備えたラック1は、スタッカークレーン(不図示)によりパレット2(
図3参照)に載せられて運ばれる荷物3(
図3)等が、スタッカークレーンの走行方向(第1方向)と直交するラック1の奥行き方向(第2方向)に出し入れされる収容空間Sを複数備えている。
【0024】
ラック1には、このような複数の収容空間Sが、走行方向に連ねて設けられると共に、上下方向に複数段に設けられている。ラック1全体では、走行方向に長く、高さは高いが、奥行き方向の幅は、走行方向及び高さ方向に比べて極端に幅狭な形状に構成されている。このため、このラック1は、地震が発生すると、奥行き方向に、より大きく揺れが生じる。
【0025】
以下の説明においては、奥行き方向において荷物3を出し入れする側を手前側、反対側を奥側として説明する。
【0026】
図1に示すように、走行方向に長く延びたラック1は、スタッカークレーンの走行領域Rを挟んで対をなすように設けられている。このため、対をなす2つのラック1は、手前側が対向している。各々のラック1は、複数の柱と複数の梁により構成されている。
【0027】
ラック1は、手前側となる走行領域R側に配置される手前側柱梁部4及び奥側に配置される奥側柱梁部5と、手前側柱梁部4と奥側柱梁部5との間に掛け渡される第3梁としての複数の連結梁6とから構成される。
【0028】
手前側柱梁部4は、手前側で互いに間隔を隔てると共に走行方向に沿って並べられた複数の第1柱としての手前側柱40と、互いに隣り合う2本の手前側柱40の間に掛け渡され、上下方向に互いに間隔を隔てて配置された複数の手前側梁41とから構成される。
【0029】
複数の手前側梁41のうち、手前側柱40の柱脚部40aに掛け渡され、最下に位置する手前側梁41が第1梁に相当する(
図5参照)。
【0030】
奥側柱梁部5は、
図3に示すように、奥側で互いに間隔を隔てると共に走行方向に沿って並べられた複数の第2柱としての奥側柱50と、互いに隣り合う2本の奥側柱50の間に掛け渡され、上下方向に互いに間隔を隔てて配置された複数の奥側梁51とから構成される。
【0031】
複数の奥側梁51のうち、奥側柱50の柱脚部50aに掛け渡され、最下に位置する奥側梁51が第2梁に相当する。
【0032】
複数の手前側柱40と複数の奥側柱50は、走行方向に同じ間隔を隔てると共に、手前側柱梁部4と奥側柱梁部5とが奥行き方向において対向するように配置されている。複数の手前側梁41、複数の奥側梁51及び複数の連結梁6は各々、上下方向に同じ間隔を隔てて設けられ、上下方向における複数箇所の同じ高さに配置されている。
【0033】
互いに隣り合う2本の手前側柱40及び奥側柱50と、上下方向において隣り合う2本の手前側梁41、奥側梁51及び連結梁6をつなぐ平面によって囲まれる各空間が、荷物3の収容空間Sとして形成される。すなわち、各ラック1には、収容空間Sが走行方向及び上下方向に複数設けられている。
【0034】
各手前側柱40及び各奥側柱50には、各収容空間Sの下端側に位置させて、走行方向に隣接する2つの収容空間Sに各々突出する支持バー40b,50bが設けられている。奥行き方向に対向する手前側柱40と奥側柱50とに設けられている支持バー40b,50b間に、パレット2が載置される腕木7が、各々の収容空間S側で掛け渡されている。
【0035】
従って、各収容空間Sの下端側には、走行方向に隣り合う対の手前側柱40及び奥側柱50それぞれに設けられている支持バー40b,50bに掛け渡された腕木7が突出されている。
【0036】
各腕木7は、当該腕木7が突出する収容空間Sを形成する下側の手前側梁41、奥側梁51及び2本の連結梁6よりも高い位置に設けられている。
【0037】
各ラック1の奥側の面には、
図2及び
図3に示すように、各収容空間S一つ一つに対して、奥側柱20と奥側梁51の隅角部同士を斜め方向につないで、耐震要素となる鉛直面内ブレース52が配設されている。鉛直面内ブレース52は、各収容空間Sに個々に配設することに代えて、
図2中仮想線で示すように、ラック1の奥側の上端の2つの隅角部それぞれから、ラック1の奥側の下端の2つの隅角部それぞれにわたり、斜め方向に配設するようにしてもよい。
【0038】
上下方向に隣り合う2本の連結梁6の間にも、上側の連結梁6の手前端側と下側の連結梁6の奥端側とに、または、上側の連結梁6の奥端側と下側の連結梁6の手前端側とにわたり、斜め方向に鉛直面内ブレース53が配置されている。
【0039】
対をなすように設けられた2つのラック1のうちの一方は、ラック1が設置される設置面としての床面8に、手前側柱40及び奥側柱50が固設されて構築されており、他方は、手前側柱40及び奥側柱50が床面8との間に可動支承を介して構築されている。
【0040】
可動支承は、転がり支承をなすリニアレール9である。リニアレール9は、手前側柱40及び奥側柱50の奥行き方向への移動を許容するように配置されている。
【0041】
以下の説明においては、床面8に固設されたラック1を固定ラック1といい、リニアレール9が介在されているラック1を可動ラック1という。
【0042】
図1に示すように、固定ラック1と可動ラック1とが有する各収容空間Sの高さを合わせるために、可動ラック1に設置されるリニアレール9は、床面8から最下層の収容空間Sの下端までの間に収められる高さとする。
【0043】
そして、同一高さに位置する固定ラック1と可動ラック1との頂部1a同士のみが、剛性連結材1bで連結されている。
【0044】
また、
図4に示すように、各ラック1の手前側柱40及び奥側柱50の柱脚部40a,50aには、最下の手前側梁(第1梁)41、奥側梁(第2梁)51及び2本の連結梁(第3梁)6と同じ高さにてほぼ水平に、斜め方向に配置される水平面内ブレース(以下、最下ブレースという)10が設けられている。ここで、最下の手前側梁41、奥側梁51及び2本の連結梁6が設けられている高さが、所定の高さに相当する。
【0045】
可動ラック1の最下ブレース10は、可動ラック1の最下段の収容空間Sを形成する、下側の手前側梁41、奥側梁51及び2本の連結梁6がなす矩形状の各領域Kに1本ずつ配置されている。
【0046】
各最下ブレース10は、
図4に示すように、手前側柱40及び奥側柱50の柱脚部40a,50aで囲まれた上記各領域Kにおいて、手前側柱40と奥側柱50との間に傾斜して掛け渡されている。また、隣り合う矩形状の領域Kに設けられている最下ブレース10は、傾斜方向が互いに異なるように配置されている。
【0047】
これにより、各連結梁6が接続されている手前側柱40及び奥側柱50には、2本の最下ブレース10が互いに異なる方向から連結される連結部40c,50cが、走行方向において手前側柱40と奥側柱50とに交互に配置されている。
【0048】
最下段の収容空間Sを形成する下側の2本の連結梁6の下方には、連結部40c,50cと床面8との間に介在させて、ダンパーの一例であるオイルダンパー11が設けられている。オイルダンパー11は、リニアレール9により許容されている移動方向に対して減衰力を付与するように配置されている。
【0049】
本実施形態においては、最下の手前側梁41、奥側梁51及び2本の連結梁6が設けられている所定の高さは、連結梁6の下にオイルダンパー11を設けることができる高さであれば、どのように設定しても構わない。
【0050】
オイルダンパー11は、
図5に示すように、奥行き方向に沿って配置されて、手前側柱40及び奥側柱50との間に設けられ、一方の端部が連結部40c,50cに連結され、他方の端部は床面8に設けられた基部12に連結されている。
【0051】
走行方向において互いに隣り合うオイルダンパー11は、連結部40c,50cに連結された一方の端部と基部12に連結された他方の端部とが、奥行き方向で手前側と奥側で、反対向きに配置されるように設けられている。また、オイルダンパー11の両端部は、柱脚部40a,50a及び基部12に対し、鉛直方向に沿う軸周りに回動自在に取り付けられる。
【0052】
本実施形態のラックの制振構造によれば、オイルダンパー11が床面8との間に介在される最下ブレース10の連結部40c,50cは、手前側柱40の柱脚部40aと奥側柱50の柱脚部50aとの間に掛け渡された手前側梁41、奥側梁51及び連結梁6と同じ高さに掛け渡され、かつ互いに異なる斜め方向から掛け渡される2本の最下ブレース10が連結されている連結部40c,50cなので、可動ラック1の中でも、剛性が特段に高く変形し難い部位である。
【0053】
従って、オイルダンパー11が床面8と連結部40c,50cとの間で作用する際に、可動ラック1が変形し難いので、地震が入力されたときには、オイルダンパー11の減衰力をより効率良く作用させることができる。
【0054】
また、最下ブレース10が連結されている連結部40c,50cは、1つの可動ラック1に複数備えられているので、各連結部40c,50cと床面8との間に、より多くのオイルダンパー11を備えることができる。言い換えれば、オイルダンパー11は、すべての連結部40c,50cに連結しなくてもよい。
【0055】
可動ラック1に入力される地震のエネルギーを、より多くのオイルダンパー11に均等に分散して制振することにより、小型のオイルダンパー11を使用することができる。小型のオイルダンパー11であれば、上記所定の高さを下げて納めることができ、可動ラック1の占有面積内、すなわち領域K内にオイルダンパー11を配置することができる。
【0056】
従って、オイルダンパー11を備えた奥行きの狭い可動ラック1を形成することができ、より効率良く制振することが可能なラックの制振構造を構成することができる。
【0057】
また、リニアレール9を介して設けられている可動ラック1の頂部1aと、床面8に固設されている固定ラック1の頂部1aとを連結することにより、構造体としての周期を地震動の周期よりも長周期化でき、当該構造体の振動加速度、層間せん断力、並びに変位(振幅)を合理的かつ効率よく小さくすることができる。
【0058】
オイルダンパー11は、
図3及び図5から理解されるように、可動ラック1の最下段の
収容空間Sよりも下(従って、最下段の収容空間Sに設けられる腕木7よりも下)に設けられているので、オイルダンパー11は、腕木7上にパレット2を載置する際の妨げにならず、最下段まで荷物3を収容することができ、可動ラック1全体を有効に使用することができる。さらに言えば、十分に小型のダンパーを用いれば、一般の自動ラックでは使われていない腕木7下の空間内に収めることができるので、標準的な自動ラックに対して仕様を変えることなく、制震構造とすることができる。
【0059】
可動ラック1の手前側柱40及び奥側柱50の下にリニアレール9が介在されているので、可動ラック1を滑らかに移動させることができ、可動ラック1を、床面8から入力される地震動の周期よりも確実に長周期化することができて、優れた制振作用を確保することができる。
【0060】
リニアレール9は、可動ラック1の上方向への移動を規制するので、たとえ可動ラック1を押し上げる方向に力が作用したとしても、可動ラック1が浮き上がることを防止することができる。
【0061】
上記実施形態においては、ダンパーをオイルダンパー11としたが、これに限らず、粘性ダンパーや粘弾性ダンパーなど、振動エネルギーを減衰させる機能を有し、手前側柱梁部4と奥側柱梁部5との間であって、最下の手前側梁41、奥側梁51及び連結梁6よりも下に配置できるものであれば、どのようなものであっても構わない。
【0062】
上記実施形態においては、可動ラック1の最下に位置する手前側梁41、奥側梁51及び連結梁6の連結部40c,50cのみに水平面内ブレース(最下ブレース)10が設けられる例について説明したが、これに限るものではない。
【0063】
例えば、上記連結部40c,50cから上方向に所定の間隔を隔てて設けられている複数の中間梁としての手前側梁41、奥側梁51及び連結梁6の連結部に、最下ブレース10と同じようにして、追加の水平面内ブレースが設けられていてもよい。この場合には、可動ラック1は、柱脚部40a,50aのみならず、可動ラック1全体として剛性を高めることができる。
【0064】
従って、入力された地震により、リニアレール9に支持された可動ラック1が移動するとき、可動ラック1自体が屈曲する事態を抑えることができて、荷物3の落下を抑制することが可能である。
【0065】
上記実施形態においては、可動ラック1の手前側柱40及び奥側柱50の下に転がり支承としてのリニアレール9が介在されている例について説明したが、可動支承は、転がり支承に限るものではない。
【0066】
例えば、
図6に示すように、手前側柱40及び奥側柱50の下面40d,50dに、シート状の滑り材13を設け、手前側柱40及び奥側柱50の下面40d,50dと対面する床面8に、奥行き方向に長い受けプレート14を設け、受けプレート14上に滑り材13が当接された滑り支承16を備えるようにしても構わない。
【0067】
この場合には、奥行き方向に沿う受けプレート14の縁に、受けプレート14よりも上方に立ち上げた立ち上がり部14aを設け、手前側柱40及び奥側柱50の移動方向を奥行き方向のみに規制することが好ましい。
【0068】
立ち上がり部14aは、各受けプレート14の両縁に設けてもよいが、走行方向に隣り合う滑り支承16の受けプレート14相互において、互いに異なる一方の縁のみに設けるようにしてもよい。
【0069】
立ち上がり部14aの上端に、受けプレート14と対向する側に折れ曲がった載置面対向部14bを設けると、手前側柱40及び奥側柱50が受けプレート14から浮き上がって外れることを防止することができる。
【0070】
載置面対向部14bの、受けプレート14と対向する面には、滑り材15を設けると共に、手前側柱40及び奥側柱50において載置面対向部14bの滑り材15と対向する部位に、滑り材13をさらに設けるようにしてもよい。
【0071】
上記実施形態においては、オイルダンパー11は、各連結部40c,50cと床面8との間にそれぞれ設けた例について説明したが、幾つかの連結部40c,50cと床面8との間に設けられていればよい。
【0072】
また、上記例では、矩形状の領域Kの斜め方向2箇所の隅角部に連結部40c,50cを設定して、これらに斜め方向の最下ブレース10の両端を設ける例について説明したが、連結部40c,50cを、
図7に示すように、手前側梁41及び奥側梁51の中央に設定するようにして、すなわち、奥側梁51の接合位置を避けて連結部50cを設定して(図示しないけれども、手前側梁41の場合も同様に、その接合位置を避けて連結部40cを設定して)、最下ブレース10を各領域Kに2本ずつ、V字状に配置するようにしてもよい。
【0073】
このような構成であれば、手前側柱40及び奥側柱50による長さの制限や、連結梁6による高さの制限が緩和されるので、大型のダンパーを設けることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 ラック
1a ラックの頂部
2 パレット
3 荷物
4 手前側柱梁部
5 奥側柱梁部
6 連結梁
7 腕木
8 床面
9 リニアレール
10 水平面内ブレース(最下ブレース)
11 オイルダンパー
16 滑り支承
40 手前側柱
40a 手前側柱の柱脚部
40c,50c 連結部
41 手前側梁
50 奥側柱
50a 奥側柱の柱脚部
51 奥側梁
52,53 鉛直面内ブレース
S 収容空間