(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】車両用外装部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20230227BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230227BHJP
B62D 25/18 20060101ALI20230227BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20230227BHJP
D04H 1/46 20120101ALI20230227BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B7/025
B62D25/18 F
B62D25/20 N
D04H1/46
(21)【出願番号】P 2019068005
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】酒井 賢作
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】飯田 基
(72)【発明者】
【氏名】代田 理
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-104106(JP,A)
【文献】特開2006-248284(JP,A)
【文献】特開2006-088880(JP,A)
【文献】登録実用新案第3145580(JP,U)
【文献】独国特許出願公開第102015002852(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
D04H 1/00 - 18/04
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
B60R 16/00 - 16/08
B62D 25/18
B62D 25/20
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外装に用いられる車両用外装部材において、
ニードルパンチ不織布または編織物を含む繊維成形体を有し、
前記繊維成形体を構成する繊維に導電性繊維が含まれ
、
前記繊維成形体は、繊維を含む基材層と繊維を含む表皮層とが積層されて一体化したものであって、
前記表皮層を構成する繊維に、前記導電性繊維が0.5質量%以上7.0質量%以下含まれ、
前記表皮層が路面側に面するように前記車両の車体に取り付けられることを特徴とする車両用外装部材。
【請求項2】
20mmのクリアランスで10kVの印加電圧によるコロナ放電によって前記表皮層の表面を帯電させたときの前記表面の帯電圧を初期帯電圧とし、前記コロナ放電の停止後、前記表面の帯電圧が前記初期帯電圧の2分の1となるまでの時間を半減期として、前記初期帯電圧の2分の1を前記半減期で除した値である電荷減衰度が0.23kV/秒を超える、請求項
1に記載の車両用外装部材。
【請求項3】
車両の外装に用いられる車両用外装部材の製造方法において、
ポリエチレンテレフタレート繊維と、導電性繊維を含むポリプロピレン繊維とに対してニードルパンチ加工を施すことにより表皮層を形成する工程と、
前記表皮層と、ガラス繊維マットを含む基材層とを積層して積層体とする工程と、
前記積層体に対して加熱及び冷間プレス加工を施して所定の形状とする工程と、
を有し、
前記表皮層を構成する繊維における前記導電性繊維の含有率が0.5質量%以上7.0質量%以下であることを特徴とする、車両用外装部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に用いられる車両用外装部材とその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両において、その車体の静電帯電が操縦安定性などに影響を及ぼすことが知られている(特許文献1)。車両が路面上を走行することによって、車体は一般に正に帯電する。これは車両が一般にゴム製のタイヤを介して路面上を走行することにより、路面とタイヤとの剥離帯電によって車体全体が帯電するためと考えられる。また、環境中の空気は、通常、正に帯電しているから、走行時に車体の周囲を流れる空気流も正に帯電している。静電的に正に帯電した車体と正に帯電した空気流とは電気的に反発し合い、その結果、車体に沿って流れた空気流が車体の外表面から剥離しやすくなる。空気流が車体の外表面から剥離することによって、車両において意図した空力特性が得られなくなり、その結果、車両の走行特性や操縦安定性などが低下する恐れがある。
【0003】
特許文献1は、車両の走行時に車体からの空気流の剥離が起こり得る箇所に、車体側の正の帯電を自己放電により中和除電する自己放電式除電器を設け、これによって空気流の剥離を防いで車両の走行特性や操縦安定性を高めることを開示している。空気流の剥離が起こり得る箇所には、車体の天井(ルーフ)部分だけでなく、車体の下面に設けられるアンダーカバーの表面(路面側を向いた表面)も含まれる。特許文献1は、自己放電式除電器として、自己放電を生じさせる鋭利なもしくは尖った角部を有する導電性金属の被膜を用いることも開示しており、一例として、鋭利なもしくは尖った角部を有するように外縁部を加工した導電性アルミニウム接着テープを挙げている。さらに、特許文献1は、車室の内部を向くように自己放電式除電器を設けることも、車体の天井部分の帯電量を減らして操縦安定性などを向上させるために有効であることを開示している。
【0004】
特許文献1は、車両の操縦安定性の向上のためなどに車体の帯電を低減しようとする技術を開示するものであるが、車体の内部での除電に関するものとして、例えば特許文献2~5に記載されたものがある。特許文献2は、基材にクッション材を介して表皮材が積層され自動車の室内天井等に装着される内装材において、表皮材には導電性繊維を混入することにより、表皮材への静電気の帯電の防止を図ることを開示している。
【0005】
特許文献3は、人体の帯電を除去するために車室内に設けられる帯電防止用マットとして、導電性繊維を含有するパイルを有するものを開示している。
【0006】
特許文献4は、電磁波制御機能を有した自動車用防音材において、基材に導電性材料を混入することによって体積抵抗率を104~107Ω・cmとするとともに、音源・電磁波源とは反対側となる面に表面抵抗率が103Ω/□以下の導電性膜を設けることを開示している。この自動車用防音部材は、エンジンに面するように、例えば、車体のアンダーカバーのエンジン側に取り付けられる。
【0007】
特許文献5は、車両の座席を構成するためのパイル地のシート表面材において、着席している人の帯電防止のために、芯部分にカーボンを含み鞘部分をポリエステルとする芯鞘構造の導電性繊維をパイルに0.01~5質量%混入することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6168157号公報
【文献】実開平1-145649号公報
【文献】実用新案登録第2528917号公報
【文献】特開2001-180395号公報
【文献】特許第2573039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された自己放電式除電器は、車体の帯電を除電するために車両の外装部材に取り付けられるものであり、車両の製造の観点からは自己放電式除電器の取り付けのための工程を別途必要とし、その分、コストの上昇要因となるものである。また、自己放電式除電器は例えば導電性アルミニウムからなる粘着テープなどによって構成されるので、車両の外装の意匠面には取り付けづらいという課題もある。したがって、車両の外装を構成する外装部材そのものが自己放電による除電機能を有することが好ましい。
【0010】
本発明の目的は、車両の走行特性や操縦安定性の向上のために除電機能を備えた車両用外装部材と、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の車両用外装部材は、車両の外装に用いられる車両用外装部材において、ニードルパンチ不織布または編織物を含む繊維成形体を有し、繊維成形体を構成する繊維に導電性繊維が含まれ、繊維成形体は、繊維を含む基材層と繊維を含む表皮層とが積層されて一体化したものであって、表皮層を構成する繊維に、導電性繊維が0.5質量%以上7.0質量%以下含まれ、表皮層が路面側に面するように車両の車体に取り付けられることを特徴とする。
【0012】
本発明の車両用外装部材の製造方法は、車両の外装に用いられる車両用外装部材の製造方法において、ポリエチレンテレフタレート繊維と、導電性繊維を含むポリプロピレン繊維とに対してニードルパンチ加工を施すことにより表皮層を形成する工程と、表皮層と、ガラス繊維マットを含む基材層とを積層して積層体とする工程と、積層体に対して加熱及び冷間プレス加工を施して所定の形状とする工程と、を有し、表皮層を構成する繊維における導電性繊維の含有率が0.5質量%以上7.0質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両用外装部材そのものが自己放電による中和除電機能を備えるので、意匠面での制約を受けることなく、車両の製造コストを抑えつつ、車両の操縦安定性などの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の一形態の外装部材の構成を示す断面図である。
【
図3】比較例1の外装部材の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明に基づく外装部材は、自動車などの車両において外装部材として用いられるものであって、繊維成形体から構成されている。繊維成形体の少なくとも一部にはニードルパンチ不織布または編織物が含まれるとともに、繊維成形体を構成する繊維には導電性繊維が含まれている。この外装部材は、車体の外面であって路面に対向する部分を構成するのに適したものであり、例えば、車体下面に設けられるアンダーカバーや、車体のフェンダー部分においてタイヤに向かい合うように設けられるフェンダーライナーとして用いることができる。
【0016】
上述したようにゴム製のタイヤを介して路面上に支持される自動車などの車両は、走行に伴って正に帯電し、また、車両の周辺の空気も一般に正に帯電している。車両が本発明に基づく外装部材を備えている場合、繊維成形体が導電性繊維を含んでいることにより、外装部材が静電帯電したときに、導電性繊維の末端に電界が集中して周囲環境との間にコロナ放電が生起し、このコロナ放電により外装部材に溜まっていた電荷が大気中に逃げて外装部材が除電される。すなわち外装部材は、自己放電式除電器としての機能も備えることになり、外装部材自体が正に帯電することが防がれる。本発明に基づく外装部材を自動車のアンダーカバーとして用いた場合には、車体と路面との間でアンダーカバーに沿って流れている空気流が静電反発によってアンダーカバーから剥離することが防止され、これにより、車体下方での空気流が安定して車両の走行特性や操縦安定性が向上する。
【0017】
図1は、本発明の実施の一形態の外装部材1を示している。この外装部材1は、繊維を含む基材層2と、繊維を含む表皮層3とが積層されて一体化したものである。基材層2は、例えば、ガラス繊維とポリプロピレン(以下、PPとも略記する)とからなるガラス繊維マットで構成される。表皮層3は、ニードルパンチ不織布あるいは編織物によって構成され、表皮層3を構成する繊維には、導電性繊維が例えば0.5質量%以上7.0質量%以下含まれる。表皮層3を編織物によって構成する場合には、導電性繊維の末端が外気にできるだけ露出するように、パイル編物あるいは織物として表皮層3を形成する。外装部材1は、表皮層3に導電性繊維が含まれていることにより、表皮層3が車外の空気と接して表皮層3に外気が侵入可能であるように、車体に取り付けられる。ここでは基材層2の一方の表面上に表皮層3を設けているので、外装部材1をアンダーカバーとして用いるときは、表皮層3が路面側を向き基材層2が車体側を向くように、外装部材1は車体下部に取り付けられ、フェンダーライナーとして用いるときは、表皮層3がタイヤ側を向き基材層2がフェンダー側を向くように、外装部材1はタイヤハウス内でフェンダーに取り付けられる。もっとも本発明に基づく外装部材1は、基材層2の一方の表面上に表皮層3を設けたものに限定されるものではない。基材層2の両方の表面に表皮層3を設け、これら両方の表皮層3に導電性繊維が含まれるようにしてもよい。基材層2の両方の表面に表皮層3が設けられるときは、一方の表皮層3が路面側を向くとともに、他方の表皮層3は車体側を向くこととなる。あるいは、基材層2の一方の表面上に表皮層3を設ける構成において、ガラス繊維強化マットなどとして形成される基材層2自体にも導電性繊維が含まれるようにしてもよい。
【0018】
表皮層3は、不織布あるいは編織物で構成されているので、外装部材1の除電を担うだけでなく、車両走行に伴って飛び跳ねた小石などによる塗膜のチッピングの防止、走行ノイズに対する吸音、着雪あるいは着氷の防止などの機能も備えている。基材層だけでなく表皮層も設けることは、従来のアンダーカバーにおいてもチッピングの防止や走行ノイズの吸音のために広く行われている。したがって、本実施形態によれば、表皮層を構成する不織布あるいは編織物に導電性繊維を混入するだけで車両の操縦安定性などを向上させることができ、アルミニウムテープからなる自己放電式除電器をアンダーカバーなどに別途取り付ける場合に比べ、低コストで操縦安定性などの向上を図ることができる。
【0019】
次に、本実施形態において用いられる導電性繊維について説明する。導電性繊維としては、繊維単体での比抵抗、すなわち導電繊維抵抗が4×10Ω・cm以上4×102Ω・cm以下であるものを好ましく用いることができる。導電繊維抵抗がこの範囲よりも小さい方がより除電効果が高くなるが、著しくコストが高くなる。一方、導電繊維抵抗が大きすぎると、コロナ放電による除電効果が低下する。導電性繊維は、例えば、繊維の原料となるポリマー材料を溶解させてそこに導電性の粒子、例えばカーボンや酸化チタンを添加したのち、その溶解ポリマーを紡糸することで製造される。導電性繊維としては、繊維における位置によらずに一様に導電性粒子を含有するものを使用することもできる。しかしながら、カーボンなどの導電性粒子を混入させることによる機械的強度の低下が懸念されるので、例えば、芯鞘構造を有する導電性繊維や、繊維表面において周方向の特定位置に繊維の長手方向に延びるように導電体部分が形成されている導電性繊維を用いることが好ましい。芯鞘構造を有する導電性繊維では、導電性粒子を含有するポリマー材料を芯部分に配置し、芯部分を囲む鞘部分はポリマー材料のみで構成される。鞘部分は、繊維としての強度や柔軟性などの特性を与える部分である。コロナ放電は、一般に、導電体の先端が尖っているほど、繊維であれば直径が小さいほど、そして導電体の電気抵抗が小さい方が起きやすい。その一方で、体積抵抗率が同じであるとすれば、導電体の直径が小さければ、当然、電気抵抗は大きくなる。そのため、芯鞘構造を有する導電性繊維での芯部分の直径は、例えば6μm以上15μmとされ、芯部分におけるカーボンの含有量は、例えば3質量%以上15質量%以下とされる。
【0020】
表皮層3に混入される導電性繊維は、短繊維であるほど、体積当たりのコロナ放電が起こり得る箇所の数が多くなり、除電効果が高まる。その一方で、繊維長が短すぎると、不織布や編織物への加工が難しくなる。これらの条件を考慮すると、導電性繊維の長さは例えば25mm以上86mm以下とすることが好ましく、25mm以上45mm以下とすることがより好ましい。導電性繊維は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することがある)繊維やPP繊維に混入されて、ニードルパンチ不織布や編織物に加工され、表皮層3とされる。基材層2と積層して一体化し外装部材1とした状態における表皮層3側の表面抵抗率は、表面抵抗率が低いほど除電効果が高まると考えられ、2×1013Ω/□以下であることが好ましい。
【0021】
本実施形態で用いることができる芯鞘構造の導電性繊維の実例としては、三菱ケミカル社製のコアブリッド(商品名)Bがある。また、繊維表面において周方向の特定位置に繊維の長手方向に延びるように導電体部分が形成されている導電性繊維の例としては、クラレ社製のクラカーボ(登録商標)KC-585Sがある。
【0022】
次に、本実施形態の外装部材1の製造方法の一例について説明する。表皮層3は、導電性繊維を0.5質量%以上3.0質量%以下含むPP繊維と、PET繊維とをニードルパンチ加工することにより、不織布として形成される。一方、基材層2は、例えばガラス繊維を混入したPP(すなわちガラス繊維マット)の射出成形を行うことによって形成される。そして、基材層2と表皮層3とを積層して積層体とし、積層体を加熱し、その後、冷間プレス加工を施して所望の形状とすることにより、基材層2と表皮層3とが一体化して外装部品1の完成品が得られる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳しく説明する。ここでは、自動車用の外装部材として、エンジンルームの下側に配置されるフロントアンダーカバーと客室部の下方に配置されるフロアアンダーカバーとを製作して試験用の自動車に取り付け、これらのアンダーカバーを取り付けた状態で試験用の自動車を走行させて操縦安定性を評価した。操縦安定性の評価に用いた試験用の自動車は、前輪駆動の四輪乗用自動車である。操縦安定性は、2名のテストドライバーによって試験用の自動車を平坦な直線のテストコース上で時速140km以下で走行させたときの車体等の挙動をテストドライバーが判定することによって評価した。
【0024】
さらに、外装部材から45mm×45mmの大きさで試料片を切り出した上で、その試料片の静電的特性として、シシド静電気株式会社製の静電気減衰測定器(スタティックオネストメータ)MODEL H0110を使用し、20℃、相対湿度80%の環境下で、初期帯電圧及び半減期を計測し、電荷減衰度を求めた。測定では、試料片をターンテーブル上に載置した上で、ターンテーブルを回転させて試料片が測定器の印加部と受電部との間を往復するようにし、印加部では印加電圧10kVのコロナ放電により試料片の表面を帯電させ、受電部では試料片の帯電電圧を計測した。ターンテーブルの回転数を毎分1550回転とし、印加部のクリアランスを20mmとし、受電部のクリアランスを15mmとした。試料片の厚さは2~5mmであった。
【0025】
図2は、電荷減衰度の測定原理を示す図である。ターンテーブルを回転しつつ印加部においてコロナ放電を起こさせると、試料片の表面に電荷が蓄積し、蓄積した電荷による帯電圧が受電部において測定される。時間の経過とともに電荷の蓄積が進むので、
図2において「A」で示すように、帯電圧が徐々に増加する。やがて帯電圧は一定値に落ち着くようになる。このときの帯電圧の値を初期帯電圧V
0と呼ぶ。初期帯電圧は、20mmのクリアランスで10kVの印加電圧によるコロナ放電によって表面を帯電させたときのその表面の帯電圧と考えることができる。帯電圧が一定値に落ち着いたら印加部でのコロナ放電を停止する。すると、「B」で示すように、試料片の帯電圧は減少する。コロナ放電の停止から試料片の帯電圧が初期帯電圧の半分すなわちV
0/2となるまでの時間を半減期t
1/2と呼ぶ。そして、半減期t
1/2の間に低下した電圧(すなわちV
0/2)を半減期t
1/2で除したものを電荷減衰度cとする。式で表せば、
c=V
0/(2×t
1/2)
となる。ここでは、各試料片について5回の測定を行って平均したものをその試料片の電荷減衰度c、初期帯電圧V
0及び半減期t
1/2とした。
【0026】
[参考例]
試験用の自動車においてその自動車のメーカ純正品として用いられているフロントアンダーカバー及びフロアアンダーカバーを取り付け、操縦安定性の評価を行い、その評価を実施例及び比較例での操縦安定性の評価の基準とした。参考例でのフロントアンダーカバー及びフロアアンダーカバーは、
図1に示すように、基材層2と表皮層3とが積層して一体化した同一の素材を用いたものであり、基材層2は、ガラス繊維とPPとを質量百分率でそれぞれ50質量%含むガラス繊維マットを2層重ねたものである。各層のガラス繊維マットの目付量(単位面積当たりの質量)は550g/m
2であった。表皮層3としては、PP繊維を50質量%、PET繊維を30質量%、低融点PET繊維を20質量%含むニードルパンチ不織布を用いた。表皮層3の目付量は200g/m
2であった。基材層2と表皮層3とは、加熱ののち冷間プレスを行うことによって一体化している。外装部材1において表皮層3の側の表面抵抗率は高すぎて測定できず、基材層2の側の表面抵抗率は1.68×10
12Ω/□であった。
【0027】
参考例でのフロントアンダーカバー及びフロアアンダーカバーと同一素材の試験片を用いて、電荷減衰度の測定を行った。電荷減衰度の測定は、基材層2の側、すなわち車体に取り付けたときに車体側となる面と、表皮層3の側、すなわち車体に取り付けたときに路面側となる面のそれぞれについて行った。表1は、基材層2の組成及び表皮層3の組成をそれぞれ質量比で示しており、表2は、操縦安定性の評価結果と電荷減衰度の測定結果を示している。なお表2において、車体側の面の電荷減衰度の欄に「減衰せず」とあるのは、帯電した電荷が減少せずに帯電圧がほとんど変化しなかった場合を指している。この場合、帯電圧が減衰しないので半減期は定義されない。
【0028】
[実施例1]
図1を用いて説明した外装部材1を形成し、参考例のものと同一形状、同一寸法のフロントアンダーカバー及びフロアアンダーカバーとして試験用の自動車に取り付けて操縦安定性の評価を行った。また外装部材1から切り出した試験片に対して電荷減衰度の測定を行った。基材層2としては、参考例1と同じものを使用し、表皮層3としては、表1に示すように、導電性繊維の含有率が2%となるようにPET繊維の一部を導電性繊維に置き換えたものを使用した。表皮層3の目付量は、実施例1と同じく200g/m
2であった。導電性繊維としては、芯鞘構造である三菱ケミカル社製のコアブリッド(商品名)B(繊維長38mm)を使用した。この導電性繊維は、芯部分におけるカーボン含有量は不明であるが導電繊維抵抗が4.25×10Ω・cmと小さく、芯部分の直径が約10μmで繊維全体としての直径が約20μm(3.3dtex)のものである。結果を表2に示す。実施例1の外装部材をフロントアンダーカバー及びフロアアンダーカバーとして用いることにより、参考例に比べ、操縦安定性が向上した。外装部材1において表皮層3の側の表面抵抗率は1.82×10
13Ω/□であり、基材層2の側の表面抵抗率は3.10×10
9Ω/□であった。外装部材1の全体としての体積抵抗率は7.56×10
12Ω・cmであった。
【0029】
[実施例2]
導電性繊維としてクラレ社製のクラカーボ(登録商標)KC-585S(繊維長76mm)を用いた以外は実施例1と同様にして外装部材1を形成し、フロントアンダーカバー及びフロアアンダーカバーとして試験用の自動車に取り付けて操縦安定性の評価を行い、また、電荷減衰度の測定を行った。ここで用いた導電性繊維は、繊維表面において周方向の4箇所に繊維の長手方向に延びるように導電体部分が形成されたものであって、導電部の直径が約4μmであり、繊維全体としての直径が約20μm(3.3dtex)のものである。またこの導電性繊維の導電繊維抵抗は3.63×102Ω・cmである。結果を表2に示す。ここで用いた導電性繊維は、実施例1のものに比べて導電繊維抵抗が大きく、その分、コロナ放電による自己除電が起こりにくくなったものと考えられる。それでも、導電性繊維を表皮層3に含まない参考例に比べ、操縦安定性はやや向上した。外装部材1において表皮層3の側の表面抵抗率は3.10×109Ω/□であり、基材層2の側の表面抵抗率は2.72×1012Ω/□であった。外装部材1の全体としての体積抵抗率は7.97×1012Ω・cmであった。
【0030】
[比較例1]
図3に示した外装部材1を形成し、参考例のものと同一形状、同一寸法のフロントアンダーカバー及びフロアアンダーカバーとして試験用の自動車に取り付けて操縦安定性の評価を行い、また、電荷減衰度の測定を行った。比較例1の外装部材1は、
図1に示した外装部材1において、基材層2の車体側となる表面に帯電防止用の導電性フィルム4を配置したものである。導電性フィルム4は、基材層2と表皮層3とを一体化するための冷間プレス時に基材層2に一体化している。導電性フィルムとしては、三井・デュポンポリケミカル社製のエンティラ(登録商標)ASシリーズの品番MK400を25質量%、低融点PET樹脂を75質量%の割合で混合してフィルムに成形したものを使用した。結果を表2に示す。操縦安定性については、基準である参考例のときよりも悪化した。
【0031】
【0032】
【0033】
以上の結果から、ニードルパンチ不織布または編織物を含む繊維成形体を有する車両用外装部材において、繊維成形体を構成する繊維に導電性繊維が含まれるようにすることによって、その外装部材を例えば自動車のアンダーカバーとして使用したときに操縦安定性が向上し、それに応じて走行特性も向上することが分かった。これは、導電性繊維の末端においてコロナ放電が生起し、それにより自己放電形の除電が行われるためと考えられる。また表2に示す結果から明らかになるように、操縦安定性と外装部材の路面側の面での電荷減衰度とは相関があり、電荷減衰度が大きいほど、操縦安定性が良好であった。参考例における電荷減衰度が0.023kV/秒であるので、基材層2と表皮層3とを積層一体化した外装部材1においては、表皮層側の電荷減衰度が0.023kV/秒を超えることが好ましいことが分かる。導電性繊維を含ませることにより、初期帯電圧が低下したが、このことも、空気流の剥離を防いで操縦安定性の向上に寄与していると考えられる。一方、外装部材の車体側の面の電荷減衰度や初期帯電圧と操縦安定性との相関は見られなかった。比較例1においてかえって操縦安定性が悪化したのは、外装部材1において車体側の全面に導電性フィルムが設けられていることから、車体に溜まった正の電荷が外装部材1の路面側の表面に広く分布するようになって、その分、車体下側を流れる空気流と外装部材1との間の静電反発が大きくなり、空気流の剥離が起こりやすくなったためであると考えられる。
【0034】
外装部材1の全体としての体積抵抗率は、実施例1,2のものがそれぞれ7.56×1012Ω・cm及び7.97×1012Ω・cmであったのに対し、導電性繊維を含まない参考例では実施例1,2よりも大きな値となり、比較例1では参考例1よりもさらに大きな値となった。導電性繊維の先端の形状などが同じであるとすれば、除電能力は体積抵抗率が小さいほど大きくなると考えられるから、操縦安定性の評価結果を考慮すれば、外装部材1の全体として体積抵抗率は8×1012Ω・cm以下であることが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1 外装部材
2 基材層
3 表皮層
4 導電性フィルム