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特許7233361サセプタ、エピタキシャル基板の製造方法、及びエピタキシャル基板
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  • 特許-サセプタ、エピタキシャル基板の製造方法、及びエピタキシャル基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】サセプタ、エピタキシャル基板の製造方法、及びエピタキシャル基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230227BHJP
   C30B 25/12 20060101ALI20230227BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20230227BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/12
C23C16/458
H01L21/68 N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019517736
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2018018437
(87)【国際公開番号】W WO2018207942
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017096003
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】坂口 卓也
(72)【発明者】
【氏名】篠原 正人
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/123036(WO,A1)
【文献】特開2011-146506(JP,A)
【文献】特開2006-041028(JP,A)
【文献】特開平10-167885(JP,A)
【文献】特開2015-093806(JP,A)
【文献】特開2006-060195(JP,A)
【文献】特開2017-076650(JP,A)
【文献】特開2013-051290(JP,A)
【文献】特開2005-056984(JP,A)
【文献】特開2003-289045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 25/12
C23C 16/458
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の主面にエピタキシャル層を形成する際に当該SiC基板を載せるサセプタにおいて、
基材の少なくとも一部に異なる組成の層を被覆することで構成されており、
サセプタ上面よりも低い位置に形成され、前記SiC基板の裏面の外周部を支持する支持面と、
前記支持面よりも径方向の内側に形成されており、少なくとも表面が炭化タンタルで構成されており、前記エピタキシャル層の形成処理時において前記SiC基板の裏面と接触しない深さの凹部と、
前記支持面の径方向の外側に形成されており、前記SiC基板の径方向の移動を規制する規制面と、
が形成されており、
前記凹部の径方向の中央における深さである中央凹部深さが100μm以上200μm以下であり、
前記支持面及び前記規制面の少なくとも表面が炭化タンタルであり、
前記凹部は、前記基材の凹形状部分に炭化タンタル層を形成した構成であり、
前記基材が黒鉛であり、少なくともサセプタ上面とサセプタ側面にSiC層が形成されていることを特徴とするサセプタ。
【請求項2】
請求項1に記載のサセプタであって、
前記凹部は全体にわたって深さが同じであることを特徴とするサセプタ。
【請求項3】
請求項2に記載のサセプタであって、
前記凹部は、基板厚み方向に平行な面である凹部側面と、基板厚み方向に垂直な面である凹部底面と、で構成されていることを特徴とするサセプタ。
【請求項4】
SiC基板の主面にエピタキシャル層が形成されたエピタキシャル基板の製造方法において、
サセプタに前記SiC基板を載せて化学蒸着法によりエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を含み、
前記エピタキシャル層形成工程で用いる前記サセプタは、基材の少なくとも一部に異なる組成の層を被覆することで構成されており、
前記サセプタには、
サセプタ上面よりも低い位置に形成され、前記SiC基板の裏面の外周部を支持する支持面と、
前記支持面よりも径方向の内側に形成されており、少なくとも表面が炭化タンタルで構成されており、前記エピタキシャル層形成工程での処理時において前記SiC基板と接触しない深さの凹部と、
前記支持面の径方向の外側に形成されており、前記SiC基板の径方向の移動を規制する規制面と、
が形成されており、
前記凹部の径方向の中央における深さである中央凹部深さが100μm以上200μm以下であり、
前記支持面及び前記規制面の少なくとも表面が炭化タンタルであり、
前記凹部は、前記基材の凹形状部分に炭化タンタル層を形成した構成であり、
前記基材が黒鉛であり、少なくともサセプタ上面とサセプタ側面にSiC層が形成されていることを特徴とするエピタキシャル基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、SiC基板にエピタキシャル層を形成する際に用いられるサセプタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、サセプタにSiC基板を支持させた状態で、SiC基板の主面に化学蒸着法によりエピタキシャル層を形成する処理が知られている。ここで、SiC基板にエピタキシャル層を形成する際には、主面と裏面の熱膨張率の差により裏面側に膨らむように反ることがある。
【0003】
特許文献1は、SiC基板のエピタキシャル成長のために用いるサセプタを開示する。このサセプタの表面はTaCで被膜されている。また、このサセプタには、エピタキシャル層の形成時のSiC基板の反りに合わせて湾曲した曲面が形成されている。この構成により、エピタキシャル層の形成時にTaCの被膜にかかる引張り応力を軽減させることができるので、TaCの被膜を剥がれにくくすることができる。
【0004】
特許文献2は、カーボンにTaCを被覆した構成のサセプタを用いてSiC基板にエピタキシャル層を形成する方法を開示する。特許文献2の方法では、サセプタ上にプレートを載置してサセプタを高温に加熱することで、サセプタの表面に形成されていたSiC膜をプレートに付着させる。この構成により、サセプタに付着したSiCがパーティクル源となることを防止できる。
【0005】
特許文献3は、窒化物系半導体基板に化合物半導体膜を形成する際に用いられる基板ホルダを開示する。一部の窒化物系半導体基板では、異方性の反りが発生することがある。そのため、この基板ホルダには、異方性の反りに合わせた非対称な凹部が形成されている。また、この凹部は、反りが発生した状態の窒化物系半導体基板と接触しないように構成されている。この構成により、窒化物系半導体基板の面内温度分布を均一化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-22320号公報
【文献】特開2015-204434号公報
【文献】特開2010-80614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、SiC基板にエピタキシャル層を形成する工程では、高温に加熱する必要があるため、SiC基板の裏面からSiCの昇華が生じて、SiC基板の裏面が荒れることがある。SiC基板の裏面が荒れている場合、後に行われるデバイス作製工程でSiC基板の裏面を吸着させることが困難になる。従って、SiC基板の裏面の荒れを解消する処理(鏡面加工等)が必要となる。
【0008】
特許文献1では、SiC基板の裏面をTaC膜に接触させた状態でエピタキシャル層を形成している。この場合であっても、サセプタの熱が直接伝達するため、SiC基板の裏面が荒れる。特許文献2では、SiC基板をサセプタに載せた段階ではSiC基板の裏面は浮いているが、SiC基板に反りが発生した場合の接触/非接触に関しては記載されていない。特許文献3は、SiC基板ではなく窒化物系半導体基板を対象とした技術である。また、特許文献3は、窒化物系半導体基板の面内温度分布を均一化することを目的としており、面内温度分布を均一化させただけでは、SiC基板の裏面の荒れを防止することはできない。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、SiC基板のエピタキシャル成長のために用いるサセプタにおいて、SiC基板の裏面が荒れにくい構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のサセプタが提供される。即ち、サセプタは、SiC基板の主面にエピタキシャル層を形成する際に当該SiC基板を載せるための部材である。サセプタは、基材の少なくとも一部に異なる組成の層を被覆することで構成されている。このサセプタには、支持面と、凹部と、規制面と、が形成されている。前記支持面は、サセプタ上面よりも低い位置に形成され、前記SiC基板の裏面の外周部を支持する。前記凹部は、前記支持面よりも径方向の内側に形成されており、少なくとも表面が炭化タンタルで構成されており、前記エピタキシャル層の形成処理時において前記SiC基板の裏面と接触しない深さである。前記規制面は、前記支持面の径方向の外側に形成されており、前記SiC基板の径方向の移動を規制する。前記凹部の径方向の中央における深さである中央凹部深さが100μm以上200μm以下である。前記支持面及び前記規制面の少なくとも表面が炭化タンタルである。前記凹部は、前記基材の凹形状部分に炭化タンタル層を形成した構成である。前記基材が黒鉛であり、少なくともサセプタ上面とサセプタ側面にSiC層が形成されている。
【0012】
これにより、エピタキシャル層の形成処理時においてSiC基板の裏面(詳細には外周部以外の部分)とサセプタとが接触しないため、サセプタの熱が直接伝わらない。また、炭化タンタルは例えば黒鉛等と比較して熱輻射率が低いため、SiC基板の裏面の温度が上がりにくい。以上により、上記のサセプタを用いることで、SiC基板にエピタキシャル層を形成する際において、裏面を荒れにくくすることができる。また、例えば厚さの大きいエピタキシャル層を形成する場合、処理時間が長くなるため、SiC基板の裏面の荒れが進行し易くなる(黒鉛と比較した場合の裏面の荒れの違いが一層顕著となる)。そのため、SiC基板の裏面が荒れにくいという本発明の効果を一層有効に活用できる。
また、支持面及び規制面が例えば黒鉛である場合、エピタキシャル層の形成時に支持面及び規制面に生じたSiCがSiC基板に付着することがあるが、炭化タンタルにすることで、SiCの付着を防止できる。また、凹部の表面をSiCで構成した場合、エピタキシャル層の形成時にこのSiCが昇華するため、サセプタの寿命が短くなる可能性がある。これに対し、上記の構成は、凹部の表面に加えて、支持面及び規制面も炭化タンタルであるため、SiC基板をセットする部分の略全体において昇華を防止できる。これにより、サセプタの寿命を長くすることができる。
また、サセプタのコストを軽減しつつ、選択的に特定の部位で同様の効果(SiC基板の表面荒れの抑制)を発揮させることができる。
また、サセプタの全体を炭化タンタル層で被覆する場合は、炭化タンタル層の上にSiCが析出して、その析出したSiCがSiC基板に付着するおそれがある。この点、上記のようにサセプタ上面及びサセプタ側面をSiC層で被覆することで、炭化タンタルの上にSiCが析出されにくいので、SiC基板の汚れを防止できる。
【0013】
前記のサセプタにおいては、前記凹部は全体にわたって深さが同じであることが好ましい。
【0014】
前記のサセプタにおいては、前記凹部には、基板厚み方向に平行な面である凹部側面と、基板厚み方向に垂直な面である凹部底面と、で構成されていることが好ましい。
【0015】
このような形状を用いて、エピタキシャル層の形成時のSiC基板とサセプタの接触を防止することができる。そのため、SiC基板の径、厚さ、処理時間、サセプタの組成等に応じて最適な形状のサセプタが実現できる。
【0022】
本発明の第2の観点によれば、以下のエピタキシャル基板の製造方法が提供される。即ち、この製造方法は、サセプタに前記SiC基板を載せて化学蒸着法によりエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を含む。前記エピタキシャル層形成工程で用いる前記サセプタは、基材の少なくとも一部に異なる組成の層を被覆することで構成されている。前記サセプタには、支持面と、凹部と、規制面と、が形成されている。前記支持面は、サセプタ上面よりも低い位置に形成され、前記SiC基板の裏面の外周部を支持する。前記凹部は、前記支持面よりも径方向の内側に形成されており、少なくとも表面が炭化タンタルで構成されており、前記エピタキシャル層形成工程での処理時において前記SiC基板と接触しない深さである。前記規制面は、前記支持面の径方向の外側に形成されており、前記SiC基板の径方向の移動を規制する。前記支持面及び前記規制面の少なくとも表面が炭化タンタルである。前記凹部は、前記基材の凹形状部分に炭化タンタル層を形成した構成である。前記基材が黒鉛であり、少なくともサセプタ上面とサセプタ側面にSiC層が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るサセプタの斜視図。
図2】サセプタの基板載置部の側面断面図。
図3】SiC基板の載置時とエピタキシャル層形成時の様子を示す断面図。
図4】エピタキシャル層形成後のSiC基板の裏面の顕微鏡写真を、凹部深さが30μmの場合と200μmの場合とで比較する図。
図5】エピタキシャル層形成後のキャリア濃度分布の変動係数を、凹部深さが100μm、200μm、400μmの場合で比較する図。
図6】第1変形例に係るサセプタの基板載置部の側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、図1及び図2を参照してサセプタ10の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るサセプタ10の斜視図である。図2は、サセプタ10の基板載置部14の側面断面図である。
【0026】
サセプタ10は、SiC基板50にエピタキシャル層を形成する際にSiC基板50を載置するための部材である。エピタキシャル層を形成する工程では、サセプタ10にSiC基板50を載置し、サセプタ10を加熱容器に収容して化学蒸着法(CVD法)を行う。そして、高温環境下で原料ガス等を導入することで、SiC基板にエピタキシャル層が形成される。ここで、加熱容器に導入されるガスとしては、例えば、Si原料としてのSiH4、C原料としてのC38、C22、ドーパントのためのN2(n型)、(CH33Al(p型)、成長速度の向上を目的とした、HCl、SiH2Cl2、SiHCl3、SiCl4、CH3SiClを挙げることができる。また、エピタキシャル層を形成する工程では、サセプタ10を中心軸を回転軸として回転させても良い。以上のようにしてエピタキシャル層が形成されたSiC基板50をエピタキシャル基板と称する。特に、本明細書では、エピタキシャル層が形成された後(直後)であって、次の工程(次にSiC基板50を機械的又は化学的に加工する工程)が行われる前の基板をエピタキシャル基板と称する。ここで、次の工程とは、例えば、SiC基板50の厚みを調整する工程、SiC基板50の裏面に鏡面加工を行う工程である。これらの工程は、例えば研磨や研削などの機械加工によって行われていても良いし、Si蒸気圧下で加熱することでSiC基板50の表面をエッチングするSi蒸気圧エッチングによって行われていても良い。
【0027】
図1に示すように、サセプタ10は円板形状(円柱形状)であり、円状の2面のうちの一方がサセプタ上面11であり、他方がサセプタ底面13である。また、サセプタ上面11とサセプタ底面13を接続する湾曲面(円弧面)がサセプタ側面12である。サセプタ10のサセプタ上面11には、複数の基板載置部14が形成されている。
【0028】
また、サセプタ10を組成の観点から説明すると、図2に示すように、黒鉛製の基材に、TaC層又はSiC層を形成した構成である。上述のサセプタ上面11、サセプタ側面12、及びサセプタ底面13はSiC層で構成されている。また、基板載置部14の表面(詳細は後述)は、TaC層で構成されている。
【0029】
基板載置部14は、SiC基板50を載せるとともに、SiC基板50の移動を規制する部分である。図2に示すように、基板載置部14は、上段部20と、凹部30と、で構成される2段構造である。上段部20には、側面としての規制面21と、底面としての支持面22と、が形成されている。凹部30には、側面としての凹部側面31と、底面としての凹部底面32と、が形成されている。
【0030】
支持面22は、円環状の面であり、SiC基板50を支持する。以下、具体的に説明する。ここで、SiC基板50の面のうち、エピタキシャル層を形成する面を主面と称する。従って、本実施形態では、SiC基板50の主面は、Si面又はC面であり、円形の面である。また、この主面の反対側の面を裏面と称する。SiC基板50は、裏面の外周部(円形の輪郭近傍の部分)が支持面22に接触するように載せられる。そのため、支持面22の内径(支持面22の径方向内側の輪郭で構成される円の直径)は、対象となるSiC基板50の直径(例えば、2インチ、3インチ、4インチ、6インチ等)よりも小さい。また、支持面22の外径(支持面22の径方向外側の輪郭で構成される円の直径)は、対象となるSiC基板50の直径よりも大きい。この構成により、支持面22は、SiC基板50を支持する。
【0031】
また、規制面21は、支持面22の径方向外側の端部から上方に垂直に延びるように形成された円弧状の面である。規制面21は、支持面22に載せられたSiC基板50が、径方向(主面又は裏面に沿う方向)に移動した際に、当該SiC基板50に当たることで、SiC基板50の移動を規制する。
【0032】
凹部側面31は、支持面22の径方向内側の端部から下方に垂直に延びるように形成された円弧状の面である。そのため、凹部側面31が形成される位置は、規制面21よりも径方向内側である。また、凹部側面31の高さ(基板厚み方向の長さ)は、規制面21の高さよりも低くても良いし、規制面21の高さと同じであっても良いし、規制面21の高さより高くても良い。
【0033】
凹部底面32は、凹部側面31の下側の端部から水平に延びるように形成された円形の面である。そのため、凹部底面32の径は、支持面22の内径と同じである。なお、規制面21及び凹部側面31の少なくとも一方は、基板厚み方向に対して傾斜していても良い。この場合、例えば、凹部底面32の径は、支持面22の内径よりも小さくなる。また、本実施形態では、凹部底面32から支持面22までの長さ(詳細には凹部底面32から、支持面22を含む仮想平面までの長さ)を凹部深さと称し、特に凹部底面32の径方向の中央における凹部深さ(図3に符号Lで示す長さ)を中央凹部深さと称する。なお、本実施形態では、凹部深さは凹部30の全体にわたって同じ長さであるが、位置に応じて異なっていても良い。
【0034】
図2に示すように、本実施形態では、規制面21、支持面22、凹部側面31、凹部底面32は、何れも、全体にわたって炭化タンタル層で構成されている。
【0035】
次に、本実施形態のサセプタ10を用いてエピタキシャル層を形成する効果について、図3から図5を参照して説明する。
【0036】
上述のように、SiC基板50にエピタキシャル層を形成する際には、主面と裏面の熱膨張率の差により裏面側に膨らむように反ることがある。図3の下側の図には、SiC基板50が反った状態の様子が示されている。図3に示すように、本実施形態の凹部30は、エピタキシャル層の形成時(例えば1500℃から1700℃)において(即ちSiC基板50が反った状態において)、SiC基板50の裏面と凹部底面32とが接触しない深さとなっている。この深さはSiC基板50の直径により変化する事が推測される。
【0037】
ここで、SiC基板の裏面の荒れは、凹部深さに関係すると考えられる。例えば、凹部深さが浅い場合、SiC基板の裏面と凹部底面との距離が近くなるので、熱が伝わり易くなり、裏面が荒れ易くなると考えられる。
【0038】
この点を検証するため、凹部深さが30μmのサセプタと、凹部深さが200μmのサセプタ(ともに凹部の表面は黒鉛)とで、2インチのSiC基板にエピタキシャル層を形成した後の裏面を白色微分干渉顕微鏡で測定する実験を行った。図4は、この実験で得られた顕微鏡写真及び裏面の算術表面粗さRa(以下、表面粗さ)である。図4に示すように、凹部深さが30μmのサセプタを用いた場合、表面粗さが10.25nmとなり、凹部深さが200μmのサセプタを用いた場合、表面粗さが0.97nmとなり、上記の考察が正しいことが検証された。
【0039】
図5は、凹部の表面が炭化タンタルであるサセプタの凹部深さと、2インチのSiC基板を用いた場合の窒素ドープ量(キャリア濃度)の変動係数(標準偏差を平均値で除した値)との関係を検証した実験の結果を示す図である。図5に示すように、凹部深さが100μmと200μmとでは窒素ドープ量の変動係数は3.8(即ち4以下)で同じであり、凹部深さが400μmの場合は窒素ドープ量の変動係数が大きくなる(窒素ドープ量が不均一になる)。従って、サセプタは、凹部深さが100μmから200μmであることが好ましい。なお、凹部深さが一様でない場合は、中央凹部長さが、SiC基板50の裏面に最も影響が大きいと考えられるので、この場合は、中央凹部長さが100μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0040】
また、炭化タンタルは、黒鉛と比較して、熱輻射率が低い。本実施形態では、凹部側面31及び凹部底面32が炭化タンタルで構成されているため、サセプタ10の熱がSiC基板50の裏面に伝わりにくくなる。従って、加熱に伴うSiC基板50の裏面の荒れがより生じにくくなる。そのため、本実施形態のサセプタ10を用いてエピタキシャル層を形成したSiC基板50の裏面は、凹部の表面が黒鉛のサセプタを用いた場合よりも、荒れが生じにくい。従って、本実施形態ではSiC基板50の裏面の表面粗さが1nm(詳細には0.97nm)以下になると推測される。また、SiC基板50の裏面の表面粗さは、0.4nm以上になると推測される。なお、これらの表面粗さは、エピタキシャル層の形成速度を10μm/hとして形成処理を1時間行うことで、主面に厚さが10μmのエピタキシャル層を形成した場合の裏面の表面粗さである。また、例えば厚さの大きいエピタキシャル層を形成する場合、処理時間が長くなるため、SiC基板50の裏面の荒れが進行し易くなる。そのため、SiC基板50の裏面が荒れにくいという効果を一層有効に活用できる。
【0041】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。上記実施形態で説明したサセプタ10の形状(特に凹部30の形状)又は組成は、エピタキシャル層の形成時にSiC基板50の裏面が凹部底面32に接触しない形状であれば、上記実施形態と異なる形状にすることもできる。
【0042】
図6は、第1変形例に係るサセプタ10の基板載置部14の側面断面図である。第1変形例のサセプタ10は、上段部20の上端の全体にわたって、面取り部23が形成されている。これにより、SiC基板50を載置する際に、サセプタ10とSiC基板50の接触によるSiC基板50の損傷を防止したり、SiC基板50を載置し易くなる。
【0043】
また、本実施形態のサセプタ10は、支持面22の径方向の外側に形成されており、SiC基板50の径方向の移動を規制する規制面21を有している。支持面22及び規制面21の少なくとも表面が炭化タンタルである。
【0044】
これにより、支持面22及び規制面21が例えば黒鉛である場合、エピタキシャル層の形成時に支持面22及び規制面21に生じたSiCがSiC基板50に付着することがあるが、炭化タンタルにすることで、SiCの付着を防止できる。また、凹部30の表面をSiCで構成した場合、エピタキシャル層の形成時にこのSiCが昇華するため、サセプタの寿命が短くなる可能性がある。これに対し、本実施形態の構成は、凹部30の表面に加えて、支持面22及び規制面21も炭化タンタルであるため、SiC基板50をセットする部分である基板載置部14の略全体において昇華を防止できる。これにより、サセプタ10の寿命を長くすることができる。
【0045】
また、本実施形態のサセプタ10は、基材(黒鉛基材)の少なくとも一部に異なる組成の層(本実施形態ではSiC及び炭化タンタル)を被覆することで構成されている。凹部30は、基材の凹形状部分に炭化タンタル層を形成した構成である。
【0046】
これにより、サセプタ10のコストを軽減しつつ、選択的に特定の部位で同様の効果(SiC基板50の表面荒れの抑制)を発揮させることができる。
【0047】
また、本実施形態のサセプタ10において、基材が黒鉛であり、少なくともサセプタ上面11とサセプタ10側面にSiC層が形成されている。
【0048】
これにより、サセプタ10の全体を炭化タンタル層で被覆する場合は、炭化タンタルの上にSiCが析出して、その析出したSiCがSiC基板50に付着するおそれがある。この点、上記のようにサセプタ上面11及びサセプタ側面12の被覆をSiC層とすることで、炭化タンタルの上にSiCが析出されにくいので、SiC基板の汚れを防止できる。
【0049】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0050】
上記実施形態では、黒鉛製の基材を用いたが他の素材の基材を用いても良い。また、基材には、SiC層及び炭化タンタル層以外の組成の層を被覆しても良い。また、基材を省略しても良い。また、凹部30の表面が炭化タンタルであれば、他の部分の表面は別の素材であっても良い。
【0051】
上記実施形態で説明した凹部の形状は例示であり、異なる形状であっても良い。また、上記実施形態では、支持面22は円環状であるため、SiC基板50の外周部の全体を支持する(360度にわたって支持する)。これに代えて、SiC基板50の外周部の一部のみを支持する構成(例えば所定の角度毎に支持面22が形成される構成)であっても良い。
【符号の説明】
【0052】
10 サセプタ
14 基板載置部
20 上段部
21 規制面
22 支持面
30 凹部
31 凹部側面
32 凹部底面
50 SiC基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6