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特許7233414カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維およびその組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維およびその組成物
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/20 20060101AFI20230227BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20230227BHJP
   C08B 11/12 20060101ALN20230227BHJP
【FI】
D21H11/20
D21H11/18
C08B11/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020509333
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013641
(87)【国際公開番号】W WO2019189595
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018070268
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】青木 義弘
(72)【発明者】
【氏名】乙幡 隆範
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 寛之
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】外岡 遼
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/014255(WO,A1)
【文献】特開2017-141531(JP,A)
【文献】特表2013-531749(JP,A)
【文献】特表2002-536507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
C08B1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カナダ標準濾水度が200ml以上であって、平均繊維径が500nm以上であ1.0重量%濃度の水分散体としてpH8の条件下で測定した場合に電気伝導度が100mS/m以下である、カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
【請求項2】
pH8、固形分濃度1重量%の水分散体として測定した電気伝導度が70mS/m以下である、請求項1に記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
【請求項3】
0.01~0.50の置換度を有する請求項1または2に記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
【請求項4】
セルロースI型の結晶化度が50%以上である請求項1~3のいずれかに記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維と水を含む、組成物。
【請求項6】
原料パルプをさらに含む請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
接着剤をさらに含む請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
白色顔料をさらに含む請求項5~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
請求項5~8のいずれかに記載の組成物を乾燥してなる乾燥固形物。
【請求項10】
(A)パルプをカルボキシメチル化する工程、
(B)前記パルプを湿式粉砕する工程、を備える、
請求項1~4のいずれかに記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリ
ルセルロース繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維およびその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工程ではパルプや顔料を水に分散させた組成物が使用される。製造工程の効率化や製品品質向上の観点から当該組成物の保水性が重要である。例えば、原紙の原料となるパルプスラリーにおいては、パルプスラリーの保水性がワイヤーでの水切れやパルプの分散性に大きな影響を与え、その結果製造された紙の紙力や透気抵抗度や嵩高さに大きな影響を与える。また、顔料塗工液の保水性によって接着剤の原紙へのしみこみの程度が変化するので顔料塗工層や原紙の強度や接着性に大きな影響を与える。近年セルロースを原料としたセルロースナノファイバーの検討が盛んであり、例えば特許文献1にはセルロースナノファイバーを含む組成物にかかる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-110085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らはセルロースナノファイバーよりも解繊の程度の低いミクロフィブリルセルロース繊維を用いて組成物の保水性を向上できれば、当該繊維を紙中に残存しやすくなるので紙力を高めた紙を低コストで製造できるとの着想を得たが、このような検討は従来なされてこなかった。かかる事情を鑑み、本発明は、組成物の保水性を向上させ、紙に添加した際に紙力向上効果を発現するミクロフィブリルセルロース繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、特定の濾水度を有するカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維が前記課題を解決することを見出した。よって前記課題は以下の本発明によって解決される。
(1)カナダ標準濾水度が200ml以上であって、平均繊維径が500nm以上である、カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
(2)pH8、固形分濃度1重量%の水分散体として測定した電気伝導度が500mS/m以下である、(1に記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
(3)0.01~0.50の置換度を有する(1)または(2)に記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
(4)セルロースI型の結晶化度が50%以上である(1)~(3)のいずれかに記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維。
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維と水を含む、組成物。
(6)原料パルプをさらに含む(5)に記載の組成物。
(7)接着剤をさらに含む(5)または(6)に記載の組成物。
(8)白色顔料をさらに含む(5)~(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)前記(5)~(8)のいずれかに記載の組成物を乾燥してなる乾燥固形物。
(10)(A)パルプをカルボキシメチル化する工程、
(B)前記パルプを湿式粉砕する工程、を備える、(1)~(4)のいずれかに記載のカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、組成物の保水性を向上させ、紙に添加した際に紙力向上効果を発現するミクロフィブリルセルロース繊維を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、カナダ標準濾水度が200ml以上であって、平均繊維径が500nm以上であるカルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維を提供する。本発明において「X~Y」はその端値であるXおよびYを含む。
1.カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維
【0008】
(1)カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維
ミクロフィブリルセルロース繊維(以下「MFC」ともいう)とは、パルプ等のセルロース系原料をフィブリル化して得られる500nm以上の平均繊維径(平均繊維幅ともいう)を有する繊維であり、カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロース繊維(以下「CM化MFC」ともいう)とは、カルボキシメチル化セルロース系原料をフィブリル化して得られるMFCである。本発明において平均繊維径とは長さ加重平均繊維径であり、当該繊維径はABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット社製フラクショネータ等の画像解析型繊維分析装置で測定できる。例えばMFCは、セルロース系原料をビーターやディスパーザーなどで比較的弱く解繊または叩解処理して得られる。したがってMFCは、高圧ホモジェナイザーなどでセルロース系原料を強く解繊処理して得られるセルロースナノファイバーと比較して繊維径が大きく、また繊維自体の微細化(内部フィブリル化)を抑制しながら効率的に繊維表面を毛羽立たせた(外部フィブリル化した)形状を有する。
【0009】
本発明のCM化MFCはパルプを化学変性(カルボキシメチル化)した後に機械的に解繊等の処理を施して得られる機械的処理カルボキシメチル化セルロース繊維(以下「機械的処理CM化MFC」ともいう)であることが好ましい。すなわち本発明のCM化MFCは、カルボキシメチル化したセルロース系原料を比較的弱く解繊または叩解処理して得られるので、繊維間に存在する強固な水素結合が化学変性によって弱められ、単に機械的に解繊または叩解処理しただけのMFCと比較して、繊維同士がほぐれやすく、繊維の損傷が少なく、かつ適度な内部フィブリル化および外部フィブリル化した形状を有する。さらに、本発明のCM化MFCを水に分散して得られた水分散体は、高い親水性、保水性、粘度を有する。
【0010】
上記のとおり、MFCはセルロース系原料とはフィブリル化の度合いが異なる。フィブリル化の度合いを定量化することは一般に容易ではないが、発明者らはMFCのカナダ標準式濾水度や保水度、透明度によってフィブリル化度合を定量化することが可能であることを見出した。
【0011】
本発明のCM化MFCはアニオン性基であるカルボキシメチル基が導入されており、カルボキシメチル基の形態、すなわち当該基がH型であるか塩型であるかによって、水との親和性をはじめ各種物性が変化する。用途によってカルボキシメチル基の形態は適宜調整されるので特性も異なる。特に断りがない限り、本発明のCM化MFCの繊維特性は、アルカリ性の水分散体を与えるもの、具体的にはpH8の1重量%水分散体を与えるCM化MFCについて測定された値で評価される。CM化MFCは通常のパルプとは異なり、アニオン性の置換基が導入されているため、アニオン性であることの特徴を利用した分散剤や凝集剤等の添加剤として好適に使用することができる。
【0012】
<カナダ標準式濾水度>
前記条件を満たすように本発明のCM化MFCのカナダ標準濾水度は200ml以上であるが、250ml以上が好ましい。当該濾水度の上限は限定されないが、900ml以下が好ましい。原料であるCM化パルプを処理する際に短繊維化、ナノ化およびフィブリル化の度合いを調整することによって本発明のCM化MFCのカナダ標準式濾水度を調整できる。一般的に、カナダ標準式濾水度はパルプスラリーの濾水性(水切れ)の指標であり、保水性が高いと濾水度は低下するが、本発明者らは、例えパルプの保水性が高くても、パルプの短繊維化を進めると、メッシュから繊維が抜けてしまい、カナダ標準式濾水度が高くなることを見出した。すなわち、発明者らは、鋭意検討を行った結果、CM化パルプのフィブリル化と同時に短繊維化を進めることで、保水性が高いにもかかわらず、カナダ標準式濾水度が上昇することを見出した。つまり、カナダ標準式濾水度が200ml以上であることは、CM化パルプの短繊維化がより進んでいることに起因している。本発明のCM化MFCはフィブリル化が進んでいるため、MFC自体の保水度は高く、組成物の保水性を高めることができる。よって、例えば製紙用添加剤として本発明のCM化MFCを使用した場合、抄紙工程における紙への歩留まりが高く、効率的に紙力を向上させることができる。
【0013】
<保水度>
本発明のCM化MFCの保水度は、300%以上であり、より好ましくは350%以上である。保水度が300%未満だと、本発明のCM化MFCを含む組成物の保水性を向上させるという本発明の効果を十分に得ることができない可能性がある。保水度は、JIS P-8228:2018に従って測定される。
【0014】
<水分散体における透明度>
本発明のCM化MFCは、水を分散媒とする水分散体としたときに、透明度が低いという特徴を有する。本発明において透明度とは、CM化MFC等の対象となる材料を固形分1%(w/v)の水分散体とした際の、波長660nmの光の透過率をいう。具体的な透明度の測定方法は、以下の通りである:
CM化MFC分散体(固形分1%(w/v)、分散媒:水)を調製し、UV-VIS分光光度計UV-1800(島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm光の透過率を測定する。
【0015】
本発明において前記透明度は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、よりさらに好ましくは10%以下である。一般にセルロース系材料の前記透明度は、結晶性を維持したままナノ化が進んだ場合に上昇するが、本発明のCM化MFCはナノ化がそれほど進んでおらず繊維の形状を維持しているため、前記透明度が低くなる。前記透明度が40%以下のCM化MFCを紙に内添した場合、CM化MFCは紙中で繊維形状を維持するため、紙厚の低下や紙の密度低下が起こりにくく、剛度を落とさずに紙力を向上させることができる。
【0016】
<電気伝導度>
本発明のCM化MFCの電気伝導度は、1.0重量%濃度の水分散体としてpH8の条件下で測定した場合に、好ましくは500mS/m以下であり、より好ましくは300mS/m以下であり、さらに好ましくは200mS/m以下であり、よりさらに好ましくは100mS/m以下であり、最も好ましくは70mS/mである。前記電気伝導度の下限は、好ましくは5mS/m以上であり、より好ましくは10mS/m以上である。CM化MFCの当該電気伝導素は原料であるCM化セルロース系材料の電気伝導度と比較して高い値を示す。また、当該電気伝導度が上限値を超えることは、CM化セルロース系材料の水分散液中に溶存する金属塩や無機塩の濃度が一定値以上であることを意味する。当該金属塩や無機塩等の濃度が低いと繊維同士の静電反発が起こりやすく、効率的にフィブリル化を進めることができる。
【0017】
以下、CM化MFCの製造方法について説明する。
【0018】
1)セルロース系原料
セルロース系原料は、特に限定されないが、例えば、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物に由来するものが挙げられる。植物由来のものとしては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、針葉樹溶解パルプ、広葉樹溶解パルプ、再生パルプ、古紙等)が挙げられる。また、上述のセルロース系原料を粉砕処理したセルロースパウダーを使用してもよい。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかまたは組合せであってもよいが、好ましくは植物または微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維であり、さらに好ましくは木質系パルプであり、最も好ましくは広葉樹パルプである。
【0019】
セルロース繊維の平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものの平均繊維径は50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製した原料を用いる場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、平均繊維径を50μm以下程度に調整することが好ましく、30μm以下程度とすることがより好ましい。
【0020】
2)カルボキシメチル化
カルボキシメチル化とはセルロース系原料にエーテル結合を介してカルボキシメチル基を導入することをいい、当該基は塩の形態(-CH-COOM、Mは金属原子)で導入されることもある。カルボキシメチル化をエーテル化ともいう。以下、エーテル化について詳細に説明する。
【0021】
<セルロースI型の結晶化度>
本発明のCM化MFCにおけるセルロースの結晶化度に関して、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、CM化MFCを紙に添加した際に紙力向上等の効果が得られる。また、原料CM化パルプの結晶I型が50%以上であると、パルプ繊維の形状を維持しながら、叩解または解繊処理による短繊維化やフィブリル化を効率的に進めることができ、本発明のCM化MFCを効率的に調製できる。セルロースの結晶性は、マーセル化剤の濃度と処理時の温度、ならびにCM化の度合によって制御できる。マーセル化およびCM化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整するなどして変性の度合いを調整して所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
【0022】
CM化MFCのセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに載置し、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-I)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0023】
CM化セルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。得られたCM化セルロースは、ピラノース環の2,4,6位の水酸基のいずれかがカルボキシメチル化される。一般的にCM化セルロースを乾式粉砕したカルボキシメチルセルロース(CMC)は水膨潤性、高い安全性等の特長を有し、化粧品や食品などの添加剤として使用される。そのため、CM化セルロースを原料とする本発明のCM化MFCもCMCと同様、食品や化粧品などの添加剤として好適に使用することができる。
【0024】
CM化により得られるCM化セルロースまたはMFC中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.60以下が好ましく、0.50以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。一般的にCM化セルロースは、カルボキシメチル置換度が高くセルロースI型結晶化度が低いほど、水に対する親和性が高くなり水に膨潤する性質を有する。しかしながら、発明者らは、結晶性を崩さずにカルボキシメチル化反応を進めたCM化パルプを原料として使用し、さらに含水率の高い状態のCM化パルプを叩解または解繊処理することで、繊維の形状を残しながらフィブリル化を進めたCM化MFC得られることを見出した。
【0025】
CM化方法は特に限定されないが、例えば、上述のように発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。当該反応には、通常、溶媒が使用される。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は通常その下限は60重量%以上、その上限は95重量%以下であり、60~95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。当該量の上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3~20重量倍であることが好ましい。
【0026】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上がさらに好ましい。当該量の上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、マーセル化剤の使用量0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルがさらに好ましい。
【0027】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上であり、上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。当該時間の上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、反応時間は、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0028】
エーテル化反応は通常、CM化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。CM化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。CM化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上がさらに好ましい。当該量の上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、当該量は好ましくは0.05~10.0倍モルであり、より好ましくは0.5~5であり、さらに好ましくは0.8~3倍モルである。反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上であり、その上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。CM化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0029】
CM化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)CM化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにする。3)水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0030】
3)機械的処理
本工程では、CM化パルプを機械的に解繊、叩解、離解し、平均繊維径を500nm以上とする。機械的な解繊、叩解、または離解を「機械的処理」といい、CM化パルプの水分散体を解繊または叩解することを湿式粉砕ともいう。機械的処理は1回行ってもよいし、同じ処理または異なる処理を組合せて複数回行ってもよい。複数回の場合の各処理の時期はいつでもよく、使用する装置は同一でも異なってもよい。本工程は、例えば以下のように実施してよい。
【0031】
前記水分散体を脱水などにより高濃度化(20重量%以上)してから解繊または叩解処理する;
前記水分散体を低濃度(20重量%未満、好ましくは10重量%以下)にしてから叩解または離解などの機械的処理を行う;
CM化パルプを乾燥してから機械的に解繊、離解、または叩解処理する;
CM化パルプをあらかじめ乾式粉砕し短繊維化してから機械的に解繊離解、または叩解処理する。
【0032】
本発明では、適度にフィブリル化および短繊維化を進めるために、機械的処理を2回行うことが好ましい。具体的には、CM化パルプを乾燥した後で粉砕することで短繊維化を進め、次いで粉砕されたCM化パルプの低濃度水分散体をリファイナーまたは高速離解機で処理することでフィブリル化を進めることが好ましい。乾燥はCM化パルプの水分が15重量%以下となるように実施されることが好ましく、10重量%以下となるように実施されることがより好ましい。
【0033】
機械的処理に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機など回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
【0034】
解繊または叩解をCM化パルプの水分散体に対して実施する場合、水分散体中のCM化パルプの固形分濃度の下限は、通常は0.1重量%以上が好ましく、0.2重量%以上がより好ましく、0.3重量%以上がさらに好ましい。これにより、CM化パルプの量に対する液量が適量となり効率的になる。当該濃度の上限は通常は50重量%以下が好ましい。
【0035】
本工程によりCM化MFCが得られる。CM化MFCの平均繊維径は、長さ加重平均繊維径にして500nm以上であり、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。平均繊維径の上限は60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。平均繊維長は長さ加重平均繊維長にして50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましい。平均繊維長の上限は、3000μm以下が好ましく、1000μm以下が好ましく、500μm以下がさらに好ましく、最も好ましくは400μm以下である。あらかじめCM化したパルプを原料とすると、機械解繊または叩解した際に、フィブリル化を進めやすい。一般的なパルプでは叩解が進むほどカナダ標準濾水度は低下するが、本発明では叩解に供する原料の濃度や装置を調整し、繊維の短繊維化を極端に進めることで、保水性を有しながらもカナダ標準式濾水度の高いCM化MFCとできる。
【0036】
長さ加重平均繊維径および長さ加重平均繊維長は、画像解析型繊維分析装置で測定することができ、例えば、ABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット株式会社製フラクショネータを用いて求められる。CM化MFCの平均アスペクト比は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下がさらに好ましく、最も好ましくは50以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
【0037】
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
本工程で得た、CM化MFCのグルコース単位当たりの置換度は、それぞれ原料としたCM化パルプの置換度と同じであることが好ましい。
【0038】
2.組成物
本発明の組成物はCM化MFCと水を含む。本発明の組成物は、前述のとおりCM化MFCと水を含んでいて保水性を求められる用途であれば幅広い用途に使用することが可能である。本発明の組成物は、例えば、増粘剤、ゲル化剤、保形剤、乳化安定剤、分散安定化剤などに利用できる。具体的には製紙用原料(添加剤、原料パルプ)、食品、化粧品、医薬品、農薬、トイレタリー用品、スプレー剤、塗料等に使用することができるが、紙の製造における抄紙工程で使用する紙料(パルプスラリー)または塗工工程で使用する顔料塗工液またはクリア塗工液であることが好ましいので、以下、これらを例にして説明する。
【0039】
(1)パルプスラリー
パルプスラリーはCM化MFCと水の他に原料パルプを含む。原料パルプとは紙の主成分をなすパルプである。本発明で用いる原紙のパルプ原料は特に限定されず、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ、脱墨古紙パルプ(DIP)、未脱墨古紙パルプなどの古紙パルプ、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、針葉樹クラフトパルプ(LKP)等の化学パルプ等を使用できる。古紙パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌、段ボール、印刷古紙などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙由来のものを使用できる。
【0040】
CM化MFCの含有量は原料パルプに対して1×10-4~20重量%であることが好ましく、1×10-3~5重量%であることがより好ましい。当該含有量が上限値を超えると保水性が高すぎるため、抄紙時の水切れが悪化する恐れがあり、下限値未満であると添加量が少なすぎるため、保水性の向上や紙に添加したときの紙力向上効果が得られない可能性がある。
【0041】
パルプスラリーは公知の填料を含有してよい。填料としては、重質炭酸カルシム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱酸による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素-ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし併用してもよい。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料であり、高い不透明度が得られる炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムが好ましい。填料の含有率は、原料パルプに対して、5~20重量%が好ましい。本発明においては紙中灰分が高くても紙力の低下が抑制されるため、当該填料の含有率は10重量%以上であることがより好ましい。
【0042】
本発明のCM化MFCはパルプスラリーにおいて紙力向上剤、歩留向上剤として機能しうる。パルプスラリーには、本発明のMFCの他に内添薬品として、嵩高剤、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、染料、カチオン系、ノニオン系、アニオン系等の各種サイズ剤等を必要に応じて添加してもよい。
【0043】
本発明のパルプスラリーは任意の方法で調製されるが、原料パルプをリファイナー処理またはミキシング処理する工程でCM化MFCを添加することが好ましい。ミキシング工程でCM化MFCを添加する場合、填料や歩留剤等その他助剤とCM化MFCを予め混合したものを原料パルプスラリーに添加してもよい。
【0044】
パルプスラリーの固形分濃度は抄紙条件等によって適宜調整されるが、0.1~1.0重量%が好ましい。当該パルプスラリーは公知の抄紙方法に供され紙が製造される。抄紙は、例えば、長網抄紙機、ギャップフォーマー型抄紙機、ハイブリッドフォーマー型抄紙機、オントップフォーマー型抄紙機、丸網抄紙機等を用いて行うことができるが、これらに限定されない。
【0045】
(2)クリア塗工液
クリア塗工液とは、澱粉、酸化澱粉、加工澱粉、デキストリンなどの各種澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの表面処理剤として通常使用される水溶性高分子を主成分とする塗工液であり、水溶性高分子の他に、耐水化剤、外添サイズ剤、表面紙力剤、染顔料、蛍光着色剤、保水剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。前記水溶性高分子は接着剤でもある。
【0046】
クリア塗工液中のCM化MFCの含有量は特に限定されず、固形分の全量がCM化MFCでもよいが、塗工適性等の観点から上述の水溶性高分子と混合して使用することが好ましく、水溶性高分子とCM化MFCの混合割合は、水溶性高分子:CM化MFC=1:10000~10000:1が好ましく、1:1~500:1程度であることがより好ましい。
【0047】
クリア塗工液を用いて、公知の方法で原紙の片面あるいは両面に塗工することでクリア塗工層を設けることができる。本発明においてクリア塗工とは、例えば、サイズプレス、ゲートロールコータ、プレメタリングサイズプレス、カーテンコータ、スプレーコータなどのコータ(塗工機)を使用して、原紙に塗工や含浸を行うことをいう。クリア塗工層の塗工量は、片面あたり固形分で0.1~1.0g/mが好ましく、0.2~0.8g/mがより好ましい。
【0048】
(3)顔料塗工液
顔料塗工液とは白色顔料を主成分として含む組成物である。白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、焼成カオリン、無定形シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、プラスチックピグメント等の通常使用されている顔料が挙げられる。
【0049】
CM化MFCの含有量は白色顔料100重量部に対して1×10-3~1重量部が好ましい。当該含有量がこの範囲であると、塗工液の粘度を大幅に増大することなく顔料塗工液を得ることができる。
【0050】
顔料塗工液は接着剤を含む。当該接着剤としては、酸化澱粉、陽性澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉等のエーテル化澱粉、デキストリン等の各種澱粉類、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス等が挙げられる。これらは単独、あるいは2種以上併用して用いることができ、澱粉系接着剤とスチレン-ブタジエン共重合体を併用することが好ましい。
【0051】
顔料塗工液は、一般の紙製造分野で使用される分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤を含んでいてもよい。
【0052】
顔料塗工液を用い、公知の方法で原紙の片面あるいは両面に塗工することで顔料塗工層を設けることができる。塗工液中の固形分濃度は、塗工適性の観点から、30~70重量%程度が好ましい。顔料塗工層は1層でもよく、2層でもよく、3層以上でもよい。複数の顔料塗工層が存在する場合、CM化MFCを含む顔料塗工液でいずれかの1層が形成されていればよい。顔料塗工層の塗工量は、用途によって適宜調整されるが、印刷用塗工紙とする場合は片面あたりトータルで5g/m以上であり、10g/m以上であることが好ましい。上限は、30g/m以下であることが好ましく、25g/m以下であることが好ましい。
【0053】
(4)乾燥固形物
本発明の組成物は乾燥することにより乾燥固形物とすることができる。特に原料パルプや水溶性高分子、白色顔料と本発明のCM化MFCを含有する水分散体を乾燥させた乾燥固形物(原紙、クリア塗工層、顔料塗工層)は、強度としなやかさを有する。この理由は明らかではないが以下のように推察される。本発明のCM化MFCの水分散体は、シングルナノレベルまで解繊が進んだCNFと比較して、緩やかに解繊処理されているため繊維表面のフィブリル化は進んでいるものの繊維の形状を維持したまま水中に分散している。そのため、これを乾燥させて得られる固形物は繊維のネットワークを含み、フィブリル化した繊維によって形成された水素結合点により当該ネットワークがより強化されているので、強度としなやかさを兼ね備えた乾燥固形物となる。当該乾燥固形物に水を添加することで組成物として使用できる。
【0054】
3.CM化MFCを含有する紙
本発明のCM化MFCを含有するパルプスラリーから製造された紙は高い紙力および透気抵抗度を有する。また、CM化MFCを含有する顔料塗工液またはクリア塗工液から形成された顔料塗工層またはクリア塗工層を備える紙は、接着剤の原紙へのしみこみの程度が抑制されるので、高い塗工層強度や透気抵抗度を有する。さらに本発明のCM化MFCを含有するパルプスラリーから製造された紙は嵩高いという特徴を有する。
【0055】
本発明のCM化MFCを含有する紙の坪量は10~400g/mが好ましく、15~100g/mがより好ましい。本発明のCM化MFCを含有する紙の原紙は単層でも多層でもよい。CM化MFCを含有するパルプスラリーから製造された紙は原紙層にCM化MFCを含むが、原紙層が多層である場合は、少なくともいずれか一層が当該CM化MFCを含有すればよい。また、当該紙の灰分は顔料塗工層の有無によって異なるが、顔料塗工層を設けない紙(原紙またはクリア塗工紙)の場合は0~30%であることが好ましく、顔料塗工層を設ける紙の場合は10~50%であることが好ましい。
【0056】
CM化MFCを含有する紙は必要に応じてクリア塗工層を備えていてもよい。また、CM化MFCを含有する紙に公知の表面処理等を施してもよい。
【実施例
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。物性評価は以下のとおりに行った。
平均繊維長、平均繊維径:試料にイオン交換水を加えて0.2重量%スラリーを調整し、バルメット社製フラクショネータを用いて測定した。
カナダ標準濾水度(c.s.f.):JIS P 8121-2:2012に従った。
電気伝導度:試料(CM化MFC等)の濃度が1.0重量%である水分散体を準備し、pH8の条件下で、堀場製ポータブル型電気伝導度計を用いて測定した。
坪量:JIS P 8223:2006に従った。
バルク厚さ、およびバルク密度:JIS P 8223:2006を参考にして測定した。
比破裂強さ:JIS P 8131:2009に従って測定した。
比引張強さ:JIS P 8223:2006を参考にして測定した。
引張破断伸びおよび比引張エネルギー吸収量:JIS P 8223:2006およびJIS P 8113:1998を参考にして測定した。
ショートスパン比圧縮強さ:JIS P 8156:2012を参考とした。
透気抵抗度:JIS P 8117:2009に従い、王研式透気度・平滑度試験機により測定した。
【0058】
[実施例A1]CM化MFCの調製
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙株式会社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で111g加え、パルプ固形分が20重量%になるように水を加えた。その後、この混合物を30℃で30分撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。この混合物を30分撹拌した後に、70℃まで昇温しさらに1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和後、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25の比較製造例1のCM化パルプを得た。
【0059】
得られたCM化パルプを水に分散し4重量%の分散液とし、シングルディスクリファイナー(製品名:14インチ ラボリファイナー(相川鉄工株式会社製))で処理し、実施例A1のCM化MFCを得た。物性を表1に示す。
【0060】
[実施例A2]
比較製造例1のCM化パルプを乾燥、粉砕しCM化CMCを得た。得られたCM化CMCを水に再分散し4重量%の分散液とし、前記リファイナーで処理し、実施例A2のCM化MFCを得た。
【0061】
[実施例A3]
前記リファイナーを高速離解機(製品名:トップファイナー(相川鉄工株式会社製))に変更した以外は、実施例A2と同様に、実施例A3のCM化MFCを得た。
【0062】
[比較例A3]
カルボキシル化しないパルプ(NBKP、日本製紙株式会社製)を用いた以外は、実施例A1と同様にして前記リファイナーで処理したNBKPパルプを得た。当該パルプと原料としたNBKPの物性を表1に示す。表1中、原料としたNBKPを比較例A2と表記した。
【0063】
[実施例B1]
96重量%の段ボール古紙(日本製紙株式会社製)、4重量%の実施例A1で調製したCM化MFC(c.s.f.483ml)を混合して固形分濃度0.8重量%の混合パルプとした。当該混合パルプの合計量に対し、1.0重量%の硫酸バンド、0.15重量%のポリアクリルアミド、0.2重量%のサイズ剤を添加して紙料を調製した。得られたパルプスラリーを用いて坪量100g/mを目標に手抄きシートを製造して評価した。手すきシートはJIS P 8222を参考に製造した。
【0064】
[実施例B2、B3]
実施例A2およびA3で調製したCM化MFCをそれぞれ使用した以外は実施例B1と同様にして手すきシートを製造し、評価した。
【0065】
[比較例B1、B2]
CM化MFCを用いなかった以外は、実施例B1と同様にして手すきシートを製造し、評価した。比較例B1は実施例B1と同じロットの段ボール古紙を使用し、比較例B2は比較例B3と同じロットの段ボール古紙を使用した。
【0066】
[比較例B3]
CM化MFCの代わりに比較例A3で調製したNBKPを用いた以外は、実施例B1と同様にして手すきシートを製造し、評価した。これらの物性を表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
本発明の紙は、優れた紙力および透気抵抗度を有することが明らかである。