(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】傾斜組成を有する保護被覆を備える部品
(51)【国際特許分類】
C23C 4/134 20160101AFI20230227BHJP
C23C 4/10 20160101ALI20230227BHJP
C23C 28/04 20060101ALI20230227BHJP
C23C 4/18 20060101ALI20230227BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C23C4/134
C23C4/10
C23C28/04
C23C4/18
F02C7/00 C
F02C7/00 D
(21)【出願番号】P 2020523338
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 FR2018052668
(87)【国際公開番号】W WO2019081870
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-29
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】306047664
【氏名又は名称】サフラン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ,リュック
(72)【発明者】
【氏名】サロ,ピエール
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0287149(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0137949(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107043928(CN,A)
【文献】特開2017-096278(JP,A)
【文献】特開2008-144272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00
C23F 28/00
F02C 7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部セラミックマトリックス複合材を含み、複合材が、環境的劣化に対して、少なくとも1種の保護層(2)で少なくとも局所的に被覆されている機械部品(1)であって、保護層(2)が、傾斜組成被覆層(3)を含み、傾斜組成層(3)が、少なくとも1種のシリコンMAX相材料及び少なくとも1種のアルミニウムMAX相材料を含み、
かつ、傾斜組成層(3)の機械部品(1)側の下部がシリコン複合材を主に含む部品と接し、機械部品(1)とは反対側の上部がアルミニウム複合材を主に含む被覆または部品と接しており、傾斜組成層(3)が、保護層(2)内で、機械部品(1)に関する第1の高さ(h3)と機械部品(3)に関する第2の高さ(h4)との間に延伸し、第1の高さ(h3)の傾斜組成層(3)の組成が、アルミニウムを含まず、第2の高さ(h4)の傾斜組成層(3)の組成が、シリコンを含まず、第1の高さ(h3)と第2の高さ(h4)との間の中間の高さ(h)が、アルミニウム及びシリコンを含む組成を有し、シリコン部分及びアルミニウム部分が、傾斜組成層(3)において、中間の高さ(h)の位置の関数として、徐々に展開し、中間の高さ(h)が第2の高さ(h4)に近づくとき、アルミニウム部分が増加することを特徴とする、機械部品(1)。
【請求項2】
アルミニウム部分及びシリコン部分が、傾斜組成層(3)において、中間の高さ(h)の関数として、直線的に展開することを特徴とする、請求項1に記載の機械部品(1)。
【請求項3】
シリコン及びアルミニウムのモル比の合計が、傾斜組成層(3)において、中間の高さ(h)のいずれの位置であっても
一定であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の機械部品(1)。
【請求項4】
傾斜組成層(3)が、Ti3AlC2MAX相材料及びTi3SiC2MAX相材料を含むことを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の機械部品(1)。
【請求項5】
厚さが10μm~100μmの間であることができる、シリコンを本質的に含む副層(4)
厚さが50μm~500μmであり、部品から離れると、
0.2~2%/μmの間の
シリコン比率で、SiがAlによって置換される、傾斜組成層(3)
厚さが10~300μmの間であり、酸化されるとき、表面においてアルミナを生成するようにTi2AlCで本質的に構成されて、多湿環境における耐性を増す、生成層(6)
アルミナ層(7)
50μm~1000μmの間の厚さを有するセラミックで製造され、外部環境と部品(1)との間の伝達を制限するように設計された、環境障壁(8)
を含むことを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の機械部品(1)。
【請求項6】
厚さが10μm~100μ
mの間
であることができる、シリコンの副層(4)
厚さが50μm~500μmの間であり、部品から離れると、
0.2~2%/μmの
シリコン比率で、SiがAlによって置換される、傾斜組成層(3)
厚さが50~300μmの間であり、酸化されるとき、表面においてアルミナを生成するようにTi2AlCで本質的に構成される、生成層(6)
アルミナ層(7)
を含むことを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の機械部品(1)。
【請求項7】
厚さが50μm~500μmの間であり、部品から離れると、
0.2~2%/μmの間の
シリコン比率で、SiがAlによって置換される、傾斜組成層(3)
厚さが50~300μmの間であり、酸化されるとき、表面においてアルミナを生成するように設計され、Ti3AlC2で本質的に構成される、生成層(6)
アルミナ層(7)
をさらに含むことを特徴とする、請求項1~4の一項に記載の機械部品(1)。
【請求項8】
少なくとも1種の保護層(2)を機械部品(1)に堆積させる方法(9)であり、保護層(2)が、少なくとも1種の傾斜組成層(3)を含み、方法(9)が、以下のステップ:
傾斜組成層(3)を構成する化学種を溶射することによって、傾斜組成層(3)を実現するステップを含む方法(9)であって、
傾斜組成層(3)が、少なくとも1種のシリコンMAX相材料及び少なくとも1種のアルミニウムMAX相材料を含み、傾斜組成層(3)が、溶射装置(11)に、一方でアルミニウムMAX相材料の粒子を、他方でシリコンMAX相材料の粒子を注入することによって製造され、アルミニウムMAX相材料が、到達した層の高さの関数として、徐々にシリコンMAX相材料を置き換えることを特徴とする、方法(9)。
【請求項9】
アルミニウムMAX相材料の粒子及びシリコンMAX相材料の粒子が、2個の別個の容器において溶媒中に懸濁させたTi3AlC2の粉末及びTi3SiC2の粉末であり、次いで、Ti3AlC2懸濁物及びTi3SiC2懸濁物が、MAX相材料の懸濁物中の粒子を部品(1)上に、加熱し、噴霧するように設計されたプラズマ(10)中に、制御された比率で注入され、結果として堆積物を生じることを特徴とする、少なくとも1つの材料層を部品(1)に堆積させる、請求項8に記載の方法(9)。
【請求項10】
溶媒が、傾斜組成層(3)における酸化物の存在を制限するように、Ti3AlC2粒子及びTi3SiC2粒子からの酸化物形成を制限するように設計された、水性溶媒又は非水性溶媒であることを特徴とする、少なくとも1つの材料層を部品(1)に堆積させる、請求項9に記載の方法(9)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、機械部品に施される表面処理に関連し、特に、機械部品が、要求の高い使用条件に耐える必要がある場合の、機械部品に施される表面処理に関連する。
【背景技術】
【0002】
本発明の適用分野は、特に、航空エンジンで使用される、より詳細には、燃焼室、高圧タービン及びエンジン排気部分で使用される、セラミックマトリックス複合材で構成される部品に堆積させる、保護材の層の分野である。
【0003】
しかし、本発明は、セラミックマトリックス複合材で構成された部分を含む、いずれの部品の種類にも適用可能である。
【0004】
セラミックマトリックス複合材(CMC)は、その優れた構造特性、低密度及び1000℃の領域の温度までの優れた耐酸化性ゆえに、航空産業で一層広範囲で使用されている。
【0005】
例えば、航空エンジンの燃焼室における、こうした状態への長期暴露に耐えるために、セラミックマトリックス材で製造された部品は、一般に、酸化に対して部品を保護するために、シリコン層で被覆されており、酸化によりシリカ(SiO2)が生成される。
【0006】
SiO2の層は、シリコン層の表面において形成し、SiO2層がより厚くなるにつれてSiO2形成速度が減少し、したがって、酸化を遅くし、複合材マトリックスに存在するシリコンSiの消費を制限する障壁を形成する。
【0007】
多湿腐食雰囲気において使用する場合には、水酸化物OH(g)を含む化学種の存在下では、シリカ層は、温度1100℃から、一般式SiOx(OH)4-2xのケイ酸形態、例えば、オルトケイ酸Si(OH)4(g)又はメタケイ酸SiO(OH)2(g)で、極めて急速に揮発する。
【0008】
この現象は、シリカSiO2の純成長速度の低下をもたらし、その厚さが複合材のマトリックス中に存在するシリコンの限界値及び急速な後退に向かう傾向がある。
【0009】
この現象に対応するために、先行技術において、部品の劣化を加速させる水酸化物OHの拡散に対する障害物として作用するように設計された、低い熱伝導率を有し、固体粒子によって生じる腐食に耐える、セラミック層を堆積させることが知られている。
【0010】
しかし、これらの解決法は、特に、表面セラミック層の剥落や、極めて異なる膨張係数を有する材料の間に歪み勾配をもたらす熱サイクルの衝撃に起因する亀裂を生じる場合に、限界がある。
【0011】
このように、シリコン層は、多湿腐食雰囲気に再び暴露されて、その構造の加速的な劣化及び部品の寿命の短縮をもたらす。
【0012】
また、最先端技術において、ニッケル及び/又はコバルトの超合金を用いた、燃焼室の遮熱システム又は高圧タービンの構成部品において、アルミニウムを含む副層を製造する方法も知られている。
【0013】
これらの副層の酸化により、アルミナ層が生成され、アルミナ層は、アルミナの、水蒸気に対する良好な化学安定性のために、とりわけ多湿腐食媒体において、さらなる酸化に対して部品を保護する。
【0014】
さらに、アルミナは、シリコンより低い形成速度を有し、これによって、反応に供給するのに必要な材料量の必要性が減るという理由で、保護寿命を延ばすことが可能になる。
【0015】
アルミナはまた、セラミック遮熱との良好な物理化学的適合性の利点も有し、セラミック遮熱の熱膨張係数に近い熱膨張係数も有する。
【0016】
しかし、Siに富んだ材料、例えば、セラミックマトリックス又はシリサイド(窒化ケイ素Si3N4、ケイ化モリブデンMoSix、ケイ化ニオブNbSi、...)との複合材の保護への、こうしたアルミナ生成副層の使用は、様々な基材の熱膨張係数間の相当な違いゆえに、使用禁止である。
【0017】
さらに、Siに富んだセラミックマトリックス複合材部品及びアルミニウムに富んだアルミナ生成層の相互拡散現象により、望ましくない低延性の相が形成されることになり、低延性の相は、保護層と部品との間の界面を弱め、保護層の剥離を引き起こし、それによって、部品を腐食に対して脆弱にすることがある。
【0018】
したがって、当分野の現状において、高温で酸化に対して非常に耐性ではないが、機械的に効率的なシリサイドベース材料、及び高温で程々の機械的性質を有するが、酸化に対し耐性があるアルミナ形成材料を結びつける、有効な解決法はない。本発明はこの欠陥を軽減することを提案する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、セラミックマトリックス複合材で製造された部品の多湿環境における耐腐食性を改善することである。
【0020】
別の目的は、セラミックマトリックス複合材で製造された部品の寿命を延ばすことである。
【0021】
別の目的は、アルミニウム複合材を主に含む被覆と、シリコン複合材を主に含む部品との機械的密着及び化学的密着を確実なものにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明により、以下の仕様を得ることが可能になる:
・高温(<1100℃)で安定である被覆を有する。
・炭化ケイ素基材SiC/SiC及びセラミック遮熱の膨張係数に近い膨張係数を有する被覆を有する。
・アルミニウムに富んだ側にアルミナを形成する。
・シリコンに富んだ側のSiC/SiC基材と相互作用しない。
・アルミニウム/シリコン遷移領域において弱い金属間相を形成しない。
【0023】
本発明は、結晶構造、熱物理学的性質及び耐酸化性が、これらの仕様に適合する、あるMAX相材料を使用することを提案する。用語「MAX相材料」は、一般式Mn+1AXnの材料を意味し、式中、nは1~3の間の整数であり、Mは、遷移金属(セレン、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム及びタンタルの中から選択される。)であり、Aは、アルミニウム、シリコン、リン、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、カドミウム、インジウム、スズ及び鉛の中から選択されるA元素群であり、Xは、炭素及び窒素の中から選択される元素である。
【0024】
第1の態様において、本発明は、少なくとも一部セラミックマトリックス複合材を含む機械部品であって、上記複合材が、環境的劣化に対して、少なくとも1種の保護層で少なくとも局所的に被覆されており、保護層が、傾斜組成被覆層を含み、上記傾斜組成層が、少なくとも1種のシリコンMAX相材料及び少なくとも1種のアルミニウムMAX相材料を含み、傾斜組成層が、保護層内で、機械部品に対する第1の高さと機械部品に対する第2の高さとの間に広がり、第1の高さの傾斜組成層の組成が、アルミニウムを含まず、第2の高さの傾斜組成層の組成が、シリコンを含まず、第1の高さと第2の高さとの中間の高さが、アルミニウム及びシリコンを含む組成を有し、シリコン部分及びアルミニウム部分が、傾斜組成層において、中間の高さの位置の関数として、徐々に展開し、中間の高さが第2の高さに近づくとき、アルミニウム部分が増加する、機械部品を提案する。
【0025】
有利なことに、こうした機構は、単独の又は組み合わせた、以下の様々な特徴によって完成される:
・アルミニウム部分及びシリコン部分は、傾斜組成層において、中間の高さの関数として、直線的に展開する。
・シリコン及びアルミニウムのモル比の合計は、傾斜組成層において、中間の高さのいずれの位置であっても可変である。
・傾斜組成層は、Ti3AlC2MAX相材料及びTi3SiC2MAX相材料を含む。
・機構は、
・厚さが10μm~100μmの間であることができる、シリコンを本質的に含む副層、
・厚さが50μm~500μmの間であり、部品から離れると、0.1~0.4at%/μmの間の比率で、SiがAlによって置換される、傾斜組成層、
・厚さが10~300μmの間であり、酸化されるとき、表面においてアルミナを生成し、多湿環境における耐性を増すように、Ti2AlCで本質的に構成されている生成層、
・アルミナ層、
・厚さ50μm~1000μmの間を有するセラミックで構成され、外部環境と部品との間の伝達を制限するように設計された、環境障壁及び遮熱、
を含むことができる。
・機構は、
・厚さが10μm~100μmの間であることができる間の厚さであり、シリコンで本質的に構成される副層、
・厚さが50μm~500μmの間であり、部品から離れると、0.1~0.4at%/μmの間の比率で、SiがAlによって置換される、傾斜組成層、
・厚さが50~300μmの間であり、酸化されるとき、表面においてアルミナを生成し、多湿環境における耐性を増すように、Ti2AlCで本質的に構成されている生成層、
・アルミナ層、
を含むことができる。
・機構は、
・厚さが50μm~500μmの間であり、部品から離れると、0.1~0.4at%/μmの間の比率で、SiがAlによって置換される、傾斜組成層、
・厚さが50~300μmの間であり、酸化されるとき、表面においてアルミナを生成し、多湿環境における耐性を増すように設計され、Ti3AlC2で本質的に構成されている生成層、
・アルミナ層(7)、
を含むことができる。
【0026】
別の態様において、本発明はまた、少なくとも1種の保護層を機械部品に堆積させる方法であって、保護層が、少なくとも1種の傾斜組成層を含み、方法が、以下のステップ:
・堆積させる前の表面調製条件を最適化するステップ、及び
・上記傾斜組成層を構成する化学種を溶射することによって、傾斜組成層を実現するステップ、
を含み、
傾斜組成層が、少なくとも1種のシリコンMAX相材料及び少なくとも1種のアルミニウムMAX相材料を含み、シリコンMAX相材料及びアルミニウムMAX相材料が、傾斜組成層の、所与の比率を示す、方法も提案する。傾斜組成層は、溶射装置に、一方でアルミニウムMAX相材料の粒子、他方でシリコンMAX相材料の粒子を注入することによって製造され、アルミニウムMAX相材料が、到達した層の高さの関数として、徐々にシリコンMAX相材料を置き換える。
【0027】
有利なことに、こうした方法は、単独で又は組み合わせて用いられる、以下の特徴によって完成される:
・アルミニウムMAX相材料の粒子及びシリコンMAX相材料の粒子は、2個の別個の容器において溶媒中に懸濁させたTi3AlC2の粉末及びTi3SiC2の粉末であり、次いで、Ti3AlC2懸濁物及びTi3SiC2懸濁物が、MAX相材料の懸濁物の粒子を部品上に、加熱し、噴霧するように設計されたプラズマ中に、制御された比率で注入され、結果として堆積物を生じる。
・溶媒は、傾斜組成層における酸化物の存在を制限するように、Ti3AlC2粒子及びTi3SiC2粒子からの酸化物形成を制限するように設計された非水性溶媒である。
【0028】
別の態様によれば、本発明はまた、少なくとも1つの材料層を部品に堆積させる、こうした方法を実施するための、液体経路による溶射装置(SPSと称される「サスペンションプラズマ溶射」又はSPPSと称される「サスペンションプリカーサープラズマ溶射」)であって、装置が、
・アルミニウムMAX相材料の粒子の溶媒中懸濁物を含む第1槽、
・シリコンMAX相材料の粒子の溶媒中懸濁物を含む第2槽、
・第1懸濁物注入器が、第1パイプによって第1槽に取り付けられ、第2懸濁物注入器が、第2パイプによって第2槽に連結した、第1懸濁物注入器及び第2懸濁物注入器であって、懸濁物注入器、アルミニウム粒子及びシリコン粒子の注入率を制御することができるように設計された、第1懸濁物注入器及び第2懸濁物注入器、
・アルミニウムMAX相材料の粒子及びシリコンMAX相材料の粒子を注入するプラズマを生成するように設計されたプラズマトーチであって、プラズマが、注入された粒子を、部品上で、加熱し、噴霧する、プラズマトーチ、
を備える装置を提案する。
【0029】
こうした装置において、アルミニウムMAX相の粒子及びシリコンMAX相の粒子は、Ti3AlC2の粉末及びTi3SiC2の粉末であることができる。
【0030】
プラズマトーチは、懸濁物中の粒子を加速し、溶融することを可能にする任意の溶射装置を意味する。一例として、HVOF(超音速火炎による溶射用の「高速フレーム溶射(High Velocity Oxy Fuel)」)、吹き付け式又は誘導的なプラズマ溶射(「大気プラズマ溶射」のAPS、すなわち大気圧下でのプラズマ溶射、「不活性ガスプラズマ溶射」のIPS、すなわち中性雰囲気(不活性)におけるプラズマ溶射、「ボイドプラズマ溶射(Void Plasma Spraying)」のVPS、すなわち部分真空下でのプラズマ溶射など)を挙げることができる。
【0031】
本発明の、他の特徴、目的及び利点は、純粋に説明の目的で与えられ、非限定的である、以下の記述により明らかになり、添付の図を参照して読まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1a】第1の実施形態の様々な層を示す、本発明の保護機構の部分を図式的に表した図である。
【
図1b】本発明の第1の実施形態の、保護機構の、様々な層の、シリコン及びアルミニウムの含有量の変化を、この層の高さの関数として示すグラフである。
【
図2a】第2の実施形態の様々な層を示す、本発明の保護機構の部分を図式的に表した図である。
【
図2b】本発明の第2の実施形態の、保護機構の、様々な層の、シリコン及びアルミニウムの含有量の変化を、この層の高さの関数として示すグラフである。
【
図3a】第3の実施形態の様々な層を示す、本発明の保護機構の部分を図式的に表した図である。
【
図3b】本発明の第3の実施形態の、保護機構の、様々な層の、シリコン及びアルミニウムの含有量の変化を、この層の高さの関数として示すグラフである。
【
図4】基材を加熱し、噴霧して、本発明の材料を添加することによって被覆を実施する目的の、MAX相材料の懸濁物中の粒子をプラズマジェットに添加することを可能にする、2個の別個の注入器に連結した、MAX相材料懸濁物の2個の槽を備えるサスペンションプラズマ溶射(SPS)による、製造装置を図式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に記載された実施形態は、複合セラミックマトリックス材で製造された基材5を含む機械部品1であって、少なくとも1つの部分が、その環境によって生じる摩耗に対して、保護2で被覆され、この保護2が、傾斜組成3を有する1種の層を含む、Y方向に連続した層で構成され、その層を、材料を局所的に添加する方法によって堆積させる、機械部品1に関連する。しかし、これは、説明の目的で、非限定的な目的で、与えられる。基材5の、保護と反対側では、高さが0であることに留意されたい。
【0034】
この記述において、用語「高さ」は、Y方向の寸法を意味する。様々な層の厚さは、Y方向に従って表される。
【0035】
以下において、
・基材5は、高さh1と高さh2との間に延伸する(h1が0であり、高さh2がh1より大きいことは既知である)、
・副層4は、高さh2と高さh3との間に延伸する(h3がh2より大きいことは既知である)、
・傾斜組成層3は、高さh3と高さh4との間に延伸する(h4がh3より大きいことは既知である)、
・アルミナ生成層5は、高さh4と高さh5との間に延伸する(h5がh4より大きいことは既知である)及び、
・アルミナ層は、高さh5と高さh6との間に延伸する(h6がh5より大きいことは既知である)、
ことに留意されたい。
【0036】
これらの高さh1~h6は、以下の記述において、より正確に定められる。
【0037】
図1aに関して、部品1の表面における摩耗及び裂け傷に対する保護2の一実施形態は、部品1の表面において、垂直軸Yに従って複数の多重層を含む。
【0038】
保護層は、基材5から、副層4、傾斜組成層3、アルミナ生成層6及びアルミナ層7を連続的に含む。
【0039】
副層4は、セラミックマトリックス複合材において、少なくとも一部、部品1を構成する基材5に直接的に接して、位置する。副層4は、10μm~100μmの間であることができる厚さを有する。
【0040】
基材5は、部品1と保護2との間の連続性確実なものにするように、炭化ケイ素SiC、本質的にシリコンを含む副層4を含み、及び、保護2及び部品1の密着性及び化学的適合性及び機械的適合性を確実なものにするように、酸化に対する保護障壁を含む。
【0041】
本質的に、副層4におけるシリコン濃度は、90%より高いと理解される。
【0042】
傾斜組成層3は、複数の化学種を含み、存在する化学種のいくつかの比率は、層において、基材5から認められる高さの関数である。
【0043】
ここで、傾斜組成層3は、問題となる高さの関数として、様々な比率でTi3AlC2及びTi3SiC2を含む。
【0044】
シリコン副層4に接した、傾斜組成層3の下部は、副層4と傾斜組成層3との間の媒体の、機械的連続性及び化学的連続性を確実なものにするように、Ti3SiC2のみを含む。
【0045】
傾斜組成層3におけるTi3AlC2の比率は、高さの関数として増加し、Ti3SiC2を置き換え、その比率は、Ti3AlC2の比率の増加の関数として減少する。
【0046】
傾斜組成層3の上端のレベルで、Ti3SiC2は、完全にTi3AlC2で置き換えられる。
【0047】
傾斜組成層3におけるTi3AlC2の比率の変化は、直線的であることができ又は熱膨張係数の連続性などの、選択された挙動を高めるように、さらに例えば、使用中に保護2において現れる微小亀裂を埋める機能などの、層のある領域のある種の挙動を高めるように、さらに様々な特定の因子の間を補填するように、設計された別のプロファイル、例えば、多項式曲線若しくは指数関数的曲線を有することができる。
【0048】
微小亀裂を埋めるこの層の機能は、特に、部品の寿命を延ばすのに有用である。
【0049】
傾斜組成層3は、50μmから500μmまで変化することができる厚さを有する。
【0050】
アルミナ生成層6は、傾斜組成層3を被覆する。
【0051】
アルミナ生成層6は、Ti2AlCを含み、それゆえに傾斜組成層3の上端の熱膨張係数と同様の熱膨張係数を有し、したがって、これらの2種の層の機械的適合性を確実なものにする。
【0052】
アルミナ生成層6は、酸化によってその外部表面に保護アルミナ層7を生成することができ、したがってより深い酸化を制限し、また水蒸気に対する、相当な化学安定性も有する。
【0053】
Ti2AlCの存在により、温度1300℃まで、アルミナを形成することが可能になる。
【0054】
このアルミナ層7は、水酸化物OH化学種との反応に対して、シリコン含有層を保護し、10~300μmの間の厚さを有する生成層6は、アルミナ生成反応に供給するためのアルミニウム槽を構成する。
【0055】
遮熱8は、周囲環境と部品1との間の熱伝達を最小限にするように、アルミナ層7を被覆し、環境と部品1との間の温度勾配を生じて、複数の保護層の加熱を制限する。
【0056】
遮熱8は、低い熱伝導率のセラミック層で構成され、50μm~1000μmの間の厚さを有する。
【0057】
セラミックは、その膨張係数が、アルミナ生成層6の膨張係数に近いように選択される。
【0058】
図1bに説明された実施形態の例において、様々な保護層のアルミニウム及びシリコンの含有量は、問題となる層の高さの関数として表される。
【0059】
部品1の基材5の層に対応する、高さh1と高さh2との間で、シリコン濃度は、第1の一定値Aを有するが、それでもなお、高さh2近くで大きく増加する。アルミニウム濃度は、この層において0である。
【0060】
副層4に対応する、高さh2と高さh3との間で、シリコン濃度は、第1の値Aより大きい、第2の一定値Bを有する。アルミニウム濃度は、この層において0である。
【0061】
傾斜組成層3に対応する、高さh3と高さh4との間で、シリコン濃度は、第2の値Bから、高さh4のレベルで0の値まで減少する。
【0062】
アルミニウム濃度は、0の値から第3の値Cまで増加する。例示的な例において、第3の値Cは、第2の値Bと等しいが、傾斜組成層3における追加の化学種が、この第3の値Cを置き換え、それを第2の値Bより低い濃度又は第2の値Bより高い濃度にすることも可能である。
【0063】
高さh3と高さh4との中間の高さhでは、アルミニウム及びシリコンは共に、層の組成に存在している。
【0064】
一実施形態において、アルミニウム及びシリコンのモル分率の合計は、傾斜組成層3においてどのように中間の高さhが考えられようとも、一定である。
【0065】
他の実施形態において、アルミニウム及びシリコンのモル分率の合計は、傾斜組成層3において考えられる中間の高さhに応じて変化することもできる。
【0066】
傾斜組成層3において、過剰のMAX相材料の化学種を有することが可能である。
【0067】
アルミナ生成層6に対応する、高さh4と高さh5との間で、アルミニウム濃度は、第4の一定値Dを有する。この第4の値Dは、第3の値Cと等しくてもよく、第3の値Cより低くてもよく、高くてもよい。
【0068】
シリコン濃度は、この層において0である。
【0069】
アルミナ層7に対応する、高さh5と高さh6との間で、アルミニウム濃度は、第5の一定値Eを有する。
【0070】
第5の値Eは、第4の値Dより大きい。
【0071】
シリコン濃度は、この層において0である。
【0072】
図2aに説明された実施形態の例において、部品1が、操作中1200℃を超える温度にさらされない場合、遮熱8は必要ない。アルミナ層7は、水酸化物OH化学種との反応の影響から部品1を保護するのに十分である。
【0073】
保護2の一例には、第1の実施形態によれば、それ自体がアルミナ生成層6で被覆された傾斜組成層3で被覆された副層4であって、生成されたアルミナが、生成層6にアルミナ層7を形成し、このように、水酸化物OH化学種に対して化学的保護をもたらす、副層4が挙げられる。
【0074】
違いは、部品がさらされる温度が遮熱8を必要としないので、アルミナ層7が遮熱8で被覆されていないことである。
【0075】
厚さ10~100μmを有する副層4は、本質的に、シリコンを含む。
【0076】
本質的に、副層におけるシリコン濃度は、90%より高いと理解される。
【0077】
厚さ50~500μmの傾斜組成層3は、Ti3AlC2及びTi3SiC2を含み、その比率は、層で認められる高さによって決まる。
【0078】
生成層6は、本質的に、Ti2AlCを含む。本質的に、生成層6におけるTi2AlCの質量分率は、90%より高いと理解される。
【0079】
しかし、生成層6は、50μm~300μmの間の厚さを有し、保護アルミナ層7を維持するために、実質的な化学槽をもたらすように、第1の例の場合より高い。
【0080】
図2bに説明された実施形態の例において、保護2は、上記で与えられたものと同様のアルミニウム濃度及びシリコン濃度のプロファイルを含む。ここで、値h1~h6は、
図1bのものとは異なってもよいことに留意されたい。
【0081】
部品1の基材5の層に対応する、高さh1と高さh2との間で、シリコン濃度は、第1の一定値A’を有するが、それでもなお、高さh2近くで大きく増加する。アルミニウム濃度は、この層において0である。
【0082】
副層4に対応する、高さh2と高さh3との間で、シリコン濃度は、第1の値A’より大きい、第2の一定値B’を有する。アルミニウム濃度は、この層において0である。
【0083】
傾斜組成層3に対応する、高さh3と高さh4との間で、シリコン濃度は、第2の値B’から、高さh4のレベルで0の値まで減少する。
【0084】
アルミニウム濃度は、0の値から第3の値C’まで増加する。例示的な例において、第3の値C’は、第2の値B’と等しいが、傾斜組成層3における追加の化学種が、この第3の値C’を置き換え、それを第2の値B’より低い濃度又は第2の値B’より高い濃度にすることも可能である。
【0085】
高さh3と高さh4との中間の高さhでは、アルミニウム及びシリコンは共に、層の組成に存在している。
【0086】
アルミナ生成層6に対応する、高さh4と高さh5との間で、アルミニウム濃度は、第4の一定値D’を有する。この第4の値D’は、第3の値C’と等しくてもよく、第3の値C’低くてもよく、高くてもよい。
【0087】
シリコン濃度は、この層において0である。
【0088】
アルミナ層7に対応する、高さh5と高さh6との間で、アルミニウム濃度は、第5の一定値E’を有する。
【0089】
第5の値E’は、第4の値D’より大きい。
【0090】
シリコン濃度は、この層において0である。
【0091】
図3aに説明された実施形態の例において、部品1が、1100℃を超える温度にさらされない場合、様々な熱膨張から生じる歪みは、それほど大きくなく、シリコン副層4の存在をもはや必要としない。
【0092】
傾斜組成層3に存在するTi3AlC2層を選択して、Ti2AlC生成層6を省くこともでき、それによって保護2を製造する方法を縮小する。
【0093】
したがって、部品1の表面において、基材5は、Ti3AlC2及びTi3SiC2を含み、その比率が、層で認められる高さによって決まる、厚さ50μm~500μmの傾斜組成層3で直接被覆される。
【0094】
Ti3AlC2を含む生成層6は、50~300μmの間の厚さを有し、保護アルミナ層7を維持するための、実質的な化学槽を構成する。
【0095】
図3bに説明された実施形態の例において、保護2は、上記で与えられたものとは異なるアルミニウム濃度及びシリコン濃度のプロファイルを含む。ここで、値h1~h6は、
図1b及び
図2bの値と異なってもよいことに留意されたい。さらに、保護2は、副層4を含まない。したがって、高さh2及び高さh3は等しい。
【0096】
部品1の基材5の層に対応する、高さh1と高さh3との間で、シリコン濃度は、第1の一定値A’’を有する。アルミニウム濃度は、この層において0である。
【0097】
傾斜組成層3に対応する、高さh3と高さh4との間で、シリコン濃度は、第4の高さh4のレベルで、第1の値A’’から0の値まで減少する。
【0098】
アルミニウム濃度は、0の値から第2の値C’’まで増加する。例示的な例において、第2の値C’’は、第1の値A’’より大きいが、傾斜組成層3における追加の化学種が、この第2の値C’’を置き換え、それを第1の値A’’より低い濃度又は第1の値A’’と等しい濃度にすることも可能である。
【0099】
高さh3と高さh4との間の中間の高さhでは、アルミニウム及びシリコンは共に、傾斜層3の組成に存在している。
【0100】
アルミナ生成層6に対応する、高さh4と高さh5との間で、アルミニウム濃度は、第3の一定値D’’を有する。この第3の値D’’は、第2の値C’’と等しくてもよく、第2の値C’’より低くてもよく、高くてもよい。
【0101】
シリコン濃度は、生成層6において0である。
【0102】
アルミナ層7に対応する、高さh5と高さh6との間で、アルミニウム濃度は、第4の一定値E’’を有する。
【0103】
第4の値E’’は、第3の値D’’より大きい。
【0104】
シリコン濃度は、アルミナ層7において0である。
【0105】
図4に関して、保護2は、保護層を生成するように、部品1の表面に粒子を噴霧することによって材料を添加する方法9によって、部品1において少なくとも一部実施される。
【0106】
以下において、方法は、傾斜組成層3の製造と関連して説明される。しかし、方法は、変更すべきところは変更して、例えば、アルミナ生成層6などの、他の層に適用することができる。
【0107】
傾斜組成層3を得るための方法9は、粒子が、プラズマ中に注入され、傾斜組成層3を形成するように、部品1上で、加熱され、噴霧される、プラズマ溶射10の原理に基づく。
【0108】
この場合において、Ti3AlC2粒子及びTi3SiC2粒子は、分けて保管され、溶媒中懸濁物に入れられる。
【0109】
次いで、Ti3AlC2懸濁物及びTi3SiC2懸濁物は、それぞれ制御された流量で、プラズマ10に注入され、達する層の高さの関数として得られる、Al及びSiの望ましい比率を遵守する。
【0110】
ここで、溶媒は、傾斜組成層3における酸化物形成を防ぐように、非水性であり、したがってその均一性及び機械的特性が保証される。
【0111】
噴霧は、中性雰囲気において実施することもできて、金属間相又は周囲の酸化雰囲気によって、噴霧された材料の、高温での酸化から生じる酸化物の形成を制限する。
【0112】
プラズマによる、それゆえに高温での堆積は、室温で冷却する間、その自己修復、したがって任意の亀裂を塞ぐ、その自然な傾向を高めることによって、システムへの全体的な損傷を限定的なものにする、堆積させた被覆における残留圧縮ひずみも得ることができる。
【0113】
大気圧下でのプラズマ粉末の溶射(APS)、中性ガス中でのプラズマ粉末の溶射(IPS)などの、様々な溶射法を用いて又は高速懸濁物フレーム溶射(HVSFS)によって、堆積を実施することも考えられる。
【0114】
方法9は、プラズマ10を生成するトーチ12、第1のパイプ17及び第2のパイプ18によって、第1の槽15及び第2の槽16と接した、第1の注入器13及び第2の注入器14を備える、溶射装置11を用いて実施される。
【0115】
第1の槽15は、Ti3AlC2粉末の溶媒中懸濁物を含むが、第2の槽16は、Ti3SiC2粉末の溶媒中懸濁物を含む。
【0116】
第1の注入器13は、懸濁物を加熱し、部品1上に噴霧するプラズマ中に、Ti3AlC2懸濁物を注入し、結果として保護2を形成する粒子を堆積させ、第2の注入器14は、プラズマに、Ti3SiC2懸濁物を注入する。
【0117】
形成される保護層のアルミニウム及びシリコンの含有量を制御し、傾斜組成層3を製造するように、これらの比率を変えるために、2つの懸濁物の注入率は、共に制御される。