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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】プレコートアルミニウム材
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230227BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20230227BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20230227BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20230227BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
B32B15/08 G
B32B15/082 Z
F28F1/32 H
F28F13/18 B
F28F21/08 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020532356
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028450
(87)【国際公開番号】W WO2020022213
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018138600
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 武廣
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 起郭
(72)【発明者】
【氏名】世古 佳也
(72)【発明者】
【氏名】笹崎 幹根
(72)【発明者】
【氏名】坂田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】梅田 真紗子
(72)【発明者】
【氏名】内川 美和
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/002484(WO,A1)
【文献】特開2018-023932(JP,A)
【文献】特開2016-222879(JP,A)
【文献】特許第5995546(JP,B2)
【文献】特開2006-321965(JP,A)
【文献】特開2006-169500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B05D 1/00- 7/26
F28F 1/32, 13/18
19/02, 21/08
C23C 28/00
C09D 129/04,133/02,
171/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、化成皮膜と、親水皮膜とが順次積層形成されたプレコートアルミニウム材であって、
上記化成皮膜は、リン酸クロメート皮膜、リン酸チタン皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、リン酸モリブデン皮膜、リン酸亜鉛皮膜及び酸化ジルコニウム皮膜からなる群より選択されるいずれかの皮膜であり、
上記親水皮膜は、アクリル系樹脂(A)15~20質量%と、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)30~40質量%と、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂(C)20~25質量%と、ポリビニルアルコール(D)22~28質量%とを少なくとも含有し、
上記アクリル系樹脂(A)は、スルホ基を有するモノマーに由来する繰り返し単位及びアミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を実質的に有さず、
上記アクリル系樹脂(A)は、重量平均分子量が20000~2000000であり、酸価が100~800mgKOH/gであり、
上記ポリアルキレンエーテル樹脂(B)は、重量平均分子量が5000~500000であり、
上記親水皮膜は、赤外吸収スペクトルにおいて、波数1600~1800cm-1の範囲内に2つのピークを有するとともに、2つのピークのうち低波数側のピークAにおけるピークトップの吸光度aと、高波数側のピークBにおけるピークトップの吸光度bとが、吸光度a/吸光度b=0.6~1.3の関係を満足する、プレコートアルミニウム材。
【請求項2】
上記プレコートアルミニウム材が熱交換器のフィンに用いられる、請求項1に記載のプレコートアルミニウム材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水皮膜を有するプレコートアルミニウム材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機や冷蔵庫等に搭載される熱交換器として、多数のフィンと、これらのフィンと交差したチューブとを有する、いわゆるプレートフィンチューブ型熱交換器が多用されている。プレートフィンチューブ型熱交換器は、例えば空気調和機における冷房運転中の室内機のように、低温の冷媒と外気との熱交換を行うことがある。
【0003】
この場合においては、フィンの温度が外気の露点よりも低くなると、フィンの表面に結露水が付着する。この結露水の量が多くなると、フィン間の隙間が狭くなったり、場合によっては閉塞されるため、通風抵抗、すなわちフィン間を気流が通過する際の抵抗の増大を招くおそれがある。その結果、熱交換効率の低下を招くおそれがある。
【0004】
このような問題を解決するため、表面に親水皮膜を有するプレコートアルミニウム材が提案されている。このプレコートアルミニウム材にプレス加工等を施すことにより、表面に親水皮膜を備えた熱交換器用のフィンを作製することができる。かかるフィンの表面においては、親水皮膜の存在により水が濡れ拡がりやすくなっている。それ故、結露水を厚みが均一かつ薄い膜状にしてフィン間の隙間の閉塞を回避するとともに、フィン間からの結露水の排出を促進する技術が種々提案されている。
【0005】
この種のプレコートアルミニウム材として、例えば、特許文献1には、表面に化成皮膜が形成され、化成皮膜に対して親水皮膜が形成されたアルミニウム製フィン材が開示されている。親水皮膜は、(メタ)アクリル系樹脂と、ポリビニルアルコールと、ポリエチレンオキサイド及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種である樹脂と、架橋性微粒子とを含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5995546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のプレコートアルミニウム材は、親水皮膜においてブロッキングが発生しやすい易い。したがって、例えば夏季のような気温の高い環境下においては、ブロッキングの発生を防ぐために、強力な冷却装置を用いて巻き取り前のプレコートアルミニウム材の温度を低く抑えるという対応がとられていた。このような対応は、プレコートアルミニウム材の製造コストを増大させることとなる。
【0008】
近年では、熱交換器をより安価に提供するため、フィンの更なるコストダウンが強く求められている。プレコートアルミニウム材の親水皮膜の骨格成分となる(メタ)アクリル系樹脂又はポリビニルアルコールの配合割合を多くすると、ブロッキングの発生の抑制は可能になるが、親水皮膜の耐湿性が劣り、被水後に腐食臭や酸臭が発生したり、湿潤密着性が低下するため、改善が望まれる。
【0009】
このように、近年のプレコートアルミニウム材には、親水性及びその持続性の他に、さらに様々な性能が求められている。本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、耐ブロッキング性、耐臭気性、酸臭気、親水性、親水持続性、湿潤密着性、及びプレス成形性に優れたプレコートアルミニウム材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、アルミニウム板と、化成皮膜と、親水皮膜とが順次積層形成されたプレコートアルミニウム材であって、
上記化成皮膜は、リン酸クロメート皮膜、リン酸チタン皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、リン酸モリブデン皮膜、リン酸亜鉛皮膜及び酸化ジルコニウム皮膜からなる群より選択されるいずれかの皮膜であり、
上記親水皮膜は、アクリル系樹脂(A)15~20質量%と、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)30~40質量%と、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂(C)20~25質量%と、ポリビニルアルコール(D)22~28質量%とを少なくとも含有し、
上記アクリル系樹脂(A)は、スルホ基を有するモノマーに由来する繰り返し単位及びアミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を実質的に有さず、
上記アクリル系樹脂(A)は、重量平均分子量が20000~2000000であり、酸価が100~800mgKOH/gであり、
上記ポリアルキレンエーテル樹脂(B)は、重量平均分子量が5000~500000であり、
上記親水皮膜は、赤外吸収スペクトルにおいて、波数1600~1800cm-1の範囲内に2つのピークを有するとともに、2つのピークのうち低波数側のピークAにおけるピークトップの吸光度aと、高波数側のピークBにおけるピークトップの吸光度bとが、吸光度a/吸光度b=0.6~1.3の関係を満足する、プレコートアルミニウム材にある。
【発明の効果】
【0011】
上記プレコートアルミニウム材においては、親水皮膜が上記所定のアクリル系樹脂(A)と、上記所定のポリアルキレンエーテル樹脂(B)と、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂(C)と、ポリビニルアルコール(D)とを所定の含有割合で含有する。そして、親水皮膜の赤外吸収スペクトルは、波数1600cm-1~1800cm-1の範囲内に2つのピークを有し、ピークAにおけるピークトップの吸光度aと、ピークBにおけるピークトップの吸光度bとが上記所定の関係を満足する。
【0012】
上記構成を有するため、プレコートアルミニウム材は、親水皮膜の凝集力が向上し靭性が高くなる。したがって、プレコートアルミニウム材は耐ブロッキング性に優れる。よって、強力な冷却装置を用いなくても、巻き取り後に、ブロッキングが発生しにくい。その結果、製造コストの低減が可能になる。
【0013】
また、親水皮膜の凝集力が高く、靱性が高いため、親水皮膜のバリア性が高くなり、耐湿性に優れる。したがって、被水後においても腐食臭を発生しにくい。つまり、耐湿性試験後の耐臭気性に優れる。
【0014】
さらに、親水皮膜が優れた親水性を発揮するともに、親水持続性にも優れる。さらにプレコートアルミニウム材はプレス成形性、湿潤密着性、酸臭気にも優れる。したがって、プレコートアルミニウム材は、例えば熱交換器のフィンに好適である。
【0015】
以上のように、本発明によれば、耐ブロッキング性、耐臭気性、酸臭気、親水性、親水持続性、湿潤密着性、及びプレス成形性に優れたプレコートアルミニウム材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例におけるプレコートアルミニウム材の要部断面図。
図2】実施例5における親水皮膜の赤外吸収スペクトルを示す図。
図3】比較例2における親水皮膜の赤外吸収スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[アルミニウム板]
プレコートアルミニウム材において、アルミニウム板の材質は、純アルミニウム及びアルミニウム合金の中から所望する機械的特性や耐食性等に応じて適宜選択することができる。アルミニウム板は、JIS A1200又はJIS A1050から構成されていることが好ましい。この場合には、プレコートアルミニウム材の熱伝導性が優れるため、熱交換器のフィンにより好適になる。
【0018】
[化成皮膜]
アルミニウム板の表面には化成皮膜が設けられる。化成皮膜は、アルミニウム板と親水皮膜又は後述の耐食皮膜との密着性を向上させたり、耐食性を向上させたりする。
【0019】
化成皮膜は、化学皮膜処理(つまり、化成処理)により形成される。具体的には、化成皮膜は、リン酸クロメート処理により形成される。また、化成皮膜は、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム、リン酸モリブデン、リン酸亜鉛、酸化ジルコニウムなどのノンクロメート処理でも形成される。なお、化成処理方法には、反応型及び塗布型が存在するが、いずれの手法でもよい。
【0020】
化成皮膜の付着量は、例えば金属の含有量が5~50mg/m2となる範囲から適宜選択することができる。なお、化成皮膜の付着量は、蛍光X線分析装置により測定することができる。
【0021】
[親水皮膜]
親水皮膜は、化成皮膜の表面あるいは後述の耐食皮膜の表面に形成される。親水皮膜は、アクリル系樹脂(A)と、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)と、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂(C)と、ポリビニルアルコール(D)を少なくとも含有する。なお、「繰り返し単位」は、樹脂中で繰り返される構造の単位を意味し、繰り返し構造単位と呼ばれることもある。繰り返し単位は、一般に、樹脂の作製時に用いられるモノマーに由来する構造を有する。
【0022】
<アクリル系樹脂(A)>
アクリル系樹脂(A)は、以下の(1)~(3)を満足する。
(1)スルホ基を有するモノマーに由来する繰り返し単位及びアミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を実質的に有さない。これは、アクリル系樹脂(A)を構成する繰り返し単位が実質的にスルホ基及びアミド基を有さないことを意味する。
(2)重量平均分子量が20000~2000000である。
(3)酸価が100~800mgKOH/gである。
【0023】
アクリル系樹脂(A)は、親水皮膜と化成皮膜との密着性を高め、親水皮膜の親水性を高める。本明細書において、アクリル系樹脂(A)は、アクリル系樹脂だけでなく、メタクリル系樹脂をも含む概念である。つまり、アクリル系樹脂(A)は、(メタ)アクリル系樹脂である。(メタ)アクリル系樹脂は、アクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂の少なくとも一方を意味する。
【0024】
アクリル系樹脂(A)は、アクリル酸モノマー及びメタクリル酸モノマーの少なくとも一方に由来する繰り返し単位を含む。アクリル酸モノマーに由来する繰り返し単位、メタクリル酸モノマーに由来する繰り返し単位の合計含有量は特に限定されないが50~100質量%であることが好ましい。
【0025】
アクリル系樹脂(A)には、アクリル酸モノマーに由来する繰り返し単位、メタクリル酸モノマーに由来する繰り返し単位以外の繰り返し単位が含まれていてもよい。例えば、アクリル酸モノマー又はメタクリル酸モノマーの誘導体等に由来する繰り返し単位である。
【0026】
具体的には、重合性不飽和結合を分子内に1個有するモノマーがある。このようなモノマーとしては、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i―ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;メチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-オクチルアクリレート等のアルキルアクリレート;ベンジルメタクリレート等のアラルキルメタクリレート;ブトキシエチルメタクリレート等のアルコキシアルキルメタクリレート;ブトキシエチルアクリレート等のアルコキシアルキルアクリレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
また、(メタ)アクリル系樹脂(A)は、上記モノマー以外の成分を含むものであってもよいが、スルホ基を有するモノマーに由来する繰り返し単位及びアミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を実質的に含まない。これらを含むと大気中の酸成分を吸着する場合の臭気発生を抑えるのが難しく、酸臭気が劣る。
【0028】
(アクリル系樹脂(A)の含有量)
親水皮膜中におけるアクリル系樹脂(A)の含有量は15~20質量%である。この場合には、プレコートアルミニウム材の親水性を高めつつ、吸光度a/吸光度bが0.6~1.3という所望の範囲に調整されやすくなる。15質量%未満では湿潤密着性が劣り、20質量%を超えると、酸臭気が劣る。アクリル系樹脂(A)の含有量は、アクリル系樹脂(A)、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)、樹脂(C)、及びポリビニルアルコール(D)からなる全樹脂成分に対する含有量を意味する。ポリアルキレンエーテル樹脂(B)、樹脂(C)、ポリビニルアルコール(D)の含有量についても同様である。
【0029】
(アクリル系樹脂(A)の酸価)
アクリル系樹脂(A)の酸価は100~800mgKOH/gである。アクリル系樹脂(A)の酸価が100mgKOH/g未満であると、親水皮膜と金属表面との密着性が低下し、湿潤密着性が劣る。アクリル系樹脂(A)の酸価が800mgKOH/gを超えると、親水皮膜が大気中の酸成分を吸着し、酸臭気が低下する。親水皮膜の密着性をより高めるという観点から、アクリル系樹脂(A)の酸価は、500mgKOH/g以上であることが好ましい。耐臭気性をより高めるという観点から、アクリル系樹脂(A)の酸価は、上記のとおり800mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0030】
(アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量)
アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は20000~2000000である。アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が20000未満であると、親水持続性が低下する。アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が2000000を超えると、親水皮膜の形成時に用いられる後述の親水化処理剤の粘度が高くなり作業性が劣る。アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が小さいと、親水皮膜に水分が接触したときに、アルミニウム板の表面側の境界付近に存在していたアクリル系樹脂(A)が親水皮膜の表面側に移動してしまう。その結果、親水皮膜と金属表面との密着性が低下してしまう。また、重量平均分子量が小さすぎると、アクリル系樹脂が水に溶出し易くなるという理由から、親水皮膜と金属表面との密着性が低下する。アクリル系樹脂の重量平均分子量が上記範囲にあれば、親水皮膜の表面に水が付着した状態が続いても、親水皮膜と金属表面との密着力低下の問題が生じない。アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量の好ましい範囲は20000~100000である。
【0031】
重量平均分子量の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定された値を採用する。具体的には、テトラヒドロフラン100質量部に対して、樹脂試料0.4質量部を溶解させた溶液を試料溶液として用い、これを分析工業株式会社製のLC-08(A-5432)型GPCにより測定し、ポリスチレン換算により算出する。
【0032】
<ポリアルキレンエーテル樹脂(B)>
ポリアルキレンエーテル樹脂(B)は、親水皮膜に潤滑性を付与し、プレコートアルミニウム材の表面をプレス加工するときの成形性を高めることができる。
【0033】
ポリアルキレンエーテル樹脂(B)としては、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン;ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレングリコール等のポリオキシプロピレン等が挙げられる。
【0034】
ポリアルキレンエーテル樹脂(B)の重量平均分子量は、5000~500000である。重量平均分子量を5000以上にすることにより、プレコートアルミニウム材の巻き取り後に巻きずれが生じることを防止できる。また、500000以下にすることにより、親水皮膜を形成するための塗料の粘度が高くなりすぎることを防止し、塗装性が向上する。
【0035】
(ポリアルキレンエーテル樹脂(B)の含有量)
ポリアルキレンエーテル樹脂(B)の含有量は30~40質量%である。30質量%未満の場合にはプレス成形性が低下する。40質量%を超える場合には、皮膜成分が水へ溶出するおそれがあり、その結果親水持続性が劣る。プレス成形性、親水持続性をより高めるという観点から、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)の含有量は31~39質量%であることがより好ましい。
【0036】
<樹脂(C)>
樹脂(C)は、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂である。つまり、樹脂(C)は、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を、樹脂を構成するポリマーの繰り返し構造単位の少なくとも1つに有する。樹脂(C)は、親水持続性を高めることができる。
【0037】
アミド基を有するモノマーとしては、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、及びN-ヒドロキシエチルメタクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。好ましくは、樹脂(C)は、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、及びN-ヒドロキシエチルメタクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーに由来する繰り返し単位を、樹脂を構成する繰り返し構造単位の少なくとも1つに含有することがよい。つまり、樹脂(C)は、これらのモノマーの少なくとも1種を、ポリマーを構成する繰り返し単位とすることが好ましい。この場合には、塗膜の凝集力を高め、親水持続性を高めるという効果を得ることができる。
【0038】
樹脂(C)は、上述の(メタ)アクリルアミドモノマーと共重合可能な下記のモノマーとの共重合体であることがより好ましい。(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド及びメタクリルアミドの少なくとも一方を意味する。共重合可能なモノマーとしては、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノアクリレート等のポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル基等のビニルモノマー;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
【0039】
(樹脂(C)の含有量)
樹脂(C)の含有量は20~25質量%である。この場合には、プレコートアルミニウム材の親水持続性を高めつつ、吸光度a/吸光度bが上記所望の範囲に調整されやすくなる。この効果をより高めるという観点から、樹脂(C)の含有量は21~24質量%であることが好ましい。樹脂(C)の含有量が20質量%未満の場合には、親水持続性が劣る。一方、25質量%を超える場合には湿潤密着性が劣る。
【0040】
<ポリビニルアルコール(D)>
親水皮膜は、ポリビニルアルコール(D)を含有する。ポリビニルアルコール(D)は、例えばポリ酢酸ビニルを重合させた重合体をケン化させることで得られる。
【0041】
(ポリビニルアルコール(D)の含有量)
ポリビニルアルコール(D)の含有量は、22~28質量%である。ポリビニルアルコール(D)の含有量が22質量%未満の場合には、湿潤密着性が劣る。一方、28質量%を超える場合には、親水性及び親水持続性が劣る。
【0042】
<その他の添加剤>
親水皮膜には、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、分散剤、界面活性剤、着色剤、酸化防止剤、老化防止剤等を添加することができる。
【0043】
<親水皮膜の赤外吸収スペクトル>
親水皮膜は、赤外吸収スペクトルの波数1600cm-1~1800cm-1の範囲内に2つのピークを有する。低波数側のピークがピークAであり、高波数側のピークがピークBである。
【0044】
ピークAのピークトップにおける吸光度aと、ピークBのピークトップにおける吸光度bとが吸光度a/吸光度b=0.6~1.3の関係を満足する。つまり、吸光度bに対する吸光度aの比(つまり、吸光度a/吸光度b)が0.6~1.3である。吸光度a/吸光度bが0.6未満の場合には、アミド基を有する成分が少なくなりすぎて、塗膜の凝集力が不足し、塗膜の靭性が不足する。その結果、親水皮膜の耐臭気性が劣化する。一方、1.3を超える場合には、エステル基又はカルボキシル基を有する成分が少なくなりすぎて、耐ブロッキング性が劣化する。耐臭気性及耐ブロッキング性をよりバランスよく向上させるという観点から、吸光度a/吸光度bは0.7~1.2であることが好ましい。
【0045】
ピークAは、アミド基におけるC=Oの伸縮振動に由来するピークである。ピークAは、例えば1650~1660cm-1の範囲内に位置する。ピークBは、エステル基又はカルボキシル基のC=O伸縮振動に由来するピークである。ピークBは、例えば1710~1730cm-1の範囲内に位置する。
【0046】
吸光度a/吸光度bは、アクリル系樹脂(A)を構成するモノマー成分やその割合、樹脂(C)を構成するモノマー成分やその割合、アクリル系樹脂(A)及び樹脂(C)の配合割合や焼き付き条件等によって適宜調整される。親水皮膜の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(つまりFT-IR)の全反射測定法(つまりATR法)や、高感度反射測定法(IRRAS)等で測定される。これら測定方法のうちの少なくとも一方の測定結果において、吸光度a/吸光度bが上記範囲内となることが好ましく、少なくともFT-IRによる吸光度a/吸光度bが上記範囲内となることがより好ましい。
【0047】
<親水皮膜の付着量>
親水皮膜の付着量は0.3~2.0g/m2であることが好ましい。付着量がこの範囲であれば、付着量増大によるコストの増大を抑制しつつ、プレコートアルミニウム材のプレス成形性がより向上する。この効果をより高めるという観点から、親水皮膜の付着量は0.5~1.4g/m2であることがより好ましい。
【0048】
[耐食皮膜]
プレコートアルミニウム材は、化成皮膜と親水皮膜との間に、耐食皮膜を有していてもよい。耐食皮膜は、プレコートアルミニウム材の耐食性を向上させる。耐食皮膜は、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含有する。
【0049】
耐食皮膜の付着量は、0.3~2.0g/m2であることが好ましい。0.3g/m2未満では、耐食性の向上効果が十分に得られ難くなる。2.0g/m2を超えると、材料コストが増大し、また、コスト増大に見合った耐食性の向上効果が得られ難くなる。
【0050】
<親水皮膜の形成方法>
まず、アクリル系樹脂(A)と、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)と、樹脂(C)と、ポリビニルアルコール(D)を必須成分として、イオン交換水等の液体に分散させて塗料を作製する。このような塗料は親水化処理剤と呼ばれることがある。次いで、化成皮膜、耐食皮膜等が形成されたアルミニウム板に、ロールコータ又はバーコータを用いて塗料を塗装する。その後、熱風乾燥炉、遠赤外線炉、近赤外線炉等で塗料を焼付け乾燥させる。このとき、150~300℃の温度で、3秒~20秒間乾燥させることが好ましい。このようにして親水皮膜を形成することができる。
【0051】
各樹脂(A)~(D)は塗料中において固形分として存在している。したがって、上記組成の親水皮膜を得るという観点から、塗料においては、例えば、アクリル系樹脂(A)からなる固形分の含有率を15~20質量%、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)からなる固形分の含有率を30~40質量%、樹脂(C)からなる固形分の含有率を20~25質量%、ポリビニルアルコール(D)からなる固形分の含有率を22~28質量%にすることができる。
【0052】
[プレコートアルミニウム材の用途]
プレコートアルミニウム材は、プレートフィンチューブ型熱交換器のフィンに用いることが好ましい。この場合には、プレコートアルミニウム材よりなるフィンは、優れた親水性を発揮する。したがって、フィンに結露水が溜まることを抑制できる。また、フィンは、優れた耐臭気性を示し、被水後に腐食臭が発生しにくくなる。
【0053】
また、プレコートアルミニウム材は、耐ブロッキング性に優れる。そのため、夏季などの温度の高い環境下において、プレコートアルミニウム材の巻き取り時におけるブロッキングの発生を防止しやすい。具体的には、巻き取り時における冷却強さを緩和したり、場合によっては冷却の必要性がなくなる。したがって、プレコートアルミニウム材の製造コストを低減できる。さらに、プレコートアルミニウム材は、プレス成形性に優れる。そのため、フィンチューブ型の熱交換器の製造が容易になる。
【実施例
【0054】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明に係るプレコートアルミニウム材の具体的な態様は、実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0055】
[実施例1~実施例9]
図1に例示されるように、実施例のプレコートアルミニウム材1は、アルミニウム板2と、化成皮膜3と、親水皮膜4とを有する。プレコートアルミニウム材1においては、アルミニウム板2と、化成皮膜3と、親水皮膜4とが順次積層されている。
【0056】
具体的には、化成皮膜3は、アルミニウム板2の表面に形成されており、親水皮膜4は、化成皮膜3の表面に形成されている。化成皮膜3及び親水皮膜4は、アルミニウム板2の片面に形成されていても、両面に形成されていてもよい。
【0057】
化成皮膜3は、リン酸クロメート処理皮膜である。親水皮膜4は、アクリル系樹脂(A)とポリアルキレンエーテル樹脂(B)と樹脂(C)とポリビニルアルコール(D)とを必須成分として含有する。
【0058】
アクリル系樹脂(A)は、スルホ基を有するモノマー及びアミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有さない樹脂である。また、樹脂(C)は、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂である。
【0059】
具体的には、本例では、アクリル系樹脂(A)としては、以下の(1)~(9)を用いる。ポリアルキレンエーテル樹脂(B)としては、以下のa~cを用いる。樹脂(C)としては、以下のα~γを用いる。また、ポリビニルアルコール(D)としては、以下のものを用いる。
【0060】
「アクリル系樹脂(A)」
(1)ポリアクリル酸(重量平均分子量:20000、酸価:780mgKOH/g)
(2)ポリアクリル酸(重量平均分子量:2000000、酸価:800mgKOH/g)
(3)ポリアクリル酸とメタクリル酸ヒドロキシエチルの共重合体(重量平均分子量:400000、酸価:400mgKOH/g)
(4)ポリアクリル酸(重量平均分子量:20000、酸価:100mgKOH/g)
(5)ポリアクリル酸(重量平均分子量:6000、酸価:780mgKOH/g)
(6)ポリアクリル酸(重量平均分子量:20000、酸価:40mgKOH/g)
(7)ポリアクリル酸(重量平均分子量:20000、酸価:820mgKOH/g)
(8)ポリアクリルスルホン酸(重量平均分子量:20000、酸価:200mgKOH/g)
(9)ポリアクリルアミド(重量平均分子量:20000、酸価:200mgKOH/g)
【0061】
「ポリアルキレンエーテル樹脂(B)」
a:ポリエチレングリコール、重量平均分子量:5000
b:ポリエチレンオキサイド、重量平均分子量:500000
c:ポリエチレングリコール、重量平均分子量:1000
【0062】
「樹脂(C)」
α:N-メチロールアクリルアミドとアクリル酸との共重合体
β:N-メチロールメタクリルアミドとメタクリル酸との共重合体
γ:N-ヒドロキシエチルアクリルアミドとメタクリル酸との共重合体
【0063】
「ポリビニルアルコール(D)」
重合度:500、けん化度:98.0mol%
【0064】
実施例1~9のプレコートアルミニウム材の製造にあたっては、まず、JIS A1200P、板厚0.10mmのアルミニウム板を準備した。アルカリ脱脂後に、アルミニウム板にリン酸クロメート処理を施した。これにより、アルミニウム板の表面に、化成皮膜としてリン酸クロメート処理皮膜を形成した。
【0065】
次に、アクリル系樹脂(A)、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)、樹脂(C)、及びポリビニルアルコール(D)を後述の表1に示す割合で純水中に分散させた。これにより、親水皮膜形成用の塗料を作製した。次いで、ロールコータを用いて、表1に示す配合で調整された各実施例の塗料を化成皮膜上に塗布した。その後、加熱により塗料を焼き付けた。これにより、親水皮膜を形成した。このようにして、各実施例のプレコートアルミニウム材を作製した。
【0066】
次に、各プレコートアルミニウム材の親水皮膜の赤外吸収スペクトルをFT-IRのATR法で測定した。測定装置、測定条件は以下の通りである。
測定装置:ブルカー・オプティクス社製のFT-IR Microscope(フーリエ変換型赤外分光計)
測定条件:スキャン回数 15回、分解能 4
【0067】
実施例における親水皮膜の赤外吸収スペクトルの代表例として、実施例5の結果を図2に示す。図2に示すように、実施例5の赤外吸収スペクトルにおいては、波数1600~1800cm-1の範囲内に2つのピークが確認されている。図2では、横軸は波数を示し、横軸方向における右側が小さな波数を示し、左側が大きな波数を示している。2つのピークのうち、横軸方向右側(つまり低波数側)のピークが「ピークA」であり、横軸方向左側(つまり高波数側)のピークが「ピークB」である。ピークAのピークトップでの吸光度が「吸光度a」であり、ピークBのピークトップでの吸光度が「吸光度b」である。なお、後述の図3の赤外吸収スペクトルにおける「ピークA」、「ピークB」、「吸光度a」、「吸光度b」についても図2と同様である。各実施例の親水皮膜の赤外吸収スペクトルから、ピークAの吸光度aと、ピークBの吸光度bとを測定し、これらの比(具体的には、吸光度a/吸光度b)を算出した。その結果を表1に示す。
【0068】
次に、各実施例のプレコートアルミニウム材について、以下の方法により耐ブロッキング性、耐臭気性、酸臭気、親水性、親水持続性、湿潤密着性、プレス成形性の評価を行った。なお、A、Bは合格、Cは不合格である。その結果を表1に示す。
【0069】
<耐ブロッキング性>
各プレコートアルミニウム材の塗装面を重ね合わせ、ホットプレスにより、50℃、10MPaの条件で15分間加熱した。その後、プレコートアルミニウム材同士を引きはがし、貼りつき状態を以下の基準で評価した。
A:加熱後にプレコートアルミニウム材同士を引きはがすことができた。
C:加熱後にプレコートアルミニウム材同士を引き剥がすことができなかった。
【0070】
<耐臭気性>
各プレコートアルミニウム材について、JIS K5600-7-2:1999に準拠して、耐湿性試験を144時間実施した。その後、親水皮膜表面の臭いを官能評価により以下の基準で評価した。パネラーは10人であり、平均値を採用した。
A:殆ど、臭いの発生が認められなかった。
B:若干、臭いの発生が認められた。
C:著しく、臭いの発生が認められた。
【0071】
<酸臭気>
各プレコートアルミニウム材を純水に1時間浸漬した後に、酢酸0.5gを容器に入れ、室温で72時間、汚染した。取出し、大気中に放置し、5時間後に臭気を下記の評価基準で評価した。評価者10名の評価を平均した値を評価結果とした。
A:無臭。
B:微かに臭いを感じる。
C:強い臭いを感じる。
【0072】
<親水性>
自動接触角計を用いて水の接触角の測定することにより親水性の評価を行った。自動接触角計としては、協和界面化学株式会社製FACE自動接触角計「CA-Z」を用いた。具体的には、室温が20±5℃の範囲内に制御された環境において、各プレコートアルミニウム材の親水皮膜上に水滴を滴下した。そして、滴下から30秒経過後の水滴の接触角を自動接触角計により測定し、以下の基準で評価した。
A:接触角が20°以下の場合
C:接触角が20°を超える場合
親水性の評価においては、評価結果が「A」の場合を、親水性が高く、結露水による通風抵抗の増大を抑制できるため合格と判定し、評価結果が「C」の場合を、親水性が低く、結露水による通風抵抗の増大を抑制することが難しいため不合格と判定した。
【0073】
<親水持続性>
各プレコートアルミニウム材を純水に240時間浸漬した後、水滴との接触角を評価した。接触角の測定方法は上述の親水性の評価と同様である。評価は以下の基準で行った。
A:接触角が30°以下の場合
C:接触角を30°を超える場合
【0074】
<湿潤密着性>
各プレコートアルミニウム材に、純水を霧吹きし、指で軽く擦った。1往復を1回とし、親水皮膜が剥離するまでの回数を評価した。
A:5回以上。
C:4回以下。
【0075】
<プレス成形性>
各プレコートアルミニウム材の表面に、加工油を塗布した。次いで、絞り率48%になるように単発プレスを実施して、プレコートアルミニウム材にカラー部を形成した。その後、カラー部における親水皮膜の剥離の程度を観察し、下記基準によりプレス成形性を評価した。
A:全く変化がみられなかった。
B:わずかに剥離が観察された。
C:縦筋状の剥離が観察された。
【0076】
[比較例1~16]
アクリル系樹脂(A)、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)、樹脂(C)、及びポリビニルアルコール(D)を後述の表1に示す割合で純水中に分散させた塗料を用いた以外は、実施例1~9と操作を行った。比較例1~16の結果を表2に示す。なお、比較例における親水皮膜の赤外吸収スペクトルの代表例として、比較例2の結果を図3に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1に示されるように、実施例1~9における親水皮膜は、スルホ基を有するモノマー及びアミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有さず、重量平均分子量及び酸価が所定範囲にあるアクリル系樹脂(A)と、重量平均分子量が所定の範囲にあるポリアルキレンエーテル樹脂(B)と、アミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂(C)と、ポリビニルアルコール(D)とを所定割合で含有する。実施例1~9における親水皮膜は、赤外吸収スペクトルにおける吸光度a/吸光度bが0.6~1.3の範囲内にある。このような親水皮膜を有する実施例1~9は、耐ブロッキング性、耐臭気性、酸臭気、親水性、親水持続性、湿潤密着性、プレス成形性のすべてについて良好な結果を示した。
【0080】
一方、比較例1及び3においては、親水皮膜の赤外吸収スペクトルにおける吸光度a/吸光度bが0.6未満である。このような親水皮膜は、耐臭気性が劣っていた。更に、アクリル系樹脂(A)が20質量%を超えるので、酸臭気が劣っていた。次に、比較例2及び4においては、親水皮膜の赤外吸収スペクトルにおける吸光度a/吸光度bがA/Bが1.3を超える。このような親水皮膜は耐ブロッキング性が劣っていた。更に、樹脂(C)が25質量%を超えるので、湿潤密着性が劣っていた。
【0081】
比較例5は、親水皮膜の赤外吸収スペクトルにおける吸光度a/吸光度bが1.3を超えるため、耐ブロッキング性が劣っていた。また、アクリル系樹脂(A)が15質量%未満のため、湿潤密着性が劣っていた。
【0082】
比較例6は、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)の含有量が30質量%未満のため、プレス成形性が劣っていた。比較例7は、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)の含有量が40質量%を超えるため、親水持続性が劣っていた。比較例8は、ポリビニルアルコール(D)の含有量が22質量%未満のため、湿潤密着性が劣っていた。
【0083】
比較例9は、ポリビニルアルコール(D)の含有量が28質量%を超えるため、親水性及び親水持続性が劣っていた。比較例10は、親水皮膜の赤外吸収スペクトルにおける吸光度a/吸光度bが0.6未満のため、耐臭気性が劣っていた。また、樹脂(C)の含有量が20質量%未満のため、親水持続性が劣っていた。
【0084】
比較例11は、アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量が20000未満のため、親水持続性が劣っていた。比較例12は、アクリル系樹脂(A)の酸価が100mgKOH/g未満のため、湿潤密着性が劣っていた。比較例13は、アクリル系樹脂(A)の酸価が800mgKOH/gを超えるため、酸臭気が劣っていた。
【0085】
比較例14は、ポリアルキレンエーテル樹脂(B)の重量平均分子量が5000未満のため、巻き取り時に巻きずれが生じた。これは、プレコートアルミニウム材の製造ができないことを意味する。比較例15は、アクリル系樹脂(A)がスルホ基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有するので、酸臭気が劣った。比較例16は、アクリル系樹脂(A)がアミド基を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有するので、酸臭気が劣った。
図1
図2
図3