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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】放熱シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230227BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230227BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230227BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20230227BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20230227BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
B32B27/20 Z
B32B7/12
B32B7/027
B32B27/34
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021555130
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041595
(87)【国際公開番号】W WO2021090929
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019202456
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】前田 譲章
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】畳開 真之
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓哉
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022070(WO,A1)
【文献】特開2019-131705(JP,A)
【文献】特開2010-050240(JP,A)
【文献】特開2002-026202(JP,A)
【文献】特開2012-039060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
B32B 27/20
B32B 7/12
B32B 7/027
B32B 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有し、
前記絶縁性粒子が、扁平状粒子を含む、
放熱シート。
【請求項2】
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有し、
前記絶縁性粒子が、変形している扁平状粒子を含む、
放熱シート。
【請求項3】
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有し、
前記絶縁性粒子が、窒化ホウ素粒子を50体積%以上含む、
放熱シート。
【請求項4】
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有し、
前記バインダー樹脂は、融点又は熱分解温度が150℃以上である、
放熱シート。
【請求項5】
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有し、
前記バインダー樹脂が、アラミド樹脂である、
放熱シート。
【請求項6】
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有し、
熱伝導率が厚み方向で20W/(m・K)以上であり、絶縁破壊電圧が5kV/mm以上である、
放熱シート。
【請求項7】
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有し、
1GHzにおける比誘電率が6以下である、
放熱シート。
【請求項8】
少なくとも2層の前記絶縁熱伝導層の間に配置されている絶縁接着層をさらに有している、請求項1~7のいずれか一項に記載の放熱シート。
【請求項9】
前記絶縁熱伝導層が、前記放熱シートに対して少なくとも50体積%を占める、請求項1~8のいずれか一項に記載の放熱シート。
【請求項10】
前記絶縁熱伝導層の前記積層方向における厚みが、前記絶縁接着層の前記積層方向における厚みの2倍以上である、請求項に記載の放熱シート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の放熱シートの製造方法であって、
絶縁熱伝導シートを提供すること、
少なくとも2つの前記絶縁熱伝導シートを積層して、積層体を得ること、及び
前記絶縁熱伝導シートの略積層方向に沿って、前記積層体をスライスすることによって放熱シートを得ること、
を含み、ここで、
前記絶縁熱伝導シートが、前記絶縁熱伝導シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有しており、
前記絶縁性粒子が、扁平状粒子を含む、
放熱シートの製造方法。
【請求項12】
少なくとも2つの前記絶縁熱伝導シートを積層する際に、前記絶縁熱伝導シートの間に絶縁接着物質を配置することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記絶縁熱伝導シートが、面内方向における30W/(m・K)以上の熱伝導率を有している、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記絶縁性粒子が、窒化ホウ素粒子を50体積%以上含む、請求項11~1のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放熱シートおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、電気製品に使用される半導体素子や電源、光源などの部品から発生する熱を効果的に放散させることができ、かつ電気絶縁性を備える放熱シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放熱シートは、熱源と冷却材との間に挟んで熱源から冷却材に熱を逃すように使用される熱伝導部材であり、シートの厚み方向に高い熱伝導性が要求される。これまで、面内方向の熱伝導性が高い一次シート材料を積層して得られる積層体を、積層方向に沿ってシート状にスライスすることによって、厚み方向に高い熱伝導性を有する放熱シートを得ることが検討されている。
【0003】
面内方向の熱伝導率が高い一次シート材料を積層および切断した例として、超高分子量ポリエチレン製のテープと接着層を交互に積層し、テープの面方向に対して垂直に切断して厚み方向の熱伝導率38W/(m・K)のシートを得た例がある(特許文献1)。
【0004】
また、アクリル酸エステル共重合樹脂とリン酸エステル系難燃剤の混合物に板状の窒化ホウ素粉末を70体積%充填した一次シート材料を積層・圧着して切断することで、厚み方向の熱伝導率27W/(m・K)のシートを得た例もある(特許文献2)。特許文献2では、シートの厚み方向に対して、板状窒化ホウ素粒子がその長軸方向で配向するようになっていることが開示されている。
【0005】
また、熱可塑性フッ素樹脂に板状の窒化ホウ素粉末65重量%と板状窒化ホウ素の凝集粉1.7重量%を充填した一次シート材料を積層・加熱圧着して垂直に切断することで厚み方向の熱抵抗0.25K/Wのシートを得た例もある(特許文献3)。この熱抵抗値と測定時のシート形状(1cm×1cm×0.30mm)から、熱伝導率は12W/mKと推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-131705号公報
【文献】特開2016-222925号公報
【文献】特開2019-108496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
積層体を積層方向に沿ってスライスすることによって得られる従来の放熱シートでは、積層体の作製に用いられる一次シート材料における窒化ホウ素粒子の充填量が低く、得られる放熱シートの厚み方向の熱伝導率が不十分である場合があった。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。本発明の目的は、厚み方向の熱伝導性に優れた放熱シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者らは、上記の課題が下記の態様によって解決されることを見出した:
〈態様1〉
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有する放熱シートであり、
前記絶縁熱伝導層の積層方向と、前記放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
前記絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有する、
放熱シート。
〈態様2〉
少なくとも2層の前記絶縁熱伝導層の間に配置されている絶縁接着層をさらに有している、態様1に記載の放熱シート。
〈態様3〉
前記絶縁熱伝導層が、前記放熱シートに対して少なくとも50体積%を占める、態様1又は2に記載の放熱シート。
〈態様4〉
前記絶縁熱伝導層の前記積層方向における厚みが、前記絶縁接着層の前記積層方向における厚みの2倍以上である、態様2又は3に記載の放熱シート。
〈態様5〉
前記絶縁性粒子が、変形している扁平状粒子を含む、態様1~4のいずれか一項に記載の放熱シート。
〈態様6〉
前記絶縁性粒子が、窒化ホウ素粒子を50体積%以上含む、態様1~5のいずれか一項に記載の放熱シート。
〈態様7〉
前記バインダー樹脂は、融点又は熱分解温度が150℃以上である、態様1~6のいずれか一項に記載の放熱シート。
〈態様8〉
前記バインダー樹脂が、アラミド樹脂である、態様1~7のいずれか一項に記載の放熱シート。
〈態様9〉
熱伝導率が厚み方向で20W/(m・K)以上であり、絶縁破壊電圧が5kV/mm以上である、態様1~8のいずれか一項に記載の放熱シート。
〈態様10〉
1GHzにおける比誘電率が6以下である、態様1~9のいずれか一項に記載の放熱シート。
〈態様11〉
態様1~10のいずれか一項に記載の放熱シートの製造方法であって、
絶縁熱伝導シートを提供すること、
少なくとも2つの前記絶縁熱伝導シートを積層して、積層体を得ること、及び
前記絶縁熱伝導層シートの略積層方向に沿って、前記積層体をスライスすることによって放熱シートを得ること、
を含み、ここで、
前記絶縁熱伝導シートが、前記絶縁熱伝導シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有している、
放熱シートの製造方法。
〈態様12〉
少なくとも2つの前記絶縁熱伝導シートを積層する際に、前記絶縁熱伝導シートの間に絶縁接着物質を配置することをさらに含む、態様11に記載の方法。
〈態様13〉
前記絶縁熱伝導シートが、面内方向における30W/(m・K)以上の熱伝導率を有している、態様11又は12に記載の方法。
〈態様14〉
前記絶縁性粒子が、扁平状粒子を含む、態様11~13のいずれか一項に記載の方法。
〈態様15〉
前記絶縁性粒子が、窒化ホウ素粒子を50体積%以上含む、態様11~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚み方向の熱伝導性に優れた放熱シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の実施態様に係る放熱シートの断面の概略図を示す。
図2図2は、本開示の1つの実施態様に係る放熱シートを構成する絶縁熱伝導層の断面の概略図を示す。
図3図3は、本開示の別の実施態様に係る放熱シートを構成する絶縁熱伝導層の断面の概略図を示す。
図4図4は、従来技術に係る放熱シートを構成する絶縁熱伝導層の断面の概略図を示す。
図5図5は、参考例1に係る絶縁熱伝導シートの面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図6図6は、参考例2に係る絶縁熱伝導シートの、面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図7図7は、参考例3に係る絶縁熱伝導シートの、面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図8図8は、参考例4に係る絶縁熱伝導シートの、面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図9図9は、参考例5に係る絶縁熱伝導シート前駆体の、面方向に垂直な断面のSEM画像を示す。
図10図10は、参考比較例1に係る絶縁熱伝導シートの、面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
図11図11は、参考比較例2に係る絶縁熱伝導シートの、面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
≪放熱シート≫
本開示の放熱シートは、
少なくとも2層の絶縁熱伝導層が積層されている構造を有し、
絶縁熱伝導層の積層方向と、放熱シートの厚み方向とが略直交しており、ここで、
絶縁熱伝導層が、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有する。
【0014】
本開示の放熱シートは、絶縁性粒子の充填率が比較的高く、かつ厚み方向における比較的高い熱伝導率を有している。
【0015】
図1は、本開示に係る放熱シートの1つの実施態様の、面方向に垂直な断面の概略図を示す。図1で見られるように、放熱シート10では、複数の絶縁熱伝導層Aが積層されており、その積層方向が、放熱シートの厚み方向に略直交している。放熱シート10では、複数の絶縁熱伝導層Aのそれぞれの間に、絶縁接着層Bが配置されている。なお、図1図4において、方向Dは、放熱シートの厚み方向を示しており、方向Sは、放熱シートの面内方向を示している。
【0016】
本開示に係る放熱シートでは、面内方向における熱伝導率が高い絶縁熱伝導シートを絶縁熱伝導層の材料として使用している。本開示に係る放熱シートでは、このような絶縁熱伝導層の積層方向が放熱シートの厚み方向に略直交しており、それによって、放熱シートの厚み方向における熱伝導率が比較的高くなっている。
【0017】
ここで、本発明において、「積層方向が放熱シートの厚み方向に略直交」は、積層方向と厚み方向との間の角度が45°~135°であることを意味しており、好ましくは、この角度が、55°~125°、65°~115°、75°~105°、85°~95°、87°~93°、又は89°~91°である。
【0018】
本開示に係る放熱シートにおいて、絶縁熱伝導層は、放熱シートの一方の主表面と他方の主表面との間に連続して存在するとともに一方の主表面と他方の主表面に露出する態様で存在することが好ましい。この態様で存在することで、放熱シートの一方の面に接する部材から他方の面に接する部材に熱を逃すことができる。
【0019】
本開示に係る別の実施態様では、放熱シートを構成する絶縁熱伝導層が、放熱シートに対して少なくとも50体積%を占める。この場合には、厚み方向の熱伝導率が比較的高い絶縁熱伝導層の割合が高くなるため、厚み方向の熱伝導率がさらに比較的高い放熱シートを提供することができる。
【0020】
好ましくは、放熱シートに対する絶縁熱伝導層の割合が、55体積%以上、60体積%以上、65体積%以上、若しくは70体積%以上であってよく、かつ/又は、100体積%以下、100体積%未満、99体積%未満、98体積%未満、95体積%未満、90体積%未満、80体積%未満、若しくは75体積%未満であってよい。
【0021】
絶縁熱伝導層の厚さは任意に設定できるが、絶縁熱伝導層の厚みは、0.1μm以上、1μm以上、又は10μm以上であってよく、かつ/又は、1000μm以下、100μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、又は50μm以下であってよい。絶縁熱伝導層の厚みは、例えば、20~3000μm、好ましくは40~1000μmである。
【0022】
放熱シートに含まれる絶縁熱伝導層の数は、任意に設定できるが、例えば3層以上、好ましくは11層以上、さらに好ましくは21層以上である。放熱シートに含まれる絶縁熱伝導層の数の上限は特にないが、例えば1000層以下、500層以下、300層以下、又は100層以下であってよい。
【0023】
本開示に係る放熱シートは、少なくとも2層の絶縁熱伝導層の間に配置されている絶縁接着層をさらに有していてよい。絶縁熱伝導層の間に絶縁接着層があることによって、放熱シートにおいて隣り合っている絶縁熱伝導層の間における接着性が、さらに向上する。
【0024】
本開示に係る放熱シートの1つの態様では、放熱シートが絶縁熱伝導層の間に配置されている絶縁接着層をさらに有しており、それにより、絶縁熱伝導層と絶縁接着層が交互に積層されているようになっている。
【0025】
放熱シートが絶縁接着層をさらに有する場合、絶縁熱伝導層の厚みは、絶縁接着層の厚みに対して大きいほど、得られる放熱シートの厚み方向の熱伝導率が向上する。したがって、絶縁熱伝導層の厚みは、相対的に厚い方がよい。例えば、積層方向における絶縁熱伝導層の厚みが、積層方向における絶縁接着層の厚みの2倍以上であることが好ましい。この場合には、厚み方向の熱伝導率がさらに比較的高い放熱シートを提供することができる。
【0026】
放熱シートが絶縁接着層をさらに有する場合、好ましくは、絶縁熱伝導層の積層方向における厚みと、絶縁接着層の積層方向における厚みの比が、2以上、3以上、4以上、若しくは5以上であってよく、かつ/又は100以下、80以下、若しくは50以下であってよい。
【0027】
放熱シートが絶縁接着層をさらに有する場合、絶縁熱伝導層と絶縁接着層のそれぞれの厚さは、任意に設定できるが、それぞれ、0.1μm以上、1μm以上、又は10μm以上であってよく、かつ/又は、1000μm以下、100μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、又は50μm以下であってよく、例えば、20~3000μm、好ましくは40~1000μmであり、さらに好ましくは、0.5~500μm、さらにより好ましくは5~50μm、特に好ましくは10~30μmである。絶縁熱伝導層と絶縁接着層の合計は、任意に設定できるが、例えば3層以上、好ましくは11層以上、さらに好ましくは21層以上である。放熱シートに含まれる絶縁熱伝導層と絶縁接着層の合計について、上限は特にないが、例えば2000層以下、1000層以下、又は500層以下であってよい。
【0028】
〈厚み〉
放熱シートの厚みは、放熱シートが使用されるときに接する熱源、例えば半導体素子、電源又は光源などによって異なり得るが、例えば、0.1~20mm、好ましくは0.5~5mmである。
【0029】
〈厚み方向における熱伝導率〉
好ましくは、本開示に係る放熱シートは、厚み方向で20.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有している。
【0030】
特には、放熱シートの熱伝導率が、厚み方向で、25.0W/(m・K)以上、30.0W/(m・K)以上、35.0W/(m・K)以上、若しくは40.0W/(m・K)以上であってよく、かつ/又は60.0W/(m・K)以下、50.0W/(m・K)以下、若しくは45.0W/(m・K)以下であってよい。
【0031】
放熱シートの厚み方向の熱伝導率は、熱拡散率、比重及び比熱を全て乗じて算出することができる。すなわち、
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
によって算出することができる。
【0032】
厚み方向の熱拡散率は、温度波分析法(温度波の位相遅れ計測法)により求めることができる。比熱は、示差走査熱量計によって求めることができる。また、比重は、絶縁熱伝導層の外寸法及び重量から求めることができる。
【0033】
〈面内方向における熱伝導率〉
好ましくは、本開示に係る放熱シートは、面内方向で、0.5W/(m・K)以上の熱伝導率を有している。さらに好ましくは、放熱シートの熱伝導率が、面内方向で、1W/(m・K)以上、2W/(m・K)以上、5W/(m・K)以上、又は10W/(m・K)以上である。本開示に係る放熱シートは、好ましくは、面内方向で、100W/(m・K)以下の熱伝導率を有している。
【0034】
放熱シートの面内方向の熱伝導率は、熱拡散率、比重、及び比熱を全て乗じて算出することができる。すなわち、
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
によって算出することができる。
【0035】
上記の熱拡散率は、光交流法によって、光交流法熱拡散率測定装置を用いて測定することができる。比熱は、示差走査熱量計によって求めることができる。また、比重は、絶縁熱伝導層の外寸法及び重量から求めることができる。
【0036】
〈絶縁破壊電圧〉
好ましくは、放熱シートの絶縁破壊電圧が、5kV/mm以上、8kV/mm以上、又は10kV/mm以上である。絶縁破壊電圧が5kV/mm以上である場合には、絶縁破壊が起こりにくくなり、電子機器の不良が回避されるため好ましい。
【0037】
放熱シートの絶縁破壊電圧は、試験規格ASTM D149に準拠して測定される。測定には、絶縁耐力試験装置を用いることができる。
【0038】
〈比誘電率〉
本開示の放熱シートの1つの実施態様では、1GHzにおける比誘電率が、6以下である。放熱シートの1GHzにおける比誘電率が6以下である場合には、電磁波の干渉が回避されうるため、好ましい。
【0039】
好ましくは、1GHzにおける比誘電率が、5.5以下、5.3以下、5.0以下、又は4.8以下である。比誘電率の下限は特に限定されないが、例えば、1.5以上、又は2.0以上であってよい。
【0040】
本開示に係る比誘電率は、摂動方式試料穴閉鎖形空洞共振器法を用いてネットワークアナライザによって計測することができる。
【0041】
以下では、本開示の放熱シートを構成する各要素について、より詳細に説明する。
【0042】
〈絶縁熱伝導層〉
本開示の絶縁熱伝導層は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、
75~97面積%の絶縁性粒子、
3~25面積%のバインダー樹脂、及び
10面積%以下の空隙
を含有している。
【0043】
本開示に係る絶縁熱伝導層は、面内方向における比較的高い熱伝導性を有している。このような絶縁熱伝導層から形成される本開示に係る放熱シートでは、絶縁熱伝導層の積層方向と放熱シートの厚み方向が略直交しており、結果として、放熱シートが厚み方向における高い熱伝導性を有するようになっている。また、このような絶縁熱伝導層は、良好な柔軟性を有しており、これは、例えば放熱シートを半導体機器に実装する観点から好ましい性質である。
【0044】
図2は、本開示に係る放熱シート10を構成する絶縁熱伝導層Aの断面概略図を示す。絶縁熱伝導層Aでは、バインダー樹脂22の含有量が低減されていることによって、絶縁性粒子21の充填率が比較的高くなっている。このような絶縁熱伝導層Aから構成される放熱シート10では、絶縁性粒子21の充填率が高いことによって、粒子間の距離が比較的小さくなっており、結果として放熱シートの厚み方向Dにおける高い熱伝導率がもたらされていると考えられる。また、同時に、バインダー樹脂22の含有量が低減されていることによって、樹脂に起因する熱抵抗が抑制されていると考えられる。
【0045】
さらに、図2の絶縁熱伝導層Aでは、バインダー樹脂22の含有量が低減されていることに加えて、層内の空隙23も比較的低減されている。このような絶縁熱伝導層Aから構成される放熱シートでは、絶縁性粒子21の充填率がさらに高まっており、厚み方向Dにおける熱伝導率の増加効果がさらに高まっていると考えられる。
【0046】
本開示に係る放熱シートを構成する絶縁熱伝導層は、例えば、絶縁性粒子及びバインダー樹脂を含む絶縁熱伝導シート前駆体に対してロールプレス処理を行うことによって得られる絶縁熱伝導シートを材料とすることによって実現される。シート状に成形された絶縁熱伝導シート前駆体は、多量の気泡を含んでいる。この状態でロールプレス法を用いて圧縮することで、シート内部の絶縁性粒子をシートの面内方向に配向させるとともに、絶縁熱伝導シート前駆体内部の気泡を低減することができ、その結果、得られる絶縁熱伝導シートの面内方向の熱伝導率が高められると考えられる。
【0047】
図4は、従来技術に係る放熱シートを構成する絶縁熱伝導層Xの断面概略図を示している。この絶縁熱伝導層Xでは、バインダー樹脂42の割合が比較的高く、かつ粒子間の空隙43が比較的大きいため、絶縁性粒子41の充填率が比較的低くなっている。このような絶縁伝熱層Xから構成される放熱シートでは、絶縁性粒子41間の距離が大きいため、厚み方向Dにおける高い熱伝導率が得られないと考えられる。
【0048】
なお、絶縁熱伝導層は、放熱シートを形成する際に絶縁熱伝導層の材料として使用される絶縁熱伝導シートと同一の又は実質的に同一の物性、例えば同一の又は実質的に同一の熱伝導率及び絶縁破壊電圧を有していると考えられる。したがって、絶縁熱伝導層の物性、すなわち熱伝導率、絶縁破壊電圧、及び比誘電率については、後述する絶縁熱伝導シートの記載を参照することができる。
【0049】
〈絶縁性粒子〉
本開示に係る絶縁熱伝導層は、絶縁性粒子を含有している。
【0050】
本開示に係る絶縁熱伝導層は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子を含有する。絶縁性粒子の含有率が75面積%以上である場合には、良好な熱伝導性が得られ、97面積%以下である場合には、樹脂組成物の粘度の上昇が抑制され、成形の容易性が確保される。
【0051】
好ましくは、本開示に係る絶縁熱伝導層に含有される絶縁性粒子は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、80面積%以上、85面積%以上、若しくは90面積%以上であってよく、かつ/又は96面積%以下、95面積%以下、94面積%以下、93面積%以下、92面積%以下、若しくは91面積%以下であってよい。
【0052】
本開示において、放熱シートの面方向に垂直な断面全体における絶縁性粒子の「面積%」は、絶縁熱伝導層の、放熱シートの面方向に垂直な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影し、かつ取得された画像における一定面積中に存在する絶縁性粒子の面積の合計を計測することによって、算出することができる。
【0053】
絶縁性粒子は、特に限定されず、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ベリリウム、表面が絶縁化されている金属シリコン粒子、樹脂などの絶縁性材料で表面被覆されている炭素繊維及び黒鉛、並びにポリマー系フィラーが挙げられる。放熱シートの厚み方向における熱伝導性、絶縁性、及び価格の観点からは、絶縁性粒子が窒化ホウ素粒子、特には六方晶系窒化ホウ素粒子であることが好ましい。窒化ホウ素粒子のアスペクト比は、10~1000であることが好ましく、扁平形状の形態を有していることがさらに好ましい。
【0054】
絶縁性粒子の平均粒径は、好ましくは1~200μm、より好ましくは5~200μm、さらに好ましくは5~100μm、特に好ましくは10~100μmである。
【0055】
平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いてレーザー回折法によって測定されるメジアン径(ある粉体をある粒径から二つに分けたとき、その粒径より大きい粒子と小さい粒子が等量となる粒径、一般にD50とも呼ばれる)である。
【0056】
(変形)
本開示に係る絶縁熱伝導層の1つの有利な実施態様では、絶縁性粒子が、変形している扁平状粒子、すなわち鱗片状粒子又はフレーク状粒子を含んでいる。
【0057】
変形している扁平状粒子を含有する絶縁熱伝導層を有している放熱シートでは、厚み方向における熱伝導率がさらに向上している。理論によって限定する意図はないが、その理由としては、扁平状粒子が変形していることによって、絶縁熱伝導層内部の空隙がさらに低減されていることが挙げられる。一般に、扁平状粒子の場合には、その形状に起因する立体障害によって粒子間に隙間ができやすいと考えられる。したがって、従来は、粒子の含有率が高くなると空隙率が大きくなると考えられていた。これに対して、本開示の1つの有利な実施態様に係る絶縁熱伝導層では、例えば図3に示す絶縁熱伝導層(A′)で見られるように、扁平状粒子31が変形し、そのようにして粒子間の隙間が埋められ、結果として、空隙33がさらに低下している。また、絶縁熱伝導層の材料となる絶縁熱伝導シートを得る際のロールプレス処理の間に扁平状粒子31が変形することによって、粒子間に閉じ込められた気泡のシート外への排出が促進され、空隙33の低減がさらに促進されるということも考えられる。
【0058】
変形している扁平状粒子を含有している絶縁熱伝導層を有する放熱シートを得る方法は、特に限定されないが、例えば、扁平状粒子を含有している絶縁性粒子を含む絶縁熱伝導シート前駆体に対してロールプレス処理を行うことで絶縁熱伝導シートを得、この絶縁熱伝導シートを用いて放熱シートを作製する方法が挙げられる。特に、絶縁性粒子が扁平状粒子を含有しておりかつ絶縁性粒子が高充填されている絶縁熱伝導シート前駆体に対してロールプレス処理を行う方法によれば、粒子の変形がより顕著になると考えられる。理論によって限定する意図はないが、このような方法では、扁平状粒子間に付与されるせん断応力が比較的高くなり、結果として扁平状粒子の変形が促進されると考えられる。図3の実施態様を例として説明すると、図3では、バインダー樹脂32の含有率が比較的低くかつ絶縁性粒子が比較的密に充填されている。このような状態でロールプレス処理を行った場合には、絶縁性粒子間に高いせん断応力が働きやすいため、絶縁性粒子が特に変形しやすいと考えられる。
【0059】
なお、従来の絶縁熱伝導層においても、絶縁性粒子が変形している場合があり得るが、この場合には、変形の程度が比較的小さく、空隙率を低減するには至っていないと考えられる。
【0060】
絶縁性粒子が扁平状粒子を含む場合、扁平状粒子は、絶縁性粒子全体の100体積%あたり50体積%以上を占めることが好ましい。50体積%以上である場合は、良好な面内方向の熱伝導率が確保されうる。絶縁性粒子100体積%あたりの扁平状粒子は、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上、さらにより好ましくは80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上である。
【0061】
(扁平状粒子)
扁平状粒子としては、例えば六方晶系窒化ホウ素(h-BN)粒子を挙げることができる。
【0062】
扁平状粒子(特には窒化ホウ素粒子)の平均粒径は、例えば1μm以上、好ましくは1~200μm、さらに好ましくは5~200μm、さらに好ましくは5~100μm、特に好ましくは10~100μmである。1μm以上である場合には、扁平状粒子の比表面積が小さく、樹脂との相溶性が確保されるため好ましく、200μm以下である場合には、シート成形の際に厚さの均一性を確保できるため好ましい。扁平状粒子(特には窒化ホウ素粒子)は、単一の平均粒径を有する扁平状粒子を用いてもよく、異なる平均粒径を有する扁平状粒子の複数種類を混合して用いてもよい。
【0063】
扁平状粒子のアスペクト比は、10~1000であることが好ましい。アスペクト比が10以上である場合には、熱拡散性を高めるために重要な配向性が確保され、高い熱拡散性を得ることができるため好ましい。また、1000以下のアスペクト比を持つフィラーは、比表面積の増大による組成物の粘度の上昇が抑制され、加工の容易性の観点から好ましい。
【0064】
アスペクト比は、粒子の長径を、粒子の厚みで除した値であり、つまり長径/厚みである。粒子が球状の場合のアスペクト比は1であり、扁平な度合いが増すにつれてアスペクト比は高くなる。
【0065】
アスペクト比は、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率1500倍で粒子の長径と厚みを測定し、長径/厚みを計算することによって、得ることができる。
【0066】
絶縁性粒子として扁平状粒子(特には窒化ホウ素粒子)を用いる場合には、扁平状粒子以外の絶縁性粒子を併用してもよい。その場合でも、扁平状粒子は、絶縁性無機粒子全体の100体積%あたり50体積%以上を占めることが好ましい。50体積%以上であれば、良好な面内方向の熱伝導率が確保されるため好ましい。絶縁性無機粒子100体積%あたりの扁平状粒子は、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上、さらにより好ましくは80体積%、特に好ましくは90体積%以上である。
【0067】
絶縁性無機粒子として扁平状粒子と等方性の熱伝導率を有するセラミックス粒子とを併用する場合には、絶縁熱伝導層において、放熱シートの厚み方向の熱伝導率と放熱シートの面内方向の熱伝導率のバランスを必要に応じて調節することができるため、好ましい態様である。また、扁平状粒子のうち、特に窒化ホウ素粒子は高価な材料であるため、例えば表面が熱酸化されて絶縁化されている金属シリコン粒子のような安価な材料と併用することが便宜であり、この場合に、絶縁熱伝導層の原料コストと熱伝導率とのバランスを必要に応じて調節することができるため、好ましい態様である。
【0068】
(配向性)
放熱シートの厚み方向における特に高い熱伝導率を得る観点からは、絶縁性粒子が放熱シートの厚み方向に沿って配向し、それによって、絶縁熱伝導層における放熱シートの厚み方向での熱伝導率と、絶縁熱伝導層における積層方向での熱伝導率の比が、1超となっていることが好ましい。絶縁熱伝導層における放熱シートの厚み方向での熱伝導率と、絶縁熱伝導層における積層方向での熱伝導率の比は、好ましくは、1.5以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上である。絶縁熱伝導層における放熱シートの厚み方向での熱伝導率と、絶縁熱伝導層における積層方向での熱伝導率の比は、例えば500以下、200以下、100以下、50以下、30以下、20以下、15以下、又は12以下であってよい。
【0069】
絶縁性粒子として、六方晶系窒化ホウ素粒子などの、長軸方向に比較的高い熱伝導性を有する異方性扁平状粒子を含む場合、放熱シートの厚み方向における特に高い熱伝導率を得る観点からは、絶縁熱伝導層に含有される異方性扁平状粒子の長軸方向が、放熱シートの厚み方向に実質的に一致していることが好ましい。なお、「2つの方向が実質的に一致している」とは、両者のなす角度が例えば45°以下、好ましくは30°以下、さらに好ましくは15°以下、さらに好ましくは5°以下、又は3°以下、特に好ましくは0°であることを意味する。絶縁性粒子として扁平形状の窒化ホウ素粒子を含む場合、放熱シートの厚み方向における高い熱伝導率を得る観点からは、窒化ホウ素粒子が、放熱シートの厚み方向に対してほぼ平行な方向に配向していることが、特に好ましい。
【0070】
絶縁熱伝導層に含有される異方性扁平状粒子の長軸方向が放熱シートの厚み方向に実質的に一致しているか否かは、面内方向に垂直な断面における放熱シートのSEM画像を用いて計測することができる。
【0071】
絶縁熱伝導層が絶縁性粒子として窒化ホウ素粒子を含む場合、絶縁熱伝導層に含有される窒化ホウ素粒子の配向度が、1未満であることが好ましい。この配向度の値が低いほど、窒化ホウ素粒子が放熱シートの厚み方向と同一方向に配向していることになる。絶縁熱伝導層に含有される窒化ホウ素粒子の配向度が1未満である場合には、放熱シートの厚み方向に沿って窒化ホウ素粒子の長軸方向が配向することになるため、放熱シートの厚み方向におけるさらに高い熱伝導率を得ることができる。
【0072】
なお、絶縁熱伝導層における窒化ホウ素粒子の配向度は、放熱シートを作製する際に使用される絶縁熱伝導シートにおける窒化ホウ素粒子の配向度と実質的に等しいと考えられる。したがって、絶縁熱伝導層における窒化ホウ素粒子の配向度としては、下記の、絶縁熱伝導シートにおける窒化ホウ素粒子の配向度を用いることができる。
【0073】
放熱シートを作製する際に使用される絶縁熱伝導シートにおける窒化ホウ素粒子の配向度は、絶縁熱伝導シートの主たる面を測定面として透過X線回折で計測したときの、窒化ホウ素粒子結晶のc軸(厚み)方向に対応する(002)ピーク強度I(002)と、a軸(平面)に対応する(100)ピーク強度I(100)を用いて、次の式で定義される。
配向度=I(002)/I(100)
【0074】
絶縁熱伝導層における窒化ホウ素粒子の配向度は、0.8未満、0.6未満、0.4未満、0.2未満、又は0.1未満であることがさらに好ましく、実質的に0であることが特に好ましい。絶縁熱伝導層における窒化ホウ素粒子の配向度の下限は、好ましくは、0以上、0.01以上、又は0.1以上である。
【0075】
〈バインダー樹脂〉
本開示に係る絶縁熱伝導層は、バインダー樹脂を含有している。
【0076】
本開示に係る絶縁熱伝導層は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、3~25面積%のバインダー樹脂を含有する。バインダー樹脂の含有率が25面積%以下である場合には、十分に高い熱伝導率を確保することができ、3面積%以上である場合には、成形性を確保することができる。また、バインダー樹脂の含有率が3面積%以上である場合には、バインダー樹脂が絶縁性粒子間等の隙間を埋めることによって、空隙が低減されると考えらえる。
【0077】
好ましくは、本開示に係る絶縁熱伝導層に含有されるバインダー樹脂は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、5面積%以上、5面積%超、6面積%以上、7面積%以上、若しくは8面積%以上であってよく、かつ/又は24面積%以下、20面積%以下、15面積%以下、12面積%以下、若しくは10面積%以下であってよい。特に、バインダー樹脂の含有率が5面積%以上、特には5面積%超である場合には、絶縁性粒子間等の隙間を埋めるために十分な量のバインダー樹脂が確保され、空隙がさらに低減されると考えられる。
【0078】
本開示において、放熱シートの面方向に垂直な断面全体におけるバインダー樹脂の「面積%」は、放熱シートの面方向に垂直な断面をSEMによって撮影し、かつ取得された画像における一定面積中に存在するバインダー樹脂の面積を計測することによって、算出することができる。
【0079】
本開示に係るバインダー樹脂は、特に限定されない。バインダー樹脂としては、例えば、アラミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、及びポリベンゾオキサゾール(PBO)を挙げることができる。
【0080】
(熱特性)
絶縁熱伝導層の熱特性の観点からは、バインダー樹脂が耐熱性及び/又は難燃性において優れた性質を有していることが好ましい。特には、バインダー樹脂の融点又は熱分解温度が、150℃以上であることが好ましい。
【0081】
バインダー樹脂の融点は、示差走査熱量計で測定される。バインダー樹脂の融点は、より好ましくは、200℃以上、さらに好ましくは250℃以上、特に好ましくは300℃以上である。バインダー樹脂の融点の下限は、特に限定されないが、例えば、600℃以下、500℃以下、又は400℃以下である。
【0082】
バインダーの熱分解温度は、示差走査熱量計で測定される。バインダー樹脂の熱分解温度は、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上、特に好ましくは400℃以上、最も好ましくは500℃以上である。バインダー樹脂の熱分解温度の下限は、特に限定されないが、例えば、1000℃以下、900℃以下、又は800℃以下である。
【0083】
車載向けの電子機器内部の放熱用途として用いる場合、樹脂材料の耐熱温度の高さも必要となる。炭化ケイ素を用いたパワー半導体の場合、300℃前後の耐熱性が要求される。したがって、300℃以上の耐熱性を有している樹脂は、車載用途、得にパワー半導体周辺の放熱用途に好適に用いることができる。そのような樹脂としては、例えばアラミド樹脂を挙げることができる。
【0084】
(熱可塑性樹脂)
柔軟性及びハンドリング性の観点からは、バインダー樹脂が熱可塑性バインダー樹脂であることが特に好ましい。熱可塑性樹脂を含む絶縁熱伝導層から構成される放熱シートは、製造時に熱硬化を必要としないため、柔軟性に優れており、かつ電子機器内部への適用を比較的容易に行うことができる。
【0085】
また、バインダー樹脂が熱可塑性バインダー樹脂である場合には、絶縁熱伝導層内の空隙をさらに低減できると考えられるため、特に好ましい。理論によって限定する意図はないが、バインダー樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には、例えば絶縁熱伝導層の製造時におけるロールプレス処理の際に加熱処理することによって、熱可塑性樹脂が軟化し、絶縁性粒子間にトラップされた気泡の排出がさらに促進され、結果として空隙の低減効果をさらに高めることができると考えられる。
【0086】
本開示に係るバインダー樹脂として使用することができる熱可塑性樹脂としては、アラミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、及びポリベンゾオキサゾール(PBO)等を挙げることができる。
【0087】
(アラミド樹脂)
特には、バインダー樹脂がアラミド樹脂であることが好ましい。バインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いた場合には、絶縁性粒子を高い割合で充填しながらも機械的強度がさらに優れた絶縁熱伝導層がもたらされる。また、熱特性の観点からも、バインダー樹脂がアラミド樹脂であることが好ましい。アラミド樹脂は比較的高い熱分解温度を有しており、かつバインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いた絶縁熱伝導層から構成される放熱シートは、優れた難燃性を示す。
【0088】
アラミド樹脂は、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合している線状高分子化合物である。アラミド樹脂として例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド及びその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミド及びその共重合体を用いることができ、例えばコポリパラフェニレン・3、4‘-ジフェニルエーテルテレフタルアミド(別名:コポリパラフェニレン・3、4‘-オキシジフェニレンテレフタルアミド)を挙げることができる。アラミド樹脂は単一で用いてもよく、複数を混合して用いてもよい。
【0089】
〈空隙〉
本開示の絶縁熱伝導層は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、10面積%以下の空隙を含有している。空隙が10面積%以下であることによって、放熱シートの厚み方向における良好な熱伝導率を得ることができる。
【0090】
好ましくは、本開示の絶縁熱伝導層は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、8面積%以下、6面積%以下、4面積%以下、3面積%以下、2面積%以下、又は1面積%以下の空隙を含有している。空隙の下限は特に限定されないが、例えば、空隙は、放熱シートの面方向に垂直な断面全体について、0.01面積%以上、0.1面積%以上、0.5面積%以上、0.8面積%以上、又は1.0面積%以上であってよい。
【0091】
本開示において、面方向に垂直な断面全体における空隙の「面積%」は、絶縁熱伝導層の、放熱シートの面方向に垂直な断面をSEMによって撮影し、かつ取得された画像における一定面積中に存在する空隙の面積を計測することによって、算出することができる。
【0092】
本開示において「空隙」は、絶縁熱伝導層を構成する要素の間に形成される隙間を意味する。空隙は、例えば、絶縁熱伝導層の形成時に、絶縁性粒子間などに気泡等がトラップされることによって生じる。
【0093】
〈体積部〉
本開示に係る絶縁熱伝導層の別の実施態様では、本開示に係る絶縁熱伝導層が、絶縁熱伝導層100体積部に対して、75~97体積部の絶縁性粒子、3~25体積部のバインダー樹脂、及び10体積部以下の空隙を含有している。
【0094】
好ましくは、本開示に係る絶縁熱伝導層に含有される絶縁性粒子は、絶縁熱伝導層100体積部に対して、80体積部以上、85体積部以上、若しくは90体積部以上であってよく、かつ/又は96体積部以下、95体積部以下、94体積部以下、93体積部以下、92体積部以下、若しくは91体積部以下であってよい。
【0095】
好ましくは、本開示に係る絶縁熱伝導層に含有されるバインダー樹脂は、絶縁熱伝導層100体積部に対して、5体積部以上、6体積部以上、7体積部以上、若しくは8体積部以上であってよく、かつ/又は24体積部以下、20体積部以下、15体積部以下、12体積部以下、若しくは10体積部以下であってよい。
【0096】
好ましくは、本開示の絶縁熱伝導層は、絶縁熱伝導層100体積部に対して、8体積部以下、6体積部以下、4体積部以下、3体積部以下、2体積部以下、又は1体積部以下の空隙を含有している。空隙の下限は特に限定されないが、例えば、0.01体積部以上、0.1体積部以上、0.5体積部以上、0.8体積部以上、又は1.0体積部以上であってよい。
【0097】
絶縁熱伝導層が同一サンプル面内でおおよそ均一な組成、厚みを有する場合、面方向に垂直な断面から求められる各成分の面積%は、絶縁熱伝導層における各成分の体積比(絶縁熱伝導層100体積部に対する体積部)と実質的に等しいと考えられる。したがって、絶縁熱伝導層における空隙の体積部は、空隙に関する面積%について既述した手法と同様にして、算出することができる。
【0098】
〈添加剤〉
本発明の絶縁熱伝導層は、難燃剤、変色防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、粘度調整剤、及び/又は補強材を含有してもよい。さらに、シートの強度を高めるために、繊維状の補強材を含有してもよい。繊維状の補強材としてアラミド樹脂の短繊維を用いると、補強材の含有によって絶縁熱伝導層の耐熱性が低下しないので好ましい。
【0099】
〈絶縁接着層〉
本開示の放熱シートに含まれうる絶縁接着層の材料としては、相互に隣り合う絶縁熱伝導層と絶縁熱伝導層とを接着することのできる絶縁性の物質を用いることができる。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、架橋性樹脂を使用することができる。
【0100】
熱可塑性樹脂では、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアセタール、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、セルロース、α-オレフィン、ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0101】
熱可塑性エラストマーでは、例えば、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリサルファイド、ブチルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリル化ウレタン樹脂、テレケリックポリアクリレートを用いることができる。
【0102】
架橋性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。
【0103】
絶縁接着層には、絶縁性と接着性を損なわない範囲で、例えば硬化促進剤、変色防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、粘度調整剤、フィラーといった添加剤を配合してもよい。
【0104】
絶縁接着層は、接着力を有していれば、任意の形態を有していてよく、例えば、テープ状、フィルム状、又はシート状であってよい。
【0105】
≪製造方法≫
本開示は、本開示に係る放熱シートを製造するための下記を含む方法を含んでいる:
絶縁熱伝導シートを提供すること(提供工程)、
少なくとも2つの絶縁熱伝導シートを積層して、積層体を得ること(積層工程)、及び
絶縁熱伝導シートの略積層方向に沿って、積層体をスライスすることによって放熱シートを得ること(スライス工程)、
ここで、絶縁熱伝導シートが、絶縁熱伝導シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%の前記バインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有している。
【0106】
〈提供工程〉
本開示に係る放熱シートの製造方法に係る提供工程では、絶縁熱伝導シートを提供し、ここで、この絶縁熱伝導シートが、絶縁熱伝導シートの面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%の前記バインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有している。
【0107】
提供工程で提供される絶縁熱伝導シートの厚みは、100μm以下であることが好ましい。好ましくは、絶縁熱伝導シートの厚みが、80μm以下、70μm以下、60μm以下、又は50μm以下である。絶縁熱伝導シートの厚みの下限は、特に制限されないが、例えば0.1μm以上、1μm以上、又は10μm以上であってよい。
【0108】
(面内方向における熱伝導率)
【0109】
提供工程で提供される絶縁熱伝導シートの熱伝導率は、好ましくは、面内方向で、30W/(m・K)以上、35W/(m・K)以上、40W/(m・K)以上、45W/(m・K)以上、50W/(m・K)以上、又は55W/(m・K)以上である。 提供工程で提供される絶縁熱伝導シートの熱伝導率は高い程好ましいが、通常達成できる熱伝導率は、面内方向で高々100W/(m・K)である。
【0110】
(厚み方向における熱伝導率)
提供工程で提供される絶縁熱伝導シートの熱伝導率は、好ましくは、厚み方向で、0.5W/(m・K)以上、5.0W/(m・K)以下である。特には、絶縁熱伝導シートの熱伝導率が、厚み方向で、0.8W/(m・K)以上、若しくは1.0W/(m・K)以上であってよく、かつ/又は4.5W/(m・K)以下、若しくは4.0W/(m・K)以下であってよい。
【0111】
(絶縁破壊電圧)
提供工程で提供される絶縁熱伝導シートの絶縁破壊電圧は、好ましくは、5kV/mm以上であり、特に好ましくは、8kV/mm以上、又は10kV/mm以上である。
【0112】
(比誘電率)
提供工程で提供される絶縁熱伝導シートの1GHzにおける比誘電率は、好ましくは、6以下であり、特に好ましくは、5.5以下、5.3以下、5.0以下、又は4.8以下である。比誘電率の下限は特に限定されないが、例えば、1.5以上、又は2.0以上であってよい。
【0113】
放熱シートの厚み方向における特に高い熱伝導率を得る観点からは、絶縁熱伝導シートにおける絶縁性粒子が、絶縁熱伝導シートの面内方向に沿って配向し、それによって、絶縁熱伝導シートの面内方向での熱伝導率と、絶縁熱伝導シートにおける厚み方向での熱伝導率の比が、1超となっていることが好ましい。絶縁熱伝導シートの面内方向での熱伝導率と、絶縁熱伝導シートにおける厚み方向での熱伝導率の比は、好ましくは、1.5以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上である。絶縁熱伝導シートの面内方向での熱伝導率と、絶縁熱伝導シートにおける厚み方向での熱伝導率の比は、例えば500以下、200以下、100以下、50以下、30以下、20以下、15以下、又は12以下であってよい。
【0114】
絶縁性粒子として、六方晶系窒化ホウ素粒子などの、長軸方向に比較的高い熱伝導性を有する異方性扁平状粒子を含む場合、放熱シートの厚み方向における特に高い熱伝導率を得る観点からは、絶縁熱伝導シートにおける異方性扁平状粒子の長軸方向が、絶縁熱伝導シートの面内方向に実質的に一致していることが好ましい。絶縁性粒子として扁平形状の窒化ホウ素粒子を含む場合、放熱シートの厚み方向における高い熱伝導率を得る観点からは、窒化ホウ素粒子が、絶縁熱伝導シートの主たる面に対してほぼ平行な方向に配向していることが、特に好ましい。
【0115】
絶縁熱伝導シートに含有される異方性扁平状粒子の長軸方向が絶縁熱伝導シートの面内方向に実質的に一致しているか否かは、面内方向に垂直な断面における絶縁熱伝導シートのSEM画像を用いて計測することができる。
【0116】
絶縁熱伝導シートが絶縁性粒子として窒化ホウ素粒子を含む場合、絶縁熱伝導シートに含有される窒化ホウ素粒子の配向度が、1未満であることが好ましい。この配向度の値が低いほど、窒化ホウ素粒子が絶縁熱伝導シートの面内方向と同一方向に配向していることになる。絶縁熱伝導シートに含有される窒化ホウ素粒子の配向度が1未満である場合には、絶縁熱伝導シートの面内方向に沿って異方性扁平状粒子の長軸方向が配向することになるため、本開示の製造方法に従って放熱シートを製造した場合に、放熱シートの厚み方向におけるさらに高い熱伝導率を得ることができる。
【0117】
絶縁熱伝導シートにおける窒化ホウ素粒子の配向度は、絶縁熱伝導シートの主たる面を測定面として透過X線回折で計測したときの、窒化ホウ素粒子結晶のc軸(厚み)方向に対応する(002)ピーク強度I(002)と、a軸(平面)に対応する(100)ピーク強度I(100)を用いて、次の式で定義される。
配向度=I(002)/I(100)
【0118】
絶縁熱伝導シートにおける窒化ホウ素粒子の配向度は、0.8未満、0.6未満、0.4未満、0.2未満、又は0.1未満であることがさらに好ましく、実質的に0であることが特に好ましい。絶縁熱伝導シートにおける窒化ホウ素粒子の配向度の下限としては、好ましくは、0以上、0.01以上、又は0.1以上である。
【0119】
(絶縁熱伝導シートの製造方法)
本開示に係る絶縁熱伝導シートは、例えば、下記の工程を有する絶縁熱伝導シートの製造方法に従って、提供してよい:
絶縁性粒子、バインダー樹脂、及び溶剤を混合してスラリーを得る混合工程、
混合工程後のスラリーをシート状に賦形及び乾燥して絶縁熱伝導シート前駆体を成形する成形工程、並びに
絶縁熱伝導シート前駆体をロールプレスするロールプレス工程。
【0120】
(混合工程)
本開示に係る絶縁熱伝導シートの製造方法の混合工程では、絶縁性粒子、バインダー樹脂、及び溶剤を混合して、スラリーを得る。
【0121】
絶縁性粒子及びバインダー樹脂については、絶縁熱伝導層に関して既述した内容を参照することができる。絶縁性粒子は、好ましくは、扁平状粒子を含んでおり、特には、絶縁性粒子100体積%に対して50体積%以上の窒化ホウ素粒子を含んでいる。絶縁性粒子が窒化ホウ素粒子を含む場合、絶縁性無機粒子100体積%あたりの窒化ホウ素粒子は、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上、さらにより好ましくは80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上である。
【0122】
混合工程では、随意に、難燃剤、変色防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、粘度調整剤、及び/又は補強材を添加してもよい。シートの強度を高めるために、繊維状の補強材を添加してもよい。
【0123】
(溶剤)
溶剤としては、バインダー樹脂を溶解できる溶剤を用いることができる。例えば、バインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いる場合、1-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、又はジメチルスルホキシドを用いることができる。
【0124】
(混合)
絶縁性粒子、バインダー樹脂及び溶剤の混合には、例えばペイントシェーカーやビーズミル、プラネタリミキサ、攪拌型分散機、自公転攪拌混合機、三本ロール、ニーダー、単軸又は二軸混錬機等の、一般的な混錬装置を用いることができる。
【0125】
(成形工程)
本開示に係る絶縁熱伝導シートの製造方法の成形工程では、混合工程後のスラリーをシート状に賦形及び乾燥して、絶縁熱伝導シート前駆体を成形する。
【0126】
(賦形)
混合工程後のスラリーをシート状に賦形するために、コーターにより剥離フィルム上に樹脂組成物を塗工する方法の他、押出成形、射出成形、ラミネート成形といった公知の方法を用いることができる。
【0127】
(乾燥)
乾燥は、公知の方法によって行ってよい。例えば、基材上に塗布されたスラリーを乾燥させ、その後、賦形されたスラリーを水中で基材から剥離した後に、さらに乾燥を行ってよい。乾燥温度は、例えば50℃~120℃であってよく、乾燥時間は、例えば10分~3時間であってよい。
【0128】
(ロールプレス工程)
本開示に係る絶縁熱伝導シートの製造方法のロールプレス工程では、絶縁熱伝導シート前駆体をロールプレスする。
【0129】
(ロールプレス)
ロールプレスは、公知の方法によって行ってよく、例えば、カレンダーロール機によって、絶縁熱伝導シート前駆体の加圧処理を行ってよい。ロールプレス工程において絶縁熱伝導シート前駆体に付与される圧力は、線圧で400~8000N/cmであることが好ましい。線圧を400N/cm以上とすることで、絶縁性粒子の変形が起こりやすく、また気泡のシート外への排出が顕著になる。線圧が8000N/cm以下であることにより、絶縁性粒子が破壊しない程度に十分変形し密に充填され、シート内の空隙が少なくできる。ロールプレスにおいて使用するロールの直径は、例えば、200~1500mmであることが好ましい。
【0130】
(加熱温度)
ロールプレス処理の際には、絶縁熱伝導シート前駆体を加熱することが好ましい。加熱温度は、使用するバインダー樹脂の種類などに応じて適宜設定することができる。バインダー樹脂としてアラミド樹脂を用いる場合、加熱温度は100~400℃であることが好ましい。加熱温度を100℃以上とすることで、バインダー樹脂が軟化しやすくロールプレス処理によって絶縁性粒子間の隙間を埋める効果が得られやすくなる。加熱温度を400℃以下とすることで、熱履歴によるバインダー樹脂の強度低下が生じにくくなる。
【0131】
(扁平状粒子)
本開示に係る製造方法の1つの実施態様では、スラリーに含まれる絶縁性粒子が、扁平状粒子を含んでいる。この場合には、ロールプレス処理によって粒子が変形することによって、シート内の空隙がさらに低減されると考えられる。理論によって限定する意図はないが、扁平状粒子は、例えば球状粒子と比較して、変形しやすい場合があると考えられる。特には、絶縁性粒子が、絶縁性粒子100体積%に対して50体積%以上の扁平状粒子、特に窒化ホウ素粒子を含んでいることが好ましい。絶縁性粒子100体積%あたりの扁平状粒子、特に窒化ホウ素粒子は、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上、さらにより好ましくは80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上である。
【0132】
本開示に係る絶縁熱伝導シートの製造方法の別の実施態様では、絶縁性粒子が、扁平状粒子を含んでおり、かつ、スラリーが、絶縁性粒子及びバインダー樹脂の合計100体積部に対して、75~97体積部の絶縁性粒子及び3~25体積部のバインダー樹脂を含んでいる。このようなスラリーから形成される絶縁熱伝導シート前駆体に対してロールプレスを行った場合には、扁平状粒子の変形がより促進されることによって、絶縁熱伝導シートの空隙がさらに低減すると考えられる。理論によって限定する意図はないが、絶縁熱伝導シート前駆体における絶縁性粒子の含有率が比較的高い場合には、絶縁性粒子間の距離が比較的近いことに起因して、ロールプレスの際に絶縁性粒子間に及ぼされるせん断応力が比較的高くなり、結果として絶縁性粒子の変形が促進されると考えられる。そして、扁平状の絶縁性粒子が、シート内における隙間を埋めるように変形することによって、シート内における空隙率がさらに低減されると考えられる。
【0133】
〈積層工程〉
本開示に係る放熱シートの製造方法に係る積層工程では、少なくとも2つの絶縁熱伝導シートを積層して、積層体を得る。
【0134】
積層工程は、絶縁熱伝導シートを厚み方向に、複数枚、積層することによって行ってよく、例えば、適当なサイズに切断された複数の絶縁熱伝導シートを積層することによって積層体を得てよい。
【0135】
また、積層工程は、絶縁熱伝導シートを折畳又は捲回することによって行ってよく、例えば、板材に絶縁熱伝導シートを巻き付けて第一層を構成し、さらにそのうえに新たな一層を巻き付けて第二層を構成することを、所望の層数になるまで繰り返すことで、絶縁熱伝導シートの積層体を得てよい。さらに、このようにして得られる積層体を複数作製し、かつそれらを積層することによって、積層体を作製してもよい。
【0136】
積層工程では、絶縁熱伝導シートを積層した後に、熱処理をさらに行ってよい。熱処理をさらに行うことによって、得られる積層体における絶縁熱伝導シートそれぞれの間の密着性がさらに向上する。熱処理の温度は、絶縁熱伝導シートに含有されるバインダー樹脂の種類等に応じて適宜設定してよいが、絶縁熱伝導シート間の融着が促進される温度であることが好ましい。
【0137】
積層工程では、絶縁熱伝導シートを積層する際に、絶縁熱伝導シート上に溶剤を適用してよい。溶剤を適用して、絶縁熱伝導シートを構成するバインダー樹脂の一部を溶解させることによって、隣り合う絶縁熱伝導シートの間の密着性をさらに向上させることができる。この場合、溶剤としては特に制限されず、絶縁熱伝導シートに含まれるバインダー樹脂の種類などに応じて、公知のものを使用することができる。
【0138】
(絶縁接着物質)
積層工程では、絶縁熱伝導シートを積層する際に、それぞれの絶縁熱伝導シートの間に、絶縁接着物質を配置してよい。
【0139】
積層工程では、例えば、絶縁熱伝導シートを積層する際に、それぞれの絶縁熱伝導シートの間に絶縁接着物質を配置し、それにより、絶縁伝導層と絶縁接着層が交互に配置されている積層体を得てよい。
【0140】
絶縁接着物質の配置を伴う場合、積層工程は、例えば、絶縁接着物質を、塗布又は貼り付けなどによって絶縁熱伝導シートの表面に配置し、そして、その上に絶縁熱伝導シートを重ねるという操作を繰り返すことによって、積層を行ってよい。
【0141】
あるいは、板材に絶縁熱伝導シートを巻き付けて第一層を構成し、その上に絶縁接着層を構成する物質を塗布又は貼り合わせ、さらにその上に絶縁熱伝導シートを巻き付けて第二層を構成することを、所望の層数になるまで繰り返すことで、積層工程を行ってもよい。
【0142】
絶縁接着物質は、液状、粉末状、又はシート状など任意の形態であってよい。絶縁熱伝導シートへの絶縁接着物質の配置は、塗布、貼り付け、スプレーなどの任意の方法で行ってよく、例えば絶縁接着物質を層状に塗布、又はスプレーしてよい。絶縁接着物質を適当な溶媒に溶解させて、塗布などを行うこともできる。その場合、溶媒は、絶縁接着物質の種類などに応じて適切なものを選択することができ、好ましくはヘキサンを使用してよい。
【0143】
絶縁接着物質については、上述の絶縁接着層についての記載を参照することができる。
【0144】
(プレス)
積層工程では、少なくとも2つの絶縁熱伝導シート及び随意の絶縁接着物質を有する積層体に対して、プレス処理を行うことができる。
【0145】
プレス処理を行う様式は、特に限定されず、例えば熱プレスであってよい。熱プレスとしては、例えば、真空加熱プレス機を用いた真空熱プレスを挙げることができる。熱プレスの温度は、絶縁悦伝導シートを構成するバインダー樹脂及び随意の絶縁接着物質に応じて適宜選択することができる。熱プレスは、例えば、真空条件(例えば0~10Pa)で行ってよく、100℃~300℃の温度条件下で行ってよく、かつ、1分間から10時間にわたって行ってよい。熱プレスは、例えば、0.1~1000MPa、0.2~500MPa、0.5~250MPa、1~100MPa、2~50MPa、又は5~25MPaの加圧条件で行ってよい。
【0146】
〈スライス工程〉
本開示に係る放熱シートの製造方法に係るスライス工程では、絶縁熱伝導シートの略積層方向に沿って、積層体をスライスして、放熱シートを得る。
【0147】
スライス処理は、スライスによって得られる放熱シートの厚み方向と、放熱シートを構成する絶縁熱伝導シートの積層方向とが、実質的に直交するように行う。
【0148】
スライス処理は、公知の方法で行ってよく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法、固定砥粒ワイヤーソー法、遊離砥粒ワイヤーソー法等によって行ってよい。また、スライス処理は、例えば、鋭利な刃を備えたカッターナイフ、剃刀、トムソン刃、などの一般的な刃物若しくは切断具又は切断加工機を用いて行うことができる。鋭利な刃を備えた切断具等や固定砥粒ワイヤーソー等を用いることによって、スライス処理後に得られる放熱シートの表面近傍の粒子配向の乱れを抑制することができ、かつ、比較的厚みの薄い放熱シートを容易に得ることができる。
【0149】
スライス処理によって得られる放熱シートの厚みは、特に制限されないが、例えば、0.1~20mm、好ましくは0.5~5mmである。
【実施例
【0150】
以下、本開示に係る発明を、実施例により具体的に説明する。
【0151】
測定は、以下の方法により行った。
【0152】
(1)熱伝導率
放熱シートの厚み方向の熱伝導率、および絶縁熱伝導シートの面内方向の熱伝導率は、それぞれについて熱拡散率、比重及び比熱を全て乗じて算出した。
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
放熱シートの厚み方向の熱拡散率は、温度波分析法により求めた。測定装置には、アイフェイズ製ai-Phase mobile M3 type1を用いた。絶縁熱伝導シートの面内方向の熱拡散率は周期加熱放射測温法により求めた。測定装置には、アドバンス理工製LaserPITを用いた。比熱は、示差走査熱量計(TA Instruments製DSCQ10)を用いて求めた。比重は、放熱シート及び絶縁熱伝導シートの外寸法及び重量から求めた。
【0153】
(2)絶縁破壊電圧
絶縁シートの絶縁破壊電圧は、試験規格ASTM D 149に準拠して測定した。測定装置には、東京変圧器社製の絶縁耐力試験装置を用いた。
【0154】
(3)平均粒径、アスペクト比
窒化ホウ素粒子の平均粒径はレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製MT3000)を用いて、測定時間10秒、測定回数1回で測定し、体積分布におけるD50値を取得した。窒化ホウ素粒子のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製TM3000形Miniscope)を用いて、倍率1500倍で粒子の長径と厚みを計測し、計算により求めた。
【0155】
《実施例1》
〈放熱シートの製造〉
(絶縁熱伝導シートの製造)
1-メチル-2-ピロリドン450体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」10体積部が溶解した状態で、板状窒化ホウ素粒子「PT110」(Momentive社製、平均粒径45μm、アスペクト比35)90体積部を加えて、80℃に加熱しながらスリーワンモーター撹拌機で60分間攪拌することで混合を行い、均一なスラリーを得た。
【0156】
得られたスラリーを、クリアランス0.35mmのバーコーターを用いてガラス板上に塗布してシート状に賦形し、70℃で1時間乾燥させた。その後、賦形されたスラリーを水中でガラス板から剥離した後に、100℃で1時間乾燥して、厚さ120μmの絶縁熱伝導シート前駆体を得た。得られた絶縁熱伝導シート前駆体に、温度270℃、線圧4000N/cmの条件でカレンダーロール機による圧縮処理を施して、厚さ55μmの絶縁熱伝導シートを得た。この絶縁熱伝導シートの面内方向の熱伝導率は、40W/(m・K)であった。
【0157】
(積層)
作製した絶縁熱伝導シートを、縦20mm×横20mmに切断した。この絶縁熱伝導シートと、絶縁接着層としてスチレンブタジエンゴム(SBR)が溶解したイソヘキサンとシクロヘキサンの混合液をスプレー塗布した層とを、交互に積層した。絶縁熱伝導シートを合計400枚積層することで、厚み28mmの積層体が得られた。絶縁接着層の厚さは平均15μmであった。
【0158】
(切断)
作製した積層体を、絶縁熱伝導シートの主たる表面に対して実質的に垂直に、剃刀の刃で1mm間隔に2回切断することで、縦28mm×横20mm×厚み1mmの放熱シートを得た。
【0159】
(測定)
得られた放熱シートの厚み方向の熱伝導率は34W/(m・K)、絶縁破壊電圧は12kVであった。
【0160】
《実施例2》
〈放熱シートの製造〉
(絶縁熱伝導シートの製造)
1-メチル-2-ピロリドン450体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」14体積部が溶解した状態で、板状窒化ホウ素粒子「HSP」(Dandong Chemical Engineering Institute Co.製、平均粒径40μm)86体積部を加えて、80℃に加熱しながらスリーワンモーター撹拌機で60分間攪拌することで混合を行い、均一なスラリーを得た。
【0161】
得られたスラリーを、クリアランス0.35mmのバーコーターを用いてガラス板上に塗布してシート状に賦形し、70℃で1時間乾燥させた。その後、賦形されたスラリーを水中でガラス板から剥離した後に、100℃で1時間乾燥して、厚さ120μmの絶縁熱伝導シート前駆体を得た。得られた絶縁熱伝導シート前駆体に、温度220℃、線圧6000N/cmの条件でカレンダーロール機による圧縮処理を施して、厚さ50μmの絶縁熱伝導シートを得た。この絶縁熱伝導シートの面内方向の熱伝導率は、50W/(m・K)であった。
【0162】
(積層)
作製した絶縁熱伝導シートを、縦100mm×横100mmに切断した。この絶縁熱伝導シートと、絶縁接着層としてフィルム状ホットメルト型接着剤「G-13」(倉敷紡績株式会社製、ポリエステル系、厚さ30μm)とを交互に100組(200枚)積層した。積層後、真空熱プレス機を用いて温度155℃、圧力3MPa、真空度2kPaで5分間保持することで厚み8mmの積層体が得られた。
【0163】
(切断)
作製した積層体を、絶縁熱伝導シートの主たる表面に対して実質的に垂直に、剃刀の刃で1mm間隔に2回切断することで、縦100mm×横8mm×厚み1mmの放熱シートを得た。
【0164】
(測定)
得られた放熱シートの厚み方向の熱伝導率は31W/(m・K)であった。
【0165】
≪参考例1~5、参考比較例1~2≫
参考例1~4に係る絶縁熱伝導シート、参考比較例1~2に係る絶縁熱伝導シート、及び参考例5に係る絶縁熱伝導シート前駆体を作製した。得られた絶縁熱伝導シート及び絶縁熱伝導シート前駆体の特性を測定した。測定は、以下の方法により行った。
【0166】
(1)熱伝導率
熱伝導率は、厚み方向と面内方向それぞれについて熱拡散率、比重及び比熱を全て乗じて算出した。
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(比重)
厚み方向の熱拡散率は、温度波分析法により求めた。測定装置には、アイフェイズ製ai-Phase mobile M3 type1を用いた。面内方向の熱拡散率は光交流法により求めた。測定装置には、アドバンス理工製LaserPITを用いた。比熱は、示差走査熱量計(TA Instruments製DSCQ10)を用いて求めた。比重は、絶縁シートの外寸法及び重量から求めた。
【0167】
(2)絶縁破壊電圧
絶縁破壊電圧は、試験規格ASTM D149に準拠して測定した。測定装置には、東京変圧器社製の絶縁耐力試験装置を用いた。
【0168】
(3)平均粒径、アスペクト比
(i)平均粒径としては、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製MT3000)を用いて、測定時間10秒、測定回数1回で測定を行い、体積分布におけるD50値を取得した。
(ii)アスペクト比は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製TM3000形Miniscope)を用いて、倍率1500倍で粒子の長径と厚みを測定し、計算により求めた。
【0169】
(嵩密度)
嵩密度は、絶縁熱伝導シートを50mm角に切り出して、精密電子天秤を用いて質量を、マイクロメータで厚みを、ノギスでシート面積を測定し、計算により求めた。
【0170】
(空隙率(面積%))
空隙率は、面方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって3000倍で観察し、得られた断面画像の一定面積に存在する空隙の面積から、算出した。
【0171】
(配向度)
窒化ホウ素粒子の配向度は、絶縁シートの主たる面を測定面として、透過X線回折(XRD、リガク製NANO―Viewer)のピーク強度比によって評価した。窒化ホウ素結晶のc軸(厚み)方向に対応する(002)ピーク強度I(002)と、a軸(平面)に対応する(100)ピーク強度I(100)を用いて次の式で配向度を定義した。
(窒化ホウ素粒子の配向度)=I(002)/I(100)
配向度の値が低いほど、窒化ホウ素粒子がシート面内と同一方向に配向していることになる。
【0172】
(比誘電率)
絶縁熱伝導シートの1GHzにおける比誘電率は、摂動方式試料穴閉鎖形空洞共振器法を用いてネットワークアナライザ(キーコム製E8361A)によって測定した。
【0173】
〈参考例1〉
1-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬株式会社製)350体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」(帝人株式会社製コポリパラフェニレン・3,4‘-ジフェニルエーテルテレフタルアミド)5体積部、溶解樹脂の安定化剤としての無水塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)2体積部が溶解した状態で、絶縁性粒子としての鱗片状窒化ホウ素粒子「HSL」(Dandong Chemical Engineering Institute Co.製、平均粒径30μm)95体積部を加えて、自転・公転ミキサーで10分間撹拌することで混合し、スラリーを得た。得られたスラリーをクリアランス0.14mmのバーコーターを用いてガラス板上に塗布して賦形し、かつ115℃で20分間乾燥させた。その後、イオン交換水に1時間浸漬・脱塩した後に、シート状に賦形されたスラリーを水中でガラス板から剥離した。剥離したシートを、100℃で30分間乾燥して、厚さ100μmの絶縁熱伝導シート前駆体を得た。得られた絶縁熱伝導シート前駆体に、温度280℃、線圧4000N/cmの条件でカレンダーロール機による圧縮処理を施して、厚さ37μmの柔軟な絶縁熱伝導シートを得た(参考例1の絶縁熱伝導シート)。
【0174】
〈参考例2〉
アラミド樹脂を8体積部とし、かつ鱗片状窒化ホウ素粒子を92体積部としたこと以外は、参考例1と同様にして、厚さ27μmの絶縁熱伝導シートを得た(参考例2の絶縁熱伝導シート)。
【0175】
〈参考例3〉
1-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業株式会社製)450体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」10体積部が溶解した状態で、絶縁性粒子としての鱗片状窒化ホウ素粒子「PT110」(Momentive社製、平均粒径45μm、アスペクト比35)90体積部を加えて、80℃に加熱しながらスリーワンモーター撹拌機で60分間攪拌することで混合を行い、均一なスラリーを得た。
【0176】
得られたスラリーを、クリアランス0.28mmのバーコーターを用いてガラス板上に塗布してシート状に賦形し、70℃で1時間乾燥させた。その後、賦形されたスラリーを水中でガラス板から剥離した後に、100℃で1時間乾燥して、厚さ100μmの絶縁熱伝導シート前駆体を得た。得られた絶縁熱伝導シート前駆体に、温度270℃、線圧4000N/cmの条件でカレンダーロール機による圧縮処理を施して、厚さ48μmの絶縁熱伝導シートを得た(参考例3の絶縁熱伝導シート)。
【0177】
〈参考例4〉
アラミド樹脂を20体積部とし、かつ鱗片状窒化ホウ素粒子を80体積部としたこと以外は、参考例1と同様にして、厚さ25μmの絶縁熱伝導シートを得た(参考例4の絶縁熱伝導シート)。
【0178】
〈参考比較例1〉
アラミド樹脂を8体積部とし、かつ鱗片状窒化ホウ素粒子を92体積部としたこと以外は、参考例1と同様の手法で作製した厚さ100μmの絶縁熱伝導シート前駆体を、真空縦型加熱プレス機によって、280℃、5Paの真空雰囲気下、5トンの荷重(20MPa)で、2分間(プレス開始後に昇温40分間、保持2分間、降温70分間)、熱プレスすることにより、厚さ42μmの絶縁熱伝導シートを得た(参考比較例1の絶縁熱伝導シート)。
【0179】
〈参考比較例2〉
アラミド樹脂を30体積部とし、かつ鱗片状窒化ホウ素粒子を70体積部としたこと以外は、参考例1と同様にして、厚さ26μmの絶縁熱伝導シートを得た(参考比較例2の絶縁熱伝導シート)。
【0180】
〈参考例5〉
アラミド樹脂を8体積部とし、かつ鱗片状窒化ホウ素粒子を92体積部としたこと以外は、参考例1と同様にして100℃で30分間の乾燥まで実施して、厚さ100μmの絶縁熱伝導シート前駆体を得た(参考例5の絶縁熱伝導シート前駆体)。
【0181】
≪特性評価≫
参考例1~4、参考比較例1~2、及び参考例5について行った測定結果を、表1に示す。なお、参考例5については、空隙が大きいため面方向に垂直な断面を規定することができず、断面における評価を行うことができなかった。そのため、参考例5の絶縁性粒子、バインダー樹脂、及び空隙率の面積%は「計測不可」としている。
【0182】
【表1】
【0183】
表1で見られるように、面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有する参考例1~4の絶縁熱伝導シートでは、面内方向における比較的高い熱伝導率が見られた。なお、上記のとおり、バインダー樹脂及び絶縁性粒子の面積%は、それぞれ、それらの体積部に実質的に対応しており、表1では、このようにして推定した面積%を「()」で示している。
【0184】
なお、参考例2は、絶縁性粒子の含有率に関しては参考例1よりも値が低いにもかかわらず、面内方向における特に高い熱伝導率を示した。このような結果が得られた理由の1つとしては、参考例2では、参考例1よりも空隙率が低減されていたことが挙げられる。
【0185】
ロールプレス処理の代わりに真空熱プレス処理を行った参考比較例1の絶縁熱伝導シートは、面方向に垂直な断面全体について75~97面積%の絶縁性粒子及び3~25面積%のバインダー樹脂を含有する一方で、空隙率が10面積%超であり、面内方向における比較的低い熱伝導率が見られた。
【0186】
また、絶縁性粒子が75面積%未満であり、かつバインダー樹脂が25面積%超である参考比較例2の絶縁熱伝導シートでも、面内方向における比較的低い熱伝導率が見られた。
【0187】
≪SEM観察≫
参考例1~4、参考比較例1~2、及び参考例5の絶縁熱伝導シートについて、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。
【0188】
図5図8は、それぞれ、参考例1~4の絶縁熱伝導シートの、面方向に垂直な断面のSEM写真を示す。図5図8で見られるように、参考例1~4の絶縁熱伝導シートでは、扁平状の窒化ホウ素粒子がシート内の隙間を埋めるように変形しており、例えば、真空熱プレスを行った参考比較例1の場合(図10)と比較して、空隙が比較的小さい。
【0189】
図9は、参考例5に係る絶縁熱伝導シート前駆体の、面方向に垂直な断面のSEM画像を示す。図9で見られるように、加圧処理を行っていない絶縁熱伝導シート前駆体である参考例5のシートは、空隙が比較的大きく、絶縁性粒子の充填度が比較的低い。また、扁平状の絶縁性粒子の変形は観察されなかった。
【0190】
図10は、参考比較例1に係るシートの、面方向に垂直な断面のSEM画像を示す。図10で見られるように、加圧処理の際にロールプレス処理ではなく真空加熱プレスを行った参考比較例1のシートでは、加圧処理を行っていない参考例5と比較して空隙が低減されているものの、扁平状である窒化ホウ素粒子の立体障害に起因して、絶縁熱伝導シート内に空隙が比較的多く残存していた。また、図10で見られるように、参考比較例1の絶縁熱伝導シートでは、扁平状の絶縁性粒子がある程度変形しているものの、変形の度合いが十分ではなく、粒子間の隙間を埋めるには至っていなかった。
【0191】
図11は、参考比較例2に係るシートの、面方向に垂直な断面のSEM画像を示す。図11で見られるように、絶縁性粒子が75面積%未満でありかつバインダー樹脂が25面積%超である参考比較例2のシートでは、バインダー樹脂の含有率が比較的大きいことに起因して、絶縁性粒子間の距離が比較的大きくなっていた。
【0192】
≪参考例6及び参考比較例3≫
次に、絶縁性粒子として窒化ホウ素粒子に加えて表面絶縁化金属シリコン粒子を含み、かつバインダー樹脂としてアラミド樹脂「コーネックス」(帝人株式会社製ポリメタフェニレンイソフタルアミド)を用いた場合について調べた。参考例6及び参考比較例3に係る絶縁熱伝導シートを作製し、物性等を評価した。
【0193】
〈参考例6〉
1-メチル-2-ピロリドン130体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「コーネックス」20体積部が溶解した状態で、絶縁性粒子としての鱗片状窒化ホウ素粒子「PT110」60体積部及び熱酸化法(大気中、900℃、1時間)によって表面を絶縁化した金属シリコン粒子「♯350」(キンセイマテック株式会社製、平均粒径15μm、アスペクト比1)20体積部を加えた点、クリアランス0.40mmのバーコーターを用いた点以外は参考例3と同様にして、絶縁熱伝導シートを作製し、厚さ56μmの絶縁熱伝導シートを得た(参考例6の絶縁熱伝導シート)。
【0194】
〈参考比較例3〉
1-メチル-2-ピロリドン520体積部に、バインダー樹脂としてのアラミド樹脂「テクノーラ」40体積部が溶解した状態で、絶縁性粒子としての窒化ホウ素粒子「PT110」60体積部を加えた点、クリアランス0.80mmのバーコーターを用いた点以外は参考例3と同様にして絶縁熱伝導シートを作製し、厚さ50μmの絶縁熱伝導シートを得た(参考比較例3の絶縁熱伝導シート)。
【0195】
参考例6及び参考比較例3について行った測定結果を表2に示す。
【0196】
【表2】
【0197】
表2で見られるように、面方向に垂直な断面全体について、75~97面積%の絶縁性粒子、3~25面積%のバインダー樹脂、及び10面積%以下の空隙を含有する参考例6の絶縁熱伝導シートでは、絶縁性粒子が75面積%未満でありかつバインダー樹脂が25面積%超である参考比較例3の絶縁熱伝導シートと比較して、面内方向における比較的高い熱伝導率が見られた。参考例6の絶縁熱伝導シートは、窒化ホウ素粒子の他に金属シリコン粒子を含有しているので、参考例4対比、厚み方向の熱伝導率が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明の放熱シートは、電子・電気機器の発熱部材の絶縁放熱部材として、例えば半導体の熱を冷却材や筐体に逃がすための絶縁放熱部材として、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0199】
10 放熱シート
21,31,41 絶縁性粒子
22,32,42 バインダー樹脂
23,33,43 空隙
A、A′、X 絶縁熱伝導層
B 絶縁接着層
D 放熱シートの厚み方向
S 放熱シートの面方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11