(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】磁気相互作用を用いたキラル化合物の分離システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20230228BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
G01N30/02 L
G01N30/88 W
(21)【出願番号】P 2020511819
(86)(22)【出願日】2018-08-26
(86)【国際出願番号】 IL2018050942
(87)【国際公開番号】W WO2019043693
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-04-16
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(32)【優先日】2018-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500018608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science,PO Box 95,7610002 Rehovot,Israel
(73)【特許権者】
【識別番号】523025090
【氏名又は名称】ヨセフ パルティエル
【氏名又は名称原語表記】Yossef PALTIEL
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ナーマン,ロン
(72)【発明者】
【氏名】カプア,エヤル
(72)【発明者】
【氏名】ラハフ,メイア
(72)【発明者】
【氏名】タシナリ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】パルティエル,ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】ヨケリス,シラ
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-526607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0099238(US,A1)
【文献】国際公開第2004/109271(WO,A1)
【文献】特開2005-195409(JP,A)
【文献】特開平07-232097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
B01D 15/00 -15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラル化合物の対応するエナンチオマーへの分離に使用するシステムであって、
(a)1または複数の種類のキラル分子を含む流体混合物を収容するように構成されたキャビティと、
(b)流体混合物との少なくとも1の表面界面を提供する少なくとも1の強磁性または常磁性基板とを備え、
前記少なくとも1の強磁性または常磁性基板が外部磁化されて、前記少なくとも1の表面界面の表面に対して垂直な磁化方向を提供し、それにより異なるエナンチオマーと前記表面との間のスピン交換相互作用エネルギーの変化をもたらして、それらの間の相互作用特性を変化させ、
前記キラル化合物が、そのエナンチオマーの流速に基づいて分離され、前記流速が、前記強磁性または常磁性基板の表面との相互作用の変化による影響を受け、前記相互作用が、前記少なくとも1の表面へのキラル分子の一時的吸着によって形成されるスピン偏極に関連付けられていることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項
1に記載のシステムにおいて、前記キャビティが、少なくとも第1領域および第2領域を含み、前記少なくとも1の強磁性または常磁性基板が、第1表面および第2表面の界面に対して垂直な反対方向の磁化を有する第1表面および第2表面を有し、前記キャビティが、それにより、前記第1領域および第2領域において、キラル分子の2つの異なるエナンチオマーの結晶化を個別に可能にすることを特徴とするシステム。
【請求項3】
キラル分子を対応するエナンチオマーに分離する方法であって、
少なくとも1種類のキラル分子のエナンチオマーが含まれる混合物を含む流体混合物を提供するステップと、
基板の表面に対して上向きまたは下向きとなる、基板の表面に対して垂直な方向に磁化を有する基板を提供するステップと、
所与の期間、前記基板に混合物を流して、混合物の分子が前記表面と相互作用することを可能にするステップと、
異なるエナンチオマーと前記表面との間のスピン交換相互作用エネルギーの変化をもたらして、それらの間の相互作用特性を変化させるステップと
を備え、それにより、磁気的な影響なく、前記少なくとも1種類のキラル分子のエナンチオマー間の少なくとも部分的な分離を行うことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の方法において、流体混合物を提供するステップが、少なくとも2種類のキラル分子の2つの異なるエナンチオマーを含む流体混合物を提供するステップを備え、基板を提供するステップが、基板の表面に対して上向きまたは下向きとなる、基板の表面に対して垂直な方向に磁化を有する第1表面および第2表面をそれぞれ有する少なくとも第1および第2の基板を提供するステップを備え、前記第1表面および第2表面が、前記第1表面および第2表面の界面に対して垂直な反対方向の磁化を有し、それにより、キラル分子の2つの異なるエナンチオマーの結晶化とキラル分子の分離の連続的な実行とを可能にすることを特徴とする方法。
【請求項5】
キラル分子を分離するためのシステムであって、
物質の流れを通過させるように構成されたカラムを含み、前記カラムが、前記カラムを通る物質の流れと相互作用する磁性界面領域を含む少なくとも1の領域を含み、前記界面領域が、前記界面に対して垂直な方向に外部磁化され、それにより、キラル分子の異なるエナンチオマーと前記界面との間にスピン交換相互作用の吸着エネルギーの変化を導入することを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項
5に記載のシステムにおいて、前記カラムが、第1領域および第2領域の界面に対して垂直な反対方向の磁化を有する少なくとも第1領域および第2領域を含み、それにより、前記第1領域および第2領域において、キラル分子の2つの異なるエナンチオマーの結晶化を個別に可能にすることを特徴とするシステム。
【請求項7】
キラル分子を分離するためのシステムであって、
入口および出口ポートを含む真空チャンバと、1または複数の外部磁化基板とを含み、前記1または複数の外部磁化基板が、前記1または複数の磁化基板からの鏡面反射により、前記入口ポートから前記出口ポートに向けて伝播する粒子の経路を規定するように、位置決めされるとともに向きが設定されており、前記1または複数の外部磁化基板が、前記少なくとも1の外部磁化基板の表面に対して垂直な磁化方向をもたらし、それにより、異なる粒子と前記表面との間のスピン交換相互作用エネルギーの変化をもたらして、それらの間の相互作用特性を変化させることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項
7に記載のシステムにおいて、前記1または複数の外部磁化基板が、前記第1表面および第2表面の界面に対して垂直な反対方向の磁化を有する2以上の外部磁化基板を含み、それにより、キラル分子の2つの異なるエナンチオマーの結晶化を個別に可能にすることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の化合物の分離および選択の分野にあり、特に磁気相互作用を使用するキラル分子化合物の分離に関する。本発明の手法は、結晶、液相または気相を使用する分子の分離に適している可能性がある。
【背景技術】
【0002】
生物学的システムは、特定のキラリティの分子に基づいており、キラル分子の2つのエナンチオマーを分離することは、製薬および化学産業における中心的なプロセスである。キラル分子/化合物の分離は、食品、食品添加物、香水および農薬市場にも関連する場合がある。今日、クロマトグラフ分離プロセスは、主に2つのエナンチオマーと、クロマトグラフの表面に吸着される特定のキラリティを持つ分子との間の異なる相互作用に基づいている。通常、2つのエナンチオマー間の差は小さく、分離に必要なロックとキーの相互作用は弱い。分析クロマトグラフィー技術は、分子が運ばれる移動相と、混合物中の分子が相互作用する、構造体(通常はカラム内のビーズ)に固定された固定相の2つの相間で生じる特異的分配によって分子の混合物を分離する。混合物が充填または注入されて、構造体を通過すると、混合物中の分子が異なる速度で伝播し、その結果として分離する。
【0003】
さらに、分離には通常、いくつかの特定分子の単一または限定された基をそれぞれのエナンチオマーに分離するために、クロマトグラフの固定相に吸着される特定の分子を選択する必要がある。このため、分離が難しく、費用を要する可能性がある。分子の小さな選択のために、個別の特定のカラムが開発されている。キラル中心が分子構造内に埋め込まれているキラル分子が存在しており、よって、それらの分子は共通の概念に従ってそれらのエナンチオマーに分離することができない。さらに、二次構造に応じた、キラル分子の混合物およびタンパク質の分離は、診断用途および医薬品用途に望まれている。
【0004】
別の一般的な方法は、キラル化合物のエナンチオ分離ラセミ混合物に対して開発されており、これは、エナンチオ特異的な結晶化に基づくものである。一般に、結晶化に関する限り、3種類のラセミ体、すなわちコングロメラート、ラセミ化合物および固溶体がある。最初に、2つのエナンチオマーが適切な試薬と相互作用して、ジアステレオマーの新しい複合化合物を形成する。結果として生じる2つのジアステレオマーは、異なる物理化学的特性を持っているため、従来の手法で選択的に結晶化することができる。対応するジアステレオマー塩の形成によるエナンチオマーのこの分離は、ジアステレオマー結晶化と呼ばれる。ジアステレオマー結晶化は比較的単純で低コストであるため、産業上の臨床使用のためにラセミ化合物をエナンチオマーに分離するための好ましい方法の1つとなっている。通常、結晶化法では、ラセミ混合物に1つのエナンチオマーの種晶を添加し、それにより、その結晶化を引き起こす。ジアステレオマー間の実際の分離は大きな課題である。この方法で高純度を達成することは難しく、パラメータの最適化は複雑なプロセスとなる。このため、ジアステレオマー結晶化法は、分子の比較的小さな分画に適用することができる。
【0005】
キラル分子を電界によって電気的に分極すると、電気分極がスピン偏極を伴うことが、最近発見されている。各電気極に不対電子または電子の一部が存在する状態から生じ、そのスピンの向きが分子の特定のキラリティに依存する。さらに、最初に磁化されていない強磁性基板にキラル分子が吸着されると、基板が磁化する傾向があり、磁気双極子の方向が特定のキラリティに依存することが分かっている。すなわち、一方のエナンチオマーは、磁気双極子が上を向いた状態で基板を磁化させ、他方のエナンチオマーは双極子を下に向ける。
【発明の概要】
【0006】
当該技術分野では、キラル分子の分離を可能にする手法が必要とされている。そのような分離は、例えば、キラル分子のエナンチオマーの適切な選択が非常に重要である医薬化合物の生産を含む、様々な化学的および生物学的プロセスで使用され得る。本発明は、磁性基板との相互作用によるキラル化合物の分離のためのシステムおよび方法を提供し、鏡面反射である一般的なキラル分子構造のエナンチオマーの分離、並びに、一般的なキラル分子の分離を可能にする。この手法は、液体または気体などの流体混合物からキラル分子を分離するために、キラル分子内の電荷分極を伴うスピン交換とスピン偏極を利用して、磁性界面との相互作用エネルギーの変化をもたらす。なお、簡略化のために、流体という用語は、個別の分子が真空中の粒子として振る舞う可能性のある低ガス流量を含む液体または気体の説明に関連して本明細書中で使用されることに留意されたい。このため、本明細書中で使用される流体という用語は、液体、気体および/または気相中の分子のビームに関連し、液体または気体という用語は、個別に使用される場合、物質の対応する相に関連する。これに関連して、本明細書中で使用される相互作用エネルギーという用語は、分子と表面との間の結合エネルギー、より具体的には、表面と相互作用した後に分子を脱着するために必要なエネルギーに関する。
【0007】
一般に、異なるキラル分子(例えば、異なるエナンチオマーなど)と磁性基板(磁化されている強磁性または常磁性基板)間の相互作用エネルギーの変化は、様々な相互作用特性の変化をもたらす。これは、相互作用速度、相互作用の時間および相互作用の確率に関連する場合がある。基板との相互作用は、磁性基板に近付くと電荷が再分布するため、キラル分子のスピン分布の変化に関連する。具体的には、分子と強磁性基板の間の相互作用領域で電子が磁性基板のスピンと平行に分極したスピンを持つように、スピンの再分布をもたらす掌性を持つエナンチオマーは、相互作用エネルギーが低く、よって基板との相互作用時間が短くなる。一方で、反対の掌性は逆平行スピンの整列をもたらして、相互作用エネルギーを増加させ、その結果、より高い確率でより長い相互作用時間をもたらす。
【0008】
より具体的には、本手法は、キラル分子における電荷再構成がスピン偏極に伴うものであるという発明者の理解に基づいている。このため、通常は分子相互作用において又は表面に近接したときに発生する電荷分極は、キラル分子構造を透過するスピン選択性と組み合わせて、各電気極に関連付けられた好ましいスピン方向を持つ再分布電子(または電子密度)をもたらす。スピン方向と電気極との間の相関関係は、分子の特定の掌性に依存し、すなわち、各エナンチオマーによって異なることとなる。孤立した分子のスピン偏極効果は一般に短命であり、スピンは短時間で再分布することができる。しかしながら、分子のスピンが強磁性体のスピンと相互作用する場合、スピンはより長い時間固定される場合があり、例えば、相互作用が続く限り、スピンは時間とともに変化しない場合がある。スピン依存相互作用は短距離であり、相互作用する基板への分子の近接性に依存する。
【0009】
反対のキラリティを持つ分子のスピン偏極の違いは、表面に対して垂直(上向きまたは下向き)に向けられた磁化を持つ磁気表面のスピンと分子の相互作用時間などのパラメータを使用した分離を可能にする。一方のエナンチオマーは表面との相互作用が弱く、よって相互作用時間が短くなるが、他方のエナンチオマーは相互作用が強く、よって相互作用時間が長くなる。より具体的には、キラル分子は、長い吸着時間を避けるために表面に沿って流れる間、選択された磁化を有する表面と(例えば、表面上での吸着により)相互作用することができる。異なるエナンチオマーの相互作用時間の違いは、対応するフロー特性に影響を与え、選択されたエナンチオマーを他のものよりも多く収集することを可能にする。代替的には、本手法は、キラル分子のスピン偏極を利用して、ラセミ混合物からの選択されたエナンチオマーの結晶化を促進する。
【0010】
この目的のために、本手法は、1または複数の種類のキラル分子を含む流体(液体または気体)混合物を受け入れるように構成されたキャビティ(チャンバ、チャネル、カラムまたは他の形態)を利用する。キャビティは、流体混合物との強磁性または常磁性界面を有する少なくとも1の基板または表面を含む。少なくとも1の表面は、キラル分子の分離における動作のために磁化されるように構成されている。少なくとも1の表面の磁化は、本明細書中では上向きまたは下向きの磁化方向と呼ばれる、磁界が界面から離れるか又は界面の方を向くときに、通常は、表面により提供される界面に対して垂直な方向となる。
【0011】
いくつかの形態では、1または複数の種類のキラル分子を含む流体混合物が液体混合物である。キャビティは、上向きまたは下向きの磁化方向において界面に対して垂直に磁化された、溶液と少なくとも1の表面/基板との界面の1または複数の領域で特定の接触を維持しながら、カラムを介して選択速度で液体混合物の流れを可能にするカラムとして構成されている。カラム内を流れている間、液体混合物の分子は時々表面に吸着し、通常は短時間後に表面から解放されて、流れとともに進む。異なる掌性の分子間の相互作用エネルギーの変化は、表面との相互作用の時間特性の対応する変化をもたらす。これは、異なるエナンチオマー、または異なるキラリティの分子の吸着速度の変化をもたらし、一方の掌性の分子を反対の掌性の分子に対して相対的に長い時間吸着させ得る。その結果、相互作用エネルギーが高い(相互作用時間がより長い)分子は、相互作用エネルギーが低い(または相互作用時間がより短い)分子と比較して、カラム内でゆっくりと伝播する。このため、この手法では、チャネルを通る流速に基づいてキラル分子を分離することができる。
【0012】
いくつかの他の態様では、流体混合物が気体の形態にある。キャビティ/チャンバは、入口ポート、出口ポート、および上述したように磁化されるように構成された少なくとも1の表面を有する真空チャンバとして構成されている。入口ポートを介して到着し、表面に衝突し、そこから反射する粒子が、出口ポートに向けて導かれるように、少なくとも1の表面は、磁化され、キャビティ内の選択された位置および向きで配置されている。2以上の表面の場合、それら表面は、入口ポートから出口ポートに向かってエナンチオマーガス粒子のカスケード反射および散乱を与えるように配置されている。1または複数の表面が磁化されると、1つのエナンチオマーのキラル分子がより強い相互作用を受け、よって反対のエナンチオマーのキラル分子に対するランダム散乱の確率がより高くなる。より具体的には、表面に長時間吸着する分子は、通常、表面からランダムな方向に放出され、それらの分子が出口ポートへの経路を辿る確率が低下する。一方で、反対の掌性の分子(反対のエナンチオマー)は、相互作用エネルギーが低く、よって表面での相互作用時間が比較的短い(または吸着する可能性が低い)ため、通常は鏡面角で表面から反射され、出口ポートに向けて導かれて収集される。
【0013】
さらにいくつかの追加の態様によれば、流体混合物が、1または複数の種類の分子を含む液体混合物である。流体混合物との磁化界面を提供する少なくとも1の表面は、分子の結晶化のための核形成中心として動作するように構成されている。この手法により、選択された1つの特定のエナンチオマーのキラル分子の結晶化、並びに、アキラル分子から形成されるキラル超分子構造の結晶化が可能になる。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、流体サンプル中に存在するキラル分子/化合物を分離するためのシステムを提供し、このシステムが、
流体サンプルの流れを方向付けるように構成された流路であって、当該流路を通って流体サンプルが流れる、流路と、
少なくとも1の流体入口および少なくとも1の流体出口とを備え、
流路が、強磁性または常磁性物質を含む少なくとも部分で構成されている。
【0015】
少なくとも強磁性または常磁性物質を含む部分は、流体サンプルと強磁性または常磁性物質の表面との間の界面を提供することができる。強磁性または常磁性物質は、界面に対して上向きまたは下向きに、表面に対して垂直な方向に磁化されるようにしてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、システムがさらに、内部に流路を含む第1の基板と、流路を覆う第2の基板とを含み、第1の基板の表面の少なくとも一部または第2の基板の表面の少なくとも一部またはそれらの組合せの少なくとも一部が強磁性または常磁性であり、強磁性または常磁性の表面部分が流路の境界を規定するようになっている。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、流体サンプル中に存在するキラル化合物を分離する方法を提供し、この方法が、
・キラル化合物を含む流体サンプルを、少なくとも1の入口と少なくとも1の出口を持つ流路に導入するステップであって、流路が、強磁性または常磁性物質を含む少なくとも部分で構成される、ステップと、
・予め設定された時間に、出口から溶出した化合物を収集するステップとを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明は、流体サンプル中に存在するキラル化合物を分離する方法を提供し、この方法が、
システムを提供するステップであって、システムが、少なくとも1の入口および少なくとも1の出口を有する流路を含む第1の基板と、流路を覆う第2の基板とを備え、第1の基板の表面の少なくとも一部、第2の基板の表面の少なくとも一部またはそれらの組合せの少なくとも一部が強磁性または常磁性物質を含み、強磁性または常磁性の表面部分が流路の境界を規定する、ステップと、
入口を介して流体サンプルを流路に導入するステップと、
出口から溶出化合物を予め設定された時間に収集するステップとを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、流体サンプル中に存在するキラル化合物を分離する方法を提供し、この方法が、
強磁性粒子または常磁性粒子を含む(例えば、充填した)流路を含むシステムを提供するステップであって、流路が、少なくとも1の入口および少なくとも1の出口を含み、粒子が、
粒子の磁気双極子の一方の極のみがコーティングされ、他方が溶液に曝されるように、有機キラル分子のエナンチオマーで部分的にコーティングされるか、または
非磁性物質で部分的にコーティングされ、一方の磁極が非磁性物質でコーティングされ、他方の磁極が溶液に曝されるか、または
ネット状基板に吸着されて、ネット状基板を通る流れを可能にし、さらに磁化される、ステップと、
入口を介して、キラル化合物を含む流体サンプルを流路に導入するステップと、
出口から溶出化合物を予め設定された時間に収集するステップとを含む。
【0020】
いくつかの他の実施形態では、非磁性物質による粒子のコーティングが、流路の外側で実行されるようにしてもよい。いくつかの他の実施形態では、有機キラル分子のエナンチオマーによる粒子のコーティングが、本発明のシステムの流路を通るエナンチオマーの流れによって実行される。いくつかの他の実施形態では、粒子が部分的または完全にコーティングされ、一面が露出するように洗浄される。更なる追加の実施形態では、粒子が常磁性である場合、磁界が流路に沿って印加され、それにより粒子のスピンを整列させる。
【0021】
いくつかの追加の実施形態によれば、システムはカラムチャネルの形態であってもよく、このカラムは、流れ方向に対して垂直に配置されたネットまたはネット状基板またはグリッド基板のアレイを含み、基板が、ネット/グリッド上に配置された常磁性または強磁性膜、または基板に付着した複数の強磁性または常磁性粒子を含む。キラル分子を運ぶ流体がカラムに通され、それにより分子がネット/グリッドに保持された粒子の磁化常磁性または強磁性層と相互作用することができる。
【0022】
他の実施形態では、本発明の方法は、キラル化合物の分離を含み、その分離が、少なくとも1のキラル化合物の強磁性または常磁性物質への吸着を含み、それによりキラル化合物の溶出を遅らせて、流体サンプルからキラル化合物を分離する。他の実施形態では、吸着が、強磁性/常磁性物質とキラル化合物との間のスピン-スピン相互作用の結果である。他の実施形態では、スピン-スピン相互作用が、キラル誘起スピン選択性(CISS)効果の結果として化合物分子内で発生するスピン偏極に基づいている。
【0023】
他の実施形態では、本発明の方法は、キラル化合物の分離を含み、キラル化合物の分離が、エナンチオマー間の分離、キラルおよび非キラル化合物の混合物からのキラル化合物の分離、それらの全体的なキラリティに基づく異なる化合物の分離、不斉炭素を持たないキラル二次構造体間の分離、またはタンパク質の異なる二次構造体間の分離を含む。いくつかの実施形態では、本発明は、キラル構造の結晶化のためのシステム、キラル構造の結晶化を強化するためのシステム、および/またはキラル化合物のエナンチオ選択的結晶化のためのシステムを提供し、これらのシステムが、液体溶液が恒温放置される表面を備え、液体溶液が、エナンチオマーの混合物、またはキラルおよびアキラル化合物の混合物を含み、表面が、強磁性または常磁性物質を含む少なくとも部分で構成され、強磁性または常磁性物質が上または下を向く磁石の双極子により永久に磁化され、または、磁石が表面の近くにあり、磁界が表面に対して上(H+)または下(H-)を指している。
【0024】
いくつかの実施形態では、本発明は、超分子キラリティを誘導するためのシステムを提供し、このシステムが、
アキラル化合物を含む液体溶液が恒温放置される表面を有し、この表面が、強磁性または常磁性物質を含む少なくとも部分で構成され、強磁性物質または常磁性物質が上または下を向く磁石の双極子により永久に磁化されている。永久磁石は表面の近傍にあり、磁界が表面に対して上(H+)または下(H-)を指している。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明は、キラル化合物とアキラル化合物の混合物からキラル化合物を結晶化する方法、ラセミ混合物またはエナンチオマーの混合物からキラル化合物をエナンチオ選択的に結晶化するための方法、エナンチオ選択的結晶化の速度を高める方法を提供し、これらの方法は、
結晶の形成を可能にするのに十分な時間、表面上で液体溶液を恒温放置するステップを含み、液体溶液がキラル化合物を含み、表面が上または下を向く磁石の双極子により磁化され、表面の少なくとも一部が、強磁性または常磁性物質を含み、結晶がキラルである。
【0026】
いくつかの実施形態では、本発明は、アキラル化合物の超分子キラリティを誘導する方法を提供し、この方法が、
超分子構造の形成を可能にするのに十分な時間、表面上でアキラル化合物を含む液体溶液を恒温放置するステップを含み、表面が上または下を向く磁石の双極子により磁化され、表面の少なくとも一部が、強磁性または常磁性物質を含み、超分子構造がキラルである。
【0027】
いくつかの実施形態では、エナンチオマーがラセミ結晶を形成し易いときでも、ラセミ混合物からの結晶化を行ってキラル結晶を生成する。
【0028】
いくつかの実施形態では、液体溶液が、固体状態の超分子キラル構造を形成することができるアキラル化合物を含み、化合物の構成によって、キラル超分子構造がもたらされる。
【0029】
なお、本明細書中で言及される「流路」という用語は、チャネル、表面またはカラムを指すことに留意されたい。さらに、本手法によれば、その少なくとも一部が、強磁性または常磁性物質を含む。本明細書では、強磁性または常磁性物質という用語は、バルク(連続)強磁性または常磁性物質、強磁性または常磁性物質のコーティング層、または複数の粒子状物質を指している。そのような粒子状物質は、肉眼で見えるサイズのものであり、あるいはナノ粒子およびマイクロ粒子も含み得ることに留意すべきである。このため、いくつかの実施形態では、チャネル、表面、チューブまたはカラムの少なくとも一部が、連続/バルク強磁性または常磁性物質であるか、複数の強磁性または常磁性粒子を含む。いくつかの他の実施形態では、バルク強磁性または常磁性物質または複数の強磁性または常磁性粒子が、強磁性または常磁性物質/粒子の酸化を避けるために、Au、Ti導電性半導体、またはそれらの任意の組合せのような非磁性金属の薄層を含む導電層でコーティングされる。他の実施形態では、強磁性粒子または常磁性粒子が、流路内に十分に詰め込まれている。他の実施形態では、強磁性粒子または常磁性粒子が、非磁性物質によって部分的にコーティングされるか、有機分子のエナンチオマーによってコーティングされるか、またはネット状基板に付着する。強磁性物質は、Co、Fe、Ni、Gd、Tb、Dy、Eu、それらの酸化物、それらの合金またはそれらの混合物から選択される物質を含むことができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、第1の基板、第2の基板またはそれらの組合せの少なくとも一部が、非強磁性または非常磁性金属、非強磁性または非常磁性合金、シリコン/SiO2、アルミナまたは有機ポリマーから選択される物質を含む。いくつかの実施形態では、チャネル/流路が、非強磁性/非常磁性金属、非強磁性/非常磁性合金、シリコン/SiO2、アルミナまたは有機ポリマーなどの非常磁性または非強磁性物質に埋め込まれるか、またはそれらと接触する。
【0031】
他の実施形態では、本発明のシステムが、第1の基板と第2の基板を含む。他の実施形態では、第1の基板または第2の基板の非強磁性または非常磁性部分が、非常磁性または非強磁性金属または合金などの導電性物質を含む。
【0032】
いくつかの他の実施形態では、非強磁性または非常磁性金属が、Ti、Zr、Cr、Mn、Fe、Zn、Alまたはそれらの酸化物、またはそれらの任意の組合せまたは合金を含む。別の実施形態では、非強磁性または非常磁性合金が、GaNまたは他の任意の半導体または絶縁体またはそれらの組合せを含む。いくつかの他の実施形態では、シリコンが、シリコン(100)、シリコン(111)またはそれらの任意の組合せを含む。別の実施形態では、有機ポリマーが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)およびポリ塩化ビニル(PVC)またはそれらの任意の組合せを含むことができる。他の実施形態では、強磁性または常磁性部分、および非常磁性または非強磁性金属/合金が、電源に電気的に接続されている。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるシステムまたはチャネルの流路の幾何学的形状が、本発明のシステムを使用してキラル化合物の分離を提供する任意の可能性のある構造を含む。別の実施形態では、幾何学的形状が、蛇行形状、螺旋形状または直線形状から選択される。他の実施形態では、チャネル/流路がフローチューブである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが1cm~10メートルである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが1cm~10cmである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが10cm~50cmである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが1cm~1メートルである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが1cm~2メートルである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが1cm~5メートルである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが10cm~50cmである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが50cm~1メートルである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが1メートル~2メートルである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが2メートル~5メートルである。別の実施形態では、チャネル/流路の長さが5メートル~10メートルである。他の実施形態では、チャネルがマイクロ流体チャネルであるか、またはチャネルの断面を規定する少なくとも1の寸法がマイクロメートル/サブマイクロメートルの範囲にある。
【0034】
いくつかの実施形態では、システムの入口が、チャネル内/表面上の流体の流れの速度を制御する要素に接続するように構成されている。いくつかの実施形態では、本発明のシステムが、チャネルの入口または出口に取り付けられた流量制御ポンプをさらに含む。
【0035】
このように、広範な態様によれば、本発明は、キラル化合物の分離に使用するシステムを提供し、このシステムが、1または複数の種類のキラル分子を含む流体混合物を収容するように構成されたキャビティと、流体混合物との少なくとも1の界面を提供する少なくとも1の強磁性または常磁性基板とを備え、少なくとも1の表面が磁化されて、強磁性または常磁性界面に対して垂直な磁界を提供する。
【0036】
いくつかの実施形態によれば、キャビティは、流体混合物の流れを可能にするカラムの形態であり、少なくとも1の表面が、カラムの1または複数の領域に沿って配置されている。少なくとも1の強磁性または常磁性表面は、カラムの流れ方向に対して垂直なカラムの1または複数の領域に沿って配置されるようにしてもよい。
【0037】
一般に、流体混合物内のキラル分子の流速は、強磁性または常磁性界面との相互作用の変化による影響を受け、相互作用が、キラル分子の少なくとも1の表面への一時的吸着によって形成されるスピン偏極に関連付けられる。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1の強磁性または常磁性基板は、選択された極性界面上の流体混合物との界面を提供する強磁性または常磁性層を含むことができる。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1の強磁性または常磁性基板は、流体混合物との1または複数の対応する界面を提供する1または複数の強磁性または常磁性粒子を含む。1または複数の強磁性または常磁性粒子は、その上の1つの表面に適用される非磁性層を含み、それにより、流体混合物と相互作用する選択された磁極を提供する。粒子は、2以上の粒子にグループで付着することができ、グループの2以上の粒子がその非磁性末端に付着し、それにより効果的に磁性単極粒子を提供する。
【0040】
いくつかの実施形態では、カラムが、粒子をカラム内の定位置に保持するマトリックスを含む。マトリックスは、前記カラム内の流れ方向に対して垂直に配置されたグリッドの形態であってもよい。本明細書に記載されるように成形されて、グリッド上に位置する強磁性または常磁性粒子は、カラムを通る流れに対して向けられた強磁性または常磁性層と位置合わせされるようにしてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、1または複数の強磁性または常磁性基板が1または複数の常磁性基板であり、システムが、キャビティに磁界を印加して1または複数の常磁性基板を磁化する磁界発生器をさらに備える。
【0042】
いくつかの実施形態によれば、カラムが、カラム内に位置する少なくとも1のグリッドセクションを備え、この少なくとも1のグリッドセクションが流体混合物の通過を可能にし、少なくとも1の強磁性または常磁性基板を担持する少なくとも1のグリッドセクションのグリッドが、その表面に対して垂直に磁化され、少なくとも1つのグリッドセクションを通る流れの方向に平行または逆平行に磁化される。
【0043】
いくつかの実施形態によれば、システムが少なくとも第1および第2の電極を含む電極配列をさらに備え、カラムの少なくとも第1および第2の電極が、第1の側および反対の第2の側に位置し、第1および第2の電極が、チャネルにおいて、流れの方向に対して垂直に流体混合物に印加される電界を印加する。電界は、分子の電荷分極を増加させて、分子を整列させることができる。電極配列は、カラムを通る物質の流れに対して垂直に配置された少なくとも第1および第2の電極により構成することができる。少なくとも第1および第2の電極は、その少なくとも一の寸法において異なる寸法であり、それによりキャビティまたはカラム内に電気勾配を提供する。電極配列は、一般に、キャビティの遠位領域と比較して、少なくとも1の強磁性または常磁性基板の近傍でより大きい電界勾配を提供するために、強磁性または常磁性基板の側面に位置する小さい電極で構成されるようにしてもよい。
【0044】
いくつかの他の実施形態によれば、流体混合物がガス状態にあり、キャビティが、注入ポートおよび排出ポートを含む真空チャンバとして構成され、少なくとも1の基板が、注入ポートを介してキャビティ内に注入されるガスの全体としての伝播の方向内に位置する表面を有し、排出ポートへの経路に向かって粒子を反射するように整列される。
【0045】
真空チャンバは、真空チャンバの入口ポートから出口ポートに向かって基板間の鏡面反射によって伝播する分子の経路を規定するように配置された2以上の基板を含むことができる。
【0046】
いくつかの実施形態によれば、システムは、真空チャンバ内に2以上の表面を備えることができ、それら表面が、ガス混合物との強磁性または常磁性の界面を提供する。2以上の表面は、その上に衝突する粒子を排出ポートに向けて反射するためにカスケード順に配置されるようにしてもよい。
【0047】
いくつかの実施形態によれば、キャビティが、チャンバから過剰ガスを除去する真空ポンプに付随するポンピングポートをさらに備えることができる。典型的には、過剰ガスは、1または複数の表面に吸着された後、1または複数の表面からランダムに散乱されたキラル分子を含み得る。
【0048】
いくつかの実施形態によれば、システムは、少なくとも1の表面に対して低い吸着親和性を有する分子の鏡面反射を利用してガスのキラル分子を分離するように構成され、より高い吸着親和性を有する分子が排出ポートから離れるようにチャンバ内に散乱する。
【0049】
いくつかの他の実施形態によれば、キャビティは、流体混合物の選択された分子が少なくとも1の表面との界面で結晶化することを可能にするように構成されている。
【0050】
キャビティは、少なくとも第1および第2の表面を含む少なくとも第1および第2の領域を含むことができ、第1および第2の表面は、第1および第2の表面の界面に対して垂直な反対の磁化を有し、それにより、キャビティは、第1領域と第2領域で別々にキラル分子の2つの異なるエナンチオマーの結晶化を可能にする。いくつかの実施形態によれば、流体混合物を液相または気相から結晶化させることができる。
【0051】
他の広範な態様によれば、本発明は、キラル分子を分離する方法を提供し、この方法が、少なくとも1種類のキラル分子を含む流体混合物を提供するステップと、基板の表面に対して上向きまたは下向きとなる基板の表面に対して垂直な方向に磁化を有する基板を提供するステップと、所与の期間、基板上に混合物を流して、混合物の分子が表面と相互作用することを可能にし、それにより、少なくとも1種類のキラル分子を少なくとも部分的に分離するステップとを含む。少なくとも1種類のキラル分子は、ある種類のキラル分子の異なるエナンチオマーを含むことができる。
【0052】
いくつかの実施形態によれば、流体混合物が、異なる分子構造を有する少なくとも2種類のキラル分子を含むものであってもよい。
【0053】
本方法は、表面に対して垂直な方向に電界を印加し、それによって流体混合物中の分子の電荷分極を増加させるステップをさらに含むことができる。
【0054】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、基板の表面に対して上向きまたは下向きとなる基板の表面に対して垂直な同様の方向に磁化を有する複数の基板を提供するステップと、混合物を基板上に1つずつ流して、1種類のエナンチオマーの分子が基板上で相互作用することを可能にするステップとを含むことができる。
【0055】
本方法は、流体混合物を、基板との界面の少なくとも1の領域を有するチャネルに流すことにより、少なくとも1種類のキラル分子の異なるエナンチオマーの流速を変化させるステップをさらに含むことができる。
【0056】
さらに別の広範な態様によれば、本発明は、キラル分子を分離するためのシステムを提供し、このシステムが、物質の流れを通過させるように構成されたカラムを含み、チャネルが、チャネルを通る物質の流れと相互作用する磁性界面領域を含む少なくとも1の領域を含み、界面領域が、界面に対して垂直な方向に磁化され、それにより、異なるエナンチオマーのキラル分子と界面との間に吸着エネルギーの変化を導入する。
【0057】
いくつかの実施形態によれば、磁性界面領域が、界面に対して垂直な方向に磁化された少なくとも1の磁化層を含む構造化基板を含む。
【0058】
いくつかの実施形態によれば、磁性界面領域は、カラム内の物質の流れとの直接的な界面に導電層を含む。
【0059】
いくつかの実施形態によれば、カラムは、カラムを通る物質の流れに沿って複数の磁性界面領域を含む。
【0060】
いくつかの実施形態によれば、磁性界面領域は、電極配列とさらに関連付けられ、電極配列が、少なくとも第1および第2の電極を備えるとともに、界面領域の近傍に電界を印加するように構成されており、電界が、カラム内の流れに対して垂直に向けられ、界面における磁化方向と実質的に平行または逆平行である。
【0061】
第1の電極は、チャネルに対して磁性界面領域内またはその下に位置してもよく、第2の電極は、チャネルの断面に沿った他端に位置してもよい。第2の電極は、カラムの長さおよび幅の少なくとも一方に関して、第1の電極より大きくてもよい。
【0062】
いくつかの実施形態によれば、磁性界面領域を含む少なくとも1の領域は、その1つの表面上に非磁性層がそれぞれ与えられた1または複数の強磁性粒子または常磁性粒子を含み、それによって流体混合物と相互作用する選択された磁極を提供する。
【0063】
粒子は、グループで2以上の粒子に付着することができ、グループの2以上の粒子が、その非磁性末端に付着し、それによって効果的に磁性単極粒子を提供する。
【0064】
いくつかの実施形態によれば、カラムは、カラム内の定位置に粒子を保持するマトリックスを備えるようにしてもよい。マトリックスは、カラム内の流れの方向に対して垂直に配置されたグリッドの形態であってもよい。グリッド上の粒子は、カラムを通る流れに向けられたその強磁性または常磁性層と整列していてもよい。
【0065】
さらにいくつかの実施形態によれば、カラムは、カラムの断面にわたって配置された1または複数のグリッド要素を備え、1または複数のグリッドセクションは、少なくとも1の磁性界面領域を担持する。
【0066】
1または複数のグリッドセクションは、少なくとも1の磁性界面領域を提供するために、強磁性物質でコーティングされるようにしてもよい。追加的または代替的には、1または複数のグリッドセクションは、複数の磁性粒子を担持することができ、複数の磁性粒子は、その選択された1つの磁気極性で液体混合物と相互作用するように構成される。
【0067】
さらに別の広範な態様によれば、本発明は、キラル分子を分離するためのシステムを提供し、このシステムが、入口および出口ポートを含む真空チャンバと、1または複数の磁化された基板とを含み、1または複数の磁化された基板が、1または複数の磁化された基板からの鏡面反射により、入口ポートから出口ポートに向けて伝播する粒子の経路を規定するように、位置決めされるとともに向きが設定されている。
【0068】
1または複数の磁化された基板は、各基板の主表面に対して垂直に磁化されるようにしてもよく、主表面は、規定された経路に沿って粒子が衝突する表面によって規定される。
【0069】
いくつかの実施形態によれば、1または複数の磁化された基板は、その主表面に対して垂直な方向に磁化された少なくとも1の強磁性層または常磁性層を含む1または複数の構造化基板を含むことができる。
【0070】
いくつかの実施形態によれば、1または複数の磁化基板は、その主表面に与えられた導電層を備えるようにしてもよく、主表面は、規定された経路に沿って粒子が衝突する表面によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
本明細書に開示の主題をよりよく理解し、それが実際に如何にして実行されるかを例示するために、添付の図面を参照しながら、単なる非限定的な例として、実施形態を説明する。
【0072】
【
図1】
図1は、本発明のいくつかの実施形態に係るキラル化合物/分子の分離に使用するシステムを概略的に示している。
【
図2】
図2は、本発明のいくつかの実施形態に係るキラル分子の分離のためのチャネルシステムを示している。
【
図3】
図3は、本発明のいくつかの実施形態に係る、キラル分子の分離のために勾配電界を利用する相互作用領域を示している。
【
図4】
図4A~
図4Cは、本発明のいくつかの実施形態に係る、磁性粒子との界面を提供する手法を示している。
図4Aおよび
図4Bは、選択された磁極との界面を提供するように構成された磁性粒子の例を示している。
図4Cは、本発明のいくつかの実施形態に係る、カラムでの使用に適したグリッドに吸着または配置された磁性粒子を例示している。
【
図5】
図5は、本発明のいくつかの実施形態に係る気相のキラル分子の分離のためのシステムを示している。
【
図6】
図6は、本発明のいくつかの実施形態に係る、結晶化によるキラル分子の分離のためのシステムの追加の態様を示している。
【
図7】
図7A~
図7Dは、磁化表面上のAHPA-Lキラル分子の吸着速度の変化を示す試験結果を示している。
図7Aは、上向きの磁化による2分間の吸着を示している。
図7Bは、下向きの磁化による2分間の吸着を示している。
図7Cは、上向きの磁化による2秒間の吸着を示している。
図7Dは、下向きの磁化による2秒間の吸着を示している。
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、磁石が「上」および「下」を指している状態で、厚さ8nmの金被覆Ni(7nm)上の吸着二本鎖DNAから測定された測定IR蛍光スペクトルを示している。
図8Aは、様々な吸着時間についてのIR蛍光スペクトルを示し、
図8Bは、吸着時間の関数として、620nmでの最大蛍光ピークの高さの変化を示している。
【
図9】
図9A~
図9Eは、上向き(H+)または下向き(H-)の磁気双極子によるMBE成長強磁性表面のAHPA-L吸着を示している。
図9Aは、上向きの磁化による2秒後の吸着を示している。
図9Bは、下向きの磁化による2秒後の吸着を示している。
図9Cは、上向きの磁化による2分後の吸着を示している。
図9Dは、下向きの磁化による2分後の吸着を示している。
図9Eは、
図9A~
図9Dで測定された吸着分子の数を示している。
【
図10】
図10A~
図10Eは、
図9A~
図9Eと同様の強磁性表面上のAHPA-D吸着を示している。
図10Aは、上向き(+3000G)の磁化による1秒後の吸着を示している。
図10Bは、下向き(-3000G)の磁化による1秒後の吸着を示している。
図10Cは、上向き(+3000G)の磁化による10分後の吸着を示している。
図10Dは、下向き(-3000G)の磁化による10分後の吸着を示している。
図10Eは、
図10A~
図10Dに基づくAHPA-D吸着数のヒストグラムを示している。
【
図11】
図11A~
図11Eは、磁化表面のAHPA-L吸着の追加の試験測定を示している。
図11Aは、上向き(+3000G)の磁化による1秒後の吸着を示している。
図11Bは、下向き(-3000G)の磁化によるで1秒後の吸着を示している。
図11Cは、上向き(+3000G)の磁化による2分後の吸着を示している。
図11Dは、下向き(-3000G)の磁化による2分後の吸着を示している。
図11Eは、
図11A~
図11Dの測定で吸着されたAHPA-L分子の数のヒストグラムを示している。
【
図12】
図12Aおよび
図12Bは、異なる分離手法後の溶液中のL-アラニンおよびD-アラニンの円二色性(CD)スペクトルを示している。
図12Aは、本手法のいくつかの実施形態に従って上向き(H+)および下向き(H-)磁化を使用して分離された2つの溶液の測定CDスペクトルを示している。
図12Bは、鏡像異性的に純粋な溶液を提供するために分離手法のステップを繰り返した後のCDスペクトルを示している。
【
図13】
図13は、本発明のいくつかの実施形態に従ってキラル分子の分離された結晶化の画像を示す図である。
【
図15】
図15Aおよび
図15Bは、基板とキャビティとの間に印加される電界を含む、2分間の異なる条件での基板上の吸着LオリゴペプチドのIR吸収の測定値を示している。
図15Aは、選択された磁化および電位測定値を示し、
図15Bは、追加の磁化および電位測定値を示している。
【0073】
なお、説明を簡素かつ明瞭にするために、図面に示される要素は必ずしも縮尺通りに描かれていないことを理解されたい。例えば、いくつかの要素の寸法は、明確化のために他の要素に比べて誇張されている場合がある。さらに、適切と考えられる場合には、対応する要素または類似の要素を示すために、符号を複数の図面にわたって繰り返すことがある。
【発明を実施するための形態】
【0074】
上述したように、本発明は、選択されたエナンチオマーへのキラル分子の分離を可能にする手法を提供する。本手法は、キラル分子の2つのエナンチオマーと、基板の表面に対して垂直に磁化された基板との間の相互作用エネルギーの違いによって生成される相互作用エネルギーの変化を利用する。
図1を参照すると、本手法のいくつかの実施形態に係るキラル分子の分離に使用するためのシステム100が概略的に示されている。システム100は、キャビティ110と、キャビティ110内の流体媒体との適切な界面130を提供する少なくとも1の基板/表面120とを含む。キャビティは、液体伝達真空チャンバ用のカラムとして構成されるか、または流体液体媒体の流れを保持および/または可能にする他の形態となっている。流体は、一般にキャビティ110を通って伝達されるか、選択された時間保持され、1または複数の種類のエナンチオマー50の混合物、例えば、ある種類のキラル分子の異なるエナンチオマーを示すキラル分子50R、50Lを含む。さらに、いくつかの態様では、システムが、2つの電極140A、140Bによって例示される電界生成モジュールも含むことができる。電界生成モジュールは、使用時に、基板120に向けられる電界、または基板からの電界を印加するように構成されている。この電界は、界面130に対する分子の特定のアライメントを提供するとともに、分子の電荷分極を増加させ、かつ、電界に勾配が存在する場合に、表面に向けて分子を方向付けることができる。
【0075】
少なくとも1の表面120は、少なくとも1の強磁性または常磁性物質の層を含み、キャビティ110内の媒体との界面130に対して垂直な方向に磁化されるように構成されている。その物質は、マイクロまたはナノ粒子(サイズ10nm~1mm)などの磁性粒子、または磁性物質の目に見える層を含むことができる。粒子は、流れの方向に磁化するか、または単極として被覆または秩序化された1つの磁極で磁化する。
図1の具体的な例では、表面120が、Bzによって示されるように磁化され、それが界面130に対して上向きまたは下向きとなっている。分子50が界面に近接すると、表面分子相互作用が分子の電気分極(電気双極子)を生成する。分子50のキラル構造は、1つのスピンを有する電荷(例えば、電子)の伝達を反対のスピンよりも優先し、その結果、電荷分極がスピン偏極を伴う。これにより、短時間、界面130に近づく分子50は、表面に近い電気極に関連付けられた電子のスピンを持ち、分子の掌性に応じて、界面130に向かう方向M-または界面130から離れる方向M+に整列する。異なるエナンチオマーの分子のスピン偏極は、磁化表面120との相互作用エネルギーの違いをもたらす。より具体的には、磁化表面(またはその界面130)と分子50の特定の基との相互作用エネルギーは、それらの相対的なスピン偏極に依存する。スピン偏極が磁性基板内のスピン配列と実質的に平行になるように整列している場合、相互作用エネルギーは、スピンが反対の場合よりも低くなる。相互作用エネルギーの変化は、界面130への分子の相互作用時間(および/または吸着速度)の対応する変化をもたらす。
【0076】
本手法は、カイラリティに基づく分子の分離のために、磁化界面130上のキラル分子50の吸着速度のそのような変化を利用する。
図2を参照すると、本発明のいくつかの実施形態に係るキラル分子の分離のためのシステム100の1つの可能性のある態様が示されている。この態様では、キャビティ110が、少なくとも1種類の分子を含む液体媒体の流れを可能にするように構成されたカラムまたはチャネルの形態であり、カラムが入口ポート115および出口ポート(特に図示せず)を有して構成される。カラムは、液体媒体と磁化表面/基板120との間に界面130の少なくとも1の領域を提供するように構成される。カラム110は、界面130で基板120と接触しながら、少なくとも1種類のキラル分子(典型的には、キラル分子の少なくとも2つのエナンチオマー、または少なくとも2の異なるキラル分子)を含む流体混合物の流れを可能にするように構成される。一般に、流体混合物は、ポンプを使用して、または重力によって混合物がチャネルから引き出されるような角度でシステムを配置することにより、カラム110を通って押し出されるものであってもよい。流体混合物がカラム110を通って流れる間、分子は吸着され、対応する速度で界面130から解放される。分子が表面により多く吸着するに連れて、それらの流速がより遅くなるが、反対の掌性の分子はより短い時間吸着し(または吸着せず)、流速がより高くなる。一般的に、吸着速度は相互作用エネルギーと温度に依存する。上述したように、分子のキラリティと表面120の磁化は、異なるエナンチオマーの相互作用エネルギーの変化をもたらし、それが異なるエナンチオマー間の流速の変化に影響を与える。このため、キラル分子を含む流体混合物、例えば2以上のエナンチオマーの混合物または2以上の種類の異なるキラル分子の混合物が、選択された量でカラム110内に導入されると、チャネルを通過する流体の流速に応じて、収集される流体の第1の部分にはより高い濃度の1つのエナンチオマー(または1種類のキラル分子)が含まれ、第2の部分にはより高い濃度の別のエナンチオマーまたは別の種類のキラル分子が含まれる。このプロセスを複数回繰り返して、混合物から望ましい純度の単一のエナンチオマー(または単一種類のキラル分子)を得ることができる。
【0077】
図2に示すシステム100の例示的な態様においては、表面120が、上向きまたは下向きで、界面に対して垂直に磁化された強磁性コバルト(Co)平坦層から形成される。コーティングは、分子線エピタキシー(MBE)または他の任意のコーティング手法を使用して形成することができる。層状構造120は、チャネル110上に配置/載置され、例えば、チャネルは、チャネルの一方の面が層状構造120との直接的な界面を形成するように、非磁性物質、好ましくは非導電性物質の固体基板内でカーブしている。
【0078】
これに関連して、
図2に記載の本手法およびシステムは、ポットスチル蒸留に類似する手法でキラル分子を分離するために使用することができる。より具体的には、本手法は、表面/基板120の磁化が界面130に対して上向きまたは下向きに選択されている間に、混合物を提供し、システム100を通して混合物を送ることにより、1または複数の種類のキラル分子の混合物の分離を与える。上述したように、基板120の磁化は、異なるエナンチオマー(または異なるキラル分子)の吸着速度の差をもたらして、対応する流速の変化を生じさせる。チャネル110を通過した後に流体の選択された部分を収集すると、ある種類の分子の濃度が他の種類よりも高くなる。このプロセスを複数回繰り返すことにより、所望の純度の媒体に到達することができる。
【0079】
一般に、カラム110は、カラム110の1または複数の領域にわたって磁化基板120との界面130に関連付けられる。その1または複数の領域は、カラム110の離間したセグメントの連続界面領域を形成し得る。
【0080】
図3には、追加の態様として、チャネル110および電極配列140A、140Bを含むシステムのセクションが概略的に示されている。電極140A、140Bは、電極140Bが磁化基板120の近傍に位置するように配置され(電極140Bは基板120であっても、基板120から分離されてもよい)、電極140Aは、例えば、カラム110を通る流体混合物50の流れる方向に対して垂直に、より大きな寸法、例えば幅が広くなるように構成されている。この態様は、電界線Eで表される電界の勾配を提供する。電界の勾配は、分子の電気分極(これに応答してスピン偏極を生成する)の少なくとも一方、一般的に両方を引き起こし、分子を磁化基板120に向けて押す。この態様は、マイクロ流体アセンブリと組合せて使用することもでき、それにより、両方のエナンチオマーを含む少量の液体混合物を分離することが可能となる。これにより、キラル分子または異なるエナンチオマー(または異なるキラル分子)と磁化界面130との間の相互作用の差が2~3倍増加する可能性がある。一般に、キラル分子の分離システムは、異なる分子間の流速の変化を増加させるために、チャネルに沿って配置された
図3に例示されるような1または複数のセクションを利用することができる。
【0081】
いくつかの態様では、カラムが、
図2および
図3に例示されるように、液体混合物と強磁性または常磁性基板との界面を提供するように構成されるものであってもよい。いくつかの追加の態様では、本手法が、複数の粒子の形態または液体混合物が流れるグリッドの形態の様々な他の界面構成を利用して、液体混合物との対応する複数の界面を提供するようにしてもよい。これに関連して、
図4A~
図4Cを参照すると、カラム内のキラル分子の分離のための強磁性または常磁性粒子を使用することが例示されている。
図4Aおよび
図4Bは、選択された1つの磁極に関連付けられた界面130を維持するように構成された粒子120を例示している。より具体的には、カラム内の液体混合物と相互作用するように一方の磁極が選択される一方、混合物中の物質との相互作用を最小限に抑えるように反対の磁極が遮蔽される。
【0082】
粒子120は、一般に、その少なくとも1の表面に沿って、非磁性(反磁性)物質124または高い磁化率を有する物質でコーティングされた磁化された強磁性物質122から構成される。コーティングされた表面は、N極またはS極の一方が露出し、反対の極が覆われるように、磁性粒子122の極性に従って選択される。
図4Bの例では、2つのコーティングされた粒子が互いに付着して単極粒子として効果的に機能し、1つの選択された極性の表面のみが露出して液体混合物と相互作用する。一般に、そのような単極粒子は、外部に向けられた選択された極性の表面を維持するために一緒に付着される2、3、4またはそれ以上のコーティングされた粒子によって形成され得る。そのような粒子は、一端の磁性物質層を非磁性物質層でコーティングし、構造体を選択サイズに切断し、様々な断片を付着して選択した極性を提供することにより、生成される。
【0083】
図4Cは、カラム内に磁性粒子120を保持するように構成されたグリッド構造140の使用を例示している。グリッド140は、一般に反磁性物質で作られており、使用されるカラムの内側に合うように形作られている。
図4Cの例では、グリッド140が、
図4Aまたは
図4Bに例示するような磁性粒子120を複数担持している。いくつかの他の構成では、グリッド140は、その一方の側が強磁性層または常磁性層によりコーティングされて、カラム内の液体との磁性界面を提供するようになっている。
【0084】
使用時には、1または複数のグリッド140要素が、グリッド140を通る液体混合物の流れを可能にし、かつ液体混合物中の分子とグリッドまたはそれに付着した粒子120の磁性界面との相互作用を提供するように、カラムとともに配置される。一般に、磁性粒子の使用により、混合物の分子と粒子の選択された界面130との相互作用が可能になり、分子のキラリティと掌性に基づいて、流速の変化に影響を与える。常磁性物質によるグリッド140のコーティングを使用するいくつかの態様では、カラムが磁界環境内で動作して、グリッド140の選択された磁化を提供することができる。
【0085】
本技法のいくつかの他の態様では、この手法が、ガス混合物からのキラル分子の分離に使用される。
図5を参照すると、キラル分子(キラル分子の一般的に異なるエナンチオマー)を気相混合物から分離して混合物のエナンチオマー精製を与えるように構成されたシステム100の追加の態様が例示されている。システム100は、入口ポート115および出口ポート118の各々および真空ポンピングポート112を有する真空チャンバとして構成されたキャビティ110を含む。キャビティは、1または複数の磁性基板120を含み、6つの基板が
図5に例示されている。混合物は、入口ポート115を介して真空チャンバ110内に注入され、分子は各表面120から散乱される。1または複数の表面基板120は、入口ポート115を介して注入される分子500の経路であって、基板120で(通常は鏡面反射により)反射されて、出口ポート118に向けて導かれる経路を提供するように配置される。基板との相互作用が弱いエナンチオマーの場合、散乱はほぼ鏡面であり、すなわち、(表面の法線に対する)出射角θは衝突角-θにほぼ等しい。このため、それらのエナンチオマーは、選択された経路に沿って、更なる衝突のために更なる表面に向かって、そして出口ポート118に向かって反射される。すなわち、吸着速度が遅い(衝突時間が短い)分子500は、表面120から直ちに反射され、出口ポート118に向けて導かれ、出口ポート118で所望のエナンチオマーのタイプ510への分離を与える。より高い吸着速度(長い衝突時間)を有する分子は、時には、表面120の1つに吸着することがあるが、解放されると、解放された分子550の方向はほぼランダムであり、その結果、それら分子はキャビティ110内で他の方向510に伝播し、最終的に真空ポンプ112によって収集される。
【0086】
この態様は、表面に対して上または下を向く磁界により、基板が表面に対して垂直に磁化されたときの、強磁性または常磁性表面からの散乱分子に基づいている。一般に、分子の表面散乱には2つの限界がある。弾性限界では、衝突時間は非常に短く、分子は(鏡面反射と同様に)表面法線に対して反対の符号で同じ角度で表面から反射される。もう1つの限界では、分子と表面の相互作用がより強くなり、表面への分子の吸着により、相対的に長い衝突時間が発生する。この場合、分子の散乱はコサイン形状の角度分布を有し、単一分子は通常ランダムな方向550に散乱する。
【0087】
この効果は、気体分子のビームを入口ポート115から真空チャンバ110内に注入することにより、キラル分子の分離に使用することができる。一般に、ビームの分子はほぼ同じ速度で(最大10%のバラツキで)注入される。分子ビーム500は、キラル分子構造の2つのエナンチオマーの分子を含む。分子ビーム500の分子が表面120と衝突するとき、すべての表面120は、衝突分子との界面に対して同様の方向に磁化された状態となっている。表面120の磁化は、異なるエナンチオマーの分子と表面との相互作用エネルギーの変化を生じさせ、その結果、一方のエナンチオマーの分子の多くが表面で反射され、他方のエナンチオマーの分子が表面120と相互作用し、ランダムなコサイン形状の分布の方向510に散乱する。これにより、一方の選択されたエナンチオマーの分子は、選択された経路510に沿って出口ポートに向けて順次反射され、エナンチオマー純粋組成物のために収集される。一方で、他方のエナンチオマーの分子が他の方向550に散乱され、真空ポンプ112によって収集される。通常、相互作用時間が短いほど、衝突がより弾性的になり、透過率がより高くなる。2つのエナンチオマーは基板との相互作用強度が異なるため、アレイを通る透過率が異なるものとなる。一般に、注入された分子ビームの速度、キャビティ110内の表面120の数、およびビーム幅に対する出口ポート118の相対的なサイズの選択により、本明細書に記載の分離手法の選択性が決まる。いくつかの態様では、分離選択性を改善するために、散乱面120の間に1または複数の追加のスリットを使用することができる。
【0088】
この手法により、キラル分子の分離における連続操作が可能になる。分子が異なる経路に分離されると、一方の掌性のエナンチオマーが出口ポート118を介して収集され、他方の掌性のエナンチオマーが(特定の純度レベルで)真空ポンプ112を介して収集される。分子は気相で導入されるため、
図5に示すシステム100を質量分析計システムと組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0089】
本手法のさらに追加の態様によれば、ラセミ混合物からの選択されたエナンチオマーの選択的結晶化によるキラル分子の分離に使用することができる。再び
図1を参照すると、本手法は、50Rや50Lなどのキラル分子のエナンチオマーを含む流体混合物を提供することを利用している。この手法はさらに、界面130に対して上または下を向く磁化方向Bzを有する磁化表面120の存在、磁性基板120の存在、および上述した異なるエナンチオマー50と基板120との間の相互作用エネルギーの変化の下で、流体混合物およびその中の分子に対する適切な結晶化条件を維持することを含む。界面130の近傍の分子50のこのスピン偏極は、結晶化核の生成のために同じエナンチオマーの分子間の相互作用に優先性を生じさせ、一方のエナンチオマーの他方に対する選択的結晶化を可能にする。
【0090】
一般に、様々な種類のキラル分子がエナンチオマーの純粋な結晶を生成することが知られている一方で、他のキラル分子がラセミ結晶を生成することに留意されたい。本手法によれば、物質が結晶化する混合物との界面130に磁化基板120を提供し、結晶化するエナンチオマーの選択を可能にし、一般にラセミ結晶を提供する分子についても、一方のエナンチオマーの他方に対する選択的結晶化を提供する。
図6を参照すると、結晶化によるキラル分子の分離のための追加の態様が例示されている。この態様では、キラル分子の2つのエナンチオマーの混合物を含む流体混合物がキャビティ110内に保持され、キャビティは少なくとも2つの基板120A、120Bも含み、各々が流体との基板の界面に対して垂直に磁化される。この例では、基板120Aが界面に対して下向きに磁化され、基板120Bが界面に対して上向きに磁化される。混合物はキャビティ110内で結晶化することができ、基板120A、120Bの磁化により促進される相互作用エネルギーの変化により、結晶化核51、52が関連する界面上に形成される。形成された結晶化核は実質的に鏡像異性的に純粋であり、少なくとも60%、好ましくは90%または99%の単一のエナンチオマー分子を含む。
【0091】
本手法の基礎となる特徴およびその有効性は、様々な例示的な試験的態様で発明者によって実証されている。以下の実施例は、本発明の実施形態、並びに、上述した手法に従ってキラル分子の分離を提供するその能力について、より完全に例示するために提示される。
【0092】
実施例1:キラル化合物に対する磁場方向の影響
1nMのL-アルファ・ヘリックスポリアラニン(AHPA-L SH-CAAAAKAAAAKAAAAKAAAAKAAAAKAAAAKAAAAK(配列番号3))を含む溶液を使用して、2nmの金で覆われた強磁性コバルト膜にAHPA-Lを共有結合的に吸着させた。
図7Aおよび
図7Bは、コバルト膜の磁界を上向き(
図7A)および下向き(
図7B)にした状態で、AHPA-Lを2分間吸着させた後の膜の顕微鏡画像を示している。
図6Cおよび
図7Dは、コバルト膜の磁界を上向き(
図7C)および下向き(
図7D)にした状態で、2秒間吸着させた後の膜の顕微鏡画像を示している。なお、SiO
2ナノクリスタル(0.5wt%)がポリアラニンの末端に付着して、単層吸着密度のマーカーとして機能するとともに、視認性を向上させることに留意されたい。
【0093】
吸着時間に基づくAHPA-Lの吸着と、短い吸着時間においてのコバルト膜の磁化の方向に基づくAHPA-Lの吸着との間には明確な違いが見られる。吸着時間を長くしても、膜上の吸着分子の密度に目に見える違いはないことが明確に分かる。しかしながら、
図7Cに示すように磁石が「上向き」にある場合(強磁性表面から離れる方向の正の垂直磁界)の吸着と比較して、
図7Dに示すように磁石が「下向き」の場合(強磁性表面に向かう負の垂直磁界)は、短い吸着時間ではポリアラニン-Lの吸着が良好であった。
図7Cと
図7Dの分子の密度の比(酸化ケイ素の密度で検出)は約1:100である。さらに、下向き磁化による膜のAHPA-Lの吸着(
図6Bおよび
図6D)がほぼ即時であるのに対して、上向き磁化による膜上のAHPA-Lの吸着速度(
図7Aおよび
図7C)が相対的に遅いことが明確に分かる。
【0094】
基板の磁化方向に依存する吸着の動特性をモニタリングするとともに、さらに別の種類のキラル分子を試験するために、発明者等は、色素が付着した二本鎖DNA(dsDNA)分子を使用して、そのニッケル/金表面上の吸着を様々な磁化方向で試験した。蛍光測定では、Cy-3(シアニン)色素をdsDNA(20bp)の3’位置(シトシン)にタグ付けした。リンカーCy-3は、シトシンのリン酸塩(Integrated DNA Technology(IDT)社から購入)を修飾する。使用したdsDNA配列は以下のとおりである。
5-GAC CAC AGA T TC A AAC ATG C/3ThioMC3-D/-3(配列番号1)
5-GCA TGT TTG AAT CTG TGG TC/3’Cy3Sp/-3(配列番号2)
【0095】
分子はNi/Au表面に吸着され、
図8Aは、異なる吸着時間および異なるNi磁化方向についての蛍光の測定値を示している。
図8Bは、時間に沿った異なる磁化についてのピーク波長蛍光の強度を示している。最初の1時間では、2つの磁気方向の吸着速度の比率は1対10であり、従来の分離方法と比較して非常に高い比率を提供した。
【0096】
これらの結果は、磁化基板への異なるエナンチオマーの吸着間の支配的な変化が吸着速度にあることを一貫して示している。分子は、十分な時間を与えれば、それらの具体的な掌性や磁化の方向に関係なく、吸着される。それらの結果は、分子のスピン偏極に関する上記モデルと一致している。具体的には、表面分子相互作用は、スピン依存交換相互作用によって制御される。分子が基板に近付くと、電荷が分極する。上述したように、キラル分子の電荷分極にはスピン偏極が伴う。このため、強磁性基板と分子内の特定の基との相互作用エネルギーは、それらの相対的なスピン偏極に依存する。
【0097】
SAMインキュベーション用のDNA二本鎖溶液を、以下の構造を持つ機能化二本鎖DNA(Integrated DNA Technologies社から購入)を使用して調製した。
5 ’GAC CAC AGA TTC AAA CAT GC-Thiol修飾剤-C3 S-S 3’(配列番号1)および
3’Cy3-CTG GTG TCT AAG TTT GTA CG 5’(配列番号2)
【0098】
溶媒として脱イオン水を使用して、100μMのストック溶液を調製した。100μLのストック溶液を混合して、80μLのリン酸緩衝液1M(pH7.2)溶液および20μLの水を加えることにより、SAM調製用の溶液を調製し、0.4Mのリン酸緩衝液(pH7.2)における50μMのDNA溶液200μLを得た。この溶液を、PCRインキュベーションにかけて(90℃で10分間、その後、45秒毎に1℃の割合で15℃まで冷却)、二本鎖らせんを形成した。その後、0.4Mのリン酸緩衝液(pH7.2)中の10mMのTris(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(Sigma Aldrich社から購入)200μLをDNA溶液に加えて、チオール保護基を除去し、得られた溶液を2時間反応したままにした。Micro Bio-Spin P-30カラム(Bio Rad社から購入)で溶液をろ過することにより、産物を精製した。最終的に、Nanodrop分光計を使用したUV-vis分光法によって、DNA溶液の最終濃度を確認し、22mMのDNA濃度を検出した。
【0099】
吸着試験は、SAM形成の基板として1×1cm2の強磁性サンプル(Siウェハ|80 Ti|1000 Ni|80 Au、単位Å)を使用して実行した。アセトンおよびエタノールでそれぞれ10分間煮沸した後、UV/OX処理に10分間曝し、その後、エタノール浴に30分間浸すことにより、表面を洗浄した。
【0100】
窒素流でそれらを乾燥させた直後に、表面から離れる方向(+)または内部に向かう方向(-)の±3000Gの磁界中に表面を置いた。両方の磁気方向について、様々な吸着時間(30分未満、1時間、1.5時間、2時間超)で試験した。吸着後直ぐに、不要な分子残留物を除去するために、磁界を印加せずに、サンプルをリン酸緩衝液0.4M(pH7.2)で2回、DI水で2回すすぎ、その後、窒素で乾燥させた。
【0101】
LabRam HR800-PL分光蛍光計顕微鏡(Horiba Jobin-Yivon社)を使用して、単層の蛍光を測定した。色素の励起には、532nmのレーザ光(DJ532-40レーザダイオード、ThorLabs、出力約1.65mW/cm2)を使用した。顕微鏡(10倍の高作動距離レンズを使用)を使用して9つの異なるポイント(3×3マトリックスからのマッピング)からスペクトルを収集し、平均化した。測定中、共焦点アパーチャ(1100μm)を完全に開き、積分時間を15秒に維持した。
【0102】
実施例2:キラル化合物AHPA-LおよびAHPA-Dに対する磁界方向の影響
チオール化L-およびDアルファヘリックスポリアラニン[AHPA-LおよびAHPA-D]エナンチオマー(SH-CAAAAKAAAAKAAAAKAAAAKAAAAKAAAAKAAAAK(配列番号3))を、5nmの金で覆われた強磁性(FM)コバルト膜上に、2秒間、共有結合で吸着させた。配列において、C、A、Kは、システイン、アラニン、リジンをそれぞれ表している。SiO2ナノ粒子(NP)を、単層吸着密度のマーカーとして機能する吸着ポリアラニンの末端に付着させた。重要なことに、強磁性基板上に配置された金やプラチナのような貴金属の薄層(最大約10nm)が非常に効率的にスピンを伝達し、一般に反磁性特性とスピン蓄積を特徴付けることが知られている。このため、酸化を防ぐとともに共有結合を保証する金の層は、適切な吸着界面を提供する強磁性基板の一部と見なすことができる。
【0103】
図9A~
図9Dは、±3000Gの磁化で基板に吸着されたAHPA-LおよびAHPA-D分子のSEM画像を示し、
図9Eは、
図9A~
図9Dの吸着分子の密度を示している。
図9Aは、約4.10
10NPs/cm
2の濃度を与える+3000Gの磁界下で基板(1.8nmのCo+5nmのAu)上に吸着されたAHPA-LのSEMスペクトルを表しており、一方、
図9Bに示すように-3000Gの磁界を印加すると、約6・10
9NPs/cm
2のより低い濃度がもたらされる。
図9Cは、約1.10
10NPs/cm
2の濃度を与える+3000Gの磁界下で基板(1.8nmのCo+5nmのAu)上に吸着されたAHPA-DのSEM画像を表しており、
図9Dに示すように-3000Gの磁界を印加すると、約4・10
10NPs/cm
2のより高い濃度がもたらされる。
図9Eには、様々な吸着密度のグラフが示されている。一方向に磁界+3000Gを印加すると、AHPA-LエナンチオマーがFM表面に吸着し易くなり、反対方向の-3000Gの磁界を印加するとにAHPA-Dエナンチオマーが表面に吸着し易くなることが明確に示されている。
【0104】
より長い吸着時間(約2分間)でこの試験を繰り返したら、吸着のエナンチオ選択性が低下した。これらの結果は、基板の磁化の方向に応じて、各エナンチオマーの吸着速度が異なることを示している。一方の磁化方向では、AHPA-Lの吸着速度がAHPA-Dの吸着速度の8倍以上速く、他方の磁化方向では、AHPA-Dの吸着速度がAHPA-Lの吸着速度の4倍以上速い。AHPA-Dの精製レベルがAHPA-Lの精製レベルよりも低いことを言及することには価値があり、それは潜在的に、吸着速度比の非対称性を説明している。
【0105】
実施例3:AHPA-LおよびAHPA-Dの吸着時間に対する磁界方向の影響
室温(RT)および不活性条件下で±3000Gの外部磁界下に置きながら、エタノール溶液中の1mMのAHPA分子を、超常磁性(SPM)基板(100Å Al2O3の基板層|20Å TaN|30Å Pt|1.5Å Co|20Å Au)上にSAM法で吸着させた。上向き(+)または下向き(-)の方向に表面に対して垂直に磁界を印加した。両磁気方向について様々な吸着時間(1秒未満、2秒、10秒、20秒、30秒、1分、2分および10分)で試験した。吸着直後に、磁界を印加せずにサンプルを無水エタノールですすいで、未吸着の分子残留物を除去し、その後、窒素で乾燥させた。キラル化合物の吸着は直ぐ(1秒)であったが、例えば10分までの時間の増加とともに、表面に吸着される化合物の濃度が増加した。
【0106】
図10A~
図10Eは、SEM画像による吸着結果を示し(
図10A~
図10D)、吸着密度の概要を示している(
図10E)。
図10Aは、+3000Gの磁界下で1秒以内に1mMのAHPA-Dのエタノール溶液1mLを吸着して、約4・10
9NPs/cm
2の濃度を生じることを示しており、
図10Bは、約1・10
10NPs/cm
2の濃度を提供する、同様の条件であるが磁界に対して垂直な-3000Gの垂直磁界下での同じ溶液の吸着を示している。このプロセスは10分間の吸着時間にわたって繰り返され、+3000G(
図10C)の印加磁界が約2・10
10NPs/cm
2の濃度を与え、-3000G(
図10D)の垂直磁界が約1・10
11NPs/cm
2の濃度をもたらした。すべてのサンプルを0.15%wtのSiO
2 NPの水溶液に2分間浸漬し、その後、乾燥させた。
図10Eは、
図10A~
図10Dの異なる吸着密度を示し、「下」方向の磁界でAHPA-Dの吸着速度が増加したことを示している。
【0107】
垂直異方性を有する分子線エピタキシー(MBE)成長エピタキシャルFM薄膜磁気サンプル(Al203(0001)|Pt 50Å|Au 200Å|Co 18Å|Au 50Å)についても、同様の時間依存吸着を行った。FMサンプルを、室温および不活性条件下で±3000Gの外部磁界によって磁化した。使用した強磁性基板の保磁力場は約215Gであった。基板の磁化容易軸は面外(OOP)であったため、磁界が印加されると、磁化OOPが確実に表面法線に対して平行または逆平行に再配向される。
【0108】
次に、すべてのサンプルを、0.15wt%のSiO2アモルファスナノクリスタル(NC)のH2O(mkNANO)溶液に、磁気の影響なしで2分間浸漬し、その後、H2Oですすいだ。基板上の吸着分子の位置をマークするためにNCを使用した。
【0109】
図11A~
図11Dは、吸着分子の顕微鏡画像を示し、
図11Eは、
図10A~
図10Dの吸着密度を示している。様々な超常磁性サンプルを、1mMのAHPA-Lのエタノール溶液1mLに浸漬した。
図10Aおよび
図10Bは、+3000G(
図11A)の垂直磁界下で1秒後の吸着が約6・10
10NPs/cm
2の濃度を与え、-3000G(
図11B)の垂直磁界が約1・10
10NPs/cm
2の濃度を与えることを示している。このプロセスは、
図11Cおよび
図11Dに示すように2分間の吸着時間にわたって繰り返され、+3000G(
図11C)の垂直印加磁界が約7・10
10NPs/cm
2の濃度を与え、-3000G(
図11D)の垂直磁界が約5・10
10NPs/cm
2の濃度を与えた。
図10Eは、それら試験の各々における吸着密度を示している。ここでも、磁化された基板とのスピン偏極の相互作用に起因する吸着速度の変化が明確となっている。
【0110】
実施例4:磁界の印加によるキラル化合物の分離
円偏光二色性(CD)スペクトルのないポリアラニン(実施例2で規定)のラセミ混合物を、
図2に示すようにカラム/チャネルを通過する間に、磁性基板(10nmのAuでコーティングされたNi)との相互作用によって分離した。第1の試験では、基板を「下」向きの磁界(強磁性表面に向かう負の垂直磁界)で磁化した。実施例2、3で例示したように、D-アラニンは、下向きの磁界(-3000G)を印加することにより、FM基板により良好に吸着される。第2の試験では、基板を「上」向きの磁界(強磁性表面から離れる方向の正の垂直磁界)で磁化した。実施例3、4で例示したように、L-アラニンは、上向きの磁界(+3000G)を印加することにより、FM基板により良好に吸着された。すなわち、上向きの磁界(+3000G)を印加することにより、L-エナンチオマーは表面により良好に吸着される一方、D-エナンチオマーは溶液中に残る。
図12Aおよび
図12Bは、得られた溶液のCDスペクトルを示している。
図12Aは、「下」向きの磁化で分離した後に得られたD-アラニンのCDスペクトルと、「上」向きの磁化で分離した後に得られたL-アラニンのCDスペクトルを示している。
図12Bは、分離を繰り返すことにより得られたD-アラニンおよびL-アラニンのCDスペクトルを示すともに、比較を示している。
【0111】
これらの結果は、特定のエナンチオの認識なしで、基板を磁化することによりキラル分子の混合物を分離する能力を示している。さらに、吸着サイクルを追加することで、より高い精製レベルを実現することができる。
【0112】
CDスペクトル測定
エタノール溶液中の1μMのAHPA-Dと1μMのAHPA-Lからなるポリアラニンのラセミ混合物(実施例2で規定)を使用した。4×4mm2の超常磁性(SPM)サンプルを、約1秒間、+3000Gの外部磁界の影響下でラセミ溶液に吸着させた。残りの溶液から1mlをキュベット内に移した。このプロセスを繰り返して、99の追加の4×4mm2のSPMサンプルを同じ溶液に吸着させた。100サンプル目の吸着後、追加の1mlを残りの溶液から抽出して、キュベットに入れた。同じ手順を、-3000Gの外部磁界について新しいラセミ混合物で繰り返した。
【0113】
英国のApplied Photo Physics社のChirascan分光計を使用して円二色性測定を実行した。すべてのスペクトルの測定条件は、スキャン範囲が210~400nm、ポイントあたりの時間が2秒、ステップサイズが1nm、帯域幅が1nmであった。使用した石英キュベットの光路は1cmであった。
【0114】
実施例5:キラルおよびエナンチオ選択的結晶化
磁石のN極が表面に対して「上」または「下」の何れかを指しているときに、表面に対して垂直に磁化された基板/表面上で結晶化を実行することにより、エナンチオ選択的結晶の結晶化を生じさせる方法を開発した。磁性基板は結晶形成を促進するとともに、結晶間の自発的な分離を引き起こし、その結果、一方のエナンチオマーは、表面から上向きの磁気双極子によって磁化された表面で結晶化し、他方のエナンチオマーは、磁気双極子が表面に対して下を指したときに、磁気表面で結晶化した。
図13は、
図5に示すシステムにおける磁性基板に正H+、負H-の磁界を印加して形成された結晶、または磁界を印加しないで形成された結晶の写真を示している。結晶は、磁化された基板/表面上には形成されたが、磁化されていない基板/表面上には結晶化は認められなかった。この方法を、特定の種晶添加を必要とすることなく、様々な化合物に適用した。
【0115】
本手法を、DL-アスパラギン水和物の過飽和溶液を使用した試験で実証した。その溶液は、90℃の水3mLにラセミ混合物300mgを溶解することで得るようにした。その後、磁気表面の直上の0.02μmの細孔を持つシリンジフィルタで溶液を熱時濾過した。この表面は、150nmのニッケル層で構成されており、このニッケル層は、酸化から保護するために8nmの金で覆われるとともに、基板として機能するシリコンウェーハの上部にスパッタリングにより蒸着されている。0.5Tの磁界は、基板の直ぐ下に位置する磁石によって生成され、その磁界は、上向き(H+)または下向き(H-)の何れかを指していた。溶液は、金属表面の上部に小さな結晶が僅かに形成されるまで、25℃で恒温放置状態に保たれた(このプロセスには約9時間かかる)。その後、結晶を恒温放置溶液から取り出し、少量の冷水で洗浄し、3.5mLの水に溶解して円偏光二色性を測定した。
図14は、上向き(H+)に磁化された基板から収集した結晶から作られた溶液と、下向き(H-)に磁化された基板から収集した結晶を含む溶液について得たCDスペクトルである。CDの強度から、各溶液には約80%の純度の一種類のエナンチオマーが含まれていると結論付けることができる。
【0116】
実施例6:電界の追加
水溶液中のL-チオール化オリゴペプチドを、様々な電界条件下で磁化基板(金コーティングを施したコバルト強磁性層)に吸着できるようにした。
図15Aおよび
図15Bは、
図16Aにおける、1Vの電位の「下向き」磁化(G1)、電位差のない「下向き」磁化(G2)、磁化および電位差無し(G3)、1Vの電位の「上向き」磁化(G4)、電位差のない「上向き」磁化(G5)を含む、2分間の測定条件で基板に吸着された吸着L-オリゴペプチドのIR吸収を示している。
図16Bは、2Vの電位で磁化なし(G6)、-1Vの電位での磁化なし(G7)、-2Vの電位の「上向き」磁化(G8)、-1Vの電位の「上向き」磁化(G9)、電位差のない「上向き」磁化(G10)についてのIR吸収結果を示している。図示のように、ピーク吸収は、吸収強度が吸着分子の数に比例する場合、1668および1542cm-1の線で見られる。磁石のN極が上を向き、磁界が-2Vであり(G8)、かつ磁石が+1Vの下向きの磁界を指している場合(G1)に、最も強い信号(より多くの吸着分子)が見出された。
【0117】
これらの結果は、磁性基板の磁化方向と電界の符号との相関関係を示している。磁石のN極が上を向いている場合、分子の正極は基板とより良好に相互作用する一方で、反対の磁石が適用されると、分子の負極が基板とより良好に相互作用する。このため、対応する電界によって相互作用が増加し得る。なお、磁化方向と電界方向の関係は分子の種類に特有であることに留意されたい。より具体的には、特定の分子は、吸着に適した一端のみを持ち、異なる電荷分極方向によって基板と相互作用することができる。磁化方向に関連付けられた電位差の具体的な方向は、キラル分子の種類毎に決定され得る。上記試験結果によれば、異なるエナンチオマーと磁性基板との相互作用における磁化選択性に加えて電界増強を使用にすることにより、相互作用エネルギーの変化が2~3倍増加する。