(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】水酸化脂肪酸のホモポリマーとその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/64 20220101AFI20230228BHJP
C07C 69/675 20060101ALI20230228BHJP
C07C 69/732 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C12P7/64
C07C69/675
C07C69/732
(21)【出願番号】P 2019539637
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032249
(87)【国際公開番号】W WO2019045011
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2017167595
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(73)【特許権者】
【識別番号】320006025
【氏名又は名称】Noster株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(72)【発明者】
【氏名】小川 順
(72)【発明者】
【氏名】岸野 重信
(72)【発明者】
【氏名】北尾 浩平
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/151115(WO,A1)
【文献】特開昭64-016591(JP,A)
【文献】特開平05-304966(JP,A)
【文献】J. Am. Oil Chem. Soc.,1995年,Vol. 72,pp. 1309-1316
【文献】J. Am. Oil Chem. Soc.,1996年,Vol. 73,pp. 543-549
【文献】Pure Appl. Chem.,2015年,Vol. 87,pp. 51-58
【文献】J. Am. Oil Chem. Soc.,2015年,Vol. 92,pp. 1125-1141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を使用して水酸化脂肪酸を重合させることを含む、水酸化脂肪酸の
2量体~10量体であるホモポリマーの製造方法であって、水酸化脂肪酸が、
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-12-,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-,シス-12-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
10-ヒドロキシテトラデカン酸、
10-ヒドロキシヘキサデカン酸、又は
14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸である、方法。
【請求項2】
酵素がリパーゼである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酵素がCandida属に属する微生物由来のリパーゼである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酵素がCandida cylindracea又はCandida rugosa由来のリパーゼである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
水酸化脂肪酸が、
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-12-,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-,シス-12-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、又は
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸である、請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
水酸化脂肪酸が、
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、又は
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸である、請求項
1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水酸化脂肪酸が、
10-ヒドロキシテトラデカン酸、
10-ヒドロキシヘキサデカン酸、又は
14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸である、請求項1から
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
水酸化脂肪酸が、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下の水酸化脂肪酸から選ばれるいずれか1つの水酸化脂肪酸の2量体~10量体であるホモポリマー:
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-12-,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-,シス-12-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
10-ヒドロキシテトラデカン酸、
10-ヒドロキシヘキサデカン酸、又は
14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸。
【請求項10】
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸の2量体~10量体である、請求項9に記載のホモポリマー。
【請求項11】
式
【化1】
【化2】
又は
【化3】
で表される、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸の2量体、3量体又は4量体である、請求項
9に記載のホモポリマー。
【請求項12】
請求項
9から11のいずれか1項に記載のホモポリマーを含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水酸化脂肪酸のホモポリマーとその製造方法に関する。水酸化脂肪酸は、少なくとも一つの水酸基を有する脂肪酸である。本発明の製造方法は、酵素を利用し、分子内脱水による分子内ラクトンの生成を抑制しつつ選択的に水酸化脂肪酸の重合反応を行い、水酸化脂肪酸のホモポリマーを得る。本発明はまた、新規な水酸化脂肪酸のホモポリマーを提供する。当該水酸化脂肪酸のホモポリマーは、医薬、食品、化成品原料として活用できるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体内に低い割合でしか存在しない、希少脂肪酸の生理学的機能が注目されている。例えば共役リノール酸等の共役脂肪酸(非特許文献1)、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等のω3系多価不飽和脂肪酸(特許文献1)は脂質代謝改善作用や糖尿病改善作用等を有することが報告されている。それらの機能性脂質を食事において摂取することに高い関心が寄せられており、食品等のそれらの含有商品が上市されている。
【0003】
希少脂肪酸の一つに、化合物内に水酸基を有する水酸化脂肪酸がある。これまで適当な供給源がなく、その生理学的機能については十分な解析が行われていなかったが、最近、植物油に多く含まれるリノール酸等を出発原料として酵素反応によって高効率、高選択的に製造する手段が見出された(特許文献2)。そして、各種水酸化脂肪酸の供給方法が確保されると共にその生理学的機能に関する研究も活発に行われている。本発明者らは、水酸化脂肪酸の中でも、特に10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸(以下、「HYA」ともいう)に着目し、HYAが脂質代謝異常改善作用(特許文献3)、腸管免疫力を高める作用(特許文献4)、腸管の炎症抑制作用(非特許文献2)等を有することを報告した。
【0004】
上記のように高純度のHYAの入手が容易となったことから、HYAを容易に摂取することができれば、その生理学的機能を生かしてHYAの有効利用が促進されることが期待される。HYAは生理活性以外にもセバシン酸の原料にもなり、化成品原料としても注目される。一方、HYAの融点は約25℃であり(ここでの「約」は±1℃を示す)、常温では固体(又は一部融解した状態)であることから、摂取のし易さ、及び液体や固体の他の食品成分への添加や混合における取扱い性が液体と比較して劣る、という問題がある。本発明者らは、この問題の解決に向け、それらのトリグリセリド化、アルキルエステル化について報告している(特許文献5、6)。しかし、トリグリセリド化やアルキルエステル化は水酸化脂肪酸以外にグリセリン、アルコールと反応させる必要があることから、HYAに由来する分子中の構造単位の割合は少なくなり、高含量でHYAを提供する原料の形態ではない。
【0005】
一方、上記課題を解決し得るような水酸化脂肪酸の誘導体については、これまでのところ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2006-521368号公報
【文献】国際公開第2013/168310号
【文献】国際公開第2014/069227号
【文献】国際公開第2014/129384号
【文献】国際公開第2016/195016号
【文献】国際公開第2016/195017号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nagao K, J. Biosci. Bioeng., 2005, vol.100, no.2, p.152-157
【文献】Junki Miyamoto et al., J. Biol. Chem., 2015, 290(5), 2902-2918
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明における課題は、水酸化脂肪酸を高含量で含有し、摂取及び取扱いが容易な新規な水酸化脂肪酸の誘導体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行なった結果、水酸化脂肪酸自体を、酵素を用いて常圧下(減圧も加圧もしない条件下)で多量体化する方法を明らかにした。更に、その方法により製造した水酸化脂肪酸の単独重合体(ホモポリマー)は、水酸化脂肪酸に由来する構造単位が分子中に占める割合が、トリアシルグリセリドやアルキルエステルに比べ増加していた。結果、多量体化した安定な新規物質を提供することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記の通りである:
[1] 酵素を使用して水酸化脂肪酸を重合させることを含む、水酸化脂肪酸のホモポリマーの製造方法。
[2] 酵素がリパーゼである[1]に記載の方法。
[3] 酵素がCandida属に属する微生物由来のリパーゼである[1]に記載の方法。
[4] 酵素がCandida cylindracea又はCandida rugosa由来のリパーゼである[1]に記載の方法。
[5] 水酸化脂肪酸のホモポリマーが2量体~10量体である、[1]から[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6] 水酸化脂肪酸が、
(1)10位、12位又は13位に水酸基を有する炭素数18の脂肪酸、
(2)12位又は15位に水酸基を有する炭素数20の脂肪酸、
(3)10位に水酸基を有する炭素数14又は16の脂肪酸、又は
(4)14位に水酸基を有する炭素数22の脂肪酸である、[1]から[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7] 水酸化脂肪酸が10位、12位又は13位に水酸基を有する炭素数18の脂肪酸である、[6]に記載の方法。
[8] 水酸化脂肪酸が、
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、
10-ヒドロキシオクタデカン酸、
10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸、
リシノール酸、
12-ヒドロキシオクタデカン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、又は
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸である、[7]に記載の方法。
[9] 水酸化脂肪酸が12位又は15位に水酸基を有する炭素数20の脂肪酸である、[6]に記載の方法。
[10] 水酸化脂肪酸が、
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、又は
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸である、[9]に記載の方法。
[11] 水酸化脂肪酸が、
10-ヒドロキシテトラデカン酸、
10-ヒドロキシヘキサデカン酸、又は
14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸である、[6]に記載の方法。
[12] 以下の水酸化脂肪酸から選ばれるいずれか1つの水酸化脂肪酸の2量体~10量体であるホモポリマー:
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸、
10-ヒドロキシオクタデカン酸、
10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸、
10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸、
13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
10-ヒドロキシテトラデカン酸、
10-ヒドロキシヘキサデカン酸、又は
14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸。
[13] 式
【0011】
【0012】
【0013】
又は
【0014】
【0015】
で表される、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸の2量体、3量体又は4量体である、[12]に記載のホモポリマー。
[14] [12]又は[13]に記載のホモポリマーを含有する組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水酸化脂肪酸を酵素(例えばリパーゼ)により重合して多量体(ホモポリマー)とさせることができ、多量体にすることによって、物性を安定化させることができる。重合した多量体は食品として摂取する場合、リパーゼ等の消化酵素により重合しているエステル結合が分解され、元の水酸化脂肪酸となり作用し得る。水酸化脂肪酸は様々な使用方法が見出されてきていることから、その物性を安定化させ、取扱い易い物質とすることは、産業上極めて有用である。また、酵素(例えばリパーゼ)を使用することにより、分子内脱水による分子内ラクトンの生成を抑制しつつ選択的に水酸化脂肪酸の重合反応を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例2の薄層クロマトグラフィーの結果を示す写真である。
【
図2】
図2は、実施例3の結果(HYAとそのホモポリマー混合物との酸化反応速度の比較)を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例4の薄層クロマトグラフィーの結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
(定義)
【0020】
本明細書中、「脂肪酸」とは、カルボキシ基を1つ有する、直鎖または分枝鎖の脂肪族炭化水素を意味する。脂肪酸は、その脂肪族炭化水素鎖に1つ又は2つ以上の不飽和結合が含まれていても良い。また、その脂肪族炭化水素鎖の一部が水酸基又はオキソ基(=O)で置換されていても良い。「脂肪酸」の炭素数の範囲は特に限定されないが、好ましくは、6~26、より好ましくは、8~24、さらに好ましくは、8~22、最も好ましくは、14~22である。
【0021】
本明細書中、「水酸化脂肪酸」とは、カルボキシ基中の水酸基以外に少なくとも1つの水酸基を有する脂肪酸を意味する。
【0022】
本明細書中、「水酸化脂肪酸のホモポリマー」とは、水酸化脂肪酸分子中のカルボキシ基と、同じ分子構造をもった別の水酸化脂肪酸分子中の水酸基とを分子間エステル結合で重合することにより多量体となった物質を意味する。
例、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸の3量体
【0023】
【0024】
本発明は、酵素(例えばリパーゼ)を使用して水酸化脂肪酸を重合させることを含む、水酸化脂肪酸のホモポリマーの製造方法を提供する。
【0025】
本発明の製造方法は、酵素(例えばリパーゼ)を用いて水酸化脂肪酸を自己重合させる。リパーゼはトリグリセリドを分解して脂肪酸を遊離する酵素の総称であるが、この逆のエステル化を触媒したり、その酵素的特徴を利用して、テルペンアルコールエステルの合成や、コレステロールエステルの合成などにも利用されている。リパーゼは水存在下では、加水分解反応を優先的に触媒する酵素であり、脱水を伴う縮合反応を行うには減圧による水の除去が必要となり、脱水反応触媒としては工業利用において様々な工夫を必要とする。化学的な脱水は高温を余儀なくされるが、分子内脱水や化合物そのものの劣化などが懸念される。したがって、リパーゼが水酸化脂肪酸のカルボキシ基と同分子の水酸基の分子間エステル化を常圧下で(減圧無しに)触媒し、多量体にすることは知られておらず、そのような反応は起こり難いものと思われていた。
【0026】
本発明の製造方法における反応(以下、「本反応」という)は、具体的には、次のような反応となる。
【0027】
【0028】
(式中、Aは水酸化脂肪酸からカルボキシ基と水酸基を除いた部分構造であり、nは2以上である)
【0029】
本発明の方法で製造される水酸化脂肪酸のホモポリマーは、好ましくは2量体~20量体(nが2~20)であり、より好ましくは2量体~10量体(nが2~10)である。
【0030】
本反応に使用する酵素は、好ましくはリパーゼであり、より好ましくは、微生物由来のリパーゼであり、特にCandida属に属する微生物由来のリパーゼが好ましい。更により好ましくは、Candida cylindracea又はCandida rugosa由来のリパーゼである。
【0031】
Candida cylindracea由来のリパーゼは複数のアイソザイムが存在し、Lip1、Lip2、Lip3、Lip4、Lip5などが知られている。本発明においてはその中でもLip4、Lip5が高い反応効率を示すが、どのアイソザイムを使用してもよいし、混合物でもよい。
【0032】
Candida rugosa由来のリパーゼは複数のアイソザイムが存在し、Lip1、Lip2、Lip3、Lip4、Lip5などが知られている。本発明においてはその中でもLip4、Lip5が高い反応効率を示すが、どのアイソザイムを使用してもよいし、混合物でもよい。
【0033】
微生物由来のリパーゼは、天野エンザイム株式会社、名糖産業株式会社、ノボザイム社、シグマアルドリッチ社等から市販品として入手することができる。例えば、天野エンザイム株式会社製のリパーゼAY「アマノ」30SD(Candida cylindracea由来)等が挙げられる。
【0034】
本反応は、「補因子」を用いてもよい。
【0035】
本反応は、酵素(例えばリパーゼ)の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は20~45℃、好ましくは35~39℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4~11、好ましくはpH7~9である。反応時間も特に制限はないが、例えば30分~48時間、好ましくは60分~36時間である。
【0036】
本反応で用いる酵素(例えばリパーゼ)の使用量は特に制限はないが、水酸化脂肪酸に対して、1重量%から100重量%が好ましく、3重量%から50重量%がより好ましく、5重量%から10重量%が特に好ましい。
【0037】
本反応は、水の存在下で行うことができるが、それに限定されない。本反応で用いる水の使用量は、水酸化脂肪酸1gに対して、0.3gから10gが好ましく、0.5gから5gがより好ましい。本反応は、必要に応じて有機溶媒を使用してもよい。本反応は、常圧下(減圧も加圧もしない条件下)で行うことができる。
【0038】
本反応において用いられる酵素は、各種担体に固定化されたものでもよく、遊離型のものでもよい。固定化されたものは回収して繰り返し使用することができる。酵素は、精製されたものであっても、粗精製物であってもよい。
【0039】
生成したホモポリマーは、クロマトグラフィー、蒸留、抽出などの慣用の分離手段を用いて単離・精製することができる。
【0040】
本反応の基質としては、水酸化脂肪酸であればよい。例えば、
(1)10位、12位又は13位に水酸基を有する炭素数18の脂肪酸、
(2)12位又は15位に水酸基を有する炭素数20の脂肪酸、
(3)10位に水酸基を有する炭素数14又は16の脂肪酸、
(4)14位に水酸基を有する炭素数22の脂肪酸等が挙げられる。
ここで脂肪酸は、カルボキシ基を1つ有する直鎖の脂肪族炭化水素である直鎖脂肪酸を意味する。
【0041】
10位、12位又は13位に水酸基を有する炭素数18の脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。
【0042】
10位に水酸基を有する炭素数18の脂肪酸としては、10位に水酸基を有する炭素数18の飽和脂肪酸;10位に水酸基を有し、6位、12位、15位に少なくとも1個(好ましくは1、2又は3個)のシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸;又は10位に水酸基を有し、6位、11位、15位に少なくとも1個(好ましくは1、2又は3個)のシス型又はトランス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸(HYA)、
10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「αHYA」ともいう)、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸(以下、「γHYA」ともいう)、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(以下、「sHYA」ともいう)、
10-ヒドロキシオクタデカン酸(以下、「HYB」ともいう)、
10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸(以下、「αHYB」ともいう)、
10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸(以下、「γHYB」ともいう)、
10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「sHYB」ともいう)、
10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸(以下、「HYC」ともいう)、
10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「αHYC」ともいう)、
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(以下、「γHYC」ともいう)、又は
10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(以下、「sHYC」ともいう)が挙げられる。
【0043】
12位に水酸基を有する炭素数18の脂肪酸としては、12位に水酸基を有する炭素数18の飽和脂肪酸;又は12位に水酸基を有し、9位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、12-ヒドロキシオクタデカン酸、リシノール酸が挙げられる。
【0044】
13位に水酸基を有する炭素数18の脂肪酸としては、13位に水酸基を有する炭素数18の飽和脂肪酸;又は13位に水酸基を有し、5位、6位、9位、15位に少なくとも1個(好ましくは1、2又は3個)のシス型又はトランス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、
13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸(以下、「13HYA」ともいう)、
13-ヒドロキシ-シス-9,シス-15-オクタデカジエン酸(以下、「13αHYA」ともいう)、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9-オクタデカジエン酸(以下、「13γHYA」ともいう)、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸、
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸、又は
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸が挙げられる。
【0045】
12位又は15位に水酸基を有する炭素数20の脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。
【0046】
12位に水酸基を有する炭素数20の脂肪酸としては、12位に水酸基を有する炭素数20の飽和脂肪酸;又は12位に水酸基を有し、5位、8位、14位、17位に少なくとも1個(好ましくは1、2又は3個)のシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸、
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸、又は
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸が挙げられる。
【0047】
15位に水酸基を有する炭素数20の脂肪酸としては、15位に水酸基を有する炭素数20の飽和脂肪酸;又は15位に水酸基を有し、5位、8位、11位、17位に少なくとも1個(好ましくは1、2又は3個)のシス型二重結合を有する炭素数20の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、
15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸、
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸、又は
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸が挙げられる。
【0048】
10位に水酸基を有する炭素数14又は16の脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。
10位に水酸基を有する炭素数14又は16の脂肪酸としては、10位に水酸基を有する炭素数14又は16の飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、
10-ヒドロキシテトラデカン酸、又は
10-ヒドロキシヘキサデカン酸が挙げられる。
【0049】
14位に水酸基を有する炭素数22の脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。
14位に水酸基を有する炭素数22の脂肪酸としては、14位に水酸基を有する炭素数22の飽和脂肪酸;又は14位に水酸基を有し、4位、7位、10位、16位、19位に少なくとも1個(好ましくは1、2、3、4又は5個)のシス型二重結合を有する炭素数22の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸が挙げられる。
【0050】
本反応で使用する水酸化脂肪酸は、WO2013/168310、WO2015/111699に記載の方法等により調製することができる。または、市販品を使用してもよい。
【0051】
本反応から製造される水酸化脂肪酸のホモポリマーとしては、例えば、
HYAの2量体、
HYAの3量体、
HYAの4量体~10量体、
αHYAの2量体~10量体、
γHYAの2量体~10量体、
sHYAの2量体~10量体、
HYBの2量体~10量体、
αHYBの2量体~10量体、
γHYBの2量体~10量体、
sHYBの2量体~10量体、
HYCの2量体~10量体、
αHYCの2量体~10量体、
γHYCの2量体~10量体、
sHYCの2量体~10量体、
リシノール酸の2量体~10量体、
12-ヒドロキシオクタデカン酸の2量体~10量体、
13HYAの2量体~10量体、
13αHYAの2量体~10量体、
13γHYAの2量体~10量体、
13-ヒドロキシ-シス-6,シス-9,シス-15-オクタデカトリエン酸の2量体~10量体、
13-ヒドロキシ-シス-5,シス-9-オクタデカジエン酸の2量体~10量体、
13-ヒドロキシ-トランス-5,シス-9-オクタデカジエン酸の2量体~10量体、
12-ヒドロキシ-シス-14-エイコセン酸の2量体~10量体、
12-ヒドロキシ-シス-14,シス-17-エイコサジエン酸の2量体~10量体、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14-エイコサジエン酸の2量体~10量体、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8-エイコサジエン酸の2量体~10量体、
12-ヒドロキシ-シス-8,シス-14,シス-17-エイコサトリエン酸の2量体~10量体、
12-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-14-エイコサトリエン酸の2量体~10量体、
15-ヒドロキシ-シス-11-エイコセン酸の2量体~10量体、
15-ヒドロキシ-シス-11,シス-17-エイコサジエン酸の2量体~10量体、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11-エイコサジエン酸の2量体~10量体、
15-ヒドロキシ-シス-8,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸の2量体~10量体、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-8,シス-11-エイコサトリエン酸の2量体~10量体、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11-エイコサジエン酸の2量体~10量体、
15-ヒドロキシ-シス-5,シス-11,シス-17-エイコサトリエン酸の2量体~10量体、
10-ヒドロキシテトラデカン酸の2量体~10量体、
10-ヒドロキシヘキサデカン酸の2量体~10量体、
14-ヒドロキシ-シス-4,シス-7,シス-10,シス-16,シス-19-ドコサペンタエン酸の2量体~10量体等が挙げられ、これらの水酸化脂肪酸のホモポリマーはこれまでに知られていない構造を持つ新規の水酸化脂肪酸誘導体である。
【0052】
例えば、HYAのホモポリマーは、下記式で表される。
【0053】
【0054】
αHYAのホモポリマー、13HYAのホモポリマー、リシノール酸のホモポリマーは、それぞれ下記式で表される。
αHYAのホモポリマー
【0055】
【0056】
13HYAのホモポリマー
【0057】
【0058】
リシノール酸のホモポリマー
【0059】
【0060】
(式中、mは2以上であり、好ましくは、2~20であり、より好ましくは、2~10であり、特に好ましくは、2~4である。)
【0061】
本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーは、各ホモポリマーを単離したものであっても、ホモポリマーの混合物であってもよい。例えば、「2量体~10量体」という記載は、2量体、3量体、4量体、5量体、6量体、7量体、8量体、9量体、若しくは10量体、又は2量体、3量体、4量体、5量体、6量体、7量体、8量体、9量体、及び10量体から選ばれる少なくとも2つの混合物を意味する。
【0062】
本発明により得られる水酸化脂肪酸のホモポリマーは、体内でリパーゼ等の酵素で分解されると遊離の水酸化脂肪酸になる。遊離の水酸化脂肪酸は代謝改善作用(脂質、糖、エネルギーの代謝改善作用)、腸管保護作用、抗炎症作用などが知られていることから(前記の非特許文献2、WO2014/069227、WO2014/129384、WO2015/111700、WO2015/111701)、水酸化脂肪酸のホモポリマーは水酸化脂肪酸を安定化させた前駆物質として利用できる。
【0063】
本発明で得られる水酸化脂肪酸のホモポリマーは、従来、遊離の水酸化脂肪酸として公知の生理活性に基づいて、例えば、医薬、食品、化粧料に配合されて使用される。
【0064】
本発明は、本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーを含有する組成物(食用油、食品又は食品添加物、医薬組成物、化粧料又は化粧料添加物、飼料又は飼料添加物を含む)を提供する。組成物における水酸化脂肪酸のホモポリマーの含有量は、組成物の全量に対し、通常1重量%~99.9重量%であり、好ましくは10重量%~90重量%であり、より好ましくは20重量%~80重量%である。
【0065】
本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーを食用油として使用する場合、例えば、一般的な食用油に用いられる成分(食品添加物等)を含有させることができる。これらの成分としては、例えば、乳化剤、酸化・劣化防止剤、結晶調整剤等が挙げられる。なお、乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等が挙げられる。酸化・劣化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキン及びそのエステル、セサミンなどのリグナン類、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類、シリコーン等が挙げられる。結晶調整剤としては、例えば、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、ワックス類、ステロールエステル類等が挙げられる。また、香辛料や着色成分等も添加することができる。香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。
【0066】
食用油における水酸化脂肪酸のホモポリマーの含有量は、特に限定されないが、食用油の全量当たり通常5重量%以上であり、20重量%以上とすることが好ましく、50重量%以上とすることがより好ましい。
【0067】
本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーを食品又は食品添加物として使用する場合、当該食品は、溶液、懸濁物、粉末、固体成形物等、経口摂取可能な形態であればよく、特に限定するものではない。具体例としては、サプリメント(散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤等)、飲料(炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料等)、菓子(グミ、ゼリー、ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー、キャラメル、和菓子、スナック菓子等)、即席食品類(即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター、クリーム、マーガリン等)、小麦粉製品(パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉等)、調味料(ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、つゆ類等)、畜産加工品(畜肉ハム・ソーセージ等)が挙げられる。
【0068】
食品又は食品添加物における水酸化脂肪酸のホモポリマーの含有量は、食品又は食品添加物の全量に対し、5重量%~90重量%であり、好ましくは10重量%~80重量%であり、より好ましくは20重量%~70重量%である。
【0069】
上記食用油、食品又は食品添加物には、必要に応じて各種栄養素、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等)、各種ミネラル類(マグネシウム、亜鉛、鉄、ナトリウム、カリウム、セレン等)、食物繊維、分散剤、乳化剤等の安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。
【0070】
また、上記食用油、食品又は食品添加物には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品等の保健機能食品、疾病リスク低減表示を付した食用油、食品、食品添加物又は特別用途食品(例えば、病者用食品)のような分類のものも包含される。
【0071】
本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーは、単独で、又は他の物質を配合して、医薬組成物として使用することができる。
本発明の医薬組成物は、動物に対し、水酸化脂肪酸(例えば、HYA)により症状を改善し得る疾患、例えば、肥満、糖尿病、脂質代謝異常、高脂血症、脂肪肝、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病、偽膜性腸炎等)、潰瘍、過敏性腸症候群、及びその他の種々の炎症性疾患(例えば、痛風、関節炎、多発性神経炎、多発性神経根炎、肝炎、気管支炎、肺炎、腎炎、膀胱炎、歯周病、皮膚炎、アトピー性皮膚炎等)を予防するための予防剤、又は治療、改善、抑制するための治療剤として用いることができる。
ここで、「動物」としては、ヒトをはじめ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、ラット、マウス、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ロバ、ラクダ等の哺乳動物が挙げられる。
【0072】
当該医薬組成物の剤型としては、特に制限されないが、例えば散剤、顆粒剤、丸剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。
【0073】
当該医薬組成物の製剤化のために用いることができる添加剤には、特に制限されないが、例えば、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、胚芽油、ひまわり油、牛脂、いわし油等の動植物性油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、精製水、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D-マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液等の賦形剤、甘味料、着色料、pH調整剤、香料等を挙げることができる。なお、液体製剤は、服用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしても良い。
【0074】
当該医薬組成物を注射剤の形で投与する場合には、特に制限されないが、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内、舌下、口腔内等に投与することが好ましく、特に静脈内投与又は腹腔内投与が好ましい。静脈内投与は、点滴投与、ボーラス投与のいずれであってもよい。
【0075】
医薬組成物における水酸化脂肪酸のホモポリマーの含有量は、医薬組成物の全量に対し、5重量%~99.9重量%であり、好ましくは10重量%~90重量%であり、より好ましくは20重量%~80重量%である。
【0076】
当該医薬組成物の投与量又は本発明の食品の摂取量は、患者又は摂取者の年齢及び体重、症状、投与時間、剤型、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して適宜決定できる。例えば、本発明の医薬組成物を経口投与する場合、有効成分である水酸化脂肪酸(例えば、HYA)の単量体の総量として、成人1日当たり0.02~100mg/kg体重、好ましくは0.2~50mg/kg体重の範囲で、また、非経口的に投与する場合は0.002~50mg/kg体重、好ましくは0.02~50mg/kg体重の範囲で、1日1回もしくは数回(2~5回)に分けて投与することができる。
【0077】
本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーを含有する組成物を、化粧料又は化粧料添加物として使用する場合、当該化粧料としては、クリーム、ゲル、乳液、美容液、ローション、マイクロエマルションエッセンス、パック、ファンデーション、口紅、アイシャドー、シャンプー、コンディショナー、入浴剤等が挙げられ、香料等を混合してもよい。
【0078】
化粧料又は化粧料添加物における水酸化脂肪酸のホモポリマーの含有量は、化粧料又は化粧料添加物の全量に対し、5重量%~70重量%であり、好ましくは10重量%~60重量%であり、より好ましくは20重量%~50重量%である。
【0079】
本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーを含有する組成物を、飼料又は飼料添加物として使用する場合、当該飼料としては、ペットフード、畜産又は水産養殖飼料添加物等が挙げられる。
【0080】
飼料又は飼料添加物における水酸化脂肪酸のホモポリマーの含有量は、飼料又は飼料添加物の全量に対し、1重量%~70重量%であり、好ましくは3重量%~50重量%であり、より好ましくは5重量%~30重量%である。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0082】
1H NMRスペクトルは、Bruker社製AVANCE III 400を用い、重クロロホルムを溶媒として測定した。1H NMRについてのデータは、化学シフト(δppm)、多重度(s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット、dd=ダブルダブレット、dt=ダブルトリプレット、tt=トリプルトリプレット、brs=ブロードシングレット、sep=セプテット)、カップリング定数(Hz)、積分及び割当てとして報告する。
高分解能質量スペクトル解析は、島津社製LCMS(LCMS-2020)を用いて実行した。
クロマトグラフィーの展開溶媒における比は、容量比で示す。
【0083】
以下の実施例において、使用した水酸化脂肪酸10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸(HYA)及び10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(αHYA)は、特許文献2(国際公開第2013/168310号)に記載の方法に基づき製造した。13-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸(13HYA)は、国際公開第2015/111699号に記載の方法に基づき製造した。リシノール酸は市販品を使用した。リパーゼは天野エンザイム株式会社製のリパーゼAY「アマノ」30SD(Candida cylindracea由来)を使用した。
【実施例1】
【0084】
<10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸のホモポリマーの製造>
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸184mgにmilliQ水0.3mLを加え、超音波処理を20秒行った。リパーゼAY「アマノ」30SDを11mg加え、37℃、130rpmで24時間撹拌して反応させた。反応後の液体をBligh-Dyer法にて抽出し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=40:60:1)にて単離精製し、HYAの2量体(9.4mg)、HYAの3量体(4.7mg)、及びHYAの4量体(7.9mg)を得た。
【0085】
HYAの2量体
シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=40:60:1)によるRf値=0.30
1H NMR(CDCl3,400MHz):(δ)ppm:0.89(t,6H,J=6.8Hz),1.29(m,32H),1.59(m,8H),2.02(dt,2H,J=6.2,7.0Hz),2.05(dt,2H,J=6.7,6.9Hz),2.22(dd,2H,J=7.1,7.1Hz),2.27(dd,2H,J=7.3,7.3Hz),2.33(t,4H,J=7.5Hz),3.64(tt,1H,J=5.9,6.2Hz),4.89(tt,1H,J=5.9,6.3Hz),5.32(dt,1H,J=10.9,7.3Hz),5.39(dt,1H,J=11.0,5.9Hz),5.48(dt,1H,J=10.9,7.2Hz),5.58(dt,1H,J=10.9,7.3Hz);
MS(ESI):M-577。
【0086】
HYAの3量体
シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=40:60:1)によるRf値=0.38
1H NMR(CDCl3,400MHz):(δ)ppm:0.89(t,9H,J=6.9Hz),1.30(m,42H),1.58(m,12H),2.02(dt,4H,J=6.4,7.1Hz),2.05(dt,2H,J=7.1,6.5Hz),2.22(dd,2H,J=6.8,6.8Hz),2.27(dd,4H,J=7.5,7.5Hz),2.34(t,6H,J=7.5Hz),3.62(tt,1H,J=5.9,6.3Hz),4.88(tt,2H,J=6.2,6.2Hz),5.31(dt,2H,J=10.9,7.3Hz),5.39(dt,1H,J=10.9,7.5Hz),5.47(dt,2H,J=10.9,7.3Hz),5.57(dt,1H,J=10.9,7.3Hz);
MS(ESI):M-857。
【0087】
HYAの4量体
シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=40:60:1)によるRf値=0.42
1H NMR(CDCl3,400MHz):(δ)ppm:0.89(t,12H,J=6.9Hz),1.26(m,64H),1.58(m,16H),2.02(dt,6H,J=6.6,7.2Hz),2.05(dt,2H,J=6.8,7.1Hz),2.21(dd,2H,J=6.9,6.9Hz),2.27(dd,6H,J=7.8,7.8Hz),2.34(t,8H,J=7.5Hz),3.62(tt,1H,J=5.9,6.1Hz),4.88(tt,3H,J=6.3,6.1Hz),5.31(dt,3H,J=10.9、7.3Hz),5.40(dt,1H,J=10.9,7.5Hz),5.47(dt,3H,J=10.9,7.3Hz),5.57(dt,1H,J=10.9,7.3Hz);
MS(ESI):M+ (+Na)1161。
【0088】
HYAの融点は約25℃付近であり、HYAの2量体、HYAの3量体、HYAの4量体はいずれも15℃にて液体であり、扱いやすい物質となる。
【実施例2】
【0089】
<HYAの2~10量体の生成の確認>
10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸184mgにmilliQ水0.3mLを加え、超音波処理を20秒間行った。その後、リパーゼAY「アマノ」30SDを11mg加え、37℃、130rpmで24時間撹拌して反応させた。反応させた液からBligh-Dyer法にて油脂成分のみを抽出し、エバポレーターで濃縮した液を、薄層クロマトグラフィー(TLC Silica gel 60 F254;展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=40:60:1)に付した。薄層クロマトグラフィー(365nm紫外線照射)の結果を
図1に示す。
【0090】
図1より、HYAが重合しているスポットが確認できた。スポットの数から、HYAは2~10量体となっていることが確認できた。
各スポットのRf値は、以下の通りである。
HYAの2量体:0.30
HYAの3量体:0.38
HYAの4量体:0.42
HYAの5量体:0.46
HYAの6量体:0.49
HYAの7量体:0.52
HYAの8量体:0.55
HYAの9量体:0.56
HYAの10量体:0.59
【実施例3】
【0091】
<水酸化脂肪酸とそのホモポリマー混合物における酸化安定性の比較>
実施例1で得た反応抽出物(ホモポリマー混合物)とHYAの酸化安定性を比較した。酸化反応は、水酸化脂肪酸デヒドロゲナーゼ(CLA-DH)存在下、NAD
+を電子受容体として実施した(S. Kishino et al., Polyunsaturated fatty acid saturation by gut lactic acid bacteria affecting host lipid composition. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110(44), 17808-17813, 2013)。
反応液(3 mL)は、水酸化脂肪酸デヒドロゲナーゼとしてCLA-DH発現大腸菌の無細胞抽出液150 μL(50 mg大腸菌湿菌体由来)、4 mMのNAD
+、150 μLのエタノール、ならびに基質として0.48 mM(0.143 mg/mL)のHYAもしくは等量(0.143 mg/mL)のホモポリマー混合物を含有し、反応は水酸化脂肪酸デヒドロゲナーゼの添加にて開始し、37℃にて約6分間行った。なお、コントロールは基質無添加とした。酸化の進行は、基質の酸化にともなって生成するNADH量を340nmの吸光度変化を測定することにより定量した(NADHの分子吸光係数は6.3x10
3 L・mol
-1・cm
-1)。
結果を
図2に示す。HYAが2.9 μM/minの速度で酸化されたのに対し、ホモポリマー混合物の酸化速度は1.6 μM/minであり、HYAの酸化速度の約55%に低下していた。したがって、水酸化脂肪酸はホモポリマー化することで酸化安定性が高くなり、安定な物質となることが確認できた。
【実施例4】
【0092】
<αHYA、13HYA、リシノール酸のホモポリマーの生成の確認>
各αHYA、13HYA、リシノール酸184mgにmilliQ水0.3mLを加え、超音波処理を20秒間行った。その後、リパーゼAY「アマノ」30SDを11mg加え、37℃、130rpmで24時間撹拌して反応させた。反応させた液からBligh-Dyer法にて油脂成分のみを抽出し、エバポレーターで濃縮した液を、薄層クロマトグラフィー(TLC Silica gel 60 F254;展開溶媒 ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=40:60:1)に付した。薄層クロマトグラフィー(365nm紫外線照射)の結果を
図3に示す。
【0093】
図3より、αHYA、13HYA、リシノール酸が重合しているスポットが確認できた。スポットの数から、各ホモポリマーは2~7量体であることが確認できるが、スポット量等を多くすることで2~10量体を確認することができる。
図3の各スポットのRf値は、以下の通りである。
αHYAの単量体:0.31
αHYAの2量体:0.34
αHYAの3量体:0.38
αHYAの4量体:0.43
【0094】
13HYAの単量体:0.33
13HYAの2量体:0.39
13HYAの3量体:0.44
13HYAの4量体:0.49
【0095】
リシノール酸の単量体:0.33
リシノール酸の2量体:0.37
リシノール酸の3量体:0.42
リシノール酸の4量体:0.47
【0096】
αHYAの2量体、3量体及び4量体、13HYAの2量体、3量体及び4量体、リシノール酸の2量体、3量体及び4量体は、それぞれ下記式で表される。
αHYAの2量体
【0097】
【0098】
αHYAの3量体
【0099】
【0100】
αHYAの4量体
【0101】
【0102】
13HYAの2量体
【0103】
【0104】
13HYAの3量体
【0105】
【0106】
13HYAの4量体
【0107】
【0108】
リシノール酸の2量体
【0109】
【0110】
リシノール酸の3量体
【0111】
【0112】
リシノール酸の4量体
【0113】
【0114】
実施例4の結果より、基質として、2個以上の二重結合を有する水酸化脂肪酸(αHYA)、13位に水酸基を有する水酸化脂肪酸(13HYA)、12位に水酸基を有する水酸化脂肪酸(リシノール酸)を使用した場合でも、HYAと同様にホモポリマーを製造できることが示された。
【0115】
以上の結果より、本発明の方法によって、水酸化脂肪酸をホモポリマーとすることができ、そのホモポリマーは新規物質であり、さらに安定化した物質となる。
【0116】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明である。
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、そのすべてが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0117】
本出願は、日本で出願された特願2017-167595(出願日:2017年8月31日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の方法によれば、様々な水酸化脂肪酸を水酸化脂肪酸のホモポリマーにすることができるため、水酸化脂肪酸を多量体化し、更に安定化させる点からも極めて有用である。また、本発明の水酸化脂肪酸のホモポリマーは、例えば、医薬、食品、化粧料に配合されて使用される。