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特許7233662グリコシル化したAG85Aタンパク質を含む結核予防用ワクチン組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】グリコシル化したAG85Aタンパク質を含む結核予防用ワクチン組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/04 20060101AFI20230228BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20230228BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230228BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20230228BHJP
   C12N 15/82 20060101ALN20230228BHJP
【FI】
A61K39/04 ZNA
A61P31/06
C12P21/02 C
C12N15/31
C12N15/82 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021543360
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 KR2020001230
(87)【国際公開番号】W WO2020159169
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0010431
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519142114
【氏名又は名称】バイオアプリケーションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOAPPLICATIONS INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】513184264
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コオペレイション ファウンデーション、ヨンセイ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】518436032
【氏名又は名称】クラティス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン ジク
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ウン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ソン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ホンミン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、クァン グ
(72)【発明者】
【氏名】オ、ミョン ヨル
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101468201(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0027349(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0609813(KR,B1)
【文献】国際公開第2018/208099(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0180056(US,A1)
【文献】Expert Rev. Vaccines (2010) vol.9, issue 8, p.835-842
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有し、
前記グリコシル化したAg85Aタンパク質が、タバコ属植物の小胞体で発現したものである、結核予防用ワクチン組成物。
【請求項2】
前記グリコシル化したAg85Aタンパク質が、結核菌によって感染した肺組織損傷の抑制を誘導することを特徴とする、請求項1に記載の結核予防用ワクチン組成物。
【請求項3】
前記グリコシル化したAg85Aタンパク質が、肺で結核菌数の減少を誘導することを特徴とする、請求項1に記載の結核予防用ワクチン組成物。
【請求項4】
前記グリコシル化したAg85Aタンパク質が、IFN-γ(Interferon-γ)、TNF-α(tumor necrosis factor-α)、およびIL-2(Interleukin-2)よりなる群から選ばれた2以上のサイトカインを同時に分泌するCD4CD44T細胞の増加を誘導することを特徴とする、請求項1に記載の結核予防用ワクチン組成物。
【請求項5】
前記グリコシル化したAg85Aタンパク質が、IFN-γ(Interferon-γ)、TNF-α(tumor necrosis factor-α)、およびIL-2(Interleukin-2)よりなる群から選ばれた2以上のサイトカインを同時に分泌するCD8CD44T細胞の増加を誘導することを特徴とする、請求項1に記載の結核予防用ワクチン組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のワクチン組成物の製造方法であって、
(a)タバコ属植物の植物体を
配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質をコードする遺伝子と、
配列番号2の塩基配列を含む、セルロース結合モジュール3(cellulose binding module 3;CBM3)をコードする遺伝子と、
配列番号3の塩基配列を含む、BiPシグナルペプチド(signal peptide)をコードする遺伝子と、
配列番号4の塩基配列を含む、HDELペプチドをコードする遺伝子
とを含む、結核予防用ワクチン発現ベクターで形質転換する工程;及び、
(b)前記形質転換された植物体から、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質を分離及び精製する工程;を含む、
ワクチン組成物の製造方法
【請求項7】
前記ベクターが、配列番号5の塩基配列を含む、エンテロキナーゼ(enterokinase)により認識されて切断される配列をさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の製造方法
【請求項8】
前記ベクターが、配列番号6の塩基配列を含む、連結ペプチドをコードする遺伝子をさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の製造方法
【請求項9】
配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質の、結核予防に用いられるワクチンの製造のための使用であって、
前記グリコシル化したAg85Aタンパク質が、タバコ属植物の小胞体で発現したものである、使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコシル化したAg85Aタンパク質を含む結核予防用ワクチン組成物、前記タンパク質の製造のためのベクター、前記ベクターを用いた形質転換体、および前記形質転換体を用いてグリコシル化したAg85Aタンパク質を生産する方法等に関する。
【0002】
本出願は、2019年01月28日に出願された韓国特許出願第10-2019-0010431号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書および図面に開示されたすべての内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
結核は、WHOで規定した三大感染疾患の一つであり、1882年に微生物学者であるロベルト・コッホにより発見され、マイコバクテリウム・ツベルクロシス(Mycobacerium tuberculosis)によって誘発される高い発病率と死亡率を示す致命的な病気である。全世界的に約6千万人の患者が活動性結核に感染し、毎年約5千万から約1億人が新しく結核に感染することが推定されており、少なくとも毎年900万人以上の新しい結核患者が発生し、年間150万人以上が結核で死亡すると知られていた。結核の発病率は、人口10万人当たり146人、結核死亡率は、人口10万人当たり49人であり、単一感染病の中で最も多い死亡原因を占めていて、世界的に深刻な保健問題として残っている。
【0004】
一方、上記のような結核予防のためのワクチン製造と関連して、動物タンパク質を大量生産するための医療産業界の要求は、様々な複雑なタンパク質やペプチドを生産するための混合発現系の開発である。寄主生物としては、細菌から酵母、昆虫、哺乳動物と植物細胞のような真核生物がすべて含まれる。ただし、細菌は、相対的に多量のタンパク質を生産できるが、不溶性封入体(インクルージョンボディ)を形成する場合が多く、また、翻訳後修飾工程に限界がある。他方では、真核細胞発現系は、互いに異なる翻訳後工程によって本来意図したタンパク質と同一でないタンパク質を作ることもできるが、タンパク質に糖を接合させることができ、翻訳後工程のプロセスを行うことができる。植物生産システムは、現在外来タンパク質を合成するために商業的に用いられており、植物細胞の翻訳後修飾は、動物細胞で行われるのと非常に類似していて、正確に複合タンパク質(多量体タンパク質)を生成することができる。植物由来の動物タンパク質の場合、グリコシル化(Glycosylation)するアミノ酸残基は、本来のタンパク質のものと同一に起こる。しかしながら、植物細胞の分泌経路にあるN結合グリカンの工程は、動物発現系で生産されたものより多様な形態のグリコシル化が見られるが、糖タンパク質の活性はそのまま維持される場合が多い。
【0005】
現在、植物を用いて開発が試みられるワクチンは、病原性である場合、細菌やウイルスの粘膜感染に必須な接着機能を行うタンパク質と、細菌の毒性を示す毒素タンパク質、ウイルスの構造を成すタンパク質が抗原として主に用いられており、非病原性病気の場合、病気を引き起こす物質や原因物質を生産する主な酵素が抗原として用いられている。今までの研究結果として、植物体に由来する組換え抗原タンパク質は、動物由来のワクチンと同じ機能を有する構造を有していることが報告されていて、これを応用した多様なかつ深度の深い研究が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、グリコシル化したAg85A抗原タンパク質およびグリコシル化しないAg85A抗原タンパク質をマウスに免疫接種し、免疫反応および結核に対する防御効能等に対する実験を行った結果、植物細胞で発現してグリコシル化したAg85Aの場合、グリコシル化しないAg85Aに比べて結核防御効果に優れていることを実験的に確認し、本発明を完成した。
【0007】
これより、本発明の目的は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有する、結核予防用ワクチン組成物を提供することにある。
【0008】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、以下の記載から当該技術分野における通常の技術者が明らかに理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有する、結核予防用ワクチン組成物を提供する。
【0010】
本発明の一具現例において、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、結核菌によって感染した肺組織損傷の抑制を誘導することができる。
【0011】
本発明の他の具現例において、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、肺で結核菌数の減少を誘導することができる。
【0012】
本発明のさらに他の具現例において、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、IFN-γ(インターフェロン-γ)、TNF-α(腫瘍壊死因子-α)、およびIL-2(インターロイキン-2)よりなる群から選ばれた2以上のサイトカインを同時に分泌するCD4CD44T細胞の増加を誘導することができる。
【0013】
本発明のさらに他の具現例において、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、IFN-γ(インターフェロン-γ)、TNF-α(腫瘍壊死因子-α)、およびIL-2(インターロイキン-2)よりなる群から選ばれた2以上のサイトカインを同時に分泌するCD8CD44T細胞の増加を誘導することができる。
【0014】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質をコードする遺伝子と、配列番号2の塩基配列を含む、セルロース結合モジュール3(cellulose binding module 3;以下、CBM3という)をコードする遺伝子と、を含む、結核予防用ワクチン発現ベクターを提供する。
【0015】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質をコードする遺伝子と、配列番号2の塩基配列を含む、セルロース結合モジュール3(cellulose binding module 3;CBM3)をコードする遺伝子と、配列番号3の塩基配列を含む、BiPシグナルペプチドをコードする遺伝子と、を含む、結核予防用ワクチン発現ベクターを提供する。
【0016】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質をコードする遺伝子と、配列番号2の塩基配列を含む、セルロース結合モジュール3(cellulose binding module 3;CBM3)をコードする遺伝子と、配列番号4の塩基配列を含む、HDELペプチドをコードする遺伝子と、を含む、結核予防用ワクチン発現ベクターを提供する。
【0017】
本発明の一具現例において、前記ベクターは、配列番号5の塩基配列を含む、エンテロキナーゼにより認識されて切断される配列をさらに含むことができる。
【0018】
本発明の他の具現例において、前記ベクターは、配列番号6の塩基配列を含む、連結ペプチドをコードする遺伝子をさらに含むことができる。
【0019】
また、本発明は、前記ベクターで形質転換された結核予防用ワクチン製造用形質転換体を提供する。
【0020】
本発明の一具現例において、前記形質転換体は、植物体でありうる。
【0021】
本発明の他の具現例において、前記植物体は、シロイヌナズナ、ダイズ、タバコ、ナス、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ハクサイ、ダイコン、キャベツ、レタス、モモ、ナシ、イチゴ、スイカ、マクワウリ、キュウリ、ニンジンおよびセロリよりなる群から選ばれる1つ以上の双子葉植物;またはイネ、ムギ、コムギ、ライムギ、トウモロコシ、サトウキビ、エンバクおよびタマネギよりなる群から選ばれる1つ以上の単子葉植物でありうる。
【0022】
また、本発明は、(a)前記形質転換体を培養する段階と、(b)前記形質転換体または培養液からグリコシル化したAg85Aタンパク質を分離および精製する段階と、を含む、結核予防用ワクチン組成物の生産方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有するワクチン組成物を個体に投与する段階を含む、結核予防方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有するワクチン組成物の結核予防用途を提供する。
【0025】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質の、結核予防に用いられるワクチンを製造するための用途を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明のグリコシル化したAg85Aタンパク質を含むワクチン組成物は、結核防御効果に重要なIFN-γ、TNF-αおよびIL-2を同時に分泌する多機能T細胞の増加を誘導する効果があるので、結核予防用ワクチンとして有用に用いることができ、しかも、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、前記タンパク質の生産に最適化したベクターを用いて植物体で効果的に発現し、高収率で分離することができるので、低コストで大量生産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の一実施例によるグリコシル化したAg85Aタンパク質の発現のための遺伝子の配列を示すものである。
図2図2は、植物発現Ag85Aタンパク質のグリコシル化を確認するためにウェスタンブロットを行った結果である。
図3図3は、グリコシル化したAg85Aタンパク質のワクチン抗原として可能性を打診するために結核菌をマウスに感染させた後にIFN-γの分泌を比較した結果である。
図4図4は、グリコシル化したAg85Aタンパク質の免疫性調査のために設計された実験方法を簡略に示すものである。
図5図5a~図5cは、最終免疫接種4週後にマウスでAg85Aタンパク質等の抗原刺激によって1つ以上のサイトカインを分泌するT細胞の割合を比較した結果である。
図6a図6aは、免疫したマウスに結核菌を感染させた後、肺の組織を目視検査およびH&E(ヘマトキシリン-エオジン)染色法による観察結果で示すものである。
図6b図6bは、免疫したマウスに結核菌を感染させた後、4週および12週後に肺と脾臓でCFU(コロニー形成単位)を測定した結果である。
図7図7a~図7cは、免疫したマウスに結核菌を感染させ、4週後に1つ以上のサイトカインを分泌するT細胞の割合を比較した結果である。
図8図8は、本発明に使用された配列番号1のアミノ酸配列を用いてグリコシル化有無の予測プログラムを作動させた結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、グリコシル化したAg85A抗原タンパク質およびグリコシル化しないAg85A抗原タンパク質をマウスに免疫接種し、免疫反応および結核に対する防御効能等に対する実験を行った結果、植物細胞で発現してグリコシル化したAg85Aの場合、グリコシル化しないAg85Aに比べて結核防御効果に優れていることを実験的に確認し、本発明を完成した。
【0029】
本発明の一実施例では、植物で発現するAg85A発現ベクターを用いて生産されたタンパク質を分離、精製して、グリコシル化したAg85Aを植物で生産可能であることを確認した(実施例1参照)。
【0030】
本発明の他の実施例では、植物で生産されたAg85Aタンパク質がグリコシル化したかを確認するために、ウェスタンブロットを行い、その結果、グリカンの切断を確認して、植物発現Ag85Aタンパク質がグリコシル化したことを確認した(実施例2参照)。
【0031】
本発明のさらに他の実施例では、結核菌を感染させたマウスを用いて肺細胞でIFN-γの分泌を測定した結果、持続的なIFN-γの分泌を確認して、グリコシル化したAg85Aのワクチン抗原として可能性を打診した(実施例3参照)。
【0032】
本発明のさらに他の実施例では、グリコシル化したAg85Aタンパク質の免疫原性を調査した結果、グリコシル化したAg85Aタンパク質で免疫したマウスの場合、IFN-γ、TNF-α、およびIL-2を同時に分泌するT細胞の割合が増加することを確認した(実施例4参照)。
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0034】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を提供する。
【0035】
本発明において使用される用語「Ag85A」は、広範囲に研究されている抗原の1つであり、タンパク質だけでなく、DNAワクチンとしても有効な効果を示していると知られている。
【0036】
本発明において使用される用語「グリコシル化(glycosylation)」は、細胞(真核生物)のタンパク質翻訳後プロセスであり、N-グリコシル化とO-グリコシル化に分けられ、これは、付く官能基によって異なり、細胞で生成されたタンパク質にラクトース(lactose)等の糖が付くプロセスをあわせて「グリコシル化」という。グリコシル化プロセスで糖鎖がタンパク質に連結されると、タンパク質が「フォールディング」プロセスを経て立体的な構造物を形成し、これは、タンパク質が分解されずに、長期間維持されうる安定性を付与する。また、タンパク質に付いた糖鎖が細胞膜で細胞膜タンパク質となって抗原と同じ効果を示すことがある。上記のようにグリコシル化したタンパク質を糖タンパク質といい、代表的な糖タンパク質には、免疫反応で重要な役割をする抗体等がある。本発明に使用された配列番号1のアミノ酸配列を用いてグリコシル化有無の予測プログラム(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/)を動作させてみた結果、203番目のAsparagine(N)でN-グリコシル化が起こることが予測されたが(図8参照)、これに制限されるものではなく、本発明と同等な効果を有する範囲内で変形が可能である。
【0037】
本発明の他の様態として、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有する、結核予防用ワクチン組成物を提供する。
【0038】
本発明において使用される用語「抗原(antigen)」とは、体内で免疫反応を起こすすべての物質を総称し、好ましくは、ウイルス、化合物質、細菌、花粉、癌細胞、エビ等またはこれらの一部のペプチドまたはタンパク質であるが、体内で免疫反応を起こすことができる物質であれば、これに制限されない。
【0039】
本発明において使用される用語「ワクチン(vaccine)」とは、生体に免疫反応を起こす抗原を含有する生物学的な製剤であり、感染症の予防のためにヒトや動物に注射したり経口投与することによって、生体に免疫ができるようにする免疫原をいう。前記動物は、ヒトまたは非ヒト動物であり、前記非ヒト動物は、豚、牛、馬、犬、ヤギ 、羊等を指すが、これらに制限されない。
【0040】
本発明において使用される用語「ワクチン組成物」は、それぞれ、通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾル等の経口型剤形および滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤等の希釈剤または賦形剤を使用して調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等が含まれ、このような固形製剤は、前記レシチン類似乳化剤に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム、スクロースまたはラクトース、ゼラチン等を混ぜて調製することができる。また、単純な賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用することができる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤等を使用でき、頻用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤等が含まれ得る。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水溶性製剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤が含まれる。非水溶性製剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステル等を使用できる。また、追加的に、従来知られている「免疫抗原補強剤(アジュバント)」をさらに含むことができる。前記アジュバントは、当該技術分野において知られているものであれば、いずれのものでも制限なく使用できるが、例えばフロイント(Freund)完全アジュバントまたは不完全アジュバントをさらに含むことで、その免疫性を増加させることができる。
【0041】
本発明のワクチン組成物または薬学的組成物は、それぞれ、通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾル等の経口型剤形、外用剤、坐剤または滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。
【0042】
本発明によるワクチン組成物の投与経路は、これらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれる。経口または非経口投下が好ましい。本願に使用される用語「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明のワクチン組成物は、また、直腸投与のための坐剤の形態で投与することができる。
【0043】
本発明によるワクチン組成物または薬学的組成物の投与量は、個体の年齢、体重、性別、身体の状態等を考慮して選択される。特異な副作用なしに個体に免疫保護反応を誘導するのに要する量は、免疫原として使用された組換えタンパク質および賦形剤の任意存在によって多様になりうる。一般的に、それぞれの用量は、本発明の組換えタンパク質の滅菌溶液1ml当たり0.1~1000μgのタンパク質、好ましくは、0.1~100μgを含有する。ワクチン組成物の場合には、必要に応じて初期用量に引き続いて任意に繰り返された抗原刺激を行うことができる。
【0044】
本発明において使用される用語「免疫抗原補強剤(アジュバント)」とは、一般的に抗原に対する体液および/または細胞免疫反応を増加させる任意の物質を指す。
【0045】
本発明において使用される用語「予防(prevention)」とは、本発明によるグリコシル化したAg85Aタンパク質の投与によって結核を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0046】
本発明において「結核」は、眼結核、皮膚結核、副腎結核、腎臓結核、副睾丸結核、リンパ節結核、喉頭結核、中耳結核、腸結核、多剤耐性結核、肺結核、胆嚢結核、骨結核、咽喉結核、リンパ節結核、肺虚、乳房結核および脊椎結核を含み、これらに制限されない。
【0047】
本発明において「抑制(inhibition)」とは、本発明によるグリコシル化したAg85Aタンパク質の投与によって結核を未然に防止すること、軽減させること、または治療することを含む意味である。
【0048】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有するワクチン組成物を個体に投与する段階を含む、結核予防方法を提供する。
【0049】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質を含有するワクチン組成物の結核予防用途を提供する。
【0050】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質の、結核予防に用いられるワクチンを製造するための用途を提供する。
【0051】
本明細書において、「個体(individual)」とは、本発明のグリコシル化したAg85Aタンパク質を投与できる対象をいい、その対象には制限がない。
【0052】
本明細書において、「投与」とは、任意の適切な方法で個体に所定の本発明のワクチン組成物を提供することを意味する。
【0053】
本発明において、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、結核菌によって感染した肺組織損傷の抑制を誘導することができる。
【0054】
本発明において、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、肺で結核菌数の減少を誘導することができる。
【0055】
本発明において、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質は、IFN-γ(インターフェロン-γ)、TNF-α(腫瘍壊死因子-α)、およびIL-2(インターロイキン-2)よりなる群から選ばれた2以上のサイトカインを同時に分泌する多機能性T細胞の増加を誘導することができ、前記T細胞は、CD4CD44T細胞、またはCD8CD44T細胞でありうるが、これらに制限されるものではない。
【0056】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質をコードする遺伝子と、配列番号2の塩基配列を含む、セルロース結合モジュール3(cellulose binding module 3;CBM3)をコードする遺伝子と、を含む、結核予防用ワクチン発現ベクターを提供する。
【0057】
本発明において使用される用語「発現ベクター(expression vector)」とは、ベクター内に挿入された異種の核酸によりコードされるペプチドまたはタンパク質を発現できるベクターを指すものであり、好ましくは、グリコシル化したAg85Aタンパク質を発現できるように製造されたベクターを意味する。前記「ベクター」は、試験管内、生体外または生体内で宿主細胞へ塩基の導入および/または移入のための任意の媒介物をいい、他のDNA断片が結合して結合された断片の複製をもたらすことができる複製単位(レプリコン)であり得、「複製単位」とは、生体内でDNA複製の自己ユニットとして機能する、すなわち、自らの調節によって複製可能な、任意の遺伝的単位(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス等)をいう。本発明の組換え発現ベクターは、好ましくは、RNA重合酵素が結合する転写開始因子であるプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列と転写および翻訳の終結を調節する配列、ターミネータ等を含むことができ、より好ましくは、タンパク質の合成量を増加させるためのM17の5′UTR部位遺伝子等をさらに含むことができ、前記プロモーターには、一例として、pEMUプロモーター、MASプロモーター、ヒストンプロモーター、Clpプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス由来19S RNAプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーター、ユビキチンタンパク質プロモーター、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、SV40(Simian virus 40)プロモーター、RSV(Respiratory syncytial virus)プロモーター、EF-1α(Elongation factor-1 alpha)プロモーター等が含まれ得、前記ターミネータは、一例として、ノパリンシンターゼ(NOS)、イネアミラーゼRAmy1 Aターミネータ、パセオリンターミネータ、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのオクトパイン(Octopine)遺伝子のターミネータ、大腸菌のrrnB1/B2ターミネータ等であるが、前記例は、例示に過ぎず、これらに制限されない。
【0058】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質をコードする遺伝子と、配列番号2の塩基配列を含む、セルロース結合モジュール3(cellulose binding module 3;CBM3)をコードする遺伝子と、配列番号3の塩基配列を含む、BiPシグナルペプチドをコードする遺伝子と、を含む、結核予防用ワクチン発現ベクターを提供する。
【0059】
また、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むグリコシル化したAg85Aタンパク質をコードする遺伝子と、配列番号2の塩基配列を含む、セルロース結合モジュール3(cellulose binding module 3;CBM3)をコードする遺伝子と、配列番号4の塩基配列を含む、HDELペプチドをコードする遺伝子と、を含む、結核予防用ワクチン発現ベクターを提供する。
【0060】
本発明において、前記ベクターは、配列番号5の塩基配列を含む、エンテロキナーゼにより認識されて切断される配列をさらに含むことができる。
【0061】
本発明において、前記ベクターは、配列番号6の塩基配列を含む、連結ペプチドをコードする遺伝子をさらに含むことができる。
【0062】
本発明において、前記ベクターは、CBM3をコードする遺伝子、連結ペプチドをコードする遺伝子、エンテロキナーゼ切断部位、およびAg85Aタンパク質をコードする遺伝子が順次に連結されて構成され、前記CBM3の3′末端には、植物細胞から小胞体に目的タンパク質をターゲッティングすることができるBiPシグナルペプチドをコードする遺伝子が連結され得、前記目的タンパク質暗号化遺伝子のカルボキシル末端には、ベクターが小胞体に保持(retention)されるようにするHDEL(His-Asp-Glu-Leu)をコードする遺伝子が連結され得るが、これらに制限されるものではない。
【0063】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、前記グリコシル化したAg85Aタンパク質発現ベクターで形質転換された結核予防用ワクチン製造用形質転換体を提供する。
【0064】
本発明において使用される用語「形質転換(transformation)」とは、注入されたDNAによって生物の遺伝的な性質が変わることを総称し、「形質転換体(transgenic organism)」とは、分子遺伝学的方法で外部の遺伝子を注入して製造された生命体であり、好ましくは、本発明の組換え発現ベクターにより形質転換された生命体であり、前記生命体は、微生物、真核細胞、昆虫、動物、植物など生命がある生物であれば、制限がなく、好ましくは、大腸菌、サルモネラ、バチルス、酵母、動物細胞、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ウマ、ウシ、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、植物等であるが、これらに制限されない。前記形質転換体は、形質転換(transformation)、トランスフェクション、アグロバクテリウム媒介形質転換方法、パーティクルガン衝撃法、超音波処理法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)およびPEG(ポリエチレングリコール)媒介形質転換方法等の方法で製造できるが、本発明のベクターを注入できる方法であれば、制限がない。
【0065】
本発明において、形質転換体は、好ましくは、植物体である。植物で有用物質を生産することは、様々な長所があるが、1)生産コストを格別的に低減することができ、2)従来一般的な方法(動物細胞や微生物で合成してタンパク質を分離精製する)で発生しうる様々な汚染源(ウイルス、癌遺伝子、腸毒素等)を根本的に排除することができ、3)商品化段階でも動物細胞や微生物とは異なって、種子としてシードストック管理が可能であるという点から有利である。また、4)当該物質の需要が急増する場合、大量生産に要する設備技術や費用の点から、従来の動物細胞システムに比べて絶対的に有利なので、最短期間に高まった需要に応じた供給が可能であるという長所がある。このように植物体を形質転換させ、これから有用物質を生産する方法が注目を浴びる背景は、植物体のタンパク質合成経路にある。哺乳動物のタンパク質合成には、翻訳後修飾プロセスが必須であり、植物体は、真核生物タンパク質の合成経路を有しているので、哺乳動物で発現するタンパク質とほぼ類似したタンパク質を生産することができる。
【0066】
本発明において、前記植物体は、シロイヌナズナ、ダイズ、タバコ、ナス、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ハクサイ、ダイコン、キャベツ、レタス、モモ、ナシ、イチゴ、スイカ、マクワウリ、キュウリ、ニンジンおよびサラリーよりなる群から選ばれる1つ以上の双子葉植物;またはイネ、ムギ、コムギ、ライムギ、トウモロコシ、サトウキビ、エンバクおよびタマネギよりなる群から選ばれる1つ以上の単子葉植物でありうるが、これらに制限されるものではない。
【0067】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、(a)前記形質転換体を培養する段階と、(b)前記形質転換体または培養液からグリコシル化したAg85Aタンパク質を分離および精製する段階と、を含む、結核予防用ワクチン組成物の生産方法を提供する。
【0068】
一方、下記表1に、本発明において用いられた配列を整理した。
【0069】
【表1】
【0070】
以下では、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0071】
[実施例1.植物発現Ag85A発現ベクターの作製およびタンパク質の分離精製]
(1-1.CBM3融合Ag85A植物発現ベクターの作製)
植物体でCBM3融合Ag85Aを発現できるように組換え植物発現ベクターを作製した。より詳しくは、CBM3融合Ag85Aタンパク質を小胞体に移動できるように、BiPシグナルペプチドを用いて目的タンパク質を小胞体に移動できるようにし、融合タンパク質が小胞体に蓄積され得るようにカルボキシル末端にHDEL(His-Asp-Glu-Leu)を結合し、小胞体に保持した。Ag85Aをコードする遺伝子の前方に融合タンパク質の分離に要するCBM3と連結ペプチドをコードする配列、そしてエンテロキナーゼにより認識されて切断される配列を結合させた後、植物発現ベクターであるpCAMBIA 1300に挿入して、組換えベクターを製造した(図1参照)。
【0072】
(1-2.植物発現ベクターの一過性発現)
上記の実施例1-1で準備した植物発現ベクターをアグロバクテリウム菌株LBA4404に電気穿孔法(エレクトロポレーション法)を用いて形質転換させた。形質転換されたアグロバクテリウムを5mlのYEP液体培地(酵母抽出物10g、ペプトン10g、NaCl5g、カナマイシン50mg/L、リファンピシン25mg/L)で28℃の条件で16時間振とう培養した後、1次培養液1mlを50mlの新しいYEP培地に接種して、28℃の条件で6時間振とう培養した。
【0073】
上記のように培養されたアグロバクテリウムは、遠心分離(7,000rpm、4℃、5分)して収集した後、インフィルトレーション(Infiltration)バッファー(10mM MES(pH5.7)、10mM MgCl、200μMアセトシリンゴン(acetosyringone))に600nmの波長でO.D.1.0の濃度でさらに懸濁させた。アグロバクテリウム懸濁液は、注射針を除去した注射器を用いてニコチアナ・ベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)葉の裏面に注入する方法でアグロ-インフィルトレーション(Agro-infiltration)を行った。
【0074】
(1-3.Ag85A分離精製)
上記の実施例1-2で準備したニコチアナ・ベンサミアナ10gにタンパク質抽出緩衝溶液(50mM Tris(pH7.2)、150mM NaCl、0.1% Triton X-100、1×プロテアーゼインヒビター)50mLを添加し、ブレンダーで組織を破砕した後、13,000rpmで20分間4℃で遠心分離して、タンパク質抽出液を回収した。タンパク質抽出液に水和させた微結晶セルロース10gを添加した後、1時間4℃でよく混合し、CBM3融合Ag85Aタンパク質が微結晶セルロースに結合されるようにした。CBM3融合Ag85Aタンパク質が結合した微結晶セルロースは、13,000rpmで10分間4℃で遠心分離して回収した後、50mLの洗浄緩衝溶液(50mM Tris(pH7.2)、150mM NaCl)で2回洗浄し、10mLのエンテロキナーゼ反応溶液(50mM Tris(pH7.2)、150mM NaCl、1mM CaCl)にさらに懸濁させた。懸濁液にエンテロキナーゼを20単位程度添加し、28℃で4時間反応させた後、遠心分離(14,000rpm、4℃、10分)を通じてエンテロキナーゼとAg85Aを含む反応液をセルロースから分離した。そして、反応液からエンテロキナーゼを除去するために、反応液にSTI-Sepharoseを入れ、4℃で1時間反応させた後、遠心分離(14,000rpm、4℃、10分)を通じてSTI-Sepharoseに結合しない分離精製されたAg85Aを得た。
【0075】
[実施例2.植物発現Ag85Aタンパク質のグリコシル化確認]
Ag85Aのグリコシル化の有無を確認するために、Endo-H(NEB,Cat.No.P0702S)とPNGase F(NEB,Cat.No.P0704S)を使用した。Endo-H処理のために、分離精製されたAg85Aタンパク質1μgを1μLの10X(倍数)糖タンパク質変性(Glycoprotein denaturing)バッファー(5% SDS、400mM DTT)と混合し、蒸留水を満たして、最終体積を10μLになるように製造した。前記反応液を沸騰水で10分間放置して変性させた後、氷の上にしばらく載置して軽く冷却した後、10×グリコバッファー(Glycobuffer)3(500mM sodium acetate,pH6)2μLとEndo-H酵素1μL、および7μLの蒸留水をそれぞれ反応液に追加し、37℃で1時間反応させた。PNGase Fの処理は、前記変性プロセスのEndo-Hと同じ方法で進め、10Xグリコバッファー(Glycobuffer)2(500mM リン酸ナトリウム、pH7.5)2μLと10%NP-40 2μL、PNGase F酵素1μL、および蒸留水5μLを入れ、最終体積を20μLとして、同一に37℃で1時間反応させた。反応を終えたタンパク質は、処理しないタンパク質と同時にウェスタンブロットを行い、この際、抗体は、Ag85A抗体(Abcam,Cat.No.ab193499)を使用した。
【0076】
その結果、図2に示されたように、Endo-HまたはPNGase F酵素を使用した場合、いずれも、ウェスタンブロットを行ったとき、糖鎖がないもののバンドが現れており、グリカンが切断されたことを確認した。
【0077】
[実施例3.G-Ag85Aの結核抗原としての潜在力検証]
結核菌に感染したマウス肺細胞を用いて当該抗原が実際に結核菌の感染時に抗原として作用するか、ワクチン候補物質としての可能性があるかを調べてみるために、IFN-γの分泌(secretion)程度を調査した。まず、Beijing strain HN878結核菌200CFU(colony forming unit)をエアロゾルルートでマウスに感染させ、それぞれ4週または12週後に非感染対照群と共に、それぞれマウス6匹ずつを犠牲にして、肺細胞(5×10細胞)を分離し、大腸菌で生産した非グリコシル化Ag85A(以下、NG-Ag85Aという)および植物で生産したグリコシル化Ag85A(以下、G-Ag85Aという)をそれぞれ5μg/mlの濃度で37℃で12時間反応させた後、反応液の上澄み液に分泌されたインターフェロン-γをELISAキットで測定した。
【0078】
その結果、図3に示されたように、植物発現Ag85A(G-Ag85A)は、結核菌感染後4週後あるいは12週後のマウス肺細胞に作用してIFN-γを持続的に分泌すること、大腸菌発現Ag85A(NG-Ag85A)に比べてその量が有意なレベルに増加したことを確認した。これは、Ag85Aが結核菌感染に対する免疫原性を有する抗原であり、NG-Ag85AとともにG-Ag85Aのワクチン抗原として可能性が示唆された。
【0079】
[実施例4.G-Ag85Aの免疫原性調査]
(4-1.免疫原性実験設計)
植物発現グリコシル化結核抗原G-Ag85Aの免疫性調査のために、BCG、NG-Ag85A、およびG-Ag85Aでマウスを2週間隔で3回免疫した。最終免疫接種4週(結核菌の攻撃接種2週前)後と、攻撃接種後4週、および12週後にそれぞれマウスを犠牲にして(sacrificed)、免疫反応および防御効能を調査した(図4参照)。
【0080】
(4-2.免疫後、抗原特異的多機能T細胞誘導)
多機能T細胞は、結核菌を防御するのに重要な宿主の構成要素の1つとして知られており、IFN-γ、TNF-αおよびIL-2を全部分泌するT細胞である。これと関連して、最終免疫接種4週後に各グループ別に6匹のマウスを屠殺して、各肺細胞(5×10cells)を分離し、NG-Ag85AまたはG-Ag85A抗原タンパク質を5μg/mlの濃度で37℃で12時間反応させた。反応後、IFN-γ、TNF-α、および/またはIL-2を分泌するCD4CD62LおよびCD8CD62LT細胞は、サイトメトリーで分析し、この際、CD4とCD8に対するゲーティング結果を確認した。
【0081】
その結果、図5a~図5cに示されたように、G-Ag85A免疫した場合、CD4CD44T細胞は、ポリサイトカインの分泌比率がNG-Ag85Aグループに比べて有意なレベルに増加したことを確認した。
【0082】
(4-3.植物発現抗原G-Ag85Aの結核防御効能)
最終免疫接種4週後にHN878結核菌200CFUでマウスを感染させた後、4週後および12週後にマウスを犠牲にして、肺組織の病変を目視検査し、肺と脾臓細胞でCFU(colony forming unit)を調査した。
【0083】
その結果、図6aに示されたように、目視の所見でもBCGやNG-Ag85A群に比べてG-Ag85A群の肺組織の損傷程度が軽微であり、H&E(ヘマトキシリン-エオジン)染色法による観察でも、G-Ag85A群の組織損傷程度がさらに軽微であることを確認したところ、G-Ag85Aの防御効果がさらに良好であることを確認し、特に感染後12週後には、防御効果が目視で明確に確認されるほどの効果差異が現れることを確認した。
【0084】
また、肺と脾臓組織を破砕して培養し、菌を計数することで、log10CFUで計算し、統計分析に活用した。
【0085】
その結果、図6bに示されたように、感染4週後、肺では非接種群に比べてBCG、NG-Ag85A、およびG-Ag85Aの全部で有意なCFU減少を確認し、脾臓でも、上記3種類接種群の全部が、非接種に比べてCFU減少を示すことを確認した。感染12週後、肺では、G-Ag85A接種群が最も低いCFUを示し、最も高い防御効果があることを確認し、脾臓でも、G-Ag85A群がNG-Ag85A群に比べてさらに良好な効果を示すことを確認した。
【0086】
(4-4.感染4週後に抗原特異的多機能T細胞誘導)
マウスに結核菌を感染させ、肺組織に感染抑制のためのT細胞反応が定着する時点である感染4週後に、各グループ別に6匹のマウスを犠牲にして、各肺細胞(5×10細胞)を分離し、NG-Ag85AまたはG-Ag85A抗原タンパク質を5μg/mlの濃度で37℃で12時間反応させた。反応後、IFN-γ、TNF-α、および/またはIL-2を分泌するCD4CD62LおよびCD8CD62LT細胞をサイトメトリーで分析し、この際、CD4とCD8に対してゲーティングした結果を確認した。
【0087】
その結果、図7a~図7cに示されたように、G-Ag85A免疫した場合、CD4CD44T細胞は、ポリサイトカインの分泌比率がNG-Ag85Aグループに比べて有意なレベルに増加したことを確認し、特に結核防御効果に重要なIFN-γ、TNF-α、およびIL-2を同時に分泌するCD4CD44多機能性T細胞が有意な水準に増加したことを確認した。
【0088】
上述した本発明の説明は例示のためのもので、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によるグリコシル化したAg85Aタンパク質は、結核予防用ワクチンとして有用に用いることができ、しかも、前記タンパク質の生産に最適化したベクターを用いて植物体で効果的に発現し、高収率で分離することができるので、低コストで大量生産が可能なものと期待される。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図7a
図7b
図7c
図8
【配列表】
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