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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】双性イオンを含む難溶性物質溶解剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20230228BHJP
   C07D 233/60 20060101ALN20230228BHJP
   C07D 233/58 20060101ALN20230228BHJP
【FI】
C12N1/00 F
C07D233/60 102
C07D233/58
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017101161
(22)【出願日】2017-05-22
(65)【公開番号】P2018191623
(43)【公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲司
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528295(JP,A)
【文献】特表2009-503136(JP,A)
【文献】特開2001-354528(JP,A)
【文献】特開2017-000112(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008172(WO,A1)
【文献】特表2006-503943(JP,A)
【文献】特開2000-178532(JP,A)
【文献】特開2005-225865(JP,A)
【文献】特開2009-143897(JP,A)
【文献】特開平06-087721(JP,A)
【文献】特開2006-137677(JP,A)
【文献】New J.Chem.,2011年,35,1549-1555
【文献】セルロース学会年次大会講演要旨集,2016年07月01日,Vol.23,pp.33-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C07D 233/00-233/96
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記式(1)
【化1】


(式中、Aは、COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、CH OCH CH -又はCH OCH CH OCH CH であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、ルキル基である。)
で表される双性イオンを含む水難溶性物質(多糖類を除く)の溶解剤。
【請求項2】
前記双性イオンが、下記式(2)
【化2】


(式中、R及びRは、請求項1で定義したとおりである。)
で表される請求項1に記載の難溶性物質(多糖類を除く)の溶解剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双性イオン、並びに双性イオンを含む培地用添加剤及び難溶性物質溶解剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞を用いたアッセイにおいて薬剤等の水難溶性の物質(以下、「難溶性物質」という)を培地に添加する場合には、その難溶性物質の溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)がしばしば用いられる。しかし、DMSOはその濃度が高くなると、細胞毒性を呈することが知られていた(非特許文献1)。そのため、難溶性物質を培地に添加する際には、例えば、添加した物質量の100倍から1000倍になるようにDMSOで溶解し、培地に必要量添加することによって、培地中のDMSO濃度が1%~0.1%になるように調整している。しかし、細胞に対するDMSOの悪影響は避けられず、したがって、DMSOに代替でき、細胞に対する毒性がより小さく、難溶性物質を良く溶解するような、溶媒として用いられる培地用の新規添加剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】山田他,“動物培養細胞の増殖に影響を及ぼす因子に関する研究”,九大農学芸誌,第34巻,第1・2号,1-6(1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、細胞に対する毒性が小さく、溶媒として従来のDMSOの代わりに用いることができる培地用の添加剤を提供するものである。また、医薬等の難溶性物質の溶解剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、1分子内に正電荷と負電荷の両方を有する双性イオン(zwitterion)が、細胞に対して低毒性であり、また、種々の難溶性物質を良好に溶解可能であることを見い出し、発明を完成した。一般に、有機イオン、特にイオン液体と認識されている有機イオン(イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン等をカチオンとする有機塩)は、カチオンのアルキル鎖(ヘテロ元素を含み得る)が細胞膜へ挿入されることで毒性を示すことが知られている(Lim, G. S., Zidar, J., Cheong, D. W., Jaenicke, S. & Klahn, M. Impact of ionic liquids in aqueous solution on bacterial plasma membranes studied with molecular dynamics simulations. J. Phys. Chem. B 118, 10444-10459 (2014).)。その過程は以下の2段階からなる。
(1)有機塩のカチオンと脂質二重膜(細胞膜)のリン酸が静電相互作用によって接近する。
(2)有機塩のカチオンのアルキル鎖と脂質二重膜の脂質部位が疎水性相互作用することでカチオンのアルキル鎖が脂質二重膜へ挿入され、細胞膜が破壊される。
本発明者らは、カチオンのアルキル鎖の末端に、非常に極性の高いアニオンを導入し双性イオンにすることで、毒性を抑えることが可能であると考えた。具体的には、アニオンを導入することでリン酸とアニオン間の静電反発が起こり、上記(1)を阻害することができる。また、アニオンを導入することで極性が非常に高くなり、上記(2)の疎水性相互作用も抑制することができる。そのため、イミダゾリウム、ホスホニウム、アンモニウム、スルホニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム等をカチオンとする有機塩の毒性を大きく下げることができる。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0006】
(1)双性イオンを含む培地用添加剤。
(2)前記双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンである上記(1)に記載の培地用添加剤。
(3)前記双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン又はホスホニウムカチオンである上記(1)に記載の培地用添加剤。
(4)前記双性イオンのカチオン部位が、置換基として分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個のアルキル基を1個以上有する上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の培地用添加剤。
(5)前記双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間が、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の培地用添加剤。
(6)前記双性イオンが、下記式(1)
【化1】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~5個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される上記(1)に記載の培地用添加剤。
(7)前記双性イオンが、下記式(2)
【化2】
(式中、R及びRは、上記(6)で定義したとおりである。)
で表される上記(6)に記載の培地用添加剤。
(8)双性イオンを含む難溶性物質溶解剤。
(9)前記双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオンからなる群から選択されるカチオンである上記(8)に記載の難溶性物質溶解剤。
(10)前記双性イオンのカチオン部位が、イミダゾリウムカチオン又はホスホニウムカチオンである上記(8)に記載の難溶性物質溶解剤。
(11)
前記双性イオンのカチオン部位が、置換基として分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個のアルキル基を1個以上有する上記(8)~(10)のいずれか1つに記載の難溶性物質溶解剤。
(12)前記双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間が、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される上記(8)~(11)のいずれか1つに記載の難溶性物質溶解剤。
(13)前記双性イオンが、下記式(1)
【化3】
(式中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンであり、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~5個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基であり、Rは、分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である。)
で表される上記(8)に記載の難溶性物質溶解剤。
(14)前記双性イオンが、下記式(2)
【化4】
(式中、R及びRは、上記(13)で定義したとおりである。)
で表される上記(13)に記載の難溶性物質溶解剤。
(15)下記式(4)
【化5】
で表される双性イオン。
【発明の効果】
【0007】
本発明の双性イオンは、ヒト細胞等の各種細胞に対する毒性が小さく、従来のDMSOの代わりに、溶媒等の培地用添加剤として利用することができる。また、本発明の双性イオンは、種々の難溶性物質を良好に溶解するため、アッセイ等における難溶性物質の溶解剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ヒト線維芽細胞の24時間培養後の生存率を示すグラフである(2重量%)。
図2】ヒト線維芽細胞の24時間培養後の生存率を示すグラフである(10重量%)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の培地用添加剤は、双性イオンを含む。双性イオンとしては、イオン液体様のカチオン部位とイオン液体様のアニオン部位とが共有結合により連結された物質を挙げることができる。好ましくは、双性イオンのカチオン部位とアニオン部位との間は、分鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個の1個以上のアルキレン基を介して結合される。ここで、ヘテロ原子の例としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。アルキレン基の炭素数を1~5個にすることで、双性イオンの細胞に対する毒性をより弱めることができる。
【0010】
また、双性イオンのイオン液体様カチオンの例としては、1個以上の置換基を有するホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、シクロプロペニリウムカチオン及びピペリジニウムカチオン等が挙げられる。その中でも置換基を有するイミダゾリウムカチオン及びホスホニウムカチオンが好ましく用いられる。また、各置換基は互いに同一でも異なっていても良く、例えば、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~18個のアルキル基及び炭素数1~18個のアルコキシ基等から適宜選択することができる。特に、置換基は、分子鎖中に1個以上のヘテロ原子を有していても良い炭素数1~5個のアルキル基を1個以上有することが好ましい。アルキル鎖の炭素数を1~5個とすることで、細胞に対する毒性をより弱めることができる。ここでヘテロ原子としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。
【0011】
また、双性イオンのイオン液体様アニオンの例としては、カルボン酸イオン-COO、スルホン酸イオン-SO 、リン酸イオン-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O、-OP=O(OR)O(ここで、Rは、分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である)等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0012】
特に、培地用添加剤に含まれる双性イオンとして、下記式(1)
【化6】
で表される双性イオンは好ましく用いられる。式(1)中、Aは、SO 、-COO、-OP=O(H)O、-OP=O(CH)O及び-OP=O(OR)Oからなる群から選択されるアニオンである(ここで、Rは、分子鎖中にヘテロ原子を有していても良いアルキル基である)。なお、上記ヘテロ原子としては、酸素、窒素、イオウ、リン等が挙げられる。また、Rであるアルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、プロピル基等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。すなわち、本発明に係る培地用添加剤に含まれる双性イオンとして、下記の式(2)及び式(3)で表される双性イオンが包含される。好ましくは、Aは-COOである。
【化7】
【化8】
【0013】
また、式(1)~(3)において、Rは、分子鎖中に1又は2個の酸素原子を含んでいても良い炭素数1~5個のアルキル基であり、Rは、炭素数3~5個のアルキレン基である。Rの具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、CHOCHCH-、CHOCHCHOCHCH-等が挙げられる。また、Rの具体例として、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0014】
特に、培地用の添加剤として、以下の双性イオンは、細胞毒性が低いため好適に用いられる。この中で、OEimCCは新規化合物である。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0015】
また、以下に示す双性イオン(P8,8,8S)は、カチオンがイミダゾリウムイオンではなく、ホスホニウムイオンである双性イオンであるが、式(1)~(3)に示すイミダゾリウム系双性イオンと同様に細胞毒性が小さいため、培地用添加剤として用いることができる。
【化16】
【0016】
以上のような双性イオンを合成するに当たっては、当業者にとって一般的な有機合成法を適宜採用して行うことができる。すなわち、上記式(1)で表されるカチオンがイミダゾリウムイオンである双性イオンは、例えば、1-アルキルイミダゾールとエチルブロモアルキレートをアセトニトリル中で還流し、これをアニオン交換樹脂と混合した後、溶媒を減圧留去することでイミダゾリウムとカルボン酸からなる双性イオンを得ることができる。イミダゾールのアルキル基は、1個以上のヘテロ原子、例えば1又は2個の酸素原子を含んでいても良い。また、1-アルキルイミダゾールを、トリアルキルホスフィン、トリアルキルアミン、ジアルキルスルフォン、ピリジン、N-アルキルピロリジン等に変えることでカチオンがイミダゾリウムカチオン以外である双性イオンを合成することができる。また、NaHをテトラヒドロフランと混合し、イミダゾール及び1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタンを添加することでオリゴエーテル鎖が導入されたイミダゾールを得ることができる。同様に様々な官能基を持つアルキルイミダゾールやトリアルキルホスフィン、トリアルキルアミン、ジアルキルスルフォン、ピリジン、N-アルキルピロリジン等を得ることができるので、これらをアニオン部分の試薬と反応させることで所望の双性イオンを得ることができる。
【0017】
双性イオンを添加する培地は、従来知られた種々の培地が適用可能であり、培養する細胞の種類等に応じて適宜選択される。合成培地、半合成培地及び天然培地のいずれでも良く、また、液体培地及び固体培地の両方が適用可能である。具体的には、YM培地、コーンミール培地、グルコース-ブイヨン培地、肉汁培地、SIM培地等の細菌用培地、オートミール培地、麦芽汁、発酵試験培地、デンプン生成培地、酵母エキス等の真菌用培地、LB培地、Davis培地、MS培地、TG培地、DMEM培地等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
培地用添加剤は、各種アッセイ等を行うため後述の難溶性物質を溶解した状態で培地に添加される場合が一般的である。
【0019】
培地に添加される双性イオンの濃度は、培地で培養される細胞の種類等に応じて適宜設定することができるが、本発明の双性イオンは、従来のジメチルスルホキシド(DMSO)に比べて細胞に対する毒性が低く、そのため必要に応じて高い濃度で添加することが可能である。具体的には、培地中、0.001~99.9重量%、好ましくは0.01~90重量%の濃度になるよう添加することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0020】
また、培地に対して溶媒として添加する場合には、必要に応じて、双性イオンを単独で添加しても良く、あるいは別の溶媒と混合した状態で添加しても良い。このような双性イオンと組み合わせる別の溶媒としては、水、DMSO、グリセロール、メタノール、エタノール等を挙げることができる。上述の双性イオンの中には、OEimCCのように100℃で固体の化合物もあるが、固体の双性イオンであっても、例えば水を少量加えることで液体になり、他の双性イオンと同様に扱うことが可能となる。これら別の溶媒と混合する場合であっても、培地中の双性イオンの温度は上記の範囲になるよう調節することが好ましい。
【0021】
培地で培養し得る細胞の種類は特に限定されず、任意の細胞が適用可能である。例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌、細菌等の細胞が挙げられる。また、動物細胞としては、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギ等の細胞が挙げられる。さらに、細菌としては、乳酸菌、大腸菌、枯草菌、シアノバクテリア等が挙げられる。
【0022】
また、細胞の種類も特に限定されず、例えば、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞及び生殖細胞からなる群から適宜選択される。ここで「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称であり、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。
【0023】
また、「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味し、例えば、骨髄中の造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、皮膚幹細胞等が挙げられる。
【0024】
「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞をいう。好ましくは、破骨細胞、線維芽細胞、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、腎細胞、肺細胞、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ等が挙げられる。
【0025】
「生殖細胞」としては、有性生殖のための配偶子、すなわち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための胞子等が挙げられる。
【0026】
細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択しても良い。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌であり、軟部肉腫、悪性骨腫瘍等を含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」は、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもち、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。この例として、PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL-60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)等が挙げられる。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。動物細胞、植物細胞、細菌の形質転換は、従来知られた方法を用いて行われる。
【0027】
また、本発明の双性イオンは、難溶性物質の溶解剤として用いることができる。すなわち、種々の難溶性物質を双性イオンに溶解させ、これを例えば、細胞培養液に添加し、難溶性物質の有効性に関するアッセイに用いることができる。この際、本発明の双性イオンは細胞毒性が小さいため、従来のDMSOに比べて高濃度の難溶性物質を投与しやすくなり好ましい。
【0028】
難溶性物質としては、水にわずかしか溶けないという性質を有している物質であれば特に制限されるものではなく、水に対する溶解度(25℃)が、1重量%以下の物質が対象となり得る。好ましくは、0.5重量%以下であり、特に好ましくは0.1重量%以下である。このような難溶性物質は、例えば、医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧料、農薬の有効成分である物質(有効成分となり得る候補物質も含む)、食品添加物、生物由来物質や植物由来物質であり、低分子物質、及びオリゴペプチド、ポリペプチド、多糖類、DNA、RNA等のオリゴマー及び高分子物質を含む。
【0029】
難溶性の医薬品としては、日本薬局方に規定される「やや溶けにくい」「溶けにくい」「極めて溶けにくい」「ほとんど溶けない」薬物が該当し、具体的には、抗腫瘍剤、抗生物質、抗高脂血症剤、抗菌剤、アレルギー性疾患治療剤、高血圧治療剤、動脈硬化治療剤、血行促進剤、ホルモン剤、脂溶性ビタミン剤、糖尿病治療剤、抗アンドロゲン剤、強心用薬剤、不整脈用薬剤、消炎剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗てんかん剤、抗うつ剤、消化器系疾患治療剤、利尿用薬剤、局所麻酔剤、抗凝固剤、抗ヒスタミン剤、抗ムスカリン剤、抗マイコバクテリア剤、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウイルス剤、不安緩和性鎮静薬、収れん薬、β-アドレナリン受容体遮断薬、心筋変力作用剤、造影剤、コルチコステロイド、咳抑制剤、診断剤、診断用イメージング剤、利尿剤、ドパミン作用剤、脂質調整剤、筋肉弛緩薬、副交感神経作用薬、甲状腺カルシトニン、プロスタグラジン、放射性医薬、性ホルモン、刺激剤、食欲抑制剤、交感神経作用薬、甲状腺剤、血管拡張剤、イソフラボン、キサンテン等を例示することができる。
【0030】
抗腫瘍剤としては、メソトレキセート、タキソール、塩酸ドキソルビシン、塩酸ブレオマイシン、タモキシフェン、シスプラチン、カルボプラチン、シクロスポリン、HER2阻害剤、メルファラン、ダカルバジン、カルモフール、エノシタビン、エトポシド、5-フルオロウラシル、ミトキサントロン、メスナ、ジメスナ、アミノグルテチミド、アクロライン、シクロフォスファミド、ロムスチン、カルムスチン、シクロフォスファミド、ブスルファン、パラアミノサリチル酸、メルカプトプリン、テガフル、アザチオプリン、硫酸ビンブラスチン、マイトマイシンC、L-アスパラキナーゼ、ウベニメクス等を挙げることができる。
【0031】
抗生物質としては、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、ペニシリン、アミカシン、ディベカシン、バシトラシン、セファレキシン、ナイスタチン、エリスロマイシン、硫酸フラジオマイシン、セフメタゾール、トルナフテート等を挙げることができる。
【0032】
抗高脂血症剤としては、コレスチラミン、ニセリトロール、クリノフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ベザフィブラート、ソイステロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコモール、プロブコール、シンバスタチン、コレスチミド、エラスターゼ等を挙げることができる。
【0033】
抗菌剤としては、クロラムフェニコール、ロキタマイシン、ロキシスロマイシン、セファトリジン、オフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン、トシル酸トスフロキサシン、ノルフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、パズフロキサシン、セフポドキシムプロキセチル、酢酸ミデカマイシン、プロピオン酸ジョサマイシン、ホスホマイシン又はその塩等を挙げることができる。
【0034】
アレルギー性疾患治療剤としては、エバスチン、メキタジン、メトキシフェナミン、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジン、塩酸フェキソフェナジン、ジフェンヒドラミン、メトジラミン、クレミゾール等を挙げることができる。
【0035】
高血圧治療剤としては、塩酸ニカルジピン、塩酸デラプリル、塩酸バルニジピン、塩酸エホニジピン、塩酸ベニジピン、アラセプリル、カプトプリル、シルニジピン、フェロジピン、ベシル酸アムロジピン、ニソルジピン、塩酸マニジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、トランドラプリル、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、ウラピジル、カルベジロール、塩酸プラゾシン、塩酸ブナゾシン、メシル酸ドキサゾシン、レセルピン、メチルドパ、酢酸グアナベンズ、デセルピジン、メプタメ、メプタメート等を挙げることができる。
【0036】
動脈硬化治療剤としては、エラスターゼ、クロフィブラート、シンフィブラート、ソイステロール、ニコモール等を挙げることができる。
【0037】
血行促進剤としては、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルエステル、カフェイン、トラゾリン、ベラパミル、シクランデレート、アセチルコリン等を挙げることができる。
【0038】
ホルモン剤としては、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピロン酸ベクロメタゾン、プレドニゾロン、吉草酸プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、アムシノニド、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、エストリオール、フルオシノニド、ヘキセストロール、メチマゾール、プロピオン酸エストリオール、酢酸クロベタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、プロピオン酸テストステロン、エナント酸テストステロン、フルオキシメステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、安息香酸エストラジオール、プロピオン酸エストラジオール、吉草酸エストラジオール、エチニルエストラジオール、メストラノール、安息香酸酢酸エストリオール、フルオロメトロン、フルドロキシコルチド、吉草酸ジフルコルトロン、ハルシノニド、プロゲステロン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、プレグナンジオール、酢酸メドロキシプロゲステロン、ジメチステロン、ノルエチステロン、アリルエストレノール、カプロン酸ゲストノロン、オキセンドロン等を挙げることができる。
【0039】
脂溶性ビタミン剤としては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等を挙げることができる。
【0040】
糖尿病治療剤としては、グリクラジド、トルブタミド、グリベンクラミド、トログリタゾン、エパルレスタット、ブフォルミン、メトフォルミン等を挙げることができる。
【0041】
抗アンドロゲン剤としては、カプロン酸ゲストノロン、酢酸オサプロン、フルタミド、オキセンドロン、アリルエストレノール、酢酸クロルマジノン、ビカルタミド等を挙げることができる。
【0042】
強心用薬剤としては、ジゴキシン、ジゴトキシン、コビデカレノン等を挙げることができる。
【0043】
不整脈用薬剤としては、リドカイン、マロン酸ボピンドロール、塩酸アロチノロール、アテノロール、ピンドロール、ナドロール、塩酸プロパフェノン、塩酸アミオダロン、ジソピラミド、塩酸カルテオロール等を挙げることができる。
【0044】
消炎剤としては、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、アスピリン、アスピリンアルミニウム、イブプロフェン、ケトプロフェン、リチルレチン酸、サリチル酸、アセトアミノフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アミノピリン、フェナセチン、メフェナム酸、フルフェナム酸、フルフェナム酸アルミニウム、トルフェナム酸、アセメタシン、インドメタシン、アルクロフェナック、ジクロフェナック、イブプロフェンピコノール、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、ケトフェニルブタゾン、クロフェゾン、塩酸チアラミド、ジクロフェナックナトリウム、スリンダク、ナプロキセン、フェブフェン、フルルビプロフェン、フェンプロフェン、ブフェキサマック、メピリゾール、クエン酸ペリソキサール、グラフェニン、ブコローム、ペンタゾシン、メチアジン酸、プロチジン酸、プラノプロフェン、フェノプロフェンカルシウム、ピロキシカム、フェプラゾン、フェンチアザク、ベンダザク、ジメチルイソプロピルアズレン、ブフェキサマク、ブコローム、ベンジダミン、チアラミド、チノリジン、エテンザミド、テノキシカム、クロルテノキシカム、クリダナク、ナプロキセン、グリチルリチン、アズレン、カンフル、チモール、l-メントール、サザピリン、アルクロフエナク、ジクロフェナク、スプロフェン、ロキソプロフェン、ジフルニサル、チアプロフエン酸、オキサプロジン、フェルビナク等を挙げることができる。
【0045】
催眠鎮静剤としては、バルビタール、アモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタールナトリウム、ペントバルビタールカルシウム、ヘキソバルビタール、トリクロフォス、ブロムワレリル尿素、グルテチミド、メタカロン、ペルラピン、ニトラゼパム、エスタゾラム、塩酸フルラゼパム、フルニトラゼパム、エスタゾラム等を挙げることができる。
【0046】
精神安定剤としては、ジアゼパム、ロラゼパム、オキサゾラム等を挙げることができる。
【0047】
抗てんかん剤としては、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、プリミドン、フェナセミド、エチルフェナセミド、エトトイン、フエンサクシミド、ニトラゼバン、クロナゼバン等を挙げることができる。
【0048】
抗うつ剤としては、フェネルジン、イミプラニン、ノキシプチリン等を挙げることができる。
【0049】
消化器系疾患治療剤としては、ファモチジン、スクラルファート、アルジオキサ、マレイン酸イルソグラジン、メトクロプラミド、シメチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、エンプロスチル、ゲファルナート、テプレノン、スルピリド、トレピブトン、オキセサゼイン等を挙げることができる。
【0050】
利尿用薬剤としては、スピロノラクトン、クロルタリドン、ポリチアジド、トリアムテレン、ヒドロクロロチアジド、フロセミド等を挙げることができる。
【0051】
局所麻酔剤としては、アミノ安息香酸エチル、塩酸プロカイン、リドカイン、塩酸リドカイン、塩酸ジプカイン、塩酸テトラカイン、ベンジルアルコール、テーカイン、ベゾカイン、塩酸プラモキシン、塩酸カタカイン、塩酸ブタニカイン、塩酸ピペロカイン、クロロブタノール等を挙げることができる。
【0052】
抗凝固剤としては、クマリン、ヘパリン等を挙げることができる。
【0053】
抗ウイルス剤としては、アシクロビル、ネビラピン、ジドブジン、ザナミビル、オセルタミビル、ファビピラビル等を挙げることができる。
【0054】
イソフラボンとしては、オノニン、ダイゼイン、ビオカニンA、グリシテイン、ダイジン、グリシチン、ゲニスチン等が挙げられる。イソフラボンは、アグリコンであっても配糖体であって良い。
【0055】
医薬部外品又は化粧料として使用される難溶性物質としては、酢酸dl-α-トコフェロール、α-トコフェロール(ビタミンE)、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル、ラウリン酸ヘキシル、トリクロロカルバニリド、トリアジン、ベンゾフェノン、トリアゾール、オイゲノール、イソオイゲノール、メチルフェニルグリシッド酸エチル、酢酸ゲラニル、ピペロナール、酢酸シンナミル、オレイン酸デシル、酢酸テルペニル、アニリド、シンナミド、スルホン化ベンゾイミダゾール、カロチン、ピロクトンオラミン、ミノキシジル、フィトステサイド、ニコチン酸トコフェロール、エチニルエストラジオール、ポリポルステロン、エクジステロイド類等を挙げることができる。
【0056】
農薬としては、殺虫作用、殺菌作用、除草作用、植物の生長調整作用等を有する難溶性農薬活性成分であれば適用可能である。例えば、難溶性殺虫物質として、アバメクチン、アクリナトリン、アミトラズ、アザジラクチン、アザメチホス、アジンホスメチル、アゾシクロチン、メチオカルブ、チオジカルブ、トリメタカルブ、エトフェンプロックス、エチルチオメトン、メトキシクロル、クロルピリホスメチル、クロルフェンソン、クロルフルアズロン、テブフェンピラド、ベンスルタップ、ビフェントリン、ブロモプロピレート、ブプロフェジン、カルバリル、クロルフェナピル、クロフェンテゼン、クマホス、ダイアジノン、シクロプロトリン、シフルトリン、β-シフルトリン、シペルメトリン、α-シペルメトリン、θ-シペルメトリン、デルタメトリン、ジアフェンチウロン、ジコホル、ジフルベンズロン、カルボスルファン、エンドスルファン、エスフェンバレレート、エトキサゾ-ル、フェナザキン、酸化フェンブタチン、フェノキシカルブ、フェンピロキシメート、フィプロニル、フルアズロン、フルシクロクスロン、フルフェノクスロン、フルベンジアミド、フェンチオン、ハロフェノジド、ヘキサフルムロン、へキシチアゾクス、ヒドラメチルノン、メタフルミゾン、ルフェヌロン、ミルベメクチン、ノバルロン、ペンタクロロフェノール、ピリダベン、ロテノン、スルフルラミド、テブフェノジド、テブピリムホス、テフルベンズロン、テトラクロルビンホス、テトラジホン、ベンフラカルブ、トルフェンピラド、トリフルムロン、トラロメトリン、フラチオカルブ等を溶解させることができる。
【0057】
また、難溶性の殺菌物質として、ブロムコナゾール、カルプロパミド、ジクロフェン、メトコナゾール、ヘキサコナゾール、フェンチン、マンゼブ、マンネブ、ジクロメジン、アゾキシストロビン、イソプロチオラン、ベナラキシル、ベノミル、ビテルタノール、キャプタホール、キャプタン、カルベンダジム、キノメチオネート、クロロタロニル、クロゾリナート、シプロジニル、ジクロフルアニド、ジクロラン、ジクロシメット、ジエトフェンカルブ、ジメトモルフ、ジニコナゾール、ジチアノン、チアジニル、エポキシコナゾール、ファモキサドン、フェナリモル、フェンブコナゾール、フェンフラム、フェンピクロニル、フルアジナム、フルジオキソニル、フルオロイミド、フルキンコナゾール、フルスルファミド、フルトラニル,ホルペット、ヘキサクロロベンゼン、イミベンコナゾール、イポコナゾール、イプロジオン、クレソキシムメチル、メパニピリム、メプロニル、メチラム、ニッケルビス(ジメチルジチオカルバメート)、ヌアリモル、オキシン銅、オキソリン酸、ペンシクロン、フタリド、プロシミドン、プロピネブ、キントゼン、硫黄、テブコナゾール、テクロフタラム、テクナゼン、チフルザミド、チオフェネートメチル、チラム、トルクロホスメチル、トリアジメホン、トリルフルアニド、トリアジメノール、トリアゾキシド、トリホリン、トリチコナゾール、ビンクロゾリン、ジネブ、ジラム等を挙げることができる。
【0058】
難溶性除草物質としては、ブロモブチド、アクロニフェン、クロメトキシフェン、ラクトフェン、プロメトリン、プロパジン、アザフェニジン、テニルクロール、ビフェノックス、スルフェントラゾン、ピラフルフェンエチル、フルミクロラックペンチル、フルミオキサジン、アトラジン、インダノファン、ベンスルフロンメチル、ベンゾフェナップ、ブロモフェノキシム、クロルブロムロン、クロリムロンエチル、クロルニトロフェン、クロロトルロン、クロルタールジメチル、クロメプロップ、ダイムロン、デスメジフアム、ジクロベニル、ジフルフェニカン、ジメフロン、ジニトラミン、ジウロン、エタメトスルフロンメチル、トリアジフラム、フェノキサプロツプエチル、フラムプロップメチル、フラザスルフロン、フルメツラム、フルチアセットメチル、フルポキサム、フルリドン、フルルタモン、オキサジクロメホン、イソプロツロン、イソキサベン、イソキサピリホップ、レナシル、リニュロン、メフェナセット、メタベンズチアズロン、メトベンズロン、ナプロアニリド、ネブロン、ノルフルラゾン、オリザリン、オキサジアゾン、オキシフルオルフェン、フェンメディファム、プロジアミン、プロピザミド、ピラゾリネート、ピラゾスルフロンエチル、ピリブチカルブ、キンクロラック、キザロホップエチル、リムスルフロン、シデュロン、シマジン、テルブチラジン、テルブトリン、チアゾピル、トラコキシジム、トリエタジン等を挙げることができる。
【0059】
難溶性植物生長調節物質としては、シクラニリド、フルメトラリン、6-ベンジルアミノプリン、ホルクロルフェニュロン、イナベンフィド、2-(1-ナフチル)アセトアミド、パクロブトラゾール、N-フェニルフタルアミド酸、チジアズロン、ウニコナゾール等を挙げることができる。
【0060】
さらに、食品添加物である難溶性物質としては、グリチルリチン、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、安息香酸、イソオイゲノール、エルゴカルシフェロール(ビタミンD)、オイゲノール、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、β-カロチン、ギ酸シトロネリル、コレカルシフェロール(ビタミンD)、没食子酸プロピル、葉酸、レシチン、酢酸シンナミル、酢酸フェネチル、ケイ皮酸エチル、ジブチルヒドロキシトルエン、ヘキサン酸アリル、メチルβ-メチルケトン、リボフラビン酪酸エステル、dl-α-トコフェロール等を挙げることができる。
【0061】
難溶性の植物由来物質としては、キシラン、リグニン、コンドロイチン硫酸、グルコマンナン等を挙げることができる。
【0062】
ポリペプチドとしては、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、エラスチン、絹タンパク等を挙げることができる。
【0063】
難溶性の多糖類としては、キチンやキトサン等を挙げることができる。
【実施例
【0064】
次に、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
1.ヒト細胞に対する細胞毒性
(1)双性イオンOEimCCの合成
15gのNaHを50mLのテトラヒドロフランと混合し、14gのイミダゾールを添加し、一日撹拌した。37gの1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタンを加え、70℃で6時間撹拌した。溶液を取り出し、蒸留によって精製した。それを250mLのアセトニトリルと混合し、29gのエチル-4-ブロモブチレートと混合し、80℃で16時間還流した。ジエチルエーテルで洗浄後、アニオン交換樹脂と混合し、ろ過後、溶媒を減圧留去することでOEimCCを得た。
NMRデータ:δ=2.13-2.27 (4H, m, CH2CO and CH2CH2CO), 3.37 (3H, s, CH3O), 3.51-3.65 (4H, m, CH3OCH2CH2), 3.86 (2H, t, J = 3.6Hz, OCH2CH2N), 4.40 (2H, t, J=6.7Hz, NCH2CH2CH2COO), 4.66 (2H, t, J=3.7Hz, OCH2CH2N), 7.29 and 7.49 (2H, t, J= both 1.6 Hz, NCHCHN), 11.00 (1H, s, NCHN).
【0066】
(2)以下に示すイオン液体[Cmim]OAcを、Iolitech GmbH社より購入した。
【化17】
【0067】
(3)イオン液体[OEeim]OAcの合成
50mLのテトラヒドロフランと14gの1-エチルイミダゾール、26gの1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタンを加え、80℃で4時間撹拌した。イオン液体相を取り出し、ジエチルエーテルによって洗浄した。アニオン交換樹脂と混合し、イオン交換を行い、ろ過後、酢酸で中和した。小過剰の酢酸をアルミナで除き[OEeim]OAcを得た。
NMRデータ:δ=1.58 (3H, t, J=7.4Hz, CH3CH2N), 1.98 (3H, s, CH3CO), 3.37 (3H, s, CH3O), 3.51-3.67 (4H, m, CH3OCH2CH2), 3.86 (2H, t, J=4.0Hz, OCH2CH2N), 4.36 (2H, quin, J=7.4Hz, CH3CH2N), 4.62 (2H, t, J=5.4Hz, OCH2CH2N), 7.34 and 7.55 (2H, t, J= both 1.6 Hz, NCHCHN), 11.23 (1H, s, NCHN).
【化18】
【0068】
(4)培養実験
上記のOEimCC、[Cmim]OAc、[OEeim]OAc、又は有機溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を、5%仔牛血清含有ダルベッコ変法MEM培地に2重量%もしくは10重量%となるように添加し、ヒト線維芽細胞を24時間培養した。初期播種数は2.0×10細胞/ウェルとした。24時間培養後、ヒト線維芽細胞の生存率をナイルレッドを用いた方法で調べた。その結果を図1及び図2に示す。
【0069】
図1に示すように、2重量%添加した場合は、OEimCCでは細胞が全く死滅しないのに対し、双性イオンではないイオン液体、及びDMSOを用いた場合は、生存率は半分程度まで低下することが分かった。
【0070】
また、図2に示すように、10重量%になるよう添加した場合は、イオン液体では細胞の9割以上が死滅し、DMSOでは7割程度が死滅することが分かった。これに対し、OEimCCでは、20%程度の死滅に留まった。このことから、双性イオンであるOEimCCはDMSO等に比べて細胞毒性が非常に低いことが明らかとなった。
【0071】
2.難溶性物質存在下での大腸菌培養
上記1で合成したOEimCCに対し、難溶性物質としてクロラムフェニコールを終濃度が100mg/Lになるように溶解させ、LB培地によって希釈した後(OEimCC終濃度:10重量%)、大腸菌の培養を行った。菌の濃度の指標であるOD600が、24時間の培養によって0.1から3.9まで増大した。このことから、双性イオンであるOEimCCは大腸菌に対する細胞毒性が低く、難溶性物質を高濃度に溶解した状態で培地に添加し得ることが示された。
【化19】
【0072】
3.ホスホニウム系双性イオンの大腸菌に対する細胞毒性
(1)双性イオンP8,8,8Sの合成
37gのトリオクチルホスフィン及び12gのブタンスルトンを、50mLのヘキサン中で200℃10時間還流し、ヘキサン及びジエチルエーテルで洗浄することでP8,8,8Sを得た。
【0073】
(2)培養実験
8,8,8Sを1重量%添加したLB培地で、大腸菌の培養を行った。菌の濃度の指標であるOD600が24時間の培養によって0.1から0.57まで増大し、P8,8,8S存在下でも菌が増殖できることが確認された。
【0074】
4.アシクロビルの溶解実験
上記1で合成したOEimCCに対し、難溶性物質としてアシクロビル(Acyclovir)を溶解させた。
アシクロビルは、単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹等に対して有効なウイルス感染症の治療薬である。単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の治療や骨髄移植時における発症抑制、水痘、帯状疱疹の治療等に使われる。注射薬はこれらのウイルスに起因する脳炎・髄膜炎にも適応を持っている。化学的性状は、白色から微黄白色の結晶性の粉末でにおいはなく、味は苦い。ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶けやすく、酢酸にはやや溶けにくい。水に溶けにくく、メタノール及びエタノールに極めて難溶である。アセトン、1-プロパノール、ジエチルエーテル、ヘキサンにほとんど溶けない。希塩酸、希水酸化ナトリウム試液又はアンモニア試液に溶ける。
【0075】
実験を行った結果、アシクロビルは、OEimCCに80℃で5重量%溶解し、高い溶解度を示した。
【0076】
5.各種難溶性物質の溶解実験
上記1で合成したOEimCC、水、及びDMSOに対し、難溶性物質として、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、クマリン、オノニン、グリチルリチン酸、リクイリチン、コラーゲン、キシラン、リグニン、及びクロラムフェニコールをそれぞれ溶解させた。クロラムフェニコール及びコラーゲン以外の構造式を以下に示す。
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【0077】
実験の結果を表1にまとめて示す。表1中、〇は、溶解したことを示しており、具体的には15分間撹拌し、直後に目視により確認したときに均一な溶液である場合に溶解した状態であるものと判定した。×は不溶であり、〇以外の状態を表している。なお、難溶性物質の濃度は、いずれもOEimCC、水、及びDMSOに対し1重量%とした。表1に示すように、双性イオンであるOEimCCは、DMSOよりも多くの種類の難溶性物質を良好に溶解させることができた。
【表1】
【0078】
6.大腸菌に対する細胞毒性
(1)双性イオンOEimCCの合成
エチル-4-ブロモブチレートの代わりにエチル-6-ブロモヘキサノエートを用いた以外は、上記OEimCCの場合と同様にして、OEimCCを合成した。
【0079】
(2)双性イオンOE1imCCの合成
1-ブロモ-2-(2-メトキシエトキシ)エタンの代わりに1-ブロモ-エチルメチルエーテルを用いた以外は、上記OEimCCの場合と同様にしてOEimCCを合成した。
【0080】
(3)双性イオンCimCCの合成
12gの1-メチルイミダゾールを250mLのアセトニトリルと混合し、29gのエチル-4-ブロモブチレートと混合し、80℃で16時間還流した。ジエチルエーテルで洗浄後、アニオン交換樹脂と混合し、ろ過後、溶媒を減圧留去することでCimCCを得た。
【0081】
(4)双性イオンCimCCの合成
1-メチルイミダゾールの代わりに1-ブチルイミダゾールを用いた以外は、上記CimCCの場合と同様にして、CimCCを合成した。
【0082】
(5)双性イオンCimCSの合成
12gの1-メチルイミダゾールを250mLのアセトニトリルと混合し、17gの1,3-プロパンスルトンと混合し、80℃で16時間還流した。ジエチルエーテルで洗浄後、溶媒を減圧留去することでCimCSを得た。
【0083】
(6)双性イオンCimCSの合成
プロパンスルトンの代わりに1,4-ブタンスルトンを用いた以外は、上記CimCSの場合と同様にして、CimCSを合成した。
【0084】
(7)OD600値の測定
合成した各双性イオンと、上記1で用いたOEimCC、並びにイオン液体である[Cmim]OAc及び[OEeim]OAcを、LB培地にそれぞれ添加し(培地中の双性イオン又はイオン液体の濃度は0.5M)、大腸菌の成長について調べた。大腸菌の濃度の指標であるOD600が0.1となるようにLB培地中へ植菌し、37℃24時間培養後のOD600を調べた。その結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示すように、本発明の双性イオンは、2種のイオン液体に比べて、いずれもOD600値が高く、大腸菌に対する毒性が低いことが示された。
【0087】
7.低温下における大腸菌に対する細胞毒性
上記1で用いたOEimCCを、LB培地に30重量%となるように添加し、大腸菌の成長について調べた。大腸菌の濃度の指標であるOD600が0.1となるようにLB培地中へ植菌し、-10℃で10日間培養後のOD600を調べたところ0.2であった。この結果から、本発明の双性イオンは、低温下でも、大腸菌の増殖を阻害しないことが明らかとなった。
図1
図2