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特許7233670金属製フィルターエレメント及びその取り付け構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】金属製フィルターエレメント及びその取り付け構造
(51)【国際特許分類】
   B01D 35/02 20060101AFI20230228BHJP
   B01D 29/11 20060101ALI20230228BHJP
   B01D 39/12 20060101ALI20230228BHJP
   F02M 37/32 20190101ALI20230228BHJP
【FI】
B01D35/02 E
B01D29/10 501C
B01D29/10 510B
B01D29/10 530B
B01D39/12
F02M37/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017180954
(22)【出願日】2017-09-21
(65)【公開番号】P2019055361
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-09-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000237167
【氏名又は名称】富士フィルター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】林 彰彦
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】宮部 裕一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0047242(US,A1)
【文献】特開昭62-32276(JP,A)
【文献】特開2017-148713(JP,A)
【文献】特開2009-106791(JP,A)
【文献】特開平6-55018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
F01M 11/03
F02M 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が流れる燃料通路に取り付けられ、該燃料が流れる燃料系統の異物を捕捉する金属製フィルターエレメントであって、
底面部と、周面部と、軸方向における前記底面部とは反対側に形成された開口部とで構成され、
前記底面部及び周面部が、金属製素線を織り込んでなる網状の層で構成され、該網状の層が2層以上の多層構造に構成され、
前記金属製素線は、該金属製素線同士が交わる部分で焼結されてなり、
前記底面部は、下流側に向かって突出するドーム状をなし、
前記周面部には、軸方向の中間位置に前記燃料系統を構成する前記燃料通路の内周面に形成された段部、又は前記燃料通路の内側に向かって突出した凸部に係り合わせることにより固定させる固定部が該周面部自体によって形成されており
前記周面部は、前記段部又は前記凸部よりも上流側に位置する上流側燃料通路にある前記開口部側の第1周面部と、前記段部又は前記凸部よりも下流側に位置する下流側燃料通路にある前記底面部側の第2周面部と、前記第1周面部と前記第2周面部との間を連絡する前記固定部とを有し、前記第1周面部の直径が前記第2周面部の直径よりも大きく、
前記固定部は、前記第1周面部と前記第2周面部とをつなぐテーパー状の傾斜面で構成され、前記周面部の弾性変形を利用して前記段部又は前記凸部に係り合わされる、ことを特徴とする金属製フィルターエレメント。
【請求項2】
前記多層構造に構成された前記網状の層は、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が250以上500以下であるものを少なくとも1層有する、請求項に記載の金属製フィルターエレメント。
【請求項3】
燃料が流れる燃料通路に取り付けられ、該燃料が流れる燃料系統の異物を捕捉する金属製フィルターエレメントの取り付け構造であって、
底面部と、周面部と、軸方向における前記底面部とは反対側に形成された開口部とで構成され、
前記底面部及び周面部が、金属製素線を織り込んでなる網状の層で構成され、該網状の層が2層以上の多層構造に構成され、
前記金属製素線は、該金属製素線同士が交わる部分で焼結されてなり、
前記底面部は、下流側に向かって突出するドーム状をなし、
前記周面部には、軸方向の中間位置に前記燃料系統を構成する前記燃料通路の内周面に形成された段部、又は前記燃料通路の内側に向かって突出した凸部に係り合わせることにより固定させる固定部が該周面部自体によって形成されており
前記周面部は、前記段部又は前記凸部よりも上流側に位置する上流側燃料通路にある前記開口部側の第1周面部と、前記段部又は前記凸部よりも下流側に位置する下流側燃料通路にある前記底面部側の第2周面部と、前記第1周面部と前記第2周面部との間を連絡する前記固定部とを有し、前記第1周面部の直径が前記第2周面部の直径よりも大きく、
前記固定部は、前記第1周面部と前記第2周面部とをつなぐテーパー状の傾斜面で構成され、前記周面部の弾性変形を利用して前記段部又は前記凸部に係り合わされている、ことを特徴とする金属製フィルターエレメントの取り付け構造。
【請求項4】
前記多層構造に構成された前記網状の層は、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が250以上500以下であるものを少なくとも1層有する、請求項3に記載の金属製フィルターエレメントの取り付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製フィルターエレメントに関し、さらに詳しくは、燃料が流れる燃料系統で異物をろ過するための金属製フィルターエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等では、燃料が収容されている燃料タンクからエンジンに燃料を噴射する燃料噴射部までの間を構成している燃料系統に様々な構成要素がつながれている。燃料系統では、燃料噴射部を含む各構成要素が適切に動作をすることで、エンジンを正常に作動させることが可能になる。そのため、燃料系統に含まれる異物を確実に捕捉することが必要である。
【0003】
従来、燃料供給ポンプ等、燃料系統につながれている種々の構成要素に用いられているフィルターエレメントは、樹脂材で製造することが主流であった。ところが、樹脂材で製造されたフィルターエレメントは、使用時間が経つにつれ、目開きが徐々に大きくなり、濾過性能が徐々に低下するという問題点があった。
【0004】
一方、燃料供給ポンプに使用されているフィルターエレメントとして、例えば、特許文献1で提案されているフィルターエレメントがある。このフィルターエレメントは、燃料供給ポンプに用いられるものである。具体的に、燃料供給ポンプのポンプ本体を保持すると共に、内燃機関に固定するためのフランジ部の内部にフィルターエレメントは設けられている。このフィルターエレメントは、内部が空洞の円筒状をなしており、その上部にフィルターエレメントの本体から径方向の外側にやや張り出した被保持部分が設けられている。このフィルターエレメントは、燃料供給ポンプにおける燃料入り口側の通路の内部に圧入されることにより取り付けられている。
【0005】
また、特許文献2で提案されているフィルターエレメントは、高圧燃料供給ポンプに用いられているものである。このフィルターエレメントは、高圧燃料供給ポンプの吸入ジョイント内に固定されている。フィルターエレメントは、フィルター本体部の上部に径方向の外側に張り出した被保持部分が形成されていて、この被保持部分が通路の内部に固定されている。
【0006】
その他に、例えば、特許文献3で提案されている金属製のものがある。特許文献3で提案されているフィルターエレメントは、燃料の入口となる開口端側の大径部と、筒壁に多数の細孔を形成した小径部とを有している。細孔は濾過孔となるもので、異物より小さく形成されていて、薄片状の異物を捕捉する。底部となる小径部の端部は半球面状をなし、その外周面と装着穴の内周面との間に形成される流路の断面積が閉鎖端側へ向けて徐々に拡大するように形成されている。このフィルターエレメントは、ステンレス鋼等の金属材料を冷間鍛造で成形して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-170263号公報
【文献】特開2014-105668号公報
【文献】特開2004-122100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で提案されているフィルターエレメントは、その材料が示されておらず、長期間にわたって使用しても目開きが大きくならないようにするためにはどのような材料が適しているのかを判断することができない。
【0009】
また、特許文献3で提案されているフィルターエレメントによれば、使用時間の経過に伴って、孔が大きくなることがないので、フィルターエレメントの捕捉性能が低下することは抑制することができると考えられる。しかしながら、このフィルターエレメントは、金属部材に細かい孔を複数形成した構造であり、単位面積当たりに占める孔の面積が小さく、目詰まりを起こし、異物の捕捉量が多くなるにしたがい、フィルターエレメントを通過する燃料の圧力が高くなるおそれがある。また、このフィルターエレメントは、金属材料に細かい孔を複数形成した構造のものであり、金属部材に複数の細かい孔を形成しなければならないので、製造することが困難である。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、長期間にわたって使用しても異物を確実に捕捉し、且つ、燃料の圧力の上昇することを抑え、さらに、容易に製造することができる金属製フィルターエレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る金属製フィルターエレメントは、燃料が流れる燃料系統の異物を捕捉する金属製フィルターエレメントであって、底面部と、周面部と、軸方向における前記底面部とは反対側に形成された開口部とで構成され、前記底面部及び前記周面部が織り込んでなる金属製素線で構成され、前記金属製素線は、該金属製素線同士が交わる部分で焼結されてなり、前記底面部は下流側に向かって突出するドーム状をなし、前記周面部には、軸方向の中間位置に前記燃料系統を構成する燃料通路の内周面に形成された段部、又は前記燃料通路の内側に向かって突出した凸部に係り合わせることにより固定させる固定部が該周面部自体によって形成されている、ことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、金属製フィルターエレメントの底面部と周面部とが織り込んでなる金属製素線で構成され、金属製素線同士が交わる部分で焼結されているので、金属製フィルターエレメントの強度を高くすることができ、利用時間の経過にともなって目開きが大きくなることを抑制し、長期間にわたって異物を捕捉することができる。また、金属素線を織り込むことで構成されているので、単位面積当たりに形成される液体透過部分を一定の割合にすることができ、目詰まりが起きにくく、燃料の圧力が上昇することを抑制することができる。また、周面部における軸方向の中間部分に固定部が周面部自体によって形成されているので、金属製フィルターエレメントとは異なる部材を金属製フィルターエレメントに組み合わせる必要が無く、金属製フィルターエレメントの構造を簡素にすることができ、容易に製造することができる。
【0013】
本発明に係る金属製フィルターエレメントにおいて、前記固定部は、前記周面部の弾性変形を利用して前記段部又は前記凸部に係り合わせている。
【0014】
この発明によれば、固定部は周面部の弾性変形を利用して段部又は凸部に係り合わせているので、燃料系統を構成する燃料通路に対し、金属製フィルターエレメントを着脱可能に構成することができる。そのため、金属製フィルターエレメントが、燃料の流れを低下させてしまうような異物を捕捉した場合に、金属製フィルターエレメントを燃料通路から一旦取り外し、洗浄をした後に、金属製フィルターエレメントを燃料通路に再度取り付けることができる。
【0015】
本発明に係る金属製フィルターエレメントにおいて、前記周面部は前記開口部側の第1周面部と、前記底面部側の第2周面部とを有し、前記第1周面部の直径が前記第2周面部の直径よりも大きく、前記固定部は、前記第1周面部と前記第2周面部とをつなぐテーパー状の面で構成されている。
【0016】
この発明によれば、底面部側に設けられている、直径が小さい第2周面部を燃料通路の下流側に向けて段部又は凸部の内側に挿入し、次いで、テーパー状の面で構成されている固定部を段部又は凸部の内側に向けて押し込むだけで金属製フィルターエレメントを取り付けることができる。また、固定部がテーパー状をなしているので、流体を円滑に通し、圧力が上昇することを抑制することができる。
【0017】
本発明に係る金属製フィルターエレメントにおいて、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が250以上500以下である。
【0018】
この発明によれば、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が500以下であるので、金属製フィルターエレメントは燃料を円滑に透過させ、メッシュ数が250以上であるので、燃料に含まれる30μmよりも大きな異物を捕捉することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、長期間にわたって使用しても異物を確実に捕捉し、且つ、圧力の上昇することを抑え、さらに、容易に製造することができる金属製フィルターエレメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る第1実施形態の金属製フィルターエレメントの側面図である。
図2】本発明に係る第2施形態の金属製フィルターエレメントの側面図である。
図3】金属製フィルターエレメントが燃料通路に取り付けられる形態を説明するための説明図である。
図4】金属製フィルターユニットの捕捉性を表すグラフである。
図5】ナイロン製フィルターユニットの捕捉性を表すグラフである。
図6】金属製フィルターユニットが異なる粒子径の異物を捕捉する粒子径ごとの濾過効率を表すグラフである。
図7】ナイロン製フィルターユニットが異なる粒子径の異物を捕捉する粒子径ごとの濾過効率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下に説明する実施形態及び図面に記載した形態と同じ技術的思想の発明を含むものであり、本発明の技術的範囲は実施形態の記載や図面の記載のみに限定されるものでない。
【0022】
[基本構成]
本発明に係る金属製フィルターエレメント1は、燃料が流れる燃料系統の異物を捕捉するものである。金属製フィルターエレメント1は、底面部2,12、周面部3、13、及び軸方向における底面部2,12とは反対側に形成された開口部7,17で構成されている。底面部2,12及び周面部3,13は織り込んでなる金属製素線で構成されており、金属製素線は、金属製素線同士が交わる部分で焼結されている。底面部2,12は下流側に向かって突出するドーム状をなしている。周面部3,13には、軸方向の中間位置に燃料系統を構成する燃料通路30,40の内周面に形成された段部、又は燃料通路30,40の内側に向かって突出した凸部に係り合わせることにより固定させる固定部6,16が、周面部3,13自体によって形成されている。
【0023】
本発明に係る金属製フィルターエレメント1によれば、長期間にわたって使用しても異物を確実に捕捉し、且つ、圧力の上昇することを抑え、さらに、容易に製造することができるという特有の効果を奏する。以下、各構成について具体的に説明する。
【0024】
[第1実施形態]
第1実施形態の金属製フィルターエレメント1Aは、図1に示すように、金属素線を織り込んでなる網状の部材で構成されている。金属製フィルターエレメント1Aは、内部が空洞の筒状又は略筒状をなしていて、底面部2と周面部3とで構成されている。軸方向における底面部2の位置とは反対側の部分は、開かれた開口部7が形成されている。なお、軸方向とは、筒状又は略筒状の中心を通り、金属製フィルターエレメント1Aの底面部2側と開口部側とを結ぶ仮想の中心線である。金属製フィルターエレメント1Aを構成している金属製素線の材質は、織り込んで金網を形成することができる材料であれば特に限定されないが、ステンレス鋼を用いることが好ましい。ステンレス鋼の中でも、例えば、SUS316Lを用いることが好ましい。また、金属素線により構成される網状の部材は、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が250以上、500以下に形成されている。メッシュ数が500以下であるので、金属製フィルターエレメントは燃料を円滑に透過させ、メッシュ数が250以上であるので、燃料に含まれる30μmよりも大きな異物を捕捉する。
【0025】
金属製フィルターエレメント1Aを構成している金属素線は、金属素線同士が交わる部分が焼結されている。すなわち、金属素線は、金属素線同士が交わる部分で焼結結合されている。そのため、金属製フィルターエレメント1Aの強度を高くすることができ、利用時間の経過にともなって目開きが大きくなることを抑制することができ、長期間にわたって異物を捕捉することができる。金属製フィルターエレメント1Aにおいて、金属素線で多層を構成して金属素線同士を焼結する多層焼結により構成するとよい。具体的に、金属製フィルターエレメント1Aは、金属製フィルターエレメント1Aの外側から、例えば、(1)保護層、ファイン層、保護層の3層構造、(2)保護層、補強層、ファイン層の3層構造、(3)補強層、保護層、ファイン層の3層構造等のように多層構造に構成するとよい。ファイン層は、濾過するために設けられ、金属素線を織り込んでなる層であって、他の層に比べて目開きが小さい層である。ファイン層は他の層に比べて相対的に柔らかく構成されている。保護層とは、ファイン層を保護するための金属素線を織り込んでなる層である。また、補強層とは、金属製フィルターエレメント1Aの強度及び剛性を向上又は維持するための、金属素線を織り込んでなる層である。ただし、多層構造であれば、3層構造には限定されず、2層構造に形成したり、4層以上の多層構造に形成したりしてもよい。金属製フィルターエレメント1Aを多層構造にすることによって、金属製フィルターエレメント1Aは、高い形状保持性を備えることができる。
【0026】
(底面部)
底面部2は、ドーム状に形成されており、径方向の中心が金属製フィルターエレメント1Aの軸方向の外側に向かって突出する形態をなしている。金属製フィルターエレメント1Aが燃料通路30,40のいずれかの位置に取り付けたときに、底面部2は燃料通路30,40の下流側に向けられる。底面部2はドーム状をなしているので、局部的に応力がかかることがなく、金属製フィルターエレメント1Aが破損することを抑制することができる。
【0027】
(周面部)
周面部3は、軸方向の異なる領域の直径が異なっている。具体的に、開口部7側に位置する第1周面部4と底面部2側に位置する第2周面部5とで構成されていて、第1周面部4の直径は第2周面部5の直径よりも大きい。図1に示した例の金属製フィルターエレメント1Aにおいて、第2周面部5は第1周面部側の直径よりも底面部2側の直径が小さく形成されていて、テーパー状をなしている。ただし、第2周面部5は、第1周面部4側の直径と底面部2側の直径とを同じ大きさに形成し、軸方向に直線状に延びる形態としてもよい。
【0028】
第1周面部4と第2周面部5との境界部分は傾斜面であり、第1周面部4と第2周面部5とはこの傾斜面で連絡されている。この傾斜面は、後述する燃料通路30,40の内部に係り合わせて固定させるための固定部6として構成されている。言い換えると、固定部6は、第1周面部4側から第2周面部5側に向かって直径が徐々に小さくなるようにテーパー状をなしている。
【0029】
この金属製フィルターエレメント1Aの周面部3において、固定部6が第1周面部4と第2周面部5との間を連絡する傾斜面、すなわちテーパー状の面で構成されているので、燃料が固定部6を通過するときに、燃料の圧力が急激に上昇することを抑制する。また、固定部6が傾斜面で形成されることにより、金属製フィルターエレメント1Aを、燃料系統を構成する燃料通路30,40のいずれかの位置に配置するときに、燃料通路30,40の内部に形成された段部32、又は燃料通路30,40の内周面から中心に向かって突出して凸部41の内側に押し込むだけで、金属製フィルターエレメント1Aを燃料通路30,40に着脱可能に固定させることができる。ここでいう燃料通路30,40とは、例えば、燃料系統を構成している燃料ポンプ、燃料フィルター、コモンレール、インジェクタ、燃料パイプ等に形成された燃料が流れる通路の部分を意味する。
【0030】
この金属製フィルターエレメント1Aにおいて、上述したように保護層を含む多層構造に形成することによって、固定部6の形状にかかわらず、ファイン層を損傷させることなく金属製フィルターエレメント1Aを燃料通路30,40に固定することができる。
【0031】
[第2実施形態]
第2実施形態の金属製フィルターエレメント1Bについても、第1実施形態の金属製フィルターエレメント1Aと同様に、金属素線を織り込んでなる網状の部材で構成されている。また、金属製フィルターエレメント1Bの基本的な構成は、金属製フィルターエレメント1Aと同様であって、内部が空洞の筒状又は略筒状をなしていて、底面部12と周面部13とで構成されている。また、軸方向における底面部12の位置とは反対側の部分は、開かれた開口部17が形成されている。軸方向とは、筒状又は略筒状の中心を通り、金属製フィルターエレメント1Aの底面部2側と開口部側とを結ぶ仮想の中心線である。この金属製フィルターエレメント1Bを構成している金属製素線についても、ステンレス鋼を用いることが好ましく、ステンレス鋼の中でも、例えば、SUS316Lを用いることが好ましい。また、金属素線により構成される網状の部材は、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が250以上、500以下に形成されている。メッシュ数が500以下であるので、金属製フィルターエレメントは燃料を円滑に透過させ、メッシュ数が250以上であるので、燃料に含まれる30μmよりも大きな異物を捕捉する。金属素線は、金属素線同士が交わる部分で焼結結合されている。すなわち、金属素線は、金属素線同士が交わる部分で焼結結合されている。そのため、金属製フィルターエレメント1Aの強度を高くすることができ、利用時間の経過にともなって目開きが大きくなることを抑制することができ、長期間にわたって異物を捕捉することができる。
【0032】
(底面部)
底面部12は、ドーム状に形成されている。金属製フィルターエレメント1Bについても、金属製フィルターエレメント1Aと同様に、軸方向の外側に向かって、径方向の中心が外側に向かって突出しており、燃料通路30,40に取り付けたときに、底面部12は燃料通路30,40の下流側に向けられる。底面部12はドーム状をなしているので、局部的に応力がかかることがなく、金属製フィルターエレメント1Bが破損することを抑制することができる。
【0033】
(周面部)
周面部13は、開口部17が位置する第1周面部14と底面部12側に位置する第2周面部15とで構成されていて、第1周面部14の直径は第2周面部15の直径よりも大きい。図2に示した例の金属製フィルターエレメント1Bにおいて、第2周面部15は第1周面部側の直径よりも底面部2側の直径が小さく形成されていて、テーパー状をなしている。金属製フィルターエレメント1Bでは、第2周面部15が金属製フィルターエレメント1Bの第2周面部5よりも直径が小さく形成されていて、外観が細長い形態をなしている。ただし、この第2周面部15に関しても、第2周面部5と同様に、第1周面部14側の直径と底面部12側の直径とを同じ大きさに形成し、軸方向に直線状に延びる形態としてもよい。第1周面部14と第2周面部15とは、傾斜面をなす固定部16で連絡されている。この金属製フィルターエレメント1Bについても、固定部16が第1周面部4と第2周面部5との間を連絡する傾斜面で構成されているため、燃料が固定部6を通過するときに、燃料の圧力が急激に上昇することを抑制する。
【0034】
金属製フィルターエレメント1Bについても、金属素線は、金属素線同士が交わる部分が焼結されている。金属製フィルターエレメント1Bにおいても、金属製フィルターエレメント1Bの外側から、例えば、(1)保護層、ファイン層、保護層の3層構造、(2)保護層、補強層、ファイン層の3層構造、(3)補強層、保護層、ファイン層の3層構造等のように多層構造に構成するとよい。ファイン層は、濾過するために設けられ、金属素線を織り込んでなる層であって、他の層に比べて目開きが小さい層である。ファイン層は他の層に比べて相対的に柔らかく構成されている。保護層とはファイン層を保護するための金属素線を織り込んでなる層である。また、補強層とは、金属製フィルターエレメント1Aの強度及び剛性を向上又は維持するための、金属素線を織り込んでなる層である。ただし、多層構造であれば、3層構造には限定されず、2層構造に形成したり、4層以上の多層構造に形成したりしてもよい。このように多層構造に形成することによって、金属製フィルターエレメント1Bは、高い形状保持性を備えることができる。また、この金属製フィルターエレメント1Bにおいても、保護層を含む多層構造に形成することによって、固定部16の形状にかかわらず、ファイン層を損傷させることなく金属製フィルターエレメント1Bを燃料通路30,40に固定することができる。
【0035】
[金属製フィルターエレメントの取り付け形態]
以上、本発明に係る金属製フィルターエレメント1は、例えば、燃料系統を構成し、燃料が流れる燃料通路30,40のいずれかの位置に取り付けられる。燃料通路30,40は、例えば、燃料系統を構成している燃料ポンプ、燃料フィルター、コモンレール、インジェクタ、燃料パイプ等に形成された燃料が流れる通路の部分である。図3は、金属製フィルターエレメント1Aを例として、金属製フィルターエレメント1が燃料通路30,40のいずれかの位置に取り付けられる形態を示している。
【0036】
図3(A)は、金属製フィルターエレメント1Aが燃料通路30に形成された段部32に取り付けられている形態を示している。図3(A)において、燃料通路30は段部32が形成されており、燃料通路30は、段部32よりも上流側に位置する上流側燃料通路31と、段部32よりも下流側に位置し、直径が上流側燃料通路31よりも小さい、下流側燃料通路33とを有している。金属製フィルターエレメント1Aは、固定部6が段部32にはめ込まれ、燃料通路30に取り付けられる。周面部3は、周面部3は網目状をなしている。そのため、固定部6を含む周面部3は全体的に弾性体として機能する。そのため、金属製フィルターエレメント1Aは、固定部6が周面部3をなす固定部6自体の弾性変形を利用して段部32に係り合わせることにより燃料通路30に取り付けられる。また、金属製フィルターエレメント1Aは、底面部2を下流側に向けて燃料通路30に取り付けられる。
【0037】
図3(B)は、金属製フィルターエレメント1Aが燃料通路40に形成された凸部41に取り付けられている形態を示している。図3(B)において、燃料通路40には、その内周面から中心側に向かって突出する凸部41が形成されている。金属製フィルターエレメント1Aは、固定部6が凸部41にはめ込まれ、燃料通路40に取り付けられる。その際、金属製フィルターエレメント1Aは、固定部6が周面部3をなす固定部6自体の弾性変形を利用して凸部41に係り合わせることにより燃料通路30に取り付けられる。また、金属製フィルターエレメント1Aは、底面部2を下流側に向けて燃料通路40に取り付けられる。
【0038】
以上に説明した金属製フィルターエレメント1は、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が500以下であるので、金属製フィルターエレメントは燃料を円滑に透過させ、メッシュ数が250以上であるので、燃料に含まれる30μmよりも大きな異物を捕捉する。また、ろ過する燃料の圧力が約35MPaまでの部位に用いることができる。また、燃料の温度は、-40℃以上、150℃以下の環境下で用いることができる。また、このような金属製フィルターエレメント1は、目的、用途、使用場所に適した形状に形成して用いることができる。
【0039】
[実験例]
異物の捕捉性能を確認するために、本発明に係る金属製フィルターエレメント1とナイロン製フィルターエレメントにつてテストサンプルを製作し、テストを行った。テストは、金属製フィルターエレメント1のサンプルとナイロン製フィルターエレメントのサンプルが、実際に異物を捕捉するかどうかを確認する捕捉実効性の確認テスト、及びどの程度の粒子径の異物をどの程度捕捉するかを確認する異物種類確認テストを行った。
【0040】
〈捕捉性の確認テスト〉
捕捉性の確認テストは、異物を含ませていない流体を金属製フィルターエレメント1のサンプルとナイロン製フィルターエレメントのサンプルとに流した場合と、異物を含ませた流体を金属製フィルターエレメント1のサンプルとナイロン製フィルターエレメントのサンプルとに流した場合とで、各サンプルが流体を透過する流体の重さがどの程度変化するかを測定することにより行った。テストは、金属製フィルターエレメント1のサンプルを5個製作し、ナイロン製フィルターエレメントのサンプルを4個製作して行った。金属製フィルターエレメント1のサンプルは、ステンレス鋼の素線で、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の数を表すメッシュ数が250となるようにして製作した。同様に、ナイロン製フィルターエレメントのサンプルについても、縦及び横の寸法が1インチの正方形の内側に存在する目の孔の粒子径が30μmとなるようにして製作した。
【0041】
テストは、異物を含ませない流体を各サンプルに流した場合と、意図的に異物を含ませた流体を各サンプルに流した場合とについて行った。流体は、油性オイルの第4類第2石油類(非水溶性)、具体的には、アクア化学株式会社のアクアソルベントGFを用い、異物は、アメリカSAE規格J726Cに規定されたAir Cleaner Test DustのCoarseを用いた。流体の圧力は、0.022MPaとした。テストは、流体をサンプルに流した時間と各時間においてサンプルを透過する流体の重さとの関係を測定した。流体の重さは、流体を通す流路の出口に、重さを測定する測定器と測定器に載せたビーカーと置き、ビーカーで管から吐出する液体を受け、一定時間ごとにビーカーに貯められた流体の重さを自動的に測定して行った。
【0042】
図4のグラフは、金属製フィルターエレメント1のサンプルのテスト結果を示している。グラフの横軸は時間(秒)を表し、縦軸は、透過した流体の重さ(グラム)を表している。図4のグラフには、5個のサンプルの測定値の平均値をプロットしてある。点線は、異物を含まない流体を流したときの測定結果であり、実践は、異物を含んだ流体を流したときの測定結果である。
【0043】
図4に示すように、異物を含まない流体を流した場合、サンプルを透過する流体の重さの変化率は、時間の経過と共に直線的に延びており、時間が経過しても、サンプルを透過する流体の重さに変化はない。これに対し、異物を含ませた流体を流した場合、サンプルを透過する流体の重さの変化率は、時間が経過するにしたがって、次第に小さくなっている。すなわち、異物を含ませた流体を流した場合、サンプルを透過する流体の重さは、徐々に少なくなっている。これは、異物がサンプルの編み目を塞ぎ、流体が通過する重さが減少していることによるものである。
【0044】
図5のグラフは、ナイロン製フィルターエレメントのサンプルのテスト結果を示している。グラフの横軸及び縦軸は、図4と同様である。図5のグラフには、4個のサンプルの測定値の平均値をプロットしてある。点線は、異物を含まない流体を流したときの測定結果であり、実践は、異物を含んだ流体を流したときの測定結果である。
【0045】
図5に示すように、異物を含まない流体を流した場合、サンプルを透過する流体の重さの変化率は、時間の経過と共に直線的に延びており、時間が経過しても、サンプルを透過する流体の重さに変化はない。また、異物を含ませた流体を流した場合についても、サンプルを透過する流体の重さの変化率は、時間が経過しても変化していない。すなわち、サンプルを透過する流体の重さは、時間が経過しても変化しない。これは、サンプルが異物を捕捉していないことが考えられる。
【0046】
〈異物種類確認テスト〉
異物種類確認テストは、種々の粒子径の異物をそれぞれ含ませた複数の種類の流体を金属製フィルターエレメント1のサンプルとナイロン製フィルターエレメントのサンプルとにそれぞれを流し、各粒子径の異物がどの程度捕捉されているかを測定することにより行った。テスト用の流体は、Air Cleaner Test DustのCoarseを含ませた流体について行った。この流体は、異物を3mg/Lの濃度になるように含ませた。また、テストは、金属製フィルターエレメント1のサンプルを10個製作し、ナイロン製フィルターエレメントのサンプルを2個製作して行った。金属製フィルターエレメント1のサンプル及びナイロン製フィルターエレメントは、捕捉実効性の確認テストで用いたサンプルと同様のものを用いた。
【0047】
図6のグラフは、金属製フィルターエレメント1のサンプルのテスト結果を示している。横軸は、捕捉された異物の粒子径(μm)を表し、縦軸は、各粒子径の異物を捕捉することができた割合(%)を表している。このグラフに示すように、金属製フィルターエレメント1のサンプルでは、10μmの異物の濾過効率は、10個のサンプルについて、約12%から38%の範囲内であった。20μmの異物については、約38%から約68%の濾過効率であり、30μmの異物については、約67%から約87%の濾過効率であった。10μmから30μmの異物の濾過効率は、10個のサンプルの中でも、第1のサンプル(sampleNo.1)の濾過効率が高かった。40μmの異物については、約79%から約95%の濾過効率であり、50μmの異物については、約84%からほぼ100%の濾過効率であった。40μm及び50μmの異物の濾過効率は、10個のサンプルの中でも、第4,第7及び第8のサンプル(sampleNo.4,7,8)の濾過効率が高かった。この実験結果から明らかなように、金属製フィルターエレメント1のサンプルでは、大きな異物の濾過効率は高く、大きな異物を捕捉する確実性は増している。
【0048】
これに対し、図7のグラフは、ナイロン製フィルターエレメントのサンプルのテスト結果を示している。このグラフの横軸及び縦軸が表す内容は、図6と同じである。このグラフに示すように、ナイロン製フィルターエレメントのサンプルでは、Aサンプルの10μmの異物の濾過効率は約17%、Bサンプルの10μmの異物の濾過効率は約4%であった。20μmの異物については、Aサンプル及びBサンプル共に約12%の濾過効率であり、30μmの異物については、Aサンプル及びBサンプル共に約65%の濾過効率であった。40μmの異物の濾過効率については、Aサンプルの濾過効率が約78%、Bサンプルの濾過効率が約75%であった。
【0049】
50μmの異物については、Aサンプルの濾過効率が約79%、Bサンプルの濾過効率が約62%に低下した。この実験結果から明らかなように、ナイロン製フィルターエレメントのサンプルでは、各粒子径の濾過効率は金属製フィルターエレメント1のサンプルの濾過効率よりも小さ易ことが分かる。また、大きな異物の濾過効率は向上せず、40μm以上の粒子径の異物については、40μmの濾過効率と比較して横ばいか、又は低下してしまう。
【0050】
この実験結果から明らかなように、金属製フィルターエレメント1は、ナイロン製フィルターエレメントよりも、大きな異物を捕捉する確実性は増していることが分かる。金属製フィルターエレメントは、金属線同士を焼結結合させているので、高い強度を維持でき、長期間の使用によっても目開きか大きくなることを抑制し、異物を確実に捕捉することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 金属製フィルターエレメント
2,12 底面部
3,13 周面部
4,14 第1周面部
5,15 第2周面部
6,16 固定部
7,17 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7