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特許7233672経真皮免疫療法における治療適量の判定方法及び判定キットの開発
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】経真皮免疫療法における治療適量の判定方法及び判定キットの開発
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/35 20060101AFI20230228BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 39/36 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A61K39/35 ZMD
A61P37/08
A61K39/36
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017246424
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019112335
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 発行日 2017年6月24日 刊行物 第26回 日本臨床環境医学会学術集会 抄録(その2) 開催日 2017年6月24日から2017年6月25日 集会名、開催場所 第26回 日本臨床環境医学会学術集会 東海大学高輪キャンパス(東京都港区高輪2-3-23)(その3) 発行日 2017年10月20日 刊行物 第54回日本小児アレルギー学会学術大会 抄録(その4) 開催日 2017年11月18日から2017年11月19日 集会名、開催場所 第54回日本小児アレルギー学会学術大会
(73)【特許権者】
【識別番号】517450150
【氏名又は名称】西影 京子
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西影 京子
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】Radcliffe, M. J. et al.,Allergen-specific low-dose immunotherapy in perennial allergic rhinitis: a double-blind placebo-controlled crossover study,J Investig Allergol Clin Immunol,1996年,Vol.6, No.4,p.242-247,(abstract) PubMed [online]; U.S. National Library of Medicine, [2021年12月27日検索], インターネット<URL: https:pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8844501/>
【文献】石井 豊太,減感作療法のやり方とは?,Q&Aでわかるアレルギー疾患,2006年,第2巻, 第3号,p.260-261
【文献】Radcliffe, M. J. et al.,Allergen-specific low-dose immunotherapy in perennial allergic rhinitis: a double-blind placebo-controlled crossover study,Journal of Investigational Allergology & Clinical Immunology,1996年,Vol.6, No.4,p.242-247
【文献】Yasuda, T. et al.,Intradermal Delivery of Antigens Enhances Specific IgG and Diminishes IgE Production: Potential Use for Vaccination and Allergy Immunotherapy,PLoS One,2016年,Vol.11, No.12,e0167952,doi:10.1371/journal.pone.0167952
【文献】大久保 公裕 ほか,「標準化アレルゲン治療エキス「トリイ」スギ花粉」を用いた抗原特異的免疫療法の検討,耳鼻咽喉科免疫アレルギー,2000年,第18巻, 第4号,p.29-34
【文献】原口 美穂子 ほか,当科アレルギー外来において過去2年間にアレルゲン免疫療法を開始した患者の現況,耳鼻と臨床,2013年,第59巻, 第3号,p.93-100
【文献】矢上 晶子, 松永 佳世子,アレルギー実践講座 皮膚テストの実際,アレルギー,2008年,第57巻, 第5号,p.513-518
【文献】Rotiroti, G. et al.,Repeated low-dose intradermal allergen injection suppresses allergen-induced cutaneous late responses,The Journal of Allergy and Clinical Immunology,2012年,Vol.130, No.4,918-24.e1,doi:10.1016/j.jaci.2012.06.052
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
PubMed
医中誌WEB
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮内接種されるアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物であって、
前記治療用アレルゲン含有組成物の1回の接種量は、アレルギー疾患を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って決定された、前記アレルゲンの最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose)であり、
前記最大皮内耐量は、下記工程Aを含む皮膚プリックテスト工程と、工程B~D、工程B~D及びE1、又は工程B~D及びE2を含む皮内テスト工程を含む方法により決定される、組成物;
工程A:前記接種対象に対して、前記アレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物に含まれるアレルゲンと同種のアレルゲンを用いた皮膚プリックテストを実施し、接種したアレルゲンについてプリックテスト皮膚免疫反応を基準に閾値量(プリックテスト閾値量)を決定する工程であって、前記プリックテスト閾値量は、皮膚プリックテストにおいて、皮膚に所定濃度のアレルゲン溶液を滴下し、滴下部位に針を刺してから10~15分後に穿刺箇所を確認し、発赤を伴う膨疹の大きさを計測し、長径×短径が4mm×4mmの発赤を伴う膨疹を形成するアレルゲン量である工程
工程B:前記プリックテスト閾値量に基づいて、皮内テスト開始時のアレルゲンの接種量(皮内テスト開始量)を決定する工程であって、(i)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以内である場合、プリックテスト閾値量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する、又は(ii)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mmより大きい場合、プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を希釈して皮内に接種して、所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以下となるアレルゲン量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する工程、
工程C:皮内テスト開始量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位に接種し、工程Cにおけるアレルゲンの接種から所定時間後に、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、
工程D:(1)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、皮内テスト開始量のアレルゲン量を最大皮内耐量と決定し、(2)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位とは異なる部位に接種し、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、および 工程E1:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、前記工程Dにおけるアレルゲンの接種量を最大皮内耐量と決定する工程、又は
工程E2:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲンを、前記接種対象のまだアレルゲンが接種されていない皮内部位に接種することと、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定することを、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定されるアレルゲンの量まで繰り返し、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された際に接種されていた前記アレルゲン量を最大皮内耐量と決定する工程であって、前記皮内テスト皮膚免疫反応の有無は、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される、工程。
【請求項2】
前記所定時間が8~20分である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記所定時間が10~15分である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
アレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物と、皮膚穿刺器具と、を組み合わせてなる、前記アレルゲン含有組成物を皮内に接種するための、アレルギー疾患治療用キットであって、
前記アレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物は、アレルギー疾患を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って決定された、前記アレルゲンの最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose)を1回の接種量として、前記皮膚穿刺器具を用いて前記接種対象者に接種され、
前記最大皮内耐量は、下記工程Aを含む皮膚プリックテスト工程と、工程B~D、工程B~D及びE1、又は工程B~D及びE2を含む皮内テスト工程を含む方法により決定される、アレルギー疾患治療用キット;
工程A:前記接種対象に対して、前記アレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物に含まれるアレルゲンと同種のアレルゲンを用いた皮膚プリックテストを実施し、接種したアレルゲンについてプリックテスト皮膚免疫反応を基準に閾値量(プリックテスト閾値量)を決定する工程、であって、前記プリックテスト閾値量は、皮膚プリックテストにおいて、皮膚に所定濃度のアレルゲン溶液を滴下し、滴下部位に針を刺してから10~15分後に穿刺箇所を確認し、発赤を伴う膨疹の大きさを計測し、長径×短径が4mm×4mmの発赤を伴う膨疹を形成するアレルゲン量である工程
工程B:前記プリックテスト閾値量に基づいて、皮内テスト開始時のアレルゲンの接種量(皮内テスト開始量)を決定する工程であって、(i)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以内である場合、プリックテスト閾値量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する、又は(ii)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mmより大きい場合、プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を希釈して皮内に接種して、所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以下となるアレルゲン量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する工程、
工程C:皮内テスト開始量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位に接種し、工程Cにおけるアレルゲンの接種から所定時間後に、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、
工程D:(1)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、皮内テスト開始量のアレルゲン量を最大皮内耐量と決定し、(2)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位とは異なる部位に接種し、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、および
工程E1:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、前記工程Dにおけるアレルゲンの接種量を最大皮内耐量と決定する工程、又は
工程E2:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲンを、前記接種対象のまだアレルゲンが接種されていない皮内部位に接種することと、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定することを、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定されるアレルゲンの量まで繰り返し、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された際に接種されていた前記アレルゲン量を最大皮内耐量と決定する工程であって、前記皮内テスト皮膚免疫反応の有無は、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される、工程。
【請求項5】
アレルゲン含有組成物と、皮膚穿刺器具と、を組み合わせてなる、前記アレルゲン含有組成物の最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose)を決定するためのキットであって、
前記アレルゲン含有組成物の最大皮内耐量は、前記アレルゲン含有組成物と同種のアレルゲンを含むアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物を、接種対象者に皮内接種する際の1回の接種量であり、アレルギー疾患を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って、前記アレルゲン含有組成物と、皮膚穿刺器具と使用した、下記工程Aを含む皮膚プリックテスト工程と、工程B~D、工程B~D及びE1、又は工程B~D及びE2を含む皮内テスト工程を含む方法により決定される、キット;
工程A:前記接種対象に対して、アレルゲン含有組成物を用いた皮膚プリックテストを実施し、接種したアレルゲン含有組成物についてプリックテスト皮膚免疫反応を基準に閾値量(プリックテスト閾値量)を決定する工程であって、前記プリックテスト閾値量は、皮膚プリックテストにおいて、皮膚に所定濃度のアレルゲン溶液を滴下し、滴下部位に針を刺してから10~15分後に穿刺箇所を確認し、発赤を伴う膨疹の大きさを計測し、長径×短径が4mm×4mmの発赤を伴う膨疹を形成するアレルゲン量である工程
工程B:前記プリックテスト閾値量に基づいて、皮内テスト開始時のアレルゲン含有組成物の接種量(皮内テスト開始量)を決定する工程であって、(i)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン含有組成物を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以内である場合、プリックテスト閾値量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する、又は(ii)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン含有組成物を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mmより大きい場合、プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン含有組成物を希釈して皮内に接種して、所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以下となるアレルゲン含有組成物の接種量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する工程、
工程C:皮内テスト開始量のアレルゲン含有組成物を前記接種対象の第1の皮内部位に接種し、工程Cにおけるアレルゲン含有組成物の接種から所定時間後に、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、
工程D:(1)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、皮内テスト開始量のアレルゲン含有組成物の接種量を最大皮内耐量と決定し、(2)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲン含有組成物を前記接種対象の第1の皮内部位とは異なる部位に接種し、このアレルゲン含有組成物の接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、および
工程E1:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、前記工程Dにおけるアレルゲン含有組成物の接種量を最大皮内耐量と決定する工程、又は
工程E2:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲン含有組成物を、前記接種対象のまだアレルゲン含有組成物が接種されていない皮内部位に接種することと、このアレルゲン含有組成物の接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定することを、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定されるアレルゲン含有組成物の量まで繰り返し、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された際に接種されていた前記アレルゲン含有組成物の接種量を最大皮内耐量と決定する工程であって、前記皮内テスト皮膚免疫反応の有無は、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される、工程。
【請求項6】
最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose)を決定するための、アレルゲン組成物であって、
前記最大皮内耐量は、前記アレルゲン含有組成物と同種のアレルゲンを含むアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物の1回の接種量を決定するために、アレルギー疾患を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って決定され、前記アレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物は、皮内接種に接種され、
前記最大皮内耐量は、下記工程Aを含む皮膚プリックテスト工程と、工程B~D、工程B~D及びE1又は工程B~D及びE2を含む皮内テスト工程を含む方法により決定される、アレルゲン組成物;
工程A:前記接種対象に対して、前記アレルゲン含有組成物を用いた皮膚プリックテストを実施し、接種したアレルゲン含有組成物についてプリックテスト皮膚免疫反応を基準に閾値量(プリックテスト閾値量)を決定する工程であって、前記プリックテスト閾値量は、皮膚プリックテストにおいて、皮膚に所定濃度のアレルゲン溶液を滴下し、滴下部位に針を刺してから10~15分後に穿刺箇所を確認し、発赤を伴う膨疹の大きさを計測し、長径×短径が4mm×4mmの発赤を伴う膨疹を形成するアレルゲン量である工程
工程B:前記プリックテスト閾値量に基づいて、皮内テスト開始時のアレルゲン含有組成物の接種量(皮内テスト開始量)を決定する工程であって、(i)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン含有組成物を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以内である場合、プリックテスト閾値量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する、又は(ii)プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン含有組成物を皮内に接種してから所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mmより大きい場合、プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン含有組成物を希釈して皮内に接種して、所定時間経過した後の接種部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以下となるアレルゲン含有組成物の接種量の1/4~1/6量を皮内テスト開始量と決定する工程、
工程C:皮内テスト開始量のアレルゲン含有組成物を前記接種対象の第1の皮内部位に接種し、工程Cにおけるアレルゲン含有組成物の接種から所定時間後に、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、
工程D:(1)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、皮内テスト開始量のアレルゲン含有組成物の接種量を最大皮内耐量と決定し、(2)工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲン含有組成物を前記接種対象の第1の皮内部位とは異なる部位に接種し、このアレルゲン含有組成物の接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程であって、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される工程、および
工程E1:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、前記工程Dにおけるアレルゲン含有組成物の接種量を最大皮内耐量と決定する工程、又は 工程E2:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲン含有組成物を、前記接種対象のまだアレルゲン含有組成物が接種されていない皮内部位に接種することと、このアレルゲン含有組成物の接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定することを、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定されるアレルゲン含有組成物の量が見つかるまで繰り返し、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された際に接種されていた前記アレルゲン含有組成物の接種量を最大皮内耐量と決定する工程であって、前記皮内テスト皮膚免疫反応の有無は、接種から所定時間経過後に、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められた場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、前記接種部位に発赤を伴う膨疹が認められない場合、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定される、工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
皮内接種されるアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物、及びアレルゲンの使用方法に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患の治療方法として、患者が患うアレルギー疾患のアレルゲンを低用量で前記患者に繰り返し接種する、低用量アレルゲン皮内注射法及び誘発中和法が提案された。
【0003】
低用量アレルゲン皮内注射法に関しては、major grass allergenを1回あたり7ng、2週間おきに6回接種した群において、対照群と比較して皮膚遅発反応(注入後24時間後に接種部位周囲の発赤、腫脹、浮腫および硬化)の改善がみられたことが報告された(非特許文献1)ことをきっかけとして、PollenLITEとして大々的な治験プロトコールが発表された(非特許文献2)。しかし、その後非特許文献3において、低用量アレルゲン皮内注射法は、アレルギー症状の全身症状について有効でなかったことが報告された。
【0004】
誘発中和法は、皮下又は皮内に中和用量(10分間に2mm拡大し、7~8mmの膨疹ができる量)のアレルゲンを接種するが、非特許文献4において誘発中和法は科学的有効性を欠くと結論づけられている。
【0005】
一方、プリックテストと皮内テストを組み合わせて、各患者のアレルゲンの最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose:MITD)を決定し、MITDのアレルゲンを、毎日患者が皮下に自分で注射する誘発中和法が報告された(非特許文献5)。非特許文献5には、MITDを決めてから2週間後に第1回目接種期間(2週間)、第1回目の接種期間が終了後2週間のウォッシュアウト期間を経て、第2回目の接種期間(2週間)を設けることで、鼻炎症状等が改善されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Rotiroti G, et al, J ALLERGY CLIN IMMUNOL, 2012, Vol 130, No. 4, p918-924, p924e1
【文献】Slovick A, et al. Clinical and Translational Allergy, 2013, 3:27, p1 to 14
【文献】Slovick A, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2016, doi: 10.1016/j.jaci.2016.09.024
【文献】Jewett DL, et al. The New England Journal of Medicine, 1990, vol. 323, No 7, p429-433
【文献】Radcliffe MJ, et al. J Invest Allergol Clin Immunol, July-August 1996; Vo1. 6(4):242-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献5に記載の誘発中和法は、低用量のアレルゲンを皮下に毎日接種することにより、鼻炎等のアレルギー症状に対して一定の治療効果を上げている。
【0008】
しかしながら、患者が毎日皮下接種を行うことは、患者、特に小児患者にとっては負担である。また、非特許文献5に記載の誘発中和法で接種回数を減らすことは可能である。しかし、少なくとも治療開始初期は毎日接種することが必要であり、1日置き、2日置きに接種間隔をのばしていくのに3か月以上必要であることが、発明者の検討により見出されている。
【0009】
したがって、より患者への負担が少なく、効果的な免疫療法が可能なアレルゲン含有組成物及びアレルゲン使用方法を提供することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、皮膚プリックテストと皮内テストを組み合わせて接種対象者毎に決定されたMITDのアレルゲンを皮内に接種することにより、非特許文献5に記載の誘発中和法よりも、接種回数が少なく、より高い治療効果が得られることを見出した。すなわち、MITDが、経真皮免疫療法における治療適量であることを見出した。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.
皮内接種されるアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物であって、
前記治療用アレルゲン含有組成物の接種量は、前記アレルゲンの最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose)から、アレルギー疾患を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って決定される、組成物。
項2.
前記最大皮内耐量は、下記工程Aを含む皮膚プリックテスト工程と、工程B~D及びE1又は工程B~D及びE2を含む皮内テスト工程を含む方法により決定される、項1に記載の組成物;
工程A:前記接種対象に対して、前記治療用アレルゲン含有組成物に含まれるアレルゲンと同種のアレルゲンを用いた皮膚プリックテストを実施し、接種したアレルゲンについてプリックテスト皮膚免疫反応を基準に閾値量(プリックテスト閾値量)を決定する工程、
工程B:前記プリックテスト閾値量に基づいて、皮内テスト開始時のアレルゲンの接種量(皮内テスト開始量)を決定する工程、
工程C:皮内テスト開始量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位に接種し、工程Cにおけるアレルゲンの接種から所定時間後に、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程、
工程D:工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位とは異なる部位に接種し、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程、および
工程E1:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、前記工程Dにおけるアレルゲンの接種量を最大皮内耐量と決定する工程、又は
工程E2:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲンを、前記接種対象のまだアレルゲンが接種されていない皮内部位に接種することと、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定することを、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定されるアレルゲンの量まで繰り返し、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された際に接種されていた前記アレルゲン量を最大皮内耐量と決定する工程。
項3.
前記工程Dが、工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、皮内テスト開始量のアレルゲン量を最大皮内耐量と決定する工程をさらに含む、項2に記載の組成物。
項4.
前記プリックテスト皮膚免疫反応及び前記皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する指標が、炎症反応に伴う膨疹である、項2又は3に記載の組成物。
項5.
前記所定時間が8~20分である、項2~4のいずれか一項に記載の組成物。
項6.
前記所定時間が10~15分である、項2~4のいずれか一項に記載の組成物。
項7.
項1~6のいずれか一項に記載の皮内接種されるアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物と、皮膚穿刺器具と、を組み合わせてなる、皮内接種に使用されるアレルギー疾患治療用キット。
項8.
アレルゲン含有組成物と、皮膚穿刺器具と、を組み合わせてなる、項1~6のいずれか一項において最大皮内耐量を決定するために使用されるキット。
項9.
最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose)を決定するためのアレルゲンの使用方法であって、
前記最大皮内耐量は、前記アレルゲンと同種のアレルゲンを含むアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物の接種量を決定するために、アレルギー疾患を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って決定され、前記治療用アレルゲン含有組成物は、皮内接種に接種される、使用方法。
項10.
前記最大皮内耐量は、下記工程Aを含む皮膚プリックテスト工程と、工程B~D及びE1又は工程B~D及びE2を含む皮内テスト工程を含む方法により決定される、項9に記載の方法;
工程A:前記接種対象に対して、前記治療用アレルゲン含有組成物に含まれるアレルゲンと同種のアレルゲンを用いた皮膚プリックテストを実施し、接種したアレルゲンについてプリックテスト皮膚免疫反応を基準に閾値量(プリックテスト閾値量)を決定する工程、
工程B:前記プリックテスト閾値量に基づいて、皮内テスト開始時のアレルゲンの接種量(皮内テスト開始量)を決定する工程、
工程C:皮内テスト開始量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位に接種し、工程Cにおけるアレルゲンの接種から所定時間後に、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程、
工程D:工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位とは異なる部位に接種し、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する工程、および
工程E1:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合に、前記工程Dにおけるアレルゲンの接種量を最大皮内耐量と決定する工程、又は
工程E2:工程Dにおいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲンを、前記接種対象のまだアレルゲンが接種されていない皮内部位に接種することと、このアレルゲンの接種から所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定することを、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定されるアレルゲンの量が見つかるまで繰り返し、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された際に接種されていた前記アレルゲン量を最大皮内耐量と決定する工程。
項11.
最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose)を決定するためのアレルゲン組成物であって、
前記最大皮内耐量は、前記アレルゲンと同種のアレルゲンを含むアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物の接種量を決定するために、アレルギー疾患を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って決定され、前記治療用アレルゲン含有組成物は、皮内接種に接種される、組成物。
【発明の効果】
【0011】
より患者への負担が少なく、効果的な免疫療法を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】MITDの決定方法の概略図である。
図2】皮下接種と皮内接種の概略図である。
図3】SPT閾値とMITDの関係を示すグラフである。横軸は、SPT閾値のアレルゲン濃度からの希釈倍数を示す。縦軸は%を示す。
図4】誘発中和免疫療法(皮下接種)を実施後のSPT閾値の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.アレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物
組成物は、アレルゲンを含有する。
アレルゲンは、哺乳動物(ヒト、イヌ、ネコ、サル、及びウサギ等、好ましくはヒト、イヌ、及びネコ等、より好ましくはヒト)にアレルギー疾患(アレルギー症状を含む)を引き起こす物質である限り制限されない。例えば、ヨモギ、チモシー、アカマツ、アキノキリン草、カナムグラ、キク、クロマツ、スギ、ヒノキ、ヒメガマ、ブタクサ及びホウレンソウ等の花粉;コナヒョウヒダニ及びヤケヨウヒダニ等のダニ類;小麦粉、米、こんにゃく粉、そば粉、パン、トウモロコシ、もち米、えだ豆、キャベツ、ゴマ、椎茸、ジャガイモ、タケノコ、タマネギ、トマト、ニンジン、ホウレンソウ、落花生、アーモンド、リンゴ、イースト、ココア、チョコレート、大豆、牛乳、卵、卵黄、卵白、アジ、イワシ、カツオ、カレイ、キス、サケ、鯖、サンマ、タラ、ヒラメ、ブリ、マグロ、アサリ、以下、エビ、牡蠣、カニ、タコ、及びハマグリ等の食品類;アサ布、イネワラ、絹、ハウスダスト、籾殻、綿等のダスト類;イヌ、ネコ及びウサギ等の動物毛;インコ、ニワトリ、及びアヒル等の鳥類羽毛;アルテルナリア、アスペルギルス、カンジダ、クラドスポリウム、及びペニシリウム等の真菌類;下記一般式(I)で表される化合物であって、皮膚プリックテスト又は皮内テストに必要な水溶液を調製可能な化合物、又は前記一般式(I)で表される化合物の塩(塩素、ナトリウム、カリウム、カルシウム等):
【化1】
[式中Rは、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキル基;アルコキシカルボニル基(アルキル基は、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖)、若しくはアリールオキシカルボニル基;及び下記一般式(II)で表される化合物:
【化2】
(Rは、炭素数8~18の直鎖又は分岐アルキル基、好ましくは炭素数8~18の直鎖アルキル基である。)、
から選択される。
、R及びRは、少なくとも一つが水酸基及び-N=C=Oから選択され、他は水素原子である。];
下記一般式(III)で表される化合物:
【化3】
(Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキル基、及び炭素数5~6の飽和又は不飽和の環(好ましくは不飽和の環)であって、環を構成する炭素の1つ又は2つが、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子で置換されていてもよい環から選択される。);
又は、タバコ煙等の化合物等を挙げることができる。
【0014】
前記一般式(I)で表される化合物には、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、イソプロピルパラベン、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、及びベンジルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル化合物、塩化ベンザルコニウム、トルエン、及びトルエンイソシアネ-ト等が含まれる。
【0015】
また前記一般式(III)で表される化合物には、ホルムアルデヒド、及びフルフラール等が含まれる。
【0016】
これらのアレルゲンは、エキスとして組成物に含有されていてもよい。また、水溶性でないアレルゲンについては、一度エタノール等の人体に使用可能な両極性溶媒に溶解してから、生理食塩水で希釈してもよい。
【0017】
以下、本明細書において、特に記載がない限り、アレルゲンにはアレルゲンそのもの及び/又はアレルゲンエキスを含む。
【0018】
組成物には、アレルゲンの他、水、生理食塩水又は緩衝液等の溶媒を含んでいてもよい。また組成物には、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤(フェノール等)、塩化ナトリウム等の塩、及びグリセリン等から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0019】
組成物は、アレルゲンの粉末状で提供され、必要に応じて、水、生理食塩水又は緩衝液等の溶媒(必要に応じて、pH調整剤、フェノール等の防腐剤、塩化ナトリウム等の塩、及びグリセリン等から選択される少なくとも一種を含む)に溶解させて用いるものであってもよい。
【0020】
組成物は、例えば鳥居薬品株式会社等から販売されている市販のアレルゲンエキス等であってもよい。
【0021】
好ましくは、組成物は、これに含有されるアレルゲンに起因して哺乳類動物の体内で起きているアレルギー疾患(アレルギー症状を含む)を治療するために使用される。ここで、治療するためという用途には、アレルギー疾患の症状の発現を抑えること、症状を軽減すること、症状を悪化させないこと、及び/又は再発を防止することが含まれる。
【0022】
アレルギー疾患には、アレルゲンに起因して起こる疾患、又はアレルゲンに起因して起こる症状を伴う疾患が含まれる。好ましくは、アレルギー疾患は、アレルゲンに対するアレルギー反応に起因する疾患、又はアレルゲンに対するアレルギー反応に起因する症状を伴う疾患である。アレルギー疾患として、例えば皮膚炎;花粉症(アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎を含む);鼻炎;喘息;嗅覚過敏;不定愁訴(肩こり、頭痛、片頭痛、筋肉痛、疲労感、倦怠感、耳鳴り、イライラ、腹痛等を含む);神経系/心療内科系疾患(注意欠陥多動性障害等の発達障害、身近な番号や名前などが思い出せなくなる等の記憶喪失、人格変貌等を含む);泌尿器系疾患(夜尿症等を含む);婦人科系疾患(月経痛、チョコレート嚢腫等を含む)等を含む。
【0023】
組成物の接種対象は、上述した哺乳動物であり、好ましくはヒト、イヌ、及びネコ等、より好ましくはヒトである。
【0024】
組成物は、皮下接種又は皮内接種(真皮内接種を含む)が可能なものであり、好ましくは皮内接種される。
【0025】
組成物の接種量は、治療に適したアレルゲンの用量に基づいて決定される。好ましくは、組成物の接種量は、アレルゲンの最大皮内耐量(maximum intradermally tolerated dose:MITD)から決定される。
【0026】
MITDは、以下の方法に従って、治療開始に先立って、接種対象ごとに決定される。
【0027】
MITDは、下記工程Aを含む皮膚プリックテスト工程と、工程B~D及びE1又は工程B~D及びE2を含む皮内テスト工程を含む方法により決定される。
【0028】
工程Aは、図1に示す「プリックテスト」の工程に相当し、前記接種対象に対して、組成物に含まれるアレルゲンと同種のアレルゲンを用いた皮膚プリックテスト(SPT)を実施し、接種したアレルゲンについて、プリックテスト皮膚免疫反応を基準に閾値量(プリックテスト閾値量)を決定する。プリックテストは、公知の方法に従って行うことができる。プリックテスト皮膚免疫反応の指標は、炎症反応を示す所見である限り制限されない。例えば炎症反応にともなう膨疹であり、特に発赤を伴う膨疹であることが好ましい。皮膚プリックテストにおいて、皮膚に所定濃度のアレルゲン溶液を滴下し、滴下部位に針を刺してから10~15分後に穿刺箇所を確認し、発赤を伴う膨疹の大きさを計測する。発赤を伴う膨疹の長径×短径が4mm×4mm程度が、皮膚プリックテストの閾値であり、皮膚プリックテストにおいて、前記条件で長径×短径が4mm×4mm程度の発赤を伴う膨疹を形成するアレルゲン量がプリックテスト閾値量である。皮膚プリックテストにおけるアレルゲン量は、AU/mL、JAU/mL、又は希釈倍率等の濃度で表される。AU/mLは、アレルギー患者の皮膚試験に基づきアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)により設定されたアレルゲン活性単位(Allergy Units/mL)である。FDAのアレルゲン標準品(10,000AU/mL)と相対比較して力価が同等の製品を10,000AU/mLと表示される。JAU/mLは、アレルギー患者の皮膚試験に基づき一般社団法人日本アレルギー学会により設定された国内独自のアレルゲン活性単位(Japanese Allergy Units)である。100,000JAU/mLは、10,000AU/mLに相当する。
【0029】
工程Bは、図1に示す「皮内テスト1」の工程に相当し、プリックテスト閾値量に基づいて、皮内テスト開始時のアレルゲンの接種量(皮内テスト開始量)を決定する。はじめに、プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を、接種時に2mm×2mm程度の膨疹ができる容積で皮内に接種する。この接種は、皮膚プリックテストでアレルゲン溶液を接種していない皮内部位に行われることが好ましい。前記膨疹は、アレルゲン溶液が皮内へ入ったために物理的に形成される膨疹であり、発赤を伴わない、好ましくは炎症反応を伴わない膨疹である。2mm×2mm程度の膨疹ができる容積は、例えば、0.01mL程度である。
【0030】
プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を接種してから所定時間経過後に接種部位の観察を行う。皮内テスト皮膚免疫反応の指標は、炎症反応を示す所見である限り制限されない。例えば炎症反応にともなう膨疹であり、特に発赤を伴う膨疹であることが好ましい。発赤を伴う膨疹の長径及び短径を測定し、前記長径×短径が9mm×9mm以内である場合、プリックテスト閾値量は安全領域にあると判断することができる。プリックテスト閾値量が安全領域にあると判断された場合、皮内テスト開始量は、プリックテスト閾値量の1/4~1/6程度、好ましくは1/5のアレルゲン量となる。プリックテストの場合と同様、アレルゲン量は、AU/mL、JAU/mL、又は希釈倍率等の濃度で表される。
【0031】
所定時間は、8~20分程度、好ましくは10~15分程度、好ましくは10分程度である。
【0032】
プリックテスト閾値量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を接種した部位の発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mmよりも大きい場合には、プリックテスト閾値量よりも薄いアレルゲン溶液を使ってさらに皮膚プリックテストを行い、子皮内プリックテストが陰性のアレルゲン量領域(発赤を伴う膨疹の長径×短径が4mm×4mm未満、好ましくは3mm×3mm以下)のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を上記とは別の皮内部位に接種し、発赤を伴う膨疹の長径×短径が9mm×9mm以下となるアレルゲン量を探し、上記と同様に皮内テスト開始量を決定する。
【0033】
工程Cは、図1に示す「皮内テスト2」に相当し、皮内テスト開始量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位に接種し、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する。はじめに、皮内テスト開始量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を、接種時に7mm×7mm程度の膨疹ができる容積で皮内に接種する。前記膨疹は、アレルゲン溶液が皮内へ入ったために物理的に形成される膨疹であり、発赤を伴わない、好ましくは炎症反応を伴わない膨疹である。7mm×7mm程度の膨疹ができる容積は、例えば、0.05mL程度である。
【0034】
皮内テスト開始量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を接種してから所定時間経過後に接種部位の観察を行う。所定時間は、8~20分程度、好ましくは10~15分程度、好ましくは15分程度である。皮内テスト皮膚免疫反応の指標は、炎症反応を示す所見である限り制限されない。例えば炎症反応にともなう膨疹であり、特に発赤を伴う膨疹であることが好ましい。接種部位の観察において、発赤を伴う膨疹が認められない場合(又は、膨疹が発赤を伴わずに平坦化若しくは拡大することもある)には、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定することができる。したがって、皮内テスト開始量がMITDであると決定する。
【0035】
一方、皮内テスト開始量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を接種してから所定時間経過後の接種部位の観察において、発赤を伴う膨疹が認められた場合には、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定され、工程Dに進む。
【0036】
皮内テスト皮膚免疫反応の有無の判定方法は、以下の工程においても同様である。
【0037】
工程Dは、図1に示す「皮内テスト3」に相当し、工程Cにおいて、皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合に、皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲンを前記接種対象の第1の皮内部位とは異なる部位に接種し、前記接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定する。第1の皮内部位とは異なる部位は、皮膚プリックテスト行った部位、及びプリックテスト閾値量のアレルゲンを接種した部位とも異なる。
【0038】
皮内テスト開始量よりも少ない量のアレルゲンとして、皮内テスト開始量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液よりも希釈されたアレルゲン溶液を、接種時に7mm×7mm程度の膨疹ができる容積で皮内に接種する。前記膨疹は、アレルゲン溶液が皮内へ入ったために物理的に形成される膨疹であり、発赤を伴わない、好ましくは炎症反応を伴わない膨疹である。7mm×7mm程度の膨疹ができる容積は、例えば、0.05mL程度である。皮内テスト開始量よりも希釈されたアレルゲン溶液は、皮内テスト開始量のアレルゲン溶液を2倍~10倍程度、好ましくは3倍~7倍程度より好ましくは5倍程度生理食塩水等で希釈することにより調製することができる。
【0039】
皮内テスト開始量よりも希釈されたアレルゲン溶液を接種してから所定時間経過後に、本工程でアレルゲン溶液を接種した皮内部位の観察を行う。所定時間は、8~20分程度、好ましくは10~15分程度、好ましくは15分程度である。前記観察において、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性であると判定された場合には、工程E1において、工程Dで接種されたアレルゲン量をMITDであると決定する。
【0040】
工程Dにおける観察おいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性であると判定された場合には、工程E2に進む。
【0041】
工程E2は、図1に示す「皮内テスト4」以降に相当する工程であり、工程Dにおける観察おいて、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陽性である場合に、直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲンを、前記接種対象のまだアレルゲンが接種されていない皮内部位に接種することと、所定時間後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を判定することを、前記皮内テスト皮膚免疫反応が陰性と判定されるまで繰り返すことを含む。
【0042】
直近に接種された量よりもさらに少ない量のアレルゲンとして、直近に接種されたアレルゲン溶液よりもさらに希釈されたアレルゲン溶液を、接種時に7mm×7mm程度の膨疹ができる容積で皮内に接種する。前記膨疹は、アレルゲン溶液が皮内へ入ったために物理的に形成される膨疹であり、発赤を伴わない、好ましくは炎症反応を伴わない膨疹である。7mm×7mm程度の膨疹ができる容積は、例えば、0.05mL程度である。直近に接種されたアレルゲン量よりも希釈されたアレルゲン溶液は、直近に接種されたアレルゲン量を含むアレルゲン溶液を2倍~10倍程度、好ましくは3倍~7倍程度より好ましくは5倍程度生理食塩水等で希釈することにより調製することができる。
【0043】
直近に接種されたアレルゲン溶液よりもさらに希釈されたアレルゲン溶液を接種してから、所定時間経過後に、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反応の有無を確認する。所定時間は、8~20分程度、好ましくは10~15分程度、好ましくは15分程度である。
【0044】
皮内テスト皮膚免疫反応が陽性の場合には、直近に接種されたアレルゲン量よりもさらに希釈された少ない量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液の接種と、その接種部位の皮内テスト皮膚免疫反の有無の判定を繰り返し、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性となるアレルゲン量を決定する。そして、皮内テスト皮膚免疫反応が陰性となったアレルゲン量をMITDであると決定する。
【0045】
工程D又はE2において、直近に接種されたアレルゲン量よりもさらに希釈された少ない量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を接種した際に、前記直近のアレルゲン接種の際、又は直近のアレルゲン溶液の接種のさらに前に行われたアレルゲン溶液の接種の際に形成された発赤を伴う膨疹が消失する場合があり得る。この場合、最後に接種されたアレルゲン量をMITDとして決定してもよい。
【0046】
工程D又はE2において、直近に接種されたアレルゲン量よりもさらに希釈された少ない量のアレルゲンを含むアレルゲン溶液を接種した際に、最後に接種した皮内部位において皮内テスト皮内反応皮膚免疫反応が陰性であるにもかかわらず、前記直近のアレルゲン溶液の接種の際、又は前記直近のアレルゲン溶液の接種よりもさらに前に行われたアレルゲン溶液の接種の際に形成された発赤を伴う膨疹が悪化(発赤膨疹の拡大、掻痒感増大等)する場合があり得る。この場合、最後に接種されたアレルゲン量をMITDではないと決定してもよい。このような場合には、日を改めてMITDを決定してもよい。
【0047】
皮内テストにおけるアレルゲン溶液の接種は、通常の皮下注射に用いられる基材(例えばツベルクリン反応試験用注射器等)を用いて行うことができる。
【0048】
MITDの決定は、治療開始に先立って行われるが、治療開始とは後述する個人特異的低用量経真皮免疫療法の開始、好ましくは個人特異的低用量経真皮免疫療法の1クールの開始である。
【0049】
組成物の接種量は、1回の接種においてMITDのアレルゲン量が接種されるように、組成物に含まれるアレルゲンの量とMITDのアレルゲン量から決定される。
【0050】
MITDを決定するために使用されるアレルゲン溶液は、好ましくは組成物そのものであるか、組成物を希釈すること等によって調製されるアレルゲン溶液である。
【0051】
2.アレルゲンの使用方法・MITD決定用アレルゲン組成物
アレルゲンは、MITDを決定するために使用される。MITDは、前記アレルゲンと同種のアレルゲンを含むアレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物の接種量を算出するために決定される。MITDは、アレルギー疾患(アレルギー症状を含む)を有する接種対象ごとに、治療開始に先立って決定される。
【0052】
アレルギー疾患治療用アレルゲン含有組成物は、上記1.で述べた組成物に包含される。また、上記1.で述べた組成物は、MITDを決定するために使用される。
【0053】
アレルゲン、アレルギー疾患、接種対象、治療開始、MITDの決定方法、及び組成物の接種量の決定方法等上記1.と重複する用語については、上記1.の説明をここに援用する。
【0054】
MITDを決定するために使用されるアレルゲン溶液は、好ましくは組成物そのものであるか、組成物を希釈すること等によって調製されるアレルゲン溶液であってもよい。
【0055】
3.キット
キットは、少なくとも上記1で述べた組成物と穿刺器具を含む。好ましくは、組成物と穿刺器具とを組み合わせてなる。組成物と穿刺器具とを組み合わせてなるとは、
【0056】
ここで「組み合わせてなる」とは、本発明が対象とする増感剤が、
(i)最初から組成物が穿刺器具に装填された状態である場合、又は(i)’穿刺器具に組成物を含浸させた状態である場合、
(ii)組成物と穿刺器具とがおのおの別個の包装形態で存在し、組み合わせ物として販売される場合、または
(iii)組成物と穿刺器具とがおのおの別個の包装形態で、また別個の流通経路で市場に存在し、使用時に組み合わせて使用される場合を包含する意味で用いられる。
【0057】
キットは、好ましくは、アレルギー疾患を治療する目的で使用される。より好ましくはキットは皮内接種に使用するためのキットである。また、キットは、上記1及び2においてMITDを決定するために使用される。
【0058】
穿刺器具は、組成物を装填又は含浸でき、皮内接種ができる限り制限されない。穿刺器具としては、例えば注射器(皮内接種に適した太さの注射針、例えば26~28G程度の注射針とシリンジとを備える)、マイクロニードルパッチ、BCG接種用管針等を挙げることができる。
【0059】
キットには、組成物及び穿刺器具の他、取扱説明書、MITDの決定方法、皮膚プリックテスト用のバイファーケイテッドニードル、及び組成物を希釈するための水、生理食塩水、緩衝液等の溶媒(必要に応じて、pH調整剤、フェノール等の防腐剤、塩化ナトリウム等の塩、及びグリセリン等から選択される少なくとも一種を含む)を備えていてもよい。
【0060】
4.接種対象特異的低用量経真皮免疫療法
組成物は、接種対象ごとにアレルゲンの接種量が決定され皮内に接種される。
【0061】
組成物の接種量は、上記1に記載の方法に従って、MITDから治療開始に先立って決定される。
【0062】
治療は、組成物を下記スケジュールで接種対象者に接種することにより行われる。
【0063】
例えば、治療期間のクールは、次に述べる第1接種期間開始から第2接種期間終了までを1クールとする。治療は、MITDを決定してから0~2週間以内、好ましくは1~5日以内に開始される。組成物は、MITDから決定された1回接種量で、例えば週1~3回、好ましくは週2回、3~5週間、好ましくは4週間接種される(第1接種期間)。第1接種期間終了は第1接種期間内の最後の接種から約1週間後である。第1接種期間終了、好ましくは1~7日程度接種を休み、再度同じ組成物(又は第1接種期間に接種されたアレルゲンと同じアレルゲンを含む組成物)を、第1接種期間で接種したのと同量の1回接種量で、例えば週1~3回、好ましくは週2回、3~5週間、好ましくは4週間接種される(第2接種期間)。第2接種期間終了は第2接種期間内の最後の接種から約1週間後である。
【0064】
治療期間のクールは、例えば、2回以上繰り返しても良い。クールとクールの間は、0~2週間程度空けてもよい。
【0065】
複数のクールにおいて、組成物の接種量は同じであってもよいが、好ましくはクール毎に、又は2~4クール毎に再度MITDを決定し、組成物の接種量を算出しても良い。
【実施例
【0066】
以下に実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0067】
1.治療プロトコール
プリックテスト(SPT)と皮内テストを組み合わせ、患者各人の最大皮内耐量(MITD:maximum intradermally tolerated dose)を求めた(図1)。MITDの測定は、名張市立病院倫理委員会の承認を受けた後、各患者に対し書面による十分なインフォームドコンセントを行い、同意を得た上で行った。
【0068】
はじめに、患者が患っているアレルギーのアレルゲンを用いてSPTを行った。アレルゲンを含む水溶液(鳥居薬品標準化アレルゲンエキス皮下注「スギ花粉」 スギ花粉エキス200JAU/ml 治療用)を5倍ずつ段階的に滅菌生理食塩水で希釈して調製した、希釈アレルゲン水溶液を患者の前腕屈側に滴下し、滴下部位の皮膚をバイファーケイテッドニードルで刺した。15分後に膨疹の大きさ(長径×短径)を測定し、 SPT閾値量(膨疹の大きさが約4mm×4mmとなるアレルゲン濃度)を決定した。SPTは、鳥居薬品から提供されるスギ抗原エキスの使用法にしたがって行った。
【0069】
次に、SPT閾値量の1/5のアレルゲン濃度を皮内テスト開始量(濃度)として、皮内テスト開始濃度から5倍ずつ希釈したアレルゲン水溶液の希釈系列を作成した。はじめに0.01 ml(接種部位に約2mm×2mmの膨疹ができる程度)のSPT閾値量のアレルゲン水溶液を患者のSPTを行った腕とは反対側の腕の上腕外側に皮内接種した(図1の「皮内テスト1」)。アレルゲン水溶液を接種した際に生じる膨疹は発赤を伴わない炎症反応によらないものである。接種後10分後に発赤を伴う膨疹ができていることを確認し、さらにその大きさが約9mm×9mm以下である場合、安全領域と判断し、皮内テスト開始濃度のアレルゲン水溶液0.05 ml(接種部位に約7mm×7mmの膨疹ができる程度)を先の皮内接種部位から少し離した位置に接種した(図1の「皮内テスト2」)。アレルゲン水溶液を接種した際に生じる膨疹は発赤を伴わない炎症反応によらないものである。皮内テスト開始濃度のアレルゲン水溶液の接種から15分後に膨疹を確認した。接種部位に発赤が生じなければ皮内テストにおける皮膚免疫反応が陰性であると判定し、その接種時のアレルゲン水溶液の濃度をMITDと決定した。接種部位に発赤を伴う膨疹が現れた場合には、直近に接種したアレルゲン水溶液の1/5濃度のアレルゲン水溶液を、直近の接種部位から少し離れた、まだアレルゲンの皮内接種を受けていない部位に接種した(図1の「皮内テスト3」以降)。この接種から15分後にこの接種部位に発赤を伴う膨疹が生じるかを確認した。膨疹が消失が起こった場合に、そのアレルゲン水溶液の濃度をMITDとして決定した。膨疹の消失が起こらない場合、直近に接種したアレルゲン水溶液の1/5濃度のアレルゲン水溶液の接種と、この接種部位に発赤を伴う膨疹が生じるか否かの確認を繰り返し、MITDを決定した。
【0070】
上記SPT閾値量のアレルゲンを皮内に接種した際に、膨疹の長径が約9mmを超える場合には、安全領域でないと判断し、SPT閾値量よりも希釈した濃度のアレルゲン水溶液を0.01 ml(接種部位に約2mm×2mmの膨疹ができる程度)皮内に接種して、膨疹の長径が約9mm以内となる濃度の1/5のアレルゲン濃度を皮内テスト開始濃度とした。
【0071】
2.SPT閾値とMITDの関係
名張市立病院を2010年~2012年に受診した小児で、スギ花粉症による鼻炎、皮膚炎及び喘息の少なくとも一つを呈する患者45名を対象として、MITDがSPT閾値の何分の一であるかを検討した。その結果を図3に示す。
【0072】
その結果、MITDがSPT閾値の1/5濃度であった者は6.7%、1/25濃度であった者は28.9%、1/125濃度であった者は42.2%、1/625濃度であった者は20.0%、1/3125濃度であった者は2.2%であり、MITDは個人により異なり、SPT閾値からは一概に予測できないことが明らかとなった。したがって、抗アレルギー治療を受ける個人毎にMITDを決定する必要があると考えられた。
【0073】
3.個人特異的低用量経真皮免疫療法
(1)花粉飛散期における治療効果の評価
スギ花粉症を有する成人患者4名について上記アレルゲン水溶液を用いてMITDを測定した。MITD測定時に、膨疹誘発域の膨疹面積を測定した。MITDを測定してから1週間後から、MITD量のスギアレルゲンを週2回4週間皮内に接種した。4週間の接種終了時に、治療開始前と同量の膨疹誘発域のスギアレルゲンを接種し、膨疹面積の拡大率を算出した。さらに、先の4週間の接種終了時から1日空けて、MITD量のスギアレルゲンを週2回4週間(投与開始から8週間)皮内に接種した。前回と同量の膨疹誘発域のスギアレルゲンを接種し、膨疹面積の拡大率を算出した。また、前年度のスギ花粉症症状の比較Visual analog scale (VAS)を行った。
【0074】
【表1】
【0075】
その結果、表1に示すように、治療開始後4週間後では、4名の患者とも膨疹面積の減少が認められた。しかし、治療後8週間後では、膨疹面積の減少が認められた患者と、膨疹面積が治療前よりもやや拡大する患者とが半数ずつとなった。一方で、花粉症症状については、いずれの患者でも前年よりも改善が認められ、高い治療効果が認められた。このことから、MITD量のアレルゲンの接種はアレルギー症状の改善に有効であると考えられた。しかし、この治療効果は、必ずしも膨疹誘発域のアレルゲン皮内接種による膨疹症状とは相関しないことが明らかとなった。
【0076】
(2)花粉ディスク誘発所見における治療効果の評価
上記3.(1)で治療を行った患者とは異なる2名の患者に対して、花粉非飛散期に、花粉ディスクによるアレルギー症状の誘発試験によって治療効果を評価した。治療開始前の2014年4月28日にMITDの測定と、花粉ディスクによる誘発試験を行ったMITDを測定してから1週間後から、MITD量のスギアレルゲンを週2回4週間皮内に接種した。2016年5月25日に、再度花粉ディスクによる誘発試験を行った。直近の誘発試験から0~4日後から、再度MITD量のスギアレルゲンを週2回4週間(投与開始から8週間)皮内に接種した。接種終了時の2016年6月30日に再度花粉ディスクによる誘発試験を行った。花粉ディスクを使ったアレルギー症状の誘発試験とその評価は、『鼻アレルギーガイドライン2013 花粉ディスク誘発所見 種類と程度』にしたがって、行った。
【0077】
【表2】
【0078】
その結果、表2に示すように、患者2名とも治療開始後約1ヶ月後には花粉ディスクによって誘発される鼻炎症状が改善した。治療開始から2ヶ月後には、さらに誘発される鼻炎症状が軽減した。
以上の結果から、個人特異的低用量経真皮免疫療法は、アレルギー症状の改善に有用であると考えられた。
【0079】
4.参考実施例(アレルゲンの皮下投与)
上記2.でSPT閾値とMITDの関係を検討した患者45名中22名について、MITD量のアレルゲンを皮下に接種して、誘発中和免疫療法を3ヶ月~12ヶ月行い、SPT閾値の変化を観察した。その結果、図4に示すように、13.6%ではSPT閾値に変化は認められなかったが、50.0%の患者ではSPT閾値が5倍高くなり、31.8%の患者ではSPT閾値が25倍高くなり、4.6%の患者ではSPT閾値が125倍高くなった。このことから、一部の患者については、誘発中和免疫療法を行うことにより、アレルゲンに対して寛容になることが示された。
【0080】
誘発中和免疫療法では、MITDの皮下接種を、治療開始初期には毎日行う必要がある。また、皮下接種を1日置き、2日置きに間隔をのばしていくためには3か月以上要した。
【0081】
これに対して、MITDで皮内接種を行う個人特異的低用量経真皮免疫療法は、治療開始当初から週2回の接種でよく、治療期間も最短で4週間で治療効果が得られる。このことから、個人特異的低用量経真皮免疫療法は、誘発中和免疫療法よりも治療効果の高い治療方法であり、かつ患者への接種回数が減少できる有効な治療手段であることが示された。
図1
図2
図3
図4