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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】ポリイミド微細構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20230228BHJP
   C08J 3/28 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J3/28 CFG
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018155259
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020029501
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】小野 篤史
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-185058(JP,A)
【文献】特開2006-053452(JP,A)
【文献】特開2014-157310(JP,A)
【文献】特開2005-055833(JP,A)
【文献】特開2017-162984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド微細構造体を作製する製造方法であって、
板状部材上に、酸無水物とジアミンを有機溶媒に溶解させてから重合反応させることで得られるポリイミド前駆体樹脂を含む加工用の膜を形成する形成ステップと、
前記板状部材上の前記加工用の膜に、所定の照射パターン及び所定の強度で、200nm~550nmの波長範囲あるいは500nm~2μmの波長範囲のレーザ光を集光して照射することによって、光反応により前記加工用の膜をイミド化する照射ステップと、
前記板状部材上の前記加工用の膜のうちの残余のポリイミド前駆体を除去する除去ステップと、
を備えるポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項2】
前記形成ステップでは、板状部材上にポリイミドを含む下地膜を形成し、前記下地膜上に前記加工用の膜を形成する、
請求項1記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項3】
前記形成ステップでは、さらに、前記下地膜の表面をカルボキシル化する処理を含む、
請求項2記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項4】
前記除去ステップの後で、前記板状部材を除去するステップをさらに備える、
請求項2又は3に記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項5】
前記除去ステップの後で、ポリイミド前駆体が除去された前記加工用の膜及び前記板状部材の表面に、金属膜を形成するステップをさらに備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項6】
前記照射ステップでは、前記所定の強度で所定の時間でレーザ光を1点照射することによって、前記加工用の膜を100~800nmの径の範囲でイミド化する、
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項7】
前記照射ステップでは、前記所定の強度及び所定の走査速度でレーザ光を走査させながら照射することによって、前記加工用の膜を100~800nmの幅でイミド化する、
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項8】
前記照射ステップでは、多光子吸収過程を励起可能な500nm~2μm波長範囲のパルス状の前記レーザ光を前記板状部材に照射する、
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【請求項9】
前記照射ステップでは、200nm~550nm波長範囲のCWレーザ光を前記板状部材に照射する、
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド微細構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状部材においてポリイミド微細構造体を作製するポリイミド微細構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、板状の部材上にポリイミド膜の微細構造を形成する技術が種々用いられている。例えば、ポリアミック酸と近赤外吸収色素とを溶媒に溶解して基板に塗布した後に、塗布した膜に半導体レーザ光を照射して選択的にイミド化する方法が知られている(下記特許文献1参照。)。また、ポリアミック酸に感光材を配合した感光性ポリアミック酸膜内に低出力レーザを照射して屈折率変化を生じさせた後に、ポリアミック酸を加熱してイミド化することにより、三次元ポリイミド光導波路を形成する方法も知られている(下記特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-142030号公報
【文献】特開2004-177529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の形成方法では、吸収色素においてレーザ光を吸収させて熱を発生させることにより、熱反応によりポリアミック酸をイミド化している。また、上記特許文献2に記載の形成方法では、ポリアミック酸を加熱によりイミド化している。従って、両形成方法では、基板上に形成されるポリイミドを十分に微細化することには限界があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、板状部材上に形成されるポリイミドを十分に微細化することが可能なポリイミド微細構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一形態にかかるポリイミド微細構造体の製造方法は、ポリイミド微細構造体を作製する製造方法であって、板状部材上にポリイミド前駆体を含む加工用の膜を形成する形成ステップと、板状部材上の加工用の膜に所定の照射パターン及び所定の強度でレーザ光を照射することによって、光反応により加工用の膜をイミド化する照射ステップと、板状部材上の加工用の膜のうちの残余のポリイミド前駆体を除去する除去ステップと、を備える。
【0007】
上記形態のポリイミド微細構造体の製造方法によれば、板状部材上に形成されたポリイミド前駆体を含む加工用の膜に所定の照射パターン及び所定の強度でレーザ光が照射されることにより、加工用の膜が光反応によってイミド化され、その後、加工用の膜のうちのイミド化されていない部分が除去される。このような光反応によって、加工用の膜の微細な部分のイミド化が可能となり、板状部材上に照射パターンに従って形成されるポリイミドを十分に微細化することが可能となる。
【0008】
ここで、形成ステップでは、板状部材上にポリイミドを含む下地膜を形成し、下地膜上に加工用の膜を形成する、こととしてもよい。この場合、柔軟性を有する下地膜上にポリイミド微細構造体を形成することができる。
【0009】
また、形成ステップでは、さらに、下地膜の表面をカルボキシル化する処理を含む、こととしてもよい。この場合には、下地膜の表面の全面に加工用の膜が安定して形成されるので、下地膜の表面にポリイミド微細構造体を安定して形成することができる。
【0010】
ここで、除去ステップの後で、板状部材を除去するステップをさらに備える、こととしてもよい。この場合には、ポリイミド微細構造体が表面に形成された柔軟性を有する膜状部材を製造することができる。
【0011】
また、除去ステップの後で、ポリイミド前駆体が除去された加工用の膜及び板状部材の表面に、金属膜を形成するステップをさらに備える、こととしてもよい。この場合、板状部材上に金属で覆われた微細構造体を形成することができる。
【0012】
また、照射ステップでは、所定の強度で所定の時間でレーザ光を1点照射することによって、加工用の膜を100~800nmの径の範囲でイミド化する、こととしてもよい。この場合は、板状部材上に100~800nmの径のスポット状のポリイミド微細構造体を形成することができる。
【0013】
さらに、照射ステップでは、所定の強度及び所定の走査速度でレーザ光を走査させながら照射することによって、加工用の膜を100~800nmの幅でイミド化する、こととしてもよい。この場合、板状部材上に100~800nmの幅の線状のポリイミド微細構造体を形成することができる。
【0014】
また、照射ステップでは、パルス状のレーザ光を板状部材に照射する、こととしてもよい。この場合、例えば、2光子吸収等の光反応によってイミド化することができ、板状部材上に形成するポリイミド微細構造体をさらに微細化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、板状部材上に形成されるポリイミドを十分に微細化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る金属ナノ構造体形成装置を示す概略構成図である。
図2】実施形態にかかる製造方法の各過程における各部材の加工状態を示す斜視図である。
図3】実施形態にかかる製造方法の各過程における各部材の加工状態を示す斜視図である。
図4】照射するパルスレーザ光のパワーを様々設定して1点照射により形成されたポリイミド微細構造体の観察系システムによる観察結果を示す図である。
図5図4に示すポリイミド微細構造体の径とパルスレーザ光の照射時間との関係を示すグラフである。
図6】照射するパルスレーザ光のパワーを様々設定してライン状の走査により形成されたポリイミド微細構造体の観察系システムによる観察結果を示す図である。
図7図6に示すポリイミド微細構造体の幅とパルスレーザ光の走査速度との関係を示すグラフである。
図8】本実施形態の応用例である有機ELデバイスの構造を示す側面図である。
図9】本実施形態の応用例である有機薄膜太陽電池の構造を示す側面図である。
図10】1点照射により周期的に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示す図である。
図11図10に示すポリイミド微細構造体を有するプラズモニック基板の反射率の波長依存性を示すグラフである。
図12】ライン状走査により周期的に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示す図である。
図13図12に示すポリイミド微細構造体を有するプラズモニック基板の反射率の波長依存性を示すグラフである。
図14】照射するCWレーザ光のパワーを様々設定して1点照射により形成されたポリイミド微細構造体の観察系システムによる観察結果を示す図である。
図15図14に示すポリイミド微細構造体の径とCWレーザ光の照射時間との関係を示すグラフである。
図16】照射するCWレーザ光のパワーを様々設定してライン状の走査により形成されたポリイミド微細構造体の観察系システムによる観察結果を示す図である。
図17図16に示すポリイミド微細構造体の幅とCWレーザ光の走査速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るポリイミド微細構造体の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
[金属ナノ構造体形成装置の構成]
まず、図1を参照して、実施形態に係る金属ナノ構造体形成装置1の構成を説明する。金属ナノ構造体形成装置1は、基板上に金属膜で覆われたポリイミド微細構造体を作製するための装置である。金属ナノ構造体形成装置1の処理対象の基板としては、ガラス、シリコン、PET、ポリイミド等を材料とする平板状の基板(板状部材)が挙げられる。
【0019】
金属ナノ構造体形成装置1は、レーザ装置3、光シャッタ5、ミラー7、ビームエキスパンダ9、ビームスプリッタ11、対物レンズ13、及びXYZピエゾステージ15を含んで構成されている。レーザ装置3は、様々な波長のパルス状のレーザ光(パルスレーザ光)を様々な繰り返し周波数で照射可能な、例えばチタンサファイアレーザ装置であり、発振可能なレーザ光の波長を例えば赤外領域から近赤外領域の範囲に調整可能とされている。なお、レーザ装置3として近赤外領域から紫外領域までの範囲で発振可能なものが使用されてもよい。本実施形態では、レーザ装置3は、波長800nm、パルス幅100fsec、及び繰り返し周波数80MHzのパルスレーザ光を照射するように設定されている。光シャッタ5は、レーザ装置3からのパルスレーザ光の処理対象の基板Sへの照射をオン/オフするための光デバイスであり、ミラー7は、光シャッタ5を通過してきたパルスレーザ光をビームエキスパンダ9に向けて反射する。ビームエキスパンダ9は、パルスレーザ光のビーム径を拡大し、対物レンズ13は、ビームエキスパンダ9を通過したパルスレーザ光をビームスプリッタ11を経由して受け、受けたパルスレーザ光をXYZピエゾステージ15によって支持された基板Sに集光する集光部材である。XYZピエゾステージ15は、基板Sを3次元的に移動させるように駆動する駆動装置であり、これによってレーザ光の基板Sにおける3次元的な走査が様々な走査パターンで可能とされる。さらに、金属ナノ構造体形成装置1には、基板Sにおけるポリイミド微細構造体の形成状態を観察するための観察系システムも含まれている。すなわち、観察系システムとして、基板Sからの像をビームスプリッタ11及び集光レンズ17を介して撮像するCCDカメラ等の撮像装置19も備えられている。また、この金属ナノ構造体形成装置1においては、図示しないレーザパワーメータによって、基板Sに照射されるパルスレーザ光のパワーが測定可能とされている。
【0020】
[ポリイミド微細構造体の製造方法]
次に、上記の金属ナノ構造体形成装置1を用いたポリイミド微細構造体の製造方法について説明する。図2及び図3は、本実施形態の製造方法の各過程における各部材の加工状態を示す斜視図である。
【0021】
まず、第1の工程(形成ステップ)として、基板(板状部材)S上の全面に数十μm~数百μmのポリイミドの下地膜31を形成する(図2(a))。このような基板Sとしては、ガラス、PET、ポリイミド等の透明性材料によって構成されたものが使用されてもよいし、シリコン等の不透明な材料によって構成されたものが使用されてもよい。ただし、基板Sとしてポリイミドで構成されたものが使用される場合には、下地膜31は形成されなくてもよい。また、下地膜31は、基板S上にポリイミド前駆体であるポリアミック酸を含む樹脂を塗布した後ホットプレート等にて所定温度および所定時間(例えば、230°Cで1時間)でプリベークして形成されてもよいし、平板状に形成されたポリアミック酸樹脂を用いてプリベークして形成されてから基板S上に貼り付けられてもよい。ポリアミック酸樹脂は、公知の方法を用いて、酸無水物とジアミンを有機溶媒に溶解させてから重合反応させることで得ることができる。例えば、酸無水物としてピロメリト酸二無水物、ジアミンとして4,4'-オキシジアニリン、有機溶媒として1-メチル-2-ピロリドンを用いることができるが、これらには限定されない。さらに、下地膜31に用いられるポリアミック酸としては、イミド化後のポリイミドが、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂であるものの中から選択されてよい。下地膜31に含まれるポリアミック酸は、下記の化学式(1)によって表される。
【化1】


[式中、nは任意の整数を意味する。]
【0022】
さらに、第1の工程においては、下地膜31上の全面にポリアミック酸を含む加工用膜33が所定の膜厚(例えば、80nm)で形成される(図2(b))。詳細には、上記の下地膜31と同様な材料を用いて、ポリアミック酸を含む樹脂が下地膜31上にスピンコートによって塗布される。なお、下地膜31上に加工用膜33を塗布する前には、下地膜31の表面を水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液に浸漬することによって、下地膜31の表面に対してカルボキシル化の処理を施してもよい。このように処理することで、下地膜31の表面が親水性を有するようになり、下地膜31の表面に親水性を有するポリアミック酸樹脂を安定して塗布することができる。
【0023】
次に、第2の工程(照射ステップ)として、次のようにして、金属ナノ構造体形成装置1を用いて基板Sにおいてポリイミド微細構造体を形成させる。すなわち、基板SをXYZピエゾステージ15に搭載した後、レーザ装置3からのパルスレーザ光の照射をオンするとともに、外部の制御装置による制御により、XYZピエゾステージを駆動して所定の走査パターンで基板Sの加工用膜33に所定の強度のパルスレーザ光L0を照射させる(図2(c))。このとき、外部の制御装置による制御により、光シャッタ5をオン/オフさせてパルスレーザ光L0を間欠的に基板Sに照射させることもできる。また、金属ナノ構造体形成装置1に設けられたレーザパワーメータを用いてパルスレーザ光L0のパワーを測定しながらレーザ装置3の出力を調整することができる。これにより、直線状等の線状のパターン、ドット状のパターン等の様々な走査パターンで、所定の強度のパルスレーザ光L0を基板Sに照射させることができる。なお、パルスレーザ光L0は、基板Sの加工用膜33側の表面から照射されてもよいし基板Sの裏面から照射されてもよいし、基板Sが不透明な材料からなる場合には基板Sの加工用膜33側の表面から照射される。
【0024】
上記第2の工程によって、基板S上の加工用膜33の一部が光反応によってイミド化され、走査パターンに対応したパターンでポリイミド微細構造体が形成される。すなわち、加工用膜33中のポリアミック酸樹脂において、光吸収に応じた下記反応式(3)に示す反応が生じて、-OH基が光吸収によって陽イオン化された後に脱水縮合反応が生じてポリアミック酸がイミド化される。
【化2】


ここで、パルスレーザ光を用いてイミド化することによって、2光子吸収による光吸収が効果的に生じるので、パルスレーザ光のエネルギーが比較的低くても時間的及び空間的に限定した領域で反応領域を生じさせることができる結果、微細な範囲で効率的に高密度なポリイミド微細構造体を形成することができる。
【0025】
より詳細には、円形ドット状のポリイミド微細構造体を作成したい場合には、第2の工程では次のように処理されることが好適である。すなわち、パルスレーザ光L0のパワーを4~6mWに設定し、0.1sec~3.0secの時間幅で1点照射するように間欠的にドット状の走査パターンでパルスレーザ光L0を照射させる。このようにすれば、100nm~400nmの径の円形ドット状の範囲W1で加工用膜33がイミド化される。また、パルスレーザ光L0のパワーを4~6mWに設定し、0.1μm/sec~1.0μm/secの走査速度で直線状の走査パターンで連続的にパルスレーザ光L0を照射させる。このようにすれば、100nm~350nmの幅の直線状の範囲で加工用膜33がイミド化される。
【0026】
その後、第3の工程(除去ステップ)として、ウェットエッチングを用いて、基板S上の加工用膜33のイミド化されていない残余のポリアミック酸樹脂を除去する(図3(a))。ウェットエッチングは、基板Sを水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液に含浸することによって行ってもよいし、基板S上の加工用膜33にアルカリ溶液を滴下することによって行ってもよい。このような工程により、基板S上から残余のポリアミック酸樹脂を取り除くことができ、基板S上の下地膜31上に2次元的に配列された円形ドット状等の所定のパターンのポリイミド微細構造体35を作製することができる。
【0027】
次に、第4の工程(金属膜形成ステップ)として、残余の加工用膜33が除去された基板S上のポリイミド微細構造体35及び下地膜31の表面に金属(例えば、Ag等)を真空蒸着によって蒸着して金属膜37を形成する(図3(b))。例えば、金属膜37は、厚さ100nmで形成される。最後に、第5の工程として、金属膜37が形成された下地膜31から基板Sが剥離(除去)され、下地膜31上にポリイミド微細構造体35及び金属膜37が形成された柔軟性を有する板状部材が作製される(図3(c))。
【0028】
以上説明したポリイミド微細構造体の製造方法によれば、基板S上に形成されたポリアミック酸樹脂からなる加工用膜33に、所定の照射パターン、所定の強度、及び所定の照射時間(あるいは走査速度)でパルスレーザ光が照射されることにより、加工用膜33が光反応によってイミド化され、その後、加工用膜33のうちのイミド化されていない部分が除去される。このような光反応によって、加工用膜33の微細な部分のイミド化が可能となり、基板S上に照射パターンに従って形成されるポリイミドを十分に微細化することが可能となる。
【0029】
ここで、第1の工程では、基板S上にポリイミドの下地膜31を形成し、下地膜31上に加工用膜33を形成している。この場合、柔軟性を有する下地膜31上にポリイミド微細構造体35を形成することができる。
【0030】
また、第1の工程では、下地膜31の表面をカルボキシル化する処理を含んでいる。このようにすれば、下地膜31の表面の全面に加工用膜33が安定して形成されるので、下地膜31の表面の全面にポリイミド微細構造体35を安定して形成することができる。
【0031】
また、第3の工程後に基板Sを除去する処理が施されている。これにより、ポリイミド微細構造体35が下地膜31の表面に形成された柔軟性を有する膜状部材を製造することができる。
【0032】
また、第3の工程後にポリイミド微細構造体35及び下地膜31の表面に金属膜37が形成されている。このようにすることで、下地膜31上に金属で覆われた微細構造体を形成することができる。
【0033】
図4には、本実施形態によって下地膜31上に作成されたドット状のポリイミド微細構造体35の観察系システムによる観察結果を示している。図4(a)には、パルスレーザ光の強度4mWで、0.5sec~3.0secの間の0.1sec刻みの照射時間で、1点照射をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図4(b)には、パルスレーザ光の強度5mWで、0.2sec~3.0secの間の0.1sec刻みの照射時間で、1点照射をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図4(c)には、パルスレーザ光の強度6mWで、0.2sec~3.0secの間の0.1sec刻みの照射時間で、1点照射をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示している。また、図5には、図4に示したポリイミド微細構造体の径とパルスレーザ光の照射時間との関係を示している。
【0034】
これらの観察結果に示すように、同じパルスレーザ光の強度で照射時間を長くするとポリイミド微細構造体の径が大きくなり、同じ照射時間でパルスレーザ光の強度を増加させてもポリイミド微細構造体の径が大きくなることが分かる。具体的には、パルスレーザ光の強度が4~6mWの範囲で照射時間を0.1~3.0secの範囲に設定することにより、ポリイミド微細構造体の径を100~400nmの範囲で設定することができる。
【0035】
図6には、本実施形態によって下地膜31上に作成されたライン状のポリイミド微細構造体35の観察系システムによる観察結果を示している。図6(a)には、パルスレーザ光の強度4mWで、0.1μm/sec~1.0μm/secの間の0.1μm/sec刻みの走査速度で、ライン状の走査をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図6(b)には、パルスレーザ光の強度5mWで、0.1μm/sec~1.0μm/secの間の0.1μm/sec刻みの走査速度で、ライン状の走査をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図6(c)には、パルスレーザ光の強度6mWで、0.5μm/sec~1.0μm/secの間の0.1μm/sec刻みの走査速度で、ライン状の走査をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示している。また、図7には、図6に示したポリイミド微細構造体の幅とパルスレーザ光の走査速度との関係を示している。
【0036】
これらの観察結果に示すように、同じパルスレーザ光の強度で走査速度を速くするとポリイミド微細構造体の幅が小さくなり、同じ走査速度でパルスレーザ光の強度を増加させるとポリイミド微細構造体の幅が大きくなることが分かる。具体的には、パルスレーザ光の強度が4~6mWの範囲で走査速度を0.1~1.0μm/secの範囲に設定することにより、ポリイミド微細構造体の幅を100~350nmの範囲で設定することができる。
【0037】
本実施形態にかかる製造方法によって作製されたポリイミド微細構造体を含む下地膜31は、柔軟性を有し、300°C程度の耐熱性を有し、有機溶媒、酸、アルカリ等に対しても耐薬性を有するので、柔軟性を有するプラズモニック基板として応用することができる。つまり、例えば、300nm~800nmの周期で金属膜で覆われたポリイミド微細構造体を形成することによって、入射光に対して表面プラズモン共鳴を生じさせるデバイスとして応用できる。
【0038】
図8には、本実施形態の応用例である有機EL(Electro-luminescence)デバイス101の構造を示している。このように、金属膜37が形成されたポリイミド微細構造体35を有する下地膜31上に有機活性層39及び透明電極層41をこの順で形成することによって有機ELデバイス101を作製することができる。このような構造の有機ELデバイス101では、金属膜37と透明電極層41との間に電圧を印加することにより有機活性層39内で発光が生じる。この発光により、金属膜37の表面において表面プラズモンSPが励起され、その結果金属膜37の表面を電子が走行するが、その電子がポリイミド微細構造体35による凹凸構造によって回折されることによって回折光L2が生じ、その回折光L2が透明電極層41を透過して外部に放射される。このように、有機活性層39内での発光によって直接放射される光L1に加えて回折光L2も生じることにより、光の取り出し効率が向上された有機ELデバイスが実現される。
【0039】
図9には、本実施形態の別の応用例である有機薄膜太陽電池201の構造を示している。有機薄膜太陽電池201は、有機ELデバイス101と同様な構造を有する。このような構造の有機薄膜太陽電池201では、透明電極層41側から太陽光L3が入射すると、表面プラズモン共鳴によってポリイミド微細構造体35による周期的な凹凸構造において光が局在化される。この光の局在化によって効率的に電子と正孔のペアが生成される結果、光電変換効率が向上された有機薄膜太陽電池が実現される。
【0040】
図10には、本実施形態にかかる製造方法によって生成された周期的なドット状のポリイミド微細構造体の観察結果を示している。図10(a)には、パルスレーザ光の強度5mW、照射時間0.6secの1点照射によって、400nmのピッチで形成されたポリイミド微細構造体を示し、図10(b)には、パルスレーザ光の強度5mW、照射時間0.8secの1点照射によって、500nmのピッチで形成されたポリイミド微細構造体を示し、図10(c)には、パルスレーザ光の強度5mW、照射時間1.0secの1点照射によって、600nmのピッチで形成されたポリイミド微細構造体を示している。また、図11は、図10に示したポリイミド微細構造体を有するプラズモニック基板の反射率の波長依存性を示すグラフであり、曲線p400が図10(a)に示したポリイミド微細構造体に対応した反射率を示し、曲線p500が図10(b)に示したポリイミド微細構造体に対応した反射率を示し、曲線p600が図10(c)に示したポリイミド微細構造体に対応した反射率を示し、比較例として平坦なAg金属膜の反射率も示している。
【0041】
図12には、本実施形態にかかる製造方法によって生成された周期的なライン状のポリイミド微細構造体の観察結果を示している。図12(a)には、パルスレーザ光の強度5mW、走査速度0.7μm/secのライン状走査によって、400nmのピッチで形成されたポリイミド微細構造体を示し、図12(b)には、パルスレーザ光の強度5mW、走査速度0.5μm/secのライン状走査によって、500nmのピッチで形成されたポリイミド微細構造体を示し、図12(c)には、パルスレーザ光の強度5mW、走査速度0.3μm/secのライン状走査によって、600nmのピッチで形成されたポリイミド微細構造体を示している。また、図13は、図12に示したポリイミド微細構造体を有するプラズモニック基板の反射率の波長依存性を示すグラフであり、曲線p400が図12(a)に示したポリイミド微細構造体に対応した反射率を示し、曲線p500が図12(b)に示したポリイミド微細構造体に対応した反射率を示し、曲線p600が図12(c)に示したポリイミド微細構造体に対応した反射率を示し、比較例として平坦なAg金属膜の反射率も示している。
【0042】
このように、周期的なピッチで形成されたポリイミド微細構造体を有するプラズモニック基板では、そのピッチに対応する波長において反射率が低下していることが分かり、表面プラズモン共鳴による光の吸収が発生しているものと考えられる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形態様を採用することができる。
【0044】
例えば、基板Sに照射するパルスレーザ光の波長は特定の波長には限定されず、近赤外領域から紫外領域までの範囲から波長が選択されてよい。ナノメートルスケールの微細なパターンのポリイミド微細構造体を形成する場合には、多光子吸収過程を励起可能な波長500nm~2μmの範囲の近赤外パルスレーザを使用することが好適である。また、400nmを超える大きさ(径又は幅)の比較的粗い簡易なパターンのポリイミド微細構造体を形成する場合には、青色や紫外の波長200nm~550nmの範囲の連続的なレーザ光を発するCWレーザ(Continuous wave laser)を使用することが好適である。
【0045】
以下、本発明の変形例として、波長405nmのCWレーザを使用した製造方法によって作成したポリイミド微細構造体の構造の例を示す。
【0046】
図14には、変形例によって下地膜31上に作成されたドット状のポリイミド微細構造体35の観察系システムによる観察結果を示している。図14(a)には、レーザ光の強度0.2mWで、1.6sec~2.0secの間の0.1sec刻みの照射時間で、1点照射をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図14(b)には、レーザ光の強度0.5mWで、0.4sec~2.0secの間の0.1sec刻みの照射時間で、1点照射をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図14(c)には、レーザ光の強度1.0mWで、0.1sec~2.0secの間の0.1sec刻みの照射時間で、1点照射をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示している。また、図15には、図14に示したポリイミド微細構造体の径とレーザ光の照射時間との関係を示している。
【0047】
これらの観察結果に示すように、レーザ光の強度が0.2~1.0mWの範囲で照射時間を0.1~2.0secの範囲に設定することにより、ポリイミド微細構造体の径を400~800nmの範囲で設定することができる。
【0048】
図16には、変形例によって下地膜31上に作成されたライン状のポリイミド微細構造体35の観察系システムによる観察結果を示している。図16(a)には、レーザ光の強度0.2mWで、0.1μm/sec~0.5μm/secの間の0.1μm/sec刻みの走査速度で、ライン状の走査をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図16(b)には、レーザ光の強度0.5mWで、0.1μm/sec~1.0μm/secの間の0.1μm/sec刻みの走査速度で、ライン状の走査をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図16(c)には、レーザ光の強度1.0mWで、1μm/sec~5μm/secの間の1μm/sec刻みの走査速度で、ライン状の走査をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示し、図16(d)には、レーザ光の強度2.0mWで、1μm/sec~10μm/secの間の1μm/sec刻みの走査速度で、ライン状の走査をした場合に形成されたポリイミド微細構造体の観察結果を示している。また、図17(a)には、図16(c),(d)に示したポリイミド微細構造体の幅とレーザ光の照射時間との関係を示し、図17(b)には、図16(a),(b)に示したポリイミド微細構造体の幅とレーザ光の走査速度との関係を示している。
【0049】
これらの観察結果に示すように、レーザ光の強度が1.0~2.0mWの範囲で走査速度を1~10μm/secの範囲に設定することにより、ポリイミド微細構造体の幅を約250~800nmの範囲で設定することができる。また、レーザ光の強度が0.2~0.5mWの範囲で走査速度を0.1~1.0μm/secの範囲に設定することにより、ポリイミド微細構造体の幅を300~700nmの範囲で設定することができる。
【0050】
また、上述した第2の工程(照射ステップ)においては、XYZピエゾステージを駆動して所定の走査パターンで基板Sにレーザ光を照射させる方法以外の方法を用いてもよい。例えば、レーザ装置3から照射されたレーザ光をガルバノミラー等を用いて基板Sに対して走査させてもよいし、金属ナノ構造体形成装置1自体をモータ等の駆動装置を用いて動かすことによってレーザ光を走査させてもよい。さらには、空間光位相変調器を用いてレーザ光の2次元パターンを一度に基板S上に描くこともできる。
【符号の説明】
【0051】
1…金属ナノ構造体形成装置、3…レーザ装置、5…光シャッタ、7…ミラー、9…ビームエキスパンダ、11…ビームスプリッタ、13…対物レンズ、15…XYZピエゾステージ、17…集光レンズ、19…撮像装置、31…下地膜、33…加工用膜、35…ポリイミド微細構造体、37…金属膜、101…有機ELデバイス、201…有機薄膜太陽電池、L0…パルスレーザ光、S…基板(板状部材)。
図1
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