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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】合金薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/56 20060101AFI20230228BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C25D3/56 Z
C25D7/00 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020056203
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021155798
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-01-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・発行者名 :Transducers/EUROSENSORS 2019 Conference 刊行物名 :Transducers/EUROSENSORS 2019 Electronic Technical Digest(概要集) 発行年月日:2019年(令和1年)6月14日 ・集会名:Transducers 2019-EUROSENSORS XXXIII 開 催 日:2019年(令和1年)6月23日~6月27日 ・発行者名 :一般社団法人電気学会 刊行物名 :第36回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム論文集 発行年月日:2019年(令和1年)11月12日 ・集 会 名:第36回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム(センサ・マイクロマシン部門大会) 開 催 日:2019年(令和1年)11月19日~11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】519355839
【氏名又は名称】株式会社USリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】小野 崇人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 桂
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102433577(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101182645(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1580332(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1480564(CN,A)
【文献】特開平03-269228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0236441(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/56
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feから成る遷移金属元素と、Nd、Gd、Tb、およびDyのうちの1種類または複数種類から成る希土類元素と、酒石酸類と、クエン酸類とを含み、pHを3~5に調整した水溶液をめっき液として電解めっきを行うことにより、前記遷移金属元素と前記希土類元素とを有する合金薄膜を製造することを特徴とする合金薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液は、硫酸水溶液または塩酸水溶液であることを特徴とする請求項1記載の合金薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液中に、前記遷移金属元素および前記希土類元素を合わせて3種類以上含むことを特徴とする請求項1または2記載の合金薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記酒石酸類は、酒石酸、酒石酸カリウムナトリウム、または酒石酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の合金薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記クエン酸類は、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の合金薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記水溶液は、支持電解質を含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の合金薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TbやDy、Smなどの希土類元素と、FeやCo、Niなどの遷移金属との合金単結晶は、磁歪材料として知られている。特に、超磁歪材料として知られている市販のTerfenol-Dは、Tb0.3Dy0.7Fe組成の合金単結晶であり、優れた磁歪性能を有している。
【0003】
このような希土類元素と遷移金属との合金を製造する方法として、FeとTbとを有する水溶液に、酒石酸ナトリウムを加えてそれらを錯体化し、この水溶液を電解液として、室温、pH4で電解めっきにより、Fe-Tb合金を堆積させるもの(例えば、非特許文献1参照)や、Niと希土類(CeもしくはNd)とを含む水溶液に、クエン酸(C)を加えてそれらをキレート化し、この水溶液を電解液として、電解めっきによりNiと希土類との合金を堆積させるもの(例えば、非特許文献2参照)がある。
【0004】
また、希土類(La,Ce,Nd)および遷移金属(Ni,Fe,Co)の塩化物塩を含む溶液に、グリシンを加えてそれらを錯体化し、この水溶液を電解液として、電解めっきにより希土類と遷移金属との合金を堆積させるもの(例えば、特許文献1参照)や、SmおよびCoの硫酸塩水溶液に、グリシンやアミノ基、アミノカルボン酸塩(EDTA)を加えてそれらを錯体化し、この水溶液を電解液として、電解めっきによりSmとCoとの合金を堆積させるもの(例えば、特許文献2参照)、FeClとCdClとを含む水溶液に、クエン酸またはクエン酸ナトリウムを加えてそれらを錯体化し、この水溶液を電解液として、電解めっきによりNdFeB合金を堆積させるもの(例えば、非特許文献3参照)もある。
【0005】
また、CoイオンとFeイオンとを含んだ水溶液に、ジカルボン酸やトリカルボン酸を加えてそれらをキレート化し、この水溶液を電解液として、電解めっきによりCo-Fe合金を堆積させるもの(例えば、特許文献3参照)もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Gong and E. J. Podlaha, “Electrrodeposition of Fe-Tb Alloys from an Aqueous Electrolyte”, Electrochemical and Solid-State Letters, 2000, 3 (9), p.422-425
【文献】L. Wang et el., “Preparation of amorphous rare-earth films of Ni-Re-P (Re=Ce, Nd) by electrodeposition from an aqueous bath”, Surface & Coatings Technology, 2005, 192, p.208-212
【文献】Z. Yang et al., “Electroplating mechanism of nanocrystalline NdFeB film”, Trans. Nonferrous Met. Sic. China 25, 2015, p.832-837
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第6306276号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0049102号明細書
【文献】特開2015-108609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1乃至3、特許文献1または2に記載の合金薄膜の製造方法では、希土類元素および遷移金属のキレート化や錯体化に利用するリガンドが1種類のみであり、めっきされた合金薄膜中の希土類元素と遷移金属の組成比率は一定となるため、その組成比率を変化させることはできず、所望の性能を有する合金薄膜を製造するのは困難であるという課題があった。例えば、Tb0.3Dy0.7Fe組成のTerfenol-Dは、バルク材であれば超磁歪材料として優れた磁歪特性が得られているが、薄膜では良好な磁歪特性を得ることはできなかった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、希土類元素と遷移金属の組成比率を制御することができ、所望の性能を有する合金薄膜を製造することができる合金薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る合金薄膜の製造方法は、Feから成る遷移金属元素と、Nd、Gd、Tb、およびDyのうちの1種類または複数種類から成る希土類元素と、酒石酸類と、クエン酸類とを含み、pHを3~5に調整した水溶液をめっき液として電解めっきを行うことにより、前記遷移金属元素と前記希土類元素とを有する合金薄膜を製造することを特徴とする。
【0011】
本発明に関する合金薄膜は、1または複数種類の遷移金属元素と、1または複数種類の希土類元素とを含む合金めっきから成ることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る合金薄膜の製造方法は、本発明に関する合金薄膜を好適に製造することができる。本発明に係る合金薄膜の製造方法によれば、酒石酸類およびクエン酸類の2種類のリガンドにより、水溶液中で遷移金属元素および希土類元素のキレートを形成し、安定化させることができる。このとき、酒石酸類による遷移金属元素の錯体(錯イオン)、および、クエン酸類による遷移金属元素の錯体(錯イオン)の両方とも還元剤として働くが、クエン酸類による遷移金属元素の錯体(錯イオン)の方が、より強い還元剤として働く。このため、酒石酸類とクエン酸類の比率により、錯体化した希土類元素の還元電圧を調整することができ、例えば-0.7V~-1.1V程度の実用的な還元電圧で、電解めっきによる合金薄膜(合金めっき)を製造することができる。また、酒石酸類とクエン酸類の比率で還元電圧を調整することにより、製造する合金薄膜中の希土類元素と遷移金属の組成比率を制御することができ、所望の性能を有する合金薄膜を製造することができる。
【0013】
本発明に係る合金薄膜の製造方法で、前記水溶液は、硫酸水溶液または塩酸水溶液であることが好ましい。この場合、水溶液中で遷移金属元素および希土類元素の塩が生成されるため、遷移金属元素および希土類元素のキレートを形成しやすくすることができる。また、遷移金属元素の塩は希土類元素を還元する働きを有しているため、水溶液中に遷移金属元素の一部が塩として残ることにより、より実用的な還元電圧で合金薄膜を製造することができる。なお、原料として、遷移金属元素、希土類元素、硫酸や塩酸を別々に用意してもよいが、FeSOやFeClなどの遷移金属元素の硫化物や塩化物を用いてもよく、希土類元素の硫化物や塩化物を用いてもよい。
【0014】
本発明に係る合金薄膜の製造方法および本発明に関する合金薄膜で、前記遷移金属元素は、クエン酸や酒石酸と錯体を形成するものが好ましく、さらに、硫酸および塩酸に可溶して塩を形成するものが好ましい。このような遷移金属元素として、例えば、Fe、Co、Ni、Zn、およびGaのうちの1種類または複数種類であることが好ましい。これらの遷移金属元素の標準電極電位は、Fe2+が-0.44V、Co2+が-0.28V、Ni2+が-0.26V、Zn2+が-0.76V、Gaが-0.53Vであり、近い値を有している。このように、これらの遷移金属元素は、標準電極電位が近いことや、化学的特性が似ていることから、本発明の遷移金属元素として適用可能である。
【0015】
本発明に係る合金薄膜の製造方法および本発明に関する合金薄膜で、前記希土類元素は、クエン酸や酒石酸と錯体を形成するものが好ましく、さらに、硫酸および塩酸に可溶して塩を形成するものが好ましい。このような希土類元素として、例えば、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、およびErのうちの1種類または複数種類であることが好ましい。これらの希土類元素の標準電極電位は、Laが-2.37V、Ceが-2.34、Ndが-2.32V、Smが-2.30V、Gdが-2.29V、Tbが-2.30V、Dyが-2.29V、Hoが-2.33V、Erが-2.33であり、近い値を有している。このように、これらの希土類元素は、標準電極電位が近いことや、化学的特性が似ていることから、本発明の希土類元素として適用可能である。
【0016】
本発明に係る合金薄膜の製造方法は、前記水溶液中に、前記遷移金属元素および前記希土類元素を合わせて3種類以上含むことが好ましい。この場合、遷移金属元素を2種類以上含むときには、水溶液中でのそれらの遷移金属元素のイオン濃度を制御することにより、それらの遷移金属元素間の組成比率を制御することができる。また、希土類元素を2種類以上含むときには、水溶液中でのそれらの希土類元素のイオン濃度を制御することにより、それらの希土類元素間の組成比率を制御することができる。これにより、各元素の組成を制御して、遷移金属元素および希土類元素を合わせて3種類以上含む、本発明に関する合金薄膜を製造することができる。
【0017】
本発明に係る合金薄膜の製造方法で、前記酒石酸類は、酒石酸、酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)、または酒石酸ナトリウムであることが好ましい。また、前記クエン酸類は、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る合金薄膜の製造方法で、前記水溶液は、KClやNaClなどの支持電解質を含んでいてもよい。この場合、支持電解質により、水溶液に高い導電性を付与することができ、電解めっきの効率を高めることができる。また、水溶液は、pHが3~5であり、pHを3~5に調整するために、NaOHやKOHなどのpH調整剤を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、希土類元素と遷移金属の組成比率を制御することができ、所望の性能を有する合金薄膜を製造することができる合金薄膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法によりTbDyFeから成る合金薄膜を製造したときの、作用電極の電圧と合金薄膜の組成との関係を示すグラフである。
図2】本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法により、-930mVの還元電圧で製造したTbDyFeから成る合金薄膜の磁化特性を示すグラフである。
図3】本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法によりTbDyFeから成る合金薄膜を表面に堆積したカンチレバーの製造方法を示す側面図である。
図4図3の製造方法で製造したカンチレバーを示す斜視図である。
図5図4に示すカンチレバーの、印加磁場(Magnetic field)と磁歪係数(Magnetostriction coefficient)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法は、本発明の実施の形態の合金薄膜を好適に製造することができる。
【0022】
本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法は、まず、1または複数種類の遷移金属元素と、1または複数種類の希土類元素と、酒石酸類と、クエン酸類とを含む水溶液を調製する。遷移金属元素は、Fe、Co、Ni、Zn、およびGaのうちの1種類または複数種類であることが好ましい。希土類元素は、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、およびErのうちの1種類または複数種類であることが好ましい。酒石酸類は、酒石酸、酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)、または酒石酸ナトリウムであることが好ましい。クエン酸類は、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸であることが好ましい。
【0023】
次に、調製した水溶液をめっき液として電解めっきを行う。これにより、遷移金属元素と希土類元素とを含む合金めっきから成る、本発明の実施の形態の合金薄膜を製造することができる。
【0024】
本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法によれば、酒石酸類およびクエン酸類の2種類のリガンドにより、水溶液中で遷移金属元素および希土類元素のキレートを形成し、安定化させることができる。このとき、酒石酸類による遷移金属元素の錯体(錯イオン)、および、クエン酸類による遷移金属元素の錯体(錯イオン)の両方とも還元剤として働くが、クエン酸類による遷移金属元素の錯体(錯イオン)の方が、より強い還元剤として働く。このため、酒石酸類とクエン酸類の比率により、錯体化した希土類元素の還元電圧を調整することができ、例えば-0.7V~-1.1V程度の実用的な還元電圧で、電解めっきによる合金薄膜(合金めっき)を製造することができる。また、酒石酸類とクエン酸類の比率で還元電圧を調整することにより、製造する合金薄膜中の希土類元素と遷移金属の組成比率を制御することができ、所望の性能を有する合金薄膜を製造することができる。
【0025】
本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法で、水溶液は、硫酸水溶液または塩酸水溶液であることが好ましい。水溶液として、硫酸水溶液または塩酸水溶液を使用することにより、水溶液中で遷移金属元素および希土類元素の塩が生成されるため、遷移金属元素および希土類元素のキレートを形成しやすくすることができる。また、遷移金属元素の塩は希土類元素を還元する働きを有しているため、水溶液中に遷移金属元素の一部が塩として残ることにより、より実用的な還元電圧で合金薄膜を製造することができる。なお、この場合、原料として、遷移金属元素、希土類元素、硫酸や塩酸を別々に用意してもよいが、FeSOやFeClなどの遷移金属元素の硫化物や塩化物を用いてもよく、希土類元素の硫化物や塩化物を用いてもよい。
【0026】
また、本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法は、水溶液中に、遷移金属元素および希土類元素を合わせて3種類以上含むことが好ましい。遷移金属元素を2種類以上含むときには、水溶液中でのそれらの遷移金属元素のイオン濃度を制御することにより、それらの遷移金属元素間の組成比率を制御することができる。また、希土類元素を2種類以上含むときには、水溶液中でのそれらの希土類元素のイオン濃度を制御することにより、それらの希土類元素間の組成比率を制御することができる。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法により、超磁歪材料のTbDyFeから成る合金薄膜を製造した。まず、150 ccの純水中に以下の材料を入れて、水溶液を調製した。
・FeCl3・6H2O(粉末) 0.5 g
・FeSO4・7H2O(粉末) 1.8 g
・Tb2(SO4)3・8H2O(粉末) 0.3 g
・Dy2(SO4)3・8H2O(粉末) 0.7 g
・酒石酸カリウムナトリウム(KNaC4H4O6・4H2O) 1.1 g
・クエン酸ナトリウム(Na2H(C3H5O(COO)3)・1.5H2O) 0.5 g
・KCl(粉末) 33 g
・NaOH 1.1 g
【0028】
遷移金属元素はFeの1種類、希土類元素はTbおよびDyの2種類である。KClは、支持電解質であり、NaOHは、pH調整剤である。また、調製された水溶液は、硫酸水溶液となる。水溶液の調製は、N2雰囲気中で行った。なお、遷移金属元素や希土類元素の錯体化の反応を早めたいときには、水溶液を60℃程度まで加熱すればよい。
【0029】
次に、調製した水溶液をめっき液として電解めっきを行った。電解めっきには、3つの電極を有する電解めっき装置を使用し、電圧を制御しながら電解めっきを行った。電解めっき装置の参照電極はAg/AgCl、対極(アノード)はPt、作用電極(カソード)はCuである。電解めっきによる合金薄膜の堆積は、室温で行った。また、堆積中は、めっき液(電解液)にN2を流し、酸素の混入を防いだ。電解めっきによる合金薄膜の堆積速度は、約100~200 nm/h程度であった。
【0030】
作用電極の電圧(還元電圧;Potential)を変えて、TbDyFeから成る合金薄膜を堆積させたときの、作用電極の電圧と合金薄膜の組成との関係を求め、図1に示す。なお、合金薄膜の組成は、エネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて測定している。図1に示すように、作用電極の電圧により、遷移金属元素と希土類元素との組成比率を制御可能であることが確認された。また、-0.9V~-1V程度の還元電圧で、合金薄膜を製造できることが確認された。
【0031】
なお、クエン酸ナトリウムを 0.1 g増やし、酒石酸カリウムナトリウムを 0.22 g減らして合金薄膜を堆積させると、還元電圧が-935mVのときで、Feの組成比率(at%)が20~30%増加し、DyおよびTbの組成比率(at%)がそれぞれ10~15%減少した。逆に、クエン酸ナトリウムを 0.1 g減らし、酒石酸カリウムナトリウムを 0.22 g増やすと、合金薄膜の組成比率の増減が逆になった。
【0032】
-930mVの還元電圧で堆積させた合金薄膜(Tb0.36Dy0.64Fe1.9)の磁化特性を求め、図2に示す。なお、磁化特性は、振動試料型磁力計(VSM)により測定している。図2に示すように、得られた合金薄膜は、保持力が 285 Oe、飽和磁化が 7900 Oeであった。
【0033】
次に、超磁歪材料のTbDyFeから成る合金薄膜を表面に堆積したカンチレバーを製造し、磁歪係数の測定を行った。カンチレバーは、以下のようにして製造された。すなわち、まず、図3(a)に示すように、ハンドル層(Si)11の厚みが 550μm、BOX層(SiO2)12の厚みが 3μm、デバイス層(Si)13の厚みが 1.5μmのSOIウエハの、デバイス層13側の表面に、スパッタにより、Cuから成るシード層(seed layer)14を形成した。次に、図3(b)に示すように、そのシード層14の表面に、電解めっきにより、TbDyFeから成る合金薄膜15を堆積した。
【0034】
図3(c)に示すように、合金薄膜15の表面にフォトレジスト16を塗布し、イオンミリングおよび反応性イオンエッチング(RIE)により、合金薄膜15、シード層14およびデバイス層13を、所望のパターンにエッチングした。図3(d)に示すように、合金薄膜15の表面のフォトレジスト16を取り除いた後、同様にして、ハンドル層11側の表面にフォトレジスト17を塗布し、深掘りRIEにより、ハンドル層11を所望のパターンにエッチングした。図3(e)に示すように、Vapor HF エッチング装置により、SiO2から成るBOX層12の露出した部分をエッチングして取り除いた。こうして、図4に示すように、デバイス層13の表面に、シード層14を介してTbDyFeから成る合金薄膜15が形成されたカンチレバーを製造した。なお、ハンドル層11を残した部分は、カンチレバーの固定部である。
【0035】
カンチレバーは、長さの異なる3種類を製造した。それぞれの長さは、700μm、1000μm、および1100μmである。また、幅は、100μmである。なお、各カンチレバーは、シード層14の厚みが300 nm、合金薄膜15の厚みが250 nmである。
【0036】
各カンチレバーに対して様々な磁場を印加し、各印加磁場での各カンチレバーの反りから、合金薄膜15の面内方向の磁気歪(磁歪係数)を求めた。各カンチレバーの印加磁場(Magnetic field)と磁歪係数(Magnetostriction coefficient)との関係を、図5に示す。また、各カンチレバーの、各印加磁場での磁歪係数の平均値を求め、図5中に示す。図5に示すように、いずれのカンチレバーでも、1200 ppm以上の非常に大きな磁歪係数が得られており、薄膜であっても良好な磁歪特性を有していることが確認された。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施の形態の合金薄膜の製造方法により、超磁歪材料のTb-Fe-Coから成る合金薄膜を製造した。まず、150 ccの純水中に以下の材料を入れて、水溶液を調製した。
・CoSO4・7H2O 2.1 g
・FeCl3・6H2O 0.2 g
・Tb2(SO4)3・8H2O 1 g
・酒石酸カリウムナトリウム(KNaC4H4O6・4H2O) 1.8 g
・クエン酸ナトリウム(Na2H(C3H5O(COO)3)・1.5H2O) 1.4 g
・KCl(粉末) 33 g
・NaOH 1.1 g
【0038】
遷移金属元素はFeおよびCoの2種類、希土類元素はTbの1種類である。KClは、支持電解質であり、NaOHは、pH調整剤である。また、調製された水溶液は、硫酸水溶液となる。水溶液の調製は、N2雰囲気中で行った。なお、遷移金属元素や希土類元素の錯体化の反応を早めたいときには、水溶液を50~85℃程度まで加熱してもよい。
【0039】
次に、調製した水溶液をめっき液として、実施例1と同じ装置を用いて、電解めっきを行った。電解めっきによる合金薄膜の堆積は、作用電極に -880 mVの電圧を印加し、室温で行った。また、堆積中は、めっき液(電解液)にN2を流し、酸素の混入を防いだ。電解めっきによる合金薄膜の堆積速度は、約100~200 nm/h程度であった。
【0040】
堆積した合金薄膜の組成を、EDXを用いて測定したところ、Tbが 36 at%、Feが 9 at%、Coが 55 at%であった。なお、作用電極に印加する電圧(還元電圧)を、-5 mV変化させると、希土類元素(Tb)の比率が10%増加し、遷移金属元素(Fe、Co)の比率は減少した。また、遷移金属元素間の比率は、電解液中のFeとCoの濃度で調整できる。
【0041】
また、クエン酸ナトリウムを 0.14 g増やし、酒石酸カリウムナトリウムを 0.18 g減らして合金薄膜を堆積させると、還元電圧が-880mVのときで、Tbの組成比率(at%)が10%減少し、FeおよびCoの組成比率(at%)がそれぞれ5%増加した。逆に、クエン酸ナトリウムを 0.14 g減らし、酒石酸カリウムナトリウムを 0.18 g増やすと、合金薄膜の組成比率の増減が逆になった。
【符号の説明】
【0042】
11 ハンドル層
12 BOX層
13 デバイス層
14 シード層
15 合金薄膜
16、17 フォトレジスト
図1
図2
図3
図4
図5