(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】水または湯抽出用の乾燥植物、及びこの水または湯抽出用の乾燥植物と緑茶葉とのブレンド茶
(51)【国際特許分類】
A23L 2/38 20210101AFI20230228BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230228BHJP
A23F 3/14 20060101ALI20230228BHJP
A23F 3/34 20060101ALI20230228BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/73 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/535 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/23 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/9064 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/758 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/61 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/484 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/79 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/346 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/9066 20060101ALI20230228BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A23L2/38 C
A23L33/105
A23F3/14
A23F3/34
A61P1/00
A61P31/00
A61K36/73
A61K36/535
A61K36/23
A61K36/9064
A61K36/758
A61K36/54
A61K36/61
A61K36/484
A61K36/79
A61K36/346
A61K36/9066
A61K36/752
(21)【出願番号】P 2020129026
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】395019878
【氏名又は名称】株式会社建林松鶴堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000501
【氏名又は名称】翠弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】建林 佳壯
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106212790(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107412656(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106387157(CN,A)
【文献】特開2004-097015(JP,A)
【文献】特開2015-156854(JP,A)
【文献】特開2006-347995(JP,A)
【文献】特開2007-028997(JP,A)
【文献】特開2013-166785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00- 3/42
A23L 2/00- 2/84
A23L 33/00-33/29
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枇杷葉15wt%~21wt%、蘇葉又は浜防風1.5wt%~12.5wt%、カルダモン10wt%~16wt%、花椒又は山椒1.5wt%~7.5wt%、桂皮10wt%~16wt%、丁香1.5wt%~7.5wt%、甘草8.0wt%~14wt%、大茴香、烏薬、又は桔梗6.0wt%~12wt%、莪朮10wt%~16wt%、陳皮6.0wt%~12wt%を原料とすることを特徴とする水または湯抽出用の乾燥植物。
【請求項2】
乾燥植物と、緑茶葉とのブレンド茶であって、当該乾燥植物全体を100wt%とした場合に、この乾燥植物の原料を枇杷葉15wt%~21wt%、蘇葉又は浜防風1.5wt%~12.5wt%、カルダモン10wt%~16wt%、花椒又は山椒1.5wt%~7.5wt%、桂皮10wt%~16wt%、丁香1.5wt%~7.5wt%、甘草8.0wt%~14wt%、大茴香、烏薬、又は桔梗6.0wt%~12wt%、莪朮10wt%~16wt%、陳皮6.0wt%~12wt%とし、この乾燥植物と上記緑茶葉との混合割合を、1:2~2:3としたことを特徴とする水または湯抽出用のブレンド茶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の第1、第2発明は、水または湯に浸漬させて振り出すことによりその成分を抽出し、飲料とする乾燥植物、及びその乾燥植物と緑茶葉とのブレンド茶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現代、地球温暖化が益々進むにつれて世界中の国々で熱中症に罹る人が多くなるのは必至である。特に亜熱帯はもちろんのこと、日本の夏場においても熱中症にり患する人が年々増加している。しかしながら、熱中症における医薬品は、未だあまり開発されていないのが実情である。
【0003】
そこで発明者は、熱中症おける医薬品に準ずるもので気軽に取り組めるものはないかということを検討した。例えば、コレラやO-157の様な感染症や未知のウイルス感染が起こった場合でも、またはその予防に気休めになる処方箋について、漢方的な視点から探ってみたところ、「夏の屠蘇散」、すなわち非特許文献1に示す和中飲という飲み物に注目した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】漢方医浅田宗伯著 「宮中当直日誌」 御用意薬舗小西金次郎 明治14年8月
【文献】「近世漢方医学書集成96 浅田宗伯(二)」 株式会社名著出版 昭和57年11月25日発行
【文献】日本漢方協会編集「改訂三版実用漢方処方集」株式会社じほう 平成18年7月20日発行
【0005】
上記和中飲について説明すると、中国三国時代において、医師の華佗(かだ)により、「辟疫(へきえき)酒」というものが創薬された。この「辟疫酒」は現代の「屠蘇散」の原処方である。そしていつしかそれらの漢方文化が日本に伝来し、日本の風土に合うように、またそこから夏仕様にアレンジされた「屠蘇散」が作り出された。
【0006】
そして、これが江戸時代には、夏の食あたりの漢方薬が「和中飲」という名前の漢方として、江戸や京の都の商人によって広まり、夏の都会の風物又は公衆衛生の一環として根付くようになった。そしてこの和中飲の効能効果については、夏の食あたりによる霍乱(かくらん:激しい下痢や嘔吐)等の効果・効能を期待されて用いられてきた。尚、和中飲の処方に関する当時の資料や文献等は非特許文献1に示す如く存在するものの、数が少ないことから現時点で不明な点も多い。
【0007】
また非特許文献3に示す如く、和中飲の処方は、枇杷葉4.0、かっ香3.0、縮砂3.0、呉茱萸4.0、桂枝3.0、丁香2.0、甘草2.5、木香2.0、莪朮3.0であって、枇杷葉を主成分とするものである。そしてこの和中飲は、非特許文献3の第464ページ目に示す如く、「此方ハ關本伯傳ノ家方ニテ傷食ノ套剤ナリ」との記載、及び非特許文献2の第87ページ目「和中飲」の項目に記載の通り、いわゆる食あたりや熱中症のための漢方薬として広く使用されるようになった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら和中飲は上記の如く、漢方の特殊な材料を必要とするものであるため、一般の人が手軽に購入することは困難なものであった。また漢方薬であることから、味は苦く独特の風味がある上に、材料を煎じるなどの手間がかかることから、麦茶等と同様に、夏の飲み物として自宅で手軽に作ったり日常的に飲んだりすることは困難なものであった。
【0009】
そこで本願では上述の如き課題を解決しようとするものであって、和中飲に準じた飲み物を、簡易に作ることができるとともに、手軽においしく飲むことができる水または湯抽出用の乾燥植物を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の如き課題を解決するため、本願の第1発明は、枇杷葉15wt%~21wt%、蘇葉又は浜防風1.5wt%~12.5wt%、カルダモン10wt%~16wt%、花椒又は山椒1.5wt%~7.5wt%、桂皮10wt%~16wt%、丁香1.5wt%~7.5wt%、甘草8.0wt%~14wt%、大茴香、烏薬、又は桔梗6.0wt%~12wt%、莪朮10wt%~16wt%、陳皮6.0wt%~12wt%を原料とするものである。
【0011】
また本願の第2発明は、乾燥植物と、緑茶葉とのブレンド茶であって、当該乾燥植物全体を100wt%とした場合に、この乾燥植物の原料を枇杷葉15wt%~21wt%、蘇葉又は浜防風1.5wt%~12.5wt%、カルダモン10wt%~16wt%、花椒又は山椒1.5wt%~7.5wt%、桂皮10wt%~16wt%、丁香1.5wt%~7.5wt%、甘草8.0wt%~14wt%、大茴香、烏薬、又は桔梗6.0wt%~12wt%、莪朮10wt%~16wt%、陳皮6.0wt%~12wt%とし、この乾燥植物と上記緑茶葉との混合割合を、1:2~2:3としたものである。
【0012】
尚、非特許文献3によると、和中飲の処方は枇杷葉4.0、かっ香3.0、縮砂3.0、呉茱萸4.0、桂枝3.0、丁香2.0、甘草2.5、木香2.0、莪朮3.0である。しかし現在、その原材料の一部を手軽且つ安価に入手することは困難であるため、代替の植物を使用している。また、各材料の数値範囲については、非特許文献3に記載の処方に準じているが、香りや味等の各材料それぞれの特性に応じて、全ての材料を混合したものを煎じて飲用する際に、各材料の味や香りのバランスを考慮した上で、より多くの人々が飲みやすいと感じる味となるよう、各数値範囲については若干の幅を持たせている。
【0013】
そして第1発明及び第2発明は、かっ香の代わりに蘇葉又は浜防風を使用している。かっ香は医薬品であるため、いわゆる健康食品には応用できない。そこで、植物学上「かっ香」と類似する基原をもつ食品である蘇葉と、日本で汎用される食用成分でかつ人体に対する効果効能面が「かっ香」と類似する食品である浜防風を用いることとした。
【0014】
また、縮砂の代わりにカルダモンを使用している。縮砂は医薬品であるため、いわゆる健康食品には応用できない。そのため、植物学上「縮砂」と類似する基原をもつ食品であるカルダモンを、同様の効果を期待して用いることとした。
【0015】
また、呉茱萸の代わりに花椒又は山椒を使用している。呉茱萸は医薬品であるため健康食品に応用できない。そのため、呉茱萸と同じミカン科でこの呉茱萸と同様に胃腸を温める効果を有する山椒や花椒を、同様の効果を奏するものとして用いることとした。
【0016】
また、木香の代わりに大茴香、烏薬、又は桔梗を使用している。木香は医薬品であるため健康食品には応用できない。よって、木香と効果効能が類似している大茴香、また、食品にも応用される烏薬、桔梗を用いることとした。
【0017】
また第1発明及び第2発明では、風味をよくして飲みやすくするために、和中飲の処方には含まれていないが、陳皮を使用している。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1、2発明は上記の如く構成したものであって、和中飲に準じた水または湯抽出用の乾燥植物、及びこの水または湯抽出用の乾燥植物と緑茶葉とのブレンド茶を得るものである。そして本発明では、和中飲の処方では現在入手が困難である植物に代用可能なものを使用することにより、一般の人が安価且つ手軽に和中飲に準じた飲み物を飲用することができる。
【0019】
また上記和中飲は非特許文献2に示す如く、「・・・夏月の食当たりによって霍乱が起
こった場合に用いる。・・・」と記載されている。即ち、例えば夏場の暑熱により腐敗し
た物、カビ・虫やウイルスに汚染された飲食の残りをとった場合、又はお腹を不注意で冷
やしてしまい激しい下痢や嘔吐となった場合に用いるとよいとされる。そのため、この和
中飲の処方に準じた本願の第1、第2発明の処方により、原因となる体内の毒素を速やか
に発汗排便排尿を促すことにより下痢・嘔吐が治まり、解毒しながら熱感を鎮めるのに役
立つことが期待できる。
【0020】
また本願の第2発明は、本願の第1発明の乾燥植物に緑茶葉を添加したブレンド茶であって、上記和中飲に準ずる効能の他、緑茶葉はカテキンの解毒作用に加えてカフェインの利尿作用や発熱を鎮める作用、更にこれらに加え、この緑茶葉に含まれるタンニン由来の止瀉作用も期待できるものである。
【実施例】
【0021】
本願の第1発明に係る実施例1~8について以下に説明する。まず、実施例1~8の製造方法について説明すると、枇杷葉、蘇葉又は浜防風、カルダモン、花椒又は山椒、桂皮、丁香、甘草、大茴香又は烏薬又は桔梗、莪朮、陳皮の各材料を、加熱滅菌する。次に、保存性をよくするとともに香り風味を高めるために、棚状に形成された乾燥機に挿入配置し、80℃で15分間、上記各材料に弱い風を当てながら加熱乾燥する。
【0022】
そして、上記の如く乾燥した各材料を粉砕するとともに表1に示す割合にて各材料を混合し、当該混合物2.0gをティーバッグに詰める。尚、本処方は主に夏場を対象とし、かつ各成分の風味が強いことから、冷たく冷やして飲むことを想定している。
【0023】
【0024】
上記の如く製造した本実施例の乾燥植物の煎じ方について説明すると、容器に常温の水500mlを収納するとともに、この水にティーバッグ1包を浸漬し、冷蔵保存する。そしてこの状態で2時間程度放置することにより、水出し飲料が完成する。尚、下痢の症状が強い場合には、上記冷蔵保存して完成させた飲料を一旦常温に戻してから飲用するか、あるいは、カップ内にティーバッグを1包入れた状態で120cc程度の熱湯を注ぎ入れ、約3分放置後、当該ティーバッグを取り出して飲用する。
【0025】
そして上記の如く表1の各成分を水で抽出した実施例1~8について、各実施例の味覚に関する官能試験を行った。その結果について説明すると、実施例1、3、5、7においては花椒を用いており、この花椒は中華料理でなじみのある辛み成分であるが配合量を少なくしているため、想定よりも辛みを感じることなく飲みやすいという感覚を得た。
【0026】
また実施例2、4、6、8については、花椒の代わりに山椒を使用しているが、山椒は花椒よりも風味が刺激的で香りの面で主張が強く、苦い風味のクセのある味となった。また、実施例1、2、5、6では蘇葉を使用しているが、蘇葉は野菜の大葉に相当するものであって、鼻に抜ける独特の香りがあるため好みが分かれるが、これを添加することによりさわやかな風味があり後味がさっぱりする。
【0027】
また実施例3、4、7、8については、蘇葉の代わりに浜防風を使用しているが、浜防風は芳香が弱いため、かえって丁香の風味が前面に出てしまい、仁丹様のにおいを感じてしまう。
【0028】
次に、本願の第2発明に係る実施例9~16について以下に説明する。まず、実施例9~16の製造方法について説明すると、枇杷葉、蘇葉又は浜防風、カルダモン、花椒又は山椒、桂皮、丁香、甘草、大茴香又は烏薬又は桔梗、莪朮、陳皮の各材料を、加熱滅菌する。そして、保存性をよくするとともに香り風味を高めるために、棚状に形成された乾燥機に挿入配置し、80℃で15分間、上記各材料に弱い風を当てながら加熱乾燥する。
【0029】
また、緑茶葉については、加熱滅菌するとともに、保存性を良くするとともに香り風味を高めるために、コンベアー式の乾燥機にて100℃で30分間加熱する。その後、約180℃のドラム式火入機に投入して10分間加熱した後、丸高式粉砕機に投入して形状を整える。その後、雑味をなくすため、粉砕時に出た微細な粉を風力選別機にて除去する。
【0030】
そして、上記の如く乾燥した各材料及び緑茶葉を粉砕するとともに、表2に示す割合にて混合し、当該混合物10gをティーバッグに詰める。
【0031】
【0032】
次に煎じ方について説明すると、容器に常温の水500mlを収納するとともに、この水に上記ティーバッグ1包を浸漬し、約8時間冷蔵保存することにより、水出し飲料が完成する。
【0033】
上記の如く、実施例1~8の各材料に緑茶葉を添加することによって、全体の風味及び香りが緑茶に支配されるものとなる。またわずかに屠蘇散様のスパイシーな香りがするが、普段から緑茶に慣れ親しんでいる一般の人々にとっては、緑茶葉を添加していない実施例1~8よりも、緑茶葉を添加した実施例9~16の方が味になじみがあり飲みやすいものと思料される。