(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】肉様タンパク素材およびその製造方法ならびにそれを含む肉様食品、添加剤、組成物の使用
(51)【国際特許分類】
A23J 3/18 20060101AFI20230228BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A23J3/18 501
A23J3/00 502
(21)【出願番号】P 2021092353
(22)【出願日】2021-06-01
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】391029336
【氏名又は名称】長田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】辰野 謙二
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-086160(JP,A)
【文献】特表2019-510493(JP,A)
【文献】特表2010-505424(JP,A)
【文献】香川芳子, 1 穀類, 七訂 食品成分表 2016 本表編, 初版, 2016, pp.6-9
【文献】小麦粉のはなし,11-05-2021 uploaded, [Retrieved on 06-07-2022], Retrieved from the Internet:<URL: https://www.web.archive.org/web/20210511123337/https://www.flour.co.jp/knowledge/flour/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを含み、前記食物繊維およびタンパク質が小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物または副生成物由来であ
り、乾燥質量に対して300~400質量%の吸水倍率を有することを特徴とする肉様タンパク素材。
【請求項2】
グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを含み、前記食物繊維およびタンパク質が赤粕、白粕または小麦粉デンプンに由来
し、乾燥質量に対して300~400質量%の吸水倍率を有することを特徴とする肉様タンパク素材。
【請求項3】
前記タンパク質が、小麦由来のグリアジン、グルテニン、アルブミンおよびグロブリンからなる群より選択される少なくとも1つである請求項1
または2に記載の肉様タンパク素材。
【請求項4】
前記グルテンが、小麦グルテンである請求項1
~3のいずれか1つに記載の肉様タンパク素材。
【請求項5】
前記肉様タンパク素材が、その表面に凹凸を有するポーラス構造を有する請求項1~
4のいずれか1つに記載の肉様タンパク素材。
【請求項6】
グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを混合する工程を含
み、前記食物繊維およびタンパク質が小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物または副生成物由来であることを特徴とする肉様タンパク素材の製造方法。
【請求項7】
グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを混合する工程を含み、前記混合する工程において、前記グルテンと、赤粕、白粕または小麦粉デンプンとを混合する
ことを特徴とする肉様タンパク素材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか1つに記載の肉様タンパク素材を含む肉様食品。
【請求項9】
グルテンを含む肉様タンパク素材を製造するための、
小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物または副生成物由来である、小麦穀粒由来の食物繊維と前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを質量比0.2~3:0.08~0.7で含む添加剤。
【請求項10】
グルテンを含む肉様タンパク素材を製造するための、
小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物または副生成物由来である、小麦穀粒由来の食物繊維と前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを質量比0.2~3:0.08~0.7で含む組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルテンを主原料として用いた、肉様の繊維感を有しかつ咀嚼したときに天然肉(畜肉)の食感を与え得る肉様タンパク素材およびその製造方法ならびにそれを含む肉様食品(疑似肉様食品)、添加剤、組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりや環境問題を背景に、肉を使わない植物性代替肉が注目され、大豆タンパク質などの植物性タンパク質を用いて加工された植物性タンパク質含有食品の需要が増加している。このような食品の中でも、特にハンバーグやミートボールなどの挽肉を含む加工食品は、広く一般に消費されている。これらの食品は、肉の代わりに、大豆タンパクや小麦タンパクまたはこんにゃくやおからなどを混合することにより、肉の食感ができるだけ損なわれないように加工されている。
【0003】
植物性タンパク質含有食品は、肉代替食品として肉に類似した食感を付与するために、通常、二軸エクストルーダーを用いて繊維状の組織に加工されている(例えば、特開昭64-023855号公報:特許文献1)。しかしながら、この方法により加工された粒状乾燥大豆タンパク質は、肉とは異なり、弾力感やジューシー感に欠ける傾向がある。加えて、大豆由来の植物性タンパク質は豆臭または青草臭と言われる特異な風味を有するために、利用上の阻害要因になっている。この風味は、大豆臭を誘発する酵素であるリポキシゲナーゼが油脂成分を酸化させてn-ヘキサナールを生成させることに起因する。このため、味付けや風味の濃厚な食品は、そのマスキング効果により商品化し易いが、和食など淡泊な味付けや風味の食品には、適用し難い。そのため、依然として植物性タンパク質含有食品のアイテムが広がっていないのが現状である。
【0004】
植物性タンパク質を使用したハンバーグ様食品を提供する方法として、挽肉に代わる食感改良方法として、組織状植物性タンパク素材に糖アルコールを含有させる方法(例えば、国際公開第WO2012/132917号:特許文献2)や粒状大豆タンパク質と分離大豆タンパク質および小麦粉とを混合した材料をエクストルーダーで加工、裁断した組織状タンパク質を混合・成型後、マイクロ波を照射して肉代替物を結着させる方法(例えば、特開2008-061592号公報:特許文献3)が提案されている。しかしながら、これらの技術は、未だ食感や製造方法の簡便さに改良の余地があり、特に大豆タンパク質を用いた食品は、弾力感に欠けるため肉様食感とは程遠いのが現状である。
【0005】
一方、肉様素材として粒状小麦タンパクが提案されている。その製法では、大豆タンパク質と異なり、生グルテンに還元剤、塩類、デンプンなどを加えてグルテンの網目構造を部分的に破壊して造粒し、次いで熱水などの加熱により組織を固定化している。しかしながら、このような肉様素材は、一旦乾燥させると水で復元し難く、肉とは程遠いゴム様の食感や特有のグルテン臭を有するなどの欠点があり、本質的に肉様組織を期待して使用されるものではない。
また、現在実用化されている、粒状小麦タンパクを用いた製品は、凍結品の状態で流通・利用されており、冷凍工程や解凍工程、その間の冷凍庫などの保持設備が必要であり、保管や作業性の点でも欠点がある(例えば、寺嶋正彦、「新タンパク素材」、日本家政学会誌、1990、第41巻、第2号、p.157-163:非特許文献1)。
【0006】
小麦タンパクなどを用いた繊維状再構成食品の技術も提案されている(特開昭54-122762号公報:特許文献4)。しかしながら、小麦タンパク以外に、大豆タンパクなどの異種タンパク素材、および高分子多糖類やタンパク質を弛緩させるための酸性亜硫酸ソーダが必須であり、小麦タンパクだけでは繊維状構造が得られず、延伸工程など複数の工程が必要であるなど、製造上の改良の余地がある。
また、加熱加圧押出機を用いて肉様食品を製造する方法が提案されている(特開昭60-203146号公報:特許文献5)。しかしながら、この肉様食品を冷蔵やレトルト形態で長期保存するためには保存中の離水を抑制するために、小麦デンプンや小麦デンプン加水分解物などのデンプンを用いることが必要であり、長期保存するためには改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭64-023855号公報
【文献】国際公開第WO2012/132917号
【文献】特開2008-061592号公報
【文献】特開昭54-122762号公報
【文献】特開昭60-203146号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】寺嶋正彦、「新タンパク素材」、日本家政学会誌、1990、第41巻、第2号、p.157-163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1~5および非特許文献1に記載のような植物性タンパク素材およびその製造方法は、食感や風味、製造の簡便性、保存安定性などの点において、改良の余地がある。
そこで、本発明は、グルテンを主原料として用いた、肉様の繊維感を有しかつ咀嚼したときに天然肉の食感を与え得る肉様タンパク素材およびその製造方法ならびにそれを含む肉様食品、添加剤、組成物の使用を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、グルテンに、特定量の小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質を添加・混合することにより、肉様の繊維感を有しかつ咀嚼したときに天然肉の食感を与え、水戻し時の復元性に優れ、ジューシーで、植物性タンパク臭が少なく、風味良好で味付け性に優れた肉様タンパク素材、すなわち極めて天然肉に近い食品素材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明によれば、グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを含み、乾燥質量に対して300~400質量%の吸水倍率を有することを特徴とする肉様タンパク素材が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを混合する工程を含むことを特徴とする肉様タンパク素材の製造方法が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、上記の肉様タンパク素材を含む肉様食品が提供される。
また、本発明によれば、グルテンを含む肉様タンパク素材を製造するための、小麦穀粒由来の食物繊維と前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを質量比0.2~3:0.08~0.7で含む添加剤が提供される。
さらに、本発明によれば、グルテンを含む肉様タンパク素材を製造するための、小麦穀粒由来の食物繊維と前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを質量比0.2~3:0.08~0.7で含む組成物の使用が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、グルテンを主原料として用いた、肉様の繊維感を有しかつ咀嚼したときに天然肉の食感を与え得る肉様タンパク素材およびその製造方法ならびにそれを含む肉様食品、添加剤、組成物の使用を提供することができる。
本発明の肉様タンパク素材は、植物性タンパク質特有の風味が少なく、硬さ、弾力感、歯切れ感およびジューシー感などの特性に優れ、液状食品などと共に調理した場合には、味が均一に染み込んで風味の良い食品を得ることができる。また、その製造方法は、特殊な装置や複雑な工程を必要とせず簡便であり、それに用いる添加剤およびそれを含む組成物の使用と共に食品製造業や外食産業において有用である。
【0015】
本発明の肉様タンパク素材が得られるメカニズムは明らかではないが、小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質が、グルテンの主成分であるグルテニンやグリアジンとの相互作用によりグルテン中に微細な繊維を形成し組織化することで肉様の硬さや弾力感、歯切れ感が得られるものと考えられる。
【0016】
また、本発明の肉様タンパク素材は、次の少なくともいずれか1つの要件を満足する場合に、上記の優れた効果をさらに発揮する。
(1)タンパク質が、小麦由来のグリアジン、グルテニン、アルブミンおよびグロブリンからなる群より選択される少なくとも1つである。
(2)グルテンが、小麦グルテンである。
(3)食物繊維およびタンパク質が、小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物または副生成物由来である。
(4)食物繊維およびタンパク質が、赤粕、白粕または小麦粉デンプンに由来する。
(5)肉様タンパク素材が、その表面に凹凸を有するポーラス構造を有する。
【0017】
また、本発明の肉様タンパク素材の製造方法は、次の要件を満足する場合に、上記の優れた効果をさらに発揮する。
(6)グルテンと、赤粕、白粕または小麦粉デンプンとを混合する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)である。
【
図2】実施例2で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)である。
【
図3】比較例1で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)である。
【
図4】比較例3で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)である。
【
図5】実施例6で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)である。
【
図6】実施例7で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)である。
【
図7】比較例11で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[肉様タンパク素材]
本発明の肉様タンパク素材は、グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを含み、乾燥質量に対して300~400質量%の吸水倍率を有することを特徴とする。
以下に、本発明の肉様タンパク素材の構成成分、その物性およびその製造方法、それを含む肉様食品、添加剤、組成物の使用について説明する。
【0020】
[グルテン]
本発明の肉様タンパク素材の主成分であるグルテンは、穀類に含まれている種子タンパク質中のグルテリン系タンパク質とプロラミン系タンパク質とが水和し、相互作用して形成される三次元網状構造(ネットワーク)を有するガム状の粘弾性体である。
グルテリン系タンパク質とプロラミン系タンパク質は、小麦、大麦、ライ麦およびオーツ麦(燕麦)などに含まれ、本発明では、これらから得られるグルテンを用いることができる。
これらの中でも、小麦由来の小麦グルテンは、グルテリン系タンパク質のグルテニンとプロラミン系タンパク質のグリアジンが小麦穀粒の糊粉層および胚乳部に含まれるタンパク質の約80%を占め、グルテンの製造に有利であること、工業生産技術が確立されており入手し易いこと、肉様タンパク素材としての優れた効果が得られることなどから、グルテンとしては、小麦グルテンが好ましい。
【0021】
グルテンは、例えば、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉またはオーツ麦(燕麦)粉に水を加えて捏ねてドウ(生地)を得、これを多量の水でデンプンや水溶性成分を洗い流すことにより得られる。
工業的には、例えば、フラッシュドライ製法、噴霧乾燥法、ドラムドライ乾燥法、凍結乾燥法、真空乾燥法などの公知の方法により得られる小麦タンパク;マーチン法、バッター法、ハイドロサイクロン法、Alfa-Laval法、Tricanter法などの公知の方法により得られる含水形態のグルテン(生グルテン)が挙げられる。マーチン法、バッター法は、小麦グルテンの生産のための最も一般的な製造方法と認識されている。
また、乾燥形態のグルテン(粉末グルテン)は、公知の方法により生グルテンを乾燥・粉砕することにより得ることができる。
【0022】
[小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外のタンパク質]
小麦穀粒由来のタンパク質は、小麦由来のグリアジン、グルテニン、アルブミンおよびグロブリンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
小麦穀粒由来の食物繊維およびタンパク質は、小麦粉を原料として、小麦タンパクまたは小麦粉デンプンを製造する際に発生する、粗デンプン乳など排出液中に含有されるので、これらを利用することができる。小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外のタンパク質は、小麦穀粒の胚乳に由来することが好ましい。
これらの排出液は通常廃棄されているため、これを回収利用することで、資源を有効活用でき、コストを削減できるなどの利点があり好ましい。これらの回収物を小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の副生成物という。
【0023】
本明細書において、「小麦粉デンプン」とは、小麦粉を原材料として製造されるデンプンであり、デンプン成分(アミロースとアミロペクチンとの混合物)以外に小麦粉由来の食物繊維やタンパク質などの夾雑物を含有し得るものをいう。小麦粉デンプンには、その精製度合いによって夾雑物の含有量が異なる製品グレードがあり、食物繊維を含有しない小麦粉デンプンもある。したがって、本発明では、食物繊維およびタンパク質を共に特定の割合で含有する小麦粉デンプンを、小麦穀粒由来の食物繊維およびタンパク質として利用することができる。
なお、小麦粉デンプンは、工業生産技術が確立されており入手し易いことなどの利点があり好ましい。
【0024】
小麦タンパクおよび小麦粉デンプンは、現在一般的には、次のような工程からなるマーチン法に準ずる方法により製造されている。
(1)小麦粉に同質量程度の水を加えてドウを作る。
(2)水洗機中でドウに、小麦粉の約10倍量の水を加えて水洗し、粗デンプン乳と小麦タンパクとしての含水形態のグルテン(生グルテン)とに分離する。必要に応じて、生グルテンを乾燥させて、乾燥形態のグルテン(粉末グルテン)を得る。
(3)得られた粗デンプン乳を篩別して、不溶性残渣(赤粕)を含む赤粕液などを除去する。
(4)ノズルセパレーター、スクリューデカンターなどで遠心分離を行い、デンプン乳液と不溶性残渣(白粕)に分別する。その際、目的とするデンプングレードに応じて分別を行い、グレードに応じて食物繊維およびタンパク質の含有率の異なるデンプン乳液を得る。
(6)得られたデンプン乳液を遠心分離、ろ過機などで脱水して生ケーキを得る。製品グレードによって生ケーキの水洗濾過を繰り返す。
(7)気流乾燥機などで、得られた生ケーキを乾燥させて、小麦粉デンプンを得る。
【0025】
上記の製造工程中で発生する排出液中には不溶性の小麦デンプンが分散して懸濁状態で存在しているほか、可溶性糖および水溶性多糖類、塩可溶性タンパク質、水溶性ペントザン、不溶性ペントザンなどの可溶性多糖類や不溶性多糖類が存在している。
【0026】
本発明において、赤粕とは、小麦粉と水とを混錬して得られる「ドウ」と呼ばれる混錬物を水洗したときに生じるデンプン含有乳濁液(粗デンプン乳)から、例えば篩別(例えば、150~300メッシュ)により回収される、胚乳由来の微細破片からなるヘミロースおよびセルロースなどの水不溶性繊維とタンパク質と糖質などを含む赤茶色の混合物である。赤粕中の食物繊維およびタンパク質の質量比は、例えば1.7~8.3:1であり得る。
赤粕は、含水形態であってもよいし、乾燥形態であってもよい。含水形態の赤粕は、例えば、85~90質量%の水、3.0~5.0質量%の食物繊維および0.6~1.8質量%のタンパク質を含有する。
【0027】
本発明において、白粕とは、上記粗デンプン乳液から赤粕を除去して得られるデンプン乳液から、例えば遠心分離(例えば、1000~3000G)により回収される、胚乳中に含まれる水不溶性繊維質と粗タンパクと糖質などを含む白色の混合物である。白粕中の食物繊維およびタンパク質の質量比は、例えば0.3~10.7:1であり得る。
白粕は、含水形態であってもよいし、乾燥形態であってもよい。含水形態の白粕は、例えば、85~90質量%の水、0.4~3.2質量%の食物繊維および0.3~1.5質量%のタンパク質を含有する。
【0028】
また、小麦粉デンプンは、一般的な小麦タンパクおよび小麦粉デンプンの製造工程においても、製品グレードにより食物繊維およびタンパク質の質量比には幅があり、例えば、0.9~1.4質量%および0.6~0.9質量%の食物繊維およびタンパク質を含有し、その質量比は、例えば、1.0~2.3:1である。
【0029】
本発明においては、食物繊維およびタンパク質の質量比が例えば2.0~7.0:1、好ましくは2.8~5.0:1である赤粕、食物繊維およびタンパク質の質量比が例えば0.5~5.0、好ましくは1.3~2.1:1である白粕、食物繊維およびタンパク質の質量比が例えば1.3~2.0:1、好ましくは1.5~1.6:1である小麦粉デンプンを用いることができる。
【0030】
したがって、本発明において、食物繊維およびタンパク質は、小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物または副生成物由来であるのが好ましく、赤粕、白粕または小麦粉デンプンに由来するのが好ましい。
表1に精製工程(製品グレード)の異なる小麦粉デンプンA、小麦粉デンプンBおよび小麦粉デンプンCならびに赤粕の化学的組成の一例を示す。実施例においては、小麦粉デンプンAおよびBならびに赤粕を実施例に、食物繊維を含まない小麦粉デンプンCを比較例に用いている。
【0031】
【0032】
[食物繊維およびタンパク質の含有量]
本発明において、肉様タンパク素材中の食物繊維の含有量は、グルテン100質量部に対して0.2~3質量部である。
食物繊維の含有量が上記の範囲内では、表面に凹凸のあるポーラス構造と、微細なネットワーク構造(繊維状物)が形成され、肉様の繊維感を有しかつ咀嚼したときに天然肉の食感を与え得る肉様タンパク素材が得られる。
好ましい食物繊維の含有量は、グルテン100質量部に対して0.2~2.6質量部であり、食感の点でより好ましくは0.2~0.5質量部である。
【0033】
本発明において、肉様タンパク素材中のグルテン以外のタンパク質の含有量は、グルテン100質量部に対して0.08~0.7質量部である。
タンパク質の含有量が上記の範囲内では、表面に凹凸のあるポーラス構造と、微細なネットワーク構造(繊維状物)が形成され、肉様の繊維感を有しかつ咀嚼したときに天然肉の食感を与え得る肉様タンパク素材が得られる。
好ましいタンパク質の含有量は、グルテン100質量部に対して0.1~0.6質量部であり、食感の点でより好ましくは0.1~0.3質量部である。
【0034】
[主生成物または副生成物の配合割合]
食物繊維およびタンパク質として、それらを含む小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程で得られる主生成物である小麦粉デンプン、または副生成物由来である赤粕または白粕を用いる場合、それらの配合割合は、主生成物または副生成物中に含まれる食物繊維およびタンパク質の含有量により適宜設定すればよい。
主生成物または副生成物のグルテン100質量部に対する配合割合が少な過ぎ、グルテン100質量部に対する食物繊維およびタンパク質が少な過ぎると、凹凸のあるポーラス構造と、微細なネットワーク構造(繊維状物)が形成され難く、本発明の肉様タンパク素材が得られないことがある。一方、主生成物または副生成物のグルテン100質量部に対する配合割合が多過ぎると、肉様タンパク素材に主生成物または副生成物由来の風味や食感が付与されることがある。
好ましい主生成物または副生成物の配合割合は、グルテン100質量部に対して例えば15~90質量部、より好ましくは15~60質量部である。
【0035】
表1に示されるように、赤粕、白粕および小麦粉デンプン中の食物繊維およびタンパク質の含有量は異なり、好ましいグルテン100質量部に対する配合割合が異なる。
食物繊維およびタンパク質として、水分含有量85~90質量%の赤粕を用いる場合、好ましいグルテン100質量部に対する配合割合は、例えば15~70質量部であり、より好ましくは20~60質量部である。
水分含有量85~90質量%の白粕を用いる場合、好ましいグルテン100質量部に対する配合割合は、例えば20~90質量部であり、より好ましくは30~70質量部である。
水分含有量10~20質量%の小麦粉デンプンを用いる場合、好ましいグルテン100質量部に対する配合割合は、例えば15~35質量部であり、より好ましくは18~30質量部である。
【0036】
赤粕および白粕は、肉様タンパク素材の製造において、混合工程および乾燥工程での作業性向上や乾燥効率向上の点で、乾燥粉末化した赤粕および白粕が好ましい。
また、赤粕は、白粕および小麦粉デンプンと比べて食物繊維を多く含むことから、少ない添加量で本発明の肉様タンパク素材の優れた効果が得られ、しかもこれまで廃棄されていた資源を有効活用できることから、添加成分として特に好ましい。
【0037】
[他のタンパク質]
本発明の肉様タンパク素材は、本発明の効果である肉様食品の食感や風味などの機能性を損なわない範囲で、他のタンパク質を含んでいてもよい。
他のタンパク質としては、米、大麦などの穀物種子由来のタンパクおよびこれらの抽出・加工タンパク、例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、大豆グロブリン、大豆アルブミン、落花生アルブミンなど、これらの熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理タンパクなどならびにそれらの混合物などの植物性タンパク質が挙げられる。
また、動物性タンパク質を用いることもでき、例えば、卵白、ゼラチン、乳清タンパク質、カゼインならびにそれらのプラズマ加工品およびそれら抽出加工品などが挙げられる。
他のタンパク質の配合割合は、そのタンパク質種により適宜設定すればよく、グルテン100質量部に対して3~30質量部程度である。
一方、本発明の肉様タンパク素材は、リポキシゲナーゼを含まないことが好ましい。
【0038】
[他の原料]
本発明の肉様タンパク素材は、本発明の効果である肉様食品の食感や風味などの機能性を損なわない範囲で、それらの用途に応じて他の原料を含んでいてもよい。
他の原料としては、例えば、味付けのための各種調味料や油脂、硬さや弾力などの食感を強化するための各種食品添加物が挙げられる。例えば、食塩、乳酸カルシムや焼成カルシウム、トリポリリン酸塩などの各種塩類、トランスグルタミナーゼなどの酵素類、増粘多糖類、デンプン類、香辛料などが挙げられる。
他の原料の配合割合は、その原料種により適宜設定すればよく、グルテン100質量部に対して0.3~20質量部程度である。
【0039】
[肉様タンパク素材の構造および吸水倍率]
本発明の肉様タンパク素材は、乾燥質量に対して300~400質量%の吸水倍率を有する。
吸水倍率は、肉様タンパク素材の乾燥質量に対して、どの程度の水を吸収し、それを保持し得るかの程度を表し、その具体的な測定方法を実施例に記載する。
【0040】
また、本発明の肉様タンパク素材は、その表面に凹凸を有するポーラス構造を有するのが好ましく、さらにその構造中に繊維状物を有するのが好ましい。
上記の吸水倍率は、肉様タンパク素材が、どの程度その表面に凹凸を有するポーラス構造を有するか、およびどの程度その構造中に繊維状物を有するかの指針となる。
肉様タンパク素材の吸水倍率が300質量%未満では、本発明特有の繊維状物を有するポーラス構造を有さない、あるいは部分的にしか有さないことがあり、本発明の効果が得られ難い。一方、肉様タンパク素材の吸水倍率が400質量%を超えると、脱水効率が低下して乾燥に長時間を要することがある。
好ましい吸水倍率は、300~340質量%である。
【0041】
[肉様タンパク素材の製造方法]
本発明の肉様タンパク素材の製造方法は、グルテンと、該グルテン100質量部に対してそれぞれ0.2~3質量部および0.08~0.7質量部の小麦穀粒由来の食物繊維および前記グルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを混合する工程を含むことを特徴とする。
なお、構成成分および質量比などの詳細については、肉様タンパク素材に準ずる。
すなわち、本発明の肉様タンパク素材は、グルテンと、特定量の小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを混合するという、加熱、加圧、マイクロ波照射、組織改質のための酸性亜硫酸ソーダの添加を必要とする従来の肉様素材よりも簡便な製造方法により得ることができる。
【0042】
小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質として、赤粕、白粕または小麦粉デンプンを用いる場合、グルテンと、該グルテン100質量部に対して2~30質量部の赤粕、白粕または小麦粉デンプンを混合するのが好ましい。
以下に、本発明の肉様タンパク素材の製造方法の一例を記載するが、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
(混合)
グルテンと、特定量の小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを混合する。
混合には、食品加工に用いられる公知の混合装置、特に高粘度材料を混合可能な混合装置を用いることができ、例えば、フードカッター、ステファンカッター、二軸混錬押し出し機などが挙げられる。
混合条件は、用いる混合装置、原料種、処理量などにより適宜設定すればよい。例えば、処理時間は、混合装置が高速回転のフードカッターの場合、通常90秒以下、混合装置が低速ニーダーの場合、通常10~60分間程度である。
混合が長く、過剰に行われると、グルテン特有の粘弾性が発現して、乾燥・復元が困難になることがある。一方、混合が短過ぎると、生地の結着性が低く、目的とする大きさの素材を得ることが困難になることがある。
混合温度は、グルテンの変性限界温度以下、通常60℃以下、好ましくは50℃以下であり、その下限は10℃程度である。
【0044】
小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質として小麦粉デンプンを用いる場合には、アミラーゼなどデンプン分解酵素を配合するのが好ましい。
その配合量は、小麦粉デンプン中のデンプンを分解し得る量であればよく、例えば、酵素活性30000unit/gのアミラーゼの場合、グルテン100質量部に対して0.06~6質量部程度、好ましくは0.2~2質量部程度である。
デンプン分解酵素を配合して、デンプンを加水分解除去することにより、糊化澱粉糊による食感への悪影響や製造において乾燥効率の低下を回避することができる。
【0045】
(成型)
混合により得られた原料混合物を、粒状、シート状、ブロック肉状、ダイスカットした形状などの所望の形状に成型する。その成型には、食品加工に用いられるミートチョッパーなどの公知の成型装置や型を用いることができ、その条件は、用いる成型装置や型、原料種、処理量などにより適宜設定すればよい。
【0046】
(加熱凝固)
成型した混合物を加熱凝固させる。その加熱凝固には、食品加工に用いられる公知の装置を用いることができる。その方法としては、原料混合物を湯中に投入する方法、スチーム加熱、マイクロ波加熱、二軸エクストルーダークッキングなどが挙げられる。
温度条件は、50~120℃が好ましく、小麦タンパクに含まれる脂質の酸化進行を可能な限り回避するためには、80~95℃が特に好ましい。
【0047】
(乾燥)
乾燥工程を導入することで乾燥時のタンパク変性作用を利用して一層畜肉に近い食感を得ることができる。
乾燥には、食品加工に用いられる公知の乾燥装置を用いることができる。
乾燥温度は、50~120℃が好ましく、小麦タンパクに含まれる脂質の酸化進行を可能な限り回避するためには、80~95℃が特に好ましい。
【0048】
[肉様食品]
本発明の肉様食品は、本発明の肉様タンパク素材を含む。
肉様食品の形状は、特に限定されず、用途(調理)に応じて所望の形状に加工することができる。例えば、厚さ約15mm以上のステーキ用肉やカツ用肉用の形状、一辺の長さが約15mm以上のカレーやシチューなどの煮込み用肉の形状、唐揚げ、チキンナゲット、焼き鳥用の形状、ミンチ肉の形状に加工することができる。
それらの加工には、公知の装置および方法を用いることができる。
【0049】
本発明の肉様食品は、本発明の肉様タンパク素材を用いて加工された加工食品を含む。
加工食品は、例えば、ミンチ状に加工した本発明の肉様タンパク素材を他の食材と共に所望の形状に加工・調理することにより得ることができる。
具体的には、ミートボール、ハンバーグ、中華まんじゅう、餃子、焼売などが挙げられる。
本発明の肉様タンパク素材は、本来の食肉の置き換えであるが、その置き換えは全部であっても一部であってもよい。すなわち、加工食品は、本来の食肉と本発明の肉様タンパク素材の両方を含んでいてもよい。
【0050】
[添加剤および組成物の使用]
本発明の添加剤は、グルテンを含む肉様タンパク素材を製造するための、小麦穀粒由来の食物繊維とグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを質量比0.2~3:0.08~0.7で含む。
また、本発明の組成物の使用は、グルテンを含む肉様タンパク素材を製造するための、小麦穀粒由来の食物繊維とグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを質量比0.2~3:0.08~0.7で含む組成物の使用である。
【0051】
本発明の添加剤および組成物中の食物繊維とタンパク質の好ましい質量比は、0.2~2.6:0.1~0.6、食感の点でより好ましくは0.2~0.5:0.1~0.3である。
本発明においては、添加剤および組成物として、小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物である小麦粉デンプン、ならびに副生成物由来の赤粕および白粕を用いることができる。
【実施例】
【0052】
本発明を、実施例および比較例を含む試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0053】
[試験例1:素材の調製とその評価]
グルテンと、小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質とを含む素材を調製し、比較として、食物繊維およびタンパク質を含まない素材およびそれらの代わりに従来の添加物を用いた素材を調製し、それらを評価した。
【0054】
(実施例1)
グルテン原料としての小麦タンパク(長田産業株式会社製、製品名:粉末状小麦たん白 フメリットA2)100質量部に水(水道水)200質量部を加え、フードプロセッサー(ロボクープ社製、型式:ROBOT COUPE Sタイプ R-100)を用いて回転数1500rpmで120秒間混合してペースト状の混合物(「生グルテン」、以下「ペースト」ともいう)を得た。
次いで、得られたペースト(グルテン33質量%含有)100質量部に、食物繊維およびタンパク質としての小麦粉デンプンA(水分量14.6質量%、食物繊維含有量1.4質量%、タンパク質含有量0.9質量%:表1)6質量部(グルテン100質量部に対して18質量部)およびαアミラーゼ(Bacillus Subtitis由来、酵素活性:30000unit/g、長瀬産業株式会社製、製品名:スピターゼCP-3)0.1質量部(グルテン100質量部に対して0.3質量部)を加え、回転数1500rpmで50秒間混合した。
得られた混合物をミートチョッパー(北沢産業株式会社製、型式:C-12A、出口径φ3mm)に通した後、ボイル槽に投入し、温度98℃で30分間ボイルした。
得られたボイル品を、流水冷却し、約60%の水分量になるまで脱水した後、定温乾燥機(増田理化工業株式会社製、型式:DRYING OVEN SA-46)を用いて、温度95℃で60分間乾燥させて、約93gの素材を得た。
【0055】
(実施例2)
小麦粉デンプンAをグルテン100質量部に対して24質量部用いること以外は、実施例1と同様にして、約95gの素材を得た。
【0056】
(実施例3)
小麦粉デンプンAをグルテン100質量部に対して30質量部用いること以外は、実施例1と同様にして、約97gの素材を得た。
【0057】
(実施例4)
小麦粉デンプンAの代わりに小麦粉デンプンB(水分量11.8質量%、食物繊維含有量0.9質量%、タンパク質含有量0.6質量%:表1)をグルテン100質量部に対して30質量部用いること以外は、実施例1と同様にして、約96gの素材を得た。
【0058】
(比較例1)
小麦粉デンプンAおよびαアミラーゼを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、約92gの素材を得た。
【0059】
(比較例2)
小麦粉デンプンAをグルテン100質量部に対して12質量部用いること以外は、実施例1と同様にして、約95gの素材を得た。
【0060】
(比較例3)
小麦粉デンプンAの代わりに小麦粉デンプンC(水分量13.1質量%、食物繊維含有量0.0質量%、タンパク質含有量0.2質量%:表1)をグルテン100質量部に対して30質量部用いること以外は。実施例1と同様にして、約95gの素材を得た。
【0061】
(比較例4)
小麦粉デンプンAの代わりに多糖類としてキサンタンガム(DSP五協フード&ケミカル株式会社製、製品名:エコーガム)をグルテン100質量部に対して0.9質量部用い、αアミラーゼを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、約95gの素材を得た。
【0062】
(比較例5)
小麦粉デンプンAの代わりに水溶性大豆多糖類(平均分子量55万、ガラクツロン酸含量18.3質量%、不二製油株式会社製、製品名:ソヤファイブ-S)をグルテン100質量部に対して0.9質量部用い、αアミラーゼを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、約94gの素材を得た。
【0063】
(比較例6)
小麦粉デンプンAの代わりに小麦ファイバー(レッテンマイヤージャパン株式会社製、製品名:ビタセルWF200)をグルテン100質量部に対して0.9質量部用い、αアミラーゼを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、約94gの素材を得た。
【0064】
(比較例7)
小麦粉デンプンAの代わりに大豆タンパク質(日清オイリオグループ株式会社製、製品名:ソルピー4000H)をグルテン100質量部に対して1.5質量部用い、αアミラーゼを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、約95gの素材を得た。
【0065】
(比較例8)
小麦粉デンプンAの代わりに水溶性大豆多糖類(平均分子量55万、ガラクツロン酸含量18.3質量%、不二製油株式会社製、製品名:ソヤファイブ-S)をグルテン100質量部に対して0.9質量部と大豆タンパク質(日清オイリオグループ株式会社製、製品名:ソルピー4000H)をグルテン100質量部に対して1.5質量部用い、αアミラーゼを用いないこと以外は、実施例1と同様にして、約94gの素材を得た。
【0066】
得られた実施例1~4および比較例1~8の素材について、吸水性、食感および外観(組織構造)を評価し、得られた結果を総合評価した。
[評価1:吸水性]
得られた素材を約30g秤量し(吸水前質量(乾燥質量)Wb)、その素材に対して5倍質量の水を入れた容器に素材を投入し、60分間静置した。その後、ザルで水切りをし、含水素材を秤量した(吸水後質量Wa)。得られた結果から吸水倍率(質量%)を算出し、下記の評価基準に基づいて評点した。
吸水倍率(質量%)=(Wa/Wb)×100
(評価基準)
評価点 吸水倍率
4 300質量%以上
3 250質量%以上300質量%未満
2 200質量%以上250質量%未満
1 100質量%以上200質量%未満
【0067】
[評価2:食感]
熟練した5名のパネラーが、下記の4段階の評価基準で吸水した素材(試験品)の硬さ、弾力およびジューシー感を官能評価(評点)した。それらの評点の平均値(少数点第2位以下を切り捨て)を食感の評価点とした。
(評価基準)
評価点
4 天然肉に類似の硬さと弾力感のバランスが良く、ジューシーな食感である。
3 天然肉に類似しているが、硬さより弾力感がやや強いが、ジューシーな食感である。
2 天然肉に近いジューシーな食感であるが、硬さより弾力感が強くやや不自然な食感である。
1 ゴム様の不自然な弾力感で歯切れ悪く噛み切れない硬さであり、均質で人工的な食感であるか、またはゴワついた不自然な食感であり異味・異臭を感じる。
【0068】
[評価3:組織構造]
得られた素材(乾燥物)を光学顕微鏡(キーエンス株式会社製、型式:デジタルマイクロスコープVHX5000)を用いて、倍率20倍で観察し、その組織構造を下記の評価基準に基づいて評点した。
(評価基準)
評価点
4 外観は凹凸のある形状とポーラス構造を呈し、組織構造中に繊維状物が観察される。
3 外観はやや凹凸の少ない形状とポーラス構造を呈し、組織構造中に繊維状物が観察される。
2 外観は凹凸な形状とポーラス構造が少なく、組織構造中に繊維状物がほとんど観察されない。
1 外観は緻密な平滑構造を呈し、組織構造中に繊維状物が観察されない。
【0069】
[総合評価]
吸水性、食感および外観(組織構造)の結果を下記の基準で総合評価した。
○(合格) :吸水性、食感および外観が共に、3.0点以上である。
×(不合格):吸水性、食感および外観のいずれか1つが3.0点未満である。
得られた結果を素材の配合成分と共に表2に示す。
また、
図1~4に、実施例1、実施例2、比較例1および比較例3で得られた素材の外観を示す光学顕微鏡写真(20倍)を示す。
【0070】
【0071】
表2の結果から次のことがわかる。
(1)本発明の食物繊維およびタンパク質が添加されたタンパク素材は、外観は凹凸のある形状とポーラス構造を呈し、組織構造中に繊維状物が観察され吸水性に優れる。その食感は天然肉に類似の硬さと弾力感のバランスが良く、ジューシーな食感である(実施例1~4)。
(2)本発明の食物繊維およびタンパク質が添加されていないタンパク素材、本発明の規定を満たさない食物繊維およびタンパク質が添加されたタンパク素材は、外観は凹凸な形状とポーラス構造が少なく、組織構造中に繊維状物がほとんど観察されない。そのため、吸水率に劣り、食感も硬さより弾力感が強く肉と程遠く不自然な食感である(比較例1~3)。
(3)本発明の食物繊維およびタンパク質以外の多糖類、食物繊維およびタンパク質が添加された素材は、外観は凹凸な形状とポーラス構造が少なく、組織構造中に繊維状物がほとんど観察されない。そのため、吸水率に劣り食感も、硬さより弾力感が強く肉と程遠い不自然な食感である(比較例4~8)。
【0072】
[試験例2:肉様食品の調製とその評価]
試験例1の実施例3および比較例1でそれぞれ得られた素材、対照の従来の肉様素材を用いてそぼろ肉様食品を調製し、それらを評価した。
【0073】
(実施例5)
試験例1の実施例3で得られたタンパク素材100質量部を水戻しした(含水率約69%)。
以下の処方で調味液を調製した。
食塩(公益財団法人塩事業センター製、製品名:並塩) 6質量部
砂糖(株式会社三井製糖製、製品名:上白糖) 12質量部
チキンエキス(日研フード株式会社製、製品名:チキンエキスA-5410)
25質量部
チキンペースト(富士食品工業株式会社製、製品名:チキンエキスC-500(S))
10質量部
酵母エキス(株式会社光洋商会製、製品名:スプリンガー4101/0-PW-L)
5質量部
グルタミン酸ソーダ(DSP五協フード&ケミカル株式会社製、製品名:グルタミン酸ナトリウムRC) 1.0質量部
水(水道水) 200質量部
上記の調味液用原料を水に添加し、ホモジナイザー(プライミクス株式会社製、型式:TKホモミクサーMARK II)を用いて、回転数6000rpmで5分間撹拌処理を行い、調味液を得た。
【0074】
得られた調味液259質量部に、水戻しした肉様タンパク素材100質量部を浸漬し、室温(25℃)で1時間静置して、素材に調味液を浸み込ませた。静置後、目開き1mmの金網を用いて、素材と過剰の調味液(浸漬液)を分離した。
次いで、フライパン(外径280mm)に市販のサラダ油20gを投入し、IH調理器を用いて加熱し、サラダ油が100℃に達温後、素材をその全体に火が通るまで3分間炒めた。冷却後の室温(25℃)で1時間放冷し、約120gのそぼろ肉様食品(検体1)を得た。
【0075】
(比較例9)
試験例1の実施例3で得られたタンパク素材の代わりに、試験例1の比較例1で得られた素材を用いること以外は、実施例5と同様にして、約110gのそぼろ肉様食品(検体2)を得た。
【0076】
(比較例10)
試験例1の実施例3で得られたタンパク素材の代わりに、粒状大豆タンパク質(不二製油株式会社製、製品名:ニューフジニック52S)を用いること以外は、実施例5と同様にして、約107gのそぼろ肉様食品(検体3)を得た。
【0077】
実施例5ならびに比較例9および10で得られたそぼろ肉様食品(検体1~3)について、食感および風味を評価し、得られた結果を総合評価した。
熟練した5名のパネラーが、下記の4段階の評価基準でおよびそぼろ肉様食品の食感および風味を官能評価(評点)した。それらの評点の平均値(少数点第2位以下を切り捨て)を食感および風味の評価点とした。
【0078】
[評価4:食感]
(評価基準)
評価点
4 非常に肉粒感が強くジューシー感が強い。
3 肉粒感が強くジューシー感がやや強い。
2 肉粒感がやや強くジューシー感が少しある。
1 肉粒感が弱くジューシー感がない。
【0079】
[評価4:風味]
(評価基準)
評価点
評価点
4 植物性タンパク臭をほとんど感じない
3 植物性タンパク臭をやや感じる
2 植物性タンパク臭をやや強く感じる
1 植物性タンパク臭を非常に強く感じる
【0080】
[総合評価]
食感および風味の結果を下記の基準で総合評価した。
〇(合格) :食感および風味が共に3.0点以上である。
×(不合格):食感または風味のいずれか一方が3.0点未満である。
得られた結果をそぼろ肉様食品の配合成分と共に表3に示す。
【0081】
【0082】
表3の結果から、試験例1の実施例3で得られた素材を用いて調製したそぼろ肉様食品(検体1)は、試験例1の比較例1で得られた素材を用いて調製したそぼろ肉様食品(検体2)および粒状大豆タンパク質を用いて調製したそぼろ肉様食品(検体3)と比較して、非常に粒感が強く、ジューシーで歯ごたえ感が良好であり、植物性タンパク臭が少ないことがわかる。
【0083】
[試験例3:素材の調製とその評価]
生グルテンを用い、食物繊維およびタンパク質として赤粕を、配合量を変化させて用いてタンパク素材を調製し、それらを評価した。
【0084】
(実施例6)
マーチン法により小麦粉から分離した生グルテン(グルテン33質量%、水分量67質量%)100質量部に、赤粕(水分量87.9質量%、食物繊維含有量4.3質量%、タンパク質含有量0.9質量%:表1)5質量部(グルテン100質量部に対して15質量部)を加え、フードプロセッサー(ロボクープ社製、型式:ROBOT COUPE Sタイプ R-100)を用いて回転数1500rpmで120秒間混合した。
得られた混合物をミートチョッパー(北沢産業株式会社製、型式:C-12A、出口径φ3mm)を通した後、ボイル槽に投入し、温度98℃で30分間ボイルした。
得られたボイル品を、流水冷却し、約60%の水分量になるまで脱水した後、定温乾燥機(増田理化工業株式会社製、型式:DRYING OVEN SA-46)を用いて、温度95℃で60分間乾燥させて、約36gのタンパク素材を得た。光学顕微鏡観察により、得られた混合物が微細なネットワーク構造を有することを確認した(
図5)。
【0085】
(実施例7)
赤粕をグルテン100質量部に対して30質量部用いること以外は、実施例6と同様にして、約36gのタンパク素材を得た。光学顕微鏡観察により、得られた混合物が微細なネットワーク構造を有することを確認した(
図6)。
【0086】
(実施例8)
赤粕をグルテン100質量部に対して60質量部用いること以外は、実施例6と同様にして、約35gのタンパク素材を得た。
【0087】
(比較例11)
赤粕をグルテン100質量部に対して1.5質量部用いること以外は、実施例6と同様にして、約35gのタンパク素材を得た。光学顕微鏡観察により、得られた混合物が微細なネットワーク構造を有さないことを確認した(
図7)
【0088】
(比較例12)
赤粕をグルテン100質量部に対して4.5質量部用いること以外は、実施例6と同様にして、約35gのタンパク素材を得た。
【0089】
(比較例13)
赤粕をグルテン100質量部に対して7.5質量部用いること以外は、実施例6と同様にして、約35gのタンパク素材を得た。
【0090】
(比較例14)
赤粕をグルテン100質量部に対して75質量部用いること以外は、実施例6と同様にして、約38gのタンパク素材を得た。
【0091】
試験例1と同様にして、得られた実施例6~8および比較例11~14の素材について、吸水性、食感および外観(組織構造)を評価し、得られた結果を総合評価した。
得られた結果を、素材の配合成分および対照として試験例1の比較例1の結果と共に表4に示す。
【0092】
【0093】
表4の結果から次のことがわかる。
(1)本発明の食物繊維およびタンパク質として赤粕が添加されたタンパク素材は、外観は凹凸のある形状とポーラス構造を呈し、組織構造中に繊維状物が観察され吸水性に優れる。その食感は天然肉に類似の硬さと弾力感のバランスが良く、ジューシーな食感である(実施例6~8)。
(2)本発明の規定を満たさない食物繊維およびタンパク質が添加されたタンパク素材は、外観は凹凸な形状とポーラス構造が少なく、組織構造中に繊維状物がほとんど観察されない。そのため、吸水率に劣り食感も、硬さより弾力感が強く肉と程遠い不自然な食感である(比較例11~13)。
(3)本発明の食物繊維およびタンパク質が過剰に添加された場合、タンパク素材は、外観は凹凸のある形状とポーラス構造を呈し、組織構造中に繊維状物が観察され吸水性に優れるが、ゴワついた不自然な食感であり、添加物由来の異味・異臭を感じる(比較例14)。
【0094】
[試験例4:肉様加工食品の調製とその評価]
試験例3の実施例6および試験例1の比較例1でそれぞれ得られた肉様タンパク素材、対照の従来の肉様素材を用いてミートレスハンバーグを調製し、それらを評価した。
【0095】
(実施例9)
試験例3の実施例6で得られたタンパク素材を水戻しした(含水率約68%)。
水戻しした肉様タンパク素材20質量部に、下記の残り原料を加え、フードプロセッサー(ロボクープ社製、型式:ROBOT COUPE Sタイプ R-100)を用いて回転数1500rpmで20秒間混合して、約80gの混合物を得た。
(残りの原料)
粉末状大豆たんぱく質(日清オイリオグループ株式会社製、製品名:ソルピー4000H) 9質量部
炒め玉ねぎ 7質量部
砂糖(株式会社三井製糖製、製品名:上白糖) 1質量部
グルタミン酸ソーダ(DSP五協フード&ケミカル株式会社製、製品名:グルタミン酸ナトリウムRC) 0.1質量部
香辛料(胡椒) 0.1質量部
水 60質量部
【0096】
得られた混合物60gを、直径80mm、厚さ10mmのパテに成型した。
次いで、フライパン(外径280mm)およびIH調理器を用いて、得られたパテを片面4分間ずつ加熱調理(焼成)して、ミートレスハンバーグ(検体4)を得た。
【0097】
(比較例15)
試験例3の実施例6で得られたタンパク素材の代わりに、試験例1の比較例1で得られた素材を用いること以外は、実施例9と同様にして、ミートレスハンバーグ(検体5)を得た。
【0098】
(比較例16)
試験例1の実施例6で得られたタンパク素材の代わりに、粒状大豆タンパク質(不二製油株式会社製、製品名:ニューフジニック52S)を用いること以外は、実施例9と同様にして、ミートレスハンバーグ(検体6)を得た。
【0099】
試験例3と同様にして、実施例9ならびに比較例15および16で得られたミートレスハンバーグ(検体4~6)について、食感および風味を評価し、得られた結果を総合評価した。
得られた結果をミートレスハンバーグの素材の配合成分と共に表5に示す。
【0100】
【0101】
表5の結果から、試験例3の実施例6で得られたタンパク素材を用いて調製したミートレスハンバーグ(検体4)は、試験例1の比較例1のタンパク素材を用いて調製したミートレスハンバーグ(検体5)および粒状大豆タンパク質を用いて調製したミートレスハンバーグ(検体6)と比較して、非常に粒感が強く、ジューシーで歯ごたえ感が良好であり、植物性タンパク臭が少ないことがわかる。
【0102】
表2~5の結果から、グルテン、特に小麦グルテンに、小麦穀粒由来の食物繊維およびグルテン以外の小麦穀粒由来のタンパク質、特に小麦タンパクまたは小麦粉デンプンの製造工程の主生成物または副生成物由来の食物繊維およびタンパク質を添加することで、風味良好で味付け性に優れ、ジューシーで優れた肉様食感を有する食品素材が得られることがわかる。
また、本発明の肉様タンパク素材は、乾燥状態で得られ、水で復元し易く、従来の肉様素材のように冷凍保存が不要であり、保存安定性に優れているといえる。