(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】金属で物品を電気めっきする方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
C25D 17/10 20060101AFI20230228BHJP
【FI】
C25D17/10 101A
C25D17/10 A
(21)【出願番号】P 2022547285
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2022002164
【審査請求日】2022-08-03
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109657
【氏名又は名称】ディップソール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】新鞍 俊寛
(72)【発明者】
【氏名】チャフィー アレック
(72)【発明者】
【氏名】ナーラウィ タレック
(72)【発明者】
【氏名】築山 俊太郎
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-330998(JP,A)
【文献】特許第6582353(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0150715(US,A1)
【文献】実開平04-044373(JP,U)
【文献】特表2006-503187(JP,A)
【文献】特表2019-530800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属で物品を電気めっきする方法であって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴において通電する工程を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、
前記絶縁材料の層は、前記導電性基材の表面において一連のものではなく、
前記陽極において通電部が分散して存在している、方法。
【請求項2】
金属で物品を電気めっきする方法であって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴において通電する工程を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、前記めっき浴が、アルカリ性めっき浴であり、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、
前記陽極において通電部が分散して存在している、方法(ただし、前記導電性基材が、耐アルカリ性セラミックスにより通電可能な状態で被覆されている態様を除く)。
【請求項3】
金属で物品を電気めっきする方法であって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴において通電する工程を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、前記導電性基材が、多孔質金属、有孔鋼板、又は、有孔折板を含
み、
前記陽極において通電部が分散して存在している、方法。
【請求項4】
前記導電性基材に、複数の穴が分散して存在しており、及び/又は、前記導電性基材の外側表面が、複数の欠損部を分散して有する前記絶縁材料の層で被覆されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記導電性基材の穴の内壁表面が、前記絶縁材料で被覆されている、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記絶縁材料が、樹脂
及びゴム
からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属が、亜鉛を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
金属で物品を電気めっきするシステムであって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、
前記絶縁材料の層は、前記導電性基材の表面において一連のものではなく、
前記陽極において通電部が分散して存在している、システム。
【請求項9】
金属で物品を電気めっきするシステムであって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、前記めっき浴が、アルカリ性めっき浴であり、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、
前記陽極において通電部が分散して存在している、システム(ただし、前記導電性基材が、耐アルカリ性セラミックスにより通電可能な状態で被覆されている態様を除く)。
【請求項10】
金属で物品を電気めっきするシステムであって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、前記導電性基材が、多孔質金属、有孔鋼板、又は、有孔折板を含
み、
前記陽極において通電部が分散して存在している、システム。
【請求項11】
前記導電性基材に、複数の穴が分散して存在しており、及び/又は、前記導電性基材の外側表面が、複数の欠損部を分散して有する前記絶縁材料の層で被覆されている、請求項8~10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記導電性基材の穴の内壁表面が、前記絶縁材料で被覆されている、請求項
11に記載のシステム。
【請求項13】
前記絶縁材料が、樹脂
及びゴム
からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
8~
12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記金属が、亜鉛を含む、請求項
8~
13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
複数の穴が分散して存在している導電性基材を用意する工程と、
絶縁材料を含むコーティング液に前記導電性基材を浸漬させて、前記導電性基材の外側表面及び前記穴の内壁表面に前記絶縁材料を付着させる工程と、
前記導電性基材の外側表面に付着した前記絶縁材料の少なくとも一部を剥離する工程と
を含む、電極の作製方法であって、
前記導電性基材が、多孔質金属を含む、作製方法。
【請求項16】
前記絶縁材料の少なくとも一部を剥離する工程が、前記導電性基材の外側表面を研磨する工程を含む、請求項
15に記載の作製方法。
【請求項17】
絶縁材料で表面の一部が被覆されている導電性基材を備える電極であって、
前記導電性基材に複数の穴が分散して存在しており、前記穴の内壁表面が前記絶縁材料で被覆されており、
前記導電性基材が、多孔質金属を含み、
前記導電性基材の外側表面の少なくとも一部が露出しており、通電部が分散して存在している、電極。
【請求項18】
前記導電性基材の外側表面は、前記絶縁材料で被覆されていない、請求項
17に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属で物品を電気めっきする方法及びシステムに関し、当該方法及びシステムに適した電極及びその作製方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物添加剤を含有するめっき浴を用いて電気めっきを行うと、通電により陽極表面において有機化合物添加剤が酸化分解され、最終的にシュウ酸や炭酸ソーダなどの電解老化物が蓄積する。これら電解老化物の蓄積は、電気めっきの性能(外観、めっき速度、金属共析率、及びめっき浴抵抗など)に悪影響を及ぼすため、有機化合物添加剤の酸化分解を抑制することが求められている。
【0003】
特許文献1及び2には、隔膜で覆われたセル内に陽極液を入れ、めっき浴を陽極板と接触させないように仕切ることで有機化合物添加剤の分解を抑えることができる、いわゆるアノードセルシステムが記載されている。このアノードセルシステムでは、めっき浴中で生じたシュウ酸や炭酸ソーダがめっき液からアノードセル内へ移動するため、めっき浴中の分解物を除去する効果も期待される。一方で、アノードセルシステムでは、アノードセル本体、配管、及びポンプなど多くの付帯設備が必要とされる。さらに、陽極液の濃度管理が必要であり、一定通電量ごとに陽極液を更新する必要がある。
【0004】
特許文献3及び4には、陽極の導電性基材の表面全体にコーティングを施すことで、有機化合物添加剤の分解を抑制することが記載されている。この場合には、付帯設備や極液管理を必要としないが、陽極を製造するためのコストの改善や電気めっきの性能の改善は依然として求められている。
【0005】
他方、特許文献5には、燃料電池などの電極に使用される多孔質部材が記載されており、当該多孔質部材は、特定の金属多孔体と、撥水性を有する有機多孔体膜とを積層して成り、当該有機多孔体膜の表面の一部に金属多孔体が露出しているものであるが、これを電気めっきの陽極に使用することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/075963号
【文献】国際公開第2016/075964号
【文献】特許第6582353号号公報
【文献】特開平5-331696号公報
【文献】特開2003-272638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、付帯設備や陽極液管理を必要とせず、かつ、高価な金属や特殊な金属も必要とせずに比較的容易に作製できる陽極を使用して電気めっきする方法及びシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、金属で物品を電気めっきする際に、表面の一部が絶縁材料で被覆されているが他の一部は露出している導電性基材を陽極として使用すれば、めっき浴中の有機化合物添加剤の分解を抑制することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す金属で物品を電気めっきする方法及びシステム、並びに、電極を作製する方法及び電極を提供するものである。
〔1〕金属で物品を電気めっきする方法であって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴において通電する工程を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、
前記陽極において通電部が分散して存在している、方法。
〔2〕前記導電性基材に、複数の穴が分散して存在しており、及び/又は、前記導電性基材の外側表面が、複数の欠損部を分散して有する前記絶縁材料の層で被覆されている、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記導電性基材が、多孔質金属、有孔鋼板、又は、有孔折板を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記導電性基材が、ニッケル、鉄、チタン、銅、ステンレス、及びカーボンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕前記導電性基材の穴の内壁表面が、前記絶縁材料で被覆されている、前記〔2〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕前記絶縁材料が、樹脂、ゴム、絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物、絶縁性無機炭化物、及び絶縁性無機ホウ化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕前記金属が、亜鉛を含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕前記めっき浴が、アルカリ性めっき浴である、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の方法。
〔9〕金属で物品を電気めっきするシステムであって、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、
前記陽極において通電部が分散して存在している、システム。
〔10〕前記導電性基材に、複数の穴が分散して存在しており、及び/又は、前記導電性基材の外側表面が、複数の欠損部を分散して有する前記絶縁材料の層で被覆されている、前記〔9〕に記載のシステム。
〔11〕前記導電性基材が、多孔質金属、有孔鋼板、又は、有孔折板を含む、前記〔9〕又は〔10〕に記載のシステム。
〔12〕前記導電性基材が、ニッケル、鉄、チタン、銅、ステンレス、及びカーボンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔9〕~〔11〕のいずれか1項に記載のシステム。
〔13〕前記導電性基材の穴の内壁表面が、前記絶縁材料で被覆されている、前記〔10〕~〔12〕のいずれか1項に記載のシステム。
〔14〕前記絶縁材料が、樹脂、ゴム、絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物、絶縁性無機炭化物、及び絶縁性無機ホウ化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔9〕~〔13〕のいずれか1項に記載のシステム。
〔15〕前記金属が、亜鉛を含む、前記〔9〕~〔14〕のいずれか1項に記載のシステム。
〔16〕前記めっき浴が、アルカリ性めっき浴である、前記〔9〕~〔15〕のいずれか1項に記載のシステム。
〔17〕複数の穴が分散して存在している導電性基材を用意する工程と、
絶縁材料を含むコーティング液に前記導電性基材を浸漬させて、前記導電性基材の外側表面及び前記穴の内壁表面に前記絶縁材料を付着させる工程と、
前記導電性基材の外側表面に付着した前記絶縁材料の少なくとも一部を剥離する工程と
を含む、電極の作製方法。
〔18〕前記絶縁材料の少なくとも一部を剥離する工程が、前記導電性基材の外側表面を研磨する工程を含む、前記〔17〕に記載の作製方法。
〔19〕絶縁材料で表面の一部が被覆されている導電性基材を備える電極であって、
前記導電性基材に複数の穴が分散して存在しており、前記穴の内壁表面が前記絶縁材料で被覆されており、
前記導電性基材の外側表面の少なくとも一部が露出しており、通電部が分散して存在している、電極。
〔20〕前記導電性基材の外側表面は、前記絶縁材料で被覆されていない、前記〔19〕に記載の電極。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、金属で物品を電気めっきする際に、表面の一部が絶縁材料で被覆されているが他の一部は露出している導電性基材を陽極として使用することで、めっき浴中の有機化合物添加剤の分解を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、金属で物品を電気めっきする方法に関している。前記金属は、電気めっきに利用されるものであれば特に限定されないが、例えば、前記金属は、亜鉛、ニッケル、鉄、銅、コバルト、すず、及びマンガンなどを含んでもよい。前記金属が亜鉛のみであれば、前記物品に亜鉛皮膜が形成され、前記金属が亜鉛及び他の金属を含んでいれば、前記物品に亜鉛合金皮膜が形成される。前記他の金属は、前記亜鉛合金皮膜を形成できる限り特に限定されないが、例えば、ニッケル、鉄、コバルト、すず、及びマンガンなどからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。前記亜鉛合金皮膜は、特に限定されないが、例えば、亜鉛ニッケル合金めっき、亜鉛鉄合金めっき、亜鉛コバルト合金めっき、亜鉛マンガン合金めっき、又はすず亜鉛合金めっきなどであってもよく、好ましくは亜鉛ニッケル合金めっきである。
【0011】
前記物品は、被めっき物であり、当技術分野で通常用いられるものを特に制限されることなく採用することができる。前記物品は、例えば、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウムなどの各種金属及びこれらの合金であってもよい。また、その形状についても特に制限はなく、例えば鋼板、めっき鋼板などの板状物や、直方体、円柱、円筒、球状物などの形状品など種々のものが挙げられる。当該形状品として具体的には、例えばボルト、ナット、ワッシャーなどの締結部品、燃料パイプなどのパイプ部品、ブレーキキャリパー、コモンレールなどの鋳鉄部品の他、コネクタ、プラグ、ハウジング、口金、シートベルトアンカーなど種々のものが挙げられる。
【0012】
本発明の方法は、めっきする金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴において通電する工程を含み、前記めっき浴は、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えている。前記めっき浴は、特に限定されないが、例えば、硫酸浴、ホウフッ化浴、及び有機酸浴等の酸性のめっき浴、又はシアン浴、ジンケート浴、及びピロリン酸浴等のアルカリ性のめっき浴のいずれであってもよく、好ましくはアルカリ性めっき浴である。
【0013】
本発明の方法では、前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆されており、他の一部は露出していて、前記陽極において通電部が分散して存在している。例えば、前記絶縁材料の層は、前記導電性基材の表面において一連のものではなくてもよく、より具体的には、前記絶縁材料の層は複数の欠損部を分散して有しており、そのような層によって前記導電性基材の外側表面が被覆された結果、当該欠損部において前記導電性基材が露出して通電してもよい。前記欠損部の形成方法は特に制限されないが、例えば、前記導電性基材の表面に前記絶縁材料を付着させた後に、その少なくとも一部を剥離することによって、前記欠損部を形成してもいいし、又は、パターニング加工又はクラック加工を施した前記絶縁材料の層を形成する(具体的には、前記絶縁材料を用いて片面粘着性のシートを作製し、それにポンチ又はカッターなどで切れ目を入れて前記導電性基材の外側表面に貼り付けたり、前記導電性基材の外側表面の一部をマスキング材料で覆った後に当該導電性基材の表面に前記絶縁材料を付着させ、乾燥後に前記マスキング材料を剥離したりする)ことによって、前記欠損部を形成してもよい。あるいは、前記導電性基材がもともと分散した通電部を有する形状をしている場合、より具体的には、前記導電性基材に複数の穴が分散して存在している場合には、前記絶縁材料を含むコーティング液に前記導電性基材を浸漬させて、その外側表面及び前記穴の内壁表面に前記絶縁材料を付着させた後に、前記導電性基材の外側表面に付着した前記絶縁材料の少なくとも一部を剥離することで、当該外側表面にもともと分散していた通電部を活用しつつ、通電部全体の面積を低減してもよい。
【0014】
前記陽極における前記通電部の面積の割合は、電気めっきを実施できる限り特に限定されないが、例えば、前記導電性基材の外形寸法に基づいて計算される外形通電領域表面積(前記導電性基材に穴が存在している場合には、当該穴がすべて埋まっていると仮定したときの外側通電領域表面積)に対して約1%~約30%であってもよく、好ましくは約5%~約15%である。前記陽極における前記通電部の面積の割合は、後述する導電性基材の形状にも依存し得る。例えば、前記導電性基材に複数の穴(細孔、窪み、隙間、又は貫通孔など)が分散して存在している場合、前記絶縁材料を含むコーティング液に前記導電性基材を浸漬させて、その外側表面及び前記穴の内壁表面に前記絶縁材料を付着させた後に、前記導電性基材の外側表面に付着した前記絶縁材料を全体にわたって剥離すると、それによって露出した通電部は、前記外側表面の前記穴ではなかった部分に相当し、当該穴においては、その内壁表面が前記絶縁材料で被覆されているか又はその内腔が前記絶縁材料で満たされていて、非通電部となっている。すなわち、前記外形通電領域表面積に占める穴部分の面積が大きければ、最終的に形成される通電部の面積は小さくなる。なお、前記通電部は金属色を呈しており、前記絶縁材料による被覆部分とは色調により区別可能であるため、例えば、前記陽極の画像を画像解析ソフトにより解析し、前記導電性基材の外形通電領域表面積に対する金属色部分の面積の割合を求めることにより、前記通電部の面積の割合を計算してもよい。
【0015】
前記導電性基材の形状は、前記めっき浴の陽極として使用できる限り特に限定されないが、例えば、平板状、棒状、又は剣山状であってもよい。また、前記導電性基材に複数の穴が分散して存在している場合には、前記導電性基材は、例えば、多孔質金属、有孔鋼板、又は、有孔折板を含んでもよい。すなわち、前記導電性基材に存在し得る穴は、多孔質の細孔又は窪みであってもよく、階段状又は網目状の隙間又は貫通孔であってもよい。より具体的には、前記多孔質金属は、住友電気工業製の「Niセルメット」、又はAMERICAN ELEMENTS社製の「Nickel Foam」、「Nickel Iron Foam」、「Nickel Copper Foam」、若しくは「Tantalum Foam」などであってもよく、前記有孔鋼板は、パンチングメタル、グレーチングメタル、又はエキスパンドメタルであってもよく、前記有孔折板は、そのような有孔鋼板を折り曲げたものであってもよい。特定の態様では、前記導電性基材の穴の内壁表面は、前記絶縁材料で被覆されていてもよく、又は、前記導電性材料の穴の内腔は、前記絶縁材料で満たされていてもよい。
【0016】
前記導電性基材の組成は、通電が可能である限り特に限定されないが、例えば、前記導電性基材は、ニッケル、鉄、チタン、銅、ステンレス、カーボン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、白金、パラジウム-スズ合金、及びそれらでコーティングされた基材(白金メッキチタンなど)などからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。前記めっき浴がアルカリ性めっき浴である場合には、前記導電性基材は、ニッケル、鉄、チタン、銅、ステンレス、及びカーボンなどからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0017】
前記絶縁材料は、前記めっき浴中で使用できる限り特に限定されないが、例えば、高分子樹脂、ゴム、絶縁性無機酸化物、絶縁性無機窒化物、絶縁性無機炭化物、及び絶縁性無機ホウ化物からなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。より具体的には、前記高分子樹脂は、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンポリウレタン、メチルペンテン樹脂、又はポリカーボネートなどを含んでもよく、前記ゴムは、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴムエチレン・プロピレンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、又は天然ゴムなどを含んでもよく、前記絶縁性無機酸化物は、二酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化チタン、又は酸化タンタルなどを含んでもよい。
【0018】
特定の理論に拘束されるものではないが、陽極近傍においては、酸化反応により、酸素発生反応と前記有機化合物添加剤の分解反応が同時に起きていると考えられるところ、前記電極として使用する前記導電性基材の通電部の面積を制限すると陽極電流密度(陽極の単位通電部面積あたりの電流)が高くなり、この状態においては、陽極電流密度が低い場合と比較して、酸素発生反応が前記有機化合物添加剤の分解反応よりも優先的に起きるため、前記有機化合物添加剤の分解が抑制されると考えられる。さらに、前記陽極において通電部を分散させることにより、めっき浴電圧の上昇を抑えて陰極に対する電流分布を安定に保つことができると考えられる。仮に、従来の平板陽極を陽極として用いて、通電部面積を変えずに陽極電流密度を高くしようとすると、印加電流を大幅に高くする必要があるが、そうすると浴電圧も上昇してしまい、不経済であって、陽極の耐久性にも影響を及ぼし得る。さらには、印加電流を大幅に高くすると陰極電流密度も大幅に高くなってしまうため、めっき品質にも悪影響を及ぼし得る。本発明が規定する前記陽極を用いれば、これらのような不利益なしに陽極電流密度を高めることができ、前記有機化合物添加剤の分解を抑制することができる。
【0019】
本発明の方法の通電工程における陽極電流密度は、電気めっきを実施できる限り限定されず、浴電圧が適切な値となる範囲内で適宜調整することができる。例えば、前記導電性基材が多孔質金属を含む場合には、前記陽極電流密度は、約30A/dm2~約300A/dm2であってもよく、好ましくは約50A/dm2~約100A/dm2である。前記陽極電流密度をこのような範囲に調整すると、前記陽極の劣化を抑えつつ、前記有機化合物添加剤の分解を好適に抑制することができる。
【0020】
本明細書に記載の「有機化合物添加剤」とは、電気めっきのためにめっき浴中に添加される有機化合物のことをいう。前記有機化合物添加剤の種類は特に限定されないが、例えば、亜鉛めっきが行われる場合には、前記有機化合物添加剤は、光沢剤、補助添加剤(平滑剤など)、及び消泡剤などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、亜鉛合金めっきが行われる場合には、前記有機化合物添加剤は、アミン系キレート剤、光沢剤、補助添加剤(平滑剤など)、及び消泡剤などからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。いずれの場合においても、好ましい態様では、前記有機化合物添加剤は光沢剤を含む。
【0021】
前記光沢剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記光沢剤は、(1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、アセチレングリコールEO付加体などの非イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤;(2)ジアリルジメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄の共重合体などのポリアリルアミン;エチレンジアミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、ジメチルアミノプロピルアミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、イミダゾールとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、1-メチルイミダゾールや2-メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体とエピクロルヒドリンとの縮合重合体、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等のトリアジン誘導体などを含む複素環状アミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体などのポリエポキシポリアミン;3-ジメチルアミノプロピル尿素とエピクロルヒドリンとの縮合重合体、ビス(N,N-ジメチルアミノプロピル)尿素とエピクロルヒドリンとの縮合重合体等のポリアミンポリ尿素樹脂、N,N-ジメチルアミノプロピルアミンとアルキレンジカルボン酸とエピクロルヒドリンとの縮合重合体等の水溶性ナイロン樹脂などのポリアミドポリアミン;ジエチレントリアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等と2,2’-ジクロルジエチルエーテルとの縮合重合体、ジメチルアミノプロピルアミンと1,3-ジクロルプロパンとの縮合重合体、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパンと1,4-ジクロルブタンとの縮合重合体、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパンと1,3-ジクロルプロパン-2-オールとの縮合重合体などのポリアルキレンポリアミン;などのポリアミン化合物類;(3)ジメチルアミン等とジクロロエチルエーテルの縮合重合体;(4)ベラトルアルデヒド、バニリン、アニスアルデヒドなどの芳香族アルデヒド類、安息香酸又はその塩;(5)塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化3-カルバモイルベンジル、ピリジニウムなどの4級アンモニウム塩類などを含んでもよい。好ましくは、前記光沢剤は、4級アンモニウム塩類又は芳香族アルデヒド類を含む。前記光沢剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記めっき浴中での前記光沢剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、芳香族アルデヒド類、安息香酸又はその塩の場合、約1~約500mg/Lであってもよく、好ましくは約5~約100mg/Lであり、その他の場合は、約0.01~約10g/Lであってもよく、好ましくは約0.02~約5g/Lである。
【0022】
あるいは、前記光沢剤は、含窒素複素環を有さない前記4級アンモニウム塩類に加えて、含窒素複素環4級アンモニウム塩を含んでもよい。好ましくは、前記含窒素複素環4級アンモニウム塩は、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基を有する含窒素複素環4級アンモニウム塩である。前記含窒素複素環4級アンモニウム塩の含窒素複素環は、特に限定されないが、例えば、ピリジン環、ピペリジン環、イミダゾール環、イミダゾリン環、ピロリジン環、ピラゾール環、キノリン環、又はモルホリン環などであってもよく、好ましくはピリジン環である。より好ましくは、前記含窒素複素環4級アンモニウム塩は、ニコチン酸又はその誘導体の4級アンモニウム塩である。前記含窒素複素環4級アンモニウム塩化合物において、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基は、前記含窒素複素環に直接結合してもいいし、例えばカルボキシメチル基のように他の置換基を介して結合していてもよい。前記含窒素複素環4級アンモニウム塩は、カルボキシ基及びヒドロキシ基以外に、例えばアルキル基などの追加の置換基を有してもよい。また、前記含窒素複素環4級アンモニウム塩において、複素環4級アンモニウムカチオンを形成するN置換基は、光沢剤としての効果が妨げられない限り特に制限されず、例えば、置換若しくは非置換のアルキル基、アリール基、又はアルコキシ基などであってもよい。塩を形成する対アニオンは、特に限定されないが、例えば、ハロゲンアニオン、オキシアニオン、ボレートアニオン、スルフォネートアニオン、フォスフェートアニオン、又はイミドアニオンなどを含む化合物であってもよく、好ましくはハロゲンアニオンである。このような4級アンモニウム塩は、分子内に4級アンモニウムカチオンとオキシアニオンを共に含んでいるので、陰イオンとしての挙動も示すため好ましい。
【0023】
具体的には、前記含窒素複素環4級アンモニウム塩は、例えば、N-ベンジル-3-カルボキシピリジニウムクロリド、N-フェネチル-4-カルボキシピリジニウムクロリド、N-ブチル-3-カルボキシピリジニウムブロミド、N-クロロメチル-3-カルボキシピリジニウムブロミド、N-ヘキシル-6-ヒドロキシ-3-カルボキシピリジニウムクロリド、N-ヘキシル-6-3-ヒドロキシプロピル-3-カルボキシピリジニウムクロリド、N-2-ヒドロキシエチル-6-メトキシ-3-カルボキシピリジニウムクロリド、N-メトキシ-6-メチル-3-カルボキシピリジニウムクロリド、N-プロピル-2-メチル-6-フェニル-3-カルボキシピリジニウムクロリド、N-プロピル-2-メチル-6-フェニル-3-カルボキピリジニウムクロリド、N-ベンジル-3-カルボキメチルピリジニウムクロリド、1-ブチル-3-メチル-4-カルボキシイミダゾロリウムブロミド、1-ブチル-3-メチル-4-カルボキシメチルイミダゾロリウムブロミド、1-ブチル-2-ヒドロキシメチル-3-メチルイミダゾロリウムクロリド、1-ブチル-1-メチル-3-メチルカルボキシピロリジニウムクロライド、又は1-ブチル-1-メチル-4-メチルカルボキシピペリジニウムクロライドなどであってもよい。前記含窒素複素環4級アンモニウム塩は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記めっき浴中での前記含窒素複素環4級アンモニウム塩の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.01~約10g/Lであってもよく、好ましくは0.02~5g/Lである。
【0024】
前記補助添加剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記補助添加剤は、有機酸類、ケイ酸塩、又はメルカプト化合物などを含んでもよく、これらは平滑剤として使用され得る。前記補助添加剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記めっき浴中での前記補助添加剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.01~約50g/Lであってもよい。
【0025】
前記消泡剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記消泡剤は、界面活性剤などであってもよい。前記消泡剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記めっき浴中での前記消泡剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.01~約5g/Lであってもよい。
【0026】
前記アミン系キレート剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記アミン系キレート剤は、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のアルキレンアミン化合物;前記アルキレンアミンの、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのアルキレンオキサイド付加物;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミンテトラ-2-プロパノール、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、2-ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアミノアルコール;N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N’,N’-トリエチルエチレンジアミン、N,N’-ジ(2-ヒドロキシエチル)-N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)プロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンなどのアルカノールアミン化合物;エチレンイミン、1,2-プロピレンイミンなどから得られるポリ(アルキレンイミン);エチレンジアミン、トリエチレンテトラミンなどから得られるポリ(アルキレンアミン)などを含んでもよい。好ましくは、前記アミン系キレート剤は、アルキレンアミン化合物、そのアルキレンオキサイド付加物、及びアルカノールアミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。前記アミン系キレート剤は、単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記めっき浴中での前記アミン系キレート剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、約5~約200g/Lであってもよく、好ましくは約30~約100g/Lである。
【0027】
ある態様では、前記めっき浴、特に前記アルカリ性めっき浴は、亜鉛イオンを含んでいる。前記亜鉛イオンをもたらすイオン源としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、Na2[Zn(OH)4]、K2[Zn(OH)4]、又はZnOなどであってもよい。前記亜鉛イオン源は、単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記アルカリ性めっき浴中の前記亜鉛イオンの濃度は、特に限定されないが、例えば、約2~約20g/Lであってもよく、好ましくは約4~約12g/Lである。
【0028】
ある態様では、前記めっき浴、特に前記アルカリ性めっき浴は、前記亜鉛イオンに加えて、前記亜鉛合金皮膜を形成する他の金属イオンをさらに含む。前記他の金属イオンは、前記亜鉛合金皮膜を形成できる限り特に限定されないが、例えば、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、スズイオン、及びマンガンイオンなどからなる群より選択される少なくとも1種であってもよく、好ましくはニッケルイオンである。前記他の金属イオンをもたらすイオン源は、特に限定されないが、例えば、硫酸ニッケル、硫酸第一鉄、硫酸コバルト、硫酸第一錫、又は硫酸マンガンなどであってもよい。前記他の金属イオン源は、単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記アルカリ性めっき浴中の前記他の金属イオンの総濃度は、特に限定されないが、例えば、約0.4~約4g/Lであってもよく、好ましくは約1~約3g/Lである。
【0029】
ある態様では、前記めっき浴は、苛性アルカリを含んでもよい。前記苛性アルカリは、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどであってもよく、より具体的には、前記めっき浴がアルカリ性めっき浴である場合には、水酸化ナトリウムが含まれ得て、前記めっき浴が酸性めっき浴である場合には、水酸化カリウムが含まれ得る。前記アルカリ性めっき浴中の前記苛性アルカリの濃度は、特に限定されないが、例えば、約60~約200g/Lであってもよく、好ましくは約100~約160g/Lである。
【0030】
前記通電工程の条件は、前記物品にめっきを施すことができる限り特に制限されないが、例えば、約15℃~約40℃好ましくは約25~約35℃の温度で通電してもよく、又は、約0.1~20A/dm2好ましくは0.2~10A/dm2の陰極電流密度で通電してもよい。
【0031】
本発明の方法は、その目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の工程をさらに含んでもよい。例えば、本発明の方法は、前記通電工程前に前記物品を洗浄する工程、又は、前記通電工程後に前記物品を洗浄する工程などをさらに含んでもよい。
【0032】
別の態様では、本発明は、金属で物品を電気めっきするシステムにも関している。本発明のシステムは、前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴を含み、前記めっき浴は、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、前記陽極において通電部が分散して存在している。本発明のシステムの各特徴は、本発明の方法に関して上述したとおりである。また、本発明のシステムは、その目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の設備をさらに含んでもよい。
【0033】
また別の態様では、本発明は、本発明の電気めっきする方法及び電気めっきシステムに好適に使用できる電極及びその作製方法にも関している。本発明の電極の作製方法は、
複数の穴が分散して存在している導電性基材を用意する工程と、
絶縁材料を含むコーティング液に前記導電性基材を浸漬させて、前記導電性基材の外側表面及び前記穴の内壁表面に前記絶縁材料を付着させる工程と、
前記導電性基材の外側表面に付着した前記絶縁材料の少なくとも一部を剥離する工程と
を含んでいる。本発明の電極の作製方法に従って作製された電極においては、前記導電性基材の穴の内壁表面が前記絶縁材料で被覆されて、前記絶縁材料が剥離されて露出した前記外側表面だけが通電部として機能するため、結果として、前記導電性基材の外形寸法は変わらないが、通電部の面積は減少し、当該通電部は分散した状態となっている。すなわち、本発明の電極は、絶縁材料で表面の一部が被覆されている導電性基材を備えており、ここで、前記導電性基材には複数の穴が分散して存在しており、前記穴の内壁表面が前記絶縁材料で被覆されており、前記導電性基材の外側表面の少なくとも一部が露出しており、通電部が分散して存在している。本発明の電極を電気めっきの陽極に用いれば、めっき浴電圧の上昇を抑えつつ陽極電流密度を高めるのに有用であり、その結果、陰極に対する電流分布を安定に保ちながらめっき浴に含まれている有機化合物添加剤の分解を抑制することができると考えられる。
【0034】
本発明の電極の作製方法における前記浸漬工程は、前記導電性基材に存在している前記複数の穴の内腔に前記絶縁材料が入り込める限り特に限定されることなく、任意の手段によって実施することができる。前記導電性基材が、多孔質金属のような細孔を有する金属であっても、これを前記コーティング液に浸漬させれば、当該コーティング液は前記多孔質金属の細孔内部に含浸することができ、当該細孔の内壁表面に付着し得る。前記コーティング液が十分にあれば、前記導電性材料の穴の内腔は、前記絶縁材料で満たされることになる。
【0035】
前記導電性基材の外側表面に付着した前記絶縁材料の少なくとも一部を剥離する手段は、前記導電性基材の一部を露出させることができる限り特に限定されないが、例えば、前記浸漬工程の後に前記導電性基材を前記コーティング液から取り出して、自然乾燥若しくは室温乾燥により乾燥させるか又は硬化剤を用いることにより、前記絶縁材料を前記導電性基材の外側表面及び前記穴の内壁表面に付着させたまま硬化させ、前記導電性基材の外側表面に付着している硬化した前記絶縁材料をやすり及びサンダーなどの研磨機で研磨することにより剥離してもよい。すなわち、ある態様では、前記剥離工程は、前記導電性基材の外側表面の一部又は全体を研磨する工程を含んでもよい。
【0036】
本発明の電極及びその作製方法のその余の特徴は、本発明の方法に関して上述したとおりである。また、本発明の電極の作製方法は、その目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の工程をさらに含んでもよい。
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
〔作製例1〕
導電性基材として多孔質ニッケル板(64×64×5mm、住友電気工業(株)製「Niセルメット」、品番#1)を用意し、これをモールド内に設置してエポキシ樹脂を含むコーティング液(ALUMILITE社製、AMAZING DEEP POUR;使用説明書に従って調製)を流し込み、48時間室温で静置して、前記コーティング液を前記ニッケル板に浸漬させて硬化させた。硬化したエポキシ樹脂で被覆された前記ニッケル板をモールドから取り出し、その外側表面全体を電動サンダーで研磨し、硬化していた樹脂を剥離して、電極E1を作製した。電極E1の左右両端をマスキングテープ(Sequoia Manufacturing Corporation社製、型番SC-1)でマスキングして、電解液と接する領域の横幅の異なる電極E2~E4を作製した。そして、各電極の画像を画像解析ソフト(ImageJ)により解析し、電解液と接する領域における金属色部分の面積の合計を通電部面積として算出した。このとき、電極は電解セルの内壁と接するように設置されることを考慮して、電極の片面だけ電解液と接すると仮定し、かつ当該電極の電解液に浸る部分の高さは50mmと仮定した。比較例として、以下の表1に記載の導電性基材を用い、コーティング処理を施していない電極C1~C4を用意した。なお、電極C2は、ニッケル平板を電極E3と同様にマスキングして、電解液と接する領域の横幅を狭めたものである。
【0039】
【表1】
*1 通電部割合は、同じ外形寸法の平板の通電部面積(外形通電領域面積)に対する各電極の通電部面積の割合の百分率をいう。
【0040】
〔試験例1〕
電解セル(内寸64×64×55mm)に、陽極として電極E1~E4又は電極C1~C4を内壁に沿ってセットし、陰極としてSPCC梨地鋼板をセットして、以下の表2に記載の組成の電解液を160mL加えた。各電極は、その片面においてのみ電解液と接しており、その裏面、側面、及び底面は電解セルと接しているため電解液とは接していないものとした。各電極の電解液に浸っている部分の高さは50mmだった。
【0041】
【表2】
*2 ディップソール社製の亜鉛ニッケル合金めっき浴用アミン系キレート剤(アルキレンアミンのエチレンオキサイド付加物)
【0042】
以下の表3に記載の電流で通電を開始し、通電開始時の浴電圧を測定した。そして、通電中は電解液の温度が25℃±3℃となるように調整し、通電量が130Ah/Lとなるまで通電した。なお、陽極電流密度は、陽極の単位通電部面積当たりの電流の値を計算したものである。通電前後の電解液について、IZ-250YB濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定し、炭酸ナトリウム濃度を滴定によって測定した。また、電解液の色調を目視によって観察した。結果を表3に示す。
【0043】
【0044】
通電前の電解液中のIZ-250YB濃度は60g/Lであり、炭酸ナトリウム濃度は検出限界以下だったが、電極C1~C4を使用した場合には、IZ-250YB濃度は大きく低下し、炭酸ナトリウム濃度は大きく上昇した。これに対して、電極E1~E4を使用した場合には、IZ-250YB濃度を高水準で維持することができ、炭酸ナトリウム濃度の上昇も少なかった。また、調製後すぐの電解液は紫色であるのに対して、電極C1~C4で通電後は茶色に変色してしまったが、電極E1~E4で通電後は赤紫色であり、電解液の変色が抑えられていた。この電解液の変色は、IZ-250YBが分解して分解物(電解老化物)が蓄積していることを意味しているため、この点からも、電極E1~E4を用いることで、有機化合物添加剤の分解を抑制できたことが理解できる。
【0045】
〔試験例2〕
電極E1~E4の耐久性を評価するため、2000時間通電した以外は試験例1と同様にして通電して、通電後の陽極の表面をデジタルマイクロスコープにより観察したが、電極E1~E4には目立った損傷(電極の溶解)は見られず、あっても許容範囲内だった。また、電極E1~E4を使用したときの通電後浴電圧は、それぞれ3.2V、3.4V、3.6V、及び4.9Vと許容範囲内の数値であり、特に電極E1~E3を使用したときには浴電圧の上昇が抑制されていた。これらより、電極E1~E4の耐久性は良好であり、特に電極E1~E3の耐久性が優れていて、電極E1の耐久性が極めて優れていることが分かった。
【0046】
〔作製例2〕
多孔質ニッケル板に代えてステンレスメッシュ(64×64×1mm)又は鉄グレーチング(64×64×5)を用いた以外は電極E1と同様にして、電極E5(通電部面積0.320dm2未満)及び電極E6(通電部面積0.021dm2、通電部割合7%)を作製した。
【0047】
〔試験例3〕
陽極として電極E5及びE6を使用した以外は試験例1と同様にして、表4に記載の条件で通電し、評価した。結果を表4に示す
【表4】
【0048】
電極E5又はE6で通電後は、電極C1~C4で通電した後と比較して電解液の変色が抑えられており、有機化合物添加剤の分解が抑制されていると理解された。実際、電極E6を使用後のIZ-250YB濃度及び炭酸ナトリウム濃度を測定すると、前者は高水準、後者は低水準で維持されていた。
【0049】
〔作製例3〕
導電性基材として鉄釘による剣山を作製した。具体的には、鉄平板(64×64×5mm)に穴を開け、ここに99本の鉄釘(軸部直径1.65mm、長さ5mm)を均等に分散して設置し、鉄釘と鉄平板とをはんだ付けした。これをモールド内に設置してエポキシ樹脂を含むコーティング液(ALUMILITE社製、AMAZING DEEP POUR;使用説明書に従って調製)を流し込み、48時間室温で静置して、当該コーティング液を硬化させた。硬化した前記コーティング液により鉄釘の先がすべて埋まった前記剣山をモールドから取り出し、その外側表面全体を電動サンダーで前記鉄釘の軸部の直径全体が露出するまで研磨して、スポット状の通電部を有する電極E7(通電部面積0.021dm2、通電部割合7%)を作製した。また、軸部直径が1.07mmである鉄釘を使用した以外は電極E7と同様にして、電極E8(通電部面積0.009dm2、通電部割合3%)を作製した。鉄釘の本数を28本にした以外は電極E7と同様にして、電極E9(通電部面積0.006dm2、通電部割合2%)を作製した。
【0050】
〔試験例4〕
電解セルとしてショートハルセル容器を使用し、ここに電解液を250mL加えて、陽極として電極E7~E9を使用し、通電量が235Ah/Lとなるまで通電した以外は試験例1と同様にして、表5に記載の条件で通電し、評価した。結果を表5に示す
【表5】
【0051】
電極E5又はE6を使用した場合には、IZ-250YB濃度を高水準で維持することができ、炭酸ナトリウム濃度の上昇も少なかった。また、これらの電極で通電後は、電極C1~C3で通電した後と比較して電解液の変色が抑えられていた。
【0052】
以上より、金属で物品を電気めっきする際に、表面の一部が絶縁材料で被覆されているが他の一部は露出している導電性基材を陽極として使用することで、めっき浴中の有機化合物添加剤の分解を抑制できることがわかった。
【要約】
本発明は、付帯設備や陽極液管理を必要とせず、かつ、高価な金属や特殊な金属も必要とせずに比較的容易に作製できる陽極を使用して電気めっきする方法を提供することを目的としている。
本発明は、金属で物品を電気めっきする方法に関しており、当該方法は、
前記金属のイオンと、有機化合物添加剤とを含むめっき浴において通電する工程を含み、
前記めっき浴が、前記物品を陰極として備え、かつ導電性基材を陽極として備えており、
前記導電性基材の表面の一部は絶縁材料で被覆され、他の一部は露出しており、
前記陽極において通電部が分散して存在している。