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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】熱間圧延機および熱間圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 13/14 20060101AFI20230228BHJP
   B21B 31/16 20060101ALI20230228BHJP
   B21B 29/00 20060101ALI20230228BHJP
   B21B 37/28 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
B21B13/14 K
B21B31/16
B21B29/00 A
B21B37/28 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022518461
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2020018022
(87)【国際公開番号】W WO2021220367
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達則
(72)【発明者】
【氏名】堀井 健治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 彰夫
(72)【発明者】
【氏名】佐古 彰
(72)【発明者】
【氏名】金森 信弥
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-529250(JP,A)
【文献】特開2003-112211(JP,A)
【文献】特開昭61-202704(JP,A)
【文献】特開平04-253508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対のワークロールと、
前記ワークロールをそれぞれ支持する上下一対のバックアップロールと、
前記ワークロールに対してベンディング力を付与するベンディングアクチュエータと、
前記ワークロールを水平方向に移動させるワークロール水平方向アクチュエータと、
前記バックアップロールを水平方向に移動させるバックアップロール水平方向アクチュエータと、
上バックアップロールおよび上ワークロールの上側ペアを平行な状態で、かつ下バックアップロールおよび下ワークロールの下側ペアを平行な状態で前記上側ペアと前記下側ペアとのなす角度を調整する角度制御装置と、を備え、
前記ワークロールの直径をD、圧延材の最大圧延板幅をLとしたときに、前記ワークロールは、D/Lが0.30以下の条件を満たす
ことを特徴とする熱間圧延機。
【請求項2】
請求項1に記載の熱間圧延機において、
前記ワークロールは、D/Lが0.28以下の条件を満たす
ことを特徴とする熱間圧延機。
【請求項3】
請求項1に記載の熱間圧延機において、
前記ワークロールは、D/Lが0.15以上の条件を満たす
ことを特徴とする熱間圧延機。
【請求項4】
請求項1に記載の熱間圧延機において、
前記角度制御装置は、前記上側ペアと前記下側ペアとの角度調整を、前記圧延材の圧延中に実行する
ことを特徴とする熱間圧延機。
【請求項5】
上下一対のワークロールと、
前記ワークロールをそれぞれ支持する上下一対のバックアップロールと、
前記ワークロールに対してベンディング力を付与するベンディングアクチュエータと、
前記ワークロールを水平方向に移動させるワークロール水平方向アクチュエータと、
前記バックアップロールを水平方向に移動させるバックアップロール水平方向アクチュエータと、を備えた熱間圧延機による熱間圧延方法であって、
前記ワークロールの直径をD、圧延材の最大圧延板幅をLとしたときに、前記ワークロールは、D/Lが0.30以下の条件を満たすものとし、
上バックアップロールおよび上ワークロールの上側ペアを平行な状態で、かつ下バックアップロールおよび下ワークロールの下側ペアを平行な状態で前記上側ペアと前記下側ペアとのなす角度を調整し、
前記ワークロールに対してベンディング力を付与した状態で圧延を行う
ことを特徴とする熱間圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延機および熱間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上部ワークロール及び上部バックアップロールの一対と下部ワークロール及び下部バックアップロールの一対とを圧延機の垂直中心線を中心に板材面に沿って傾斜させるとともに、板材の中心線を圧延機の垂直中心線から任意の距離ずらして、且つ、上記各対のロールの傾斜角と上記各ワークロールの左右端部間に形成されるギャップと同各ワークロールの左右ロール軸に加えられるベンディング力とを、圧延対象の板材の板幅・板厚等の寸法諸元と普通鋼・特殊鋼等の材質と上記ずれ量とにより設定される圧延時の条件に合わせ調整して、板材を所定の断面形状に圧延することにより、上下ワークロールの寿命を従来の2倍以上に延長することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭58-23161号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上下のロールをクロスすることで板クラウンと板形状を制御するロールクロス式4段圧延機は、大別してペアクロスミルとワークロールクロスミルの2つのタイプが開発されており、広い制御範囲を持つことで知られている。
【0005】
ペアクロスミルとは、特許文献1に記載されるように、ワークロールとバックアップロールをペアとして、各ペアのロール組を水平面内で軸線を相互にクロスさせることで板クラウンと板形状を制御する方式である。
【0006】
通常のバッチ圧延方式では、ペアクロス角度はプリセットで設定され、圧延中の制御はワークロールベンディングで行われることがほとんどであるが、エンドレス圧延のように、長い圧延キャンペーンになる場合には、圧延中にペアクロス角度を変更するダイナミックペアクロスミルも実用化されている。
【0007】
ここで、一般的な熱間圧延プロセスでは、圧延中において、ワークロールのベンディングにより板中央までに及ぶ2次成分の板形状制御を行うため、ワークロール径Dと最大圧延板幅Lとの比D/Lは0.30よりも大きくしており、ペアクロスミルのワークロール最大径で言うと0.32が最小レベルであった。
【0008】
そのため、ペアクロスやワークロールクロスといったロールクロス方式とワークロールのベンディングを組み合わせて制御しているにも関わらず、互いに2次に近い低次の形状制御で、次数に差がないため、複合伸びのような複雑な形状を制御できなかった。
【0009】
本発明は、従来に比べて複雑な形状を制御することが可能な熱間圧延機および熱間圧延方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、上下一対のワークロールと、前記ワークロールをそれぞれ支持する上下一対のバックアップロールと、前記ワークロールに対してベンディング力を付与するベンディングアクチュエータと、前記ワークロールを水平方向に移動させるワークロール水平方向アクチュエータと、前記バックアップロールを水平方向に移動させるバックアップロール水平方向アクチュエータと、上バックアップロールおよび上ワークロールの上側ペアを平行な状態で、かつ下バックアップロールおよび下ワークロールの下側ペアを平行な状態で前記上側ペアと前記下側ペアとのなす角度を調整する角度制御装置と、を備え、前記ワークロールの直径をD、圧延材の最大圧延板幅をLとしたときに、前記ワークロールは、D/Lが0.30以下の条件を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来に比べて複雑な形状を制御することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例の圧延機の装置構成を示す側面図である。
図2図1に示す圧延機のうち、上ワークロール周辺の設備の構成の概要を示す上面図である。
図3】実施例の圧延機において、ワークロール径の違いによる板クラウンの制御次数の変化の様子を示す図である。
図4】実施例の圧延機における、ペアクロスの制御次数に対するワークロール径の影響の様子を示す図である。
図5】実施例の圧延機において、ペアクロスによる板クラウン変化量に対するワークロール径の影響の様子を示す図である。
図6】参考例の圧延機における、クラウン制御範囲を示す図である。
図7】参考例の圧延機における、形状制御範囲を示す図である。
図8】実施例の圧延機における、クラウン制御範囲を示す図である。
図9】実施例の圧延機における、形状制御範囲を示す図である。
図10】実施例の圧延機における、クラウン制御、形状制御範囲に対するD/Lの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱間圧延機および熱間圧延方法の実施例について図1乃至図10を用いて説明する。
【0014】
なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0015】
また、以下の実施例や図面では、駆動側(「DS(Drive Side)」とも記載)とは圧延機を正面から見てワークロールを駆動する電動機が設置されている側を、作業側(「WS(Work Side)」とはその反対側を意味するものとする。
【0016】
最初に、熱間圧延機の全体構成について図1および図2を用いて説明する。図1は本実施例の圧延機の側面図であり、図2図1に示す圧延機のうち、上ワークロール周辺の設備の構成の概要を示す上面図である。
【0017】
図1において、熱間圧延機1は、圧延材Sを圧延する4段のクロスロール圧延機であって、ハウジング100と、制御装置20と、油圧装置30とを有している。なお、圧延機は図1に示すような1スタンドの圧延機に限られず、2スタンド以上からなる圧延機であってもよい。
【0018】
ハウジング100は、上下一対の上ワークロール110A及び下ワークロール110B、これらワークロール110A,110Bを支持する上下一対の上バックアップロール120Aおよび下バックアップロール120Bを備えている。
【0019】
圧下シリンダ装置170は、上バックアップロール120Aを押圧することで、上バックアップロール120Aや上ワークロール110A,下ワークロール110B,下バックアップロール120Bに対して圧下力を付与するシリンダである。圧下シリンダ装置170は、ハウジング100の作業側と駆動側にそれぞれ設けられている。
【0020】
ロードセル180は、ワークロール110A,110Bによる圧延材Sの圧延力を計測する圧延力計測手段としてハウジング100の下部に設けられており、計測結果を制御装置20に出力している。
【0021】
上ワークロールベンディングシリンダ190Aは、操作側および駆動側のいずれにおいても、ハウジング100の入側および出側に設けられている。上ワークロールベンディングシリンダ190Aは、適宜これらのシリンダ190Aを駆動することで上ワークロール110Aの軸受に対して鉛直方向にベンディング力を付与する。
【0022】
同様に、下ワークロールベンディングシリンダ190Bは、操作側および駆動側のいずれにおいても、ハウジング100の入側および出側に設けられており、適宜これらのシリンダ190Bを駆動することで下ワークロール110Bの軸受に対して鉛直方向にベンディング力を付与する。
【0023】
バックアップロール摺動装置200Aは上バックアップロール120Aの鉛直方向の上部分に、バックアップロール摺動装置200Bは下バックアップロール120Bの鉛直方向の下部分に、それぞれ設けられている。
【0024】
油圧装置30は、ワークロール押圧装置130A,130Bやワークロール定位置制御装置140A,140Bの油圧シリンダ、バックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール定位置制御装置160A,160Bの油圧シリンダ、更にはワークロールベンディングシリンダ190A,190Bにも接続されている。なお、図1では、図示の都合上、通信線や圧油の供給ラインの一部は省略している。
【0025】
制御装置20は、ロードセル180やワークロール定位置制御装置140A,140B、バックアップロール定位置制御装置160A,160Bの位置計測器からの計測信号の入力を受けている。
【0026】
制御装置20は油圧装置30を作動制御し、ワークロール押圧装置130A,130Bやワークロール定位置制御装置140A,140Bの油圧シリンダに圧油を給排することでワークロール押圧装置130A,130Bやワークロール定位置制御装置140A,140Bの作動を制御している。
【0027】
同様に、制御装置20は油圧装置30を作動制御し、バックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール定位置制御装置160A,160Bの油圧シリンダに圧油を給排することでバックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール定位置制御装置160A,160Bの作動を制御している。
【0028】
これらの作動制御により、制御装置20は、ワークロール押圧装置130A,130B,ワークロール定位置制御装置140A,140Bによる角度調整、およびバックアップロール押圧装置150A,150B,バックアップロール定位置制御装置160A,160Bによる角度調整を制御する。
【0029】
更に、制御装置20はワークロールベンディングシリンダ190A,190Bに圧油を給排することでワークロールベンディングシリンダ190A,190Bの作動を制御している。
【0030】
次に、図2を用いて上ワークロール110Aに関係する構成について説明する。なお、上バックアップロール120Aや下ワークロール110B,下バックアップロール120Bについても、上ワークロール110Aと同等の構成を有しており、その詳細な説明も上ワークロール110Aのものと略同じであるため、省略する。
【0031】
図2に示すように、熱間圧延機1の上ワークロール110Aの両端側にハウジング100があり、上ワークロール110Aのロール軸に対して垂直に立てられている。
【0032】
上ワークロール110Aは、ハウジング100にそれぞれ作業側ロールチョック112A及び駆動側ロールチョック112Bを介して回転自在に支持されている。
【0033】
ワークロール押圧装置130Aは、作業側および駆動側のそれぞれにおいて、ハウジング100の入側と作業側ロールチョック112A,駆動側ロールチョック112Bとの間に配置され、上ワークロール110Aのロールチョック112Aを圧延方向に所定の圧力で押し付ける。
【0034】
ワークロール定位置制御装置140Aは、作業側および駆動側のそれぞれにおいて、ハウジング100の出側と作業側ロールチョック112A,駆動側ロールチョック112Bの間に配置されており、上ワークロール110Aのロールチョック112Aを反圧延方向に押圧する油圧シリンダ(押圧装置)を有している。ワークロール定位置制御装置140Aは、油圧シリンダの動作量を計測する位置計測器(図示省略)を備えており、油圧シリンダの位置制御を行う。
【0035】
ここで、定位置制御装置とは、装置内に内蔵されている位置計測器を用いて押圧装置としての油圧シリンダの油柱位置を測定し、所定の油柱位置となるまで油柱位置を制御する装置のことを意味する。
【0036】
これらワークロール押圧装置130A,130Bや、バックアップロール押圧装置150A,150B、定位置制御装置140A,140B,160A,160Bは、ロールのクロス角を調整する角度調整器の役割をなす。
【0037】
なお、図1および図2では、クロス装置のアクチュエータであるワークロール定位置制御装置140A,140Bや、バックアップロール定位置制御装置160A,160Bとして油圧装置を用いる例を示したが、これは油圧装置に限ったものでなく、電動式等の構成の装置を用いることができる。
【0038】
また、圧延材Sの入側に押圧装置、出側に定位置制御装置を配備した形態としているが、反対に配備されることもあり、配置は図1図2に示すパターンに限られるものではない。
【0039】
更に、図1および図2では、定位置制御装置の反対側に押圧装置を具備した例としているが、これは必須ではなく、定位置制御装置のみで構成することができる。ただし、押圧装置を設置することによってロールチョック112A,112Bとハウジング100とのガタ取りが可能となり、ロールチョック112A,112Bの水平位置を安定させることができる。
【0040】
次に、本実施例に係る圧延機の特徴的な構成について、図3乃至図10を参照して説明する。
【0041】
図3はワークロール径の違いによる板クラウンの制御次数の変化の様子を示す図、図4はペアクロスの制御次数に対するワークロール径の影響の様子を示す図、図5はペアクロスによる板クラウン変化量に対するワークロール径の影響の様子を示す図である。図6は、参考例の圧延機における、クラウン制御範囲を示す図、図7は、形状制御範囲を示す図である。図8は、実施例の圧延機における、クラウン制御範囲を示す図、図9は、形状制御範囲を示す図、図10は、クラウン制御、形状制御範囲に対するD/Lの影響を示す図である。
【0042】
本実施例の熱間圧延機は、ワークロール110A,110Bの直径をD、圧延材Sの最大圧延板幅をLとしたときに、ワークロール110A,110Bは、D/Lが0.30以下の条件を満たすものであり、より好適には0.15以上の条件や、0.28以下の条件を満たすものとなっている。
【0043】
また、制御装置20により、上バックアップロール120Aおよび上ワークロール110Aの上側ペアを平行な状態で、かつ下バックアップロール120Bおよび下ワークロール110Bの下側ペアを平行な状態で上側ペアと下側ペアとのなす角度を調整する、いわゆるペアクロスの状態で圧延を行う。このペアクロスでの角度調整を圧延中に実行するものとする。なお、圧延中ではなく、圧延開始前に行うものとすることができる。
【0044】
更には、ワークロール110A,110Bに対してベンディング力を付与した状態で圧延を行うものとする。
【0045】
以下、D/Lの範囲の限定の詳細について説明する。
【0046】
通常のクロスミルでは、ワークロール径Dと最大圧延板幅Lとの比D/Lが0.32以上の範囲であり、この範囲での制御次数は概ね1.7~1.9である。つまり、同一の圧延条件では、クロス角変更の制御次数1.7と大きな差異が無い。
【0047】
図3以降に示す図は、20kgf/mmの硬さの圧延材を20%圧延し、2mmの板にする、という条件で板クラウン、板形状の変化量のシミュレーション結果を示す図である。ここで、板形状制御に着目しているが、長手方向の伸び偏差で表される板形状は板クラウンとの対応しているため、ここでは板クラウンのシミュレーション結果を示す。
【0048】
図3では、D/Lとワークロールベンディングによる板クラウンの制御次数の関係を示す。この図3に示すように、板クラウンの制御次数は、D/Lが減少するほど増大する傾向があることがわかる。
【0049】
また、図4に示すように、ペアクロスによるクラウン制御次数は約1.7であり、ワークロール径Dと最大圧延板幅Lとの比D/Lの影響は極めて小さいことがわかる。この次数は、ロール扁平や軸曲がり等のため、圧延条件の影響を若干受けるものと考えられるが、ワークロール径に関わらず、制御次数は概ね2.0である。
【0050】
クォータ伸びを含めた複雑な形状を制御するためには、2次に近い項の形状を制御するのみではなく、次数の離れたさらに高次数の項の形状を制御する機構と組み合わせて制御ができるようにすることが望ましい。
【0051】
ここで、図3に示すように、ペアクロスでは達成できない、次数が1.7よりも大きい次数をワークロールベンディングで達成するのは、D/Lが0.32よりも小さい、D/Lが0.30以下の範囲である。
【0052】
従って、D/Lを0.30以下の条件とすることで、ワークロールベンディングによって1.9以上の制御次数を得ることができ、水平方向アクチュエータによるペアクロスでの角度の調整と垂直方向アクチュエータによるベンディング荷重の調整によって、低次と高次の組み合わせた式で表される複雑な板形状の制御を実現することができることが明らかとなった。
【0053】
図5は、板端から25mm位置と板中央の板厚差をクラウンCh25とし、ペアクロスの角度を0°→1.0°に変更した場合におけるクラウンCh25の変化量ΔCh25についてロール径を変更してシミュレートした結果である。この図5に示すように、小径化に伴い幾何学的に発生するギャップが大きくなるため、制御できる範囲も広くなることがわかる。
【0054】
図6乃至図9に、板クラウンの制御範囲と2次と4次の板形状の制御範囲をシミュレーションによって見積もった結果を示す。
【0055】
図6および図7では、ペアクロス(0.45°-0.55°)、D=650mm、D/L=0.35の条件とし、図8および図9では、ペアクロス(0.45°-0.55°)、D=450mm、D/L=0.24の条件とした。
【0056】
そして、図6、および図8では、端から25mm位置の板クラウン変化量ΔCh25に対する幅1/4位置(クォータ位置)の板クラウン変化量ΔCh1/4の関係を、図7、および図9では、圧延方向の伸び歪み偏差の2次成分の変化量ΔC2に対する4次成分の変化量ΔC4の関係を示す。
【0057】
図6および図7に示すD/L=0.35という従来範囲の条件では、ペアクロスのクロス角を変更する場合も、或いは、ワークロールベンディングを増減させる場合のいずれも、ΔCh25に対するΔCh1/4の値や、ΔC2に対するΔC4の値は概ね等しい勾配で変化し、ΔCh25とΔCh1/4、或いは、ΔC2とΔC4をそれぞれ個別で制御できる範囲が非常に狭いことがわかる。
【0058】
それに対して、図8および図9に示すように、D/Lを0.24と、本発明の条件とした場合には、ペアクロスのクロス角を変更する場合とワークロールベンディングを増減させる場合とでは、ΔCh25に対するΔCh1/4の値や、ΔC2に対するΔC4の値は異なる勾配で変化する。そのため、ワークロールベンディングの増加、0.45°→0.55°へのペアクロス角の変更、ワークロールベンディングの減少、0.55°→0.45°へのペアクロス角の変更、を順に追った軌跡は平行四辺形の形となり、ΔCh25とΔCh1/4、或いは、ΔC2とΔC4をそれぞれ個別で制御できる範囲が格段に広がることがわかる。
【0059】
ここで、ΔCh25とΔCh1/4、ΔC2とΔC4をそれぞれ個別に制御できる範囲の指標として、ΔCh25とΔCh1/4のグラフの平行四辺形の中の面積をS、ΔC2とΔC4のグラフの平行四辺形の中の面積をSと定義する。そのうえで、D/Lが0.35での面積SC0.35、SS0.35に対する比率をプロットD/Lに対してプロットした結果を図10に示す。
【0060】
図10に示すように、従来技術であるD/L=0.35に比べて、D/L=0.28以下とすることで、約2倍以上の複合伸びの制御範囲を持つことができ、格段に形状制御性を向上できることが明らかとなった。
【0061】
ここで、熱間圧延プロセスでは、一般的にはワークロールにモータをつなぎ、回転駆動させている。その場合、ワークロールが小径化するとスピンドル径が細くなるため、伝達可能なトルクも小さくなる。
【0062】
ワークロールの小径化によって圧延トルクも減少することにはなるが、スピンドルの限界トルクは、ワークロール小径化の影響は、スピンドルの伝達限界の方が大きい。すなわち、あまりに小径のワークロールでは機械的に成立させることに困難が生じてきて、デメリットがメリットを上回ると考えられる。
【0063】
圧延トルクは、圧延条件に依存するが、一般的な熱延プラントでは、D/Lは実質的には、少なくとも0.15以上とすることでデメリットをメリットが上回る形態で成立させることが可能と判断される。このため、D/Lの下限は0.15とすることが望ましい。
【0064】
以上まとめると、D/L範囲は、0.30以下、より好適には0.15以上で、また0.28以下とすることが望ましい。
【0065】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0066】
上述した本発明の実施例1の熱間圧延機1は、上バックアップロール120Aおよび上ワークロール110Aの上側ペアを平行な状態で、かつ下バックアップロール120Bおよび下ワークロール110Bの下側ペアを平行な状態で上側ペアと下側ペアとのなす角度を調整する制御装置20と、を備え、ワークロール110A,110Bの直径をD、圧延材の最大圧延板幅をLとしたときに、ワークロール110A,110Bは、D/Lが0.30以下の条件を満たす。
【0067】
このように、ワークロール径を従来一般に用いていたよりも小径、D/Lが0.30以下を採用することで、ペアクロスを低次の項に該当する形状制御に、ワークロールのベンディングを更に高次の項に該当する形状制御に使うことが可能となる、という本発明者らによって初めて発見された知見により、従来のままでは到達できなかった形状制御ができるようになる、との効果が得られる。
【0068】
また、このような効果に加えて、クロス角の制御感度を改善することができ、制御範囲と応答性を向上することができる。
【0069】
更に、小径ワークロールによって圧延荷重が低減する、との効果が得られる。板形状制御は、圧延中に変化する圧延荷重変動に合わせて制御を行わなければならないが、圧延荷重自体が低減する、すなわち、圧延荷重変動もそれに比例して低減すると考えられるため、圧延中に制御しなければならない板形状自体が小さくなることを示す。従って、本発明では、従来技術に比べて製品の形状を格段に向上させることができる、との効果が得られる。
【0070】
また、ワークロール110A,110Bは、D/Lが0.28以下の条件を満たすため、ベンディングで形成できる近似式の項の次数が2.0以上となり、さらに大きくできるので、より複雑な形状の制御を行うことができる、との効果が得られる。
【0071】
更に、小径のワークロールほど高次数の項を含む近似式の形状のものを造れるが、小径にするほどワークロールに動力を伝えるスピンドル等も小径となるため、実用的な材料や動力を前提にすると伝達可能なトルクも小さくなることから、ワークロール110A,110Bは、D/Lが0.15以上の条件を満たすことで、実用的な範囲とすることができる。
【0072】
また、制御装置20は、上側ペアと下側ペアとの角度調整を、圧延材の圧延中に実行することにより、より所望の板形状を得るための制御を実行することができる。
【0073】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0074】
S…圧延材
1…熱間圧延機
20…制御装置(角度制御装置)
30…油圧装置
100…ハウジング
110A…上ワークロール
110B…下ワークロール
112A…作業側ロールチョック
112B…駆動側ロールチョック
120A…上バックアップロール
120B…下バックアップロール
130A,130B…ワークロール押圧装置
140A,140B…ワークロール定位置制御装置
150A,150B…バックアップロール押圧装置
160A,160B…バックアップロール定位置制御装置
170…圧下シリンダ装置
180…ロードセル
190A…上ワークロールベンディングシリンダ
190B…下ワークロールベンディングシリンダ
200A,200B…バックアップロール摺動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10