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特許7233835カーボンナノチューブ分散液、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20230228BHJP
   B02C 7/00 20060101ALI20230228BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20230228BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C01B32/174
B02C7/00
H01B1/24 A
H01B13/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017209824
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2019081676
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古園 智大
(72)【発明者】
【氏名】小向 拓治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-065964(JP,A)
【文献】特開2017-031323(JP,A)
【文献】特開2015-053165(JP,A)
【文献】特開2008-024522(JP,A)
【文献】特開2013-230951(JP,A)
【文献】特開2016-072144(JP,A)
【文献】特開2013-067540(JP,A)
【文献】特開2014-024710(JP,A)
【文献】特開2012-082077(JP,A)
【文献】特開2008-024523(JP,A)
【文献】特開2014-131960(JP,A)
【文献】特開2017-119586(JP,A)
【文献】特表2011-517009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B02C 1/00-7/18
H01B 1/00-1/24
H01B 13/00、13/04
B02C 1/00-7/18、15/00-17/24
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と、
前記分散媒に分散され、カーボンナノチューブからなるナノ炭素材料とを含み、
前記ナノ炭素材料は、98%以上の長さが1μm以上105μm以下であり、長さの標準偏差が40μm以下であり、平均アスペクト比が4000以上20000以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記ナノ炭素材料は、ラマンスペクトルにおけるがG/D比が1.0以上であることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
カーボンナノチューブの集合体を含むナノ炭素材料に第1の分散処理を施して、前記ナノ炭素材料の95%以上の長さを1μm以上105μm以下に調整する工程と、
前記第1の分散処理後のナノ炭素材料に第2の分散処理を施して、前記集合体の少なくとも一部をほぐす工程とを備え、
98%以上の長さが1μm以上105μm以下であり長さの標準偏差が40μm以下であり、平均アスペクト比が4000以上20000以下であるナノ炭素材料を得ることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
前記第1の分散処理は、コロイドミルまたはホモジナイザーを用いて行なうことを特徴とする請求項3記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
前記第2の分散処理は、高圧分散処理であることを特徴とする請求項4記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項6】
前記第1の分散処理前の前記ナノ炭素材料は、10%以上の長さが105μmを超えることを特徴とする請求項3~5のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)は、導電性、熱伝導性等の機能を所望の部材に付与できるナノ炭素材料の一種であり、CNT分散液の状態で種々の用途に用いられている。CNTを水等の分散媒に分散させてCNT分散液を得る際には、超音波ホモジナイザーや高圧ホモジナイザー等を用いた分散処理を行なうことが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
現在、市販されているCNTからなるナノ炭素材料は、バンドル状やタングル状に凝集したCNT集合体を含んでいる。バンドル状のCNT集合体は、長さや太さ等にバラつきがあり、長さが100μmを超える長尺のCNT集合体が存在する場合もある。このような長尺のCNT集合体を含むナノ炭素材料を用いて均一なCNT分散液を得るには、分散処理を複数回繰り返す必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5924103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CNT集合体を含むナノ炭素材料を分散処理することで、CNT集合体は解繊されるが、長さや太さのバラつきが大きくなる。CNT集合体は、短いほどほぐれ易く、長いほどほぐれ難いためである。長尺のCNT集合体は、分散処理を繰り返すことで短尺化する。このため、均一なCNT分散液を得ることが困難である。
【0006】
不均一なCNT分散液を用いた場合には、導電性や熱伝導性といった特性を均一に発現させることが困難となる。例えば塗膜の形成に用いる場合、CNT分散液中に存在する長尺のCNT集合体は、異物となって悪影響を及ぼす。CNT分散液に分散されるナノ炭素材料は、CNT集合体が極力解繊されているとともに、長尺の割合が少なく長さのバラつきが抑制されていることが求められる。
【0007】
そこで本発明は、105μmを超える長尺の割合が少なく、解繊されたCNT集合体の多いナノ炭素材料が分散されたCNT分散液、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカーボンナノチューブ分散液は、分散媒と、前記分散媒に分散され、カーボンナノチューブからなるナノ炭素材料とを含み、前記ナノ炭素材料は、98%以上の長さが1μm以上105μm以下で、平均アスペクト比が100以上20000以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、カーボンナノチューブの集合体を含むナノ炭素材料に第1の分散処理を施して、前記ナノ炭素材料の95%以上の長さを1μm以上105μm以下に調整する工程と、前記第1の分散処理後のナノ炭素材料に第2の分散処理を施して、前記集合体の少なくとも一部をほぐす工程とを備え、98%以上の長さが1μm以上105μm以下で、平均アスペクト比が100以上20000以下であるナノ炭素材料を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、CNT集合体を含むナノ炭素材料を用いてCNT分散液を製造するにあたって、CNT集合体の少なくとも一部をほぐす前に、ナノ炭素材料を短尺化して長さを所定の範囲に調整している。ナノ炭素材料は、95%以上の長さが1μm以上105μm以下に調整されることにより、ほぐれ易くなる。CNT集合体は、引き続いて行なわれる処理により容易にほぐれ、CNT表面での欠陥の発生は抑制される。CNT集合体がほぐれる際に長尺のナノ炭素材料が短尺化して、長さが1μm以上105μm以下のナノ炭素材料は、全体の98%以上となる。
【0011】
こうして、105μmを超える長尺の割合が少なく、解繊されたCNT集合体の多いナノ炭素材料が分散された本発明のCNT分散液が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】CNT集合体を含む市販のナノ炭素材料の光学顕微鏡写真である。
図2】第1の分散処理後のCNT集合体の長さの比率を示すグラフ図である。
図3】第1の分散処理後のCNT集合体の光学顕微鏡写真である。
図4】第2の分散処理後のCNTの長さの比率を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
1.CNT分散液
本実施形態のCNT分散液(以下、単に分散液とも称する)は、CNTからなるナノ炭素材料が分散媒中に分散されている。ナノ炭素材料中のCNTの多くは、単離分散したCNTやCNT集合体がほぐれた状態で含まれているが、CNT集合体の状態で確認される場合もある。分散媒としては、例えば、水を用いることができる。分散しているナノ炭素材料の98%以上は、長さが1μm以上105μm以下である。ナノ炭素材料の長さは、光学顕微鏡観察に基づいて求めることができる。具体的には、1000倍の光学顕微鏡写真の所定領域内に確認されるナノ炭素材料の長さを測定する。ナノ炭素材料の95%以上は長さが90μm以下であることが好ましく、ナノ炭素材料の90%以上は長さが75μm以下であることがより好ましい。
【0015】
CNTの直径は、一般的には約5~100nmである。長さが1μm以上105μm以下の場合、CNTのアスペクト比の範囲は10以上21000以下と算出される。現実には、CNTのアスペクト比の下限は100程度である。本実施形態においては、ナノ炭素材料の98%以上の長さが1μm以上105μm以下であるので、ナノ炭素材料の平均アスペクト比は100以上20000以下となる。本明細書において「平均アスペクト比」とは、ナノ炭素材料毎に算出されたアスペクト比の数平均値をさす。平均アスペクト比は、光学顕微鏡観察に基づいて得られた長さ、および透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を測定して得られた直径を用いて算出することができる。ナノ炭素材料の平均アスペクト比は、4000以上15000以下が好ましい。
【0016】
ナノ炭素材料は、長さの標準偏差が40μm程度以下であることが好ましい。長さの標準偏差は、顕微鏡観察に基づいて得られたナノ炭素材料の長さを用いて算出することができる。標準偏差が小さいことは、長さのバラつきが抑制されていることを示す。ナノ炭素材料の長さの標準偏差は、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが最も好ましい。
【0017】
上述の要件を備えていれば、本実施形態の分散液中のナノ炭素材料は、必ずしもCNT集合体が完全に解繊されて単離したCNTである必要はなく、解繊が不完全なCNT集合体が一部に含まれていてもよい。
【0018】
ナノ炭素材料を構成しているCNTは、後述するように予め第1の分散処理を行なうことで第2の分散処理の回数を減らせるので、ラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドとのピーク強度比(G/D比)の低下が抑制される。CNTのG/D比は、1.0以上とすることができる。G/D比が1.0以上のCNTは欠陥が少ないため、電気特性が優れている。G/D比は、1.05以上であることがより好ましく、1.10以上であることが最も好ましい。
【0019】
2.製造方法
上述したように、市販されているナノ炭素材料には、長さが105μmを超える長尺なCNT集合体が含まれている。105μmを超える長尺なCNT集合体は、ナノ炭素材料の10%以上を占めることがある。
【0020】
本実施形態のCNT分散液は、そのようなCNT集合体を含むナノ炭素材料を用いて、本実施形態の方法により製造することができる。本実施形態の製造方法は、ナノ炭素材料を短尺化して長さを所定の範囲内に調整する第1の分散処理と、第1の分散処理後のCNT集合体の少なくとも一部をほぐして、ナノ炭素材料の平均アスペクト比を高める第2の分散処理とを備える。第2の分散処理の結果、所定の範囲内の長さのナノ炭素材料の割合が増加する。以下、各分散処理について説明する。
【0021】
(第1の分散処理)
CNT集合体を含むナノ炭素材料を液体に加えて、第1の分散処理に供する試料を調製する。液体としては、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等を用いることができる。試料におけるナノ炭素材料の濃度は、0.01~20質量%程度とすることができる。例えば500gの水に、ナノ炭素材料0.05~125g程度を加えて試料を調製する。
【0022】
第1の分散処理には、例えばコロイドミル(IKAジャパン社、majicLAB)等の湿式微粉砕機を用いることができる。ナノ炭素材料の95%以上の長さが1μm以上105μm以下となるように、条件を適宜選択して第1の分散処理を行なう。例えば、コロイドミルの場合、間隙を10~300μmとし、3000~26000rpmで1~120分の処理を行なう。試料の投入が困難であれば、例えばポンプ(兵神装備社 モーノポンプ)等を用いることで投入できる。
【0023】
第1の分散処理を行なうことによって、ナノ炭素材料中のCNT集合体は、短尺化して長さのバラつきが小さくなる(標準偏差:40μm以下程度)。長さが短くなることで、CNT集合体はほぐれやすくなる。第1の分散処理の条件によっては、CNT集合体は短尺化されるとともに、ほぐれて太さが小さくなることがある。
【0024】
(第2の分散処理)
第1の分散処理によって短尺化したナノ炭素材料を、例えば高圧ホモジナイザー等を用いて高圧分散処理することで、CNT集合体の少なくとも一部をほぐす(解繊処理)。高圧分散処理に供する試料には、必要に応じて、ポリビニルアルコール(PVA)等の樹脂を加えてもよい。圧力等、高圧分散処理の条件は、適宜設定することができる。高圧ホモジナイザーは、扁平率が0.1以上で短い方の軸の長さが100μm以下程度の扁平ノズルを備えることが好ましい。扁平ノズルの扁平率は、0.6以上であることがより好ましい。
【0025】
第2の分散処理を行なうことによって、CNT集合体の少なくとも一部がほぐれる。ナノ炭素材料は、先立つ第1の分散処理によって、CNT集合体がほぐれ易い状態とされているので、CNT集合体をほぐすために第2の分散処理を繰り返す必要はない。CNT集合体は、表面修飾処理なしでも容易にほぐれて、長さや太さのバラつきが抑えられる。その結果、ナノ炭素材料の平均アスペクト比は、100以上20000以下となる。この際、長さが105μmを超えるナノ炭素材料が短尺化して、ナノ炭素材料の98%以上は、長さが1μm以上105μm以下となる。
【0026】
(任意の処理)
第2の分散処理後には、必要に応じて所定の分散媒で希釈して、CNTからなるナノ炭素材料を所定の濃度で含有するCNT分散液としてもよい。希釈後においても、CNT分散液中のナノ炭素材料は、98%以上の長さが1μm以上105μm以下であり、平均アスペクト比が100以上20000以下である。こうしたCNT分散液は、例えば導電塗膜の形成など、種々の用途に用いることができる。
【0027】
例えば電池電極用途に用いる際には、上述した要件を備えたナノ炭素材料が、0.01~20質量%程度の濃度で水やN-メチル-2-ピロリドンに分散された分散液とすることができる。
【0028】
3.作用及び効果
本実施形態に係るCNT分散液の製造方法においては、まず、CNT集合体を含むナノ炭素材料の95%以上の長さを1μm以上105μm以下に調整するので、ナノ炭素材料における長さのバラつきが抑制される(第1の分散処理)。ナノ炭素材料は、105μmを越える長尺の割合が制限されて全体的に短尺化することから、含まれているCNT集合体がほぐれ易くなる。
【0029】
CNT集合体をほぐすための処理(解繊処理)は、CNTの表面に欠陥を引き起こす傾向がある。解繊処理を繰り返して、ほぐれ難い長尺のCNT集合体を短尺のCNT集合体と同程度までほぐすと、CNT表面の欠陥が増大する。CNT表面の欠陥は、電気特性の低下の原因となる。解繊処理の繰り返しによって、長尺のCNT集合体の短尺化が進み、解繊されるCNT集合体の長さのバラつきも増大してしまう。
【0030】
本実施形態に係る製造方法では、CNT集合体が予めほぐれ易い状態とされているので、CNT集合体を容易にほぐすことができる(第2の分散処理)。ビーズミルによる切断や表面修飾処理は必要なく、CNT表面に欠陥が増大するおそれは低減される。それゆえ、ナノ炭素材料を構成しているCNTは、ラマンスペクトルにおけるG/D比を1.0以上とすることができる。
【0031】
第1の分散処理を施すことによって長さのバラつきが抑制されたCNT集合体が、第2の分散処理により解繊されてほぐれることで、長さや太さのバラつきが抑えられる。ナノ炭素材料の平均アスペクト比は、100以上20000以下となる。この際、長さが105μmを越える長尺のナノ炭素材料が短尺化されて、ナノ炭素材料の98%以上の長さが1μm以上105μm以下となる。こうして、本実施形態のCNT分散液が得られる。
【0032】
本実施形態に係るCNT分散液は、分散しているナノ炭素材料の98%以上が1μm以上105μm以下で、ナノ炭素材料の平均アスペクト比が100以上20000以下である。ナノ炭素材料が均一に分散したCNT分散液であることから、導電性や熱伝導性等の機能を、所望の部材に均一に付与することができる。本実施形態に係るCNT分散液は、105μmを超える長尺のCNT集合体の割合が制限されているので、機能を付与する際、悪影響を及ぼすおそれは回避される。
【0033】
4.実施例
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
<第1の分散処理の影響>
まず、市販のナノ炭素材料に第1の分散処理を施して、分散処理後の長さを調べる。第1の分散処理前のナノ炭素材料は、CNT集合体からなる。図1の光学顕微鏡写真に示すようにCNT集合体の中には、105μmを超える長尺で太さが5μm程度のものも含まれている。
【0035】
こうしたナノ炭素材料0.15gを、500gの水に加えて、第1の分散処理を行なうための試料を調製した。第1の分散処理には、コロイドミル(IKAジャパン社、majicLAB)を用いる。コロイドミルの間隙を40μmとし、16000rpmで所定時間の分散処理を行なった。処理時間は、5分、10分、30分の3種類とした。
【0036】
第1の分散処理を所定時間行なった後、試料中のCNT集合体の長さを求めた。その比率を図2のグラフに示す。図2のグラフには、第1の分散処理前(0分)の試料中のCNT集合体についても、長さの比率を示してある。CNT集合体の長さは、顕微鏡観察に基づいて求めた。具体的には、1000倍の光学顕微鏡写真の所定領域内に確認されるCNT集合体の長さを、観察できる範囲で測定した。測定下限は約4μmである。
【0037】
測定された長さを所定の区間に分けて度数分布を求め、各区間に含まれるCNT集合体の本数の比率を算出した。図2のグラフにおけるプロットは、所定の各区間の長さを有するCNT集合体の比率である。例えば、CNT集合体長さが15μmにおけるプロットは、長さが15μm以下のCNT集合体の比率に相当する。この区間には、1μm以上15μm以下の長さのCNT集合体が含まれているものとする。また、30μmにおけるプロットは、長さが15μm超30μm以下のCNT集合体の比率に相当し、45μmにおけるプロットは、長さが30μm超45μm以下のCNT集合体の比率に相当する。
【0038】
また、光学顕微鏡写真の同様の領域について、15μm超105μm以下の長さのCNT集合体の存在比率を求めた。その結果を、CNT集合体の平均長さおよび長さの標準偏差とともに、下記表1にまとめる。CNT集合体の平均長さおよび長さの標準偏差は、前述の度数分布から算出した。平均長さおよび標準偏差の算出には、図2のグラフの横軸に示している各区間の上限の長さを用いた。
【0039】
さらに、第1の分散処理前後の試料中のCNT集合体について、所定の長さを境界にした存在比(Xμm以下:Xμm超(X=75、90、105))を求めて、下記表2にまとめる。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
図2および表1,2に示すように、第1の分散処理前(0分)の試料は、CNT集合体の長さのバラつきが大きい。コロイドミルを用いた第1の分散処理を行なうことによって、CNT集合体が短尺化するとともに長さのバラつきが小さくなることが、図2および表1,2に示されている。
【0043】
第1の分散処理の時間が長くなるにしたがって、短いCNT集合体の割合が増加する。105μmを超えるCNT集合体の含有率は、処理前には44%であるが、第1の分散処理を30分間行なうことによって、1%に減少している。
【0044】
図3は、第1の分散処理を30分行なった後の試料中のCNT集合体の光学顕微鏡写真である。コロイドミルを用いた第1の分散処理によって、CNT集合体の平均長さが40μm程度以下に短尺化するのに加えて、CNT集合体がほぐれる傾向にあることがわかる。図3の光学顕微鏡写真には、ほぐれた状態のCNT集合体が多数確認される。
【0045】
<分散液の調製およびCNTの長さの評価>
上述のナノ炭素材料を用いて分散液(実施例1,2,比較例)を調製し、得られた分散液中のCNTの長さを調べて比較する。
【0046】
実施例1の分散液は、上述と同様の試料に、第1の分散処理および第2の分散処理を施して調製した。第1の分散処理は、上述したコロイドミル(IKAジャパン社、majicLAB)を用い、間隙300μm、16000rpmで10分間行なった。
【0047】
第1の分散処理後の試料を高圧分散処理することで、第2の分散処理を行なった。高圧分散処理には、高圧ホモジナイザーを用い、100MPaで5回循環させた。
【0048】
こうして得られた実施例1の分散液中のナノ炭素材料には、CNT集合体が一部に確認されたが、ほとんどのCNT集合体はほぐれていた。
【0049】
実施例2の分散液は、第1の分散処理において、間隙を40μmに変更し、処理時間を30分に変更する以外は、実施例1と同様にして調製した。実施例1の場合と同様、実施例2の分散液中のナノ炭素材料には、CNT集合体が一部に確認されたが、ほとんどのCNT集合体はほぐれていた。
【0050】
比較例の分散液は、第1の分散処理を行なわない以外は実施例1と同様にして調製した。
【0051】
実施例1,2および比較例の分散液中のCNTの長さを求めて、その比率を図4のグラフに示す。CNTの長さは、上述したように顕微鏡観察に基づいて求めた。上述と同様に測定された長さを所定の区間に分けて度数分布を求め、各区間に含まれるCNTの本数の比率を算出した。度数分布における各区間は、4μm以上15μm以下,15μm超30μm以下,30μm超45μm以下,45μm超60μm以下,60μm超75μm以下,75μm超90μm以下,90μm超105μm以下,105μm超120μm以下,120μm超130μm以下,130μm超145μm以下,145μm超160μm以下,160μm超175μm以下,175μm超205μm以下,205μm超235μm以下,235μm超265μm以下,および265μm超295μm以下である。
【0052】
図4中の各プロットは、図2の場合と同様、所定の各区間の長さを有するCNTである。また、第1の分散処理後で第2の分散処理前のCNT集合体、および第2の分散処理後のCNTについて、所定の長さを境界にした存在比(Xμm以下:Xμm超(X=75、90、105))を求めた。その結果を、下記表3にまとめる。
【0053】
【表3】
【0054】
上記表3中に(処理前)として示されているのは、第1の分散処理後で第2の分散処理前のCNT集合体についての結果であり、(処理後)として示されているのは、第2の分散処理後に得られた分散液中のCNTについての結果である。
【0055】
実施例1,2は、第1の分散処理を施しているので、第2の分散処理前においても、CNT集合体の長さのバラつきが抑制されている。第2の分散処理後には、CNTの長さのバラつきはさらに抑制されることが表3に示されている。実施例1,2の分散液中のCNTの長さのバラツキが小さいことは、図4からもわかる。
【0056】
実施例1,2、および比較例の分散液中のCNTについて、上述と同様に各区間の上限の長さを用いて、度数分布から長さの標準偏差を求めた。CNTの長さの標準偏差は、実施例1では23μmであり、実施例2では15μmであり、比較例では42μmであった。なお、実施例1,2、および比較例の分散液中のCNTの平均長さは、それぞれ35.8μm、27.4μm、および47.0μmであった。
【0057】
比較例の結果に示されるように、第1の分散処理を施さずに高圧分散による第2の分散処理を行なった場合には、CNTの長さのバラつきを抑制することができない。比較例の分散液では、75μm以下の短いCNTは82%にとどまっており、CNTの9%は105μmを超える長さを有している。
【0058】
なお、分散液中のナノ炭素材料の平均アスペクト比は、実施例1では6000程度であり、実施例2では4500程度であり、比較例では3500程度であった。平均アスペクト比は、測定された各CNTのアスペクト比を平均して求めた。直径は、TEM写真を用いて測定した。
【0059】
<ラマンスペクトル分析による評価>
上述のナノ炭素材料を、ラマンスペクトル分析用の試料1とした。
【0060】
同様のナノ炭素材料を以下のように処理して、ラマンスペクトル分析用の試料2、試料3を用意した。
【0061】
試料2の調製にあたっては、0.15gのナノ炭素材料を500gの水に加えた混合物を、上述のコロイドミルを用いて処理した(間隙40μm、16000rpm、30分)。処理後の混合物をガラス基板上に滴下し、90℃で乾燥させて、ラマンスペクトル分析用の試料2とした。
【0062】
試料3の調製にあたっては、試料2の場合と同様の混合物を、コロイドミルを用いずに高圧分散装置のみで処理した(圧力100MPa、循環回数5回)。処理後の混合物をガラス基板上に滴下し、90℃で乾燥させて、ラマンスペクトル分析用の試料3とした。
【0063】
試料1~3それぞれについてラマンスペクトル分析を2回ずつ行ない、スペクトルにおけるGバンドとDバンドとのピーク強度比(G/D比)を求めた。その結果を、下記表4にまとめる。
【0064】
【表4】
【0065】
上記表4に示されるように、G/D比は、高圧分散処理後(試料3)には低下傾向にあるものの、コロイドミルでの処理後(試料2)では維持される傾向である。未処理状態と同等のG/D比を維持できることから、コロイドミルを用いた第1の分散処理は、CNTの表面の欠陥を過度に増加させないことがわかる。
【0066】
なお、コロイドミルで処理した試料2は、ナノ炭素材料中のCNT集合体がほぐれ易い状態とされている。こうした試料2に対して高圧分散処理を行なうと、CNT集合体は容易にほぐれることから、高圧分散処理の回数が少なくともCNT集合体をほぐして分散させることができる。CNT表面の欠陥が増大するおそれが小さいことから、ラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドとのピーク強度比(G/D比)の低下を抑制することができる。
【0067】
5.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0068】
第1の分散処理は、ナノ炭素材料中のCNT集合体を短尺化して、95%以上の長さを1μm以上105μm以下に調整することができれば、任意の手法により行なうことができる。第1の分散処理には、コロイドミルの他、ホモジナイザーを用いてもよい。
【0069】
さらに、CNT集合体を含むナノ炭素材料をジメチルアセトアミド(DMAc)等の溶剤に混合し、所定の条件で所定時間混練することによって、第1の分散処理を行なうこともできる。

図1
図2
図3
図4