(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】乾草防腐剤及び乾草の保存方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/50 20200101AFI20230228BHJP
A01F 25/00 20060101ALI20230228BHJP
A01N 63/00 20200101ALI20230228BHJP
A01N 63/32 20200101ALI20230228BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230228BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230228BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20230228BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A01N63/50
A01F25/00 J
A01N63/00
A01N63/32
A01P3/00
C12N1/00 P
C12N1/16 G
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2017546270
(86)(22)【出願日】2015-11-24
(86)【国際出願番号】 IB2015059079
(87)【国際公開番号】W WO2016083996
(87)【国際公開日】2016-06-02
【審査請求日】2018-10-02
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-16
(32)【優先日】2014-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517180394
【氏名又は名称】ダンスター フェルマン アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】サンドー,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】デュラン,アンリ
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】齊藤 真由美
【審判官】瀬良 聡機
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-196860(JP,A)
【文献】特開2000-109405(JP,A)
【文献】特開昭48-56819(JP,A)
【文献】特開2021-35952(JP,A)
【文献】.Applied Microbiology and Biotechnology,1994年,vol.42,p.108-115
【文献】Animal Feed Science and Technology,2010年,vol.156,p.47-56
【文献】Applied and Environmental Microbiology,1995年,vol.61,p.1027-1032
【文献】FEMS Yeast Research,2002年,vol.2,p.389-394
【文献】Postharvest Biology and Technology,1999年,vol.15,p.175-184
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2009年,p.1129-1134
【文献】Canadian Journal of Animal Science,1994年,p.229-234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K, A01N, C12N
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む、乾草防腐剤であり、a)前記少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素は被処理乾草1トン当たり6U~300Uの範囲のキチナーゼ活性を保有し、かつ、b)前記乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌は、被処理乾草1トン当たり、10
5~10
15の酵母又は細菌の生菌であり、また、1酵素単位(U)は、2時間の試験において、pH6.0、25℃の温度下で1時間当たり、キチン(g)から1.0mgのN―アセチル-D―グルコサミンを遊離させる、乾草防腐剤。
【請求項2】
前記ピキア属の酵母がピキア・アノマラ種に由来する、請求項1に記載の乾草防腐剤。
【請求項3】
前記ピキア属の酵母が、受託番号DBVPG 3003のピキア・アノマラ株の識別特性の全てを備えたピキア・アノマラ種に由来する、請求項1又は2に記載の乾草防腐剤。
【請求項4】
前記ペディオコッカス属の細菌がペディオコッカス・ペントサセウス種に由来する、請求項1に記載の乾草防腐剤。
【請求項5】
前記ペディオコッカス属の細菌が、受託番号NCIMB 12674のペディオコッカス・ペントサセウスBTC328株又は受託番号NCIMB 12675のペディオコッカス・ペントサセウスBTC401株の識別特性の全てを備えたペディオコッカス・ペントサセウス種に由来する、請求項1又は4に記載の乾草防腐剤。
【請求項6】
前記少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素が乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア・アノマラ種と組み合わせられる、請求項1に記載の乾草防腐剤。
【請求項7】
前記少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素が乾草防腐及び減熱に有効な量のペディオコッカス・ペントサセウス種と組み合わせられる、請求項1に記載の乾草防腐剤。
【請求項8】
ペクチンリアーゼ活性、グルカナーゼ活性又はそれらの混合活性を保有する少なくとも1種類の酵素をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の乾草防腐剤。
【請求項9】
高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法であって、
前記高水分乾草は20%よりも高い水分レベルであり、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む乾草防腐剤を添加することを含み、a)前記少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素は被処理乾草1トン当たり6U~300Uの範囲のキチナーゼ活性を保有し、かつ、b)前記乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌は、被処理乾草1トン当たり、10
5~10
15の酵母又は細菌の生菌であり、また、1酵素単位(U)は、2時間の試験において、pH6.0、25℃の温度下で1時間当たり、キチン(g)から1.0mgのN―アセチル-D―グルコサミンを遊離させる、方法。
【請求項10】
前記ピキア属の酵母がピキア・アノマラ種である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ピキア属の酵母が受託番号DBVPG 3003のピキア・アノマラ株の識別特性の全てを備えたピキア・アノマラ種である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記ペディオコッカス属の細菌がペディオコッカス・ペントサセウス種である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記ペディオコッカス属の細菌が受託番号NCIMB 12674のペディオコッカス・ペントサセウスBTC328株又は受託番号NCIMB 12675のペディオコッカス・ペントサセウスBTC401株の全ての識別特性を備えたペディオコッカス・ペントサセウス種である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ペクチンリアーゼ活性、グルカナーゼ活性又はそれらの混合活性を保有する少なくとも1種類の酵素をさらに含む、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾草防腐剤に関する。さらに詳しくは、貯蔵された高水分乾草において、乾草を防腐するための乾草防腐剤、並びに貯蔵された高水分乾草において、乾草を防腐するための乾草防腐剤の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾草を梱包する前に野外で最適な水分レベルに予乾することは、乾物量(DM)の損失、カビの生育、並びに乾草の梱包及び貯蔵中の植物細胞の呼吸、を減少させるために最適な作業である。
しかしながら、この作業は、植物の継続的な呼吸、機械的損傷による葉の粉砕、及び雨による溶脱に起因する相当な栄養損失をもたらす。この事実の認識により、また予想不能な天候のため、多くの乾草生産者は最適な水分量よりも高い水分量(20~30%)で乾草を梱包し、雨による被害と葉の機械的損失のリスクを最小限にしている。しかしながら、この実務は酵母、カビ、及び時には細菌の活動による損害、熱の発生、及び給与する際の乾草の栄養価の低下をもたらしている。
【0003】
1つの簡単な解決方法は、例えば、プロピオン酸のような有機酸を貯蔵の際に多湿乾草に吹きかけることである。有機酸は通例、多湿乾草において真菌の増殖を防ぐ上で効果があるものの、高い使用料金、草地の拡大、処理費、及び環境への懸念により、大部分の乾草生産者はその使用に対して消極的である。
【0004】
細菌を基礎とした接種剤が、最適な水分量より高い水分量で梱包された乾草を保存する場合に有機酸に取って代わる潜在性があることを示す研究があるものの(Baah et al., Asian-Aust. J. Anim. Sci. 18:649-660, 2005)、サイレージ及びヘイレージに関する他の研究結果は一貫していない(Zahiroddini et al., Asian-Aust. J. Anim. Sci. 19(10):1429-1436, 2006, Muck, Trans. ASAE 47:1011-1016, 2004)。接種剤に対する反応の一貫性の無さは、個々の接種剤の微生物種と接種前の乾草上の着生微生物群(細菌、酵母及びカビ)との間の相互作用によるものであることを示す多くのエビデンスがある。
【0005】
改良された乾草防腐剤、特に貯蔵された多湿乾草において、乾草の熱損傷を防止及び低減するため、並びにそれを防腐するための乾草防腐剤を提供することは非常に望ましいことであろう。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、貯蔵された多湿乾草における乾草の品質を維持する方法を提供する。該方法は、貯蔵された多湿乾草における熱損傷を防止及び/又は低減することができる乾草防腐剤に基づくものである。使用される該乾草防腐剤は、貯蔵された多湿乾草における熱を有機酸と同等もしくはそれ以上に防止及び/又は低減する。
【0007】
本発明は、1つの態様として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法であって、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を単独で又は乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む乾草防腐剤を添加することを含む方法を提供する。他の態様として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法であって、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を含む乾草防腐剤を添加することを含む方法を提供する。
【0008】
さらに別の態様として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法であって、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母と組み合わせて含む乾草防腐剤を添加することを含む方法を提供する。
【0009】
さらに別の態様として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法であって、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む乾草防腐剤を添加することを含む方法を提供する。
【0010】
さらに別の態様として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法であって、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母を含む乾草防腐剤を添加することを含む方法を提供する。
【0011】
さらに別の態様として、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を含む乾草防腐剤を提供する。
【0012】
さらに別の態様として、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む乾草防腐剤を提供する。
【0013】
さらに別の態様として、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母と組み合わせて含む乾草防腐剤を提供する。
【0014】
1つの態様として、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む乾草防腐剤を提供する。
【0015】
さらに別の態様として、前述したすべての態様は、ペクチンリアーゼ活性、グルカナーゼ活性又はそれらの混合活性を保有する少なくとも1種類の酵素をさらに含むことができる。
【0016】
さらに別の態様として、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母を含む乾草防腐剤を提供する。
【0017】
さらに別の態様として、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、単独で又は乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む、高水分乾草を提供する。該高水分乾草は、ペクチンリアーゼ活性、グルカナーゼ活性又はそれらの混合活性を保有する少なくとも1種類の酵素をさらに含むことができる。
【0018】
さらに別の態様として、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母を含む高水分乾草を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以上のように本発明の特徴について一般的に述べたが、以下に添付図面を参照して図面を通じて本発明の好ましい態様を示す。
【0020】
【
図1】プロピオン酸(Prop.Acid)で処理した、及び非処理のアルファルファ乾草のベールと対比した、ピキア属の酵母(P.anomala)、又は少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素(Enzyme)で処理したアルファルファ乾草のベールの貯蔵中における週単位の平均温度を表す。
【0021】
【
図2】プロピオン酸(PROP)で処理した、及び非処理のアルファルファ乾草のベールと対比した、少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母(PichChit)、又はペディオコッカス属の細菌(Pedio pe)と組み合わせて処理したアルファルファ乾草のベールの貯蔵中における日単位の平均温度を表す。
【0022】
【
図3】プロピオン酸(Prop.Acid)で処理した、及び非処理(Control)のアルファルファ乾草のベールと対比した、少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素とピキア属の酵母(Pichia+Enz)、又は該キチナーゼ活性保有酵素とペディオコッカス属の細菌(Pedio+Enz)の組み合わせで処理したアルファルファ乾草のベールの貯蔵中(2012)における40℃以上の時間(分)のグラフを表す。
【0023】
【
図4】ピキア属の酵母単独(Pichia)、ペディオコッカス属の細菌(Pedio)、プロピオン酸(Prop.Acid)で処理した、及び非処理(Control)のアルファルファ乾草のベールと対比した、少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素とピキア属の酵母(Pichia+Enz)、又は該キチナーゼ活性保有酵素とペディオコッカス属の細菌(Pedio+Enz)の組み合わせで処理したアルファルファ乾草のベールの貯蔵中(2013)における40℃以上の時間(分)のグラフを表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
高水分乾草の1つの問題点は、自然に発生した熱によって引き起こされる損傷及び腐敗である。この熱のこもったベールは通常、色、栄養価の点で劣り、視認できる多くのカビを有している。1つの解決方法は、例えば、プロピオン酸のような有機酸を貯蔵の際に高水分乾草に吹きかけることである。有機酸は通例、高水分乾草における真菌の増殖を防ぐ上で効果があるものの、高い使用料金、草地の拡大、処理費、及び環境への懸念により大部分の乾草生産者はその使用に対して消極的である。
【0025】
細菌を基礎とした接種剤が、最適な水分量以上の梱包された乾草を保存する場合に有機酸に取って代わる潜在性があることを示す研究があるものの、サイレージ及びヘイレージに関する他の研究結果は一貫していない。接種剤に対する反応の明らかな一貫性の無さは、個々の接種剤の微生物種と接種前の乾草上の着生微生物群(細菌、酵母及びカビ)との間の相互作用によるものであることを示す多くのエビデンスがある。
【0026】
本発明は、最も広い態様において、乾草の品質を維持し、貯蔵された高水分乾草の熱損傷を防止又は低減する方法、好気的条件下で乾草防腐剤を用いた新鮮な 乾草の処理を含む方法を開示する。
【0027】
前記乾草防腐剤は、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を含む。驚くことに、該乾草防腐剤は、少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせると、防腐効果及び高水分乾草の熱損傷を防止及び/又は低減する能力の観点から、更にもっと機能が改善されることが発見された。少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素をピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせると、該組み合わせによって、
図4に示したように、該組み合わせの各要素単独を使用した場合に比べて、各高水分乾草における温度低減が顕著に増強される。
【0028】
代替として、前記乾草防腐剤は、乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母を単独で含んでもよい。
【0029】
ここにおいて使用される用語“乾草防腐及び減熱に有効な量の”は、乾草の品質を維持するのに少なくとも十分な量と理解される。このように、該量は、高水分乾草の熱損傷を防止及び/又は低減し、並びに防腐するために少なくとも十分である。
【0030】
ここにおいて使用される用語“乾草”は、該用語は農業において一般に使用されているように、全ての形態の乾草と理解される。乾草は、最も一般には20%よりも低い所望水分レベルで刈り取られた、アルファルファ、牧草、又はアルファルファと牧草との混合物からなる。
【0031】
高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法は、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を含む乾草防腐剤を添加することを含むことができる。前述したように、少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素は、ピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせることができる。
【0032】
1つの態様として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法は、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母と組み合わせて含む乾草防腐剤を添加することを含む。
【0033】
他の態様として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法は、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を乾草防腐及び減熱に有効な量のペディオコッカス属の細菌と組み合わせて含む乾草防腐剤を添加することを含む。
【0034】
代替として、高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は低減するため、並びにそれを防腐するために乾草を処理する方法は、乾草に、乾草防腐及び減熱に有効な量の少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素を乾草防腐及び減熱に有効な量のピキア属の酵母単独と組み合わせて含む乾草防腐剤を添加することを含む。
【0035】
ピキア属の酵母は、ピキア・アノマラ種を含むがこれに限定されない。1つの態様として、ピキア属の酵母は、受託番号DBVPG 3003のピキア・アノマラ株の識別特性の全てを備えたピキア・アノマラ種とすることができる。受託番号DBVPG 3003のピキア・アノマラ株の識別特性を備えた任意の分離株が、ここに述べた識別特性と活性を備えたそれらの二次培養菌と変異体を含めて含まれると理解される。受託番号DBVPG 3003のピキア・アノマラ株は、the Industrial Yeast Collection DBVPG of the Dipartimento di Biologia Vegetale e Biotecnologie Agroambientali e Zootecniche,Sezione di Microbiologia Agroalimentare ed Ambientale, http//www.agr.unipg.it/dbvpg, University of Perugia, Italyに寄託された。
【0036】
ペディオコッカス属の細菌は限定されないが、ペディオコッカス・ペントサセウス種が含まれる。1つの態様として、ペディオコッカス属の細菌は、ペディオコッカス・ペントサセウスBTC328株(受託番号NCIMB 12674)の全ての識別特性を備えたペディオコッカス・ペントサセウス種を含むことができる。さらなる態様として、ペディオコッカス属の細菌は、ペディオコッカス・ペントサセウスBTC401株(受託番号NCIMB 12675)の全ての識別特性を備えたペディオコッカス・ペントサセウス種を含むことができる。ペディオコッカス・ペントサセウスBTC328株又はBTC401株の識別特性を備えた任意の分離株が、ここに述べた識別特性と活性を備えたそれらの二次培養菌と変異体を含めて含まれると理解される。受託番号NCIMB 12674及び12675のペディオコッカス・ペントサセウス株は、the National Collection of Industrial, Food and Marine Bacteria Ltd, Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen AB21 9YAに寄託された。
【0037】
前記方法の1つの態様として、乾草に対する処理範囲は、典型的には乾草1トン当たり、105~1015の酵母又は細菌の生菌、好ましくは乾草1トン当たり、107~1013の酵母又は細菌の生菌、より好ましくは乾草1トン当たり、109~1012の酵母又は細菌の生菌である。ここにおいて、用語“トン”は、メートルトン(1000kg)を意味する。
【0038】
少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素は、被処理乾草1トン当たり、約6~約300の酵素単位(U)の範囲のキチナーゼ活性を有することができる。1つの態様として、被処理乾草1トン当たり、キチナーゼ活性を約6~約100Uの範囲とすることができる。1Uは、一定量のキチナーゼ活性を生じる酵素量と定義される。1酵素単位(U)は、2時間の試験において、pH6.0、25℃の温度下で1時間当たり、キチン(g)から約1.0mgのN―アセチル-D―グルコサミンを遊離させることができる。
【0039】
本明細書において、前記乾草防腐剤は、ペクチンリアーゼ活性、グルカナーゼ活性又はそれらの混合活性を保有する少なくとも1種類の酵素をさらに含むことができる。
【0040】
本明細書における乾草防腐剤は、液状、固形状のいずれであってもよい。本明細書における乾草防腐剤は、適切なキャリアを含んでよいし、そのように使用してもよい。固形状の場合は、前記乾草防腐剤は、固形状のキャリアや物理的増量剤を含むことができる。適切なキャリアは、水性又は非水性の液体状あるいは固形状とすることができる。水性又は非水性の液体状のキャリアの非限定的な例示としては、水、油、及びパラフィンが挙げられる。固形状のキャリアの非限定的な例示としては、マルトデキストリン、デンプン、炭酸カルシウム、セルロース、ホエイ、粉砕コーンコブ(corn cobs)、及び二酸化ケイ素のような有機又は無機のキャリアが挙げられる。固形状のものは、乾草に直接パウダーを軽く散布することができ、液状キャリアに分配されている場合は、乾草にうまく噴霧することができる。本明細書で記載された目的に沿う他のいかなる適切なキャリアも使用しうると理解される。また、本開示に沿った乾草防腐剤は、当業者にとって一般的な標準技術を利用して乾草に使用することができると理解される。該乾草防腐剤は、梱包の前、梱包の間、及び/又は梱包の後に使用することができる。本発明は、その範囲を限定しない該発明を示すための以下の実施例を参照することによって、より容易に理解される。
【実施例】
【0041】
実施例1:
【0042】
乾草、処理及び梱包条件
【0043】
乾草は、90%アルファルファ、10%ブロムグラスからなり、3番刈りのものとした。該乾草は、2011年9月17日にNew-Holland(商標名)disc-bineでカットされ、無条件かつそのままで乾燥された。水分レベルは、Farmex(商標名)ウィンドロウ乾草水分テスター(1205 Danner Drive,Aurora,OH)を用いて、カットの5日後に評価したところ、20~35%の範囲であった。このとき、予め接種剤を計量し、それらを予め計量した6.5Lの蒸留水を入れた個々のジャグ(jugs)内に入れて、1分間振盪させることにより乾草防腐剤を調製した。4790 Hesstonの大きな四角のベーラーにスプレータンクと単一のノズルを備えたスプレーブームを載置した。該ブームは、漂動が最小で、スプレーパターンがウィンドロウの90%をカバーするように配置した。
【0044】
1つのベールへの添加剤の使用を完了する時間、該ベールの重さ、及びベール材料のより正確な水分量を決定をするために、2つの試験ベールを作成した。ベールの水分量は、乾草プローブを用いて決定した。1つのベール(0.91m×1.22m×2.44m)を作成するための平均時間は2分30秒であり、ベールの平均重量は820kgであった。ピキア・アノマラは、乾草1トン当たり、1L中1011CFUの割合で使用した。キチナーゼ活性保有酵素は、乾草1トン当たり、1.5g(1Lの水に懸濁)の割合(乾草1トン当たり、約6Uに相当)で使用した。プロピオン酸製品は68%(vol/vol)のプロピオン酸からなり、2.72L/トンの割合で使用して、ポジティブコントロールとした。ネガティブコントロールを水とし、乾草1トン当たり、1Lの割合で使用した。ピキア・アノマラ及びキチナーゼ活性保有酵素は、Lallemsnf Specialties Inc.(Milwaukee, WI, USA)より入手し、一方、プロピオン酸は、Wausau Chemical Corporation(Wausau, WI, USA)より入手した。各処理に対して5つの同様のベールを作成した。ピキア・アノマラのサンプルを各使用後に取り出し、該微生物の生存率や数を検証した。これにより、該微生物の使用割合を確認した。各ベールは、ベーラーから出口に進むとすぐに、スプレーペイントを使用して、また、後にジップタイに取り付けたタグで標識化した。全てのベールは梱包後1日目に計量し、コアサンプルを取った。全てのベールは梱包後、輸送される前に2週間野外に置いて、燃焼するリスクを低減させ、片面が開いている乾燥舎に一層で貯蔵した。ベールは再び90日目に4つの側面(ベールのトップ部と底部を除く)からコアサンプルを取り出し、互いの上に再度積み重ねた(2つのベールの積み重ね)。コアサンプルは180日目に再び取り出した。
【0045】
化学的・微生物学的測定
【0046】
野外の6つの異なる区域から刈り取った乾草サンプルと、1日、90日、及び180日の貯蔵日における各ベールの4つの異なる場所から得られた各種部分からなるコアサンプルに対して、化学的・微生物学的解析を行った。McAllisterらが概略を示した方法(1995. Intake, digestibility and aerobic stability of barley silage inoculated with mixtures of Lactobacillus plantarum and Enterococcus faecium. Can. J. Anim. Sci. 75:425-432)を、総細菌、乳酸菌(LAB)、酵母、及びカビの数を測定するために使用した。乾物(DM)、有機物(OM)及び粗タンパク質(CP)は、AOACの方法(1990)により測定し、中性デタージェント線維(NDF)、酸性デタージェント線維(ADF)、及び酸性洗剤不溶酵素(ADIN)は、Van Soestら(1991. Method for dietary fiber, neutral detergent and non-starch polysaccharides in relation to animal nutrition)の方法により測定した。
【0047】
表1.梱包において様々な乾草防腐剤で処理後90日の乾草の化学組成(% DM)、pH及び微生物学的組成(cfu log
10)
1
1PA=ピキア・アノマラ;CE=キチナーゼ活性保有酵素;BPA=プロピオン酸;CON=コントロール
2TB=寒天培地で成長する非選好性細菌;LAB=MRS培地で成長する、乳酸桿菌と推定される細菌;OM=有機物;NH
3=アンモニア性窒素;TN=総窒素;LA=乳酸;ADF=酸性デタージェント線維;ADIN=酸性洗剤不溶酵素
【0048】
表1は、0日(梱包日)及び梱包後90日に収集された乾草サンプルの化学的及び微生物学的分布への乾草防腐剤の処理効果を示している。乳酸と酸性洗剤不溶酵素(ADIN)は別として、様々な処理は評価した項目、すなわち、pH、総窒素、アンモニア性窒素、及びADFには影響を及ぼさなかった。乳酸の濃度は、ピキア・アノマラ処理が他の処理よりも低かった。他の処理に比べて、ADINのレベル(% DM)はピキア・アノマラ処理において高かった。90日の乾草サンプルにおける総細菌(寒天培地で成長する非選好性細菌)、酵母、及びカビの数は処理によって影響を受けなかった。乳酸桿菌の数は、他の処理に比べて、ピキア・アノマラ及びコントロールのベールで高く、梱包日のlog10 3.80 CFU g-1から、90日後にそれぞれlog10 5.42、log10 6.29CFU g-1に増加した。
【0049】
表2.梱包において様々な接種剤で処理後180日の乾草の化学組成(% DM)、pH及び微生物学的組成(cfu log10)
1PA=ピキア・アノマラ;CE=キチナーゼ活性保有酵素;BPA=プロピオン酸;CON=コントロール
2TB=寒天培地で成長する非選好性細菌;LAB=MRS培地で成長する、乳酸桿菌と推定される細菌;OM=有機物;NH
3=アンモニア性窒素;TN=総窒素;LA=乳酸;ADF=酸性デタージェント線維;ADIN=酸性洗剤不溶酵素
【0050】
pHと酵母の数は別として、180日のサンプルにおいて、化学組成及び微生物学的組成の点で、処理間の違いはなかった(表2参照)。他の全ての処理と比べて、pHはピキア・アノマラで最も低かった(6.00)。酵母の数は、キチナーゼ活性保有酵素による処理で最も高かった。
【0051】
表3.梱包において様々な添加剤で処理後90日及び180日の乾草コアサンプルの揮発性脂肪酸(VFA)の濃度
1PA=ピキア・アノマラ;CE=キチナーゼ活性保有酵素;BPA=プロピオン酸;CON=コントロール
【0052】
表3によれば、90日及び180日サンプルの両方の総VFA(揮発性脂肪酸)及び酢酸塩の濃度は、処理によって影響を受けなかった。貯蔵180日後に生成された主要なVFAは酢酸塩であり、これはベール中で生成される総VFAの94%から98%を占めた。貯蔵180日後では、ピキア・アノマラ及びキチナーゼ活性保有酵素で処理したベール中の酢酸塩と総VFAは高くなる傾向が見られた。ピキア・アノマラ及びキチナーゼ活性保有酵素で処理した180日ベールにおける酢酸塩と総VFAの濃度は、他の処理での濃度より少なくとも14%高かった。このことはそれら両方の処理が他の処理に比べて、ベール中に嫌気的微生物発酵をより多く誘発したことを示している。コントロール処理に比べて、ピキア・アノマラ及びキチナーゼ活性保有酵素で処理した180日ベールにおける総VFAと酢酸塩の濃度は約32%高かった。予想されたように、プロピオン酸処理したベールにおけるプロピオン酸塩濃度は、90日及び180日サンプルのそれぞれにおいて、他の処理での濃度よりも高かった(表3)。
【0053】
表4.様々な添加剤で処理後180日貯蔵した乾草の品質評価
PA=ピキア・アノマラ;CE=キチナーゼ活性保有酵素;BPA=プロピオン酸;CON=コントロール
色/におい Maryland Cooperative Extension Fact Sheet#644 “Evaluating Hay Quality”による。
(
http://www.extension.umd.edu/publications/pdfs/fs644.pdf)
色
明るい緑色の乾草は高いポイントとする(15~20)。
ゴールデンイエロー~黄色の乾草は5~15ポイントとする。
茶褐色~黒色の乾草は0~5ポイントとする。
におい
新しく刈った乾草のにおいは高いポイントとする(15~20ポイント)。
カビ臭い又は他の悪臭の乾草は5~15ポイントとする。
カビが生えた又は異常なほこりっぽい乾草は非常に低いポイントとする(0~5ポイント)。
グレード
グレードは審査員による全体評価に基づき、非常に劣る(very poor)、劣る(poor)、平均(average)、良好(good)、非常に良好(very good)、極めて良好(excellent)で評価する。
【0054】
全てのベールを180日目に開いて、Maryland Cooperative Extension Fact Sheet#644に従って品質を評価した。視覚評価及び嗅覚評価に基づくと、コントロールとプロピオン酸処理は最も低い品質の乾草を生成した一方、残りの処理は平均~良好な品質の乾草を生成した(表4)。
【0055】
温度安定性
【0056】
ベールの温度安定性について、梱包後の翌朝にコアホールに挿入した3つのDallas Thermochron iButtons(Embedded Data Systems, Lawrenceburg, KY)を用いて、各ベールの内部温度を連続的に測定することにより検査した。iButtonsは、貯蔵期間の最初の60日の間、毎時の温度を記録するように構成した。貯蔵期間(180日)の最後にベールを開いて、腐敗とカビの程度を、Maryland Cooperative Extension Fact Sheet#644 “Evaluating Hay Quality” (http://www.extension.umd.edu/publications/pdfs/fs644.pdf)に基づいてポイントをつけた。
【0057】
図1に示すように、週の平均的な周囲温度(ベール貯蔵エリア)は、貯蔵した最初の週の約16℃の最高気温から、7週後に氷点下まで下がった。しかしながら、全てのベールの温度は、貯蔵期間の最初の3週は20℃以上であった。最も高い週の温度(約34℃)はコントロールベールにおいて2週目に記録された。最初の3週のコントロールベールの平均温度は、約30℃であった。キチナーゼ活性保有酵素で処理したベールの温度は、1週から7週までコントロールベールの温度より常に低かった(
図1)。該処理をプロピオン酸処理と比べると、同様の傾向(2週目を除く)が観察された(
図2)。全ての処理は貯蔵期間においてベールの温度を低下させる上でプラス効果があったが、コントロール及びプロピオン酸処理と比べると、キチナーゼ活性保有酵素が最も効果的な効果であった。コントロール及びプロピオン酸処理したベールと比べると、キチナーゼ活性保有酵素処理したベールの平均温度は、前記期間において、コントロール及びプロピオン酸処理したベールの温度よりも、それぞれ6~8℃、4~5℃低かった。
【0058】
動物実験
【0059】
180日目の乾草サンプルにおけるDM及びNDFの消失のin situの速度及び程度を、ルーメン・カニューレを取り付けた、また、DMベースでチモシー乾草50%、大麦サイレージ50%からなる標準的なフィードロット・バックグラウンド飼料で育てられた3匹の乳牛で測定した。同じ防腐剤で処理したベールから得た180日コアサンプルのサブサンプルを作成し、4mmのスクリーンを通過するように細かくした。作成した各サンプルを約4g測定してDacronバッグに入れ、3個のサンプルを0、2、6、12、24、48、72、96及び120時間各乳牛で培養した。バッグはポリエステルモノフィラメントのメッシュでできていた(53μm細孔径、5cm×20cm、Ankom、Fairport、New York)。乳牛には培養を開始する前に飼料に馴致するように2週間給与した。培養後直ちに、バッグの外に付いた全ての胃内容物が除去されるまで冷たい水道水でバッグをゆすいだ。バッグを国内製の洗濯機で3分間冷水で、洗剤とスピン洗浄を使用せずに、精巧なサイクル洗浄で洗った。洗浄工程は1回繰り返した。各処理を行ったサンプルを含む培養していない二つ組みセットのバッグを前記バッグと一緒に洗い、各処理の0時間後の消失を評価するために使用した。次いで全てのバッグを55℃で48時間、熱風乾燥器で乾燥させた。同じ乳牛で培養された同じ処理の3個のサンプルの残留物をプールして、NDFを分析する前に、前記方法により1mmのスクリーンを通過するように細かくした。DM及びNDFの消失のパーセンテージは、各培養時間後にバッグに残っている比率から計算した。DM及びNDFの消失データは、ラグフェイズ(lag phase)を有するOrskovとMcDonaldの指数関数モデル(1979)の改変バージョンに当てはめた。
【0060】
p=a+b(1-e-c(t-lag)) t>lag
【0061】
pはt時間後のDM又はNDFの消失(%)、aは急速に消失する画分(%)、bはゆっくりと消失する画分(%)、cは画分bの消失の画分速度(h-1)である。該パラメータは、SAS(1990)ソフトウエアパッケージを用いた非線形反復法(Marquardt法)で評価した。培養48時間における有効消失(EFFD、%)は想定した6%の画分流出割合に基づいて評価した。
【0062】
表5.ジャージー乳牛の第一胃で培養されたアルファルファーブロム乾草のDMのin situ消失(%)
2に対する乾草防腐剤
1の効果
【0063】
1PA=ピキア・アノマラ;CE=キチナーゼ活性保有酵素;BPA=プロピオン酸;CON=コントロール
【0064】
2同じ列内で異なる上付き文字を有する平均値は異なる(p<0.05)。
【0065】
3当てはめた式から計算したパラメータ:p=a+b[1-e-c(t-lag)]t>lag;pはt時間培養後のナイロンバッグからNDF消失の割合(%);aは急速に消失する画分(%);bはゆっくりと消失する画分(%);cは画分bの消失の画分速度(h-1)である。
【0066】
乾物のin sacco消失
【0067】
12、24、及び48時間目のDMの消失に対する前記防腐剤の効果について、動態を含めて表5に示した。DMの消失にラグタイムはなかった。微生物添加剤(ピキア・アノマラ)で処理した乾草サンプルは、コントロール及びプロピオン酸処理に比べて、全ての培養時間の時点(12、24及び48時間)で、高いDM消失を示した。48時間では、全ての添加剤(キチナーゼ活性保有酵素とプロピオン酸を含む)はコントロールより高かった。同様に、微生物添加剤(ピキア・アノマラ)で処理した乾草サンプルは、コントロール及びプロピオン酸処理に比べて、速度及び有効なDM消失は両方とも高かった。他の全ての処理に比べて、ピキア・アノマラで処理したベールからの乾草サンプルは最も速いDM消失の速度であった(0.114h-1)。最も低い速度である0.083h-1、0.087h-1はプロピオン酸処理とコントロール処理で認められた。全ての添加剤は、コントロールと同様の値であるキチナーゼ活性保有酵素を除き、潜在的に消化可能なDM画分を増加させた。にもかかわらず、ピキア・アノマラで処理したサンプルの有効なDM消失は、コントロール及びプロピオン酸処理に比べて、高かった。
【0068】
表6.ジャージー乳牛の第一胃で培養されたアルファルファーブロム乾草のNDFのin situ消失(%)
2に対する乾草防腐剤
1の効果
【0069】
1PA=ピキア・アノマラ;CE=キチナーゼ活性保有酵素;BPA=プロピオン酸;CON=コントロール
【0070】
2同じ列内で異なる上付き文字を有する平均値は異なる(p<0.05)。
【0071】
3当てはめた式から計算したパラメータ:p=a+b[1-e-c(t-lag)]for t>lag;pはt時間の培養後のナイロンバッグからNDF消失の割合(%);aは急速に消失する画分(%);bはゆっくりと消失する画分(%);cは画分bの消失の画分速度(h-1)である。
【0072】
NDF消失の割合、急速に消失する画分、ゆっくりと消失する画分の点では、処理間で違いはなかったが、有効な消失は他の全ての処理に比べてピキア・アノマラ処理した乾草で最も高かった。NDF消失の最も長いラグタイムはキチナーゼ活性保有酵素で処理した乾草で認められ(3.67時間)、最も短いラグタイムである1.89時間はピキア・アノマラ処理で認められた。しかし後者のラグタイムは他の処理のそれと異なっていなかった。12、24及び48時間後の総NDF消失は、キチナーゼ活性保有酵素の37.28%(最低)からピキア・アノマラ処理の41.06%(最高)の範囲であり、他の処理は中間の値であった。同様の傾向が24時間後の消失で認められた。48時間後のNDF消失は、他の全ての処理に比べてキチナーゼ活性保有酵素で最も低かった。
【0073】
DMのin sacco消失データは、コントロールに比べて、ピキア・アノマラが潜在的に消化しやすい画分、並びに画分速度及び乾草の有効な消失を増加することを示す。実際、ピキア・アノマラ処理乾草の有効消失の値はコントロール及びプロピオン酸処理に比べて優れていた。
【0074】
実施例2
【0075】
乾草、処理及び梱包条件
【0076】
乾草はアルファルファ乾草であり、Fort Macleod, Alberta, Canadaで2012年8月15日に刈り取った。該乾草は約24%と約30%の間の水分レベルになるよう予乾した。ベールの水分量は実施例1のようにして測定した。
【0077】
キチナーゼ活性保有酵素と組み合わせたピキア・アノマラの組み合わせの使用量は、それぞれ乾草1トン当たり1Lの水に1.5g、1011CFUとした。また、キチナーゼ活性保有酵素と組み合わせたペディオコッカス・ペントサセウスの組み合わせの使用量は、それぞれ乾草1トン当たり1Lの水に1.5g、1011CFUとした。プロピオン酸製品は、68%(vol/vol)プロピオン酸からなり、2.72L/トンの量でポジティブコントロールとして使用した。ネガティブコントロールは水であり、乾草1トン当たり1Lの割合で使用した。約800kgの5つの大きな丸いベールを同じ日に各処理に対して実施例1に従って作成した。全ての処理にわたってベールからコアサンプルを、梱包後、0、90及び180日目に収集し、栄養価、発酵生成物、微生物変化を解析した。
【0078】
梱包後、0、90及び180日目に収集したコアサンプルを微生物学的及び化学的解析に供した。段階希釈の適当なプレート上の微生物(全ての細菌、酵母及びカビ)を数え上げ、単離し、特徴付けをする微生物学的解析を行った。
【0079】
表7 梱包時に様々な乾草防腐剤で処理したアルファルファ乾草に対する微生物数
【0080】
各処理後の乾草の微生物学的分布は数値差を記録しても、総細菌、酵母及びカビに対し梱包で同様であった。梱包後90日では、コントロール及びプロピオン酸処理に比べると、ペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素で処理することにより総細菌数は減少し、一方、ピキア・アノマラと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素の処理は、低い細菌数となる傾向があった。酵母の数の減少は、コントロール及びプロピオン酸処理とは対照的に、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた2つの処理に対して報告された。カビの数は、プロピオン酸処理によりカビの数が減少する180日を除き前記処理により影響を受けなかった。
【0081】
化学的解析を行って、pH、DM、総窒素、アンモニア性窒素、NDF、ADF、酸性洗剤不溶酵素(ADIN)、水溶性炭水化物、揮発性脂肪酸(VFA)及び乳酸(LA)を測定した。
【0082】
表8 梱包時に乾草防腐剤で処理した後、0、90及び180日のアルファルファ乾草の化学組成
【0083】
ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素
【0084】
表9 梱包時に各種乾草防腐剤で処理したアルファルファ乾草の発酵生成物
【0085】
乾草の発酵プロセスは、この飼料材料が発酵しやすくないため、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理により強く影響されなかった。しかしながら、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理では90日後においてpHは低くなった。
【0086】
180日目にコアサンプルを収集し、in situ及びin vitro方法を用いて栄養価を評価した。
【0087】
in situ実験を行い、梱包後180日目に収集された乾草サンプルの消化の速度及び程度について乾草防腐剤の効果を評価した。ルーメン・カニューレを装着し、標準的なフィードロット・バックグラウンド飼料で育てられた3匹の乳牛を使用した。各処理ごとの各ベール(レプリカ)からの各配合サンプル約4gをDarconバッグに入れて重さを計り、サンプル3個を0、2、6、12、24、48、72、96及び120時間各乳牛で培養した。培養後にバッグを回収し、LRC SOPに従って第一胃におけるDM及びNDFのin situ消失を測定した。
【0088】
表11 梱包時に乾草防腐剤で処理したアルファルファ乾草のin situパラメータ
a=急速な分解性画分
b=遅い分解性画分
c=bが分解される速度(/h)
lag=ラグタイム(h)
【0089】
表11に示されたin situデータは、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理は、より消化しやすい乾草材料であることを表している。
【0090】
180日目の乾草サンプルのガス発生及び動態に対する微生物接種剤の効果を評価するためにin vitro実験も行った。ルーメン・カニューレを装着し、標準的なフィードロット・バックグラウンド飼料で育てられた3匹の乳牛の混合第一胃液による2回の作業を行った。処理当たり180日乾草の約0.5gの各配合サンプルをバイアルに入れて重さを計り、各作業に対し3個を培養し、3、6、9、12、24、及び48時間に対してガスを計測した。バイアルは培養後に回収し、LRC SOPに従って第一胃のDMのin vitro消失、ガス発生、アンモニア及びVFAを測定した。
【0091】
表12 梱包時に乾草防腐剤で処理したアルファルファ乾草のin vitro消化性
a=漸近的ガス発生(mLg
-1DM)
c=画分のガス発生速度発酵速度(mLh
-1)
lag=ラグタイム(h)
【0092】
180日目の乾草のin vitro消化性及び発酵性によって、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理に対し、増大した消化性のin situ結果が立証された。
【0093】
温度安定性
【0094】
刈り取り直後の各ベールの内部に挿入された3つのDallas Thermochron iButtons(Embedded Data Systems, Lawrenceburg, KY)で、貯蔵期間中、内部温度を連続的に測定してモニターした(画面に表示)。該温度は4時間の間隔で10週間記録した。
【0095】
図2に示すように、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理は、梱包後60日の期間にわたって低減された平均温度を示した。プロピオン酸処理は期間を通じて最も高い平均を温度であった。
【0096】
図3に示すように、効果は特に顕著である。
図3は、各処理に対し、40℃以上の時間を表している。この温度はADIN損傷に対する閾値として広く認識されているため、乾草ベールの内部温度の度合を表している。プロピオン酸処理は40℃以上について最も長い時間であった。ペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理は40℃以上について最も短い時間であり、その次はピキア・アノマラと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理であり、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素を用いた処理は、いずれもコントロールより40℃以上の時間が少なかった。
【0097】
結論として、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスとキチナーゼ活性保有酵素の組み合わせは、貯蔵期間において、コントロール及びプロピオン酸に比べて、乾草ベールの内部温度、pH、総細菌数を低減させた。また該組み合わせはin situ乾物減量(DMD)と消化速度、並びに、in vitro DMD及びガス生成の速度を増加させた。このことは、これら2つの処理において、NDFとADF含量が少ないことから説明することができる。
【0098】
実施例3
【0099】
この実施例は、キチナーゼ活性保有酵素は、少なくとも1種類のキチナーゼ活性保有酵素をピキア属の酵母又はペディオコッカス属の細菌と組み合わせた場合に、その防腐効果及び高水分乾草における熱損傷を防止及び/又は減少させる能力の点から更にもっと増大することを示している。該乾草は刈り取って、野外で予乾して実施例2に示す水分レベルとした。
【0100】
ピキア・アノマラと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素の組み合わせは、乾草1トン当たり、1Lの水にそれぞれ1011CFU、及び1.5gを使用した。
ペディオコッカス・ペントサセウスと組み合わせたキチナーゼ活性保有酵素の組み合わせは、乾草1トン当たり、1Lの水に1011CFU、及び1.5gを使用した。ピキア・アノマラ単独については乾草1トン当たり、1Lに1011CFU使用した。ペディオコッカス・ペントサセウス単独については乾草1トン当たり、1Lに1011CFU使用した。キチナーゼ活性保有酵素単独については、乾草1トン当たり1.5g(1Lの水に懸濁)の割合で使用した。プロピオン酸製品は
68%(vol/vol)プロピオン酸からなり、2.72L/トンの量でポジティブコントロールとして使用した。ネガティブコントロールは水であり、乾草1トン当たり1Lの割合で使用した。約800kgの5つの大きな丸いベールを同じ日に各処理に対して実施例1に従って作成した。
【0101】
実施例2に示すように、刈り取り直後の各ベールの内部に挿入された3つ(3)のDallas Thermochron iButtons(Embedded Data Systems, Lawrenceburg, KY)で、貯蔵期間中、内部温度を連続的に測定してモニターした(画面に表示)。該温度は、4時間の間隔で10週間記録した。
図4に示すように、ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウスとキチナーゼ活性保有酵素を組み合わせると、高水分乾草の温度低下は、該組み合わせの各要素を使用した場合に比べて、該組み合わせにより驚くほどに顕著に増大した。
【0102】
実施例4
【0103】
試験の目的
【0104】
この試験は、厳しい刈り入れ状況(最適よりも高い湿度)の下で作成されたベールの熱を低減させる乾草添加剤に対する概念実証の例を拡大するものである。これは実験室スケールモデルを使用した同様の試験に従っている。該試験は、2種類の微生物(ピキア・アノマラ又はペディオコッカス・ペントサセウス)と2種類の酵素(純粋なキチナーゼ、又はペクチンリアーゼ、グルカナーゼ及びキチナーゼ活性を有する市販の酵素)の異なる組み合わせを使用して接種した小さな四角のベール(~25kg、79.9% DM)の温度分布を観察する。
【0105】
方法
【0106】
前記試験は、アラファルファ-グラスミックス(45:55)であって、刈り入れ時に平均重量25.0kgである小さな四角のベールに対して行った。該ベールの平均水分レベルは79.9%DMで、予想された乾物レベルの範囲内(80~83% DM)であった。該ベールは、Dorhmann inoculant applicatorにより、ベーラーの切断チャンバーの前で飼料にスプレーし各種処理で接種した。実験計画により、コントロール及び4種類の異なる微生物添加剤(なし、ピキア・アノマラ+キチナーゼ、ピキア・アノマラ+混合酵素、ペディオコッカス・ペントサセウス+キチナーゼ、ペディオコッカス・ペントサセウス+混合酵素)である混合添加剤を使用した。
【0107】
各処理に対し、6つの四角いベールは2つのベールからなる3つのブロックにてスプレーした。該ベールを貯蔵庫に移動させ、重量を測定し、他のベールと接触しないように、所定の完全なランダムパターンにて、パレット上に配置した。各ベールにその幾何学的中心に温度プローブを備え付けた。該ベールを100日間貯蔵した。
【0108】
結果
【0109】
一般に、ピキア・アノマラを接種した処理(表13の#2及び3)は、ベールの熱発生を遅延させる効果を示したが、ピキア・アノマラとキチナーゼの混合(#3)は顕著に熱発生及びベール温度が周囲温度より5℃及び10℃以上となる 時間を遅延させた。またこの処理は、培養400時間から600時間の間のフェイズで温度が低くなったことを示した。ピキア・アノマラ株との酵素混合物は数字状の改善となったが、該改善はキチナーゼ混合物に比べて低かった。
【0110】
ペディオコッカス・ペントサセウス混合物(#4及び5)により、ベールの熱発生が開始する前の期間が長くなった。両方の酵素タイプの使用は、周囲温度より10℃以上になる時間の低減に関して同等の恩恵を与えた(表13)。
【0111】
表13.処理の記述及び温度分布に関連した時間に関するデータ
【0112】
本発明はその特定の態様との関連で記載されたが、更なる改変が可能であり、この記載は、一般的に本発明の原理に従い、また、本発明の記載から、本発明が関係する当業者にとって周知又は慣用の実務内にある本発明のあらゆる変更、使用又は適応を含み、前述した、及び添付した請求項の範囲の必須の特徴に適用されると理解される。