(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/20 20180101AFI20230228BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20230228BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230228BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C09J7/20
C09J183/04
B32B27/00 M
B32B27/00 101
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2018000209
(22)【出願日】2018-01-04
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 好映
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 愛三
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0067571(KR,A)
【文献】特開2000-225184(JP,A)
【文献】特表平09-509198(JP,A)
【文献】特表2017-525803(JP,A)
【文献】特表2015-500734(JP,A)
【文献】特開2016-222778(JP,A)
【文献】特表平06-501506(JP,A)
【文献】特開平06-329748(JP,A)
【文献】特開2012-017166(JP,A)
【文献】特開2015-083700(JP,A)
【文献】特開2016-090675(JP,A)
【文献】特開平6-287533(JP,A)
【文献】特表平4-506485(JP,A)
【文献】DATTA Janusz,外2名,Synthesis, structure and properties of poly(ether-urethane)s synthesized using a trifunctional oxypropylated glycerol as a polyol,Journal of Thermal Analysis and Calorimetry,NL,2017年04月,Vol.128 No.1,Page.155-167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/20
C09J 183/04
B32B 27/00
B32B 27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を有する基材と、該ウレタンポリマー成分と接するように積層されたシリコーン粘着剤層と、を備える粘着シートであって、
前記ウレタンポリマーは、鎖延長剤由来のハードセグメントとポリオキシアルキレンポリオール由来のソフトセグメントを有
し、前記鎖延長剤は、活性水素基を2つ有する炭素数1~6の有機化合物である、粘着シート。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレンポリオールは、アルキレン部分の炭素数が2~6のポリオキシアルキレンジオールである、請求項
1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記ウレタンポリマー成分は、前記基材上に層を形成している、請求項1
又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記ウレタンポリマー成分は、前記基材の表面及び内部に存在する、請求項1
又は2に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記基材は、布帛である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記シリコーン粘着剤は、架橋したシリコーン粘着剤である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートを構成する粘着剤としては、アクリル系、シリコーン系、天然ゴム系など多くの種類が知られている。粘着剤は架橋して用いられることもあり、架橋方法の一つとして、電子線架橋等の放射線架橋が用いられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/096535号
【文献】国際公開第2010/056544号
【文献】国際公開第2012/091167号
【文献】欧州特許第1458833号明細書
【文献】特開2011-219549号公報
【文献】特表2015-500734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着シートは巻き取った形態、すなわち粘着テープとして提供されることも多く、このような場合は粘着シートを巻き出すときに、粘着剤層が基材から離れ、隣接していたテープ背面上に残留することがある。また、皮膚等の被着体に一時的に貼り付けてその後剥離するような場合、剥離時に基材と粘着剤層が分離し、粘着剤層のみが被着体に残ることがある。
【0005】
本発明の課題は、投錨性(アンカー効果)が高く、実用途において、巻き出しや再剥離の際に基材と粘着剤層の分離が実質的に生じない粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を有する基材と、該ウレタンポリマー成分と接するように積層されたシリコーン粘着剤層と、を備える粘着シートであって、ウレタンポリマーは、鎖延長剤由来のハードセグメントとポリオキシアルキレンポリオール由来のソフトセグメントを有する、粘着シートを提供する。
【0007】
上記粘着シートは、シリコーン粘着剤と基材との密着性、すなわち投錨性(アンカー効果)が高く、実用途において、巻き出しや再剥離の際に基材と粘着剤層の分離が実質的に生じない。なお、投錨性を向上させるために従来用いられているプライマーでは、べたつきが生じる場合があるが、本粘着シートではそのような現象は観察されない。
【0008】
鎖延長剤は、活性水素基を2つ有する炭素数1~6の有機化合物であってもよく、ポリオキシアルキレンポリオールは、アルキレン部分の炭素数が2~6のポリオキシアルキレンジオールであってもよい。このような構成を有することで、投錨性がさらに優れるようになる。鎖延長剤及びポリオキシアルキレンポリオールは、直鎖状でも分岐状でもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0009】
なお、ウレタンポリマー成分は、基材上に層を形成していても、基材の表面及び内部に存在していてもよい。基材としては布帛が有用であり、シリコーン粘着剤は、架橋したシリコーン粘着剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投錨性(アンカー効果)が高く、巻き出しや再剥離の際に基材と粘着剤層の分離が生じない粘着シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係る粘着シートは、少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を有する基材と、該ウレタンポリマー成分と接するように積層されたシリコーン粘着剤層と、を備えている。粘着シートはシート状の形状を有していればよく、テープ形状の粘着シート、すなわち粘着テープも粘着シートに含まれる。なお、粘着テープは巻き取った形状で提供されてもよい。
【0013】
粘着シートにおいては、ウレタンポリマー成分は、基材の少なくとも表面の一部に形成されていればよいため、基材が例えばフィルムである場合は、(a)基材の全面にウレタンポリマー成分からなる層が形成されている形態、(b)基材の一部の面上にウレタンポリマー成分からなる層が形成されている形態、(c)フィルム状基材を構成する素材にウレタンポリマーが含まれておりそれが表面の一部又は全部に露出している形態等が含まれる。
【0014】
基材が布帛である場合(なお、布帛の意義は後述する。)、(d)布帛の全面をウレタンポリマー成分からなる層が被覆している形態、(e)布帛の一部をウレタンポリマー成分からなる層が被覆している形態、(f)繊維の表面の一部又は全部にウレタンポリマー成分からなる層が形成されておりその繊維から布帛が形成されている形態、(g)複数の繊維の少なくとも一部がウレタンポリマーからなっておりその繊維から布帛が形成されている形態等が含まれる。なお、布帛においては、繊維間の空隙が全てウレタンポリマーで埋められている場合と、繊維間の空隙の一部がウレタンポリマーで埋められている場合、繊維間の空隙がウレタンポリマーで埋められていない場合があり得る。
【0015】
上記形態のうち(a)、(b)、(d)及び(e)は、ウレタンポリマー成分が基材上に層を形成している態様に相当し、(c)、(f)及び(g)は、ウレタンポリマー成分が、基材の表面及び内部に存在する態様に相当する。
【0016】
基材の表面の少なくとも一部に存在する成分であるウレタンポリマーは、イソシアネート基と水酸基の反応に基づくウレタン結合を有するポリマーであり、ウレタン結合以外にイソシアネート基とアミノ基又は水との反応に基づく尿素結合や、イソシアネート基とカルボキシ基の反応に基づくアミド結合を有していてもよい。更には、イソシアネートとウレタン結合の反応に基づくアロファネート基、イソシアネート基と尿素結合の反応に基づくビウレット基を有していてもよい。
【0017】
このウレタンポリマーは、鎖延長剤由来のハードセグメントとポリオキシアルキレンポリオール由来のソフトセグメントを有している。
【0018】
本発明者らの知見によれば、ソフトセグメントはアンカー効果を発揮するものの、べたつきの問題を解決することができないが、ポリオキシアルキレンポリオール由来のソフトセグメントを、特定のハードセグメント(鎖延長剤由来のハードセグメント)と組み合わせることにより、アンカー効果は維持したままで、べたつきの問題を解消することができる。特に、基材への塗布・適用直後すぐに巻き取ってもべたつきの問題が生じない。更に、基材表面全体にウレタンポリマー成分を乾燥状態で存在させることができるため、基材として布帛等を用いた場合には、基材表面にウレタンポリマー成分を効果的に固定できるようになる。一方、特定のハードセグメント有しないウレタンポリマー成分では、基材へ塗布・適用して乾燥させてもべたつきが生じ、特に乾燥直後のべたつきの問題を解消することが困難である。
【0019】
ハードセグメントを形成する成分である鎖延長剤としては、(i)イソシアネートと反応性の短鎖(炭素数が1~6程度)の活性水素含有化合物、(ii)この活性水素含有化合物とポリイソシアネートとの反応物(末端はイソシアネート基でも活性水素基でもよい)が挙げられる。
【0020】
(i)としては、活性水素基を2つ有する炭素数1~6の有機化合物が挙げられ、このような化合物としては、炭素数1~6のジオール、炭素数1~6のジアミン、炭素数1~6のジカルボン酸が含まれる。具体例としては、エチレングリコール(エタンジオール)、プロピレングリコール(プロパンジオール)、ブチレングリコール(ブタンジオール)、ネオペンチルグリコール、エチレンジアミン(エタンジアミン)、プロピレンジアミン(プロパンジアミン)、ブチレンジアミン(ブタンジアミン)、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸が例示される。
【0021】
鎖延長剤である(i)の化合物に由来するハードセグメントは、(i)の化合物とポリイソシアネートが反応したウレタン結合を含む骨格が相当し、鎖延長剤として(ii)の化合物を用いたときは、(ii)の化合物の構造自体がハードセグメントとして機能する。
【0022】
(ii)としては、活性水素基を2つ有する炭素数1~6の有機化合物とジイソシアネートの反応物が挙げられる。両化合物の当量比を変化させることで末端の官能基をイソシアネート基及び/又は活性水素基にすることができる。このような化合物としては、活性水素基を2つ有する炭素数1~6の有機化合物に対するジイソシアネート2分子付加物が挙げられる。例えば、エチレングリコール1モルとジイソシアネート2モルの反応物、ブチレングリコール1モルとジイソシアネート2モルの反応物、エチレンジアミン1モルとジイソシアネート2モルの反応物等がある。このような化合物は、活性水素基1当量に対してイソシアネート2当量が反応したものであるため、末端基は通常イソシアネート基である。また、イソシアネート1当量に対して活性水素基1当量以上を反応させて、末端に活性水素基を導入してもよい。
【0023】
ソフトセグメントを形成する成分であるポリオキシアルキレンポリオールとしては、アルキレン部分の炭素数が1~6、好ましくは2~4のポリオキシアルキレンポリオールが挙げられる。ソフトセグメントとしての機能を高める観点から、ポリオキシアルキレンポリオールの分子量は100~10000であることが好ましく、500~5000がより好ましい。ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシアルキレンジオールが適用でき、アルキレン部分の炭素数が2~6のポリオキシアルキレンジオールが好ましい。このような化合物としては、ポリオキシエチレングリコール(ポリエチレングリコール)、ポリオキシプロピレングリコール(ポリプロピレングリコール)、ポリオキシテトラメチレングリコール(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)が挙げられる。
【0024】
ウレタンポリマーは、鎖延長剤、ポリオキシアルキレンポリオール及びポリイソシアネートから得られるポリマーであるが、ポリオキシアルキレンポリオール以外のポリオール(例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール)を用いてもよい。鎖延長剤、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリイソシアネート、ポリオキシアルキレンポリオール以外のポリオールは、それぞれ、1種のみ用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
鎖延長剤として(i)の化合物を用いてウレタンポリマーを得る場合は、ポリオキシアルキレンポリオール、必要により添加されるその他のポリオール及びポリイソシアネートでウレタンプレポリマーを作製しておき、これと(i)の化合物を反応させる方法が有用である。一方、鎖延長剤として(ii)の化合物を用いてウレタンポリマーを得る場合は、ポリオキシアルキレンポリオール、必要により添加されるその他のポリオール、必要により添加されるポリイソシアネート及び(ii)の化合物を混合して反応させる方法が採用できる。なお、必要な物性や反応性に応じて、イソシアネートの当量数と活性水素の当量数とを決定すればよく、ウレタンポリマーに末端イソシアネート基が残らないようにするため、活性水素の当量数をイソシアネートの当量数よりも大きくすることが好ましい。
【0026】
ウレタンポリマーは、有機溶剤を用いて合成される溶剤系ウレタンポリマー、無溶剤で合成される無溶剤系ウレタンポリマー、水を媒体として合成される水系ウレタンポリマーのいずれであってもよい。基材に塗布してその表面の一部にウレタンポリマー成分を設ける場合は、溶剤系ウレタンポリマー又は水系ウレタンポリマーを使用できる。また、基材として布帛等を用いる場合、溶剤系ウレタンポリマー又は水系ウレタンポリマーのいずれも有用である。
【0027】
水系ウレタンポリマーは、(1)強制乳化型、(2)自己乳化型、(3)水溶性型のいずれのタイプであってもよい。また、エマルジョン(粒径は一般的に1μm以上)、コロイド(粒径は一般的に1~100nm)、水溶液(粒径は一般的に1nm以下)のいずれの形態であってもよい。
【0028】
(1)強制乳化型は、(1a)ポリウレタン溶液(溶液重合したポリウレタンや無溶剤合成したポリウレタンの有機溶剤溶液)を水分散した後、溶剤を除去する方法、(1b)イソシアネートプレポリマーを乳化剤で水分散させ鎖延長剤で鎖伸長する方法等で製造される水系ポリウレタンである。(2)自己乳化型は、(2a)イオン基を導入したポリウレタンを水分散する方法(アセトンなどの溶剤で高分子量化し水分散後に溶剤を除去してもよい)、(2b)イオン基を導入したイソシアネートプレポリマーを水分散させ鎖延長剤で鎖伸長する方法等で製造される水系ポリウレタンである。(3)水溶性型は、水溶性の高いポリオールとウレタン化の後も水への溶解性を高く保つことのできるポリイソシアネートとを反応させる方法等で製造される水系ウレタンポリマーである。
【0029】
表面にウレタンポリマー成分を有する基材は、上述のようにフィルム又は布帛であり得るが、これらに限定されない。なお、布帛とは、複数の繊維を用いて薄く板状に成形したものを意味し、製造法に従って、織物、編物、レース、フェルト、不織布、紙に分類される。粘着シートは各種被着体に貼付して用いられるが、粘着シートを皮膚に貼付する場合は、粘着シートが皮膚の動きに追随することが求められ、通気性、透湿性も必要である。したがって、このような用途に使用する場合は、基材として布帛を用いることが好適である。基材として布帛等を用いた場合は、基材表面にウレタンポリマー成分を効果的に固定することも可能となる。なお、特定の不織布等を基材として用いると、粘着シートに手切れ性という特性を付与することもできる。
【0030】
織物は、経糸と緯糸を交差させて得られる生地、編物は、1又は数本の糸でループを作りそのループに次の糸を掛けて新しいループを作ることで得られる編地を意味する。レースは、1又は数本の糸ですかし模様の布状にしたものをいい、フェルトは、獣毛繊維等を薄く板状に圧縮したシートを意味する。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたシートである(紙、フェルト、編物を除く)。不織布には、短繊維(すなわちステープル)で構成される不織布(短繊維不織布)、及び長繊維(すなわちフィラメント)で構成される不織布(長繊維不織布)が含まれる。短繊維不織布としては、一般的に、カーデッド不織布、エアレイド不織布、湿式不織布等が挙げられる。長繊維不織布としては、一般的に、スパンボンド不織布、スパンレース不織布等が挙げられる。短繊維不織布及び長繊維不織布における繊維間結合としては、熱、接着樹脂、及び紙等における繊維間結合と同じ繊維間水素結合等が挙げられる。なお、ステープルは、これに限定されないが、一般的には数百mm以下の繊維長を有している。
【0031】
基材がフィルムである場合は、厚さが12~250μmのものが好ましく、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。基材が布帛である場合は、坪量が10~300g/m2のものが好ましい。なお基材はコロナ処理が施されたものであってもよい。
【0032】
基材の少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を形成させるためには、塗布、スプレー、溶融押出キャストなどの方法でウレタンポリマー(有機溶剤溶液、水溶液、水分散物、溶融物のいずれであってもよい。)を基材上に適用すればよい。また、ウレタンポリマーの有機溶剤溶液、水溶液、水分散物又は溶融物に、基材を浸漬してもよい。なお、基材そのものがウレタンポリマーを含有する場合は、基材を構成するポリマー等とウレタンポリマーを混合して基材を製造すればよい。ウレタンポリマーが熱可塑性ポリウレタンの場合、熱可塑性ポリウレタンを溶融押出キャストすることで、基材の少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を形成させることができる。
【0033】
基材としては、上述のように不織布を用いることができるが、基材が不織布の場合は上述の方法に加えて、以下に述べるような方法により、基材の少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を形成させることができる。
【0034】
不織布は、エクストルーダ、溶融した熱可塑性材料の押し出しチャンバ、溶融した熱可塑性材料が押し出されるダイオリフィス及びガス(加熱空気等)が高速で噴射されるガスオリフィスを有するメルトブローンダイを備えるメルトブローン装置を使用して製造することができる。この場合において、溶融した樹脂をメルトブローンダイから押し出してメルトブローン繊維を形成させ、このメルトブローン繊維を回転するドラムに吹き付けて、ドラム表面に繊維を集積させることで不織布を得る。
【0035】
この場合において、メルトブローンダイを複数用い、そのうちの一つからウレタンポリマーを押し出してウレタンポリマー繊維を形成させ、他の繊維と交絡させることで、基材の少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を形成させることができる。また、芯鞘構造の繊維を形成することのできるメルトブローンダイを用い、鞘をウレタンポリマー成分となるようにしてもよい。
【0036】
上述した方法で、少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を有する基材が得られるが、このウレタンポリマー成分と接するようにシリコーン粘着剤を積層してシリコーン粘着剤層とし、目的とする粘着シートを得ることができる。
【0037】
シリコーン粘着剤は、ポリオルガノシロキサン骨格を有する成分を含有する粘着剤であり、ポリオルガノシロキサン骨格を有する成分としては、未変性シリコーン(ストレートシリコーン)、変性シリコーン及びこれらの組み合わせを用いることができる。
【0038】
ここで、未変性シリコーンはジメチルシリコーン(ポリシロキサンの側鎖及び末端が全てメチル基であるシリコーン)をいい、変性シリコーンはメチル基の少なくとも一部が他の基又は原子に置換したものをいうものとする。他の基又は原子としては、反応性のもの(反応性基)と非反応性のもの(非反応性基)に分類され、非反応性基を有する変性シリコーンとしてはメチルフェニルシリコーン(ジメチルシリコーンの側鎖の一部がフェニル基となったもの)が、反応性の原子を有する変性シリコーンとしてはメチルハイドロジェンシリコーン(ジメチルシリコーンの側鎖の一部が水素原子となったもの)が、例示できる。
【0039】
変性シリコーンは、側鎖及び/又は末端にメチル基以外の基又は原子を有することができる。このうち反応性基としては、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、ポリエーテル基、メルカプト基、カルボキシ基、フェノール基、水酸基、反応性の原子としては上述した水素原子(ハイドロジェン変性)が挙げられる。非反応性基としては、上述したフェニル基、長鎖アルキル基、アラルキル基が挙げられる。
【0040】
保持力や粘着力を考慮すると、シリコーン粘着剤は架橋したシリコーン粘着剤であることが好ましい。この場合、ポリオルガノシロキサン骨格を有する成分として架橋構造を有するものを使用する。例えば、第1の反応性基を有する変性シリコーンと第2の反応性基を有するシリコーンを使用し、第1及び第2の反応性基を化学結合させることで、架橋構造を導入することができる。この例としては、側鎖及び/又は末端に水素原子を有するシリコーンと、側鎖及び/又は末端にビニル基を有するシリコーンとをヒドロシリル化反応により結合させる場合が挙げられる。このように反応性基を用いて架橋構造を導入する場合は、反応触媒を使用してもよい。
【0041】
架橋構造は、放射線架橋によっても導入可能である。放射線架橋としては、電子線架橋、γ線架橋等が挙げられる。放射線架橋による場合、シリコーンが反応性基を有している必要はなく、また架橋のための反応触媒も不要である。
【0042】
シリコーン粘着剤の粘着性を高めるために、シリケート粘着付与剤を含有させてもよい。シリケート粘着付与剤としては、M単位(1価のR3SiO1/2単位)、D単位(2価のR2SiO2/2単位)、T単位(3価のRSiO3/2単位)及びQ単位(4価のSiO4/2単位)のうちの少なくとも一つから構成されるものが有用である。なおRはアルキル基又はアリール基であり、メチル基が好ましい。
【0043】
シリケート粘着付与剤として特に好ましいのは、M単位とQ単位とからなるMQレジン、M単位、Q単位及びD単位からなるMQDレジン、M単位、Q単位及びT単位からなるMQTレジンである。シリケート粘着付与剤の数平均分子量は、典型的には100~50000である。
【0044】
シリコーン粘着剤には、シリケート粘着付与剤の他、分子量の異なるシリコーン(オイル、フルイド、ガム、エラストマー等)や安定剤、酸化防止剤、フィラー等が含まれていてもよい。
【0045】
粘着シートは、上述した方法で少なくとも表面の一部にウレタンポリマー成分を有する基材を作製し、ウレタンポリマー成分と接するようにシリコーン粘着剤を塗布し、必要により溶媒などを揮発させ、シリコーン粘着剤のタイプに従って、架橋を行わないか、放射線架橋又は化学的架橋を行うことで製造できる。なお、シリコーン粘着剤層の厚さは10~1000μmが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を示しながら、本発明を更に詳細に説明する。
【0047】
以下のウレタンポリマー1~4及びポリマー1~4を準備した。ウレタンポリマー1~4は、鎖延長剤由来のハードセグメントとポリオキシアルキレンポリオール由来のソフトセグメントを有するウレタンポリマーである。ウレタンポリマー1~4において、鎖延長剤は、短鎖ジオールである。
ウレタンポリマー1:ハイドランWLI602(DIC株式会社製)
ウレタンポリマー2:ハイドランWLS202(DIC株式会社製)
ウレタンポリマー3:レザミンD2040(大日精化工業株式会社製)
ウレタンポリマー4:クリスボンASPU-112(DIC株式会社製)
ポリマー1:PTMG2000(ポリテトラメチレンエーテルグリコール、M.w.:2000、三菱ケミカル株式会社)
ポリマー2:PTMG3000(ポリテトラメチレンエーテルグリコール、M.w.:3000、三菱ケミカル株式会社)
ポリマー3:バイロン630(非晶性ポリエステル樹脂、東洋紡株式会社製)
ポリマー4:バイロンUR-8700(ポリエステルウレタン樹脂、東洋紡株式会社製)
【0048】
後述する基材への塗布には、水又は溶剤によって不揮発分濃度が調整された、ウレタンポリマー1~4及びポリマー1~4のいずれかを含む液を用いた。
【0049】
<粘着シートの調製>
(実施例1)
不揮発分濃度5質量%に調整されたウレタンポリマー1を含む液を、ワイヤーバーNo.10を用いてポリエステル/レーヨン不織布基材(3M社製)上に均一に塗布した。塗布後の基材を95℃のオーブン内で完全に乾燥させ、少なくとも表面の一部に上記ポリマー成分を有する基材を得た。
【0050】
上記ポリマー成分を有する基材に対し、後述する方法で調製したシリコーン系粘着剤組成物を50g/m2の量で均一に塗布した。シリコーン系粘着剤組成物が塗布された、上記ポリマー成分を有する基材に電子線照射を行い、その後粘着面をフルオロシリコーンライナー(商品名:K1U、株式会社フジコー製)で覆い実施例1の粘着シートを作製した。なお、電子線照射の条件は電子線発生装置(PCT, Davenport, IA)を用い4.0Mrad(210keV)の条件にて実施した。
【0051】
シリコーン系粘着剤組成物は、以下の方法により調製した。すなわち、ポリジメチルシロキサン(商品名:TSF451 AK 1000,000cs、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)とMQ樹脂(商品名:MQ803TF,Wacker Chemie AG社製)を重量比(ポリジメチルシロキサン/MQ樹脂)77/23で混合し、シリコーン系粘着剤組成物を調製した。
【0052】
(実施例2)
不揮発分濃度10質量%に調整されたウレタンポリマー1を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の粘着シートを作製した。
【0053】
(実施例3)
不揮発分濃度40質量%に調整されたウレタンポリマー1を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の粘着シートを作製した。
【0054】
(実施例4)
不揮発分濃度10質量%に調整されたウレタンポリマー2を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の粘着シートを作製した。
【0055】
(実施例5)
不揮発分濃度10質量%に調整されたウレタンポリマー3を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の粘着シートを作製した。
【0056】
(実施例6)
不揮発分濃度10質量%に調整されたウレタンポリマー4を含む液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の粘着シートを作製した。
【0057】
(比較例1)
ウレタンポリマー1を含む液を塗布せず、基材そのものを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の粘着シートを作製した。
【0058】
(比較例2)
イソプロパノール(IPA)を用いて不揮発分濃度40質量%に調整されたポリマー1を含む液12.7gを25×50cmのポリエステル/レーヨン不織布基材に対して均一に塗布し、65℃のオーブン内で完全に乾燥させた(約10g/m2(SQM))。塗布後の基材を95℃のオーブン内で完全に乾燥させ、少なくとも表面の一部に上記ポリマー成分を有する基材を得た。得られた基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の粘着シートを作製した。
【0059】
(比較例3)
ポリマー2を使用したこと以外は、比較例2と同様にして、比較例3の粘着シートを作製した。
【0060】
(比較例4)
不揮発分濃度2質量%に調整されたポリマー3を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の粘着シートを作製した。
【0061】
(比較例5)
不揮発分濃度2質量%に調整されたポリマー4を含む液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の粘着シートを作製した。
【0062】
(実施例7)
基材としてポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、実施例7の粘着シートを作製した。
【0063】
(実施例8)
基材としてポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを用いたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例8の粘着シートを作製した。
【0064】
(比較例6)
基材としてポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例6の粘着シートを作製した。
【0065】
(実施例9)
基材として軟質ポリ塩化ビニル(軟質塩ビ)フィルムを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例9の粘着シートを作製した。
【0066】
(比較例7)
基材として軟質ポリ塩化ビニル(軟質塩ビ)フィルムを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例7の粘着シートを作製した。
【0067】
<投錨性(界面接着力)評価>
投錨性は、粘着剤と基材の界面接着力を測定することにより評価した。まず、実施例又は比較例の粘着シートを25mm×70mmに切り、末端25mm×5-10mm程度の粘着面を内側に折りタブを作成した。次いで、シリコーン系テープ(No.8510、3M社製)の粘着面と、実施例又は比較例の粘着シートの粘着面を貼りあわせ、2kgのローラーで5mm/秒の速度で圧着させた。粘着シートの基材側を両面テープなどで平らな面に固定し、シリコーン系テープを180°の角度、300mm/分の速度にて剥がしたときの応力(界面接着力)を測定、記録した。
図1は、比較例1の粘着シートの界面接着力を100%とした場合の各実施例及び比較例の界面接着力の結果を示す。
図2は、比較例6又は7の粘着シートの界面接着力を100%とした場合の各実施例の界面接着力の結果を示す。
【0068】
図1に示すとおり、基材が不織布である場合、実施例1~6の粘着性シートは、投錨性(界面接着力)に優れていた(比較例1~5との比較)。また、基材が不織布である場合と同様、PET又は軟質ポリ塩化ビニルを用いた場合であっても、実施例の粘着シートが投錨性に優れていることが示された。
【0069】
<べたつきの評価>
基材として、マット表面を有するポリエチレンテトラフタレート(PET)フィルム(ユニチカ株式会社製ポリエステルフィルムエンブレットS-38)を用いたこと以外は、実施例1~6及び比較例2~5と同様にして、それぞれ実験例1~6及び比較実験例2~5の少なくとも表面の一部にポリマー成分を有する基材を得た。なお、べたつきの評価では、上記ウレタンポリマー又は上記ポリマー(ポリマー成分)を含む液をPETフィルムのマット表面に対して塗布した。
【0070】
オーブンからポリマー成分を有する基材を取り出した直後に、ポリマー成分が塗布された面を上にし、その上に未処理PETフィルムを重ねて圧着(条件:2kgローラー,50mm/sにて一往復)した。圧着後、手ですばやく未処理PETフィルムを基材フィルムから剥がし、ポリマー成分が未処理PETフィルムに転写していないかを確認した。
【0071】
ポリマー成分が未処理PETフィルムに転写されなかった場合を「○」、転写された場合を「×」とした。結果を表1及び2に示す。
【0072】
【0073】