(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】熱交換器における二重管の接合方法
(51)【国際特許分類】
F28D 7/10 20060101AFI20230228BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20230228BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20230228BHJP
B23K 33/00 20060101ALI20230228BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20230228BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20230228BHJP
B23K 101/06 20060101ALN20230228BHJP
B23K 101/14 20060101ALN20230228BHJP
【FI】
F28D7/10 A
F28F21/08 A
B23K1/00 330A
B23K33/00 310A
B23K31/02 310B
B23K1/19 G
B23K101:06
B23K101:14
(21)【出願番号】P 2018112133
(22)【出願日】2018-06-12
【審査請求日】2021-05-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】510132510
【氏名又は名称】株式会社UACJ押出加工
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(72)【発明者】
【氏名】土公 武宜
(72)【発明者】
【氏名】山下 尚希
(72)【発明者】
【氏名】吉野 誠
(72)【発明者】
【氏名】小野 潤一
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 亮太
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0150640(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0224561(US,A1)
【文献】特開2008-032296(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011008119(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0279691(US,A1)
【文献】特開平10-038491(JP,A)
【文献】特開2009-162395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 7/10
F28F 21/08
B23K 1/00
B23K 33/00
B23K 31/02
B23K 1/19
B23K 101:06
B23K 101:14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製の外管及び内管からなる二重管を備えており、前記内管と前記外管との間を流れる流体と前記内管の内部を流れる流体との間での熱交換を行う熱交換器に適用され、前記外管と前記内管とをろう付によって接合するようにした熱交換器における二重管の接合方法であって、
前記外管と前記内管とのうちの少なくとも一方には、もう一方に向けて前記外管及び前記内管の径方向に突出する凸部を、前記外管及び前記内管の長手方向に延びるように、且つ前記外管及び前記内管の中心線周りに螺旋状にねじれるように、厚さ方向についての屈曲を通じて形成し、その凸部
に形成された突起の幅方向両側及び前記凸部における前記突起と繋がる部分にろう材粉末を含むろう付組成物を塗布することによって前記ろう付組成物をろう材として配置し、そのろう材を用いて前記凸部での前記外管と前記内管との前記ろう付を行うようにしたことを特徴とする熱交換器における二重管の接合方法。
【請求項2】
前記外管と前記内管とのろう付は、前記凸部において、その凸部の延びる方向に連続的に行われる請求項1に記載の熱交換器における二重管の接合方法。
【請求項3】
前記外管と前記内管とのろう付は、前記凸部において、その凸部の延びる方向に断続的に行われる請求項1に記載の熱交換器における二重管の接合方法。
【請求項4】
前記凸部は、前記外管及び前記内管の周方向に間隔をおいて複数形成され、
前記外管と前記内管とのろう付は、複数の前記凸部のうちの少なくとも一つで行われる請求項1~3のいずれか一項に記載の熱交換器における二重管の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器における二重管の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、同車両の所定箇所を冷却したり加熱したりする流体が循環回路を循環しており、そうした循環回路中に流体同士の熱交換を行うための熱交換器が設けられる場合がある。上記熱交換器としては、アルミニウム合金製の外管及び内管からなる二重管を備えており、それら内管と外管との間を流れる流体と同内管の内部を流れる流体との間で熱交換を行うものが知られている。
【0003】
また、上述したように二重管を備える熱交換器において、特許文献1に示されるように、周方向に複数の凹凸が並ぶ円環状のインナーフィンを外管と内管との間に挿入し、インナーフィンを外管の内周と内管の外周とに対しそれぞれろう付することが提案されている。この場合、熱交換器の外管と内管とがインナーフィンを介してろう付によって互いに接合されるため、熱交換器の外管及び内管からなる二重管を強固なものとすることができる。その結果、車両の振動が熱交換器に伝達されるとしても、それに伴い熱交換器の二重管で異音が生じることを抑制できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示されるようにインナーフィンを介してろう付によって外管と内管とを接合する場合、外管と内管との間にインナーフィンを挿入し、更にインナーフィンを外管の内周と内管の外周とに対しそれぞれろう付しなければならず、それらの実現に手間がかかることは否めない。
【0006】
本発明の目的は、手間をかけることなく外管と内管とをろう付によって接合することができる熱交換器における二重管の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する二重管の接合方法は、アルミニウム合金製の外管及び内管からなる二重管を備える熱交換器に適用される。この熱交換器は、上記内管と上記外管との間を流れる流体と同内管の内部を流れる流体との間での熱交換を行うものである。上記接合方法では、そうした熱交換器における上記外管と上記内管とをろう付によって接合する。詳しくは、外管と内管とのうちの少なくとも一方には、もう一方に向けて前記外管及び前記内管の径方向に突出する凸部を形成する。そして、その凸部で上記外管と上記内管とのろう付を行う。
【0008】
この方法によれば、凸部が外管と内管との少なくとも一方に形成される。そして、外管の内部に内管を位置させることによって上記凸部が外管と内管との少なくとも一方からもう一方に向けて突出した状態となり、その凸部において外管と内管とのろう付による接合が行われるため、そうした接合に手間がかかることはない。従って、手間をかけることなく外管と内管とをろう付によって接合することができるようになる。
【0009】
上記熱交換器における二重管の接合方法において、上記凸部は、外管及び内管の長手方向に延びるように形成されるものとし、外管と内管とのろう付は、上記凸部において、その凸部の延びる方向に連続的に行われるものとすることが考えられる。
【0010】
この方法によれば、外管と内管とのろう付による接合が凸部の延びる方向(外管及び内管の長手方向)に沿って連続的に行われるため、その接合の強度を高めて外管と内管との二重管を強固なものとすることができる。
【0011】
上記熱交換器における二重管の接合方法において、上記凸部は、外管及び内管の長手方向に延びるように形成されるものとし、外管と内管とのろう付は、上記凸部において、その凸部の延びる方向に断続的に行われるものとすることも考えられる。
【0012】
この方法によれば、外管と内管とのろう付による接合が凸部の延びる方向(外管及び内管の長手方向)に沿って断続的に行われるため、凸部における上記ろう付による接合が行われていない部分を流体が通過可能となる。その結果、外管と内管との間における周方向についての流体の流動性が高くなり、その流体と内管の内部を流れる流体との熱交換が効果的に行われるようになる。
【0013】
なお、上記凸部は、外管及び内管の周方向に間隔をおいて複数形成されるものとし、外管と内管とのろう付は、複数の上記凸部のうちの少なくとも一つで行われるものとするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】熱交換器における二重管の構造を示す断面図。
【
図2】
図1の二重管を矢印A-A方向から見た状態を示す断面図。
【
図3】内管及び外管における凸部周りを拡大して示す断面図。
【
図4】内管及び外管における凸部周りの構造の他の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、熱交換器における二重管の接合方法の一実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。
自動車等の車両においては、車室内の冷暖房といった空調を行うために冷凍サイクルが用いられている。こうした冷凍サイクルでは車室内の冷暖房(冷却や加熱)を行うための冷媒(流体)が循環回路を循環しており、同循環回路中には高温高圧の冷媒と低温低圧の冷媒との間で熱交換を行うための熱交換器が設けられる。
【0016】
上記熱交換器は、
図1に示すように、アルミニウム合金製の外管1及び内管2からなる二重管を備えており、外管1と内管2との間を流れる冷媒と内管2の内部を流れる冷媒との間での熱交換を行う。熱交換器の二重管における外管1と内管2とは、ろう付によって互いに接合されている。こうした外管1と内管2とのろう付による接合は、次のように行われる。すなわち、
図2に示すように、内管2にその外周から外管1側に向けて径方向に突出する凸部3を形成し、同凸部3で外管1と内管2とのろう付を行う。
【0017】
次に、上記凸部3について詳しく説明する。
凸部3は、外管1及び内管2の長手方向(
図1の左右方向)に延びるように形成される。より詳しくは、凸部3は、外管1及び内管2の中心線周りに螺旋状にねじれるように形成される。更に、凸部3は、
図2に示すように、外管1及び内管2の周方向に等間隔をおいて複数(この例では三つ)形成される。このため、内管2の外周には、凸部3による山部と隣合う凸部3同士の間の谷部とが、内管2の周方向において交互に形成されることとなる。
【0018】
内管2における凸部3の形成については、例えば次のような方法によって行うことができる。アルミニウム合金を押出加工によって円筒状にした管材を内管2を形成するための素材とし、上記管材(内管2の素材)に対するロール等を用いた転造加工を通じて、もしくはプレス加工を通じて上記凸部3を形成する。ちなみに、上記アルミニウム合金としては、加工性及びろう付性に優れる1000系または3000系のアルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0019】
なお、外管1についても、内管2と同様のアルミニウム合金を押出加工によって円筒状にした管材が、同外管1を形成するための素材として用いられる。外管1と内管2とのろう付は、上記凸部3において、その凸部3の延びる方向に連続的に、あるいは断続的に行われる。また、外管1と内管2とのろう付は、複数の凸部3のうちの少なくとも一つで行われればよく、複数の凸部3すべてで行ったり、一つあるいは二つで行ったりすることが考えられる。
【0020】
次に、上記凸部3での外管1と内管2とのろう付について詳しく説明する。
外管1と内管2とをろう付する際には、外管1の内周が内管2における凸部3の外周よりも大径となるよう外管1を形成しておき、内管2における凸部3の外周にろう材粉末及びフラックス粉末を含有するろう付組成物を塗布する。なお、
図3は、内管2及び外管1における凸部3周りを拡大して示したものであり、その凸部3の外周にはろう材4(ろう付組成物)が配置されている。詳しくは、凸部3の外周には内管2に向かって突出する突起3aが形成されており、その突起3aにおける
図3の幅方向両側及び凸部3の外周における上記突起3aと繋がる部分に上記ろう材4が配置されている。
【0021】
外管1と内管2とのろう付を凸部3において同凸部3の延びる方向に連続的に行う場合、凸部3の外周に対し上記ろう付組成物を同凸部3の延びる方向に連続的に塗布する。このときのろう付組成物の塗布の方法としては、例えばロール転写やブラシによる塗布があげられる。
【0022】
また、外管1と内管2とのろう付を凸部3において同凸部3の延びる方向に断続的に行う場合、凸部3の外周に対し上記ろう付組成物を同凸部3の延びる方向に断続的に塗布する。このときのろう付組成物の塗布の方法としては、例えば上記ロール転写において凹凸が付与されたロールを用いることで同ロールの凸部のろう付組成物を凸部3の外周に塗布する方法があげられる。また、凹凸が付与された上記ロールに代えて、通常のロールを用いる場合であっても、その通常のロール上のろう付組成物を断続的に除去すれば、凸部3の外周に断続的にろう付組成物を塗布することが可能である。
【0023】
凸部3に対しろう付組成物が塗布された内管2は外管1内に挿入される。そして、その状態のもとで外管1を縮径するための引き抜き加工を行うことにより、外管1の内径が引き抜き加工前の内管2における凸部3での外径よりも小さくなるようにし、内管2における凸部3の外周と外管1の内周とを接触させる。言い換えれば、引き抜き加工後の外管1の内径が、引き抜き加工前の内管2の外径(内管2の凸部3が形成されている部分の外径)よりも、小さくなるようにする。
【0024】
その後、外管1及び内管2を不活性ガス(例えば純窒素ガス)が充填された炉内に入れ、その炉内の不活性ガス雰囲気中で外管1及び内管2に対しろう付加熱を行う。詳しくは、炉内の温度を上記ろう付組成物の溶融温度よりも高い温度にて所定時間保持する。上記炉内の温度としては例えば600~605℃とすることが好ましく、その温度を保持する時間としては例えば3~5分が好ましい。このように炉内の外管1及び内管2に対しろう付加熱を行うことにより、外管1と内管2とが上記ろう付組成物を通じて凸部3で接合される。
【0025】
なお、製品としての熱交換器の二重管に曲げが必要な場合には、上述した引き抜き加工後であって上記ろう付加熱前に、外管1及び内管2に対し曲げ加工を施すことが好ましい。これは、ろう付によって外管1と内管2とを接合する場合、その接合が強固であるために二重管に対する曲げ加工が行いにくくなるためである。
【0026】
上記ろう付組成物に含有されるろう材粉末としては、シリコン(Si)の単体粉末を用いたり、アルミニウム(Al)とシリコンとの合成粉末を用いたりすることができる。また、A4045やA4047等のJISやAA規格に規定されるろう材用AlーSi合金粉末を上記ろう材粉末として用いることも可能である。上記ろう付組成物に含有されるフラックス粉末は、通常のアルミニウム合金のろう付に用いられるフッ化物系フラックス粉末でよい。
【0027】
なお、上記ろう付組成物を凸部3に塗布した後、そのろう付組成物が脱落してしまうような場合には、必要に応じてろう付組成物にバインダを含有させることも可能である。このバインダとしては、メタクリル酸重合体等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂など、ろう付加熱による昇温中に分解、揮発するものが好ましい。
【0028】
上記ろう付組成物の成分比率としては、ろう付組成物全体の重量に対し、ろう材粉末の重量が例えば10%~45%の範囲、フラックス粉末の重量が例えば30%~80%の範囲、バインダの重量が例えば10%~40%の範囲となるようにすることが好ましい。なお、ろう材粉末としてSi粉末を用いる場合、ろう付組成物全体に対するろう材粉末の比率を、ろう付組成物全体に対するフラックス粉末の比率よりも少なくすることが好ましい。また、ろう材粉末としてAl-Si合金粉末を用いる場合には、ろう付組成物全体に対するろう材粉末の比率が、ろう付組成物全体に対するフラックス粉末の比率よりも多くてもよい。
【0029】
次に、本実施形態の熱交換器における二重管の接合方法の作用効果について説明する。
(1)内管2に凸部3を形成し、その内管2を外管1内に挿入して凸部3の外面を外管1の内周に接触させた状態で、同凸部3において外管1と内管2とのろう付による接合が行われるため、そうした接合に手間がかかることはない。従って、手間をかけることなく外管1と内管2とをろう付によって接合することができる。
【0030】
(2)外管1と内管2とのろう付による接合を凸部3の延びる方向(外管1及び内管2の長手方向)に沿って連続的に行うことにより、その接合の強度を高めて外管1と内管2との二重管を強固なものとすることができる。
【0031】
(3)外管1と内管2とのろう付による接合を凸部3の延びる方向に沿って断続的に行うことにより、凸部3の外周における上記ろう付による接合が行われていない部分を冷媒が通過可能となる。その結果、外管1と内管2との間における周方向についての冷媒の流動性が高くなり、その冷媒と内管2の内部を流れる冷媒との熱交換が効果的に行われるようになる。
【0032】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・凸部3は外管1及び内管2の長手方向に直線状に延びていてもよい。
・凸部3の数については適宜変更してもよい。
【0033】
・凸部3の数を四つ以上とする場合、凸部3での外管1と内管2とのろう付を内管2の周方向において一つおきに行うようにしてもよい。
・ろう付加熱については、炉内を真空状態とし、その真空中で行うようにすることも可能である。
【0034】
・内管2にその外周から外管1側に向けて径方向に突出する凸部3を形成し、同凸部3で外管1と内管2とのろう付を行うようにしたが、上記凸部3に代えて、もしくは上記凸部3に加えて、
図4に示すように外管1にその内周から内管2側に向けて径方向に突出する凸部5を形成し、同凸部5で外管1と内管2とのろう付を行うようにしてもよい。この場合、凸部5の内周にろう材4(ろう付組成物)が配置される。詳しくは、凸部5の内周に外管1に向かって突出する突起5aが形成され、その突起5aにおける
図4の幅方向両側及び凸部5の内周における上記突起5aと繋がる部分に上記ろう材4が配置される。
【0035】
ちなみに、内管2に凸部3を形成し、且つ外管1にも凸部5を形成する場合、内管2の凸部3及び外管1の凸部5の位置は周方向において一致していてもよいし、ずれていてもよい。内管2の凸部3及び外管1の凸部5の位置を周方向においてずらした場合、そのように凸部3と凸部5との周方向の位置がずれた状態のもとで、凸部3の外周が外管1に対しろう付されるとともに、凸部5の内周が内管2に対しろう付される。また、内管2の凸部3及び外管1の凸部5の位置を周方向において一致させる場合、内管2の凸部3と外管1の凸部5とが付き合わされた状態のもと、内管2の凸部3及び外管1の凸部5で外管1と内管2とのろう付が行われる。
【符号の説明】
【0036】
1…外管、2…内管、3…凸部、3a…突起、4…ろう材、5…凸部、5a…突起。