(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】排ガス脱硫方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/50 20060101AFI20230228BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20230228BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20230228BHJP
F01N 3/04 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
B01D53/50 240
B01D53/78 ZAB
B01D53/14 210
F01N3/04 D
(21)【出願番号】P 2018237504
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-06-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャトロン ヨンシリ
(72)【発明者】
【氏名】張本 崇良
(72)【発明者】
【氏名】村上 郁
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-081068(JP,A)
【文献】特開昭57-004213(JP,A)
【文献】特開2003-190738(JP,A)
【文献】特開2010-042354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14 - 53/18
B01D 53/34 - 53/85
C01F 5/14
C10L 3/10
F01N 3/00 - 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼装置から発生し、硫黄酸化物を含有する燃焼排ガスを、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う吸収塔と、前記吸収塔から引き抜かれた吸収液を貯める酸化槽とを有する脱硫装置を用いた排ガス脱硫方法であって、
前記吸収塔は、底部に吸収液の貯留部を有し、上部に吸収液の供給部を有し、前記貯留部の吸収液を前記供給部に返送する返送路を備え、
前記貯留部と前記酸化槽にはそれぞれ酸化剤供給手段が設けられており、
前記燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時に、前記酸化槽への酸化剤の供給量を前記貯留部への酸化剤の供給量よりも多くすることを特徴とする排ガス脱硫方法。
【請求項2】
燃焼装置から発生し、硫黄酸化物を含有する燃焼排ガスを、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う吸収塔と、前記吸収塔から引き抜かれた吸収液を貯める酸化槽とを有する脱硫装置を用いた排ガス脱硫方法であって、
前記吸収塔は、底部に吸収液の貯留部を有し、上部に吸収液の供給部を有し、前記貯留部の吸収液を前記供給部に返送する返送路を備え、
前記貯留部と前記酸化槽にはそれぞれ酸化剤供給手段が設けられており、
前記燃焼装置の立ち上げ時に、前記酸化槽への酸化剤の供給を前記貯留部への酸化剤の供給より先に開始することを特徴とする排ガス脱硫方法。
【請求項3】
燃焼装置から発生し、硫黄酸化物を含有する燃焼排ガスを、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う吸収塔と、前記吸収塔から引き抜かれた吸収液を貯める酸化槽とを有する脱硫装置を用いた排ガス脱硫方法であって、
前記吸収塔は、底部に吸収液の貯留部を有し、上部に吸収液の供給部を有し、前記貯留部の吸収液を前記供給部に返送する返送路を備え、
前記貯留部と前記酸化槽にはそれぞれ酸化剤供給手段が設けられており、
前記燃焼装置の立ち下げ時に、前記貯留部への酸化剤の供給を前記酸化槽への酸化剤の供給より先に停止することを特徴とする排ガス脱硫方法。
【請求項4】
燃焼装置から発生し、硫黄酸化物を含有する燃焼排ガスを、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う吸収塔と、前記吸収塔から引き抜かれた吸収液を貯める酸化槽とを有する脱硫装置を用いた排ガス脱硫方法であって、
前記吸収塔は、底部に吸収液の貯留部を有し、上部に吸収液の供給部を有し、前記貯留部の吸収液を前記供給部に返送する返送路を備え、
前記貯留部と前記酸化槽にはそれぞれ酸化剤供給手段が設けられており、
前記燃焼装置に供給する燃料を硫黄含有量が高い燃料からそれよりも硫黄含有量が低い燃料に切り替えた時、または、前記燃焼装置への燃料供給量を所定値以下にした時に、前記酸化槽への酸化剤の供給量を前記貯留部への酸化剤の供給量よりも多くすることを特徴とする排ガス脱硫方法。
【請求項5】
前記燃焼装置の定常運転時に、前記貯留部への酸化剤の平均供給量を前記酸化槽への酸化剤の平均供給量よりも多くする請求項1に記載の排ガス脱硫方法。
【請求項6】
前記貯留部で酸化剤を供給せずに前記酸化槽で酸化剤を供給する請求項1または4に記載の排ガス脱硫方法。
【請求項7】
前記酸化剤供給手段が、酸素含有ガスを供給するブロアに接続された散気装置である請求項1~
6のいずれか一項に記載の排ガス脱硫方法。
【請求項8】
前記酸化剤供給手段が、酸素含有ガスを供給するブロアに接続された散気装置であって、前記貯留部に設けられた散気装置に接続するブロアと前記酸化槽に設けられた散気装置に接続するブロアとが共通のものであり、
前記ブロアが酸素含有ガスの供給路を介して前記貯留部と前記酸化槽に連通しており、前記供給路に前記貯留部および/または前記酸化槽に供給する酸素含有ガスの量を調節するバルブが設けられている請求項1~
6のいずれか一項に記載の排ガス脱硫方法。
【請求項9】
前記酸化剤として酸素含有ガスを用いる請求項1~
8のいずれか一項に記載の排ガス脱硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼装置から発生した燃焼排ガスを吸収塔に導入して、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う排ガス脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃焼装置から発生した燃焼排ガスを、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫する方法が知られている。水酸化マグネシウムを脱硫剤として用いた場合、燃焼排ガス中の亜硫酸ガスがマグネシウムイオンと反応して亜硫酸マグネシウムが生成し、吸収液に溶け込むことで、燃焼排ガスから硫黄酸化物が除去される。この際、吸収液による亜硫酸ガスの吸収能が適切に発揮され、吸収液中での亜硫酸マグネシウムの析出を抑えることが、吸収塔での脱硫処理において重要となる。
【0003】
例えば特許文献1には、硫黄酸化物含有ガスが導入されるガス導入部、硫黄酸化物含有ガスから硫黄酸化物を吸収する吸収液供給部、および硫黄酸化物を吸収した吸収液中の亜硫酸イオンを酸化する酸化剤を供給する酸化剤供給部を備えた吸収塔と、吸収塔の酸化剤供給部から供給する酸化剤の供給量を調整する酸化剤調整バルブと、硫黄酸化物含有ガスにおける硫黄酸化物の含有量を計測する含有硫黄酸化物計測手段とを有する脱硫システムであって、硫黄酸化物の含有量および酸化剤の酸化効率に基づいて亜硫酸イオン濃度を演算し、その結果に基づいて酸化剤調整バルブの調整制御をする脱硫システムが開示されている。特許文献2には、棚段による気液接触領域を有する吸収塔に燃焼排ガスを供給し、気液接触領域で吸収液と接触させる脱硫方法において、燃焼排ガスが気液接触領域を通過する際の圧力損失に基づいて、燃焼排ガスの供給流量や吸収液の供給流量を制御する脱硫方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-42354号公報
【文献】特開2003-190738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された脱硫システムでは、吸収塔に供給される硫黄酸化物の含有量および酸化剤の酸化効率に基づいて、吸収液中の亜硫酸イオン濃度を演算し、その結果に基づいて酸化剤を適切な量供給することで、吸収液中の亜硫酸イオン濃度を適切な範囲に制御し、吸収塔での安定した脱硫処理を実現している。特許文献2の脱硫方法では、燃焼排ガスの供給流量が変動しても、気液接触領域の圧力損失が一定値以上となるように燃焼排ガスの供給流量や吸収液の供給流量を制御することで、気液接触効率の低下による脱硫率の低下を防止することができる。そのため、昼間操業時と夜間操業時での燃焼排ガス発生量の変動などに容易に対応することができる。
【0006】
上記のように、従来、水酸化マグネシウムを脱硫剤として用いた脱硫方法において様々な検討がされているが、より簡便に安定した脱硫処理ができることが望ましい。本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸収塔に導入される燃焼排ガスの性状が通常の運転時とは異なる燃焼装置の立ち上げ時や立ち下げ時などにおいて、簡便かつ好適に燃焼排ガスの脱硫処理を行うことができるとともに、脱硫設備から排出される排水のCODを低減することができる排ガス脱硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができた本発明の排ガス脱硫方法とは、燃焼装置から発生し、硫黄酸化物を含有する燃焼排ガスを、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う吸収塔と、吸収塔から引き抜かれた吸収液を貯める酸化槽とを有する脱硫装置を用いた排ガス脱硫方法であって、吸収塔は、底部に吸収液の貯留部を有し、上部に吸収液の供給部を有し、貯留部の吸収液を供給部に返送する返送路を備え、貯留部と酸化槽にはそれぞれ酸化剤供給手段が設けられており、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時に、酸化槽への酸化剤の供給量を貯留部への酸化剤の供給量よりも多くするところに特徴を有する。
【0008】
本発明の排ガス脱硫方法は、燃焼装置の立ち上げ時に、酸化槽への酸化剤の供給を貯留部への酸化剤の供給より先に開始したり、燃焼装置の立ち下げ時に、貯留部への酸化剤の供給を酸化槽への酸化剤の供給より先に停止するものであってもよい。
【0009】
本発明の排ガス脱硫方法によれば、上記のように貯留部と酸化槽への酸化剤供給量を調整したり、あるいは供給方法を設定することにより、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時に、吸収塔の貯留部に保持された吸収液中の亜硫酸イオン濃度を適正な範囲に制御することが容易になる。そのため、燃焼装置の立ち上げ時や立ち下げ時において、亜硫酸マグネシウムの析出を抑えつつ、吸収液のpHを好適範囲に維持し、吸収塔において簡便かつ好適に燃焼排ガスの脱硫処理を行うことができる。また、酸化槽での酸化剤供給量を貯留部での酸化剤供給量よりも多くすることにより、酸化槽に貯められた吸収液のCODを低減して、燃焼装置から排出される排水性状を良好なものとすることができる。
【0010】
本発明の排ガス脱硫方法はまた、燃焼装置に供給する燃料を硫黄含有量が低い燃料に切り替えた時、または、燃焼装置への燃料供給量を所定値以下にした時に、酸化槽への酸化剤の供給量を貯留部への酸化剤の供給量よりも多くするものであってもよい。この場合もまた、簡便かつ好適に燃焼排ガスの脱硫処理を行うことができるとともに、脱硫設備から排出される排水のCODを低減することができる。
【0011】
燃焼装置に供給する燃料として硫黄含有量が低い燃料を用いる場合は、酸化槽に酸化剤供給手段が設けられ、吸収塔の貯留部には酸化剤供給手段が設けられなくてもよい。すなわち、本発明の排ガス脱硫方法は、燃焼装置から発生し、硫黄酸化物を含有する燃焼排ガスを、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う吸収塔と、吸収塔から引き抜かれた吸収液を貯める酸化槽とを有する脱硫装置を用いた排ガス脱硫方法であって、吸収塔は、底部に吸収液の貯留部を有し、上部に吸収液の供給部を有し、貯留部の吸収液を供給部に返送する返送路を備え、酸化槽に酸化剤供給手段が設けられており、貯留部には酸化剤供給手段が設けられておらず、燃焼装置に供給する燃料として硫黄含有量が低い燃料を用い、酸化槽で酸化剤を供給するものであってもよい。硫黄含有量が低い燃料を用いる場合は、吸収塔の貯留部で酸化剤を供給せず、酸化槽で酸化剤を供給するようにしても、燃焼排ガスの脱硫処理を好適に行うことができるとともに、脱硫設備から排出される排水のCODを低減することができる。
【0012】
本発明の排ガス脱硫方法が、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時に、酸化槽への酸化剤の供給量を貯留部への酸化剤の供給量よりも多くするものである場合、燃焼装置の定常運転時は、貯留部への酸化剤の平均供給量を酸化槽への酸化剤の平均供給量よりも多くすることが好ましい。これにより、定常運転時において、好適に燃焼排ガスの脱硫処理を行うことができる。
【0013】
燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時、あるいは、燃焼装置に供給する燃料を硫黄含有量が低い燃料に切り替えた時、または、燃焼装置への燃料供給量を所定値以下にした時は、貯留部で酸化剤を供給せずに酸化槽で酸化剤を供給するようにしてもよい。燃焼排ガス中に硫黄酸化物と比べて酸素が多く含まれる場合は、貯留部で酸化剤を供給しなくても、貯留部に保持された吸収液の亜硫酸イオン濃度を所定の範囲に収めることができる。
【0014】
酸化剤としては、酸素含有ガスを用いることが簡便である。従って、酸化剤供給手段としては、酸素含有ガスを供給するブロアに接続された散気装置を用いることが好ましい。
【0015】
ブロアは、貯留部に設けられた散気装置に接続するブロアと酸化槽に設けられた散気装置に接続するブロアとが共通のものであると、脱硫設備を簡略化できるため好ましい。この場合、ブロアが酸素含有ガスの供給路を介して貯留部と酸化槽に連通しており、供給路に貯留部および/または酸化槽に供給する酸素含有ガスの量を調節するバルブが設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
燃焼装置の立ち上げ時や立ち下げ時などは、通常の運転時と異なる性状の燃焼排ガスが吸収塔に導入されるところ、本発明の排ガス脱硫方法によれば、燃焼装置の立ち上げ時や立ち下げ時であっても、簡便かつ好適に燃焼排ガスの脱硫処理を行うことができるとともに、脱硫設備から排出される排水のCODを低減することができる。また、燃焼装置に供給する燃料を硫黄含有量が低い燃料に切り替えた時や、燃焼装置への燃料供給量を所定値以下にした時にも、簡便かつ好適に燃焼排ガスの脱硫処理を行うことができるとともに、脱硫設備から排出される排水のCODを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明で用いる脱硫装置の他の構成例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、燃焼装置から発生した燃焼排ガスを吸収塔に導入して、水酸化マグネシウムを含有する吸収液と接触させて脱硫を行う排ガス脱硫方法に関し、詳細には、このように燃焼排ガスを脱硫する際に簡便かつ好適に硫黄酸化物を除去するとともに、脱硫処理により発生した脱硫排水のCOD(化学的酸素要求量)を効率的に除去できる排ガス脱硫方法に関する。
【0019】
まず、本発明の排ガス脱硫方法に用いられる脱硫装置を
図1を参照して説明する。なお、本発明は図面に示された実施態様に限定されるものではない。
【0020】
本発明の排ガス脱硫方法は、燃焼装置から発生し硫黄酸化物を含有する燃焼排ガス11を、吸収液12と接触させて脱硫を行う吸収塔1と、吸収塔1から引き抜かれた吸収液24を貯める酸化槽21とを有する脱硫装置を用いるものである。
【0021】
吸収塔1に導入する燃焼排ガス11は、硫黄酸化物を含有するものであれば特に限定されない。例えば、比較的硫黄酸化物が高濃度に含まれる燃焼排ガスとしては、石炭火力発電所や重油ボイラ等の燃焼装置から発生した燃焼排ガスが挙げられる。また、コークス炉や製鉄炉(例えば、高炉や転炉)等から発生した燃焼排ガスを用いてもよい。
【0022】
吸収塔1は、燃焼装置から発生した燃焼排ガス11を導入する排ガス供給口2と、吸収塔1に導入され吸収液12と接触させた燃焼排ガス13を排出する排ガス排出口3と、吸収塔1内に吸収液12を供給する吸収液供給部4と、吸収塔1から吸収液12を抜き出す吸収液排出部5とを有する。吸収塔1では、排ガス排出口3が排ガス供給口2よりも上方に設けられ、吸収液供給部4が吸収塔1の上部に設けられる。吸収塔1にはさらに、底部に吸収液12の貯留部6が設けられるとともに、貯留部6に保持された吸収液12を吸収液供給部4に返送する返送路7が設けられる。これにより、吸収塔1内において吸収液12を循環供給することができる。吸収塔1では、燃焼排ガス11が吸収塔1に導入され、吸収塔1内を上昇する間に吸収液12と向流接触し、これにより、燃焼排ガス11中に含まれる硫黄酸化物(特に亜硫酸ガス)が吸収液12に溶け込み、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物量を低減することができる。
【0023】
吸収塔1としては、例えば、塔内に棚板(シーブトレイ)が設けられた棚段塔、塔内に充填物が充填された充填塔、塔内壁表面に吸収液が供給される濡れ壁塔、塔内空間に吸収液がスプレーされるスプレー塔等を採用することができる。
図1では、吸収塔1として充填塔が用いられた例が示されている。
【0024】
吸収液12は水酸化マグネシウムを含有する。水酸化マグネシウムを含有する吸収液12を燃焼排ガス11と接触させることにより、燃焼排ガス11中の亜硫酸ガスがマグネシウムイオンと反応して亜硫酸マグネシウムが生成して吸収液12に溶け込み、燃焼排ガス11から硫黄酸化物を除去することができる。吸収液12としては、水酸化マグネシウムのスラリーや水溶液を用いることが好ましい。
【0025】
吸収液12のpHは、高pHであるほど燃焼排ガス11から亜硫酸ガスを効率的に吸収しやすくなる一方、pHが高いと吸収液12中で亜硫酸マグネシウムが析出してスケーリングの原因となり得る。従って、吸収液12のpHは、燃焼排ガス11からの亜硫酸ガスの吸収効率と吸収液12中での亜硫酸マグネシウムの溶解性を勘案して適切に調整することが好ましい。このような観点から、吸収液のpHは5.2以上であることが好ましく、5.5以上がより好ましく、5.8以上がさらに好ましく、また7.3以下が好ましく、7.0以下がより好ましく、6.7以下がさらに好ましい。
【0026】
吸収塔1の貯留部6には、酸化剤供給手段が設けられている。
図1では、酸化剤供給手段として、ブロア9に接続された散気装置8が設けられている。酸化剤供給手段は、貯留部6に保持された吸収液12に含まれる亜硫酸マグネシウムを酸化して硫酸マグネシウムに変換するために設けられる。硫酸マグネシウムは亜硫酸マグネシウムよりも溶解度が高いため、吸収液12中の亜硫酸マグネシウムを硫酸マグネシウムに変換することにより、吸収塔1の内部や返送路7におけるスケールの生成を抑えることができる。なお、貯留部6では、吸収液12に含まれる亜硫酸マグネシウムの全てを硫酸マグネシウムに変換しないことが好ましく、吸収液12中の亜硫酸イオンをある程度残留させることが好ましい。これにより亜硫酸イオンがpH緩衝剤として作用し、吸収液12のpHを所定の範囲に維持することが容易になる。また、吸収液12のpHが極端に低下し酸性化することによって吸収液12の亜硫酸ガスの吸収能が低下することを防ぐことができる。
【0027】
貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度は、0.01mol/L以上であることが好ましく、0.03mol/L以上がより好ましく、0.05mol/L以上がさらに好ましく、また0.30mol/L以下が好ましく、0.25mol/L以下がより好ましく、0.20mol/L以下がさらに好ましい。吸収液12の亜硫酸イオン濃度は、吸収液12中の溶解性の亜硫酸イオンと亜硫酸水素イオンの合計濃度を意味し、イオンクロマトグラフィー等により求めることができる。
【0028】
上記のように貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度を調整する場合、燃焼装置の通常の運転時において、吸収液12に吸収された亜硫酸イオンの40%~98%が硫酸イオンに変換されることが好ましい。亜硫酸イオンの硫酸イオンへの変換率は、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、また90%以下が好ましく、85%以下がさらに好ましい。
【0029】
脱硫装置には、吸収塔1から引き抜かれた吸収液24を貯める酸化槽21が設けられている。従って、脱硫装置には、貯留部6と酸化槽21に連通した吸収液の移送路10が設けられていることが好ましい。移送路10は、貯留部6に直接接続していてもよく、
図1に示すように返送路7に接続していてもよい。移送路10には、吸収液を一時貯留する貯留部が設けられていてもよい。
【0030】
酸化槽21には、酸化剤供給手段が設けられている。
図1では、酸化剤供給手段として、ブロア23に接続された散気装置22が設けられている。酸化槽21の酸化剤供給手段は、脱硫装置からの排水に含まれるCODを低減するために設けられる。上記に説明したように、貯留部6では吸収液12中の亜硫酸イオンがある程度の濃度で維持されることが好ましいことから、これをそのまま脱硫装置から排出すると、脱硫装置からの排水中には亜硫酸イオンに由来してCODがある程度の濃度で含まれることとなる。そこで、脱硫装置からの排水中のCODを低減するために、吸収塔1から引き抜かれた吸収液24を酸化槽21に貯めて酸化処理する。
【0031】
なお、ここでいうCODの測定には、日本工業規格(JIS)K1020:2013に記載された、100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)が用いられる。ただし、亜硫酸イオンを測定対象とする場合、過マンガン酸カリウムで酸化した場合でも、二クロム酸カリウムで酸化した場合でも、結果として得られる酸素消費量は同じであるので、日本工業規格(JIS)K1020:2013に記載された、二クロム酸カリウムによる酸素消費量(CODCr)を用いて測定することもできる。
【0032】
貯留部6に保持された吸収液12や酸化槽21に保持された吸収液24に供給する酸化剤としては、亜硫酸マグネシウムを硫酸マグネシウムに酸化できるものであれば特に限定されず、酸素、オゾン、過酸化水素、塩素、臭素、ヨウ素、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、クロム酸塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易であり、簡便に亜硫酸マグネシウムを酸化できる点から、酸化剤として酸素含有ガスを用いることが好ましい。酸素含有ガスとしては、例えば、純酸素を用いてもよく、空気を用いてもよく、酸素を含む任意の混合ガスを用いてもよい。なお、ここで説明した酸素含有ガスに含まれる酸素は、燃焼排ガス11中に含まれる未利用の酸素(燃焼に利用されなかった酸素)を意味するものではなく、燃焼排ガス11とは別に吸収塔1の外部から供給される酸素を意味する。
【0033】
酸化剤供給手段としては、酸素含有ガスを供給するブロア9,23であることが好ましく、貯留部6や酸化槽21には、当該ブロア9,23に接続された散気装置8,22が設けられることが好ましい。散気装置8,22としては、例えば、セラミックや金属製の多孔質体を通じて散気を行うディフューザー型散気装置、樹脂や金属製の管体または板体に設けた孔から散気を行う多孔型散気装置、樹脂製メンブレンに設けたスリットから散気を行うメンブレン型散気装置等が示される。また、散気装置8,22として、撹拌羽根と散気管とが組み合わされ、供給された空気等が回転する撹拌羽根に剪断されることにより散気が行われるような機械式(水中撹拌式)散気装置を用いてもよい。
【0034】
上記のように貯留部6と酸化槽21で酸化剤を供給する場合、燃焼装置の通常の運転時、すなわち定常の定格運転時においては、貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度を所定値以下にするために、貯留部6での酸化剤供給量の方が酸化槽21での酸化剤供給量よりも多くなることが一般的である。つまり、燃焼排ガス11から吸収液12に溶け込んだ亜硫酸イオンは、その多くが貯留部6で酸化され、貯留部6で酸化されなかった少量の亜硫酸イオンが酸化槽21で酸化されるか、酸化槽21で酸化されずにそのまま燃焼装置から排出されることとなる。
【0035】
これに対して、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時について本発明者らが検討したところ、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時には、貯留部6での酸化剤供給量を減らすことが好ましいことが明らかになった。燃焼装置では、石炭や重油等の燃料とともに空気などの酸素含有ガスを供給し燃焼させるが、立ち上げ時または立ち下げ時には、燃焼排ガス11中に含まれる酸素の量が定格運転時と比べて相対的に多くなり、硫黄酸化物の量が定格運転時と比べて相対的に少なくなる。例えば、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時には、燃焼排ガス11中の酸素濃度が定格運転時と比べて1.5倍以上高くなる。そのため、燃焼装置の立ち上げ時や立ち下げ時に、定格運転時と同じように貯留部6で酸化剤を供給すると、酸化剤の供給量が過剰となり、貯留部6に保持された吸収液中の亜硫酸イオン濃度が極端に低下し、吸収液12のpH緩衝能が低下しやすくなる。そのため、その状態で例えば燃焼装置の定常運転に移行すると、吸収塔1内において吸収液12のpHの変動が大きくなり、吸収塔1での亜硫酸ガス捕捉能が低下しやすくなる。そこで本発明では、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時に、酸化槽21への酸化剤供給量を貯留部6への酸化剤供給量よりも多くする。このように酸化剤供給量を調整することにより、燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時に、貯留部6に保持された吸収液12中の亜硫酸イオン濃度が極端に低下することなく、吸収液12のpH緩衝能を維持することができる。また、酸化槽21での酸化剤供給量を貯留部6での酸化剤供給量よりも多くすることにより、酸化槽21に貯められた吸収液24のCODを低減して、燃焼装置から排出される排水性状を良好なものとすることができる。酸化槽21への酸化剤供給量は、例えば、貯留部6への酸化剤供給量の1.5倍以上とすることが好ましく、1.8倍以上がより好ましく、2.0倍以上がさらに好ましい。
【0036】
燃焼装置の立ち上げ時または立ち下げ時には、貯留部6で酸化剤を供給せずに、酸化槽21のみで酸化剤を供給してもよい。燃焼排ガス11中に硫黄酸化物と比べて酸素が多く含まれる場合は、貯留部6で酸化剤を供給しなくても、貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度を所定の範囲に収めることができる。
【0037】
燃焼装置の立ち上げ時には、酸化槽21への酸化剤の供給を貯留部6への酸化剤の供給より先に開始して、貯留部6へ酸化剤を供給しない時間を設けるようにしてもよい。燃焼装置の立ち上げ時において、その最初の方の時間帯は、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物濃度が特に低くなる、あるいは酸素濃度が特に高くなる。そのため、このように酸化剤を供給することにより、貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度の低下を抑え、亜硫酸イオン濃度を所定の範囲に制御することができる。貯留部6へ酸化剤を供給しない時間は、例えば15分以上設けることが好ましく、30分以上設けることがより好ましく、45分以上設けることがさらに好ましい。
【0038】
燃焼装置の立ち下げ時には、貯留部6への酸化剤の供給を酸化槽21への酸化剤の供給より先に停止して、貯留部6へ酸化剤を供給しない時間を設けるようにしてもよい。燃焼装置の立ち下げ時において、その終わりの方の時間帯は、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物濃度が特に低くなる、あるいは酸素濃度が特に高くなる。そのため、このように酸化剤を供給することにより、貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度の低下を抑え、亜硫酸イオン濃度を所定の範囲に制御することができる。貯留部6へ酸化剤を供給しない時間は、例えば15分以上設けることが好ましく、30分以上設けることがより好ましく、45分以上設けることがさらに好ましい。
【0039】
一方、燃焼装置の定常運転時は、貯留部6への酸化剤の平均供給量を酸化槽21への酸化剤の平均供給量よりも多くすることが好ましい。これにより、定常運転時に貯留部6に保持される吸収液12中に過剰に亜硫酸イオンが残存せず、吸収塔1で亜硫酸マグネシウムに由来するスケーリングが起こりにくくなる。なお、燃焼装置の定常運転時とは、燃焼装置の立ち上げ時と立ち下げ時を除く燃焼装置の運転時を意味する。また、酸化剤の平均供給量は、少なくとも1日当たりの平均供給量(好ましくは少なくとも1週間当たりの平均供給量)を意味する。燃焼装置の定常運転時の貯留部6への酸化剤の平均供給量は、例えば、酸化槽21への酸化剤の平均供給量の1.3倍以上であることが好ましく、1.5倍以上がより好ましく、1.8倍以上がさらに好ましい。
【0040】
なお、燃焼装置は、燃焼装置の立ち上げ時と立ち下げ時以外においても、酸化槽21への酸化剤の供給量を貯留部6への酸化剤の供給量よりも多くする時間帯があってもよい。例えば、燃焼装置に供給する燃料を硫黄含有量が低い燃料に切り替えた時、または、燃焼装置への燃料供給量を所定値以下にした時には、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物濃度が低下するため、貯留部6への酸化剤の供給量を酸化槽21への酸化剤の供給量よりも少なくしてもよい。この場合、燃焼装置への燃料供給条件の変更に伴って、酸化剤の供給条件を変えてもよく、吸収塔1へ導入される燃焼排ガス11に含まれる硫黄酸化物の濃度や量を計測し、その計測結果に基づき酸化剤の供給条件を変えてもよい。この場合の酸化槽21への酸化剤供給量は、例えば、貯留部6への酸化剤供給量の1.1倍以上とすることが好ましく、1.3倍以上がより好ましく、1.5倍以上がさらに好ましい。
【0041】
燃焼装置に供給する燃料を硫黄含有量が低い燃料に切り替えた時、または、燃焼装置への燃料供給量を所定値以下にした時には、貯留部6で酸化剤を供給せずに、酸化槽21のみで酸化剤を供給するようにしてもよい。燃焼排ガス11中に硫黄酸化物と比べて酸素が多く含まれる場合は、貯留部6で酸化剤を供給しなくても、貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度を所定の範囲に収めることができる。
【0042】
なお、燃焼装置に供給する燃料として硫黄含有量が低い燃料を用いる場合、すなわち燃焼装置が低硫黄含有燃料の専燃炉である場合は、酸化槽21のみに酸化剤供給手段を設け、吸収塔1の貯留部6に酸化剤供給手段を設けないことも可能である。この場合、貯留部6で酸化剤を供給しなくても、貯留部6に保持された吸収液12の亜硫酸イオン濃度を所定の範囲に収めることができ、また酸化槽21で酸化剤を供給することにより、酸化槽21から排出される排水のCODを低減することができる。
【0043】
燃焼装置に供給する燃料のうち、硫黄含有量が多い燃料としては、代表的には石炭や重油等(特に低品位の石炭や重油)が挙げられる。これに対して、硫黄含有量が低い燃料としては、天然ガス、コークス炉や製鉄炉(例えば、高炉や転炉)から出た副生ガス等が挙げられる。また、都市ゴミ、下水汚泥、抄紙系汚泥、草木、廃プラスチック等の廃棄物を燃料として用いた場合も、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物濃度が低くなる傾向を示す。燃焼装置に供給する燃料を硫黄含有量が低い燃料に切り替えた時とは、例えば、燃焼装置に供給する燃料の硫黄含有量が1/2以下、1/3以下、あるいは1/4以下となったときとすることができる。硫黄含有量が低い燃料を用いた場合は、硫黄含有量が高い燃料を用いた場合と比べて、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物濃度が例えば1/5以下となる。
【0044】
燃焼装置への燃料供給量を所定値以下にする場合としては、燃焼装置の待機運転時や低出力運転時が挙げられる。例えば火力発電所では、夜間や週末は消費電力量が低下するため出力を下げた運転(いわゆるターンダウン)を行うが、このようなターンダウン時には燃焼排ガス量が減少するなどにより、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物の量が減るため、貯留部6への酸化剤の供給量を少なくすることが好ましい。ターンダウン時には、燃焼装置は、例えば定格運転時の出力の50%以下に出力を下げて運転される。ターンダウン時の出力は、好ましくは定格運転時の出力の40%以下であり、また通常15%以上である。
【0045】
本発明の排ガス脱硫方法では、
図2に示すように、貯留部6に設けられた散気装置8に接続するブロア31と酸化槽21に設けられた散気装置22に接続するブロア31を共通化してもよい。
図2には、
図1に示した脱硫装置において、貯留部に設けられた散気装置に接続するブロアと酸化槽に設けられた散気装置に接続するブロアとが共通のものを用いた構成例が示されている。このようにブロアを共通化することより、脱硫設備を簡略化することができる。
【0046】
上記の場合、ブロア31は酸素含有ガスの供給路34を介して貯留部6と酸化槽21に連通しており、供給路34に貯留部6および/または酸化槽21に供給する酸素含有ガスの量を調節するバルブ32,33が設けられていることが好ましい。
図2では、貯留部6に供給する酸素含有ガスの量を調節するバルブ32と酸化槽21に供給する酸素含有ガスの量を調節するバルブ33がそれぞれ設けられているが、供給路34には、貯留部6への流路と酸化槽21への流路の分岐部に、貯留部6に供給する酸素含有ガスの量と酸化槽21に供給する酸素含有ガスの量の両方を調節する三方バルブを設けてもよい。
【0047】
酸素含有ガスの量の調整は、燃焼排ガス11中の硫黄酸化物の量に応じて貯留部6と酸化槽21への必要な酸素含有ガスの量を設定し、バルブ32とバルブ33の開度調整、稼働ブロア台数の調整、稼働ブロアのインバータによる風量調整、およびこれらの任意の組み合わせにより行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(運転例1)石炭専燃の定格運転時の脱硫処理
石炭火力発電所の燃焼装置で石炭を燃焼させ、発生した燃焼排ガス536,000Nm3/h-wetを吸収塔内に導入した。燃焼排ガス中の硫黄酸化物濃度は約800ppm-dryであった。この燃焼排ガスを処理するために、吸収塔内では、水酸化マグネシウムを含有する吸収液を循環供給し、燃焼排ガスをこの吸収液と接触させることにより、燃焼排ガス中から硫黄酸化物を除去した。吸収塔では、燃焼排ガスを3,100m3/hの吸収液(循環液)と向流接触させ、吸収液に添加された水酸化マグネシウム量は995kg/hであった。吸収塔の底部の貯留部では、吸収液に酸化剤として空気を2,910Nm3/h供給した。貯留部に貯まった吸収液の亜硫酸イオンと亜硫酸水素イオンの合計濃度は0.08~0.10mol/L、COD濃度は約1,600mg/Lであった。このとき、吸収塔から排出された排ガス中の硫黄酸化物濃度は10ppm-dry以下であった。貯留部からは吸収液(循環液)を30m3/h引き抜いて酸化槽に移送し、酸化槽に貯められた吸収液に、酸化剤として空気を1,600Nm3/h供給した。酸化槽から排出された排水(酸化処理後の吸収液)のCOD濃度は30mg/L以下であった。
【0050】
(運転例2)石炭専燃の立ち下げ運転時の脱硫処理1
運転例1と同様の設備において、燃焼装置で石炭を燃焼させて定格運転を行った後、立ち下げ運転に移行した。運転例1と同様に水酸化マグネシウムを含有する吸収液を吸収塔内で循環供給しつつ、吸収塔に導入する燃焼排ガス量の減少に応じて、吸収塔の貯留部で吸収液に供給する空気量を減らした。吸収塔に導入する燃焼排ガス量が322,000Nm3/h-wetのときに、吸収塔の貯留部に供給する空気量は1,430Nm3/hであり、吸収塔に導入する燃焼排ガス量が120,000Nm3/h-wet以下のときに、吸収塔の貯留部への空気の供給を止めた。立ち下げ運転時に吸収塔から排出された排ガス中の硫黄酸化物濃度は10ppm-dry以下であった。貯留部からは、運転例1と同様に吸収液(循環液)を引き抜いて酸化槽に移送し、運転例1と同様に酸化槽にて空気を1,600Nm3/h供給した。酸化槽から排出された排水のCOD濃度は30mg/L以下であった。
【0051】
(運転例3)石炭専燃の立ち下げ運転時の脱硫処理2
運転例1と同様の設備において、燃焼装置で石炭を燃焼させて定格運転を行った後、立ち下げ運転に移行した。運転例1と同様に水酸化マグネシウムを含有する吸収液を吸収塔内で循環供給し、吸収塔の貯留部で吸収液に供給する空気は、燃焼排ガス量の減少に関わらず、運転例1と同量(2,910Nm3/h)を一定供給した。その結果、貯留部に貯まった吸収液の亜硫酸イオンと亜硫酸水素イオンの合計濃度は0.01mol/L未満となり、吸収塔から排出された排ガス中の硫黄酸化物濃度は最大で80ppm-dryとなった。貯留部からは、運転例1と同様に吸収液(循環液)を引き抜いて酸化槽に移送し、運転例1と同様に酸化槽にて空気を1,600Nm3/h供給した。酸化槽から排出された排水のCOD濃度は30mg/L以下であった。
【0052】
(運転例4)石炭専燃の立ち上げ運転時の脱硫処理
運転例1と同様の設備において、燃焼装置で石炭を燃焼させて定格運転を行うに当たり、立ち上げ運転を行った。運転例1と同様に水酸化マグネシウムを含有する吸収液を吸収塔内で循環供給しつつ、立ち上げ運転の初期は、吸収塔に導入する燃焼排ガス量が120,000Nm3/h-wetに達するまでは、吸収塔の貯留部で吸収液に空気を供給せず、その後吸収塔に導入する燃焼排ガス量の増加に応じて、吸収塔の貯留部で吸収液に供給する空気量を増やした。吸収塔に導入する燃焼排ガス量が322,000Nm3/h-wetのときには、吸収塔の貯留部に供給する空気量は1,430Nm3/hであった。立ち上げ運転時に吸収塔から排出された排ガス中の硫黄酸化物濃度は10ppm-dry以下であった。貯留部からは、運転例1と同様に吸収液(循環液)を引き抜いて酸化槽に移送し、運転例1と同様に酸化槽にて空気を1,600Nm3/h供給した。酸化槽から排出された排水のCOD濃度は30mg/L以下であった。
【0053】
(運転例5)石炭・副生ガス混燃の定格運転時の脱硫処理
運転例1において、燃料として石炭を使用する代わりに、石炭と高炉ガスとコークス炉ガスの混合ガスを使用し、燃焼装置で燃焼した。発生した燃焼排ガス量は555,500Nm3/h-wetであり、燃焼排ガス中の硫黄酸化物濃度は約300ppm-dryであった。運転例1と同様に水酸化マグネシウムを含有する吸収液を吸収塔内で循環供給し、吸収塔の貯留部に供給する空気量を530Nm3/hとした。このとき、吸収塔から排出された排ガス中の硫黄酸化物濃度は10ppm-dry以下であった。貯留部からは、運転例1と同様に吸収液(循環液)を引き抜いて酸化槽に移送し、運転例1と同様に酸化槽にて空気を1,600Nm3/h供給した。酸化槽から排出された排水のCOD濃度は30mg/L以下であった。
【0054】
(運転例6)副生ガス混燃の定格運転時の脱硫処理
運転例1において、燃焼装置で石炭を燃焼する代わりに、高炉ガスとコークス炉ガスの混合ガスを使用し、燃焼装置で燃焼させた。発生した燃焼排ガス量は605,000Nm3/h-wetであり、燃焼排ガス中の硫黄酸化物濃度は約50ppm-dryであった。運転例1と同様に水酸化マグネシウムを含有する吸収液を吸収塔内で循環供給し、吸収塔の貯留部では吸収液に空気等の酸化剤を供給しなかった。このとき、吸収塔から排出された排ガス中の硫黄酸化物濃度は10ppm-dry以下であった。貯留部からは、運転例1と同様に吸収液(循環液)を引き抜いて酸化槽に移送し、運転例1と同様に酸化槽にて空気を1,600Nm3/h供給した。酸化槽から排出された排水のCOD濃度は30mg/L以下であった。運転例6では、吸収塔の貯留部に酸化剤供給手段を設けなくても、燃焼排ガスの脱硫処理が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、石炭火力発電所、重油ボイラ等の排ガス脱硫処理に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1: 吸収塔
6: 貯留部
4: 吸収液供給部
7: 吸収液の返送路
8,22: 散気装置
9,23,31: ブロア
11: 燃焼排ガス
12,24: 吸収液
21: 酸化槽