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▶ ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】RSVに対するワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/45 20060101AFI20230228BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230228BHJP
   A61K 39/155 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230228BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230228BHJP
   C07K 14/135 20060101ALN20230228BHJP
【FI】
C12N15/45 ZNA
A61K35/761
A61K39/155
A61P31/14
A61P37/04
C12N5/10
C07K14/135
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018551163
(86)(22)【出願日】2017-04-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2017057957
(87)【国際公開番号】W WO2017174564
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-09
(31)【優先権主張番号】16163807.7
(32)【優先日】2016-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516257833
【氏名又は名称】ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェー
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN VACCINES & PREVENTION B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ランゲディク,ヨハネ,ペトリュス,マリア
(72)【発明者】
【氏名】バーヘイゲン,ヤネケ,エム
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/202570(WO,A1)
【文献】特開2015-171378(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077096(WO,A1)
【文献】特表2015-512380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合前コンフォメーションで安定化されるRSV Fタンパク質(融合前RSV Fタンパク質)をコードする核酸分子を含む組換えヒトアデノウイルスベクターであって、前記RSV Fタンパク質は配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記アデノウイルスがセロタイプ26または35のアデノウイルスである、ベクター。
【請求項2】
前記融合前RSV Fタンパク質をコードする前記核酸は、ヒト細胞での発現のためにコドン最適化されている請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記融合前RSV Fタンパク質をコードする前記核酸は、配列番号3または4の核酸配列を含む請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
前記組換えヒトアデノウイルスは、アデノウイルスゲノムのE1領域中の欠失、E3領域中の欠失、またはE1およびE3の両領域中の欠失を有している請求項1、2または3に記載のベクター。
【請求項5】
前記組換えヒトアデノウイルスは、その5’末端に配列CTATCTATを含むゲノムを有する請求項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のベクターを含む医薬組成物。
【請求項7】
RSVに対するワクチンである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
RSV Fタンパク質と組み合わせて使用される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
対象におけるRSVの感染および/または複製を減少させるための、請求項1~6のいずれか一項に記載のベクターを含む組成物。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載のベクターを含む単離宿主細胞。
【請求項11】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対するワクチンを作製する方法であって、融合前RSV Fタンパク質をコードする核酸を含む組換えヒトアデノウイルスを用意する工程と、前記組換えヒトアデノウイルスを宿主細胞の培養物中で増殖させる工程と、前記組換えヒトアデノウイルスを単離および精製する工程と、前記組換えヒトアデノウイルスを薬学的に許容される組成物で製剤化する工程とを含み、前記融合前RSV Fタンパク質は配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記アデノウイルスがセロタイプ26または35のアデノウイルスである、方法。
【請求項12】
融合前RSV Fタンパク質をコードする核酸を含む、組換えヒトアデノウイルスのゲノムを形成する単離組換え核酸であって、前記融合前RSV Fタンパク質は配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記アデノウイルスがセロタイプ26または35のアデノウイルスである、単離核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬の分野に関する。より具体的には、本発明は、RSVに対するワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、毎年約200,000人の小児死亡の原因であると考えられている気道の伝染性が高い小児病原体である。2歳未満の小児では、RSVは呼吸器感染症による入院の約50%を占め、入院のピークは月齢2~4ヶ月で生じる。ほとんど全ての小児が2歳までにRSV感染を経験し、生涯にわたる反復感染は自然免疫の低さに起因すると報告されている。高齢者では、RSV疾患の負担は、一般的なインフルエンザA感染によって引き起こされるものと類似している。現在、RSV感染に対するワクチンは入手できないが、疾患による高い負担のために要望されている。
【0003】
RSVは、ニューモウイルス亜科(pneumovirinae)に属するパラミクソウイルスである。そのゲノムは、中和抗体の主要な抗原標的であるRSV糖タンパク質(G)およびRSV融合(F)タンパク質として知られる膜タンパク質を含む種々のタンパク質をコードする。
【0004】
RSV Gタンパク質とは異なり、Fタンパク質はRSV株間で保存されており、そのことで、広く中和抗体を誘発することができる魅力的なワクチン候補となっている。Fタンパク質は膜貫通タンパク質であり、ウイルスの出芽中に細胞膜からビリオン膜に取り込まれる。RSV Fタンパク質は、ウイルス膜と宿主細胞膜とを融合させることによって感染を促進する。融合プロセスにおいて、Fタンパク質は、不安定な融合前コンフォメーションから安定な融合後コンフォメーションに不可逆的にリフォールディングする。タンパク質前駆体F0は、細胞内成熟の間にフーリン様プロテアーゼによって切断される必要がある。2つのフーリン部位があり、その切断によりp27ペプチドが除去され、2つのドメイン、N末端F2ドメインおよびC末端F1ドメインが形成される(図1)。F2およびF1ドメインは、2つのシスチン架橋によって結合される。融合タンパク質に対する抗体は、細胞へのウイルス取り込みを防止することができ、したがって、中和作用を有する。中和抗体の標的であることに加えて、RSV Fは、細胞傷害性T細胞エピトープを含む(Pemberton et al,1987,J.Gen.Virol.68:2177-2182)。
【0005】
50年間の研究にもかかわらず、RSVに対するワクチンにはまだ認可されたものがない。ワクチン開発の大きな障害の1つは、1960年代の臨床試験において、ホルマリン不活化(FI)RSVワクチンによる、疾患のワクチン増強があったことが受け継がれていることである。FI-RSVワクチン接種を受けた小児は、自然感染から防御されず、感染した小児は、ワクチン接種を受けなかった小児よりも、2人の死亡を含む重篤な病気を経験した。この現象は「疾患の増強」と呼ばれる。
【0006】
FI-RSVワクチンによる試験以来、RSVワクチンを作製するための種々のアプローチが追求されてきた。試みには、RSVの古典的生弱毒化低温継代株または温度感受性変異株、(キメラ)タンパク質サブユニットワクチン、ペプチドワクチン、およびアデノウイルスベクターなどの組換えウイルスベクターから発現されるRSVタンパク質が含まれる。これらのワクチンのいくつかは、有望な前臨床データを示したが、安全性の懸念または有効性の欠如により、いずれのワクチンもヒトへの使用に対しては認可されなかった。
【0007】
したがって、RSVに対する効果的なワクチンおよびワクチン接種法、特に疾患の増強をもたらさないワクチンの必要性が依然として存在する。本発明は、RSVに対するそのようなワクチン、および安全にかつ効果的にワクチン接種するための方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、安定なRSV融合前Fタンパク質をコードする新規の核酸分子であって、RSV融合前Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む核酸分子を提供する。
【0009】
特定の実施形態では、RSV融合前Fタンパク質をコードする核酸分子は、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている。
【0010】
特定の実施形態では、RSV融合前Fタンパク質をコードする核酸分子は、配列番号3または4の核酸配列を含む。
【0011】
本発明は、RSV融合前Fタンパク質をコードする核酸分子を含むベクターであって、RSV Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含むベクターをさらに提供する。
【0012】
特定の実施形態では、ベクターはヒト組換えアデノウイルスである。
【0013】
特定の実施形態では、組換えアデノウイルスはセロタイプ26または35のアデノウイルスである。
【0014】
特定の実施形態では、組換えヒトアデノウイルスは、アデノウイルスゲノムのE1領域中の欠失、E3領域中の欠失、またはE1およびE3の両方の領域中の欠失を有している。
【0015】
特定の実施形態では、組換えアデノウイルスは、その5’末端に配列CTATCTATを含むゲノムを有する。
【0016】
本発明はまた、本発明の核酸分子またはベクターを含む組成物、例えば、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対するワクチンを提供する。
【0017】
本発明は、対象にRSVに対するワクチンを接種する方法であって、本発明による組成物を対象に投与することを含む方法をさらに提供する。
【0018】
特定の実施形態では、RSVに対するワクチンを対象に接種する方法は、RSV Fタンパク質(好ましくは、医薬組成物として製剤化されたもの、したがってタンパク質ワクチン)を対象に投与することをさらに含む。
【0019】
本発明はまた、対象の例えば鼻道および肺におけるRSVの感染および/または複製を低減する方法であって、本発明による核酸またはベクターを含む組成物をその対象に投与することを含む方法を提供する。これは、対象のRSV感染から生じる悪影響を軽減し、したがって、組成物の投与により、そのような悪影響から対象を防御することに寄与するであろう。特定の実施形態では、RSV感染の悪影響を基本的に予防することができる、すなわち、臨床的に重要でないほどの低レベルに低減することができる。
【0020】
本発明はまた、RSV融合前Fタンパク質をコードする核酸分子を含む単離宿主細胞であって、RSV融合前Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む宿主細胞を提供する。特定の実施形態では、RSV融合前Fタンパク質をコードする核酸分子は、配列番号3または4の核酸配列を含む。
【0021】
本発明はさらに、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対するワクチンを作製する方法であって、RSV融合前Fタンパク質またはその断片をコードする核酸を含む組換えヒトアデノウイルスを用意する工程と、前記組換えアデノウイルスを宿主細胞の培養物中で増殖させる工程と、組換えアデノウイルスを単離および精製する工程と、組換えアデノウイルスを薬学的に許容される組成物で製剤化する工程とを含み、RSV融合前Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む方法を提供する。特定の実施形態では、組換えアデノウイルスはセロタイプ26または35のアデノウイルスである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】RSV Fタンパク質の模式図。タンパク質前駆体は、F2およびF1ドメイン、ならびにフーリン様プロテアーゼによる切断によって成熟タンパク質から除去されるp27ペプチドを含む。切断部位を矢印で示す。ボックスの上の数字は、シグナルペプチドを除く完全長タンパク質のアミノ酸の位置を示す。F1には、構造要素が示されている:融合ペプチド(FP)、ヘプタドリピートA(HRA)を含むリフォールディング領域1(RR1)、およびヘプタドリピートB(HRB)を含むリフォールディング領域2(RR2)。
図2】Fタンパク質変異体の相対的表面発現。Fタンパク質の完全長変異体をHEK293T細胞で発現させた。抗RSV F抗体(CR9503)で細胞を染色し、フローサイトメトリー(FACS)で分析した。平均蛍光強度(MFI)値を計算し、対照のF野生型(Fwt)トランスフェクト細胞試料のMFIに対して正規化した。FwtのMFIを1とした。バーは平均値を意味し、エラーバーは値の範囲を表す。
図3】細胞表面の融合前Fタンパク質の画分。HEK293T細胞でFタンパク質の完全長変異体を発現させた。抗RSV F抗体CR9503および抗融合前RSV F抗体CR9501で細胞を染色し、フローサイトメトリーで分析した。平均蛍光強度(MFI)値を計算し、CR9501によって測定されたMFIを、CR9503によって測定されたMFIに対して正規化した。正規化されたMFI値は、細胞表面上のpre-Fの画分を示す。バーは平均値を意味し、エラーバーは値の範囲を表す。
図4】Fタンパク質変異体の相対表面発現。膜貫通領域および細胞質領域を欠失させた可溶性バージョン(Fsl)およびFタンパク質の完全長変異体をHEK293T細胞で発現させた。可溶性タンパク質の発現レベルを、培養上清中でオクテットにより測定し、完全長変異体を、抗RSV F抗体(CR9503)を用いた細胞染色で試験し、フローサイトメトリーで分析した。平均蛍光強度(MFI)値を計算し、対照のF野生型(Fwt)トランスフェクト細胞試料のMFIに対して正規化した。FwtのMFIを1とした。バーは平均値を意味し、エラーバーは値の範囲を表す。
図5】Fタンパク質変異体の温度安定性。Fタンパク質の完全長変異体をHEK293T細胞で発現させた。熱ショックを加えた後、抗RSV F抗体で細胞を染色し(CR9501-実線およびCR9503-破線)、フローサイトメトリーで分析した。染色に対する陽性細胞のパーセンテージを測定した。記号は平均値を意味し、エラーバーは値の範囲を表す。(A)染色に対する陽性細胞のパーセンテージを測定した。(B)平均蛍光強度(MFI)値を計算し、37C細胞試料のMFIに対して正規化した。37℃試料のMFIを1とした。点線は、60℃のバックグラウンド染色に対応する。
図6】Fタンパク質の安定性。PreFは、熱ストレスアッセイにおいて、細胞表面上での融合前コンフォメーションでFA2タンパク質よりも安定である。インサートFA2(wt RSV F、灰色のバー)または融合前F安定化インサート(preF2.2、黒色のバー)を含むAd26およびAd35を、表示のMOIでA549細胞に感染させた。染色前に15分間、表示の温度で細胞を温度処理した。上:表面に融合前Fを示す細胞のパーセント(CR9501抗体により検出);下:融合前および融合後の任意の形態のFタンパク質を示す細胞のパーセント(CR9503抗体により検出)。値は37℃の試料に対して正規化した。全てのバーは、単一の測定値を表す。
図7】Ad26.RSV.preF2.1およびF2.2は、単回投与後、マウスに細胞性免疫応答を誘発する。横棒は、群内の応答の幾何平均を示す。バックグラウンドレベルは、非刺激脾細胞で観察されたスポット形成単位(SPU)の95%パーセンタイルとして計算し、点線で示す。
図8-1】Ad26.RSV.preF2.1およびF2.2は、Ad26.RSV.FA2と比べ、単回の免疫付与後、マウスにより多くのウイルス中和抗体を誘導した。Balb/cマウス(1群当たりn=4)に、108~1010個のウイルス粒子(vp)、Ad26.RSV.FA2またはAd26.RSV.preF2.1またはAd26.RSV.preF2.2を表示用量で、または製剤緩衝液で免疫を付与し、免疫付与から8週後に単離した血清中の体液性免疫応答を測定した。(A)ELISAベースの読み取りを行うマイクロ中和アッセイを用いて、RSV A Longに対するウイルス中和抗体を決定した。力価をIC50のlog2値として示す。(B)融合前または融合後のF抗体力価をELISAによって決定し、定量下限(LLoQ)を上回る融合前および融合後F力価を示した全ての試料について、融合前と融合後のF抗体の比を計算した。(C)コーティング試薬として融合後RSV F A2を用いてサブクラスELISAを行い、IgG2a/IgG1比(log10)をプロットする。Th1(RSV F発現アデノウイルスベクターで免疫付与した動物由来の血清)およびTh2(FI-RSVで免疫付与した動物由来の血清)参照試料で観察された比を破線で示す。LLoQを点線で示し(パネルA)、横バーは群の平均応答を表す。
図8-2】Ad26.RSV.preF2.1およびF2.2は、Ad26.RSV.FA2と比べ、単回の免疫付与後、マウスにより多くのウイルス中和抗体を誘導した。Balb/cマウス(1群当たりn=4)に、108~1010個のウイルス粒子(vp)、Ad26.RSV.FA2またはAd26.RSV.preF2.1またはAd26.RSV.preF2.2を表示用量で、または製剤緩衝液で免疫を付与し、免疫付与から8週後に単離した血清中の体液性免疫応答を測定した。(A)ELISAベースの読み取りを行うマイクロ中和アッセイを用いて、RSV A Longに対するウイルス中和抗体を決定した。力価をIC50のlog2値として示す。(B)融合前または融合後のF抗体力価をELISAによって決定し、定量下限(LLoQ)を上回る融合前および融合後F力価を示した全ての試料について、融合前と融合後のF抗体の比を計算した。(C)コーティング試薬として融合後RSV F A2を用いてサブクラスELISAを行い、IgG2a/IgG1比(log10)をプロットする。Th1(RSV F発現アデノウイルスベクターで免疫付与した動物由来の血清)およびTh2(FI-RSVで免疫付与した動物由来の血清)参照試料で観察された比を破線で示す。LLoQを点線で示し(パネルA)、横バーは群の平均応答を表す。
図8-3】Ad26.RSV.preF2.1およびF2.2は、Ad26.RSV.FA2と比べ、単回の免疫付与後、マウスにより多くのウイルス中和抗体を誘導した。Balb/cマウス(1群当たりn=4)に、108~1010個のウイルス粒子(vp)、Ad26.RSV.FA2またはAd26.RSV.preF2.1またはAd26.RSV.preF2.2を表示用量で、または製剤緩衝液で免疫を付与し、免疫付与から8週後に単離した血清中の体液性免疫応答を測定した。(A)ELISAベースの読み取りを行うマイクロ中和アッセイを用いて、RSV A Longに対するウイルス中和抗体を決定した。力価をIC50のlog2値として示す。(B)融合前または融合後のF抗体力価をELISAによって決定し、定量下限(LLoQ)を上回る融合前および融合後F力価を示した全ての試料について、融合前と融合後のF抗体の比を計算した。(C)コーティング試薬として融合後RSV F A2を用いてサブクラスELISAを行い、IgG2a/IgG1比(log10)をプロットする。Th1(RSV F発現アデノウイルスベクターで免疫付与した動物由来の血清)およびTh2(FI-RSVで免疫付与した動物由来の血清)参照試料で観察された比を破線で示す。LLoQを点線で示し(パネルA)、横バーは群の平均応答を表す。
図9】Ad26.RSV.preF2.2は、広範囲のRSV分離株を中和する抗体応答を誘発する。ウイルス粒子(vp)が1010個のAd26.RSV.FA2(n=3)またはAd26.RSV.preF(n=4)または製剤緩衝液(n=2)で免疫付与したBalb/cマウス由来の血清を、表示のRSV A株(上部パネル)およびB株(下部パネル)のウイルス中和アッセイ(ELISAベースの読み取りを行うマイクロ中和アッセイ)で使用した。力価をIC50のlog2値で示し、横バーは1群当たりの平均応答を表す。LLoQは破線で示す。
図10-1】コットンラットは、低用量のAd26.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.preF2.2による単回の免疫付与により、同種RSV A2によるチャレンジから保護される。コットンラット(シグモドン・ヒスピドゥス(Sigmodon hispidus))(1群あたりn=7~9)に、表示の用量(vp/動物)のAd26.RSV.preF2.2、Ad26.RSV.FA2(左パネル)、Ad35.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.FA2(右パネル)を単回筋肉投与して免疫を付与した。対照免疫付与は、製剤緩衝液、FI-RSV、または低用量RSV A2の鼻腔内投与により行った。免疫付与から7週後、動物の鼻腔に105pfuのRSV A2によるチャレンジを行った。チャレンジの5日後、プラークアッセイにより肺(A-B)および鼻(C-D)のウイルス力価を決定した。(E-F)チャレンジ直前に採取した血清を使用して、RSV A Long株のウイルス中和アッセイを行った(ELISAベースの読み取りを行うマイクロ中和アッセイ)。点線は、定量下限(LLoQ)を表す。横バーは群当たりの平均力価を表す。
図10-2】コットンラットは、低用量のAd26.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.preF2.2による単回の免疫付与により、同種RSV A2によるチャレンジから保護される。コットンラット(シグモドン・ヒスピドゥス(Sigmodon hispidus))(1群あたりn=7~9)に、表示の用量(vp/動物)のAd26.RSV.preF2.2、Ad26.RSV.FA2(左パネル)、Ad35.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.FA2(右パネル)を単回筋肉投与して免疫を付与した。対照免疫付与は、製剤緩衝液、FI-RSV、または低用量RSV A2の鼻腔内投与により行った。免疫付与から7週後、動物の鼻腔に105pfuのRSV A2によるチャレンジを行った。チャレンジの5日後、プラークアッセイにより肺(A-B)および鼻(C-D)のウイルス力価を決定した。(E-F)チャレンジ直前に採取した血清を使用して、RSV A Long株のウイルス中和アッセイを行った(ELISAベースの読み取りを行うマイクロ中和アッセイ)。点線は、定量下限(LLoQ)を表す。横バーは群当たりの平均力価を表す。
図10-3】コットンラットは、低用量のAd26.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.preF2.2による単回の免疫付与により、同種RSV A2によるチャレンジから保護される。コットンラット(シグモドン・ヒスピドゥス(Sigmodon hispidus))(1群あたりn=7~9)に、表示の用量(vp/動物)のAd26.RSV.preF2.2、Ad26.RSV.FA2(左パネル)、Ad35.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.FA2(右パネル)を単回筋肉投与して免疫を付与した。対照免疫付与は、製剤緩衝液、FI-RSV、または低用量RSV A2の鼻腔内投与により行った。免疫付与から7週後、動物の鼻腔に105pfuのRSV A2によるチャレンジを行った。チャレンジの5日後、プラークアッセイにより肺(A-B)および鼻(C-D)のウイルス力価を決定した。(E-F)チャレンジ直前に採取した血清を使用して、RSV A Long株のウイルス中和アッセイを行った(ELISAベースの読み取りを行うマイクロ中和アッセイ)。点線は、定量下限(LLoQ)を表す。横バーは群当たりの平均力価を表す。
図11】コットンラットにAd26.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.preF2.2で免疫付与を行うと、RSV A2チャレンジ後に肺胞炎のスコアは増加しない。コットンラット(シグモドン・ヒスピドゥス(Sigmodon hispidus))(1群あたりn=7~9)に、表示の用量(vp/動物)のAd26.RSV.preF2.2、Ad26.RSV.FA2(上パネル)、Ad35.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.FA2(下パネル)を単回筋肉内投与して免疫を付与した。対照免疫付与は、製剤緩衝液、FI-RSV、または低用量RSV A2の鼻腔内投与により行った。免疫付与から7週後、動物の鼻腔に105pfuのRSV A2によるチャレンジを行った。チャレンジの5日後に、1つの肺葉について組織病理学検査を行い、肺胞炎を0~4の非線形スケールでスコア付けした。水平の点線は、ERDに至らないRSVへの自然曝露を再現するために、チャレンジ前にRSV-A2に予め曝露した対照動物の最大スコアを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
RSV Fタンパク質をコードする核酸を含むヒトアデノウイルスを含むRSVワクチンは、既に、国際公開第2013/139911号パンフレットおよび国際公開第2013/139916号パンフレットで報告されている。その中で、RSV Fタンパク質をコードする核酸を含むセロタイプ26または35の組換えアデノウイルスは、十分に確立されたコットンラットモデルにおいてRSVに対して非常に有効なワクチンであり、RSV Fタンパク質をコードするAd5について先に報告されたデータと比較して、改善された効力を有することが示された。RSV FをコードするAd26またはAd35の単回投与でも、筋肉内投与でも、チャレンジRSVの複製を完全に防御するのに十分であることが実証された。
【0024】
しかしながら、RSV Fタンパク質の不安定性のために、RSV Fタンパク質は、未成熟のままより安定な融合後コンフォメーションへとリフォールドする傾向を有する。この現象は、溶液中およびビリオン表面上のいずれの場合にも現れるタンパク質に固有の特徴である。しかしながら、ヒト血清では、大部分のRSV中和抗体は、融合前コンフォメーションのRSV Fに向かう。したがって、本発明を導いた研究では、RSV Fタンパク質を完全長タンパク質状態で融合前コンフォメーションに安定化する改変がいかなるものかを明らかにする努力がなされた。
【0025】
融合前コンフォメーションでRSV Fタンパク質を安定化するいくつかの可能な変異については、既に国際公開第2014/174018号パンフレットおよび国際公開第2014/202570号パンフレットで報告されている。本発明による核酸分子は、変異の特有かつ特定のサブセットを含むRSV Fタンパク質をコードする。本発明によれば、本発明の変異のこの特有の組み合わせが、RSV Fタンパク質発現レベルの増加および融合前コンフォメーションのRSV Fタンパク質の安定性をもたらすことが示された。さらに、本発明による核酸分子が、融合前コンフォメーションで安定化され、かつ、野生型RSV Fタンパク質(国際公開第2013/139911号パンフレットおよび国際公開第2013/139916号パンフレットで開示されているもの)と比較してより高い力価の中和抗体を誘導する、RSV Fタンパク質をコードすることが示された。
【0026】
したがって、第1の態様では、本発明は、融合前呼吸器合胞体ウイルスFタンパク質(RSV融合前Fタンパク質、またはRSV pre-Fタンパク質)をコードする新規の核酸分子であって、RSV pre-Fタンパク質が配列番号1または2のアミノ酸配列を含む核酸分子を提供する。
【0027】
特定の実施形態では、核酸分子は、配列番号1または配列番号2のRSV pre-Fタンパク質をコードする。
【0028】
本明細書中で使用される場合、核酸、核酸分子、核酸またはヌクレオチド配列、およびポリヌクレオチドという用語は、同義で使用され、いずれも、DNAおよびRNAを含むヌクレオチドから作られる線状生体高分子(鎖)を指す。
【0029】
多数の異なる核酸分子が、遺伝子コードの縮重の結果として、同じポリペプチドをコードし得ることは、当業者に理解されている。また、当業者がルーチンの手法を用いて、記述されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行って、ポリペプチドが発現する任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映し得ることも理解されている。したがって、特記されない限り、「アミノ酸配列をコードする核酸配列」には、互いの縮重型であり、かつ同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質をコード化するヌクレオチド配列およびRNAは、イントロンを含み得る。本明細書の配列は、当該技術分野における慣習として、5’から3’の方向に示される。
【0030】
特定の実施形態では、核酸分子は、配列番号1または2のアミノ酸を含む融合前RSV Fの断片をコードする
【0031】
特定の実施形態では、RSV融合前Fタンパク質またはその断片をコードする核酸分子は、ヒト細胞などの哺乳動物細胞での発現のためにコドン最適化されている。コドン最適化の方法は知られており、既に報告されている(例えば、国際公開第96/09378号パンフレット)。
【0032】
特定の実施形態では、RSV融合前Fタンパク質をコードする核酸分子は、配列番号3の核酸配列を含む。特定の実施形態では、RSV Fタンパク質をコードする核酸は、配列番号4の核酸配列を含む。
【0033】
特定の実施形態では、RSV Fタンパク質をコードする核酸は、配列番号3または4の核酸配列からなる。
【0034】
本明細書で使用する「断片」という用語は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端および/または内部が欠失しているが、残りのアミノ酸配列が、完全長RSV Fタンパク質配列、例えば、配列番号1または2のRSV Fタンパク質配列中の対応する位置と同一であるペプチドを指す。免疫応答を誘導するためには、さらに一般的には、ワクチン接種の目的のためには、タンパク質は、完全長である必要も、その野生型の機能を全て有する必要がなく、タンパク質の断片も同等に有用であることは、理解されよう。当業者は、例えばルーチンの分子生物学的手順を用いて、例えばアミノ酸置換、欠失、付加などによりタンパク質を変化させることができることも理解するであろう。一般に、ポリペプチドの機能または免疫原性を喪失させることなく、保存的アミノ酸置換を適用することができる。これは当業者によく知られたルーチンの手順に従って調べることができる。
【0035】
本発明はまた、配列番号1または2のアミノ酸配列を含む融合前RSV Fタンパク質をコードする核酸分子を含むベクターに関する。
【0036】
本発明によれば、ベクターは、組換えDNA手順を都合よく受けることができ、本発明の核酸分子の発現をもたらすことができるものであれば、いかなるベクターであってもよい。ベクターの選択は、通常、ベクターが導入される宿主細胞とのベクターの適合性に依存する。
【0037】
特定の実施形態では、ベクターは、組換えアデノウイルスベクターとも呼ばれるヒト組換えアデノウイルスである。組換えアデノウイルスベクターの調製は、当該技術分野でよく知られている。本明細書で使用される、アデノウイルスに関する用語「組換え」は、アデノウイルスが人為的に改変されていること、例えば、その中に能動的にクローン化された改変末端を有し、かつ/または異種遺伝子を含む、すなわち、天然に存在する野生型アデノウイルスではないことを含意する。
【0038】
特定の実施形態では、本発明によるアデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1領域、例えばE1a領域および/またはE1b領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能が欠損している。特定の実施形態では、本発明によるアデノウイルスベクターは、非必須E3領域の少なくとも一部が欠損している。特定の実施形態では、ベクターは、E1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能と、非必須E3領域の少なくとも一部が欠損している。アデノウイルスベクターは、「多重欠損」であり得、これはアデノウイルスベクターがアデノウイルスゲノムの2つ以上の領域のそれぞれにおいて、1つ以上の必須遺伝子機能が欠損していることを意味する。例えば、前述のE1-欠損またはE1-、E3-欠損アデノウイルスベクターは、E4領域の少なくとも1つの必須遺伝子、および/またはE2領域の少なくとも1つの必須遺伝子(例えば、E2A領域および/またはE2B領域)がさらに欠損していてよい。
【0039】
アデノウイルスベクター、その構築方法およびその増殖方法は、当該技術分野でよく知られており、例えば、米国特許第5,559,099号明細書、同第5,837,511号明細書、同第5,846,782号明細書、同第5,851,806号明細書、同第5,994,106号明細書、同第5,994,128号明細書、同第5,965,541号明細書、同第5,981,225号明細書、同第6,040,174号明細書、同第6,020,191号明細書および同第6,113,913号明細書、それぞれVirology,B.N.Fields et al.,eds.,3d ed.,Raven Press,Ltd.,New York(1996)の67および68章に収録のThomas Shenk,“Adenoviridae and their Replication”およびM.S.Horwitz,“Adenoviruses”、ならびに本明細書で言及している他の参考文献に記載されている。一般的には、アデノウイルスベクターの構築は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)、Watson et al.,Recombinant DNA,2d ed.,Scientific American Books(1992),およびAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,NY(1995)、ならびに本明細書で言及している他の参考文献に記載されているものなどの、標準的な分子生物学的手法の使用を含む。
【0040】
特定の実施形態では、アデノウイルスはセロタイプ26または35のヒトアデノウイルスである。これらのセロタイプに基づく本発明のワクチンは、先行技術に記載されている、Ad5に基づいたものより強力であると思われる。というのも、これらは単回筋肉内投与後にRSVチャレンジの複製に対する完全な防御を提供できなかったからである(Kim et al,2010,Vaccine 28:3801-3808;Kohlmann et al,2009,J Virol 83:12601-12610;Krause et al,2011,Virology Journal 8:375)。本発明のセロタイプは、一般に、ヒト集団において低い血清陽性率、および/または低い既存の中和抗体力価をさらに有する。異なる導入遺伝子を有する、これらのセロタイプの組換えアデノウイルスベクターは、臨床試験において評価されており、これまでのところ、卓越した安全性プロファイルを有することが示されている。rAd26ベクターの調製は、例えば、国際公開第2007/104792号パンフレットおよびAbbink et al.,(2007)Virol 81(9):4654-63に記載されている。Ad26のゲノム配列の例は、GenBankアクセッション番号EF153474および国際公開第2007/104792号パンフレットの配列番号1の中に見出される。rAd35ベクターの調製については、例えば、米国特許第7,270,811号明細書、国際公開第00/70071号パンフレット、およびVogels et al.,(2003)J Virol 77(15):8263-71に記載されている。Ad35のゲノム配列の例は、GenBankアクセッション番号AC_000019、および国際公開第00/70071号パンフレットの図6の中に見出される。
【0041】
本発明による組換えアデノウイルスは、複製コンピテントまたは複製欠損であり得る。特定の実施形態では、アデノウイルスは複製欠損であり、例えば、これはこのアデノウイルスがゲノムのE1領域に欠失を含むためである。当業者に知られているように、アデノウイルスゲノムからの必須領域の欠失の場合、これらの領域でコード化された機能は、好ましくはプロデューサー細胞によってトランスに提供される必要がある。すなわちE1、E2および/またはE4領域の一部または全部がアデノウイルスから欠失した場合、これらはプロデューサー細胞内に、例えばそのゲノムに組み込まれて、またはいわゆるヘルパーアデノウイルスもしくはヘルパープラスミドの形態で存在する必要がある。アデノウイルスは、E3領域内の欠失も有し得るが、これは複製に不要であるため、そのような欠失は補完される必要がない。
【0042】
使用し得るプロデューサー細胞(時々、当該技術分野および本明細書では「パッケージング細胞」または「補完細胞」または「宿主細胞」とも称される)は、所望のアデノウイルスが増殖できる任意のプロデューサー細胞であってよい。例えば、組換えアデノウイルスベクターの増殖は、アデノウイルス内の欠損を補完するプロデューサー細胞内で行われる。そのようなプロデューサー細胞は、好ましくはそれらのゲノム内に少なくとも1つのアデノウイルスE1配列を有し、それによりE1領域内に欠失を有する組換えアデノウイルスを補完することができる。E1を補完する任意のプロデューサー細胞、例えば、E1により不死化されたヒト網膜細胞、例えば911細胞またはPER.C6細胞(米国特許第5,994,128号明細書を参照)、E1で形質転換された羊膜細胞(欧州特許第1230354号明細書を参照)、E1で形質転換されたA549細胞(例えば、国際公開第98/39411号パンフレット、米国特許第5,891,690号明細書を参照)、GH329:HeLa(Gao et al,2000,Human Gene Therapy 11:213-219)、293などを使用することができる。特定の実施形態では、プロデューサー細胞は、例えばHEK293細胞、またはPER.C6細胞、または911細胞、またはIT293SF細胞などである。
【0043】
Ad35(亜群B)またはAd26(亜群D)など、亜群CでないE1欠損アデノウイルスについては、これらの亜群CでないアデノウイルスのE4-orf6コード配列を、Ad5などの亜群CのアデノウイルスのE4-orf6と交換することが好ましい。これにより、例えば、293細胞またはPER.C6細胞などの、Ad5のE1遺伝子を発現する、よく知られた補完細胞株内で、そうしたアデノウイルスの増殖が可能になる(例えば、Havenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135-2143;国際公開第03/104467号パンフレット(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)。特定の実施形態では、使用することができるアデノウイルスは、RSV Fタンパク質抗原をコードする核酸がクローニングされている、E1領域中に欠失を有し、かつAd5のE4 orf6領域を有する、セロタイプ35のヒトアデノウイルスである。特定の実施形態では、本発明のワクチン組成物中のアデノウイルスは、RSV Fタンパク質抗原をコードする核酸がクローニングされている、E1領域中に欠失を有し、かつAd5のE4 orf6領域を有する、セロタイプ26のヒトアデノウイルスである。
【0044】
代替の実施形態では、アデノウイルスベクター中に異種E4orf6領域(例えば、Ad5の)を配置する必要はないが、代わりに、E1欠失の亜群CでないベクターをE1および両立可能なE4orf6の両者を発現する細胞株、例えば、Ad5からE1およびE4orf6の両方を発現する293-ORF6細胞株中で増殖させる(例えば、293-ORF6細胞の生成について記載があるBrough et al,1996,J Virol 70:6497-501;そのような細胞株を用いて、E1欠失の亜群Cでないアデノウイルスベクターの生成についてそれぞれ記載があるAbrahamsen et al,1997,J Virol 71:8946-51およびNan et al,2003,Gene Therapy 10:326-36を参照)。
【0045】
あるいは、増殖させるべきセロタイプ由来のE1を発現する補完細胞を使用することができる(例えば、国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレットを参照)。
【0046】
E1領域に欠失を有するAd35などの亜群Bアデノウイルスでは、例えば、pIX開始コドンのすぐ上流の243bp断片(Ad35ゲノム中のBsu36I制限部位によって5’末端で標識される)などの、pIXオープンリーディングフレームのすぐ上流の166bpまたはこれを含む断片など、アデノウイルスのE1B 55Kオープンリーディングフレームの3’末端を保持することが好ましいが、これはpIX遺伝子のプロモーターがこの領域に部分的に存在することから、アデノウイルスの安定性を高めるためである(例えば、Havenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135-2143;国際公開第2004/001032号パンフレット(これらは参照により本明細書に組み込まれる)を参照)。
【0047】
本発明のアデノウイルスにおける「異種核酸」(本明細書では「導入遺伝子」とも称される)は、アデノウイルスに天然には存在しない核酸である。これは、例えば、標準的な分子生物学的手法によって、アデノウイルスに導入される。本発明では、異種核酸は、配列番号1または2のアミノ酸配列を含むRSV pre-Fタンパク質(またはその断片)をコードする。これは、例えば、アデノウイルスベクターの欠失E1またはE3領域にクローン化され得る。導入遺伝子は、一般に、発現制御配列と作動可能に連結される。これは、例えば、導入遺伝子をコードする核酸をプロモーターの制御下に置くことで実施され得る。さらなる調節配列を加えることもできる。導入遺伝子の発現のために、多数のプロモーターを使用することができ、それらは当業者に知られている。真核細胞内での発現を得るのに適したプロモーターの非限定的な例として、CMVプロモーター(米国特許第5,385,839号明細書)、例えばCMV最初期プロモーター、例えばCMV最初期遺伝子エンハンサー/プロモーターからのnt.-735~+95を含むものが挙げられる。ポリアデニル化シグナル、例えばウシ成長ホルモンのポリAシグナル(米国特許第5,122,458号明細書)を導入遺伝子の後に存在させることができる。
【0048】
特定の実施形態では、本発明の組換えアデノベクターは、5’末端ヌクレオチドとしてヌクレオチド配列CTATCTATを含む。これらの実施形態は、元の5’末端配列(一般にCATCATCA)を有するベクター(また2012年3月12日にCrucell Holland B.V.の名前で出願された「Batches of recombinant adenovirus with altered terminal ends」という名称の、特許出願番号PCT/EP2013/054846号明細書および米国特許出願第13/794,318号明細書(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)と比較して、そのようなベクターが生産プロセスにおいて改良された複製を示し、改良された均質性を有するアデノウイルスのバッチを生じるので有利である。したがって、本発明はまた、RSV Fタンパク質またはその一部をコードする組換えアデノウイルスのバッチであって、RSV Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含み、かつ基本的にバッチ中のアデノウイルスの全て(例えば、少なくとも90%)は、末端ヌクレオチド配列CTATCTATを有するゲノムを含むバッチを提供する。
【0049】
特定の実施形態では、核酸分子は、RSV融合前Fタンパク質の断片をコードすることができる。この断片は、アミノ末端の欠失およびカルボキシ末端の欠失のいずれかまたはその両方から生じるものであってよい。欠失の程度は、例えば組換えアデノウイルスがより高収率で得られるように、当業者が決定することができる。この断片は、Fタンパク質の免疫学的に活性な断片、すなわち、対象に免疫応答を生じさせる部分を含むように選択されるであろう。これは、当業者には全てルーチン的である、インシリコ、インビトロ、および/またはインビボの方法を使用して容易に決定することができる。
【0050】
本発明はさらに、配列番号1または2のアミノ酸配列を含む、融合前RSV Fをコードする核酸分子を含む組成物を提供する。
【0051】
また、本発明は、本明細書に記載のベクターを含む組成物を提供する。
【0052】
特定の実施形態では、核酸分子および/またはベクターを含む組成物は、対象のRSVの感染および/または複製の低減に使用するものである。特定の好ましい実施形態では、組成物は、RSVに対するワクチンとしての使用するものである。「ワクチン」という用語は、特定の病原体または疾病に対して治療程度の免疫を対象に誘導する効力がある活性成分を含む薬剤または組成物を指す。本発明では、ワクチンは、配列番号1もしくは2を含むRSV融合前Fタンパク質、またはその抗原フラグメントをコードする有効量の核酸分子を含み、RSVのFタンパク質に対する免疫応答を誘導する。これは、入院が必要となる重篤な下気道疾患を予防し、対象のRSV感染および複製による肺炎および細気管支炎などの合併症の頻度を低減する方法を提供する。したがって、本発明はまた、重篤な下気道疾患を予防または軽減し、入院を予防または軽減(例えば、短縮)し、かつ/またはRSVによって引き起こされる対象の肺炎または細気管支炎の頻度および/もしくは重症度を低減するための方法であって、RSV pre-Fタンパク質またはその断片をコードする核酸分子を含む組成物を対象に投与することを含み、RSV Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む方法を提供する。本発明による「ワクチン」という用語は、それが医薬組成物であり、したがって、通常、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含むことを意味する。それは、さらなる活性成分を含んでもよく含まなくてもよい。特定の実施形態では、それは、例えばRSVの他のタンパク質および/または他の感染因子に対する免疫応答を誘導する他の成分をさらに含む組み合せワクチンであってもよい。
【0053】
特定の実施形態では、核酸分子またはベクターを含む組成物は、1つ以上のアジュバントをさらに含むか、または一緒に投与される。アジュバントは、適用される抗原決定基に対する免疫応答をさらに増大させることが当該技術分野で知られており、アデノウイルスおよび好適なアジュバントを含む医薬組成物は、例えば、国際公開第2007/110409号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。「アジュバント」および「免疫刺激剤」という用語は、本明細書では同義的に使用され、免疫系の刺激を引き起こす1種または複数種の物質と定義される。これに関連して、アジュバントは、本発明のRSV融合前Fタンパク質に対する免疫応答を増強するために使用される。好適なアジュバントの例としては、水酸化アルミニウムおよび/またはリン酸アルミニウム塩などのアルミニウム塩;MF59などのスクアレン-水エマルションをはじめとする油エマルション組成物(または水中油型組成物)(例えば、国際公開第90/14837号パンフレットを参照);例えば、QS21および免疫賦活性錯体(ISCOMS)などのサポニン製剤(例えば、米国特許第5,057,540号明細書;国際公開第90/03184号パンフレット、国際公開第96/11711号パンフレット、国際公開第2004/004762号パンフレット、国際公開第2005/002620号パンフレットを参照);その例が、大腸菌(E.coli)易熱性エンテロトキシンLT、コレラ毒素CTなどである、モノホスホリルリピドA(MPL)、3-O-脱アシル化MPL(3dMPL)、CpGモチーフ含有オリゴヌクレオチド、ADPリボース化細菌毒素またはそれらの変異体などの細菌または微生物派生物が挙げられる。また、例えば、C4-結合タンパク質(C4bp)のオリゴマー化ドメインと目的の抗原との融合物をコードする異種核酸を使用することにより、ベクターにコードされたアジュバントを使用することも可能である(例えば、Solabomi et al,2008,Infect Immun 76:3817-23)。特定の実施形態では、本発明の組成物は、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウムアルミニウム、またはそれらの組み合わせの形態のアルミニウムを、1用量当たり0.05~5mg、例えば0.075~1.0mgのアルミニウム含有量となる濃度で、アジュバントとして含む。
【0054】
他の実施形態では、組成物はアジュバントを含まない。
【0055】
本発明によれば、さらなる活性成分を、本発明による組成物、例えばワクチンと組み合わせて投与することも可能である。そのようなさらなる活性成分は、例えば、他のRSV抗原またはそれらをコードする核酸を含むベクターを含むことができる。そのようなベクターは、非アデノウイルス性またはアデノウイルス性であってよく、後者は任意のセロタイプであってよい。他のRSV抗原の例としては、RSV FもしくはGタンパク質またはその免疫学的に活性な部分が挙げられる。例えば、G糖タンパク質の可溶性コアドメイン(アミノ酸130~230)を発現する、鼻腔内適用の組換え複製-欠損Ad5ベースのアデノベクターrAd/3xGは、マウスモデルでは保護的であり(Yu et al,2008,J Virol 82:2350-2357)、それを筋肉内適用した場合には保護的ではないが、これらのデータから、RSV Gが保護応答を誘導するのに好適な抗原であることは明らかである。さらなる活性成分はまた、例えばウイルス、細菌、寄生生物などの他の病原体に由来する非RSV抗原を含むことができる。さらなる活性成分の投与は、例えば、個別投与によって行われても、本発明のワクチンおよびさらなる活性成分のワクチンの併用製品を投与することによって行われてもよい。特定の実施形態では、さらなる非アデノウイルス抗原を(RSV.Fに加えて)、本発明のベクターにコードすることができる。したがって、特定の実施形態では、単一のアデノウイルスから1種を超えるタンパク質の発現が望ましい可能性があり、そのような場合、例えばより多くのコード化配列が結合されて、単一の発現カセットから単一の転写産物が形成され得るか、または、アデノウイルスゲノムの異なる部分内にクローン化された2つの別個の発現カセット内に存在し得る。
【0056】
本発明の組成物、例えばアデノウイルス組成物は、対象、例えばヒト対象に投与することができる。1回の投与の間に対象に提供されるアデノウイルスの総用量は、当業者に知られているように変化させることができ、一般に1×107ウイルス粒子(vp)~1×1012vp、好ましくは1×108vp~1×1011vp、例えば3×108~5×1010vp、例えば109~3×1010vpである。
【0057】
組成物の投与は、標準的な投与経路を用いて行うことができる。非限定的な実施形態は、注射などによる非経口投与、例えば皮内、筋内など、または皮下、経皮、または粘膜投与、例えば鼻腔内、経口などを含む。鼻腔内投与は、一般に、RSVに対するワクチンの好ましい経路と見なされている。生鼻腔内法の最も重要な利点は、局所呼吸器免疫の直接刺激および付随する疾患増強の欠如である。現在、小児への使用で臨床評価されている唯一のワクチンは、生鼻腔内ワクチンである(Collins and Murphy.「Vaccines against human respiratory syncytial virus」in:Perspectives in Medical Virology 14:Respiratory Syncytial Virus(Ed.Cane,P.),Elsevier,Amsterdam,the Netherlands,pp233-277)。鼻腔内投与は、本発明によれば同様に適切な好ましい経路である。筋内投与の利点は、簡単でかつ十分に確立されていることであり、6カ月未満の乳児に対する鼻腔内適用の安全性の懸念がないことである。一実施形態では、組成物は、例えば、腕の三角筋、または大腿の外側広筋への筋肉内注射によって投与される。当業者は、ワクチン中の抗原に対する免疫応答を誘導するために、組成物、例えばワクチンを投与する様々な可能性を認識している。
【0058】
本明細書で使用する対象は、好ましくは哺乳動物、例えば、げっ歯類、例えばマウス、コットンラットなど、または非ヒト霊長類、またはヒトである。対象は、好ましくは、ヒト対象である。対象は、任意の年齢、例えば約1月齢~100年齢、例えば約2月齢~約80年齢、例えば約1月齢~約3年齢、約3年齢~約50年齢、約50年齢~約75年齢などであり得る。
【0059】
本発明の1種以上の組成物、例えばワクチンの1回以上の追加免疫投与を提供することも可能である。追加免疫ワクチン接種を行う場合、一般に、そのような追加免疫ワクチン接種は、組成物を対象に最初に投与(これは、こうした場合、「初回ワクチン接種」と称される)した後、1週間~1年、好ましくは2週間~4カ月の時点で、同じ対象に投与されるであろう。代替の追加免疫レジメンでは、異なるベクター、例えば異なるセロタイプの1つ以上のアデノウイルス、またはMVAなどの他のベクター、またはDNA、またはタンパク質を、初回ワクチン接種の後で対象に投与することも可能である。例えば、初回免疫として融合前RSV Fタンパク質をコードする核酸配列を含む組換えアデノウイルスベクターを対象に投与し、RSV Fタンパク質を含む組成物で追加免疫することが可能である。特定の実施形態では、RSV Fタンパク質はまた、融合前コンフォメーションで安定化される。
【0060】
特定の実施形態では、投与は、初回免疫投与および少なくとも1回の追加免疫投与を含む。特定の実施形態では、組成物は、初回免疫-追加免疫ワクチン接種レジメンにおいて、初回免疫組成物として、および/または追加免疫組成物として投与される。その特定の実施形態では、初回免疫投与は、RSV pre-Fタンパク質またはその断片をコードする核酸を含むrAd35(「rAd35-RSV.pre-F」)を用い(RSV F pre-Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む)、追加免疫投与は、RSV Fタンパク質をコードする核酸を含むrAd26(「rAd26-RSV.pre-F」)を用いる(RSV pre-Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む)。その、他の実施形態では、初回免疫投与はrAd26-RSV.pre-Fを用い、追加免疫投与はrAd35-RSV.pre-Fを用いる。他の実施形態では、初回免疫投与および追加免疫投与の両者とも、rAd26.RSV.pre-Fを用いる。特定の実施形態では、初回免疫投与はrAd26-RSV.pre-FまたはrAd35-RSV.pre-Fを用い、追加免疫投与はRSV Fタンパク質を用いる。これらの全ての実施形態で、同じまたは他のベクターまたはタンパク質を用いてさらなる追加免疫投与を提供することが可能である。RSV Fタンパク質を用いる追加免疫が特に有益となり得る実施形態には、例えば、50歳以上のリスク群(例えば、COPDまたは喘息に罹患)の高齢対象、または例えば60歳以上もしくは65歳以上の健常対象におけるものが含まれる。
【0061】
特定の実施形態では、投与は、さらなる(追加免疫)投与なしでの、本発明による組成物の単回投与を含む。そのような実施形態は、初回免疫-追加免疫レジメンと比較して、単回投与レジメンでは複雑性および費用が低減される点で有利である。本明細書の実施例におけるコットンラットモデルでは、本発明の組換えアデノウイルスベクターの単回投与後、追加免疫投与を行わなくとも、完全な防御が既に観察されている。
【0062】
さらなる態様では、本発明はさらに、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対するワクチンを作製する方法であって、RSV Fタンパク質またはその断片をコードする核酸を含む組換えヒトアデノウイルスを用意する工程と、前記組換えアデノウイルスを宿主細胞の培養物中で増殖させる工程と、組換えアデノウイルスを単離および精製する工程と、組換えアデノウイルスを薬学的に許容される組成物で製剤化する工程とを含み、RSV Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む方法を提供する。
【0063】
組換えアデノウイルスは、アデノウイルスで感染させた宿主細胞の細胞培養を含む、よく知られた方法に従って宿主細胞内で調製および増殖され得る。細胞培養は、付着細胞培養、例えば培養容器の表面またはマイクロキャリアに付着した細胞、および懸濁培養を含む、いかなるタイプの細胞培養であってもよい。
【0064】
大抵の大規模懸濁培養は、操作およびスケールアップが最も簡単であるため、バッチ法または流加法として操作される。最近、灌流原理に基づいた連続法がより一般的となり始め、好適でもある(例えば、国際公開第2010/060719号パンフレットおよび国際公開第2011/098592号パンフレットを参照。これらには大量の組換えアデノウイルスの獲得および精製に好適な方法が記載されており、いずれも参照により本明細書に組み込まれる)。
【0065】
プロデューサー細胞は培養されて、細胞およびウイルスの数、ならびに/またはウイルス力価を増大させる。細胞の培養は、本発明による目的ウイルスの代謝、および/または成長、および/または分裂、および/または生成を可能にするように行われる。これは、当業者によく知られた方法により達成することができ、限定はされないが、例えば適切な培養培地中で細胞に栄養素を供給することを含む。好適な培養培地は当業者によく知られており、一般に、商業的供給源から大量に得られ、または標準的なプロトコルに従ってカスタムメイドすることができる。培養は、例えば、バッチ、流加、連続系などを使用して、シャーレ、ローラーボトルまたはバイオリアクター内で行うことができる。細胞を培養するための好適な条件は知られている(例えば、Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Paterson,editors(1973)、およびR.I.Freshney,Culture of animal cells:A manual of basic technique,fourth edition(Wiley-Liss Inc.,2000,ISBN 0-471-34889-9を参照)。
【0066】
通常、アデノウイルスは、培養物中の適切なプロデューサー細胞に暴露され、ウイルスが取り込まれる。通常、最適な撹拌は約50~300rpm、典型的には約100~200、例えば約150であり、典型的なDOは20~60%、例えば40%であり、最適pHは6.7~7.7であり、最適温度は30~39℃、例えば34~37℃であり、最適MOIは5~1000、例えば約50~300である。典型的には、アデノウイルスはプロデューサー細胞に自然に感染し、細胞を感染させるのには、プロデューサー細胞をrAd粒子と接触させれば十分である。一般に、アデノウイルスのシードストックを培養液に加えて感染を開始させ、その後、アデノウイルスはプロデューサー細胞内で増殖する。これらは全て当業者にはルーチン的である。
【0067】
アデノウイルスの感染後、ウイルスは細胞内で複製し、それにより増幅され、このプロセスは、本明細書ではアデノウイルスの増殖と称される。アデノウイルス感染は最終的には、感染した細胞の溶解をもたらす。したがってアデノウイルスの溶解特性はウイルス産生の2つの異なるモードを可能にする。第1のモードは、細胞を溶解するのに外部因子を使用し、細胞溶解に先立ってウイルスを回収することである。第2のモードは、生成されたウイルスによって(殆ど)完全に細胞が溶解した後に、ウイルス上清を回収することである(例えば、外部因子によって宿主細胞を溶解しないアデノウイルスの回収を記載している米国特許第6,485,958号明細書を参照)。外部因子を使用して、細胞を積極的に溶解してアデノウイルスを回収することが好ましい。
【0068】
積極的な細胞溶解に使用することができる方法は、当業者に知られており、例えば、国際公開第98/22588号パンフレット、p.28-35に論じられている。これに関する有用な方法は、例えば、凍結融解、固体せん断、高張および/または低張溶解、液体せん断、超音波処理、高圧押出、洗浄剤溶解、上記の組み合わせなどである。本発明の一実施形態では、細胞は、少なくとも1種の洗浄剤を使用して溶解する。溶解のための洗浄剤の使用は、方法が容易であること、および容易に拡大可能であることの利点を有する。
【0069】
使用できる洗浄剤、およびその使用方法は、一般に当業者に知られている。いくつかの例が、例えば、国際公開第98/22588号パンフレット、p29-33で論じられている。洗浄剤としては、陰イオン性、陽イオン性、双性イオン性および非イオン性洗浄剤を挙げることができる。洗浄剤の濃度は、例えば約0.1%~5%(w/w)の範囲内で変動してもよい。一実施形態では、使用する洗浄剤は、Triton X-100である。
【0070】
ヌクレアーゼを使用して、混入核酸、すなわち、ほとんどがプロデューサー細胞由来の核酸を除去することができる。本発明での使用に好適なヌクレアーゼの例としては、Benzonase(登録商標)、Pulmozyme(登録商標)、または当該技術分野内で一般に使用されている任意のその他のDNaseおよび/またはRNaseが挙げられる。好ましい実施形態では、ヌクレアーゼはBenzonase(登録商標)であり、これは特定のヌクレオチド間の内部リン酸ジエステル結合の加水分解によって核酸を迅速に加水分解し、それにより細胞溶解産物の粘度を低下させる。Benzonase(登録商標)は、Merck KGaAから商業的に入手し得る(コードW214950)。ヌクレアーゼが使用される濃度は、好ましくは1~100単位/mlの範囲内である。ヌクレアーゼ処理の代替として、またはヌクレアーゼ処理に加えて、アデノウイルスの精製中に、ドミフェン臭化物などの選択的沈澱剤を使用して、アデノウイルス調製物から宿主細胞DNAを選択的に沈殿除去することも可能である(例えば、米国特許第7,326,555号明細書;Goerke et al.,2005,Biotechnology and bioengineering,Vol.91:12-21;国際公開第2011/045378号パンフレット;国際公開第2011/045381号パンフレットを参照)。
【0071】
プロデューサー細胞の培養物からアデノウイルスを回収する方法は、国際公開第2005/080556号パンフレットに広範に記載されている。
【0072】
特定の実施形態では、回収されたアデノウイルスは、さらに精製される。アデノウイルスの精製は、数工程で行うことができ、例えば国際公開第05/080556号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている清澄化、限外ろ過、ダイアフィルトレーションまたはクロマトグラフィーを用いた分離を含む。清澄化は、ろ過工程により行うことができ、細胞溶解物から細胞デブリおよび他の不純物を除去する。限外ろ過は、ウイルス溶液の濃縮に使用される。限外ろ過装置を使用するダイアフィルトレーション、または緩衝液交換は、塩、糖などの除去および交換のための一方法である。当業者は、各精製工程の最適な条件を見出す方法を知っている。国際公開第98/22588号パンフレット(この全体が参照により本明細書に組み込まれる)も、アデノウイルスベクターの生成および精製方法を記載している。これらの方法は、宿主細胞を成長させ、この宿主細胞をアデノウイルスで感染させ、この宿主細胞を回収および溶解し、粗溶解物を濃縮し、粗溶解物の緩衝液を交換し、この溶解物をヌクレアーゼで処理し、クロマトグラフィーを用いてウイルスをさらに精製することを含む。
【0073】
好ましくは、精製には、例えば国際公開第98/22588号パンフレット、p.61-70に論じられているように、少なくとも1つのクロマトグラフィー工程が使用される。アデノウイルスのさらなる精製に関して多数のプロセスが記載されており、当該プロセスにはクロマトグラフィー工程が含まれている。当業者は、これらのプロセスを知っており、プロセスを最適化するために、クロマトグラフ工程の厳密な使用法を変更することができる。例えば、アニオンイオン交換クロマトグラフィー工程によりアデノウイルスを精製することが可能であり、例えば、国際公開第2005/080556号パンフレット、およびKonz et al,2005,Hum Gene Ther 16:1346-1353を参照されたい。多数の他のアデノウイルス精製方法が報告されており、これらは当業者の手の届く範囲にある。アデノウイルスを生成および精製するさらなる方法は、例えば(国際公開第00/32754号パンフレット;国際公開第04/020971号パンフレット;米国特許第5,837,520号明細書;米国特許第6,261,823号明細書;国際公開第2006/108707号パンフレット;Konz et al,2008,Methods Mol Biol 434:13-23;Altaras et al,2005,Adv Biochem Eng Biotechnol 99:193-260)に開示されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
ヒトに投与するために、本発明は、rAdと薬学的に許容される担体または賦形剤含む医薬組成物を用い得る。この場合、「薬学的に許容される」という用語は、担体または賦形剤が、使用する投与量および濃度で、それらを投与する対象に望ましくない影響も悪影響も何ら引き起こさないことを意味する。このような薬学的に許容される担体および賦形剤は、当該技術分野でよく知られている(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,A.R.Gennaro,Ed.,Mack Publishing Company[1990];Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins,S.Frokjaer and L.Hovgaard,Eds.,Taylor&Francis[2000];およびHandbook of Pharmaceutical Excipients,3rd edition,A.Kibbe,Ed.,Pharmaceutical Press[2000]を参照)。精製されたrAdは、好ましくは滅菌溶液として処方されて投与されるが、凍結乾燥製剤を利用することも可能である。滅菌溶液は、滅菌ろ過または当該技術分野でそれ自体知られている他の方法によって調製される。その後、溶液は凍結乾燥されるか、または医薬投与容器に充填される。溶液のpHは、一般にpH3.0~9.5、例えばpH5.0~7.5の範囲内である。rAdは、通常、好適な薬学的に許容される緩衝剤を含む溶液中にあり、rAdの溶液は塩を含有することもある。任意選択により、アルブミンなどの安定剤が含まれる。特定の実施形態では、洗浄剤が添加される。特定の実施形態では、rAdは注射用調製物として製剤してもよい。これらの製剤は有効量のrAdを含み、滅菌液体溶液、液体懸濁液または凍結乾燥バージョンのいずれかであり、任意選択により安定剤または賦形剤を含有する。アデノウイルスワクチンはまた、鼻腔内投与用にエアロゾル化されてもよい(例えば、国際公開第2009/117134号パンフレットを参照)。
【0075】
例えば、アデノウイルスは、Adenovirus World Standard(Hoganson et al,Development of a stable adenoviral vector formulation,Bioprocessing March 2002,p.43-48)にも使用される緩衝液:20mM トリス pH8、25mM NaCl、2.5%グリセロール中に保存することができる。ヒトへの投与に好適な他の有用な製剤緩衝液は、20mMのトリス、2mMのMgCl、25mMのNaCl、10%w/vのスクロース、0.02%w/vのポリソルベート80である。他の多くの緩衝液を使用できることは明らかであり、保存、および精製(アデノ)ウイルス調製物の医薬品としての投与に好適な製剤の例は、例えば欧州特許第0853660号明細書、米国特許第6,225,289号明細書、および国際特許出願の国際公開第99/41416号パンフレット、国際公開第99/12568号パンフレット、国際公開第00/29024号パンフレット、国際公開第01/66137号パンフレット、国際公開第03/049763号パンフレット、国際公開第03/078592号パンフレット、国際公開第03/061708号パンフレットに見出すことができる。

本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.融合前コンフォメーションで安定化されるRSV Fタンパク質(融合前RSV Fタンパク質)をコードする核酸分子であって、前記RSV Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む核酸分子。
2.前記融合前RSV Fタンパク質をコードする前記核酸は、ヒト細胞での発現のためにコドン最適化されている上記1に記載の核酸分子。
3.前記融合前RSV Fタンパク質をコードする前記核酸は、配列番号3または4の核酸配列を含む上記1または2に記載の核酸分子。
4.上記1、2または3に記載の核酸分子を含むベクター。
5.前記ベクターはヒト組換えアデノウイルスである上記4に記載のベクター。
6.前記組換えヒトアデノウイルスは、アデノウイルスゲノムのE1領域中の欠失、E3領域中の欠失、またはE1およびE3の両領域中の欠失を有している上記5に記載のベクター。
7.前記アデノウイルスがセロタイプ26または35のアデノウイルスである上記5または6に記載のベクター。
8.前記組換えアデノウイルスは、その5’末端に配列CTATCTATを含むゲノムを有する上記5、6または7に記載のベクター。
9.上記1、2または3に記載の核酸分子を含む医薬組成物。
10.上記5~8のいずれかに記載のベクターを含む医薬組成物。
11.対象にRSVに対するワクチンを接種する方法であって、前記対象に上記9または10に記載の組成物を投与することを含む方法。
12.前記対象にRSV Fタンパク質を投与することをさらに含む上記11に記載の方法。
13.対象におけるRSVの感染および/または複製を減少させる方法であって、前記対象に、上記1、2または3に記載の融合前RSV Fタンパク質またはその断片をコードする核酸を含む組成物を投与することを含む方法。
14.対象におけるRSVの感染および/または複製を減少させる方法であって、前記対象に、上記5~8のいずれかに記載のベクターを含む組成物を投与することを含む方法。
15.上記1、2または3に記載の融合前RSV Fタンパク質またはその断片をコードする核酸を含む単離宿主細胞。
16.呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対するワクチンを作製する方法であって、融合前RSV Fタンパク質またはその断片をコードする核酸を含む組換えヒトアデノウイルスを用意する工程と、前記組換えアデノウイルスを宿主細胞の培養物中で増殖させる工程と、前記組換えアデノウイルスを単離および精製する工程と、前記組換えアデノウイルスを薬学的に許容される組成物で製剤化する工程とを含み、前記融合前RSV Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む方法。
17.融合前RSV Fタンパク質またはその断片をコードする核酸を含む、組換えヒトアデノウイルスのゲノムを形成する単離組換え核酸であって、前記融合前RSV Fタンパク質は配列番号1または2のアミノ酸配列を含む単離核酸。
【0076】
以下の実施例で本発明をさらに説明する。実施例は、決して本発明を限定するものではない。それらは、発明を明確にする役割を果たすのみである。
【実施例
【0077】
実施例1.RSV Fタンパク質の融合前コンフォメーションでの安定化
塩基性RSV F配列をコードするプラスミドを合成し、部位特異的変異誘発によりアミノ酸置換をタンパク質に導入した。タンパク質変異体を、HEK293細胞内で一時的に発現させた。細胞表面上の相対的なタンパク質発現を、フローサイトメトリーによって評価した。融合前コンフォメーションでのFタンパク質の安定性を、熱安定性アッセイで評価した。
【0078】
RSV A2 Fタンパク質変異体に使用したタンパク質配列は、GenBankアクセッション番号ACO83301.1から読み出した。アミノ酸置換を部位特異的変異誘発によって配列に導入した(QuikChange II XL Site-Directed Mutagenesis Kit、Agilent technologies)。変異誘発プライマーを、オンラインツールPrimerXを用いて設計した。HEK293T細胞(CRL-11268)をAmerican Tissue Culture Collectionから購入し、標準的な細胞培養条件下(37℃、10%CO2)で培養した。
【0079】
完全長ヒトIgG1抗RSV Fタンパク質抗体CR9501およびCR9503を、重鎖(VH)および軽鎖(VL)可変領域を単一のIgG1発現ベクターにクローニングすることによって構築した。PER.C6(登録商標)細胞(Crucell)をIgG1発現コンストラクトでトランスフェクトし、POROS Mabcapture Aクロマトグラフィー(Applied Biosystems)を用いて、培養物上清からの発現抗体を精製し、その後、緩衝液を50mM NaAc、50mM NaCl、pH5.5に交換した。抗体濃度を280nmでの光吸収によって測定した。抗体の質も、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、SDS-PAGEおよび等電点電気泳動によって確認した。抗体CR9501は、融合前コンフォメーションのRSV Fタンパク質に特異的に結合し、融合後コンフォメーションには結合しない58C5(WO2011/020079に記載されているような)のVHおよびVL領域を含む。CR9503は、RSV Fの融合前および融合後コンフォメーションの両方を認識するモタビズマブのVHおよびVL領域を含む。
【0080】
タンパク質の発現および温度処理:
供給業者の推奨に従って293fectine(カタログ番号12347-019)トランスフェクション試薬(Life Technologies)を使用し、接着性HEK293T細胞にプラスミドを一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、EDTA含有FACS緩衝液(トリプシン含まず、次の節を参照)で剥離することによって細胞を回収し、温度安定性実験のために、水浴またはPCRブロックで10分間、細胞懸濁液を熱処理した。熱処理後、細胞をフローサイトメトリー分析のために調製した。
【0081】
アデノ発現Fタンパク質の分析のために、Ad26ウイルスを10000または5000MOIで、またAd35ウイルスを5000、2500または1250MOIで、A549細胞に感染させた。48時間後、細胞を剥離し、37℃、50℃および56℃で15分間熱処理した。熱処理終了後、CR9501-Alexa647またはCR9503-Alexa647およびヨウ化プロピジウム(PI)を用いて細胞を染色した。染色後、細胞を固定し、BD FACS CANTO II細胞分析器を用いて分析した。
【0082】
フローサイトメトリー分析:
それぞれの染色には、以下の対照を含めた:1)陰性対照試料。すなわち、いかなる処理にも供されず、フルオロフォアで標識されたいかなる抗体でも染色されなかった細胞;2)陽性対照試料、すなわち、1つのフルオロフォア(実験のために使用されるものの1つ)でのみ染色された細胞。
【0083】
細胞をフローサイトメトリー(FC緩衝液、5mM EDTA、PBS中1%FBS)に再懸濁し、蓋付き96ウェルプレート(U底またはV底プレート)に1ウェルあたり50μlの体積の細胞懸濁液を分配した。2段階または1段階の手順で染色した。
【0084】
2段階手順の場合、50μlの第1のAb(または陰性対照では緩衝液)をウェルに添加し、RTで30分間インキュベートした。ビオチン化CR9501およびCR9503を2μg/mlで使用した(ウェル中の最終濃度は1μg/ml)。インキュベーション後、FC緩衝液で細胞を2回洗浄した。その後、50μlのストレプトアビジン-APC(Molecular Probesカタログ番号SA1005、0.1mg/mlを1:100で使用)または陰性対照では緩衝液をウェルに添加し、RTで30分間インキュベートした。インキュベーション後、再度、FC緩衝液で細胞を2回洗浄した。最後の洗浄後、細胞を100μlのFC緩衝液+/-ライブ-デッド染色液(InvitrogenからのPI、カタログ番号P1304MP、2μg/mlで使用)に再懸濁し、RTで15分間インキュベートした。細胞を200G(1000rpm)で5分間遠心分離し、PIを含む緩衝液を除去し、150μlのFC緩衝液に細胞を再懸濁させた。
【0085】
1段階手順の場合、製造業者の使用説明書に従って、CR9501およびCR9503抗体を蛍光プローブAlexa647(Molecular Probes、カタログ番号A-20186)で標識した。ストレプトアビジン-APC工程を除いて、細胞を上記手順に従って染色した。
【0086】
生細胞集団から、CR9501/CR9503抗体結合が陽性の細胞のパーセンテージを決定した。CR9503結合が陽性の細胞は、それらの表面にRSV Fタンパク質を発現する。CR9501結合が陽性の細胞は、それらの表面に融合前RSV Fを発現する。
【0087】
抗体染色の強度(メジアン蛍光強度-MFI)は、細胞表面上のFタンパク質の量に比例する。Fタンパク質を発現する生細胞集団からMFIを計算した。
【0088】
結果:
完全長Fタンパク質変異体の表面細胞発現:
融合前コンフォメーションのRSV Fタンパク質外部ドメインの発現または安定性を増加させることが以前に同定された変異のサブセットを、野生型完全長RSV A2 F配列(アクセッション番号Genbank ACO83301)に導入した。変異を単独で、または複数の組み合わせで導入し、タンパク質の発現および安定性に対する効果を評価した。
【0089】
タンパク質の発現レベルを、融合前および融合後の両Fタンパク質を認識するCR9503抗体で染色した後、フローサイトメトリーにより平均蛍光強度(MFI)として測定した。可溶性RSV pre-Fタンパク質の安定化について以前に記載された2つのアミノ酸置換(すなわち、N67IおよびS215P)の組み合わせは、また、野生型完全長RSV Fと比較して、完全長RSV Fタンパク質の発現レベルを2.3倍増加させた(図2)。
【0090】
発現の顕著な増加は、3つのアミノ酸置換の組み合わせを有する変異体で観察された。興味深いことに、1つの変異体に4つ以上の変異を組み合わせても、タンパク質発現をさらに増加させることはなかった。これは、Fタンパク質の多数のコピーを収容する細胞膜の容量が限られていることに起因しているのかもしれない。
【0091】
細胞表面の融合前Fの量を、融合前特異的抗体CR9501で染色することにより評価した(図3)。全てのF変異体の細胞へのトランスフェクションは、細胞表面上に多かれ少なかれ類似した量の融合前Fタンパク質をもたらした。膜貫通ドメインの存在は完全長タンパク質をある程度安定化し、したがって、融合前安定性の差異は、周囲条件下では完全長Fタンパク質間で明らかでない。したがって、以下に記載するように、完全長変異体の安定性をより良く識別するために、熱安定性アッセイを開発した。
【0092】
以前に報告したFタンパク質変異体の親配列として使用されたA2株(国際公開第2014/174018号パンフレットおよび国際公開第2014/202570号パンフレット)は、2つの特有かつ稀な変異(すなわち、リジン66およびイソロイシン76の)を蓄積した細胞株適合実験室株である。本発明では、これら2つの残基を、天然の臨床分離株(K66E、I76V)に適合するように変異させた。選択されたタンパク質の設計にK66EおよびI76Vの変異を含めた。Lys66およびIle76を有する変異体と比較して、66位にグルタミン酸を有する変異体(K66E)は、わずかに高く発現する傾向を有する。残基76でのバリンの付加(K66EおよびI76Vの二重置換)は、K66E置換のみを有する変異体と比較した場合、発現レベルに影響を与えない(図4)。
【0093】
細胞表面の完全長Fタンパク質変異体の安定性:
短時間スケールの周囲条件では、安定化変異の異なる組み合わせを有する完全長F変異体間で、融合前コンフォメーションの安定性に有意差は観察されなかった。温度を上げることは、融合前コンフォメーションから融合後コンフォメーションへとRSV Fタンパク質をリフォールディングするための効率的なインビトロトリガーとして働くことが知られている。したがって、熱ショックアッセイを確立し、膜結合完全長タンパク質の安定性を評価するために使用した。簡単に言えば、HEK293T細胞をFタンパク質コンストラクトでトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後にアッセイで使用した。細胞を細胞培養皿から剥離し、細胞懸濁液を、温度を上げながら10分間熱処理した。熱処理後、細胞を抗RSV F抗体で染色し、フローサイトメトリーにより分析した。フローサイトメトリーデータを2つの異なる方法で分析した。抗F抗体による染色に対して陽性である細胞のパーセンテージを分析し、陽性細胞の平均蛍光強度(MFI)も計算した(図5)。
【0094】
フローサイトメトリーアッセイでは、CR9501(融合前Fタンパク質のみを認識する抗体)およびCR9503(融合前Fタンパク質および融合後Fタンパク質の両方を認識する抗体)による染色の両方を使用した。CR9503抗体を陽性対照とした。Fタンパク質が融合前のコンフォメーションを失って、なお細胞表面上に存在する場合、そのタンパク質は依然CR9503抗体で検出される。両方の抗体による染色の喪失は、タンパク質が、例えば凝集により、細胞表面上で抗体結合に利用できないことを示す。
【0095】
3つ以上のアミノ酸置換を有する完全長タンパク質をアッセイで試験し、野生型RSV Fと比較した。これらの変異体の発現が最も高く、したがってこれらの変異体は好ましい候補であった。全てのタンパク質はN67IおよびS215P置換を含み、1つまたは2つの追加の安定化変異を加えた。
【0096】
改変されていない野生型タンパク質は、CR9503抗体でかなり安定に染色された。CR9503染色のMFIは高い温度ほど上昇したが、値の広がりも非常に大きかった。これは、熱ショック後にタンパク質の凝集が起こらなかったことを示した。融合前コンフォメーションの半分は約55℃での細胞のインキュベーション後に失われ、60℃でのインキュベーション後には、高温熱ショック後の野生型F試料へのCR9501結合の減少が示すように、全ての融合前コンフォメーションは失われた。
【0097】
試験した全ての融合前Fタンパク質変異体は、CR9501染色の大部分がより高い温度での処理後も保持されており、野生型RSV Fよりも安定であった(図5および6)。K498Rアミノ酸置換を有するタンパク質は、他のものよりも安定性が低かった。さらに、K66E変異の付加は、K498Rアミノ酸置換を有する変異体も他のものと同程度に安定になるのと同じく、タンパク質を安定化させ、60℃での融合前コンフォメーションの損失は観察されなかった。組み合わされたK66EおよびI76Vを含む、安定化変異の選択された組み合わせのみを試験した。陽性細胞のパーセントの分析では、試験した4つのタンパク質は全て安定であったが、MFIの分析では、K498Rを有する変異体は60℃での処理後にCR9501結合に明らかな減少を示し、この変異体は温度ストレスアッセイで評価した場合、安定が低いことが示された。
【0098】
結論として、3つの安定化変異の組み合わせ(N67IおよびS215Pを含む)が、高い発現レベルおよび安定性に十分であると考えられた。S46GまたはD486N変異が、タンパク質構造におけるそれらの位置を理由に、第3の安定化変異として選択された。K66EおよびI76Vは、タンパク質の発現および安定性に対して負の効果を有さず、天然に存在するものにより近い配列を作製するので、含められた。
【0099】
したがって、変異K66E、N67I、I76V、S215PおよびD486Nを有する融合前RSV Fタンパク質(F2.2)(配列番号2)、ならびに変異K66E、N67I、I76V、S215PおよびS46Gを有する融合前RSV Fタンパク質(F2.1)(配列番号1)が、アデノウイルスベクターの構築のために選択された。これらのタンパク質は60℃までの温度安定性アッセイにおいて融合前コンフォメーションで安定であり、かつ高レベルで発現されることが示された。
【0100】
実施例2.アデノウイルスベクターの調製
Ad35およびAd26のE1領域へのRSV F遺伝子のクローニング:
本発明の融合前Fタンパク質をコードする核酸配列は、Geneartにより、ヒトでの発現のために遺伝子が最適化され、合成された。コザック配列(5’GCCACC3’)をATG開始コドンの直前に含め、2つの停止コドン(5’TGA TAA3’)をRSV.pre-Fコード配列の終端に付加した。RSV.pre-F遺伝子を、HindIIIおよびXbaI部位を介して、pAdApt35BSUプラスミドおよびpAdApt26プラスミドに挿入した。
【0101】
細胞培養:
PER.C6細胞を、10mM MgClを添加した、10%ウシ胎児血清(FBS)含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で維持した。
【0102】
アデノウイルスの生成、感染、および継代:
全てのアデノウイルスを、PER.C6(登録商標)細胞中で、単一の相同組換えにより生成し、以前に報告されているように生成した(rAd35では:Havenga et al.,2006,J.Gen.Virol.87:2135-2143;rAd26では:Abbink et al.,2007,J.Virol.81:4654-4663)。簡単に記すと、PER.C6細胞に、製造業者(Life Technologies)が提供する説明書に従い、リポフェクタミンを使用して、Adベクタープラスミドをトランスフェクトした。例えば、RSV.pre-F導入遺伝子発現カセットを有するAd35ベクターのレスキューでは、pAdApt35BSU.RSV.pre-FプラスミドおよびpWE/Ad35.pIX-rITR.dE3.5orf6コスミドを使用し、RSV.pre-F導入遺伝子発現カセットを有するAd26ベクターでは、pAdApt26.RSV.pre-FプラスミドおよびpWE.Ad26.dE3.5orf6.コスミドを使用した。細胞を、完全なCPEの1日後に回収し、凍結融解し、3,000rpmで5分間遠心分離し、-20℃で保存した。次に、ウイルスをプラーク精製し、マルチウェル24組織培養プレートの単一ウェル上で培養したPER.C6中で増幅させた。T25組織培養フラスコおよびT175組織培養フラスコを使用して培養したPER.C6中でさらに増幅させた。T175粗溶解物のうちの3~5mlを使用して、70%コンフルエント層のPER.C6細胞を含有する20×T175三層組織培養フラスコに接種した。ウイルスを、2段階CsCl精製法を使用して精製した。最終的に、ウイルスを一定分量に分割して-85℃で保存した。
【0103】
実施例3.インビボでの融合前RSV Fを発現する組換えアデノウイルスセロタイプ26および35を用いたRSV Fに対する免疫の誘導。
Ad26.RSV.preF2.1およびAd26.RSV.preF.2.2の免疫原性をマウスで評価し、細胞性および体液性免疫応答を、同一用量のAd26.RSV.FA2(すなわち、野生型RSV Fタンパク質を発現)によって誘導される応答と比較した。Balb/cマウス(1群当たりn=4)を、10~1010個のウイルス粒子(vp)、Ad26.RSV.FA2またはAd26.RSV.preF2.1またはAd26.RSV.preF2.2の示された用量で、または製剤緩衝液で免疫を付与した。初回免疫から8週後に、ELISpotを用い、10脾細胞当たりRSV F A2特異的IFNγスポット形成単位(SFU)数を決定した。Ad26.RSV.FA2と比較すると、Ad26.RSV.preF2.1およびAd26.RSV.preF.2.2では、広い中和能を有し、かつ細胞応答を維持しながらマウスの体液性免疫応答の誘導が増加することが示された。Ad26.RSV.preF2.1およびAd26.RSV.preF.2.2による単回筋肉内免疫付与は、IFNγ、IL2および/またはTNFαに対して陽性のCD8+T細胞の誘導によって特徴付けられる(データは示さず)細胞応答を誘発した(図7)。
【0104】
細胞応答の量および質は、Ad26.RSV.preF2.1、Ad26.RSV.preF.2.2およびAd26.RSV.FA2の間で同等であった。対照的に、Ad26.RSV.preF2.1およびAd26.RSV.preF.2.2は、Ad26.RSV.FA2よりも有意に高いRSV中和抗体力価を誘導した。抗体応答のより厳密な分析により、Ad26.RSV.preF2.1およびAd26.RSV.preF.2.2は、融合前Fに対するより高いレベルの抗体を誘導したが、一方で、融合後Fの力価はAd26.RSV.FA2と同等の値に留まり、その結果、preF/postFの抗体比は有意に増加することが示された。さらに、抗体応答のIgG2a/IgG1比は変化しないままであり、Ad26.RSV.FA2について以前に示されたのと同様の体液性応答のTh1優位を示した(図8)。
【0105】
さらに、Ad26.RSV.preF2.2では、誘発された抗体はAd26.RSV.FA2で観察されたのと同様に、種々のRSV AおよびB株、実験室株、ならびに臨床分離株を中和し得ることが示された(図9)。
【0106】
続いて、Ad26.RSV.preF2.2およびAd35.RSV.preF2.2ベクターコンストラクトの有効性および免疫原性を、コットンラットモデルで評価した。これらの動物はヒトRSVの複製を許容し、肺におけるRSV力価は4日目および5日目にピークに達する。低用量のRSV A2で鼻腔内感染させ、それによって自然曝露を模倣した群、ならびにFI-RSVで免疫付与した群を実験の対照群として含め、臨床研究において、コットンラットで重症呼吸器疾患強(ERD)を誘導することが示された希釈で、ERDを誘導したオリジナルロット100を使用した。
【0107】
用量が10~10vp/動物の範囲のAd26.RSV.preF2.2、または用量が10~10vp/動物の範囲のAd35.RSV.preF2.2を用いて、動物の単回筋肉内免疫付与を行うと、10vpのAd26.RSV.preF2.2で免疫付与した3匹の動物を除いて、ワクチン相同RSV A2株による感染から肺を完全に防御した(図10Aおよび10B)。両ベクターで、RSV複製に対する鼻の用量依存的防御が観察された。これは、Ad26.RSV.preF2.2では10vp/動物での完全防御から、10vpでの部分防御までの範囲にわたったが、Ad35.RSV.preF2.2では10vpで免疫付与した動物の鼻部はRSV A2から完全に防御され、10vpでは部分防御が得られた(図10Cおよび10D)。用量に関して分析すると、Ad26.RSV.preF2.2およびAd35.RSV.preF2.2で免疫付与した動物の鼻部は、両者それぞれの野生型Fの対応物であるAd26.RSV.FA2およびAd35.RSV.FA2で免疫付与した場合よりもRSV A2からの防御が良好であった(p=0.0003およびp=0.0001)。RSV感染からの防御は、RSV A Longに対するウイルス中和力価の用量依存的誘導を伴うが、これは最低用量のAd26.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.preF2.2の適用により既に誘発されている(図10Eおよび10F)。VNA A Longの力価について用量に関して統計的な比較を行うと、Ad26.RSV.preF2.2はAd26.RSV.FA2より免疫原性が高い(p=0.0414)が、VNA力価の誘発はAd35.RSV.preF2.2とAd35.RSV.FA2との間で有意差はなかった。
【0108】
さらに、Ad26.RSV.preFおよびAd35.RSV.preFは、試験したいずれの濃度でも、RSV A2チャレンジ後に重症呼吸器疾患(ERD)の組織病理学的徴候を誘導しないことが示された。コットンラットは、ERDをモニターするのに最も多く使用され、最もよく研究されているモデルである。この動物モデルで、FI-RSVによるワクチン接種は、RSVチャレンジ後にERDを一貫して誘導し、これは、主に好中球浸潤物からなる肺胞炎、および主にリンパ球浸潤物からなる細気管支周囲炎のようなパラメータについて、感染した肺の切片の組織病理学的分析を行うことによって可視化される。コットンラットでは、これらのパラメータに対するFI-RSV誘導スコアは、RSV感染後1日目から観察することができ、RSVチャレンジ後4~5日目にピークに達する。
【0109】
RSV A2チャレンジ後の5日間、肺の炎症変化(細気管支周囲炎、血管周囲炎、間質性肺炎、肺胞炎)の4つのパラメータをスコア化することによって、ERDを分析した。FI-RSVによる免疫付与は、ほとんどの組織病理学的マーカーについてスコアの増加をもたらし、これは肺胞炎について特に明らかであり(図11)、このマーカーは、以前にERDに対して最も識別性のあるマーカーであることが示されたものである。初回免疫のみのレジメンで、RSVチャレンジ後にAd26.RSV.preF2.2またはAd35.RSV.preF2.2により免疫を付与した動物では、低親和性および/または低レベルの抗体を誘導し得る低ワクチン用量でさえ、肺胞炎または任意の他のERD組織病理学的マーカーの増加は観察されなかった(図11)。これは、Ad26.RSV.FA2およびAd35.RSV.FA2ベクターを用いた我々の先の結果を確認するものである。
【0110】
したがって、本発明によれば、Ad26.RSV.preFおよびAd35.RSV.preFは、融合前コンフォメーションで安定化されるRSV F A2を発現する、強力なアデノウイルスベクターであることが示された。これらのベクターは、強力な体液性および細胞性免疫応答を誘導する。誘発された免疫応答は、RSV A2のチャレンジに対して保護的であり、RSVの臨床分離株および実験室分離株に対してインビトロで広範囲のウイルス中和を提供する。ワクチン接種した動物のRSV曝露後に、コットンラットでERD誘導は観察されず、したがって、野生型RSV F A2抗原をコードするAd26およびAd35で得られたデータが裏付けられた。マウスでもコットンラットでも、Ad26.RSV.preFまたはAd35.RSV.preFの注射後に反応原性の明白な徴候を示さなかった。
【0111】
表1.本発明の核酸分子によってコードされるRSV融合前Fタンパク質のアミノ酸配列(変異には下線が引かれている)
配列番号1:RSV preF2.1アミノ酸配列:
【化1】

配列番号2:RSV preF2.2アミノ酸配列:
【化2】
【0112】
表2.本発明の好ましい核酸分子のヌクレオチド配列
配列番号3:RSV F pre-F2.1融合前タンパク質PreF2.1をコードするコドン最適化核酸
【化3】

配列番号4:RSV F pre-F2.2融合前タンパク質PreF2.2をコードするコドン最適化核酸
【化4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11