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特許7233955極低温冷凍機、極低温冷凍機診断装置および極低温冷凍機診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】極低温冷凍機、極低温冷凍機診断装置および極低温冷凍機診断方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/06 20060101AFI20230228BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230228BHJP
   F25B 9/14 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
F25B9/06 A
G01M99/00 Z
F25B9/14 530Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019027744
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020134007
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】水野 陽治
(72)【発明者】
【氏名】篠原 広平
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-178910(JP,A)
【文献】特開2003-329325(JP,A)
【文献】特開2017-040386(JP,A)
【文献】特開2013-242112(JP,A)
【文献】特開平06-018110(JP,A)
【文献】特開2004-340299(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00720006(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00 ~ 9/14
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機シリンダと、
前記冷凍機シリンダ内に周期的圧力変動を発生させる圧力切替バルブと、
前記冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因する前記冷凍機シリンダの周期的変形を測定するセンサと、を備える極低温冷凍機。
【請求項2】
前記センサは、前記冷凍機シリンダの軸方向中間部で前記冷凍機シリンダの周期的変形を測定することを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記冷凍機シリンダの軸方向中間部は、前記冷凍機シリンダの軸方向端部に比べて厚さが小さいことを特徴とする請求項2に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
前記センサは、前記冷凍機シリンダの周方向ひずみを測定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
極低温冷凍機の冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因する前記冷凍機シリンダの周期的変形を測定し、前記周期的変形を示す測定波形データを出力するセンサと、
前記測定波形データに基づいて、前記極低温冷凍機が劣化したか否かを判定する処理部と、を備えることを特徴とする極低温冷凍機診断装置。
【請求項6】
極低温冷凍機の冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因する前記冷凍機シリンダの周期的変形、または前記冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動を測定し、前記周期的変形または前記周期的圧力変動を示す測定波形データを出力するセンサと、
前記測定波形データに基づいて、前記極低温冷凍機が劣化したか否かを判定する処理部と、を備え、
前記処理部は、基準ピーク値からの前記測定波形データのピーク値の低下量を算出し、前記低下量に基づいて、前記極低温冷凍機が劣化したか否かを判定することを特徴とする極低温冷凍機診断装置。
【請求項7】
極低温冷凍機の冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因するシリンダの周期的変形を測定し、前記周期的変形を示す測定波形データを取得することと、
前記測定波形データに基づいて、前記極低温冷凍機が劣化したか否かを判定することと、を備えることを特徴とする極低温冷凍機診断方法。
【請求項8】
極低温冷凍機の冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因するシリンダの周期的変形、または前記冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動を測定し、前記周期的変形または前記周期的圧力変動を示す測定波形データを取得することと、
基準ピーク値からの前記測定波形データのピーク値の低下量を算出し、前記低下量に基づいて、前記極低温冷凍機が劣化したか否かを判定することと、を備えることを特徴とする極低温冷凍機診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機、極低温冷凍機診断装置および極低温冷凍機診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温環境を提供するために、たとえばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機、パルス管冷凍機などの極低温冷凍機が利用されている。極低温冷凍機の主な用途の一つとして、たとえば、超伝導コイルが搭載された磁気共鳴イメージング(MRI)システムがある。超伝導コイルは液体ヘリウムなどの極低温冷媒に浸されることによって冷却され、気化した冷媒を再凝縮するために極低温冷凍機が使用される。あるいは、冷媒を用いるのではなく、超伝導コイルは極低温冷凍機で直接冷却される方式もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-221703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
極低温冷凍機が現場で使用されるなかで、摺動部品の摩耗や消耗部品の寿命、その他の理由により、冷凍性能低下など故障が発生しうる。故障した極低温冷凍機の修理または新品との交換などメンテナンスが完了するまで、極低温システム(たとえば超伝導機器、またはMRIシステム)の稼動は停止せざるを得ない。突然の故障の場合、復旧までにかかる時間は比較的長くなりがちである。しかし、もし、故障を予知し計画的にあらかじめ対処できたとすれば、システムの稼働への影響を最小にすることができる。
【0005】
極低温冷凍機の冷却温度をモニタすることによって極低温冷凍機の故障を予知する試みがある。これは、極低温冷凍機が長期の使用につれてだんだんと冷えにくくなり、冷却温度が長期的に少しずつ高まりうることに基づく。しかしながら、冷却温度は、累積の運転時間だけでなく、極低温部への入熱など極低温冷凍機の運転条件にも依存する。また、冷却温度は、累積の運転時間に応じて線形に変化するとは限らない。したがって、現実には、冷却温度に基づく故障予知がうまく機能する場面は限定的である。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温冷凍機の診断に使用しうる測定データを取得可能な極低温冷凍機、および、そうした測定データに基づく極低温冷凍機の診断技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、冷凍機シリンダと、冷凍機シリンダ内に周期的圧力変動を発生させる圧力切替バルブと、冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因する冷凍機シリンダの周期的変形を測定するセンサと、を備える。
【0008】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機診断装置は、極低温冷凍機の冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因する冷凍機シリンダの周期的変形、または冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動を測定し、周期的変形または前記周期的圧力変動を示す測定波形データを出力するセンサと、測定波形データに基づいて、極低温冷凍機が劣化したか否かを判定する処理部と、を備える。
【0009】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機診断方法は、極低温冷凍機の冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動に起因するシリンダの周期的変形、または冷凍機シリンダ内の周期的圧力変動を測定し、周期的変形または周期的圧力変動を示す測定波形データを取得することと、測定波形データに基づいて、極低温冷凍機が劣化したか否かを判定することと、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極低温冷凍機の診断に使用しうる測定データを取得可能な極低温冷凍機、および、そうした測定データに基づく極低温冷凍機の診断技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図2】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図3】実施の形態に係る極低温冷凍機の診断の原理を説明するための図である。
図4】実施の形態に係る極低温冷凍機の診断方法を示すフローチャートである。
図5】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図6】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図7】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
図1および図2は、実施の形態に係る極低温冷凍機10を概略的に示す図である。極低温冷凍機10は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。図1には、極低温冷凍機10の外観を示し、図2には、極低温冷凍機10の内部構造を示す。
【0015】
極低温冷凍機10は、圧縮機12と、膨張機14とを備える。圧縮機12は、極低温冷凍機10の作動ガスを膨張機14から回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスを膨張機14に供給するよう構成されている。作動ガスは、冷媒ガスとも称され、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。
【0016】
膨張機14は、冷凍機シリンダ16と、圧力切替バルブ40と、センサ50とを備える。また、極低温冷凍機10は、処理部60を備える。詳細は後述するが、センサ50と処理部60により、極低温冷凍機10の診断装置が構成される。
【0017】
冷凍機シリンダ16は、第1シリンダ16a、第2シリンダ16bを有する。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ16bが第1シリンダ16aよりも小径である。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは同軸に配置され、第1シリンダ16aの下端が第2シリンダ16bの上端に剛に連結されている。
【0018】
また、膨張機14は、第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bとを有するディスプレーサ組立体18を備える。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2ディスプレーサ18bが第1ディスプレーサ18aよりも小径である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは同軸に配置されている。
【0019】
第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに収容され、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに収容されている。第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに沿って軸方向に往復移動可能であり、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに沿って軸方向に往復移動可能である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは互いに連結され、一体に移動する。
【0020】
本書では、極低温冷凍機10の構成要素間の位置関係を説明するために、便宜上、ディスプレーサの軸方向往復動の上死点に近い側を「上」、下死点に近い側を「下」と表記することとする。上死点は膨張空間の容積が最大となるディスプレーサの位置であり、下死点は膨張空間の容積が最小となるディスプレーサの位置である。極低温冷凍機10の運転時には軸方向上方から下方へと温度が下がる温度勾配が生じるので、上側を高温側、下側を低温側と呼ぶこともできる。
【0021】
第1ディスプレーサ18aは、第1蓄冷器26を収容する。第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの筒状の本体部の中に、例えば銅などの金網またはその他適宜の第1蓄冷材を充填することによって形成されている。第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は第1ディスプレーサ18aの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第1蓄冷材が第1ディスプレーサ18aに収容されてもよい。
【0022】
同様に、第2ディスプレーサ18bは、第2蓄冷器28を収容する。第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの筒状の本体部の中に、例えばビスマスなどの非磁性蓄冷材、HoCuなどの磁性蓄冷材、またはその他適宜の第2蓄冷材を充填することによって形成されている。第2蓄冷材は粒状に成形されていてもよい。第2ディスプレーサ18bの上蓋部および下蓋部は第2ディスプレーサ18bの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第2ディスプレーサ18bの上蓋部の下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第2蓄冷材が第2ディスプレーサ18bに収容されてもよい。
【0023】
ディスプレーサ組立体18は、室温室30、第1膨張室32、第2膨張室34を冷凍機シリンダ16の内部に形成する。極低温冷凍機10によって冷却すべき所望の物体または媒体との熱交換のために、膨張機14は、第1冷却ステージ33と第2冷却ステージ35を備える。室温室30は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部と第1シリンダ16aの上部との間に形成される。第1膨張室32は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部と第1冷却ステージ33との間に形成される。第2膨張室34は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部と第2冷却ステージ35との間に形成される。第1冷却ステージ33は、第1膨張室32を取り囲むように第1シリンダ16aの下部に固着され、第2冷却ステージ35は、第2膨張室34を取り囲むように第2シリンダ16bの下部に固着されている。
【0024】
第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に形成された作動ガス流路36aを通じて室温室30に接続され、第1ディスプレーサ18aの下蓋部に形成された作動ガス流路36bを通じて第1膨張室32に接続されている。第2蓄冷器28は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部から第2ディスプレーサ18bの上蓋部へと形成された作動ガス流路36cを通じて第1蓄冷器26に接続されている。また、第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部に形成された作動ガス流路36dを通じて第2膨張室34に接続されている。
【0025】
第1膨張室32、第2膨張室34と室温室30との間の作動ガス流れが、冷凍機シリンダ16とディスプレーサ組立体18との間のクリアランスではなく、第1蓄冷器26、第2蓄冷器28に導かれるようにするために、第1シール38a、第2シール38bが設けられていてもよい。第1シール38aは、第1ディスプレーサ18aと第1シリンダ16aとの間に配置されるように第1ディスプレーサ18aの上蓋部に装着されてもよい。第2シール38bは、第2ディスプレーサ18bと第2シリンダ16bとの間に配置されるように第2ディスプレーサ18bの上蓋部に装着されてもよい。
【0026】
図1に示されるように、膨張機14は、圧力切替バルブ40を収容する冷凍機ハウジング20を備える。冷凍機ハウジング20は、冷凍機シリンダ16と結合され、それにより、圧力切替バルブ40およびディスプレーサ組立体18を収容する気密容器が構成される。
【0027】
図2に示されるように、圧力切替バルブ40は、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bを備え、冷凍機シリンダ16内に周期的圧力変動を発生させるように構成されている。圧縮機12の作動ガス吐出口が高圧バルブ40aを介して室温室30に接続され、圧縮機12の作動ガス吸入口が低圧バルブ40bを介して室温室30に接続されている。高圧バルブ40aと低圧バルブ40bは、選択的かつ交互に開閉するように(すなわち、一方が開いているとき他方が閉じるように)構成されている。高圧(例えば2~3MPa)の作動ガスが圧縮機12から高圧バルブ40aを通じて膨張機14に供給され、低圧(例えば0.5~1.5MPa)の作動ガスが膨張機14から低圧バルブ40bを通じて圧縮機12に回収される。理解のために、作動ガスの流れる方向を図2に矢印で示す。
【0028】
また、膨張機14は、ディスプレーサ組立体18の往復動を駆動する駆動モータ42を備える。駆動モータ42は、冷凍機ハウジング20に取り付けられている。駆動モータ42は、たとえばスコッチヨーク機構などの運動変換機構43を介してディスプレーサ駆動軸44に連結されている。運動変換機構43は、圧力切替バルブ40と同様に、冷凍機ハウジング20に収容されている。ディスプレーサ駆動軸44は、運動変換機構43から室温室30の中へと延び、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に固定されている。駆動モータ42が駆動されるとき、駆動モータ42の回転出力は運動変換機構43によってディスプレーサ駆動軸44の軸方向往復動に変換され、ディスプレーサ組立体18は冷凍機シリンダ16内を軸方向に往復する。また、駆動モータ42は、高圧バルブ40aと低圧バルブ40bを選択的かつ交互に開閉するようにこれらバルブに連結されている。
【0029】
極低温冷凍機10は、圧縮機12および駆動モータ42が運転されるとき、第1膨張室32および第2膨張室34において周期的な容積変動とこれに同期した作動ガスの圧力変動を発生させ、それにより冷凍サイクルが構成され、第1冷却ステージ33および第2冷却ステージ35が所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ33は、例えば約20K~約40Kの範囲にある第1冷却温度に冷却されることができる。第2冷却ステージ35は、第1冷却温度より低い第2冷却温度(例えば、約1K~約4K)に冷却されることができる。
【0030】
センサ50は、冷凍機シリンダ16内の周期的圧力変動に起因する冷凍機シリンダ16の周期的変形を測定し、周期的変形を示す測定波形データS1を出力する。測定波形データS1は、極低温冷凍機10の運転中におけるセンサ50の測定値の時間変化を示す。センサ50は、有線または無線により処理部60に通信可能に接続されている。例示的な構成として、センサ50は、接触式の変位センサであり、例えば、冷凍機シリンダ16の側面の外表面に取り付けられ、冷凍機シリンダ16の軸方向、径方向、及び/または周方向の周期的変形を測定する。
【0031】
センサ50は、冷凍機シリンダ16の第1シリンダ16aの軸方向中間部に取り付けられてもよく、第1シリンダ16aの軸方向中間部で冷凍機シリンダ16の周期的変形を測定する。センサ50は、例えば、第1シリンダ16aの周方向の変形を測定する。センサ50は、ひずみセンサであってもよい。ひずみセンサは、第1シリンダ16aの周方向ひずみを測定してもよい。
【0032】
測定波形データS1は、処理部60に入力される。処理部60は、センサ50から測定波形データS1を受け、測定波形データS1に基づいて、極低温冷凍機10が劣化したか否かを判定するように構成されている。処理部60は、冷凍機ハウジング20および駆動モータ42と同様に、室温部に配置される。
【0033】
処理部60の内部構成は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0034】
たとえば、処理部60は、CPU(Central Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。そうしたハードウェアプロセッサは、たとえば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブルロジックデバイスで構成してもよいし、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)のような制御回路であってもよい。ソフトウェアプログラムは、極低温冷凍機10の診断を処理部60に実行させるためのコンピュータプログラムであってもよい。
【0035】
図3は、実施の形態に係る極低温冷凍機10の診断の原理を説明するための図である。図3には、センサ50の出力、すなわち測定波形データS1が示されている。測定波形データS1は、例えば、冷凍機シリンダ16の第1シリンダ16aの周方向ひずみを示す。破線で示される測定波形データS1は、極低温冷凍機10が正常に運転されているとき(例えば、新品の極低温冷凍機が現場に設置されたとき)に測定された値を示す。実線で示される測定波形データS1は、極低温冷凍機10がある長い期間にわたって運転され、内部のシール部品が劣化したときに測定された値を示す。
【0036】
上述のように、極低温冷凍機10の運転中、圧力切替バルブ40の動作により、冷凍機シリンダ16の内部圧力は高圧と低圧に交互に切り替えられる。典型的に、この高圧と低圧はともに周囲圧力(例えば大気圧)より高い。冷凍機シリンダ16内が高圧となるとき、冷凍機シリンダ16は外側に膨らむように変形する。冷凍機シリンダ16内が低圧となるときにも、冷凍機シリンダ16は外側に膨らむように変形する。ただし、高圧でのシリンダ膨張量のほうが低圧でのシリンダ膨張量より大きい。なお、冷凍機シリンダ16の膨張の大きさは、冷凍機シリンダ16の(例えば軸方向中間部での)外径の変化として、例えば10~20μm程度である。
【0037】
冷凍機シリンダ16の内部圧力が高圧となるたびに、測定波形データS1は、ピーク値をとり、冷凍機シリンダ16の内部圧力が低圧となるたびに、測定波形データS1は、谷値をとる。極低温冷凍機10が正常に運転されているとき(図3の破線)に比べて、極低温冷凍機10が長期間運転され劣化したとき(図3の実線)のほうが、ピーク値が低下することがわかる。なお、ピーク値は低下する一方、谷値はあまり変化していない。
【0038】
冷凍機シリンダ16内に高圧の作動ガスが供給されたとき、例えば、一部の作動ガスが冷凍機シリンダ16から冷凍機ハウジング20へと作動ガスが漏れたとすると、冷凍機シリンダ16内の圧力ピークが低下し、それに伴って、測定波形データS1のピーク値も低下することになる。また、蓄冷器など作動ガス流路における摩耗粉の蓄積による圧力損失の増加も、ピーク値を低下させる原因となりうる。このように、膨張機14の内部部品の摩耗や経年劣化によって、内部リークが増加し、それにより、ピーク値の低下が起こると考えられる。
【0039】
ピーク値の低下量ΔSは、極低温冷凍機10の累積の運転時間が長くなるほど拡大する。低下量ΔSの拡大(すなわち内部リークの増加)は極低温冷凍機10の冷凍性能の低下を招く。したがって、ピーク値の低下量ΔSに基づいて、極低温冷凍機10が劣化したか否かを判定することができる。
【0040】
図4は、実施の形態に係る極低温冷凍機10の診断方法を示すフローチャートである。まず、センサ50による測定が行われる(S10)。センサ50は、測定波形データS1を取得し、処理部60に出力する。上述のように、センサ50がひずみセンサである場合、測定波形データS1は、冷凍機シリンダ16内の周期的圧力変動に起因する冷凍機シリンダ16のひずみ(例えば周方向ひずみ)を示す。センサ50が圧力センサである場合には、測定波形データS1は、冷凍機シリンダ16内の周期的圧力変動を示す。
【0041】
測定波形データS1のピーク値の低下量ΔSが算出される(S12)。処理部60は、基準ピーク値と測定波形データS1のピーク値との差を求める。それにより、ピーク値の低下量ΔSが求まる。
【0042】
基準ピーク値は、予め設定され、処理部60に保存されている。基準ピーク値は、極低温冷凍機10が正常に運転されているときに測定された測定波形データS1のピーク値であってもよい。基準ピーク値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することも可能である。
【0043】
算出された測定波形データS1のピーク値の低下量ΔSが低下量しきい値と比較される(S14)。低下量しきい値は、予め設定され、処理部60に保存されている。低下量しきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0044】
処理部60は、算出した低下量ΔSを低下量しきい値と比較し、低下量ΔSが低下量しきい値より大きい場合(S14のY)、極低温冷凍機10が劣化したと判定する(S16)。処理部60は、低下量ΔSが低下量しきい値より小さい場合(S14のN)、極低温冷凍機10は正常であると判定する(S18)。処理部60は、判定結果を保存し、必要に応じて出力する。
【0045】
処理部60は、このような診断処理を定期的に繰り返し実行する。
【0046】
以上説明したように、実施の形態によると、極低温冷凍機10は、冷凍機シリンダ16内の周期的圧力変動に起因する冷凍機シリンダ16の周期的変形を測定するセンサ50を備える。したがって、極低温冷凍機10は、測定波形データS1を取得することができる。測定波形データS1は、極低温冷凍機10の診断に使用することができる。
【0047】
センサ50は、冷凍機シリンダ16の軸方向中間部で冷凍機シリンダ16の周期的変形を測定する。冷凍機シリンダ16の周期的変形は、軸方向端部に比べて軸方向中間部で大きくなるから、軸方向中間部で変形を測定することにより、より精確な測定波形データS1を取得することができる。
【0048】
センサ50は、冷凍機シリンダの周方向ひずみを測定する。周方向ひずみは、他の方向(例えば、軸方向、径方向)のひずみに比べて大きくなるから、周方向ひずみを測定することにより、より精確な測定波形データS1を取得することができる。
【0049】
処理部60は、測定波形データS1に基づいて、極低温冷凍機10が劣化したか否かを判定する。このようにして、冷却温度に基づく診断よりも精確に極低温冷凍機10を診断することができる。
【0050】
仮に、極低温冷凍機が突然故障した場合、復旧までにかかる時間は比較的長くなりがちである。例えば、極低温冷凍機の修理サービスが混雑していれば、修理完了まで数日以上待たなければならないかもしれない。予定どおりにシステムを稼動させることができなくなるかもしれず、問題である。また、液体ヘリウムなどの極低温冷媒が冷却に使用されるシステムでは、極低温冷凍機が停止している間、冷媒を再凝縮することができない。極低温冷凍機の停止期間が延びるほど、蒸発して失われる冷媒の量も増え、冷媒を多量に補充しなければならないかもしれない。とくに、冷媒が液体ヘリウムの場合には、近年液体ヘリウムは高価であるので、ユーザの経済的な負担が大きくなる。
【0051】
ところが、実施の形態によれば、極低温冷凍機10の劣化が検知されるので、これを利用して、極低温冷凍機10または極低温冷凍機10を搭載したシステム(例えばMRIシステム)のユーザは、修理または新品との交換などメンテナンスを予め計画することができる。都合のよいタイミングにメンテナンスを設定することにより、システムの稼働への影響を最小にすることができる。蒸発による冷媒の損失も低減され、システムの運転コストも抑制できる。
【0052】
また、処理部60は、基準ピーク値からの測定波形データS1のピーク値の低下量ΔSを算出し、低下量ΔSに基づいて、極低温冷凍機10が劣化したか否かを判定する。ピーク値以外の値(例えば谷値)の低下量に基づいて判定する場合に比べて、より精確に極低温冷凍機10を診断することができる。
【0053】
実施の形態に係る極低温冷凍機10および診断装置におけるセンサ50の配置、種類については、他の構成も可能である。そうした実施例を図5から図7を参照して以下に述べる。
【0054】
図5に示されるように、センサ50は、冷凍機シリンダ16の第1シリンダ16aの軸方向中間部70に取り付けられ、第1シリンダ16aの軸方向中間部70で第1シリンダ16aの周期的変形を測定する。
【0055】
第1シリンダ16aの軸方向中間部70は、第1シリンダ16aの軸方向端部72に比べて厚さが小さくなっている。第1シリンダ16aの軸方向中間部70の肉厚D1は、第1シリンダ16aの軸方向端部72の肉厚D2より小さい。第1シリンダ16aの内径は軸方向に一定とされ、そのため、外から見て第1シリンダ16aの軸方向中間部70は軸方向端部72に比べて凹んでいる。
【0056】
このようにすれば、冷凍機シリンダ16の周期的変形は、軸方向端部72に比べて軸方向中間部70でさらに大きくなるから、軸方向中間部70で変形を測定することにより、より精確な測定波形データS1を取得することができる。処理部60は、より精確に極低温冷凍機10を診断することができる。
【0057】
また、第1シリンダ16aの軸方向中間部70が軸方向端部72に比べて厚さが小さいことは、冷凍機ハウジング20など室温部から第1冷却ステージ33など低温部への第1シリンダ16aを通じた入熱を低減できる点でも有利である。
【0058】
図6に示されるように、センサ50は、レーザ変位計のような非接触式のセンサであってもよい。レーザ変位計の場合、冷凍機シリンダ16の径方向の変形量が測定される。センサ50は、冷凍機シリンダ16の周囲に配置され、冷凍機シリンダ16の周期的変形を測定する。例えば、センサ50は、第1シリンダ16aの軸方向中間部で第1シリンダ16aの周期的変形を測定する。このようにしても、測定波形データS1を取得し、極低温冷凍機10の診断に使用することができる。
【0059】
図7に示されるように、センサ50は、冷凍機シリンダ16内の周期的圧力変動を測定し、周期的圧力変動を示す測定波形データS1を出力する圧力センサであってもよい。センサ50は、たとえば、圧力切替バルブ40と室温室30をつなぐ作動ガス流路36eに設置される。センサ50は室温室30に設置されてもよい。あるいは、センサ50は、第1膨張室32または第2膨張室34に設置されてもよい。このようにしても、測定波形データS1を取得し、極低温冷凍機10の診断に使用することができる。
【0060】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0061】
ある実施の形態においては、センサ50は、冷凍機シリンダ16の第2シリンダ16bの周期的変形を測定してもよい。センサ50は、第2シリンダ16bの軸方向中間部に取り付けられてもよく、第2シリンダ16bの軸方向中間部で冷凍機シリンダ16の周期的変形を測定してもよい。第2シリンダ16bの軸方向中間部は、第2シリンダ16bの軸方向端部に比べて厚さが小さくてもよい。ただし、第2シリンダ16bは第1シリンダ16aより低温に冷却され、また、第2シリンダ16bは典型的に第1シリンダ16aより厚いことから、センサ50は第1シリンダ16aに取り付けるほうが実装が容易であり、有利である。
【0062】
ある実施の形態においては、処理部60は、極低温冷凍機10の一部を構成するのではなく、極低温冷凍機10を搭載したシステム(例えば超伝導機器、またはMRIシステム)の一部であってもよい。
【0063】
極低温冷凍機10は、単段式のGM冷凍機であってもよい。
【0064】
上述の実施の形態では、GM冷凍機を例として説明しているが、本発明はこれに限定されない。ある実施の形態においては、極低温冷凍機10は、パルス管冷凍機、例えば、GM方式のパルス管冷凍機であってもよい。その場合、上述の「冷凍機シリンダ」は、パルス管冷凍機のパルス管であってもよい。極低温冷凍機10は、パルス管内に周期的圧力変動を発生させる圧力切替バルブと、パルス管内の周期的圧力変動に起因するパルス管の周期的変形を測定するセンサ50とを備えてもよい。あるいは、「冷凍機シリンダ」は、パルス管冷凍機の蓄冷管であってもよい。センサ50は、パルス管または蓄冷管に取り付けられてもよい。
【0065】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0066】
10 極低温冷凍機、 16 冷凍機シリンダ、 40 圧力切替バルブ、 50 センサ、 60 処理部、 70 軸方向中間部、 72 軸方向端部、 S1 測定波形データ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7