(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20230228BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2019032734
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 陽子
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-030779(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125974(WO,A1)
【文献】特表平07-505166(JP,A)
【文献】特開2010-106171(JP,A)
【文献】特開2017-125140(JP,A)
【文献】特開2013-224380(JP,A)
【文献】特開平10-025409(JP,A)
【文献】特開平04-198268(JP,A)
【文献】特開平05-255594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)99~1重量部および、(B)水酸基末端基量が20~80eq/tであるポリカーボネート樹脂(B成分)1~99重量部よりな
り、A成分が、総ナトリウム含有量が39ppm以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂である樹脂組成物。
【請求項2】
A成分のうち、少なくとも一部が反応性官能基を含有するポリフェニレンスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
反応性官能基が、カルボキシル基であるポリフェニレンスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項
2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂および特定の水酸基末端基量を有するポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物であって、ポリアリーレンスルフィド樹脂が有する優れた特性を保持しつつ、成形時の剥離性、耐薬品性および低バリ性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐薬品性、耐熱性、機械的特性などに優れるエンジニアリングプラスチックである。このため、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、電気電子部品、車両関連部品、航空機部品、住設機器部品として広く利用されている。しかしながらポリアリーレンスルフィド樹脂には靭性や衝撃強度に劣り、成形加工時にバリが発生するという問題がある。この問題を解決する手段として特許文献1には、ポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物が開示されている。しかしながら、従来市販されているポリフェニレンスルフィド樹脂は、ポリマー重合方法の制約から、不純物としてある程度のナトリウムを含有しているために、成形加工時にポリカーボネート樹脂が著しく分解し、優れた特性を発現するには至っていない。特許文献2には、塩素含有量を低減したポリフェニレンスルフィド樹脂が提案されている。しかしながら、この塩素含有量を低減したポリフェニレンスルフィドを使用するのみではポリカーボネート樹脂の分解を抑制できない。また、塩素含有量を低減させるために、反応工程が煩雑になり、コスト競争力に劣るものであった。特許文献3にはアルカリ金属を低減させたポリフェニレンスルフィドが開示されているが、ポリカーボネート樹脂による改質を目的とするものではなく、またコスト競争力に劣るものであった。特許文献4には、分散度が2.5以下でアルカリ金属含量が50ppm以下であるポリフェニレンスルフィド樹脂と熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が開示されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂による改質、特にバリの抑制を目的としたものではなく、特性についても満足できるものではなかった。
【0003】
さらに特許文献5にはポリフェニレンスルフィド樹脂および分岐構造を含有するポリカーボネート樹脂をからなる樹脂組成物、特許文献6には、ポリカーボネート樹脂の分解を抑制したポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物が開示されているが、当該樹脂組成物の成形時の剥離性に関しては言及されておらず、金型に樹脂が張り付くなど生産性において実用に耐えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭51-59952号公報
【文献】特開2010-70656号公報
【文献】特開2008-231250号公報
【文献】特開2008-231249号公報
【文献】特開2014-231583号公報
【文献】特開2015-30779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポリアリーレンスルフィド樹脂が有する優れた特性を保持しつつ、成形時の剥離性、耐薬品性および低バリ性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂および特定の水酸基末端基量を有するポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂が有する優れた特性を保持しつつ、成形時の剥離性、耐薬品性および低バリ性に優れることを見出し本発明に至った。
【0007】
具体的には、上記課題は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)99~1重量部および(B)水酸基末端基量が20~80eq/tであるポリカーボネート樹脂(B成分)1~99重量部を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物により達成される。
【0008】
以下、本発明の詳細について説明する。
(A成分:ポリアリーレンスルフィド樹脂)
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。
【0009】
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができ、その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらに、ポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0010】
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の総塩素含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは450ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。総塩素含有量が500ppmを超える場合には、発生ガス量が増加しモールドデポジットが増え剥離性を悪化させる場合がある。
【0011】
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の総ナトリウム含有量は、好ましくは39ppm以下、より好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは8ppm以下である。39ppmを超える場合には、樹脂の分解を促進による物性低下だけではなく、高温高湿環境下において、ナトリウム金属と水分子の配位結合による樹脂の吸水量の増加によって耐湿熱性を低下させる場合がある。なお、総ナトリウム含有量はICP発光分析法(ICP-AES法)により測定した。
【0012】
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は好ましくは2.7以上、より好ましくは2.8以上、さらに好ましくは2.9以上である。分散度が2.7未満の場合は、成形時のバリ発生が多くなる場合がある。なお、分散度(Mw/Mn)の上限は特に規定されないが、10以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出された値である。なお、溶媒には1-クロロナフタレンを使用し、カラム温度は210℃とした。
【0013】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではなく、既知の方法で重合されるが、特に好適な重合方法としては、米国登録特許第4,746,758号、第4,786,713号、特表2013-522385、特開2012-233210および特許5167276等に記載された製造方法が挙げられる。これらの製造方法は、ジヨードアリール化合物と固体硫黄を、極性溶媒なしに直接加熱して重合させる方法である。
【0014】
前記製造方法はヨウ化工程および重合工程を含む。該ヨウ化工程ではアリール化合物をヨードと反応させて、ジヨードアリール化合物を得る。続く重合工程で、重合停止剤を用いてジヨードアリール化合物を固体硫黄と重合反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する。ヨードはこの工程で気体状で発生し、これを回収して再びヨウ化工程に用いられる。実質的にヨードは触媒である。
【0015】
前記製造方法で用いられる代表的な固体硫黄としては、室温で8個の原子が連結されたシクロオクタ硫黄形態(S8)が挙げられる。しかしながら重合反応に用いられる硫黄化合物は限定されるものではなく、常温で固体または液体であればいずれの形態でも使用し得る。
【0016】
前記製造方法で用いられる代表的なジヨードアリール化合物としては、ジヨードベンゼン、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノールおよびジヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、またアルキル基やスルホン基が結合していたり、酸素や窒素が導入されたりしているヨードアリール化合物の誘導体も使用される。ヨードアリール化合物はそのヨード原子の結合位置によって異なる異性体に分類され、これらの異性体のうち好ましい例は、p-ジヨードベンゼン、2,6-ジヨードナフタレン、及びp,p’-ジヨードビフェニルのようにヨードがアリール化合物の分子両端に対称的に位置する化合物である。該ヨードアリール化合物の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し500~10,000重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0017】
前記製造方法で用いられる代表的な重合停止剤としては、モノヨードアリール化合物、ベンゾチアゾール類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバメート類、芳香族スルフィド化合物などが挙げられる。モノヨードアリール化合物のうち好ましい例としては、ヨードビフェニル、ヨードフェノール、ヨードアニリン、ヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ベンゾチアゾール類のうち好ましい例としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ベンゾチアゾールスルフェンアミド類のうち好ましい例としては、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール2-スルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、2-モルホリノチオベンゾチアゾール、ベンゾチアゾールスルフェンアミド、ジベンゾチアゾールジスルファイド、N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾール2-スルフェンアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。チウラム類のうち好ましい例としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ジチオカルバメート類のうち好ましい例としては、ジメチルジチオカルバメート酸亜鉛、ジエチルジチオカルバメート酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。芳香族スルフィド化合物のうち好ましい例としては、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジフェニルエーテル、ビフェニル、ベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。またいずれの重合停止剤においても、共役芳香環骨格上に一つまたは複数の官能基が置換されていてもよい。前記官能基の例としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、スルホ基、ニトロ基などが挙げられ、好ましい例としてはカルボキシル基、アミノ基が挙げられ、さらに好ましい例としてはFT-IRスペクトル上で、1600~1800cm-1または3300~3500cm-1のピークを示すカルボキシル基、アミノ基が挙げられる。重合停止剤の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し1~30重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0018】
また本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂として、より高い相溶化を得ることを目的に、カルボキシル基やカルボキシル基誘導体基、チオール基、スルホン基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、ニトロ基等の反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることもできる。該反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることで、他の高分子素材や、炭素繊維などとの優れた相溶性を示し、剥離性に優れ、より高い機械的強度を有する樹脂組成物を得ることができる。該反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂のうちより好ましい例としては、カルボキシル基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が挙げられる。前記カルボキシル基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂とは、FT-IR分光法のFT-IRスペクトルにて、カルボキシル基由来の約1600~1800cm-1またはアミノ基由来の約3300~3500cm-1のピークを示し、かつ1400~1600cm-1で現れる芳香環伸縮ピークの高さ強度を100%としたとき、前記約1600~1800cm-1または約3300~3500cm-1のピークの相対的高さ強度が0.001~10%であるポリアリーレンスルフィド樹脂である。
【0019】
前記カルボキシル基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂のうち特に好ましい例としては、カルボキシル基の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂であり、下記一般式(1)で表される構造単位で示される。
【0020】
【0021】
ここで、前記アリーレン基は、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、および、置換されたフェニレン基などを使用することができる。具体的に、置換されたフェニレン基は、一つ以上のF、Cl、Br、C1~C3のアルキル、トリフルオロメチル、C1~C3のアルコキシ、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、ジメチルアミノ、シアノ、(C1~C3アルキル)SO2-、(C1~C3アルキル)NHSO2-、(C1~C3アルキル)2NSO2-、NH2SO2-により任意に置換されたフェニレン基である。
【0022】
ポリアリーレンスルフィド樹脂に前記反応性官能基を導入する方法としては特に限定されるものではなく、既知の方法で重合されるが、共役芳香環骨格上に一つまたは複数の一般式(2)で表される基を有する重合停止剤を使用する方法が挙げられる。前記重合停止剤で用いられる共役芳香環骨格としては、例えば、ジフェニルジスルフィド、モノヨードベンゼン、チオフェノール、2,2’-ジベンゾチアゾリルジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾール、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、2-(モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、N,N’-ジシクロヘキシル-1,3-ベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドなどが挙げられる。
【0023】
【化2】
(式中、Rは水素原子またはアルカリ金属原子である。)
【0024】
カルボキシル基の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の好適な重合方法としては、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階、前記重合反応段階を進行しながら、カルボキシル基を有する化合物を添加してポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中をカルボキシル基で置換する製造方法が挙げられる。前記カルボキシル基を有する化合物で用いられる代表的な例は、2-ヨード安息香酸、3-ヨード安息香酸、4-ヨード安息香酸、および2,2’-ジチオ安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記カルボキシル基を有する化合物は、ジヨード芳香族化合物100重量部を基準に約0.0001~5重量部添加することができる。
【0025】
前記製造方法では重合反応触媒を使用しても良く、代表的な重合反応触媒としては、ニトロベンゼン系触媒が上げられる。ニトロベンゼン系触媒のうち好ましい例としては、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、1-ヨード-4-ニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロフェノール、ヨードニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。重合反応触媒の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し0.01~20重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0026】
該製造方法の反応条件の代表的な例は、温度180~250℃および圧力50~450Torr(6.7~60kPa)の初期反応条件から、温度270~350℃および圧力0.001~20Torr(0.00013~2.7kPa)の最終反応条件まで、温度を上昇させると共に圧力を降下させながら、1~30時間進行させる。好ましくは前記初期反応条件は反応速度を考慮して、温度180℃以上、圧力450Torr(60kPa)以下とし、最終反応条件は高分子の熱分解を考慮して温度350℃以下、圧力20Torr(2.7kPa)以下が挙げられる。
【0027】
但し、重合反応の条件は、反応器の構造設計および生産速度に依存し、当業者に知られているため、特に制限されない。反応条件は、当業者がプロセス条件を考慮して適宜設定することができる。
この重合方法を使うことにより、実質的にナトリウム含有量を低減させる必要が無く、コストパフォーマンスに優れたポリフェニレンスルフィド樹脂を得ることができる。
また本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂は、その他の重合方法によって得られたポリフェニレンスルフィド樹脂を含んでいてもよい。
【0028】
(B成分:ポリカーボネート樹脂)
本発明において使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができるが、溶融エステル交換法が好ましい。ポリカーボネート樹脂はまた3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、または二価の脂肪族または脂環族アルコールを共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0029】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは1.3×104~4.0×104、より好ましくは1.5×104~3.8×104である。芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。かかるポリカーボネート樹脂の詳細については、特開2002-129003号公報に記載されている。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
【0030】
ポリカーボネート樹脂の水酸基末端基量は、20~80eq/tであり、好ましくは30~75eq/t、より好ましくは35~65eq/tである。水酸基末端基量が20eq/t未満ではポリアリーレンスルフィドとの相溶性が低下し、剥離性が悪化する。一方、80eq/tより多いとポリアリーレンスルフィドの結晶化度を低下させ剥離性が悪化する。ポリカーボネート樹脂の水酸基末端基量は、下記の方法によって調整することができる。界面重縮合法の場合、触媒の使用や末端停止剤の添加量、添加時間により水酸基末端基量は調整される。また重合反応を静置状態で行うことも有効である。溶融エステル交換法では、二価フェノールとカーボネートエステルの存在比をカーボネートエステルよりにすることで、水酸基末端基量の低減が可能である。
【0031】
なお、ポリカーボネート樹脂の水酸基末端基量は以下のNMR法で測定される。すなわち、水酸基末端基量は、ポリカーボネート樹脂ペレットまたはパウダー40mgを重クロロホルム1mlに溶解した溶液から1H-NMRノンデカップリング測定を行い、1H-NMRスペクトルチャートから化学シフト6.66~6.73ppm、及び6.93~7.00ppmのピークの積分値を次式に挿入して求めたものである。
OH末端基量(eq/ton)=[(A/2)/(B/(C×2/100))]×(1000000/D)
A:6.66~6.73ppmのピークの積分値
B:6.93~7.00ppmのピークの積分値
C:炭素同位体13Cの存在度(1.108%)
D:PCの1ユニットあたりの質量数(ビスフェノールAポリカーボネート:254)
【0032】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、通常使用されるビスフェノールA型ポリカーボネート以外にも、他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂であってもよい。他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂の具体例としては、下記のものが好適に例示される。
【0033】
(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称)成分が20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつ9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称)成分が20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0034】
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、ビスフェノールA成分が10~95モル%(より好適には50~90モル%、さらに好適には60~85モル%)であり、かつBCF成分が5~90モル%(より好適には10~50モル%、さらに好適には15~40モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0035】
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつ1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン成分が20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート。これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。これらの特殊なポリカーボネートの製法および特性については、例えば、特開平6-172508号公報、特開平8-27370号公報、特開2001-55435号公報および特開2002-117580号公報等に詳しく記載されている。さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0036】
ポリカーボネート樹脂はバージン原料のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂を利用することが可能である。その使用済みの製品としては、水ボトルに代表される容器、光学ディスクおよび自動車ヘッドランプなどが例示される。
【0037】
B成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部中、1~99重量部であり、5~95重量部が好ましく、5~30重量部および70~95重量部がより好ましい。含有量が5~30重量部の場合には、よりポリフェニレンスルフィド樹脂の優れた特性を生かした樹脂設計が可能である場合があり、一方、70~95重量部の場合はよりポリカーボネート樹脂の優れた特性を生かした樹脂設計が可能となる場合がある。含有量が1重量部未満ではポリカーボネート樹脂の特徴が発現されずバリの発生が抑えられない。一方、99重量部より多いとポリフェニレンスルフィド樹脂の特徴が発現されず耐薬品性が悪化する。
【0038】
(C成分:充填材)
本発明の樹脂組成物は更に充填材を含有することができる。その材料は特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填剤を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられ、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維が好ましく用いられる。また、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスフレーク、ガラス・ビーズ、セラミックビ-ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどが挙げられ、ガラスフレーク、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、ガラスビーズが好ましく用いられる。これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填材を2種類以上併用することも可能である。
【0039】
また、これら充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で、膨潤性の層状珪酸塩では有機化オニウムイオンで予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物に導電性を付与するために充填材として、導電性フィラーが挙げられる。導電性フィラーは、通常樹脂の導電化に用いられる導電性フィラーであれば特に制限は無く、その具体例としては、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維、金属酸化物、導電性物質で被覆された無機フィラー、カーボン粉末、黒鉛、炭素繊維、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。金属繊維の金属種の具体例としては鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、黄銅などが例示できる。かかる金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維はチタネート系、アルミ系、シラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。
【0041】
金属酸化物の具体例としてはSnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)、ZnO(アルミニウムドープ)などが例示でき、これらはチタネート系、アルミ系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。
【0042】
導電性物質で被覆された無機フィラーにおける導電性物質の具体例としてはアルミニウム、ニッケル、銀、カーボン、SnO2(アンチモンドープ)、In2O3(アンチモンドープ)などが例示できる。また被覆される無機フィラーとしては、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛系ウィスカー、チタン酸系ウィスカー、炭化珪素ウィスカーなどが例示できる。被覆方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法、焼き付け法などが挙げられる。またこれらはチタネート系、アルミ系、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。
【0043】
カーボン粉末はその原料、製造法からアセチレンブラック、ガスブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラックなどに分類される。本発明で用いることのできるカーボン粉末は、その原料、製造法は特に限定されないが、アセチレンブラック、ファーネスブラックが特に好適に用いられる。
【0044】
C成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、5~400重量部であることが好ましく、より好ましくは10~200重量部、特に好ましくは20~150重量部である。C成分の含有量が5重量部未満では剛性、耐熱性が劣る場合があり、400重量部を超えると成形加工性が低下する場合がある。
【0045】
ところで、本発明におけるC成分としは、JIS R7608により測定された引張弾性率が250GPa以上の炭素繊維が本発明の効果の点から好ましい。具体的な炭素繊維としては、カーボンファイバー、カーボンミルドファイバーおよびカーボンナノチューブ等が挙げられる。カーボンナノチューブは繊維径0.003~0.1μmであることが好ましい。またそれらは単層、2層、および多層のいずれであってもよく、多層(いわゆるMWCNT)が好ましい。カーボンミルドファイバーは平均繊維長0.05~0.2mmであることが好ましい。これらの中でも機械的強度に優れる点において、カーボンファイバーが好ましい。カーボンファイバーとしては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、およびピッチ系などのいずれも使用可能である。また芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン型結合による重合体と溶媒よりなる原料組成を紡糸または成形し、次いで炭化するなどの方法に代表される不融化工程を経ない紡糸を行う方法により得られたものも使用可能である。これらの中でも特にポリアクリロニトリル系の高弾性率タイプが好ましい。但し、カーボンファイバーの引張弾性率が600GPaを超えるとカーボンファイバーが非常に高価となり、かつ原料供給面から汎用性が低下するため、使用するカーボンファイバーの引張弾性率の好ましい範囲は250~600GPaであり、より好ましくは260~500GPaである。また、JIS R7608により測定されたカーボンファイバーの引張強度は3,000MPa以上が好ましい。但し、カーボンファイバーの引張強度が7,000MPa超えると引張弾性率と同様にカーボンファイバーが非常に高価となり、かつ原料供給面から汎用性が低下するため、使用するカーボンファイバーの引張強度の好ましい範囲は3,000~7,000MPaであり、より好ましくは5,000~6,500MPaである。カーボンファイバーの平均繊維径は特に限定されないが、3~15μmが好ましく、より好ましくは4~13μmである。かかる範囲の平均繊維径を持つカーボンファイバーは、成形品外観を損なうことなく良好な機械的強度および疲労特性を発現することができる。また、カーボンファイバーの好ましい繊維長は、樹脂組成物中における数平均繊維長として60~500μmが好ましく、より好ましくは80~400μm、特に好ましくは100~300μmである。尚、かかる数平均繊維長は、成形品の高温灰化、溶剤による溶解、および薬品による分解等の処理で採取されるカーボンファイバーの残さから光学顕微鏡観察などから画像解析装置により算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維長以下の長さのものはカウントしない方法による値である。
【0046】
上記のカーボンファイバーは、カーボンファイバーの表面に金属層をコートしてもよい。金属としては、銀、銅、ニッケル、およびアルミニウムなどが挙げられ、ニッケルが金属層の耐腐食性の点から好ましい。金属コートの方法としては、先にガラス充填材における異種材料による表面被覆で述べた各種の方法が採用できる。中でもメッキ法が好適に利用される。また、かかる金属コートカーボンファイバーの場合も、元となるカーボンファイバーとしては上記のカーボンファイバーとして挙げたものが使用可能である。金属被覆層の厚みは好ましくは0.1~1μm、より好ましくは0.15~0.5μmである。更に好ましくは0.2~0.35μmである。かかる金属未コートのカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーは、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましい。特にウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂で処理されたカーボンファイバーは、機械的強度に優れることから本発明において好適である。また金属未コートのカーボンファイバー、金属コートカーボンファイバーの集束剤量に特に限定はないが、ウエルド強度向上させる点おいて集束剤量は少ない方が好ましい。好ましい集束剤量は0~4%であり、より好ましくは0.1~3%である。
【0047】
C成分として炭素繊維または全芳香族ポリアミド繊維を用いる場合の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、15~180重量部が好ましく、より好ましくは18~150重量部、さらに好ましくは20~140重量部である。
【0048】
(その他の成分)
本発明における樹脂組成物中には本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマー成分を含むことができる。好適なエラストマー成分としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)およびシリコーン・アクリル複合ゴム系グラフト共重合体などのコア-シェルグラフト共重合体樹脂、あるいはシリコーン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0049】
本発明における樹脂組成物中は本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を含むことができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂などに代表される汎用プラスチックス、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、などのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスと呼ばれるものを挙げることができる。
【0050】
本発明における樹脂組成物中は本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(赤燐、リン酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)および他の重合体を添加することができる。
【0051】
(樹脂組成物の製造)
本発明の樹脂組成物は上記各成分を同時に、または任意の順序でタンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等の混合機により混合して製造することができる。好ましくは二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、任意の成分をサイドフィーダー等を用いて第二供給口より、溶融混合された他の成分中に供給することが好ましい。押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0052】
二軸押出機に使用するスクリューは、輸送用順フライトピースの間に多種多様な形状のスクリュピースを挿入して複雑に組合せ、一体化して一本のスクリューとして構成されており、順フライトピース、順ニーディングピース、逆ニーディングピース、逆フライトピース、切り欠きを有する順フライトピース、逆フライトピースなどのスクリュピースを処理対象原材料の特性を考慮して、適宜の順序および位置に配置して組み合わせたものなどを挙げることができる。溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0053】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.5mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~4mmである。
【0054】
本発明の樹脂組成物の総ナトリウム含有量は39ppm以下であることが好ましく、より好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは8ppm以下である。総ナトリウム量が39ppmを超える場合、ポリカーボネート樹脂の分解を抑制できず、そのため、ポリカーボネート樹脂によるバリ抑制効果が発現されないばかりか、よりひどい場合にはペレット化が困難となる場合がある。
【0055】
(成形品について)
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形品は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。また押出成形では、各種異形押出成形品、シート、フィルム等が得られる。シート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法等も使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形等により成形品とすることも可能である。
【発明の効果】
【0056】
本発明の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂および特定の水酸基末端基量を有するポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物であって、ポリアリーレンスルフィド樹脂が有する優れた特性を保持しつつ、成形時の剥離性、耐薬品性および低バリ性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であることから、パソコン、タブレット、携帯電話用ハウジング、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根などにおいて幅広く有用であり、特にコンピューター、ノートブック、ウルトラブック、タブレット、携帯電話用ハウジング、ハイブリッド自動車や電気自動車用のインバータハウジング等の電子機器筐体などにおいて幅広く有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明者が現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
[樹脂組成物の評価]
(1)剥離性評価
ISO527-1に準拠した試験片の成形時の剥離度合いを評価した。試験片は下記で得られたペレットを130℃で6時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業(株)製 SG-150U)によりシリンダー温度300℃、金型温度150℃の条件で成形した。金型に張り付きがみられたものを剥離不良が発生したものとし、連続10ショット中取出し時に剥離不良がみられた個数から発生率を算出した。剥離不良の発生率が0-10%のものを○、剥離不良の発生率が20-30%のものを△、剥離不良の発生率が40-100%のものを×とした。
(2)流動性評価
下記で得られた樹脂ペレットを用いて、ISO1133規格に準拠した300℃、2.16kg荷重におけるメルトボリュームレート(MVR値)を測定した。測定に際して熱可塑性材料は予め130℃で4時間熱風乾燥機により乾燥した。測定には(株)東洋精機製メルトインデクサー2Aを用いた。
(3)バリ評価
バリの評価は、上記のISO527-1に準拠した試験片のガスベントに接触する部分のバリの長さを測定することにより実施した。なお、ガスベントの厚みは10μm、幅5mmとした。
(4)耐薬品性評価
上記のISO527-1に準拠した試験片をガソリンに浸漬させ、24時間後の外観を観察した。外観の変化が無いものを○、クラック等が発生したものを×とした。
【0059】
[実施例1~16、比較例1~4]
ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂および充填材を表1および表2記載の各配合量で、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練してペレットを得た。ベント式二軸押出機は(株)日本製鋼所製:TEX-30XSST(完全かみ合い、同方向回転)を使用した。押出条件は吐出量12kg/h、スクリュー回転数150rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は第一供給口からダイス部分まで300℃とした。なお、粒子状の充填材(炭酸カルシウム)を除く充填材は上記押出機のサイドフィーダーを使用し、第二供給口から供給し、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂および粒子状の充填材(炭酸カルシウム)は第一供給口から押出機に供給した。なお、ここでいう第一供給口とはダイスから最も離れた供給口であり、第二供給口とは押出機のダイスと第一供給口の間に位置する供給口である。得られたペレットを130℃で6時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業(株)製 SG-150U)によりシリンダー温度300℃、金型温度130℃の条件で、評価用の試験片を成形した。
【0060】
ポリフェニレンスルフィド樹脂の総ナトリウム含有量は、ペレットに硫酸を添加して灰化後、硫酸水素カリウムで融解し、希硝酸に溶解させ純水で定容した後、ICP発光分析法(ICP-AES法)により定量分析を行った。測定装置はバリアン製、ICP-AES VISTA-MPXを使用した。
【0061】
ポリカーボネート樹脂のオリゴマー、ポリマーの比粘度は、オリゴマー又はポリマー0.7gを塩化メチレン100mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて温度20℃で測定した。
【0062】
ポリカーボネート樹脂の水酸基末端量は、NMRスペクトルチャートから積分値を求め算出した。ポリカーボネート樹脂ペレットまたはパウダー40mgを重クロロホルム1mlに溶解し、内径5mmのNMR試料管に液面の高さが40mmになるように仕込み、キャップをしてNMR測定用サンプルとした。これを日本電子株式会社製 FT-NMR AL-400を用いて1H-NMRの測定をノンデカップリング、積算回数512回で行った。得られたNMRスペクトルチャートから化学シフト6.66~6.73ppm、及び6.93~7.00ppmのピークの積分値を求め、下記式から水酸基末端基量(eq/ton)を算出した。
水酸基末端基量(eq/ton)=[(A/2)/(B/(C×2/100))]×(1000000/D)
A:6.66~6.73ppmのピークの積分値
B:6.93~7.00ppmのピークの積分値
C:炭素同位体13Cの存在度(1.108%)
D:PCの1ユニットあたりの質量数(ビスフェノールAポリカーボネート:254)
【0063】
表1および表2記載の記号表記の各成分は下記の通りである。
<A成分>
A-1:製造方法1で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法1]
パラジヨードベンゼン300.00g及び硫黄27.00gに、重合停止剤としてジフェニルジスルフィド0.60g(最終的に重合されたPPSの重量に基づいて0.65重量%の含量)を投入して180℃に加熱して完全にそれらを溶融及び混合した後、温度を220℃に昇温し、且つ、圧力を200Torrに降圧した。得られた混合物を、最終温度及び圧力が夫々320℃及び1Torrとなるように温度及び圧力を段階的に変化させつつ、8時間重合反応させてポリフェニレンスルフィド樹脂を製造した。総ナトリウム含有量は7ppmであった。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は4.7であった。
【0064】
A-2:製造方法2で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法2]
パラジヨードベンゼン5130g及び硫黄450gに、反応開始剤としてメルカプトベンゾチアゾール4gを含む反応物を180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、温度を220℃に昇温し、且つ、圧力を350Torrに降圧した。得られた混合物を、最終温度および圧力が各々300℃および1Torr以下となるように温度及び圧力を段階的に変化させつつ、重合反応を進行した。前記重合反応が80%進行した時(重合反応の進行程度は粘度による相対比率((現在粘度/目標粘度)×100%)の方法で確認した。)、重合停止剤としてメルカプトベンゾチアゾールを25g添加して反応を行った。1時間後、4-ヨード安息香酸51g添加して窒素雰囲気下で10分間反応を行い、0.5Torr以下に徐々に真空度を上げてさらに1時間反応を行った後反応を終了し、カルボキシル基を主鎖末端に含むポリアリーレンスルフィド樹脂を製造した。得られたポリアリーレンスルフィドのFT-IRスペクトルにて、1600~1800cm-1のカルボキシル基ピークの存在を確認した。また、1400~1600cm-1で現れる芳香環伸縮ピークの高さ強度を100%としたとき、前記1600~1800cm-1のピークの相対的高さ強度は3.4%であった。総ナトリウム含有量は7ppmであった。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は4.11であった。
A-3:ポリフェニレンスルフィド樹脂(DIC製 DIC-PPS MA-505、総ナトリウム含有量160ppm、分散度(Mw/Mn)3.5)
【0065】
<B成分>
B-1:製造方法3で得られたポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量89000、水酸基末端基量22eq/t)
[製造方法3]
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応槽にビスフェノールA146.2重量部とジフェニルカーボネート157.2重量部を混合し、140℃で溶融させた。この溶融混合物に炭酸セシウム水溶液を加え、230℃で13.3kPaの減圧下、60分加熱した。反応槽からフェノールを留去しながら、260℃、4kPaで60分加熱後、更に340℃、20Paで150分と3段階で高温減圧条件を変えた。更に反応槽に触媒失活剤としてp-トルエンスルホン酸ブチルを15ppm加え、溶融樹脂を水に投入しペレット化した。
【0066】
B-2:製造方法4で得られたポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量48000、水酸基末端基量39eq/t)
[製造方法4]
3段階目の重合を300℃、40Paで120分実施することおよび触媒失活剤の投入量を10ppmとした以外は製造方法3と同様の手法で重合した。
【0067】
B-3:製造方法5で得られたポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量25000、水酸基末端基量78eq/t)
[製造方法5]
3段階目の重合を280℃、50Paで90分実施することおよび剤触媒失活の投入量を5ppmとした以外は製造方法3と同様の手法で重合した。
【0068】
B-4:製造方法6で得られたポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量22000、水酸基末端基量90eq/t)
[製造方法6]
3段階目の重合を280℃、60Paで90分実施することおよび触媒失活剤の投入量を1ppmとした以外は製造方法3と同様の手法で重合した。
【0069】
B-5:製造方法7で得られたポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量12500、水酸基末端基量13eq/t)
[製造方法7]
温度計、撹拌機及び還流冷却器付き反応器にイオン交換水219.4部、48%水酸化ナトリウム水溶液40.2部を仕込み、これに2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン57.5部およびハイドロサルファイト0.12部を加えて25分間で溶解した後、塩化メチレン181部を5分間で加え、撹拌下15~25℃でホスゲン27.8部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液7.2部およびp-tert-ブチルフェノール3.10部と7.4%水酸化ナトリウム水溶液1部に対し2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン0.20部を溶解した溶液0.65部を加え、ホモミキサーで乳化せしめた後攪拌を停止し28~33℃で2.5時間静置して反応を終了した。反応終了後生成物に塩化メチレン200部を加え混合した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離して、ポリカーボネート樹脂濃度15重量%有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液にイオン交換水200部を加え攪拌混合した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。この操作を水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで(4回)繰返した。得られた精製ポリカーボネート樹脂溶液をSUS304製の濾過精度1μmフィルターで濾過した。次に、該有機溶媒溶液を軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けた内壁の材質がSUS316L製の1000Lニーダーにイオン交換水100Lを投入し、水温42℃にて塩化メチレンを蒸発させて粉粒体とし、該粉粒体と水の混合物を水温95℃にコントロールされた攪拌機付熱水処理槽を有した熱水処理工程の熱水処理槽に投入し、粉粒体25部、水75部の混合比で30分間攪拌機混合した。この粉粒体と水の混合物を遠心分離機で分離して塩化メチレン0.5重量%、水45重量%の含有粉粒体を得た。次に、この粉粒体を140℃にコントロールされているSUS316L製伝導受熱式溝型2軸攪拌連続乾燥機に50kg/Hr(ポリカーボネート樹脂換算)で連続供給して、平均乾燥時間6時間の条件で乾燥し、粘度平均分子量11800の粉粒体を得た。得られた粉粒体をアセトン中に投入し、30分攪拌後粉粒体スラリー溶液を取り出し、固液分離後窒素雰囲気下で140℃、4時間乾燥し、アセトン抽出した粘度平均分子量12500、水酸基末端基量13eq/tonの粉粒体(パウダー)を得た。
【0070】
<C成分>
C-1:円形断面チョップドガラス繊維(日本電気硝子(株)製 T-732H 直径:10.5μm、カット長:3mm、エポキシ系集束剤)
C-2:炭酸カルシウム((株)カルファイン製 KSS-1000)
C-3:炭素繊維(帝人(株)製 IM702 6mm 長径:6μm、カット長:6mm、引張弾性率:282GPa、引張強度:5,490MPa、ウレタン系集束剤))
C-4:全芳香族ポリアミド繊維 (帝人(株)製 パラ系全芳香族ポリアミド繊維 T322EH 3-12 長径:12μm、カット長:3mm)
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