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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】粒子計測方法及び検出液
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20230228BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
G01N15/02 A
G01N15/14 P
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019043031
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020144088
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超先端材料超高速基盤技術プロジェクト/先端ナノ計測評価技術開発/ナノ物質計測技術開発・ナノ欠陥検査用計測標準開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 寛
(72)【発明者】
【氏名】林 秀和
(72)【発明者】
【氏名】塩原 英志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 郁
(72)【発明者】
【氏名】田渕 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】坂東 和奈
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡太
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-024535(JP,A)
【文献】特開2018-130670(JP,A)
【文献】吉山 秀典 他,改良液浸法による微粒子の屈折率の測定,エアロゾル研究,Vol.19, No. 1,1994年,44-50,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jar/9/1/9_1_44/_article/-char/ja/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸メチル液を含む検出液に光を照射する工程と、
前記光を照射した前記検出液からの散乱光を光電変換により電気信号に変換する工程と、
前記電気信号に基づいて前記検出液中に含まれる、フッ素樹脂を含む粒子を計測する工程と
を具備する粒子計測方法。
【請求項2】
前記粒子を計測する工程は、前記電気信号に現れるパルス波の数に基づき、前記粒子の個数を算出する請求項に記載の粒子計測方法。
【請求項3】
前記粒子を計測する工程は、前記電気信号に現れるパルス波の振幅に基づき、前記粒子の粒子径を算出する請求項に記載の粒子計測方法。
【請求項4】
前記散乱光を前記電気信号に変換する工程は光電子増倍管を用いて行う請求項1に記載の粒子計測方法。
【請求項5】
前記粒子を計測する工程は、前記検出液中の前記粒子のブラウン運動に起因する前記電気信号の強度変化に基づき、前記粒子の粒子径や粒子径分布を算出することを含む請求項に記載の粒子計測方法。
【請求項6】
前記粒子を計測する工程は、粒子個々のブラウン運動による移動量に基づき、前記粒子の粒子径又は粒子径分布を算出することを含む請求項1に記載の粒子計測方法。
【請求項7】
前記検出液は、フッ素樹脂含むパーツ内を流れる請求項1乃至のいずれかに記載の粒子計測方法。
【請求項8】
前記パーツは、半導体装置の製造に用いるパーツである請求項に記載の粒子計測方法。
【請求項9】
前記検出液は、前記パーツ内を流れる前に、窒素ガス封止を施したタンク内に保管されている請求項又はに記載の粒子計測方法。
【請求項10】
サリチル酸メチル液を含む検出液に光を照射する工程と、
前記光を照射した前記検出液からの散乱光を光電変換により電気信号に変換する工程と、
前記電気信号に基づいて、前記検出液中に含まれる粒子を計測する工程と
を具備し、
前記粒子を計測する工程は、粒子個々のブラウン運動による移動量に基づき、前記粒子の粒子径又は粒子径分布を算出することを含む粒子計測方法。
【請求項11】
液体が流れる、フッ素樹脂を含むパーツから発生する粒子を検出するために用いる検出液であって、前記パーツ内に流され、光が照射されるサリチル酸メチル液を含む検出液。
【請求項12】
窒素ガス封止を施したタンク内に保管される請求項11に記載の検出液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子計測方法及び検出液に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中の粒子を計測する方法の一つとして、光散乱式液中粒子計数器(LSLPC = Light Scattering Liquid Particle Counter)を用いた方法がある。この方法では、液体に光を照射し、液体中の粒子個々からの散乱光を検出し、検出した散乱光に基づいて液中の粒子の大きさと個数を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-256537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、検出感度の向上を図れる粒子計測方法及び検出液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の粒子計測方法では、サリチル酸メチル液を含む検出液に光を照射する。次に、前記光を照射した前記検出液からの散乱光を光電変換により電気信号に変換する。その後、前記電気信号に基づいて前記検出液中に含まれる粒子を計測する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態の粒子計測方法を実施するために用いるLSLPCを模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態の粒子計測方法を説明するためのフローチートである。
図3図3は、1-ブロモナフタレン、ブロモベンゼン、テトラリン及びサリチル酸メチルの透過率の分析結果を示す図である。
図4図4は、1-ブロモナフタレン、ブロモベンゼン、テトラリン及びサリチル酸メチルの発光スペクトルの分析結果を示す図である。
図5図5は、溶媒中の粒子の粒子径と相対散乱強度との関係を調べた結果を示すグラフである。
図6図6は、大気に開放放置したサリチル酸メチル及び容器内に密閉したサリチル酸メチルのそれぞれについて、サリチル酸メチル中の粒子の数と経過時間との関係を調べた結果を示す図である。
図7図7は、大気に開放放置したサリチル酸メチル中の水分濃度と経過時間との関係を調べた結果を示す図である。
図8図8は、窒素ガス封止を施したサリチル酸メチル液を含む検出液を貯蔵するタンクを模式的に示す図である。
図9図9は、図8のタンクを含む液中粒子計測システムの一例を模式的に示す図である。
図10図10は、図8の液中粒子計測システムの配管内を流れるサリチル酸メチルの経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、図面は、模式的又は概念的なものであり、各図面の寸法及び比率等は、必ずしも現実のものと同一であるとは限らない。図面において、同一符号は同一又は相当部分を付してあり、重複した説明は必要に応じて行う。また、簡略化のために、同一又は相当部分があっても符号を付さない場合もある。
【0008】
本実施形態では、半導体装置の製造に用いる高純度液体に触れるパーツからの粒子(発塵)を計測する粒子計測方法について説明する。上記パーツは、例えば、配管、継手、バルブ、ポンプ又はフィルタである。上記パーツの材料は、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂である。高純度液体は、例えば、超純水、イソプロピルアルコール(IPA)、酸性若しくはアルカリ性の洗浄液、又は、有機溶剤若しくはレジストなどの機能性塗布膜材料を含む液体である。
【0009】
図1は、実施形態の粒子計測方法を実施するために用いるLSLPC1を模式的に示す図である。
LSLPC1は、フローセル2、光源3、集光レンズ4、光電変換器5及び算出部6を含む。
フローセル2の流路2a内には検出液7が流れる。光源3はレーザー素子(不図示)を含み、当該レーザー素子から発生したレーザー光(照射光)8aは、流路2a内を流れる検出液7に照射される。本実施形態では、レーザー素子は半導体励起固体レーザー素子であり、レーザー光8の波長は532nmである。検出液7中に粒子が存在する場合、レーザー光8aは粒子で散乱される。レーザー光8aを照射した検出液7からの散乱光8bは集光レンズ4により光電変換器5に集光される。光電変換器5は、集光された散乱光8bを光電変換により電気信号に変換する。本実施形態では、光電変換器5は、光電変換素子であるフォトダイオードを含む。
【0010】
算出部6は、光電変換器5の電気信号(出力)に基づいて検出液7中に含まれる粒子を計測する。より詳細には、算出部6は、フォトダイオードの電気信号(出力)に現れるパルス波の数に基づき粒子の数を算出する。パルス波の数は粒子の数に対応する。また、パルス波の振幅は粒子の散乱光強度に比例し、これから粒子の大きさ(粒子径)の情報が得られる。この粒子径は、屈折率と粒子径が既知の試験粒子(例えばポリスチレンラテックス(PSL)粒子)によって校正された相対相当値である。
【0011】
図2は、実施形態の粒子計測方法を説明するためのフローチャートである。
まず、フローセル2の流路2a内にサリチル酸メチル液を含む検出液7を流す(ステップS1)。検出液7は、例えば、後述する図9及び図10に示される液中粒子計測システム20のパーツ27を通った後にLSLPC1内のフローセル2の流路2a内を流れる。
【0012】
次に、流路2a内を流れる検出液7にレーザー光(照射光)8aを照射する(ステップS2)。
次に、光電変換器5を用いて散乱光8bを光電変換により電気信号に変換する(ステップS3)。
その後、上記電気信号に基づいて検出液7中に含まれる粒子を算出部6により計測する(ステップS4)。
【0013】
なお、実施形態の粒子計測方法は、LSLPC1の代わりに、動的光散乱(Dynamic Light Scattering, DLS)式粒径分布測定装置や国際公開第2016/159131号に開示されているブラウン運動の移動量から粒子の大きさ等を測定する粒子計測装置(Flow Particle Tracking, FPT)を用いても実施できる。また、ステップS4に対応する工程においては、算出部6は、増幅した電気信号の変化、つまり、検出液中の粒子群のブラウン運動に基づいて検出液中の粒子の粒径分布を算出する。
【0014】
次に、サリチル酸メチルを含む検出液7を用いる理由について説明する。
光の散乱は粒子の大きさと粒子計測に用いる光の波長とに大きく関係する。粒子の大きさと光の波長とが近い場合、ミー散乱の理論が適用される。ミー散乱が適用される波長領域(ミー共鳴領域)では、粒子の大きさと粒子による光散乱強度は複雑な関係になる。
【0015】
また、光の波長に比べて粒子の大きさが十分に大きい場合、回折現象が支配的になり、散乱光強度は粒子径の2乗に比例する。逆に、光の波長に比べ粒子の大きさが非常に小さい場合、粒子の散乱光強度がレーリー散乱で示されることが知られている。
式(1)にレーリー散乱の相対散乱強度式を示す。
【0016】
【数1】

:散乱光強度、I:照射光強度、λ:波長、d:粒子径、R:観測距離、θ:散乱方向、m:粒子の屈折率、n:溶媒の屈折率。
相対散乱強度は溶媒の屈折率(n)と溶質である粒子の屈折率(m)とに大きく関係している。つまり、(式1)は、溶媒の屈折率(n)と粒子の屈折率(m)とが同じ又は近い場合、十分な散乱強度が得られないことを示唆している。
【0017】
具体的には、フッ素樹脂の粒子(屈折率1.35程度)を超純水(屈折率1.33程度)中で計測する場合、フッ素樹脂の粒子の屈折率が超純水の屈折率と近いため、光散乱現象を用いて超純水中のフッ素樹脂の粒子を検出することは困難となっている。したがって、光散乱現象を用いてパーツから発塵するフッ素樹脂の粒子を検出することは難しい。従来のLSLPCでは超純水中のフッ素樹脂の粒子の検出限界サイズは70nm程度である。
【0018】
しかし、式(1)の散乱強度の式は、溶媒として水を用いた場合には検出できない粒子径を有するフッ素樹脂の粒子であっても、適正な高屈折率を有する溶媒を用いれば、微小なフッ素樹脂の粒子を検出できることを示唆している。
そこで、本発明者等は、屈折率が超純水やイソプロピルアルコール(IPA)に近いフッ素樹脂等の微小粒子を検出するための溶媒として、取扱い性(安全性)、熱的安定性(保存安定性)の観点から、高屈折率(1.43~1.66)を有する材料のうち、表1に示すように、四つの材料(サリチル酸メチル、テトラリン、ブロモベンゼン、1-ブロモナフタレン)を抽出した。表1にはナトリウムD線を用いた場合の屈折率が示されている。
【0019】
【表1】

上記四つの材料について計測条件に必要な物性分析(吸収/蛍光、粘度、密度、等温圧縮率)を実施した。上記四つの材料の紫外可視透過率スペクトルを調べた。ここでは、光が通る光路差に違いがある二つのセルを用いて、上記四つの材料のそれぞれについて各セル毎に透過率の波長依存性を調べた結果を図3に示す。図3の透過率の分析結果から532nm波長近傍において1-ブロモナフタレンのみ吸収現象が見られることが分かる。何故なら、吸収がない場合、光路差の異なる二つのセルで透過率の波長依存性は同じとなるからである。図3において横軸は波長(nm)である。
【0020】
また、四つの材料について発光スペクトル(励起波長 532nm)を分析した結果、図4に示すように、1-ブロモナフタレンは分析波長の全域で強い発光が観察され、ブロモベンゼンについては励起波長の付近でわずかに発光が観察された。テトラリン及びサリチル酸メチルについてはほとんど発光が観察されなかった。なお、縦軸は、各波長の励起光強度で規格化された発光強度を示している。
【0021】
上記の結果から、半導体励起固体レーザー素子(波長532nm)を用いるLSLPCを用いる場合、1-ブロモナフタレンは吸収/発光ともに現象が確認されたため、1-ブロモナフタレンは検出液の溶媒(検査標準溶液)として適さないことが分かった。ブロモベンゼンも発光現象が観察されたため検査標準液としては適さないことが分かった。
【0022】
次に、サリチル酸メチル及びテトラリンについて、健康有害性、環境有害性、危険有害性情報等の比較検討結果を下記の表2に示す。
【0023】
【表2】

表2から、健康有害性、環境有害性、危険有害性情報等の観点から、テトラリンはサリチル酸メチルよりも標準検査溶媒として適していないことが分かった。
以上の検討の結果から光散乱法による液中フッ素樹脂粒子の検出液としてはサリチル酸メチル(屈折率1.537)が適切であることが分かった。
【0024】
図5は、溶媒中の粒子の粒径(粒子径)と相対散乱強度との関係を調べた結果を示すグラフである。図5において、スラッシュ(/)の右側及び左側それぞれ溶媒名及び粒子名を示している。なお、図5の結果はシミュレーション値または実測例を示す。
1-ブロモナフタレンの屈折率は1.659であり、サリチル酸メチルの屈折率は1.537であり、UPW(超純水)mp屈折率は1.333であり、PSL(ポリスチレンラテックス)の屈折率は1.595であり、そして、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の屈折率は1.35である。一般的に、液体中の粒子を測定する装置は、UPW中のPSL粒子を用いて装置校正が行われる。
【0025】
図5から、UPW中の粒子径30nmのPSL粒子の相対散乱強度の値は1.0×10-4程度であり、UPW中の粒子径75nmのPTFE粒子の相対散乱強度の値は1.0×10-4程度であり、両者の相対散乱強度は概ね同じであることが分かる。
また、図5から、UPW中の粒子径30nmのPSL粒子の相対散乱強度の値及びサリチル酸メチル中の粒子径30nmのPTFE粒子の相対散乱強度の値はともに1.0×10-4程度であり、1-ブロモナフタレン中の粒子径25nmのPTFE粒子の相対散乱強度の値は1.0×10-4程度であることが分かる。つまり、UPWを用いた粒子計測方法と、サリチル酸メチルを用いた粒子計測方法とを比較すると、検出対象であるフッ素樹脂粒子の粒子径が同じ場合には、サリチル酸メチルを用いた粒子計測方法のほうがより大きな相対散乱強度(検出感度)が得られ、そして、検出に必要な相対散乱強度(検出感度)が同じ場合には、サリチル酸メチルを用いた粒子計測方法のほうがより小さい粒子を検出できる。
【0026】
次に、各種液体の屈折率、等温圧縮率及び揺動光散乱の相対強度(水を1.0とした)を表3に示す。相対強度はアインシュタインの関係式(式2)から求めたものである。
【0027】
【数2】

は液体の散乱強度、Iは光強度、Rは観察距離、λは波長、Tは絶対温度、nは媒体の屈折率、βは等温圧縮率、Kはボルツマン定数を示している。
【0028】
【表3】

表3から分かることは、液体は等温圧縮率と屈折率に関連したそれ自体からの光散乱(バックグラウンド散乱)があり、当該光散乱が液体中の粒子の最小検出粒子径(検出感度)に影響することである。具体的には、LSLPCを用いて計測すると、サリチル酸メチル自体からの光散乱の強度は超純水自体からの光散乱の強度の約50倍であった。トルエン自体からの光散乱の強度は超純水自体からの光散乱の強度の約8倍であった。この液体自体からの光散乱を考慮して、UPW、サリチル酸メチル及びトルエン中のそれぞれのPTFE粒子の検出限界を算出したところ、UPW中のPTFE粒子の検出限界は約75nmであり、サリチル酸メチル中のPTFE粒子の検出限界40nmであり、そして、トルエン中のPTFE粒子の検出限界45nmであった。
【0029】
ところで、サリチル酸メチル液を大気中に放置すると、サリチル酸メチルが白濁化し、粒子計測に悪影響を及ぼすことが明らかとなった。白濁化は、サリチル酸メチルは非水溶性ではあるが、大気放置によって水分濃度が増し、サリチル酸メチル中に水分が粒子状になって存在するからだと考えられる。
【0030】
図6は、大気に開放放置したサリチル酸メチル中の粒子の数と経過時間(放置時間)との関係、及び、容器内に密閉したサリチル酸メチル中の粒子の数と経過時間との関係を示す図である。粒子数の計測は、経過時間が24時間、48時間及び72時間のときにLSLPCを用いて行った。計測の対象は粒子径が0.2μm以上の粒子である。なお、大気に開放放置した場合のデータは、大気に開放放置した超純水中の粒子の数との差分である。また、容器内に密閉した場合のデータは、サリチル酸メチル中の粒子の数の測定値であり、容器内に密閉した超純水中の粒子の数との差分ではない。
【0031】
図6から、大気に開放放置したサリチル酸メチル中の粒子の数は、明らかに、時間の経過とともに増加することが分かる。一方、容器内に密閉したサリチル酸メチルでは、粒子数の増加は抑制されていることが分かる。
図7は、大気に開放放置したサリチル酸メチル中の水分濃度と経過時間(放置時間)との関係を示す図である。水分濃度の計測は、経過時間が24時間、48時間及び72時間のときに行った。
【0032】
図7から、開放放置のサリチル酸メチル中の水分濃度は増加し、サリチル酸メチルの飽和水分溶解度(630ppm)よりも増加することが分かる。
上記の結果から、大気開放によって、大気中の水分によって光散乱の原因となる粒子状のミセルがサリチル酸メチル中に形成され、サリチル酸メチル中には過飽和濃度以上に水分が溶解していることが明らかになった。
【0033】
この現象がサリチル酸メチルの白濁化の原因であり、バックグラウンド散乱の増加を引き起こす。バックグラウンド散乱は、液中の粒子の検出感度を下げる。そのため、サリチル酸メチルに対して水分混入対策を施す必要がある。
そこで、本実施形態では、サリチル酸メチルが大気開放系となる部分(例えば、サリチル酸メチルを貯蔵するタンク)に高純度窒素ガス封止を施す。例えば、図8に示すように、タンク11の容器11aのうち、サリチル酸メチル液を含む検出液7で満たされていない空間を窒素12で充填とする。図8において、参照符号11bはタンク11の蓋を示している。容器11aと蓋11bとの隙間から侵入する水分が検出液7中のサリチル酸メチル中に溶解することは窒素12によって抑制される。このように検出液7を貯蔵するタンク11に窒素封止を施すことにより、サリチル酸メチル液の白濁現象を抑制できることを確認した。なお、窒素の代わりに、露点をコントロールしたドライエアーを用いても構わない。
【0034】
図9は、タンク11を含む液中粒子計測システム20の一例を模式的に示す図である。
液中粒子計測システム0は、LSLPC1、タンク11、バルブ21、ポンプ22、フィルタ23、バルブ24、バルブ25、評価モジュール26、評価(検査)対象であるパーツ27、バルブ28及びバルブ29、窒素ガスの供給ライン30、フィルタ31を含む。また、図9において、太線は配管を示している。パーツ27は、PTFE等のフッ素樹脂を含み、超純水等の高純度液体に触れる半導体装置の製造に用いるものである。すなわち、パーツ27は、例えば、上述した配管、継手、バルブ、ポンプ又はフィルタである。なお、図9において、パーツ27は例えば四つのバルブを図示している。図9において、開いているバルブ21は白抜きのバルブ記号で示してあり、閉じているバルブ24,25、29及びパーツ27のバルブは黒塗りのバルブ記号で示している。
【0035】
液中粒子計測システム20を用いてパーツから発生する粒子を調べるためには、バルブ24、バルブ28及びバルブ29を開き、ポンプ22を作動させて、図10(a)に示す経路で配管内、循環ラインに検出液7を流す。図10(a)及び図10(b)において、開いているバルブは白抜きのバルブ記号で示してあり、閉じているバルブは黒塗りのバルブ記号で示している。評価モジュール26内はこの段階で開いた状態となり、一定期間連続してLSLPC1を用いて検出液7中の粒子数を計測し、検出粒子数が安定した一定数になった段階で、この計測した粒子数を基準値(N1)として用いる(バックグラント値)。
【0036】
次に評価モジュール26内のバルブ25も開けて図10(b)に示す経路にて評価(検査)対象のパーツ27にも検出液7を流す。PTFE粒子発塵を調べたい部材(パーツ27)を循環系に繋ぎ替え、パーツ27に検出液7が流れることで、パーツ27からのPTFE発塵を調べることができる。図10(b)には、パーツ27の下側の二つのバルブからPTFE発塵を調べる例が示されている。この段階で一定時間連続してLSLPC1を用いて検出液7中の粒子数を計測し、この計測した粒子数を基準値(N2)として用いる。この計測した粒子数(N2)と基準値(N1)とを比較し、例えば、N2-N1の値が一定値の範囲内にあれば、パーツ27から発生するフッ素樹脂の粒子の数は許容範囲内であると判断する。
【0037】
本発明者等は、サリチル酸メチル中のPTFE粒子からの光散乱の検出感度の向上効果を検証するために、以下の実験検証を行った。
PTFEは標準粒子が存在しないため、5種類の液体を用い、各液体に対してDLS法によるPTFE粒子の粒子径測定を行った結果を表4に示す。表4には、溶媒の種類、溶媒中のPTFE粒子の濃度、希釈液の種類、溶媒と希釈液体との混合液中のPTFE粒子の濃度、溶媒の粘度、希釈液の屈折率、検出されたPTFE粒子の平均粒径が示されている。
【0038】
【表4】

液体1は、溶媒がイソプロピルアルコール(IPA)であり、溶媒中のPTFE粒子の濃度が20%である懸濁液である。IPAは超純水と同様に半導体の製造工程で使用される液体である。液体1では希釈液は用いていない。液体1の場合、つまり、溶媒(IPA)中のPTFE粒子の濃度(20%)が高い場合、検出されたPTFE粒子の平均粒子径は175nmであった。
【0039】
液体2は、溶媒がトルエンであり、溶媒中のPTFE粒子の濃度が30%、希釈液がIPA、溶媒と希釈液体との混合液中のPTFE粒子の濃度(計算)が0.30%である懸濁液である。液体2の場合、PTFE粒子の光散乱強度は弱く、PTFEは検出できなかった。
【0040】
液体3は、溶媒がトルエンであり、溶媒中のPTFE粒子の濃度が30%、希釈液がトルエン、溶媒と希釈液体との混合液中のPTFE粒子の濃度(計算)が0.30%である懸濁液である。液体3の場合、検出されたPTFE粒子の平均粒子径は175nmであった。
【0041】
液体4は、溶媒がトルエンであり、溶媒中のPTFE粒子の濃度が30%、希釈液がサリチル酸メチル、溶媒と希釈液体との混合液中のPTFE粒子の濃度(計算)が0.30%である懸濁液である。液体4の場合、検出されたPTFE粒子の平均粒子径は175nmであった。トルエン(屈折率1.491)及びサリチル酸メチル(屈折率1.5367)、は純水(屈折率1.33)、IPA(屈折率1.3775)に比べてPTFE粒子を検出する能力が高い。トルエン及びサリチル酸メチルのように、屈折率差、安全性及び熱的安定性等を確保できる溶媒であれば検出液として使用できるが、屈折率差の観点からはトルエンよりもサリチル酸メチルが好ましい。
【0042】
実施形態に係る粒子計測方法についてLSLPCを用いて実施例を説明したが、LSLPCにかぎらず、DLS(Dynamic Light Scattering)やFPT(Flow Particle Tracking)など光散乱式による粒子計測装置を用いて実施することも可能である。FPTでは検出液中の粒子個々のブラウン運動による移動量に基づき、粒子の粒子径又は粒子径分布を算出する。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1…LSLPC、2…フローセル、2a…流路、3…光源、4…集光レンズ、5…光電変換器、6…算出部、7…検出液、8a…レーザー光(照射光)、8b…散乱光、11…タンク、11a…容器、11b…蓋、20…液中粒子計測システム、21…バルブ、22…ポンプ、23…フィルタ、24,25…バルブ、26…評価モジュール、27…パーツ、28,29…バルブ。30・・・窒素ガスの供給ライン、31…フィルタ。
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